学校ソーシャルワーク研究
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10 巻
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論文
  • ~教職員への聞き取り調査から~
    西野 緑
    2015 年 10 巻 p. 2-14
    発行日: 2015年
    公開日: 2023/04/03
    ジャーナル フリー
    子ども虐待において,学校は子どもや家庭の変化に気づきやすい場であり,教職員集団がチームで対応できるという利点がある,本研究は,子ども虐待に関する小学校の組織的対応に焦点を当て,スクールソーシャルワーカー(以下,SSWr)導入によるチーム・アプローチの成果およびSSWrの役割を明らかにすることを目的とし,SSWrがいる小学校3校のコーディネーター(SSW担当),養護教諭,学校長の計8名に聞き取り調査を実施した.
    その結果,チーム・アプローチの成果は,①コアチーム会議による子ども虐待対応・支援のシステム作り,②SSWr浸透による教職員の変化および相乗効果による子どもや親の変化,③コアチームから学校チームヘの変化である.SSWrの役割は,学校に福祉の視点を導入すること,俯瞰的・客観的・専門的な立場から教職員をエンパワメントすること,子どもの最善の利益のための家族環境の保障を促進することである.
  • 安部 計彦
    2015 年 10 巻 p. 15-23
    発行日: 2015年
    公開日: 2023/04/03
    ジャーナル フリー
    ネグレクト状態にある子どもは不登校になりやすいと経験的には言われているが,その関係を明らかにした研究はない.そのため全国の市区町村が対応したネグレクト事例における不登校の割合や他の項目との関係を主に数量化I類を使って分析した.
    まず年齢別の不登校の頻度については,市区町村が対応したネグレクト事例の6歳から8歳の約20%,9歳以降で約30%.12歳以降でおおむね50%以上が不登校であった.特に14歳では約62%の子どもが不登校であった.
    また子どもの状態と不登校の関係は,家で食事がない,子どもの不潔など,子どもに直接被害がみられる項目は不登校に抑制的であったが,家の不潔や保護者の対人関係,病気や障害経済困窮などの家庭状況はすべて子どもの不登校に促進的であった.
    ただこの研究は方法にさまざまな制約があり,探索的な研究として結果は限定的に捉える必要がある.
  • ―地域の問題に即した効果の明確化と実践課題の抽出―
    横井 策子
    2015 年 10 巻 p. 24-36
    発行日: 2015年
    公開日: 2023/04/03
    ジャーナル フリー
    A市を事例として,学校現場に表れる地域課題に対応するためのSSWer活用効果の明確化とそれに対応するSSWerおよび教育委員会の実践上の課題抽出を目的として,スクールソーシャルワークのプログラムモデルを用いた調査を行った.抽出された効果(アウトカム)のうち最も近位に位置したのは,「学校による問題行動の早期発見・早期対応」,「子ども・家庭の状況変化」,外国籍・外国につながりのある「子ども・家庭への教員の認識変化」であったこれらに対して効果的なスクールソーシャルワーカーおよび教育委員会の実践要素を特定し,それらが実践されているかどうかを調査した結果,スクールソーシャルワーカーでは主にケース会議後の対応,教育委員会では事業に関する情報収集や評価,スーパービジョンや会議のシステム化が課題であることが明らかになった.
  • ―効果的スクールソーシャルワーカー配置プログラム構築に向けた全国調査より―
    駒田 安紀, 山野 則子
    2015 年 10 巻 p. 37-48
    発行日: 2015年
    公開日: 2023/04/03
    ジャーナル フリー
    2008年度,スクールソーシャルワーカー活用事業が開始されてから,資格要件の一つである社会福祉士と精神保健福祉士の資格を所有するスクールソーシャルワーカーの割合が増加してきた.本論文では,全国で事業を実施する155自治体に量的調査を実施し,社会福祉士あるいは精神保健福祉士の資格を所有する群とそうでない群における実践と効果をt検定により比較した.
    その結果実践については,資格を所有する群では学校組織・教育委員会•関係機関に対するメゾ,マクロレベルのソーシャルワーク実践がさかんであった. また,ケース会議に関する活動において資格を所有しない群より有意によく活動が行われていた.一方,直接支援はあまり行われていなかった.効果については,資格を所有する群では連携・協働の面において,資格を所有しない群より有意に効果をもたらしていた.反面,実践と同様,直接支援の項目については資格を所有しない群に比べ有意に得点が低かった.
研究ノート
  • ―特別ニーズのある子どもに対する「いじめ」の実態と対応をふまえて―
    新井 英靖
    2015 年 10 巻 p. 49-59
    発行日: 2015年
    公開日: 2023/04/03
    ジャーナル フリー
    本研究は2000年以降の英国初等・中等学校における「いじめ」の実態と対応方策を明らかにした.その結果,英国では子どもの社会的・情緒的発達がいじめ予防に重要であり,その発達を促すために学校全体でカリキュラムを立案することが必要であると考えられた.一方で,要保護児童や特別ニーズのある子ども(特に自閉症児)がいじめを受けやすいということが明らかにされ, こうした子どもを授業中のみならず,休み時間や登下校中も見守る組織的対応が重要であるということが指摘された.
    また,いじめ被害に遭いやすく,仲間外れにされやすい自閉症児に対しては,メンターやバディとなる子どもを指名したり, フレンドシップ・ベンチやランチ・クラブを設置するといった対応が必要であることも指摘された.
    以上のように,英国では,いじめ被害に遭いやすい子どもをクラスの友だちと「つなぐ」といった学校ソーシャルワーク的対応が重要であると考えられた.
研究動向
  • 大友 秀治
    2015 年 10 巻 p. 60-71
    発行日: 2015年
    公開日: 2023/04/03
    ジャーナル フリー
    本稿は,スクールソーシャルワーク(以下SSW)を含めたソーシャルワーク(以下SW)のスーパービジョン(以下SV)における近年の研究動向と研究課題を明確化することを目的とする.「CiNii」にて過去10年分の50論文を研究対象として選定し,領域,目的,研究方法,主な結論に整理,分析した.その結果,2010年以降は年間5本以下と少ない論文数に留まり,領域別では実習・演習分野が12本(24.5%)と最も多いことが分かった.研究方法の累計では実践省察や事例研究・報告が最も多く,研究内容では実態把握が最も多かった.量的研究と質的研究によってSVのシステムや形態,SVによる変化や効果を実証的に明らかにする研究は7本と少ないことも明らかになった.SVシステムの構築やSVモデルの開発研究はなかった.以上から.これまでSVに関する実証的研究の不足が指摘されてきたが,近年もその傾向が続いていると言えるであろう.
実践報告
  • 山本 操里, 山本 裕詞
    2015 年 10 巻 p. 72-84
    発行日: 2015年
    公開日: 2023/04/03
    ジャーナル フリー
    本稿では,宮城県の「スクールソーシャルワーカー活用事業」の動向を整理した上で,スクールソーシャルワーク(以下,SSW)における業務報告書やケース記録等の記録資料の特徴とその重要性を明らかにした.
    スクールソーシャルワーカー(以下,SSWr)は,教育活動の充実を図るための一員として客観的評価の対象となるべき存在であり,また,その活動の対価を公的財源から受けるための説明責任を果たすべき立場にあると考え,それらを明示する一方法としての記録資料に着目し,SSWrとしての6年間の記録資料作成の実践経過を整理した.
    この実践における最大の特徴は,SSWの活動を通して,SSWrが自覚した活動ニーズを反映させるべく,教育行政関係者の協力を得て,記録資料の様式を変更・改訂してきたことである.その結果,教育行政側のSSW理解が促進すると同時に,子どもたちへの支援の最適化を目指す能動的活動が地域で共有されつつあるといえる.
海外動向
  • 門田 光司
    2015 年 10 巻 p. 85-98
    発行日: 2015年
    公開日: 2023/04/03
    ジャーナル フリー
    わが国でいじめ防止対策推進法が成立し、スクールソーシャルワーカー(以下、SSWと記す)による支援が期待されている。今後、いじめに対してわが国のSSWがどのような専門性を発揮していくのかを検討していくために、本研究ではカナダ・オンタリオ州の取り組みを紹介していくことにした。
    オンタリオ州のBill13は、いじめの無い肯定的な学校風土を築いていくことを目標に学校全体での取り組みが位置づけられている。この肯定的な学校風土は、人種・宗教・性的志向・障害・その他、子ども個々人の人権を尊重し、それを受け入れる学校風土があれば自ずといじめも生じないという考えである。そして、いじめ防止対策では、SSWは生徒や学校スタッフに対して率直な話し合い(open dialogue)と安全な空間(safe spaces)を促進していく役割が示唆されている。海外動向として、今回のオンタリオ州の取り組みは、わが国のいじめ防止対策におけるSSWの専門性を検討するうえで大いに参考になると考える。
第9回大会
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