看護薬理学カンファレンス
Online ISSN : 2435-8460
2019大阪
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
挨拶
  • 吉岡 充弘, 池谷 裕二
    セッションID: 2019.1_greeting
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/10
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    日本薬理学会は、看護職者を主な対象とした『看護薬理学カンファレンス』を2018 年からスタートさせました。2018 年の東京と福岡での開催に引き続き、2019 年は大阪と札幌での開催 となります。本カンファレンス開催にあたり、日本薬理学会を代表してその趣旨をご説明申し 上げます。

    1990 年代後半から看護系大学の設置が急速に進み、2019 年度には日本看護系大学協議 会 (JANPU: Japan Association of Nursing Programs in Universities) 会員校は 283 校に 達しており、今後もさらに増加する見込みです。看護における薬理学・臨床薬理学教育は、看 護職の専門化・多様化・高度化に伴い、学士教育のみならず、大学院教育や継続教育におい ても重視されており、認定看護師教育、専門看護師教育、さらには特定行為に係る看護行為 の研修においても、必須あるいは選択科目となっています。それは、与薬の実践者である看 護職者には、患者を守る最後の砦として、薬物治療に関するより高度で幅広い知識が求めら れているからと言えます。その一方で、与薬の実践者である看護師の視点に基づいた薬理学 の知識や経験則は体系化されているとは言いがたく、看護において薬理学教育を担う人材の 育成も不十分な状況にあります。

    このような社会的背景を鑑み、日本薬理学会は、看護職者を主な対象とした『看護薬理学 カンファレンス』を開催することとしました。この『看護薬理学カンファレンス』は2部構成とし、 第1部では「看護の様々な領域と連携した薬物治療に関するシンポジウム」を、第2部では「看 護薬理学教育セミナー」を実施します。これらのシンポジウムとセミナーを通じて、看護に必 要な薬理学知識に関してより一層の啓蒙活動を行うとともに、これまで薬理学にあまり接点の なかった看護の様々な領域と薬理学との橋渡し・人的交流を目指します。さらに、「看護薬理 学教育セミナー」受講者には受講証明書を発行し、今後のキャリアアップに活かせるように致 します。 看護の様々な領域における薬理学教育・研究が、看護の皆さんと共にこれから成長発展し ていくことを心から願っています。よろしくお願い致します。

シンポジウム1
  • 川本 利恵子
    セッションID: 2019.1_S1-1
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/10
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    日本看護協会では、2025 年問題に伴う医療提供体制と看護提供体制の変化 は非常に重要な課題と受け止めています。なぜならば、医療提供体制の変化が あっても、質の高い看護を安定的に提供し続けることが必要だからです。これま で、多くの看護職は医療職として臨床現場で働いていました。急速な変化を伴 う煩雑な臨床現場で看護の質を担保していくには、現場における課題の分析と 看護職が働き続けられる体制整備と看護の質担保のための看護能力向上に向 けた研修が必要となってきます。そこで、特に看護職の薬品に関する医療安全 の現状をひもとき、問題解決に向けた活動をすることは喫緊の課題です。

    今回は、欧米諸国から端を発し、米国の医療の質委員会がどのような活動を 始めたのかなどの医療安全に関わる国際的な動向と日本の 1999 年に起こった患 者取り違え事件から日本では何が始まったのかを振り返ります。そして、日本の医 療安全推進のはじまりを社会の動き、厚生労働省、日本看護協会、他団体の動 向を年表に沿って整理し、医療安全に関わる日本の動向に注目します。最近の 医療安全に関わる主な日本の取り組みとして医療法改正で医療事故の報告と医 療安全管理体制の整備が行われ、医療の安全を確保するための医療機器や医 薬品使用に係る安全管理のための体制構築が重要視されてきました。特に、医 療事故情報収集等事業と医療事故調査制度における看護職の薬品に関する医 療安全の情報の分析は非常に重要です。

    最後に日本看護協会の活動とともに、特に「DiNQL事業」の結果を紹介させ ていただきます。「DiNQL事業」は、病棟単位でデータを収集・定量化し、ドナ ベディアンの医療の質評価の枠組みである「構造」「過程」「結果」の 3 つの視 点から、看護の質の評価指標を整理し、多面的に看護の質を評価する取り組み です。人員配置や労働時間、看護実践の内容や褥瘡や転倒・転落、感染や 医療安全として誤薬の発生率などの8指標があります。

    医療事故情報の調査結果やDiNQL結果をもとに皆様に看護職の薬品に関す る医療安全について問題提起したいと考えています。

  • 大久保 清子
    セッションID: 2019.1_S1-2
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/10
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    わが国の GDP の伸びが鈍化し医療費抑制政策下での今後の診療報酬の増 額は、ほぼ期待薄な状況が推察されます。また人口構造の変化に伴いその対 応として地域包括ケアシステムの構築が進められています。この構築では多職種 が連携して地域住民の一人ひとりが望まれる医療や療養生活を提供していくこと が期待されています。それには、医療の質を確保していくことが必要です。つまり、 言うまでもなく就労環境改善や人員確保が急務ですが、その原資を確保し豊か な医療を実現するためには、多職種が連携しそれぞれの専門性を発揮すること が必要であり求められています。

    臨床と地域が連携して地域住人の療養生活を支えて行くには、これまで以上 にあらゆるマネジメントが必要となります。なかでも医療安全管理は、安全で安心 の質の高い医療提供をしていくためには重要です。病院の質改善活動を支援す るツールは、病院機能評価があります。この病院機能評価では、国民が安全で 安心な医療が受けられるよう、「患者中心の医療の推進」「良質な医療の実践1」「良質な医療の実践2」「理念達成に向けた組織運営」の4つの評価対象領域 から構成され、評価項目を用いて、病院組織全体の運営管理および提供される 医療について評価しています。

    つまり看護職は、患者中心で良質な医療の実践をマネジメントしていくことが重 要です。その一環として安全管理において薬品管理があります。臨床の場にお いて薬品の管理は、これまで看護職の業務としてきました。しかし病院機能評価 では、チーム医療による診療・ケアの実践の項目に、投薬・注射を確実・安全 に実施しているという評価項目があり、これにより薬剤師と看護職との業務の仕分 けが進んできたように感じています。 ところで病棟等の部署にある定数のストック薬の管理は誰が行う方が効果的な のでしょか。医師の指示変更が薬剤管理に反映できる仕組みはないものでしょう か。ミキシングするバイヤルやアンプルの使用期限の確認は何処で誰が行ってい るのでしょか・・等々。看護師と薬剤師のどちらが行うことが効率的で安全な業 務なのでしょうか。

    今回、薬品管理に関する機器をメーカと共同開発し業務の効率化に、そして 安全管理に役立てています。その構築の経緯等をご紹介し、お互いの専門性 を発揮するための薬品の効果的な管理体制について考察できればと思います。

  • 赤瀬 智子
    セッションID: 2019.1_S1-3
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/10
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    日本の医療事故の報告件数 ( 日本医療機能評価機構 ) は、2017 年は 3,598 件あり、10 年以上その報告が増加しています。その医療事故の当事者は看護 師が1番多く、特に経験年数 5 年以内の看護師が引き起こしています。事故内 容としては、治療や処置に関する事項 26.7%、薬剤そのものに関する事項 8.6% であり、その発生場面は、静脈注射>内服>末梢静脈点滴の順で発生が多く、 その他、薬の過剰投与、薬剤の勘違い、患者の勘違い、投与方法の勘違い、 確認・観察怠った、連携できていなかった、技術・手技の未熟、知識の不足な どが挙げられています。ヒヤリ・ハットにおいても、1 年間に31,218 件 (2017 年 ) の報告があります。その内、薬剤に直接関する事項は41.4%と1 番多く、ヒヤリ・ハッ トの当事者も看護師が1番多いです。つまり、看護師による薬の医療事故、事 例が非常に多いという実態があります。

    薬の作用機序や薬物動態についてどのくらい理解していますか。薬の知識が つくと患者の身体的状態によって治療の効果や起こり得る副作用の予測がつき、 何をいつ観察したらよいか、何を注意したらよいかがよりみえてきます。また、薬 の使い方や投与方法、つまり与薬の科学的根拠もわかってきます。今回はよく使 われる薬を例にとって看護職に求められる薬理学の安全に関するの知識につい て一緒に考えてみたいと思います。

    患者にとっての最適な治療とは何でしょうか。看護職は患者の生活からも薬の 効果を考え、適切な与薬が提案できたらよりよいと考えます。

シンポジウム2
  • 高橋 弘枝
    セッションID: 2019.1_S2-1
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/10
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    少子・超高齢・多死社会に直面し様々な課題が山積しています。国民の「い のち・暮らし・尊厳を守り支える看護」の実現に向けて看護職が果たす役割は 大きく、活躍するフィールドも多肢にわたります。そのためには、「看護の質の向上」 と「一人ひとりの看護職が誇りとやりがいをもって、生き生き笑顔で働き続けられ る職場環境づくり」の更なる推進が重要となります。

    大阪府看護協会では「看護師が安全で安心してケア提供できる環境、患者 とその家族も安心して安全なケアを受けることができる環境づくり」の一環として、 医療・看護・介護現場に必要な"看護のものづくり"を目指しています。ただ、こ の取り組みは看護職能団体単独では実現しがたいことであり、当協会では看護 理工学会はじめ大阪大学や一般社団法人臨床医工情報学コンソーシアム関西、 大阪商工会議所、大阪科学技術センター等との連携・協同で進めることができ るようになりました。

    当協会として、看護職が臨床現場目線でニーズを掘り起こすために、看護協 会会員の中から熟練した看護実践者を選出し、ヒヤリングを行いました。非常に 多くのニーズが抽出され、それらを整理・分類し、企業とのマッチング、事業化 していくプロセスを踏んでいます。この度のシンポジウムではこのプロセスと、そ の中での学びを紹介したいと思います。

    また、地域包括ケアシステムの構築が推進される中で、在宅医療・介護の重 要性は高まるとともに、関連する"もの"の開発が喫緊の課題でもあります。特に、 安全に薬物療法を在宅で継続する上で、特に多くの課題を抱えています。それ らの一部ですがご紹介いたします。

    質の高い医療・看護を提供するには高度な知識と技術、それにもちいる"看 護のもの"の開発・改良は不可欠です。使用する看護職が必要とするものづくり にかかわり、その商品が、医療・介護の現場、暮らしの中で、看護職だけでなく、 多職種そして患者・家族が使われるのを楽しみに、創造的な取り組みを展開し ていきたいと思っています。

  • 福井 小紀子
    セッションID: 2019.1_S2-2
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/10
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    超高齢社会・人口減少社会が進む日本では、高齢者に対する医療介護ニー ズが急速に高まる一方、働き手である医療介護人材の不足と社会保障財政の 持続可能性が深刻な課題となっている。

    加えて、世界で破壊的イノベーションが進展する中、内閣府は、過去の延長 線上の政策では世界に勝てないことを理由に、2018 年「総合イノベーション戦 略」を打ち出し、健康・医療・介護を含むあらゆるシーンでの AI 活用の重要性 を掲げている。厚生労働省も、医療と介護の質向上や資源の最大活用のため、2020 年の本格稼働を目指した「データヘルス改革」で、医療と介護のビッグデー タの連結・運用を進めるとともに、介護分野への介護ロボットや見守り機器導入 への評価を2018 年の同時改定年に初めて報酬化した。

    このように大きく社会情勢が変革するなか、近年、センシング技術等のテクノ ロジーを活用した医工連携研究は盛んに進められてきているが、これまでの研究 は、療養者の睡眠、排泄、転倒、皮膚、ストレスといった問題事象 1 側面に着目し、1 対 1 対応で実態を捉え、製品開発に繋げるものが大半であった。一方、療養 者の生活上や健康上の問題は、これらの問題事象が多面的に絡み合って発生 することから、看護職は、療養者の全人的な観察と対応を行っている。

    医療介護現場にテクノロジーを適切に活用・普及していくためには、療養者 の状態を総合的・包括的に捉えて、QOL 向上や最適なケア提供に繋げていく 視点が不可欠であるが、そのような先行研究は見当たらない。

    以上の背景から、我々は、病院、施設、在宅で療養する終末期と回復期の 療養者を対象に、①センシング機器により得られる「生体情報」、②看護職によ る5側面(睡眠、排泄、移動、皮膚、ストレス)を中心とした療養者の観察・判断・ 介入といった「実践情報」、及び③「実際の問題発生や状態悪化」の 3 情報を 収集、連結、解析する研究を進めている。そして、将来的には、これら収集したビッ グデータをAIを用いて解析し、問題事象ごとに、療養者の生活や健康上の「リ スク予測システム」を開発し、新しい看護技術の展開・社会実装を目指している。 本シンポジウムでは、看護職によるテクノロジーを活用したイノベーションを展開 するための一つのヒントになることを願い、我々看護学研究者と企業との協働により、昨年度より進めてきた本研究の進捗を報告したい。

  • 西垣 昌和
    セッションID: 2019.1_S2-3
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/10
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    ヒトの遺伝情報を解読する世界的プロジェクト、「ヒトゲノム計画」は 2003 年に完了した。遺伝情報=ゲノムは、生物の設計図といえるものであり、ヒトゲノム計 画によって我々は人体の設計図を手に入れたことになる。また、ヒトゲノム計画は 遺伝子解析技術の爆発的な進歩をもたらし、これらのことが医療における「遺伝」 の捉え方を大きく変えた。「遺伝」は、これまでの保健医療領域にいては、遺伝性疾患をはじめとする 何らかの特徴が、親から子へと受け継がれる現象をしめす言葉として捉えられ てきた。これは、決して間違ってはいないが、実は「遺伝(genetics)」の一側 面、すなわち「継承性(heredity)」の側面のみを捉えているにすぎない。「遺 伝(genetics)」は、 本 来は「 継 承 性(heredity)」と「 多 様 性(variation)」 の双方を指す言葉であり、ヒトゲノム計画は、この多様性の根幹といえる遺伝子(gene)すべて(-ome,「総体」)を解読することを目的とした。 ゲノムがもたらす多様性(variation)は、社会学的な多様性(diversity)とは異なり、生物としての「形質」の違いを意味する。形質とは、肌の色、髪の 毛の性状、身長の高低、といったような人間の特徴そのものであり、その中には、「疾患 A へのかかりやすさ」「症状 B のおこしやすさ」といったような疾患・症 状に関する形質や、「薬剤 C の効きやすさ」「副作用 D のおこりやすさ」といった 薬剤応答性に関する形質も存在する。

    すなわち、ゲノムは、人体に生じる様々な現象の内的要因であることはもちろん、 外的要因への反応の多様性に関連している。臨床においては、「同じ手術でも 疼痛の訴えが多い人とそうでない人がいる」「Aさんは温罨法が、Bさんは冷罨 法がより安楽だという」といったような、個人による反応の差異を経験する。この ような個人差は、「個別性」として一括りにされがちで、場合によっては「我慢強さ」 や「好み」といった曖昧な言葉で片づけられることがなかっただろうか。もし、こ れらの反応の個人差に、ゲノムが関わっているとしたらどうだろう。ゲノム情報を もとに、その人の反応を予測できれば、その人に適した医療・看護を、問題が 生じる前に提供できる。それこそが、ヒトゲノム計画により現実のものとなってきた Precision Medicine(精密医療)であり、その一端をになう領域として、ゲノム 看護学がある。本演題では、ゲノム看護学の現状と展望を共有し、新たな看護 について共に考える機会としたい。

ランチョンセミナー
特別講演
  • 真田 弘美
    セッションID: 2019.1_SP
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/10
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    褥瘡対策は、今後の超高齢者人口の急増と相まって、焦眉の急といわれて いる。国の医療を動かす診療報酬・介護報酬は平成 30 年度には同時改定さ れたが、褥瘡対策に最も大きく影響するのは、介護報酬による褥瘡対策であろ う。中でも自立支援・重症化の予防において、介護保険の理念や目的を踏まえ、 安心・安全で、自立支援・重度化防止に資する質の高い介護サービスを実現 するために、「褥瘡の発生予防のための管理や排泄に介護を要する利用者へ の支援に対する評価」が新設された。これによって、介護施設、たとえば特別 養護老人ホーム等の入所者の褥瘡(床ずれ)発生を予防するために定期的にリ スクアセスメントを行い、その結果に基づき褥瘡対策を行うことが期待されている。 従来は診療報酬がカバーする病院などが褥瘡対策の中心であった。しかし、こ のように介護施設への褥瘡対策も介護報酬が新設されることにより、病院、施設、 在宅の褥瘡対策が一元化されることになり、日本の褥瘡発生率は激減するであ ろう。その期待を実現するためには、上記のような政策に頼るだけでなく、社会 の要請に応じたケア技術や医療機器の開発は必須といえる。ここでは褥瘡対策 2019と題して、平成 30 年度の診療報酬の改定も踏まえて、 最も新しい褥瘡対策についての技術や医療機器に関する情報を提供したい。

    1)褥瘡発生予測はブレーデンスケールが妥当か?

    2)スキンテアは褥瘡発生のリスクか?

    3)体圧分散はロボットができるか?

    4)治癒遅延をもたらすバイオフィルムは見えるか、そして除去できるか?

看護薬理学教育セミナー1
  • 池谷 裕二
    セッションID: 2019.1_ES-1
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/10
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    医療分野の治療戦略は、歴史的にみれば、ほとんど経験則に則ってきました。 かつては、どんな治療法も、どんな薬も「経験的に効果がありそうだから採用し ている」という程度のものでした。科学技術が進歩した現代でも(表面上は学術 的証拠が求められるようにはなっていますが)やはり経験則が主体であることは変 わりません。全身麻酔薬はよい例です。麻酔薬がなぜ効果を発揮するのでしょう か。薬理学的な作用機序は完全には解明されていません。効くことが事実だか ら使っているわけです。理由もわからず使っているとは、よくよく考えてみれば怖 い気がします。しかし、これを「怖い」と感じること自体、私たちがいかに科学的 な説明(に見えるような仮説)に慣れ切ってしまっているかを意味しているのでは ないでしょうか。本来はどんな薬でも「有効かつ安全」ならばよいわけです。この 意味で、私は「科学は経験則を超えることは(将来にわたってさえ)ないだろう」 と考えています。

    私はそんな「科学」に従事する者として、今回の講演の機会をいただきました。 講演では、研究者として「科学的な知見」に基づいてお話します。脳の構造や 仕組みを知ることは、仕事や日常に、様々な変化をもたらすはずだと確信してい ます。なぜなら、人間は自分のクセに無自覚であるという事実に無自覚だからです。 他人のクセには容易に気づくことができても、案外と、自分自身のクセに気づかな いまま自信満々に生きているものです。最大の未知は自分自身です。そんな自分 の「脳のクセ」について知っておくのは、けっして悪いことではありません。看護 の現場でも、つい脳のクセにはまって、知らず識らずに非効率な言動や、取り返 しのつかない失敗をしてしまうこともあると思います。そんな脳のクセについて知っ ていただくのが私の講演の目的です。また時間があれば、AI の医療応用の最 前線についてもお話したいと思います。

看護薬理学教育セミナー2
  • 柳田 俊彦
    セッションID: 2019.1_ES-2
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/10
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    看護における薬理学・臨床薬理学教育は、看護職の専門化・多様化・高度 化に伴い、学士教育のみならず、大学院教育や継続教育においても重視され ており、認定看護師教育、専門看護師教育、さらには特定行為に係る看護行 為の研修においても、必須あるいは選択科目となっています。それは、与薬の 実践者である看護職者には、患者を守る最後の砦として、薬物治療に関するよ り高度で幅広い知識が求められているからと言えます。看護師は薬物治療にお いて、与薬の実践者として、患者と直接接する立場にあり、患者の薬物治療に 対する様々な応答(有効性や有害事象)を最も身近に察知できる存在といえます。 その一方で、看護師が法的責任を問われる重大な医療事故報告では、与薬関 連が最も多く(看護協会:2002-2012 年 713 件中 188 件(26.1%))、与薬ミスを 防ぐために様々な工夫がなされているものの、依然として与薬ミスは減少していま せん。与薬の実践者である看護師の視点に基づいた薬理学の知識や経験則は 体系化されているとは言いがたく、看護において薬理学教育を担う人材の育成も 不十分な状況にあります。

    本セミナーでは、臨床でよく使われる身近な薬物を中心に、気をつけておきた い副作用や薬物相互作用、食品との相互作用について概説します。さらに、新 しい時代のニーズに対応する看護薬理学教育のあり方 - 看護師による患者さ んのための薬 理 学 -として、「Patient-oriented Pharmacology」「integrated Drug (iDrug)」などの新たな概念を紹介致します。

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