本研究の目的は,指導要領で求められている社会科授業に対して,これまでの社会科教育研究の成果を分析し,新たな解釈・意味づけによって授業開発・改善する方略を示すことである。
これまで研究者と実践者は,社会科教育研究において理論と実践の創造を積み重ね,社会科授業実践の向上や科学化に寄与してきた。他方,近年の学校現場では,教科書・指導書に沿った指導要領枠内の授業を志向する傾向が強く,社会科教育研究との乖離が生じている。社会科教育のさらなる発展には,社会科教育研究における理論や実践の創造・科学化は欠かせない。しかしながら,学校現場を取り巻く現状を考えるとそれは容易でない。そのような状況を踏まえ,これらの溝を埋めていくには,多くの教師が拠り所とする教科書を使用し指導要領に準拠した社会科(要領社会科)の授業実践にも着目し,教師の授業開発・改善における工夫や意欲を引き出す新たな方略を考えていくことが必要ではなかろうか。
そこで,本稿では,社会科教育研究の方法原理である「理解」と「説明」の知見を踏まえた解釈のもと,それら両方のよさを生かす小学校要領社会科授業開発・改善の視点や方法として問いの対象や観点などを転換させる新たな方略を導き出した。また,その方略を踏まえた学習過程や実践者との協議を通して構成した第6学年歴史学習の単元を示し,実践後のインタビュー内容を踏まえ実践者の授業開発・改善への意識の高まりを検討した。小学校教師の多くが依拠する要領社会科を,これまで積み上げられた社会科教育研究の成果を生かしながら科学化し,実践者との要領社会科授業の開発・改善方略を踏まえた研究構築によって,社会科授業研究の裾野を広げ発展させることが,これからの社会科教育研究に必要と考える。
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