H
2OとHCNからなる錯体については、2量体(H
2O-HCNおよびHCN-H
2O)は低温マトリックス中での実験的観測に成功しているが、それよりも大きな多量体については観測例がない。本研究では、H
2OとHCNからなる3量体の実験的観測のための基礎的知見を得るために、HCN-H
2O-HCN3量体の水素結合および赤外吸収(IR)スペクトルについてab initio分子軌道法により研究した。本研究では特に、H
2O-HCNおよびHCN-H
2O2量体へのHCN付加による分子間相互作用エネルギーおよび振動数の変化に注目した。3量体の水素結合距離は、O-HおよびN-Hのいずれの水素結合においてもそれぞれ対応する2量体の水素結合距離よりも短く、水素結合エネルギーも3量体のほうが大きいことがわかった。従って、実験的な観測例はないものの、H
2OとHCNの3量体は安定に存在し得るものと予想される。振動数解析により2量体と3量体のHCNの伸縮振動モードの振動数を比較したところ、対称伸縮モードについては2量体と3量体でほぼ等しく、非対称伸縮モードについてもHCN-H
2O2量体とこれに対応する3量体のHCNではほぼ等しかった。対照的に、H
2O-HCN2量体とこれに対応する3量体のHCNの非対称伸縮モードの比較では、3量体の形成(HCNの付加)に伴う顕著なレッドシフトが確認できた。この結果は、3量体の実験的観測のための有効な情報となると期待される。
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