目的走っている綿糸による銅の円筒の摩耗率が円筒の半径を変化さしたとき,どのように変化するかを実験によってしらべ,摩耗の法則が成立するか否か,綿ワックスがどんな効果を与えるかを明らかにし,あわせて摩耗の機構を解明する.成果実験結果によれば,糸の張カー定の場合円筒半径が増加すると摩耗率は減少し,単位長さ当りの垂直圧力が一定の場合摩耗率は円筒半径にほとんど無関係である.これらの結果を相当垂直荷重で整理して比摩耗率の形に直すと,いずれの場合にも比摩耗率は一定とはならず,円筒半径の増大に対し逆に減少し,摩耗の法則が成立しない.それゆえ綿糸に含まれている天然潤滑剤による表面の状態の変化を考え,円筒半径の大きいことが糸と円筒との接触時間を長くし,接触時間が表面温度よりもワックスの軟化溶融に対しより著しく作用するため,円筒半径の大きいとき比摩耗率が小さくなると説明することができる. 目的 これまでの報告において論じたように,摩擦熱が綿繊維の表面に含まれているワックスの軟化溶融を促進し,その結果生ずる移動層が相手の物体の摩耗を防止する作用を営む.このように綿ワックスが円筒の摩耗現象において重大役割を演ずるから,もしワックスを有しない糸で実験すれば,事態はすっかり変ってしまうであろうと思われる.それゆえ本報では精練した糸とそうでない糸とによる実験結果を比較検討する. 成果 工業的に精練した糸と精練してない糸による摩耗率,摩擦係数にはほとんど差異がみとめられなかった.またいずれの場合にもこれまでと同様,試験片の入口側の方が出口側より激しく摩耗した.したがって精練の影響はあらわれていないことになる.従来からの研究によれば,ワックスを除去した糸は一般に高い摩擦係数を示し,これに少量の潤滑剤を添加すると,摩擦係数は急激に低下し,添加量がある程度以上になると,摩擦係数はそれ以上は低下しなくなる.この事実と考えあわすと,工業的精練ではかなりの量のワックスが残留しており(ソックスレ抽出試験によってみとめられる),この残留ワックスが,精練してない糸におけるワックスと同じ作用を営んだことになる.したがって潤滑剤の効果をしらべるに当たっては,工業的精練では不十分であり,完全にワックス分を除去できるような方法を取らねばならない.そのためにも,少量の糸で実験できるようなちがった型式の実験装置が必要となる.
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