自閉症スペクトラム研究
Online ISSN : 2434-477X
Print ISSN : 1347-5932
12 巻, 3 号
特集号
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巻頭言
第1部 総論・理論・調査研究
  • 2014 年 12 巻 3 号 p. 5
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー
  • 比較認知発達心理学の視点から
    柿沼 美紀
    2014 年 12 巻 3 号 p. 7-13
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    Baron-Cohen ら(1985)が自閉性障害児の心の理論の獲得の困難さを指摘してから30 年が経つ。彼らの指摘は自閉性障害児の抱える問題を明確にし、またそのスクリーニングを容易にした。その後、心の理論の前段階の発達に関する研究として言語発達との関連(Astington & Baird, 2005)やふり遊びとの関連(Harris et al., 1993)、意図の理解などに関する研究が報告された(Malle et al., 2001)。心の理論という概念がそもそもチンパンジーの研究から始まっていることから、比較認知心理学の分野からの研究も行われた(Buttelmann et al., 2008 ; Tomasello & Carpenter, 2005 ; 明和,2006)。中でも意図の共有の重要性が指摘された。本論では比較認知発達の最近の知見をもとに、心の理論の発達につながる段階を提示し、自閉性障害児の抱える社会性(対人相互コミュニケーション)の習得の困難さについて検討する。

  • 平 雅夫
    2014 年 12 巻 3 号 p. 15-21
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    自閉症スペクトラム児は、社会的相互反応に対する質的な障害やコミュニケーションの質的な障害があり、仲間関係の形成が容易ではない。とりわけ、知的遅れのない自閉症スペクトラム児は、言語発達の遅れや問題行動が顕著でない場合、仲間関係の形成への支援が幼児期からなされないまま、他児からの拒絶や阻害を体験する。そして、対人的な不安が思春期以降に顕在化する事例も少なくない。幼児期の仲間関係は遊びが中心であり、「協力して遊ぶことができる子」が仲間関係を形成しやすい時期である。そこで、本研究では、知的遅れのない自閉症スペクトラム児に対して、遊びを中心的な活動として取り上げ、遊びを通した仲間関係の形成を目的とした支援を試みた。そして、療育教室と幼稚園と一貫した療育を実施することで一定の仲間関係の形成スキルの習得が見られた。

  • 保護者へのアンケート調査を基に
    是枝 喜代治
    2014 年 12 巻 3 号 p. 23-33
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    ASD 児者の身体運動面の問題はASD を特徴づけるものとはいえない。しかし,旧来から身体的不器用さの存在や協調運動の弱さなど,ASD 児者の発達期における運動機能の偏りなどが指摘されてきたことも事実である。

    本稿では,特に発達の過渡期にあたる乳幼児期から学齢期にかけて生じることの多い身体運動面の偏りについての特徴を探るため,群馬県及び埼玉県自閉症協会の協力を得て,ASD 児者を養育してきた保護者に対し,アンケート調査を実施した。運動面の偏りに関する設定項目における選択式の回答結果や,保護者から得られた自由記述の分析から,ASD 児者の多くに身体的不器用さや姿勢制御の問題など,運動面の偏りが見られることが明らかとなった。とりわけ身体運動と関連した社会性やコミュニケーションの問題は,学齢期における「体育」などの集団活動の中で顕在化しやすく,自尊心の低下などから生じる二次的な問題へと発展していく可能性があり,具体的な支援策を検討していくことの必要性などが示唆された。なお,本研究では対象者の併存症等に関する調査及び検討は実施してないことを付記しておく。

第2部 事例・実践研究
  • 2014 年 12 巻 3 号 p. 35
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー
  • 愛着と共同注意行動の形成を基盤にして
    今野 義孝
    2014 年 12 巻 3 号 p. 37-48
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    本研究では、自閉症と診断された3 歳8 カ月の女児に対して、対人関係と言語行動の発達的基盤である愛着と共同注意行動の形成を図るために、とけあい動作法の援助を行った。また、本児の愛着と共同注意行動の形成には両親の感受性と温かな態度が不可欠なことから、両親にもとけあい動作法の援助を行った。1 回の援助は50 分間で、約8カ月にわったて21 回のセッションを行った。動作法に対する反応の特徴から、援助の経過は3期に分けられた。

    第Ⅰ期は、「快適な体験に基づく共同注意行動の出現」であり、対人関係においては「快適な身体の体験による愛着関係の形成」という特徴が、言語行動においては「発話に対する柔軟な態度と両親への呼びかけ」という特徴が見られた。第Ⅱ期は、「動作の共有体験に基づく共同注意行動の活発化」である。対人関係においては「両親や他児への共同注意行動の活発化」が、また言語行動においては「共同注意行動とことばの模倣の拡大」という特徴が見られた。第Ⅲ期は、「快適な体験に基づく両親の気もちの理解」で、対人関係においては「両親や他児との遊びの活発化」という特徴が見られ、言語行動においては「自他の気持ちへの関心や理解」という特徴が見られた。

  • 高木 徳子
    2014 年 12 巻 3 号 p. 49-59
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    自閉症スペクトラム児がよりよいおとなに成長するためには、成長過程で、家庭を中心としたさまざまな支援が必要である。そこで今回は幼児期の達成課題として、Ⅰ基本的生活習慣、Ⅱ小学校入学のための準備、Ⅲ就学前におこりやすい問題で対処しておくことに分けて述べ、現在、よりよいおとなに成長した事例で有効であったことは、家庭を軸に、人としての大切なことを根気強く躾けていくこと、このことが「社会人」として彼らを育てる基盤になっていることが明らかになった。

  • 平 雅夫
    2014 年 12 巻 3 号 p. 61-67
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    言語発達は、音から句へ、句から文へと一定の順序性を見せながら、段階的に発達していく側面があるが、自閉症スペクトラム児の発達においては、順序性に特異さを見せることもあり、一般的な言語発達を基準に発達の程度や偏差を位置づけるような定量的判断だけでは、療育や指導に多くの示唆を得ることは難しい。また、自閉症スペクトラムの概念の拡大に伴って、異なる言語発達の臨床像を示すカナータイプとアスペルガータイプの自閉症スペクトラム児が包括されて同一の診断名となった。従って、診断名を根拠とするだけでなく、十分なアセスメントに基づいて療育や指導を実施しなければ、その効果は期待されないだろう。そこで本稿では、自閉症スペクトラム児の言語発達の特徴をカナータイプ、アスペルガータイプとに分けて言及し、言語発達の質的側面へのアセスメントの重要さについて述べた。本稿は十分なアセスメントに基づいた療育と指導のきっかけとなることを目的として作成された。

  • 今本 繁, 門司 京子
    2014 年 12 巻 3 号 p. 69-75
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    トイレに行くこだわり行動が見られた自閉症幼児に対して視覚的スケジュールの利用によるこだわり行動の減少の効果を検証した。さらに予定以外での排尿要求に応じるためにPECS によるトイレの要求行動の指導を行った。具体的なこだわり行動としては、療育活動の自由遊びの時間に部屋をとび出して勝手にトイレに行く行動が頻繁に見られていた。実際に排尿する場合もあるが、しない場合はトイレの立ち便器の排水ボタンを何度も押そうとしたり流れる水を手で触ったりするなどの行動が見られた。トイレに行くことを支援者が身体的に制止しようとすると大声を出しながら抵抗を示した。それまで視覚的スケジュールにそって活動を順番に行う行動レパートリーを持っていたことから、視覚的スケジュールにトイレの絵カードを入れて提示することで何度もトイレに行こうとする行動は徐々に減少していった。またスケジュールで予定されていない時に、対象児がトイレのスケジュールを取って室内を落ち着きなく歩き回っている時にトイレに誘導した際に排尿があったことから、PECS でトイレの要求行動を指導することで自発的にトイレの要求ができるようになった。指導の効果について家庭と学校での質問紙によるアンケート調査と母親からのエピソードデータにより明らかにする。

  • 専門家と家族間の意見の相違によって生じた混乱への支援
    田端 佑介
    2014 年 12 巻 3 号 p. 77-82
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    本事例はある自閉的症状の顕著な知的障害の児童の就学に関して、保護者の意向と専門家の意向だけでなく専門家間の意見が大きくことなり、専門家による介入によって逆に保護者が専門家に対して不信感を抱き、心的負担が大きくなり日常生活に支障がでたケースである。保護者および専門家の両方からの意見をふまえ仲介をした結果、最終的に両者が了承できる進路に進むこととなった。専門家は障害の種類や程度だけではなく、保護者の意向や生活環境など多くのことを考慮することが望ましいが、本事例では専門家による不適切な対応が逆効果を生むことになった。障害をもって生まれた我が子の就学という大きな悩みをもつ保護者にとってすべき援助とは何か課題があらためて浮かび上がった。

編集後記
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