看護理工学会誌
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3 巻, 1 号
看護理工学会誌
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
巻頭言
論説
  • 藤江 正克
    2016 年 3 巻 1 号 p. 2-5
    発行日: 2016/01/25
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー
     ヘルスケアを行うロボットは人と物理的な接触を伴うため,精確に動くためには力学情報が非常に重要で,その情報の基礎は,材料力学,熱力学,流体力学など機械工学のいわゆる「力学」から得られることが外科治療分野では明らかになりつつある.生体数値シミュレーションモデルによって再現した仮想的な手術環境におけるシミュレーションを用いて,術中に生じる変形を術前に予測する.具体的には,術前の画像診断装置から得られた患者の肝臓の形状データから,有限要素法などの構造解析手法を用いて,生体の変形モデルを構築する.この際,生体モデルの各パラメータは,さまざまな患者のパラメータが蓄えられているデータベースから平均値等を利用して決定する.また,診断画像から画像解析等を用いることにより境界条件を特定し,モデルの境界条件として設定する.構築したモデルを用いてシミュレーションを行うことで,最適な刺入位置・刺入角度を探索する.これはヘルスケアの大きな部分を占める看護領域でも今後の重要な研究課題であり,「痛い」だけでなく「痒い」あるいは「怖い」といった評価をこれまでのように定性的にするだけでなく定量的評価ができる技術の構築である.
  • -転倒予防を題材として-
    中島 勧
    2016 年 3 巻 1 号 p. 6-12
    発行日: 2016/01/25
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー
     わが国は2010年頃から人口減少に転じているが,高齢者人口は急速に増加し,政策的誘導もあり在宅医療を受ける高齢者が増加する.これまで医療施設における転倒転落に伴う外傷は,医療安全上の最大の課題であり,その被害を軽減するために全国の医療機関で看護師が日夜奮闘努力してきた.今後は医療機関以外の場所で療養生活を送る高齢者が増加し,高齢者の転倒予防は医療機関のみならず家庭や施設でも必須のものになる.そのため健常者の社会から障壁を除去するバリアフリーの発想から,障害の有無,年齢,性別等にかかわらず多様な人々が利用しやすいよう都市や生活環境をデザインするというユニバーサルデザインの考え方に転換する必要がある.看護師が経験知として蓄積してきた転倒予防対策が,ユニバーサルデザインの過程に活かされるためには,看護理工学の視点が必須である.少子高齢化の時代に生じる社会問題の解決に看護理工学の発展が大いに期待される.
原著
  • 西島 良美, 伊吹 愛, 峰松 健夫, 真田 弘美
    2016 年 3 巻 1 号 p. 13-20
    発行日: 2016/01/25
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー
     皮膚での酸化ストレス上昇は種々の皮膚疾患に繋がる.私達は,毛根を試料として用いたRT-PCR法による還元酵素(HMOX1)の発現解析が皮膚の酸化ストレスレベルを反映することを報告した.この方法は簡便かつ低侵襲な方法として有用と考えられるが,臨床応用に向けて,異なる酸化ストレスにおける抗酸化酵素の発現プロファイルを明らかにする必要がある.そこで本研究では,異なる酸化ストレスモデルマウス(UV照射群および肥満群)における抗酸化酵素SOD1,CAT,GPXおよびHMOX1の発現量を対照群と比較し,その発現プロファイルの比較検討を行った.SOD1は両群で対照群よりも高い発現量を認めた.一方CAT,GPXおよびHMOX1は肥満群でのみ上昇しており,これらの結果は特にmRNA発現解析で認められた.これにより皮膚における抗酸化酵素遺伝子(SOD1, CAT, GPX, HMOX1)のmRNA発現解析は,酸化ストレスの原因推定も可能な簡便かつ低侵襲的な評価法として皮膚疾患の予防的スキンケアへと寄与できる可能性が考えられた.
  • 森 武俊, 小路 和幸, 野口 博史, 亀山 祐美, 真田 弘美, 秋下 雅弘, 大江 和彦
    2016 年 3 巻 1 号 p. 21-30
    発行日: 2016/01/25
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー
     一人暮らしの高齢者の活動レベルを人感センサでモニタリングする見守りシステムを対象に生活行動の異変検出手法を開発した.モデル化および検出アルゴリズム開発は,ファイナンスにおいて研究が進められてきた方法論にもとづいて行った.アプローチとして,まず,活動レベルのデータ特性を明らかにするため,144軒の独居高齢者居宅の収集データから,データのトレンドとボラティリティに着目した4つのタイプへ分類した.続いて,おのおののタイプの特性に適合したファイナンスモデルを適用し,これらモデルによって予測される確率分布の95%信頼区間からの外れ値を異変とするアルゴリズムを構成した.たとえば,トレンドが有り,ボラティリティが一定という特性を有するタイプの高齢者活動データには原資産価格モデルをあてる.人手による異変検知との比較検証を行い,さらに健康状態に関する対照データのある数名の活動レベルモニタリングデータに対して本手法を応用し異変検知の有効性を確認した.
  • 川﨑 基資, 築根 まり子, 松本 侑也, 關 雅俊, 小林 洋, 宮下 朋之, 藤江 正克
    2016 年 3 巻 1 号 p. 31-42
    発行日: 2016/01/25
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー
      本研究では,本態性振戦患者の振戦を抑制する効果の高い上肢装具を設計するために,生体軟組織が有する動的粘弾性のうち粘性要素が振動を抑制することに着目し,粘性の影響が大きい部位を装着部位とする設計指針を提案している.本論文では,人体に変位の強制振動を与えた際の変位と力の位相差を動的粘弾性の指標として,若年健常者3名の右前腕の掌側面における位相差分布を測定し,位相差分布の個人間の相関と,超音波画像を用いた内部構造の観察を行った.その結果,腱膜が厚い前腕近位部は位相差分布の個人差が小さいが,最小2.03[°]と低い位相差を示したため,拘束部位には向かないことが示された.一方,前腕遠位部は最大10.9[°]と位相差が高く拘束部位として適しているが,位相差分布の個人差が大きいことが示された.この結果を用いて,今後は,超音波画像診断と位相差測定をした振戦抑制装具のオーダーメイド設計手法を検討する.
  • 松野 悟之, 岡山 久代, 二宮 早苗, 内藤 紀代子, 森川 茂廣
    2016 年 3 巻 1 号 p. 43-49
    発行日: 2016/01/25
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー
     骨盤底筋トレーニングのための体外式バイオフィードバック装置を用いて女性の骨盤底筋群の機能と腹圧性尿失禁の関連性を検討することを目的とした.147名の女性を対象に骨盤底筋群の最大筋力および収縮持続時間,尿失禁症状,体組成,一般属性を調査し,ロジスティック回帰分析を用いて各因子の腹圧性尿失禁の発症に対するオッズ比を算出した.結果,腹圧性尿失禁の発症に対する有意な要因として,分娩経験(オッズ比:2.694,95%信頼区間:1.058-6.859)および骨盤底筋群の収縮持続時間(0.861,0.777-0.954)が抽出された.今回,収縮持続時間の短縮も抽出されたことから,収縮持続時間に関与すると考えられる骨盤底筋群の遅筋線維が腹圧性尿失禁の防止に重要な役割をもつことが示唆された.骨盤底筋群を強化する際には,収縮持続時間の延長を促すことで腹圧性尿失禁の効果的な改善につながる可能性が示唆された.
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