1,4-dihydroquinoline-3-carboxylic acid構造を持つキノロン誘導体は医薬品として製薬各社により開発されている。その鍵反応である芳香族求核置換(SNAr)反応の反応物、中間体、生成物の電子状態やエネルギー、物理化学的係数等の計算値、および溶媒や反応温度等の実験条件パラメータをGA-PLS法の説明変数とし、反応収率を目的変数としたSNAr反応における反応のモデル化(予測)を試みた。その結果、一部の構造についてはモデル化が出来なかったものの、求核種やキノロン環の構造ごとに分類することと、分子軌道(MO)計算により得られた値を用いて、反応の収率を予測することが可能であることが示された。又、一般的なHONO、LUMOのエネルギーのみよりも、それらにエネルギー準位が近い複数の軌道のエネルギーを用いた場合のほうが、外挿性に優れるという結果が得られた。しかしながら、モデル化された例では共通する説明変数が多く選ばれているものの、反応機構と直接関係がないと考えられる変数、たとえば、生成物のHOMO、LUMOのエネルギーや電子密度等も高い目的変数の説明分散(R²)を得るためには必要であった。GA-PLS法により選ばれた説明変数は、求核種やキノロン環の構造の種類により異なる。求核種やキノロン環の構造により説明変数が異なることは、反応が同一の機構で進行しているという実験からの予想に反する。そこで、パラメータ化の困難な要素に関する分類を試みた結果、単離条件による分類を行なうことで、化学構造によらずモデル化が可能であることを見出した。これは、収率を目的変数としたことで、実験条件の差が大きく影響を及ぼし、モデル化を困難にしていたことを示している。このようにMO計算により比較的容易に得られるパラメータを用いたモデル化は可能ではあるが、副反応や実験条件等の理由によって統一したモデル化が困難になっていることが明らかとなった。
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