コロナ感染拡大の2020年に日本の自殺率が上昇し,特に女性の自殺率上昇が顕著となった.自殺率上昇の地域差および性差を把握するために,全国の1,735市区町村の自殺統計を参照し,2020年前後の自殺率の変化を推定する指標「自殺率上昇度」と産業構造に関するデータを連結して分析を行った.全国市区町村の自殺率上昇は内需型サービス業の就業率と有意な正の関係があり,コロナ禍の経済的ひっ迫が自殺リスクを高めている可能性が示唆された.宿泊・飲食業について精査した結果,女性の自殺率上昇度は男性よりもはるかに大きいことが明らかとなった.また,同じ県内であっても自殺率が上昇した市町としなかった市町が混在し,地域差が生じていた.女性であることは必ずしも自殺リスクを高めるわけではないものの,コロナ禍により打撃を受けた産業と関連のある女性のリスクが高まっており,女性は男性よりも不利な雇用条件下に置かれやすいことから,リスクがさらに高まる可能性が示唆された.
抄録全体を表示