Journal of the Japanese Society for Horticultural Science
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82 巻, 4 号
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総説
  • 西川 芙美恵
    2013 年 82 巻 4 号 p. 283-292
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/16
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    カンキツ産業において,幼若性と隔年結果はそれぞれ育種期間の長期化と毎年の果実生産の不安定化をもたらす.幼若性は幼木において花成が抑制されるために起こり,隔年結果は主に着果による花成抑制に起因する.このように,両特性は花成様式と密接に関連している.これまで,多くの研究者がこれらの問題を解決するためにカンキツの花成に関して研究を行ってきた.近年では,シロイヌナズナの花成関連遺伝子に関する研究をもとに,カンキツの花成に対して分子生物学的・遺伝学的なアプローチがされている.シロイヌナズナでは,花成関連遺伝子の一つである FLOWERING LOCUS TFT)をコードしているタンパク質が花成促進に重要な役割を果たすことが明らかにされている.同様に,FT のカンキツオーソログ(CiFT)もカンキツの花成促進に機能することが確認されている.この機能を利用して,組換え植物を用いた実験では,CiFT 共発現ベクターが幼若期間の短縮に利用されている.また,内生の CiFT の発現は様々な条件下で花成に密接に関連しており,このことは内生の CiFT が花成を制御していることを示唆している.蓄積されたデータから,CiFT の発現制御はカンキツの花成機構を理解するのに不可欠であると考えられ,CiFT の研究は花成に関連する問題の解決に寄与すると期待される.
原著論文
  • 末貞 佑子, 山田 昌彦, 山根 崇嘉, 安達 栄介, 八重垣 英明, 山口 正己
    2013 年 82 巻 4 号 p. 293-300
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/16
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    Xanthomonas arboricola pv. pruni を病原菌とするモモせん孔細菌病は,葉,枝,果実に病斑を生じるモモの重要病害であり,多雨や強風によって多発する.発生すると薬剤散布などで症状を抑えることが難しいため,抵抗性品種の育成が課題となっているが,日本ではせん孔細菌病抵抗性の育種は進められていない.そこで,抵抗性育種に利用できる素材を探索するために,菌液の新梢への複針付傷接種に適した条件を検討し,モモ 69 品種・系統のせん孔細菌病に対する抵抗性の強さを複針付傷接種法によって評価した.接種の条件について検討した結果,接種の時期は 6 月で菌液の濃度は 108 cfu·mL−1 が適していると考えられた.調査した 69 品種・系統の中にせん孔細菌病に対して免疫性を示す品種は見られなかったが,抵抗性の程度には品種間で差異があり,‘Chimarrita’,‘錦’,‘もちづき’,‘つきかがみ’は比較的抵抗性が強く,抵抗性育種の素材として利用できる可能性が示された.
  • 奈島 賢児, 高橋 宏和, 中園 幹生, 清水 徳朗, 西谷 千佳子, 山本 俊哉, 板井 章浩, 五十鈴川 寛司, 花田 俊男, 高品 善 ...
    2013 年 82 巻 4 号 p. 301-311
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/16
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    果樹の枝変わりは一個体内で発生した突然変異であり,その変異を除いては変異枝と通常枝でゲノム背景が全く同じである.このため,枝変わりは作物の重要形質を司る遺伝子同定する上での理想的な材料である.我々はセイヨウナシ‘La France’に発生した枝変わりであり,通常枝と比較し巨大な果実を着ける Giant La France(GLaF)に着目した.GLaF においては,果肉特異的な細胞サイズの増大とゲノム DNA 量の倍加が観察される.本研究では GLaF と‘La France’間で発現量の異なる遺伝子を見出すために,開花 1 週間前のそれぞれの花床から抽出した RNA についてマイクロアレイ解析を行った.花床はレーザーマイクロダイセクション法により単離した.解析の結果,核局在タンパク質および細胞骨格関連タンパク質をコードする遺伝子の発現量が GLaF で高い傾向が見られた.またこれらの遺伝子の中には過去にゲノム DNA 量の倍加に関与することが報告されている遺伝子が存在した.これらの遺伝子は GLaF におけるゲノム DNA 量の倍加と果実サイズ増大に関連していると考えられた.
  • 前田 隆昭, 米本 仁巳, 樋口 浩和, 奥田 均, Md. Amzad Hossain, 服部 一成
    2013 年 82 巻 4 号 p. 312-316
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/16
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    ‘フユザンショウ’と‘カラスザンショウ’の 2 つの異なる実生台に接ぎ木した‘ブドウサンショウ’の成長および収量を定植後 8 年間比較検討した.樹高は,‘カラスザンショウ’台が‘フユザンショウ’台と比較して高く推移した.両台木とも定植 6~7 年後で樹高の増加はみられなくなった.樹冠容積も‘カラスザンショウ’台で,定植 2 年後から大きく推移した.‘カラスザンショウ’台の 1 樹当たり収量および樹冠容積当たり収量は,定植 7 年後から‘フユザンショウ’台より多くなった.成木期の‘カラスザンショウ’台は,樹冠容積の増加とともに 1 樹当たり収量も多くなった.したがって,‘カラスザンショウ’はサンショウ栽培において有効な台木であると考えられた.
  • 淨閑 正史, 石井 正幸, 丸尾 達, 娜 瑠, 塚越 覚, 北条 雅章, 中南 暁生, 篠原 温
    2013 年 82 巻 4 号 p. 317-321
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/16
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    トマト低段密植栽培では,高密植による相互遮蔽のために果房付近の光環境が著しく悪い.果実への光照射は果実の成熟期間や果実品質に影響するため,果房直上の葉を誘引して果房の受光量を高める玉出し整葉について検討した.その結果,果房付近の積算受光量は,玉出し整葉により第 1 および 2 果房で有意に増加し,第 2 果房における果実表面の温度も上昇した.光環境が改善された果房の収穫開始期も早くなり,果実中のアスコルビン酸濃度も増加したが,果実収量および糖度は有意に増加しなかった.以上の結果から,低段密植栽培における玉出し整葉は,光透過量が少ない株元側にある果房の積算受光量を高め,果実の成熟や果実中のアスコルビン酸濃度を高めることが明らかとなった.
  • 河崎 靖, 松尾 哲, 鈴木 克己, 金山 喜則, 金濱 耕基
    2013 年 82 巻 4 号 p. 322-327
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/16
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    トマト施設生産において高温障害を緩和する低コストな冷却技術が求められている.本研究では根域冷却の生理学的・形態学的知見を得ることを目的に,養液栽培されたトマトの培養液を最適温度と考えられるおよそ 25°Cに冷却して 2 週間栽培し,生育,養分吸収,根の活性としての出液速度および根呼吸速度,根の IAA 濃度および根の内部形態について調査した.高気温条件下で根域を最適な温度に冷却することで,根の RGR が増加し,その後地上部の RGR も増加した.根の IAA 含量は根の RGR と高い正の相関が認められた.根域冷却により出液速度,根呼吸速度が増加し,同様に Ca および Mg 吸収が促進された.また,根先端付近の木部発達も認められた.以上のことから,高温期の根域冷却は,根の活性および IAA 濃度を増加させることで,根の生育および木部発達を介した養分吸収を促進し,遅れて地上部の生育を促進することが示唆された.
  • 仁木 智哉, 間 竜太郎, 仁木 朋子, 西島 隆明
    2013 年 82 巻 4 号 p. 328-336
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/16
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    サイトカイニンによるトレニアの装飾的な花形の発生と花芽内の器官特異的なサイトカイニン濃度の上昇の関係を明らかにするために,アラビドプシスのサイトカイニン生合成酵素である isopentenyltransferase をコードする AtIPT4 を,アラビドプシスの AP1 および AP3 のプロモーターの制御下でトレニアに導入した.AP1::AtIPT4 を導入した組換え体では,花弁数の増加が見られたのに対し,AP3::AtIPT4 を導入した組換え体では,花弁数の増加に加えて花冠が拡大し,花弁の周縁部に鋸歯が発生した.さらに,これらの変化に加えて,副花冠が発生する個体が得られた.AP3::AtIPT4 を導入した組換え体の花芽では,副花冠の原基が形成される花弁伸長初期に花托の顕著な拡大が見られた.導入遺伝子は,AP1::AtIPT4 を導入した組換え体では,がく片および花弁で,AP3::AtIPT4 を導入した組換え体では,花弁および雄ずいで主に発現していた.両組換え体について,サイトカイニンシグナル強度の指標となる TfRR1 および TfCKX5 の発現を解析したところ,AP1::AtIPT4 を導入した系統では,がく片および花弁で,AP3::AtIPT4 を導入した系統では,花弁および雄ずいで発現が上昇していた.以上の結果から,花弁および雄ずいにおけるサイトカイニンシグナルを上昇させることで花托が拡大し,花冠の拡大,副花冠および鋸歯が誘導されることが示された.一方,がく片および花弁におけるサイトカイニンシグナルの上昇は,花弁数の増加のみを誘導したことから,花冠の拡大,副花冠および鋸歯の誘導には,雄ずいにおけるサイトカイニンシグナルの上昇が必要であると考えられた.
  • 佐藤 茂, 宮井 麻結, 杉山 想, 豊原 憲子
    2013 年 82 巻 4 号 p. 337-343
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/16
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    パラチノース(イソマルツロース)は,近年まで,植物体中では代謝されないスクロースのアナログとみなされてきた.筆者らは,カーネーション花弁から得た粗酵素抽出液に,パラチノース分解活性が存在することをみいだした.カーネーション‘リリアン’由来の粗酵素抽出液を用いて検討した結果,分解活性は,α-1,6-グルコシド結合をもつパラチノースとイソマルトースを分解する α-グルコシダーゼ活性によることがわかった.パラチノースは,カーネーション‘リリアン’と‘ピュアレッド’,‘ライトピンクバーバラ’の開花を促進したが,ヒゲナデシコ‘新緋車’の開花を抑制した.カーネーション花弁由来のパラチノース分解活性は,ヒゲナデシコの活性よりも数倍高かった.これらの結果から,カーネーションではパラチノースはグルコースとフルクトースを供給することにより開花を促進し,他方ヒゲナデシコでは分解されずに蓄積したパラチノースが α-グルコシダーゼ活性などの一般代謝活性を阻害することにより開花を抑制することが推察された.
  • 大久保 直美, 辻 俊明
    2013 年 82 巻 4 号 p. 344-353
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/16
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    チューリップの花の香りの質は,カンキツ様の香り,ハチミツ様の香り,青臭い香りなど,バラエティに富んでいる.そこで,チューリップの香りの質の多様性を化学的に明らかにするために,香りに特徴のある 51 品種のチューリップの香りを採取し,GC-MS を用いて解析した.チューリップの主要香気成分は,5 つのモノテルペノイド(ユーカリプトール,リナロール,d-リモネン,トランス-β-オシメン,α-ピネン),4 つのセスキテルペン(カリオフィレン,α-ファルネセン,ゲラニルアセトン,β-イオノン),6 つの芳香族化合物(アセトフェノン,ベンズアルデヒド,ベンジルアルコール,3,5-ジメトキシトルエン,サリチル酸メチル,2-フェニルエタノール),5 つの脂肪酸誘導体(デカナール,2-ヘキサナール,シス-3-ヘキサノール,シス-3-酢酸ヘキセニル,オクタナール)であった.主要香気成分の割合と生花の官能評価から,チューリップの香りは,アニス,シトラス,フルーティ,グリーン,ハーバル,ハーバル・ハニー,ロージィ,スパイシー,ウッディの 9 種類に分類された.
  • 文室 政彦, 櫻井 直樹, 宇都宮 直樹
    2013 年 82 巻 4 号 p. 354-361
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/16
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    本研究は,非破壊の共振法で測定された弾性指標の使用によるピタヤの収穫適期判定における精度向上の可能性を検討した.無加温温室で砂耕ベッドに植栽された 7 年生ピタヤを使用し,7 月受粉果と 9 月受粉果をそれぞれ開花後 20~36 日,20~40 日に 4 日おきに採取した.第 2 共鳴周波数,弾性指標および果肉硬度は,いずれも成熟にともない減少したが,7 月受粉果は 9 月受粉果より減少速度が速かった.両受粉果とも最終収穫期には,それぞれ 330 Hz 前後,60 × 105 前後および約 7 N·cm−2 であった.果皮色の a 値は,7 月受粉果では開花後 24 から 32 日に,9 月受粉果では 28 日から 36 日に急激に増加し,その後はほぼ一定の値であった.全糖含量は,7 月受粉果では開花後 28 日まで急速に増加し,その後漸増したが,9 月受粉果では 7 月受粉果より遅れて増加した.有機酸含量は,7 月受粉果では開花後 28 日まで,9 月受粉果では開花後 36 日まで急速に減少し,その後は徐々に減少した.適期収穫した 9 月受粉果では,第 2 共鳴周波数は果実が大きいほど有意に減少したが,弾性指標は果実の大きさに影響されなかった.両受粉果とも,第 2 共鳴周波数および弾性指標と果肉硬度との間にいずれも高い相関関係がみられた.果肉歩合,果皮色,糖,有機酸,果肉硬度および裂果発生から判断して,7 月受粉果および 9 月受粉果の収穫適期は,開花後 36 日および 40 日であり,収穫適期の弾性指標は,それぞれ 62 × 105 および 73 × 105 であると評価された.本研究から,着果したピタヤ果実の弾性指標を測定することにより,より正確な収穫適期の判定が可能であると考えられる.
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