超高齢社会・人口減少社会が進む日本では、高齢者に対する医療介護ニー ズが急速に高まる一方、働き手である医療介護人材の不足と社会保障財政の 持続可能性が深刻な課題となっている。
加えて、世界で破壊的イノベーションが進展する中、内閣府は、過去の延長 線上の政策では世界に勝てないことを理由に、2018 年「総合イノベーション戦 略」を打ち出し、健康・医療・介護を含むあらゆるシーンでの AI 活用の重要性 を掲げている。厚生労働省も、医療と介護の質向上や資源の最大活用のため、2020 年の本格稼働を目指した「データヘルス改革」で、医療と介護のビッグデー タの連結・運用を進めるとともに、介護分野への介護ロボットや見守り機器導入 への評価を2018 年の同時改定年に初めて報酬化した。
このように大きく社会情勢が変革するなか、近年、センシング技術等のテクノ ロジーを活用した医工連携研究は盛んに進められてきているが、これまでの研究 は、療養者の睡眠、排泄、転倒、皮膚、ストレスといった問題事象 1 側面に着目し、1 対 1 対応で実態を捉え、製品開発に繋げるものが大半であった。一方、療養 者の生活上や健康上の問題は、これらの問題事象が多面的に絡み合って発生 することから、看護職は、療養者の全人的な観察と対応を行っている。
医療介護現場にテクノロジーを適切に活用・普及していくためには、療養者 の状態を総合的・包括的に捉えて、QOL 向上や最適なケア提供に繋げていく 視点が不可欠であるが、そのような先行研究は見当たらない。
以上の背景から、我々は、病院、施設、在宅で療養する終末期と回復期の 療養者を対象に、①センシング機器により得られる「生体情報」、②看護職によ る5側面(睡眠、排泄、移動、皮膚、ストレス)を中心とした療養者の観察・判断・ 介入といった「実践情報」、及び③「実際の問題発生や状態悪化」の 3 情報を 収集、連結、解析する研究を進めている。そして、将来的には、これら収集したビッ グデータをAIを用いて解析し、問題事象ごとに、療養者の生活や健康上の「リ スク予測システム」を開発し、新しい看護技術の展開・社会実装を目指している。 本シンポジウムでは、看護職によるテクノロジーを活用したイノベーションを展開 するための一つのヒントになることを願い、我々看護学研究者と企業との協働により、昨年度より進めてきた本研究の進捗を報告したい。
抄録全体を表示