日本サンゴ礁学会誌
Online ISSN : 1882-5710
Print ISSN : 1345-1421
ISSN-L : 1345-1421
15 巻, 1 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
解説
  • 深見 裕伸, 磯村 尚子, 岩尾 研二, 立川 浩之
    2013 年 15 巻 1 号 p. 1-14
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/07/02
    ジャーナル フリー
    イシサンゴ目に属するミドリイシ科 Acroporidae は,これまでミドリイシ属Acropora,トゲミドリイシ属 Anacropora,アナサンゴ属 Astreopora,コモンサンゴ属 Montipora の4属であるとされていた(例えば,Veron and Wallace 1984; 西平・Veron 1995; Veron 2000)。しかし,2007年,Wallace らは,形態的・生態的特徴と分子データを基に,ミドリイシ属内の亜属の一つであった Isopora を属へと昇格させた(Wallace et al. 2007)。しかしながら,日本国内においてこの事実が周知されておらず,Isopora の種が未だミドリイシ属のままの学名で用いられていることが多い。また,Isopora には亜属の時代から和名が与えられていない。そこで,この属の周知を図るため,属に昇格した Isopora の和名をニオウミドリイシ属(新称)として提唱するとともに,本属の特徴および種の解説を行う。本稿はWallace et al.(2007)を主体に,今回観察した日本産 Isopora の標本の形態データを新たに加えてまとめたものである。また,国際動物命名規約に則り,これまで Isopora のタイプ種とされていたAstrea palifera Lamarck, 1816が間違いであり,実際には Madrepora labrosa Dana, 1846であることが判明したため,それについても記述する。
総説
  • 本郷 宙軌
    2013 年 15 巻 1 号 p. 15-36
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/07/02
    ジャーナル フリー
    台風はサンゴ礁生態系に影響を及ぼす環境要因のひとつである。例えば,台風によって生じる風と波浪は,サンゴ礁に生息する底生生物の物理的破壊(剥離や転倒,破損)や堆積作用,地形の改変,海水温の低下などを引き起こす。また,台風によって生じる豪雨は多量の堆積物と栄養塩を礁内に流入させるため,底生生物は影響を受ける。全球気候モデルの数値計算によると,地球温暖化によって台風時の最大風速と降水量が現在よりも増加(台風の巨大化)することが予測されている。そのため,台風の巨大化によって,サンゴ礁生態系が受ける影響は大きく変化する可能性が高い。本稿では,台風がサンゴ礁生態系に及ぼす影響について紹介し,研究の着眼点をまとめる。さらに,巨大化した台風がサンゴ礁生態系に及ぼす影響についての最新の予測研究を紹介し,今後の研究の方向性を示す。
原著論文
  • 永田 俊輔, 杉原 薫, 入野 智久, 渡邊 剛, 山野 博哉
    2013 年 15 巻 1 号 p. 37-56
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/07/02
    ジャーナル フリー
    琉球列島の南西部に位置する沖縄県西表島(北緯24°25′,東経123°47′)と,九州の北西部に位置する長崎県福江島と若松島および壱岐と対馬(北緯32°39′–34°24′,東経128°39′ – 129°40′)から採集されたイシサンゴの一種であるキクメイシDipsastraea speciosa (Dana, 1846) [= Favia speciosa (Dana, 1846)] の群体骨格の成長パラメータ(伸長量,密度ならびに石灰化量)を測定し,それらの骨格成長と緯度変化に伴う年平均表層海水温との関連を考察した。その結果,亜熱帯域に位置する西表島産キクメイシの年平均密度と石灰化量は,温帯域に位置する長崎県産のそれらより有意に高かったが,伸長量については有意差が認められなかった。伸長量と石灰化量,密度と石灰化量の間には,調査地域全体でそれぞれ正の相関がみられたが,伸長量と密度の間には認められなかった。この結果は,キクメイシと同科に属する大西洋産 Orbicella (= Montastraea) や,キクメイシと同じく太平洋に生息するハマサンゴ属 Porites に関する先行研究結果よりも,大西洋に広く生息するハマサンゴ属の一種Porites astreoides Lamarck, 1816のものに類似していた。Porites astreoides とキクメイシは,それぞれに近縁な種・属に比べて地理的生息範囲が広く,伸長量と石灰化量が低いといった共通の特徴を持つ。日本産キクメイシでは,3つの骨格成長パラメータの中で,石灰化量が年平均表層海水温と最も相関が高かった。このことから,少なくとも日本列島に生息するキクメイシは,年平均表層海水温の緯度勾配に合わせて骨格の伸長量や密度を変えながら,石灰化量を一定に保っている可能性がある。
  • 藤田 和彦
    2013 年 15 巻 1 号 p. 57-77
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/07/02
    ジャーナル フリー
    本論では,サンゴ礁海域に棲息する大型底生有孔虫の系統分類・生理・生態について概説する。大型底生有孔虫(large benthic foraminifer: LBF)とは,サンゴ礁海域に分布する,比較的サイズの大きな底生有孔虫の総称である。現生種では少なくとも2目6科24属に及ぶ。化石記録によると,全ての現世属は第四紀(更新世)以前に出現した。
    大型底生有孔虫は,渦鞭毛藻・緑藻・珪藻・紅藻など様々な分類群の微細藻類と細胞内共生する。微細藻との共生は,貧栄養で透明度が高く光が十分なサンゴ礁海域において有利な戦略である。共生藻の光合成への依存度は,大型底生有孔虫の分類群によって異なり,ミリオリダ目有孔虫はロタリイダ目有孔虫よりも光合成に依存しない。各分類群にみられる形態形質には微細藻との共生への適応と考えられるものが多い。大型底生有孔虫の形態進化には微細藻との共生が駆動力となった可能性がある。
    大型底生有孔虫は細胞の増加に伴って室を付加させながら成長する。ガラス質殻を造るロタリイダ目有孔虫と磁器質殻を造るミリオリダ目有孔虫との間で室形成過程や細胞内の石灰化機構が異なる。大型底生有孔虫は二形性または三形性と呼ばれる生活環を示す。有性生殖は,成熟したガモントが配偶子を水中に放出する方法で行われる。無性生殖は多分裂による増員生殖であり,殻内または殻外で起こる。
    大型底生有孔虫の生物地理は,大きく西太平洋区,インド洋~中央太平洋区,インド洋西側から中東にかけての地区,カリブ海及び大西洋地区に区分される。共生藻をもつ大型底生有孔虫は光が届く有光層(水深0~130m)に分布する。水深や礁原の環境勾配に対して分類群間で棲み分けがみられる。大型底生有孔虫は海藻(海草)・礫・堆積物の表面に棲む。
    大型底生有孔虫の個体群密度や個体群構造は棲息環境や季節によって異なる。亜熱帯海域では春から夏に小型個体が増えて個体群密度が増加し,秋から冬にかけて徐々に死亡して個体群密度が減少する。大型底生有孔虫の寿命はほとんどの種が数ヶ月から1.5年の範囲にある。大型底生有孔虫の種による生存曲線の違いには,無性生殖様式と幼生のサイズが関係する可能性がある。サンゴ礁海域における大型底生有孔虫の殻(炭酸塩)生産量は,おおよそ10~103g CaCO3 m-2 yr-1である。
  • 棚原 朗, 仲栄 真史哉, 鈴木 秀隆, 金城 嘉哉
    2013 年 15 巻 1 号 p. 79-89
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/07/02
    ジャーナル フリー
    沖縄県那覇市の国場川と饒波川の下流域に広がる漫湖干潟において柱状試料を採取し,それに記録された金属元素濃度の経年変化を解析した。干潟は人口密集地に位置し,周辺および河川上流域の開発に伴い重金属が土壌と共に流入していると考えられる。得られた柱状試料の 210 Pb ex 法による堆積速度は1.1~1.9cm・y -1 (2.1~3.7g・cm -2・y -1 )と比較的速いことが分かった。金属元素濃度の経年変化として,主成分元素の一つであるアルミニウムの濃度変動は小さく,カルシウムは1900年代から増加傾向を示した。鉛は1950年代から増加傾向を示したが,1980年代から減少傾向にあり,自動車ガソリンの無鉛化が影響している。その他の重金属(Ni,Cu,Hg)は,饒波川下流では少なく両方の川が合流する地点で高い濃度を示したことから,主な起源として国場川からの流入が示唆された。
  • 斉藤 宏, 石丸 隆, 灘岡 和夫, 渡邉 敦
    2013 年 15 巻 1 号 p. 91-105
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/07/02
    ジャーナル フリー
    世界的なサンゴの白化現象が起こり,気候変動が進行する現在,サンゴのモニタリングの必要性が急務である。しかし,モニタリングの手法は目視によるものが基本で,小さい変動はわからなかった。褐虫藻のモニタリングによりサンゴ健康状態をモニタリングできる可能性のある,青色光域と近赤外光域の二つの画像から求めた「サンゴ用正規化植生指標」(NDCI; Normalized Difference vegetation of Coral Index)(斉藤ら 2008)を用いて,石垣島白保サンゴ礁の礁池において2009-2010年と2011-2012年の2年間サンゴの季節変動と日周変動を数値化した。その結果,サンゴのNDCI値は水温に対しては負の相関を示しながら季節変動していること。サンゴの種類によりその変動幅に違いがあること。高水温ばかりでなく低水温や光量子,流入泥によるストレス等により,季節変動のみならず日周変動も行っている可能性を明らかにした。また,Porites sp.の強い白化と弱い白化の可視化,Favia sp.の台風の後のNDCI値の偏りも計測できた。
解説
  • 深見 裕伸
    2013 年 15 巻 1 号 p. 107-113
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/07/02
    ジャーナル フリー
    近年発表されたイシサンゴ類の分子系統解析の結果および詳細な形態解析を基に,2012年にAnn Budd博士らによって,オオトゲサンゴ科およびキクメイシ科の分類体系の改変が行われた。この改変では,大西洋産のオオトゲサンゴ科およびキクメイシ科を独立した科として扱うこととし,それに伴い太平洋産の両科およびいくつかの属も改編される運びとなった。特に,これまで一般的に良く利用されていた科であるMussidaeやFaviidae,さらに属のFaviaMontastraeaが大西洋限定となったために,これらの科および属名の変更が行われた。そのため,今後の論文投稿でもかなりの混乱が予想される。そこで本稿では,これらの改変された理由および現時点での改変をまとめた。
feedback
Top