日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
第51回日本植物生理学会年会要旨集
選択された号の論文の1055件中1051~1055を表示しています
  • 渋谷 直人, 賀来 華江
    p. S0063
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    植物は微生物に特徴的な分子群(Microbe/Pathogen-Associated Molecular Patterns: MAMPs/PAMPs)を認識することでさまざまな防御応答を開始し、その侵入を防ぐ能力をもっている。このシステムはPAMP-Triggered Immunity(PTI)とも称され、植物の基礎的病害抵抗性において主要な役割を果たしていると考えられている。キチンは菌類の細胞壁を構成する主要成分であり、多くの植物がキチン断片(キチンオリゴ糖)を認識し、PTIを誘導する能力をもつことが明らかになっている。一方、根粒菌が分泌するキチンオリゴ糖誘導体であるnod-factorは、宿主のマメ科植物の共生応答である根粒形成を誘導するという興味深い現象が知られている。
    われわれは最近、イネとシロイヌナズナにおいて、キチンエリシターによる防御応答誘導で主要な役割を果たしている2種類の受容体分子(Chitin Elicitor Binding Protein, CEBiP; Chitin Elicitor Receptor Kinase, CERK1)を同定した。今回のシンポジウムでは、これらの受容体分子を介したキチンオリゴ糖の受容と防御応答シグナル伝達について報告する。1)PNAS, 103, 11086 (2006); 2)ibid, 104, 19613 (2007).
  • 中川 知己, 賀来 華江, 下田 宜司, 杉山 暁史, 島村 昌幸, 高梨 功次郎, 矢崎 一史, 青木 俊夫, 渋谷 直人, 河内 宏
    p. S0064
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    根粒菌が分泌するNod ファクター(以下NF)は共生の開始シグナルであり、根粒菌共生時に観察される現象の多くをNF処理で誘導することができる。NFはN-アセチルグルコサミンの3-5量体(キチン)を基本骨格にしており、非還元末端側に脂肪酸残基が結合した構造を持つ。一方でキチンは菌類の細胞壁成分であり、植物に防御応答を誘導するエリシターとして研究されている。最近になって単離されたNF受容体およびキチン受容体は、互いに高い相同性を持つLysM型受容体キナーゼであることが報告されている。したがってリガンド-受容体共に類似した構造を持ちながら、これらのシステムは対照的な生理応答を引き起こす。我々は根粒菌共生における植物の防御機構の役割を調べるために、マメ科のモデル植物であるミヤコグサの根におけるNF応答とキチン応答を解析した。
    マイクロアレイを用いた網羅的な遺伝子発現の解析から、NF応答初期の遺伝子の大部分がキチンやflg22処理でも誘導される”エリシター応答遺伝子”であることが明らかとなった。nfr1変異体では、NFによるこのような遺伝子応答は観察されない。一方でこれまで共生遺伝子として知られていたNINなどが、キチン処理によりNFR1非依存的に誘導されることを見いだした。本発表ではNFR1とキチン受容体を使ったスワッピング実験の結果などと併せて、NFR1の分子進化について考察したい。
  • 内海 俊樹, Van de Velde Willem, Zehirov Grigor, Szatmari Agnes, 石原 寛信, Alu ...
    p. S0065
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    マメ科植物の根粒細胞内部では、根粒菌はバクテロイドへと分化し、窒素固定に専念している。共生成立の過程では、根粒菌の増殖と遺伝子発現は、宿主植物からの強い制御を受けるものと予想されるが、その機構は不明である。タルウマゴヤシの根粒内部には、NCR (Nodule-specific Cystein-Rich)ペプチド群が存在している。NCRペプチドは、400種を超えるファミリーを構成しており、保存性の高いシグナルペプチドと、4または6システイン残基の位置が保存されている以外は、バリエーションに富む成熟ペプチド部分からなる。この構造的特徴は、抗菌活性のあるディフェンシンとも共通しており、NCRペプチドが根粒菌のバクテロイド化に関与している可能性がある。NCRペプチドは、バクテロイドが存在する細胞に局在していた。組換え、または、合成NCRを培養菌体に添加したところ、分裂能の喪失や多核化など、タルウマゴヤシ根粒のバクテロイドに見られる特徴を誘導するものがあった。シグナルペプチダーゼ遺伝子が変異したタルウマゴヤシdnf1-1では、NCRペプチドがバクテロイドへ到達しておらず、バクテロイド化も観察されなかった。タルウマゴヤシの根粒では、根粒細胞内部に侵入した根粒菌に様々なNCRペプチドが複合的に作用し、バクテロイド化を誘導するものと考えられる。
  • 仲下 英雄
    p. S0066
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    病害抵抗性に関わる植物ホルモンシグナルとして、サリチル酸、ジャスモン酸、エチレンの機能が解析されてきたが、近年、病害抵抗性シグナルにおけるアブシジン酸の機能に関する研究が急速に進んできている。植物への処理が病害抵抗性を弱めるという現象の解析から始まり、最近では、上記のホルモンシグナルとの相互抑制的クロストークの機構が解明されつつあるとともに、アブシジン酸合成能が同定された病原菌の数も増えてきており、植物の病害抵抗性シグナルをアブシジン酸が負に制御することは確実なものとなっている。一方で、アブシジン酸が気孔の開閉を通して病原性細菌に対する抵抗性に働く等の作用も見出されている。したがって、病害抵抗性においてアブシジン酸は、植物の組織、病原菌の種類、さらに生育環境条件等の様々な要因によって多様な生理作用に働いている。植物―微生物間相互作用は共生菌・病原菌のいずれの場合も多種多様な微生物との関わりであり、ここではアブシジン酸は多才な役割を担っていると推察される。環境ストレス応答におけるアブシジン酸シグナルの詳細が急速に解明されつつあることから、それらの情報も利用して、生物間相互作用におけるアブシジン酸の役割についても新たな知見が見出されてくることが期待される。
  • 富永 晃好, 永田 真紀, 夫津木 耕一, 阿部 秀俊, 内海 俊樹, 阿部 美紀子, 九町 健一, 橋口 正嗣, 明石 良, Hirsch ...
    p. S0067
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    マメ科植物の内生ABA濃度は根粒形成に影響を及ぼす.そこで根粒形成が促進されたミヤコグサ変異体を得るため,ABAを含んだ培地を用いた選抜を行った.得られた候補系統のうち,No12は野生型に比べ根粒数が多く窒素固定活性も上昇していた.そこで戻し交配をおこないF2世代153個体中で最も根粒数及び窒素固定活性の高かった系統をenf1(enhanced nitrogen fixation 1)と命名した.enf1は根粒数及び植物あたりの窒素固定活性が約2倍に増加しており,内生ABA濃度は野生型よりも減少していた.ABA合成阻害剤アバミンを野性型に与え,内生ABA濃度を低下させたところ,アバミンを与えた植物の根粒重あたりの窒素固定活性は無処理区に比べ上昇した.これはABAが根粒数だけでなく窒素固定活性にも影響することを示している.また窒素固定を阻害することが知られている一酸化窒素(NO)のレベルを測定したところ, enf1では野生型に比べ根粒内のNOレベルが低かった.つまりenf1の窒素固定活性上昇の原因は,内生ABA濃度の低下に伴う根粒内NOレベルの低下であると考えられる.enf1の長期栽培では根粒数,種子重,植物のバイオマス,窒素含量等が野性型ミヤコグサよりも高かった.そこで同様の方法でダイズ変異体の単離をおこなった.それらを用いた根粒着生試験や圃場試験の結果についても議論する.
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