土木学会論文集D2(土木史)
Online ISSN : 2185-6532
ISSN-L : 2185-6532
77 巻, 1 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
和文論文
  • 中川 嵩章, 齋藤 潮
    2021 年 77 巻 1 号 p. 5-20
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/20
    ジャーナル フリー

     本研究は,法定都市計画以前の愛知県豊橋における,道路整備,遊廓移転,電気軌道敷設の都市整備事業について,史料収集,文献調査を行い,それらが複合的に推進された要因を明らかにした.土地の買収,貸付として利益を見込んだ豊橋市による遊廓移転は,都市整備事業に出費した費用を都市経営として賄う戦略であったと考えられる.そして,豊橋電気株式会社の役員らを発起人とする豊橋電気軌道(1次)の出願,特許にあたっては,豊橋電気株式会社が強い影響力を持っていたと考えられる.遊廓移転によって郊外の荒れ地約20,000坪を開発し,そこへ道路を開削,電気軌道を敷設する構想の背景には,豊橋電気株式会社の電気需要創出策があった可能性を指摘し,近代都市の経営という観点から官民が連携した総合的施策展開であると論じた.

  • 西山 孝樹, 藤田 龍之, 天野 光一
    2021 年 77 巻 1 号 p. 21-37
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/02/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,江戸時代における紀州藩内の事績がまとめられた『南紀徳川史』に着目した.そのなかから,社会基盤整備に関する記述を抜き出したところ,45事項が該当した.そして,社会基盤整備の対象ごとに整理したところ,15項目に分類することができた.その結果,新田開発に関する記載が最も多いことが明らかとなった.それに付随して用水路の新規開削に関する項目も多く,その他に溜池の築堤や修繕に関するものなど,灌漑施設整備に関する項目が目立つ結果が得られた.河川については洪水の記録が最も多く,被災状況にも触れられていた.さらに,紀州藩内に長大な用水路を開削した大畑才蔵の記述が突出して多く,江戸へ召し出された井澤弥惣兵衛為永に関する記述はごく僅かにとどまっていたことも示した.

  • 川越 健, 大島 洋志
    2021 年 77 巻 1 号 p. 53-67
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/20
    ジャーナル フリー

     現在,JR各社などの鉄道事業者における道床バラストの石質試験の基準値,試験方法の多くは昭和58年に標準化されたものである.石質基準の経緯や課題を理解することは今後とも良質な道床バラストを確保していく上では必要不可欠である.本論では道床バラストの品質の仕様の変遷を,鉄道創世時から順に示し,現行の品質基準の経緯をまとめた.戦前は主に保線に関する規程の中で定性的に基準が示され,戦後に定量的な基準値が定められ,標準として独立したものとなった.また,1970年代に道床噴泥対策として生産,積込み,運搬を含めた品質管理が強化された.これらの変遷を踏まえ,今後,石質試験を見直すことになった場合に検討が必要なこととして,吸水状態での集合体としての評価,一連の品質試験の中で簡易な岩石試験の適用性を示した.

  • 井上 敏孝
    2021 年 77 巻 1 号 p. 68-79
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/20
    ジャーナル フリー

     本稿は戦前期の日本内地における港湾政策の詳細と役割を明らかにする研究の一環として,昭和前期の日本の港湾政策決定に主導的な役割を果たした組織の概要と審議内容とそれらの歴史的な意義について解明を試みるものである.

     本稿で分析を試みるのは戦前の日本で設立された土木会議という組織である.同組織は道路・河川・港湾等の土木に関する事項を調査審議することを目的に1933年に設立された.そして土木会議内で,特に港湾に関する重要課題について審議する部門として港湾部会が設置されることとなった.それ以後,日本が敗戦を迎えるまでに実施された全ての港湾改良工事は同部会内での審議を経て実施されたものであった.そこでは現在の日本の社会経済基盤を形作る各計画が審議され策定されていた.

  • 並松 沙樹, 伊藤 裕一
    2021 年 77 巻 1 号 p. 80-91
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,東海道新幹線と山陽新幹線の鉄筋コンクリート構造物を対象とし,建設時の特徴が長期供用後の構造物の劣化状況に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.工事誌を用いることで,施工管理体制や使用材料・技術を起因とする施工上の特徴が明らかとなり,これらの特徴と実構造物の調査結果を比較することで東海道新幹線は比較的良質なコンクリート構造物が施工されたことが確認できた.さらに,山陽新幹線との比較により水セメント比や塩化物イオン量の違い等の建設時の特徴が供用後数十年経過したコンクリート構造物の劣化状況に影響を与えていることが確認された.

  • 伊東 孝祐
    2021 年 77 巻 1 号 p. 92-102
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/20
    ジャーナル フリー

     本研究は,大規模災害後の都市復興に係る行政土木系技術職員の動向を,関東大震災後の帝都復興事業を担った内務省復興局,東京市,横浜市を事例として明らかにすると共に,彼らの特徴を考察することを目的とする.技術職員に関する各種資料を整理・分析した結果,1) 国機関への優先性が技術職員の出自の構成に大きく現れていたこと,2) 組織自体が廃止された内務省復興局と組織は残る東京市と横浜市では技術職員の動向が大きく異なっていたこと,3) 技術職員の特徴として,20代から30代の若手が多く,出身校で見ると帝大出身の技師のマネジメントのもと実業専門学校および実業学校出身の技手が実務を支えているという構図であり,地方出身の技術職員で最も多かったのが土地区画整理担当の技術職員であったこと,が明らかになった.

  • 矢澤 優理子, 古谷 勝則
    2021 年 77 巻 1 号 p. 103-120
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/20
    ジャーナル フリー

     本研究は,荒川流域における3市町の荒川堤外地を対象に,農地の変遷と地域社会を取り巻く国内外の社会政治的背景との関係から,農業卓越地域としての堤外地の社会的役割の変化を考察したものである.GISを用いて農業の基盤となる地域の地質及び土壌の状況を明らかにするとともに明治期から平成期にかけての農地の変遷状況を定量的に把握し,あわせて郷土資料を用いた文献調査により農地の変遷要因について明らかにした.その結果,荒川堤外地は肥沃な砂礫質土壌を基盤として国家産業としての養蚕を支える桑畑卓越地域であったが,養蚕業の衰退とともに次第に都市近郊農村地域へと変化していった.また,公共性の高い河川空間が求められる中で農地の割合も減少していることがわかった.

  • 山田 幸長, 出村 嘉史, 木方 十根
    2021 年 77 巻 1 号 p. 121-132
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

     本研究は,明治後期の大阪築港・淀川改修並びに拡張新市街計画に焦点を当てる.これらの事業は,エコール・サントラルに留学していた古市公威・沖野忠雄・山口半六らが関わり,ほぼ同時期に計画されたものである.これまではその関連性は指摘されるものの,それぞれが規模の大きな事業であるために,一つの目的を共有した一体の事業であるとは認識されていなかったが,この3事象に焦点を当てることで,港湾産業都市建設の構想を共有しつつ段階的に具現化していった一連の事業であったことを示した.

和文報告
  • 小澤 広直, 佐々木 葉
    2021 年 77 巻 1 号 p. 38-52
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル フリー

     本報告では,昭和戦前期から戦災復興期にかけて内務省や建設省の土木エンジニア,建設官僚として活躍した都市計画家町田保(1903-1967)に着目し,町田の著した論考や書籍,公文書や事業記録などの資料を用いて,町田の経歴や仕事を整理するとともに,代表的な仕事の特徴や町田の考え方について把握することを目的とする.町田に関する年表作成と資料分析を行った結果,戦災復興都市計画では帝都復興事業での経験や知見を生かし,戦災復興院及び建設省の土木エンジニアとして中心的役割を担ったこと,首都建設計画では首都建設委員会事務局長として,戦前の地方計画の研究や戦後のアメリカ都市計画の視察に関する経験を生かし,東京を中心とする衛星都市整備計画や首都高速道路計画の立案に尽力したことなどが把握できた.

和文ノート
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