日本サンゴ礁学会誌
Online ISSN : 1882-5710
Print ISSN : 1345-1421
ISSN-L : 1345-1421
8 巻, 2 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
原著論文
  • 大森 信, 柴田 早苗, 横川 雅恵, 青田 徹, 綿貫 啓, 岩尾 研二
    2007 年 8 巻 2 号 p. 77-81
    発行日: 2007/05/21
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    サンゴ礁修復のためのサンゴ幼生の大量飼育を目的として、野外の浮体に取り付けた大型ビニール水槽 (水量3.2t、以下水槽) を用いて、一斉産卵のあとに形成されたスリックから取り込んだミドリイシ属サンゴの胚と幼生を育てた。2003年の実験では、初期密度300-1200個/lのすべての水槽で受精後3日目までに胚数が大きく減少した。2004年の実験でも、同様に受精後3日目までの胚期に大きな減耗が認められた。この間の日間死亡速度は平均で29.6%であった。しかし、プラヌラ幼生になってからの減少は小さく、日間死亡速度は20.3%となり、初期密度の15%にあたる134個体/l、1槽あたりおよそ43万個体の幼生を着生能力を獲得するまで飼育できた。胚の90%以上が海面付近に集中していたのに対し、それ以降のプラヌラ幼生は、海面から下層までほぼ万遍なく分布していたことから、海面での高密度状態と紫外線、殊にUV-Bへの暴露、および未受精卵などの分解による水質の悪化が胚期減耗の原因であると思われた。胚密度と水質を管理調整し、水槽に覆いをつけて直射日光をさえぎることにより、野外で着生能力をもつ幼生をもっと大量に育てることができるだろう。
  • 大森 信, 梶原 健次, 松本 尚, 綿貫 啓, 久保 弘文
    2007 年 8 巻 2 号 p. 83-90
    発行日: 2007/05/21
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    沖縄県宮古島池間大橋東方のさんご礁の浅瀬 (24°55'45"N, 125°15'55") にはタカセガイ (サラサバテイ) Trochus niloticus の中間育成礁が56個、礁嶺に向かって並べられている。一個の育成礁は枡形2連 (鉄筋コンクリート製, 外測5.1m×2.8m×1.1m, 重量約26トン、一枡の内測は2.1m×2.1m×深さ0.6m) で、底には砂の堆積を防ぐ目的でFRP製格子板を敷き、その上に厚さ7.5cm、目合5cm×5cmのFRP製格子板2枚が重ねられている。育成礁の側面には天端から30cmの位置に排水口があるが、それを閉じておけば水深60cmのタイドプール状態になる。ところが1996年に設置した後、格子板にサンゴが着生、成長し、その除去 (掻き落とし) に多大の労力と経費を要するようになった。そこで東端の2個の育成礁4枡の排水口を閉じたままにしておいたところ、格子板は2-3年後、Acropora 属を主とする25種のサンゴに覆われた。内部のサンゴ被覆度は95%にもなり、大きな群体は直径65cm以上にも成長した。写真は2003年11月 (Fig. 3A) と2005年11月 (Fig. 5A) に写したものである。
    予期せぬサンゴ群集の出現は、サンゴ育成技術に多くの示唆を与えると考えた私たちは、育成礁内外の環境測定とサンゴ出現種の同定を行い、サンゴが育った要因として、以下の6つの仮説を挙げた。1) 育成礁内にサンゴの幼生、殊に一斉産卵後のそれら、が滞留して、格子板に着生しやすい条件が与えられた。2) 育成礁内は波浪の影響を受けにくいので、サンゴは物理的破壊を免れ、しかも常に新鮮な海水に洗われて、十分な餌料プランクトンが供給された。3) 格子板上の藻類がタカセガイによって食べられ、サンゴ幼生の着生と育成に好ましい環境が維持された。4) 育成礁には大きな魚が入りにくいため、サンゴが生物侵食や食害を受けなかった。5) サンゴは低潮時にも常に水面下にあって、適当な照度を得ていた。6) 格子板には浮泥の堆積が少なく、サンゴは懸濁物を被ったり埋没したりすることがなかった。これらの仮定を検証し、工夫を加えることによって、近い将来、理想的なサンゴ育成礁をつくってサンゴを育て、さんご礁の修復だけでなく、観光産業にも役立てる道を開きたいと考えている。
  • 鹿熊 信一郎
    2007 年 8 巻 2 号 p. 91-108
    発行日: 2007/05/21
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    フィジー、サモア、フィリピン、インドネシア、モーリシャス、および沖縄の5地区のサンゴ礁海域MPAを事例に、主に水産資源管理を目的としたMPAの多様性、それ以外の目的を有す多面的機能を整理するとともに、効果的なMPAの設定方法、適正なMPAの面積を決める方法を考察した。その結果、MPAが熱帯亜熱帯における強力な資源管理ツールであることを確認した。MPAの形態は多様で、完全禁漁か多目的利用か、政府主体か村落主体か、永久設定か期間限定か、対象魚種を限定するかどうかによって性格は大きく異なることがわかった。また、面積は様々であり、機能も生態系保全やエコツーリズムの場として利用することを主目的とするものもあった。
    生物多様性のためにはMPAは大きくあるべきだが、漁業者には大きいMPAは操業区域の縮小を意味する。また、エコツーリズムによる利用も、漁撈文化・食文化と対立する可能性がある。このバランスをとるには、MPA内の生物がMPA外へ拡散するスピルオーバー効果を定量的に調査すると同時に、地域住民の参加を得てMPAの位置・面積などを決定し、順応的にMPAを改善していくべきだろう。
短報
  • 阿部 和雄, 福岡 弘紀
    2007 年 8 巻 2 号 p. 109-115
    発行日: 2007/05/21
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    沖縄県石垣島の宮良川河口域付近の沿岸海域において、2006年8月の下げ潮、上げ潮時に塩分、温度、及び表層のケイ酸塩濃度の変動を追跡し、宮良川に起源を持つと考えられる水塊を観測した。表層塩分は河口より南西方向の調査点で下げ潮時から上げ潮時にかけて大きく減少し、ケイ酸塩濃度は増加した。一方、河口から北東よりの調査点ではいずれも大きな変動はなかった。南西方向の調査点におけるケイ酸塩の変動は塩分に対してほぼ直線関係を示し、塩分を0に外挿すると宮良川河川水の値とほぼ一致した。このことはリン酸塩についても同様の傾向を示した。溶存カドミウムも沿岸水中では同様の挙動であった。以上の結果より、河口域より南西側の調査点の水塊構造は宮良川起源水に大きく影響を受けていると考えられ、観測日における宮良川起源水は河口より流出後、石垣島沿岸に沿って南西方向へ移動していることが示唆された。
  • 阿部 和雄
    2007 年 8 巻 2 号 p. 117-122
    発行日: 2007/05/21
    公開日: 2008/12/25
    ジャーナル フリー
    沖縄県石垣島の浦底湾 (北緯24°27', 東経124°13') には準裾礁型のサンゴ礁が発達し、亜熱帯域特有の生態系が形成されている。本研究では、浦底湾海岸線より35mほど沖の一点 (桟橋突端) を調査点として、2005年4月から2006年3月までの一年間2、3日程度の間隔で栄養塩の一つであるリン酸塩濃度をモニターした。調査期間中の塩分は、湾に流入する小河川および地下水の影響を受け、概ね16から34.5程度の範囲で変動した。リン酸塩濃度は0.016~0.311μMの範囲にあり、この濃度レベルは石垣島白保海域等と同程度である。降水の影響がない調査日の小河川、海岸線、及び沖合から採取した試料中のリン酸塩を塩分に対してプロットすると直線関係が得られ、単純希釈混合による濃度変動が認められる。調査点の結果もほぼこの直線の周囲にプロットされ、周年を通して見かけ上概ね同様の挙動を示すと判断できる。一方、降水の影響がある場合には雨水による単純希釈と解釈でき、晴れの日の浦底湾においてリン酸塩が保存成分的な挙動を示すのは、潮汐等による比較的活発な湾内水の交換に起因し、見かけ上生物生産活動等の影響を受けていないものと考えられる。
feedback
Top