Journal of the Japanese Society for Horticultural Science
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81 巻, 1 号
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総説
  • 田村 文男
    2012 年 81 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/20
    ジャーナル オープンアクセス
    本論文は,近年進展したニホンナシ用の台木に関する研究成果をとりまとめた.Pyrus betulaefoliaP. calleryana の実生から,明らかな樹体の矮化を誘導する台木が選抜されており,その実用化が期待される.一方,様々な台木種のなかで P. betulaefolia は耐乾性,耐寒性ならびに耐塩性が高く,広い環境適応性を有している.その原因の一つとして,浸透調節能が高く,さらに低温順化中に生体膜の脂肪酸の不飽和度を高く保つ機能を有しているためである.一方,P. calleryana も耐乾性が比較的高いが,さらに耐水性は最も高い.この特性は,P. calleryana が嫌気状態でアルコール発酵を発達させ,しかも体外に生成したエタノールを排出する機能に依存していると思われた.これら 2 種は果肉の硬化障害を予防する効果が高い.P. betulaefolia はアジア産ナシ属の中では高い耐塩性を持っているが,地中海産原産の P. amygdaliformis および P. elaeagrifolia はさらに強く,この両種は地上部への塩類の移行を抑制する機構を持っていた.また,土壌のアルカリに対する耐性は高い根の Fe (III) 還元酵素活性を持つ P. xerophila がすぐれていた.
原著論文
  • 大江 孝明, 櫻井 直樹, 根来 圭一, 桑原 あき, 岡室 美絵子, 三谷 隆彦, 細平 正人
    2012 年 81 巻 1 号 p. 11-18
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/20
    ジャーナル オープンアクセス
    ウメ‘南高’果実の果実表面の紅色着色と品質成分および抗酸化能との関係を調査した.果実表面の 25%以上鮮明に紅色を帯びた果実は,紅色を帯びていない果実に比べて果皮を含む果肉のクエン酸含量,ポリフェノール含量,抗酸化能が高かった.収穫前の 3 週間程度果実への紫外光を遮断すると紅色がほとんど発現せず,ポリフェノール含量,抗酸化能は大幅に低下した.また,収穫 10 日前に UV-B を 12 時間樹冠内部の果実に照射すると紅色が発現し,抗酸化能が高まった.これらのことから,紅色着色したウメ‘南高’果実はポリフェノール含量が多く,抗酸化能が大きいことが明らかとなり,果実の紅色着色やポリフェノール量には紫外光が重要な働きをすることが明らかとなった.紫外光を含む光環境改善のため,果実周辺の枝葉を切除して 3 週間程度日光を当てると,紅色着色,ポリフェノール含量,抗酸化能が増加した.一方,樹冠外周部下に反射マルチを敷設して 40 日間反射光を当てても鮮明には着色しなかった.
  • 本勝 千歳, 山村 恵梨, 鶴田 今日子, 芳丸 由佳子, 安田 喜一, 内田 飛香, 國武 久登, 鉄村 琢哉
    2012 年 81 巻 1 号 p. 19-26
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/20
    ジャーナル オープンアクセス
    ヒュウガナツは自家不和合性で,かつ単為結果性を持たない.そのため,受粉樹が必要であることと,果実中に多数の種子が含まれることが,生産者にとって問題であった.このヒュウガナツの枝変わり品種である‘西内小夏’は自家受粉で結実し,また種子のほとんどがしいな化する性質を持つ.このメカニズムについての知見を得るために,本研究では花粉の観察,花粉稔性の調査,また花柱内における花粉管伸長の調査を行い,さらに‘西内小夏’自身および‘西内小夏’を交雑に用いて得られた後代の倍数性を,フローサイトメトリーによって分析した.その結果,まず‘西内小夏’花粉は十分な稔性を持っていることが明らかとなった.そして興味深い結果として,‘西内小夏’花粉には一般的なヒュウガナツの平均花粉径(33.4 μm)の約 1.3 倍の大きさである巨大花粉が一部生産されていることが確認された.次に花柱内の花粉管伸長を観察したところ,ヒュウガナツあるいは‘西内小夏’の雌ずいに‘西内小夏’花粉を受粉したとき,多くの花粉が柱頭と花柱の境界周辺で花粉管伸長が阻害されていた一方で,一部の花粉が花柱基部まで伸長していた.そしてフローサイトメトリーの結果,‘西内小夏’自体は二倍体であったが,‘西内小夏’を自家受粉してまれに得られた正常種子由来の実生は全て四倍体であった.これらの結果は,‘西内小夏’が非還元花粉を形成していることを強く示唆している.これまでに‘西内小夏’の自家和合化および種子のしいな化に加えて,‘西内小夏’の花粉をいくつかの単胚性カンキツに受粉すると,種子親に応じてしいなの形成程度が異なることが報告されている(Honsho ら,2009).これらの現象について,非還元花粉形成と倍数化が自家不和合性に及ぼす影響を考慮して,考察を行った.
  • 本勝 千歳, 稲田 真梨江, 湯地 健一, 戸敷 正浩, 黒木 重文, 神崎 真哉, 鉄村 琢哉
    2012 年 81 巻 1 号 p. 27-34
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/20
    ジャーナル オープンアクセス
    マンゴーはこれまで偶発実生からの優良系統の選抜によって品種が育成されてきたが,望ましい形質を持った個体同士の交雑による計画的な育種が今後行われる必要がある.しかしながら,マンゴーの花は 1 cm 以下で非常に小さく,また結実率も低いため,人工受粉による十分な数の交雑後代の獲得が困難であった.そこで,日本の独特なマンゴー栽培様式(閉鎖的な温室内での栽培,ミツバチ導入による自然交配)を利用して,‘アーウィン’と‘紅キーツ’の二品種を導入した温室内で,まずミツバチにより自然交配させた後,得られた実生を SSR マーカーによって花粉親を識別することによって,効率的に交雑後代が獲得できるのではないかと考え,その検証を行った.その結果,‘アーウィン’では 239 個体の実生が得られ,そのうち 185 個体で花粉親を判別することができ,他家受粉果は 106 個体,自家受粉果は 79 個体であった.‘紅キーツ’では 20 個体の実生が得られ,そのうち 14 個体で花粉親を判別することができ,他家受粉果は 12 個体,自家受粉果は 2 個体であった.‘アーウィン’実生で判別された花粉親の比について,温室内での両品種の花房数を期待比としてカイ二乗検定を行ったところ,積極的に他家受粉が起こっていることが示された.また‘アーウィン’について判別された花粉親に基づき,花粉親が果実形質に及ぼす影響について調査したところ,‘アーウィン’自家受粉果では Brix 値が有意に高くなったが,果皮色に関するいくつかの値で他家受粉果より低い値となった.
  • 山本 雅史, 高田 教臣, 山本 俊哉, 寺上 伸吾, 滋田 徳美, 久保 達也, 冨永 茂人
    2012 年 81 巻 1 号 p. 35-40
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/20
    ジャーナル オープンアクセス
    ニホンナシ‘埼玉 8’[Pyrus pyrifolia(Burm. F.)],マメナシ‘愛知マメナシ’(P. calleryana Decne.),ニホンナシとイワテヤマナシとの交雑種‘岩手 7 号’(P. pyrifolia × P. ussuriensis var. aromatica)およびトヨトミナシ(P. mikawana Koidz.)の自然交雑実生を用いて,染色体の蛍光染色を実施した.供試全系統の染色体数は 2n = 34 であった.クロモマイシン A3(CMA)染色を行うと,全系統で 4 本の染色体の端部に CMA+ バンドが確認できた.4'-6-ディアミディノ-2-フェニルインドール二塩酸塩 (DAPI)− バンドの位置は CMA+ バンドと一致した.続いて,蛍光 in situ ハイブリダイゼーション(FISH)を‘おさゴールド’(Pyrus pyrifolia)およびトヨトミナシ自然交雑実生を用いて行った.6 ケ所の 18S-5.8S-25S rDNA 遺伝子のうち,4 ケ所は CMA+/DAPI− バンドの位置と一致した.5S rDNA 遺伝子は,2 本の染色体の動原体近傍に確認できた.動原体近傍の 2 ケ所の 5SrDNA と端部の 6 ケ所の 18S-5.8S-25S rDNA 遺伝子は,各々別の染色体に存在した.
  • 松本 大生, 田尾 龍太郎
    2012 年 81 巻 1 号 p. 41-47
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/20
    ジャーナル オープンアクセス
    バラ科植物の多くは S-RNase 依存性自家不和合性(SI)機構を有している.バラ科サクラ属果樹における不和合性機構における雌ずい側および花粉側の反応特異性はそれぞれ S-RNase と SFB/SLF(F-box タンパク質)が担っているが,これら不和合性反応の特異性決定因子に加え,自家不和合性共通因子が自家不和合反応に必要であることが知られている.本研究ではバラ科サクラ属における共通因子の単離を目的として,カンカオウトウ(Prunus avium L.)S6-RNase の N 末部分配列および C 末配列をベイトとした花粉 cDNA ライブラリーの酵母ツーハイブリッド(Y2H)スクリーニングを行った.Y2H スクリーニングの結果アクチンホモログ(PavAct1)を含む 31 の候補遺伝子が得られた.T2/S-type の RNase の中には,RNASET2 や ACTIBIND 等のようにアクチンと結合することで細胞毒性を発揮すると考えられているものが存在するため,PavAct1 と S-RNase の相互作用を in vitro 実験により詳細に調査した.GST プルダウンアッセイにより,組換え GST-PavAct1 は非還元の S-RNase とは相互作用を示さないものの,還元処理をした S-RNase とは相互作用をすることが確認された.ウサギ骨格アクチンを用いた多量体アクチン(F-Act)共分離実験および 1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimide hydrochloride(EDC)クロスリンク実験により,還元処理した S-RNase は F-Act,単量体アクチン(G-Act)のいずれとも相互作用することが明らかとなった.本結果は,サクラ属の自家不和合反応において,花粉管細胞質の還元的環境に曝された S-RNase がアクチンと結合し正常なアクチン動態を乱し,花粉管伸長に影響を与える可能性を提示するものであった.
  • 西川 芙美恵, 岩崎 光徳, 深町 浩, 野中 圭介, 今井 篤, 瀧下 文孝, 矢野 拓, 遠藤 朋子
    2012 年 81 巻 1 号 p. 48-53
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/20
    ジャーナル オープンアクセス
    カンキツ樹は,豊作と不作を交互に繰り返す隔年結果性の強い果樹である.この隔年結果は,前年の着果条件により翌春の花数が抑制されるために引き起こされる.本研究では,着果による花成抑制の分子機構を明らかにするために,ウンシュウミカンにおいて果実と花成制御遺伝子カンキツ FLOWERING LOCUS TCiFT)の発現量との関連を解析した.着果量の異なる樹を用いた実験において,葉面積あたりの収量は花成時期である秋冬季における発育枝の CiFT 発現量と負の関係にあり,高い相関を示した.また,その時の CiFT 発現量は翌春の着花数と正の関係にあり,高い相関を示した.これらの結果は,着果が CiFT の発現を抑制し,それが翌春の着花数を減少させることを示唆している.着果期間の長さに関する実験では,3 本の主枝を持つ樹が用いられた.1 樹におけるそれぞれの主枝から,異なる時期に花あるいは果実が収穫された.11 月の CiFT 発現量はそれぞれの主枝で異なる値を示し,より長く着果させた主枝にある発育枝の茎組織で低くなる傾向にあった.このことから,長い着果期間が発育枝の CiFT の発現を抑制することが示唆された.果梗枝では,9 月に発育枝よりも高いレベルの CiFT の発現が検出された.高レベルの CiFT は 1 月には発育枝よりも低いレベルにまで減少した.このように,果梗枝では花成との関連が不明な CiFT の発現が花成前の時期に観察され,CiFT 発現の季節変化は発育枝のものと異なる.
  • 地子 立, 前田 智雄, 荒木 肇
    2012 年 81 巻 1 号 p. 54-59
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/20
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では二つの異なる軟白方法(培土法とフィルム被覆法)で生産されたホワイトアスパラガス(Asparagus officinalis L.)若茎の特性の違いを明らかにするために 2 年生株を用いた伏せ込み促成栽培において外観品質と硬さを比較した.軟白方法は若茎先端の茎色としまり程度に明らかな影響を与え,先端から 2 cm の部位の茎色は培土法よりもフィルム被覆法で黄色味が強かった.また,若茎先端の形状はフィルム被覆法よりも培土法で密にしまる傾向が認められた.これらの結果より,若茎先端の茎色としまり程度の両形質は二つの軟白方法により生産された若茎を判別する明確で可視的な特徴になることが示唆された.培土法により生産された若茎はフィルム被覆法によるものよりも上部(先端から 4 cm の部位)と中央部(先端から 10.5 cm の部位)の茎径が太く,若茎重が重かった.さらに,10 分間茹でた場合の若茎上部と中央部の硬度はフィルム被覆法のものよりも有意に硬かった.したがって,軟白方法は食味と料理品質へ密接に関連する若茎の硬さにも影響を与えると考えられた.
  • 松本 淳, 後藤 秀幸, 加納 恭卓, 菊池 章, 上田 秀昭, 中坪 雄太
    2012 年 81 巻 1 号 p. 60-66
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/20
    ジャーナル オープンアクセス
    メロン果実における細胞の大きさ,酸性インベルターゼ活性,スクロースリン酸合成酵素活性とスクロース集積との関連性を明らかにする目的で,植物成長抑制剤の一種である succinic acid-2,2-dimethyl-hydrazide(SADH)の果実への処理を試みた.果実発育および細胞肥大は,果実発育初期に SADH を処理すると抑制されたが,中期では抑制されなかった.発育初期に SADH を処理すると,発育後期まで細胞は小さく,酸性インベルターゼ活性は高く,スクロースリン酸合成酵素活性は低く,スクロース含量は低くなった.これらのことから,果実発育初期に SADH を処理すると,果実発育後期まで,果肉細胞が小さく未熟の状態が続くため,スクロースリン酸合成酵素活性が低いままとなるので,スクロースの合成が促進されず,その結果スクロース含量が低くなるものと考えられる.
  • 増田 順一郎, 尾崎 行生, 大久保 敬
    2012 年 81 巻 1 号 p. 67-71
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/20
    ジャーナル オープンアクセス
    ジベレリンおよびアブシジン酸が食用ハスの根茎肥大に及ぼす影響について調査した.根茎が肥大する短日条件下で外生のジベレリン酸(1 mg・L−1 GA3)を処理すると,根茎が肥大することなく伸長した.根茎が肥大せず伸長する長日条件下で,ジベレリン生合成阻害剤(0.1 mg・L−1ウニコナゾールあるいは 0.1,1 および 10 mg・L−1 パクロブトラゾール)やアブシジン酸(10 および 25 mg・L−1 ABA)を処理すると,根茎が肥大した.さらに,根茎の肥大は,根茎の細胞肥大や細胞内のデンプン粒の蓄積と関連性が認められた.すべての実験において,肥大した根茎は細胞の肥大とデンプン粒の蓄積が観察されたが,伸長した根茎では細胞の肥大とデンプン粒の蓄積は観察されなかった.以上の結果から,食用ハスの根茎の肥大・伸長は,ジベレリンおよびアブシジン酸の生合成系を介して調節されていることが示唆された.
  • 田﨑 啓介, 中務 明, 小林 伸雄
    2012 年 81 巻 1 号 p. 72-79
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/20
    ジャーナル オープンアクセス
    モチツツジの野生型と采咲き品種,‘花車’,‘銀の麾’および‘青海波’の葉と花器の形態を比較した.いずれの采咲き品種も 5 つの独立した花弁から構成される離弁花冠を形成しており,野生型の合弁花冠とは対照的であった.‘銀の麾’のがく片を除く全ての采咲き品種の花弁,がく片,葉の幅は野生型と比較して有意に細い傾向を示し,特に‘青海波’の全ての側出器官は極度に狭細化していた.野生型,‘花車’および‘銀の麾’の雌ずいは正常な形態を示したが,‘青海波’の雌ずいは正常あるいは奇形が観察された.側出器官の狭細化に関係する表皮細胞の大きさの違いは野生種と采咲き品種の間に見られなかった.これらの結果は,少なくとも‘青海波’における采咲きの形質は側出器官の横軸方向の発達における共通の変異であることを示唆している.全ての采咲き品種は稔性を示した.江戸時代から存在するツツジ園芸品種に見られるこの采咲きの形質は,ツツジ育種に大きな形態変化を導入する育種素材として期待される.
  • 坂園 聡美, 比良松 道一, 黄 光亮, 黄 杰豊, 大久保 敬
    2012 年 81 巻 1 号 p. 80-90
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/20
    ジャーナル オープンアクセス
    テッポウユリは琉球列島の島々や台湾本島東部の海岸および離島に自生している.本種は重要な観賞植物のひとつであり,世界中で栽培されている.テッポウユリは長年にわたり自家不和合性種であるとされていたが,アイソザイム分析により,いくつかの自生集団では自殖が行われている可能性が示唆された.そこで自家和合性テッポウユリ個体の存在について確認し,さらに集団の自家和合性レベルと花器形質の進化との系統発生的関係を明らかにするため,自生地全土を網羅するよう選抜したテッポウユリ 17 集団およびテッポウユリに最も近縁なタカサゴユリ 2 集団を対象に本実験を行った.人工自家交配により,自生集団中には自家和合性テッポウユリ個体が存在すること,またテッポウユリ個体間や集団間で自家不和合性レベルに関してかなりの量的変異がみられることが明らかとなった.また,自家和合性優占集団は分布域端部に位置する琉球列島北部および台湾に異所的に独立して進化していた.テッポウユリにおいて観察された集団の自家和合性レベルの上昇は,琉球列島地域に関しては花筒長,花冠径,花サイズおよび葯長サイズの減少と相関がみられたが,台湾地域に関しては花冠径および花サイズとしか相関がみられなかった.なお,葯–柱頭間の接近はいずれの集団でも確認されなかった.本研究結果より,琉球列島における自家和合性レベルの上昇は,繁殖様式の変化(葯–柱頭間の接近に依存しない自殖化)に関わる花器形質の進化を引き起こし,一方,台湾においては引き起こさなかったことが示唆された.
  • 立澤 文見, 斎藤 規夫, 土岐 健次郎, 篠田 浩一, 本多 利雄
    2012 年 81 巻 1 号 p. 91-100
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/20
    ジャーナル オープンアクセス
    花壇用ストックであるビンテージシリーズの 8 品種の花色とアントシアニンの関係を調査し,13 種類のアントシアニンを化学およびスペクトル分析により同定した.これらのうち,‘ビンテージラベンダー’と‘ビンテージバーガンディー’の一重と八重の花から得られたシアニジン 3-カフェオイル-サンブビオシド-5-マロニル-グルコシド(色素 1)が新規アントシアニンであった.シアニジン 3-p-クマロイル-サンブビオシド-5-マロニル-グルコシド(色素 2)とシアニジン 3-フェルロイル-サンブビオシド-5-マロニル-グルコシド(色素 3)の 2 つのアントシアニンはストックのアントシアニンとしては初めて同定された.ストックの花色(特に色調:b*/a*)は 8 つのグループに分けられ,アントシアニンに結合するケイ皮酸の数とアントシアニジンの B 環の水酸基の数の両方の影響によるところが大きいと考えられた.青紫色の花色(グループ A,b*/a* = −0.66 と −0.69,V 84A)はシアニジン 3-ジ-ケイ皮酸-サンブビオシド-5-マロニル-グルコシドが主要アントシアニンとして,紫色(グループ B,b*/a* = −0.43 と −0.45,P 75A)と赤紫色(グループ D,b*/a* = −0.16 と−0.14,RP 74A)の花色はペラルゴニジン 3-ジ-ケイ皮酸-サンブビオシド-5-マロニル-グルコシドが主要アントシアニンとして,赤紫色(グループ C,b*/a* = −0.24 と −0.21,RP 72A)の花色はシアニジン 3-モノ-ケイ皮酸-サンブビオシド-5-マロニル-グルコシドが主要アントシアニンとして,赤色(グループ E,b*/a* = 0.06 と 0.05,RP 66A)の花色はペラルゴニジン 3-モノ-ケイ皮酸-サンブビオシド-5-マロニル-グルコシドが主要アントシアニンとして,銅色(グループ F,b*/a* = 0.23 と 0.16,R 54A)と桃色(グループ G,b*/a* = 2.37 と 2.09,R 38C)の花色はペラルゴニジン 3-グルコシドが主要アントシアニンとして,そして,黄色(グループ H)の花色では少量のペラルゴニジン 3-グルコシドが含まれていることが明らかになった.これらの結果をもとに,ストックにおける,ケイ皮酸でアシル化したアントシアニンによる花色とその青色化について考察した.
  • 川勝 恭子, 牛尾 亜由子, 福田 直子
    2012 年 81 巻 1 号 p. 101-108
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/20
    ジャーナル オープンアクセス
    ブラスチング現象はトルコギキョウ生産上の大きな問題点であり,その回避技術の開発が求められている.ブラスチングは低日照と窒素過剰によって引き起こされるが,その発生メカニズムはわかっていない.そこで我々は,ブラスチング誘導条件および非誘導条件における花器官発生を詳細に観察した.その結果,ブラスチング誘導条件では雄蕊および雌蕊形成時期特異的に花蕾の発達が停止し,正常な胚珠が観察されなかった.また分裂組織の肥大化も観察された.これらの結果から,ブラスチング現象とは生殖器官の分化および発達の決定的な抑制であることが明らかとなった.300 ppm のベンジルアデニンと 200 ppm のジベレリン-3 を花蕾に与えることで,コントロールに比べて 5 倍の開花率を達成した.また同化産物分配が競合関係となる次節小花ユニットの切除も開花率を向上させ,その効果はホルモン添加とは独立であった.これらの結果からブラスチングは,雄蕊および雌蕊形成時期特異的な花器官形成の停止であり,ホルモン生合成と同化産物量低下が関連する因子によって引き起こされていることが示唆された.
  • 圖師 一文, 松添 直隆
    2012 年 81 巻 1 号 p. 109-116
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/20
    ジャーナル オープンアクセス
    トマトに含まれる抗酸化成分である L-アスコルビン酸(ASA,ビタミン C)とグルタチオン(GSH)は果実成熟に関する様々な生理反応に関与することが知られている.一般に,ASA と GSH は抗酸化システム(活性酸素消去システム)によって制御されている.トマトは,さまざまな組織(例えば,果皮,表皮,胎座部,房室組織,種子)で構成される複雑な果実であるが,トマト果実の成熟期間中の抗酸化成分と抗酸化システムの果実部位による差異は明らかにされていない.そこで,本研究の目的はトマト果実を果皮(表皮を含み)と果肉(胎座部,房室組織,種子を含む)に分け,果実成熟中の酸化ストレス指標,抗酸化成分,および抗酸化酵素活性の果実部位による差異を明らかにすることである.酸化ストレスの指標である脂質過酸化と過酸化水素含量は,果実成熟中一定であったが,それらの値は果皮より果肉の方が低かった.ASA と GSH 含量は,完熟段階においては両組織間で顕著な差異はなかった.しかしながら,果実成熟に伴うスーパーオキシドディスムターゼ,カタラーゼおよび ASA–GSH サイクルに関する酵素(アスコルビン酸ペルオキシダーゼ,デヒドロアスコルビン酸レダクターゼ)活性の変化は,果実部位によって異なった.これらの結果は,抗酸化成分(ASA,GSH)含量は完熟段階で収穫した場合は果実部位による差はないが,酸化ストレス指標と抗酸化システムは果実部位によって変化が異なることを示している.さらに,果肉は果皮と比べて酸化ストレスに対する防御機構がより有効に作用することが明らかになった.本研究から,トマト果実成熟中の抗酸化システムの役割を理解する上での基礎的知見を得られた.
  • 山内 直樹, イアムラオ スカンヤ, 江口 國安, 執行 正義, 右田 たい子
    2012 年 81 巻 1 号 p. 117-122
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/20
    ジャーナル オープンアクセス
    貯蔵中の緑色香酸カンキツ,長門ユズキチ(Citrus nagato-yuzukichi hort. ex Y. Tanaka)におけるクロロフィル(Chl)分解でのナリンギンラジカルの関与を明らかにするため,ペルオキシダーゼによるフラボノイドからのフリーラジカル生成を電子スピン共鳴装置で測定し,さらに,貯蔵中のフラボノイド含量とペルオキシダーゼ活性の変化を検討した.ペルオキシダーゼ(フラベド抽出物)―過酸化水素系は,長門ユズキチ果皮に含まれるナリンギンの存在下で Chl a を分解したが,ヘスペリジン存在下では分解がみられなかった.しかしながら,ペルオキシダーゼは長門ユズキチフラベドに含まれる主要フラボノイドであるナリンギン,ヘスペリジン両方に作用し,ラジカルを生成することが分かった.ラジカル生成試薬であるフェリシアン化カリウムにより生成されたナリンギンラジカルによる Chl a の分解をみたところ,ペルオキシダーゼによる分解と同様に 132-ヒドロキシクロロフィル (OHChl) a の生成を経て分解がみられたが,ヘスペリジンラジカルでは OHChl a の生成が認められなかった.さらに,スパーオキシドディスムターゼの添加は,フェリシアン化カリウムより生成されたナリンギンラジカルによる Chl a 分解を阻害しなかった.長門ユズキチ果実のペルオキシダーゼ活性は 20℃ 貯蔵に伴い急増し,Chl 含量の減少と一致して貯蔵 6 日で活性のピークがみられ,その後減少した.ナリンギン並びにヘスペリジン含量,特に前者は 20℃ 貯蔵に伴い低下がみられ,その後わずかに増加した.以上の結果から,ペルオキシダーゼによるナリンギンラジカルの生成は,長門ユズキチ果実の貯蔵中における Chl 分解に関与しているものと推察された.
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