胎盤は母体と胎児をつなぐ唯一の臓器であり、母体から胎児への栄養素の供給や胎児から母体への代謝物の排泄など様々な機能を有している。2008年に多発性骨髄腫治療薬として再承認されたサリドマイドは1960年代に鎮静剤としての使用により、催奇形性が問題となった。この事件以降、FDAでは新薬の安全性評価の修正が図られ、現在の安全性試験の原型となるべきシステムが構築された。我が国においても、新薬承認の際に胎児毒性評価が義務付けられるなど、妊婦に対する適正な薬物治療と正確な情報提供が喚起された。薬物による胎児への影響が最も懸念されるのは、妊娠3ヵ月までの薬剤感受性の高い器官形成期であり、奇形発症の他、精神発達遅延、自閉症などの様々な障害が報告されている。
一方、胎児の発育は胎盤を介して供給される栄養成分に依存しているため、胎児への栄養成分の供給機能は極めて重要である。アミノ酸など栄養成分の供給不足は単なる栄養不足ではなく、様々な胎児の発達抑制を引き起こすことが知られている。
1999年Harrington B らは、アミノ酸トランスポーターの機能抑制と子宮内胎児発育不全(IUGR)には関連性があること、またH berleJらはグルタミン合成酵素の機能不全では、器官の形成異常あるいは多臓器不全を伴う新生児死亡が引き起こされることなどを報告している。しかしながら、胎盤における栄養成分の輸送機構の解明は妊娠満期胎盤における評価が主流であり、それらの機能変動と妊娠周期について詳細に検討された報告は少ない。さらに妊娠中に実施された薬物治療が胎盤の栄養物質透過性に及ぼす影響について評価した例も少なく不明な点が多い。
本講演では、下記に示した通り、薬物動態学および医薬品情報学の基礎を概説した後、ビタミン類摂取に関する文献調査、成人期に影響を及ぼす可能性のある母体因子および各種実験系による研究内容について紹介させていただきます。
1)薬物の体内動態(吸収・分布・代謝・排泄)、トランスポーターの機能と分布
2)医薬品情報の収集および評価、医薬品の毒性評価の考え方
3)妊婦におけるビタミン類や微量元素の摂取による胎児への影響に関する文献調査
4)胎児プログラミング仮説が一般化されたDOHaDの概念と簡易型自記式食事療法質問票(BDHQ)の活用
5)栄養成分の供給を担うトランスポーターの発現に及ぼす薬物の影響
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