認知行動療法研究
Online ISSN : 2433-9040
Print ISSN : 2433-9075
47 巻, 3 号
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特集:遠隔認知行動療法
巻頭言
実践研究
  • 有園 正俊
    2021 年 47 巻 3 号 p. 223-233
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/01/12
    [早期公開] 公開日: 2021/11/22
    ジャーナル フリー

    先行研究によると、児童期のマルトリートメント(childhood maltreatment; CM)を体験したことで、情動の調節が困難な特性をもつことや強迫症/強迫性障害(obsessive–compulsive disorder; OCD)の症状に潜在的に影響する可能性が示されている。本症例の患者は、CMを体験し、対人関係でストレスを感じても自分の意見を表現抑制する傾向があった。そして、成人になって職場でのストレスが強い出来事をきっかけに、他者への加害の強迫観念を抱くOCDを発症した。重症度が増し、自宅で一人のときは、ほとんど身動きしないでいた。自宅にいる患者に音声通話を主とした遠隔診療で認知行動療法を行った。この方法は、患者が強迫症状の現れる場所にいながら、治療者と課題をできるなどのメリットがあり、症状は改善した。本研究では、その患者のCM体験とパーソナリティ、OCDへの影響を検討した。

  • 東 美穂, 冨樫 耕平, 大森 由紀乃, 山本 淳一
    2021 年 47 巻 3 号 p. 235-247
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/01/12
    [早期公開] 公開日: 2021/11/19
    ジャーナル フリー

    本研究では、発達障害のある幼稚園年長児に対して、「家族」「先生」「友達」とのコミュニケーション行動の獲得を支援する家庭用教材を作成し、オンライン発達行動支援を実施した。課題間多層ベースライン法を用い、カテゴリーごとの介入効果を検討した。支援者が母親に対して行った半構造化面接をもとに、標的行動を選定した。支援者はプローブ試行のみを実施し、母親が家庭トレーニング試行の実施者となった。その結果、3種類のコミュニケーション行動が獲得され、100%に近い正反応率で推移した。1カ月後フォローアップでも高い値を示した。母親の満足度調査の結果からは、高い満足度と低い負担度が得られた。

原著
  • 加藤 宏公, 柳澤 博紀, 奥村 英雄, 井上 眞人, 三田村 仰
    2021 年 47 巻 3 号 p. 249-260
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/01/12
    ジャーナル フリー

    本研究では、3名の慢性期統合失調症患者に対しグループ介入のアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)を実施し、介入プログラムの効果を検討した。介入はプログラム4回とフォローアップ2回の全6回であり、シングルケースデザインを用いて、アウトカム指標として価値に基づく行動の生起頻度、プロセス指標としてVQ、CFQ、BEAQを測定した。結果、価値に基づく行動の生起頻度は、3名共に有意な増加(p<.05)が認められた(Tau=0.43—0.53)。プロセス指標は、目視分析において介入中は有意な傾向があり、介入後はベースラインのレベルに戻る傾向がみられ、1名のVQ(前進因子)のみが有意であった(Tau=0.69)。以上から、グループACTプログラムは統合失調症のリカバリー支援として各参加者の価値に基づく行動の促進に有効であり、介入後の行動の般化と維持には、段階的な介入方法のさらなる検討が必要である。

  • 富田 望, 甲斐 圭太郎, 南出 歩美, 熊野 宏昭
    2021 年 47 巻 3 号 p. 261-272
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/01/12
    ジャーナル フリー

    本研究では、自己注目を誘発する音刺激を含めた注意訓練法(ATT)を作成し、通常のATTとの効果を比較した。社交不安傾向者30名を自己注目ATT群と通常ATT群に割り当て、各ATTを2週間実施し、介入前後で社交不安症状、能動的注意制御機能、スピーチ課題中の自己注目の程度や翌日の反芻(PEP)が変化するかを検討した。その結果、両群で社交場面への恐れは低減したが、自己注目ATT群で減少量が大きいことが示された。観察者視点による自己注目は両群ともに減少したが、PEPは自己注目ATT群にのみ減少が見られた。以上より、自己注目を誘発する刺激を使ったATTでは、SAD症状やPEPに対する効果が大きいことが示唆されたが、その作用機序の違いに関してはさらなる検討が必要と考えられた。

  • 岩野 卓, 高野 裕太, 堀内 聡, 平原 弦, 帆秋 伸彦
    2021 年 47 巻 3 号 p. 273-282
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/01/12
    ジャーナル フリー

    アルコール依存症は社会問題であるが専門の治療機関が少ないため、依存症の治療経験が少ない医療スタッフが実施しやすい集団認知行動療法プログラム(Restart and Enhance Life Intervention For Every person with Alcohol Addiction: RELIFE-A2)を開発しパイロット試験を行った。標準的な集団認知行動療法群14名、RELIFE-A2を行ったExpert群12名(専門家実施)とAmateur群12名(治療未経験者実施)を比較した。再飲酒リスク、心理的ウェルビーイング、自己効力感、治療への動機づけ、コーピングスキルを指標とし、線形混合モデルで解析した。群間差は認められなかったため、RELIFE-A2は標準的な認知行動療法と同等の効果と、高いユーザビリティが示された。本研究によって、医療スタッフにとって実施しやすい治療プログラムが開発され、効果が検証された。

  • 浅岡 聡, 園畠 安澄, 落合 俊明, 木村 由美子, 田中 千尋, 中村 明子, 土師 裕子, 村田 貴徳, 中津 啓吾, 佐藤 悟朗
    2021 年 47 巻 3 号 p. 283-293
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/01/12
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、不安とうつの認知行動療法の統一プロトコルに基づいた集団認知行動療法(GUPPY)とうつ病の集団認知行動療法(CBGT-D)の効果を予備的に比較、検討することであった。精神科外来において研究に同意が得られた参加者をGUPPY(n=10)とCBGT-D(n=14)の二群に分け、精神症状やQOLの改善に差があるか検討した。結果、抑うつにおいて時期の主効果と時期と群の交互作用が有意にみられ、GUPPY群に有意な大きな改善がみられ、CBGT-D群において小~中程度の改善が有意傾向としてみられた。ただし、二群間に開始時の抑うつ得点に大きな差がみられており、改善度合いに影響した可能性も考えられる。終了時アンケートの結果、CBGT-DのほうがGUPPYよりも用語が分かりやすく、今後更なる改善が望まれる。

資料
  • 横山 仁史, 髙垣 耕企, 神原 広平, 神人 蘭, 岡本 泰昌
    2021 年 47 巻 3 号 p. 295-306
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/01/12
    ジャーナル フリー

    心理療法のエビデンスは介入前後の標的指標の差に基づくものが多く、その治療効果がどのように実施された結果得られたのかについて定量的な情報は乏しい。心理療法は言語を主手段とするが、近年、言語情報に対してデータ駆動型の計算アプローチによって客観的かつ再現可能なモデルを生成するトピックモデルが注目されている。本研究では、構造化された1事例の行動活性化中の会話データから、時系列構造を有する動的トピックモデルが治療セッション内容を抽出可能かについて検討を行った。結果として、会話に関する潜在的な四つのトピックが抽出され、それらの量的変動過程が治療プログラムを反映していることが示された。本研究は動的トピックモデルを心理療法中の会話に対して用いた最初の研究であり、これによる実際の治療プロセスの定量化と作用エビデンスの蓄積が期待できる。

実践研究
  • 小野 昌彦, 江角 周子, 佐藤 亮太朗
    2021 年 47 巻 3 号 p. 307-318
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/01/12
    ジャーナル フリー

    本研究では選択性緘黙の中学2年女子に学校場面における発話行動形成のため、包括的支援アプローチを適用し、その効果を検討した。彼女の選択性緘黙は発現前条件が学校場面で誘発されるストレス反応、維持条件が彼女の代替発言をする生徒および筆談をする教員の存在と考えられた。そこで、彼女の学校場面でのストレス反応低減と発話行動形成を目的に、不安階層表の段階を唾液アミラーゼ評価で確認し、その段階のストレス反応の程度に合わせて刺激フェィディング法、系統的脱感作法、現実的脱感作法、主張反応法を併用適用した。また、彼女の選択性緘黙維持条件除去の目的で学校介入をした。専門支援機関でのセッション4回、学校訪問指導4回の10カ月の支援の結果、彼女の選択性緘黙は解消し学校場面における活発な発話行動が形成され、予後も良好であった。包括的支援アプローチの選択性緘黙への有効性が示され、今後の課題として技法選択基準の明確化をあげた。

  • 田中 佑樹, 野村 和孝, 嶋田 洋徳, 中川 桂子, 小柴 梓, 菅野 真由香, 大石 泰史, 大石 裕代, 大石 雅之
    2021 年 47 巻 3 号 p. 319-329
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2022/01/12
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、ギャンブル障害患者を対象としたリラプス・プリベンションに基づく集団認知行動療法プログラムの効果に関して、ギャンブル行動のみならず適応状態をアウトカム指標として検討することであった。機能分析的側面を強調した全13セッションから構成され、参加の柔軟性が高いセミオープン形式が採用された集団認知行動療法プログラムを民間医療機関に通院するギャンブル障害患者に対して実施した。初参加時と終了時にアンケートへの回答が得られた21名を分析対象とした。分析の結果、ギャンブル行動そのものには有意な減少は認められなかった。また、適応状態の指標のうち、ギャンブルによって生じる生活支障度の低減が認められた一方で、QOLや心理的ストレス反応には十分な改善が認められなかった。以上の結果から、本研究において用いたプログラムには課題が残されており、今後の展望が考察された。

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