日本交通科学学会誌
Online ISSN : 2433-4545
Print ISSN : 2188-3874
21 巻, 2 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
  • 一杉 正仁
    2022 年 21 巻 2 号 p. 3-8
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2023/03/25
    ジャーナル オープンアクセス
    路上横臥が人対車両事故のなかに占める割合は、死傷者で0.6%、死亡者数で8.3%であるので、路上横臥者による事故低減を目指すことは喫緊の課題と考える。路上横臥による事故は8月、週末の深夜に多く発生する。市街地で多く発生し、死傷者は男性が多く、通行目的は飲食がもっとも多い。路上横臥者ではひき逃げ事故になることが多く致死率が高い。路上横臥による事故で死亡・重傷・軽傷となる割合はそれぞれ1/3程度であり、死亡に寄与する独立した因子は、週末、夜間の事故、ひき逃げ事故、乗用車に比べて大型車による事故、最低車高が18cm未満の車両による事故、高速度の衝突、四肢に比較して頭頸部や体幹に損傷を負うこと、高齢である。また、重傷に寄与する独立した因子として、夜間の事故、高速度の衝突、最低車高が18cm未満の車両による事故、ひき逃げ事故、四肢に比較して頭頸部や体幹に損傷を負うことがあげられる。衝突速度を下げること、体幹部の損傷を避けること、ひき逃げを予防することは、路上横臥者における死亡および重傷事故予防に有用と考えられる。また、路上横臥事故は夏の深夜、週末の市街地で多く発生することから、見回りを徹底して路上横臥者を早期に発見する取り組みが必要である。さらに、事故を回避できる車載システムの実用化が今後望まれる。
  • アニス ファーハナ ザイヌッディン, 國行 浩史
    2022 年 21 巻 2 号 p. 9-22
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/25
    ジャーナル オープンアクセス
    交通事故の要因は、人、道、車からなるさまざまな要因から発生している。また、人口増加や都市化、モータリゼーションなどの社会変化の影響も大きく受けている。R. J. Smeedは1938年の交通事故データを用いて、人口当たりの車両登録台数(N/P)と登録車両台数当たりの自動車交通事故死者数(D/P)を比較し、スミードの法則としてその関係を提唱した。また、その関係からモータリゼーションが進むと登録台数当たりの自動車交通事故死者数が減少していくことを示した。その後の研究でも交通事故の概況を把握する手法の一環として多くの研究者がスミードの法則を用いた分析を行っている 。本研究では、このスミードの法則を用いてIRTAD加盟国34カ国のデータから交通事故の年推移の考察を行った。さらに、社会的因子を用いて重回帰分析を行うことにより、交通事故死者数と社会的因子との関係を分析した。その結果、スミードの法則は総じて適用できると考えるが、近年のデータでは徐々にずれる傾向が強くなっていることがわかった。また、重回帰分析の結果から一人当たりのGDPと高齢者比率がD/Nに対して有意な因子(p<0.005)になったが、係数は共に負となり、経済成長レベルにより異なる交通環境をもった各国に対して、一律の解釈はできなかった。経済成長レベルにより交通環境や自動車利用状況の変化が考えられるため、スミードの法則のD/Nでは、とくにGDPの高い国の評価は難しく、状況に応じた国別の評価が必要であると考える。
  • 伊藤 大輔, 國行 浩史
    2022 年 21 巻 2 号 p. 23-33
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/25
    ジャーナル オープンアクセス
    本論文では体調検知・事故回避技術普及による疾病患者の運転への社会受容性や体調検知・事故回避技術があったにもかかわらず発生する事故に対する市民意識について一般市民に対するインターネットアンケート調査を行った。調査の仮説として、過去に自身もしくは知人が運転中に体調変化があった場合に体調検知・事故回避技術に対して肯定的になると考え、過去の体調変化の経験との関係について分析を行った。対象は50歳以上の男女とし、回答件数は1,500件である。結果として、現段階での自動車交通社会に対する認知として、急な体調変化を適切に検知し、危険回避が可能な装置が普及しても体調急変の可能性がある疾病患者の運転が社会的に受容されない可能性が示唆された。一方、自身または知人の運転中の体調変化の経験が体調検知技術への期待を高め、体調検知技術による疾病患者の運転への許容に正の影響を与えることが示された。また、一般市民の認識として、体調計測機器を付けることを条件として運転を許可されている人がそれを付け忘れた場合、運転手の責任が大きくなると考える人が全体の半数を超えており、体調変化検知を自動的に開始するなどの仕組みが必要と考える。以上より、安全運転を支援するシステムの開発と並行して、それが社会に許容される必要があり、今後社会受容性向上のための施策について検討する必要がある。
  • 関根 康史
    2022 年 21 巻 2 号 p. 34-44
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/25
    ジャーナル オープンアクセス
    【緒言】わが国の高齢化率は,2065年には38.4%に達することが予想されており、今後、高齢者による事故が増加することが指摘されている。最近では、高齢運転者が起こしたブレーキとアクセルのペダル踏み間違い事故が社会的な問題となっている。【対象および実験方法】ペダル段差20mmのセダン型乗用車を試験車とし、高齢者の被験者5人(平均年齢72.8歳)および若年者の被験者5人(平均年齢18.0歳の男性)に右足の踵を床に付けてペダル操作する姿勢になってもらい、ブレーキもしくはアクセルペダルを右足先で踏むタスクを与え、アクセルからブレーキに踏み換える際の足の動きを撮影、その画像を分析することによって、ペダル踏み間違いの発生メカニズムを明らかにした。【結果】高齢者の被験者において、アクセルの位置に踵を置き、これを支点に足先を内側に向けてブレーキを踏もうとしたところ、アクセルに近い場所を踏んでしまうニアミスが発生した。一方で、アクセルとブレーキの中間くらいの位置に踵を置いた場合には、ニアミスは発生しないといったことを確認した。そこで、若年者の被験者に対し、踵を置く位置を「条件1:アクセルの位置」「条件2:アクセルとブレーキの中間の位置」「条件3:ブレーキの位置」として実験を行ったところ、「条件1」では高齢者と同様にニアミスをしてしまう、もしくはアクセルペダルを踏んでしまう、「条件2」ではニアミスを起こさない場合とニアミスをした場合の両方があり、「条件3」においては、ニアミスは発生しなかった。【結論】右足の踵をブレーキペダルの位置に置いた状態で「踵を床に付けたペダル操作」を行うことは、ペダル踏み間違いを、よりいっそう起こしにくくするペダル操作法と考えられる。
  • 三好 陽子, 吉岡 伸一, 山本 美輪
    2022 年 21 巻 2 号 p. 45-55
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/25
    ジャーナル オープンアクセス
    わが国は、高齢化に伴い高齢運転者の死亡事故件数が全体に占める割合が増加している。警察庁は、安全運転相談員(以下、相談員と略)を配置した相談窓口の利用を推奨しているものの、その利用実態、相談員の人口学的情報や実践内容は把握されていない。75歳以上の運転者には、免許更新時に認知機能検査が義務付けられているが、認知症高齢運転者の重大な死亡事故事例が少なからず報告されている。そこで本研究では、わが国の相談員の現況を調査し、高齢運転者の意思決定を支援するプロセスにおいて効果的に関与した相談スキルを明らかにすることを目的とした。研究デザインは探索的質的研究法を用い、全国の安全運転相談窓口で従事する相談員に対し、郵送による質問紙調査を行った。高齢運転者の意思決定支援プロセスに効果的に関与していた場面の記述内容について、KH Coder (Ver.3)によるtext miningを行った。132人から有効回答を得た。相談員は、警察官71人、警察職員34人、看護師28人などであった。自由記述から、447文、10,192語句を抽出した。頻出語は、「当事者」257件、「自主返納」162件、「家族」155件などであった。共起ネットワークによって抽出された8つのサブグラフを生成する語句については、Krippendorffの内容分析技法であるkeyword in contextコンコーダンスを用いて文脈を確認し命名した。意思決定支援に効果的に関与した相談スキルとして、【当事者の意思を尊重する】【当事者・家族の話を傾聴し共感する】【当事者の立場で思考する】【判断材料として客観的データを提示する】【MCI・認知症者にメリットを提示し自主返納を説得する】【運転事故事例を提示し理解を得る】【当事者の不安を理解し納得を得る】【地域包括支援センターと連携・協働する】とそれぞれの相談スキルの関連要素が明らかとなった。
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