看護薬理学カンファレンス
Online ISSN : 2435-8460
2020東京
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
シンポジウム1
  • 谷口 陽子
    セッションID: 2020.2_S1-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/28
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    ここ20 年で看護職のキャリアと働き方は大きく変化した。最も大きく影響した のは、専門看護師や認定看護師にはじまったスペシャリストというキャリアの誕 生である。また、看護大学や大学院教育の充実から、ジェネラリストから管理者 への一本道ではなく、スペシャリストや教育者、研究者など、多様なキャリアが 確立された。これらに加え最近は、特定看護師や診療看護師(NP)の育成が推 進され、さらに多様化している。多様なキャリアの看護職がサイロ化せずに患者 を中心に協働し、質の高い看護を提供することが求められている。

    また、看護職の個々の背景も多様化している。ワークライフバランスの向上な どにより、既婚者や育児中の看護師に働きやすい環境が提供され、退職するこ となく仕事の継続が行えるようになった。日本看護協会の調査によると、看護師 の就業者数の 2010 年度と2016 年度の比較において、40 歳代以上のすべての年 齢層で就業者数が増えている。しかしながら、新卒看護師離職率は 7%代と横 ばい状態である(2016 年日本看護協会調査結果)。看護の仕事に就いてもキャ リア探索期にあり、早い段階で看護職から離れてしまうことも多い。このように、 個人の背景を尊重した働き方やジェネレーションによる価値観の違いなどに対 応するための課題は多い。

    これらの多様性に対応するために次世代の看護職に求められるのは、相互 理解や協働できる能力とリーダーシップである。これらの能力の多くは、組織の 中で仕事をすることによって育成される。北里大学病院看護部では、看護職の 多様性を重視し、皆で患者に成果を出すということをコンセプトとし、人材育成 を行っている。コンピテンシーの理論を活用し、看護師個々の強みを顕在化させ、 その強みとなる能力を活用した仕事によってエンカレッジされ、さらに能力開発 を進めるといった取り組みを紹介する。

  • 堀江 良子
    セッションID: 2020.2_S1-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/28
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    私は、病院での看護師の勤務を経て、現在、開発業務受託機関(CRO)にて、 臨床開発モニター(CRA)として働いている。CRO は、製薬企業等より、臨床試 験(治験)や製造販売後調査の実施等を受託している機関である。また、CRAは、 治験が関連法規や実施計画書等に従って適正に実施、記録、及び報告されてい ることを保証するための活動(モニタリング)を行う仕事である。

    CRAとして働いている中で、看護 師の経 験 が 強みになっている。例えば、 CRAは、治験において、被験者(患者)の安全性が確保されているかを確認する 必要があるが、CRAは、被験者に直接接触することは出来ない。そのため、カ ルテの情報や治験コーディネーター、医師のお話等から被験者の安全性が確保 されているかを確認する。被験者に直接接触しなくても、カルテの情報等から被 験者の状態を想定することは、通常の看護業務の中で行っていたため、モニタリ ング業務を行う上でも、看護師としての臨床経験がプラスになっている。

    また、治験は、実施計画書等を遵守して実施されなければならないが、収集し たデータが、実施計画書等から逸脱した信頼性のないデータであれば、有効性 や安全性を適正に評価できず、有効で安全な医薬品等を速やかに医療現場に届 けることができなくなる可能性が生じる。治験実施にあたり、臨床での経験を通 じて、発生しそうな逸脱について想定し、それに対して予防策を講じることで、逸 脱発生の防止に繋がると考える。その点からも、看護師の経験が今の仕事に生き ていると感じる。

    臨床現場において、目の前の患者さんを看ることは看護師の重要な役割である。 また、臨床から離れた場所においても、患者さんのために、看護師の知識や経験 が強みになる仕事がたくさんあるとも感じる。看護師だからこそ、その知識や経 験を様々な場所で発揮できれば良いと考える。

    本シンポジウムでは、臨床から離れた看護師のキャリア形成の1例として、私の 経験を紹介させていただく。皆さんが今後のキャリアを考える上で、私の経験が 少しでもお役に立てれば幸いである。

  • 北村 千絵
    セッションID: 2020.2_S1-3
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/28
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    近年、わが国における少子高齢化、医療・介護ニーズの多様化等により社会 保障制度の改革が進む一方で、看護職の労働環境を巡っては看護職の平均年 齢の上昇・夜勤可能者の確保困難等が生じ、看護職を取り巻く環境は大きく変化 しています。さらには、医師の働き方改革等が進む中で、今後はより一層、看護職 が専門性を発揮しながら、生涯働き続けられる環境を整えていく必要があります。 看護職が生き生きと働き続けながら専門性を発揮できるために、個々の看護職 が自己実現にむけて、自身のキャリアデザインを考える機会をもつことは、大切な要

    素のひとつと考えます。 私は看護系大学を卒業後、大学病院小児科病棟で看護師として 3 年勤務し、

    その後看護系大学の助手を1 年経験した後、大学院(博士前期課程)に進学し ました。主に小児がんの子どもの看護を経験するなかで、病気を経験した子どもや、 症状を抱えながら成人にむかう子どもの制度・政策に興味を持ち、現在の職場で 勤務しています。

    現職では、主に重点政策 3-2「看護業務の効率化・生産性向上のための支援 策の提案」に携わり、看護業務の効率化に資する先進的取組の収集・周知・普及、 看護業務の効率化・生産性向上に関する本会方針の検討に取り組んでいます。

    前職までは、患者さんにとって最善のケアを実施するうえでは、目の前の子ども に対して自分はどのようなケアができるだろうかといった、個々の看護師による看護 実践を充実させることの重要性を学びました。

    現職ではさらに、個々の看護職が、医療機関内や社会において看護がどのよう に評価され、何を求められているのかを知ることや、社会や看護職以外の立場に むけて、看護の在り方や専門性を発信することの重要性を日々感じ、視野が広がっ たと感じています。そしてこのことは、ひいては、子どもを含む人々の心身の健康や、 子どもがその子らしく成長していくための支援につながると考えています。

    私自身、子どもの心身の健康に向けて今後どのような立ち位置で何を実践して いくか、ということを模索している最中ではありますが、これまでの経験や、キャリア デザインを考えるうえで私が大切だと感じたことについて共有させて頂きます。未 熟者ではありますが、看護職やこれから看護職を目指す方々にとっても、何らかの お力になれば幸いです。

  • 志村 知子
    セッションID: 2020.2_S1-4
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/28
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    私が新人看護師として大学病院に勤め始めた 20 数年前は、60 歳定年制がスタンダードとなった時代でした。当時、念願叶って憧れの高度救命救急セン ターに配属され、新しい知識や経験を消化していくのに無我夢中であった 20 代 の私は、自分がいずれ 60 歳になって定年を迎えるという事実にまるで現実味を 感じず、当然ながら自身のキャリアプランにも無関心でした。しかし、やがて 30 代 を迎え臨床経験も10 年を越えた頃、思い立って皮膚・排泄ケア看護認定看護 師を目指しました。資格取得後は、知的好奇心がより一層芽生えたため大学院 に進学し、急性・重症患者看護専門看護師の資格を取得して現在に至ります。 その間、日本は超高齢化の時代に突入しました。少子社会から多死社会へと 変遷し、社会保障制度が大きく見直されている一方で、医療の発達や衛生環 境の改善に伴う「人生 100 年時代」が到来しているといわれています。つまり私 たちは少なからず「自分の今後の人生において働く期間を延ばす」ことを考え なければならなくなりました。

    私は現在、これまで蓄積してきた自身のスキルを、病院のクリティカルケア部門 における看護実践やコンサルテーションに大いに役立てています。また、教育や 研究を通し、自身と同様にスキルアップを目指す後輩達への支援を行っています。 そうした中、先に述べた「自分の今後の人生において働く期間を延ばす」ため に最も重要なことは、仕事における自身のキャリアを、自身のライフプランに合わ せてデザインし、生涯にわたって働き続けられる環境を準備することだと考えるよ うになりました。キャリアデザインは看護師の数と同じだけ無数にあります。この セッションでは、看護師にとって多様なキャリアモデルがあることを示す 1 つの例と して、私自身のこれまでの経験についてお話ししたいと思います。

特別講演
  • 真田 弘美
    セッションID: 2020.2_SP-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/28
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    2020 年 12月の日本は今、COVID-19 の第 3 波に苦しんでいます。世界中がこの ウイルスに怯え、そして共存する方法を探し求めている状況の中、フロントラインで 尽力されている保健師・看護師をはじめ保健医療従事者に心より敬意と謝意を表し ます。

    このパンデミックは医療の在り方、そして看護研究の在り方に劇的な変化をもたら します。療養生活を支援するために寄り添うことを最優先してきた看護が、そばに寄 れず、コミュニケーションもままならない状況の中、新しい看護技術を開発することは 喫緊の課題といえます。そのコンセプトの一つはリモートナーシングに他なりません。 私が専門とする褥瘡対策も大きな転換期を迎えております。COVID-19 がもたら すリモートナーシングはもちろんのこと、この 15 年の間に様々な研究で明らかにされ た Deep Tissue Injury(DTI: 深部組織損傷)とクリティカルコロナ―ゼーションの

    診断とそのケア・治療の標準化が必要となってきました。 褥瘡発生の第一の原因はるい瘦などにより、突出した仙骨や大転子に過度な外

    力が加わることといわれ、日本では高齢者に頻発しております。皮下組織や筋層が ほとんど萎縮しているために容易に骨までにいたる重篤な褥瘡となります。一方最 近では、痩せていないクリティカルケアを必要とする患者や、社会で生活する車い す使用者の褥瘡が注目されるようになってきました。殿筋や皮下組織などが比較的 発達しており、その部位は虚血に弱く短時間で壊死に陥るため急に重症化するとい う症例、いわゆるDTI 褥瘡が頻発するようになってきました。さらに、不幸にも一旦 褥瘡が発生すると、感染が最も創傷治癒を遅らすのですが、湿潤環境による治療 が進むにつれて、肉眼的には発見できない新しい感染様式の褥瘡も増えてきました。 これをクリティカルコロナイゼーションといい、バイオフィルムが原因といわれています。 これら2 つのアセスメントの重要性を鑑み、日本褥瘡学会は 2021 年1月にDESIGN

    - R2020に改定します。 ここでは

    1. 褥瘡対策はどこまでリモートケアが可能か?

    2. 褥瘡治癒評価スケールであるDESIGN-R はどのように変わるか? について、我々が東京大学グローバルナーシングリサーチセンターで行っている看護 理工学を基盤とした異分野融合型研究を通して、COVID-19 禍の看護をディスカッショ

    ンする機会を提供したいと思います。

シンポジウム2
  • 前田 恵理
    セッションID: 2020.2_S2-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/28
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    プレコンセプションケア(直訳すると受胎前ケア)は「前思春期から生殖可能年

    齢にあるすべての人々の身体的、心理的および社会的な健康の保持および増進」 と定義される。成人疾病胎児起源仮説に始まるライフコース研究から発展してきた 概念で、次世代を視野に入れたヘルスプロモーションの一分野である。プレコンセ プションケアにおいては、短期的・長期的に子供を持つ意思があるのか、子供を 持つ予定があるなら、いつ何人くらい子どもを持ちたいのかといったリプロダクティブ ライフプラン(RLP)を各々が作成し、一生を見渡すことが重要である。そしてRLP に沿った情報提供により、望まない妊娠、加齢に伴う不妊、胎児に影響する要因 への曝露を減らし、自身の健康と妊娠転帰を改善することができる。特に晩産化の 進む先進諸国では、現在妊娠を考えていない男女を含めて全ての男女がプレコン セプションケアの機会を得ることが重要である。

    「現在はまだ妊娠を考えていない男女」を含めたプレコンセプションケアの事例 を紹介すると、スウェーデンでは助産師が避妊相談外来の場を利用して、本人の RLPに沿ったプレコンセプションケアを実践している。助産師は、RLPについてカウ ンセリングしながら妊孕性に影響するリスク要因や、プレコンセプション期に取るべき 予防行動(葉酸摂取、適切な体重維持、アルコール・たばこ・化学物質・薬物の 回避)、不妊治療等に関する情報提供を行っており、利用者の知識向上が報告さ れている。優れたリプロダクティブヘルスケアの土壌があることで知られるスウェーデ ンならではの取組と言えるかもしれない。また、英国で開発されたFertiSTATは 少予算でプレコンセプションケアを実践できるカウンセリングツールで世界保健機関 にも採用されている。文献レビューと専門家によるディスカッションを通じて選ばれた

    22 の妊孕性(生物学的な妊娠しやすさ)に関する指標を用いると、妊娠可能な女 性と不妊の女性を高精度で分類可能である。利用者はFertiSTATに従って、自 身のプロフィールを答えるだけで、紙面上でもウェブ上でもエビデンスに基づく個別ア ドバイスを受けることができ、自身の妊孕性の評価と意思決定につなげることができ る。日本語版も開発されたところであり是非活用されたい。

    本講演では、プライマリケアとしてプレコンセプション教育を試みる諸外国の事例 について紹介しながら、わが国における現状や課題について考察する。

  • 西岡 笑子
    セッションID: 2020.2_S2-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/28
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    令和元年 10月7日に東京都内にて、�若い男女の健康・次世代の健康を考える� をテーマに『プレコンセプションケアを考える会』が国立成育医療研究センタープレ コンセプションケアセンターと令和元年度厚生労働科学研究費補助金(女性の健 康の包括的支援政策研究事業)「保健・医療・教育機関・産業等における女性 の健康支援のための研究」研究班により共催開催されました。この会で、日本にお けるプレコンセプションケアの定義を「前思春期から生殖可能年齢にあるすべての 人々の身体的、心理的および社会的な健康の保持および増進」と提案されました。

    近年、晩婚化・晩産化など社会環境の急激な変化の影響を受け、女性の健康 問題が多様化・複雑化しています。女性が社会で活躍するうえで、健康であるこ とはその基本となります。我が国ではこれまで、妊娠・出産時や個別の疾病予防 等部分的な健康施策は行われてきましたが、女性特有の疾患や生涯にわたる女 性の健康について学ぶ機会が十分に提供されてきたとはいえない状況です。今後 は、女性自身が各ライフステージにおいて直面する様々な健康問題や心身の変化 に対応できるよう教育の場において、正しい知識啓発と理解促進を図ることが求め られています。また、近年のライフスタイルおよび家庭環境の多様化等により、思春 期女性の生活習慣の乱れや健康問題は深刻化しています。望ましくない生活習慣 は、その後の不妊や生活習慣病発症のリスクを高めるなど、生涯の健康に悪影響 を及ぼします。今後は、全ての人々が自らの健康に関心が持てるような支援を行う ことで、セルフケア行動を促進していくことが必要です。

    プレコンセプションケアの実現のために包括的性教育を行っていくことが重要 です。性教育の世界のスタンダートといわれている国際セクシュアリティ教育ガイダ ンスは、セクシュアリティ教育に関わる世界の国々の専門家の研究と実践を踏まえ て作成された手引書のことです。包括的性教育は、年齢を4段階(レベル1;5~ 8歳、 レベル2;9 ~ 12 歳、レベル3;12 ~ 15 歳、レベル4;15 ~ 18 歳)に区分し、発達 段階に合わせて、継続的に教育を行います。単に性の知識を習得するだけでなく、 態度や価値観、関係性のあり方などを含めて学習していきます。日本において、国 際セクシュアリティ教育ガイダンスを普及していくための取り組みについてご紹介し たいと思います。

看護薬理学教育セミナー1
  • 上園 保仁
    セッションID: 2020.2_ES-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/28
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    がん患者はがん自身、そして抗がん剤の副作用等の身体の痛みに悩まされま す。また、がんを抱えての就労という社会的問題、さらになぜ私ががんに?といっ たスピリチュアルな痛みにもさいなまれます。がん患者の持つこれらのいわゆる トータルペインへの対応は大変重要です。患者が納得して生きるための社会を 支えるのは、多職種チームでの医療が中心となりますが、なかでも患者およびそ の家族の最前線で接する看護師の役割は極めて重要です。

     私たちはこれまで、がん患者の Quality of Life 向上のための基礎から臨 床へつながる研究を行ってきました。特に支持・緩和療法に関する研究を進め てきました。明日の患者の症状緩和には新薬を開発すること、今悩んでいる患者 には既存の薬物を役立つように応用することが重要です。その中で、中国から 伝わり日本の土壌ならびに日本人の体質に合わせて発展してきた「漢方薬」に 注目し、抗がん剤で起こる副作用の改善のために漢方薬を用いることで、がん 患者の生活の質を上げるための研究を行っています。

    例えば、抗がん剤や放射線治療を受けるがん患者は高い頻度で口内炎を発 症します。この口内炎は「食べる、飲む、話す」という基本的生活にも悪影響を 及ぼします。私たちは漢方薬「半夏瀉心湯」が口内炎を早く治すことを基礎研 究および臨床試験で明らかにしました。

    医師、薬剤師、看護婦などの医療スタッフはみんな、科学的エビデンスのあ る薬物を用いたいと思っています。一方患者も「有効である薬物」を使いたい と思っています。患者の最前線で働いている看護師が、漢方薬がなぜ効くのか、 どうしてこの漢方薬がこの症状を和らげるのに使われるのかを理解し伝えること ができれば、それは患者のためになっていると確信いたします。本日は漢方薬研 究で明らかになった科学的エビデンスをお話しいたします。最前線で働く皆様に 漢方薬で明らかになってきた科学的エビデンスを理解いただき、患者にそれらを 正確に、やさしく伝えていただき、がん患者の治療レジメンの完遂にお役立てい ただければと思います。

看護薬理学教育セミナー2
  • 宮野 加奈子, 吉田 有輝, 坂本 雅裕, 上園 保仁
    セッションID: 2020.2_ES-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/28
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    オキシトシンは、9 つのアミノ酸から構成されるペプチドホルモンであり、子宮

    収縮を促すホルモンとして 1906 年に発見された。オキシトシンは視床下部室傍 核(PVN)および視索上核(SON)で合成後下垂体後葉から分泌され、当 初は "出産や子育てに関連するホルモン" として、子宮収縮や乳汁分泌などの 生理作用をもつと考えられていた。しかしその後多くの研究により、オキシトシン は母性・社会行動の形成、抗ストレス、摂食抑制など非常に幅広い生理作用 を持つことが明らかとなり、"愛情ホルモン" あるいは "幸福ホルモン" と呼ばれ るようになった。

    漢方薬「加味帰脾湯」は 14 種類の生薬で構成されており、神経症、精神 不安、不眠症、貧血などに対して処方され、その効果はオキシトシンの作用と 一部共通している。しかしながら、加味帰脾湯がオキシトシンシグナルに及ぼす 影響については不明である。本講演では、加味帰脾湯がオキシトシン受容体な らびにオキシトシン分泌に関わるイオンチャネルにどのような作用を有するかとい う私たちが最近行っている研究の一部を紹介する。

    加えて近年、オキシトシンは PVN および SON に加え、脳や脊髄に投射しているオキシトシンニューロンからも分泌され、鎮痛作用を有することが明らかに されてきた。オキシトシンの鎮痛作用には、オキシトシン受容体を介する経路お よび受容体を介さない経路が報告されている。後者はオキシトシン受容体に似 た構造をもつバソプレシン1A 受容体、ならびに痛みのセンサーのひとつである transient receptor potential Vanilloid 1 (TRPV1) などが関与しているこ とが報告されている。加えてオキシトシンの鎮痛作用に、オキシトシンによる内 因性オピオイドの増加、ならびに オ オピオイド受容体の関与が報告されており、 オキシトシンの鎮痛作用にオピオイドシグナルの関与が示唆されている。しかし ながら、オキシトシンのオピオイドシグナルに対する詳細な作用については不明 である。そこで、加味帰脾湯のオキシトシンシグナルに対する作用に加えて、オ キシトシンのオピオイド受容体を介するシグナルへの作用について、当研究室で の研究成果を紹介する。本講演がオキシトシンの多彩な作用を説明する一環 となれば幸いである。

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