日本交通科学学会誌
Online ISSN : 2433-4545
Print ISSN : 2188-3874
19 巻, 2 号
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  • 國富 将平, 樋口 友樹, 髙山 晋一, 小阿瀬 丈典
    2020 年 19 巻 2 号 p. 3-12
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/02
    ジャーナル オープンアクセス
    わが国では、2018年より、先進事故自動通報システム(advanced automatic collision notification;AACN)の情報を活用し、ドクターヘリと連携させたD-Call Netの本格運用が開始された。しかし、D-Call Netは、ドクターヘリ基地病院を対象としており、ドクターカーのみを保有している病院への情報提供は行われていない。そのため、D-Call Netの情報提供範囲をドクターカーのみを保有している病院にも拡大することで、交通事故による死者数ならびに後遺症発生者数の削減効果が期待できる。 そこで本研究では、ドクターカーによる交通事故者に対する救命効果を正確に把握するため、全国のドクターカー運用実態調査と交通死亡事故に対する対応可能率を推計した。運用実態調査は、ドクターカー/ヘリを保有する医療機関へのヒアリングとインターネット、文献調査を用いて実施した。また、そこから得られた情報と全国市区町村の時間別交通死亡事故データを基に、ドクターヘリを含めた交通死亡事故に対するドクターカー対応可能率を算出した。 その結果、ドクターカーの保有が確認できた234施設中、157施設の運用時間が不明であり、休眠状態である可能性が示された。休眠状態の主な原因は、運用費と医師やドライバー等の人材確保であると考えられた。一方、交通死亡事故に対する現状のドクターカー対応可能率は5.7%であり、ドクターヘリの22.9%と比較して低いことが判明した。しかし、ドクターカー運用時間を24時間365日、保有病院を調査対象病院すべて(338施設)にすることによって、交通死亡事故に対するドクターカー対応可能率は45.1%まで向上すると推計され、ドクターカーはドクターヘリ以上の対応可能率を有する可能性があることがわかった。
  • 宮田 湧希, 岩邉 悠, 池田 巧, 大賀 涼, 櫻井 俊彰, 杉町 敏之, 槇 徹雄
    2020 年 19 巻 2 号 p. 13-25
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/02
    ジャーナル オープンアクセス
    2018年における車両相互の交通事故のうち、追突事故は約35%ともっとも多い。また2007〜2012年における停車中の車両に対する追突事故のうち、約13%が多重事故に発展しており、追突事故における被害低減対策が重要である。追突事故では、衝撃により被追突車において運転者のブレーキ操作が中断することがある。その結果として被追突車が押し出され、多重事故に至る事例が確認されている。こうした事故を防ぐため、追突直後に自動ブレーキをかけるポストクラッシュセーフティシステムが欧州で実用化されている。先行研究では、本システムの作動により多重事故の発生を抑制する可能性が示唆されているが、日本国内には導入されていない。本研究は追突時にブレーキ中断が発生するメカニズムを解明し、その発生条件を明らかにすることを目的とした。国内での追突事故を想定して軽自動車を用いた実車実験を行い、追突直後における乗員の下肢挙動を分析した。そして実車実験から求めた車両間の反発係数をドライブレコーダに記録された事故に適用し、追突後の被追突車速度と運転者の下肢挙動の関係を調査した。その結果、追突後の被追突車速度と運転者の足首の挙動には相関があり、その際に生じる足首の後退が運転者のブレーキ操作に影響を与えることを確認した。また実験結果より、被追突車のブレーキ中断発生確率が99.9%となる場合の追突速度を求める式をロジスティック回帰分析により導出した。その結果、追突車が普通乗用車で被追突車が軽自動車の場合は追突速度が10.2km/h以上、追突車と被追突車の質量が同一の場合は追突速度が15.3km/h以上でブレーキ中断発生確率が非常に高くなると推定された。そしてこれらの追突速度で追突する事故の発生割合が高いことから、日本国内においては、これらの速度を作動基準とするポストクラッシュセーフティシステムの導入により、ブレーキ中断による多重事故を抑制できると考えられる。
  • 馬塲 美年子, 一杉 正仁
    2020 年 19 巻 2 号 p. 26-34
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/02
    ジャーナル オープンアクセス
    近年、高齢の免許保有者は増加しており、交通事故発生件数における高齢者率も年々増加している。2017年の道路交通法(以下、道交法)改正で、認知機能検査で第1分類(認知症のおそれあり)と判定された高齢者は、免許の更新時に医師の診断書提出が義務づけられたが、高齢者の事故の原因は、認知症に起因したものばかりではない。そこで、増加する高齢者事故の特徴、および事故を起こした高齢運転者の法的責任を検討し、事故予防策を講じる知見を得ることを目的として、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律施行後に発生した高齢運転者(65歳以上)による事故の刑事裁判例について検討した。対象は26例で、運転者の平均年齢は76.0±7.4歳であった。3人は、職業運転者であった。何らかの疾患に罹患していた運転者は7人で、認知症、てんかん、糖尿病、心臓病、がん、難聴、白内障であった。事故原因は、不適切な操作(アクセルとブレーキの踏み間違いなど)が9例ともっとも多かった。有罪となったのは23例で、過失運転致死傷が20例、危険運転が2例、道交法違反(酒気帯び)が1例であった。過失運転では、結果の重大性、基本的な注意義務の違反、悪質性が認められるケースでは起訴されて公判が開かれる可能性が高くなる。そしてその結果や注意義務違反・悪質性がとくに重いと判断された事例では実刑判決が下されていた。量刑において、高齢であることや長期間の安全運転経歴が考慮されることもあるが、過失の刑事責任は免れない。また、故意が認められる危険運転では、高齢などの諸状況が考慮される余地は少ないと考えられた。高齢運転者の事故は、認知症患者の免許を取り消すことだけでは解決できない。運転経験を過信することなく、加齢に伴う運転能力の低下を自覚できるようなサポートが必要であろう。また、高齢の就業者が増加するなか、高齢者を雇用している事業者による安全対策も求められよう。
  • 石井 亘, 飯塚 亮二, 一杉 正仁
    2020 年 19 巻 2 号 p. 35-41
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/02
    ジャーナル オープンアクセス
    自動車乗車中のシートベルト着用が義務化されてから、シートベルトによる胸腹部損傷が顕著になってきた。シートベルトによる損傷の形態と受傷機転を明らかにするために後方視的検討を行った。2013年4月〜2018年3月に京都第二赤十字病院(以下、当院)に入院した外傷患者の中で、シートベルト痕がありシートベルトに起因したと考えられる体幹部外傷例14症例を対象とした。各例で受傷機転、損傷、病院搬入時のバイタルサイン、治療法などを比較した。平均年齢は49歳で10例が運転者、3例が助手席乗員であった。胸腹部のシートベルト損傷のみを認めるのが8例、四肢や頭頸部に合併損傷を認めるのが6例であった。これらの間で平均ISS(Injury Severity Score)に有意差はなかった。また、明らかにシートベルトの着用位置が不適切であったのが4例あり、シートベルトが腹部にかかることで生じた小腸腸間膜損傷、腹壁筋膜下血腫、肩ベルトが頸部にかかることで生じた頸部の皮下血腫などが生じていた。自動車乗員の交通外傷診療では、シートベルト着用の有無を確認することがまず重要である。そして、シートベルトが正しい位置に着用されているかを確認する必要もある。シートベルト痕を認める症例では、経過とともに症状が現れて重症化することがあり、慎重な管理が必要と考える。
  • 鬼本 大輝, 大賀 涼, 杉町 敏之, 櫻井 俊彰, 槇 徹雄
    2020 年 19 巻 2 号 p. 42-52
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/02
    ジャーナル オープンアクセス
    超小型モビリティの一つであるミニカーの活躍が期待されている。ミニカーは小回りが利き運転しやすいことや駐停車スペースを広く取らないことから、高齢者の移動手段や小口配達用の車両として適していると評価されている。一方で衝突安全性に関しては、法規や自動車アセスメントにおいて安全基準が定められておらず、研究の取り組みが少ないようである。ミニカーは普通乗用車や軽自動車に比べ車両が小型であるため、クラッシャブルゾーンの確保が容易ではなく、前面衝突時に車体変形がキャビンまで進行し、乗員が内装部品に衝突し受傷する可能性がある。これまで本研究ではミニカーを用いて衝突速度55km/hのフルラップ前面衝突実験を実施した。このとき、キャビンまで至る車体変形のためにステアリングホイールが大きく後退し、乗員の頭部および胸部と衝突するという課題が確認された。そこで本論文ではCAE(computer aided engineering)を用いて、実験車両の前部車体フレームおよび足回りの構造を再現した有限要素モデルと内装部品および乗員を再現したマルチボディモデルを構築した。車体構造の改善として、車体の前部フレームの剛性を上げることによりキャビンの変形を抑制した。併せて剛性を上げたことにより最大減速度が上昇するため、衝撃吸収部材を追加して車両の最大減速度を従来と同等とした。またシートベルトのプリテンショナーとフォースリミッターを追加し、シートベルトの拘束力を調整することで、ステアリングホイールと胸部の衝突を回避させつつ、胸部および頭部の最大減速度を抑制した。本論文における車体構造と乗員の拘束方法の改善により、胸部傷害値である胸たわみおよび頭部傷害値であるHIC36を傷害基準値未満に低減できることを示した。
  • 一杉 正仁, 有賀 徹, 三宅 康史, 三林 洋介, 吉沢 彰洋, 吉田 茂, 青木 義郎, 山下 智幸, 稲継 丈大
    2020 年 19 巻 2 号 p. 53-58
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/02
    ジャーナル オープンアクセス
    緊急自動車に対する反射材の取り付けについて学術的に検討した結果、次のとおり推奨する。 1.反射材を車体に取り付けることは、視認性の向上に有用である。 2.反射材の選択においては、再帰性に富んだ反射材が望まれる。 3.反射材の取り付けにおいては、他の交通の妨げにならないこと、車両の前面に赤色の反射材を用いないこと、車両の後面に白色の反射材を用いないこと、が原則である。 4.車体の輪郭に沿って反射材が取り付けられること、車体の下部にも反射材が取り付けられること、は視認性の向上に有用である。 5.蛍光物質を含む反射材は、夜間のみならず、明け方、夕暮れ、悪天候などでの視認性向上に有用である。 6.今後は救急自動車以外の緊急車両、現場で活動する関係者が着用する衣服などで、反射材を用いた視認性の向上を検討する余地がある。
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