生体医工学
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Annual61 巻, Abstract 号
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  • Daniel Rueckert
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 77_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    Artificial Intelligence (AI) is changing many fields across science and our

    society. This talk will discuss how AI is changing medicine and healthcare, particularly in

    radiology. I will focus on how AI can support the acquisition of medical images and image

    analysis and interpretation. This can enable the early detection of diseases and support

    the improved personalised diagnosis. I will show several examples of this in the talk,

    including neuro and cardiovascular MR imaging. Furthermore, we will discuss how AI

    solutions can be privacy-preserving while also providing trustworthy and explainable

    solutions for clinicians.

  • 笹野 哲郎
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 78_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー
  • 櫻井 理紗, 杉町 勝, 木村 裕一, 鈴木 孝司, 黒田 知宏
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 79_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    2018年4月に施行された臨床研究法は、臨床研究の信頼性と被験者の安全性の確保のために、同法の定める「臨床研究」に該当する研究を実施する場合は医師が研究の責任主体となり、認定臨床研究審査委員会を経て研究を実施することを求めた。この同法の定める「臨床研究」に、各自の研究が該当するか判断するのは研究者本人であるが、この同法の定める「臨床研究」の対象範囲がわかりにくく、該当性の判断を行うことが難しい状況であった。特に、医工学研究の多くは、工学研究者によって行われており、生体医工学会内では萌芽的研究をはじめとする医療機器開発研究が、該当性判断が難しいことで停止する懸念や研究そのものができなくなる懸念があった。一方で、これまで被験者の安全性が危惧される研究を取り締まる法が存在しなかったことから臨床研究法の公布は必要な側面もあった。そこで生体医工学会では、臨床研究法WGを設置し、医工学研究における臨床研究法の該当性判断に関するガイドラインを公開してきた。

    本講演では、臨床研究法WGの設置から4年が経ち、今後のWG活動における論点を再考するために、臨床研究法WG設置前の学会としての懸念事項をはじめ本ガイドライン作成に至った経緯から振り返る。

  • 関野 正樹, 吉元 俊輔, 小田垣 雅人, 齋藤 淳史, 中澤 公孝, 西川 敦, 樋脇 治, 美馬 達哉
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 79_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    臨床研究法WGでは,医療機器開発に関する研究に対し医行為の該当性を判断するための参考資料として,身体の構造もしくは機能に影響を及ぼすかどうかを判断するための別表の作成を進めてきた.本班では,生体の磁気刺激を対象とした別表を作成した.特に,磁気刺激の中でも先進的な研究である経頭蓋磁気刺激(Transcranial Magnetic Stimulation: TMS)を中心に,誘導電界による刺激作用が支配的となる周波数帯域を対象として,安全性のガイドラインや総説,臨床研究の結果などの文献を整理した.また,TMS以外にも磁界の生体作用に関する文献とそれらに基づく国内外の規格やガイドラインなどを広く調査した.本発表では,これまでに調査・議論した生体の磁気刺激に関する安全性や各種ガイドラインに基づき,この度作成した別表を示すとともに,その解釈や活用方法について紹介する.また,磁気刺激を用いる研究を安全に実施するための条件について論じる.

  • 堀 純也
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 80_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

     1977年にME技術教育委員会が設立されて以降,第2種ME技術実力検定試験は43回,第1種ME技術実力検定試験は27回の試験が実施されて現在に至っている.第2種ME技術実力検定試験は,臨床工学技士を目指す学生にとっては,登竜門としての位置付けになっている.また,第1種ME技術実力検定試験は,EMC(電磁障害防止)管理者として適任とされている臨床ME専門認定士取得のための試験も兼ねている.

     第1種,第2種,いずれの試験においても基礎工学分野は重要視されているが,単なる工学の知識を問うのではなく,ME技術教育委員会では常に医療機器や病院電気設備等との関わりを念頭におきながら問題検討がなされている.第1種ME技術実力検定試験は,第2種ME技術者を指導する能力をもった「適切な指導者」を育てることを目的としていることから,第25回以降,出題形式を変更すると共に,現場で起こり得る問題や現象を中心に出題の題材として扱い,問題の中に与えられた条件・情報等から解決策を探る力を検定する内容として見直しを行った.その際に,従来は個別に出題されていた「ME基礎論(いわゆる基礎工学)」の分野が,「ME安全管理分野」,「生体計測機器分野」,「臨床治療機器分野」に含まれる形で出題されることとなった.

     本講演では電気・電子工学分野に関わるME技術実力検定試験の問題をいくつかピックアップしながら試験問題から見たME技術教育について述べる.

  • 髙橋 誠
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 80_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

     大学の臨床工学科における基礎工学の講義にはいくつかの困難な点がある。とくに電気・電子工学分野においては高校で物理を履修していない学生に「目に見えない」と言われている電気・電子工学の概念を伝えるのは難しい。なぜこれらの概念が必要なのか、医療機器の動作・原理を理解するうえで必要であることを具体的で丁寧に説明し、理解できたかを確認している。また、抽象概念がシステムの「モデル化」に役立ち、物を見る時の観点で異なった概念を導出できる場合があることも示している。 バイポーラ・トランジスタを例にとって話せば、半導体基板(ベース)に2本の針を電極として使用して特性を調べていたため図記号がそれに基づいていること、エミッタなどの端子名の由来、ベース接地のT型等価回路の考え方等を順に説明する。 医療機器もブロック化を行って各機能を説明し、生体を含めて全体としてどのようなことを行っているかを説明する。これらの説明には液晶タブレットを用いてPPTファイルを表示し、書き込みも講義後に残るようにしている。 しかし、クラス全員が一度の説明で理解いただけることはまれで、質問にできるだけ1対1で説明するよう努力している。

  • 服部 託夢
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 81_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

     本学は2017年に臨床工学技士と臨床検査技師のWライセンス取得を目指す学科として開設した。入学した学生は必ず両資格を受験することを念頭に、両分野の内容を学ぶ。開設当初電気工学は1年次に、電子工学は2年次にそれぞれ30コマの演習、実習科目は設置されておらず、全体的なカリキュラムにおいて物理分野の科目数は少ないと思われる。 在籍する学生は、入学時及び就職先においても臨床検査技師を希望する学生の比率が高く、全体的に物理・数学科目に強く苦手意識を持つ学生が多い。 年に3回、11月~1月頃に実施される全国統一模試では、11月ごろの第1回の模試では全国平均よりも低いが比較的近い値であったが、第2回、第3回と回を重ねるごとに他の科目と比べて全国平均から10%程度低く離れていく傾向がある。これは、臨床検査技師国家試験が2月中旬にあるため仕方がないと思われるが、年末年始及び1月における、電気・電子工学分野の勉強量が減っていると推測される。 本学は昨年度から新カリキュラムになり、3年次に臨床工学、臨床検査学それぞれ専門とするコースに分かれることになった。電気・電子工学においてはそれぞれ2年次に電気工学1、電子工学1、3年次に電気工学2、電子工学2と実習が設置された。 本講演では、電気工学、電子工学について新カリキュラムに移行するまでに私が実践した授業及び国家試験対策について紹介する。

  • 戸畑 裕志
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 81_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

     大学における臨床工学技士教育期間4年のうち実質3年で医療系と工学系の基礎を教育しなければならない。当然のごとく2つの大きな分野を履修するだけの時間的な余裕はなく、どのようにして教育するかについては各教育施設において悩むところである。カリキュラムの7割近くが工学系であり、特に電気・電子工学系は重要視されている。しかし多くの学生が電気系科目は苦手である。学生は医療系の学科であるのに「電気・電子工学がなぜ医療に役立つのか」が理解できない。特に中学・高校と理系科目に興味を持てなかった学生にとっては辛い科目であるが、臨床工学のベースとなる科目であり医療との関連性を理解させなければならない。 そのためには、座学のみでは困難であり、演習、実習を通じて考えさせる必要がある。最終的に、臨床現場において工学的センスを持ち技術の応用ができ推察する力を獲得する必要がある。特に医用電気・電子系授業では実践的かつ横断的な教育を行う努力をしている。例えば、オームの法則が電気系に限らず下記の類推(analogy)によって医療の分野でも用いられていることも教える必要がある。 電気回路(電圧= 電流 × 抵抗)、循環(血圧= 血流量 × 末梢血管抵抗)、 呼吸(気道内圧= 流量 × 気道抵抗)、このような観点より実践してきた内容について述べたい。

  • 佐久間 一郎
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 82_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    日本生体医工学会ME研究推進委員会では,2022年に日本学術会議が募集した,「未来の学術振興構想」の策定に向けた「学術の中長期研究戦略」の公募に対応するため,審議を重ね,「生体-人工物の融合を通じて高いQOLを実現する持続可能な社会・生態系のための革新的生体医工学の創成」とする提案をまとめた。

     本提案では我が国が直面する少子高齢社会における課題解決に貢献することを目的に,QOLの高い状態を生涯にわたり維持し,社会参加を可能とする技術開発の基盤となる基礎学理の構築と,医療、福祉、健康、介護、創薬、スポーツ、リハビリテーション等における新技術の研究開発を実施する必要性を指摘した。本課題に対し,生体が本来備える回復機能を高めるために,環境から与えられる刺激の制御や,治療介入を通じてその回復機能~レジリエンス~を強化するための,学理の構築と生体計測制御技術の開発推進を提案した。具体的には,(1)生活習慣病,(2)認知症,統合失調症などの脳・認知活動に関わる疾患,(3)がんを対象に,①ストレスの検出とその制御,②有効性を維持しつつ薬物による介入,放射線治療,外科治療の介入を低用量化するため治療制御技術,③こらを実現するための体内埋め込み型医療デバイス,遠隔モニタリング,制御技術の開発,そして生命倫理に関する研究推進の必要性を提言した。本シンポジウムでは議論の概要を紹介し,会員諸氏との議論を深めたい。

  • 小野 弓絵, 横澤 宏一
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 82_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

     医療技術の進歩により、平均寿命を延伸することは一定の筋順で達成できている。しかしながら治療の結果もたらされる生体機能の低下、副作用などにより慢性疼痛や種々の合併症など生活の質(QOL)の低下を伴うという現実も存在する。また急速なIT技術の進歩により、ヒトの認知処理能力を超える情報ストレスが新たな精神疾患を産む危険性も指摘されている。

     この課題に対し、生体が本来備える回復機能—レジリエンス―を高めるために、生体に対する刺激とその生物学的効果の定量化、適正なモデル化に基づく介入制御手法、生体の応答の客観的評価を支援する技術の開発が急務である。特に脳・認知活動のレジリエンス向上のためのターゲット技術は、ニューロフィードバック・バイオフィードバック、ストレス検知、情動検出、ニューロエンハンスメント、脳刺激、バイオセンサ、ドラッグデリバリー、XR、モバイル医療などであり、これらを実現するためには、モバイル型脳・生体機能計測デバイス、体内埋め込み型医療デバイス、遠隔モニタリング技術のさらなる開発と、これら技術を医療福祉に照らして適正に活用するための多施設臨床研究・フィールドテストが必要となる。

     以上を実現するために、日本生体医工学会および関連学会によるコンソーシアムを形成し、指定課題・公募課題による研究の推進、および生命倫理教育、臨床研究支援、教育機能の共有・拡充を図ることを提案する。

  • 小川 智也, 佐々木 裕介, 長谷川 総子, 金山 由紀, 安田 多美子, 清水 泰輔, 長谷川 元
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 83_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

     人工臓器領域における腎代替療法は日進月歩であるが、装置や薬剤の進化以外に今あるものを上手に活用する技量の向上にも支えられている。このテーマである在宅人工臓器であるが、在宅血液透析HHDは生命予後の向上とともに、QOLの向上が期待されている治療である。しかし、本邦の透析患者全体の1%にも届かない1000人以下の状況で広い普及が望まれるが、妨げる一因としてバスキュラーアクセスの問題がある。現行では鋭利な穿刺針を使うため、自宅での非医療者の穿刺は法律的には認められず、現在HHDを行っている患者も自己穿刺は大きなハードルだったと言える。 自己穿刺は通常穿刺を自己で行うだけという単純なものではない。穿刺の準備から血管の観察、消毒、穿刺、留置後の回路接続と固定、どれをとっても自己完結するには根底から考える必要がある。一つだけ例を挙げると、穿刺者の目と針と患者の皮膚穿刺点が一方向になることで正確な穿刺が可能になるが、自己穿刺ではこれらを直線的に捉えにくいので、マニュアル通りに指導しきれない理由でもある。 穿刺補助になるデバイスの開発や、穿刺針自体の改良が必要であるとともに、その教育方法にも大きな工夫が必要と思われる。また、カテーテルやアクセスポートなどの新たなデバイスも期待される。臨床現場における見地から、より良いHHDのVAを得るために必要な取り組みなど、皆様と問題を共有したいと思う。

  • 佐川 貢一, 笹川 和彦, 小渡 亮介
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 83_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    採血業務は,患者にとっては大病院などでの長い待ち時間や血管が見えにくいことによる穿刺の失敗,医療従事者にとっては針刺し事故などによる感染症のリスクや長時間業務による負担など,様々な問題を抱えており,自動化が期待されている。近年,海外ではプロトタイプ機が開発され,最終段階の臨床試験まで進んでいる。このような装置では,血管位置の計測に超音波画像が使用されており,患者と接触する必要がある。一方著者らは,できるだけ患者と非接触で血管穿刺することを目標に,赤外線ステレオカメラを利用した血管位置の3次元推定法を考案し,これまで透明ゲルを使った模擬皮膚内の模擬血管を対象とした自動穿刺実験を行っている。また,模擬血管壁を貫通したときの力覚の変化と,採血針への逆血を検出することにより,穿刺成否を判断する制御システムを開発している。これまで,深さ4mmおよび6mm,内径2mmおよび3mmの模擬血管への自動穿刺の実験を行い,85%程度の成功率が得られている。ただし,実際の皮膚では光の屈折および拡散の影響により,見た目の血管位置は浅く推定されることが確認されており,今後は屈折および拡散を模擬した模擬皮膚の中の模擬血管の深さを精度よく計測する技術の開発が必要である。また,採血熟練者が血管穿刺のために行う手技を計測し,ロボットに実装することで,確実な血管穿刺を実現する制御方法の実現を目指している。

  • 小野 弓絵, 中林 実輝絵
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 84_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    血液透析中に生じる血圧低下や有痛性筋痙攣などの透析合併症は、患者の苦痛や透析の中断を招いてQoLを低下させるため、その原因の究明および予防が喫緊の課題となっている。我々は組織血流の速度を非侵襲的に計測する新しい光学技術である拡散相関分光法(diffuse correlation spectroscopy: DCS)を用いて血液透析中の前脛骨筋血流を連続的に計測し、透析患者の血圧低下メカニズムの解明と早期検出法の開発を目的とした研究を行っている。透析中に計測した末梢血流量と平均血圧から算出した末梢血管抵抗の透析時間全体の平均値は透析終了時の血圧との間に有意な相関を認め、透析後血圧低下を呈する症例では、除水による血液量の減少にも関わらず末梢血管抵抗が増加せず、末梢血流が増加するために心拍出量の低下と動脈圧の低下に至る可能性が示された。また、この相関関係は透析時間全体の50%経過時までの末梢血管抵抗と透析終了時血圧との間でも維持されており、透析時間全体の50%、75%の時点において、透析終了時の血圧低下をそれぞれ87.5%、75.0%の感度で検出することが可能であった。透析中の筋血流計測は透析中に生じる血管調節不全を検出するうえで有用であり、今後、透析中合併症の予測・予防システムへの応用が期待できる。

  • 塩瀬 明
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 84_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    九州大学大学院医学研究院循環器外科塩瀬 明これまでの植込型補助人工心臓(VAD)治療は、心臓移植を目指す治療の一貫(BTT, Bridge to Transplant)として行われてきたが、2021年4月より心臓移植までの橋渡しを目的としない植込型VAD治療が始まった。海外で「Destination Therapy(DT)」と呼ばれるこの治療は、日本語で「長期在宅補助人工心臓治療」と称されている。DTでは、心臓移植に到達することが第一の目標であるBTTと異なり、患者・家族のQuality of Lifeの維持が重視される。すなわち、心不全を治療するという医学的要素に加え、医療機器であるVADと共に生きるという姿勢が、DTではより重要となってくる。VADは、治療効果とともに安全性を向上させながら大きく進歩してきた。一方で、デバイスに起因するトラブルやヒューマンエラーも含めて種々の合併症が、いまだ生じうるのも事実である。理想的な在宅管理の実現には、医学的進歩だけでなく機器面での性能向上も不可欠であり、これは患者に”やさしい”医療につながるものである。VAD治療は成熟期に入っているものの、現在進行形で発展を続けている医療である。医学・生体医工学のさらなるコラボレーションにより、これまで以上の発展を遂げることを期待している。

  • 小川 充洋
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 85_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    VAD(補助人工心臓)を装着した患者においては、血圧の脈圧が健常人と比較して顕著に小さくなる場合がある。なお、ここでも脈圧は収縮期血圧と拡張期血圧の差としてもよいし、あるいは血圧計測法によっては拡張期血圧が推定値となるといった問題を考えるならば収縮期血圧と平均血圧の差としてもよい。在宅VAD患者の血圧管理を考えた場合、自動血圧計測が必要であるが、家庭用血圧計に用いられるカフ振動法による血圧計測においては、動脈の脈動に起因する現象を利用しているため、血圧計測が困難になると考えられる。その他の血圧計測法においても、自動化が容易であり、血圧の脈動に計測原理が由来しないといった条件を満たすものはなく新たな計測法の開発が望まれる。われわれは、カフによる動脈圧閉部位から十分に末梢側の体肢容積を連続的にモニタリングすることによって、血圧の脈動が小さい場合において血圧を計測する手法を考案したので、これを報告する。この方式は、体肢における静脈血流遮断 (venous occlusion) を行った際に、体肢への血流によって体肢容積が増加する現象を用いるもので、体肢容積の増加は小さいが、光電的にこれを検出することによって容積そのものではなく、体肢への貯留血液の増加情報を得るものである。提案する方式によって、血圧の脈動に依存することなく収縮期血圧を計測可能であり、その他の血圧情報の計測についても検討中である。

  • 松本 健郎, 王 軍鋒, 前田 英次郎, 辻村 有紀, 横田 秀夫, 北口 哲也
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 86_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    細胞や組織内部の力を分子レベルで明らかにする方法としてFRET現象を利用した張力センサがある.FRET現象とは,例えば緑色蛍光タンパクと赤色蛍光タンパクをnmレベルの距離に接近させ青色光で励起すると,青色光では励起されない赤色蛍光タンパクが赤色蛍光を発する現象であり,両者をバネのようなリンカータンパクで結合すると,加わる張力をFRET ratio (緑色蛍光強度/赤色蛍光強度)で見積もることができる.我々もこのような蛍光タンパクのペアをアクチンを束ねるタンパク(アクチニン)に組み込んだ張力センサを開発し,細胞内のストレスファイバに作用する張力の変化などを調べているが,このセンサのプラスミドを組織に導入するのは極めて困難であった.そこで我々はこのセンサをゲノムレベルで発現するFRETマウスを開発,このマウスの各部組織の引張に伴うFRET変化を観察した.胸大動脈と尾腱を摘出し,共焦点レーザー顕微鏡(LSM880, Zeiss)下で0~40%の単軸ひずみを段階的に負荷・除荷し,FRET ratioを求めた.両組織ともひずみとFRET ratioはほぼ線形に変化したが,感度は腱組織の方が高かった.今回,我々が開発したFRETマウスは全身にセンサタンパク質が発現しており,蛍光も通常の共焦点顕微鏡で観察できる程度に明るい.今後,生体組織内部のひずみ変化を測定する新たな方法として期待できる.

  • 森松 賢順
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 86_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

     組織や器官を構成する細胞は、静水圧、浸透圧、伸展圧縮等の圧刺激を受容し、適切に応答することで細胞自身や組織の機能を維持する。しかしながら、細胞の圧刺激に対する受容応答メカニズムの解明には未だ研究の余地があった。本研究では、様々な圧刺激に応じた細胞形態および細胞内シグナル伝達経路を定量し、細胞の圧力受容応答メカニズムの解明に迫ることを目的とした。その結果、各圧刺激において、細胞機能と細胞内シグナル伝達経路の変化を誘導する強度閾値が存在することが分かった。さらに、これらの閾値は生体内での生理的環境に関与していることも見出した。本研究で得た知見は、圧刺激に関する恒常性の維持メカニズムの解明をさらに加速させると確信する。

  • 片野坂 友紀
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 87_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    We have previously shown that transient receptor potential cation channel vanilloid-family type 2 (TRPV2) is essential for the physiological response of cardiomyocytes to mechanical stress. Here, we discuss the physiological and pathophysiological roles of TRPV2 in the heart. Elimination of TRPV2 from adult mice results in chamber dilation and severe cardiac dysfunction, indicating that TRPV2 is essential for the maintenance of structure and function. On the other hand, TRPV2 deficiency from juvenile stages leads to the formation of small, weakly contractile hearts in adult mice, which do not enhance contractility in response to dobutamine stress, suggesting a reduction in contractile reserve, a common observation in heart failure. These mice showed the defects in the compensatory hypertrophic response to pressure-overload. Taken together, TRPV2 signaling is required for cardiac maturation, maintenance of physiological function, and adaptive response to hemodynamics. In addition, defects in this signaling result in severe heart failure.

  • 淺原 弘嗣
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 87_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    私たちは、従来、活性がないと思われていた結合組織である腱が、メカノレセプターPiezo1から腱のマスター転写因子Mkxに至るAxisによって、運動器の機能そのものを大きく変容せる機能あることを明らかにしてきた。本講演では、腱によって紡がれる我々の運動器が、どのような分子機構および物性システムで、その機能を発揮するのか、その維持がヒトの健康にどう役にたつか、スポーツの能力は、遺伝子・分子レベルで、どのように規定されているのか、そして、腱の疾患にどう取り組んでいけばいいのか、腱のもつ生物学的・物性的な活性について、私たちの知見を共有、議論したい。

  • 山本 希美子, 安藤 譲二
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 88_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    血管内皮細胞(EC)は剪断応力や伸展張力などの血行動態の変化に応じて機能を変化させることにより、循環系の恒常性を維持している。しかし、ECが剪断応力や張力の変化をそれぞれどの様に区別して感知し、細胞内の生化学的なシグナルに変換するのかは不明であった。最近、ECの細胞膜は、剪断応力や張力に対して、膜流動性や脂質分子の配向性、コレステロール含量が異なる変化を示すことが明らかになった。また、人工脂質二重膜でも剪断応力や張力に対して、ECと同様の変化が見られたことから、生体反応というよりは物理現象であることが示された。機械的な力は、まず細胞膜の物理的な性質を変化させる。この様な膜の物性変化は、膜受容体の活性化を引き起こし、それぞれの力に特異的な細胞応答を引き起こす。具体的には、ミトコンドリアのATP産生やATP作動性Ca2+シグナリングなど、細胞内シグナル伝達経路を活性化した。コレステロールバイオセンサーと蛍光共鳴エネルギー移動型ATPバイオセンサーを用いた最新のイメージング技術により、ミトコンドリアATP産生が細胞膜コレステロール依存的なミトコンドリア酸化的リン酸化を介することが明らかになった。さらに、ミトコンドリアのATP産生の増加は、ECからのATP放出をもたらし、細胞膜のプリン受容体を活性化し、剪断応力に応答する2+シグナリングが惹起された。これらの知見は、ECの細胞膜が機械的な力に応答するメカノセンサーとして働くことを示唆し、細胞膜をメカノセンサーとして捉えることは、様々な膜タンパク質と複数のシグナル伝達経路をほぼ同時に活性化するECのメカノトランスダクションの特徴の説明につながると思われる。

  • 福田 幾夫
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 89_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    大災害時には災害中心地ほど医療需要が急増する一方で、病院機能は低下する。その原因は病院のインフラストラクチャ(建物、電気、水道、エネルギー)の被災と人的資源の不足である。インフラストラクチャについては、病院の建築構造強化、備蓄などで対応可能であるが、人的資源は病院職員が被災者になるために、必ずしも充足せず、医療需要は逼迫する。1995年の阪神淡路大震災以来、2004年中越地震、2011年東日本大震災、2015年熊本地震、度重なる豪雨・暴風災害などの経験をもとに地域中核病院のインフラストラクチャは災害耐性を高めてきた。しかしながら、中小病院・療養施設は予算上の制約のため、災害耐性を高めるための十分な予算措置が困難である。将来間違いなく起こると予測されている南海東南海広域地震や首都直下地震、さらに大型台風による災害では病院が孤立し、救援が入るまで長期間「籠城」を余儀なくされる可能性が指摘されている。入院患者を守りながら周辺地域の医療需要に応えて行くために必要な備えを、過去の事例をもとに考えたい。

  • 梅津 光生
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 89_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    災害医療派遣チーム(DMAT)のHPに、阪神淡路大震災での初期医療体制の遅れから、避けられた災害死が500名に上ると考えられ、臨時医療施設の開設と重症患者の広域搬送の必要性が記されている。自衛隊やDMATが被災地に最初に到着し、その後赤十字などの災害医療チームが続々と救援活動に加わっている。しかし、最近の目覚ましい技術の進歩を見ると、今まで注目されていなかった「鉄道」が上記の問題解決に大きく貢献できる可能性があるのではないか、と考えるに至った。被災地では、がれきを取り除けば線路を確保できるが、停電では電車が使えないと考えるのが一般的である。しかし最近では蓄電池搭載型電車が開発され、電化区間では架線からの電気で通常走行すると同時に、蓄電池への充電を行う。非電化区間では蓄電池を使って走行する方式で、これは災害・停電時にも活躍が期待される技術である。また、日本赤十字社が全国17か所に準備している国内型緊急対応ユニット(dERU)は、臨時医療施設を開設するためのものである。被災地がどこであれ、鉄道貨物コンテナを用いれば被災地の近くまでそれを医療スタッフと一緒に運び、トリアージや大人数の患者搬送に使えるであろう。このようなアイデアの実現には、従来の地方自治体、厚生労働省(DMAT)、日本赤十字社などの他に、国土交通省や鉄道事業者も災害救援の司令塔の枠の中に入れるような仕組みが重要と考える。

  • 生田 幸士
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 90_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

     南海トラフや首都圏直下型など従来の震災規模をはるかに超えた広域の大震災直後と、その後の長期にわたる劣悪環境下の避難所生活における医療、健康維持戦略は、急な予算増額した防衛に比べ、予算、具体的対策、実行がはるかに遅れている。非常時の状況と具体的問題点が研究者や一般社会へ十分に情報公開されているとは言いがたい。昨年度新設された「防災医工学専門別研究会」主催の本シンポジウムの主旨はここにある。政府努力に任せるだけでなく、民間主導で広域大災害防災の自衛策を考案し、その社会実装を進めること。

     筆者は東日本大震災の医療環境の調査報告書をまとめられた福田幾男弘前大学名誉教授らからの情報提供を受け、従来の専門分野の立場を超えた「防災医工学」を多角的に立ち上げることを提案している。具体的には、震災で医療機器の機能が失われない耐G規格の制定と対策。電力、医療器材、医療従事者が不足した避難所、仮設住宅で健康維持策。電力不足の避難所で時系列的に発生する各種ウイルスの検知デバイスなど多岐にわたる。さらに新発想の津波対策と社会実装策などを紹介する。

  • 山崎 嘉己, 川野 聡恭
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 91_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    世界規模で高齢化が進展する中,難聴は認知症に対する最大の危険因子であると報告されている.また,約1,000人に1人の新生児が聴覚障がいであり,オーディオ機器の普及により若年層の難聴も急増している.全世代に対する聴覚ケアは焦眉の問題であるが,感音性難聴の治療法である人工内耳には,可聴周波数帯域の制限や聴神経の電気刺激効率に課題が残る.これまでに,感音性難聴に対する未来医療に関連し,機械工学的考究と微小電気機械システム (Microelectromechanical systems: MEMS) 技術に基づき,蝸牛の感覚上皮帯に立脚した次世代型人工内耳を開発してきた.微小パターン電極群を備えた台形状の圧電薄膜から成り,基底板と内・外有毛細胞の機能を再現する.基底板を模倣した構造により,入力音の周波数を識別するが,人工感覚上皮帯は蝸牛を満たすリンパ液中に設置されるため,流体構造連成振動を考慮した実験および理論から応答周波数帯域を最適化した.また,人工感覚上皮帯には生体適合性に優れた非鉛・有機圧電材料であるPVDF-TrFEを用いており,圧電効果によって内有毛細胞の音響/電気信号変換を実現する.一方,電気出力が微弱であり,聴神経の電気刺激が困難である.そこで,外有毛細胞を模擬した振動制御系を実装し,最適な信号増幅機構を付加した.人工感覚上皮帯は,聴覚ケアへの臨床応用に資するとともに,医工学の観点から聴覚生理の理解を深められることが期待される.

  • 八木 哲也, 武内 良典, 林田 祐樹
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 91_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    ヒト視覚系では、網膜によって受容・処理された視覚情報は、網膜出力である視神経によって活動電位の時空間系列の形で外側膝状体を経て視覚野へと伝達される。視覚野より抹消側組織の不全による失明者の視覚野を電子デバイス・回路によって直接電気刺激し、視覚を部分的再建する未来治療が、脳刺激型人工視覚である。現在、この研究は臨床試験も含め世界的に盛んになってきているが、いまだに極めて単純な光覚パターンの再建を対象とし、失明者にとって有益なレベルの視覚再建には大きな距離がある。本グループでは、画像認識機能の再建を念頭におき、ヒトの視覚系に近い構成での脳型人工視覚のデザインを行っている。仮にこれをニューロモーフィック(NM)人工視覚と呼ぶ。NM人工視覚は、網膜の構造と機能の一部を集積化したNM網膜、体外用情報制御モジュール、体内用情報制御モジュール、および多点電極駆動チップからなる。NM網膜は、視覚情報を実時間で受容・処理し、視神経の活動電位応答を模倣した信号を出力する。体内用および体外用情報制御モジュールは、それぞれマイクロプロセッサを内臓しており、外部用はNM網膜からの信号を受けとり、この情報を実時間で圧縮し内部用モジュールへと伝送する。内部用は受信した情報から刺激電極を選択し、多点電極駆動回路を制御する。NM人工視覚は、視覚系の効率的な情報処理・通信を再現するものであり、小型低消費電力での人工視覚実現に最適なデザインである。

  • 太田 淳
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 92_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    本講演では,大阪大学,株式会社ニデックと我々のグループで取り組んでいるSTS(Suprachroidal Transreteinal Stimulation:脈絡膜上経網膜刺激)方式や他の方式など現在の人工視覚開発の現状について述べる.次に次世代STS方式として,我々のグループで開発を進めている広視野,高密度を可能とする分散型網膜刺激デバイスについて,原理,構造,現在の開発状況などについて紹介する.最後に今後の展望について述べる.

  • 芝田 晋介, 奥山 健太郎, 早津 学, 内山 景子, 川田 治良, 熊本 淳一, 信藤 知子, 盛一 伸子, 鈴木 雅美
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 92_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

     日本人の死因第一位は悪性腫瘍であり、癌治療を受ける患者の3分の1には罹患早期より疼痛が認められる。早期からの痛みの有無はQOLを大きく左右し、全身化学療法後の治療効果の予測因子の一つとされている。現在、悪性腫瘍浸潤が進行した際に生じる神経障害性疼痛に対する治療薬はモルヒネ以外の選択肢がなく、無効例も多く、高用量のモルヒネによる意識低下はQOLを低下させる。そこで私どものチームでは新規の特殊培養デバイスを開発することにより、ヒトiPS細胞由来の特殊な神経オルガノイド培養法を確立し、これまでになかった新しい客観的な感覚神経活動の評価系の開発に取り組んできた。

     無限に増殖可能なヒトiPS細胞から分化誘導して作成した有髄・無髄の神経オルガノイドの神経活動を経時的に計測する新規デバイスの開発を行い、将来的に疼痛に対する治療薬の開発などに役立つ新規in vitro神経評価技術の開発を実施している。ヒトiPS細胞由来の神経オルガノイドを用いる評価系のため大量生産が可能で、難治性疼痛のための新規薬剤の開発スクリーニングをプロトコル標準化により無人で実施可能になる可能性を有している。客観的な「疼痛評価」がin vitroで実現できれば、これまでモルヒネさえも効かなかった癌浸潤性の疼痛などへの新規薬剤の開発も十分に期待できる。

  • 石塚 裕己
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 93_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    本発表では,人間の皮膚,末梢神経,中枢神経を模倣した触覚センシングシステム及び,人間の触知覚のメカニズム解明に関する取り組みについて発表する.人間の触覚知覚のメカニズムは生理学実験の結果から徐々に解明されつつあるものの,それを生体のメカニズムに基づいて完全再現するような取り組みは行われていない.そこで,皮膚の特性を模した柔軟な材料の中に受容器サイズのセンシング素子を埋め込んだ触覚センサを実現する.次に,触覚受容器の応答や中枢神経での情報処理を再現可能な数理モデルを構築し,計算機に実装する.最後に,このセンシングシステムが人間と同じ触覚を有することができるかを,例として材料識別能を評価することで明らかにする.また,このようなセンシングシステムを高度化するためには触覚だけでなく,他の感覚情報がどのようにセンシングシステムに活用されるのかを明らかにする必要もある.その一例として,触覚情報と視覚情報の脳における処理に関する研究を行っており,それについても発表する.

  • 仲上 豪二朗
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 94_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    看護理工学は、臨床をつぶさに観察しニーズを見極めることから始まり、メカニズムの探索、客観的計測方法の開発、介入機器・システムの開発、臨床での評価、人材育成、そして次のニーズの明確化までつなげる円環的研究プロセスである。「無いなら創る、そして広める」をスローガンにした新しい融合的研究フレームワークといえる。演者は褥瘡をはじめとする難治性創傷の研究に従事しており、特に褥瘡発生を予測するための様々な手法を考案してきた。医療現場では常に記録やセンサデータが発生し続けており、ここには患者の状態を知るための情報が豊富に含まれている。日常臨床ではこの情報を医療者が読み取り、目の前の患者のために役立てる。一方で、この大量・多様な情報がすべての患者について、365日発生し続けており、それはリアルワールド(RWD)となる。しかしながら、看護学においてこのRWDを活用し、新しい看護ケアを生み出す試みはまだ限定的である。臨床の文脈、情報システムの運用、診療報酬制度を十分理解した上でRWDを活用するスキルを持った人材が不足しているからであろう。しかし、これらすべてに精通した人材を待つのではなく、それぞれの得意分野を生かして、チームでRWDを活用することがよりよい看護実践の創出に必要である。本講演では、看護学の若手研究者が実施したRWDのAI解析による褥瘡発生予測研究(PMID: 33975074)のプロセスを共有し、看護実践における情報医工学の可能性について述べる。

  • 島田 順一
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 94_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    2019年当時の、無症状、軽症である新型コロナウイルス感染患者を在宅で管理する際における最大の問題は、呼吸状態などの病状の急変がおこりうることであった。コロナPCR陽性で自宅待機中に容体急変で死亡する症例も発生した。患者を在宅医療で管理する場合の呼吸音の「聴診」の遠隔管理に注目した。ウイルス性の間質性肺炎の進行に伴い、肺胞が壊れ、肺の捻髪音が増加することに注目し、この呼吸音を遠隔管理できる聴診音解析システムを着想した。自身の医工連携の活動の中で、Team In KYOTOと名付けた異業種企業の連携勉強会を主催している。「ちえづくり」を大切にし、そのうえで課題を解決するモノづくりを企業と話し合う場で、新型コロナウイルスが猛威を振るう中、討論を重ねた。音を可視化するアイデアを基に練り上げた「ウイルス性肺炎急性増悪の早期検出のための呼吸音変化AI解析による在宅管理システムの研究開発」は、2020年10月の京都府コロナ社会対応ビジネスモデル創造事業補助金に採択された。第1次試作機は、2021年2月に完成し、スマートフォン連動のコイン電池式20グラムの貼付式である。

    医師の働き方改革が2024年から始まる。同時に医療職全体の働き方も大きく変革せざるおえない。体温と心電図も同時記録できる聴診音解析システムを活用した医療DXによって、効率的な看護を改革する「看護力」の実現につなげたい。

  • 山田 憲嗣, 宮西 七海, 落合 渉悟, 倉橋 絢也, 谷田 純
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 95_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    我々は訪問看護・在宅医療における情報流通基盤を実現するためのスマートコントラクトを活用したデータ流通基盤構築を行っている.遠隔診療において医療健康情報の流通が重要であるが,現状では,紙カルテやExcel管理といった,診療所におけるデジタル化の遅れが大きな課題になっている.我々は,Google Form等の無料で作成できる入力プラットフォームをインターフェースとして使用し,信頼性保証,セキュリティが担保された情報の流通を行う.診療所における費用負担,業務負担が極力ない形での情報流通システムの開発は,DX推進の普及モデルとなる.講演では,情報連携に必要な,かかりつけ医問診,訪問看護計画,記録,訪問リハビリの計画・記録,スクリーニングなど現在行っている実証研究について報告する

  • 今田 寛人
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 96_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    筆者が医療現場で研究を行う理由の一つに”医療機器の保守・安全管理によって患者により良い医療を提供したい”との思いがある。医療法により、医療機器の保守・管理や安全教育が義務付けられているが、その間接的指標として、医療機器安全管理料1の算定があげられる。2015年時点において、算定施設数は2,571/8,464施設(30.4%)であり、算定割合は公的病院や大病院ほど高く、私立病院や中小病院ほど低いと報告されている。医療機器安全管理料1の算定のみで医療機器の安全性の質は評価できないが、すべての医療機関で医療機器が保守・管理されているとは言い難いことが伺える。その原因として、どのような保守・管理を行えばより安全で効率が良いのか、正しい使用方法の教育・啓発活動はどのようにすればよいのか等の”医療機器管理のエビデンス”が乏しいことがあげられる。筆者はそれらの課題に対し、科学的に実験・分析を行う”工学”、それが人体にとってどういう意味をもつのかという”医学”を用いた学問横断的な研究を行ってきた。生体医工学の定義は“医学に工学技術を取り入れて、生命現象を明らかにするとともに、診断や治療に有効な手段を提供する新しい専門分野”とされており、振り返ると筆者の研究分野は生体医工学であったのかもしれない。本セッションでは、筆者のこれまでの取り組みと研究を振り返り、今後、”医療機器管理のエビデンス”を作るための課題を示したい。

  • 元山 明子
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 96_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

     医療の進歩に「開発」は無くてはならないものであり、より安全・効率的・経済的に優れた医療を提供するために先人らの知恵は現代に引き継がれている。なかでも医療機器や医療で使用される測定器の開発では、医療と工学の共通知識を持つ臨床工学技士の担う役割が大きく、日本臨床工学技士会登録情報では2022年度までに77件の医療機器・測定器製品が臨床工学技士によって開発されている。専門的な単独分野、「医」の臨床現場(医療分野)と「工」のものづくり企業(工学分野)を連携する事を「医工連携」と呼ぶが、臨床工学技士はそれぞれの単独分野の専門用語を共通言語に置き換えることが可能で、開発のみならず仲介役で活躍する先駆者も存在する。医工連携そのものが生体医工学であり、必要なコンピテンシーの中に生体医工学の知識を有することは必須である。 筆者は非観血式血圧計(以下血圧計)腕帯の客観的な点検を実現する空気漏れ検出器「Emora」を開発した。血圧計は様々な施設が多数保有し、その使用頻度は高く、修理件数も多い。修理は腕帯やチューブからの空気漏れが多いが、点検方法に課題があると考え、空気漏れを客観的に検出できる測定器の開発に至った。今回のセッションでは自身の開発経験談を中心に、医療と工学の双方の知識を保有し連携させることが、学術的活動・社会貢献にいかに役立つかをお伝えしたい。

  • 岡田 未奈
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 97_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

     近年、現代の高度な医療技術の進歩、高齢化社会による患者背景・既往歴の多様化などによって、医療行為は様々な知見や活動が複合的に作用しており、その因果関係は極めて複雑である。私たちは様々な職種や領域の分業化しているが、時に自身の専門性に関わらず、多くの情報を分析・考察することが求められている。そして、目の前の課題解決に取り組むためには、単一的な知識に留まらず、複数の専門知を統合しながら新しいアイデアを生み出し、実践的なアプローチをすることが求められている。 知を統合する学問として「学際(interdisciplinarity) 」がある。学際は通常、複数の専門分野の研究者たちが協働し、それぞれの角度から課題解決に取り組む方法論とされているが 、学際の取り組みそのものが、個人のなかであらゆる知を探索し統合する思考力のひとつであると考える。 医療従事者にもあらゆる知をデザインする能力が必要であり、生体医工学の分野においても、医学や工学だけに留まらず、取り組みたい課題に応じて、他の専門分野の知見を積極的に取り入れ、時に自らが積極的に参加し、理解する必要があると考える。 では、これからの臨床研究の発展とその成果を目指すにはどうしたら良いだろうか。ここでは、「デザイン思考」、「学際」、そして「一人称」を用いた研究プロセスの方法論について一考察を述べたい。

  • 田原 卓矢
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 97_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    昨今、医療現場のみならず、教育の学術的発展は波及しているが、その専門家は少ない。医療者教育学の修士課程は、90年代には欧米で7校しか存在しなかったが、2020年には世界で160校以上の医療者教育学関係の修士過程が設立され、我が国でも2020年から医療者教育学修士課程が開校した。生体医工学会においても、教育講演として、若手への論文指導、研究を根づかせるための講演やどうすれば若手が興味を持って医工学研究に参入できるか、などのセッションが増えているように感じる。例えば、若手が素晴らしいアイデアを持っていたとしても、予算化し、医療機器創出を実現するにはハードルを感じてしまうだろう。また、論文に関しても研究の過程で必ず書かなければならないものではあるが、若手の研究者や大学院生では、どうやって書けばよいのか、何に注意しなければならないのか迷う場面が多いのではないだろうか。教育について学び、多くの若手に対して、さまざまな支援を実施することで、若手が感じているハードルを下げることができれば、若手による研究・論文等の活性化に寄与できるかもしれない。そういった専門家による適切な教育支援は、多くの実現可能性の向上と効率的な知識・技術の発展に貢献できると考える。本セッションでは、医療者教育学について学ぶ発表者から、専門職種の教育の可能性について紹介する。

  • 遠藤 哲夫
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 98_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    医療機関における電波利用機器に配慮した建築ガイドライン・同解説-医用テレメータ編-は、医用テレメータなどの電波を利用した医療機器が安心して使用できる医療施設を計画することを目的として、2021年9月に日本建築学会環境工学規準として発行された。本稿では、建築ガイドラインのポイントを紹介する。設計段階では、病院関係者、建築設計者、医用テレメータメーカが、医用テレメータの設置要件や建築図面等の情報を共有し、アンテナシステムの配置や配線経路、及び建物内の電波環境等の計画を協力して検討する必要がある。建築設計者は、医用テレメータの回線設計が適切に行えるように、患者の移動範囲と受信アンテナの通信可能範囲、アンテナシステムの配置や配線経路、使用する建材や建具、近接する設備機器などについての配慮が必要である。病院関係者は、携帯型テレメータを装着する患者の移動範囲やアンテナシステムの方式など、可能な限り具体的な情報を建築設計者と共有することが重要である。また、建物施工段階において、医用テレメータメーカが受信アンテナなどの施工を行い、受信アンテナ設置前後の電波環境を測定評価することによって、適正なアンテナ配置を実現することが可能となる。さらに、建築設計者・施工者は、病室の壁貫通口や受信アンテナ周辺の天井点検口の設置など医用テレメータのメンテナンス対応を予め整備することも重要である。

  • 吉山 潤一
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 98_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

     医用テレメータは患者に装着された送信機からの無線信号を受信して、心電図や心拍数などの生体情報をモニタリングする装置である。病室に設置された医用テレメータは、送信機、アンテナシステム、ナースステーション内のセントラルモニタ等で構成される。医用テレメータに電波に関するトラブルが発生した場合、不整脈を見落としたり異常の発見が遅れるなど非常に危険である。総務省のアンケートによれば、医用テレメータは約8割の病院に導入されており、そのうち約4割が電波に関するトラブルを経験したと回答している。トラブルの中で最も多いのは、特定の場所で電波が十分に届かないことであり、約8割を占めている。原因として、病院の建築設計段階でアンテナシステムの配置や配線などに対して十分な配慮がされていないことがあげられる。このため、2021年9月に日本建築学会から「医療機関における電波利用機器に配慮した建築ガイドライン・同解説-医用テレメータ編-」が発行された。これは、建築事業者と病院関係者、医用テレメータ製造販売業者が設計段階から情報を共有することで医用テレメータを安定して使用するための注意すべき点や避けるべき事項を示すことを目的としている。本シンポジウムでは,医用テレメータの概要と医療現場で起こっているトラブルを説明するとともに、今後どのような対策や取り組みが必要になってくるかを議論できれば幸いである。

  • 釡谷 真一
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 99_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    医用テレメータ機器のメーカーである当社より、医用テレメータ機器の設置や運用での事例と、機器をご利用いただく際の確認事項をガイドラインに沿って紹介する。また、メーカーの立場から医用テレメータに関する建築ガイドラインへの期待について発表する。

  • 花田 英輔
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 99_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    日本建築学会が2021年に発行した医用テレメータに関する建築ガイドラインは、現代医療の基盤の一つをなす無線通信の安定運用に大きな効果をもたらすことが期待される。本ガイドラインに沿った設置により、急性期医療においては患者の容態変容を迅速かつ確実に捉え、生命の危機を救うことにつながる。医用テレメータを始めとする無線通信の機能を最大限に発揮させるためには、設置環境が大きく影響することが明らかになっている。しかし、設置環境は建築部門のみで構築できるものではなく、多職種が連携し、情報共有を進めることが必要である。そこで、建築ガイドラインを医療機関で活かすための課題と今後の展望についてまとめる。

  • 田中 利恵
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 100_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    近年,人工知能(AI)技術の医療分野への応用は目覚ましく,医用画像の画質向上や撮像支援にも広く活用されるようになった.例えば,ノイズ低減,画像再構成,アーチファクト低減,高解像度化,撮影条件の自動設定,再撮影判定など,様々なAI技術が開発され,患者被ばく低減や検査効率の向上に寄与している.また,コンピュータシミュレーションによる仮想空間でのイメージング(仮想臨床試験)が現実のもとのなり,医療機器の開発を加速させることが期待されている.本シンポジウムでは,医用画像イメージングにおける AIと仮想技術の活用について,現状と将来展望を概説する.

  • 生田 幸士
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 101_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    日本が先駆の医用ソフトロボティクス生田幸士立命館大学・大阪大学・藤田医科大学 最近、ハーバード大学やケンブリッジ大学など従来のロボティクスにで遅れていた大学が中心になり柔軟な体幹を持つロボット「ソフトロボティクス」がブームになっている。Science誌やその姉妹紙のScience Robotics誌、Soft robotics誌では毎号、数多くの研究論文が掲載されている。しかし筆者など昔から柔軟な医用ロボット研究者には、欧米研究の新規性には疑問を持っている。筆者だけでなく柔軟ロボットに詳しい欧米の研究者間でも同様の意見である。実は日本では1970年代からヘビやアワビをモデルにしたロボットや、油空圧、水圧、形状記憶合金アクチュエータ、高分子の人工筋肉などの研究が盛んであった。ソフトロボティクスに関しては、世界で40年早かった。論文の大半は英語になっているがネット検索できないものは引用されない昨今の悪しき状況を改善するためネットに再掲載したり、せめて日本人は自分たちの先輩たちの業績を引用すべきと啓蒙している。 筆者は1985年に世界初の柔軟な能動ロボット内視鏡を開発し、その後生理食塩水で駆動する能動カテーテルや、メカトロニクスの要素技術の開発を進めてきた。本シンポジウムでは、ソフトロボティクスの医用応用ならではの課題、解決策を述べる。

  • 塚越 秀行
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 101_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    フルードパワー(流体駆動)には、モータなどの電動駆動では実現しえない様々な動作特性・運用上の利点・構成上のメリットなどが存在する。講演者は、このフルードパワーの特異な優位性に着目して、新原理のアクチュエータや駆動制御手法、およびそれらを融合したロボット設計論の新概念を提案してきた。また、これらの特長を活用した災害対応向けのロボットシステムや、医療現場の負担軽減を目指して駆動装置などへの適用事例も提示してきている。本講演では、偏平チューブに流体圧を印可することで生じる座屈点のスライド現象・自励振動現象、および柔軟シートの多様な変形現象など、講演者のグループでこれまで独自に見出してきたオリジナルの駆動原理に着目し、それらをフルードパワーロボットの設計に適用することにより、スリム化・駆動の高速化・外界への適応化・構造と動作の柔軟性を図れることを説明する。また、それらの駆動原理を植物の根と類似した先端成長動作・複数チャンバーの圧力感応機能・タコの吸盤のような吸着機能などに展開した設計事例も紹介する。さらに、これらのソフトなフルードパワーロボットを、インフラ設備の保守点検・災害時の情報収集・介護者や被介護者の負担軽減作業・体内の移動や臓器の把持による医療支援作業、などに展開できる可能性を述べたうえで、今後の展望についても言及する。

  • 平井 慎一
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 102_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    本発表では,ソフトロボットハンドによる生物(なまもの)と生物(せいぶつ)の操作の試みを述べる.発表者の研究室では,ソフトロボットハンドによる物体の把持と操作に関する研究を進めている.食品等の生物(なまもの)は,機械部品に比べると柔らかく,物理特性のばらつきが大きいという特性を持つ.このような性質に対応するためには,ソフトロボティクスのアプローチが有効である.すなわち,ロボットハンドに柔らかい材料を導入することにより,把持の際の接触力を緩和するとともに,形状や表面特性のばらつきを吸収することができる.食品は種類が多く,食品の特徴に応じて様々なソフトロボットハンドを開発する必要がある.本発表では,食品を操作するためのソフトロボットハンドの例として,包み込みハンド,シェルグリッパ,バインディングハンド等を紹介するとともに,システマティックな発展に向けたアプローチを述べる.食品の多くは生物由来であり,生物の把持と操作に関する研究が始められている.生物(せいぶつ)の操作においては,さらに生物の運動に対応する必要があり,個々の生物に応じた対応が求められる.クラゲの把持において提案した把持機構,蚕の割愛操作において提案したリモートドライブ機構を通して,生物の把持と操作の試みを紹介する.

  • 井上 佳則, 生田 幸士
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 102_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    ソフトマテリアルを利用したソフトアクチュエータやセンサは、軽量、非剛性等の利点から対軟組織や対生体を対象としたシステムに適応性が高いため、様々な応用研究が進められている。これまで、人工筋肉やロボットハンド、マイクロ能動カテーテルなどの研究が行われてきた。ソフトアクチュエータはそのコンプライアンス特性を利用するためベローズ構造など通常のロボットに使用されるアクチュエータと異なる機構を採用している。また、発生力も大きくないものが多いため使用可能なセンサの重量、計測手法、配線などの問題が生じる。これら課題には部品の組合せといった手法では限界があり、従来とは異なる新しい手法を考案することが必要となる。

  • 山田 章
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 103_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

     生分解性樹脂は、体内で分解されて最終的に消滅することから、各種の医療器具に用いられ、既にいくつもの製品が実用化されている。一方、革新的な医療デバイスの創出には、生分解性樹脂は大きな可能性を秘めた材料であり、新たな機能の探索が期待されている。ポリラクチド系の生分解性樹脂の代表格として、ポリ乳酸はよく知られた材料である。しかし、未知の性質も多く、調べていくと、新たな性質に遭遇する。また、添加物や加工法に依存して発現する性質もある。ポリ乳酸は近年普及した熱溶解積層造形方式の3Dプリンタ用の材料として融点などの材料物性が適しており、CADで設計した任意形状の3次元構造物をそのまま作製できる。3Dプリンタは細いノズルから溶融した樹脂を押し出しながら造形する手法のため、作製した構造物は通常の射出成型法による成形品とは異なる強度特性を持つ。また、分解の進行に伴う強度低下速度においても3Dプリンタ製構造物は射出成型品とは異なり、この相違は低充填率で作製した3Dプリンタ製構造物においてより顕著になる。ポリ乳酸の射出成型時の添加剤は、新しい機能の発現に有益な方法である。添加剤により、強度の上昇と分解速度の調節が可能になることが分かってきた。本発表では、最近の成果について述べると同時に、3Dプリンタ普及前から我々が取り組んできた3次元微細加工法や、生分解性樹脂の加工法についても紹介する。

  • 山川 烈
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 104_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

     筆者は,電気化学,半導体工学,脳情報工学,生化学計測等の研究分野を遍歴してきたが,最後に「鍼灸治療」にたどり着いた.鍼と灸は,医療デバイスとしては最も単純な構造であるのでデバイスとしての信頼性は高く,携帯性に優れ,保存・管理が容易で,安価な医療デバイスの候補である. 災害や戦争のような非常事態の現場では,必ずしも高価で多様な医薬品が入手可能とは限らず,高機能医療デバイスを稼働するための電源が得られるとも限らない.このような非常事態の現場では,応急処置に対応できる「鍼灸治療」は,極めて重要な意味を持つ. 一方,現在,日本は超高齢社会に突入し,医療費の国庫負担に関して,解の見えない深刻な課題に直面している.限られた数の専門医による認知症治療や,圧倒的に数の不足している看護・介護スタッフで認知症高齢者を支えることは,人材・経済の両面から,ほぼ不可能である.これを回避するには,未病のうちに,低廉で日常的な鍼灸治療により回復を図り,病気になった患者のみを,従来の薬物治療と医療機器に委ねることであろう. そのために解決すべき課題が二つある.一つは,鍼灸師の専門レベルの向上,もう一つは,薬品および医療機器の絶対量の削減による薬品メーカーおよび医療機器メーカーの弱体化である.前者の課題に関しては,修学年限6年間の「鍼灸医科大学」を設置する必要がある.後者に関しては,事業の多様化と合理化が必要となろう.

  • 加藤 大香士
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 104_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

     自然エネルギーの議論が加熱している。太陽光の無尽蔵な力を利用することは好ましいことだが、太陽光パネルの廃棄や災害時の破損による環境汚染への懸念が方々で指摘されている。例えば、2013年に政府が取扱いを始めた営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)は、太陽光パネル事業の利益団体と農業事業者との協業であるが、上記の環境負荷を減らす技術努力が結実しなければ、近未来に負の遺産がもたらされることだろう。しかし、地域に分散配置された太陽光パネルと蓄電設備があれば、有事事象への強力な対応策となる可能性もある。 翻って、医療業界にも類似した課題はあり、優位点や欠点を見据えて現実的に対応する必要がある。手術ロボットは30年で先進国に定着した感があるが、できることが限定的であるため、他の技術で発展的な方策を柔軟に開発する必要がある。また情報通信技術や計算機の小型集積化の技術が進んだことで、過去の研究をより改良・深化できる可能性もある。一方で、免疫や自律神経系などのホメオスタシスを向上させるために、体のしくみ、特に体液循環と呼吸に関係する全身の力学・生理学を再考し、予防医学に組み込む必要性を強く感じている。  ソーラーシェアリングによる農作物が健全に育つためには、良いシステムデザインが必要である。同様に人体の健全性の獲得のためには、人体内外に積極的に働きかけるケアシステムの開発がよりいっそう必要である。

  • 上出 寛子
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 105_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    医療や防災に関わる機器やシステムの開発はますます進歩する中、先進的な技術と一般的な人々の心理の間には隔たりが生じることも懸念される。複雑な機器や高度な人工知能は、その機能が優れている一方で、ユーザの尊厳に関わる倫理的課題が指摘されたり、一般の人々からは不安がられるというケースも考えられる。このような背景から特に欧米においては、技術の進歩をルール化する動きが顕著であるが、ここでの前提は、「人 対 物」といった二元的に分断された関係として両者を捉える点にある。 しかしながら、日本においては古来から、物と人とは共に進化し合う、同じ次元に共存する関係として捉えられる特徴がある。例えば日本におけるものづくり文化の意義の一つには、物を作ることによって、人の心が育つということが指摘されている。様々な物とインタラクションするものづくりに没頭することは、物と人々の心が一体化する体験を生み、教えられなくても自然と物を大切にする言動が生まれてくる。そこで本発表では、物とのインタラクションにおける心理的プロセスに注目し、身近な物とのインタラクションの構造や、物との一体化の感覚との関連などについて報告する。先進的な技術の進歩に人々の心が置き去りにされるのではなく、両者が共に進化し合う将来の可能性について議論を行う。

  • 荒船 龍彦
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 106_1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    2021年6月の法改正に伴い,わが国の医療的ケア児の就学,保育の選択肢が広がり通常学級への進学も可能となった.近年の医療技術の進歩に伴い,人工呼吸器や専用のバギーなどの医療機器による介助があれば,通常学級へ登校,登園も可能となるケア児が増え,ケア児本人や家族の希望が実際の就学に反映されるようになりつつある.しかしその一方で,学校や保育園でのバリアフリー化に始まる受け入れ体制,看護師などの人員配置,人工呼吸器や胃ろうなどの医療機器のメンテナンスなどが十分に準備されておらず,現場負担の増加が課題となっている.さらに医療的ケア児はこの10年で2倍に増え,今後もさらに増えることが考えられることから,行政のさらなる支援が望まれると共に,医療従事者,患者家族だけでなく臨床工学技士や保育士の教育も含めた,医療的ケア児に対する支援と受け入れに対してのグランドデザインを明確にすることが喫緊の急務である.これまでの「障害がある児童は障害支援学校へ」という紋切り型な切り分けではない,通常保育や通常学級の中での新しい医療的ケア児の支援について国内動向および聴覚過敏児童支援の研究事例を新時代のアンメットニーズとして紹介し,生体医工学分野での支援について話題提供を行う.

  • 桑名 健太
    2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 106_2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/13
    ジャーナル フリー

    医療的ケア児とは,医学の進歩を背景として,NICU等に長期入院した後,引き続き人工呼吸器等を使用し,たんの吸引等の医療的ケアが日常的に必要な児童のことである.重症心身障害児に多く見られるが,肢体不自由や知的障害を伴わない場合もある.医療的ケアの種類も様々で,児の成長発達,病態変化等によっても変化し,医療的ケアで使用される医療機器も多岐にわたるため,家庭でケアを行う家族が様々な医療機器の扱いを修得する必要がある.医療を専門としない家族が様々な医療機器を扱う必要のある状況下で,自宅でのケア時や通園・通学に伴う移動時に,医療機器に関するトラブルが発生しており,医療的ケア児の支援において,医療機器の運用管理は大きな課題となっている.一方,演者らは高齢者の地域包括ケアの推進による医療機器の地域分散と少子高齢化による人手不足を背景とし,医療機器を運用管理するための課題の抽出と,課題解決のための要素技術研究を行ってきた.本演題では,演者らがこれまでに行ってきたメンテナビリティ・セキュリティ・セーフティを考慮した医療機器の運用管理の要素技術研究を紹介するとともに,これまで認識できていなかった医療的ケア児が使用する医療機器の運用管理という視点から,これまでの取り組みと共通する課題・新たに認識された課題を整理し,今後取り組むべき課題を議論するための話題を提供する.

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