日本交通科学学会誌
Online ISSN : 2433-4545
Print ISSN : 2188-3874
13 巻, 1 号
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  • 國行 浩史
    2014 年 13 巻 1 号 p. 3-10
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    自動車衝突事故時の乗員に対するさらなる被害軽減に、医学と工学の連携による取組みが求められている。この被害軽減策の一つに、衝突時の情報から乗員の傷害状況を予測し、適切な救命救急活動に繋げる先進事故自動通報システム(Advanced Automatic Collision Notification:AACN)が検討されている。筆者はこれまで、国内の交通事故データを用いて自動車乗員に関する傷害予測式を検討してきた。その中で、予測の外れる事故の一つとして、高齢の小柄な女性乗員が挙げられていた。そこで本研究では、国内の交通事故データを用いて、前面衝突時における高齢の小柄な女性乗員の傷害について分析を行い、その傷害発生メカニズムの解明を行った。抽出された事故事例を分析した結果、胸部傷害、頸部傷害が多くみられた。胸部傷害は重傷となり、加害部位がシートベルトとなる場合が多く、また、頸部傷害はすべて軽傷の事例ではあるが、要因は頭部の空振りが多くを占めていた。さらに、高齢、女性および小柄(身長が低い、体重が軽い)との連関の強さを分析した結果、胸部傷害は高齢と、頸部傷害は女性および小柄との連関が強いことがわかった。これらの結果から、高齢の小柄な女性乗員に対する乗員保護性能向上には、高齢者の体型および耐性を考慮したシートベルトの適正化が必要であると考えられる。また、対象とした事故データを用いて高齢の小柄女性乗員の傷害予測式を求めた結果、高齢の小柄女性乗員の高い傷害リスクを示唆することができた。
  • 石井 寛人, 大川 澄, 一杉 正仁
    2014 年 13 巻 1 号 p. 11-15
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    未治療の疾患が原因で交通事故を生じ、死亡した男性の一剖検例を報告する。58歳の男性、高血圧症のため近医に通院していたが無症状のため検査は拒否していた。全身倦怠感、顔面の浮腫が出現し、近医を受診した。心不全と診断されたが、救急車への乗車を拒否し、自ら普通乗用車を運転して総合病院へ向かった。その後、走行中に縁石に衝突して停止したところを通行人が救急要請し、直ちに3次救急指定病院へ搬送された。造影胸腹部CT検査の結果、右肺腫瘍、胸水貯留を認めたが外傷性変化はなかった。心不全に対する治療が行われたが、全身状態は改善せず翌日死亡した。死亡翌日に行われた司法解剖では、右肺腫瘤を認め、一部は上大静脈内部に浸潤しほぼ閉塞していた。組織学的に腫瘤は肺小細胞癌と診断され、右肺小細胞癌に基づく上大静脈症候群に起因した急性循環不全が死因と診断された。事故原因も、この病気の症状によると判断された。交通事故時には事故発生要因を詳細に調べる必要があり、特に死亡事故の場合は剖検による正確な死因の究明がまず必要である。体調変化による事故は主に心疾患、脳疾患に起因することが多いが、本症例のような未治療の癌も交通事故の要因となりうるため、運転者に対する定期的な健康管理が重要と考えられる。
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