認知行動療法研究
Online ISSN : 2433-9040
Print ISSN : 2433-9075
48 巻, 1 号
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特集:認知行動療法研究の新時代を切り開く研究法―認知行動療法の新たな研究アプローチ―
展望
  • 国里 愛彦, 片平 健太郎, 沖村 宰, 山下 祐一
    2022 年 48 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/04/01
    [早期公開] 公開日: 2021/08/05
    ジャーナル フリー

    本論文では、計算論的アプローチについて紹介する。計算論的アプローチとは、刺激と反応との間にある脳の情報処理過程を明示的に数理モデルにする研究手法である。この計算論的アプローチを精神医学研究で用いると計算論的精神医学となる。認知行動療法のモデルでは、刺激と反応との間の過程を言語的にモデル化しているが、計算論的アプローチを用いることで、モデルの洗練化、シミュレーションを通した新たな現象・介入の予測なども可能になることが期待される。まず、本論文では、計算論的アプローチについて説明し、その代表的な4つの生成モデルについて解説する。さらに、計算論的アプローチを用いた認知行動療法研究として、うつ病と強迫症に対して強化学習モデルを用いた研究について紹介する。また、計算論的アプローチを研究で用いる際の推奨実践法について、4つのステップに分けて解説する。最後に、今後の計算論的アプローチの課題について議論する。

  • 杣取 恵太, 二瓶 正登, 北條 大樹
    2022 年 48 巻 1 号 p. 11-21
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/04/01
    [早期公開] 公開日: 2021/09/10
    ジャーナル フリー

    近年、認知行動療法における多くの研究でベイジアンアプローチが用いられるようになった。このことは臨床研究者や実践家において研究や介入の質を向上するためにそれらの方法を理解する必要があることを示している。そのため、本論文では初学者のベイジアンアプローチに対する理解を促進することを目的とした。はじめにベイジアンアプローチの導入と従来の方法との比較を行い、その後介入効果を調べるためにベイジアンアプローチを使用した実際の研究例の紹介と解説を行った。最後に認知行動療法の研究にとってベイジアンアプローチがどのような示唆をもたらすかを議論した。

  • 山本 哲也, 吉本 潤一郎
    2022 年 48 巻 1 号 p. 23-33
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/04/01
    [早期公開] 公開日: 2021/09/10
    ジャーナル フリー

    機械学習は、近年注目を集めている人工知能技術の一分野であり、問題に対して最適な解決策に到達するための方法やパラメータを自動的に決定する計算戦略である。このアプローチでは、多次元データセットに内在する規則性を発見することによって、個人の状態に焦点を当てた予測モデルを構築することができる。そのため、認知行動療法をはじめとした臨床実践において、アセスメントの効率化・精緻化や、最適な介入方法の選定に寄与する可能性がある。そこで本論文では、まず機械学習アプローチの枠組みや、統計学との違い、そしてその特長を概観する。加えて、これまでのメンタルヘルス領域において、機械学習アプローチが適用されている主な研究テーマを整理したうえで、臨床心理学および認知行動療法研究に寄与しうる活用例を紹介する。最後に、機械学習アプローチの限界に触れながら、今後の応用可能性について論じる。

  • 樫原 潤, 伊藤 正哉
    2022 年 48 巻 1 号 p. 35-45
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/04/01
    [早期公開] 公開日: 2021/08/03
    ジャーナル フリー

    心理ネットワークアプローチは、心理的な構成概念(例えば、各種の精神疾患)を「観測変数(例えば、個別症状)同士の複雑な相互作用(ネットワーク)」として理解し、それらのネットワークを実データから推定するものである。本稿では、「臨床革命」という造語を用いつつ、本アプローチが臨床実践の効率化と精緻化という多大なインパクトをもたらしうることを、以下のように順を追って議論する。第1に、本アプローチ特有の用語を紹介し、心理ネットワーク分析が横断的・縦断的どちらのデータにも適用できることを示す。第2に、症状ネットワークの研究知見を参照すれば、より効率的にケースフォーミュレーションを実施できると議論する。第3に、本アプローチを用いれば、心理療法や個別の介入技法の精緻な作用機序を解明できると議論する。最後に、本アプローチを活用する際の留意点と今後の課題について議論する。

原著
  • 南出 歩美, 富田 望, 亀谷 知麻記, 武井 友紀, 梅津 千佳, 熊野 宏昭
    2022 年 48 巻 1 号 p. 47-60
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル フリー

    社交不安症の維持要因として、自己関連刺激への注意バイアスが指摘されている。メタ認知療法によると、注意の向け方に関するメタ認知的信念が注意バイアスや社交不安症状に関与している。本研究では、社交不安症状と表情への注意バイアス、注意の向け方に関するメタ認知的信念の関連性を検討した。大学生55名を対象に、社交不安症状および肯定的/否定的なメタ認知的信念を測定する質問紙尺度と、注意バイアスを測定するドット・プローブ課題を実施した。その結果、社交不安高群において怒り顔および笑顔への注意バイアスが認められた。また、怒り顔への注意バイアスと社交不安症状の関連性は、否定的信念により完全媒介されることが示された。注意バイアスに焦点を当てた介入を行う際は、その過程で否定的信念に働きかける必要があると考えられた。

資料
  • 小関 俊祐, 伊藤 大輔, 杉山 智風, 小川 祐子, 木下 奈緒子, 小野 はるか, 栁井 優子, 鈴木 伸一
    2022 年 48 巻 1 号 p. 61-72
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、栁井他(2018)のコンピテンス評価尺度を用いて、臨床心理士養成大学院の大学院生の自己評価と教員による他者評価を行うことでCBTコンピテンスの実態把握と、2時点調査による教育に伴うコンピテンスの変化について基礎的な知見を得ることであった。臨床心理士養成大学院の臨床心理学コースに在籍中の修士課程2年の大学院生、および同大学院においてCBTに関連する講義・実習などを担当している大学専任教員を対象に、X年7月とX年10月の2回にわたって縦断調査を実施した。1回目の調査では教員29名と大学院生87名、また2回目の調査では教員27名と大学院生67名が分析対象となった。本研究の結果から、日本の大学院生におけるCBTコンピテンスの実態に関する基礎的データが得られた。そして、日本のCBTの質保証に向けた今後の取り組みとその課題について論じられた。

  • 河村 麻果, 入江 智也, 関口 真有, 坂野 雄二, 本谷 亮
    2022 年 48 巻 1 号 p. 73-88
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル フリー

    認知行動療法をより効果的に提供するためには、セラピストを対象とした同盟の質の向上を促す訓練が必要である。そこで本研究では、同盟の質の向上に重要だと考えられる訓練要素から構成される訓練プログラムを作成し、その効果検証と、よりよい訓練プログラムを作成するための情報を得ることを目的としたパイロットスタディを実施した。その結果、同盟の質の向上についての訓練効果はわずかであったが、同盟の質の改善のためのスキルを用いる自信を高めることができた。今後は、同盟の質を評価する方法を改善し、基礎的な治療関係スキルの訓練と困難事例を対象に治療関係スキルを用いるための2つのステップから訓練を構成する必要性があることが明らかとなった。

実践研究
  • 宮崎 哲治
    2022 年 48 巻 1 号 p. 89-101
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/04/01
    ジャーナル フリー

    統合失調症患者に併存する強迫症状の有病率は高い。そして、強迫症状を併存する統合失調症患者の場合、重い抑うつ症状、多くの自殺企図、重い社会機能不全、低いクオリティ・オブ・ライフ、長い入院期間を呈する。それゆえ、統合失調症患者に併存する強迫症状の治療は重要である。今回、30歳代前半の女性統合失調症患者に併存するolanzapine誘発性強迫症に対して曝露反応妨害法(ERP)を用いた行動療法を施行した症例を経験した。背景に損害回避がある強迫症状については行動療法により改善を認め、行動療法だけでは改善しないと思われた背景にしっくりこない感覚や不完全さがある強迫症状についてはolanzapineを漸減中止しつつ行動療法を施行することにより改善を認め、強迫症状は寛解に至った。この症例について若干の考察を加え報告する。統合失調症患者に併存する強迫症状に対してERPを施行する際の注意点についても記した。

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