土木学会論文集D2(土木史)
Online ISSN : 2185-6532
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和文論文
  • 井上 敏孝
    2022 年 78 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/20
    ジャーナル フリー

     本稿では,戦前期の昭南港で実施された港湾工事の歴史的意義について明らかにする.そして工事概要を明らかにするとともに,日本による植民地統治前後,さらには港湾建設工事前後で昭南港の位置づけや役割がどのように変遷したのかという点について考察を試みた.

     本研究で明らかにした点は,従来の研究で着目されていない視点であり,研究の空白となっている歴史事象であった.したがって本研究の成果は日本史をはじめ,戦前の植民地研究の穴を埋める研究になると考える.

  • 三山 幹木, 真田 純子
    2022 年 78 巻 1 号 p. 11-21
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     未曽有の災害が想定外の被害をもたらしている昨今,インフラの要求性能として,被災後に構造物としての機能をゼロにしない“粘り強さ”など単なる構造物の強さだけでは測れない特質が注目されている.環境的な観点からも評価されている伝統的な技術である空石積みの強度計算だけでは測れない構造物としての「強さ」の検証を行った.

     本研究では四国・九州から計452件の擁壁・護岸の被災事例を収集し,写真を構造物の破壊箇所ごとに分類を行い,破壊時の挙動を観察した.観察の結果,空石積みは壊れた後にも効果を発揮しうる構造物であり,(1)小さく壊れること,(2)壊れたときの機能がゼロになりにくいこと,(3)復旧が容易であること,(4)二次被害の危険性が少ない可能性があることを明らかにした.

  • 武長 玄次郎, 上村 繁樹
    2022 年 78 巻 1 号 p. 22-29
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     アメリカの土木技術者ジャスチンは,1920年代に半年ほど嘉南大圳事業の中心施設である烏山頭ダムの調査を行った,彼は事業関係者から「斯界の権威」とされており,これまで彼に言及した文献でもそのように言われてきた.実際には訪台期には権威とまでは言えなかったが,烏山頭ダムについては鋭い意見を述べている.ジャスチンとの関わりは,八田與一とその周辺に大きな印象を残した.台湾総督府側は招聘の際に十分な準備や調整を行なったとは言えず,それが台湾でのジャスチンの活動上で制約となった.ジャスチンは着実に業績を重ね,晩年は水工学の権威と言える存在になった.

  • 西山 孝樹, 藤田 龍之, 藤田 宏之
    2022 年 78 巻 1 号 p. 30-46
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,紀州藩の役人で,8代将軍徳川吉宗に召し出された井澤弥惣兵衛為永に着目した.紀州藩内に加えて,埼玉県に開削された見沼代用水の開削に関しても,一次史料に掲載されていない事績が井澤弥惣兵衛為永の事績であるかのような記述が散見されるようになってきた.そこで,井澤弥惣兵衛為永の出生や紀州藩内の社会基盤整備に関する既往研究および一次史料を整理することとした.その結果.紀州藩内の事績では,井澤弥惣兵衛為永が社会基盤整備に関与したことを明確に示す史料は存在しなかった.また,武蔵国の見沼代用水においても,一次史料などの根拠が示されることなく,様々な評価や論考が展開されていた.以上のことから,正確な史料を基に史実を明らかにしていく必要性を示した.

  • 小関 玲奈, 山本 正太郎, 羽藤 英二
    2022 年 78 巻 1 号 p. 47-58
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル フリー

     災害常襲国である日本において,土地利用マネジメントを含めた事前復興計画の推進は急務であるが,土木史的な視座を踏まえて,危険地帯への市街地進出要因を考慮した制度設計がなされているとは言い難い.そこで本研究では,東日本大震災,西日本豪雨で被災した5都市の都市形成史と災害後の都市計画的対応を比較分析し,各都市で甚大な被害を生むに至った空間的要因とその経緯を解明することを目的とする.近代以降の交通基盤整備や土地区画整理事業等の都市基盤整備が実施された位置や規模を,分析の視点とする.次の災害への備えとしての災害防御インフラの整備と,土地の利便を逓増させる交通基盤・都市基盤整備とが連動して行われたかどうかが,災害後に減災型都市構造へ転換する分岐点となったことを明らかにした.

  • 谷川 陸, 林 倫子, 山口 敬太, 川崎 雅史
    2022 年 78 巻 1 号 p. 59-75
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,1935(昭和10)年の京都大水害後の鴨川改修における,風致に配慮した水辺空間の設計の検討過程とその協議の実態を明らかにした.研究の成果を以下に示す.京都では風致をめぐる府市間の施策方針の相違を背景に,京都大水害以前に風致地区の指定や風致委員会の設置がなされ,風致上の重要案件を個別に検討する体制が整えられた.京都大水害後,京都府主体の改修計画が立てられ,府市の連携体制において,橋梁や都市計画を含めた河川一体の総合的な景観形成が図られた.京都府は,改修工事の統括機関として鴨川改良計画委員会を設置し,内務省や京都市,風致委員会との連携体制を構築した.この体制に基づいて,近代治水と風致を両立した中流断面の設計や,沿岸地区の意見を踏まえた水辺空間の設計が行われた.

  • 萩原 啓介, 山口 敬太, 川崎 雅史
    2022 年 78 巻 1 号 p. 76-95
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/20
    ジャーナル フリー

     本研究は,大阪市の旧淀川の一つである大川の河川沿公園(現毛馬桜之宮公園)を対象として,公園計画の起源とその展開,事業化ならびに整備過程,その実現要因を,新聞記事の48年間の悉皆調査など複数の一次史料を基に明らかにするものである.本研究の成果を以下に示す.1)明治期の鶴原定吉市政下に四大問題として河川沿公園の起源となる構想が立てられた.2)内務省直轄の淀川下流改修工事による河川整理埋立地を利用し,日本初の臨川公園として桜之宮公園が開園した.3)戦前期に都市計画公園系統の一部として位置づけられ,戦災復興期に都市計画公園決定された.4)戦後の土地利用転換と明治百年記念事業資金の活用によって公園の事業化が進み,河川沿公園が実現した.5)河川沿公園実現には大川の河岸美を重視する都市像の継承が影響した.

  • 平井 節生, 羽藤 英二
    2022 年 78 巻 1 号 p. 96-114
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/20
    ジャーナル フリー

     本論文は,関東大震災の復興橋梁群のデザインのレベルの高さに鑑み,それを実現し得た背景として,明治・大正期の造船及び鉄道橋製作の技術の進化があったのではないかという仮定に基づき,産業史的・技術史的視点で各業界の歴史をレビューするとともに,造船,鉄道橋梁,道路橋の各日本人技術者の最初の交差点となったと思われる1887(明治20)年竣工の吾妻橋を取り上げ,官・民で担当した技術者達に焦点を当てる.

  • 出村 嘉史, 北田 寛明
    2022 年 78 巻 1 号 p. 115-125
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/20
    ジャーナル フリー

     本研究は,大正期以降30年程の間に急速に都市基盤を構築した大垣を対象として,そのプロセスに焦点をあてる.この間,鉄道敷設・電力事業・河川改修・都市計画事業など,一見独立した多種の公共的事業が連続的に興った.実施されたプロジェクト史料を相互参照しながら時系列で整理した結果,各事業を主導した人物(実業家や内務省及び県の技術者ら)が事業や組織の枠を超えて連携し,河港大垣という都市像へ昇華する工業都市建設のために水陸に亘る連続的な基盤構築を継続的に発展させた経緯が示された.

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