自閉症スペクトラム研究
Online ISSN : 2434-477X
Print ISSN : 1347-5932
13 巻, 1 号
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巻頭言
原著
  • 情動知能を介した検討
    石井 正博, 篠田 晴男, 篠田 直子
    原稿種別: 原著
    2015 年 13 巻 1 号 p. 5-12
    発行日: 2015/09/30
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    現在、自閉性スペクトラム障害(Autistic Spectrum Disorder:ASD)のある学生の進路選択の問題は、学修生活を成功へ導く上で、キャリアサポートにかかわる学生支援の課題となっている。本研究では、就労支援の一助として、ASD 傾向が情動知能および不安を通して職業決定とどのように関連しているのかを明らかにすることを目的とした。健常大学生122 名を対象に、AQ(Autism-Spectrum Quotient)、情動知能、不安、職業決定からなる質問紙を実施した。職業未決定を従属変数とした重回帰分析によるパス解析によって、ASD 傾向、情動知能、不安、職業未決定の関連を検討した結果、AQ の下位尺度である「コミュニケーション」と「注意の切り替え」が、情動知能の下位尺度である「自己決定」と情緒面の問題である「不安」を通して職業未決定に影響を与えていた。以上のことから、ASD 傾向が、情動知能を介して職業決定を間接的に難しくする可能性があり、就労への移行支援には、社会・情緒面に加えて意思決定にかかわる認知面の支援も重要なことが示唆された。

  • 池田 慎哉
    原稿種別: 原著
    2015 年 13 巻 1 号 p. 13-19
    発行日: 2015/09/30
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    本研究では、141 名の大学生を対象に、自閉症スペクトラム傾向と抑うつ傾向の関連性について質問紙調査法によって、自閉症スペクトラム傾向が抑うつにどのように影響をもたらしているかを検討した。質問紙には、自閉症スペクトラム傾向を測定する自閉症スペクトラム指数(AQ)と、ベックの抑うつ評価尺度(BDI- Ⅱ)を用いた。その結果、BDI- Ⅱの下位尺度である「認知的要素」とAQ の下位尺度である「社会的スキル」「注意の切り替え」「コミュニケーション」との間に正の相関がみられた。また、BDI- Ⅱの「身体的・感情的要素」とAQ の「注意の切り替え」「細部への注意」「コミュニケーション」の間にも正の相関がみられた。重回帰分析の結果、BDI- Ⅱの「認知的要素」にはAQ の「注意の切り替え」と「細部への注意」が影響しており、BDI- Ⅱの「身体的・感情的要素」にはAQ の「細部への注意」が影響していることが見出された。以上の結果から抑うつの軽減には社会的スキルやコミュニケーションに対する社会性の援助に加えて、注意のコントロールの援助の必要性が示唆された。今後の課題としては両者に対する包括的なアプローチの可能性としてマインドフルネスの活用を検討することが挙げられた。

実践研究
  • 今野 義孝
    原稿種別: 実践研究
    2015 年 13 巻 1 号 p. 21-28
    発行日: 2015/09/30
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    愛着形成における中核的な体験は、子どもと養育者との間で交わされる温かさや柔らかさ、安心感などの快適な身体感覚の共有体験である。これまでの研究から、動作法の援助は愛着形成や共同注意行動の形成に有効なことが指摘されている。そこで本研究では、反応性愛着障害と自閉症スペクトラムが疑われ男児(5 歳10 カ月)に対して動作法による情緒の安定と愛着行動の形成を試みた。動作法の援助方法としては、「とけあい動作法」と「腕あげ動作コントロール」を用いた。セッションは、夏期休暇や春期休暇などを除きほぼ週1 回の割合で、約1 年間にわたり計24 回行った。1 回のセッションは約50 分である。その結果、動作法の援助はクライエントの情緒の安定と母親に対する愛着行動をもたらし、それを基盤として他児への関わりや他児の行動への興味・関心、父親への愛着行動などが出現した。以上の結果から、クライエントにおいては、心地よい体験を基盤とした援助者との愛着関係を拠り所にした情緒の安定や、両親への愛着関係を基盤にして他者との共同注意行動がもたらされることが指摘された。このことから、動作法による心地よい心身の体験は、クライエント自身の中に安心・安全の拠り所をもたらすとともに、他者とのつながりの中にも安心・安全の拠り所をもたらすことが示唆された。

実践報告
  • 知的障害を伴う自閉症スペクトラム学生の事例を通じて
    藤原 章
    原稿種別: 実践報告
    2015 年 13 巻 1 号 p. 29-38
    発行日: 2015/09/30
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    2006 年4 月、国公立特別支援学校全国初となる高等部専攻科1 年目の挑戦がスタートした。この実践報告は、当時初代専攻科主任であった私の実践に再検討を加えたものである。この専攻科は、「学生一人ひとりの“自分づくり”を支援して、自立した豊かな社会生活に移行する力」を育てることを目的としていた。特色は、高等部本科までの自己肯定感の積み上げを土台にして、「より自分で解決に取り組んだり」、“七転び八起きの自分づくり”にチャレンジしたり、青年としての生き方を考えてアイデンティティを確立しようとするところにある。一人ひとりの発達・障害・生活の視点から「自分づくり」の段階を検討した支援仮説を設定し、5 領域の教育課程で学び「専攻科での自分づくり」に挑戦している。この工夫した課題を学生が自己選択・自己決定し、実践中は見守り、その後の振り返り活動を通じた成功や迷いによる揺れの“間”や再チャレンジの“場”を保障し、より自立的な自己肯定感に高めようとした。スタートから9 年後の今、当時の学生の事例から学び、移行支援の取り組みを再検討する意義は大きいと考える。

展望
  • 仁平 義明
    原稿種別: 展望
    2015 年 13 巻 1 号 p. 39-48
    発行日: 2015/09/30
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    「リジリエンス」は、持続的な強いストレスによる負の影響からの「心の回復」現象あるいは過程を指す概念である。ときには回復の能力や特性という意味の「リジリエンシー」と同義に用いられることもある。ここでは、自閉症スペクトラム者の家族のリジリエンスについて研究のレビューを行った。研究で一貫していたのは、自閉症スペクトラム者にかぎらず、家族のリジリエンスにとって重要な要因にはいくつか共通なものがみられることである。そこからは、長期にわたって持続する強いストレスをかかえた家族には「一般リジリエンシー」といえるものが重要であることが示唆される。また、自閉症スペクトラム者家族のリジリエンスでは、母親への負荷の偏重が解決されなければならない問題として、いまだに残っていることが明らかになった。

編集後記
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