応用老年学
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9 巻, 1 号
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巻頭言
原著論文
  • ~アクションリサーチを用いた取り組み~
    安齋 紗保理, 佐藤 美由紀, 齊藤 恭平, 芳賀 博
    2015 年 9 巻 1 号 p. 4-18
    発行日: 2015年
    公開日: 2024/09/18
    ジャーナル フリー

     高齢者人口が増え続ける我が国では行政が主となる活動のみでは限界があり,住民の手による地域活動が必要とされている.本研究ではアクションリサーチの手法を用いて地域活動を企画・実施し,地域活動が自主化に至るまでのプロセスおよびその地域活動による影響を明らかにすることを目的とした.都市近郊地区を対象地区とし介入を行った.地域活動が自主化に至るプロセスを明らかにするために介入プログラム全体を質的に分析し,実施された地域活動の効果評価のために対象地区在住高齢者577名を対象に縦断的に郵送調査を実施した.その結果,創出された地域活動は段階を経て自主化に至った.介入当初は活動の実施に研究者の厚いサポートがあったが,活動の成功などをきっかけに徐々に住民の力で活動を行うようになり地域に定着した活動となった.事業の効果評価では,時間×群(参加の有無)の2要因と共変量を投入した繰り返しのある一般線形モデルの結果,社会活動,健康関連QOLにおいて有意な交互作用が得られ,社会活動は向上し,健康関連QOLは維持していた.アクションリサーチの手法を用いて創出された住民主体の地域活動は,専門家や行政などが時間をかけてサポートすることで地域活動として定着し,参加者の社会活動,健康関連QOLに効果があることが分かった.

  • 太田 淳子, 田村 嘉章, 長田 久雄
    2015 年 9 巻 1 号 p. 19-30
    発行日: 2015年
    公開日: 2024/09/18
    ジャーナル フリー

    研究目的は,高齢者の熱中症における身体的,心理的,社会的な要因を明らかにすることである.対象は,65歳以降に熱中症と診断された8名(平均年齢78.0歳)とした.データ収集方法は半構造化面接を行い,分析方法は修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いた.結果,4つのカテゴリーと5つのサブカテゴリー,18の概念が生成された.中心概念である【気づかないうちにゆっくり進む熱中症】が,【自分とは無縁な熱中症】【夜間に生じる脱水】に影響していた.心理的要因である<関係なし><予防する動機なし>によって<情報と知識の獲得不足>となり【自分とは無縁な熱中症】に影響していた.心理的要因である<自然の風に対する肯定的価値観><もったいないと感じる冷房>によって,夜間,寝室で冷房を使用しないで寝るという行動に影響していた.社会的要因である<窓を開けても暑い夜>や<防犯のために開けられない窓>によって≪暑い寝室≫となり【夜間に生じる脱水】に影響していた.

  • 川井 文子, 中野 博子, 佐藤 美由紀, 柴田 博, 鈴木 はる江
    2015 年 9 巻 1 号 p. 31-42
    発行日: 2015年
    公開日: 2024/09/18
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,介護施設入所高齢者の主観的幸福感とその関連要因を調査することであった.主観的幸福感の尺度としてのPhiladelphia Geriatric Center(PGC)Morale Scaleを含む質問紙を用いた面接調査を,7施設の128名の入居者(年齢65~104歳)を対象に行った.PGC Morale Scaleの平均値は11.8±3.93であり,先行研究における地域高齢者のレベルに近似していた.本研究のデータを用いた重回帰分析により,健康度自己評価,自然とのつながり感は,有意に主観的幸福感を高める結果を示した.それに対し,先祖・子孫とのつながり感は有意に主観的幸福感を低める結果であった.これは,先祖・子孫とのつながり感を持つ対象の,家族とのつながり感の低さに起因している可能性がある.

  • 木村 由香, 安藤 孝敏
    2015 年 9 巻 1 号 p. 43-54
    発行日: 2015年
    公開日: 2024/09/18
    ジャーナル フリー

     近年、高齢化に伴い老いや死に備える必要性が高まるとともに、終活と呼ばれる、自らの死に備える動きが現れた。本研究では、自らの老いや死に備える行動を「死の準備行動」とし、そのとらえられ方、行われ方、影響について、エンディングノート作成に取り組む高齢者8名のインタビュー調査から考察した。分析の結果、「死の準備行動」は、多様な希望を残すためではなく、迷惑をかけないためという他者への配慮に基づき行われ、高齢者にとっては現状整理と問題把握が促されること、他者へ迷惑をかけるという不安からの解放につながることが明らかとなった。また、他者と死について話すことが困難だからこその「死の準備行動」という構図がうかがえた。一方、医療や介護の意思決定などは、自身の将来像をどのようにイメージするかによっては困難となるため、これをいかに支援するか、そしていかに「死の準備行動」を充実した生につなげていくかが課題であった。

  • 小田 利勝
    2015 年 9 巻 1 号 p. 55-72
    発行日: 2015年
    公開日: 2024/09/18
    ジャーナル フリー

     無作為抽出された成人男女4,000人を対象とする郵送調査から得られた1,474人の調査データを用いて、最近の日本における高齢者の政治的有効性感覚と政治参加活動を分析した。高齢世代の内的有効性感覚は中年世代と同程度であり、男性、高学歴で高かった。しかし、外的有効性感覚に関しては、老若男女、地域や社会経済的地位を問わずに著しく低かった。政治参加活動に関して、共分散構造分析と重回帰分析を行った結果、高齢世代であること自体が最も強い要因であり、内的有効性感覚が社会・人口学的属性との媒介効果を果たしていた。しかし、その効果は大きいものではなかった。外的有効性感覚は政治参加活動にはほとんど関連していなかったが、政治談義とだけは負の関連を示した。高齢者の政治的有効性感覚は若年世代に比べて相対的に高いと言えるが、有効性感覚が高い高齢者が多いというわけではなく、高齢者が政治参加活動に活発というわけでもない。このことは、高齢者の高い投票率や有権者の高齢化がシニアパワー・モデルやグレイパワー・モデルで議論されるほどには政治・行政に影響を及ぼすとは言えないことを示唆しているのかもしれない。

  • ─唾液嚥下積算時間を用いて─
    伊藤 直子, 森田 恵子, 太田 淳子, 蛯名 小百合, 奥山 陽子, 渡辺 修一郎
    2015 年 9 巻 1 号 p. 73-81
    発行日: 2015年
    公開日: 2024/09/18
    ジャーナル フリー

    目的: 高齢者の体位・頭頸部角度の違いと嚥下機能との関連を、3回の唾液嚥下積算時間を用いて検討した。

    方法: 市主催の一次予防事業に参加した19名とS市のデイサービス利用者16名を対象とした。2種類の体位として座位と臥位、3種類の頭頸部角度として30度屈曲、0度、30度伸展とした。各回の唾液嚥下時間と積算時間を用い、体位・頭頸部角度との関連および嚥下時間へ影響する要因の検討を行った。

    結果: 唾液嚥下積算時間では、座位頭頸部0度が最も短く、臥位頭頸部30度伸展時が最も嚥下に時間を要した。座位と臥位で頭頸部30度屈曲の嚥下時間に大きな差はみられなかった。

    考察: 頭頸部を伸展した場合は座位・臥位共に嚥下時間が延長するため、頭頸部の角度が嚥下時間へ及ぼす影響は大きいと思われた。座位と臥位で頭頸部屈曲角度における嚥下時間に差がなかったことから、頭頸部を屈曲した状態であれば臥位時においても検査が可能であることが考えられた。

  • ─境界性パーソナリティ障害傾向に注目して─
    村山 陽, 竹内 瑠美, 須田 誠, 小畠 秀吾
    2015 年 9 巻 1 号 p. 82-89
    発行日: 2015年
    公開日: 2024/09/18
    ジャーナル フリー

     本研究では、高齢女子受刑者の入所回数と境界性パーソナリティ障害傾向との関連を明らかにすることを目的とした。A刑務所に在所する女子受刑者365名を分析対象者とした。調査内容は、年齢、入所回数、境界性パーソナリティ障害傾向である。境界性パーソナリティ障害傾向得点(以下、BPD傾向得点)を目的変数、年齢階級(非高齢者群:64歳以下、高齢者群:65歳以上)および入所回数(初入所、再入所)を説明変数としたロジスティック回帰分析を実施した。分析の結果、年齢階級とBPD傾向得点の交互作用項でオッズ比の有意な上昇が認められ、「高齢者群」で、かつBPD傾向得点が高い場合には、再入所のリスクが上昇することが認められた。

  • 中里 陽子, 杉澤 秀博
    2015 年 9 巻 1 号 p. 90-99
    発行日: 2015年
    公開日: 2024/09/18
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,看取り介護を行っている介護老人保健施設の介護福祉士を対象として,看取りに対する肯定的・否定的態度の形成プロセスを解明することにある.分析対象は11名で,調査方法は半構造化面接,分析は修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチで行った.結果は以下の通りであった.≪ ≫はカテゴリー,【 】はサブカテゴリーを示す.対象者は≪看取りの受け入れ≫を経験していた.それは,看取り可能な施設の不足や家族介護態勢の弱体化に起因した【老健で受けるしかない】という覚悟の結果であった.看取りによって施設利用が長期化することで,対象者は【利用者やその家族と親密な関係を形成】していた.看取りを経験する中で,≪看取り体制とケア経験への肯定的態度≫が形成され、それが≪ケアから得られる有用感≫に繋がっていた.他方,≪看取り体制とケア経験への消極的態度≫が形成された場合には,それは≪ケアの不全感≫に繋がっていた.

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