日本東洋医学系物理療法学会誌
Online ISSN : 2434-5644
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39 巻, 2 号
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第39回学術大会 特別講演
  • ― ロコモティブシンドロームについて ―
    立花 陽明
    2014 年 39 巻 2 号 p. 1-6
    発行日: 2014年
    公開日: 2020/07/07
    ジャーナル オープンアクセス
     総人口に占める65 歳以上の割合が21%以上になると超高齢社会と呼ばれるが、まさに現在の日本 がこれにあたる。厚労省の調査によれば、平成22 年度の平均寿命は男性79 歳、女性86 歳であるが、 健康に問題のない状態で日常生活を送ることができる健康寿命はそれぞれ70 歳と73 歳で、男性は9 年、 女性では13 年もの開きがある。自立度の低下や寝たきり、すなわち要支援・要介護状態になれば健 康寿命は損なわれるが、要支援・要介護になる原因の第1位は骨・関節・筋・神経など運動器の障害 である。
     そこで、平成19 年に日本整形外科学会では、運動器の障害のために移動能力の低下をきたし要介 護になったり、要介護になる危険の高い状態をロコモティブシンドロームとして新しい概念を提唱し た。ロコモティブシンドロームをきたす原因には、加齢によるバランス能力や筋力の低下、骨折、骨 粗鬆症、変形性関節症、変形性脊椎症、脊柱管狭窄症などがある。そして、ロコモティブシンドロー ムを判定する方法としてロコモーションチェックがあり、衰えた運動器を鍛えるロコモーショント レーニングが開発された。
シンポジウム 「ロコモ症候群に対する鍼灸マッサージの治療戦略」
  • 菊池 友和, 山口 智
    2014 年 39 巻 2 号 p. 7-13
    発行日: 2014年
    公開日: 2020/07/07
    ジャーナル オープンアクセス
     ロコモティブシンドロームは「運動器の障害」により「要介護になる」リスクの高い状態になるこ とと定義されている。ロコモの原因として、「運動器自体の疾患」と「加齢による運動器機能不全」 に大別される。腰痛では、骨粗鬆症に伴う円背、脊柱管狭窄症などによる痛みや歩行障害、身体機能 の衰えによる「閉じこもり」運動不足による「筋力低下」や「バランス能力の低下」などが原因で、 容易に転倒しやすくなることが問題となる。主に鍼灸手技療法では、これらに起因する疼痛を改善し、 寝たきり予防、また、痛みによる閉じこもりを改善することが期待できる。
     現在、慢性腰痛に対する鍼灸手技療法の臨床研究の現状は、鍼治療ではシャム鍼と比較し、正しい 方法論で行った場合、短期的な効果はある。しかし、他の保存療法より有効という結果もないが、未 治療と比較し鍼治療は有効とされている。また灸の研究は極めて少ないが、温熱療法では、急性腰痛 において 4日後の比較では、薬物療法などに追加することにより、腰痛の機能・痛みの程度が改善する。 さらに亜急性期では、温熱療法単独または運動療法単独と比較し、温熱療法+運動療法が有意な改善 を示していることから、灸治療も同様またはそれ以上の効果が期待出来る可能性がある。一方、手技 療法については、古典的なマッサージに加えて軟部組織のマニュピレーションなどさまざまな種類が あるが、短期成績では低出力レーザーや通常の理学療法と比較し疼痛や機能で有効であるという系統 的レビューがある。さらに、偽鍼、運動療法、姿勢教育、自己管理教育、全般的理学療法と比較し有 効であるという結果もあるが限定的である。一方ではTENSとの比較では有効性が劣るという報告も あり、結論が出ていない。
     本シンポジウムでは、当科における鍼治療の実際と一連の研究成果に加え、文献的な考察を行い、 鍼灸手技療法がロコモ症候群に果たす役割について私見を述べる。
  • 水出 靖, 坂井 友実, 安野 富美子
    2014 年 39 巻 2 号 p. 15-22
    発行日: 2014年
    公開日: 2020/07/07
    ジャーナル オープンアクセス
     ロコモ症候群(ロコモティブシンドローム)は、日本整形外科学会が2007年に提唱した「運動器 の障害によって自立度が低下し、要介護の状態や要介護の危険のある状態」である。骨粗鬆症はその 主要な原因疾患の1つであり、骨密度の減少や骨質の劣化によって骨強度が低下するため脆弱性骨折 を起こしやすい。最も頻度が高いのは脊椎の椎体骨折であり、腰背部痛、円背や後彎などの姿勢異常、 身長の低下を呈する。骨折を有する患者の腰背部痛や運動機能の低下は、転倒等による新たな骨折を 引き起こす負の連鎖をきたし、次第にADLは制限されQOLが低下する。骨粗鬆症の治療目的は骨折 の予防にあるが、鍼灸マッサージは、腰背部等の疼痛を軽減して運動機能を改善することでADLや QOLの向上を図るとともに、骨折の連鎖を防ぐことを目的に行う。治療に際しては、患者の腰背部痛 の状態だけでなく、運動機能や転倒・骨折リスク等を包括的に捉えるべきである。現時点では骨粗鬆 症に対する鍼灸マッサージのエビデンスはほとんどない。今後、臨床および基礎研究によって構築す る必要がある。
  • 譲矢 正二
    2014 年 39 巻 2 号 p. 23-26
    発行日: 2014年
    公開日: 2020/07/07
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】変形性膝関節症の治療法には観血的治療法と保存的治療法があり、罹患患者の多くは保存的 治療法を受けている。しかし、治療技術の進歩は十分ではなく、なかには物理療法による対症治療を 延々と続けている例も少なくない。そこで従来の考え方から「多関節運動連鎖的アプローチ」と言う 力学的視点でとらえなおす方法も取り入れた保存的治療について検討する。
    【方法】治療法としては、疼痛軽減と症状進行防止であり、膝関節の無痛性、可動性、支持性の機能 を重視し罹患関節の機能改善を図る。一方、多関節運動連鎖の考え方から隣接関節を重視し、上・下 の股関節や足関節の機能改善、更には反対側下肢から体幹へとアプローチを進めた。
    【結果】膝関節症に対して、罹患関節の機能改善のみならず多関節的運動連鎖的なアプローチを行う ことで姿勢や動作など全身的なアライメントの改善にも良い結果が得られた。今後、骨・関節疾患の 保存的治療として積極的に活用したいと考えている。
原 著
  • ― 推計患者数との比較 ―
    藤井 亮輔
    2014 年 39 巻 2 号 p. 27-35
    発行日: 2014年
    公開日: 2020/07/07
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】 あん摩マッサージ指圧(以下、マッサージと略す)、はり及びきゅう(以下、鍼灸と略す) を一日に利用する国民の数を推計し、当該市場の基礎資料の整備に資する。
    【方法】 層化副次(二段)無作為抽出法により抽出した全国157市町村の成人2,000人を対象に、調 査日前日のマッサージ及び鍼灸の受療状況、受療場所等を個別面接聴取法により調査した。調査員の 各戸訪問日は2011年11月3日から11月20日までとした。各施術の推計受療者数は、調査日前日に 受けた受療者数の回答者総数に占める構成割合を調査日直近の成人推計人口(1億501.8万人)に挿 入して算出した。
    【結果】 1,365人(68.3%)から回答を得た。回答者のうち調査月の一日に何らかの治療を目的にマッ サージまたは鍼灸を受けた国民の数(推計受療者数)は、医療機関461,300人、施術所(マッサージ・ 鍼灸治療院と接骨院を併せた施設)692,100人(うち、治療院461,400人)の計1,153,400人と推計された。 一方、自己負担額を四分位数で見ると、最小値110円、第1四分位数585円、中央値1,750円、第3 四分位数4,000円、最高値12,200円であった
    【考察】 標本の男女比が調査日直近の国勢調査値の男女比と1.7㌽差で近似していたことなどから、 回収された標本には一定の質が担保されていたと考えられた。その上で、本研究で試算した推計受療 者の妥当性を検証するため、国民生活基礎調査の通院者数(19,109,000人)に占めるマッサージ等施 術の利用者数(3,338,000人)の割合(17.5%)を、全国のすべての医療機関の外来を2011年10月の 一日に利用した推計患者数(成人)6,350,600人に挿入したところ111.4万人が算出され、推計受療者 115.3万人に近似していた。一方、上記の推計患者数635万人とこの115.3万人との比率は5.5 vs.1で、 地域医療の中でマッサージ・鍼灸施術が一定数の国民に広く利用されている実態が明らかになった。
    【結論】 2011年11月に治療目的でマッサージ・鍼灸を受療した国民は約115万人と推計された。推 計患者数(成人)との比率は5.5 vs.1であったことから、マッサージ等の施術が一定数の国民に広く 利用されている実態が明らかとなった。
  • 患者および施術の実態と要介護度の認定状況の変化に関する調査
    近藤 宏, 小川 眞悟, 朝日山 一男, 尾野 彰, 西村 博志
    2014 年 39 巻 2 号 p. 37-45
    発行日: 2014年
    公開日: 2020/07/07
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】 本研究は療養費を用いた在宅医療マッサージの実態を明らかにすることを目的に受療者や施 術の状況について調査した。
    【方法】 在宅医療マッサージを行っている施術所に調査を依頼し、本調査の趣旨に同意が得られた施 術所に対して調査を行った。調査デザインは、単一または複数回答による選択式で、後ろ向き調査と した。調査対象者は、要介護認定を有し、療養費を用いた在宅医療マッサージの受療患者とした。調 査データは施術カルテから抽出した。調査項目は、属性、施術に関する項目、要介護度に関する項目 とした。
    【結果】 有効回答数は1,415人(有効回答率89.2%)であった。平均年齢は、79.1±11.5歳であった。 患者の症状は、関節拘縮 (60.6%)が最も多かった。傷病名は、脳血管疾患 (35.6%)が最も多かった。 患者の現在の要介護度は、要介護2(19.6%)が最も多く、次いで、要介護5(19.0%)であった。更新前 より要介護度が重度化した者は18.6%、改善した者は8.2%、維持した者は74.4%であった。マッサー ジとの併用内容は、関節可動域訓練(73.2%)が最も多く、次いでストレッチ(64.6%)と続いた。
    【考察・結語】 在宅医療マッサージは脳血管疾患の後遺症等を有する歩行困難な患者に対して最も多 く利用されていた。82.6%の患者が更新前と比較して要介護度が改善あるいは維持していた。関節拘 縮や筋麻痺等に対してマッサージのみならず関節可動域訓練やストレッチ等を併用し、患者の症状改 善や身体機能の維持向上に対して効果が期待できるものと考える。
  • ― 複合手技による検討 ―
    根本 由紀子, 半田 朋子, 水谷 亨, 行廣 雄太, 和田 恒彦, 宮本 俊和
    2014 年 39 巻 2 号 p. 47-52
    発行日: 2014年
    公開日: 2020/07/07
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】健康成人が自覚するむくみにオイルマッサージが及ぼす効果を明らかにする目的で、下腿の 体積・周径・皮膚温、自覚VAS、短縮版POMS(以下POMS)を用いて検証した。
    【方法】原因疾患や自律神経の異常がなく、下肢にむくみを自覚する者10名(男女各5名、28.6±8.7歳) を対象に、同一被験者にクロスオーバー法で介入回(マッサージ)と対照回(安静)の計2回の実験 を行った。実験手順は①恒温恒湿室で座位にてPOMS、②仰臥位にて5分安静後、測定1、③左下肢 へ介入(介入回)または安静(対照回)15分、④測定2、POMSの順に行った。体積は容器に水を張 り、左下肢を入れてこぼれた水の重量、周径は下腿最小部(足関節)および最大部の2点、皮膚温はサー ミスタLC-1により湧泉穴・母指先端・周径の測定部位の脛骨外縁2カ所・腓骨頭の高さの計5カ所、 むくみおよび冷えの自覚はVAS、気分状態は実験前後の気分の変化の6項目からなるPOMSを測定し た。統計は対応のあるt検定、またはウィルコクソンの順位和検定を用いて2群の比較を行った(有 意水準5%未満)。
    【結果および考察】周径は介入後有意に細くなった。介入側の皮膚温は有意に上昇した。むくみ、冷 えのVASは有意に低下した。体積は有意差がなかった。POMSは、介入後有意に活気(V)が上昇し、 総合的気分障害度(TMD)が低下した。以上の結果から、下肢へのオイルマッサージは介入側の下腿 の周径を細くし、皮膚温を上昇させるだけでなく、自覚的なむくみ・冷えVASを低下させ、リラック スした気分状態をもたらし、他覚的・自覚的指標ともにむくみを改善する効果があることが示唆され た。
  • ― 下腿三頭筋の筋腱移行部と筋腹部の比較 ―
    三浦 和樹, 児玉 知江子, 吉松 恵史, 濱田 淳, 和田 恒彦, 宮本 俊和, 徳竹 忠司
    2014 年 39 巻 2 号 p. 53-58
    発行日: 2014年
    公開日: 2020/07/07
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】現状、あん摩マッサージ指圧が骨格筋へ作用することに対する研究は少なく、その中でも施 術部位による効果の違いについて言及している研究は見当たらない。私たちは、筋の中でもより腱部 に近い筋腱移行部を刺激することは、同筋の他の部位を刺激した場合よりも、筋の伸張性が向上する という仮説を立てた。この仮説をもとに、本研究では、下腿三頭筋の筋腱移行部への圧迫刺激が、同 筋の筋腹部への圧迫刺激と比較して、筋の伸張性が向上するかどうかを明らかにする。
    【対象と方法】研究対象は健康成人男女とした。研究デザインはランダム化比較研究デザインとした。 実験は研究対象者32名を乱数表で介入群と無刺激群の2群に割りつけ、介入群の対象者の左右の下 腿三頭筋にそれぞれ筋腹部、筋腱移行部への手根圧迫を行った。評価は、介入前後の足関節の自動・ 他動背屈最大可動域角度、及び、足関節の他動背屈最大可動域角度での伸長痛のVASについて行った。 統計処理は、自動ROMについては一元配置分散分析法を用い、他動ROMと伸張痛のVASについては、 クラスカル・ワーリス検定を用いた。
    【結果】筋腹部と筋腱移行部への刺激において、関節可動域の変化、及び下腿三頭筋の伸張痛のVAS は、 統計上の有意な差が認められなかった。しかし、他動ROMと伸張痛のVASについては、筋腱移行部 群の方が筋腹部群に比して変化量は大きいという結果を得た。
    【考察・結論】今回の結果にはスタティック・ストレッチングにおける筋弛緩の作用機転とされてい るⅠb抑制が関与しているのではないかと考える。対象者や介入部位、測定項目の変更を行い、再検 討することで、より正確に変化を捉えることができると考える。また、本研究は統計学的な有意差を 求めるだけのものでは無く、臨床的にも筋の伸張性の低下を原因とする足関節の関節可動域制限の治 療という点において有用であると考える。
報 告
  • 池藤 仁美, 坂口 俊二
    2014 年 39 巻 2 号 p. 59-63
    発行日: 2014年
    公開日: 2020/07/07
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】多系統萎縮症とはオリーブ・橋・小脳の萎縮による進行性の疾患で、筋肉が硬直し、運動障害、 協調運動の喪失等をもたらす障害である。今回、本症に対して鍼治療が奏効した症例を報告する。
    【症例】68 歳、女性。主訴:歩行障害。書字障害。呂律が回らない。現病歴:X-1 年4 月より、卵焼 きを作る際、かき混ぜられない、ひっくり返せないなどの症状が出現した。歩行障害も出現したため、 X-1 年9 月に某大学病院を受診し、多系統萎縮症と診断された。MRI・MRA で小脳の血流不全が認め られた。X-1 年3 月、X 年4 月に階段から転倒。X 年5 月にX 線でC1-C2 間の狭小化を指摘された。 X 年6 月に本学附属診療所の神経内科を受診した。患者本人の希望もあり、鍼灸治療を紹介された。〔主 観的所見〕歩行は、右下肢の動作不全と足が違う方向に跳ねるなどの異常運動が現れるため、独歩が 難しく介助が必要である。書字は、楷書なら可能だが、手に力が入る。跳ねるなどの異常運動は無い。 発話は爆発声があり、呂律が回らない。〔客観的所見〕右片足立ち不可。右下腿前面部の筋緊張があり、 右足関節部に固縮がみられる。右手関節部には固縮はみられないが、指伸筋の緊張がやや強い。
    【鍼治療】初回から5 回、脳戸を中心とした八卦鍼(頭皮鍼)、ならびに筋緊張のみられた前脛骨筋に 1 Hz で15 分間の低周波鍼通電を行った。効果は、施術後翌日までは改善するが2 日目には戻ってし まうため、6 診以降は低周波をテクトロンEMS2H(テクノリンク社製)での広帯域多重複合波鍼通 電に変更し継続治療を行った。
    【結果】治療は週1 回の間隔で行い、8 診以降は効果が1 週間程度持続するようになった。13 診以降 は独歩が可能となり、爆発声は28 診以降に減少した。
    【結語】多系統萎縮症の歩行障害や構音障害に対し、標準治療と併用した、頭皮鍼療法ならびに筋緊 張部の広帯域多重複合波鍼通電療法は有効である可能性が示唆された。
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