パーソナルファイナンス研究
Online ISSN : 2189-9258
ISSN-L : 2189-9258
5 巻
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招聘論文
  • 堂下 浩
    2018 年 5 巻 p. 7-18
    発行日: 2019/02/28
    公開日: 2019/09/19
    ジャーナル フリー

    2006年12月に貸金業法が改正された。法改正の過程は感情論が先行する一方で、実証データに基づく科学的検証が封殺されるという、あまりにも拙速なものであった。中でも新たに導入された総量規制の実効性は当時から疑問視されてきた。事実、三國谷勝範・金融庁総務企画局長(当時)は総量規制の根拠について借り手の統計的なデータを取らずに、その基準を明確にしないまま導入を決定した旨を国会で答弁した。貸金業法の完全施行直後から、科学的根拠がなく導入された総量規制による金融収縮を懸念する報道姿勢が徐々に強まり、金融庁は消費者金融の代替手段として消費者ローンを積極的に手掛けた金融機関に表彰状を授与するなど金融機関による銀行カードローン普及を顕彰制度等で促した。

    しかしながら金融機関は個人信用情報に関わる前近代的なインフラしか有しないため、銀行カードローンの与信精度が貸金業よりも劣っている点は当時から広く知られていた。金融機関は銀行カードローンの保証を総量規制で貸し出しに大きな制約を強いられた貸金業者へ主に委託し、同時に審査も貸金業者に依存する格好で、その残高を増やした。皮肉にも、こうした金融庁による政策はその後の第二次安倍政権で実施される大規模金融緩和の長期化により金融機関の預貸率が低下していく局面で、必要以上の資金が銀行カードローン市場に流入する事態を招いた。

    銀行カードローンにおいて特に問題視されるのが、金融機関による前近代的な貸付情報の管理システムが挙げられる。貸金業者による貸付情報の更新頻度は日次に対して、金融機関による貸付情報の更新頻度は月次であり、その情報の一部は貸金業者に共有されない。

    結果として今日、銀行カードローンの利用者による返済困難者の急増が報道されている。こうした事態を招いた理由の一つとして金融機関側の前近代的な情報管理システムの下で銀行カードローンが急成長した点が挙げられる。

査読付論文
  • 自動車学校の送迎バスの取り組みおよび費用対効果について
    上村 祥代, 竹本 拓治, 川本 義海
    2018 年 5 巻 p. 19-36
    発行日: 2019/02/28
    公開日: 2019/09/19
    ジャーナル フリー

    本研究では、事例を基に自動車学校の送迎バスの取り組みおよび費用対効果を明らかにすることで、運用を検討する上での基礎的情報をまとめることとする。

    その結果、6つの事例から取り組み実態を整理すると、今後サービスの拡充は期待できない状況にある。しかし、補完的な輸送サービス、また実質的に高齢者の主要な輸送サービスとして活用されており、地域によって活用の幅がみられる。費用では、保険料が大部分を占めている。また、1人1回あたりの輸送コストでは、コミュニティバスよりも本輸送サービスの方が低いコストの運行が可能となる。

    福井県敦賀市事例において具体的な活用状況を見ると、登録者では、乗車経験がある全員が通院に利用しており、乗車経験がない人からは、使いにくさの指摘がみられる。一方で、非登録者を見ると、本輸送サービスの存在を約7割の人が知らないでいる。しかし今後、乗車条件が合えば約7割の人は利用してみたいと考えており、潜在的需要の存在が示される。また、各場面に対する影響を見ると、登録者は利用価値だけではなく、非利用価値についても半数以上の人が認識している。一方で、非登録者は、利用価値の「移動中の楽しみ」を他の場面よりも多くの人が認識しており、今後の行動変容の動機づけとして注目される。また、登録者はコミュニティバスと同額(負担額)200円を支払う場合であっても半数以上の人が利用すると考えているのに対し、利用意向を示した非登録者の半数以上の人は利用しないとの意思を示している。さらに各場面における影響と料金負担が伴う利用意思との関連を見ると、登録者では「外出機会」において有意な差が見られたが、「分からない」、「減らない」と回答した層は統計的に料金を支払って利用するかは分からないと考えられている。その一方で、非登録者では統計的に有意な差は見られなかった。これらより、価値認識と料金を支払って利用するかは関連がなく、また個人が対価を支払って利用したい輸送サービスではないことから、公共交通とは違って、自動車学校の輸送サービスは経済活動として認められていないといえる。そのため、本輸送サービスは当分CSRの一環としての活動に留まっておくことが望ましいと示唆される。

  • 特定産業の波及効果分析を用いて
    加藤 晃
    2018 年 5 巻 p. 37-47
    発行日: 2019/02/28
    公開日: 2019/09/19
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、改正貸金業法が日本のGDPや雇用に与える効果を、産業連関分析(均衡産出高モデル、特定産業の波及効果分析)を用いて分析することである。

    加藤・飯田「改正貸金業法と日本GDP」『パーソナルファイナンス学会年報』No.11、2010年では産業連関分析(均衡産出高モデル、特定需要(支出)の波及効果分析)を用いて、改正貸金業法が日本のGDPや雇用に与える効果を分析した。法改正によって、貸し付け、融資、借り入れ額が大きく減少し、消費が減少したと考えられる。そこで、消費の減少の代理変数として貸し付けの減少を用い、分析した。しかし、減少効果の大きさについて、過大である可能性がある。

    そこで本稿では、法改正によって、貸金業者数が激減したという事実に注目して、貸金業の生産額の減少を求め、特定産業の波及効果分析を使って、効果の分析を試みた。消費者向け貸金業に対する主として上限金利規制が名目GDP成長率に与えた効果は、2006年~2011年でマイナス0.252%であった。また雇用に与えた効果については、2006年~2011年で112767人の減少であった。

  • 公共と個人のファイナンスの視点から
    尾形 孔輝, 竹本 拓治, 米沢 晋
    2018 年 5 巻 p. 49-62
    発行日: 2019/02/28
    公開日: 2019/09/19
    ジャーナル フリー

    本稿では、コミュニティバスの運行について、受益者負担のバランスを公共と個人のファイナンスの視点から考察する。地方では、路線バスの維持が困難な状況にある。移動手段を確保するために、路線バスの代わりや公共交通機関がない地域の移動手段として、コミュニティバスを自治体で運行する事例が増えてきている。公共交通機関の維持は、行政や民間の投資が必要であるが、それを利用する人々(受益者)の負担も必要である。福井県の市町におけるコミュニティバスの実態調査を行い、他の地域の事例と比較し、行政負担と受益者負担の調和及び今後の展望について提案を行う。

    コミュニティバスの運行経費を削減するために、デマンド交通を採用する自治体もあるが、一概に、デマンド交通が効果的とは言えない。市民が地域にとって、コミュニティバスは必要なもので、運行は地域が主体であるという意識の定着が必要である。移動手段の確保が深刻な問題となっている過疎地では、新たな交通手段を模索して、地域住民による合法的なライドシェアが行われている地域もあり、そのような地域では、移動手段の維持は必要不可欠とされている。利用者が運賃を支払うだけでなく、クラウドファンディングによる支援を行うことや自治会費等での負担金を支払ってでも、コミュニティバスを地域に走らせたいと思う政策を行うことが必要である。

    市民が自分たちの利便性の向上のために、受益者負担による、地域の交通網の整備を行うこと、まちづくり会社が地域の各事業者、大学等を巻き込んで、産学官金民が連携して課題解決を行うことを提案する。

English Summary
編集後記
奥付
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