本稿の目的は,直感のバイアスを制御した社会科意志決定学習法を開発し,その方法を用いることで子どもが論理性の高い意志決定をできるようにすることである。
近年,意志決定の大部分が直感によってなされていることが明らかになった。人は,無自覚に直感のバイアスに影響されて意志決定をしている。合理性や論理性を求める意志決定学習では,直感のバイアスの影響を制御する必要がある。しかし,これまで直感のバイアスを制御することを意図した社会科意志決定学習法は開発されていない。本研究は,次の3点の意義をもつ。
第1は,意志決定の論理性を高めるための方略として,直感のバイアスを制御する必要があることを明らかにしたことである。
第2は,子どもが直感のバイアスを制御して意志決定ができる学習方法「比較吟味自己内討論学習」を開発したことである。この方法は,子どもの実態調査から明らかになった「はじめに結論ありき」で意志決定をする問題の解決をめざしている。この方法は,学習者がそれぞれの選択肢のメリットを規準に比較,吟味して意志決定をすることで論理性を担保する。さらに,自身の意志決定を省察することでその妥当性を高める。
第3は,上記の方法を用いた実践をとおして,その有効性を明らかにしたことである。 本稿では, 比較吟味自己内討論学習を用いた意志決定学習によって, 直感のバイアスの影響による「理由の後付け」 と 「不公平な比較」 という意志決定学習の課題であった非論理性を解決できることを明らかにした。
抄録全体を表示