看護薬理学カンファレンス
Online ISSN : 2435-8460
2021札幌
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
シンポジウム1
  • 福田 真佑
    セッションID: 2021.1_S1-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/23
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    私は学生時代からがん看護に興味がありました。特にがん患者さんの治療やケアを見出すことに興味を持っていたことがきっかけで、「ファイト小児がんプロジェクト」という、小児がんの一つである神経芽腫の将来の治療薬を見つけ出すプロジェクトに携わることになりました。そこで、大学院では、ヒトの培養細胞やモデルマウスを用いた基礎研究をしながら、治療薬になりそうな候補化合物を見つける研究を行いました。

    それから現在に至るまで、「薬」とは切っても切れない不思議なご縁があり、看護師の私ですが、薬に関する研究に携わっております。今回お話させていただくテーマは、異分野融合研究で切り拓く看護薬理学とさせていただきました。それは、私がこれまで臨床経験の後に看護研究をする中で、医学・薬学・獣医学・農学・工学等の異分野の研究者の先生方とご一緒させていただく機会があり、まったく新しい考えや研究手法によって看護研究の可能性が拡がるのではないかと感じたからです。

    現在、大学において、「基礎研究×看護×薬理」という異分野融合研究に無限の可能性と面白さを感じ、看護薬理学を身近な学問として可視化し、臨床現場に還元したいと考えています。今実施している看護研究の一つに「麻酔薬によって血管痛が起きる仕組みの解明」の研究があります。これは手術室で麻酔導入時に痛みを訴える患者さんの苦しみを取り除きたいという思いから立ち上げた研究であり、麻酔薬によって血管痛が起きる仕組みを踏まえた看護ケアの確立を目指しています。血管痛の起きる仕組みの解明が看護研究なの?と思うかもしれません。しかし、血管痛発生の仕組みがわかれば、それを的確に軽減するケアを考えることができるのです。今、大学院生とともに基礎実験の手法を用いてその研究を進めているところです。

    また、看護師は様々な疾病管理の観点から、栄養管理や食事療法に関わることも多いと思います。療養生活を送る人々に、食品の効果を最大限に活かすことができるための情報提供は食事指導において重要であり、私は薬膳などに用いられる身近な食品成分の生体への効果を明らかにする研究にも着手しています。

    今回は、現在取り組んでいる研究を紹介させていただきます。少しでも「基礎研究×看護×薬理」の異分野融合研究から、看護の発展につながる面白さと素晴らしさを皆さまと共有できたら幸いです。

  • 雨宮 歩
    セッションID: 2021.1_S1-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/23
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    異分野融合研究によって取り組み始めた身体拘束削減への試みについて、どのように始めたのか、良いこと、難しいこと、などを具体的に、今まさに実践している若手研究者の視点でお伝えしたいと思います。私は、看護学×工学×企業の異分野融合研究をご紹介します。

    《なぜ異分野融合研究をしているのか》単純な疑問にはたいてい先行研究が答えを出してくれており、課題は高度化、複雑化しています。そして、研究者として本当にやりたいことを突き詰めていくと看護学だけでは解決できない課題が多々出てきます。そのような時に実施するのが、異分野融合研究という手段です。看護学と異なる研究観や世界観に触れ、新たな視点が見つかることが多くあります。一つの学問分野の壁を越えて、課題解決の可能性を無限に広げることができる手段だと思っています。

    《実際の研究内容》身体拘束を削減するには、臨床現場の個人の努力だけでは限界があります。そこで、センサなどを用いたシステムをうまく取り入れていきたいと考え、「本当に臨床現場で使える」システムにこだわって研究・開発をしています。

    身体拘束をせざるを得ないのは、ほぼ、以下のどちらかの場合です。

    ①転倒・転落のリスクが高い場合

    ②医療用カテーテル等や創部、オムツなどの触れてほしくない部位に触れたり自己抜去したりするリスクが高い場合

    ①の転倒・転落を防ぐためには離床センサなどが市販されていますが、私自身の臨床経験も含め、市販されているセンサを使用しても転倒が起きています。そのため、工学研究者・企業と協働で新たな離床検知システムを開発しました。

    ②の医療用カテーテルの自己抜去等を防ぐセンサはそもそもありません。そのため、頻回な訪室により見守りをするか、身体拘束をするしかありません。コロナ渦で、できるだけ接触を避けなければならない現状では、身体拘束を選択せざるを得ない状況が増えている可能性が考えられます。そこで、医療用カテーテル等に患者が触れていることを検知することで遠隔管理が可能になるセンサシステムを工学研究者・企業と開発しています。

     私の経験をお伝えすることで、看護学だけでは解決できない課題が出てきた際に異分野融合研究に踏み出す一助になれば幸いです。

  • 仲上 豪二朗
    セッションID: 2021.1_S1-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/23
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    褥瘡や糖尿病足潰瘍、静脈性下腿潰瘍などの難治性創傷は、常に外部の病原菌に曝されている。細菌が創傷治癒に影響を及ぼし、明瞭な炎症反応を呈する場合に感染が生じていると判断できるが、臨床では創傷治癒が遅延するものの、明確な炎症反応がなく、抗菌療法によって治癒が進行する病態が問題なっている。これをクリティカルコロナイゼーション (臨界的定着) と呼んでおり、細菌の定着と感染の間のグレーゾーンを指している。臨床において、創傷感染とクリティカルコロナイゼーションを早期に発見し、適切なケアを実施するための方策が求められている。

     近年、バイオフィルムとクリティカルコロナイゼーション・感染との関連が指摘されている。バイオフィルムは細菌が産生する多糖類、タンパク質、細胞外DNAを主成分とする3次元構造体である。バイオフィルム状態の細菌は、抗菌薬や宿主免疫に抵抗性を示すため、宿主との共存を可能としている。さらには、バイオフィルム内部の細菌が外部へ放出されることにより持続的な感染を成立させることが可能であり、創傷治癒促進や重篤な感染症予防のためにはバイオフィルムの同定と除去が必要である。近年、Bioflm-based wound therapy として、バイオフィルムの有無によって創傷治療を選択する必要性が提唱されてきたが、臨床でバイオフィルムを可視化する技術がなかったため、実践に移すのが困難であった。そこで我々は「非侵襲、簡便、迅速」という看護学に必要なアセスメントの要件を満たすバイオフィルム可視化ツールの開発に着手した。ウェスタンブロッティングにヒントを得て、創部表面に存在するバイオフィルム成分をニトロセルロースメンブレンに転写し、特異的に染色することで、短時間でバイオフィルムを可視化することに成功した。これには、分子生物学者のアイディアと、化学者の染色・脱色液の処方技術が大きく貢献した。本手法の基準関連妥当性は動物実験並びに臨床の壊死組織サンプルを用いて検証している (Astrada A etal, inpress)。バイオフィルムが陽性である場合に、壊死組織の増大 (Nakagami G etal, 2017)、創傷治癒遅延 (Wu YF etal, 2020)を予測することが可能であり、バイオフィルム染色結果に基づいて低侵襲デブリードマンを実施するケアシステムにより慢性創傷の創傷治癒が促進することを報告してきた (Nakagami G etal, 2020; Mori Yetal, 2019)。本シンポジウムでは異分野融合で開発したバイオフィルムの可視化に基づく創傷ケアのイノベーションについて述べる。

特別講演
  • 平野 剛
    セッションID: 2021.1_SP-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/23
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    胎盤は母体と胎児をつなぐ唯一の臓器であり、母体から胎児への栄養素の供給や胎児から母体への代謝物の排泄など様々な機能を有している。2008年に多発性骨髄腫治療薬として再承認されたサリドマイドは1960年代に鎮静剤としての使用により、催奇形性が問題となった。この事件以降、FDAでは新薬の安全性評価の修正が図られ、現在の安全性試験の原型となるべきシステムが構築された。我が国においても、新薬承認の際に胎児毒性評価が義務付けられるなど、妊婦に対する適正な薬物治療と正確な情報提供が喚起された。薬物による胎児への影響が最も懸念されるのは、妊娠3ヵ月までの薬剤感受性の高い器官形成期であり、奇形発症の他、精神発達遅延、自閉症などの様々な障害が報告されている。

     一方、胎児の発育は胎盤を介して供給される栄養成分に依存しているため、胎児への栄養成分の供給機能は極めて重要である。アミノ酸など栄養成分の供給不足は単なる栄養不足ではなく、様々な胎児の発達抑制を引き起こすことが知られている。

    1999年Harrington B らは、アミノ酸トランスポーターの機能抑制と子宮内胎児発育不全(IUGR)には関連性があること、またH berleJらはグルタミン合成酵素の機能不全では、器官の形成異常あるいは多臓器不全を伴う新生児死亡が引き起こされることなどを報告している。しかしながら、胎盤における栄養成分の輸送機構の解明は妊娠満期胎盤における評価が主流であり、それらの機能変動と妊娠周期について詳細に検討された報告は少ない。さらに妊娠中に実施された薬物治療が胎盤の栄養物質透過性に及ぼす影響について評価した例も少なく不明な点が多い。

     本講演では、下記に示した通り、薬物動態学および医薬品情報学の基礎を概説した後、ビタミン類摂取に関する文献調査、成人期に影響を及ぼす可能性のある母体因子および各種実験系による研究内容について紹介させていただきます。

    1)薬物の体内動態(吸収・分布・代謝・排泄)、トランスポーターの機能と分布

    2)医薬品情報の収集および評価、医薬品の毒性評価の考え方

    3)妊婦におけるビタミン類や微量元素の摂取による胎児への影響に関する文献調査

    4)胎児プログラミング仮説が一般化されたDOHaDの概念と簡易型自記式食事療法質問票(BDHQ)の活用

    5)栄養成分の供給を担うトランスポーターの発現に及ぼす薬物の影響

シンポジウム2
  • 片岡 弥恵子
    セッションID: 2021.1_S2-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/23
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    ドメスティック・バイオレンス(DomesticViolence:DV)とは、親密な関係における暴力である。男性から女性への暴力が多く、夫、元夫、婚約者、元婚約者、恋人、元恋人などが加害者となる。DVには、身体的暴力、精神的暴力、経済的暴力、性的暴力などがあり、様々な暴力が重複して起こっている場合も少なくない。これらの暴力の根本には、パワーとコントロール(力と支配)が存在する。加害者は、自分の意のままにコントロールする手段として暴力を使うことが知られている。

     内閣府男女共同参画局の全国無作為抽出調査(2017)によると約20%の成人女性がこれまでにパートナーから身体に対する暴行を受けたことがある、17%が心理的攻撃を受けたことがある、約10%が経済的圧迫を受けたことがある、約10%がパートナーから性的な行為を強要されたことがあると回答している。いずれかのDV行為を一つでも受けたことがあるのは成人女性の約3人に1人であり、約7人に1人は何度も受けていると回答していた。また、交際相手からのDVの経験では、約21%の女性が被害を受けたことがあったと回答している。このようにDVは、決して稀なことではなく、私たちの身近に存在する問題である。

     DVは、女性や子どもの健康に深刻な影響を及ぼすことが多くの研究で報告されている。周産期においては、母親の外傷、切迫流産・早産(腹部を蹴られる)、精神面ではうつ症状や不安、PTSD、低出生体重児、胎児機能不全など胎児への影響もある。さらに、DVは、子どもの虐待と強い関連が認められている。周産期にできるだけ早期にDVを把握し、支援を始めることは特に重要であると考えられている。

  • 丸山 菜穂子
    セッションID: 2021.1_S2-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/23
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    看護教育においてDVに関する教育は、看護基礎教育の中で行われている。

    疾病構造の変化や少子超高齢社会の進展など医療をめぐる状況は大きく変わる中、看護師に求められる能力は複雑性・多様性を増し、現在の看護基礎教育のカリキュラムは過密である。このような中、DVに関する教育が十分に行えているとは言えない。しかし看護師として臨床現場にでると、様々な場所で突然に被害者と出会い、対応を迫られる。配偶者をもつ成人女性の3人に1人が配偶者から暴力を受けた経験をもち、この内7人に1人は命の危険を感じた経験をもつ(平成29年度 男女間における暴力に関する調査)。暴力による健康被害で医療機関を受診する者は少なくない。一方で、DV被害を主訴に受診する者は非常に少ない。同調査では、被害を受けた女性のうち誰かに相談した経験をもつ者は6割にとどまり、その相談先が医療関係者であったのはわずか2.8%であった。つまり医療者がDVやその健康被害について十分に理解し、被害者を発見する眼を持たなければ被害者を見逃している可能性が高い。

     被害者を早期に発見し、適切な支援を提供するためには現任教育が必須である。World Health Organizationは、2013年に医療機関での被害女性対応のためのガイドラインを、2019年には医療者向け教育ガイドを発行した。日本では、周産期医療における被害者支援のためのガイドラインが2004年に公表された。さらに日本助産学会が2016年に発行したエビデンスに基づく助産ガイドラインの中で、DVスクリーニングのツールと方法、陽性者への支援の有効性に関する推奨度を示した。このように日本の特に周産期医療において、現任医療者がDV被害者支援のスキルを学ぶ媒体は整ってきている。しかし、DVに関する現任教育及び被害者支援の取り組みは進んでいない現状がある。2008年の調査では、関東の74周産期医療施設においてスタッフへDVに関する教育を行っている施設は3%、DVスクリーニングを実施している施設は5%であった。その後2016年の調査においても、全国の362周産期医療施設におけるスクリーニング実施率は6.9%であった。そこで私はDV被害者支援促進を目指したE-learningを開発し、全国の周産期領域の看護者を対象に有効性を検証した。本シンポジウムではこの研究成果と課題を紹介する。

  • 長坂 桂子
    セッションID: 2021.1_S2-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/23
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    COVID-19感染症パンデミックにより、2020年3月には社会経済状況が一変しました。休業や失業に伴う経済的困難、外出自粛に伴う家庭の密室化と社会とのつながりの断絶等の変化は、進行形で女性、妊婦、子どもの健康に悪影響を及ぼす恐れがある、と背筋の凍る思いがしたのを覚えています。DVや、育児不安、メンタル不調のリスクが上昇すると予想し、崖っぷちの状態に置かれる女性や母子が増えるってわかってるんやったら、先回りして「一人も取り残さない」仕組みを作らないと、と考えました。産婦人科外来でチームとなって行ったコロナ禍の安心ケアの実装です。

     DV被害者支援についてお話します。産婦人科外来のトイレ・産婦人科病棟授乳室には、以前より、DVリソースカー

    ドを設置していましたが、「DV相談+(プラス)」(24時間、電話やメールでDV相談が可能;内閣府 2020.4)の情報も併せて掲示しました。

     4月から、妊婦健診方法を変えました。安心妊婦健診です。毎回の妊婦健診は、助産師による診察・ケア(約5分)→医師による診察(約10分)で構成しなおし、濃厚接触の機会を減らし、毎回助産師と面談できるよう変えました。加えて、毎回30秒スクリーニングをすることを新規導入しました。口頭で「うつ(二質問法)、DV(VAWS;女性に対する暴力スクリーニング尺度)、育児不安」の8項目を聞き、妊婦が口火を切りやすい環境を整えました。4月5月の受診者のべ714名中、8項目のうち一つでも当てはまった人はのべ15名(2.1%)、スクリーニング項目には当てはまらないけれど、これを機にお困りごと相談を行った人はのべ47名(6.6%)で、地域連携を行ったケースは4名でした。COVID-19第1波、第2波、第3波では、特徴が異なり、最も相談が多かったのは、第1波の時でした。

     このように、非常事態時に、即時、外来で、30秒スクリーニングを取り入れられたのには理由があります。それは、約15年前より産婦人科病棟で全褥婦にDVスクリーニングを実施していたため、DVケアがルチーンケアとして定着していたこと、そのためスタッフの心理的な抵抗感が少なかったこと、そして、コロナ禍でDV被害者支援をする必要性をチームで共有できたからです。

     本シンポジウムでは上記の臨床実践を含む、褥婦へのDVスクリーニング、コロナ禍で行った妊婦へのDVスクリーニングについてお話します。

  • 馬場 香里
    セッションID: 2021.1_S2-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/23
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    ドメスティックバイオレンス(DV)、子ども虐待、いずれも大きな社会問題となっています。報道から耳にするだけではなく、身近なところでも起きている、他人事ではない問題ともいえます。特に、周産期や小児看護領域では、ケアをする対象が問題の渦中にあることも稀なことではなくなってきているかもしれません。臨床現場で、DVや子ども虐待の問題を抱える対象に出会ったとき、まずはどのような対応をしているでしょうか。

     実際、DVや子ども虐待は、それぞれが別の現象であり、対応の根拠となる法律も別になっています。しかし、近年の報道にもあるように、虐待死が起きた家庭にDVも起きていたという事例は少なくありません。医療現場で考えてみると、例えば、小児救急で虐待を疑うご家族に出会ったとき、ご両親に話を聞くと、実はDVが隠れているという可能性もあります。このように、DVと虐待は互いに強く関連し合っており、その因果構造は非常に

    複雑です。例えば、DVや虐待だけではなく、貧困や孤立、精神疾患や心身の障害など様々な問題が並行して起こっているケースもあります。抱える問題が複雑であればあるほど、対象にとって望ましい対応も複雑であり、たった一人の看護職による、あるいは一度きりの対応では十分ではありません。そこで必要になるのは、多職種との連携や、継続した対応になります。そして、望ましい対応には明確な答えがあるわけではありません。看護ケアがそうであるように、DVや子ども虐待においても、特に予防的な関わりを考える時、ベストなケアは複数の多職種との話し合いにより決定されていきます。

     さらに、2020年以降はCovid-19感染症の影響により、仕事を失う家庭も増え、外出自粛の必要な状況が続いたことにより、家庭内でのストレスは例年と比べて増大し、結果としてDVや虐待が増加しているという現状もあります。このような社会背景から、DVや虐待に関する看護職の対応も増加傾向にあると予想しています。

     今回のシンポジウムでは、DVと子ども虐待の現状や、実際にケースに出会ったときに看護職が知っておくべき基礎知識についてお話したいと思います。

看護薬理学教育セミナー1
  • 小林 範子
    セッションID: 2021.1_ES-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/23
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    「ウイメンズヘルス」は女性の一生をトータルにサポートする領域で、思春期~性成熟期~更年期~老年期全ての世代の女性をライフステージに応じた健康管理を行い、生涯を通して疾病の予防を行うことを目指しています。女性の健康に大きな影響を与えているのが、代表的な女性ホルモンであるエストロゲンです。エストロゲンは脳・中枢神経、心臓血管系、脂質代謝系、泌尿生殖器系、骨など、全身のさまざまな臓器に働きかけており、分泌量は20~30歳代をピークとして40歳代を過ぎると減り始め、平均50歳で人生のターニングポイントともいえる閉経を迎えます。更年期は閉経の前後5年間(10年間)で女性の誰もが確実に通る時期ですが、エストロゲン低下が一因となって一生の中でも心身の変化をもっとも感じやすい時期ともいえます。更年期障害に対しては、画一的なアプローチでは解決できないことも多く、幅広い治療の選択肢が必要になります。

     エストロゲンに関連して、女性の心身状態を左右するものとして「月経」があげられます。月経に伴って現れる症状として、月経困難症、月経前症候群といった病名がつくものから、ちょっとした不調も経験があるのではないかと思います。また、女性は妊娠、出産、育児といったライフイベントの経験、家庭と仕事との両立、親の介護など、さまざまなストレスを抱えています。ほてり・のぼせ、冷え、発汗、動悸やめまいなどの自律神経失調症状、イライラ、抑うつ気分、不安感、倦怠感、不眠などの精神神経症状などは、更年期に限らず女性にはよくみられます。実臨床では、診断基準に合致しないため病名としてはつけられないものの、明らかに正常な状態とはいえないケースに数多く遭遇します。しかし、西洋医学的に病名がつかないケースこそ「未病」の域であるかもしれず、漢方的アプローチを試みることは有用であると思います。漢方治療では、ひとつひとつの症状を分断せず、患者を全体として捉え、様々な視点から過不足を判断して失調状態からバランスのとれた状態に整えていきます。

     本日は、女性がWell-Agingを目指し、QOLを保って健康管理を行っていくための選択肢として、婦人科三大処方でよく知られている「当帰芍薬散」「加味逍遥散」「桂枝茯苓丸」を中心にお話させていただきます。

看護薬理学教育セミナー2
  • 吉川 雄朗
    セッションID: 2021.1_ES-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/23
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    ヒスタミンは分子量111の小さな生理活性物質で、約100年前に英国のヘンリー・デールらにより見いだされました。ヒトの体内では、アミノ酸の一つであるヒスチジンから生合成され、肥満細胞や好塩基球、腸クロム親和性様(ECL)細胞、神経細胞などの細胞内に多く蓄えられています。細胞外にヒスタミンが放出されると、ヒスタミン受容体に結合することでアレルギー反応や胃酸分泌、腸管収縮、覚醒など様々な生体反応に関わっています。ヒスタミンによる生体反応が過剰に生じると、アレルギー性鼻炎や胃潰瘍が起きることから、ヒスタミンの作用を抑えるために様々な薬物が開発されてきました。

     花粉症に対して用いられる抗ヒスタミン薬(ヒスタミンH1受容体拮抗薬)は、1937年に初めて開発された歴史のある薬で、第一世代抗ヒスタミン薬と第二世代抗ヒスタミン薬とに分類されています。現在でも世界中で広く使用されていますが、第一世代と第二世代では副作用に大きな相違があり、第一世代抗ヒスタミン薬で認められる眠気などの副作用が第二世代では少なくなっています。この違いがどのような機序から生じるのかを説明できればと考えています。胃潰瘍に用いられる抗ヒスタミン薬(ヒスタミンH2受容体拮抗薬)は、胃酸分泌を抑制する薬物としてノーベル賞受賞者であるジェームス・ブラックらによって開発されました。難治性消化性潰瘍に対する外科手術を激減させた歴史的にも重要な薬物で、ブラックが開発したシメチジンは年間10億ドル以上もの売上があり、世界初のブロックバスター薬となっています。ヒスタミンH2受容体拮抗薬には薬の飲み合わせに留意すべき薬物があります。最近では、米国と欧州でヒスタミンH3受容体拮抗薬がナルコレプシー(居眠り病)に対する治療薬として承認されました。これは脳のヒスタミンを増やす薬物であり、脳内におけるヒスタミン作用にも注目が集まっています。

     本口演ではヒスタミンの生理作用を概説した後に、それぞれの抗ヒスタミン薬について薬理学的見地から説明し、最後に当方らのヒスタミン研究成果にも少し触れたいと考えています。与薬の実践者である看護職の皆様に少しでも役立つ知識を提供できれば幸いです。

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