神経回路網の研究では三次元的に高密度で配置された記録電極を有する神経プローブを用いた神経活動の解析が有効である。これまでに三次元的に記録点を配置した神経プローブはいくつか報告されているが、電極密度や加工精度に限界がある。今回、我々は三次元神経活動記録のための積層尖鋭化シリコン神経プローブアレイについて報告する。このシリコン神経プローブアレイは4本のシャンクを有する3つの単層プローブを2つのスペーサを用いて熱圧着で積層したもので、12本のシャンクと三次元的に配置された156の記録電極を有している。脳刺入による細胞損傷を低減させるために、積層後のSiの異方性エッチングによってシャンクの断面形状を四角形から三角形にして断面積を減らし、刺入後の脳への圧迫を低減している。また、シャンク先端を尖らせることで刺入に必要な力や脳の変形も同様に低減している。本神経プローブアレイは半導体微細加工技術を用いて作製しているため、高い電極密度と位置合わせ精度を実現している。試作した積層尖鋭化シリコン神経プローブアレイの刺入特性を評価したところ、尖鋭化していないものに比べて優れた刺入特性を示すことを確認した。積層尖鋭化シリコン神経プローブアレイは三次元的に高密度で配置された記録電極と優れた刺入特性を有しており、神経回路網の解明や神経生理学の発展に大きく寄与するものである。
背景:外科手術時に生じる神経損傷は術後の機能障害の原因となる可能性がある。神経に電気刺激を加え、支配筋肉の筋電図を計測する装置が使用されている。しかし、この方法では神経露出時に損傷をきたす可能性があり、麻痺予防には限界があると言われている。本研究では神経の活動電位を非侵襲的に神経から離れた位置で計測することで、術野における神経の走行を同定するための基礎的実験を行った。方法:17週齢SPFウサギ雄の坐骨神経最近位に刺激用電極を設置し、坐骨神経上ならびに坐骨神経から垂直方向に離れた位置に検出用電極を設置し、専用の増幅器を用いて神経の活動電位を計測した。結果:電気刺激と同時に棘波が、その数ミリ秒後に徐波が検出された。棘波は電気緊張性伝導として計測された。徐波はdelay timeが見られることより跳躍伝導と考えられ、その伝導速度は60 m/sであった。神経上、神経から5 mm、10 mm離れた位置での跳躍伝導の活動電位の振幅はそれぞれ、2043±677 mV、891±190 mV、562±166 mVと距離と負の相関があった。考察:計測された異なる波形は、その形状から電気緊張性伝導と跳躍伝導とに区別することが可能である。神経から10 mm離れた位置でも、跳躍伝導の活動電位を選択的に計測可能であり、神経との距離に応じて跳躍伝導の電位が測定されるため、神経探索に有用である可能性が示唆された。
近年、脳科学研究の分野において光遺伝学が注目されている。光遺伝学は光感受性タンパク質を発現した細胞のみを刺激可能であり、発現させる光感受性タンパク質を変えることで細胞の興奮と抑制を制御することができる。一方、脳神経の電気活動記録に用いられるツールの一つであるシリコン神経プローブは、微細な記録電極を高密度に形成することができ、脳神経活動を多点かつ精密に記録することが可能である。このシリコン神経プローブ上に光刺激機能を実装することで、光感受性タンパク質を発現させた細胞を光刺激し、同時に神経プローブ上の記録電極で神経活動を記録することが可能である。これまで、光ファイバをプローブのシャンク部上面に接着した光刺激機能を有する神経プローブが報告されている。しかし、接着された光ファイバによって、刺入時の脳細胞の損傷が増大する恐れがある。我々は細胞損傷を抑制しながら脳に刺入して光刺激できる神経プローブの実現を目指し、光ファイバ埋め込みシリコンオプト神経プローブの開発を行った。神経プローブのシャンク部に溝を形成し、光ファイバを埋め込むことで脳内に刺入する際の損傷を低減できる。また、溝端部に斜め加工を施すことでプローブ刺入方向と垂直に光を照射でき、特定の深さの細胞のみに光刺激を行うことが可能である。この新しい神経プローブは光遺伝学を用いた脳機能解明において有用なツールの一つとして使用可能である。