要旨 織物工業では、房ふさみみ耳の廃棄物が大量に発生している。生地を生産する度に端の部分が切り離される織機の仕組みとなっているためである。主な工業用自動織機は、現在において大きく有ゆうひ杼織機と無むひ杼織機に分かれている。有杼織機では、房耳が発生せず、無杼織機では、生地生産する度に房耳が発生する状況である。房耳の役割は、生産する生地を安定させるための仕組みになっている。房耳は、工場の規模にもよるが1つの工場から1週間で100kg ほど排出される。房耳は、廃棄される生地端部分であるが、生地本体同様の素材を使用しており、様々な表情の素材として存在している。本稿は、素材としての房耳を造形展開するための実践研究を主題としているが、房耳の素材を把握するため、収集した房耳のたて糸本数などの測定を89点行った。製造現場の視察では、房耳が発生する織物工場での取材を2社実施し、織物生産者から捉える房耳の現状などを調査している。この廃棄物は、取材した工場では独自に処分するシステムになっているが、他企業によっては、素材として流通商品の扱いがあることも分かった。 造形表現展開では、房耳の造形およびデザイン研究として、2021年から倉敷市立短期大学の授業において、ものづくりの実践研究を行っている。アンケート調査では、ものづくりに関係した学生から作品制作体験に基づく調査を実施し、今後の展望を図る資料とした。房耳活用展開の事例としては、一般社団法人日本テキスタイルデザイン協会において、関連の展示会や作品公募展などの様々な取り組みをプロジェクトとして推進している。また、個人クリエイターが素材として作品制作を行う事例もある。これらのことから、ものづくりの観点からすれば魅力的な素材であることが分かっている。本稿は、多角的な見地より、廃棄物である房耳の活用実態を調査しながら、素材としての可能性を造形的視点から実施調査した内容である。
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