教育経済学研究
Online ISSN : 2436-1801
Print ISSN : 2436-1798
最新号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
  • ―カフェ活動とコミュニティの学習過程―
    渡邉 尚孝
    2024 年 6 巻 p. 1-26
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は、障害当事者の名乗りによるカフェ活動と企業活動の接点を、マーケティングにおける経験経済やCSV(Creating Shared Value)等の視座から質的に分析・解釈することで、障害当事者のカフェ活動の現状や課題を抽出した事例研究である。自己発信を行う障害当事者の考え方や支援企業との関わり、及びマーケティング戦略に関する意見を直接聴取し、カフェ利用者を含めたコミュニティがどのような相互作用の中で「共生」を学習してゆくのか、活動実践者の言葉から読み解くことを目的とした。その結果、雛形としては小さいながらも、障害を名乗り活動することの覚悟や、仲間同士の結束と外部との交流を図る戦略性や成果が明らかとなった。カフェ運営実践者は利用者の体験価値について、「対話」を通した学びの機会として捉えている。その活動は異文化との出逢いの環境を演出する経験経済の観点が含まれたエンターテイメント事業であり、障害当事者だけの閉じた交流に留まらず、外部との相互作用による社会教育的効果を産み出すと考えられる。
  • 青木 規彰, 小原 愛子
    2024 年 6 巻 p. 27-40
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
    ジャーナル オープンアクセス
    急速に高齢化が進み、生産年齢人口割合が低下する社会において生じるさまざまな問題への解決策の一つとして生産性の向上が挙げられる。IT活用は生産性向上の有効な手段の一つとなりうるが、IT化を担うシステムエンジニアは不足しており、社会のIT化需要を満たせていない状況が続いている。このような状況において、大学がデータサイエンス学部を新設したり、初等、中等教育でも情報の授業を始めたりとさまざまな試みが見られる。本研究では、就業後の企業内教育についての分析を行うものとする。教育は人的投資と考えられるが企業内の教育は企業収益を目的としていることから、教育投資から十分な収益が得られることが必要とされる。そこで本研究ではIT企業におけるROIの実態を明らかにし、教育投資と投資収益率の関係性を分析するために、筆者が所属するソフトウェア会社の10年以上に渡るデータを収集し、在籍期間、学歴、新入社員研修費用、入社試験結果等様々な属性と企業収益率の関係性を明らかにし、さらには、離職率、平均収益から将来利益期待値を算出し、企業における教育投資のあり方を考察する。
  • 權 偕珍, 下條 満代, 趙 彩尹
    2024 年 6 巻 p. 41-54
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
    ジャーナル オープンアクセス
    現在日本では、障害者にとって働くこととは社会参加や経済的自立の手段であり、障害者の自立にとって不可欠のものであるとして、障害者の働く権利が障害者雇用促進法や障害者雇用率制度等によって保障されている。それにより民間企業における障害者の実雇用率が年々向上している一方、障害のない人に比べて離職率が高いことが課題となっている。 そこで、本研究では、障害者の安定的な就労を維持するために必要な支援は何かについて明らかにするため、障害者を雇用する事業所にはアンケート調査を、教育的課題に焦点を当てた学校及び学校と事業所をつなぐ支援機関には聞き取り調査やアンケート調査を行った。さらに、それによって得られたデータを用いて、テキストマイニング等の分析を行った。 調査の結果、主に3つの支援の重要性が明らかになった。1つは、事業所が障害者を実習や雇用において受け入れる際、受け入れ体制を整備することや、事業所が障害者雇用に関する助成制度を把握し、理解することである。2つ目は、学校・事業所・支援機関の各機関がより密接に連携をすることである。3つ目は、就労に必要な要素には、その職種に関する能力だけでなく、日常生活を適切に送ることも含まれるため、生活が安定した状態で働けるように家族や福祉サービスの支援を充実させることが必要であることが明らかになった。
  • 李 允璟, 金 珉智
    2024 年 6 巻 p. 55-69
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では、「2023年発達障害者の仕事と生活実態調査」のデータを用いて、発達障害のある人々の自己決定に影響を与える要因を特定するため、機械学習手法であるランダムフォレスト(Random Forest)と多重回帰分析を組み合わせて分析を行った。分析対象は、20歳以上45歳以下の就職年齢に該当する成人発達障害者1,897名であり、残差が標準正規分布から期待される範囲を外れた異常値2名を除外した結果、最終的に1,895名が分析対象となった。 発達障害者の自己決定に影響を与える個人要因としては、身体的要因に関するIADL(生活支援活動)とADL(日常生活動作)の2つの変数が分析された。環境要因の中で就職要因として、「月平均賃金」、「就業準備状況」、「過去の就職経験」、「過去3年間利用した雇用サービス(就職斡旋)」4つの変数が選定された。環境要因の中で 社会文化的要因 として、「民間保険加入の有無」、「当事者の将来計画」、「障害による差別経験」3つの変数が選定された。最後に、環境要因の中で 環境・サービスアクセス要因として、「主保護者の1日あたりのケア時間」、「過去1年間に経験した活動(映画館、コンサート、博物館、テーマパーク等)」、「過去1年間に経験した活動(旅行)」、「居住環境」4つの変数が選定された。 しかしながら、「2023年発達障害者の仕事と生活実態調査」のデータに内在する限界とその解釈については慎重な考慮が必要である。本研究における従属変数である発達障害者の自己決定に関する情報は、保護者調査の一部の項目に依拠している。このため、発達障害者の自己決定に関する評価は、保護者による推定に基づいており、保護者自身の認識や判断に大きく依存している点を考慮する必要がある。
  • 釣井 伸一郎
    2024 年 6 巻 p. 70-84
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
    ジャーナル オープンアクセス
    2014年に「まち・ひと・しごと創生法」が施行され、今日まで約10年間取り組まれてきた「地方創生」の現状と課題について、人口等の政府データと地方創生の事例を中心に検討する。 実際に政府および各地方公共団体の発表する推計人口に関するデータをみると、日本の総人口が2015年以降、約300万人減少している一方で、東京圏の大都市の人口は増加しており、東京一極集中が継続している。 全国の地方公共団体を対象に行われた地方創生への意識意向調査の結果からは、地方創生の目的である、日本における人口減少と人口の東京一極集中、地方の衰退の問題の解決が進んでいるとは言い難い。 一方で各地方公共団体は、自治体や住民が主体となり、自治体の規模に応じた様々な地方創生に関する施策・活動を展開しているが、それらはまだ、大都市への人口流出を改善するほどの大きな動きになることは期待できない。 地方創生の出発点は地方公共団体における産官学民の連携による、都市の魅力や住民の生活向上を図ることであり、今後は地方創生の取り組みに、住民の生活実態を反映させることが重要となる。
feedback
Top