カンキツ樹は,豊作と不作を交互に繰り返す隔年結果性の強い果樹である.この隔年結果は,前年の着果条件により翌春の花数が抑制されるために引き起こされる.本研究では,着果による花成抑制の分子機構を明らかにするために,ウンシュウミカンにおいて果実と花成制御遺伝子カンキツ
FLOWERING LOCUS T(
CiFT)の発現量との関連を解析した.着果量の異なる樹を用いた実験において,葉面積あたりの収量は花成時期である秋冬季における発育枝の
CiFT 発現量と負の関係にあり,高い相関を示した.また,その時の
CiFT 発現量は翌春の着花数と正の関係にあり,高い相関を示した.これらの結果は,着果が
CiFT の発現を抑制し,それが翌春の着花数を減少させることを示唆している.着果期間の長さに関する実験では,3 本の主枝を持つ樹が用いられた.1 樹におけるそれぞれの主枝から,異なる時期に花あるいは果実が収穫された.11 月の
CiFT 発現量はそれぞれの主枝で異なる値を示し,より長く着果させた主枝にある発育枝の茎組織で低くなる傾向にあった.このことから,長い着果期間が発育枝の
CiFT の発現を抑制することが示唆された.果梗枝では,9 月に発育枝よりも高いレベルの
CiFT の発現が検出された.高レベルの
CiFT は 1 月には発育枝よりも低いレベルにまで減少した.このように,果梗枝では花成との関連が不明な
CiFT の発現が花成前の時期に観察され,
CiFT 発現の季節変化は発育枝のものと異なる.
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