基礎造形:日本基礎造形学会論文集・作品集
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最新号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
  • -大学授業における模擬保育と子ども対象のワークショップの実践を中心に-
    吉岡 千尋
    2025 年33 巻 p. 1-8
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー
    要旨 本研究においては、<造形的行動>に関する知見を基軸とした保育者養成を実践し、それによって得られる学びの効果とはどのようなものなのかについて解明することを目的として、模擬保育とワークショップの実施後の振り返りレポートを基にした2か年の調査を行った。その結果、研究対象者は<造形的行動>に関する知見を活用しながら【子ども理解】と【保育者の手立て】の概念を結びつけて思考する傾向があること、両者を結びつける際の思考タイプとして、「A タイプ」および「B タイプ」が存在することを提示した。また、模擬保育を経験した研究対象者による振り返りレポートにおいては、「B タイプ」が比較的多く出現する傾向があること、子ども対象のワークショップの計画・実施を経験した研究対象者による振り返りレポートにおいては、「A タイプ」が比較的多く出現する傾向があることを明らかにした。以上より、<造形的行動>に関する知見を基軸とした学びの効果は、子どもの実態を捉えながら保育者の役割について分析する思考力や、活動の意味を分析して保育者による具体的な関わり方を構想する力量等を育成することにあると解釈された。
  • -美術ワークショップにおける共同作業の教育効果測定-
    項 名ブン, 久保村 里正
    2025 年33 巻 p. 9-16
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー
    要旨 言語能力と社会的側面を組み合わせたコミュニケーション能力(Communicative competence)は、場面に応じた適切な言葉を用いる力を指し、日本の教育現場でも重要視されている。本研究では、言語活動を通じてコミュニケーション能力を育てる美術ワークショッププログラムを実施した。「紡ぐ」と「クリスマスツリーの森を一緒に作りましょう!」の2回のワークショップを行い、その教育効果をアンケート調査で検証した。「クリスマスツリーの森を一緒に作りましょう!」では、より多くの話す機会を設け、制作中にコミュニケーションを図る仕組みを導入した。このワークショップでは、他の参加者との協力が促され、コミュニケーションの機会が多かったことがデータから明らかになった。 またクロス分析によると、コミュニケーション能力と共同作業は一般的な方法のワークショップよりも高い数値を示し、特に話す機会や協力の実績が向上した。このことから、ワークショップが参加者のコミュニケーション能力の伸長に寄与したことが示唆された。
  • - 越後妻有「大地の芸術祭」空家プロジェクトを事例として-
    宮﨑 晋一, 新江 祐祐, 石松 丈佳
    2025 年33 巻 p. 17-24
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー
    要旨 日本における空き家の問題は、少子高齢化や都市部への人口集中により深刻化しており、空き家の増加は社会的・経済的な課題となっている。しかし、空き家は単に負の遺産と見なされるべきではなく、創造的な再利用の可能性も秘めている。空き家をキャンバスとしたアートプロジェクトや展示空間としての利用は、地域住民やアーティストとの協働を通じて新しいコミュニティの形成を促進し、社会的孤立の緩和や地域の再生をもたらす可能性がある。また、アートによる空間の再定義は、従来の経済的価値観に依存しない新しい価値の創造を示唆している。本研究は、越後妻有「大地の芸術祭」空家プロジェクトの造形作品が空き家の空間にどのような影響を受けているかを「空間への密接度」と称し、その実態について調査し空き家を活用した造形作品の可能性を探ることを目的とし、文化と芸術の創造、継承、発展にどのように寄与するかを考察する。
  • 山西 多加
    2025 年33 巻 p. 25-32
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー
    要旨 本研究は、具象系彫刻作家である佐藤忠良〈1912-2011〉の、児童・生徒を対象とした鑑賞教育観を明らかにし、その現代的側面を検討した。現代美術社が出版した小学校図画工作科、中学校美術科、高等学校芸術科(美術)・美術科の検定教科書中の、佐藤の署名が在る鑑賞教材本文を、定性的コーディング分析を援用し分析した。その結果と佐藤の教育理念とを照らし、彼の鑑賞教育観を見出した。それは以下のとおりである。「児童・生徒自身が作品と対話することを目指し、佐藤による作品解釈や作家観を伝える。そして児童・生徒が、作品の色や形から優しさ・苦しみ・愛・真実・美などに気づいたり、その気づきを活かした制作表現に繋げるため、佐藤が作品に捉える、自然を畏敬する表現、人が生きる美しさの表現を伝える。」これらの現代的側面を以下3点挙げた。1点目は「教師の作品研究を助ける」こと、2点目は「作品の記述や知識指導についての示唆となる」こと、3点目は「対話型鑑賞教育を再考する契機となる」ことである。
  • 小出 昌二, 松本 雅示
    2025 年33 巻 p. 33-40
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー
    要旨 近年ではネーミングと音の印象や語感に関する研究が増えてきている。一方、ネーミングに個性的なデザインを施したものがロゴタイプであるが、音声の印象をデザインや図形に結び付けた研究は少ない。文字の持つ音声のイメージを頼りにして図形化を行うことによって、図形の組み合わせによる文字情報にはない視覚的イメージの提供や、可読性が伴わないマークやシンボルへの展開および非言語によるコミュニケーションツールへの足掛かりになる可能性も考えた。そこで本研究では、音声学に含まれる音象徴を利用し、五十音の音声の印象を活かした図形を作成することを目的とした。音象徴とは「語感のより詳細な感覚を表すもの、音の与える印象のこと」である。本論では日本語を構成する五十音の音象徴を専門家による論文や書籍からまとめ直し、図形から生じる印象と音象徴とを結び付け、「ア」から「ワ」までの44文字の図形化を行った。
  • -廃材の製造現場から素材表現まで-
    田中 孝明
    2025 年33 巻 p. 41-48
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー
    要旨 織物工業では、房ふさみみ耳の廃棄物が大量に発生している。生地を生産する度に端の部分が切り離される織機の仕組みとなっているためである。主な工業用自動織機は、現在において大きく有ゆうひ杼織機と無むひ杼織機に分かれている。有杼織機では、房耳が発生せず、無杼織機では、生地生産する度に房耳が発生する状況である。房耳の役割は、生産する生地を安定させるための仕組みになっている。房耳は、工場の規模にもよるが1つの工場から1週間で100kg ほど排出される。房耳は、廃棄される生地端部分であるが、生地本体同様の素材を使用しており、様々な表情の素材として存在している。本稿は、素材としての房耳を造形展開するための実践研究を主題としているが、房耳の素材を把握するため、収集した房耳のたて糸本数などの測定を89点行った。製造現場の視察では、房耳が発生する織物工場での取材を2社実施し、織物生産者から捉える房耳の現状などを調査している。この廃棄物は、取材した工場では独自に処分するシステムになっているが、他企業によっては、素材として流通商品の扱いがあることも分かった。 造形表現展開では、房耳の造形およびデザイン研究として、2021年から倉敷市立短期大学の授業において、ものづくりの実践研究を行っている。アンケート調査では、ものづくりに関係した学生から作品制作体験に基づく調査を実施し、今後の展望を図る資料とした。房耳活用展開の事例としては、一般社団法人日本テキスタイルデザイン協会において、関連の展示会や作品公募展などの様々な取り組みをプロジェクトとして推進している。また、個人クリエイターが素材として作品制作を行う事例もある。これらのことから、ものづくりの観点からすれば魅力的な素材であることが分かっている。本稿は、多角的な見地より、廃棄物である房耳の活用実態を調査しながら、素材としての可能性を造形的視点から実施調査した内容である。
  • -傾斜計センサーを活用した学習支援ツールの開発にむけて-
    藤田 雅也, 清田 哲男, 松浦 藍
    2025 年33 巻 p. 49-56
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー
    要旨 本研究では、立体作品を触りながら鑑賞する自らの行為を、鑑賞活動後に内省することによって、学習者にどのような変容が生じているのかを明らかにすることを目的としている。そのため本論では、筆者らが開発を進めている鑑賞学習支援ツール《ART Log》を活用した予備調査を実施し、その効果と課題を検証する。《ART Log》の活用によって、触って鑑賞する際に生じる立体作品の傾き等の動きを動画として記録できるため、学習者は鑑賞活動後に自らの行為を内省することが可能となる。調査では、作品を持ち上げて触りながら鑑賞する“作品鑑賞”と、“作品鑑賞”後に《ART Log》で記録した動画を視聴する“リフレクション動画視聴”によって生じる、学習者の気づきの変容について考察した。その結果、“作品鑑賞”では、「感じたこと」を想起させる傾向を強めること、自らの鑑賞活動を内省するための“リフレクション動画視聴” では、「考えたこと」を想起させる傾向を強めること等が確認できた。「感じたこと」と「考えたこと」を往還させていく学びによって、ものの見方や感じ方が深まり、新たな価値の創造へとつながっていく可能性が示唆された。
  • 齋藤  正人, 小川 直茂, 奥村 和則
    2025 年33 巻 p. 57-64
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー
    要旨 小学校学習指導要領図画工作では、「『A 表現』及び『B 鑑賞』の指導については相互の関連を図るようにすること」と示されている。それを受けて、小学校教育現場及び教員養成機関における鑑賞活動の現状を確認したところ、必要性を認識しつつも鑑賞指導には消極的な層の存在が確認された。そのことから、教員養成段階にある学生の鑑賞教育の充実に向けた研究活動を推進することは有意義と考えられる。本研究では、小学校教員養成の図画工作における表現と鑑賞を一体化する授業プログラムとして、制作課題の前後に行う鑑賞に加え、制作中の鑑賞に「中間チェックシート」を作成・導入することによる3段階の鑑賞活動の効果を検討した。その結果、鑑賞活動の充実が学生の多角的な見方や意欲的な制作姿勢を引き出したことが確認され、鑑賞との相関により表現内容を深化させていくことがわかった。
  • 薦田 梓
    2025 年33 巻 p. 65-72
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー
    要旨 本稿では、高精細複製画を教材として、小学校で鑑賞授業を実践した成果について報告する。小学校6年生の図画工作の授業において、重要文化財《風神雷神図屏風・夏秋草図屏風》(尾形光琳/酒井抱一筆)の高精細複製を使った鑑賞を行い、発言やワークシートから児童の学びについて考察した。高精細複製で鑑賞授業を行う利点として、①両面屏風であるため、児童が教室内を移動して表裏を鑑賞することができ、写真やデジタル画像では分かりづらい表裏の関係性を理解しやすい点、②金箔・銀箔が職人によって実際に貼られているため、箔の迫力や輝きを体感できる点、③身体表現を作品の前で行うことにより、新たな気付きを促し、作品がより身近に感じられる点が示唆された。
  • -対話型鑑賞を用いた保育士の資質育成を通して-
    田嶋 美雪
    2025 年33 巻 p. 73-76
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー
    要旨 本研究では、保育士のコミュニケーション力や総合的指導力を育成するため、幼児が描いた絵を題材にした対話型鑑賞を用いた研修を開発し、実践した。幼児の絵は、象徴的で基礎的な造形表現が多く、保育士が日常的に接する子どもたちの生活や行動と結びつけやすいため、鑑賞の題材として適していると考えた。研修では、保育士45名がグループに分かれ、5枚の作品を鑑賞し、意見交換を行った。その結果、保育士たちは絵の細部から子どもの生活を想起し、また、物語を構築するなど、想像力を豊かに働かせた。加えて、他園の保育士との交流や多様な視点からの意見交換が、自身の考えを深める機会となり、研修の目的である想像力やコミュニケーション力の向上に寄与した。今回の研修を通じて、対話型鑑賞が保育士のスキル向上に有効であることが示唆された。
  • -土粘土の特性に対する体験的理解を意図して-
    櫻井 晋伍
    2025 年33 巻 p. 77-84
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー
    要旨 本稿では、保育者養成課程在学生を対象として、土粘土の特性に対する体験的理解を意図した陶芸作品 製作を行った実践内容について報告する。   保育者養成課程における造形教育のカリキュラム研究においては、土粘土を用いた教育実践事例は比較的少 ないというのが現状である。本教育実践に取り組むにあたり、初めて陶芸作品製作を行う学生もいることを踏 まえ、成形技法に関しては、ろくろを用いるのではなく、タタラ巻き作りの技法を用いることにした。また、 勤務校の近隣地域である田川郡の上野焼を鑑賞資料として用いることにより、地域文化への理解促進も意図し た教育内容とした。授業時におけるレポートの記述内容を通して考察を行った結果、学生は、製作工程を通して土粘土の硬さや色合いの変化の過程を経験したことにより、土粘土の特性に対する体験的理解を得ていたことが読み取れた。また、比較的容易に成形出来るタタラ巻き作りの技法を用いたことによって、左右対称の形や均等な厚みを表現することが出来ていたため、陶芸作品製作を通した達成感を味わうことが出来ていたと分かった。そして、 陶芸作品製作を経験したことにより、陶芸作家の技量の高さを実感し、上野焼に限らず個々の学生の出身地の陶芸作品に改めて目を向けるきっかけとなったと読み取ることが出来た。 これらのことから、保育者養成課程において陶芸作品製作を行うことは、造形材料としての土粘土の特性に対する体験的理解と、地域文化への関心を高めることに寄与すると分かった。
  • -地域の児童・生徒との協働による場面を含める試み
    大江 登美子
    2025 年33 巻 p. 86-89
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー
    〔要旨〕中山間地の過疎地で活動する読書ボランティアサークル代表より、地域活動に功績のあった故人をモデルとする物語絵本の創作が筆者に依頼された。筆者はフィクションを創作し、よりテーマが表現されるために挿画の一部を地域児童・生徒と協働で制作することを考案した。1枚ずつ描かれた花の絵を収集して筆者が編集し、花畑の絵として仕 上げ、クライマックスシーンの挿画とした。完成した絵本は地域活性イベント等に活用し、地域内外の協力者に配布して読まれた。関係者の感想等から、本作品によって当初に求められた内容が適切に表現されたと考えた。
  • 服部 正志
    2025 年33 巻 p. 90-91
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー
    〔要旨〕本稿では、平面作品と立体作品を相互に関係づけることで生まれる造形表現の新たな展示形態を示すために、版画の特性を生かした造形表現の試みを論述した。本制作研究における版画表現では、木製品を版として使用することの効果や、大量に刷った版画(平面)と版である木製品(立体)同士の関係性が、作品世界への没入要素として鑑賞に効果的であることも確認できた。
  • 項 名ブン, 久保村 里正
    2025 年33 巻 p. 92-95
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー
    〔要旨〕ワークショッププログラム「クリスマスツリーの森を一緒に作りましょう!」は、モダンテクニックを用いて制作 したクリスマスツリーを集めて、大きなクリスマスツリーの森を形成するアートプロジェクト形式のワークショップである。その一環として制作した「永遠なる遊び心の森」は、ワークショップと同じ方法で制作した作品で、次の手順で制作した。①型紙をレーザープリンターで出力し、マーブリングを用いて彩色した。彩色は異なる模様を作り出すために水溶液や水面の調整を行い、作品全体にランダム性を持たせた。②型紙は乾燥後、部品を切り離し、組み立てを行った。③個々のツリーの模様や色彩を考え、クリスマスツリーの森をイメージしながら配置した。
  • 田嶋 美雪
    2025 年33 巻 p. 96-97
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー
    〔要旨〕本作品は、フラクタル図形を用いた画面構成の探求を目的としている。著者は、フラクタル図形に見られる構成美が、制作過程における発想を助ける要素になると考え、制作を続けている。特に本作では、描画モードの調整によっ てフラクタル図形同士が重なる場所の描画にもオートマティックな配色を加えた。この操作により、様々なトーンの領域が出現した。加えて、フラクタル図形の持つ渦巻きや繰り返しの要素の表出の度合いの調整も可能になった。
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