予防精神医学
Online ISSN : 2433-4499
2 巻, 1 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • 鈴木 道雄
    2017 年 2 巻 1 号 p. 1-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/12/01
    ジャーナル フリー
  • 小椋 力
    2017 年 2 巻 1 号 p. 3-22
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/12/01
    ジャーナル フリー
    精神障害の予防、とくに再発予防については、日常臨床の中で常に考えられていたであろう。しかし一次予防については、わが国では「大学紛争」などの影響もあって一次予防の研究自体がハイリスクとの考えがあった。したがって「精神障害の予防」が学会等で議論されることはなかった。 第16回日本社会精神医学会学術集会(1996)において、シンポジウム「統合失調症の予防の可能性」が実施され、心配された混乱もなく終了した。最終日の夕方、日本精神障害予防研究会が発足した。筆者が代表世話人となった。第12回研究会から日本精神保健・予防学会として発展的に改組され、水野雅文教授(東邦大学)が理事長に就任し、活動は活発化し会員数も増え現在に至っている。2017年から理事長は鈴木道雄教授(富山大学)に交代となった。 この間、わが国で第1回日本国際精神障害予防学会(2001)、第9回国際早期精神病学会(2014)が開催されたが、本学会が中心的な役割を果たした。いずれの学会も成功した。 精神障害の予防を考えるさい、一次から三次まで含めて重要なことは、脆弱要因の軽減とレジリエンス(回復力)の増強であろう。そこで現在まで報告されている脆弱要因とレジリエンスを取り上げて紹介した。最後に今後の課題について述べた。
  • 篠崎 和弘
    2017 年 2 巻 1 号 p. 23-30
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/12/01
    ジャーナル フリー
    統合失調症では発症前の段階で脳内の非可逆的変化が進行している可能性が指摘されている。前駆期でこの変化を止めることが統合失調症の治療の新ステージとなる。一方、発症予防治療薬の開発競争が進んでいる疾患にアルツハイマー病がある。統合失調症の早期介入戦略はアルツハイマー病から何を学べるのか考えてみる。 アルツハイマー病ではアミロイド仮説という有力な病態モデルがある。それによると発症の10-20年前からアミロイド沈着が始まり、やがて神経細胞死という非可逆的変化に進む。一方、統合失調症では異常物質を除去するというコンセプトでの予防はありえない。統合失調症では包括的で確定的な病因・病態仮説がないものの、NMDA/GABA障害仮説は予防戦略のよい展望を与えてくれる。この仮説に関連するバイオマーカーの確立は、サブグループを特定(患者層別マーカー)でき、介入効果の指標(代用マーカー)となる可能性がある。バイオマーカーの確立は早期介入の科学性の確立と社会からの信頼の獲得のために必要である。
  • 友田 明美
    2017 年 2 巻 1 号 p. 31-39
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/12/01
    ジャーナル フリー
    近年,欧米では,チャイルド・マルトリートメント,日本語で「不適切な養育」という考え方が一般化してきた.身体的虐待,性的虐待だけではなく,ネグレクト,心理的虐待を包括した呼称であり,大人の子どもに対する不適切な関わりを意味したより広い観念である.この考え方では,加害の意図の有無は関係なく,子どもにとって有害かどうかだけで判断される.また,明らかに心身に問題が生じていなくても,つまり目立った外傷が無くても,行為自体が不適切であればマルトリートメントと考えられる.こうしたマルトリートメントにより命を落とす子どもがいるという痛ましい事実を,多くの人が知っているだろう.しかし何とか虐待環境を生き延びた子どもたちであっても,他者と愛着を形成するうえで大きな障害を負い,身体的および精神的発達に様々な問題を抱えている. 我々は日々の臨床の中で,不適切な養育経験に起因する愛着障害がその他の小児精神疾患と複雑に絡み合うことを知っている.さらに一見,複雑な様相を呈する愛着障害が皮質下構造の一部である報酬系の破綻によって引き起こされていること,加えてその破綻には感受性期があることを著者らは突き止めた.ヒトの発達段階における,環境要因に依存して形成される回路形成およびその障害は未解明であり,その病態メカニズムを明らかにし,生物学的エビデンスを有する新規診断法や治療法を見出すことは,精神医療費の削減に繋がる可能性がある.
  • 竹島 正
    2017 年 2 巻 1 号 p. 40-47
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/12/01
    ジャーナル フリー
    わが国の自殺対策は自殺対策基本法の制定以降大きく発展し、自殺死亡率はようやく1998年の急増以前の水準に戻った。自殺死亡率の減少は、(1)自殺対策基本法に基づく施策の影響、(2)自殺対策と関連する施策の影響、(3)長期的変動の3つの要因が重なって、現在の自殺死亡率の低下が起こっていると考える。そして、(1)と(2)の効果は、自殺死亡率が急増前の水準に戻った今こそ、それがさらに低下することを示すことによって検証されると考える。わが国の自殺対策は、WHOの推奨する多部門による包括的な自殺予防戦略を、自殺対策基本法とそれに関連する背策をもとに具体化した一例であるが、自殺対策のさらなる発展には、行政、研究、活動のインターフェイス構築による創造的な横のつながりが必要とされている。
  • 岡村 武彦
    2017 年 2 巻 1 号 p. 48-55
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/12/01
    ジャーナル フリー
    世界初の精神障がい者フットサル国際大会である「第1回ソーシャルフットボール国際大会」が、2016年2月に大阪で開催され、2日間にわたる熱戦の結果、日本代表チームの優勝で幕を閉じた。いずれの試合も、選手のプレーはスポーツマンシップにのっとり、高い技術で躍動感にあふれており、多くの観客が感銘を受け、回復あるいは回復へと向かう姿を選手から感じ取ることができたであろう。 精神科医療の現場におけるスポーツは、症状の改善や体力の回復のみならず、就労・就学など社会参加促進を含めた回復を目指すことを目的とし、リハビリテーションの手段として用いられるようになってきている。スポーツが回復にどの程度役割を果たしているかはまだ明らかではないが、不安・うつなどの症状や認知機能の改善、QOL・自尊感情の向上、自己管理能力(服薬管理など)の向上、再発・再燃の防止、チーム医療のレベルアップ、就労、スティグマの軽減などが期待されている。 精神障がい者スポーツ活動の歴史は浅く、科学的・客観的効果の学術的検討をさらにしていかねばならず、また専門の知識を持った医療スタッフの育成も必要であるなど課題も多くある。ただ、スポーツは仲間が集まる場を提供し、回復を体験している人たちとの交流を実現し、仲間、家族、支援者との関係性の中での希望を見いだし、回復の物語性を紡ぐことを可能にするのではないかと思われる。
  • 堀 輝
    2017 年 2 巻 1 号 p. 56-64
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/12/01
    ジャーナル フリー
    職場における長期休職者の多くはメンタルヘルス疾患によるものである。休職に至った勤労者うつ病はその後復職に至っても、再休職率が高いことが知られている。そのため、職域においてもメンタルヘルス疾患の一次予防が重要であると考えられている。一次予防の視点からはセルフケアが重要であると考えられる。健常勤労者を対象に4週間のウォーキングの介入では、運動習慣がない勤労者は、抑うつ症状の改善、社会適応度の改善が期待でき、運動習慣の有無を問わず自覚的睡眠の質の改善が期待できる。また、休職中の勤労者うつ病患者は復職決定時に活動性が低いとその後の復職継続率が低いと報告されており、うつ病治療急性期には休養に主眼が置かれるものの、回復過程では活動性をあげていく必要があり、運動療法の役割は重要であると思われる。さらに、近年では運動療法の効果のメカニズムについても解明されつつあり、炎症性サイトカイン、神経新生の観点からの報告が増えつつある。その一方で、この領域の研究は非常に少なく、業種、職階、各国ごとの文化的な違いなどが大きいことからそのデータを応用していくには今後のさらなる研究の発展が望まれる。
  • 岡野 高明, 高岸 幸弘
    2017 年 2 巻 1 号 p. 65-74
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/12/01
    ジャーナル フリー
    目的:2016 年4 月14 日夜およびその2 日後の16 日深夜に最大深度7 を記録した熊本地震が発生し、これによって、50 人以上の死亡が確認された。災害が発生すると人は生活だけでなく、心身にも大きな負担がかかる。中でも災害が発生した地域の地方公務員は被災者であると同時に援助者にもなるため、特に災害の負担は大きいものとなる。本稿では、地方公務員に対しメンタルヘルスの維持のための支援を行う中で明らかとなった、彼らの震災後の様子について報告する。また、予防を含めた災害後のメンタルヘルスの維持のための適切な方法について考察を行う。 方法:被災地域の地方公務員188 名(男性119 名、女性69 名)を対象に、被災後のメンタルヘルスの維持のため、研修会を通じた支援を行った。支援の一環として質問紙調査も実施し、心身の症状および家庭と職場の状況がそれら症状にどのような影響を与えているか検証した。 結果:PTSD発症のレベルの深刻な症状を呈していた者は28 名(14.9%)いた。そのうち、過覚醒症状はすべての症状との関連が認められた。自尊心は震災後の心身症状に影響を及ぼしていなかったが、職場でのソーシャルサポートおよび家庭でのサポートが高いほど、心身の症状は軽かった。 結論:震災後の影響を軽減するために、望ましいソーシャルサポートの構築が必要であり、そのためにも、日ごろの人間関係が重要であることが示された。
  • 盛本 翼
    2017 年 2 巻 1 号 p. 75-83
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/12/01
    ジャーナル フリー
    近年、精神病ハイリスク者・ARMS(At Risk Mental State)を対象とした神経生理学的な知見が積み重ねられてきている。近赤外線スペクトロスコピィを用いた研究では、健常者と比較したARMSの前頭葉機能障害が繰り返し報告され、初発精神病患者や慢性期統合失調症患者との比較から、その病態解明への貢献が期待されている。事象関連電位に関する研究では、AMRSのうち、のちの精神病発症群と非発症群とを比較した検討がなされ、予後予測を含めたバイオマーカーとなる可能性がある。神経生理学的検査のもつ、安全で繰り返し測定できるという長所を生かし、縦断研究や大規模なスクリーニングなどに用いることで、広く精神疾患の早期診断・早期介入を実現できるかもしれない。
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