愛着形成における中核的な体験は、子どもと養育者との間で交わされる温かさや柔らかさ、安心感などの快適な身体感覚の共有体験である。これまでの研究から、動作法の援助は愛着形成や共同注意行動の形成に有効なことが指摘されている。そこで本研究では、反応性愛着障害と自閉症スペクトラムが疑われ男児(5 歳10 カ月)に対して動作法による情緒の安定と愛着行動の形成を試みた。動作法の援助方法としては、「とけあい動作法」と「腕あげ動作コントロール」を用いた。セッションは、夏期休暇や春期休暇などを除きほぼ週1 回の割合で、約1 年間にわたり計24 回行った。1 回のセッションは約50 分である。その結果、動作法の援助はクライエントの情緒の安定と母親に対する愛着行動をもたらし、それを基盤として他児への関わりや他児の行動への興味・関心、父親への愛着行動などが出現した。以上の結果から、クライエントにおいては、心地よい体験を基盤とした援助者との愛着関係を拠り所にした情緒の安定や、両親への愛着関係を基盤にして他者との共同注意行動がもたらされることが指摘された。このことから、動作法による心地よい心身の体験は、クライエント自身の中に安心・安全の拠り所をもたらすとともに、他者とのつながりの中にも安心・安全の拠り所をもたらすことが示唆された。
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