本試験は高温環境下で飼育されるラットの体脂肪量に対する歩行運動の影響を検討するために行った。試験には3週齢19匹の雄ラットを用いた。個別ケージに収容して,30±2℃に調温された飼育室で飼育した。給与飼料は市販の維持繁殖用固形飼料を用いた。7日間の予備飼育を行い,その間に平均体重が等しくなるように各区にラットを振り分けた。試験区は補正区,自由行動の対照区,14m/分の歩行運動区の3試験区とした。歩行運動区のラットは予備試験中に短時間の歩行運動に慣らした。本試験期間中の歩行運動は毎日3時間モーター付きの回転槽で行い,対照区のラットも3時間は餌が摂取できないように回収した。試験開始時に補正区のラットはジエチルエーテルで屠殺し,他のラットも4週間後の試験終了時に同様の処理を行った。体躯全体の化学成分は肉類の分析に対する常法で分析し,その結果を相互の区間で比較した。増体量,飼料摂取量,飼料効率の結果に有意差は認められなかった。しかし,飼料に由来する蓄積化学成分において歩行運動区のラットでは粗脂肪およびカロリーが対照区において得られた値よりも有意に低くなった。本試験では30℃の環境温度下で実施した歩行運動が21℃の環境温度下で行った歩行運動と同様に粗脂肪の蓄積を抑制することが認められた。対照区のラットを試験区とまちがえたことにより,突然の運動を付加された対照区ラット(1匹)が事故死した。この事は運動未経験のラットにとって14m/分,3時間の歩行運動は過酷かもしれないことを示唆している。
抄録全体を表示