自動車衝突事故時の乗員に対するさらなる被害軽減に、医学と工学の連携による取組みが求められている。この被害軽減策の一つに、衝突時の情報から乗員の傷害状況を予測し、適切な救命救急活動に繋げる先進事故自動通報システム(Advanced Automatic Collision Notification:AACN)が検討されている。筆者はこれまで、国内の交通事故データを用いて自動車乗員に関する傷害予測式を検討してきた。その中で、予測の外れる事故の一つとして、高齢の小柄な女性乗員が挙げられていた。そこで本研究では、国内の交通事故データを用いて、前面衝突時における高齢の小柄な女性乗員の傷害について分析を行い、その傷害発生メカニズムの解明を行った。抽出された事故事例を分析した結果、胸部傷害、頸部傷害が多くみられた。胸部傷害は重傷となり、加害部位がシートベルトとなる場合が多く、また、頸部傷害はすべて軽傷の事例ではあるが、要因は頭部の空振りが多くを占めていた。さらに、高齢、女性および小柄(身長が低い、体重が軽い)との連関の強さを分析した結果、胸部傷害は高齢と、頸部傷害は女性および小柄との連関が強いことがわかった。これらの結果から、高齢の小柄な女性乗員に対する乗員保護性能向上には、高齢者の体型および耐性を考慮したシートベルトの適正化が必要であると考えられる。また、対象とした事故データを用いて高齢の小柄女性乗員の傷害予測式を求めた結果、高齢の小柄女性乗員の高い傷害リスクを示唆することができた。
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