日本東洋医学系物理療法学会誌
Online ISSN : 2434-5644
Print ISSN : 2187-5316
最新号
日本東洋医学系物理療法学会誌
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
総説
  • 大野 修嗣
    原稿種別: 総説
    2023 年 48 巻 2 号 p. 1-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル オープンアクセス
     膠原病に対する漢方薬による治療は近年多くの報告がなされるようになった。膠原病では副腎皮質ステロイド薬による治療が一般的であり、本剤投与による漢方医学的病態の変化も把握されてきている。臨床的有用性の例として、全身性エリテマトーデス(SLE)やその他の膠原病に対して種々の漢方薬を応用することにより寛解が得られた症例報告や柴苓湯がSLE の活動期を短縮させ、ステロイドの投与量を節約させ、さらに肝関連酵素の上昇などステロイドの副反応を回避させる効果が示されている。シェーグレン症候群(SjS)の乾燥症状に対して漢方薬が唾液分泌を増加させ、免疫学的異常が改善した報告も存在する。強皮症の皮膚硬化、レイノー現象にも有効例が観察された。また基礎医学的な検討では、柴苓湯がT細胞のリンパ球亜群に影響を与え、より正常な方向への誘導が示唆された。
会長講演
  • 山口 智
    2023 年 48 巻 2 号 p. 7-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル オープンアクセス
     当科外来を受診する患者の実態は、約 2/3 が他の診療科からの診療依頼があった患者である。脳 神経内科や耳鼻科、整形外科、リウマチ・膠原病科、リハビリテーション科などからの診療依頼 が多く、難治性の疼痛や麻痺、一連の不定愁訴の患者が多い。こうした患者群に対する鍼灸治療は概ね期待すべき効果が得られ、患者の QOL の向上にも関与することから、医科大学病院において有用性の高い治療法であることが示唆された。
     本邦の診療ガイドラインに鍼灸治療が記載されている疾患は、片頭痛や緊張型頭痛の一次性頭痛、また脳卒中や線維筋痛症、がん、筋萎縮性側索硬化症の疼痛などである。
     当科で専門診療科と共同で実施した基礎・臨床研究の成果から、鍼灸や手技療法は生体の正常化作用に寄与することが明らかとなり、こうした生体反応が伝統医療の特質と考えている。
     本学会は、鍼通電療法やあん摩・マッサージ・指圧を基本とした手技療法、さらに、あはき教育(視覚障がい教育)の発展に精進し、鍼灸や手技療法を現代医療の中に明確に位置付けることを目的 とする。
教育講演
  • 久保 亜抄子
    2023 年 48 巻 2 号 p. 11-16
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル オープンアクセス
     肩こり、筋筋膜性の腰痛、緊張型頭痛などの筋筋膜性疼痛の自覚をもつ国民は非常に多い。これらの筋筋膜性の痛みの原因は、その名のとおり筋や筋膜などの軟部組織であるとされており、 姿勢を維持する筋周囲に好発することから、筋緊張の持続による血流障害が一因であると考えられている。この痛みは、筋収縮という機械刺激に伴う痛みであるため、機械痛覚過敏として定義される。本稿では、最初に、筋と筋膜の痛みの違いについて、それらの痛みを表現する言葉の違いに着目した基礎研究論文を紹介する。この報告によると、痛みを表現するために用いる表現語が筋と筋膜では異なることがあきらかとなっている。神経障害性疼痛を判断する手段の1つとして、問診で痛みの質を聴取することはよく行われるが、筋筋膜性疼痛において、その原因が筋か筋膜かさらに絞り込むためには、ベッドサイドの問診が重要であることが示されたといえる。次に、筋膜の役割について、特に侵害受容器としての機能について検討された基礎研究結果をいくつ 紹介する。近年、胸腰筋膜や下腿筋膜を対象にした詳細な研究により、筋膜には生理的に機能している細径求心性線維が存在しており、筋膜の痛みを受容して中枢に伝えていることが示された。 また、実験的に胸腰筋膜炎を引き起こすと、胸腰筋膜支配の神経線維の数が増え、筋膜以外の組 織(下腿筋など)を同時に支配する神経線維の割合が増加したことから、筋膜の炎症は炎症部位のみならず、離れた部位の痛みとして現れる可能性も示された。最後に、筋筋膜性疼痛における ブラジキニンと神経成長因子の役割について紹介し、これらの生体内物質の慢性腰痛への関与の可能性について触れる。本稿をご一読いただき、臨床で遭遇することの多い、筋筋膜性疼痛の基 礎的な理解が一層深まることを期待する。
特別講演
  • - これからの私たちに必要な考え -
    伊藤 和憲, 大町 成人
    2023 年 48 巻 2 号 p. 17-22
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル オープンアクセス
     鍼灸治療は昔から痛みに対して効果的な治療法であると考えられている。実際、腰痛や膝痛、 頭痛のような末梢性の痛みに関しては、大規模な臨床試験が行われており、その有用性が証明さ れている。他方、同じ痛みでも、線維筋痛症や CRPS のような痛みでは、痛みを感じる部位が、 たとえ筋肉や関節であったとしても、その原因は脊髄や脳が関与する中枢性の痛みとして捉えら れており、末梢性の痛みに比べて、中枢性の痛みは難治性で、慢性化しやすく治療に難渋するこ とも多い。しかしながら、慢性疼痛に対する鍼灸治療のエビデンスは現在多数存在し、2021 年に 発刊された「慢性疼痛ガイドライン」の中でも、鍼灸治療は「施術することを弱く推奨する」と ある程度の評価を得ているため、痛みの機序を理解した上で治療を行えれば、とても有効な治療 である。
     そこで、今回は痛みの鍼灸治療の中でも各種の痛みについて最新の知見を加えたうえで、解説 したい。
  • - 解剖・生理・生化学を総動員して東洋医学の神秘に挑む -
    須田 万勢
    2023 年 48 巻 2 号 p. 23-29
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル オープンアクセス
     鍼灸による除痛のメカニズムは、中枢神経系における下行抑制系の賦活化によるという説明が 主流である。しかし、著者らは発痛源の局所においても、鍼灸の除痛作用が働いている可能性が あると考えている。ファシアという近年注目を集めている構造物により、「経穴」の病理学、「刺鍼」 刺激の生化学、「経絡」の解剖学的な説明が一元的に可能となる。本稿では、ファシアを用いた鍼灸の除痛メカニズムについての作業仮説が、東洋医学と西洋医学をつなげる架け橋になる可能性を述べる。
シンポジウム「筋・筋膜性疼痛に対する治療法」
  • 皆川 陽一
    2023 年 48 巻 2 号 p. 31-35
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル オープンアクセス
     肩こりや腰痛など筋・筋膜性の痛みは、学生、運動選手、労働者から高齢者など幅広い層に認 められる症状である。また、筋・筋膜性の痛みは、生命に直接危険を及ぼすほどではないものの、 通常の血液検査や画像診断では異常を認められにくいことから、原因不明の痛みとして放置され、 結果的に学習、運動、生産性におけるパフォーマンスの低下、日常生活の活動制限や生活の質 (Quality of life) を低下させる要因となっているかもしれない。
     鍼灸手技療法の臨床では、筋・筋膜性疼痛症状と思われる患者に遭遇する機会は多い。そのた め、現在、筋・筋膜性の痛みに対しては、様々な治療法が試みられている。私たちは、これまで筋、 筋膜やその周囲軟部組織が原因となって痛みなどの症状を引き起こす筋・筋膜疼痛症候群の診断、 原因、治療部位であるトリガーポイントに鍼を行うことで、頚部痛、顎関節症、肩痛、肩こり、腰痛、 変形性膝関節症の痛みが改善することを報告してきた。
     そこで、本シンポジウムでは、まずトリガーポイントとは、どのようなものか、圧痛点や経穴 との違い、活動性トリガーポイントと潜在性トリガーポイントの違いなどを中心にその特徴を説 明する。次に、どのような手順でトリガーポイントを検出するのか、これまでの私たちが行った 臨床研究を基とした検出方法を紹介する。そして、トリガーポイントへどのようなアプローチを行うのか、トリガーポイント鍼療法は、そもそも刺激が強いイメージがあるが、鍼通電療法を行っても問題ないか、現在、私たちが考えているトリガーポイントへの鍼のアプローチ方法について 紹介する。
     以上、本シンポジウムを通して、どのように筋・筋膜性疼痛に対して鍼通電療法を用いるとよいか皆様と一緒に考えていきたい。
  • - 誘発法と鎮痛法 -
    徳竹 忠司
    2023 年 48 巻 2 号 p. 37-45
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル オープンアクセス
     手技療法である「あん摩マッサージ指圧」の施術において、圧迫法あるいは揉捏法のように、 筋肉そのものにしっかりとした外力を加えることができる手技を受けている際に、「ひびく感覚」 として、実際の圧迫部位・揉捏部位から離れた部位に何らかの感覚が発生する体験をしている方 は確実に存在している。そして、その「ひびく感覚」が施術を受ける者にとって「心地よい」感 覚であったり、痛みの解消に有効であったりする現象であることは確かである。筋・筋膜性疼痛 とトリガーポイントについては、鍼治療の臨床応用に関連した書籍が多くあるが、手技療法にも トリガーポイントの概念は充分に活用ができるものである。
     患者の訴えから、責任病態を想像して施術を行う際には、患者の自覚的な愁訴部位と責任部位 の関係性を明らかにしなければならない。考え方の概観としては、1「痛みを訴える部位に問題 点がある」、2「痛みを訴える部位とは別の部位に問題点がある」、3「1と2の混合」となる。 患者の訴える症状部位局所に誘発因子があるか否かを、まず局所解剖の知識を基に、骨格筋を個別に触察して平面で硬結をはじく flat palpation、筋肉をしっかりとつかむ snapping palpation を実行 しながら掘り下げ、局所に問題が無ければ、神経学的診察を行う。結果として、局所・関連する 神経の両者に陽性所見がなければ、トリガーポイントの知識を動員して関連痛の誘発部位を特定する。
     関連痛に関する知識は、Janet Travell と David Simons が著した「トリガーポイント・マニュアル 筋膜痛と機能障害」を基に多くの解説本が出版されているので学習は容易である。本稿ではトリガーポイントの概念、具体的な探索法・誘発法と徒手による施術法について紹介を試みる。
  • 佐々木 理博
    2023 年 48 巻 2 号 p. 47-55
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル オープンアクセス
     治療やリコンディショニングを行う中で、鍼やマッサージ、徒手療法、そして運動療法など様々 な有用なアプローチ方法があるが、ストレッチもその一つである。ストレッチの効果とし、筋腱 複合体における粘性変化(直接的)と反射による変化(間接的)、さらに器質的変化だけでなく痛 みに対する許容度の変化(慣れ)が挙げられ、それぞれ急性効果と慢性効果が見られる。そして、ストレッチの種類として、一般的に静的、動的、バリスティック、徒手抵抗、フォームローリン グが挙げられる。このようにストレッチの効果や手法は様々あるため、スポーツ現場、医療機関 において、各々の怪我、痛みの種類や時期に応じて、どれが適切か選択する必要がある。
     これまで、投球障害のリコンディショニングやトレーニングに携わっていたため、それらのス トレッチを中心に論じる。投球障害の可動域や柔軟性の特徴として、肩甲上腕関節外旋可動域の 増大、内旋・外転・水平屈曲可動域の低下、小胸筋タイトネス、胸椎回旋・伸展可動域の低下、 そして股関節内旋可動域の低下が主に挙げられる。その制限因子は様々であるため、骨性か、筋・ 筋膜か、関節包などによるものか、または炎症やスパズムなどによるものか正確に評価をしたうえで、適切な方法を選択する必要がある。
     そこで、今回は、それらのストレッチ方法の一例を紹介する。
原著
  • 福島 正也, 大和田 里奈
    2023 年 48 巻 2 号 p. 57-65
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】関節可動域(以下、ROM)測定アプリ「CAST-R」の信頼性を検討すること。
    【方法】実験 1 として、検者 1 名が被検者 7 名の 5 部位の ROM 測定を行った。実験 2 として、検者 17 名(晴眼者群 8 名、視覚障がい者群 9 名)が、被検者 1 名の肩の外転と外旋の ROM 測定を行った。ROM 測定は、1ゴニオメータでの測定(以下、ゴニオ測定とする)、2 CAST-R をインストー ルした iPhone の上面または側面をゴニオメータのアームと同じように移動軸に合わせる測定法(以 下、移動軸測定)、3 CAST-R をインストールした iPhone の背面全体を移動軸上の体表面に密着させる測定法(以下、体表面測定)を 3 セット実施した。各測定法間の ROM 測定値の比較を Turkey 法、 検者内・検者外信頼性の検討を級内相関係数を用いて行った。ROM 測定値の逸脱例については、 行動観察法による要因分析を実施した。
    【結果】実験 1 の結果、いずれの測定部位および測定法においても、測定法間の差はみられず、高 い検者内信頼性を示した。実験 2 の結果、肩の外旋のゴニオ測定で有意に大きいROM測定値、肩の外転で低い検者内・検者間信頼性を示した。行動観察では、主に肩の外旋のゴニオ測定において不適切な測定操作が多く認められた。
    【考察】実験 1 から、CAST-R の移動軸測定、体表面測定での高い測定精度と検者内信頼性が示された。 実験 2から、測定法間の差は、肩の外旋での不適切なゴニオ測定が要因であること、外転でみら れた低い級内相関係数は測定値の極端に小さい分散が影響している可能性が示された。以上のこ とから、CAST-R による移動軸測定および体表面測定は、検者の視覚障がいの有無に関わらず、ゴ ニオ測定と同等の信頼性を有する測定法であると考える。一方、CAST-R の不適切な操作による逸脱例が散見されており、従来の角度計とは異なった測定デバイスである CAST-R の適切な使用法 や指導法の検討が必要と考える。
    【結語】CAST-R は、検者の視覚障がいの有無に関わらず、ゴニオ測定と同等の信頼性を有する測 定法であることが示された。
  • 工藤 滋, 岡 愛子, 小又 淳, 前田 智洋
    2023 年 48 巻 2 号 p. 67-73
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】インクルーシブ教育の進展に伴い、視覚障害者の職業としての理療に関する情報を得ないまま、就労に向けた進路選択を行う視覚障害者が出て来る可能性がある。適切な進路決定を促す ためには、選択肢の 1 つとして理療に関する情報を提供する必要がある。そこで情報の効果的な提供方法を検討する目的で、視覚特別支援学校高等部普通科生徒を対象に、理療に関する意識調査を実施した。
    【方法】対象は、理療科または保健理療科を設置する全国の特別支援学校 58 校に在籍する、重複学級を除く高等部普通科生徒 363 名であった。手続きは、郵送による無記名自記式質問紙法とした。 調査項目は、基本属性 6 項目、理療についての情報の入手に関する内容 9 項目、合計 15 項目であった。
    【結果】理療科・保健理療科への進学を希望する者は 35.4% で主な理由は理療への興味・関心、希望しない者は 64.6% で、主な理由は理療以外の就労及び大学進学であった。理療の仕事内容を知った方法の中で最も役に立ったのは、理療科教員の話、次いで在学生の話であった。また、今理療科・ 保健理療科の情報を得るために活用したい方法については、在学生の話、理療科教員の話の順に多かった。理療の仕事内容を「今も知らない」と回答した者の9割弱は理療を職業の選択肢とし て意識したことがなく、5 割が理療に関する情報は関心がないので必要ないと回答していた。
    【考察】理療科・保健理療科への進学を希望していない者には、職業としての理療に関する十分な 情報提供がなされていない可能性が考えられた。そこで理療を自分の職業の選択肢の 1 つとして 考えられるよう情報提供を行う必要があり、具体的には、高等部入学後に、希望しない者も含めた生徒全員に対して、理療科教員による説明を中心とした内容で行うのが効果的であると考えら れた。
  • 松井 敬宏, 糸井 信人, 佐藤 義晃, 谷口 美保子, 石井 祐三, 中西 智子, 中嶋 拓美, 松本 美由季, 長谷川 尚哉
    2023 年 48 巻 2 号 p. 75-85
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】本研究では、台座灸の熱刺激が皮下へ伝わる状態をシミュレーションで推定する足掛かり として、簡易生体内熱移動方程式を用いたシミュレーションの有効性を検討した。
    【方法】熱源となる刺激装置として、2 種類の台座灸(試料 A・試料 B)を選定した。選定された試料は、 製品のばらつきを調べるために工業的基礎調査法、開放空間熱分布測定法および熱伝導調査法を、 生体内での熱伝導性を調べるために、熱解析シミュレート法を実施した。
    熱解析シミュレート法ではロースハムを 15 枚重ね合わせたものを簡易生体モデルとし、深度 21.6 mmまで 1.8mm間隔で熱電対温度計にて測定した。得られたデータより、生体内熱移動方程式をもと に近似した解析モデルの式を Microsoft Excel にてシミュレートした。シミュレートした推定値と 実測された数値はピアソンの相関係数・寄与率を求めてその関係性を調査した。
    【結果】試料 A、B ともに構造の規格にて変動係数は小さかった(変動係数≦ 0.04)。また、試料 の特性として、サーモグラフィーでは同心円状にて熱が拡散し、熱電対温度計測では艾上部、裏 面艾燃焼温度が他に比べ高い傾向にあった。簡易生体モデルでの実測では、試料 A は最表面最高 温度が 26.71°C、試料 B は 27.41°Cとなった。このとき、2 つの試料で、最表面では温度上昇が急 激でありピークの幅が狭く、深度が増すことで温度上昇が緩やかになりピークの幅が広くなった。 本研究で用いたシミュレーションでは、深度 12.6mmまで実測された数値と推定値との間に統計学 的に高い相関性があることを示し、種類の異なる熱源でも一致した傾向を示した。
    【考察・結語】本法が簡便かつ安価にて、簡易生体での熱の伝導性を簡便的に評価しうることを明 らかにした。
  • 櫻庭 陽
    2023 年 48 巻 2 号 p. 87-93
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】男子高校ハンドボール選手の身体の不調、ケアの経験と今後の希望を把握するとともに、M-Test による貼付型接触鍼の効果を検討した。
    【方法】対象は、男子高校ハンドボール選手とした。アンケートで身体の不調およびケアの利用経験と今後の希望を聴取した。さらに、M-Test を用いて貼付型接触鍼で治療した。治療の効果は、 M-Test の最不調動作を対象に、治療前後に 100mmを最悪とした Visual analog scale (VAS) によって 評価した。
    【結果】対象者は、24 名(16.4 ± 0.5 歳)であった。身体の不調は、腰部が最多であった(13 名、 54.2%)。鍼治療の利用経験と今後の希望者は、各々 10 名(41.7%)と 17 名(70.8%)であった。 鍼治療は、平均 2.4 ± 0.9 穴を用い、VAS 値は治療前 48.3 ± 24.0 から治療後 23.7 ± 22.7 に改善し た(p <.05)。有害事象は発生しなかった。【考察】他の報告では不調部位は足・下腿が多いとされているが、本研究では利き側と非利き側に分けて聴取したことが影響したと考えた。さらに、腰部の不調は対象者の年齢や競技レベルを背景として、競技における体幹の強さや使い方に関係していると推察した。今後、鍼治療の希望者が多く、貼付型接触鍼の効果や安全性が確認されたことから、毫鍼も含めて競技や様々な状況に適した鍼治療を選択して、最適な治療を提供することで、さらに多くの選手に貢献できると考えた。
  • - 無負荷時の機械的特性と品質安定性について -
    佐藤 義晃, 小濱 和之, 糸井 信人, 松井 敬宏, 谷口 美保子, 石井 祐三, 松本 美由季, 長谷川 尚哉
    2023 年 48 巻 2 号 p. 95-101
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】単回使用毫鍼の品質に関する先行研究は鍼尖・鍼体で不良が見られた昭和 50 年代に実施され、現在は少ない。製造技術や品質管理は進歩し、改善が推測される。本研究は単回使用毫鍼の機械的特性の現状を明らかにすることを目的に実施した。
    【方法】試料はステンレス製5種(A ~ F)と銀製1種(G)の50mm20号鍼を各20 本選定した。まず重量などを測定し、機械的強度を4本1組で精密万能試験機(AG-250kNI M1)にて3点曲げ試験で測定した。試験は、鍼体と鍼柄を切断し、鍼体に対して支点間距離 17mm、ロードセル容量 5kN、押し込み速度 2mm /min で実施、鍼体 1 本当たりの最大曲げ応力を算出した。
    【結果】測定結果は試料の順に平均値 を示す。重量(g)は A:0.0628、B:0.1953、C:0.1756、D:0.2046、 E:0.1915、F:0.1865、G:0.1898。全長(mm)は A:70.281、B:68.397、C:68.120、D:67.921、E:68.048、 F:67.532、G:68.391。鍼体長(mm)は A:49.770、B:48.347、C:48.268、D:47.803、E:47.838、F:47.607、 G:48.295。鍼柄長(mm)は A:20.511、B:20.050、C:19.852、D:20.119、E:20.210、F:19.925、G:20.096。 機械的強度(MPa)は A:3036.6、B:4863.0、C:3761.2、D:3612.6、E:3859.6、F:2890.4、G:1269.6 となった。
    【考察・結語】現在の単回使用毫鍼は、先行研究時に比べ鍼全長・鍼柄長の精度が向上していた。 重量に関しては品質安定性の評価の基礎となるデータを得、また今回の鍼の機械的強度を求める 測定法は汎用的で製品特長を反映しうる精度の高い手法であると考えられた。
  • - 通電負荷による重量・寸法および機械的強度の変化について -
    糸井 信人, 小濱 和之, 佐藤 義晃, 松井 敬宏, 谷口 美保子, 石井 祐三, 松本 美由季, 長谷川 尚哉
    2023 年 48 巻 2 号 p. 103-112
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】パルス通電(以下パルス)や直流通電(以下 DC)による単回使用毫鍼の重量・寸法および 機械的強度への影響を明らかにし、鍼の安全性と品質に関する情報を提供する。
    【方法】50mm 20 号鍼(鍼体長 50mm・鍼体径 0.20mm)のステンレス鍼(試料 A ~ E)と銀鍼(試料 F) を試料とし、パルスは LFP-2000e、DC は AC アダプタ (DC12V-5A/60W) を用いた。負荷条件は実 験環境を用い、通電なし [ 1水浸 ]、パルス [ 2 100Hz、32Hz、4 100Hz1C、5 2Hz1C]、DC[ 6 60 秒、7 10 秒 ] とした。工業的基礎調査法として、負荷前後の鍼の重量と寸法を測定し、変化量の代表値を算出、それらの値を散布図上に示して負荷の影響を評価した。機械的強度測定法として、 負荷前後の鍼の曲げ強度変化を各試料の陽極・陰極ごとに評価した。
    【結果】ステンレス鍼では、DC の陽極で重量と鍼体長の減少があったが、パルスではそれらの減少はなかった。一方、ステンレス鍼の DC の陽極で有意な強度低下を示した場合があり、一部の試料で折鍼していた。パルスでは、2Hz1C 群と 100Hz1C 群の陰極で強度低下した場合があったが、 折鍼はなかった。逆に、100Hz 群の陰極では有意に強度上昇した場合があった。
    【考察・結語】通電負荷により鍼の重量、寸法、機械的強度に変化が生じる場合があることを明らかにした。この変化は鍼の安全性と品質に影響を及ぼす可能性があり、鍼灸臨床において慎重な 選択と管理が必要であることを示唆している。今後、試験実施数を増やし、通電負荷の影響をより詳細に検討し、鍼の品質向上と安全性確保に寄与する情報を提供していきたい。
報告
  • 古田 高征
    2023 年 48 巻 2 号 p. 113-121
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】鍼による「ひびき」が誘発されやすい組織としては、筋膜などが知られるが、その影響などについて分からないことが多い。そこで刺鍼時にひびきが起きた際の鍼の到達組織、膝関節伸展筋力などを指標にひびきを伴う鍼刺激が与える影響について検討した。
    【方法】対象は、説明を行い同意を得られた健康成人 15 名(平均年齢 32.4±6.3 歳)とした。刺鍼部位は、右または左の下腿部の「足三里・豊隆」を下腿群、大腿部の「髀関・梁丘」を大腿群とした。鍼刺激は、刺鍼前に超音波画像診断装置にて撮影後に行い、被験者にはひびき感覚が誘発 された時に合図をしてもらい、直ちに鍼の刺入深度を測定記録した。測定は伸縮力計(デジタル フォースゲージ DPS-50R)を用い、数回の予備運動後に左右の膝関節伸展筋力を刺鍼の前後に刺 激側および反対側を測定した。また、鍼のひびきの強さおよび下肢の重だるさを Visual Analogue Scale(以下、VAS)を用い、刺鍼前後に記入させた。
    【結果】ひびきを伴う鍼刺激が膝関節伸展筋力に与える影響では、刺激の前後で下腿群・大腿群の 刺激側で増大し、筋力の変化率は、大腿群の刺激側では 105.4±8.5%、下腿群では 107.9±8.9% であった。下腿群の刺激の反対側では 105.1±6.8%、下腿群の刺激側は、他に比べ高い傾向が(p<0.1)がみられた。さらにひびきの強さと筋力変化率の関係において、下腿群および大腿群の 刺激側は負の弱い相関、下腿群の反対側では正の弱い相関がみられた。
    【考察】鍼のひびきと膝関節伸展筋力の変化率は、下腿群の刺激側と反対側で異なる変化が伺われた。体質や病態および刺激感受性を考慮した鍼刺激を行うことで、運動機能を高められるのではないかと推測された。
    【結語】刺入深度とひびきの強さについて有意差はなかったが、筋膜近傍の深度でひびきが発生し ていることが伺われた。ひびきの強さと筋力の関係では、鍼刺激の前後で筋力が増大し、刺激側のひびきの強さと伸展筋力は弱い負の相関がみられた。
ケースレポート
  • 井畑 真太朗, 山口 智, 村橋 昌樹
    2023 年 48 巻 2 号 p. 123-125
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル オープンアクセス
    【背景】産婦人科診療ガイドライン 2020 では、子宮内膜増殖症はプロゲステロンにより拮抗されない過剰なエストロゲン刺激によって生じる非腫瘍性の変化であり、細胞異型を伴わない子宮内膜腺の過剰増進と定義されている。今回、子宮内膜増殖症により半年間不正出血が続いた患者に 鍼治療を行い、良好な結果が認められたので報告する。
    【症例】52 歳女性、主訴 : 不正出血
    現病歴 : X 年 4 月より連日不正出血が出現。近医産婦人科を受診、経膣超音波検査を行い、子宮内膜肥厚を認めたため、子宮内膜全面掻爬を施行。組織学的には異型が認められず、子宮内膜増殖症と診断され経過観察となった。しかし再度連日不正出血が出現、X 年 8 月に再度子宮内膜全面掻爬を施行したが、異常は認められず、漢方薬が処方され経過観察。その後も連日不正出血が続き、 X 年 10 月 8 日鍼治療を希望され、当科受診となった。既往歴 : 多嚢胞性卵巣症候群 服薬 : 芎帰調 血飲、芎帰膠艾湯。
    【所見】身長 153cm、体重 62kg、BMI 26.5、血圧 139/85mm Hg、脈拍 77 回 / 分 ( 整 )。神経学的所見 は正常、筋緊張は腰腸肋筋、腹証は小腹急結、小腹不仁。鍼治療方針は不正出血の改善を目的に、腎兪、志室、大腸兪、次髎、中髎、三陰交に長さ 40mm、直径 0.16mm単回使用鍼を用い 10 分間置鍼 を週 1 回継続。
    【経過】初診の鍼治療後 1 週間は不正出血の量が増加し、連日不正出血が続いた。治療開始 2 週間後より不正出血の回数が週 3 日と改善が認められ、1 ヶ月後には不正出血の回数が週 1 日、2 ヶ月 後より通常の月経周期となった。
    【考察】鍼治療は抗ミュラー管ホルモン、卵巣刺激ホルモンの不均衡を調節させ、テストステロン、アンドロゲンを減少させる。そのため本症例においても子宮内膜の正常化に寄与した可能性がある。
    【結語】子宮内膜増殖症に対する鍼治療は、症状の改善に寄与する可能性が示唆された。
  • - 頸椎後縦靱帯骨化症の手術を経験した症例 -
    竹谷 真悠, 谷口 博志, 菅原 正秋
    2023 年 48 巻 2 号 p. 127-132
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】頸椎後縦靱帯骨化症(以下、頸椎 OPLL)に対する手術を受け、その 3 年後に術後合併症として診断を受けた両上肢のしびれに対して鍼灸治療を行っていき、病態把握の再検討により治療法を変更したことで一定の効果を示すことができた症例を経験したので報告する。
    【症例】77 歳、男性。主訴:両上肢のしびれ。現病歴:X - 7 年に頸椎 OPLL に対する前方徐圧固定術を受けた。術後 2 ~ 3 年後、右手にしびれを自覚、その後すぐに左手にも出現した。鍼灸治療を受け、直後は軽減するも、効果は持続しなかった。X 年 8 月、当センターに来院した。主に手掌第 2 - 5 指のしびれがあり、日常生活動作ではボタンがかけづらい、おはじきが掴みづらいと訴えていた。上肢の神経学的所見はすべて正常であった。
    【経過】初診時より、頸部の血流改善を目的とした頸肩部への置鍼と上肢の血流改善を目的とした施灸を行ったが、直後効果のみの結果であった。第 5 診目には「左の親指が痩せているのが気になる」 と訴えがあり確認したところ、左母指球筋の萎縮が認められ、手根管部のチネル徴候が陽性だったため、正中神経への鍼通電に切り替えた。以降、しびれの持続的な改善を認めるようになった。 なお、「第 9 診目に右の第 4・5 指にしびれを強く自覚している」との訴えより尺骨神経への鍼通電を追加したところ、治療間隔が不定期にも関わらず、効果の持続を示すようになった。
    【考察】第 5 診目以降、患者の訴えを中心に病態を捉え直し(正中神経障害)、それに準じて治療を行なったところ、有効性を示すことができた。鍼灸治療を行う上で、定期的かつ継続的に病態 把握を行うことの重要性を実感できる症例であった。
文献レビュー
  • - Pubmed を用いた調査 -
    遠藤 睦実, 池宗 佐知子
    2023 年 48 巻 2 号 p. 133-141
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】不妊治療を行う夫婦にとって、女性と同様に男性が問題を抱えている場合があり、鍼灸治療は女性不妊だけでなく男性不妊に対しても用いられている。しかしながら、システマティックレビューでは、研究の質が低いことが問題点として挙げられている。研究の質を高めた男性不妊 に対する臨床研究を実施するためには、一定の治療方法を確立する必要がある。そこで、英語で発表されている症例報告や臨床研究から、有効であると考えられる鍼灸治療の方法を明らかにす ることを目的とした。
    【方法】分析対象とした論文は、PubMed に 1990 年 1 月 1 日から 2023 年 5 月 16 日までに発表され た、男性不妊に対する鍼灸治療を実施し症例報告、臨床報告、臨床研究に関する論文とした。抽出された論文から、治療期間や治療方法などを含む鍼灸治療方法、経穴、さらにそれらの有効性 について評価した。
    【結果】検索した結果、74 編が抽出され、そのうち54 編は、今回設定した除外基準に該当する論文であったことから、20 編を分析対象とした。今回の対象となった論文の主な疾患は、いわゆる 男性不妊 5 編、乏精子症・無精子症に関する論文 8 編であった。治療時間は 20 ~ 40 分、治療頻度は週 2 回、治療期間は 8 週間が最多層であった。さらに、治療に用いた経穴の使用頻度は、関元穴、 三陰交穴は 15 編で最多となり、次いで太渓穴、帰来穴、腎兪穴であった。精液所見では、精子運 動率は 9 編で改善がみられた。
    【考察・結語】今回抽出された文献は、精液所見異常が認められる男性不妊患者を対象としたものが多かっ た。さらに、症例の集積が多く、エビデンスレベルの高い研究は少なかった。しかしながら、 臨床研究を実施する上で目安となる治療法が明らかとなった。本研究で得られた成果を基にコホー ト研究やランダム化比較試験の実施を進める必要がある。
feedback
Top