Journal of Computer Aided Chemistry
Online ISSN : 1345-8647
ISSN-L : 1345-8647
11 巻
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 貝原 巳樹雄
    2010 年 11 巻 p. 1-10
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/02/20
    ジャーナル フリー
    化学は、理解する内容、記憶する内容、また計算力を必要とする内容などを含み、さらに、その原理原則も、電気分解や熱化学方程式、有機化学等、多種多様であることから、学生にとっては、比較的、取組みにくい科目と考えられている。筆者は、従来から、決定木、二進木等、樹木の構造を持つ回帰と分類の方法に関心を持ち、分類条件の探索や判別に応用している。この二進木は、集団学習法の一つ、RandomForestsやboostingの一種、MART(Multiple Additive Regression Trees)等に進化し、高い精度を持つ分類と回帰の方法へと発展した。特に、MARTの、学習率を低くするほど、短時間で高い精度が得られるという特徴、「遅いが早い」という逆説を、化学の教育に活用できないだろうかと考えた。具体的には、オープンエンド型の発想法、マインドマップと、問題解決を見据えた収束型の発想法、思考展開図を併用し、細かな問いかけ(ステップ)の積み重ねによって全体像を把握しようとすることによって、化学の理解深化や知識の定着と授業のコンパクト化を目指す試みである。マインドマップは、樹木の幹と枝葉のような構造を持ち、また、MARTは、簡素な幼木が一列に整列した林に例えられることから、森(マインドマップの集合)と林の概念を基盤とした学習教材とその方法として「森(森林)」と呼称した。H21 年度、SPP(サイエンスパートナーシッププログラム)にて、体験学習講座を開催した結果についても、併せて報告する。
  • 日高 伸之介, 白石 寛明, 大眉 佳大, 山崎 広之, 岡本 晃典, 川下 理日人, 安永 照雄, 高木 達也
    2010 年 11 巻 p. 11-18
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/24
    ジャーナル フリー
    我々の周りの環境中には膨大な数の化学物質が存在しており,社会的にも必要不可欠なものとなっている.しかしながら,ヒトの健康と地球環境に対して深刻な影響を与えるような危険な化学物質も存在している.日本では 1995 年から OECD における高生産量 (HPV) 化学物質の有害性評価プログラムに貢献するために,化学物質を対象とした生態影響試験が実施されている.しかし,未だに約 500 種しか試験されておらず,全ての化合物を確認することは非常に困難である.そこで,毒性試験の代替法としてコンピュータ技術を活用した定量的構造活性相関 (QSAR) 解析法を用いることで,化学物質の環境毒性,特性や物性を予測することが出来ると期待されている.本研究では,環境省の実施したミジンコ急性遊泳阻害能試験結果と3 次元構造記述子を用いた,多様な構造の化合物の生態毒性を予測する QSAR モデルの構築・改良を試みた.本研究で構築した QSAR モデルでは,従来の n- オクタノール / 水分配係数 (logP(o/w)) だけを使ったモデルに比べ,予測精度を向上させることができた.
  • 長谷川 清, 船津 公人
    2010 年 11 巻 p. 19-24
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/21
    ジャーナル フリー
    Cytochrome P450 3A4に対する基質予測は、候補医薬品を探索する際に重要であり、これまでin silico 予測として注目されてきている。最近、ligand-based 手法として、学習機械 (Machine learning: ML) が、利用されている。MLは、ニューラルネットワーク、サポートベクトルマシーン、ベイズ法のような統計モデルを構築する教師つき学習法である。本研究では、Cytochrome P450 3A4に対する基質と非基質を分類するために、ベイズ法を用いた。構造記述子として、extended connectivity fingerprint (ECFP)を用いた。それぞれのfingerprintのベイズスコアから、アトムスコアを計算した。アトムスコアを5段階に彩色することで、化合物のカラーマッピングを行った。これにより、特定の化合物がどうして、CYP 3A4基質になるかという化学的解釈が可能となる。したがって、ベイズモデルとカラーマッピングにより創薬の初期段階でCYP 3A4基質のリスクを避けることが可能となった。先に開発した代謝部位予測と併用すれば、CYP 3A4に関して、任意の化合物のde novo 予測が可能となる。
  • 神谷 宗明
    2010 年 11 巻 p. 25-35
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/19
    ジャーナル フリー
    ウラシル2量体の励起状態に対して、時間依存密度汎関数(TDDFT)法、一電子励起配置間相互作用(CIS)法、一電子励起配置間相互作用に摂動によって動的相関を加えたCIS(D)法、運動方程式結合クラスター法(EOM-CCSD)法により計算を行い、励起エネルギーの分子間距離による変化について詳細な解析を行った。ab initio法であるCIS、CIS(D)、EOMCCSDでは、同種分子二量体の励起状態の特徴である、電荷移動励起の遠距離における1/Rの減衰、局所励起状態での双極子双極子相互作用で近似される電子カップリングによる状態の分裂、という振舞いをすべて示すが、TDDFTでは用いる交換相関汎関数の長距離間相互作用の記述が正しくないため、二量体の励起状態をうまく記述できないことがわかった。また電子相関は2量体の励起状態、とくに電荷移動励起に対して極めて重要な役割をし、電子相関が考慮されないCISでは3 eV程度もCIS(D)やEOM-CCSDに対して電荷移動励起状態を高く算出してしまうことがわかった。
  • 高田 知哉, 大下 周吾
    2010 年 11 巻 p. 36-43
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/12
    ジャーナル フリー
    H2OとHCNからなる錯体については、2量体(H2O-HCNおよびHCN-H2O)は低温マトリックス中での実験的観測に成功しているが、それよりも大きな多量体については観測例がない。本研究では、H2OとHCNからなる3量体の実験的観測のための基礎的知見を得るために、HCN-H2O-HCN3量体の水素結合および赤外吸収(IR)スペクトルについてab initio分子軌道法により研究した。本研究では特に、H2O-HCNおよびHCN-H2O2量体へのHCN付加による分子間相互作用エネルギーおよび振動数の変化に注目した。3量体の水素結合距離は、O-HおよびN-Hのいずれの水素結合においてもそれぞれ対応する2量体の水素結合距離よりも短く、水素結合エネルギーも3量体のほうが大きいことがわかった。従って、実験的な観測例はないものの、H2OとHCNの3量体は安定に存在し得るものと予想される。振動数解析により2量体と3量体のHCNの伸縮振動モードの振動数を比較したところ、対称伸縮モードについては2量体と3量体でほぼ等しく、非対称伸縮モードについてもHCN-H2O2量体とこれに対応する3量体のHCNではほぼ等しかった。対照的に、H2O-HCN2量体とこれに対応する3量体のHCNの非対称伸縮モードの比較では、3量体の形成(HCNの付加)に伴う顕著なレッドシフトが確認できた。この結果は、3量体の実験的観測のための有効な情報となると期待される。
  • 荒川 正幹, 正田 幸, 船津 公人
    2010 年 11 巻 p. 44-55
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/16
    ジャーナル フリー
    新規医薬品の開発には多くの費用と時間を要するため、その効率化が強く望まれており、そのための有力な方法のひとつが、コンピュータと情報化学を利用して医薬品開発を行うインシリコ創薬である。特に、創薬プロセスの初期段階であるリード探索は、創薬プロセス全体の効率に大きな影響を与えるため、バーチャルスクリーニングによって質の高いリード化合物候補を発見する試みが数多く行われている。バーチャルスクリーニングを行うためのひとつの方法は、既知のリガンドからファーマコフォアモデルを構築し、それをもとにバーチャルライブラリの探索を行うことである。タンパクの立体構造を必要とせず、リガンドのみの情報で解析が可能であるという利点を持っている。ファーマコフォアモデルに基づくバーチャルスクリーニングにおいては、いかにして妥当なファーマコフォアを設定するかが重要であり、これまで様々な手法が提案されているが、決定的な手法は確立されていないのが現状である。そこで我々は、Hopfieldニューラルネットワークを利用して分子構造の重ね合わせを行うことによってファーマコフォアモデルを構築する手法を提案した。そして、その有用性を検証するため、Phosphodiesterase-4(PDE4)の阻害剤についてファーマコフォアモデルの構築を行った。活性を持つことがすでに知られている6つの阻害剤について配座探索を行い、得られた複数の配座のすべての組み合わせについて構造の重ね合わせを行った。そして、その重なりの度合いを指標として活性配座の推定を行い、ファーマコフォアを決定した。得られたファーマコフォアについて、PDE4のX線結晶構造を用いた検証を行った結果、活性部位の構造特徴を的確にとらえた妥当なモデルであることが確認された。
  • 長谷川 清, 船津 公人
    2010 年 11 巻 p. 56-61
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/16
    ジャーナル フリー
    定量的構造活性相関 (QSAR) では、partial least squares (PLS) が統計的手法として注目されてきた。QSARデータセットに対する応用例以来、PLSは、より複雑なデータ構造に対応できるように進化してきた。その中で、特に、図示化と化学的解釈に特化したPLS法が、分子設計ではより求められるようになってきた。本研究でわれわれは、自己組織化マップPLS (SOMPLS)を3つのセリンプロテアーゼ阻害剤 (Factor Xa, Tryptase, urokinase-type Plasminogen Activator (uPA)) に応用し、複数の阻害活性を予測した。分子中の特定の部分構造の存在を表すRetrosynthetic Combinatorial Analysis Procedure (RECAP) フラグメントをchemical descriptorとして利用した。SOMPLS解析とその後のcorrelation mapから、それぞれのセリンプロテアーゼに必要な必須フラグメントを容易に見つけることができた。Correlation mapから、われわれはそれぞれのセリンプロテアーゼタンパクに対してそれぞれの置換基の最適フラグメントの組み合わせを設計することができた。必須フラグメントについては、コンピュータグラフィックス上セリンプロテアーゼタンパクのX線結晶構造から合理的に説明できた。SOMPLSは、構造活性データの図示化というリガンドの観点に特化したユニークなデータマイニング手法であると言える。
  • 吉村 和明, 石川 瑠美, 宮崎 浩, 川田 敦志, 隅本 倫徳, 堀 憲次
    2010 年 11 巻 p. 62-69
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
    ペンタセンを用いた塗布型有機半導体素子の作成法として、可溶性のペンタセン前駆体を塗布し逆Diels-Alder反応によりペンタセン骨格から脱離基を脱離させペンタセン薄膜へ転換する方法が提案されている。脱離基を変えた多くの前駆体に対して実験が行われ、それぞれペンタセンへの転換温度が異なることが示された。この転換温度と脱離基構造の関係を明らかにするため、報告されている6つの前駆体からペンタセンが生成する反応の解析を行った。その結果、活性化エネルギーEaが低い前駆体ほど転換温度が低い傾向にあることが明らかとなった。また重回帰解析を用いた検討により脱離基の最低非占有軌道(LUMO)と反応熱ΔEが低いほどEaが低いと計算された。次に、塗布成膜時に残存した溶媒の影響を調べるため、水素結合が形成される位置にメタノール分子を配置して、反応解析を行ったところ、Eaが気相中と比べわずかではあるが(最大で0.7 kcal mol-1)低下することが判明した。これは、前駆体の脱離基設計に加え展開溶媒として用いた分子の寄与を考慮することで、より転換温度の低い成膜プロセスが提案できる可能性を示している。
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