シナプス小胞阻害抗てんかん薬であるレベチラセタム (LEV) は広く使用されているが,イライラ感などの精神症状により,しばしば継続が困難となる。我々はLEVの精神症状であるイライラ感に対して抑肝散を併用することで,安定したLEVの内服継続が可能かを検討した。対象は5例で,全例で抑肝散の投与によってイライラ感が減少し,Numerical Rating Scale (NRS) では76%と有意な改善を認めた。全例でLEVを減量することなく内服継続することが可能であり,LEVのイライラ感に対する抑肝散の有効性が確認された。
2019年本誌第5巻での症例報告以来,三叉神経痛に対する桂枝加朮附湯を中心とした漢方薬治療症例を重ねた。大後頭神経痛のような頚椎症性疼痛が修飾された痛みや舌咽神経痛にも漢方薬治療の幅を広げて,その有効性を検討した。三叉神経痛9例中8例で治療効果を認めた。そのうち症状改善し漢方薬治療を終了した3例は休止後も痛みのない状態が続いている。舌咽神経痛の1例は再来なく効果不明。大後頭神経痛の1例は駆瘀血剤使用の後に附子を含む漢方薬を使って痛みが取れた。桂枝加朮附湯を中心とした痛みに対する漢方薬治療で概ね満足できる治療効果が得られた。
頭部打撲に伴う疼痛,腫脹は時に患者に不安や苦痛を与え治療が必要となる。治打撲一方は日本古来の漢方薬であり,外傷による腫脹や疼痛への有効性が報告されている。本研究では,頭部外傷による疼痛を伴う腫脹に対し治打撲一方を投与した症例を後方視的に検討しその有効性について検討した。その結果,治打撲一方の投与により疼痛の改善,腫脹面積の縮小が得られる傾向がみられた。副作用はなく短期の内服は安全と考えられた。ランダム化試験などの研究デザインにおける検討が必要と考えられた。
桂枝加朮附湯は,吉益東洞の経験方であり,四肢や躯幹の疼痛,関節痛や手足の痺れ感があり,寒冷に増強する証によい適応とされている。当科では,外来・入院にかかわらず患者の様々な疼痛に対し,痛みの部位や性状・手足の冷え・胃腸の状態・肩こりなどを問診し,舌診・腹診を行い,水痘・帯状疱疹罹患歴を確認し,証と考えられた場合に桂枝加朮附湯を処方した。その結果,神経痛・関節痛のみならず脳卒中後遺症に伴う諸症状など幅広い10症例に効果が認められた。奏功例を,東洋医学的見地から詳細に顧みて検討し,桂枝加朮附湯のよい適応について考察して報告する。
目的:五苓散投与前後の頭痛と気候の関係を詳細に検討した。
対象:気候変化で頭痛が誘発されると訴える一次性頭痛例3例。
方法:五苓散投与前後に詳細な頭痛ダイアリーを記録し,気象データと比較した。
結果:頭痛回数は内服後に減少した。気圧,湿度,気温と頭痛発症は明らかな関係はみられなかった。
結語:五苓散は特に雨天時頭痛に有効だが,単に気候の変化に対応するのみではなく,疼痛そのものの緩和が示唆された。
超高齢化社会が現実化した今日,認知症が激増し,介護者の負担増,医療費の増大などが大きな社会問題になっている。とりわけBPSDはアパシー,抑うつ,不安,焦燥から興奮,妄想,徘徊そして高度食欲不振による衰弱まで多彩な症状が出現し,家族,医療スタッフは多大な労力を強いられている。今回,MCIの段階から後期認知症状態まで,症状に応じて漢方薬を選択投与し,良好な経過を認めた症例を経験した。漢方薬を適宜使用することにより,患者のQOLが改善され,さらに介護にかかわる人々の負担が軽減される可能性が示唆された。
六君子湯は全身がんに対する化学療法中の悪心・嘔吐に対して汎用されているが,脳腫瘍症例での使用報告はまだわずかに散見されるのみである。今回,悪性神経膠腫に対する放射線併用薬物療法中の悪心・嘔吐に六君子湯が有効であった1例を経験したので報告する。症例は50歳女性。退形成性星細胞腫の維持化学療法中に脳幹および小脳に進展・増大を認めたために,ベバシズマブの投与と同部位に放射線照射を開始した。治療開始4日目頃から悪心・嘔吐の悪化を認め,複数の制吐薬を投与したが症状は改善しないために抗腫瘍治療の一時中断を余儀なくされた。次に六君子湯を投与すると,翌日より速やかに悪心・嘔吐症状は改善を認め抗腫瘍治療も再開可能となった。脳腫瘍の悪心・嘔吐に対する六君子湯の投与について文献的考察を加えて報告する。
2017年度に当院に入院した脳卒中患者に発生した尿路感染症において,薬剤耐性菌を9例検出した。菌種は全例ESBL産生菌であり,9例中8例が尿道カテーテル留置中であった。ESBL産生菌による尿路感染症3例に対して,尿道カテーテルの適切な管理と感受性のある抗菌薬の投与に加え,補中益気湯を併用した治療を行い,ESBL産生菌が消失した。
Posterior reversible encephalopathy syndrome (PRES) は様々な原因から血管内皮障害,血液脳関門の破綻が生じ脳浮腫を呈する疾患とされているが詳細は明らかになっていない。五苓散は利水剤として種々の機序から脳浮腫を改善する可能性が示唆されている。今回,腰椎穿刺に伴う脳脊髄液減少症,頭蓋内圧低下によってPRESを発症したと考えられた患者に対して,五苓散を使用し脳浮腫の改善が得られた一例を経験したので報告する。
透析頭痛は治療法は定まっておらず,頭痛診療ガイドラインでも透析頭痛治療の記載はみられない。呉茱萸湯と五苓散の合方で透析頭痛が安全に治療できた1例を報告する。頭痛治療に漢方薬は相性が良く,奏効するケースもしばしば経験される。安全性に優れた漢方治療は試みられるべき治療法である。
すでにアカウントをお持ちの場合 サインインはこちら