Journal of Computer Aided Chemistry
Online ISSN : 1345-8647
ISSN-L : 1345-8647
10 巻
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  • 廣松 康一, 高原 淳一, 西原 力, 岡本 晃典, 安永 照雄, 大眉 佳大, 高木 達也, 中園 金吾
    2009 年 10 巻 p. 1-9
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/01/17
    ジャーナル フリー
    現在,日本では2万種以上の化学物質が取り扱われているが,その中で実験的に生分解性が評価されている化学物質はごく一部である.すべての化学物質について生分解性を評価するには膨大な時間と費用を要するため,構造活性相関(SAR)に基づいたシステムの開発が期待されている.SARでは説明変数が多く,それらの間に強い共線性がみられる場合にも,安定な予測モデルを構築できるPartial Least Squares(PLS)法が広く用いられているが,PLS法では非線形な相関関係を十分に表すことができない.そこで,本研究では非線形PLS法のひとつとして提唱されているKernel PLS(KPLS)法を用いて554化合物の生分解性を予測した.その結果,PLS法では解析に用いる化合物の構造記述子を6,50および89と増加させることで,予測の正判別率は上昇し,それぞれ75.6%,78.3%および79.2%となった.一方,KPLS法による解析では,それぞれ77.4%,80.0%および81.9%の化合物が正しく分類され,いずれのケースにおいてもPLS法による予測精度を上回った.なお,Support Vector Machine(SVM)法による予測の正判別率も79.6%に留まっており(89記述子),KPLS法による予測精度はこれをも上回っていた.
  • 長谷川 清, 木村 敏郎, 船津 公人
    2009 年 10 巻 p. 10-15
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/02/05
    ジャーナル フリー
    定量的構造―活性相関 (Quantitative Structure-Activity Relationship: QSAR) は、古くから行われており、成功例も多い。しかしながら、予測精度の高いモデルを構築すると、逆にモデルの解釈が難しくなり、設計が困難な場合が多い。そこで、任意の構造をコンピュータで発生させて、モデルの予測値が高い構造だけを自動発生するQSAR逆設計のシステムを構築した。システムのコアとなる構造発生部分については、EA-Inventor (Evolutionary Algorithm-Inventor) を利用した。 SMILEで表記した初期構造を入力すると、交差、変異などの操作で新たな構造を生成する。発生した構造をQSARモデルで予測して、予測値をスコアとして返す。スコアが高い構造は残して、さらに、新たな構造を生成する。このような操作を複数回繰り返して、高いスコアを持つ構造が十分そろったら終了する。EA-Inventorを文献のトリプシン阻害剤データに適用した。スコアに利用するQSARモデルとして、CoMFA (comparative molecular field analysis) を採用した。学習セットと大きく異なる構造が発生した場合には、高いペナルティー値を加え、発生構造が学習セットから大きく逸脱しないように工夫をした。出力された構造は、トリプシンの構造と高い相補性を持っており、高い阻害活性が期待できる。今回は、阻害活性のQSARモデルの応用であるが、これに、ADME (absorption, distribution, metabolism, excretion) モデルや合成の難易度を加えることもできるので、より実用的な薬物設計が可能である。
  • 藤田 眞作
    2009 年 10 巻 p. 16-29
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/02
    ジャーナル フリー
    立体異性を解析するためのステレオイソグラムから導いたRS-ステレオジェニシティー概念を用いて、Cahn-Ingold-Prelog (CIP) システムの基礎を再定義した。従来のRS-立体記述子の付与は、最初の版ではキラリティー(エナンチオメリック関係)に基づくとされていたが、のちにステレオジェニシティー(エナンチオメリックおよびジアステレオメリックな関係)に基づくと変更された。いいかえれば、従来のRS-立体記述子は、エナンチオマーの対あるいはジアステレオマーの対に付与されるとされていた。これらの従来の考えをすべて捨て去り、本方法では、「RおよびS立体記述子は、RS-ジアステレオメリックな関係にある二つの分子を対とみなして付与される」とする。従来法のステレオジェニシティーと本方法のRS-ステレオジェニシティーとはまったく異なった概念であり、本方法のほうが、より合理的なものとなっている。 これまでに蓄積されてきた従来法による結果をできるだけ活かすため、キラリティー忠実性という概念を導入した。これにより、本方法による立体記述子(RS-ジアステレオマー対に付与)を従来法による立体記述子(エナンチオマー対またはジアステレオマー対に付与)に翻訳する際に、翻訳が忠実におこなわれるかどうかを調べる。従来のエナンチオマー・ジアステレオマー二分法が単純化しすぎであることをあきらかにし、エナンチオマーをRS-ジアステレオマーに置き換えた二分法に変更するパラダイムシフトが必要であることを明らかにした。
  • 後藤 俊, 荒川 正幹, 船津 公人
    2009 年 10 巻 p. 30-37
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/01
    ジャーナル フリー
    現在、ポリマーは多種多様な製品の材料として幅広い用途で利用されている。ポリマーの開発においては、それぞれの用途に応じた設計を行うことが必要であるが、用途によって要求される物性は異なるため、効率的なポリマー設計の手法が求められている。そこで本研究では、物性推算モデルの構築とその逆解析により、要求される物性を実現するポリマーを設計するための方法を提案した。単重合ポリマーデータに対して、原子団寄与法とRDF記述子を用いて予測的な物性推算モデルを構築した。また、ランダム共重合ポリエステルデータに対して、組成や原子団寄与法による物性推算モデルを構築し、モデルの逆解析を通じて複数物性の同時最適化を行った。さらに、既存モノマーの組成検討だけではなく、新規モノマーの構造生成によるポリマー設計手法の提案を行った。いずれの解析においても良好な結果が得られ、情報化学的手法によるポリマー設計の可能性が示された。
  • 竹田 真敏, 中原 正俊
    2009 年 10 巻 p. 38-52
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/22
    ジャーナル フリー
    21世紀になり、各種生物ゲノムの構造(塩基配列)が加速度的に報告されている。ゲノムDNAには一個の個体を産み出す情報のあることは確かであるが、その情報が正確・迅速・安全に発現し、伝わるためには個々の遺伝子だけでなく、非遺伝子領域を含めたゲノム全体の構造を見ることが重要になっている。本論文では、出芽酵母S. cerevisiae、大腸菌E. coli、ヒトH. sapiensはじめ各生物ゲノムDNAの構造の特徴を見出すため、ゲノム全体の塩基配列を解析した。さらに、出芽酵母4番染色体及びヒト22番染色体とゲノムサイズ(塩基数)、塩基組成、塩基配列の出現頻度がそれぞれ同じ人工染色体を作製し、実際の染色体の構造(塩基配列)と比較した。その結果、ゲノムには、(1)塩基(配列)の対称性、(2)塩基分布の偏在性、(3)塩基分布の多相な自己相似性、が同時に備わっていることが重要であることがわかった。さらに、多相な自己相似性はゲノムサイズが大きい真核生物ほど顕著に観察された。
  • 安藤 正哉, 荒川 正幹, 船津 公人
    2009 年 10 巻 p. 53-62
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/29
    ジャーナル フリー
    精密農業では、生産量の増加、肥料・農薬・水などの使用量削減、あるいは環境保護などを目的として、適切な地点に適切な量の資材を適切なタイミングで投入することを目指している。適切な圃場管理のためには、圃場の情報を正確に知ることが必要であり、それを実現するため土壌センサーを用いた研究が行われている。土壌センサーを用いて土中の可視・近赤外スペクトルを測定し、そのスペクトルから土中の水分量・窒素量などを予測することで、圃場管理の基礎となる各種土壌情報を得ることができると期待されている。本論文では、土壌センサーによって測定された可視・近赤外スペクトルと、土壌の水分量・炭素量・窒素量・電気伝導率・pHとの間でPLS法による回帰モデルを構築し、土壌成分値を高い精度で予測可能であることを示した。また、変数選択のための手法であるGAWLS(genetic algorithm-based wavelength selection)法について、その有用性および汎用性を検証した。全ての変数を用いるPLS法、各変数を独立して選択するGAPLS(genetic algorithm-based partial least squares)法と比較し、GAWLS法が土壌成分値予測のための有用な手法であることを示した。
  • 宮城 慧, 吉川 依里, 出立 兼一, 伊藤 聡, 石原-菅野 美津子, 栗田 典之
    2009 年 10 巻 p. 63-75
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/08
    ジャーナル フリー
    芳香族炭化水素受容体(AhR: Arylhydrocarbon receptor)は、内分泌撹乱物質等の外来異物が生体内に取り込まれた時に、これらを結合し、その情報を核に伝え、代謝酵素の発現を誘導することが明らかになっている。しかし、AhRの立体構造及びAhRと外来異物との相互作用機構は未解明である。本研究では、この機構を解明するため、シロイルカ及びアジサシのAhRと、代表的な内分泌撹乱物質であるダイオキシン(TCDD: 2,3,7,8-tetrachrodibenzo-p-dioxin)の複合体構造を作成し、その特異的相互作用を、古典分子力学法及びFragment分子軌道法を用いた分子シミュレーションにより、原子・電子レベルで解析した。その結果、2種類のAhR中の42番目のアミノ酸の相違が、AhRとTCDD間の相互作用に大きな影響を与え、シロイルカのAhRがアジサシのAhRよりも強くTCDDを結合することが明らかになった。この結果は、シロイルカの方がTCDDに対し感受性が高いとする実験結果を定性的に説明出来る。
  • 藤田 眞作
    2009 年 10 巻 p. 76-95
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/12
    ジャーナル フリー
    プロ-R/プロ-S法を、プロ-RS-ステレオジェニシティーを用いて再定義した。この新しい方法では、ステレオイソグラムを描くことにより、RS-ジアステレオトピックな関係にある二つのリガンドを対にして、pro-R- および pro-S-記述子を与える。ステレオイソグラムを拡張して、RS-ジアステレオトピックな関係を判断できるようにする対称基準を開発した。従来のpro-R/pro-S-記述子の定義には、もともとの「プロキラリティー」(エナンチオトピックおよびジアステレオトピックな関係)によるものと「プロステレオジェニシティー」(ステレオへテロトピックな関係)による改訂版があるが、これらの定義を(定義に用いたエナンチオトピック以外の術語も)すべて捨て去る。新しい定義では、エナンチオトピックな関係および等価なエナンチオスフェレックな同値類に基づくようにプロキラリティーの定義を変更することにより(S. Fujita, Symmetry and Combinatorial Enumeration in Chemistry, Springer-Verlag, Berlin-Heidelberg (1991))、プロキラリティーを純粋に幾何学的な意味に用いる。分子内の環境を記述するのに用いるプロ-RS-ステレオジェニシティーおよびプロキラリティーは、分子間のRS-ステレオジェニシティーおよびキラリティーに対応することを明らかにする。 分子間で立体異性と幾何学的特性とを調和させたこと (S. Fujita, J. Org. Chem., 69, 3158-3165(2004); J. Comput. Aided Chem., 10, 16-29 (2009)) に対応して、分子内でも同様な観点を導入する。分子内でのプロ-RS-ステレオジェニシティーおよびプロキラリティーの調和のため、pro-R/pro-S-記述子のキラリティー忠実性について論じた。
  • 山城 直也, 宮尾 知幸, 荒川 正幹, 船津 公人
    2009 年 10 巻 p. 96-103
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/20
    ジャーナル フリー
    大気中の二酸化炭素濃度の上昇を抑制するための手法として、二酸化炭素地中貯留技術が注目されている。しかし、その実用化のためにはコストの高さが大きな課題となっており、特に二酸化炭素を分離回収する過程におけるコストが全体の大部分を占めると試算されている。そこで本研究ではアルカノールアミン溶液を用いた化学吸収法による二酸化炭素の分離回収に着目し、より優れたアルカノールアミンの設計を目指した。アルカノールアミン溶液は低温下で二酸化炭素を吸収し、加熱により吸収した二酸化炭素を放散する性質があり、二酸化炭素の分離回収に利用することが可能である。吸収液に求められる性質として、二酸化炭素を放散させるために必要な熱量が少なく、吸収速度が速いことが挙げられる。そこで、これらの要求を満たすような吸収液の開発を目的とした。まず、反応熱、吸収速度の実験データを基に、アミンの構造情報からこれらを予測する回帰モデルをPLS (partial least squares)法、GAPLS (genetic algorithm based-PLS)法を用いて構築した。その結果、GAPLS法では反応熱に対してR2=0.999、Q2=0.990、吸収速度に対してR2=0.957、Q2=0.914となり、予測精度の高いモデルが構築された。このモデルを用いて、コンピュータ内で仮想的に発生させた新規構造の物性値を予測することで、有望な物性を持つと予想される吸収液の探索を行った。その結果、実験データよりも良好な物性を示すと考えられる候補構造が複数得られた。
  • 田中 章夫, 河合 隆, 高畠 哲彦, 岡本 秀穗, マルコム バーソン
    2009 年 10 巻 p. 104-117
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/10
    ジャーナル フリー
    合成反応設計システムSYNSUP [1]に、Key-bondの合成に注力した合成ルート提案する新規機能を開発した。Key-bondは不斉中心および官能基の空間的な位置関係から決められる。Key-bondが構築できる反応ルールがSYNSUPに登録されていない場合、逆合成的にKey-bondが切断できるように隣接部位の構造を変化させる。この探索方法を選択的ルート探索と呼ぶ。25種類の天然物の27種類の既知合成ルートを基に、その隣接結合の構造変化を調べた。選択的ルート探索は比較的複雑な分子のルート探索に有用であることを示した。
  • 白國 優子, 岡本 晃典, 川下 理日人, 安永 照雄, 高木 達也
    2009 年 10 巻 p. 118-127
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/19
    ジャーナル フリー
    我々は重篤な皮膚症状のひとつで、発症原因が不明な部分を残しながらも、使用薬剤が原因である可能性が高いといわれているStevens-Johnson Syndrome(以下SJSと称する)とその被疑薬を取り出すことを研究対象とした。研究に当たって、データマイニング法として、従来マーケティングなどの分野で利用されている相関ルールを導入し、被疑薬のシグナルを効率よく検出することができた。我々は、米国のFood and Drug Administration (以下FDAと称する)による副作用データベースに報告されている複数の薬剤併用例に着目した。FDAはAdverse Event Reporting System (以下AERSと称する)に従って収集したデータを電子化しデータベース化している。また、英国のMedicines and Healthcare Products Regulatory Agency (以下MHRAと称する)ではシグナル検出法として、Proportional Reporting Ratio (以下PRRと称する) とchi-squared valueを用いている。我々は今回の研究で、MHRAの方法と相関ルールを組合せることによって得られるシグナルを評価し、正当性を検証した。その結果、FDAのデータベースでは被疑薬がPS(Primary Suspect Drug)、SS(Secondary Suspect Drug)等に分類されているが、我々の手法によってシグナルが認められた薬剤はすべてPSに分類された薬剤と一致し、また、日本の厚生労働省が注意喚起している薬剤については、確実に捕捉することができた。我々の新しい手法は早期の段階で原因薬を予測し、また第一被疑薬を予測するための適切な手法となり得ることが示唆された。
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