日本交通科学学会誌
Online ISSN : 2433-4545
Print ISSN : 2188-3874
20 巻, 1 号
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  • 小菅 英恵
    2020 年 20 巻 1 号 p. 3-13
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/23
    ジャーナル オープンアクセス
    わが国では超高齢社会を迎え、高齢の免許保有者の増加に伴う自動車交通事故リスクの増大が懸念されている。高齢運転者の認知症や認知機能の障害は安全運転を阻害し、認知機能は加齢とともに低下するため、わが国では、認知症の疑いのある高齢運転者集団へのハイリスクストラテジーの対策が重点的に講じられている。 本論では、全国規模の高齢運転者集団を対象としたコホート研究など先行研究の知見を踏まえ、公衆衛生学の予防の概念、および心理学における交通事故リスク低減の階層的行動制御の考え方を背景に、交通事故リスク低減の人間行動を整理し、高齢運転者事故予防の展望を論じる。
  • 立岡 弓子
    2020 年 20 巻 1 号 p. 14-21
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/23
    ジャーナル オープンアクセス
    女性にとって、自動車運転は身近な移動手段となっている。女性は、性周期により、またエストロゲン分泌状態により、男性に比べて体調に変化が生じやすい。この女性の性と生殖に関する健康状態について、ホルモン動態を中心に理解し、さらに心理社会的健康への影響についても包括的にとらえていく健康科学分野にウイメンズヘルス学がある。ウイメンズヘルス学の考え方から、女性の自動車運転への影響を女性のライフサイクルごとに解説した。女性の性周期による体調の変化は、自動車運転に影響を与えているが、これまで交通医学や交通科学において、ウイメンズヘルスの視点から交通事故への影響要因は検証されていない。今後は、男性とは異なる視点で女性特有の自動車運転への影響要因について、ウイメンズヘルスの視点から交通科学の知見を再考していくことを願っている。
  • 渡邉 裕, 阿久津 正大, 三林 洋介, 大久保 堯夫
    2020 年 20 巻 1 号 p. 22-31
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/23
    ジャーナル オープンアクセス
    現在、わが国は中高齢者人口の割合が急速に増加しており、今後も中高齢運転者数の増加が見込まれ、早急な安全対策が望まれている。自動車の運転時、運転に必要な情報のほとんどは視覚より受容されているが、実走行運転時における車内外情報の視認・応答性と年齢要因を絡めて検討している研究はみられない。本研究では、中高齢者に配慮した自動車の車内情報表示の設計指針に資するために、車内情報である速度計に着目し、シミュレータ実験では年齢要因と速度計を見るときの走行速度の表示数字の大きさおよび実環境下では評価が難しい照度の関係を検討した。実走行実験ではシミュレータ実験で得られた年齢要因と表示数字の大きさとの関係を検討し、2つの実験結果を比較することにより、中高齢者の自動車運転の際の視認・応答性の関係を明らかにすることを目的とした。 シミュレータ実験は若齢者・中高齢者計20名、自動車運転時の代表的な明るさ環境下における速度計の表示面の垂直面照度を夕方の明るさ、曇りの日の明るさ、直射日光の当たらない快晴の明るさに相当する3条件(100 lx、500 lx、2,500 lx)、表示数字の大きさ(視角)4条件〔10×20mm(1°25’)、15×30mm(2°8’)、25×50mm(3°34’)、40×80mm(5°42’)〕で行った。実走行実験では快晴時に若齢者・中高齢者計12名、表示数字の大きさ4条件(シミュレータ実験と同条件)で行った。両実験とも各条件における速度計に表示される数字の大きさに対する反応時間を測定した。 その結果、中高齢者では、自動車運転時の速度表示の反応時間が若齢者に比べ有意に長くなり、年齢要因は運転時の車内情報の視認・応答性に大きく影響すること。速度表示の反応時間は、若齢者、中高齢者ともに速度表示の大きさ25×50mm(視角3°34’)で短くなること。シミュレータ実験の結果より、今回の実験条件下では、照度要因は、年齢要因や速度表示の大きさ要因よりも、速度表示の視認・応答性に及ぼす影響は顕著に小さいことがわかった。
  • 寺田 裕樹, 五ノ井 浩, 猿田 和樹, 陳 国躍, 水戸部 一孝
    2020 年 20 巻 1 号 p. 32-41
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/23
    ジャーナル オープンアクセス
    これまでに、われわれはビデオ映像および2Dアニメーション映像を用いて、車両の接近速度弁別能力検査システムを構築した。若年者および高齢者を対象として、その能力を検査した。しかし、このシステムは車両の大きさや周囲の環境は再現できるが、現実とは異なり両眼性の奥行き知覚情報を完全に再現できない。そこで本論文では、システムを2Dアニメーション映像から3Dアニメーションへ変更し、同様な検査を試みた。その結果、2Dアニメーション映像の結果と同様に、高齢者は若年者と比べ車両速度を誤って認識していることを明らかにした。
  • 馬塲 美年子, 一杉 正仁
    2020 年 20 巻 1 号 p. 42-49
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/23
    ジャーナル オープンアクセス
    近年、体調変化に基づいた健康起因事故が問題となっており、特定の病気に罹患している運転者の事故に対して、一定の要件の下に危険運転の適用が可能となる法律が新設された(2014年)。また免許取得・更新の際、免許の欠格事由となる一定の病気に対するチェックが強化された(2014年)。しかし、健康起因事故は特定の病気や一定の病気だけでなく、いわゆるcommon diseases or symptomsに基づく体調変化でも起こり得る。日常的に誰もが経験する体調変化は、運転に際してのリスクとして意識されにくいが、死傷事故の原因となり得る。 そこで、健常な人であっても日常的に経験することが多いcommon diseases or symptomsに起因した交通事故の予防策を講じる知見を得ることを目的として、かぜ症候群、腹痛、誤嚥(むせ)に基づく事故事例および判例について検討した。対象は15例で、事故当時の平均年齢は51.1±13.3歳であった。職業運転者が3分の2(10人)を占めていた。疾患・症状は、かぜ・くしゃみが各5例、インフルエンザが2例、咽頭炎・腹痛・誤嚥(むせ)が各1例であった。刑事処分結果が明らかな事例は8例あり、被疑者死亡による不起訴の1例を除き、全例有罪判決が下された。有罪7例中、6例は運転中止義務違反、1例は運転避止義務違反で過失が認められた。一定の病気や特定の病気に罹患している運転者と同様に、比較的軽微な疾患・症状であっても、体調不良時の運転は避けること、運転を継続しないことが重要であると考えられた。実刑判決は3例あり、いずれも職業運転者であった。職業運転者の健康起因事故では、事業者も法的責任が問われることがある。事業者もcommon diseases or symptomsの運転リスクを認識し、日頃からの基本的な対策を怠らないことが必要である。
  • 林 広美, 林 浩嗣, 小林 康孝
    2020 年 20 巻 1 号 p. 50-58
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/23
    ジャーナル オープンアクセス
    2017年3月に改正道路交通法が施行され、運転免許更新時に認知機能低下の指摘を受け、都道府県公安委員会からの診断書提出命令書を持参し医療機関を受診する症例が増えている。当院でも診断書作成目的に受診する患者が目立つようになり、その現状を調査した。2017年3月〜2019年7月までの29カ月間に当院物忘れ外来を受診した患者290名のうち、診断書提出命令書を持参した25名を対象とし、公安委員会で施行した認知機能検査、当院で施行した神経心理検査〔HDS-R、MMSE、FAB、CDR(Clinical Dementia Rating)、TMT(Trail Making Test)、MoCA-J(日本語版Montreal Cognitive Assessment)〕、現在の運転状況について検討した。25名(男性22名、年齢80±4.1歳、教育歴10.5±2.7年)の認知機能検査の総合点は中央値35点であった。また神経心理検査の中央値はそれぞれHDS-R 17点、MMSE 21点、FAB 10点であり、CDRは0.5が14名、1.0以上が11名であった。TMT-Aは、年齢平均以下は25名中8名、TMT-Bは、年齢平均以下は21名中18名であった。この結果25名中3名は軽度認知障害で診断書を提出、22名は認知症あるいは認知症疑いと診断し自主返納となった。問診からは、患者家族の64%は患者の認知機能低下を感じていたが、患者の運転に危険を感じている家族は24%のみであった。当院のある福井県では、高齢運転者が多く、車の必要性は高い。高齢運転者の中には、明らかに認知機能低下がみられても、運転に危険を感じず運転できている現状がある。一方で、家族が患者を認知症との目で見ていない場合も多く、運転の判断には、日常生活などの十分な問診と、多方面の認知機能の検討が必要と思われる。
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