日本農村医学会学術総会抄録集
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第55回日本農村医学会学術総会
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一般演題
  • 棚瀬 麻祐子, 田浦 くるみ
    セッションID: 2G310
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言> ここ数年、歯科外来において高齢者に限らず、口腔乾燥を訴えられ、受診される方が増えている。社会的にも口腔乾燥の認知度は上がっているようだが、乾燥を引き起こす原因は、あまり知られていないようである。
     口腔乾燥がもたらすリスクは日常生活には大きく、食物の咀嚼の苦痛、味覚の消失、粘膜疾患など引きおこし生活の質を落としかねません
     高齢になると、唾液線の組織も衰え、細胞の数も少なくなる為、乾燥が引き起こると報告されているが、実際唾液量が減少して、乾燥を引き起こしている方、唾液量は正常でも乾燥感を訴えられる方さまざまです。
     口腔乾燥は複雑な原因をもつ疾患で長期の治療が必要とされています。
     現在、口腔乾燥の起こす可能性の高い原因とされている、1)性別、2)年齢、3)薬の影響を基に外来患者に対しどの程度乾燥を認識しているか、調査を行った。
    <方法> 対象は、当病院歯科外来患者のうち研究に同意を得られた患者107例、男性35例、女性72例、21歳から83歳までの平均年齢55.8歳で、2005年5月から8月までの3ヶ月間行った。
     来院の際に問診を行い、全身疾患の有無、薬剤の服用、口の渇きの調査を行った。
     分析の方法として、口腔水分計(ムーカス)を使用し、乾燥度の測定。
     測定部位は、舌上部の標準部位(舌先端部から10mmの舌背部)、測定圧は約200g以上に統一した。
     口腔水分計での評価は数値で表示される為、客観的評価が可能であり、患者の知的レベル、口腔機能の程度に関与されない為、高齢者、あるいは寝たきりの患者にも検査が可能な為採用した。
    <結果>
    1)性別にみる口腔乾燥の頻度
     自覚症状である口腔乾燥感は107例中、68例(63.6%)であった。68例中、男性20例(29.4%)・女性48例(70.6%)であり、女性に多い。
    測定後、乾燥が認められた患者34例中(31.8%)、男性12例(35.3%)・女性22例(64.7%)となり、女性に多い。
    2)年齢にみる口腔乾燥の頻度
     口腔乾燥感のあった68例中・20代0例(0%)・30代1例(1.5%)・40代4例(5.9%)・50代15例(22.0%)・60代14例(20.6%)・70代29例(42.6%)・80代5例(7.4%)、年齢が高くなるにつれて、頻度が上がる傾向がある。
      実際乾燥が認められた34例中・20代0例(0%)・30代0例(0%)・40代1例(2.9%)・50代3例(8.8%)・60代3例(8.8%)・70代19例(55.9%)・80代3例(8.8%)になり、70代のかたに多くみられたが年齢が高くなるにつれて、頻度が上がる傾向にある。
    3)薬剤にみる口腔乾燥の頻度
     副作用として口腔の乾燥を引き起こす可能性のある薬剤は603種報告がある。薬剤の一般名の回答を得られなかった為、服用数での検討を行った。乾燥の認められた34例中、1種類から15種類までの服用があった。数にばらつきはでたが、降圧剤の服用をしているかた(26.5%)が多い。薬の服用数が多いほど、乾燥程度が高くなる結果となった。
  • 戸田 牧子
    セッションID: 2G311
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <諸語>近年、日本では食生活の欧米化に伴い肥満者が増加傾向にあり、無呼吸低換気をともなう睡眠障害者は非肥満者の3倍以上であり、そのうちの10%が閉塞性無呼吸症候群(OSAS)と言われています。
     今までは、主たる治療法はCPAPでありましたが、2004年の健保改正により歯科の保険に口腔内牽引装置(OA)が導入され効果をあげています。
     その原理は、下顎を前方に移動させることにより、付随する筋群を牽引して気道を拡張させるというものです。
     製作法も簡単で小型でポケットにも入る大きさなので、患者様のQOL コンプライアンスに優れています。
    2004年から2005年中に当院歯科を訪れた患者様にOAを装着し、臨床症状の改善が見られた症例を報告致します。
     側貌咽頭写真で気道の拡張を認めPSGによる検査でAHIの改善が見られ、SPO2も改善しました。
     OAに関し、説明致します。
    <OAの適応症例>
    1. 肥満度が低い(軽症から中等症)のOSAS
    2. 低酸素血症の程度が軽度
    3.下顎前方移動距離が長い
    4.CPAPが受け入れられない患者様
    5.旅行、出張が多い患者様
    <OAの不適応症例>
    1. 高度肥満
    2.肥満肺胞低換気症候群
    3.重症のOSAS
    4.顕著な低酸素血症を伴う症例
    <OAの副作用>
    1.口腔粘膜の乾燥
    2.顎関節の不快感
    3.唾液分泌過多
     OSASは社会的、公衆衛生学的問題のみならず、睡眠障害が心血管疾患との密接なかかわりをもっており、重要な問題と思われます。
     今後OSASの治療戦略の重要な役割を果たすべきOAのさらなる改善、開発が期待されます。
     CPAPを試す前に、是非、歯科を訪れ適応かどうか診査してみられることも必要かと思います。
  • -フィンクの危機モデルを活用して-
    理嵜 弥生, 深津 葉子, 宮本 三千代, 須賀 良子
    セッションID: 2G312
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
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    <はじめに>四肢切断術を受けた患者は危機的状況におかれ、障害を受容しそれを乗り越えるためのサポートが必要となってくる。今回、仕事中の事故で右上肢不全切断した患者の精神的変化に対するサポートについて振り返った。フィンクの危機モデル¹⁾を活用することで、段階にあった看護介入や援助が行えたか分析し、結果、所見を得たので報告する。
    <方法>
    (1)対象及び経過:49歳女性、仕事中の事故で右上肢不全切断となり再接着術を行ったが、1ヵ月後急激に循環不良となり緊急で切断術を行った1事例
    (2)方法:患者との関わりを看護記録、スタッフからの情報、患者ケアカンファレンス用紙をもとに振り返り、フィンクの危機モデルを用いて分析した。
    (3)研究期間:受傷から退院まで
    (4)倫理的配慮:研究の取り組みと意義、プライバシーの保護について、患者に口頭で説明し同意を得た。
    <結果及び考察>フィンクは危機のたどるプロセスをモデル化し、それを衝撃・防御的退行・承認・適応の4段階であらわしている。患者は受傷後上肢再接着術が行われ、比較的順調に経過していたが、術後3週目頃から発熱、疼痛増強、皮膚色不良となり、壊死組織による圧迫を疑い洗浄・デブリートメント術を行った。しかし、循環の改善はみられず高熱が続き、敗血症の危険性があると判断され翌日上肢切断術を行った。患者は受容できないまま切断となり、ただ一点を見つめ涙していた。この時衝撃の段階であったといえる。手術室入室までの間付き添い、訴えに耳を傾けるようにした。術後は会話の中で切断したことにはあまりふれず、時間が経つにつれ「昔に戻りたい」「治ると思っていたのに」と悲観的な言動が多く聞かれるようになった。また、人と対面することも避け塞ぎがちであった。この時防御的退行の段階であったといえる。訪室した際には患者が不安や悲しみの感情を表出できるよう傾聴し、精神的安定が保てるようサポートした。また、一番身近な存在である夫が付き添っており、患者の支えとなっていた。日が経つにつれ「手術してよかったんだよね」という言葉がきかれ、障害に向き合えるようになっていった。上肢を失ったショックは変わらずにあったが、その現実を受け止めていこうとしているようであった。この時は承認の段階であったと考えられる。この頃、退院の話もでて試験外泊を行った。「片腕がないのがこんなに不便だと思わなかった。これからどうしたらいいんだろう。」と不安もあったようだが、「洗濯物はたためたの。出来ることはやらなくちゃね。」と上肢切断という障害を受け止め、今後の生活について考えられるようになっていた。患者が一番不安に感じていることは何か、問題点は何かを見極め、解決に向けて働きかけていけるようにアドバイスするよう心掛けた。患者の多くは不安や問題を抱えたまま退院となってしまい、入院中に適応の段階まで迎えることが少ない。今回の患者は、外来にて義肢を作成することとなり、退院後は、外来にてフォローするかたちとなった。
    <まとめ>危機的状況にある患者の精神的変化を把握するのに、危機モデルを活用することで、段階にあったアプローチを行うことができたと考えられる。
    <引用文献
    ¹⁾小島操子;看護における危機理論・危機介入-フィンク/コーン/アグィレラ/ムースの危機モデルから学ぶ、2004.6、金芳堂
  • 松岡 真由, 中澤 雅哉, 渡部 啓孝
    セッションID: 2G313
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
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    <目的>摂食・嚥下リハビリテーションの有効性については既に多くの報告がなされている。当院でも言語聴覚士(以下,ST)による嚥下訓練を平成10年度より実施し、摂食・嚥下リハチーム設立など新たな展開も始まっている。今回これまでの嚥下訓練の取り組みをまとめ、急性期病院でのより有効な摂食・嚥下リハビリテーション実施を目指すための指針と今後の課題を明らかにするために分析を行った。
    <対象>平成10年4月1日から平成18年3月31日までの8年間でST依頼のあった摂食・嚥下障害患者440名の内、入院患者395名である。対象者の平均年齢は、72.88歳(27-98歳)、性別は、男248名、女147名だった。平均訓練期間66.30日(1-311日)、発症からST訓練開始までの平均期間は27.90日(発症当日から224日)、発症からST訓練終了までの平均期間は93.19日(2-315日)だった。
    <方法>対象患者の重症度判定には、才藤ら(1999)による摂食・嚥下障害の臨床的病態重症度(Dysphagia Severity Scale,以下DSS)と、栄養摂取状況の記録を用いた。STによる嚥下訓練開始時と訓練終了時のDSSを測定し、回復度を終了時DSS-開始時DSSの値と定めた。回復度は、年齢別、疾患別、発症から訓練開始までの日数別、認知症の有無、高次脳機能障害の有無、転帰等から分析をした。
    <結果>主病名構成は、人数順に脳梗塞(脳幹部は別に算定)199名(50.38%)、脳出血(同上)65名(16.46%)、肺炎34名(8.61%)、くも膜下出血16名(4.05%)、脳幹梗塞14名(3.54%)、脳外傷13名(3.29%)、パーキンソン病7名(1.77%)、慢性硬膜下血腫・脳幹出血・喉頭癌が各4名(各1.01%)となっていた。訓練開始時DSSは唾液誤嚥40、食物誤嚥166、水分誤嚥34、機会誤嚥31、口腔問題22、軽度問題100、正常範囲2名で、誤嚥のあるレベルが271名(68.6%)だった。訓練終了時DSSの内、誤嚥のあるレベルは133名(33.7%)と低下していた。回復度は改善有り234名(59.24%)、変化無し160名(40.51%)、悪化1名(0.25%)となっていた。対象患者総数(n=395)の回復度平均DSSは1.67でt検定の結果、訓練後の有意な回復が認められた。年齢別には40代(n=14)の回復度2.29が最高値であり、加齢と共に低下したが、90代でも平均レベルの回復度を示している事が分かった。疾患別(n>10)では、くも膜下出血2.63、脳幹梗塞2.21、脳外傷1.92の順だった。発症から7日以内に訓練開始した例(n=180)はDSS1.63、8日から14日以内(n=65)はDSS1.26と平均より低値だった。発症早期の訓練開始が良好な回復に直結する訳ではなかった。認知症有りは1.32と平均より低値を示し、高次脳機能障害有りでは1.85と平均より高値を示した。転帰別では誤嚥のあるレベルが自宅退院者(n=88)は6名(6.82%)で、死亡例(n=24)は19名(79.17%)となっていた。誤嚥の有無が転帰に大きな影響を与えていた。経口摂取実施患者は開始時193名(48.86%)で、終了時312名(78.99%)と増加していた。
    <考察>訓練後に誤嚥患者の減少と経口摂取実施患者の増加が認められ、嚥下訓練効果があったと言えた。既存報告に比し当院は一年当たりの訓練依頼者数が少なかったため、今後病院全体で嚥下スクリーニング等を行い、対象者発見をより適切に行う必要があると思われた。
  • 鈴木 智浩, 星 晴美, 高部 寛子, 沼尻 一哉
    セッションID: 2G314
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
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    <目的>当院では小児言語リハビリテーション(以下小児リハ)を実施している。小児リハの場合、患児の能力に向上が見られても両親が納得できず、終了に至らない症例が見られている。そこで患児の両親を対象として、小児リハに対する考え方を知るための調査を実施した。その結果より言語聴覚士としての役割について、考察を踏まえ報告をする。
    <対象>対象は当院の小児リハに通院している患児の両親で、全対象数は47名であった。しかし今回は終了に至らない症例を対象とするため、訓練が開始から1年以上経過していること、また嚥下障害や構音障害以外での言語発達障害を有していることを挙げた。結果として全対象47名のうち19名が該当した。
    <方法>方法は質問紙形式によるアンケート調査とした。調査項目は小児リハでの訓練効果、達成感、心境の変化、家での取り組みの有無、親自身・施設〈幼稚園、保育園、学校〉・小児リハそれぞれへの目標、継続の有無、終了への不安の有無とした。また対象は2歳から6歳までの幼少期、7歳から12歳までの児童期の2群とした。対象19名中、幼少期10名、児童期9名であった。また平均訓練期間は幼少期で1年半、児童期で3年半であった。
    <結果>小児リハに対し、幼少期及び児童期共に満足しているとの回答が過半数を超えた項目は次の通りであった。(1)訓練の効果を感じる、(2)訓練の達成感、(3)親としての心境の変化を感じる、(4)家で取り組んでいることがある。一方で小児リハをいつまで続けたらよいかわからない、終了に対しての不安があるとの回答も過半数を超える結果となった。目標において親自身と施設では社会性や自立を望み、小児リハには言語能力の向上が挙げられた。また幼少期から児童期になるとより言語面への期待が大きくなる傾向が見られた。
    <考察>問題点として依存性を高める原因は、目標を達成しても新たな問題点が見られるため、更なる向上を求めることで生じる過度の期待が考えられる。次に施設への目標と小児リハへの目標が異なるため、小児リハを続けることで言語能力の向上があると考えており、通院することでの安心感を得ていると考えられる。そして訓練の効果を実感しながらも終了すると能力が向上しなくなるとの不安があると考えられる。
     言語聴覚士の役割として、訓練開始当初より訓練期間と目標を明確にしておき、一定期間もしくは目標を達成した時点で、訓練継続の必要性を再検討すること。施設との連携を図り、各施設間の目標の方向性を統一し、可能な限り差をなくすこと。また小児リハで得た基礎的な能力を、生活の中心となる家庭や施設で活用し、環境に適応するようサポートをしていくこと。そのためには、両親が患児を良く理解し親自身が良きパートナーとなるように、訓練を通して自立心を育て、両親の小児リハへの依存性を軽減していく必要があると考えられる。
  • 齋藤 博子, 神保 隆行, 須貝 勝, 高橋 香保里, 大橋 恭彦, 山田 彰, 井上 元保
    セッションID: 2G401
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>近年、反復性膝蓋骨脱臼の要因として内側膝蓋大腿靭帯(以下MPFL)の重要性が指摘され、人工靭帯あるいは自家腱を用いた再建術が行なわれている。今回、自家腱を用いたMPFL再建術後の症例について、当院で実施している理学療法プログラムを中心に紹介する。
    <症例紹介>17歳女性。高校では卓球部に所属。14歳で卓球の試合中に初回左膝蓋骨脱臼をきたし、その後3年間で計3回の脱臼歴あり。最終脱臼後に当院整形外科受診。術前理学療法を1ヶ月間(2回/週)行った後、左膝MPFL再建術を施行した。
    <術前評価>関節可動域(以下ROM)制限なし。膝蓋骨異常可動性およびapprehension testは高度陽性で、kujala score56点。extension lag15°、BIODEX SYSTEM3を用いた筋力測定は60°/sec・180°/sec・300°/secの3スピードにて測定したがほとんど筋出力は得られず、それぞれ健側に対しての欠損率は膝伸展で97%、屈曲では99%であった。左大腿部は著明な筋萎縮がみられ、周径は5cm以上の左右差があった。歩行については左膝関節の円滑な動きが損なわれている印象が得られた。
    <理学療法プログラム>手術翌日からSLR・セッティング等の大腿四頭筋訓練、2日目からCPMでのROM訓練、3・4日目からニーブレース装着下での部分荷重歩行、5日目から端座位での膝伸展、セラピストによるROM訓練、6日目からパテラブレースでの全荷重歩行、10日目から階段昇降、2週目から自転車エルゴメーター、4週目からスクワット、8週目からジョギング開始、16週でフルスポーツ許可とした。
    <術後評価>術後9週時点において、膝蓋骨異常可動性およびapprehension testは陰性で、kujala score75点。膝ROM制限なし。extension lag5°BIODEX SYSTEM3による筋力測定での健側に対する欠損率は膝伸展68%、屈曲33%であった。大腿周径の左右差は3cm以内と改善、歩行は術前と比較して、いくぶん改善傾向がみられた。
    <考察>近年、機能解剖学的および生体力学的研究から、MPFLは膝蓋骨内側支持機構の第1制御因子であることが証明されている。当院では、膝蓋骨内側支持機構の第1制御機構であるMPFLは第一に再建するべきであり、その上で種々の先天的解剖学的因子の有無に応じて付加的手術を行うかを決定するのが合理的であると考えて、MPFL再建術を行っている。膝蓋大腿関節は屈曲角度が大きくなるにつれて骨形態により安定するため、特に膝伸展位から屈曲90°範囲でのMPFLの機能が重要であるとされている。よってMPFL再建術後のROM訓練では、屈曲90°までを慎重に行うことが重要と考えられる。
     MPFLの膝蓋骨側約1/3は内側広筋遠位部の後面に癒合している。手術時にはこの部分の剥離を行ううえ、術前からの筋萎縮が強い症例が多い。また、術後膝蓋骨が内側へ矯正されることで内側広筋の筋収縮の感覚が得られ難い。そのため今回の症例のように術後の筋力回復、extension lagの改善が困難であることが多いと考えられる。以上よりMPFL再建術後の理学療法に関して最も重要となる点は、慎重なROM訓練と膝筋力の獲得であるといえる。
  • 吉田 慎一, 河村 章史
    セッションID: 2G402
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>発達過程におき,視覚優位の姿勢制御から体性感覚優位の姿勢制御へ進化し,その結果自動化した姿勢制御が可能となる.しかし日々の臨床場面では,姿勢制御に対する視覚刺激の影響について疑問を感じることがある.視覚刺激が姿勢制御に及ぼす影響については多くの研究者が報告しているが,活動時における視覚刺激の影響については十分な検討がなされていない.そこで今回,立ち上がり動作に着目し,視覚刺激がどのような影響を及ぼしているのか,比較検討を試みた.
    <対象>健常者10名(男性5名,女性5名),年齢26.4±3.9歳,身長165.4±7.6cm.
    <方法>安静立位時の眼球から水平の位置を視標(1),(1)から垂直に下行した時の地面との交点を視標(2),(1)から垂直に上行した時に(1)から(2)までと同距離の位置を視標(3)とした時,(1)153.4±.8cm,(2)0cm,(3)306.8±13.6cmであった.なお,被検者から(1)までの距離は(1)から(2)までの距離と同距離とした.椅子は背もたれのない市販のもの(300×300×450mm)を用いた.この環境下で,1)通常,2)(2)から(1)へ視線移動,3)(3)から(1)へ視線移動,4)(2)に視線を固定,5)(3)に視線を固定の5条件で立ち上がり動作を行った.なお,1)から5)はランダムに実施し,被検者には各条件で立ち上がり動作を実施する事のみを伝え,研究の趣旨はふせた.各条件における動作は3次元動作解析装置(アニマ社製,MA2000)を用い耳朶(A),肩峰(B),上腕骨外側上顆(C),尺骨茎状突起(D),腸骨稜最頂部(E),大転子(F),膝関節裂隙中央(G),足関節外果(H),第5中足骨頭(I)の9ヶ所に赤外線反射マーカーを付け,空間座標を計測した.なお,各条件ともにサンプリング周波数60Hzにて,3秒間を2回ずつ計測した.得られたデータより,立ち上がり動作中の体幹,股関節,膝関節角度をそれぞれ求め,開始姿勢に対し肩峰が最も前方に移動した時の各角度を,5つの条件間で比較検討した.本研究における体幹角度とはAとEを結ぶ線分とEとFを結ぶ線分のなす角,股関節角度とはEとFを結ぶ線分とFとGを結ぶ線分のなす角,足関節とはGとHを結ぶ線分とHとIを結ぶ線分のなす角とした.また関節角度は矢状面上のそれぞれの空間座標より,余弦定理にて算出した.統計的検定にはFriedman検定(P<0.01)を用いた.
    <結果>1)から5)の結果は順に146.8±13.1°,150.3±12.9°,160.7±9.9°,149.8±12.2°,159.0±9.6°であった.1)と3),1)と5)の間には有意差を認めたが,その他の条件間では有意差を認めなかった.各条件間での股関節,膝関節角度には有意差を認めなかった.
    <考察>視線移動・固視による立ち上がり動作への影響は認めなかった.system model(Williamsら)より,体性感覚システムが優位に働いたためだと考えられる.体性感覚システムに障害を呈した脳損傷患者の場合での検討が必要である.また,動作開始時における視線方向の影響は,眼球運動に先行して起こる頭頚部の運動による影響だと考えられる.今後,頭頚部の影響を考慮して行う必要がある.更に,運動開始時の視線が下方の場合,通常の立ち上がり動作に近い動作過程であるのに対し,視線が上方の場合,早い時期に体幹が起きている事が分かった.しかし上記現象に対し,股・膝関節は通常の動作時に近い動作過程をたどる事から,前方への重心移動を代償する体幹筋群や下肢筋群に非効率的な活動があることが推察される.今後,上記をふまえ更に分析を深めていきたいと考える.
  • 脳出血例への適用
    河村 章史, 吉田 慎一
    セッションID: 2G403
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>大脳基底核(以下BG)は脳出血の好発部位でありその機能に関連した脳科学知見は急速に増大しているが,そうした知見がリハビリテーションに活かされることは未だ少ないと考えられる.そこで比較的新しい脳科学知見を応用してBG出血例に対する治療介入を試み,その意義を検討した.
    <症例>60歳代前半の女性,左被殻出血。平成18年3月上旬に発症し保存的治療を経て3月中旬からリハビリテーション開始となった.初期評価時,BRS;II-II-II,感覚は失語症により精査不能(脱失もしくは重度鈍麻と推定),右半側空間無視,右半側身体失認,失行,失語,pusher syndrome等が認められた.寝返り・起き上がりなど基本動作に介助を要し,座位保持も介助がないと倒れてしまう状態であった.
    <参考にしたBGに関する知見>銅谷(2005)によると,小脳の運動学習が感覚フィードバックと遠心性コピーとの誤差に基づいた「教師あり学習」であるのに対し,BGの運動学習は報酬の有無のみのフィードバックに基づいた「強化学習」と考えられている.また中原(2000)によると,BGには大脳皮質のほぼ全域から投射があり,視床等を介してループ神経回路を形成している.この回路は各々が独立しており特に運動学習に関して視覚座標系と運動座標系は分離した動態を示す.この神経回路構造を基にして,彦坂(1999)はパラレル・ニューラル・ネットワーク(以下PNN)というモデルを構築し,運動学習初期には視覚・聴覚で与えられた空間座標系の情報が大脳皮質連合野から運動野に至る間に体性感覚に基づいた運動座標系に変換され手の運動が起こるとした.
    <訓練内容>介入初期は,随意動作困難である点とPNNモデルより空間座標系での運動学習を意図した点から,主に他動的関節運動を注視させ当該部位の運動イメージの想起を促した.それと並行して,視覚遮断した状態で同様に他動的関節運動を行い運動部位に対する体性感覚的注意を喚起することで,運動座標系での運動学習を図った.開始当初はほとんど被動状態がわからない様子であったが,経過とともに改善された.閉眼状態で上肢・手指の状態がおおまかに掴めてきた段階で,視覚情報と体性感覚情報を照合する課題に移行した.介入全期を通じて,課題完了時に課題遂行の是非をフィードバックした.
    <訓練終了時所見>回復期病棟でのリハビリテーション実施のため,訓練開始1ヶ月半程度で他院に転院となった.終了時BRS;IV-VI-IV,感覚中等度鈍麻,右側の認識に改善が認められた.移乗は監視レベルで可能,寝返り・起き上がり・座位保持は自立となった.
    <考察>本症例は,運動麻痺に関しては上肢・下肢と比して手指の改善が著しかった.今回の治療介入において空間座標系での運動学習促進を試みた際,手指と比べると肩・肘については視覚確認が困難であり,その系における運動学習が相対的に不十分であった感が否めなかった.PNNモデルに照らして考えるとその初期の空間座標系での運動学習の達成度の差が手指と上肢の改善の差となって顕れたとも考えられた.今後,他の要因も含めて検討の必要があるが,PNNモデルに基づいたリハビリテーションの有用性が示唆された.
  • 椎名 誠, 坂 和樹, 直井 一仁, 茅野 幸子, 風見 ひろみ
    セッションID: 2G404
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに> 近年,超音波装置の進歩に伴い頸動脈は超音波での検査に移行してきている。検診などにおいても脳ドックに組み込まれるほど血管病変への関心は高く,年々受診者数が増加している。超音波検査では、IMTやplaque,狭窄率などの評価を行っている。内頸動脈起始部に狭窄性病変があった場合,狭窄率および狭窄部の血流速度を計測する。狭窄部の収縮期最高流速が1.5m/s以上の場合はNASCET法による50から69%の狭窄,2m/s以上の場合は70%以上の狭窄と診断でき,その診断精度はきわめて高いとされている。当院では2004年4月より内頸動脈の狭窄病変に対しNASCET法による狭窄率の測定を行っている。狭窄率と血流速度がどの程度一致するのか検討を行った。
    <対象> 対象は2004年4月から2006年3月に当院で頸動脈エコー検査を行った1026名中,内頸動脈にplaqueのあった患者224名(男170名,女54名,平均年齢69.3歳)で,NASCET法により狭窄率が計測できた316例について検討した。
    <使用装置> 東芝製SSA770A,東芝製SSA700Aを使用。
    方法</B >NASCET法による狭窄率の測定には,ドップラーを使用して計測。狭窄部の流速は,流速が最大となる部位で測定を行った。
    <結果> 近位内頸頚動脈にplaqueがあってもNASCET法による狭窄率が0%の症例は78例あり血流速度は最高で1m/s,平均で0.6m/s,1から49%の狭窄の症例は194例,最高流速は3m/s,平均0.76m/s,50から69%の狭窄の症例は31例,最高流速は5m/s,平均1.83m/s,70%以上の狭窄の症例は13例,最高流速は5.32m/s,平均2.54m/sであった。0から49%の狭窄で1.5m/sを超えてしまった症例は5例あり狭窄率は35.6_-_46.0%,流速は1.51_-_3m/sであった。50から69%の狭窄率で1.5m/sを超えなかったのは11例,逆に2m/sを超えてしまったものが11例と7割程度が流速と狭窄率が一致しなかった。70%以上の狭窄率では,1例で2m/sを超えなかったものの,ほとんどが2m/sを超えており,逆に高度狭窄例では流速の低下を2例認めた。
    <考察> NASCET法による50から69%の狭窄率において,狭窄率と流速に良好な結果が得られなかった。これらの画像を再検討したところ,(1)狭窄部の径を過小評価したため流速の加速がないのに狭窄率を過大評価したもの,(2)狭窄部遠位内腔径を過大評価したため流速が加速しているのに狭窄率が低下したものなど,狭窄率の求め方に起因したものが多かった。これらは,計測を始めた当初に顕著に現れていることから,内腔を描出させる技術不足がデータに表れたものと考えられる。しかしながら、内腔の計測誤差が低いと考えられる症例でも狭窄率と流速に一定の関係が得られず,この狭窄率においては流速との関係を述べるのは難しいと考えられる。
    <結語> 初期は技術不足により計測誤差が生じ,内腔の過小・過大評価をしたため狭窄率と流速に良好な結果が得られなかった。しかし,50_-_69%の狭窄率においては,内腔の計測誤差が低いと考えられる症例でも狭窄率と流速に良好な結果が得られなかったことより,この狭窄率において流速との関係を述べるのは難しいと考えられる。今後,更に症例検討をしていく必要があると考える。
  • 後藤 博, 藤野 明俊, 柳原 利行, 梅村 喜昭, 稲垣 秀司, 楳田 雄, 高橋 秀幸, 真鍋 知子, 鷹津 久登, 田中 孜
    セッションID: 2G405
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに> 肺にびまん性に石灰化をきたす病態は、異所性肺石灰化症・異栄養性石灰化症等がある。異栄養性肺石灰化症は、肺結核・肺ヒスとプラズマ症・水痘などで、炎症・壊死などを示し障害された肺に石灰沈着を示す病態である。しかし異所性肺石灰化症は、正常な肺組織にびまん性に石灰沈着を示す病態である。
     今回我々は、臨床画像より異所性肺石灰化症と思われる症例を経験したので報告する。
    (患者) 48歳 女性
    (主訴) 呼吸困難・喀痰
    (既往歴) 33年前、尿蛋白・血尿(+)ネフローゼと診断 その後、慢性腎炎
     25年前、妊娠中毒症
     22年前、腎炎悪化によりシャント作製、透析開始
    (家族歴)特記事項なし
    (胸部x_-_p) 全体的に淡いすりガラス状
    (胸部CT) 両側びまん性にすりガラス陰影を認めた。
    (骨シンチ) 肺野にびまん性にRIの集積を認めた。
    <考察> 胸部単純写真で見られる所見としては、ほとんど変化がないかわずかにびまん性の肺胞影、すりガラス影、網状影や肺尖部の低濃度域、石灰化した結節影などであるが、胸部単純写真でこれらの異常所見が見られる頻度は低く、また肺水腫などの他の合併する病態との鑑別は困難であり、病変の検出には胸部CTが優れているといわれている。CT上の鑑別としては、過敏性肺臓炎や小葉中心性分布を示す経気道性感染、肺胞出血などが挙げられるが、骨シンチで肺への集積を認めれば診断は容易である。本症例では、長期透析患者であることや胸部単純写真で、肺全体に淡いすりガラス状陰影を認め、異所性肺石灰化症を強く疑い胸部CT、骨シンチを行なった。骨シンチで肺に著明な集積を認め、異所性肺石灰化症と診断した。
    <結語> 胸部単純写真より胸部CTは、すりガラス陰影の描出に優れているため有用であった。骨シンチでは肺への著明な集積が石灰化沈着をあらわしているため、異所性肺石灰化症の診断の決めてとなった。
  • 渡邉 映元, 山田 佳未, 土屋 大輔, 藤野 明俊, 真鍋 知子, 安田 憲生, 鷹津 久登, 田中 孜
    セッションID: 2G406
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>近年MDCTの普及によって分解能(時間分解能、体軸方向の分解能など)の向上が見られ、肺塞栓症に対して造影CTを施行することが多く報告されている。当院でも肺塞栓症に対して造影CTが施行されており、その撮像法に若干の症例を加え報告する。
    <装置>CT:東芝社製Aquilion16列MDCTインジェクター:根本杏林堂社製DualShot
    <撮像法>管電圧120kv、管電流RealEC(AutomA,SD8)、スキャン回転速度0.5sec、撮像スライス厚1mm、ヘリカルピッチ15、画像スライス厚7mm、再構成間隔7mm、MPR用画像再構成:画像スライス厚1mm、再構成間隔0.5mm。
    <造影法>造影剤:オムニパーク300 100mlシリンジ、造影剤注入速度2.0ml/sec、造影剤量体重別、2相法:delaytime、1相目:20sec,2相目60secの固定法で行う。
    <B><結語>
    MDCTは、肺血流シンチグラムや肺動脈造影に比べ、低侵襲かつ短時間で撮像できる。また、従来のSDCTに比べ体軸方向の分解能が向上したことにより、横断像のみならず良質なMPR画像を作成でき多方向から肺動脈内の血栓を評価できる。現在MDCTの肺塞栓症における検出率は90%以上と報告され、臨床的に良好な成果を収めている。当院での検出率も同等な成果が得られ、ファーストチョイスとしての有用性が高いと考えられる。
  • 大胡田 修, 和田 忠男, 新井原 泰隆, 石川 雅也, 浅井 太一郎, 小野 尚輝, 大川 伸一, 中島 三千代, 鈴木 靖彦
    セッションID: 2G407
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに> 近年、CTでの検出器の多列化により短時間で高分解能の画像が撮像可能となっている。一方MRIでは、非常にSN比の高い多チャンネルphased arrayコイルが開発され、parallel imaging の併用が可能となり、CTと同様に短時間で高分解能の画像が撮像できるようになってきている。MRIで3Dシーケンスを腹部のdynamic studyに適用する際、最大の問題点はスキャン時間である。患者が息止めできる時間内にスキャン時間を設定する必要があるが、これまでの3Dシーケンスを用いて検査を行うと、空間分解能とコントラスト分解能両方を犠牲にした画像しか撮影できなかった。今回、当院ではSigna EXCITE HD 1.5Tが導入され、新たなアプリケーションであるLAVA法(Liver Acquisition with Volume Acceleration)の撮像が可能になった。LAVA法は肝臓のdynamic studyを行うことを目的に開発されたアプリケーションであるが、3Dシーケンスであるのにもかかわらず、息止めの範囲内で非常に空間分解能を高めることができるのと、3D法を用いてthin sliceの撮像が可能であり、膵・胆道系腫瘍の描出にも有用と思われたので報告する。
    <使用機器> Signa EXCITE HD 1.5T(GE社製)、8ch body phased array coil(GE社製)
    <方法> LAVA法ではthickness 3ー4mmで撮像を行った、dynamic studyを行う際、造影後の最適タイミングは患者さんに依存するため非常に重要である。当院では、患者の血流速の違いによるタイミングずれを防ぐためにsmart prepを併用し、より精度の高い腹部3D dynamic studyを行い、脂肪抑制を併用したT1強調画像及びCTとの比較を4症例について行った。
    <結果および考察> 3Dシーケンスの場合、枚数が非常に多くなるが、reformatやMIP処理を行って観察をすることができるため、LAVA法は非常に有用であった。膵・胆道系腫瘍を撮像する場合には、smart prepやfluoro triggeringを併用し造影タイミングを最適化し、LAVA法を使用できる機種では積極的に使用をした方が良いと考えられる。当院ではSigna EXCITE HD 1.5Tが導入されたばかりで症例数が少ないが、今後症例を重ねて更なる検証を行っていきたい。
  • 宇野 智江, 神谷 恒行, 原田 正弥
    セッションID: 2G408
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <諸語>近年、薬剤投与日数の制限がゆるやかになる一方で、重篤な血液・肝・腎機能障害が報告されている薬剤は少なくない。しかも、これらの副作用は本人の自覚症状が現れにくいことから定期的な検査を継続して行うことが必須である。当院薬剤科では2004年4月より、定期的な検査を必要とする薬剤(特に緊急安全性情報が出るなど、これまでに重篤な副作用が報告されている7剤)について追跡調査を行い、調査日の3ケ月以内に必要な検査が行われていない患者に対して電子カルテシステムのメッセージボードに「○○服用中につき血液・肝・腎機能検査を 日付/薬局」と書き込むことにより注意を喚起するという試みを開始した。当初の成績については第53回日本農村医学会学術大会にて報告したが、今回、医局へのアンケート調査により2年間の試行に対する評価を行ったのでそれについて発表する。
    <方法>アンケートの目的は薬剤科の2年間の試みが医師のニーズに沿ったものかどうか、薬剤科が選択した7剤が妥当かどうかを検証するためとした。小児科・皮膚科を除く全科医師19名に対して、薬剤科が、追跡調査した2年間の結果を報告し、以下の内容についてアンケート調査を行った。(1)副作用の早期発見のため積極的に臨床検査を行っている薬剤・薬効群は?。(2)これまでに薬剤性と思われる重篤な肝障害を経験したことがあるか(被疑薬は?)。(3)薬剤科で入力した注意喚起のコメントを利用したことがあるか。(4)今後、薬剤科による追跡調査と注意喚起のコメントの継続を望むか。
    <結果>2004年11月から2006年3月の間に7種類の薬剤のうちいずれかを投与されている約200名の患者について半年毎に追跡調査をした。3ヶ月以内の検査未実施率は13.2%-29.9%であった。薬剤科による注意喚起のコメント入力後、3ヶ月以内には未実施患者の62.1%-89.1%に対して必要な検査が行われていた。医局へのアンケート結果(回収率100%)は以下の通りであった。(1)積極的に検査を行っていると答えた医師10名(52.6%)。対象薬として抗癌剤・ZEMARDS・スタチン系薬剤・ベンズブロマロン・MTX・チクロピジン・エダラボン・チアマゾール・が挙がった。(2)重篤な薬剤性肝障害を経験したことがある医師6名(31.6%)。被疑薬としてベンズブロマロン・MTX・フェニトイン・シベレスタットNaが挙がった。(3)コメントを利用した医師10名(52.6%)。(4)継続を望む医師17名(89.5%)(5)特に意見なしという医師10名(52.6%)品目の追加を望む医師3名(15.8%)。具体的にスタチン系薬剤、前立腺癌治療薬が挙がり、調査対象品目を追加する必要性を感じた。
    <考察>今回、医局の協力を得てアンケート調査を行い、結果として薬剤科の試みは診療現場のニーズに沿ったものであり、指呼の評価は高いことがわかった。また、今回の試行期間の間に、当院で、ベンズブロマロンによる肝障害が1件、酢酸クロルマジノンなたは酢酸ゴセレリンの可能性が否定できない肝障害が1件発生しており、必要とされている臨床検査を継続して行うことの重要性を改めて認識させられた。薬剤科としたは今後も医師への処方支援のため、必要な情報を的確に、提供していきたい。
  • 三浦 毅, 安井 久, 後藤 昌
    セッションID: 2G409
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>注射薬を有効かつ安全に使用するために、薬剤師が薬学的知識に基づき処方監査するプロセスは重要である。当院では、注射薬オーダリングシステムと注射薬自動払出機を稼働させ、処方ミス、調剤ミスによる薬剤事故の防止に努めている。また注射薬処方監査時の知識の個人差を是正するため「注射処方監査時のチェック項目」を作成し業務に役立てている。今回、薬剤師が行う注射薬調剤の処方監査が医薬品の適正使用、薬剤事故防止に寄与しているかを確認するため、疑義照会内容を解析したので報告する。
    <方法>
    1.「注射処方監査時のチェック項目」の作成
     疑義が生じた時に添付文書などで調べた内容を薬剤毎にまとめ一覧にした。質の高い画一的な処方監査を薬剤師全員ができることを目的に作成し、随時内容を改訂している。
    2.調査方法
     平成17年度の1年間、薬剤科で発行した入院患者の定時・臨時注射処方せんにおいて、疑義照会し処方変更となった件数を調べ、その内容を抗菌薬に関するもの、支持療法を含めた抗癌剤治療に関するもの、他の治療薬に分けて変更理由を詳細に集計・解析した。
    <結果・考察>総注射処方せん枚数107,593枚、疑義照会件数819件(0.76%)、処方変更件数568件(0.53%)だった。
     抗菌薬は抗MRSA薬など抗菌剤検討小委員会で推奨プロトコールのある抗菌薬の疑義照会件数が多く処方変更も多かった。これは薬剤師が推奨プロトコールの内容を把握し、適正使用を明確に判断できたためと考える。バンコマイシンの初期投与設定は、大部分の症例において薬剤科の解析結果が採用され処方変更となっており、これらの症例では薬物血中濃度の適正化に貢献できた。
     抗癌剤処方は院内で登録されたプロトコールと薬歴に基づいて監査している。プロトコールとは違った点滴速度、計算ミスによる速度設定など、速度指示に対する処方変更が多かった。またトポテシンの過量投与の指示を処方変更により防止できた事例があった。投与量は処方せんに体表面積の情報がなく適正量を判断するのが困難であるため、今後対策を検討する必要性を感じた。
     他の薬剤では、オメプラールの投与量、カタクロット、イントラファットの投与速度、フェジン、フサンの配合変化に対する処方変更が多かった。処方入力ミスと考えられる輸液の速度設定、インスリン製剤の処方単位、重複処方も多く、輸液製剤では1日量と1回量を誤った事例も何件かあった。
     処方入力ミスはシステムの理解不足、医師の薬剤に対する知識不足が要因となっている事例が多く、新人医師の教育の徹底、オーダリングシステムの改善といった処方入力ミス減少のための対策が必要であると感じた。
    <まとめ>今回の結果より、薬剤師の処方監査は医薬品の適正使用の実践、薬剤事故の防止において貢献していることが確認できた。
     処方入力ミスは薬剤の規格、処方単位、投与ルートの選択ミスなど、システム特有のエラーが多くあることが解り、再発防止の対策を構築する必要性を感じた。今後、これらのデータを医療安全管理部など関連する委員会で報告し、現状の問題点を医師、看護師らと共有化することで、薬剤事故の防止、医薬品の適正使用の推進を図っていきたい。
  • 水野 彰, 後藤 昌
    セッションID: 2G410
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>薬剤師が病棟活動を行ううち、患者の持参薬と入院後継続の処方薬が異なる事例を経験した。
     事例:患者は他院処方薬ヒポカ5mgカプセル1Capを朝食後内服中であったが、持参薬不足に伴い15mgが処方された。当院では15mgを採用しており、入院時、持参薬を薬剤師が確認した際5mgであったため医師に処方変更を求めたが、血圧低下傾向のため内服中止となった。ここでの問題点は、持参薬を薬剤鑑別しなかったこと、紹介状にはヒポカの記載のみで規格単位が明記されていなかったことが挙げられる。(実際ヒポカカプセルには5mg、10mg、15mgの3規格存在する。)
     この事例より、患者の服用している薬を医師や患者自身が把握できているか疑問に思った。そこで持参薬の把握がどこまでされているのか、調査を行うこととした。
    <方法>消化器・総合内科病棟において、新規入院患者を対象に2005年8月の1ヶ月間、以下の項目について調査した。
     紹介状の有無、紹介状での薬剤名・規格単位・用法用量の記載、持参薬の有無、薬剤情報提供用紙の有無
    <結果> 該当期間内に新規入院患者は40名であった。そのうち当院通院患者は23名、他院通院患者は17名であった。紹介状を持参した患者は17名で、かつ処方があった患者は14名であった。紹介状に薬剤名・規格単位・用法用量の明記がなかったのは1名であった。内服処方がある患者は40名中25名で、持参薬を確認できた患者は21名であった。また、内服処方のある患者で情報提供用紙を持参した患者は3名であった。
    <考察>紹介状にて薬剤名・規格単位・用法用量が把握できない処方が1件有り、薬剤の把握がされていない事が判明した。紹介状の多くは手書きで、文字を判読することが困難なこともあった。持参薬から薬剤鑑別にて薬剤を把握することも可能だが、持参薬が確認できない患者4名に対しては紹介状の記載がなければすぐさま薬剤の把握ができない。また、持参薬を確認できなかった患者は、入院するに当たって現在服用中の薬剤は必要ないと誤認していた。持参薬と同時に薬剤情報提供用紙を持参した患者が25名中3名と少なく、情報提供用紙の有益的な利用がされていないことが分かった。昨今、お薬手帳による情報提供が盛んななか、当診療域における患者の薬剤情報提供用紙に対する認識の低さがうかがえる。
    <今後の対策>紹介状に関しては地域連携を促進する上で重要な情報伝達の鍵を握っている。しかしながら薬剤に関する項目は自施設での採用薬剤を基本として規格の異なる同名薬剤の存在を把握していない医師が多いことがうかがえるので、地域連携の電子化が望まれる。だが、経済的なこと、個人情報保護法などの観点から簡単ではない。そこで、情報提供用紙を効率よく利用して患者?医師間、病診連携、薬薬連携のツールとしてリスクマネージメントに役立つように普及できるように努力したい。
  • 安保 忠明, 吹谷 佳奈子, 伊藤 郁恵, 伊藤 紫野, 佐々木 真則, 福岡 英喜
    セッションID: 2G411
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <目的および方法>ブロー液(ブロー氏液)は、19世紀の医師Burowが考案した酢酸アルミニウム液であり、皮膚の防腐および収斂、湿布薬として用いられた(ステッドマン医学大辞典より)。
     その後、1998年にThorpらがブロー液(13%酢酸アルミニウム)を慢性化膿性中耳炎の患者に点耳し著効を得たとする報告により注目され始めた。
     近年、わが国においても寺山らによるブロー液の使用経験が日本耳鼻咽喉科学会会報に掲載され、その有用性が再評価されるようになり耳鼻科医の関心を集め、薬剤科への製剤依頼となった。
     しかしブロー液に関する情報は少なく、製剤法に関しても不明な点が多い製剤であるが検索を行った結果、3種の処方(レシピ)を情報収集することができた。
     一つは、病院薬局製剤「第2版」(日本病院薬剤師会編)に8%酢酸アルミニウム液として収載され、一つは、USP27局にAluminium Subacetate Solution(濃度不明)、そしてThorpらが報告したとされる13%液である。
     それぞれの処方は濃度が異なる製剤法であり、さらに反応させる薬剤は同じであるが、反応量(モル量)が必ずしも一定しないことより目的とする濃度(13%)が得られるか疑問であった。このことから我々は、酢酸アルミニウムの製剤法に関して、(1)化学反応式を完結させること、(2)反応式に基づいた必要なモル濃度を算出すること、(3)13%となる反応量を決定することが必要であると思われた。
    <結果>酢酸アルミニウム生成のための化学反応式は、はじめに硫酸アルミニウム、炭酸カルシウム、酢酸を反応させ、塩基性酢酸アルミニウム(Aluminium Subacetate)が生成される1つの式と、さらに生成された塩基性酢酸アルミニウムに酢酸を加えることにより、目的とする酢酸アルミニウムが生成される2本の化学反応式からなることが判明した。これら二つの反応式に基づいて、13%となる必要反応重量を算出した。
     酢酸アルミニウム13gを生成するための必要モル濃度は計算の結果31.9mmoLが反応しなければならない。よって、それぞれの反応式に代入し必要量を求めると、硫酸アルミニウム10.9g、酢酸(33%酢酸液35mL)、炭酸カルシウム9.6gが反応し、全量100mLとすることで目的の濃度が得られ製剤法が完結した。
    <考察>13%酢酸アルミニウム液を製剤するために化学反応式に基づきモル重量を算出した。この結果で得られたモル重量をもとにUSPなど他の製法に記載されているレシピを比較検討した結果、目的の濃度が得られていないことが想定される。
     なお、本製剤を院内で臨床使用するには、PL法に基づいた審議が必要と思われる。
  • TQMの手法を使って
    大竹 孝広, 大橋 忍, 東野 智美, 山中 聡子, 桜井 英俊
    セッションID: 2G412
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉 病院・調剤薬局のいずれにおいても薬の適正使用と待ち時間の短縮は、調剤業務における最重要課題と認識している。この二つの課題を改善するために、TQMの手法を用いて疑義照会件数の削減に取り組んだので報告する。
    〈方法〉 疑義照会の実態を把握するために調査を行い、疑義照会内容から解決すべき課題とその目標値を定めた。その後、課題の原因を分析し、分析結果から改善策の検討を行った。実効ある改善策を選択し、実施し、その成果に対する評価を行った。最後に、成果を一過性のものにしないために成果の定着化を図った。
     1.疑義照会の調査期間(改善前):平成17年6月1日から平成17年8月31日まで
     2.疑義照会の調査期間(改善後):平成17年11月1日から平成18年1月31日まで
    〈結果〉
     1.疑義照会の実態
     2.目標値の設定
     3.原因の分析
     4.改善の成果
     ・小児用量の桁数間違いが10件から0件に減少した。
     ・用法選択間違いが10件から7件に減少した。
     ・オーダー間違いが20件から10件に減少した。
    〈考察〉 従来、疑義照会までで終わっていた業務を更に発展させ、疑義照会情報を医師へフィードバックすることで疑義照会件数を削減することに成功した。現在、この疑義照会情報を使ってテキストを作成中である。このテキストは、新任医師、新任薬剤師、新任看護師を教育するために活用する予定だ。薬剤師として、データマネジメント能力を更に磨き、活きた情報を発信していきたい。
  • 転倒・転落、危険防止のために
    小林 郁美, 宮木 晴美, 大西 みづき, 水谷 貴子
    セッションID: 2G501
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに> 現代背景により入院患者の高齢化が進み、認知症を伴うことも珍しくない。また四肢の拘縮、変形をきたしている場合もある。
     入院生活は、患者にとって様々な活動制限があり、苦痛を伴う出来事である。また患者は、環境変化に不適合を示す事が多い。その為看護師は、夜間のベッドからの転倒・転落防止の為、ベッド柵とベッドを包帯などの紐で固定した。患者は、柵を外す行為はなくても、柵の隙間に四肢がはまり込む、または乗り越える行為が見られるなど、危険な場面に直面し、リスクが高かった。そこで患者に直接抑制をかけること無く、またご家族や周囲からみて、柔らかいイメージで事故防止につながるようベッド柵カバーの作成を試み、事故件数の減少につながり成果を得たので、ここに報告する。
    <方法>
    1.対象
     1)夜間活動の激しい人、不穏な人
     2)四肢拘縮、変形があり柵の隙間にはまり込む可能性がある人
     3)認知症がありベッドより転倒・転落する可能性が高い人
     4)転倒・転倒スコア・危険II以上
     5)2005年6月1日より8月31日の期間、入院し上記項目に該当する患者10人
    2.実施内容
     カバー作成と使用方法
     1)ベッドの一辺に2点の柵を使用し、布製で柵全体を覆い、柵とベッドを固定する4本の紐を付ける。1例につき4点柵を使用する。
     2)カバーの色は白以外とし素材は綿でカバーサイズ200cm×40cm、紐3cm×60cmとする。
     3)入院当日より開始し、一例につき2週間施行する。
    <結果・考察> ベッド柵とベッドを包帯などで固定することは、倫理的問題、印象的問題がある。布製カバーの使用により、柔らかいイメージとなり病室の雰囲気も明るくなった。身体制限に関する説明・同意書の使用は、倫理問題を解消できたと考える。カバーで覆うことで柵の隙間が無くなり、身体と柵がふれないように、枕や布団の丸めた物を置く必要が無く、ベッド上のスペースを狭める事も無い。また精神的に何らかの影響を与えたのか、柵を乗り越える行為がなくなり、ナースコールで訴える行為が見られた。四肢がベッド柵の隙間にはまり込む危険度が低下した。ベッドと柵の固定紐の本数について、4本を使用していたが、引きちぎる症例が有り、9本と本数を増加する事で、固定力の増加と外す手間が増え、柵を外す事故防止が出来た。
     使用期間中の転倒・転落アクシデントレポート件数と前年度の同じ期間中の件数が7件から3件と減少が見られた。入院患者数、疾患、年齢層など一定条件の中からではないため、正確な数字ではないが実感として事故件数は減少したと思われる。本ベッド柵は現在も使用し、他病棟でも成果を得ている。    
  • 杉原 勝宣
    セッションID: 2G502
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言> 当院の転倒転落ワーキンググループが中心になり、平成16年2月から約半年間に提出された転倒インシデントレポートのべ116件を分析し,当院の特徴をふまえた危険因子7項目、7点満点の簡便な転倒アセスメントスコアシートを作成した。安全管理委員会の承認を経てH16年10月以降、この新しいスコアを全病棟で使用されている。今回、H17年2月_から_4月の3ヶ月間に発生した転倒事故に対して提出された転倒インシデントレポートから入院カルテ中の転倒アセスメントスコアシートを抽出し、実際に転倒した群(57件)と、年代、性別、診療科をマッチングさせた同数の非転倒群の転倒アセスメントスコアシートを後方視的に分析し、統計的に有用性を検討した。
    <方法> H17年2月から4月の3ヶ月間に発生した転倒事故に対して提出された転倒インシデントレポートは75件。その中から結果的に57件の転倒アセスメントスコアが集められた(転倒群)。対照群として年代と性別、診療科(診療科のみ8割、他は10割)をマッチングさせた非転倒群のアセスメントスコアシート57件をアトランダムに抽出した。統計処理はStatMateを使用した。
    <結果> 転倒者57名について性別は男性34名、女性23名。全体の年代は60代12名、70代19名、80代13名、性別では男性では70代が12名、女性では70、80代ともに7名と以前の調査同様、70代の分布が多かった。年齢を除く6項目、すなわち転倒の既往、機能障害(麻痺や移動障害)、認識力の低下、眠剤の使用、排泄障害、視覚障害の有無についてそれぞれの割合(転倒群%、非転倒群%と示す)は、転倒の既往(31.0、29.8)機能障害(44.8, 38.6)、認識力の低下(27.6、19.3)、薬剤の使用(22.4, 12.3)、排泄障害(27.6、28.1)視覚障害(12.1, 24.6)であったが、カイ2乗検定で転倒群と非転倒群の間に有意差は見られなかった。7点満点の合計得点で、転倒群で3点が16名、非転倒群では2点が17名で最も多かった。点数分布をMann-WhitneyのU検定で検討したが、こちらも有意差はなかった。
    <考察> 転倒の既往(31.0、29.8)と排泄障害(27.6、28.1)では転倒群と非転倒群で非常に近い値を示した。他の4項目も差はあっても統計的有意差までには至らなかった。視覚障害については有りと答えたものが非転倒群では転倒群の約2倍であった。これは視覚障害があるほうがかえって注意深く行動しているため、と推測された。危険因子の有無の割合、合計得点ともに転倒群で高い傾向は確認できたが、統計的な差は見られなかった。転倒アセスメントスコアは統計的効用よりも入院時の転倒リスクの確認としての意味合いが強く、2点以上から転倒に対する看護計画立案、3点以上でハイリスク患者要注意と低得点から対策をとることで転倒防止を促進している。
  • 佐藤 佳子, 内藤 郁絵, 江口 京子, 西森 志乃, 上野 いずみ
    セッションID: 2G503
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>手術後は一時的なせん妄により不穏状態を起こす患者が多く、これらの患者には、ライン類の自己抜去防止の為、固定帯(リムホルダー)でベッド柵に上肢を固定する方法をとっていた。しかし、皮膚損傷を起こしたり、体をずらしてラインを掴み自己抜去する事があり、固定する事で患者の拘束感も増強していた。そこで、指の動きを制限できる手袋型で、ベッドへ固定しない装具ならば、自己抜去の予防と拘束感の軽減に繋がると考え、固定用具を作成し活用したので報告する。
    <目的>手袋型でベッドへ固定しない固定用具を作成し、その効果を明らかにする。
    <方法>
     使用期間:平成17年10月‐18年3月
     対象:病棟看護師21名、手術後不穏状態の患者3名とその家族5名
     方法:病棟看護師へ、現在使用中の固定用具に関する質問紙調査を実施、結果を元に固定用具を作成した。これを対象患者1名に使用し家族・看護師に聞き取り調査を施行。その意見を元に改良を行った。その後、別の対象患者2名に使用し、その家族、看護師に聞き取り調査を実施した。
    <倫理的配慮>術後、不穏状態にある患者の家族に当研究の説明をし、理解と協力を得た。
    <結果>作成前質問紙調査(回収率100%)結果で「現在の固定方法では自己抜去を防止できない」と21名中19名が回答し、「固定した部位の循環障害も招く恐れがある」「固定は拘束感を与えている」との意見が挙がった。新しい装具には「握る動作を制限でき、ベッド柵に固定しない装具」の要望があり、以上の意見を基に作成に取り組んだ。装具は手袋型で、中にクッションを付け手指の動作を制限した。また、外れぬよう手首は紐で太さの調節を可能とした。作成後、対象患者に使用したが装具を外され、中で指が動く事が原因と考えられた。看護師からは「手首が擦れる」との意見があり、この結果からクッションを大きくし、手関節周囲に当て布をした。改良後、同患者に使用した際は外されず、自己抜去は予防され、手関節の発赤も認めなかった。また、家族からは「ベッドに縛らずにすんでいい」との意見が聞かれた。その他2名の対象患者にも使用し、同様の結果が得られたが、看護師からは「体動の激しい患者には効果が期待できない」との意見も挙がった。
    <考察>術後強い不穏状態にある患者には、ベッドへの固定をする事が多いのが現状である。しかし、青山絹代らは「一時的でも体動の自由を奪われることは、患者や家族にとっては大変不愉快な行為」と述べており、固定は安全確保と同時に身体的・精神的苦痛を与える行為である。今回作成した固定用具では、家人から腕が自由になって良いという声が聞かれ、自己抜去、皮膚トラブルは認めなかった。ライン・パウチに触れても問題はなく、拘束感の軽減、自己抜去防止に繋がったと考える。しかし、看護師より、体動の激しい患者には効果が期待できないとの意見があったように、今後も自己抜去予防と拘束感軽減の為に、使用時期も含めた検討が必要であると考える。
    <今後の課題>今回の調査では症例数が少なく不十分な結果であり、新たな課題も出た為、今後も継続した調査研究が必要である。
  • 大塚 奈央, 牧野 神奈, 中嶋 一二三, 加納 一二三, 小倉 みゆき, 矢島 広美
    セッションID: 2G504
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>外科病棟では、術後易感染状態にある患者のケアにあたることも多く、感染防止の面から頻回に手洗いを行う。そのため、絶えず手あれが生じており、処置の際、苦痛を伴うことも多い。しかし感染防止のため、手洗い回数を減らすことはできない。白石らの研究では、「手洗い回数と手あれには相関が認められた」という結果が出ており、当院においても手洗いと手あれには関係があるのではないかと考え、手あれ実態調査をした。
    <研究目的>
    1.当院の看護師における手あれの有無と手あれの状態を明らかにする。
    2.手あれと手洗いとの関係を知る。
    <研究方法<>対象看護師164名に質問紙にて調査し、記述統計にて比較した。
    <結果および考察>白石らの研究において、手洗い回数の増加に伴い手あれは生じやすくなると報告されている。アンケート結果より、手あれが約65%の対象にみられた。当院では液体石けんによる手洗い回数は、平均16回以上、速乾性擦式手指消毒薬による手洗い回数は、平均11回以上が最も多い回数だが、手あれのある対象のうち、液体石けんによる手洗い回数が16回以上と回答した対象は42%、また速乾性擦式手指消毒薬による手洗いでは11回以上と回答した対象は22%と半数を下回り、この結果から手洗い回数が必ずしも手あれに影響しているとはいいきれないことがわかった。手あれによる苦痛は、87%の対象があると回答しており、苦痛の理由として速乾性擦式手指消毒薬がしみる、消毒するときに痛いなどがあげられており、これらより、手洗い回数が減ってしまう可能性がある。「手あれの部位には正常な部位に比べて、ブトウ球菌などの細菌が付着、増加する。」といわれており、手あれの範囲が広がるにつれ、感染のリスクも高くなると考えられる。手あれ防止策としていくつかの文献に、ハンドクリームなどの保湿剤の使用が推奨されている。「手洗いによる『手あれ』の機序は、手洗いに用いる石けんや消毒薬入り石けんによる角質層の皮脂膜の喪失、また速乾性擦式手指消毒薬による皮膚の乾燥と刺激から始まります」といわれている。当院でも手あれの症状において、乾燥と回答した看護師が最も多くあげられており、保湿剤の使用を推奨していく必要がある。保湿剤使用の有無において、86%の対象が使用していると回答した。保湿剤を使用している看護師が多いのにもかかわらず手あれが多いには、保湿剤を使用しても、頻回な手洗いによりすぐに効果がなくなってしまうことや、忙しい業務の中、手洗の度に保湿剤を塗り直すことが難しいためと考える。
     藤江らの研究では、業務中に使用する時間を決めた計画的な保湿剤の使用と、保湿剤塗布の呼びかけなどの啓蒙活動により手あれの改善がみられ、それに伴い、手洗い、手指消毒剤の回数の増加が認められている。当院では手あれ防止策は個人に任されているが、今後は組織的な防止策の検討が必要である。
    <おわりに>
    今回は手あれのない対象の調査を行っていないため、手あれの関連要因について手あれのある対象との比較が行えなかった。個人の保湿剤の使用方法、回数なども含め今後さらなる調査を行い、手あれ防止策の検討が必要である。
  • 市川 智之, 飯島  宏子, 常盤  英文
    セッションID: 2G505
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉近年、注射薬による薬剤の取り違えや投与量ミスによる医療事故が報告されている。確実な調剤を行い患者へ安全な注射薬の提供のため薬剤師が担う役割は重要であり、各医療機関においてリスクマネジメントの観点から様々なシステムが構築されている。当院では2003年1月よりオーダリングシステムを導入し、それに伴い薬剤部では薬剤部門システムを使用した注射調剤を行っている。2005年7月からは抗がん剤調製システムと連動したシステムを構築し、病棟および外来の抗がん剤の混合調製業務も開始している。今回、当院における注射薬オーダリングシステムと運用評価、今後の課題について検討を行った。また、TPN用高カロリー輸液調製においても業務改善を行ってきたので報告する。
    〈方法〉当院注射オーダリングシステムは医師がオーダー入力後、注射部門システムに情報が流れる。注射調剤室からのデータ出力により処方箋、ラベル発行システムを経由し無菌製剤室、抗がん剤調製室にてそれぞれ調製が行われている(図1)。

    抗がん剤調製では4人の薬剤師が調剤から混注までに関与し、患者の安全確保へより詳細なチェックを可能とした。オーダーの処方入力締め切り時間は平日14時、土曜11時とし、休日分の高カロリー輸液については糖・アミノ酸製剤や電解質類、微量元素のみを混注し、抗がん剤調製は行っていない。高カロリー輸液用ラベルは手作業で作成していたが、作成ミスによる混注ミスを無くすため、データ出力時に自動でラベルに印をつけるよう改善を行った。
    〈結果・考察〉注射箋枚数は平均370枚/日、TPN用高カロリー輸液は平均76件/日であった(2006/3月)。注射調剤件数は増加しているが、これは対象病棟の拡大や2月から開始されたバーコードによる照合システムも影響していると思われ、今後もさらに業務量の増加が予想される。現在のシステムでは業務スペースの関係もあり、各調剤室へデータが送られそれぞれの薬剤師により詳細なチェックを可能としてはいるが、病棟へ薬品の搬送される時間がそれぞれ異なるなどの問題もある。このため、今後は業務に応じた人的な流動性も持たせ、効率を高めていかなければならない。高カロリー輸液調製においては、自動的に混注する薬剤に印を付け、手作業を入れないことにより薬剤の混注ミスが無くなった。また、ラベルの張り間違いを防ぐ為、間違いやすい薬剤については蛍光ペンによる識別を開始した。蛍光ペンは消毒用エタノールによる滲みも無く、油性マジックに比べ無菌製剤室での使用には適していると思われる。
     今後もさらに運用面の整備や薬剤支援システムの充実をはかり、さらなる安全性の向上に取り組んでいきたい。
  • 渡辺 亜理紗, 佐藤 喜子, 齊藤 玲子, 阿部 ゆうき, 柴 由美, 佐々木 幸子, 菊地 綾子
    セッションID: 2G506
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>優位半球に関連するが、一般的に、右麻痺患者(以後右麻痺とする)は失語をきたし、左麻痺患者(以後左麻痺とする)は空間知覚に障害をきたすとされ、左麻痺の事故報告が多いと言われている。
     当病棟では、安全対策として転倒転落アセスメントスコアーシートの活用、安全用具の使用、鎮静剤投与等を講じているが、ヒヤリハットが起きているのが現状である。そこで私達は、ヒヤリハット報告を障害されている麻痺側別に分析し検討することで、事故防止における看護の方向性が見出せたので報告する。
    <方法>
     研究目的:脳血管障害患者の麻痺側の違いとヒヤリハット報告事例との関連を探り、事故防止に資する看護を明らかにする
     期間:2005年4月10日から7月31日
     方法:2002年3月から2005年3月までの片麻痺患者に関する事例64件のヒヤリハット報告集計
    <倫理的配慮>ヒヤリハット報告は患者名、提出者名の個人が特定されないようにし、研究に必要な情報のみを抽出した。
    <結果>片麻痺患者の報告は64件中左麻痺は42件、右麻痺は22件と左麻痺が2倍と多かった。報告の内容として一番多かったのが転倒転落54件で、その内訳は左麻痺36件、右麻痺が18件であった。次にチューブ・ドレーン類の抜去が10件で左麻痺6件、右麻痺4件であった。これらの原因として、排泄に関して27件で、左麻痺19件、右麻痺8件であった。それ以外では、一人で動いた、物を取ろうとした、理由のわからないことなどが27件で、内訳は左麻痺18件右麻痺9件であった。時間帯別に見ると、夜勤帯の報告が59件中45件と76%を占めており、一番多いのが準夜帯の30件で左麻痺21件、右麻痺9件であった。深夜帯は15件で左麻痺12件、右麻痺3件で、日勤帯は19件で、左麻痺8件、右麻痺11件でこの時間帯だけ右麻痺が多かった。
    <考察>看護の場面では見かけ上左麻痺の方が、利き手に麻痺が残り失語症をともないやすい右麻痺より生活レベルが有利に見えたが、実際の報告においては左麻痺の報告が2倍以上であった。
     今回左麻痺の報告が多かった理由として、尿意があるとナースコールを押すよりも先に排泄しようと動いてしまったり、点滴やチューブを気にしないで動いてしまうことが原因と考えられた。
     夜勤帯の報告が多かった理由として左麻痺は視覚認知障害により、距離、大きさ、位置などの関係を判断する能力に問題が生じるためと考えられた。
     この研究を通して、麻痺の強さや失語等の程度だけでなく、障害された部位を考え看護することが事故防止にもつながり、今後の看護の課題である。
    <結語>1.ヒヤリハット報告は左麻痺が右麻痺より2倍以上と多いことが明確になった。
    2.麻痺側別に指導方法や照明のど周囲の環境を変える必要がある事を認識した。
    3.麻痺、失語等の程度だけでなく障害された部位を捉え、看護することが今後の課題である。
  • 五十嵐 健一, 澤田  恵美子, 平沢 博, 河内 貞臣
    セッションID: 2G507
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言> 近年の輸血療法は,安全対策の推進により感染性輸血副作用や合併症は著しく減少したが,新たに肝炎ウイルス、HIVのウインドウ期にある供血者からの感染が問題視されるようになった。2004年7月,厚労省は「血液製剤の遡及調査について」の中で受血者の輸血前血液保存の必要性を述べた。また同年9月には「輸血療法の実施に関する指針」が一部改正となり,輸血前後の感染症マーカーの在り方が示された。当院では輸血療法委員会において,輸血前後感染症検査及び受血者の輸血前血液凍結保存の意義は大きいと考え,導入を決定した。また、輸血後感染症検査の実施率を高める目的で,患者向けに検査案内の発行も試みている。それらに対する取り組みの現状を報告し,また今後の課題などの検討を行った。
    <経過>
    1) 輸血前血液保存について
     1998年より当院の輸血管理業務一元化に伴い,診療科より提出された全ての交差試験用血清検体を蓋付きプラスチック容器に移し,-20℃での凍結保存を開始した。当初は保存期間を約3ヶ月に限定した。2004年6月からはなるべく長期間の保存を目的として-70℃での保存を開始し,以後の検体は全て保存している。
    2) 輸血前後感染症検査について
     輸血前検査の対象は,輸血を予定した全ての症例とした。輸血後検査は輸血実施患者全員が対象である。当院における輸血前後感染症検査は,2003年7月より開始した。当初はHBs抗原,HCV抗体,RPR,TP抗体,HIV1/2抗体,HTLV-1抗体の6項目であったが2005年8月からは上記にHBs抗体,HBc抗体,HCVコア抗原を加えた9項目で検査を実施している。測定方法はRPRが用手法,HTLV-1抗体がPA法,その他は全てCLEIA法である。
    3) 輸血後感染症検査案内の発行について
     2005年11月より,輸血実施患者を対象に検査案内を発行している。これは輸血後検査に関する説明文が印刷された3枚綴りの複写用紙であり,これを用い主治医が患者に検査の説明を行い,患者控を患者が,病院控をカルテ,検査控を検査部で保管し,検査予定日に患者に来院してもらい検査を行うシステムである。
    <今後の課題> 検体保存に関しては,今後,冷凍庫のスペース不足が予想されるため,輸血実施患者の検体のみに限定して保存することや,保存期間を明確に定めることなどが必要と思われた。現在,輸血前後感染症検査はRPR,TP抗体,HTLV-1抗体など保険適応外の項目も実施しているが,今後の診療報酬改定の動向を視野に入れ,より適切な検査項目の選択が必要であろう。検査案内発行については,未だ輸血後検査の実施率は低い印象であり,臨床医に対し輸血後検査の必要性を理解してもらえるよう,今まで以上の努力が必要と感じた。
    <結語> 輸血前後感染症検査に関する当院の取り組みの現状を報告した。現在,この検査に対する各病院の考え方や対応は様々であり,未だ検査を導入していない施設も多い。しかし輸血後感染症検査が陽性となった患者の感染源を特定することは重要であり,そのためには臨床医や患者の協力が不可欠であると思われた。
  • 山田 久喜, 米山 英二, 坪井 伸治, 勝見 章男
    セッションID: 2G508
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>当院では2002年5月に病院移転を行い、それと同じくして電子カルテとリンクした物流システムを導入し、当院の手術センター、心・血管造影室と供給課(SPD:Supply Processing and Distribution)の間で運用を行っている。近年高度化する医療とともに特定保険医療材料の高額化とその使用量の伸びは著しく、病院経営上からも適切な医療材料の管理が求められている。また。高額な特定保険医療材料のほとんどが当院では手術センターと心・血管撮影室で使用されている。そのため当該部署においてはより厳密な管理が要求されため、電子カルテと物流システムが連携したシステムを利用して管理・運営を行っている。当院におけるこのシステムの現状及び今後の課題もあわせて報告する。
    <システムの現状>ある手術が予定されるとそれに伴う医療材料は医師を通じて納品業者に発注される。手術当日までにこれらの医療材料が手術センターに準備される。そして、手術おいて実際に使用された医療材料を部門システムを使用し実施入力を行い、結果的にそのデータが電子カルテに反映される。また、心・血管撮影室においては使用する医療材料を委託在庫しており、使用されると部門システムを使用して実施入力を行い電子カルテに反映される。一方、供給課においては電子カルテのこの実施入力を確認し、手術センターや心・血管撮影室で実施使用した特定保険医療材料を発注データに変換する作業をおこなっている。
    <導入効果>電子カルテとリンクした物流システムを導入した結果、医事システムからのデータと物流システムの購入実績の比較検討が可能となった。毎月それらのデータを照合することが、特定保険医療材料の適切な運用に有用な手段であると考えられる。今後も継続していく事により、病院経営にも貢献する事になっていくと思われる。
    <今後の課題>近年、医療が高度化するにともない診療報酬の包括化という変化は、DPCを導入する可能性等もあり、今後ますます医療の効率化及び適切化が要求される。特に高額な医療材料が適切に使用されないと病院経営にも影響を及ぼす。今後は更にきめの細かい医療材料の使用状況の把握、つまり患者ごとにおける電子カルテの入力情報の利用を図る。また更に適用部署の拡大を推し進め、薬品に対してもこのようなシステムを構築してくことが今後の課題となると考えられる。
  • 第1報 外来通院治療室の開設までの薬剤師の関わりと役割
    米山 英二, 石上 仁美, 間瀬 悟, 岩井 友香里, 村越 みづほ, 畔柳 敏弥, 三浦 崇則, 坪井 伸治, 勝見 章男
    セッションID: 2G509
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>2002年4月に外来化学療法加算が新設されて以来、各施設にて色々な取り組みが報告されている。しかし、安城更生病院(以下、当院と略す)においては同年5月に病院全面移転と電子カルテ導入に伴い病院全体としての取り組みは難しいのが現状でした。近年、外来での抗がん剤治療が積極的に行われるようになり、治療の安全性と有効性を確保することが必要条件となっている。当院でも2006年8月より外来通院治療室を開設するにあたり、抗がん剤治療の安全確保において、薬剤師としてどのようにかかわってきたかを報告する。
    <運用方法>
    1.がん化学療法レジメンの改訂とセット登録およびセット展開による一括オーダ
     まずは、2003年に収集した診療科ごとのレジメン集を改訂することで、当院で使用する抗がん剤治療の標準化を行った。従来のレジメン集には抗がん剤の投与情報しかないものもあり抗がん剤を溶解する補液の情報や、休薬期間、中止基準、減量基準、副作用対策のための併用薬剤など、1つのレジメンを安全に運用できるよう必要な情報を追加した。また、これらのレジメンは院内における委員会にて承認後、電子カルテのセット登録まで薬剤・供給部門にて管理運営することとなった。
     電子カルテからのセット展開オーダは抗がん剤だけではなく、前投薬、溶解液、投与順序、投与経路などを一括してオーダするツールで、投与量のみを計算すれば抗がん剤治療の1クールが施行できるものとした。
    2.薬剤・供給部門での処方監査
     電子カルテの機能上、外来で行う注射オーダには事前に注射オーダしておく場合(以下、未来日注射と略す)と化療当日に注射オーダする場合(以下、当日注射と略す)のおおむね2種類が存在する。当日注射オーダは個別で注射薬を取り揃えることが多く、リスクを誘発する素因となりうることから、今回通院治療室を開設するにあたり、基本的に未来日注射にて運用することになった。薬剤師は化療前日にレジメンの未来日注射オーダを受け付け、処方監査と注射薬の取り揃えを行っている。また薬剤師の監査レベルを統一するために電子カルテのテンプレート機能を活用し、決められた項目を穴埋めしていく方法を採用した。
    3.薬剤師による調製
     従来は各診療科処置室にて抗がん剤を調製していたが、患者および医療スタッフの安全確保のため、薬剤調製室の安全キャビネット下にて無菌的に抗がん剤を調製することとなった。化療当日は各診療科医師の診察後、血液内科医師の診察にて問題ないと判断された場合に抗がん剤調製が開始される。
    <考察>電子カルテ導入を検討している病院が増えている昨今、キーボードやマウスが所以の入力ミスが抗がん剤治療の場合、重大な医療事故に発展する可能性がある。当院においても、安全性を確保するために現状の電子カルテ機能を最大限活用して、通院治療室を開設することとなった。なかでもテンプレート機能を利用した処方監査は薬剤師の監査レベルを一定の水準以上に確保することができたと考える。
     今後は、薬剤師がより多くの抗がん剤治療に関与することで、より安全な医療が提供できるよう更なる研鑽を積みたい。
  • ー病棟訪問を通してー
    佐藤 田鶴子, 三浦 貞子, 渡邊 美名子, 奥山 雅也, 鳥前 永夫, 保科 敏彦, 齊藤 玉喜
    セッションID: 2G510
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉 近年、病院を取り巻く経営状況は厳しさを増しており、当院も例外ではなく平成17年度4月は赤字スタートとなり、取り扱い患者数の減少に伴う収入の減少が大きく影響したと思われる。経営改善の一つの方法に支出を抑える事があげられるが、看護部で取り組める身近な対策として、病棟在庫の適正化を図ることが考えられた。そこで今回、資材課、薬剤科と協力して各病棟を訪問し、医療材料と薬品の管理状況を点検したところ、実状がわかり良い結果が得られたので報告する。
    〈目的〉 各病棟の医療材料と薬品の管理状況を点検し、在庫管理の実状と適正化への課題を明らかにする。
    〈方法〉 期間:平成17年5月から平成18年3月
     対象:ICU、手術部、透析センターを除く13病棟
     方法:毎月1回、事前に連絡して訪問し、医療材料と薬品の収納状況、在庫数、期限切れの有無等を点検し、師長、副師長、主任と確認する。
    〈結果〉 初回訪問において、医療材料では物品の収納場所が分散しており、在庫数の確認が難しい、箱単位での払い出し品などは定数に対して在庫が多くなりやすい。薬品では表示定数以上にカート内に在庫している、定数にない高価な薬品や20種類以上の抗生剤を在庫している、冷蔵庫内にインシュリンや座薬等の残薬が多い。また、返還日に返品されずに残っているといった傾向が見えたが、現在は定数の見直しと使用点検しやすい収納が工夫され、高価なものを中心にこまめに返品し、在庫が整理された。平成16年度末と平成17年度の戻しいれ金額の比較では、病棟毎に増減の特徴が見え、13病棟全体では医薬品の大幅な減少が効を奏し、上期で27%、年間では20%の減少があった。
    〈考察〉 平成17年度、平成18年度の看護部目標に病院経営への参画として、コスト管理の徹底と他部門との連携の強化をあげた。今回、資材担当者や薬品管理の専門家の視点を加えた病棟訪問により、払い出し先である病棟の状況を知ると共に、直接的な指導や意見交換ができた。このことは、病棟管理者、スタッフに物品の適正管理の意識を高める上で効果的であった。更に、清潔で安全な看護の提供につながる整理整頓の重要性をも意識下に置くことができた。今後も返品日の拡大や単品請求などを検討し、定期的な点検と交流を継続して行きたい。
    〈結語〉
     1.定数の見直しと確実な返品、点検しやすい収納環境の整備により、払い出し金額の減少を確認した。
     2.病棟訪問の継続は、コスト意識を高める機会となり、在庫管理の適正化につながった。
  • 宮本 季幸, 佐谷戸 明男, 圷 哲也, 関谷 文宏, 高野 文男, 長塚 恭成, 佐怒賀 三禎
    セッションID: 2G511
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>近年医療保険の改正により厳しさが増している病院経営では、支出の適正・効率化を見極める必要性が更に重要となってきている。当院では費用の中でも詳細が表在化しにくい消耗品に注目して管理をしている。
     当院病棟部門では事務用品、雑品の定数化は既に2001年より始め成果を上げているが、その他の部門では定数配置を実施していなかった。今回は、全部署を含め全ての消耗品に関して、アクセスを利用した物品管理の効果について考察を加えて報告する。
    <方法>マイクロソフト社製データベースソフトアクセスを利用し管理する方法を選択し、独自の消耗品の管理システムアクセスを作成した。そのシステムの内容は、(1)物品のマスター、(2)注文書フォーム、(3)納入分フォーム、(4)払出分フォーム、(5)請求金額フォームに構成している。業務の流れは、各部署より請求書が提出され、注文書フォームより発注書を出力しFAXで発注する。新規の物品に関しては、物品マスターに「品名」「メーカー名」「型番」「定価」「見積額」「納入業者」などを入力し、新規商品マスターを登録する。発注による納入物品は、納入分フォームで納品書の入力を行う事で、払い出し処理も同時に行うようにした。倉庫内に在庫がある時は、払出フォームより入力をし出庫処理をする。
     請求金額フォームは、各業者別月締めの納品額及び勘定科目が確認出きるようにした。
     実績データより倉庫内の在庫品の見直しを図った。入出庫頻度を集計し、不動在庫品は倉庫内在庫から外した。
    <結果>全消耗品のマスター登録と入出庫実績をデータ化した事により(1)緊急性がありかつ、納期の遅い物品を把握できた。それに伴い、収納スペースが確保でき、倉庫内の有効利用が可能になった。(2)各部署担当より提出される請求伝票は、曖昧な記載が多く誤発注があったが、物品マスターに基づいた注文書フォームでの商品検索条件が増えたため、少ない手掛かりで正確な物品を発注できるように改善できた。(3)納品額と請求額の正誤を短時間で分かるようになった。月々の請求書の事務処理も勘定科目別に表示でき、処理時間の短縮に繋がった。(4)施設課内4台のパソコンを、ネットワーク化した事により、随時担当者以外でも利用が可能になり、情報やデータの共有が出きるようになった。(5)年次月次の統計資料作成では、目的に対応できる分析ができ、統計の精度が向上した。
    <まとめ>(1)全ての消耗品をアクセス管理する事は当初困難に思えたが、重要なマスター登録と納品書入力を正確に行う事により、受発注業務が短縮された。(2)統計資料に基づいて、各部署の請求担当者と話し合いを行い、物品の統一化と適正在庫が可能となった。(3)アクセスを取り入れた結果、倉庫の有効利用・業務の効率化・請求チェック・予算資料に役立った。(4)各部署でプリンター利用が増えてきているため、トナー等の費用が増加傾向にあり、今後の費用削減が課題である。
  • 黒田 かよ子, 菊地 幸代, 成島 泰子, 近藤 久子, 吉田 公代, 椎貝 達夫
    セッションID: 2G512
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>当院のボランティア活動は今年で11年目を迎えた。年々ボランティアスタッフ(以下ボランティア)の人数も増え、現在は31名で活動している。病院では、病院職員ではないボランティアの存在が病院運営の透明性につながると考え、院内の様々な場所でのボランティア活動を促進している。
     6年前から定期的にボランティア表彰式・交流会が行われている。交流会は年2回行われ、院長を始め看護部長、事務部長、看護師長らが参加し、ボランティアと病院とのコミュニケーションを図り、情報を互いに共有することを目的としている。院長が病院の理念や目標、計画などについて話をしたり、またボランティアからは問題点の指摘や病院への要望などが話され、双方が議論を交わすことによって互いの理解が深まる機会となっている。
     今回は、ボランティア活動がボランティアの方々と病院にもたらした効果について分析し、今後のボランティア活動のあり方を考える契機としたい。
    <結果・考察>当院の主なボランティア活動は、(1)中央案内、(2)図書の貸し出し、(3)小児向けの絵本の読み聞かせ、(4)環境係(院内のお花の手入れ)である。その他に、外来部門の接遇に関するボランティアによる評価や、患者満足度調査のアンケート用紙の配布・集計、さらに年1回の病院主催「ふれあいまつり」の手伝いなどである。
     これまでのボランティア交流会で語られた、ボランティア一人ひとりが病院での体験を通じて感じた思い分析すると、
    ・ボランティア活動によって、自らが患者と病院との橋渡し役となり、社会や地域の接点となっている
    ・交流会の中で、病院長から病院が考えている改善策などについて直接話が聞け、またボランティアの感じる疑問にすぐに回答がもらえる
    ・看護部長、看護師長との連携が取れているので、情報の共有化ができありがたい
    ・人の役に立ちたい、自らの心の豊かさを高めるためにボランティア活動をしており、活動によって満足感や達成感を得ている
    などであった。
     病院側は、ボランティアの存在がきめ細かな患者サービスにつながっていることを評価している。またボランティアが病院に対してさまざまな情報を提供してくれること、さらに患者の立場に立った意見を病院に直言してくれることで問題点の改善につなげられる、など有益な効果があると病院は捉えている。今年はさらに体制を充実させるために、新たにボランティアを募り、養成講座を2日間実施する予定である。また活動の中で感じた意見や感想を病院管理者が直接ボランティアから聞き取ることで、より開かれた病院運営を目指す方針である。
    <まとめ>
    ・交流会はボランティアと病院とのコミュニケーションを親密にし、両者の信頼関係を築く点で有効である。
    ・交流会に病院管理者が参加することが、ボランティアにとって精神的な支えとなっている。
    ・ボランティアと病院管理者との直接の交流は、患者の立場に立った意見が活かされるという点で有効であり、より開かれた透明性のある病院運営の一助となる。
  • 藤城 宏昭, 鈴木 政義, 岡本 伸江, 河合 初代, 榊原 由美子, 鈴木 宏, 宮下 智子, 天野 博子, 渡邉 純子, 益満 ゆかり
    セッションID: 2G513
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに> 現在当院には、平成14年6月に設置されたStar Office(NEC製)と呼ばれるグループソフトウエアがある。しかし、現在に至っても多くの職員が使用方法を知らず、その機能も認知されていない。メールや掲示板、ファイル保存機能等を使いこなせば日常業務や情報伝達に非常に役立つツールである。そこでStar Office機能を全職員に周知し活用促進していく為にいくつかの検討をした。以下にその取り組みと考察を述べる。
    <方法> 全職員を対象に取り組んでいくのは難しい為、今回はまず事務職員を対象に活用促進を徹底していくこととした。現状把握の為、事務職員にStar Officeの基本機能15項目についてアンケートを実施した。その操作が「できる」なら1点とし、全機能操作ができれば15点満点とした。5点までを初級、10点までを中級、11点以上を上級者として集計したところ54%と半数以上の事務職員が初級・中級者であった。また、過去のメールの送受信状況を調査したところメールを毎日確認し、受信したメールをその日に開封した事務職員は全体の41%と半数以下であった。
     以上のことを踏まえ、上級者を100%にすると言う目標値をたて、アンケートに書かれたコメントを参考に重要要因を3点にしぼった。(1)「使い方を調べる分かりやすいマニュアルが無い」、(2)「機械に対する苦手意識がある」、(3)「機能や便利さが周知されていない。また身近に質問できる人もいない」これらの問題点についてそれぞれ対応策を考え実施した。(1)については、自分達で必要最小限の機能に限定したマニュアルを作成した。初心者が見ても分かりやすいようにワンステップごとに実際の操作画面を取り込み、コメントを添えた。これをカラー印刷し各部署に一冊配布した。またStar Officeの掲示板に保存し、必要時に誰でも見られるようにした。(2)_についてはゲーム感覚で機械に慣れ親しんでもらう為、メール機能を利用した伝言ゲームと言う形で実施した。事務職員をいくつかのグループに分け、提示した「お題」を基に一人が1行のあいうえお作文を作り、次の職員にメールを転送してもらった。苦手意識も薄れ楽しく操作してもらう事ができた。(3)については、作成したマニュアルを基にメンバーが講師となり勉強会を開催した。あわせて啓蒙活動も行った。特に初級レベルの職員は、非常によく理解できたと好評であった。
    <結果> (1)から(3)の取り組みが一通り終了した後に再度15項目のアンケートを実施したところ、上級者は46%から71%と25%も上昇した。結果、目標値の上級者を100%にすることはできなかったものの、初級・中級者のStar Officeに対する機能操作の理解が得られた。またメールを毎日確認し、受信したメールをその日に開封している事務職員の数は41%から70%と約30%も上昇した。このことから情報の伝達手段としてメールを活用することが定着してきた。
    <考察とまとめ> 3つの取り組みがそれぞれ効果的に働き、目標である「Star Officeの機能を周知し活用促進していく」事の第一歩を踏み出すことができた。この成功を踏まえ、今後は医師も含め全職員へ徹底周知していくと言う目標へ向けて継続的に活動をして行きたい。また定期的にマニュアルの更新、勉強会の開催もおこなって行きたいと考えている。
  • 櫻井 基子, 林 智子, 今井 智香江, 川本 眞由美
    セッションID: 2G514
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>今日の医療現場では、疾患構造が多様化・複雑化し、高度な医療・看護技術が求められている。そのため、看護師の睡眠の質、量ともに十分でないことが推測される。そこで、三交替勤務(夜勤2人、月平均6-7回)における睡眠調査と身体に及ぼす影響について調査を行った。
    <対象>1.当病棟看護師24名。2.性別;女性。平均年齢28.4歳。
    <方法>1.OSA睡眠調査票を使用し、睡眠の質を調査。2.100マス計算を用いて、計算能力判定。3.血圧・脈拍測定。
    <結果>1.について各勤務の勤務時間は、日勤9.53、深夜9.67、準夜9.75時間である。
     睡眠時間は、日勤5.99、深夜1.87、準夜8.04時間となった。各勤務におけるOSA睡眠調査票の得点結果は、因子1(眠気)、因子2(睡眠維持)、因子3(気がかり)、因子4(統合的睡眠)、因子5(寝つき)で表した。平均値が標準値に近いほど満たされている。
     OSA睡眠調査票結果は表1であった。因子得点結果より、準夜帯・深夜帯における眠気の平均値は、標準値よりも10以上低く、統合的睡眠についても日勤・深夜帯は7-17低下していた。OSA睡眠調査票の起床時の身体症状23項目で、だるさ各勤務前ともに16人、鼻づまり4人、日勤・準夜前の手足のむくみは5人存在した。
     2.について100問中の解答数の平均結果は、表2であった。
     計算問題での平均解答数は、準夜後が92問と一番高く、日勤前が76問と最も低下していた。平均誤答数は、日勤・深夜前が2問で、その他の勤務は0.8問であった。
     3.について血圧・脈拍測定の結果は、勤務前後で血圧の差が10mmHg以上は日勤帯15人、深夜帯16人、準夜帯12人、脈拍数の差が10回/分以上は日勤帯7人、深夜帯10人、準夜帯9人存在した。
    <考察>私たち生物の行動リズムは、生体時計(サーカテ゛アンリス゛ム)により24時間の固有の周期を持っている。しかし、三交替勤務看護師ではサーカテ゛アンリス゛ムに従うことなく活動し、また、睡眠を強いられるため睡眠の質・量が不足すると考えられる。大橋は、「三交替勤務看護師は不規則な勤務パターンの日替わりである点が特徴で、夜勤だけの職種と異なり、サーカテ゛アンリス゛ムの変更に適応するのが難しく、体への負担は大きくなっている」と指摘している。OSA睡眠調査においても、深夜前の眠気と統合的睡眠の得点が低かったことは目覚めがあまり爽快ではなく、この睡眠による疲労回復は十分でなかったと予測される。睡眠は、集中力との関係もあると言われており、睡眠が十分でないと疲労やイライラにより集中力がなくなり精神的・心身的混乱を生じてしまう。
    <まとめ>睡眠不足は身体症状に影響を及ぼす為、自己の健康管理が重要で、十分な休息と睡眠をとる必要がある。
  • 吉村 さとみ, 林 安津美, 翠 健一郎, 澤井 喜邦, 平野 喜代実
    セッションID: 2G601
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>
    適切な栄養管理を行なう事は、患者のQOLや病態改善の向上だけでなく病院経営においても好影響が期待できる。また、H18年度診療報酬改定において栄養管理実施加算が新設された事により、一層NSTの重要性が認識され全国の病院でNST設立が広がっている。当院では、H14.4より全科型NSTを開始し、4年が経過した。その中での1症例について報告する。
    <症例>
    74歳 女性 身長145cm 体重27.5kg(標準体重46.3kg)
    【栄養】食事:心臓食・経腸栄養剤  PPN:KN3B・ヴィーンF等
    【検査値】TP6.1  Alb2.3 T-cho196  Hb 8.8 Lym450
    【SGA】中等度栄養不良
    【TEE】1318Kcal
    <入院経過>
    H15気管支鏡にてAM症の診断、治療施行。抗結核剤による皮疹にて治療中止。再施行するも皮疹認め治療中止。抗菌剤にて経過観察。徐々にADL低下し食欲も低下。H17.9 _III_度AVブロックを認めたが、AM症による感染症のためペースメーカ挿入不可、経過観察となる。入院時は心不全も治まりペースメーカ適応なし。感染症コントロールを中心に治療開始。また、入院後食欲が低下しNST介入となる。
    <NST介入>
    【1週目】食事:摂取量0割  経腸栄養剤:5割摂取300Kcal。嚥下機能は問題なし。意欲がなくパキシル(10)2T服用するも摂取量が増えない。主治医は心臓食を選択、しかし塩分制限のため薄味により食事量が増えない。また低NaにてPPNよりNaを補正。NSTでは心臓食→軟飯食に指示変更を提言。経口摂取量が少なくPPNでの栄養補給が必要と考え、アミノ酸製剤と脂肪製剤への指示変更を提言。
    【2週目】軟飯食に変更にて濃い味となり、1-2割程度摂取可能。
    【3週目】軟飯食1-2割程度摂取、変化なし。不眠・自殺願望などのうつ病と思われる症状出現。食べたい物を問うも特になし。食欲低下はうつ状態にあると考え、NSTより精神心療診療科受診を提言。パキシルにドグマチール(50)3Tが追加処方された。
    【4週目】ドグマチールの効果で食欲が増加し5割程度摂取可能。個人対応食に変更。
    【5週目】個人対応食5-7割程度摂取可能。
    【6週目】経口摂取を主体に栄養管理が行なえるようになったためNST終了。
    <結果>
    表1より検査値の改善が認められ、表情もよくなり、栄養状態の改善が図られた。今回の症例では消化管が使用でき且つ嚥下機能に問題はないが、うつ状態による意欲低下により経口摂取量が増加せず栄養状態が不良であった。抗うつ薬の追加により食欲が増加し、最終的に経口摂取を主体とした栄養管理にて栄養状態の改善を図ることができた。
    <結語>
    薬剤師がチーム医療の一員としてNSTに参加し、栄養管理を学び薬剤の正確な知識や情報を提供することで、医療過誤防止や医薬品の適正使用に役立つと考える。今後NSTにおける薬剤師は薬の知識を基盤に専門性を発揮すると共に職域を超えて他職種と協働し、チーム医療に貢献していきたい。
  • 内田 守道, 宮本 貴幸, 寺島 孝徳, 藤森 芳郎
    セッションID: 2G602
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    〈目的〉
     当院NSTは、2005年4月より稼動し現在に至る。目的は各職種参加による様々な視点からの患者状態把握の他、多数の利点があるが情報共有において検討を行う必要性を感じていた。
    〈課題の抽出と検討〉
     回診時は患者の基本データ、検査値等の説明があり、そして栄養管理方針が決定されるが、各職種、病棟所見用紙の書式相違や記録不備、また患者測定等基本測定値不足から生じるカルテ検索等で回診時間のロスが生じていた。そこで我々は既存の院内LAN設備(オーダリング端末)を用いたNST支援ソフト「八重桜」の開発を検討した。回診時に各職種による多角的視野からの意見交換に時間を費やすため、事前に必要データを統合し患者状態を容易に把握できるソフト作りが必要であると我々は開発経緯で以下の点を追求した。
    1)病院現システムに支障なく、既存の設備で使用可能であること。また各科同時稼動でもストレスなく操作可能なこと。
    2)患者の状態変化を瞬時に視覚的に捉えられること。(検査値グラフ化、異常値アラート機能)
    3)入力は簡単で各項目、確実に入力され入力漏れが起きないこと。
    4)使用者に権限を設け、各専門職種でないと画面閲覧や入力・出力・保存不可にすること。
    5)伝言板画面を作成しNST活動内容を院内に報告していくこと。
    6)Free-softにしNSTに携わる医療従事者の支援策として使ってもらえるようなソフトを目指すこと。
    〈検討結果〉
     回診時の問題点を現場で検討し開発を行った。ソフトはMicrosoft Accessで製作されたmdbファイルとJAVAを用いたJarファイルにて製作。患者番号からの患者名検索、医師・看護師入力では疾患・経過・病歴などフリー入力可能とし必要計測値、所見入力を漏れなく入力されるようにした。又SF/AFにて決定される各目標栄養素量など自動設定機能を設けた。検査技師入力では時系列検査値のグラフ化、異常値アラート機能を設けた。リハビリ入力では理学・作業・言語各職種の評価入力にて患者の動作状態を把握可能とした。薬剤師・栄養士入力では食事、経腸栄養剤、静脈栄養剤に関し、各栄養素など自動集約されると共に言語聴覚士による嚥下評価についても同画面より情報が得られるようにした。医事課情報ではNST介入患者に対しての保険算定情報など提供する画面を設けた。伝言板管理では毎週のランチタイムミーテイングや学習会の情報、次回回診予定の連絡に使われている。以上、職種間の情報共有が可能となった。
    〈考察と使用経験〉
     既存の設備が利用出来ることで新たな投資が不用である点、各職種の意見・要望を集約したソフト開発により、要点を絞った患者状態の把握、回診前予習が可能となった。各職種で把握している情報は多種多様であるがNSTとして必要情報を漏れなく抽出・共有し把握することが現在そして今後の患者状態を管理する意味で重要となる。今後、より積極的な意見交換に活用されることを望みたい。2006年3月31日より本稼動し、各科同時に入力作業を行っても、問題なく操作可能で現在に至っている。
  • 橋本 浩之, 波多野 真弓, 江口 善美, 石井 茂
    セッションID: 2G603
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>近年、臨床において患者の栄養管理を行う事により、在院日数の短縮やQOLの向上、医療費削減などに貢献する栄養サポートチーム(NST)が注目されている。当院でも平成15年12月に院長の諮問機関として、NST検討委員会が発足し、平成16年6月にNST委員会と名称を変更して院内の正式な委員会となった。平成17年4月からはNST回診とカンファレンスを開始し、同年10月には日本静脈経腸栄養学会のNST稼動施設認定を取得した。今回、当院におけるNSTの活動と薬剤師の関わりについて報告する。
    <目的>当院のNSTは医師4名、看護師11名、薬剤師3名、管理栄養士2名、臨床検査技師1名、言語聴覚療法士1名から構成され、NST委員長である血管内治療科部長と事務局である栄養室を中心にして活動をおこなっている。
     NST検討委員会では月1回のミーティングにおいて、NSTの運用方法等の検討やNST委員対象の勉強会をおこなった。平成16年6月にNST委員会となってからは、NST対象患者の抽出や症例検討、講師を招いて全職員を対象にNSTに関する講習会を開催した。平成17年4月からは月2回のNST回診を行い、回診後及びNST委員会で症例検討を行い、結果を主治医にフィードバックしている。
     NST対象患者のスクリーニングについては検査室で各部署に配布しているアルブミン2.5以下の患者を対象としたNST検査室情報と各病棟から栄養室に提出される栄養・食事相談連絡票をもとに抽出を行い、NST看護師の患者情報をもとに栄養室がNST回診リスト及び栄養管理記録表(NST管理記録表)を作成して、回診を行っている。
     薬剤師は各病棟におけるTPN使用状況を調査し、薬剤の情報提供、服薬指導などを行っている。TPN無菌調製は3名の薬剤師が処方チェックを行った後、専用の無菌製剤室において調製をおこなっており、リスクマネージメントの面からも有用であると考える。平成18年4月には当院採用の輸液組成一覧表、経腸栄養一覧表(食品・医薬品)、NST関連データ等を記載したポケットファイルを作成して、NSTメンバーや研修医等への配布を行った。またNST回診にも参加し、対象患者の薬歴を作成してカロリー計算及び使用薬剤のチェックを行い、回診後の症例検討では輸液処方決定へ関与している。
    <結語>NSTで大切なことはチーム医療であり、各職種が協力しあってその専門性を生かした活動が要求される。今後は薬剤師としてNST回診及び症例検討で得られる患者の状態を把握した栄養管理が重要であると認識し、輸液関連の情報提供や薬物治療、感染面からのリスクマネージメントの管理などに関わると共に、NSTの必要性についての広報活動を行い、褥創委員会や感染防止委員会などと相互に協力をしながら医療の質の向上に寄与しなければならないと考える。
  • 吉田 涼子, 渡邊 武則, 齋藤 義之, 今村 麻枝男, 富山 武美
    セッションID: 2G604
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉Nutrition Support Team(NST:栄養サポートチーム)は、1970年米国シカゴで誕生し、その後欧米諸国へと急速に伝播していった。近年、我が国においても全国の病院で急速に普及されてきている。栄養管理はすべての疾患治療の上で共通する基本的医療の一つであり、一般に栄養管理をおろそかにすると、いかなる治療法も効力を失ってしまう。この理念のもと、豊栄病院に平成17年2月NSTが設立された。当院のNSTの活動をこれまでの経過を含めて報告する。
    〈方法〉当院は病床数199床(一般149床・療養型50床)の地域中核病院である。平成16年8月よりNST設立の準備を始め、平成17年2月より外科単科型で本格的な活動を開始した。平成17年6月に、外科医師がTNT(Total nutrition therapy:医師のための臨床栄養に関する生涯教育コース)受講。平成17年10月に日本静脈経腸栄養学会よりNST稼動認定を受けている。平成18年1月より全科型へと拡大している。NSTメンバーは医師、歯科医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、臨床検査技師、介護士、歯科衛生士、医事課となっている。毎週木曜日14:00から症例検討会・回診を行っている。また、毎月第4木曜日17:30から勉強会を行っている。この勉強会は全職員対象で、地域の医療機関にも参加を呼びかけている。当院では主観的包括的評価(SGA)による独自のスクリーニングシートを作成し、全入院患者に施行してNST対象患者の抽出を行っている。栄養スクリーニングは、ASPEN(アメリカ静脈経腸栄養学会)の定義では「栄養障害の患者あるいは栄養障害のリスクのある患者を特定し、詳細な栄養アセスメントが必要かどうかを決定する検査」とある。特別な測定器具や装置を使わない手技であり、その利用の簡便性から栄養スクリーニングのツールとして用いられている。項当院独自の項目として、口腔ケアに関する2項目があることが特徴と言える。全12項目より栄養状態の主観的評価を受け持ち看護師が行い、主治医のNST介入希望の有無を確認して、一部をカルテ添付・もう一部を各病棟のNSTファイルに綴り、症例検討会にて報告する。
    〈結果〉平成18年1月より3月末までにSGA施行228例、介入が必要とされた症例26例、実際に介入した症例9例(男性5例、女性4例)、年齢72_から_92歳(平均年齢80.1歳)であった。認知症などによる食思不振が多く見られるのも高齢化の進んだこの地域の特徴とも言える。実際に全入院患者へのSGAの施行をしてからの日にちは浅いものの、短期間のうちに患者抽出、栄養評価、検討会・回診、経過観察が円滑に行えるようになった。今後の課題としては、病棟間・スタッフ間での栄養管理に対する温度差が激しいこと、他の委員会(感染・褥瘡・医療安全等)との連携などが挙げられる。また院内LANを利用したシステムの構築も課題の一つで、メンバー間の情報の共有化により、よりスムーズな活動ができるように努めていきたい。さらに、退院後や転院後に発生した栄養管理上の問題にも対応できるように、地域一体型NSTへの具体的な活動にも取り組み、地域の他施設との連携を強化して地域医療におけるNSTの存在価値を高められるように努力いく所存である。
  • 山本 裕子, 島中 小百合, 都竹 かずき, 上坪 恭子, 新谷 智美, 新名 由貴子, 長瀬 志信
    セッションID: 2G605
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに> 栄養管理とはすべての疾患における治療・ケアに共通する基本的医療の1つである。今後栄養管理を行っていく上での参考にしたいと考え,看護師の意識調査を実施したので,その結果を報告する。
    <研究目的> 受け持ち患者の栄養状態をどの程度把握しているか,栄養状態が不良な患者に対するアプローチの実態を明らかにし,患者の栄養管理に対する看護師の意識向上のための方法を考察する。
    <研究方法> 対象は病棟に勤務する看護師128名,研究の趣旨を紙面で説明し調査票の回答を持って同意が得られたこととした。研究期間は2005年6月ー10月。調査方法:文献のアセスメント内容を参考に,独自に作成した質問用紙(多項選択回答形式)を各病棟毎に自記式集合調査法にて実施した。分析方法:統計解析プログラムSPSS10.0forWindowsを使用し分析を行った。
    <結果及び考察> 栄養状態の評価には「全体的な栄養状態を表現する体重変化などが,最も理解しやすい尺度と思われる。」と言われている。アンケート結果より,体重測定をしていると答えた人は32.8%で、経験年数群で有意差はなかった。障害老人の日常生活自立度(以下寝たきり度)との比較では,寝たきり度が高いほど体重測定がされていない事が示唆された。
     寝たきり度と栄養状態の関係では,寝たきり度が高いほど栄養状態がよくなかった。そのため,より栄養状態を把握する必要がある。このことから,体重の測定ができる方法や体重測定に代わるアセスメントをする方法を考える必要がある。また栄養状態のアセスメントの必要性について教育を計画し浸透させていく必要がある。
     食事摂取量は確認しているが,その摂取量が何カロリーに相当するのかまでは把握していないことが解かった。必要なカロリーや糖質,脂質,蛋白質,ビタミンなどが摂取できているかをアセスメントする視点を持つ必要があると考える。経管栄養のカロリーを把握している人は78.6%,静脈栄養では35.3%であった。末梢静脈栄養は治療という面からは捉えても,栄養面から捉えるという認識をもっていないのではないかと推察できる。
     食事形態の変化した時にアセスメントしている人は34.4%,栄養状態に関する看護計画を立案している人は44.5%であった。栄養状態が不良・非常に不良と考えている人との相関を見ると相関関係はなかった。このことから栄養状態がよくないと思っていてもそれが看護計画の立案には繋がっていないことが考えられる。
     「栄養管理をおろそかにすると,いかなる治療法も効力を失い,さらに侵襲的な治療法に伴う副作用や合併症の発生を容易にする」ことが指摘されている。急性期から栄養状態を整えていくことは,治療効果もあがり,さらに褥瘡の発生予防や感染予防にも繋がる。看護師として入院時から患者の栄養状態をアセスメントし,適切な看護に繋げていくことが重要であると考える。
     血液データをいつも見ている人は6.3%,時々見ていると合わせると80.9%であった。栄養に関するデータでは,TP78.9%,Hb49.2%,Alb48.4%で,それ以外の項目は20%以下であった。栄養状態をアセスメントするための客観的データを利用していないという現状が明らかとなった。栄養状態をアセスメントするための指標として血液データを見ることへの関心を高めていく必要がある。
     栄養に関することを相談する職種としては医師が53.1%,栄養士が40.6%であった。受け持ち患者で栄養状態が不良・非常に不良と考えている人が医師と相談しているかをみると有意差はなかった。その他の職種としては,言語聴覚士が24.6%,他は5%以下と低かった。そのため,NSTの意義や活動の方法などを周知し,他職種の専門性を理解,チームで患者の栄養問題にアプローチしていく必要性が理解できるように働きかけてく必要があると考える。
    <引用文献>
    1)日本静脈経腸栄養学会編集:コメディカルのための静脈・経腸栄養ガイドライン,南江堂,P2,2005.
    2)東口高志・他:中核病院におけるNSTの経済効果,静脈経腸栄養,17(4):7?13,2002.
  • 河合 浩樹, 山本 玲子, 大嶋 こずえ, 古井 清, 塩谷 里実, 杉浦 正士, 小林 真哉, 早川 富博
    セッションID: 2G606
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
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    <目的>近年、医療現場において栄養療法の必要性が重要視される中、当院においても療養型病床のみならず全入院患者を対象にNSTを拡大することになった。しかし、栄養評価のための検査項目は多くの種類がありすべて行うのは困難である。そこで、より経済的に効率よく栄養アセスメントを実施するために当院で実施されている検査項目の中でアルブミン(ALB)、総リンパ球数(TLC)、総コレステロール(T-cho)に着目しGonzalezらのCONUT法についてNSTの検査項目として使用可能か検討したので報告する。
    <対象および方法>2005年8月から2005年11月までに当院検査室に依頼された検体で入院1週間以内にALB、TLC、T-choの3項目すべて依頼のあった195例、平均年齢76.7±15.7歳を対象とした。CONUT法の評価方法は、ALB、TLC、T-choにつきそれぞれ評点化しその合計で0-1を正常、2-4を軽度栄養不良、5-8を中度栄養不良、9以上を重度栄養不良と栄養不良レベルを判定した。検討方法として、CONUT法による栄養不良レベル分類と年齢との関係、従来のアルブミン値3.5以下をスクリーニングする方法(以下従来法とする)との比較、入院患者の転帰を調査し予後について検討した。なお転帰状況は、対象者を2006年2月末まで追跡調査し退院、入院中、療養型病床転棟、死亡の4種類に分類した。
    <結果及び考察>CONUT法による栄養不良分類は、195例中正常53例(27.2%)、軽度66例 (3.8%)、中度53例(27.2%)、重度23例(11.8%)となり、何らかの栄養不良者は全体の72.8%だった。栄養不良レベル分類をCONUT法とCONUT法のALBのみで判定した場合との比較では、相関傾向がみられるもののCONUT法3項目による分類が1栄養不良レベル高く判定される例があり、特に正常、軽度にみられた。
     CONUT法分類と年齢の関係は、高齢になるにつれ栄養不良者が占める割合は増加し栄養不良レベルも中度、重度の割合が高くなる傾向が見られ、特に70歳以上における軽度以上栄養不良群は78.7%であった。
     従来法とCONUT法より抽出された栄養不良者を比較すると従来法は、195例中110例(56.4%)、CONUT法では142例(72.8%)が抽出された。また両方法間には、従来法の栄養不良者群にCONUT法で正常レベルが8例含まれており、従来法の正常者群ではCONUT法で栄養不良レベルが軽度として40例が抽出された。
     CONUT法による栄養不良レベル分類と予後との関係は、死亡率では正常0%、軽度4.7%、中度32.1%、重度47.8%であった。また、CONUT法のALBが正常にもかかわらず、TLC、T-choにより46例が栄養不良例として抽出されており、その予後は退院90%、入院中2%、療養型病床転棟4%、死亡4%であった。
    <結語>CONUT法での栄養不良レベルの判定は、ALB、T-cho、TLCの3項目を用い蛋白代謝、脂質代謝、免疫能を考慮することにより、従来のアルブミンのみでのスクリーニング法より栄養療法が必要な症例を抽出できることが示唆された。また、栄養不良レベルに分類でき予後をよく反映することよりそれぞれのレベルにおいて適正な栄養アセスメントが可能であると思われた。
  • 奥山 さやか, 伊藤 祐子, 妻野 亮子, 粂田 留美子, 東海林 友子
    セッションID: 2G607
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
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    <研究目的>糖尿病教育入院患者の退院後の自己管理(食事・運動・薬物療法)について実態調査を行い、指導の効果と問題点を明らかにし、今後の患者教育に役立てる。
    <研究方法>
    1. 方法:調査研究(郵送法)
    2. 期間:平成17年3月から8月まで
    3. 場所:平鹿総合病院消化器内科病棟および消化器内科外来
    4. 対象:平成15年4月から平成17年3月までに糖尿病教育目的で入院した患者32人のうち調査に同意を得られた29人
    5. 教育方法:当病棟で作成した糖尿病クリニカルパスに沿って、医師、看護師、栄養士がチームで食事・運動・薬物療法について段階的に指導した。
    6.調査内容:食事・運動・薬物療法に関する入院時の教育内容の理解の状況と退院後の実践状況
    7.分析方法:(1)結果を集計し、対象者の自己管理(食事・運動・薬物療法)と指導上の問題を評価する。(2)対象者の検査データ(退院後の血糖コントロールの状況)をみる。
    <倫理的配慮>対象者に研究目的、方法またプライバシーの保護に留意することを口頭と書面にて説明し同意を得た。
    <結果>食事療法では、「食事療法を守っていますか」の問いに「はい」が65%「いいえ」が35%、「調理はどなたがしていますか」の問いに「自分」が42%「自分以外」が54%「1日の必要カロリーをご存知ですか」の問いに「はい」が96%内32%の人は間違ったカロリーを答えていた。
    運動療法では、「30分以上運動をしていますか」の問いに「はい」が61%「いいえ」が39%、「運動はどの時間にしていますか」の問いに「食後1時間」が43%「食事に関係なく」が50%であった。
     薬物療法では、現在インスリン注射を行っている人は74%内服も併用している人は9%内服のみの人は17%、「インスリン注射の量・時間を守っていますか」の問いに「はい」が100%であった。指導内容では、「糖尿病のしおりは参考になりましたか」の問いに「はい」が91%「いいえ」が9%、「ビデオ学習は参考になりましたか」の問いに「はい」が87%「いいえ」が9%、「低血糖を起こしたことがありますか」の問いに「はい」が35%「いいえ」が61%、「低血糖症状時の対処方法は」の問いにブドウ糖、砂糖水、ジュースなど飲んだまたは、飴をなめたと答えた人が多かった。
    <結論>
    1. 食事療法は、「制限内では物足りない」「面倒くさい」などの理由で35%の人が守っていなかった。また必要カロリーを間違って答えた人が32%いた。知識を高め自己管理への意欲を高めるためにも栄養科との連携を図る必要かある。
    2. 運動療法では、一日30分以上実施している人が60%いた。運動を継続できるように対象者の年齢、職業、ADLを考慮し、ライフスタイルに沿った指導が必要である。
    3. 薬物療法は、内服・自己注射共に全員継続していた。
    4. 教材として用いたビデオ・しおりは効果的であるがライフスタイルに合わせ補足指導を行う必要がある。また、外来と連携し継続指導が重要である。
  • 小西 梨紗子, 近藤 貴代, 加納 朋美, 藤田 牧子
    セッションID: 2G608
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
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    <はじめに>
     当院ではWOCNを中心にスキンケア委員会のスタッフが褥瘡対策に積極的に取り組んでいたが、術中の褥瘡発生がほとんど無いこともあり手術室における除圧対策は十分に行えていない現状があった。また、手術室と病棟看護師の連携がうまく図れず術後の皮膚状態の継続観察・記録が途絶えてしまっていることなどがしばしばあった。そこで今回、手術室での褥瘡対策として、除圧用具の充実と病棟看護師に術中の褥瘡対策を知ってもらうことが重要であると考え、取り組みを行なったので報告する。

    <当手術室の紹介>
     年間約1000件の各科手術を行なっており、手術看護師は11名である。手術室数は4部屋である。

    <除圧用具の充実>
     取り組み前の除圧用具は、ゲルパッドが2種類と手作りの座布団のみであった。ゲルパッドは、その日の手術患者の中で褥瘡発生のリスクが高い患者に優先的に使用していたが、手術件数が多い時や特殊な体位には対応ができていなかった。また、長時間の手術では褥瘡には至らないが軽度の紅班をきたすことがあった。
     除圧用具が不足していることを手術室スタッフで検討し、スキンケア委員会に報告した。WOCN、手術認定看護師と協働し、手術に対応する除圧用具を検討した。試用期間中は、術後の皮膚状態の観察に加え手術室スタッフが実際に様々な除圧用具を体験、体圧測定を行い検討した上で購入する除圧用具を選択した。
     今回の取り組みで購入した除圧用具は、手術台用褥瘡予防マット3台、体位固定用除圧用具6種である。

    <手術室における褥瘡対策のアピール>
     病棟看護師は通常手術室に入室する機会がなく、術中の体位や褥瘡好発部位・術後の皮膚観察ポイントがイメージしにくい。術後に皮膚状態の継続観察がされるためには、病棟看護師に術中の体位と除圧対策・観察ポイントを伝えることが必要であった。
     当院のスキンケア委員会は院内スタッフ・地域の医療機関を対象に年間2回の合同研修会を開催している。そこで手術室での褥瘡対策を医療スタッフに理解してもらうことを目的に、手術室における除圧管理の実際を紹介し、術後に継続観察して欲しいポイントを示した。

    <取り組みの結果>
     除圧用具が充実してきたことで、手術室スタッフの除圧に対する意識は以前より向上し、患者に応じた除圧用具の選択や体位の工夫、改善がされるようになった。
     研修会で手術室の褥瘡対策を紹介したことにより、「手術中あんなに複雑な体位をしているとは思わなかった。」という声が聞かれるなど病棟看護師に術中の体位をイメージしてもらうこともできた。

    <今後の課題>
     ・患者の個別性をとらえた適切な除圧管理
     ・手術看護師の除圧に対する知識・技術の向上(体験・勉強会・各種体位のマニュアル作成)
     ・病棟看護師との連携(皮膚状態の継続観察・記録ができる用紙作成・術中各種体位がひと目で分か
      る写真入りパンフレット作成)                                                         
  • 井出 美津江, 山川 京子
    セッションID: 2G609
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
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    <緒言>手術目的で入院した子供の母親は、拒食症があり、6年前から保健師の介入で治療を進められていたが、加療行動がとれなかった。子供の入院中、自分のボデイイメージを子供に強要しているのではないかという心配と、母親の生命危機が予測され、父親にアプローチして加療行動に繋がった事例の関わりで何が良かったのか家族アセスメントモデルを用いて分析した。その結果、家族ケアのツボとコツ及び場の重要性について整理できた。
    <方法>事例研究:期間は2005年9月‐11月。対象は、患児と母親、父親の一家族。テ゛ータ収集は、患児と母親の診療記録及び、父親の情報から収集。分析は、家族ケアの前提となる概念が事例の関わりと近似していることから、渡辺式家族アセスメントモデルを用いた。倫理的配慮は、事例の当事者に個人情報を保護し、情報を研究以外に使用しないことを口頭で説明して了承を得た。
    <事例>
    1.家族構成員の状況
     患児:6歳、男児。体重14kg、身長110cm生下時体重2070g(子宮内発育不全)。
     母親:40歳、体重25kg、身長163cm、BMI9.4易疲労あり。家事育児を手伝ってくれないと夫への不満感情あり。
     父親:43歳、会社員。仕事が忙しく自宅にいる時間が少ない。患児のことは母親任せにしている。
    2.家族成員の心身の健康と生活上の問題
     患児は、母親から食事量を制限され、母親が易疲労のため安定した育児が受けられない。母親は、低栄養による生命の危機が予測されるがそれを認識していない。易疲労のため育児行動が続かない。
     父親は、妻の痩せを体力がないと捉え、低栄養による生命の危機を認識していない。妻の育児状況を知らず、妻の状態にどう対処してよいか分らない。
     このような状況で、患児は、空腹時は水を飲んだり、母親の見えない所で食べたり、他の患者の下膳された残食をつまんだりして満たしている。母親は、患児の食べ物を取り上げ、決めた量以上を食べると叱り、それを夫には隠している。易疲労で横になっていることが多く、辛くなると近医で点滴を受ける。父親は、妻と話しをしようとすると口論になり話し合えない。妻と患児との関わりから遠ざかる。患児とは遊ぶが妻とは距離をおく生活である。
    <家族アプローチと結果>父親は妻の痩せに対処できず、膠着状態にあった。この状況を打開するには、父親に家族成員の暮らし方の情報を提供すること、子供にとっての母親の存在を話し合い、妻の状況を生命の危機と捉える共有であった。病院のかかり方や緊急手段についての情報提供が、父親にとって安心して家族のことを考えるきっかけとなり、次第に相談されるようになった。母親には、選択肢を示しできる限り見守った。母親のことは看護科長が中心に動き、医療保健福祉分野の担当者と連携して情報を共有した。この結果、母親は4週後に入院できた。
    <まとめ>父親には、適切な対処行動をとる力があったが、情報が不足していた。父親は相談できたことで病院が安心して家族のことを考える場になった。看護師は各専門分野への情報提供と情報を統合する役割を担った。
  • 秋川 聡子, 太田 啓恵, 藤田 さやか
    セッションID: 2G610
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言> 看護における倫理には、生命に直結するものから、患者個人の価値観や信念の尊重に関するものなど幅広く、全てにおいて看護者自身の価値観・倫理観が反映される。つまり看護師の倫理意識は看護の質に大きく影響するものになる。しかし看護者が、常に倫理意識を持って日頃の看護実践に取り組んでいるかは不明である。そこで、倫理の6原則に基づいた臨床の看護場面と日頃の生活援助行動、看護の満足度について調査することで、看護者のもつ倫理意識と看護実践の関係を明らかにする。<用語の定義>倫理意識:看護師のもつ倫理に対する考えや認識 満足度:看護のやりがい、楽しさ、継続の意思の度合い
    <研究方法>
    対象:調査内容に該当する病棟勤務の看護者 144名
    期間:平成17年11月17日から24日
    方法:独自に作成した構成的質問紙による留め置き法
    調査内容:
    1)生活援助行動(食事、排泄、清潔、寝具・寝衣、移乗・移動、コミュニケーション、療養環境)に関する肯定的な質問に対する自己の行動を4段階で問い、1-4点に置き換えた。点数が高いほど実践できているとみなす。
    2)倫理の6原則に基づいた18の臨床場面を提示し、倫理意識と、体験の有無を問う。
    3) 看護に対するやりがい、楽しさ、継続の意思をVASで問い、最高点を100とした。
     データ分析:各質問項目についてピアソンの積率相関係数と危険率を求め、P<0.05で有意差ありとした。
     対象者の保護:調査は任意で不参加による不利益がないこと、個人が特定されないように分析すること、調査結果は研究目的以外に使用しないことについて、文書により説明を行い、回答をもって同意とした。
    <結果>  回収率80%、有効回答数104名、有効回答率91%だった。平均年齢は34.4±10.3歳、平均実務経験年数は12.3年だった。生活援助行動の平均は、40点中、「食事」34.5、「排泄」32.8、「清潔」29.5、「寝具・寝衣」32.2、「移乗・移動」34.9、「コミュニケーション」32.6、「療養環境」34.7だった。倫理原則に基づいた臨床場面では、倫理意識は36点中21.5、体験は20.6だった。看護の満足度では、やりがい感は51.4、楽しさは47.7、継続の意思は57.0だった。
     年齢と生活援助行動の関係は、「食事」「寝具・寝衣」の項目でP<0.01で、「排泄」「清潔」の項目でP<0.05で、相関と有意差があった。また年齢と倫理意識の関係では負の相関と有意差があった(P<0.05)。満足度では、「やりがい感」「楽しさ」で、50歳代、40歳代が高く、「継続の意思」は40歳代、20歳代が高かった。
    <考察>  倫理意識と生活援助行動との関係では、全てにおいて負の相関があった。提示した看護場面の回答の点数が高いことから、良い看護ケアを実践していると認識する看護師は多いが、倫理的に高い意識を持っているとはいえないことが伺える。
     年齢と倫理意識の関係をみると、年齢が高くなるにつれ倫理意識は低下していた。近年資格取得をした看護者は、学生時から看護倫理に関して意識付けられる機会は多い。反面、実務経験年数が長い看護者は、倫理に関する教育背景の不十分さと、看護技術の習得が経験的な体制により行われていた経緯などから、倫理意識が伴いにくかったと考えられる。倫理意識を継続または向上できるように、倫理に関する教育や職場環境を整える必要性が示唆された。
  • 佐久間 初枝, 板井 きみ, 菊地 誠
    セッションID: 2G611
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>透析患者の高齢化が著しい。透析治療は、一生涯継続する必要があるため、要介護者の場合家族の援助、介護なしでは、極めて困難と言える。まして、家族の負担度は、送迎や食事制限などがあり他の要介護者に比べて、負担は大きい。今回、外来通院を続け安定した透析生活を維持して行く為に、家族介護の不安や負担を知るため、Zarit介護負担尺度を用いて調査を試みた。その結果から家族を支援するための課題について検討した。
    <方法>対象は当透析センター外来患者で自力の通院が不可能な患者を介護している家族。Zarit介護負担尺度に独自の項目を加えた質問用紙にて調査。介護負担感尺度を様々な要因について分類し要介護者の重要度、主介護者の属性、介護の状況他について検討した。倫理的配慮として患者及び家族には調査の趣旨を説明し同意を得た。
    <結果>今回の調査では、最高得点53点、最低得点9点、平均23.8点となった。対象患者は男性9名、女性3名。原疾患は糖尿病性腎症7人、腎硬化症3人、多発性骨髄腫、慢性糸球体腎炎が各1名であった。平均年齢は72.3歳、介護者は患者の夫(65歳)、息子(45歳)の男性2名。患者の妻8名(平均年齢63.4歳)と娘2人(47歳、46歳)の計12名であった。介護負担尺度は最高得点50点、最低得点9点、平均21,3点であった。日常生活自立度別では、A2までの負担度に差がみられなかった。要介護度区別別では、要介護_I_の負担度は他に比べて低かった。介護者別では、妻の負担度は様々であるが娘は低い値であった。息子は高い値を示した。透析歴別では、差はなくばらつきがあった。介護サービスの利用種類別では、通所サービスの利用が利用なしよりも低い値となったが短期入所の利用者は高い値となった。認知度別はばらつきがあり、差はなかった。要介護者の介護者は圧倒的に主婦が多く調理に関する負担が伺われたが、家族の負担度は低かった。
    <考察>介護者別で妻、夫は高値を示したが仕方がない、逆に患者の将来を心配と思う人が多かった。利用状況別では短期入所の利用により家族の負担が減り得点も利用してない群よりは低いと思われたが、実際には高い値であった。これは、要介護度が関係したと思われた。透析高齢者介護の場合、一般的な介護の他に永続的治療のために週2から3回の通院の介助が第一の負担となっていた。そして食事や水分管理が必要であるため介護者の肉体的精神的な負担が大きい。透析導入直後はその家族の不安は大きいが、ある程度透析治療が経過し治療が欠かせないことを家族が理解できるとその負担度はわずかであるが軽減していた。同居の家族であり、長期に家庭を守ってきた高齢者を介護する家族の援助は大きく妻、嫁、息子など家族間のつながりも強く感じた。出来る限り在宅生活を続けることを要介護者及び家族支援の目標として援助しなければならない。そのためには、送迎時間の配慮、透析治療における必要情報の提供を適宜に図り、家族とコンタクトを持つ機会を作り安全に透析が受けられるよう常に心掛けていかなければならない。また、介護者の悩みを聞きその苦労をねぎらい精神的ストレスを作らないよう家族ケアへの配慮も忘れてはならない。
  • 川合 恵美子, 中村 美穂, 辻 裕子, 濱田 美保
    セッションID: 2G612
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに> 当病棟では,これまでに「死後のケア」についての重要性について,現状の中で個々に感じていたが,振り返ったり,直したりする機会はなかった。
     今回,「死後のケア」の向上を目指し,教育プログラムを試行した。その結果,どのような意識をもってケアしているのかを分析し,介入することで,以後の「死後のケア」におけるスタッフの意識変化,具体的な技術・グリーフケアに効果がみられたのでここに報告する。
    <方法> 研究対象:当病棟に勤務する看護師 15名
          研究期間:平成17年7月から平成17年12月研究方法
    1) フリーディスカッション(第1回)
      テーマ「死後のケア」
    2) 1)の記録を病棟スタッフ全員に回覧。
    3)「死後のケア」の問題・課題を明らかにした。
    4) 3)で得た問題・課題から,勉強会を開催。
    5) 研究期間中にケアを行ったスタッフへの面接調査。
    6) フリーディスカッション(第2回)
       テーマ「遺族に対する配慮やコミュニケーションの方法」
    7) 意識変化への質問紙調査
    8) 7)の結果を集計。
    <結果・考察> 「死後のケア」についてスタッフ一人ひとりの考え方やケアの現状について様々な意見が得られた。 見栄えがきれいになるように心がけている。化粧,服装などを家族に聞いている,などがあげられた。 大島は「生前の姿に近く安らかであることは、家族の悲しみが癒される」といわれているように今後,検討を続けていく必要があると考えられる。
     ケア技術については,スタッフの経験年数の違いから統一化がされていない。そのため経験年数に関係なく準備できるように必要物品表の作成を行った。 これらの現状から,フリーディスカッションでの意見を記録し病棟スタッフ全員に回覧したことは,お互いの体験・情報を共有することに繋がったといえる。
     次に,スタッフへの面接調査から「実際に行動にうつすことができた」などの言葉も聞かれ,フリーディスカッションや勉強会で得た知識が生かされ、ケアに役立てることができたといえる。しかし,「遺族に対する配慮やコミュニケーションの方法」については,悲しみの中にいる家族に対し,声かけをするのは難しいという意見が多く聞かれた。
     家族が悲しんでいると励ましてしまいがちだが,悲嘆の表現として現れる様々な感情や行動などを正常なものとして受け止めることが大切であるといえる。 家族への声かけについては,遺族の感情や行動を認めながら話を聞いてあげる,肩に手をのせるなどのボディタッチなど不安やショックを分かちあう姿勢をみせることでそれをやわらげることができるのではないかなどの意見がきかれた。そこで,声かけマニュアル(文献より)を作成した。
     最後に,質問紙調査から15名中14名が死後のケアに対する意識が変わったと答えた。しかし,1名は研究を通して明らかになった思いなどを以前からもっていたとの意見であった。
     家族参加については、ケアすべてに参加していただくのではなく,清拭や髭剃り,化粧を行う段階になって家族参加の声かけを行っている。
     ケアへの参加を望まない家族もいるということを理解し,今後すすめていかなければならないと考えられる。
    <まとめ>
    1. フリーディスカッションにより,ケアの現状やスタッフの意識が明らかになった。
    2. 1で得た情報をもとに介入を続けることは,ケアの技術・知識を深めることに有効であった。
    3. 「死後のケア」が向上しスタッフの意識に変化をもたらした。
  • 加藤 雄也
    セッションID: 2G613
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <背景> 経管栄養は、投与が簡便であるため液体の栄養剤が使用されており、胃噴門部と幽門部を容易に通過するため、また投与速度が速いことにより下痢を発症するケースが多くあり、そのため整腸剤を使用している患者が多いのが現状である。これまで固形化した経管栄養剤投与により、胃食道逆流が起こりにくくなったと報告されているが排便の影響については報告されていない。
    <目的> 胃瘻より固形化経管栄養剤を使用した患者の排便の性状がどのように変化するのかを明らかにすることを目的とする。
    <対象および方法>
    1.対象
    対象は胃瘻より液体の栄養剤投与を行われている患者群(n=6)とした。また腸疾患がなく、抗生剤を使用していない、整腸剤を使用している患者とした。2.方法
    1)固形栄養剤投与法
    固形栄養剤は液体栄養(メイバランス)100mlに対して粉末寒天(寒天クック)0,5gの割合で混入して作成した。その投与法はヘ゛ット゛をキ゛ャッチ30から45度に保持し対象患者を半座位にし、3から5分程かけて医師の指示された量を注入した。
    2)便の性状測定
    Daviesのスケールに基づき固形栄養剤注入前、固形剤注入後7、14、21、28日に実施した。
    3)対象背景調査
    対象患者は、年齢80±7.4歳、男性6名、脳梗塞4名、肺炎4名、脊髄損傷1名、脳炎1名であった。4)評価方法
    Daviesのスケールの結果をもとに施行前後の比較をウィルコクソンの符号順位検定にて統計学的有意差(危険率5%)を求めた。
    5)倫理的配慮
    本研究実施にあたり事前に患者または家族に研究目的、方法、注意点を説明し、同意のもと実施した。
    <結果および考察>
    1、固形経管栄養施行後1週
    症例1から6の便のスケールは、施行前から施行後1週でそれぞれ2から4、5から5、8から8、3から3、2から3、および1から4へ変化したが、統計学的有意差はみとめられなかった。
    2、固形経管栄養施行後2週
    症例1から5の便のスケールは、施行前から施行後2週でそれぞれ2から5、5から5、8から7、3から5、および2から5へ変化したが、統計学的有意差はみられなかった。
    3、固形経管栄養施行後3週
    症例1から4の便のスケールは、施行前から施行後3週でそれぞれ2から6、5から4、8から8、および3から5へ変化したが、統計学的有意差は認められなかった。4、固形経管栄養施行後4週
    症例1から4の便のスケールは、施行前から施行後4でそれぞれ2から8、5から5、8から8、および3から5へ変化したが、統計学的有意差はみられなかった。
     今回下痢の改善、排便の性状の変化、排便コントロールを図るため、寒天を用いて実際行ってみたところ、対象者6名の中で1名が注入後の経過とともに排便の性状が著明な変化を認めた。また痰が減少してきた、患者の表情が良くなった、などスタッフから聞かれた。このことは胃食道逆流による誤嚥性肺炎、痰が多い患者への対策のとして効果的ではないかと思われた。今後はさらに患者の全身状態をみながら、誤嚥性肺炎や痰が著しく多い場合に施行できるよう今回行った研究を活かしていきたい。
    <結論>
    1)寒天による固形経管栄養後の便は、施行前に比べ施行後28日間で著明な変化のないことが示唆された。
    2)固形経管栄養投与により痰の減少、注入時間の短縮化が図れた。
  • 計画的個別指導を実施して
    飯村 早苗, 箕輪 明美, 飯島 佳代子, 大内 智之, 小田倉 巳年男, 小沼 啓恵, 岡里 清美, 植田 敦志
    セッションID: 2G614
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに> 慢性腎不全と診断を受けた患者は、治療経過の長短はあるが、治療の先には透析導入を余儀なくされ、諦めと病気の予後の不安を抱えながら透析導入となることが多いが、生活管理の調節で保存期時期を延長させ、透析導入を遅らせることができることは明らかである。
     しかし、患者・家族が治療法・自己管理の重要性を理解出来るまでの患者指導が出来ていない限り、自己管理は困難なものとなってしまう。そこで、保存期初期段階の患者および家族に、外来診療時に治療と自己管理の大切さについて面接と指導を計画的に開始した。その結果、患者及び家族への意識付けが出来、治療への意欲と自己管理力を育てることが出来たので、経過を報告する。
    <方法> 医師の指導のもと、Cre2から3mg/dlに達した患者、及びその家族に生活指導があること説明し、診察後に初回の面接を設定した。面接には、腎センター看護師が継続的に関るようにした。指導内容については患者・家族の理解度と個別性を考慮し丁寧に指導することが重要と考え、1回15から20分内で、3回を1クールとし、指導パンフレットを作成使用した。パンフレットの構成は、疾患・薬剤・食事・生活の4つの項目に分け、それぞれについて3段階に内容を高度化し理解しやすいようにまとめた。1回目で慢性腎不全について学び自分の腎機能がどの段階にあるのか理解する。2回目が腎臓の働きと食事・内服の自己管理の必要性について指導、3回目で4項目についてさらに細かく説明し、自己管理を続けることが予後に与える影響、末期腎不全時の治療について話をし、1クールの指導とした。また、初回面接時には、生活状況・病歴・家族構成などを把握するため情報収集をすると共に、治療に参加する意識をもたせるため『生活調査票』を渡し、自ら記載してもらうこととした。3回の指導の中で、管理栄養士からの食事指導の計画や、薬剤師の服薬指導も計画し、患者の必要としている内容、生活状況に合わせ個別的に計画を立てるようにした。
    <結果・考察> 腎不全の知識が少ないこと、高齢者が多いこと、地域性を考慮し、詰め込み指導をせず内容は段階ごとに到達目標を決め、患者の理解度にあわせてステップアップできるように3段階としたことで、無理なく学んでもらうことが出来たと考える。また、飲みにくいクレメジンを確実に内服してもらうためクレメジンの吸着力の実験をして視覚的に内服の必要性を感じてもらうことが出来た。挿絵を多く使い簡単な文章にするなど工夫をすることで、見やすい、わかりやすいと好評だった。
     外来時の個別指導であるため一人の患者に長時間指導は出来ないが、3回に分けたことで疾患について理解しやすくなり、受け入れが難しく自己管理が出来にくい内容にも耳を傾け、意欲的に話を聴く時間を作ることが出来た。
    <まとめ> 外来での保存期初期の個別的計画指導の有効性がわかった。指導の方法内容により自己管理への意欲が向上した。継続的指導により難解な自己管理を継続させる鍵となった。
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