産業革命を世界で初めて経験したイギリスでは,今までになかった技術の開発および工場制生産の拡大が起こった。このようなイギリス産業革命は,会計史上,一つのターニングポイントであることは周知のとおりである。しかし,産業革命期の原価計算に関する研究は散見されるものの,産業革命期の会計の全貌は必ずしも明らかになっているとは言えない。そこで本稿では,石炭を採掘していたTanfield Moor 炭鉱における会計実務を俎上にのせ,産業革命期の石炭産業における会計の一端を明らかにする。Tanfield Moor炭鉱の会計は,支出明細表,収入明細表,収支計算書および交互計算勘定から構成されており,キャッシュ・フローを重視して記録されていた。不在地主であり,Tanfield Moor炭鉱の所有者かつ個人事業主であったW. M. Pittへ報告するために,経営者として雇われたJ. Buddle, Jr.が炭鉱経営の成績を計算し,また石炭輸送に掛かる費用を抑えるためにClayton 交互計算勘定を作成し,個別に管理していた。Tanfield Moor炭鉱は,不在地主であり炭鉱を自己所有しているW. M. Pitt への報告や利益増加のための輸送費削減,つまり同炭鉱を取り巻く経営形態や経営課題に対応した会計実践が行われていた。
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