学校ソーシャルワーク研究
Online ISSN : 2758-5018
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5 巻
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論文
  • 岩崎 久志
    2010 年 5 巻 p. 2-14
    発行日: 2010年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル フリー
    わが国の公教育にも,学校ソーシャルワークが導入され,支援が展開され始めている.しかしながら,これまでわが国の社会福祉領域では,学校における福祉的サービス実践の蓄積は甚だ乏しいといわざるを得ない.
    今後,教育臨床に学校ソーシャルワークが定着し,より有効な支援が展開されていくためには,実践のシステムや携わる者にとって,ソーシャルワークだけではなく,学校現場に関わる学際的な知見がますます必要になってくると考えられる.
    本稿では,筆者自身の教育臨床における実践体験と,当該領域の学際性に関わる先行研究の中から学校心理学および臨床教育学への検討を踏まえ,学校ソーシャルワークがわが国の教育臨床において定着・発展していくために必要となる学際的な知見について検討した.
    その結果,教育学,福祉学,心理学による学際的な研究・実践がミニマムな要件として必要であることが明らかとなった.具体的には,学校教育や学校文化に関する知見,そして児童生徒を支援するための心理学関連の学問領域を含むものが要件として挙げられる.
  • ―経済的不利の世代間連鎖から離れていくための道筋―
    西原 尚之
    2010 年 5 巻 p. 15-29
    発行日: 2010年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル フリー
    本研究は経済的不利と脆弱な養育環境が主要因となって学校教育から疎外されてきた「養護型不登校」経験者が経済的に自立した生活を送るための道筋を明らかにしようとするものである.そのため生活保護率が全国平均の10倍を超える地域にあるフリースクールを利用していた69人に対してフォローアップ調査を実施した.このうち58%が生活保護受給家庭からフリースクールに通級していた.「生活保護受給」と「一人親家庭」および「低学力」には互いに有意な相関性が認められた.また生活保護受給の子どもの50%は中学卒業時点で進学先も就職先も確定させていなかった.さらに彼らの学歴は中学卒業までが79%と経済的に自立していくうえでの困難性が予測された.つぎに中学卒業後に生活保護受給を続けているグループと経済的に自立したグループの違いを事例を用いて検討した.その結果「生活技能」「学力」「ソーシャルサポート」「社会福祉サービスの利用」などが経済的不利の連鎖から離れていくための要因と考えられた.
研究ノート
  • ―人格・社会性・健康教育(PSHE)に注目して―
    新井 英靖
    2010 年 5 巻 p. 30-40
    発行日: 2010年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル フリー
    本研究では,英国の人格・社会性・健康教育(PSHE)の内容と方法を明らかにし,行動上の困難を示す子どもに対する教育的アプローチの特徴について検討することを目的とした.その結果,PSHEはロールプレイなどを通して能動的に学び,自己理解,自己意識,自己肯定感を総合的に発達させていくことを目的とした教育プログラムであった.PSHEの実践では,行動上の困難を示す子どもを個別的・単発的に指導するのではなく,ホールスクールアプローチの中で,カリキュラム全体を通じて個人と社会の関係を意識させ,行動の自己調整をする方法を学ぶことが重要であると考えられた.また,行動上の困難を伴う子どもを通常学校内部で教育するためには,親や地域を巻き込んで段階的に「学校改善」を実現することが重要であると考えられた.
  • 金沢 恵子
    2010 年 5 巻 p. 41-54
    発行日: 2010年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル フリー
    近年の山積する学校現場における課題解決のために,2008年よりスクールソーシャルワーカー(ワーカー)調査研究事業が開始された.その際,学校現場で「異職種」がよりスムーズに活動するための条件を検討するために,「教員文化」をキーワードに先行事例としてスクールカウンセラー(SC)事業補助を概銀した.SCが学校現場に導入されて14年経過するなかで,SCや現場の教員の声からは,お互いの専門性や価値観などの相違による軋礫がみられ,まずは両者間のラポール形成が重要であることが示唆された.ワーカーについてもSC導入と似たような状況が予想されることから,ワーカーがよりスムーズに活動していくために学校の特性や「教員文化」といわれる教員の特徴を,事前に理解・学習しておくことや,そのような資質を高める養成課程の考案・開発が求められること,さらにワーカーの処遇改善の必要性などについても考察した.
  • ―エコマップを用いた役割評価を中心に―
    大西 良
    2010 年 5 巻 p. 55-67
    発行日: 2010年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル フリー
    本研究は,不登校事例における様々な相互の関係性を,「人と環境の相互作用」の観点から把握することによって,関係性の中で展開される学校ソーシャルワーカー(以下,SSWerとする)の役割を明らかにすることが目的であった.
    分析の結果,①SSWerは,「仲介者」,「力を添える者」,「代弁者」,「組織者」,「促進者」の役割を担っていること.また,②SSWerは社会資源についての正確な見極めを行い,さらに適切に繋ぐことによって,ミクロレベルからマクロレベルにかけての包括的な連携ネットワークを構築していく役割を担う存在であったこと.さらに,③SSWerは学校において様々な関係を明らかにしていく際,エコマップを使用することが大変重要な役割であることを示唆した.
実践報告
  • 中村 みのり
    2010 年 5 巻 p. 68-79
    発行日: 2010年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル フリー
    ソーシャルワークの個人治療的アプローチ,すなわち個人の心理レベルで「問題」を更正・治療しようとする今日の米国で主流となっているソーシャルワークには大きな限界があり,「問題」を背負わされている個々人の尊厳や主体性を回復し社会的環境を変えるための働きかけを積極的に行うソーシャルワークを構築していく必要性がある.本稿ではこうした問題意識に基づき,米国におけるソーシャルワークの歴史的な経緯や今日の若年層をとりまく社会環境を検討するとともに,2008年から 2009年にかけて筆者自身が米国ニューヨーク州ニューヨーク市ブロンクス区にある公立高校で経験したスクールソーシャルワーク実践について報告する.メディエーション,家族とのやりとり,グループワークなど実際に担当した具体的なケースに基づいて,個人治療的アプローチを超えたスクールソーシャルワークの意義と可能性を論じる.
  • 米川 和雄
    2010 年 5 巻 p. 80-89
    発行日: 2010年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル フリー
    本報告では,学校コーチングの技術を用いるピアコーチ(高校生)の3.5年間に亘る活動に対する,教員 (12名)の評価について報告することを目的とする.ピアコーチは,後輩である中学生の生きる力を高めることを主な目的とし,人間関係づくり,学習支援,運動能力向上支援,健康への支援等様々な支援活動を行う.ピアコーチ養成プログラム参加により,ピアコーチの行動と考えに肯定的な変化や自信の高まりが認められ,結果として,ピアコーチ活動によって,学校の自治,教師のやる気や学校での諸問題等への効果が一部で認められた.そして,クラス環境と教師環境の肯定的な変化もほぼ認められた.さらにピアコーチ養成の意義や継続した取り組みの希望が示され,ピアコーチ活動が機能するまでには,2年間から5年間という長期的な期間が必要とされた.以上より,ピアコーチの養成と活用がピアコーチ自身の考えや行動に肯定的な変化を与え,それがクラス環境や教師環境に肯定的な作用をもたらすことが示唆された.
視察報告
  • ―個々のケースヘの対応の実際―
    大沼 洋子
    2010 年 5 巻 p. 90-100
    発行日: 2010年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル フリー
    昨年,学校ソーシャルワークの歴史が古いアメリカ合衆国,4州の学校を訪問し,学校ソーシャルワーカーの仕事内容を調査した.その結果,家族支援,不登校や虐待への介入などよりも,特別支援,IEPの作成に関わる時間が多いことが分かった.そこで再訪問にあたり,目的を,特に各学校に学校ソーシャルワーカーを正規職員として配置しているニュージャージー州において,学校内外の専門職とどのように連携を取り合っているのかという点を中心に視察,聞き取り調査した.他の機関に働くソーシャルワーカー,ケアワーカーとの連携,リソースの活用,公的な仕事以外の関わりとして卒業後の生活を支援する,学校ソーシャルワーカー及び校内の専門スタッフとの情報交換・連絡会などについて伺った.ケース研究ではあるが,歴史の浅い日本の学校ソーシャルワーカーの職務内容として求められていることおよび社会資源開発の参考になるのではないか.
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