目的:過疎と豪雪地帯の山国秋田県で精神保健福祉センター(以下センター)が全県をカバーする遠隔精神保健を行うためにICT network:Akita Mental-health ICT Network (AMIN)を導入し、AMIN構築・運用の阻害要因とその対策、並びにその効果を検証する。
対象と方法:対象は県の運営する8箇所の保健所の精神保健担当保健師(以下保健師)である。保健所保健師からはセンターの地域精神保健に関する機能が見えない、従って、センターと連携するニーズがないという声があった。そこでセンターに対するニーズを呼び起こすために、センターは保健師が支援に利用できるツールを開発し、その使用法に関するワークショップを県内数カ所で行った。さらに、センターが多職種チームを保健所にアウトリーチして地域のアルコール依存及びひきこもりの困難事例について事例検討会を開催し、保健師のエンパワメントを図ることとした。その一部にはAMINを用いた。AMINは、タブレット端末とポケットWiFiをセットとしたもので、安全性の担保された会議システムが実装されている。12セットのうち3セットをセンターに、8セットを各保健所に、1セットを県内依存症自助組織の取りまとめを担うPSWに配布した。
結果:センターの多職種チーム派遣による保健師エンパワメント事業開始後、保健所からの事例検討会へのセンター多職種チーム参加要請は増加した。その一部にはAMINを利用して行うことで、アウトリーチによる移動時間を節約でき、開催件数を増やすことが可能となった。また、AMINを用いてもリアルの事例検討会に匹敵する内容の議論を行うことができた。保健所の依存症相談実績はエンパワメント事業開始1年後には延べ人数が増加、2年後には実人数と延べ人数が明らかに増加した。ひきこりの相談実績はエンパワメント事業開始わずか半年後でも延べ人数が増加した。
結論:多職種チームによるセンターの保健師のエンパワメント事業は保健所のニーズを掘り起こすことに有効であった。そこに遠隔精神保健のツールであるAMINを導入することでエンパワメント事業が一層に促進され、センターと保健師の連携がさらに進むことが示唆された。その成果として保健所における依存症並びに引きこもりの相談・支援の向上に役立つことが示された。
抄録全体を表示