認知行動療法研究
Online ISSN : 2433-9040
Print ISSN : 2433-9075
48 巻, 2 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
特集:認知行動療法研究の新時代を切り開く研究法―認知行動療法研究の質向上に向けたアプローチ―
巻頭言
展望
  • 国里 愛彦, 土屋 政雄
    2022 年 48 巻 2 号 p. 113-122
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/07/28
    [早期公開] 公開日: 2022/04/18
    ジャーナル フリー

    心理学の再現性の問題が指摘されるようになって久しいが、心理学および認知行動療法の研究において再現可能性を高めるための取り組みはまだ十分に進んでいない現状がある。本稿では、現状把握として、認知行動療法に関連する心理学における再現性の危機について概観したうえで、再現性の危機を乗り越えるための方策について論じた。具体的には、Goodman et al.(2016)が提唱する3つの再現可能性(方法の再現可能性、結果の再現可能性、推論の再現可能性)に基づいて、それぞれの現状における問題点の指摘と問題を乗り越えるための前向きな解決法について解説した。3つの再現可能性は主に個々の研究者の研究実践を扱っているが、より広く社会の中で研究実践を位置づけ、研究の価値を高めることも必要となってきている。そこで、研究疑問の優先順位付けにより研究の価値を高めることについても論じた。

  • 佐藤 秀樹, 土屋 政雄
    2022 年 48 巻 2 号 p. 123-134
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/07/28
    [早期公開] 公開日: 2022/04/18
    ジャーナル フリー

    認知行動療法は目に見えない構成概念を測定する尺度の開発とともに発展してきた。患者報告式アウトカム尺度(Patient-Reported Outcome Measure: PROM)とは、患者の健康状態を患者自身の直接的な報告から情報を得て、修正や解釈を介さない尺度を指す。PROMの系統的レビューによってPROMの測定特性を理解することは、臨床や研究で測定したい概念に適したPROMを選ぶ場合などにも役立つ。本稿では、COSMIN(COnsensus-based Standards for the selection of health Measurement INstruments)の方法論に基づき、2018年に改訂された(a)PROMの系統的レビューのガイドライン、(b)コアアウトカムセットのガイドライン、(c)特に大きく変更された内容的妥当性のガイドラインについて解説する。

  • 横光 健吾, 高階 光梨, 山本 哲也
    2022 年 48 巻 2 号 p. 135-144
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/07/28
    [早期公開] 公開日: 2022/05/20
    ジャーナル フリー

    認知行動療法は、さまざまな臨床心理学的問題に対する心理療法の中心的存在として、問題解決に挑み続けてきている。本論文では、遠隔心理実践の統合モデルを紹介するなかで、①遠隔心理支援の概要、および遠隔心理実践における認知行動療法の位置づけ、②支援者の関わりが少ない支援の中で重要となる要素、および活用事例、③ICTツールを用いた認知行動療法の普及に向けた課題、を整理することを通して、遠隔心理支援に関する支援者のリテラシーの向上に寄与したい。

  • 竹林 由武
    2022 年 48 巻 2 号 p. 145-154
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/07/28
    [早期公開] 公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    シングルケース実験デザイン(single-case experimental design: SCED)は、個人や集団に実施した介入の有効性評価に用いられる研究デザインの一つである。本稿では、SCEDの代表的な有効性評価法である視覚分析の概要と信頼性に関する問題を述べたうえで、視覚分析を補助する代表的な方法を解説する。具体的には、視覚補助を用いて構造化された視覚分析手法と統計指標を用いた方法について述べる。個人内効果の統計指標は、重複率に基づくTau系指標、フェーズ間の平均値差や対数反応比、回帰モデルに基づく方法を紹介する。個人間効果の統計指標として、階層線形モデルに基づく個人間標準平均値差や個人内効果指標のメタ分析的な統合手法を紹介する。最後に多様な統計指標から適切なものを選択するための指針を議論し、視覚分析と統計指標を簡便に算出できるソフトウェアやウェブアプリを紹介する。

原著
  • 緒方 慶三郎, 朝倉 崇文, 滝澤 毅矢, 出水 玲奈, 大石 智, 宮岡 等
    2022 年 48 巻 2 号 p. 155-162
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/07/28
    [早期公開] 公開日: 2022/05/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的はギャンブル障害と診断された者を対象として、その重症度と完全主義の各因子との関係を多次元的に検討することであった。自己評価式尺度であるMultidimensional Perfectionism Cognition Inventory(MPCI)およびProblem Gambling Severity Index(PGSI)を用いて、精神科医によってギャンブル障害と診断された54名を対象に調査を実施した。PGSIと属性データ、MPCIについてスピアマンの順位相関係数を算出したところ、初診時の借金額、完全主義の不適応的な側面とされるMPCIの下位尺度である「完全性追求」および「ミスへのとらわれ」がPGSIとそれぞれ有意な正の相関を示した。さらにPGSIを目的変数とする重回帰分析を行ったところ、説明変数である初診時の借金額と「ミスへのとらわれ」の標準化係数が有意な値を示した。本研究の結果はギャンブル障害の臨床像を完全主義認知の側面から説明するものであった。

  • 竹森 啓子, 下津 咲絵, 佐藤 寛
    2022 年 48 巻 2 号 p. 163-171
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/07/28
    [早期公開] 公開日: 2022/05/20
    ジャーナル フリー

    本研究は教員のメンタルヘルスリテラシー(MHL)と児童のサポート知覚、抑うつ、不安の関連を検討することを目的とした。14名の教員とその担任学級の児童425名を対象に質問紙調査を実施した。その結果、教員のMHLと児童のサポート知覚は相関関係にはないことが示された。また、階層線形モデリングの結果、児童の抑うつ症状の抑制には教員からのサポートを学級全体が知覚することと、児童個人が知覚することの両方が有効であるであることが示された。一方で児童の不安症状の抑制には児童個人がサポートを知覚することのみが有効であった。さらに教員が対処法に関するMHLが高いことが児童の不安が抑制されることが明らかになった。以上の結果を踏まえて、教員対象のMHL教育の在り方を議論した。

資料
  • 久保 尊洋, 瀬在 泉, 佐藤 洋輔, 生田目 光, 原井 宏明, 沢宮 容子
    2022 年 48 巻 2 号 p. 173-182
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/07/28
    [早期公開] 公開日: 2022/05/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、動機づけ面接の中核的スキルはスマートフォン使用についてのチェンジトークを引き出すかどうかを明らかにすることであった。実験参加者50名に対し、スマートフォン使用の問題を標的行動にし、OARSと呼ばれる動機づけ面接の中核的スキルを用いるOARS条件と、標的行動に関する思考、感情、そのほかの行動について共感的に聞く非OARS条件を設定し、1回の面接で交互に条件を変えて介入を行うABABデザインで実験を行った。実験参加者の発言の頻度に対するチェンジトークの頻度の百分率(以下、チェンジトーク(%)とする)を条件ごとに算出し比較した。結果、OARS条件のほうが有意にチェンジトーク(%)が高かった。同条件では、問題改善の重要度が高いとチェンジトーク(%)も高いことがわかった。動機づけ面接の中核的スキルは、スマートフォン使用についてのチェンジトークを引き出すスキルであることが示唆された。

  • 高山 智史, 佐藤 寛
    2022 年 48 巻 2 号 p. 183-191
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/07/28
    [早期公開] 公開日: 2022/05/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、小堀・丹野(2002)で確認された完全主義が抑うつに至るプロセスを、不安の影響を考慮して再検討することであった。大学生346名を対象として、完全主義、抑うつ、不安をそれぞれ測定した。その結果、小堀・丹野(2002)と一致する知見として、(1)完全性欲求は高目標設置と失敗恐怖を促進する、(2)高目標設置は抑うつを抑制する可能性がわずかながらある、といった点が示唆された。一方で新たな知見として、(3)失敗恐怖は抑うつと直接的な関係は示されず、不安を媒介して間接的に抑うつを促進する関係性のみを示す、(4)高目標設置は不安を抑制する、といった点が示唆された。これらの結果から、抑うつと不安の改善を目的とした心理学的支援に完全主義を応用する意義について議論した。

展望
  • 伊藤 久志, 菅野 晃子
    2022 年 48 巻 2 号 p. 193-203
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/07/28
    [早期公開] 公開日: 2022/05/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、行動論的アプローチに基づく自閉スペクトラム症と知的障害児者に対するトイレットトレーニングにおいて、What Works Clearinghouseが作成した「エビデンスの基準を満たすデザイン規準」に従った単一事例実験計画研究を抽出してメタ分析を行うことである。メタ分析に組み入れるために最終的に抽出された文献7本の統合された効果量は0.77[0.66—0.88]であった。標的行動に関して、3種類(排尿のみ/排便のみ/排泄関連行動を含む)に分類したところ、排尿のみを扱った文献は4本該当し効果量は0.88[0.75—1.00]であった。排尿訓練に関する実践研究が進展してきたことが明確となった。今後、エンコプレシスを伴わないケースの一般的な排便訓練をエビデンスの基準を満たすデザイン規準に従って進めていく必要がある。

実践研究
  • 小野 昌彦, 江角 周子
    2022 年 48 巻 2 号 p. 205-216
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/07/28
    [早期公開] 公開日: 2022/05/20
    ジャーナル フリー

    本研究では、13カ月継続して不登校であった中学2年生(男子)に対して登校行動の再形成と維持を目的に、アセスメントの指標としてストレス、学力、体力、社会性の客観的指標を追加した包括的支援アプローチを適用し、その効果を検討した。彼の不登校は、不登校発現前条件が学業理解困難、維持条件が母親と教員による彼のストレス対象を除去する対応、家庭滞在時における祖母の世話焼き、家庭教師配置、動画視聴と考えられた。そこで登校行動の再形成と維持のために質問スキル訓練、持久走、学習指導、相談室を活用した登校行動の再形成、休み方の指導を実施した。1.2カ月(8セッション)後、彼は段階的に再登校し、卒業まで18カ月間登校、高校進学後も2年間無欠席を続けた。学力・体力・社会性の客観評価追加は、正確な行動アセスメントによる技法選択、再登校開始および支援終結の実施を可能とした。今後の課題は、これらの基準の妥当性検討である。

  • 西村 勇人, 橋本 桂奈, 水野 舞, 佐藤 充咲
    2022 年 48 巻 2 号 p. 217-224
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/07/28
    [早期公開] 公開日: 2022/05/20
    ジャーナル フリー

    本研究では自閉スペクトラム症・注意欠如多動症のいずれか、もしくは両方の診断を受けた子どもの親グループに対する短縮版のペアレントトレーニングの有効性について検討した。プログラムは全5回で(1)ターゲット行動の選定と観察の方法、(2)適切な強化の仕方、(3)課題分析と環境の工夫、(4)トークンエコノミー、(5)消去とまとめ、で構成された。参加した22名の親の子育てストレスと抑うつ症状の変化を測定し、目標行動がどの程度達成されたか評定してもらった。分析の結果、子育てストレスは有意に低下したが、抑うつの低下については有意傾向であった。親の報告によるターゲット行動の達成度は74.29%であり、子どもの行動にも一定程度の変化が見られたと親は評価していた。これらの結果より、対象を特定の疾患に限定せず短期間で終了するという、親がより参加しやすいペアレントトレーニングの可能性が示された。

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