脳神経外科と漢方
Online ISSN : 2758-1594
Print ISSN : 2189-5562
3 巻, 1 号
脳神経外科と漢方
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
特別講演
原著 (パネルディスカッション:慢性硬膜下血腫に対する利水剤の使い方 -治療・再発抑制・処方選択-)
  • 福島 大輔, 上田 啓太, 長尾 考晃, 寺園 明, 桝田 博之, 近藤 康介, 原田 直幸, 根本 匡章, 黒木 貴夫, 長尾 建樹, 周 ...
    原稿種別: 研究論文
    2017 年 3 巻 1 号 p. 6-10
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    慢性硬膜下血腫症例において,利水薬(五苓散,柴苓湯)の術後再発予防の効果および副作用について後方視的に検討した。術後に利水薬を投与した163例の再発は15例(9.2%)と,投与していない45例中再発12例(26.7%)よりも少なかった。また,利水薬を投与した704例の副作用をみると,五苓散606例中1例(0.2%),柴苓湯98例中5例(5.1%)の頻度であった。利水薬は比較安全に使用でき,慢性硬膜下血腫の術後再発予防に有用であると考えられた。

  • 長谷川 秀, 三浦 正毅
    原稿種別: 研究論文
    2017 年 3 巻 1 号 p. 11-16
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    慢性硬膜下血腫(chronic subdural hematoma; CSH)に対して,五苓散や柴苓湯などの漢方薬が薬物療法として投与され,その効果が多く報告されているが,実臨床の現場での実態は不明である。そこで,熊本大学脳神経外科同門の医師らにアンケート調査を行い,CSHに対する内科的治療について検討した。主にCSHを治療している脳神経外科医の58%が五苓散を,17%が柴苓湯をCSHに対する薬物治療の第一選択薬として投与していた。効果はほぼ同等と考えられていたが,両剤とも効果の実感はあまり高くなかった。難治性CSHに対しては柴苓湯の使用が増えていた。

    脳神経外科医の75%がCSHに対する薬物治療において漢方薬を第一選択薬として使用しており,漢方薬がCSHに対する薬物治療の主流となっていた。五苓散と柴苓湯の効果はほぼ同等と考えられているが,柴苓湯には重篤な副作用が出現する可能性があるため,CSHに対する第一選択薬としては五苓散が推奨されていると考えられた。

  • 北原 正和
    原稿種別: 研究論文
    2017 年 3 巻 1 号 p. 17-25
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    2007年8月から2016年12月までに146例の慢性硬膜下血腫(CSDH)に対して柴苓湯治療を行い,その治療効果を検討した。内訳は男性97例,女性49例,年齢32~99歳で32.9%が85歳以上であった。症候性が92例で,意識障害や重度の運動麻痺24例,歩行障害19例,認知症12例,頭痛・嘔気・嘔吐14例,頭痛のみが21例などである。

    これらに対して柴苓湯6 g/日を投与し,134例(91.8%)で血腫の縮小あるいは消失を認め,高い有効性が得られた。投与期間は2~14週,平均5.7週で,投与後平均2.2週でCT所見の改善を認めた。なお高度の圧排所見を認めた9例では当初デキサメタゾン注射薬を7~10日間併用した。症候性では91.3%,無症候性では92.6%で有効であり,同等の治療効果であった。77例で抗血栓を内服していたが全例継続した。抗血栓薬の有無でも有効性に差は認めなかった。副作用は間質性肺炎,肝機能障害,低K血症,下痢が1例ずつであったが,投与中止後早期に回復した。

    柴苓湯はCSDHに対する治療薬として有用である。当科では柴苓湯の副作用を考慮して,1日6 g・分2の用量であくまでも治療として用いること,できる限り短期間の投与とするよう心掛けている。また慢性呼吸不全や肝障害の基礎疾患がある場合には他の治療を優先するよう留意している。

総合討論 (パネルディスカッション)
原著
症例報告
  • 中江 啓晴, 草鹿砥 宗隆, 小菅 孝明
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 3 巻 1 号 p. 54-56
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    患者は右Bell麻痺の33歳男性。麻痺は重度で第4病日の柳原40点法は4点であった。プレドニゾロン,バラシクロビル,メコバラミンに加えて桂枝加朮附湯,附子末を投与したところ第33病日にはほぼ症状は改善,第46病日には完全治癒した。本例は麻痺が重度であったにも関わらず,比較的早期に完全治癒が得られたことから桂枝加朮附湯が有効であったと判定した。通常の治療に桂枝加朮附湯を加えることで,Bell麻痺の予後を改善できる可能性がある。

  • 玉野 雅裕, 加藤 士郎, 岡村 麻子, 星野 朝文, 高橋 晶
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 3 巻 1 号 p. 57-62
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    高齢者に激増する認知症はQOL,生命予後に高度に影響を及ぼしており臨床上問題になっている。今回,心不全の増悪で入院し,陽性BPSD(不穏,興奮,介護への抵抗など)が顕性化し,急性期救命治療に抵抗を示した症例に抑肝散を投与することにより適切に鎮静化され,回復し得た3症例を経験した。また,陰性BPSD(全般的意欲の低下,食欲の低下など)により低栄養化し,肺炎で入院した症例に補中益気湯を投与することにより,全身状態が改善し,肺炎による再入院を回避しえた3症例を経験した。陽性BPSD,陰性BPSDに応じて適切に漢方薬を投与することにより,QOL,生命予後を改善しうることが示唆された。

  • 原田 佳尚, 吉田 賢作, 新井 一
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 3 巻 1 号 p. 63-69
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    慢性硬膜下血腫(CSDH)の再発・増悪予防に五苓散が有効である報告があるが,漢方医学的考察がなされた報告はない。今回,五苓散が有効であった症例からその要因の考察を試みた。81歳,男性。意識障害と右片麻痺で搬送され,頭部CTで両側CSDHを認めた。左穿頭手術を行い再発予防に五苓散を開始した。1ヵ月後の頭部CTは左CSDHの再発なく,右CSDHも改善傾向であった。CSDHの発生機序は,線溶系が亢進した血腫外膜からの持続的な血液成分の漏出や,浸透圧差による血腫被膜を介した髄液の流入などが想定される。血腫を瘀血とするだけでなく,津液である髄液の偏在や浸透圧の関与は水毒と考えられる。術前の頭部CTは血腫が低吸収域と高吸収域に二分しており,生体を物質的に支える赤色の液体と無色の液体が併存するととらえ,画像からも水毒が想定され得た。これら水毒徴候に利水剤である五苓散が有効であると考えられた。

  • 田中 達也, 桃﨑 宣明, 後藤 公文, 本田 英一郎
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 3 巻 1 号 p. 70-73
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    重症頭部外傷の治療・管理において,不穏や興奮状態を抑えるために鎮静が必要となるが,過鎮静や誤嚥,循環抑制,錐体外路症状といった副作用も起こりうるため,その調節には苦慮する。今回,外傷性頭蓋内出血に合併した不穏・興奮状態の患者にデクスメデトミジン,向精神薬に抑肝散を追加投与し,初期の症状改善に有効であった。抑肝散は効果が速やかに認められ,疾病急性期の安静が必要な患者に有用と考えられた。

  • 星野 朝文, 竹越 哲男, 岡村 麻子, 玉野 雅裕, 加藤 士郎
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 3 巻 1 号 p. 74-78
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    原因不明のめまいには,一部の椎骨脳底動脈循環不全症(vertebrobasilar insufficiency: VBI)の症例が含まれるとされる。そのうち,めまい以外の脳神経症状を含む典型的なVBIに対して,機能的なVBIの病態として血行動態性VBI (hemodynamic-VBI: h-VBI)という存在が提唱されている。今回は,h-VBIによるめまいの症例に桂枝加苓朮附湯を用いて,めまいを改善させた症例を経験した。原因不明とされるめまいであって,h-VBIの病態と考えられる時は,漢方治療が一つの選択肢となる。

  • 林 明宗
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 3 巻 1 号 p. 79-84
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    症例は69歳,女性。胸腔鏡併用左肺上葉切除術+リンパ節郭清+左椎体(Th3–5)外側~左半椎弓切除術を受けた。術後創部頑痛のためオキシコンチン15 mg/日を服用するもすっきりせず,術後30ヵ月後当科初診。① 牛車腎気丸(TJ-107)7.5 g+ブシ末(調剤用)「ツムラ」(TJ-3023)2 g,② 加味帰脾湯(TJ-137)7.5 g,③ 通導散(TJ-105)5.0 gを処方したところ,オキシコンチンの効果が改善した。その後,地黄による胃腸障害のため牛車腎気丸を中止し,① ブシ末調剤用「ツムラ」(TJ-3023)1 g,② 加味帰脾湯(TJ-137)5.0 g,③ 通導散(TJ-105)5.0 gで維持し,創痛は初診後約2ヵ月で軽快した。7ヵ月後,傍脊柱部の創痛が再燃。方剤の増量は希望されなかったため,鍼治療を併用したところ,十分な除痛が可能となった。

    本症例は漢方治療が奏功したものの,牛車腎気丸の服用が困難となり,疼痛コントロールが低下したものである。傍脊柱部の創は足太陽膀胱経に沿うため,下肢での同経絡から取穴するとともに,三陰交を利用して裏寒症の改善をはかり鎮痛に寄与できた。この取穴・刺鍼手技は簡便で,脊椎外科術後の疼痛管理にも貢献しうるものと考える。

  • 高野 駿, 早川 隆宣, 高里 良男, 正岡 博幸, 八ツ繁 寛, 重田 恵吾, 住吉 京子, 百瀬 俊也, 榎本 真也, 佐藤 慎
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 3 巻 1 号 p. 85-89
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    慢性被膜化脳内血腫の詳細な発症機序は未だ明らかではないが,被膜の組織像と慢性硬膜下血腫外膜の組織像が類似していることが知られている。静脈性血管腫に伴う慢性被膜化脳内血腫で血腫増大を反復する症例に対し,五苓散をトラネキサム酸と併用したところ血腫の著明な縮小を認めたため報告する。慢性硬膜下血腫に対する五苓散の有効性は知られており,病態の類似する慢性被膜化脳内血腫に対して有効であると考えられる。

  • 森 久恵, 安部倉 友, 髙橋 淳
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 3 巻 1 号 p. 90-94
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    脳動静脈奇形定位放射線治療後遅発性嚢胞は,fibrinoid necrosisを伴った拡張血管の増生,損傷を受けた血管壁から脳実質への血漿成分漏出・微小出血を伴うといわれる。自然退縮例も散見されるが,症候化した場合には手術を行う。今回,手術困難な部位に発生した嚢胞に対して柴苓湯が著効した1例を経験したので報告する。

編集後記
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