日本地質学会学術大会講演要旨
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第128学術大会(2021名古屋オンライン)
選択された号の論文の352件中151~200を表示しています
R18(口頭)環境地質
  • 髙嶋 洋, 竹内 真司, 風岡 修
    セッションID: R18-O-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
    会議録・要旨集 フリー

    千葉県N市では,昭和63年にトリクロロエチレン等有機塩素系化合物(CVOC)による地下水汚染が確認され,千葉県の協力の下,過去に7カ所で地質汚染機構解明調査及び対策が実施されてきた.これらはすべてオールコアボーリングにより汚染サイトの地質構造解析を行い,地質層序の単元ごとに汚染の存在を確認した上で,当該単元情報を基に構築された帯水層単元にあわせて観測井戸を設置し,地下水位や水質を観測する手法で行われた.また,地域の土地利用の変遷等の地暦や地形,周辺の地下水利用状況,周辺井戸の諸元等の調査も併せて実施され,総合的な解析が行われた.調査範囲は敷地境界に関わりなく,汚染が検出されなくなるまで追跡が行われ,科学的に汚染経路と汚染範囲を明確にした(例えば髙嶋他、2008).こうした地質単元を詳細に観察し,科学的に地下水流動を把握する調査手法は単元調査法と呼ばれている(楡井、2007).当該調査は,行政と研究者,汚染の存在が確認された企業,地下水利用者等がチームを構成し,地域自治会や周辺企業等の協力を得て実施された. 汚染機構解明調査の結果より,汚染原因や機構が明確になるため,調査後の汚染対策及びモニタリングは基本的に汚染原因者や汚染土地所有者等が主体となって実行され,行政はこの進捗を確認している.対策手法は概ね不飽和帯の地下空気汚染対策及び揚水ばっ気処理によるものである.対策手法やその規模は,対策主体の実情に合わせて取りうる範囲で実施される.こうした活動はすでに調査対策から15年~20年を経過し,浄化対策が進展した箇所も多いが,今なお継続されている.浄化規模や手法の違いもあるが,根本的に地下に浸透した汚染物質を取り除くことはきわめて難しい.また,この程度の時間経過では自然減衰しないことも明確となった.N市で行ったMNA(自然減衰能力)の検討(Takashima et.al, 2015)においても,汚染の減衰はほとんど期待できない結果であったが,これが確認された形である. 地下水汚染状況は,継続的なモニタリングによりサイトごとに経時的に確認されている.この結果,浄化が進むサイトでは周辺の地下水濃度の大幅な低下が認められる.また,モニタリング対応中心のサイトでは,現状の場を形成する地下水利用状況において、ほとんど汚染が移動せず,その場にとどまっていることが明かとなった(例えば井上・竹内、2020).単元調査法により汚染機構と汚染プリューム全体が,当初の調査の段階でほぼ完全に掌握されているため,調査対策から20年を経て,なお,汚染の状況を明確に説明可能となっている.これは,モニタリングが継続されているからであり,かつその基礎となった単元調査法が科学に忠実に実施されたからである.さらに,この取り組みは,曝露経路の明確化による地域住民の健康の確保と周辺の地下水利用の安全性の確保に大きく寄与している. 土壌汚染対策法が施行されて約20年が過ぎようとしているが、指定の解除後の除去対策の効果を確認するスキームは与えられていない.逆に、汚染対策を行ったにもかかわらず、観測井からの汚染検出が続き、指定解除できない事例など、問題も指摘されている.長い年月の間に汚染原因者は土地を売却し,地下水汚染との関わりを断つことが出来るかもしれないが,地域の住民や自治体はその土地を離れることは出来ない.その地域の地下水は依然としてその地域に存在し,自然の法則に従い流動し,そして活用されている.健全な水循環を確保し,持続可能な地下水汚染対応を真剣に考えた時,単元調査法に基づく汚染調査対策手法がかつて実施され,未だに効果を上げていることは注目に値すると考えられる.

    井上雄太・竹内真司, 2020MS, 千葉県野田市における揮発性有機塩素化合物の汚染分布の現状と将来予測, 日本大学文理学部地球科学科, 47.

    楡井久, 2007, 単元調査法と無単元調査法. 産業と環境, 7, 68-72.

    髙嶋 洋・古野邦雄・楠田 隆, 2008, 1.1.1.トリクロロエタンによる地下水汚染機構と汚染分布特性, The Proceedings of the 18th Symposium on Geo-Environments and Geo-Tecnics, 57-62.

    TAKASHIMA H, UTSUGI K, HOSHOTANI T, KAZAOKA O, SAKAI Y, KAGAWA A, 2015, The examination of Dehalococcoides sp. on VOCs groundwater pollution site in NODA City, The Fifth International Symposium on Man-Made Strata and Geo-Pollution, Urayasu Chiba JAPAN, 107-112.

  • 風岡 修, 小島 隆宏, 伊藤 直人, 荻津 達, 香川 淳, 吉田 剛
    セッションID: R18-O-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
    会議録・要旨集 フリー

    はじめに:2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震とその余震の際,東京湾岸埋立地の北部では,直径百~数百mの斑状に,液状化-流動化に伴う地盤の沈下部分が多数発生した(千葉県環境研究センター,2011).今回は,埋立地外周の護岸に沿う舗装道路の内陸側に隣接した比高約2mの堤体の一部で最大約1m沈下し,道路の一部が最大約0.8mマウンド状に膨れ上がった部分で調査した.

     オールコアボーリングは堤体が最も沈下した付近の法面下部(北緯35度39分31秒,東経140度0分27秒,標高4.09m)で深度12mまで行なわれた.これに補足し,堤体の頂部から隣接道路までの堤体斜面にて,斜面に平行に2m間隔で調査測線を設け,各測線の変形部分~非変形部分を4~8m間隔で斜面調査用簡易貫入試験を深度約9mまで行い,人工地層から沖積層上部までの地層を調べた.

    地層構成:標高-4.08mに人自不整合があり,これより上位は人工地層,下位は沖積層である.

     沖積層は,標高-5.25mを境に,上位が生物擾乱構造がみられ貝化石を含む泥質分が少なく粒径の揃った灰色の細粒砂層,下位がサンドパイプ状の生痕化石や貝化石を含み生物擾乱構造が発達する暗オリーブ灰色の極細粒砂質シルト層である.沖積層の砂層は生痕化石や生物擾乱構造がみられ,液状化-流動化の痕跡はみられない.また簡易貫入試験値(以下簡易貫入試験値を「Nc=」と略す)は30~50と中位の硬さをなす.

     人工地層は,標高3.17mを境にこの上位が盛土アソシエーション(以下「アソシエーション(Nirei et al., 2012)」を「As」と略す.),下位が埋立Asである.

     埋立Asは,シルト層主体の最下部,中粒砂層主体の下部,貝殻混じり中粒砂層と貝殻片密集層主体の上部,シルト層主体の最上部の各バンドル(以下「バンドル(Nirei et al., 2012)」を「Bd」と略す)からなる.

     最下部Bdは,標高-4.08~-3.35mにみられ,数mmの厚さの粗粒シルトのラミナをしばしば挟む暗オリーブ灰色のシルト層からなる.硬さはNc=5~10とやわらかい.

     下部Bdは,標高-3.35~0.16mにみられ,泥質分の少ない浅黄~灰黄色の中粒砂層を主体とし,基底付近に泥質分の少ない細粒砂層を挟む.下半部は葉理や層理が不明瞭である.上半部は頂部を除き葉理や層理は消失し塊状である.硬さはNc=10~15とゆるい.

     上部Bdは,標高0.16~2.52mにみられ,貝殻片混じりの浅黄~灰黄色の中粒砂層やシルト礫が混じる細礫~中礫大の貝殻片密集層からなり,厚さ約10cmのシルト層を数枚挟む.下半部の中粒砂層には葉理が不明瞭な部分がごく一部みられる.硬さはNc=10~30とゆるい~中位である.地下水面は本層中の標高1.1~1.2mである.

     最上部Bdは,標高2.52~3.17mにみられ,浅黄色のシルト層からなり,厚さ1~15cmの細粒~中粒砂層を挟む.

     盛土Asは,関東ローム層や黒ボク土壌層の亜角~亜円礫の密集層からなり,硬さはNc=2~10とゆるいが,基底部の厚さ20~40cmはNc=20~40と中位である.

    液状化-流動化に関して:液状化-流動化の判定は,地層断面において,初生的な堆積構造の状態により可能である(風岡,2003).埋立アソシエーションの下部の砂層の大部分では,葉理や層理が不明瞭ないし消失しており,この部分が液状化及び流動化したものと考えられる.

     また,簡易貫入試験より,埋立As最上部Bdの泥層は,堤体頂部の沈下部分において,地表変形が見られない部分と比較すると0.1~0.5m低くなっている.人自不整合面は調査部分においてはほぼ水平である.また最上部Bdの泥層はほぼ水平に堆積したものであるので,この泥層よりも下位の埋立Asの一部が流出したため沈下したと考えられる.法面下端付近の盛り上がった付近では,地表変形が見られない部分と比較すると同泥層は0.6~1.0m高くなっているものの,人自不整合面はほぼ水平である.よって,この泥層よりも下位の埋立As内において地層の厚さが増加していると考えられる.これらを総合すると,埋立As下部Bdの砂層の多くの部分が液状化-流動化し,堤体頂部付近ではその自重により液状化部分に上載圧が加わる一方,堤体の法面下端部では上載圧が減少しているため,堤体頂部付近の埋立As下部Bdの液状化部分が法面下端方向の同層準へ側方に流入し,これによって堤体頂部付近が沈下し,堤体法面の下端付近が隆起したものと推定される.

    引用文献:風岡 修,2003,アーバンクボタ40号,5-13.千葉県環境研究センター,2011,千葉県環境研究センター報告,G-8, 2-1~2-69.Nirei et al.,2012,Episod, vol.35, 333-336.

R19(口頭)応用地質学一般およびノンテクトニック構造
  • 山崎 新太郎, 荒井 紀之, 西山 賢一, 丸谷 靖幸, 矢野 真一郎
    セッションID: R19-O-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    はじめに

    2020年7月3日から4日午前中にかけて熊本県南部を中心に発生した豪雨によって斜面災害が多発した.この災害では地質構造に崩壊の素因があり,概ね崩壊深度が大きい岩盤崩壊が多発した.本発表ではその発生場の地質・地形学的な特徴を報告すると共に,特に以下の3つのトピックについて取り上げる.

    キャップロック構造の崩壊

     津奈木町福浜の崩壊は,礫岩,砂岩,泥岩からなる堆積岩の上に強度の大きな灰白色の火山岩が位置するキャップロック構造で発生した崩壊である.火山岩は板状の斜長石斑晶に富んだ岩石であり,地域南側に分布する肥薩火山岩類に属すると思われる.崩壊前には周囲に比べて顕著な谷が形成されており,その谷頭をさらに拡大するように崩壊が発生した.崩壊発生後の2020年7月17日の調査時には火山岩と前述の堆積岩の境界付近に湧水が認められた.また,火山岩の直下にスメクタイトとカオリナイトを含む黄白色の軟弱な粘土層があり,この粘土層が湧水で侵食されていた.粘土層は山側に傾斜するか,部分的には乱れており,崩壊と関連する弱面となったかどうかは不明である.湧水は,上方の火山岩を浸透した水がこの粘土層付近で遮水され流出していると思われ,降雨時にはその水圧が崩壊源の背部に集中していた可能性がある.崩壊発生前に顕著な谷が形成されていたことを考えるとこの場所は周辺部と比べて特異的に地下水が集中し,侵食が集中していた場所であった可能性がある.

    断層面を使った崩壊

     芦北町宮浦の崩壊は斎藤ほか(2010)のジュラ紀付加体「秩父帯」の整然相の分布地に位置している.同図幅では泥岩および砂岩泥岩互層を伴う砂岩が分布する地域となっており,現地の崩壊源にも砂岩と泥岩が露出していた.また,本地域の北に約100 m離れた場所に整然相地域とメランジュ地域を区分する断層があるとされる.崩壊前の地形には小谷があり.崩壊はこの小谷の谷頭部を拡大させるように発生していた.崩壊物質によって削剥されて露出した谷の北側には比較的堅硬で風化の程度の弱い泥岩,谷の南側や崩壊源には砂岩が主体の砂岩泥岩互層が認められた.砂岩は亀裂に富んでおり,亀裂を黒色の鉱物脈が網状に充填していた.また,砂岩は全体的に黄色化して強く風化しており,容易にハンマーの打撃で破壊できた.崩壊して流下した物質を観察する限り,主な崩壊物質は砂岩である.谷頭部の南側の砂岩には複数枚の平滑な面が認められた.この面は波を打つように大小の波長を持って湾曲しており,テクトニックなせん断作用によって形成されたと考えられる断層面である.さらに,北側の泥岩主体の岩相と南側の砂岩主体の岩相を区分する幅約1 mの破砕帯があり,複合面構造を持っていた.宮浦の崩壊はこれらの断層面を分離面とするくさび形の砂岩のブロックが崩壊したと考えられる.

     芦北町牛淵の崩壊は斎藤ほか(2010)のジュラ紀付加体で砂岩を主体とする層と層状チャートの整然相の分布地域に位置している.また,以上の砂岩や層状チャートの領域を区分する断層が同図には記載されており,これは崩壊の直近である.崩壊は幅が広く浅い谷の上部で発生し,崩壊に伴って断層ガウジやチャートの角礫を伴う幅5 m以上ある厚い破砕帯が露出した.崩壊は,明瞭に観察できる破砕帯中のY面と,それから分岐する湾曲した断層面の両方を使って分離するように発生したと考えられる. 牛淵で発生した岩盤崩壊は2波以上あり,おそらく第1波は,谷の南側(左岸側)で前述した破砕帯の断層面を分離面とするものである.その深さは最大10 m程度ありV字の谷を形成した.その時に崩壊した岩石は主に砂岩とチャートである.崩壊源に残された砂岩は黄色化して強く風化しており,灰白色の粘土脈を伴うこともある.第2波は谷の北側(右岸側)で発生したもので,地表付近に分布する厚さ1-2 m程度の赤褐色の土層が表層崩壊したものである.

    破砕帯中の強風化砂岩の崩壊とその高い流動性

     芦北町宮浦および牛淵の崩壊は,いずれも断層面や破砕帯が分離面となっている岩盤崩壊であるが,岩盤崩壊によって流下した主な物質は砂粒子まで分解した砂岩の強風化物であった.そして,これらの崩壊物質は比較的長距離流動し,牛淵では民家を破壊させた.砂岩中に形成された破砕帯の物質が,強く風化して粒子化し,それが長距離を流走して大被害となった同様の例は,平成30年西日本豪雨災害の際に愛媛県宇和島市吉田町畦屋でも発生している(山崎,2019).破砕帯に含まれる砂岩風化物が崩壊後に粒子化し,そこに水が混合して土石流化したと思われる.

    文献

    斎藤眞ほか(2010)20万分の1地質図幅,八代及び野母崎の一部,地質調査総合センター

    山崎新太郎 (2019)平成30年7月豪雨災害調査報告書,61-66,京都大学防災研究所

  • 西山 賢一, 後 誠介
    セッションID: R19-O-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    研究目的:南海トラフを震源として過去に発生した巨大地震では,しばしば山地斜面で大規模な斜面崩壊・地すべりが発生してきたことが知られており,1707年宝永地震で発生したとされる高知県室戸市の加奈木崩れや,静岡市の大谷崩がその代表例である.一方,歴代の南海地震の中ではやや規模が小さかったと考えられている1946年昭和南海地震時に発生した斜面崩壊・地すべりの事例はほとんど知られていなかった.今回筆者らは,南海トラフ巨大地震の影響をこれまでにも受けてきた和歌山県を対象に,郷土誌から,1946年昭和南海地震時に発生したとの目撃証言のある事例を見出し,現地調査によってその崩壊の実態把握を試みたので報告する.

    災害記録:1946年昭和南海地震時に,和歌山県田辺市本宮町にある川湯温泉街で岩盤崩壊が発生したとの目撃証言がある(小渕,2002).著者は川湯温泉の老舗温泉旅館の経営者であり,地震発生時(1946年12月21日午前4時20分頃),川湯温泉の建物から飛び出して大塔川の河原に避難した.その際の証言は以下の通りである:外に出ようとした時,大風でも吹くようなザーという轟音がした.これは,川湯温泉背後斜面の稜線にある無社殿の祠「鉾島(ホコジマ)」付近の岩が崩れ落ちたものであった.

    地形・地質調査:上記の目撃証言をもとに,川湯温泉背後斜面の地形・地質調査を行った.紀伊半島中部の田辺市本宮地域は古第三系四万十帯堆積岩類が広く分布し,一部に中期中新世の貫入岩体が分布する.四万十帯からなる山地斜面には,比較的多くの地すべり地形も分布する.崩壊発生源との証言がある無社殿の祠「鉾島」付近(標高約300m)は丘陵頂部の稜線直下にあたり,四万十帯の礫岩~礫質砂岩(径数cm程度の亜円~円礫)が分布し,しばしば比高10mにも達するトアを形成している.トアの直下には,最大径3mを超えるような巨大な落石ブロックが散在する.一方,崩壊発生源の下方にあたる大塔川河床(標高約60m)にも,径2mを超える落石ブロックが認められる.地元住民への聞き取り結果では,これらの巨岩も1946年南海地震時に崩壊したものであり,崩壊後,船が川湯温泉街に付けられなくなったため,一部は火薬で爆破処理したとのことである.

    結果と考察:以上の結果から,1946年昭和南海地震で発生した川湯温泉の岩盤崩壊は,最大で比高10m程度の礫岩からなる稜線のトアが大きく崩壊したものであり,巨岩はトア下方の谷を転動して大塔川河床に達し,河床部分にも径2m程度の岩塊が多数堆積したことが判明した.

     当地域を含む田辺市本宮地域には,主に四万十帯よりなる斜面に地すべり地形が多く分布しており,2011年台風12号豪雨では斜面崩壊も多く発生した.一方,今回検討した1946年昭和南海地震での岩盤崩壊発生地点は,この種の地すべり地形ではなく,河床からの比高250m程度の比較的細長い稜線頂部のトアで発生した.このことは,記録的豪雨と大地震時における崩壊発生地点の地形・地質的差異を検討するうえで興味深い結果と言える.

    文献:小渕ルリヱ(2002)川湯温泉覚書(一),熊野誌,48,75-85.

  • 吉村 辰朗
    セッションID: R19-O-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
    会議録・要旨集 フリー

    近年「記録的な大雨」が毎年のように降り,豪雨によって引き起こされた斜面崩壊や地すべりなどの災害が頻発している。吉村ら1)の報告では,γ線探査で同じ外力条件(降雨・地震)に対して斜面崩壊箇所を調査し,類似する条件の中でなぜそこが崩壊したのかに着目した結果, 崩壊地では「主断裂・共役断裂で形成される断裂構造」が影響をしていることを確認した。この崩壊の原因となる断裂の属性は広域地質図に記載されている地質断層とは異なり,断裂幅は0.5m~2.5mと小規模なものであり,現地形の大半が形成された第四紀地殻変動に伴うものと推定される2)。尾根・谷の屈曲に留意して,土砂災害発生箇所周辺の断裂線を描いた場合,崩壊箇所は「断裂線間隔が狭い区間」が交差した区域に対応している。崩壊しやすい区域のグリッド幅は崩壊幅にあたり,斜面崩壊で約80m,地すべりで約160m,深層崩壊(十津川村栗林地区)で約240mである。地すべりの崩壊幅がすべり面深度の7~10倍との関係3)から,崩壊形態別にすべり面深度を求めた。このすべり面深度は大まかに経験値と整合することから,断裂構造は崩壊形態を規制していると考えられる。従来,同じような地形地質であっても崩壊する斜面としない斜面があり,崩壊発生危険箇所の予測を難解にしている。崩壊形態を規制する「断裂構造」は,「岩石の破壊条件(地質)」と「応力配置(構造応力)」によって異なるため,断裂構造に関する構造地質学上の知識を斜面崩壊と関連づけて検討することがきわめて重要である。

    文献 1) 吉村辰朗・吉松史徳(2019):断裂による分断に起因する斜面崩壊発生機構,応用地質,59,6,pp.485-494. 2) 吉村辰朗(2021):災害の因となる断裂について,めらんじゅ32号(印刷中). 3) 渡 正亮・小橋澄治(1987):地すべり・斜面崩壊の予知と対策,山海堂,pp.11-12.

  • 小松原 純子, 長 郁夫, 坂田 健太郎, 中澤 努
    セッションID: R19-O-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
    会議録・要旨集 フリー

    東京都湾岸部の沖積低地である東京低地には最終氷期の谷地形を埋めた沖積層が分布している.沖積層は軟弱な地層を主体とし木造建築に被害を与える周期1〜2秒の地震波を増幅させると言われている(境,2009).しかし特に沖積層が厚い地域では,沖積層の基底まですべてが軟弱な地層からなるわけではなく,沖積層中に軟弱な地層の基底がある(小川・中山,2009).地盤を軟らかい/固い地層の二層構造で考えた場合,沖積層の厚い地域では沖積層中にS波速度不連続面が存在し,地盤の卓越周期の成因となっていると考えられる.

    一方,東京低地の沖積層は従来上下に二分され,下位の七号地層は陸成層で比較的固く,上位の有楽町層は海成層で非常に軟弱と言われている(青木,1969).両者で物性が異なるため,地盤震動特性もこれを反映しているはずだが,2層の境界と,S波速度不連続面との関係についてはこれまで詳細な検討は行われてこなかった.

    そこで,(1)沖積層の厚さが地盤特性にどのような影響を与えるか,(2)軟弱な地層の基底であるS波速度不連続面は沖積層のどの層準にあるのか,(3)七号地層と有楽町層という地層境界とS波速度不連続面とはどのような関係にあるかについて明らかにするため,東京低地の中でも沖積層が厚く分布する東京湾岸部で常時微動観測を行った.

    東京湾岸地域には標高-10 m付近に埋没平坦面1(小松原ほか,2021)が分布する地域と最深部の標高が-70 m付近にある埋没谷底の分布域があり,前者の地盤をタイプ1,後者をタイプ2とした.それぞれの地盤で常時微動観測を行ったところ,H/Vスペクトルのピーク周波数はそれぞれ0.5〜0.9 Hzおよび1.7〜2.3 Hzとなった.沖積層の厚い地盤(タイプ1)ではピーク周波数が低周波側に,薄い地盤(タイプ2)ではより高周波数側にあるという傾向は軟弱な地層の厚さの分布を反映していると考えられる.

    さらに,沖積層のどこまでが低いピーク周波数を生み出す「軟弱な」地層なのかを調べるため,沖積層が厚いタイプ1の地盤についてピーク周波数と平均S波速度に1/4波長則を適用し,地盤の共振周波数を特徴付けるS波速度不連続面の深度を求めた.微動アレイ解析によりレーリー波位相速度を求め,深さ30 mまでの平均S波速度を計算したところ,160±15 m/sであった.これを用いて計算するとS波速度不連続面の深さは42.4〜81.8 mとなり,近接した観測点間であっても比較的大きなばらつきを示した.また,観測した16地点中少なくとも8地点において,S波速度不連続面は七号地層と有楽町層の境界よりも下位に位置することがわかった.

    東京湾岸部で掘削された層序ボーリングコアの柱状図においてS波速度不連続面に該当する層相境界は網状河川堆積物の礫層の上面(石原ほか,2004など),蛇行河川の流路堆積物(小松原ほか,2020など)および潮汐流路堆積物(田辺ほか,2012)の砂層の上面などが上げられる.蛇行河川流路堆積物および潮汐流路堆積物は流路に直交する方向に不連続であることが予想され,実際に既存の柱状図を用いた東京湾岸部の断面図(小松原ほか,2021)やボクセルモデルを用いた東京湾岸部の断面図(石原ほか,2013;田辺・石原,2020)でも,基底礫層や上位の海成泥層に比べて層厚が薄く,側方に不連続であることが確認できる.砂泥互層中の砂層が不連続であると,ある地点で砂層が存在し,その近くの地点でその砂層が途切れている場合,S波速度不連続面は前者に比べて後者でより深いところに存在することになる.このように,これらの砂層が側方に不連続であることが,H/Vスペクトルピーク周波数がばらつく原因となっていると考えられる.東京低地の地盤震動特性を検討する場合,七号地層中の層相変化を把握することが重要である.

    青木, 1969, 海岸平野, 15-20.石原ほか, 2004, 地質調査研究報告, 55, 221-235. 石原ほか, 2013, 地質学雑誌, 119, 554-566. 小松原ほか, 2020, 堆積学研究, 79, 1-12. 小松原ほか, 2021, 都市域の地質地盤図,産業技術総合研究所地質調査総合センター,https://gbank.gsj.jp/urbangeol/ 小川・中山, 2009, 平成21年度東京都土木技術支援・人材育成センター年報, 33-42. 境, 2009, 日本地盤工学会誌, no.9, 12-19. 田辺ほか, 2012, 地質学雑誌, 118, 1-19. 田辺・石原, 2020, 地質調査研究報告, 71, 201-213.

  • 中澤 努, 長 郁夫, 小松原 純子, 納谷 友規, 野々垣 進, 宮地 良典, 尾崎 正紀, 坂田 健太郎, 中里 裕臣, 鈴木 毅彦, ...
    セッションID: R19-O-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
    会議録・要旨集 フリー

    近年,首都圏の地下浅部の地質層序・堆積相の研究がすすみ,その成果をもとに3次元地質モデリングが実施され,2021年5月には東京都区部の3次元地質地盤図[URL1]が公開された.今回演者らは,この3次元地質地盤図で示された地質層序・堆積相構成をもとに東京都区部の地盤を類型化し,それぞれの地盤について常時微動観測を行うことで,地盤類型区分に対応した地盤震動特性の把握を試みたので報告する.

    武蔵野台地東部の地下浅部に分布する“東京層”は,土木建築工事の基礎工事や地下水流動など応用地質学的な観点から古くから関心が持たれているが,“東京層”の層序,形成年代については長らく不明であった.都市域の地質地盤図「東京都区部」では,武蔵野台地東部の“東京層”を,層相,テフラ,花粉化石群集などをもとに再検討した結果(中澤ほか,2019,2020;納谷ほか,2020など),従来“東京層”と一括りにされていた地層には,時代の異なる複数の海進–海退サイクルが混在していることが明らかとなり,それらは薮層(MIS 9),上泉層(MIS 7e),東京層(MIS 5e)に区分された.このうち東京層(MIS 5e)は下部と上部に分かれ,下部は開析谷を埋積する主に軟らかい泥層からなる.今回,膨大なボーリングデータをもとに3次元地質モデリングを実施することで,現地形からは分からない東京層(MIS 5e)の谷埋め泥層の分布を抽出することができた.この東京層の谷埋め泥層の分布域で常時微動観測を実施したところ,地盤震動の増幅特性を示すとされるH/Vスペクトルには1〜2 Hzとやや低周波に明瞭なピークが認められた.特に含泥率がほぼ100%の泥層の層厚が20 m以上に達する世田谷地域の埋没谷では1 Hzに明瞭なピークが認められた.一方,この開析谷の分布域以外の地域では同深度に薮層,上泉層の海成の砂層を主体とする地層が分布する.このような地域ではH/Vスペクトルに4 Hzとやや高周波にピークが認められた.このように武蔵野台地においても地下の地質状況,特に谷埋め泥層の分布を反映して地盤震動特性が場所により大きく異なることが明らかになった.

    東京低地の沖積層については大正関東地震直後の復興局の先駆的な調査以降,層序学的,堆積学的,応用地質学的な研究が数多く行われてきた.東京低地下の沖積層は,河川やエスチュアリー成の礫層や砂泥互層からなる七号地層と,その上位の内湾成の軟らかい泥層を主体とする有楽町層に区分されることが多い.

    都市域の地質地盤図「東京都区部」では,膨大なボーリングデータを使用して,これまでにない極めて詳細な沖積層基底の形状を明らかにした.沖積層基底に相当する埋没地形は,埋没谷底と埋没平坦面1〜4に区分される.ここでは埋没谷底を軸とし,その右岸側の埋没平坦面2及び埋没平坦面1,左岸側の埋没平坦面1を横断する東西測線上(上野〜小岩測線)にて常時微動観測を行った.その結果,埋没谷底や埋没平坦面2に相当する地域ではいずれも1 Hz付近にピークをもつH/Vスペクトルが得られた.この測線に沿う埋没平坦面1, 2及び埋没谷底相当地域の平均深度はそれぞれ10, 30, 60 m程度であるが,埋没谷底相当地域には,礫層や砂泥互層からなる七号地層が30 m程度の厚さで分布する.沖積層が厚い埋没谷底相当地域とそれよりも沖積層が薄い埋没平坦面2相当地域でピーク周波数が同程度となったのは,埋没谷底相当地域のピーク生成が沖積層基底ではなく,およそ七号地層と有楽町層の境界に由来するためと考えられる.実際,埋没平坦面2相当地域のピークは極めて明瞭だが,埋没谷底相当地域ではピークは幅の広いなだらかな山状となった.これは埋没平坦面2相当地域では埋没段丘礫層と沖積層(有楽町層相当)の物性のコントラストが極めて大きい一方で,埋没谷底相当地域における七号地層と有楽町層の物性コントラストはそれほどまでには大きくないことに対応している.他方,埋没平坦面1相当地域のH/Vスペクトルは高周波まで比較的フラットな特性を示した.これは平坦面が浅く,沖積層が薄いためと考えられ,低地でありながら,場所によりAVS30(深度30 mまでの平均S波速度)はローム層が厚い台地よりも大きい値を示した.

    このように層序・堆積相の再検討と3次元地質モデリングにより地盤の類型化が可能となり,地盤類型区分ごとの地盤震動特性を知ることで,都市平野部の地震ハザード予測の効率化と高精度化が図られるものと期待される.

    文献

    中澤ほか(2019)地質雑,125,367–385.

    中澤ほか(2020)地調研報,71,19–32.

    納谷ほか(2020)地質雑,126,575–587.

    [URL1] 都市域の地質地盤図,https://gbank.gsj.jp/urbangeol/

R21(口頭)第四紀地質
  • 三田村 宗樹, 高橋 春菜, 岩田 知孝
    セッションID: R21-O-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    奈良盆地東縁断層帯の調査のため,奈良市高畑町-宝来町において測線長約7kmの反射法地震探査が行われた(文部科学省・京都大学防災研究所,2020).さらに,この反射法地震探査と堆積層との関係を把握するために,掘進長303mのオールコアボーリング(孔番NB-1)が奈良市三条本町(北緯34度40分38.639秒,東経135度49分2.741秒,標高65.39m)で行われた.ここでは,採取されたボーリングコア(NB-1コア)の岩相と地層対比について,その概要を報告する.

    NB-1コアは未固結-半固結の礫・砂・シルト・粘土からなり,少なくとも1層の海成粘土層と3層の火山灰層を挟む.NB-1コアの岩相は,下半部の深度303.3-129.6mは中粒-粗粒砂と砂質シルトの互層である.深度141.23mに厚さ0.5cmの白色中粒の火山灰層を挟む.この火山灰層は,多孔質型・中間型の火山ガラス(屈折率1.506-1.508)を多く含み,重鉱物は角閃石を主とし斜方輝石をともなう.上半部の深度129.6-11.3mは細礫-中礫を含む礫層と中粒-粗粒砂層を顕著に挟む礫・砂・シルト互層である.深度108.4-99.8mには暗青灰-青緑灰色を呈する比較的均質な海成粘土層が挟まれる.その上位の深度87.5-86.7mには淡桃白-白色を呈する中粒‐粗粒のガラス質火山灰層を挟む.この火山灰層の火山ガラス(屈折率1.499-1.501)は扁平型・中間型で多孔質型を少量含む.重鉱物は角閃石が大半を占め,少量の斜方輝石を伴う.また,深度43.3-42.8mには淡桃灰~淡紫灰色のシルト混じりの中粒のガラス質火山灰層を挟む.含まれる火山ガラス(屈折率1.511-1.512)は扁平型・中間型で多孔質型を少量含み,最下部では中間型・多孔質型を多く含む.重鉱物は斜方輝石が大半を占め,単斜輝石と少量の角閃石を伴う.深度11.30m以浅は中礫-大礫を含む砂礫層を主とし,最上部は腐植質砂混じり粘土層である.

    深度87.5-86.7mに挟まれる火山灰層は,岩相の特徴・岩石学的性質の類似性,厚い海成粘土層の上位約12mにあるという層位関係などからピンク火山灰層に対比され,深度108.4-99.8mの海成粘土層はMa1層に対比できる.さらに,深度43.3-42.8mの火山灰層は,岩相の特徴・岩石学的性質の類似性から,アズキ火山灰層に対比できる.これより上位の層準については,周辺に分布する段丘構成層などとの対比は現在のところ明らかではない.

    下半部の深度303.3-129.6mは,Ma1層より下位の大阪層群相当層とみられる中粒-粗粒砂と砂質シルトの互層で,北方の奈良丘陵・京阪奈丘陵で認められるMa1層より下位の大阪層群は礫質の礫・砂・シルト互層であり(三田村,1992;河村,1993),岩相が異なっている.深度141.23mに挟まれる火山灰層についても,Ma1層下位でこれまで認められた火山灰層と類似するものは見いだせない.これらの対比については,今後さらなる検討を要する.

    NB-1ボーリングは,反射法地震探査(奈良測線)の反射断面(文部科学省・京都大学防災研究所,2020)のCMP520地点にあたり,この地点の標高-50m付近に認められる連続性の良い反射面はMa1層の下面に相当するとみられる.

    引用文献

    三田村宗樹, 京阪奈丘陵の大阪層群の層序と地質構造, 第四紀研究, 31, 159-177, 1992.

    河村善也, 奈良丘陵の大阪層群, 地質学雑誌, 99, 503-523, 1993.

    文部科学省・京都大学防災研究所, 奈良盆地東縁断層帯における重点的な調査観測,令和元年度成果報告書, 198p, 2020.

  • 吉田 剛, 伊藤 直人, 伴 雅雄, 風岡 修
    セッションID: R21-O-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    はじめに

     本研究地域である千葉県北西部の台地は中期更新世〜後期更新世の下総層群から成り,下位より地蔵堂層,藪層,上泉層,清川層,横田層,木下層の各累層から構成される.これらの累層は下部が主に泥層から,上部が主に厚い砂層から構成される.清川層以深の泥層及び砂層は側方によく連続している.そして,地下水利用などの水文地質学の分野において,泥層は難透水層,砂層は透水層として機能するため,これらの連続性の把握は重要であり,特に汚染の流動に影響を及ぼしている.

     水理地質構造上重要な難透水層の一つに上泉層の下部を構成する泥層(層厚:1 - 5m)があり,本地域では北部の標高-27mから南部の標高-65mに傾斜して分布している.この泥層をYk-C2難透水層と呼称し(風岡ほか,2013;吉田ほか,2017),これに挟まれる軽石質テフラ(Km2テフラ)によって本層の側方への連続性を確認している.

     千葉県習志野市のボーリングコア(NrsC-Fコア:吉田ほか2017, 風岡ほか,2018)において,Km2テフラの上位2〜3mに火山ガラスに富んだ火山灰(NrsC-F-85.87テフラと呼称:層厚:約4 cm)が挟在されており,この火山灰中の火山ガラスの屈折率及び主成分化学組成を行った.そして,Km2テフラとの降灰年代が近い阿多鳥浜テフラ(Ata-Th:Ui, 1971)との対比の検討を行った.

     房総半島においてAta-Thテフラは,千葉県市原市東国吉(中里ほか,2013)のみで確認されていたが,Ata-ThテフラとKm2テフラが同時に認められる地点はこれまでに報告はなかった.

    研究方法

     NrsC-F-85.87テフラについて火山ガラスの形状や重鉱物組成を記載し,(株)古澤地質製の温度変化型屈折率測定装置 MAIOTを使用し火山ガラスの屈折率を測定した.また,山形大学所有の日本電子製EPMA(JXA-8900)を使用し,火山ガラス(n=25)の主成分化学組成を測定した.

    テフラの分析

     NrsC-Fコアの深度88.90m(標高T.P. -65.53m)にKm2テフラが挟在され,その上位(深度85.87m[標高T.P. -62.23m])に,シルト〜極細粒砂サイズの火山ガラスに富む火山灰(NrsC-F-85.87テフラ 層厚: 4cm)が挟在される.町田・新井(2003)によると,Ata-Thテフラは,低屈折率(n = 1.498-1.500)で高SiO2の火山ガラスと石英を含有し,重鉱物組成では角閃石及びほぼ同量の直方輝石,また若干の黒雲母が含まれる.今回NrsC-F-85.87テフラ は,火山ガラスの屈折率がn = 1.497-1.499(1.498),化学組成が SiO2 = 78.05wt.%,K2O = 3.27wt.% であり(Table),Ata-Thテフラとされる給源近傍堆積物中の軽石(町田・新井,1992)・中里ほか(2013)のKm1?テフラと良く一致することから,NrsC-Fコアの深度85.87mの火山ガラスに富む火山灰はAta-Thテフラに対比される可能性が高いことがわかった.

    文 献

     風岡 修ほか,2013,下総台地中央部の更新統の透水層構造と地下水質の概要—印西市〜八千代市について—.第 23 回環境地質学シンポジウム論文集,69-74.

     風岡 修ほか,2018, 第6章 応用地質及び環境地質.都市域の地質地盤図「千葉県北部地域」(説明書),35-44.

     町田 洋・新井房夫,1992,火山灰アトラス〔日本列島とその周辺〕. 東京大学出版会, 276p.

     町田 洋・新井房夫, 2003 火山灰アトラス〔日本列島とその周辺〕. 東京大学出版会, 336p.

     中里裕臣ほか,2013,房総半島北部3次元地質モデルにおける下総層群の層序.日本地質学会要旨

     Ui, T. , 1971 Genesis of magma and structure of magma chamber of several pyroclastic flows in Japan. Jour. Fac. Sci., Univ. Tokyo, Ser II, 18, 53-127.

     吉田 剛ほか, 2017, 千葉県北西部に広域に連続する難透水層(YK-C1,YK-C2)の分布.第 27 回環境地質学シンポジウム 論文集,125-130.

  • 長橋 良隆, 片岡 香子
    セッションID: R21-O-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    福島県中央部に位置する猪苗代湖は,磐梯山における約5万年前の山体崩壊によって,当時の谷部が堰き止められたことにより形成された(長橋ほか,2016).猪苗代湖の湖心部南の水深90m地点において掘削された湖底堆積物コア(INW2012コア)では,過去5万年間の粘土質シルト(コア深度0〜24.61m)中に71層のイベント層が挟在する(Kataoka and Nagahashi, 2019).そのうちの青灰色粘土(Gm)堆積物と下部に砂層を伴う青灰色粘土(Gs)堆積物は,安達太良山の小規模噴火によるラハールが猪苗代湖に流入し,密度流として湖底を流下・堆積したとされた(Kataoka and Nagahashi, 2019).この発表では,2013年に採取した4地点のピストンコアの解析を加えて,猪苗代湖の湖底堆積物からみた過去1万3000年間の安達太良山の小規模噴火の頻度について報告する.

     ピストンコアは,長瀬川河口沖のSt.1(水深44 m)とSt.2(水深68 m),翁島港沖のSt.3(水深59 m),舟津川河口沖のSt.4(水深68 m)において採取した.St.1は長瀬川デルタのデルタフロントに,St.2はプロデルタの緩斜面に位置する.St.1コアは採取長6.8 mで,基底部の年代は約0.6 kaである.Ev1-10の10層のイベント層が挟在し,5層のGm堆積物と2層のGs堆積物に加え,白色粘土(Wm)堆積物が3層認められる.イベント層の層厚は0.2 cm(Wm)〜7.5 cm(Gm)であり,平均層厚は1.5 cmである.St.2コアは採取長7.6 mで,基底部の年代は約9 kaである.Ev1—38の38層のイベント層が挟在し,30層のGm堆積物,1層のGs堆積物,7層のWm堆積物が認められる.イベント層の層厚は0.1 cm(Gm)に満たないものから最大4.2 cm(Gs)であり,平均層厚は0.7 cmである.St.3はプロデルタの緩斜面に位置する.St.3コアは採取長8.4 mで,基底部の年代は約13 kaである.Ev1—33の33層のイベント層が挟在し,22層のGm堆積物,4層のGs堆積物,7層のWm堆積物が認められる.イベント層の層厚は0.1 cm(Gm)〜6.8 cm(Gs)であり,平均層厚は0.7 cmである.St.4コアは採取長8.4 mで,基底部の年代は約18 kaである.St.4コアにはイベント層は認められない.

     各コアの堆積年代をイベント層の総数で割ると,St.2コアが237年,St.3コアが394年となる.これは,INW2012コアのGm・Gs堆積物の過去5万年間の発生間隔である1670年の約4から7倍の頻度となる.また,St.2・3・4コアには,共通して4層のテフラ鍵層(上位より順に,Hr-FPテフラ,Hr-FAテフラ,Nm-NKテフラ,To—Cuテフラ)が挟まる(長橋ほか,2014)ため,このテフラ鍵層と放射性炭素年代からイベント層の時空間分布が把握できる.猪苗代湖南部で採取したSt.4コアにはイベント層が挟まれないこと,INW2012コアの過去1万3000年間のイベント層の層数(14層)よりもSt.2・3コアのイベント層の層数の方が多いことは,これらのイベント層の供給源が猪苗代湖の北方にあることを示している.また,St.3コアのNm-NKテフラ(5.4 ka)下位に挟まるEv20—22イベント層は,St.3コアの堆積速度から約7 kaの年代と推定できるが,St.2コアの同層準には認められない.一方,St.3コアのNm-NK上位のEv4-19イベント層は,St.2コアの同層準に認められる.しかし,2 kaより新しいイベント層は,St.2コアにおいてEv1-20の20層が認められるのに対して,St.3コアの同層準には認められない.このことは,少なくとも2 ka以降に長瀬川の河口が現在の位置から大きく変化していないことを示す.複数地点で採取した湖底堆積物コアに挟まるイベント層の時空間分布は,湖と接続する河川系の河口位置の変化や河川系を通じて流入するイベント層の発生頻度(安達太良山の小規模噴火の頻度)をより詳しく検討することができる.

    [文献 ]Kataoka K.S. and Nagahashi Y. (2019) Sedimentology, 66, 2784-2827. 長橋良隆・片岡香子・中澤なおみ(2016.3)塘 忠顕編著「裏磐梯・猪苗代地域の環境学」:17-31,福島民報社.長橋良隆・片岡香子・廣瀬孝太郎・神野成美・中澤なおみ(2014)共生のシステム,no.14,18-25.

R22(口頭)地球史
  • 黒田 潤一郎
    セッションID: R22-O-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    白亜紀‐古第三紀(K-Pg)境界は,チクシュルブ小惑星衝突とそれに由来する白金族元素の地球規模での堆積で特徴づけられる.白金族元素のうち,特にイリジウムやオスミウムの濃度とオスミウム放射性起源同位体組成は世界各地のK-Pg層の認定に重要な役割を果たし,そのパターンは堆積層の連続性を評価する指標にもなる.K-Pg境界に限って.これまで,南極海や南大西洋などではオスミウム同位体記録を基にK-Pg境界層の連続性が示されてきた.本研究では,オーストラリア東方沖Lord Howe Rise の Site 208 と南西沖 Mentelle Basin の Site U1614C の掘削コアで報告されている K-Pg 境界層のオスミウム同位体記録を基に,その連続性や岩相変化との関連について議論する.また,他のサイトとの対比を行い,南半球高緯度,特に東ゴンドワナ周辺におけるK-Pg層の特徴を検討する.

    DSDP Site 208 は Lord Howe Rise 北部に位置し,最上部白亜系までが掘削回収された.厚いチョークに挟まれる厚さ約1mの珪質堆積物の基底部(海底下576.8m)がK-Pg境界であることがナノ化石層序から明らかになっている.この層準ではオスミウム同位体比の一時的な低下が認められるものの,その濃度は低く,K-Pg 境界層はハイエイタスで欠如していると思われる.それでもハイエイタスは短期的で,すぐに珪質堆積物の堆積が始まる.

    Site U1514 は Mentelle Basin の深部に位置する.掘削されたコアは新生代と白亜紀の堆積物からなる.海底下393.5 m にK-Pg境界が位置することがナノ化石層序から明らかになった.この層準は,後期白亜紀マーストリヒチアンのチョークと暁新世ダニアンの粘土岩の境界に位置し,激しい生物擾乱で特徴づけられる.この層準では明瞭なイリジウムやオスミウム濃度の低下が認められ,オスミウム同位体比もまた明瞭な低下を示す.この白金族元素の地球化学的特徴はK-Pg境界の特徴をほぼ完全に有しており,K-Pg境界層が連続的に堆積したことが示された.

  • 曽田 勝仁, 冨松 由希, 山下 大輔, 尾上 哲治, 池原 実
    セッションID: R22-O-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    三畳紀/ジュラ紀(T/J)境界は顕生累代における五大大量絶滅の1つで,ジュラ紀型のアンモナイトや放散虫の出現などによって特徴付けられ,パンサラッサ海遠洋深海域で堆積した美濃帯の層状チャートでも認められる.美濃帯勝山セクションではT/J境界層の年代値を基にしたミランコビッチサイクル層序が構築されるなど(Ikeda and Tada, 2014),その層序学的枠組みはほとんど確立されていると認識されてきた.しかし,勝山セクションの微化石−古地磁気層序の結果はサイクル層序の年代値とは合致せず,例えばT/J境界層付近において構造変形による数十万年以上の層序の欠損が近年指摘されている(Yamashita et al., 2018).サイクル層序は数万年オーダーの高い解像度を持つが,堆積層の連続性や計算上の仮定に依存するため低い年代決定精度を示す場合がある(Ogg et al., 2014).そのためサイクル層序の年代決定精度を向上させるには,美濃帯のT/J境界層における連続層序の確立が不可欠である.そこで本研究では,これまでに検討されていないセクションを調査対象にすることで,パンサラッサ海遠洋深海域でのT/J境界層の層序を再検討し,より正確な時間軸と環境変動の復元を目的とした.

     研究対象は愛知県から岐阜県にかけて分布する美濃帯上麻生ユニットである.本研究では未検討である栗栖鉱山セクションと令和2年7月の豪雨災害で出現した坂祝町取組のセクションについて野外調査を行った.調査では単層ごとに実測柱状図を作成し,チャートと頁岩試料を採取した.年代決定のためにフッ酸処理による放散虫・コノドント化石の抽出を行った.主要元素に関しては加圧ペレットを作成し,蛍光X線分析装置を用いて測定を行なった.微量元素に関しては誘導結合プラズマ質量分析装置を用いて分析を行った.

     研究の結果,採取した試料からは三畳紀末期を示すコノドント化石のほか,ジュラ系基底を特徴付ける放散虫Pantanellium tanuenseが産出し,その他にPantanellium browni, Praehexasaturnalis tetraradiatus, Amuria impensaなども確認できた.規格化したMnの存在度に関しては先行研究(Fujisaki et al., 2020)とは異なり,最上部三畳系では1桁程度低いため,三畳紀末期のパンサラッサ海遠洋域において還元的な海洋環境が発達していたことが分かった.Mgに関しては先行研究(Ikeda et al., 2015)のように下部ジュラ系で高くなることから,CAMPのような苦鉄質な物質の供給が想定される.ただしFeに関しては明瞭な差異は認められず,先行研究で指摘されているような海洋酸性化(Abrajevitch et al., 2013; Ikeda et al., 2015)の影響については現時点では不明である.Crに関しては先行研究(Fujisaki et al., 2020)では見られない200−500 ppm含む層準が複数検出されたが,強還元環境に特徴的な元素(MoやUなど)の濃集を伴わないことから,濃集メカニズムとして例えば巨大火成岩岩石区や隕石衝突クレーターの形成と関連づけることができる可能性がある.今後は上記イベントに関して本格的な議論を行うため,より詳細で高解像度な微化石層序に加えて,白金族元素などの同位体地球化学分析などを行っていく予定である.

    引用文献

    Abrajevitch et al., 2013, Geology, 5, 375–383.

    Fujisaki et al., 2020, ESR, 204, 103173.

    Ikeda and Tada, 2014, EPSL, 399, 30–43.

    Ikeda et al., 2015, Palaeo3, 440, 725–733.

    Ogg et al., 2014, Albertiana, 41, 3–30.

    Yamashita et al., 2018, Paleontl. Res., 22, 167–197.

  • 冨松 由希, 野崎 達生, 佐藤 峰南, 高谷 雄太郎, 木村 純一, 常 青, 奈良岡 浩, 尾上 哲治
    セッションID: R22-O-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    三畳紀は全体を通じて高温で乾燥気候であったことが知られているが,約2億3200万年前の後期三畳紀カーニアン階では,降水量が突如激増し,200万年にわたって汎世界的な湿潤化が起こったことが知られている.このカーニアン多雨事象(CPE;Carnian Pluvial Episode)は前期カーニアン(ジュリアン)の最後期から後期カーニアン(チュバリアン)の初頭にかけて発生し,堆積層の明確な変化や海生・陸上生物の絶滅と進化的進化が起こっていたことが知られている(Simms and Ruffell, 1989). CPE時には複数回の特徴的な有機炭素同位体比の負異常が報告されており,これらを引き起こした要因として,北米西部に分布するランゲリア洪水玄武岩の噴出が提案されてきた.しかしランゲリア洪水玄武岩の年代測定の不確実性の幅は100万年以上に上ることから,ランゲリアの火山活動と気候変動が同時期に起こったと示すことが難しいと指摘されてきた.そこで本研究では,CPEの原因として提案されている火山活動と気候変動の関連性について明らかにすることを目的として,岐阜県東部坂祝町に分布する美濃帯上部三畳系層状チャート(セクションN-O)を対象に,詳細な微化石層序と有機炭素同位体層序による高精度な年代決定を行い,XRFによる主要元素濃度分析,ICP-QMSによる微量元素濃度分析,MC-ICP-MSによるオスミウム同位体比の分析を行った.

     研究の結果,高分解能の微化石層序およびオスミウム同位体比分析により,以下のような特徴的なオスミウム同位比(187Os/188Osi)の変動が認められた.まず(1)前期ジュリアンにおいて緩やかに同位体比が減少し(1.02から0.356),(2)後期ジュリアンを通じて低い同位体比(0.231から0.474)を示す期間が継続し,(3)ジュリアンの最後期では急激な同位体比の増加(0.282から0.627)が認められた.さらに微量元素濃度分析の結果,ジュリアン末のオスミウム同位体火が最も低下する層準(NCL1)付近において,酸化還元環境に鋭敏な元素であるバナジウムとウランの異常濃集が認められた.

     後期ジュリアンにわたって低い同位体比を示す期間が続いたことは,大規模な火山活動に由来する低い同位体比を持つオスミウムが海洋に供給されたことを反映していると考えられる.ジュリアンでは,パンサラサ海におけるランゲリア洪水玄武岩の大規模な噴出や,西南日本のジュラ紀付加体である三宝山帯,ロシアのタウハ帯を構成する海洋島玄武岩の噴出が知られている.これら同一年代にパンサラサ海で噴出した玄武岩は,ランゲリア火成岩岩石区(LIP)を形成していた可能性があり,ジュリアンのパンサラサ海におけるオスミウム同位体比の長期間の低下をもたらしたと考えられる.またコノドント生層序と有機炭素同位体層序を用いた年代決定により,後期ジュリアンの期間においてCPEに特徴的な有機炭素同位体比の負異常が複数認められたことから,ランゲリアLIPの火山活動が活発な時期とCPEの期間が一致することが明らかとなった.さらに微量元素濃度分析の結果,ジュリアン末において酸化還元環境に鋭敏な元素であるバナジウムとウランの異常濃集が認められており,ジュリアン最後期の火山活動が最も活発な時期に,パンサラサ海海洋底にて貧酸素〜無酸素化が発達した可能性が示された.ジュリアン末ではコノドントやアンモナイトなどの海生生物の絶滅が知られており,パンサラサ海における還元的海洋環境への変化の原因や絶滅との関連性について,詳細な検討を進める必要がある.

    引用文献

    Simms, M.J., Ruffell, A.H., 1989, Synchroneity of climatic change and extinctions in the Late Triassic. Geology 17, 265–268.

  • 尾上 哲治, Michalík Jozef, 白水 秀子, 山下 勝行, 山下 美沙, 川上 高平, 日下 宗一郎, 曽田 勝仁
    セッションID: R22-O-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    今からおよそ2億140万年前に起こった三畳紀末大量絶滅は,中央大西洋火成岩岩石区(CAMP)における大規模な火山活動が引き金になって発生したと考えられている(Marzoli et al., 1999; Davies et al., 2017).三畳紀末大量絶滅は,低〜中緯度の浅海・底生生物において特に高い絶滅率を持つことが知られており(Kiessling et al., 2007),その原因のひとつとして海洋無酸素事変や有害元素の海洋流出などが提案されている.テチス海北西部の浅海性堆積物に含まれる花粉化石や煤の研究からは,絶滅期間に大規模な森林火災と土壌流出が起こった可能性が指摘されており,土壌流出と海洋無酸素事変との関連性が議論されている(van de Schootbrugge et al., 2020).しかし土壌流出を示す花粉化石の記録は,現時点ではデンマークとドイツの堆積盆堆積物に限られており,この時期の環境変動や大量絶滅との関係については不明な点が多い.そこで本研究では,後期三畳紀レーティアンから前期ジュラ紀ヘッタンギアンまでの連続した層序が観察されるスロバキアKardolínaセクション(Michalík et al., 2007)の炭酸塩岩-砕屑岩層について,ストロンチウム・ネオジム・炭素同位体比分析および主要・微量元素分析を行い,テチス海北西部における当時の環境変動を明らかにすることを目的として研究を行った. Kardolínaセクションは,スロバキア北部,Tatra山地の西側斜面に位置し,主にレーティアンFatra層の炭酸塩岩-砕屑岩層と,ヘッタンギアンKopieniec層の砕屑岩層から構成される.セクションの全層厚は約100mである.Fatra層の有孔虫化石群集から,当時の堆積環境は浅海域と考えられている.本研究の薄片観察の結果からも,Fatra層は浅海性生物遺骸やウーイドを含むwackestoneからgrainstoneにより構成され,浅海性の堆積物であることが明らかになっている. 炭酸塩岩の炭素同位体比分析の結果,Fatra層最上部で2度の炭素同位体比の負の変動(NCIE)が確認された.先行研究による花粉化石の検討から,これらの負の変動は,レーティアン最末期のRicciisporitesPolydiisporites花粉化石帯で起こったことが明らかになっている.そのため,これら2度のNCIEは,テチス海北西部で報告されている"precursor"および"initial" NCIEイベントに比較されると考えられる.淡水続成作用やドロマイト化作用の影響を受けていない炭酸塩岩についてストロンチウム(Sr)同位体比分析を行ったところ,precursorイベントより上位層準において,Sr同位体比の急激な上昇が認められた.Fatra層のネオジム同位体比分析の結果からは,テチス海北西部のボヘミア地塊がFatra層の陸源砕屑物の供給源である可能性が示唆された.そのため,precursorイベントより上位にみられるSr同位体比の上昇は,ボヘミア地塊の大陸風化が,レーティアン最末期に急激に増加したことを示していると考えられる.本研究では,炭酸塩岩の主要元素濃度に対する多変量解析からも,大陸の化学風化がprecursorイベント以降に促進された結果が得られており,上記のSr同位体比分析の結果を支持している.また本研究からは,このprecursorイベント以降の大陸風化の増加にともなって,特徴的に鉄質ウーイドが形成される堆積環境に移行したことが明らかになった.炭酸塩岩中に含まれる酸化還元に鋭敏なバナジウムやクロム濃度は,鉄質ウーイドが還元的海洋環境下において形成されたことを示唆している.以上の結果から,テチス北西部においては,レーティアン最末期の大陸風化の増加に伴い浅海域が貧酸素〜無酸素環境に変化した可能性があり,このような海洋環境の変化が三畳紀末大量絶滅の要因のひとつとなったと考えられる.

    引用文献 Davies et al., 2017, Nat Commun, 8, 15596; Kiessling et al,. 2007, Palaeogr Palaeoclimat Palaeoecol, 244, 71-88; Marzoli et al., 1999, Science, 284, 616-618; Michalík et al,. 2007, Palaeogr Palaeoclimat Palaeoecol, 244, 71-88; van de Schootbrugge et al., 2000, Earth-Sci Rev, 210, 103332.

  • 清川 昌一, 堀 航喜, 酒本 直弥, 倉冨 隆, 後藤 秀作, 池原 実
    セッションID: R22-O-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    薩摩硫黄島は九州南沖約50 kmに位置する火山島であり,鬼界カルデラの北西縁に位置する.島の周辺海域には酸性熱水が流出しており,海水と混合することで褐色〜乳白色の海水がみられる.特に島南部の長浜湾は溶存鉄や遊離CO2に富む,pH 4.4 ~ 5.5程度の弱酸性の熱水 (四ヶ浦・田崎, 2001;坂元, 2015) が供給され,析出した鉄酸化物が海底に堆積し,海底湧水部分では水酸化鉄チムニーの存在が明らかになってきた(e.g., Kiyokawa and Ueshiba, 2015, Kiyokawa et al., 2021).

     本発表では,長浜湾における熱水湧出場の特定やチムニーマウンドおよび堆積層における鉄の酸化・沈殿プロセスについて,水酸化鉄の形成・沈殿・沈殿後の続成最初期状況について検討を行った.コア試料は潜水により取得し,堆積物トラップは半年ごとに追加しながら,連続9xrd年間の試料を取得しており,実際の地層に残される堆積層との比較を行っている.取得した試料は,すぐに高知大学海洋総合コアセンターに運び,冷蔵して保存し,記載,CTスキャン,化学分析を行っている.海水の分析: ICP-OES, 結晶構造:XRD(ともに九州大学)を使用した.

     海底湧出場所の特定のために,湾内の船付き場(East and West sites)および海岸線における赤外線サーモグラフィドローン探査を行った.結果,今まで明らかでなかった湾内の複数箇所で熱水噴出源が特定され,弱酸性熱水が海水面に広がる様子が見られた.また水質の測定では,海水面付近付近では相対的に低いpH,ORP,EC値と高い濁度を示し,特にpHと濁度値は強い相関を示し,表層付近でpHは最小で濁度は最大であった.海中カメラの水塊画像においても,表層では濁りが強く,海底付近(pH≈8)では析出物の凝集が進み,濁りが弱くなっている.

     Eastサイトでは,チムニーマウンドが形成されており,比較的古いマウンドについてCTスキャン,薄片観察,電顕観察,微生物(DNA)解析などを行った.マウンドには,細いパイプ上の熱水の抜け後がみられ,パイプはバクテリア形体をした水酸化鉄で形成されていた.水酸化鉄部分は,鉄還元バクテリアに特有のツイストをした組織を持ち,Zetaproteobacteria (Mariprofundus ferrooxydans : Hoshino et al., 2016)である. 一方,Westサイトでは.1-2mの水酸化鉄沈殿層が確認されている.本層の水酸化鉄には,バクテリアの痕跡がほとんどなく,水酸化鉄コロイドや火山性細粒堆積物が互層をする.

     海底表層コア試料(約40 cm:2020年10月取得)について間隙水元素測定を行った結果,海底表層から下に向かってpHの値は海水に近い7.5から熱水に近い5.8程度まで下がり,FeやMn,Siといった元素の濃度が増加した.さらに別の海底コア試料(2020年取得)から採取した試料のXRDを行った結果,堆積物上部(10~20 cmbsf)からはゲーサイト,それ以深からはシデライトのピークが得られた.このシデライトはSEM観察においてこのシデライトは菱形の自形を表していた. つまり,Westサイトでは水塊表層付近では鉄の無機酸化が生じ,まず,水酸化鉄の初生物やゲーサイトの前駆体であるフェリハイドライトとして個体析出する.海水との混合により生じるpHの上昇は,沈殿途中の水酸化鉄の凝集を強く支配していると考えられる.沈殿後,表層付近で一部はゲーサイトに変化し,20-40cmほどから非晶質の水酸化鉄堆積物の再還元・もしくは2価鉄を含む温泉水によりシデライトの形成が考えられる.シデライト結晶は堆積物内でより成長していると考えられる.これは,太古代で見られるシデライトBIFにおいても,堆積直後にはすでに形成可能であることを示唆している.

     このように,薩摩硫黄島長浜湾では,2価鉄を含む温泉水の流出により,1)微生物が寄与した水酸化鉄チムニーの形成,2)化学的な水酸化鉄形成がみられる.また,海岸線には,水酸化鉄をまとった砂(グラニュール)が広がっている.長浜湾の鉄沈殿物は,太古代/原生代のBIF, GIF, 顕生代の鉄層などの堆積場を考える上で重要な化学的・生物学的なヒントが観察される.

  • 齋藤 大樹, 山口 耕生, 井尻 暁, 奥村 知世
    セッションID: R22-O-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    酸素発生型光合成はいつ始まったのか? 初期地球の大気—海洋—生命システムの進化において極めて重要であるこの疑問の回答は、まだ得られていない。シアノバクテリアとされる微化石様構造を持つ炭質物は約35億年前のチャートから発見されているが(例:Schopf, 1993)、その起源には疑問が呈されている(例:Brasier et al., 2002)。約27億年前の黒色頁岩よりシアノバクテリア起源とされるバイオマーカー (2α-メチルホパン)が報告されているが(Brocks et al., 1999)、これは後の時代の混入(石油の流入や掘削や貯蔵中に混入)である可能性が示唆された(Rasmussen et al., 2008; Brocks, 2011)こともあり、酸素発生型光合成バクテリアの化石記録については議論が続いている(Sessions et al., 2009)。従来のバイオマーカー分析では、岩石粉末から有機溶媒で有機物を抽出するために岩石中の位置情報が失われるので、それが堆積時の微生物の死骸由来(現地性)か、堆積後に石油等の流体として導入された汚染由来か、あるいは試料採取時・保管時・分析時による汚染由来かが、判断ができない。そこで本研究では、医療用に開発された「イメージング質量分析」(iMscope; 原理はMALDI-TOFMS)という新手法を初めて地質試料に応用し、バイオマーカーの位置情報を伴う「その場測定」を行い、その起源を探ることを目指す。本研究では、標準試料2α+2β-,17α(H)-21β(H)-2-Methylhopane、オーストラリア北西部で掘削された約27億年前の黒色頁岩2種(WRL1、RHDH2A)、同地域Tumbiana 層で掘削された約27億年前のストロマトライト炭酸塩岩(ABDP#10)、を用いた。作成した薄片試料から岩石の薄膜を剥離して測定用のステンレス板に張り付け、海洋研究開発機構高知コア研究所のiMscopeを用いて、バイオマーカーの二次元マッピングを行った。まずは、標準試料がきちんとマッピングできるかどうかを確認するための測定を行った。標準試料をメタノールで溶いた400pmol/μLの標準溶液を調製し、黒色頁岩の薄片を張り付けたステンレス板の薄片部分と金属部分の直径1mm程度の微小領域を凹ませ、それぞれのクレーター様の穴に標準試料溶液を滴下した。薄片部分では標準試料を滴下した周辺部を、金属部分では目視により確認した標準試料の塗布の有無が顕著な範囲を、それぞれ測定した。その結果、上記の薄片部分と金属部分の両方において、標準試料を塗布した部分にのみm/z=368.4のピークが検出され、2メチルホパンのフラグメントはm/z=368.4をメインとして検出されることがわかった。先行研究ではホパンのフラグメントはm/z=191.2とされてきたが、今回の標準試料測定ではこのm/z=191.2のピークを検出することはできなかった。これは、本研究のiMScopeと従来法のGC-MSのイオン化の方法の違いによるものと考えられる。本研究は、MALDI-TOFMSによりシアノバクテリアのバイオマーカーとされる2メチルホパンを初めて検出した例となる。 他の掘削試料では、約27億年前の浅海性黒色頁岩RHDH2A、深海性黒色頁岩WRL1、含ストロマトライト炭酸塩岩ABDP#10の複数の試料において、m/z=368.4が初生的な堆積構造に沿う局所的な分布を示していることを確認することができた。このことは、2メチルホパンが堆積構造に沿う微生物(の死骸)の局所的な分布をしていることを反映し、かつ、後の時代の混入ではなく堆積時に集積したものであることを強く示唆する。

    ReferencesBrasier, M.D. et al. (2002) Nature 416, 76–81.Brocks, J.J. et al. (1999) Science 285, 1033-1036. Brocks, J.J. (2011) Geochim. Cosmochim. Acta 75, 3196-3213.Rasmussen, B. et al. (2008) Nature 455, 1101-1104.Schopf, J.W (1993) Science 260, 640-646. Sessions, A.L. et al. (2009) Current Biol. 19, R567-R574.

  • 杉谷 健一郎
    セッションID: R22-O-7
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    Following several controversies, there now exist sufficient lines of evidence regarding life on the early Archean Earth (>3.0 Ga), which include isotopic and molecular signatures, biologically mediated sedimentary structures (stromatolite), and cellularly preserved microfossils. The early Archean cellularly-preserved microfossils are morphologically diverse, including septate and non-septate filaments, small to large (<1 to 60 µm in diameter) colonial spheres, and lenses (20 to 100 µm across). Among them, the lenses (lenticular microfossils) discovered from the 3.0 Ga Farrel Quartzite and the 3.4 Ga Strelley Pool Formation in the Pilbara Craton, Western Australia, and the 3.4 Ga Kromberg Formation in the Kaapvaal Craton, South Africa, are particularly important. They are composed of a central spheroid body surrounded by thin discoid flange. Although the biogenicity of lenticular structures has long been subjected to skepticism, it has currently been established and widely accepted through multidisciplinary studies performed by over 20 researchers from 6 countries. The next research target is to elucidate the ecology and biological affinity of lenticular microfossils. Our recent studies have shown that lenticular microfossils represent autotrophic and planktonic organisms that had acid-resistant robust envelopes and, if not all, an inner alveolar structure; they can be statistically classified into several groups based on minor morphological variations; and they reproduced by multiple fissions in addition to simple binary fissions. It is likely that lenticular microfossils were photoautotrophs, although it is still equivocal whether they produced oxygen or not. Their robust cell wall might be a consequence of adaptation to the harsh Archean environment, including e.g., violent volcanic activity and repeated asteroid impacts, although the high density of the cell wall had potentially reduced their planktonic habit. Lenticular microorganisms might have had enlarged cell volume and evolved flanges in order to counterbalance this disadvantage. Although comprehensive information about lenticular microfossils remains unavailable, they provide invaluable insights into the ecology and evolution of life on the early Archean Earth and potentially other planets such as Mars.

  • 石輪 健樹, 菅沼 悠介, 奥野 淳一, 徳田 悠希, 香月 興太, 田村 亨, 板木 拓也, 佐々木 聡史
    セッションID: R22-O-8
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    将来の地球温暖化が危惧されている現在,全球的な気候変動に対する南極氷床の応答を理解することは学術的にも社会的にも喫緊の課題である.東南極氷床は数十メートルの海水準上昇に寄与する淡水を保持しており,地質データからは過去の温暖期において部分的に融解していた可能性が示唆されている(Wilson et al., 2018).一方,衛星をはじめとする観測データは過去数十年に限られるため,数万〜数百年の時間スケールの氷床変動を理解するには,モデルシミュレーションおよび地質データから過去の南極氷床変動史を復元することが不可欠である.

    過去の南極氷床変動の復元には海水準データが重要な役割を果たす.南極域の海水準データは氷床変動に伴う全球的な海水量変化と氷床・海水をはじめとする表層荷重による固体地球変形の効果(GIA: Glacial Isostatic Adjustments)を含んでおり,GIAモデルと地質データの比較により氷床変動史に制約が可能である.しかし,最終間氷期から現在における東南極氷床変動史は,時空間的な氷床変動記録の欠如により十分に復元されていない.したがって,本研究はGIAモデルと堆積物試料分析により最終間氷期以降の東南極氷床変動を復元し,その変動メカニズムの解明につなげることを目的とした.

    第61次日本南極地域観測隊では,東南極・リュッツォ・ホルム湾の露岩域であるラングホブデとオングル島での地形調査を実施し,陸上・湖沼・海洋堆積物をはじめとする地質試料を採取した.これらの試料は過去の海水準・氷床変動を記録していると期待され,GIAモデルを組み合わせることで過去の東南極氷床変動史の制約が可能である.本発表では,採取した堆積物試料分析の予察的結果を報告する.また,リュッツォ・ホルム湾で既に報告されている海水準変動記録(Miura et al., 1998)を再評価し,GIAモデルにより氷期の東南極氷床変動史を制約した研究成果についても発表する(Ishiwa et al., 2021).

  • 青山 和弘, 田近 英一, 尾崎 和海
    セッションID: R22-O-9
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    大気中の酸素濃度は,顕生代を通じて大きく変動し,節足動物の巨大化や恐竜の繁栄など,生物の変遷にも影響を与えてきたと考えられている[1].顕生代初期まで,生物による基礎生産や有機物の埋没の大部分は,海洋域のみで生じていたといえる.オルドビス紀からシルル紀にかけて植物が陸上に進出し,それによって陸域においても基礎生産や有機物の埋没が大規模に生じるようになったことで,現在のように,有機物の生産と埋没が,陸と海で生じるようになったと考えられる.有機物の埋没は大気酸素の正味の供給過程であるため,陸と海における埋没の変動は大気酸素濃度の変遷に大きく影響を与えたはずである.しかし,海水の炭素及び硫黄同位体比データを用いた従来の物質循環モデル研究において,陸域及び海洋域を区別した有機物埋没率の変動やそれらの酸素濃度への影響は推定されてこなかった.

    そこで本研究では,炭素・硫黄循環結合モデルGEOCARBSULF[2, 3, 4, 5, 6]を改良し,有機物埋没率を陸域と海洋域に分離することでこの問題について検討を行った.富酸素海洋環境には硫酸イオンが豊富に含まれる一方,陸域淡水環境には硫酸イオンはほとんど含まれない.このため,堆積物中の有機炭素と黄鉄鉱硫黄の比 (C/S比) には大きな違いが生じる[7].この堆積環境によるC/S比の違い及び,モデルから復元される全球的な有機炭素と黄鉄鉱硫黄の埋没率の比を用いることで,全球的な有機物埋没率を陸域と海洋域に分離することを試みた.

    その結果,陸域における有機物埋没は,維管束植物が出現した後,最古の森林が形成されたシルル紀からデボン紀にかけて初めて有意に生じることが示された.そして,大量の石炭が生成された石炭紀後半からペルム紀前半にかけては,陸域における有機物埋没率が大きく増加するという,従来の推定[8, 9]を裏付ける結果が得られた.また,大量絶滅境界であるペルム紀/三畳紀境界 (P/T境界) やフラニアン期/ファメニアン期境界 (F/F境界) において陸域における有機物埋没率は大きく低下する一方,海洋域における有機物埋没率は,おそらく大規模で長期間にわたる海洋無酸素イベント (OAE) の発生と関連して増加するという結果が得られた.

    顕生代における大気酸素濃度変動に関しては,カンブリア紀~オルドビス紀では海洋域の影響のみしかみられないが,シルル紀~デボン紀では陸域の影響がみえはじめ,石炭紀~白亜紀には主に陸域の影響が,新生代は陸域と海洋域の両方の影響が大きかったという結果が得られた.これは,陸上植物の進出と分布域の拡大,超大陸の内陸部における大森林の発達及び湿地帯の形成による陸上植物の埋没率の増加,ヒマラヤ造山運動に伴う侵食率の増加とそれによる海洋域での堆積速度及び有機物埋没効率の増加といった,陸域と海洋域における変動を反映していると考えられる.

    引用文献

    [1] Ward P., 2006, Out of Thin Air: Dinosaurs, Birds, and Earth's Ancient Atmosphere. National Academy Press.

    [2] Berner, R. A., 2006. Geochimica Et Cosmochimica Acta. 70, 5653-5664.

    [3] Berner, R. A., 2006. American Journal of Science. 306, 295-302.

    [4] Berner, R. A., 2008. American Journal of Science. 308, 100-103.

    [5] Berner, R. A., 2009. American Journal of Science. 309, 603-606.

    [6] Royer, D. L., Donnadieu, Y., Park, J., Kowalczyk, J., Godderis, Y., 2014. American Journal of Science. 314, 1259-1283.

    [7] Berner, R. A. and Raiswell, R., 1983. Geochimica Et Cosmochimica Acta. 47, 855-862.

    [8] Berner, R. A., 1998. Philosophical Transactions of the Royal Society of London Series B: Biological Sciences. 353, 75-81.

    [9] Berner, R. A., 2003. Nature. 426, 323-326.

  • 長谷川 精
    セッションID: R22-O-10
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    地球の表層環境は,数億年スケールで変化する大陸の集合離散に伴う変動や,数万年~十万年スケールで変化する氷期-間氷期サイクル,千年スケールで起こったダンスガード・オシュガー・イベント(DOイベント)など,様々な時間スケールと要因で変化してきた.地層や堆積物に記録される過去の表層環境変動の実態や変動要因を探ることは,温暖化に伴って大きく変動しつつある地球環境の近未来予測の上でも重要である.講演者はこれまで,亜熱帯乾燥域の風成層記録 [1-3]や,温帯湿潤域の湖成層記録 [4,5],そして亜寒帯の永久凍土記録を調べることにより,過去の陸域気候帯の分布変遷や大気循環系の実態解明を試みてきた.本発表では,世界各地の地層や堆積物コアを調べることで明らかになってきた,過去の地球表層環境変動について紹介する.また比較惑星学的な視点から進めてきた火星の表層環境史 [6,7]についても紹介する.

    風成層から読み解く白亜紀“温室期”と超大陸パンゲア時代の大気循環

     砂漠環境は,ハドレー循環の下降域に当たる亜熱帯高圧帯下(南北20-30°付近)で発達する.また風成砂丘は卓越地表風の風向を大型斜交層理構造として保存する.したがって,風成層の分布や大型斜交層理に記録される古風向を解析することで,過去の亜熱帯高圧帯の位置を復元できる.我々はこの着想に基づき,モンゴル・中国・タイの白亜系風成層を調査して砂漠分布と古風向の解析を行い,過去の亜熱帯高圧帯の位置を復元した [1-3].そして白亜紀を通じた亜熱帯高圧帯の緯度方向シフトを明らかにし,温暖化に伴うハドレー循環の応答に関する新仮説を提唱した [3].

     また米国中西部(アリゾナ・ユタ・ワイオミング州)に露出する下部ジュラ系風成層(ナバホ砂岩)の調査と古風向パターンの解析により,超大陸パンゲア時代の大気循環系の復元も試みた。その結果,超大陸パンゲアの卓越風系のオービタル変動を反映して,北緯18-27°の緯度帯に縦列砂丘を主体とする砂漠環境が広がったことを明らかにした(Shozaki & Hasegawa, submitted).

    湖成層から読み解く白亜紀および始新世“温室期”の気候変動

     人為起源のCO2排出により,AD2200年には大気CO2濃度は900ppmを超え,全球平均気温は7.5℃上昇する可能性がIPCCにより指摘されている.近未来の“温室期(Hot house Earth)”における気候変化を予測するために,我々は白亜紀と始新世の年縞(ねんこう)を保存する湖成層を対象として,過去の“温室期”における数年~数十万年スケールの降水量変動の復元を試みた.モンゴルの白亜系湖成層(シネフダグ層)を対象に年代層序の構築と堆積学的解析を行い [4; Island Arc論文賞],年縞解析とXRFコアスキャナーによる高解像度元素組成変動の解析により,最終氷期のDOイベントと類似した千年周期の急激な気候変化が白亜紀“温室期”に起こっていた事を明らかにした(Hasegawa et al., submitted).また米国ユタ州の始新統湖成層(グリーンリバー層)を対象とし,同層上部の層状チャートは太陽活動の周期的変動が影響した藻類生産量変動を反映している事を明らかにした [5].

    風成砂丘や球状コンクリーションから読み解く火星の表層環境史

     風成砂丘は火星や土星の衛星(タイタン)の表層にも分布する.火星とタイタンの風成砂丘の配列方向を検討した結果,地球とは分布域が異なるものの,各々の大気循環パターンを反映することが明らかになった [6].火星の地層にはまた,超大陸・超海洋が存在した約40∼37億年前の古風向パターンも記録されており,当時の大気循環系の復元も試みている.

     またジュラ紀風成層(ナバホ砂岩)中に含まれる球状鉄コンクリーションと,火星メリディアニ平原の地層に含まれる鉄小球(ブルーベリー)とを比較検討することで,火星の表層環境史の謎の解明に繋がった [7](シンポジウム「球状コンクリーションの科学」でも紹介).

    文献:[1] Hasegawa et al., 2009, Jour. Asian Earth Sci., 35, 13-26.; [2] Hasegawa et al., 2010, Island Arc, 19, 605-621.; [3] Hasegawa et al., 2012, Climate of the Past, 8, 1323-1337.; [4] Hasegawa et al., 2018, Island Arc, e12243.; [5] Kuma, Hasegawa et al., 2019, Scientific Reports, 9:16448.; [6] 長谷川,2012, 地質雑, 118, 632-649.; [7] Yoshida, Hasegawa, et al., 2018, Science Advances, 4:eaau0872.

R23(口頭)原子力と地質科学
  • 竹内 真司, 張 豊瑞, 鈴木 弘明
    セッションID: R23-O-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    1. はじめに

     東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故により,広範囲に放射性セシウム(以下,Cs)が放出され,阿武隈山地には比較的高濃度のCsが降下・沈着した。これまでの研究ではCsの多くは地表土壌等に強く吸着されていることが明らかとされてきたものの,土壌が薄い地域や基盤の花崗岩類が地表に露出する場所では基盤岩中に移行する可能性は否定できない。 本研究では,公開された地形データと地質情報に基づいて地質モデルを構築し,福島県南相馬市の南部地域を対象に,阿武隈山地から海岸に向けた地域における地下水流動シミュレーションとパーティクルトラッキング解析を実施し,地下水の移動経路や移行時間を推定した。

    2. 研究対象領域と解析方法

     研究対象域の福島県南相馬市小高区周辺の地形地質は,花崗岩類を基盤とする西側の阿武隈高地と堆積岩類が分布する東側の平野部から構成される。両者の境界には南北走向の双葉断層帯が存在する。久保ほか(1990)によれば、この領域の堆積岩類は,新第三紀後期鮮新世の大年寺層(砂岩)が地表付近に概ね水平に広く分布する。更にその下位には,前期鮮新世の向山層(泥岩・砂岩・礫岩),前期中新世の五安層(細粒砂岩)が分布する。一方,断層の西側の山地部は白亜紀前期の国見山花崗閃緑岩が分布する。 解析領域は,研究対象領域である東西約15㎞,南北約11㎞内に含まれる分水嶺を境界として設定した。また,鉛直方向は解析領域内の最高点522mから標高-1,000mとした。解析領域全体を一律100m間隔でグリッドを設定した。なお,断層より東側堆積岩分布域は,平坦な平野部であり,複数の異なる地質要素が分布することから,解析精度向上のため鉛直方向のグリッド間隔を25mに細分化した。解析には,有限差分法コードであるVisual MODFLOW®を用いた。構築した水理地質構造モデルの各地質要素に原位置で採取した試料の室内透水試験結果と一般的な値を参考に地質要素ごとの水理パラメータを設定した。これらのうち,双葉断層帯と泥岩層の透水係数については高透水性と低透水性の2ケースを設定し,これらの透水性が地下水流動解析結果に与える影響を検討した。解析の境界条件は地表面に該当地域の年平均降水量を与え,側方境界は海側を標高0mの固定水頭境界,その他は不透水境界として定常の地下水流動解析を行った。またパーティクルトラッキング解析は,断層より西側の山地部の地表面からパーティクル(仮想的な粒子)を投入した際の領域境界に到達するまでの移行時間と移行経路を計算した。

    3. 解析結果

    3.1 パーティクルトラッキング解析

     パーティクルトラッキング解析の結果,山地部から放出された粒子は,双葉断層の手前,平野部,そして東側境界(海岸部)に流出した。この傾向は断層と泥岩層の透水係数を変更しても同様の傾向となった。さらに上述の平野部における流出箇所は特定の3地点であり、この位置は解析条件によらず同様の地点となった。

    3.2 移行時間と移行距離の関係

     山地部から放出された粒子の移行時間と移行距離の関係から、大きく3つのグループ(断層の手前で流出する粒子群,平野部の河川部の特定の3地点で流出する粒子群,海側に流出する粒子群)に区分可能となった。これらは上述のパーティクルトラッキング解析による粒子群の流出箇所と一致する。具体的には,断層手前で流出する粒子群は全体の約80%を占めており,100日前後で全ての粒子が地表に流出している。また,中央の粒子群の移行時間は2000~6000日程度であり,さらに最も右側の粒子群は移行時間が23,000~75,000日で,移行距離は13~15㎞程度を示した。

    4. まとめと今後の方針

     福島県南相馬市付近を対象に実施した地下水流動解析とこれに基づくパーティクルトラッキング解析の結果,山側から放出された粒子は,断層や泥岩層の透水係数の設定に関わりなく,ほぼ同様な地点に流出する結果を得た。特に平野部の流出地点周辺はいずれも地形の変換地点付近に位置し、地下水が流出しやすい地形条件にある。今後は,解析によって明らかとなった平野部の流出地点における空間線量率などの測定により解析結果の妥当性を確認していく予定である。さらに水理地質構造モデルにおける水理パラメータについても現地調査等でデータを充実させ,解析の信頼性を向上させていく予定である。

    引用文献

    久保ほか(1990)原町及び大甕地域の地質.地域地質研究報 告 (5万分の1地質図幅),地質調査所, 155p

  • 石渡 明
    セッションID: R23-O-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    日本原子力研究開発機構(JAEA)核燃料サイクル工学研究所(核サ研)東海再処理施設は、茨城県東海村の日本原子力発電東海第二発電所や大強度陽子加速器施設(J-PARC)の南方、二級河川「新川」右岸の河口近くに位置する。現在この施設は廃止措置中であるが、リスク低減のため高放射性廃液のガラス固化処理を速やかに行う必要があるので稼働が認められており、原子力規制委員会の東海再処理施設安全監視チームがその稼働と廃止措置の安全対策を監視している。この施設の標高は約6mであり、この付近の2011年3月11日津波の痕跡高は標高4.0~5.2mだったので、この津波による浸水はなかった(中野貴文ほか, 2015; 平成23年東北地方太平洋沖地震後の東海再処理施設の健全性に係る点検・評価の結果について。日本原子力学会誌, 57, 14-20)。

     昨2020年6月17日の第10回原子力規制委員会において同チームの報告があり、その中で、津波漂流物が高放射性廃液貯蔵場(HAW)建屋に衝突・破壊して高放射性廃液が環境に漏れることへの対策として、同建屋の海側と新川側に防護柵を設置する計画が示された。私は、津波は押し波(遡上波)だけが危険なのではなく、川沿いの低地に入り込んだ津波が海に戻る時の引き波も同様に危険であり、漂流物対策の柵を設けるのであれば陸側(上流側)にも設けるべきある旨を指摘した(議事録参照)。

     畑村洋太郎(平田直ほか著, 2011;「巨大地震 巨大津波 東日本大震災の検証」p. 168、朝倉書店)は、「津波は押し寄せてくるときだけでなく、引くときにも破壊的な力をもつ」と述べている。このことは、岩手県大槌町江岸寺の津波被災墓地を調査した石渡明ほか(平川新・今村文彦編著, 2013;「東日本大震災を分析する」第1巻p. 271-274、明石書店)も確認していて、「この墓地を襲った津波の引き波の流速は、自動車が走る速さ(36km/h)に達していたと考えられる。これは、豪雨の際に山間地で発生する土石流のスピードとパワーに匹敵する」と述べている。大槌の浸水高(津波痕跡の標高)は最高12.9mだったが、この墓地附近では8.6m程度だった(原口強・岩松暉, 2011;「東日本大震災津波詳細地図」上・下, 古今書院)。宮城県気仙沼市の浸水高は大川沿いで最高6.98m、鹿折川沿いで最高9.17mだったが(同書)、その記録DVDを見ると、押し波と引き波はどちらも10km/h程度の速さだったように見え、南三陸町志津川の津波(最高浸水高17.51m(同書))はそれより速かったように見える(東北放送, 2011「東日本大震災の記録~3.11宮城~」)。また、別のDVD(ビデオプラザ神奈川, 2011「東日本大震災 宮城・石巻地方の記録」)には、石巻市雄勝町名振地区の住人の、「下げる時の速さね…すごいスピードで降りて行くんだね」という証言がある。名振地区は海岸に山が迫り、浸水高は最高34.94mだった(原口・岩松, 2011)。

     東海村の新川の下流部河川勾配(0.0012)は大槌の大槌川(0.0030)や志津川の八幡川(0.0058)よりは小さいものの、気仙沼の大川(0.0010)や鹿折川(0.0016)と同程度であり(原口・岩松, 2011から読図)、東海村の新川沿いの引き波の破壊力は気仙沼の2011年津波と同様と考えられる。

     昨年6月の原子力規制委員会における私の指摘から約1年後、JAEAは2021年5月18日の第58回東海再処理施設安全監視チーム会合で、引き波用津波漂流物防護柵をHAW建屋の上流側にも設置する方針を示し、構内を走る公用車(中型バス約9.7t)を漂流物の対象として、浸水標高10.5m、流速2.7m/s(9.7km/h)を設計条件とすることを表明した(同会合資料7)。津波の対策には引き波への配慮が不可欠である。

     なお、私は昨年6月の指摘の中で、津波火災への対策の必要性も述べた。大槌や石巻などでは津波漂流物の油や木材が燃えて火災が発生し、石巻では門脇(かどのわき)小学校が津波火災で全焼した(石渡ほか, 2013)。防護柵は大きい漂流物を防ぐことはできても、燃え盛る油の流入を防ぐことはできない。火災対策は津波対策とは別の事項であるが、実際に発生するのは複合災害であり、今後の火災対策は津波火災にも配慮してほしい。

    図1.津波の引き波で川の下流側へ倒されて2つに割れ、津波火災により角が取れて丸くなった標準型の縦長の墓石。表面に彫られた字が火災による剥離のためにほとんど読めなくなっており、基礎部分の石材も丸くなっている。この墓地では地震による墓石の転倒はほとんどなかった。岩手県大槌町江岸寺の墓地で2011年7月31日石渡撮影。

  • 中村 祥子, 竹内 真司, 吉田 英一
    セッションID: R23-O-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    コンクリーションとは堆積岩中に認められる球状岩塊で、堆積物の粒子間隙に鉱物が析出・充填することによって硬く凝結した岩塊のことを指す。このコンクリーションの中でも、炭酸カルシウムを主成分とするものは、死滅した生物遺骸から供給される有機酸の拡散と空隙水中のカルシウムイオンとの過飽和・沈殿反応で急速に形成されることが明らかとなっている[1]。この急速な炭酸カルシウムの沈殿と堆積物の空隙をシーリングするメカニズムを、地下空洞やトンネルなどの建造物における、岩盤地下水亀裂のシーリング技術に応用することなどが検討されている。これまでの研究から、コンクリーションの内部におけるカルシウムなどの濃度が概ね一定に分布することが判明しているが[2,3]、一方で炭酸カルシウムのシーリングに伴う透水特性や硬度特性などの水理・力学特性について、定量的に検討された例は未だにない。  本研究ではコンクリーションの材料学的特性を把握するために、コンクリーションの内 部と周辺母岩を対象に組織の観察のほか、空隙率測定、硬度試験、透水試験等を実施した。試験に用いた試料は神奈川県三浦半島に分布する新第三紀葉山層群中に産するコンクリーションと、岐阜県の新第三紀瑞浪層群中に産するコンクリーションである。  コンクリーション内部の構造や組成の観察を目的として、電子走査顕微鏡(SEM)での 観察や薄片の作成・観察を行った。透水特性の検討のために乾燥重量と湿潤重量を計測し空隙率を算出した。加えてコンクリーション内部と母岩部から直径5cm、厚さ約3㎝の試料をコアリングし変水位透水試験により透水係数を測定した。硬度試験はエコーチップ(超鋼製のボールチップを岩石表面に打撃し、その落下速度と跳ね返り速度から硬度を算出する測定装置)を用い、切断研磨した岩石表面で測定を行った。また同時に一軸圧縮試験を実施した。  薄片観察及び電子顕微鏡による岩石内部の空隙状態の観察の結果、コンクリーション内部は、微細な空隙までが炭酸カルシウム(カルサイト)によって充填・シーリングされていることが確認された。この炭酸カルシウムの充填によって、空隙率は低下し、低いものでは5%以下にまで低下する。エコーチップでの硬度を測定した結果、コンクリーションは、周辺母岩よりも硬度が高く、炭酸カルシウムのシーリングによって緻密さが増していることが示された。さらに透水試験の結果、透水係数は10-12(m/s)オーダーとほぼ花崗岩に匹敵する値を示した。これらの結果から、コンクリーションが風化に強いのは、堆積後の早い段階から炭酸カルシウムによるシーリングが進行し、透水性を低下させるとともに、緻密度も増し、物理的及び化学的風化に対して耐久性を有するからだと考えられる。このようなシーリング効果は、長期のシーリングとしても機能することが期待され、今後、工学的な応用化にこれらの情報を活用していく予定である。 [1] Yoshida,H., Ujihara,A., Minami,M., Asahara,Y., Katsuta,N., Yamamoto,K., Sirono,S., Maruyama,I., Nishimoto,S., Metcalfe,R.(2015) Early post mortem formation of carbonate concretions around tusk-shells over week-month timescales. Scientific Reports, [2] Yoshida,H., Yamamoto,K., Minami,M., Katsuta,N., Sirono,S., Metcalfe,R. (2018) Generalized conditions of spherical carbonate concretion formation around decaying organic matter in early diagenesis. Scientific Reports [3] Yoshida,H., Asahara,Y., Yamamoto,K., Katsuta, N., Minami,M., Richard,M. (2019) 87Sr/86Sr age determination by rapidly formed spherical carbonate concretions. Scientific Reports

  • 若杉 圭一郎
    セッションID: R23-O-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
    会議録・要旨集 フリー

    1. はじめに

    原子力発電環境整備機構(以下,NUMO)は,高レベル放射性廃棄物およびTRU等廃棄物の安全な地層処分の実現に向けた包括的技術報告書「わが国における安全な地層処分の実現-適切なサイトの選定に向けたセーフティケースの構築-」[1](以下,包括的技術報告書)を取りまとめ,そのレビュー版を2018 年11 月21 日に公表した。この包括的技術報告書は,文献調査に応募があった際のサイト調査,処分場の設計・建設・操業、閉鎖後長期の安全評価に関する方法論を総合的に示し,地層処分の実施主体として技術的な準備が整っていることを示すことを目標としている。この目標を達成するためにNUMOは、包括的技術報告書が国内外の最新の科学的・技術的知見に照らして,サイトが特定されていない段階のセーフティケースとして,十分な技術的信頼性を有していることを,客観性,科学的・技術的妥当性,技術的信頼性等の観点から確認するため,日本原子力学会にレビューを依頼した。日本原子力学会は14名の専門家で構成されるNUMO 包括的技術報告書レビュー特別専門委員会を設置し、1年間にわたるレビュー作業の結果を報告書[2]としてまとめ、2019年12月に公開した。ここでは、そのレビューの内容について報告するとともに、レビュー作業において生じた異分野間での議論や課題について報告する。

    2. 原子力学会によるレビュー

    包括的技術報告書における地質環境分野に関する主要な成果は、対象母岩を日本地質学会の分類に基づく7岩種から、岩石特性の類似性を考慮し3岩種(深成岩類、新第三紀堆積岩類、先新第三紀堆積岩類)に類型化を行うとともに、地質環境の特徴の詳細度に応じた3段階のスケール区分を提示したことである。これに基づき、地質環境情報(地質構造モデル、水理地質構造、水理、岩盤力学)を統合したモデルを構築するための一連のプロセスを具体的なパラメータや設定根拠とともに提示し、サイト選定に用いられる調査・評価技術が体系的に取りまとめられた。レビューの全体的な結論としては、包括的技術報告書はサイト選定の前段階におけるセーフティケースとして科学的・技術的に十分なレベルの信頼性を有し、国際的な枠組みとも整合しており、今後サイト選定を進めていく上で、適切にサイト調査や工学設計、安全評価を行うことができる手法が開発されている、とされた。一方、報告書の信頼性をさらに向上させるための技術的根拠の補強や説明の拡充などのコメントが700件以上も挙げられた。

    3. 異分野間の知識の統合化における論点

    包括的技術報告書は専門性の高い技術報告書であり,地層処分についてある程度の技術的な知識を持った専門家を対象として作成されている。このため、レビューにおいては地層処分に近いと考えられる専門家が招聘され、作業が進められた。しかしながらレビューの過程においてはしばしば意見の一致を見ない議論があった。例えば、地層処分における「地質環境」の定義が専門家ごとに異なることに起因してセーフティケースの文脈が正しく理解されない、専門家間で安全評価の論理構造について共通の理解が得られないまま地質環境の長期安定性が議論され論点がかみ合わない、などといった議論である。これは,地層処分特有の専門用語と方法論が存在するためであり、これらは地層処分コミュニティには通じても,一般的な科学技術コミュニティに通じるとは限らないことに起因していると考えられる。地層処分では数km四方の不均質な岩盤を対象に数万年以上の時間スケールで安全評価を行う必要があり、これに起因する不確実性への対応が必須である。そのためサイト調査,工学設計,および安全評価の各領域間の相互補完やフィードバックによる不確実性低減に向けた段階的アプローチを行う必要があり、今後分野間の連携はますます重要になると考えられる。レビュー委員会では回を重ねるごとに議論の視点の共有化が図られていったことを踏まえると、異分野間の知識の統合化や、地層処分の専門家以外の科学技術コミュニティからの地層処分への理解を求めるためには、今後,地層処分特有の専門用語や方法論に関する共通理解の促進を図るための取り組み(e.g. 専門用語を技術的、社会的、言語学的な観点から分かりやすく説明した共通語彙基盤の構築)を進め、地層処分に関する理解の向上を図ることが有効であると考えられる。

    文献

    [1]NUMO:包括的技術報告:わが国における安全な地層処分の実現-適切なサイトの選定に向けたセーフティケースの構築-(レビュー版) 2018年11月21日, NUMO-TR-18-03, 2018.

    [2]日本原子力学会:「NUMO 包括的技術報告書」レビュー報告書, 一般社団法人 日本原子力学会「NUMO 包括的技術報告書レビュー」特別専門委員会(2019年12月), 2019.

R24(口頭)鉱物資源と地球物質循環
  • 平田 岳史
    セッションID: R24-O-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
    会議録・要旨集 フリー

    岩石・鉱物の化学組成・同位体組成分析は,分析対象成分のダウンサイジング化(微小サイズ化),高感度化,そして分析の高速化へと推移している.これまで私達,分析化学者は様々な分析技術開発を通じて,多様化・高度化する地質学研究を支援してきた.地質学研究から要求される分析性能は,常に最先端の分析技術の導入が必要であった.試料は様々な元素が共存する複雑なマトリックス組成をもち,さらに試料間でその化学組成が大きく異なる.さらに年代分析・同位体トレーサー研究では,他の応用研究とは一線を画す,桁違いに高い分析精度が要求される.こうした厳しい分析要請を通じて,地質学と分析化学は相乗的に発展してきた.私達の研究グループでも,岩石・鉱物の元素組成・同位体組成分析を目的にレーザーアブレーション–プラズマ質量分析法(LA-ICPMS法)の開発を続けて来た.最近5年のブレークスルーは以下の3つに集約できる.(1) 高感度・高精度年代分析:レーザー発振・集光技術の向上により,数万〜数10万年程度の”若い”ジルコンの年代分析(Sakata et al., 2017; Matsu’ura et al., 2020)や,マルチクロノロジー年代学の基盤技術となるジルコン表皮部分の年代分析(Iwano et al., 2013; Iwano et al., 2020; Iwano et al., 2021)が可能となった.この技術は,岩石・鉱物試料だけではなく,最先端機能性材料や生体試料中の超微量元素分析の基盤要素技術となっている(Yokoyama et al., 2011; Makino et al., 2019).(2) イメージング分析:鉱物学研究では,様々な手法を用いて元素のマッピング分析(イメージング分析)が行われる.LA-ICPMS法は,cmサイズの大型試料に対し,主成分からppbレベルまでの8桁におよぶ多元素同時イメージング分析が可能である.最近2年で,分析の高速化と高空間分解能化,解析の自動化が加速している.(3) 超微粒子(ナノ粒子)の個別元素分析:質量分析技術において大きな進歩を遂げたのが対象イオン計測の高時間分解能化である.時間分解能を従来の100〜10,000倍に高めることで,5〜400nmサイズのナノ粒子の個別検出(Yamashita et al., 2021)や同位体分析が可能となった(Yamashita et al., 2020; Hirata et al., 2021).さらに信号の時間プロファイルの特徴から,分析元素の存在形態(溶存体か粒子体か)を区別しながらイメージング分析することにも成功している(Yamashita et al., 2019).ナノ粒子は,イオン(溶存体)とも固相(微粒子)とも異なる物性を示す.イオンから固相が形成される際に,必ずナノ粒子体を経由するため,固相形成過程あるいは沈殿形成過程で,全く新しい元素分別が誘起される可能性がある.講演者らは,このナノ粒子計測技術を応用することで,鉱床形成機構の解明や,放射性核種の環境動態解析,さらには生体内でのナノ粒子の毒性評価を行う予定である.私達,分析化学者は,全く新しい知見を引き出す分析手法の開発が使命である.2022年初頭には,最新の超高速質量分析計の導入が予定されており,イメージング分析のさらなる高速化やナノ粒子の全元素分析を開始する.本講演では講演者らが取り組んできた5年間の分析技術開発を概説するとともに,地質学研究の最先端研究者から,次の挑戦(分析学的な無理難題)の提示を受けたいと考えている.

  • 矢野 萌生, 大田 隼一郎, 野崎 達生, 加藤 泰浩
    セッションID: R24-O-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
    会議録・要旨集 フリー

    海水中のレニウム (Re)・オスミウム (Os) は有機物と共に沈殿することから,有機物に富む堆積物 (黒色頁岩) は一般的にRe,Osに富むことが知られている [1-4].Re-Os放射壊変系 (187Re-187Os) を用いた堆積物の直接的な年代測定手法は,黒色頁岩そのものや含金属黒色頁岩,原油試料に用いられてきている [5-9].さらに,海水のOs同位体比組成は河川水フラックス,熱水フラックスおよび宇宙塵フラックスの3つのフラックスの相対的なバランスによって決定するため,これらのフラックスの相対的変化とそれを生み出す古環境変動に関する情報を得ることができる.この特性は様々な時代の黒色頁岩に適用され,火成活動と黒色頁岩形成との関係や,生物大量絶滅と隕石衝突イベントの関係性などが議論されている [10-13].

    黒色頁岩のRe-Os同位体分析には,一般的に負イオン表面電離型質量分析装置 (N-TIMS) が用いられてきた.N-TIMSによる同位体分析には前処理と測定に多くの手間と時間を要し,大量のデータを取得することへの障害となっていた.また,有機物に富む試料の酸化分解には,高い酸化分解力をもつ硫酸酸性クロム酸溶液が用いられてきたが,この方法は環境負荷の高い六価クロムの処理が煩雑であった.これらの分析の煩雑さ,人体への危険性,環境負荷を解決できる可能性のある手法が,MC-ICP-MSと気化法を組み合わせた分析手法である [14-17].しかし,本手法はOsを十分に酸化させてArキャリアガスとともにOsO4分子の形で分析機器に導入させるため,有機物の多い試料に対しては十分な酸化力をもつ試薬を選択する必要がある.

    そこで本研究では,SGR-1b (USGS, oil shale),JSl-1 (GSJ, slate) の2つの標準岩石試料を分析対象とし,酸化分解には逆王水,過塩素酸を加えた逆王水,硫酸酸性クロム酸溶液を用い,それぞれ酸の量を変えて分析を行った.測定はマルチコレクタ誘導結合プラズマ質量分析装置 (MC-ICP-MS) と気化法により行った.分析の結果,逆王水のみの場合は酸化力が不十分で測定可能なイオンビーム強度が得られないことがあったのに対し,過塩素酸を加えた逆王水と硫酸酸性クロム酸溶液では試料が十分に酸化され測定することができた.本発表ではこれらの結果の詳細を発表し,分析を行う上での最適な試料の前処理条件について議論する.

    [1] Ravizza and Turekian, 1989, Geochim. Cosmochim. Acta. 53, 3257-3262. [2] Colodner et al., 1993, Earth Planet. Sci. Lett. 117, 205-221. [3] Cohen et al., 1999, Earth Planet. Sci. Lett. 167, 159–173. [4] Selby and Creaser, 2003, Chem. Geol. 200, 225–240. [5] Selby and Creaser, 2005, Geology 33, 545–548. [6] Selby et al., 2007, Geochim. Cosmochim. Acta. 71, 378–386. [7] Pašava et al., 2010, Mineralium Deposita 45, 189–199. [8] Rooney et al., 2010, Earth Planet. Sci. Lett. 289, 486–496. [9] Cumming et al., 2014, Geochim. Cosmochim. Acta. 138, 32–56. [10] Turgeon et al., 2007, Earth Planet. Sci. Lett. 261, 649–661. [11] Turgeon and Creaser, 2008, Nature 454, 323-327. [12] Tejada et al., 2009, Geology 37, 855–858. [13] Georgiev et al., 2017, Earth Planet. Sci. Lett. 461, 151–162. [14] Hassler et al., 2000, Chem. Geol. 16, 1-14. [15] Schoenberg et al., 2000, International Journal of Mass Spectrometry 197, 85–94. [16] Nozaki et al., 2012, Geostandards and Geoanalytical Research 36, 131–148. [17] Kimura et al., 2014, J. Anal. At. Spectrom. 29, 1483-1490.

  • 見邨 和英, 三鍋 秀悟, 中村 謙太郎, 大田 隼一郎, 安川 和孝, 藤永 公一郎, 高尾 和宏, 加藤 泰浩
    セッションID: R24-O-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
    会議録・要旨集 フリー

    2011年,レアアースを高濃度で含む深海堆積物「レアアース泥」が新しい海底鉱物資源となりうることが報告された [1].続く調査により,日本の排他的経済水域内である南鳥島周辺海域において,総レアアース濃度が5,000 ppmを超える非常に高品位な堆積物層が確認され,レアアース泥の実開発に向けた機運が高まっている [2, 3].レアアース泥の探査を効率的に行うためには,レアアース泥の生成機構を明らかにした上で,レアアースの濃集に必要な条件を満たす有望海域を理論的に絞り込むことが重要である [4].これまでに,南北太平洋で採取されたOcean Drilling Program (ODP) 及びIntegrated Ocean Drilling Program (IODP) の堆積物試料について全岩化学組成分析が行われ,レアアース泥を含む遠洋性粘土は,大陸由来の風成塵や海水起源のマンガン酸化物,魚類の骨片等の起源成分が様々な割合で混合されたバリエーションに富む堆積物であることが明らかになっている [5, 6, 7] これは,外見上の特徴に乏しい遠洋性粘土にも,地質学的時間スケールの海洋環境変化の痕跡が記録されていることを強く示唆している.

    しかし,遠洋性粘土については,堆積年代の決定が困難であることが研究の大きな障壁となっていた.遠洋性粘土には,珪質・石灰質の微化石がほとんど産出せず,また古地磁気記録の解読も困難である.このため,海底堆積物の年代決定に一般的に用いられる珪質・石灰質微化石層序,古地磁気層序といった手法を適用することができない.そこで着目されたのが,魚類の歯や鱗の微化石「イクチオリス」である.イクチオリスは難分解性のリン酸カルシウムで構成されるため,あらゆる海底堆積物に普遍的に産出することが知られている [8].イクチオリスの生層序学は1970–80年代に確立され,遠洋性粘土で普遍的に適用できる唯一の微化石層序である [9].

    発表者らはこれまでに,南北太平洋のODP/IODP試料について,イクチオリス層序による堆積年代の制約を行ってきた.その結果として,イクチオリス層序は遠洋性粘土の堆積年代に一定の制約を与えられることは確認されたものの,一部の層準では堆積年代を十分に絞り込むことができなかった [10].この要因として考えられるのが,観察する化石数の少なさである.従来の研究手法では,堆積物試料からイクチオリスを探し出し,手作業でスライドガラスへと移動させる工程に膨大な時間を要しており,十分な化石数を観察することができていなかった.

    そこで本研究では,煩雑な化石観察の手順を改善するため,まずはイクチオリスの収集手法について改善を行った.具体的には,従来実施していた粒径分離に加えて重液分離を行い,火山ガラス等の観察が不要な粒子を極力除去できるようにした.そして,収集したイクチオリスを含む粒子群はピペットでまとめてスライドガラスへと移動させることにより,ハンドピックによらずにスライドが作成できる手法を開発した.次に,深層学習によってスライド画像からイクチオリス粒子を自動で検出する手法を検討した.現在までに,教師データを作成してモデルを訓練するとともに,作成したモデルを用いて精度評価を行うことができるようになっている.本発表では現在までの検討結果と今後の展望について報告する.

    <引用文献>

    [1] Kato et al. (2011) Nature Geoscience 4, 535-539.

    [2] Iijima et al. (2016) Geochemical Journal 50, 557-573.

    [3] Takaya et al. (2018) Scientific Reports 8, 5763.

    [4] 安川ほか (2018) 地球化学 52, 171-210.

    [5] Mimura et al. (2019) Journal of Asian Earth Sciences 186, 104059.

    [6] Mimura, K. et al. (2019) 日本地球惑星科学連合2019年大会

    [7] Nakamura, K. et al. (2017) 日本地球惑星科学連合2017年大会

    [8] Sibert and Norris (2015) Proceedings of the National Academy of Sciences, 112, 8537-8542.

    [9] Doyle and Riedel (1985) Initial Reports of the Deep Sea Drilling Project, 86, 349-366.

    [10] 見邨ほか (2019) 日本地質学会第126年学術大会

  • 臼井 洋一, 安川 和孝, 飯島 耕一, 町山 栄章, 市山 祐司, 田中 えりか, 藤永 公一郎
    セッションID: R24-O-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    遠洋性堆積物中にはしばしば生物源アパタイトが濃集しており、さらにそれに伴ってレアアース元素が高濃度に含まれる(Kato et al., 2011)。ある程度の生物源アパタイトの濃集は遅い堆積速度により説明できるが、近年超高濃度のレアアース・生物源アパタイトを含む堆積物(超高濃度レアアース泥)の層が南鳥島周辺などで見つかり、生物生産性の一次的な上昇として説明された(Iijima et al., 2016; Ohta et al., 2020; Yasukawa et al., 2016)。また地球化学的分析により、超高濃度レアアース泥では鉄マンガン酸化水酸化物の含有量も高い傾向があることが分かっている(Yasukawa et al., 2016, 2019)。しかし、これまでの分析は堆積物の直接サンプリングに基づいていたため空間解像度が比較的低く、超高濃度レアアース泥の薄い層を検出したり、鉄マンガン酸化水酸化物との詳細な分布関係を検討したりすることは難しかった。本発表では、遠洋性堆積物のX線CT分析に基づき高いバルク密度が生物源アパタイト濃集と対応する例を報告し、そのメカニズムを議論する。南鳥島周辺で得られたピストンコアにおいてCT値と生物源アパタイト含有量には正の相関が見られた。一方、生物源アパタイトおよび鉄マンガン酸化水酸化物は高密度鉱物であるものの、超高濃度レアアース泥における高いバルク密度は粒子密度の違いだけでは定量的に説明できない。超高濃度レアアース泥では間隙率が下がっており、これもバルク密度を高めることに寄与していることが新たに分かった。化学組成から、本海域の鉄マンガン酸化水酸化物は主に続成起源であることが分かっている(Yasukawa et al., 2020, 2021)。このことから、二次的な鉄マンガン酸化水酸化物が空隙を埋めることで間隙率を減少させていると解釈した。さらに、超高濃度レアアース泥で鉄マンガン酸化水酸化物が多いことは、高い生物源アパタイトフラックスに伴う有機物の堆積により堆積物表層付近での続成作用が促されたためと考えられる。これらの結果は、超高濃度レアアース泥は表層の生物生産のみならず海底での生物地球化学環境の変動を反映していることを示唆する。

    引用文献

    Iijima, K. et al. (2016). Geochemical Journal, 50, 557–573. https://doi.org/10.2343/geochemj.2.0431

    Kato, Y. et al. (2011). Nature Geoscience, 4, 535–539. https://doi.org/10.1038/ngeo1185

    Ohta, J. et al. (2020). Scientific Reports, 10, 9896. https://doi.org/10.1038/s41598-020-66835-8

    Yasukawa, K. et al. (2016) Scientific Reports, 6, 29603. https://doi.org/10.1038/srep29603

    Yasukawa, K. et al.(2019). Geochemistry, Geophysics, Geosystems, 20, 3402–3430. https://doi.org/10.1029/2019GC008214

    Yasukawa, K. et al. (2020). Ore Geology Reviews, 127, 103805. https://doi.org/https://doi.org/10.1016/j.oregeorev.2020.103805

    Yasukawa, K. et al. (2021). Minerals, 11, 270. https://doi.org/10.3390/min11030270

  • 藤永 公一郎, 中村 謙太郎, 大田 隼一郎, 矢野 萌生, 桑原 佑典, 安川 和孝, 高谷 雄太郎, 中山 健, 野崎 達生, 加藤 泰 ...
    セッションID: R24-O-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    2011年,講演者らの研究グループは,我が国の最先端産業に必要不可欠なレアアース (Rare-earth elements and yttrium, REY) を豊富に含有する海底堆積物「レアアース泥 (総レアアース濃度: ΣREY = 400 ppm以上)」を太平洋で発見した [1].次いで2012年には日本の排他的経済水域 (EEZ) 内である南鳥島周辺海域においてもレアアース泥の分布を確認し [2],2013年にはΣREYが7,000 ppmに達する「超高濃度レアアース泥」の存在を世界で初めて報告した [3,4].レアアース泥は,資源として有利な特長をいくつも兼ね備えることから,第4の海底鉱物資源として期待されており,世界初の海底鉱物資源開発の実現に向けた取り組みが進展中である.

    一方で,プレート運動を考慮すると,深海底で堆積した「過去のレアアース泥」が大陸地殻に付加し,陸上に露出している可能性が考えられる.講演者らのこれまでの研究により,層状Fe-Mn鉱床 (アンバー: umber) と呼ばれるタイプの鉱床は,平均で740 ppm (最大2,400 ppm) に達するΣREYを持つことから,過去の海洋で堆積し,その後陸上に付加したレアアース泥である可能性が示唆されている [5-9].そこで本研究では,日本列島付加体に分布する代表的なアンバー鉱床の一つである「安芸アンバー鉱床」から採取したアンバー,赤色チャート,および関連する緑色岩試料について,詳細な地球化学的特徴およびRe-Os同位体組成について報告する.

    本研究対象である安芸アンバー鉱床は,高知県安芸市に位置し,1960年代以前に低品位のFeやMnの鉱山として小規模に開発が行われてきた.安芸アンバー鉱床は緑色岩に伴われて産する暗赤褐色を呈する泥質岩で,上位には赤色チャート (Albian–Cenomanian: 113.0–93.9 Ma) が累重する [10].安芸アンバー試料の全岩化学組成は,Fe2O3*,MnO,CaO,P2O5,V,Co,Ni,Znに富むという特徴がある.また,ΣREYも最大で1,120 ppmと濃集しており,そのPAAS規格化REYパターンには著しいCe負異常を示すという特徴も示す.一方,現在の海洋底に分布するレアアース泥は,南鳥島EEZに分布するような生物源リン酸カルシウム (biogenic calcium phosphate: BCP) 成分や海水起源のマンガン酸化物の影響が強い「遠洋性粘土型レアアース泥」と,北米のファンデフカ海嶺近傍に分布するような熱水起源の鉄やマンガンの影響が強い「熱水性堆積物型レアアース泥」に大別できることが明らかになっている [11].本研究試料の安芸アンバーの化学組成をこれらのレアアース泥と比較すると,「熱水性堆積物型レアアース泥」と類似した特徴を持つことから,安芸アンバーは,中期白亜紀に堆積した熱水性堆積物型レアアース泥が陸上に付加したものといえる.

    安芸アンバーのRe-Os同位体組成を測定した結果,その187Os/188Os比は0.554から0.668の範囲を示すことがわかった.この結果は,中期白亜紀の海水187Os/188Os比が現代の値 (~1.06) よりも低かったことを示しており,当時の活発な熱水活動を反映していると考えられる.また,白亜紀の他の時代から報告されているOs同位体比データを加えた検討の結果,白亜紀中期から後期にかけての海洋のOs同位体組成は,海洋無酸素事変 (oceanic anoxic events: OAEs) の時期を除いて0.4から0.6の範囲で比較的一定であったことが示唆された.

    引用文献: [1] Kato et al. (2011a) Nature Geoscience 4, 535-539. [2] 加藤ほか (2012) 資源地質学会講演要旨集, 37. [3] 東京大学・JAMSTECプレスリリース (2013年3月21日). [4] Iijima et al. (2016) Geochemical Journal 50, 557-573. [5] 藤永・加藤 (2001) 資源地質 51, 29-40. [6] Kato et al. (2005a) Geochemistry, Geophysics, Geosystems 7, Q07004. [7] Kato et al. (2005b) Resource Geology 55, 291-299. [8] Kato et al. (2011b) Gondwana Research 20, 594–607. [9] 藤永ほか (2011) 資源地質 61, 1-11. [10] Taira et al. (1988) Modern Geology 12, 5–46. [11] Yasukawa et al. (2016) Scientific Reports 6, 29603.

  • 安川 和孝, 木野 聡志, 浅見 慶志朗, 田中 えりか, 見邨 和英, 大田 隼一郎, 藤永 公一郎, 中村 謙太郎, 加藤 泰浩
    セッションID: R24-O-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
    会議録・要旨集 フリー

    南鳥島周辺の日本の排他的経済水域 (EEZ) には極めて高品位なレアアース泥が分布しており [1],特に有望なEEZ南部の海域 (約2,500 km2 × 海底面下10 mまで) には,世界の年間需要の数百倍に達するレアアースが胚胎されている [2].他方,レアアース泥はレアアースのみならず,Co, Ni, Moなどのレアメタルも比較的高濃度で含むことが知られている [3].深海堆積物中におけるこれら遷移金属の主要なホストは,Fe-Mn酸化水酸化物である.太平洋やインド洋の深海掘削コア試料および南鳥島周辺で集中的に採取されたピストンコア試料を用いた先行研究により,レアアース泥にはFe-Mn酸化水酸化物が一般的な構成成分として含まれることが示され,堆積物の全岩化学組成からもその影響が確認できる [4, 5].

    本研究では,南鳥島レアアース泥に含まれるマイクロマンガンノジュールを分離回収し,誘導結合プラズマ質量分析を用いて化学組成分析を行った.その結果,南鳥島レアアース泥中のマイクロマンガンノジュールは最大でCoを約3,000 ppm,Niを約39,000 ppm含むことが分かった [6].また,海底Fe-Mn酸化物の起源判別図から,これらのマイクロマンガンノジュールは続成起源であることが示された [6].

    さらに本研究では,塩酸リーチングによりレアアースを抽出した後のレアアース泥残渣に対して,還元剤 (亜ジチオン酸ナトリウム) を用いたリーチング実験を行った.その結果,南鳥島周辺のレアアース泥中に含まれるMn, Co, Ni, Moの概ね80%以上が抽出された [6].このことは,レアアース泥の開発にあたり,これらの金属をレアアースの副産物 (co-product) として回収できる可能性を示唆する.そこで,南鳥島周辺におけるレアアース泥の開発対象として最有望とされる海域について [2],実験により得られた各元素の抽出率を考慮して単位面積あたりのCo, Ni, Moの資源ポテンシャルを推定した.その結果,1 km2 × 海底面下10 mまでのレアアース泥に含まれるCoは (9.3 ± 0.6) × 102 t,Niは (1.6 ± 0.1) × 103 t,Moは (2.8 ± 0.2) × 102 tと見積もられた [6].これらはそれぞれ,世界全体における現在のCo, Ni, Mo生産量の0.66 ± 0.04%,0.061 ± 0.004%,0.097 ± 0.007%に相当する.一方,同海域 (1 km2 × 海底面下10 mまで) のレアアース資源ポテンシャルは酸化物換算で1.1 × 104 tと見積もられ [2],特に産業上重要なY, Eu, Tb, Dyの資源量は現在の世界生産量の60%,45%,30%,50%にそれぞれ相当する.すなわち,年間世界生産量に対する比率で見ると,南鳥島レアアース泥のレアアース資源としての影響力は,Co, Ni, Moといった副産物レアメタルの資源としての影響力に比べて2桁程度大きいといえる.レアアース泥の開発時にこれらの副産物レアメタルを実際に回収すべきかどうかは,レアアース回収後の残渣から各元素を抽出・製錬するための追加的なシステムにかかるコストと,当該メタルの市場価格および世界的な需要の伸びに基づいて判断されるであろう.

    [1] Iijima, K. et al. (2016) Geochemical Journal 50, 557-573.

    [2] Takaya, Y. et al. (2018) Scientific Reports 8, 5763.

    [3] Kato, Y. et al. (2011) Nature Geoscience 4, 535-539.

    [4] Yasukawa et al. (2016) Scientific Reports 6, 29603.

    [5] Yasukawa et al. (2019) Geochemistry, Geophysics, Geosystems 20, 3402-3430.

    [6] Yasukawa et al. (2020) Ore Geology Reviews 172, 103805.

  • 中村 謙太郎, 寺内 大貴, 下村 遼, 町田 嗣樹, 安川 和孝, 藤永 公一郎, 加藤 泰浩
    セッションID: R24-O-7
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
    会議録・要旨集 フリー

    世界の海洋底には,マンガンノジュール (ferromanganese nodules, Fe-Mn nodules) と呼ばれる,主にマンガン (Mn) と鉄 (Fe) の酸化物から成る化学堆積岩が分布していることが知られている.このマンガンノジュールには,コバルト (Co) やニッケル (Ni),銅 (Cu) などの現代産業に欠かせない重要な金属元素が高濃度で含まれていることから,海底鉱物資源の一つとして期待されており[1],特に北東太平洋のマンガンノジュール濃集帯 (Clarion-Clipperton Zone: CCZ) では,日本を含め各国が鉱物資源として開発することを目的とした調査・研究を精力的に行なっている [1]. このような中,2010年に日本近海の南鳥島周辺の排他的経済水域 (EEZ) 内において実施された調査航海において,マンガンノジュールの密集域が発見された [2].さらに,この発見を受けて2016 年および 2017 年に実施された航海では,南鳥島 EEZ 内の広い範囲にマンガンノジュール密集域が分布することも明らかとなっている [3].採取されたマンガンノジュールには,Co や Ni などの金属元素が豊富に含まれていることから,新規国産資源としての期待も高まっている [4]. 海底鉱物資源の開発に際して有望海域を選定するためには,資源の空間分布を支配する要因の解明が不可欠である.マンガンノジュールの分布を支配する要因の一つとしては,古くから堆積速度が指摘されている[5].堆積速度の速い環境では,マンガンノジュールは速やかに堆積物中に埋没し,海水や間隙水からの Fe, Mn の供給が途絶えるために,成長を継続することができない.そのため,マンガンノジュールの形成には,堆積速度が遅く,堆積物に被覆されない環境が必須であると考えられている.また,この堆積速度が遅い環境については,古くから深層海流の流路と一致することが指摘されている [5,6].ただし,堆積速度が遅い海域に必ずしもマンガンノジュールが存在するわけではない.すなわち,堆積速度以外にもマンガンノジュール形成を支配する条件があり,両方が揃わなければノジュールの濃集帯は形成されないと考えられる. このマンガンノジュール形成に必要なもう一つの条件を解明する鍵として,核の存在が注目される.ほぼ全てのマンガンノジュールはその内部に核を有しており,核がマンガンノジュール形成のトリガーになっていると考えられる.そのため,核が供給されることはマンガンノジュールの形成に必要な条件と考えらる.そこで本研究では,南鳥島EEZから採取されたマンガンノジュールの核からタングステンカーバイドドリルで粉末試料を削り出し,これをICP-MSで分析して主成分・微量元素濃度を定量した. 本発表では,化学組成に基く南鳥島マンガンノジュールの核の起源について議論を行う.

    <引用文献>

    [1] Hein et al. (2013) Ore Geology Reviews, 51, 1–14.

    [2] 石井・平野 (2010) 深田地質研究所ニュース 109, 26-28.

    [3] Machida et al. (2019) Marine Georesources & Geothechnology, 1-13.

    [4] Machida et al. (2016) Geochemical Journal, 50, 539–555.

    [5] Goodel et al. (1971) Antarctic Res. Ser., 15, 27–92.

    [6] Kennett, J. P., & Watkins, N. D. (1975) Science, 188(4192), 1011–1013.

  • 青柳 颯汰, 大田 隼一郎, 浅見 慶志朗, 中村 謙太郎, 安川 和孝, 野崎 達生, 町田 嗣樹, 木村 純一, 加藤 泰浩
    セッションID: R24-O-8
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
    会議録・要旨集 フリー

    マンガンノジュールは,マンガンと鉄の酸化物および酸化水酸化物を主成分とする,主に深海底で形成される化学堆積岩である.マンガンノジュール中には,マンガン・鉄の他に,コバルト,ニッケル,銅,希土類元素等の希少金属元素が高濃度で含まれており [1],海底鉱物資源として開発が期待されている.

     2010年,南鳥島から約300km東方に位置する,日本の排他的経済水域内の海底に存在する小海山付近にマンガンノジュールの密集地帯が発見された [2].Machida et al. [3] は採取されたノジュールサンプルに対し化学組成分析を行い,南鳥島EEZ内のマンガンノジュールがCoやNiの新規国産資源として有望であることを指摘している.さらにこの発見を受けて,2016年にYK16-01航海,2017年にYK17-11C航海が実施され,マンガンノジュールが南鳥島EEZの東方から南方にかけての広大な範囲に分布していることが明らかにされるとともに,それぞれ8回ずつ合計16回の潜航調査により多くのノジュールサンプルが採取された [4,5].

     これらのマンガンノジュールの資源としての採掘を行うためには,開発の採算性が保証される必要があり,資源価値の高いノジュールが高密度で分布する海域の特定が求められる.そこで重要となるのが,ノジュールの広域分布を支配する要因の解明である.これまで,南鳥島EEZのマンガンノジュールについては,その成因を解明するための鉱物学的・地球化学的な研究が行われてきている [3,6,7].一方,ノジュールの形成開始および成長を支配する要因を考察する上では,マンガンノジュールの年代を決定することが極めて重大な意義を持つと考えられる.しかしながら,南鳥島マンガンノジュールの形成年代を決定する試みは,これまでごく限られた事例しか存在しない [8].そこで本研究では,Os同位体比を用いて南鳥島マンガンノジュールの年代を高時間解像度で決定することを目的とした.

     年代決定に用いる試料は,半割したノジュール試料の表層部分から核のある中心部に向かって約2 mm間隔で,タングステンカーバイドドリルを用いて削り出し,カリアスチューブ逆王水分解法によってOsを抽出した後,MC-ICP-MSを用いてOs同位体比分析を行った.そして,分析によって得られたOs同位体比を海水のOs同位体比変動曲線にフィッティングすることで,年代値を制約した.フィッティングに際しては,マルコフ連鎖モンテカルロ法 (MCMC) によるベイズ推定を用いて,可能性の高い年代値を絞り込んだ [9].またその際に,マンガンノジュールのXRF元素マッピングデータをもとに成長間隙が見られる部分を特定し,その部分に無堆積期間 (ハイエイタス) が存在する可能性も考慮した.

     本発表では,年代測定の結果について報告し,南鳥島マンガンノジュールの成長履歴と成因について議論を行う.

    <引用文献>

    [1] Hein et al. (2013) Ore Geology Reviews 51, 1-14.

    [2] 石井・平野 (2010) 深田地質研究所ニュース 109, 26-28.

    [3] Machida. et al. (2016) Geochemical Journal 50, 539-555.

    [4] 石井ほか (2016) 深田地質研究所年報 17, 1-28.

    [5] Machida et al. (2021) Marine Georesources & Geothechnology, 39, 267–279.

    [6] Shimomura et al. (2018) Goldschmidt 2018

    [7] Machida et al. (2021) Island Arc 30, e12395. https://doi.org/10.1111/iar.12395.

    [8] 野崎ほか (2014) 日本地質学会第121年学術大会

    [9] Josso et al. (2019) Chemical Geology 513, 108-119.

T1(ポスター)広域観測・微視的実験連携による沈み込み帯地震研究 の新展開 [共催:日本地震学会]
  • 北村 真奈美, 竹原 孝, 雷 興林
    セッションID: T1-P-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    The International Ocean Discovery Program (IODP) Nankai Trough Seismogenic Zone Experiment (NanTroSEIZE) Expedition 358 penetrated the Kumano forearc basin at Site C0025 to understand the evolution of the accretionary prism and Kumano forearc basin in the Nankai Trough (Tobin et al., 2020, IODP Proceedings). Site C0025, located at ~ 50 – 55 km landward from the trench, has been drilled and obtained core samples from 400 – 573 mbsf. In this study, we conduct elastic wave velocity (Vp) and porosity measurements and indentation tests on cubic samples and estimate the anisotropy of the samples. Vp at 453 – 572 mbsf falls in the range of 1.7 to 2.0 km/s. Vp along horizontal directions show similar values with shipboard data, while Vp along vertical direction tends to be slightly higher than shipboard data (Tobin et al., 2020, IODP Proceedings). The vertical anisotropy of Vp is between -0.3 and 2.3%, which is similar with shipboard data. Porosity of our samples ranges between 42 – 49%, which is also consistent with the results of shipboard measurements (Tobin et al., 2020, IODP Proceedings). The unconfined compressive strength (C0) along horizontal direction, which can be obtained by indentation tests (e.g., Kitamura and Hirose, 2017, JSG), generally increases with depth from 0.6 MPa at 433 mbsf to 2.4 MPa at 454 mbsf. After C0 value decreases to 1.4 MPa at 467 mbsf, it gradually increases with depth to 3.0 MPa at 573 mbsf. C0 for vertical direction indicates the similar trend. The vertical anisotropy of C0 decreases with depth from 9.2% at 467 mbsf to -8.4% at 573 mbsf. In addition, we perform permeability measurements on core sample under in-situ pressure condition. The permeability of the sediment collected at 573 mbsf is on the order of 10-18 m2. In the poster, we will discuss the Vp-porosity, Vp-C0 and permeability-porosity relationships in the Kumano forearc basin.

  • 有吉 慶介, 木村 俊則, 宮澤 泰正, バーラモフ セルゲイ, 飯沼 卓史, 永野 憲, ゴンバーグ ジョアン, 荒木 英一郎, 美山 透 ...
    セッションID: T1-P-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    In our recent study, we detected the pore pressure change due to the slow slip event (SSE) in March 2020 at the two borehole stations (C0002 and C0010), where the other borehole (C0006) close to the Nankai Trough seems not because of instrumental drift for the reference pressure on the seafloor to remove non-crustal deformation such as tidal and oceanic fluctuations. To overcome this problem, we use the seafloor pressure gauges of cabled network (DONET) stations nearby boreholes instead of the reference by introducing time lag between them. We confirm that the time lag is explained from superposition of theoretical tide modes. By applying this method to the pore pressure during the SSE, we find pore pressure change at C0006 about 0.6 hPa. We also investigate the impact of seafloor pressure due to ocean fluctuation on the basis of ocean modeling, which suggests that the decrease of effective normal stress from the onset to the termination of the SSE is explained by Kuroshio meander and may promote updip slip migration, and that the increase of effective normal stress for the short-term ocean fluctuation may terminate the SSE as observed in the Hikurangi subduction zone.

T2(ポスター)続・海底地盤変動学のススメ
  • 松尾 翔一朗, 北村 有迅, 川端 訓代, 寺澤 瞭, 伊藤 大悟
    セッションID: T2-P-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    1.はじめに

     九州西部に位置する八代海には多数の海底断層群が認められており,日奈久断層帯八代海区間を構成している.またこの海域は閉鎖度が高く,河川からの砕屑物の堆積盆となっている.新しい堆積層と活断層の組み合わせから,潜在的に海底地すべりの発生条件を備えている.井上ほか(2011)により八代海の堆積物ピストンコア中の年代の逆転が報告されており,さらに詳細な海底地すべり履歴の検討のために白鳳丸KH-18-3次研究航海によりピストンコア試料が採取された.

     伊藤(2020卒論)で八代海の堆積物試料から姶良Tnテフラを構成する入戸火砕流堆積物の火山ガラスが確認されたが,推定された堆積年代と合致せず,さらなる検証が必要とされた.本研究は,八代海南部で行われたKH-18-3次研究航海で採取されたピストンコア試料に含まれる火山ガラスの屈折率をもとに同定し,層序を考察することを目的とする.

    2.手法

     KH-18-3次研究航海で採取されたピストンコア試料PC01~PC11の計11本のコアから,伊藤(2020卒論)によりDI001~DI110の合計110試料に分けられた.本研究ではPC03(DI023~DI032)とPC09(DI081~DI091)の21試料を使用した.21試料を水洗,乾燥,分割し,1つの試料から30粒の火山ガラスの屈折率をRIMS2000を使用して測定した.DI082においては斜方輝石の屈折率も測定した.また,試料分割後のスミアスライドを作成し,偏光顕微鏡を用いて200粒の鉱物組成を割り出した.

    3.結果と考察

     PC03(DI023~DI032)ではバブル型,軽石型の火山ガラスが見られた.30粒全て姶良Tnの屈折率(1.498~1.501)の火山ガラスであった.PC09(DI081~DI091)も同様にバブル型,軽石型の火山ガラスが見られ,ほとんどが姶良Tnの屈折率と一致した.DI081, DI082,DI084~DI086では1~4粒の火山ガラスが姶良Tnの屈折率とは一致せず,阿蘇4(Aso-4)の屈折率(1.506~1.510)または鬼界アカホヤ(K-Ah)の屈折率(1.508~1.516)に一致した.DI082の斜方輝石はK-Ahの屈折率(1.708~1.713)に一致した.堀(2019卒論)で推定された650±40年前や10910±50年前の層にも連続的に姶良Tnの火山ガラスが見られたため,これらは二次堆積したものだと考えられる.

     PC03のスミアスライドではDI023~DI026,DI028~DI030で岩片が顕著に見られ,DI027,DI031,DI032で火山ガラスが顕著に見られた.DI027~DI029では植物片が目立った.PC09のスミアスライドではDI081~DI086で有孔虫や生物片などが25%程度見られ,DI087以降は火山ガラスが顕著に見られた.

    4.まとめ

     入戸火砕流堆積物は人吉盆地周辺の地質図上ではほとんど残っていない.これについて横山(2000)は,山岳地域の谷底の堆積物が顕著な削剥を受けたとみている.堀(2019卒論)で推定された異なる年代の層にも入戸火砕流堆積物が見られることから,八代海の堆積物中の火山ガラスは河川からの流入による二次堆積物であると考えられる.K-Ahは含まれている可能性はあるが,見つかった粒数が少ないため,今後ほかのコアの火山ガラスや重鉱物を調べることが望まれる.

    5.引用文献

    伊藤大悟(2020卒論)八代海南部における底生有孔虫群集から推定される堆積環境,鹿児島大学卒業論文,55p.

    井上直人・北田奈緒子・越後智雄・久保尚大・一井直宏・林田明・坂本泉・滝野義幸・楮原京子,2011,布田川・日奈久断層帯海域延長部におけるピストンコア調査,活断層・古地震研究報告,11,295―308.

    堀航喜(2019卒論)日奈久断層八代区間の海底断層群分布海域における浅海表層堆積物の物性から推定される堆積環境,鹿児島大学卒業論文,90p.

    横山勝三(2000)入戸火砕流堆積物の分布北限,火山第45巻,第4号,209-216.

  • 川村 喜一郎, 野村 英雄, 永川 勝久, 武政 学, 田中 淳
    セッションID: T2-P-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    地質学は不均質性との戦いである。ここに地質リスクが存在しており、複雑な地質を如何に最適モデル化できるかが課題である。最適モデルにするためには、測定・観測要素を適切に抽出する必要があり、その選定は目的にあったかたちで実施されている。最適モデルにするためには、それらの事象の進行プロセスや発生メカニズムを知る必要があり、モデルを裏打ちするような原理原則が必要不可欠である。このように陸上における課題として、地質リスクが存在しているが、海底となるとさらに難しい問題となる。しかし、この難敵は、資源採掘や構造物建設、さらには既存の構造物の沿岸防災において、避けて通れない課題である。近年話題になっている洋上風力発電においては、喫緊の課題であり、津波や構造物を破壊する要因となる海底地すべり、敷設する送電ケーブルを切断する恐れのある混濁流、構造物に直接ダメジを与える恐れのあるシャローガスや泥火山、液状化などの海底地盤でのリスク要素、など事象は知られているが、発生規模や発生頻度、場所を特定困難なものばかりである。これらの海底地質リスク評価は、ある意味日本型であるとも言え、用地選定だけでなく、その後の施工や維持管理において、ボディーブローのように効いてくる問題であることは容易に想像がつく。ここでは、Nitta et al. (2019)で報告された仙台沖の水深1000m程度の海底クリープ現象を報告し、その地質学的な意義について論じる。また、短い発表時間ではあるが、上記のリスク要素の捉え方、浅海域における地質リスク評価のアプローチ法、さらには、それらを検討する国内外組織についてみなさんと議論したい。

    引用文献

    Sayaka Nitta, Takafumi Kasaya, Kiichiro Kawamura, 2021, Geological Magazine , Volume 158 , Special Issue 1: Subduction zone processes and crustal growth mechanisms at Pacific-Rim continental margins: modern and ancient analogues, pp. 39 - 46. DOI: https://doi.org/10.1017/S0016756818000894

T3(ポスター)スロー地震に関する地質学的・実験的・地震学的研究の連携と進展
  • 川路 真子, 橋本 善孝
    セッションID: T3-P-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    近年,地球物理学的手法により発見されたスロー地震は,汎世界的な現象であることが明らかとなり,スロー地震と巨大地震との関連が注目されている. 物理観測では空間的な相互作用を理解することが難しいため,空間分解能が高い地質学的手法でのスロー地震の化石認定が鍵となるが,決定的な証拠は未発見である. そこで,本研究では巨大地震とスロー地震の断層岩が共存していることの認定を目指し, 陸上付加体において遅い変形を示す石英の結晶塑性変形組織が見られる巨大地震の化石を含む断層を対象に,遅い変形を起こした際の被熱温度とすべり速度の定量化を目的とした. 対象の断層は,四国白亜系四万十帯に属する横浪メランジュの北縁断層である五色ノ浜断層で,摩擦発熱による溶融を示すシュードタキライトが見られ,地震断層の化石と認定されている. 地震断層は厚さ約1 ㎜,破砕帯は厚さ約20 ㎝である. 母岩の過去の最高被熱温度はビトリナイト反射率によって約250 ℃と報告されている. 断層岩の微細組織観察から,直線的な断層の周囲で石英質なブロックが泥質な基質に囲まれている変形帯になっており,ブロックは断層とほぼ平行に配列している. また,泥質の基質はブロックを囲むような流動的な変形をしており,石英ブロックの中には波状消光や動的再結晶組織が見られた. 被熱温度の推定には,塑性変形を起こしている石英の粒径を用いるStipp et al.(2002)の手法を採用した. また,同様にStipp et al.(2002)の手法で温度からひずみ速度を推定し,すべり速度を求める計算を行った. ただし,Stipp et al.(2002)の研究対象はほとんどが石英で構成されている岩体であるため,流体圧を無視することでひずみ速度,すべり速度の推定までを行うことができている. 一方,本研究の対象は塑性変形した石英が不均質に分布していることから,流体圧の不均質な分布を示唆しており,流体圧を無視することができない. さらに差応力自体が不均質である可能性もある. よって,得られるすべり速度は流体圧を無視した最低速度の制約となる. 分析の結果,過去の最高被熱温度は299-324 ℃と推定され,母岩の過去の最高被熱温度よりも高く,過去,断層帯に発熱イベントがあったことを示唆する. また,この温度は観察範囲である断層の中心から約15 ㎜の地点までほぼ一定であった. これらの推定被熱温度を用いて計算した推定すべり速度は約10⁸ m/yearで,プレート運動よりも遅かった. なお,このすべり速度は最低速度の制約に過ぎないものの,破砕帯20 cmの泥質基質を含めた全体のすべりが不足分のすべり速度を補っていることを示唆する. ここで,断層から約15 mmに渡って発熱温度が一定である点に着目し,発熱帯の厚さが1 mmと20 cmの場合について,異なるすべり速度での摩擦発熱による熱拡散パターンの時間発展を計算し,この熱拡散パターンが天然の温度分布と一致するときのすべり速度とすべり時間を制約した. 結果,発熱帯が厚さ1 mmの場合すべり速度は10⁻⁵ -10⁻⁶ m/s,すべり時間は10⁴ -10⁷ sと推定され,20 cmの場合すべり速度は10⁻¹ -10⁻⁶ m/sまで広い範囲が許容され,すべり時間は10⁰ -10⁷ sと推定された. 最後に,本研究の結果を過去に観測された地震データと比較する. まず,これまでに物理学的に観測されている地震のデータは,地震の規模Moとすべり時間Tdで表現することができ,通常地震とスロー地震ではMoとTdの関係が異なっていることが既に明らかとなっている(Ide et al., 2007). このMoは,単位面積・単位時間あたりの熱量Qに変換することができる. また,Qはすべり速度,上載圧,摩擦係数の積であり,制約されたすべり速度に上載圧10⁸ MPa, 摩擦係数10⁻¹を与えて地質学的なQを得た. 過去に観測された地震データのTdと,Moを変換することで得られたQの関係を表したグラフに,本研究で得られたTdとQをプロットすると,シミュレーションによって許容されたすべり速度とすべり時間が,過去に観測されたスロー地震と一致する場合が多いことがわかった. 以上のことから,五色ノ浜断層で見られる結晶塑性変形した石英は,スロー地震を記録している可能性が十分あると考えられ,スロー地震と通常の巨大地震が同じ断層で起こっていという可能性も示唆される. ただし,温度の独立決定を行って確度を高めること,断層からさらに離れた地点の温度分布からすべり挙動を制約することが課題である. また,熱源が高温流体である可能性を否定できないため,岩石-流体間反応の検討も必要である.Stipp, M et al., 2002, Journal of Structural Geology: Ide, S et al., 2007, Nature

  • 日比 涼多, 平内 健一
    セッションID: T3-P-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    スロー地震は、継続時間と地震モーメントの違いから、スロースリップイベント(以下、SSEとする)、超低周波地震、低周波微動などに区分される(Obara and Kato, 2016)。室内の摩擦実験は、安定すべりやスティック・スリップなどの様々なすべり挙動が発生することから、地震発生メカニズムを理解する上で重要な研究手法である。スティック・スリップには、継続時間が短く、応力降下量が大きいファストスティック・スリップと、継続時間が長く、応力降下量が小さいスロースティック・スリップが存在する。スティック・スリップは、剛性比K = k/kckは装置のスティッフネス、kcは臨界スティッフネス)とすると、K < 1で発生することが知られている(例えば、Gu et al., 1984; Rice, 1983)。先行研究では、石英やソーダ石灰など1種類のガウジ試料で摩擦実験を行い、K ≈ 1の条件でスロースティック・スリップが起こることを明らかにしている(例えば、Scuderi et al., 2016; Leeman et al., 2018)。彼らの実験では、法線応力や載荷速度を変更することでKの値を変化させている。しかし、天然の断層では、石英や長石類からなる破砕岩片の周囲を、スメクタイトや滑石などの層状珪酸塩鉱物が取り囲んで存在する(例えば、Wintsch et al., 1995)。そこで、本研究では、石英と滑石からなる模擬ガウジ物質を使用し、ガウジ組成を変化させて摩擦実験を行った。

     摩擦実験は静岡大学設置の一面剪断試験機を使用して行った。実験は、法線応力10 MPa、載荷速度0.66〜2.00 µm/s、室温で行った。結果は、滑石含有率が0〜2 wt.%のときにファストスティック・スリップが、4〜10 wt.%のときにスロースティック・スリップが発生した。また、4〜5 wt.%では定常的なスロースティック・スリップが発生した。速度・状態依存摩擦則の(ab)値は滑石含有率0〜2 wt.%では−0.0021〜−0.0002で速度弱化挙動を示し、滑石含有率4〜10 wt.%では0.0001〜0.0012でわずかに速度強化挙動を示した。剛性比K = k/kcは、滑石含有率0〜2 wt.%では3.4〜38.4で K > 1となり、理論的な安定条件でファストスティック・スリップが発生した結果となった。

     スティック・スリップ発生時の応力降下量は、応力降下継続時間の増加とともに0.592〜0.004 MPaへ減少し、ファストスティック・スリップからスロースティック・スリップへ変化した。すべり量も同様に、応力降下継続時間の増加とともに0.0622〜0.0001 mmへ減少し、ファストスティック・スリップからスロースティック・スリップへ変化した。以上より、ファストスティック・スリップからスロースティック・スリップへの変化は、急激に起きるものではなく、遷移的に発生していると考えることができる。

     実験後の試料の微細構造観察は、滑石含有率0〜10 wt.%の試料では、滑石含有率の増加に伴ってR1面、Y面がともに減少した。よって、ファストスティック・スリップからスロースティック・スリップへ変化すると、R1面、Y面がともに減少することがわかった。

     本研究の結果から、層状珪酸塩鉱物の含有率の数%の違いが、ファストスティック・スリップやスロースティック・スリップ、安定すべり等のさまざまな摩擦挙動を発生させることがわかった。そのため、天然の断層においても、層状珪酸塩鉱物の溶解・析出等により含有量が変化すると、通常の地震から、SSE、安定すべりまで、同一の断層で発生する可能性があると考えることができる。

    引用文献:Obara and Kato (2016), Science, 353, 253-257. Gu et al. (1984), J. Mech. Phys. Solids, 32, 167-196. Rice (1983), Pure Appl. Geophys, 121, 443-475. Scuderi et al. (2016), Nat. Geosci., 9, 695-700. Leeman et al. (2018), J. Geophys. Res.: Solid Earth, 123, 7931-7949. Wintsch et al. (1995), J. Geophys. Res.: Solid Earth, 100, 13021-13032. Summers and Byerlee (1977), Tectonophysics, 75, 243-255.

  • 永田 有里奈, 平内 健一, 岡崎 啓史
    セッションID: T3-P-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    南海沈み込み帯のマントルウェッジ先端付近では、プレート境界に沿って深部スロー地震が発生している(例えば、Obara , 2002)。マントルウェッジ先端付近は、海洋プレート中に含まれる含水鉱物の脱水反応に起因して多量の水が高間隙水圧状態で存在すると考えられている(例えば、Shelly et al., 2006)。このような領域では、有効応力の低下に伴って岩石の摩擦・破壊強度が低下するため、高温高圧下においても脆性変形が卓越する可能性がある。そして、マントルウェッジを構成するかんらん岩は、水流体の存在下において蛇紋岩化していると考えられる(例えば、Kato et al., 2010)。以上のことから、高含水率条件下での蛇紋岩の脆性変形が深部スロー地震の発生メカニズムの一つとなる可能性があるが、そのような条件下で蛇紋岩がどのような変形挙動を示すかについては、未だによくわかっていない。また、これまでに高温高圧下でのアンチゴライト蛇紋岩を用いた変形実験が数多く行われているが(例えば、Hilairet et al., 2007; Chernak and Hirth, 2010)、蛇紋岩中の含水量の変化に着目した実験はあまり行われていない。そこで、本研究では、深部スロー地震発生域に相当する温度圧力条件下で形成された天然の蛇紋岩体について構造岩石学的解析を行った。さらに、グリッグス型固体圧式三軸変形装置を用いて、様々な含水量下における蛇紋岩試料の高圧変形実験を行った。

     フィールド観察は、四国中央部三波川帯の泥質片岩(ざくろ石帯と曹長石・黒雲母帯の境界)に含まれる蛇紋岩体を対象とした。本地域の三波川帯は温度約500°C、圧力約1 GPaの変成作用を経験している(Aoya et al., 2013)。蛇紋岩はレンズ状のブロックが定向配列するblock-in-matrix構造を呈し、ブロック、マトリックス共にアンチゴライトで構成される。block-in-matrix 構造では、ブロックの伸長方向に平行な開口破壊とこれに斜交する剪断破壊が混合したネットワークを形成していた。このような開口破壊の発生には、間隙水圧の大きさが少なくとも最小主応力(σ3)と岩石の引張強度の和を超える必要があることから、蛇紋岩のブロック化は静岩圧を超える間隙水圧下で発生したと考えられる。

     変形実験は、コア状(直径約6 mm、長さ約13 mm)のアンチゴライト蛇紋岩試料を用い、温度500°C、封圧1.0 GPa、歪速度4.22 × 10-6 s-1、含水量0、1.1、3.0 vol.%条件で行った。試料の最大差応力は、含水量の増加に伴って小さくなっていった。含水量0、1.1 vol.%条件では、試料全体を最大圧縮方向(σ1)に対して約30°斜交する断層が形成され、断層面に沿って粉砕された細粒のアンチゴライトと脱水生成物が形成していた。含水量3.0 vol.%条件では、破壊がネットワークを形成することで最大長さ約6 mmのレンズ状にブロック化し、block-in-matrix構造を呈していた。マトリックスは粉砕されたアンチゴライト粒子と間隙で構成されていた。

     実験結果から、深部スロー地震発生域に相当する温度圧力条件下で蛇紋岩中の含水量が増加すると、破壊が断層面に局在化する変形から破壊がネットワークを形成する変形に変化することがわかる。また、フィールドおよび実験的観察は共に、深部スロー地震発生域において蛇紋岩が剪断・開口破壊によってblock-in-matrix構造を形成することを示唆しており、これらの破壊は深部スロー地震の一種である微動として観測されている可能性がある。

    引用文献:Aoya et al., 2013, Geology, 41, 451-454. Chernak and Hirth, 2010, Earth Planet Sci. Lett., 296, 23-33. Hilairet et al., 2007, Science, 318, 1910-1913. Kato et al., 2010, Geophys. Res. Lett., 37, L14310. Obara, 2002, Science, 296, 1679-1681. Shelly et al., 2006, Nature, 442, 188-191.

T4(ポスター)二次改変された過去の弧-海溝系の復元:日本およびその他の例
  • 井上 倫瑠, 植田 勇人
    セッションID: T4-P-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    はじめに 北海道中央部の日高帯を構成する日高累層群は,暁新世~始新世に形成された付加体とされてきた.最近,同帯のトムラウシ地域から前期中新世を示すジルコンU-Pb年代が報告されたが,それらの地層は日高累層群から区別され,プルアパート堆積盆で形成された被覆層と解釈されている(七山ほか2020).しかし,後述のとおり,周囲の砕屑岩類からも例外なく漸新世後期~前期中新世の年代が得られており,本研究地域を構成する付加体自体が若いという可能性の検討が必要である.そこで,当発表ではトムラウシ地域の野外調査,ジルコンU-Pb年代測定,緑色岩類の化学分析で得られたデータから,付加体の形成時期と関与した海洋プレートについて議論する.

    岩相区分 著者は,トムラウシ地域で新たにマッピングを行い,ユニットA~Eに岩相区分した.(ユニットA:黒色泥岩層, B:砂岩泥岩互層, C:緑色岩類, D:赤色・緑色・黒色泥岩層,E:玄武岩,赤色・黒色泥岩,砂岩泥岩互層の覆瓦ユニット) また、ユニットA,B,Dの砂岩や凝灰岩から漸新世後期,ユニットC,Eの砂岩と凝灰岩から前期中新世のジルコンU-Pb年代を得た.七山ほか(2020)が中新世のジルコンと珪藻化石を報告した地層は,ユニットDに相当する.ユニットAの黒色泥岩からは古第三紀暁新世と始新世,また,ユニットEの赤色チャートから白亜紀中期アルビアン~セノマニアンの放散虫年代が報告されている(Watanabe & Iwata, 1987, 君波ほか, 1990).

    原層序の復元 野外での岩石の随伴関係や層序・年代,および鏡下での特徴から,当地域の日高累層群の原層序は以下のように復元される.古い方から,枕間石灰岩を伴うE-MORB枕状溶岩と白亜紀中期アルビアン~セノマニアン赤色チャート・石灰岩(ユニットE) ,凝灰岩を挟在する暁新世~始新世の半遠洋性黒色珪質泥岩(ユニットA),漸新世~前期中新世の砂岩泥岩互層(ユニットB),前期中新世赤色・緑色・黒色泥岩(ユニットD)とそこに噴出,貫入したN-MORB~T-MORB緑色岩類(ユニットC)となる.

    考察 当地域で復元される原層序は,枕状溶岩を覆う白亜紀の赤色チャート・石灰岩に始まり,暁新世~始新世の半遠洋性黒色泥岩を経て,後期漸新世~前期中新世の陸源タービダイトに至る,海洋プレート層序であったと考えられる.そのため,付加体の形成年代は後期漸新世~前期中新世の可能性が高い.Muller et al., (2016)によれば,20Ma頃に日本周辺へ沈み込んだ太平洋プレートの年齢は,およそ100myr と復元されており,これはユニットEチャート岩塊の放散虫年代(アルビアン~セノマニアン)と調和的である.また,DSDPやODPの太平洋プレート上のコア層序では,上部白亜系~下部古第三紀系が欠如しているものがある(DSDP Site 578, ODP Site 1179など).そのため,トムラウシ地域における白亜系や下部古第三系のきわめて断片的な産出は,太平洋の海底層序の欠如を反映している可能性がある.  以上から,トムラウシ地域では,砂泥互層が堆積した漸新世末~前期中新世頃まで,日高帯は東に開いた海であり,太平洋プレートが沈み込んでいたと考えられる.

    引用文献

    君波 和雄,川端 清司,宮下 純夫,1990, 日高累層群中からの古第三紀放散虫化石の発見とその意義,特に海嶺沈み込みについて,地質雑,96, 332-326.

    Müller, R.D., Seton, M., Zahirovic, S., Williams, S.E., et al. (2016) Ocean basin evolution and global–scale plate reorganization events since Pangea breakup. Annual Reviews of Earth and Planetary Sciences, 44, 107–38.

    七山 太, 渡辺 真人, 山崎 徹, 岩野 英樹, 檀原 徹, 平田 岳史,2020b, 北海道中央部,トムラウシ地域の日高帯分布域に新たに発見された下部中新統とそのテクトニックな意義,地質誌,126, 605-620.

    Watanabe, Y. and Iwata, K. 1987, The Hidaka Supergroup in the Tomuraushi Region, Hidaka Belt, Hokkaido, Japan. Earth Sci. (Chikyu Kagaku), 41, 35-47.

  • 土屋 裕太, 青木 一勝, 西戸 裕嗣
    セッションID: T4-P-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    はじめに

    カソードルミネッセンス(CL)は、対象鉱物の微量不純物、格子欠陥、結晶歪を高空間分解能で解析できるため、地球科学の分野では、続成作用や後背地解析、さらには変成作用の解析などさまざまな面で利用されている。その中、ジルコンのCLは、成長ドメインごとに異なる特性を示すことが知られており、U–Pb年代測定技術の発展と普及に相まって年代学分野では切り離すことのできない手法の1つとなっている(e.g., Corfu etal.,2003; Grant et al., 2009)。しかし、CL特性が生じる具体的な要因やメカニズムについては不明な点が多い。火成起源ジルコンが示すカラーCL像は、一般に結晶化した年代が古いものほど黄色発光を示す。一方、何もドープしていない合成ジルコンのカラーCL像は、顕著な青色発光を示す。これらのことは、放射性核種からのα線放射による損傷の増加がCLの黄色発光を強める要因であることを示唆する(e.g., Finch et al., 2004; Tsuchiya et al., 2017)。しかし、放射線損傷の少ない天然ジルコンのCL特性を報告した例は少なく、ジルコン年代に応じた放射線損傷の増加もしくは減少がCL発光にどれだけ影響を与えているかはよく分かっていない。そこで本研究では、報告例が少ない若いジルコンのCL特性を明らかにするため、岐阜県および長野県県境の北アルプス南部上高地・西穂高岳周辺に産する滝谷花崗閃緑岩(2–1Ma: Sano et al., 2002; Ito et al., 2017)からジルコンを分離し各種測定を行った。

    結果と解釈

    ・LA-ICP-MS U–Pb年代測定

    滝谷花崗閃緑岩から抽出したジルコン(滝谷ジルコン)のU–Pb年代測定から、滝谷ジルコンは~65Maの年代を示すものと、2–1Maの年代を示すものがあることがわかった。前者の古い年代を示すジルコンについてはIto et al. (2017)も報告している。滝谷花崗閃緑岩の周囲には白亜紀花崗岩類が認められることから、滝谷花崗閃緑岩の元となったマグマの定置プロセスの際に周囲の白亜紀花崗岩類の同化作用で取り込んだ際に、混入したと考えられる。

    ・カラーCL像

    ジルコンのカラーCL像は、年代値の違いに関わらず同じ青色発光を示した。先行研究によるジルコンのCL特性結果(Tsuchiya et al., 2017)を考慮すると、2–1Maの若い年代を示すジルコングループは放射線損傷が少ないため、黄色発光の影響を受けず青色発光が強く反映され、一方、~65Maの古い年代を示すジルコングループは、700度以上でアニールされ放射線損傷が解消し青色発光を示したと考えられる(Tsuchiya et al., 2015)。

    ・スペクトル解析

    CLスペクトル分析の結果、グループごとに青色領域の強度差が生じていることが認められたが、スペクトルパターンに大きな違いは認められず、すべてのジルコンから紫外-青色領域に結晶成長時の際に生じる発光中心(Intrinsic emission)と、希土類元素(Dy3+、Er3+)を発光中心とする~480nmおよび~580nmと~405nmに鋭いピークが検出された。また、黄色領域に放射線損傷に帰属される発光バンドはほとんど認められなかった。これらのことより、カラーCL像観察で認められた顕著な青色発光は、Intrinsic emissionに起因することを示す。一方、グループごとに青色領域の強度差が生じる原因については、現時点ではよくわからないが、おそらくCL強度が温度によって大きく変化することに起因するのかもしれない。今後ジルコンの微量元素組成や角閃石組成などから滝谷花崗閃緑岩の温度圧力条件を推定し、若いジルコンのCL発光の特徴化を進め、ジルコン年代に応じた放射線損傷がCL発光に与える影響について議論する。

    引用文献

    Corfu et al., 2003, Reviews in Mineralogy and geochemistry, 53, 469-500. Finch et al., 2004, Journal of Physics D: Applied Physics, 37, 2795-2803. Grant et al., 2009, Chemical Geology, 261, 155-171. Ito et al., 2017, Scientific Reports, 7, (1). Sano et al., 2002, Journal of Volcanology and Geothermal Research, 117, 285-296. Tsuchiya et al., 2015, Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 110, 283-292. Tsuchiya et al., 2017, Geochronometria, 44, 129-135.

T5(ポスター)文化地質学
  • 久田 健一郎, 藪崎 志穂, 唐田 幸彦
    セッションID: T5-P-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    日本酒は水,米,米麹から造られている.水は重要な原料のひとつであるが,同じ醸造酒でも仕込みに水を使わないワインとは対極の関係にある(Maltman, 2020).ワイン醸造が盛んな国々では,テロワールの違いによってワインの美味しさを生み出すとされている.Wilson(1998)は隣同士のブドウ畑であってさえも,いろいろな要素(水はけに大きく影響を与える地質や気候など)が組み合わさってワインの違いが生じるとした.一方,日本酒は酒米の栽培技術や発酵技術の改良とともに,豊富な湧き水や井戸水を原料として,その醸造業が発展してきた.湧水や井戸水は水循環の一部を担うことから,地表付近の土壌や地質の影響を受けている.しかしながら,日本酒醸造と地質との関係に関する最近の研究は,舩山(2016)があるのみで,酒蔵が位置する場所の地質とそこで使用する日本酒仕込み水の水質の関係については,不明な点が多い.そこで,国税庁「地質に対応した日本酒仕込み水の水質分析体系化によるテロワール・ブランディング」事業の一環として,日本酒仕込み水の水質と取水地の地質について調査検討を行った.

     全国およそ1400ある酒蔵のうち,仕込み水として使用している水274点(地下水200点,その他74点;ひとつの酒蔵から複数試料の場合あり;各50 mL)を入手した.仕込み水以外の参考水試料(9点)をあわせて分析総数は283点である.分析は総合地球環境学研究所にてまずEC(電気伝導率),pHとORP(酸化還元電位)を計測した.主要溶存イオン濃度の測定はイオンクロマトグラフ(ICS-3000またはICS-6000)によりF-, Cl-, NO2-, Br-, NO3-, SO42-, PO43-, Li+, Na+, NH4+, K+, Mg2+, Ca2+を測定した.HCO3-はpH4.2アルカリ度滴定法により求めた.

     全水試料について,基本的なイオン成分(陰イオン:Cl,HCO3,SO42-,NO3 の4成分 陽イオン:Mg2+,Ca2+,Na+,K+の4成分)の含有量を用いてグラフ化した(ヘキサダイアグラムとトリリニアダイアグラム).ヘキサダイアグラムでは個々の水試料の水質特性を見ることができる.本研究ではクラスター分析(上述の溶存イオン8成分の濃度を利用)を試み,9つのカテゴリーを見出した.またトリリニアダイアグラムでは,東北日本,西南日本内帯,外帯(以降,内帯,外帯と称する)の分析試料数は,130,147,6であり,アルカリ土類炭酸塩型(Ⅰ型),アルカリ炭酸塩型(Ⅱ型),アルカリ土類非炭酸塩型(Ⅲ型),アルカリ非炭酸塩型(Ⅳ型),中間型(Ⅴ型)のすべての領域に分散している.とくに,東北日本ではI型が50%,Ⅴ型が37%,内帯ではⅠ型が64%,Ⅴ型が24%となっている.

     金井他(1998)は,地表付近の地質やより深部の地質と水質との関わりを明らかにし,とくにヘキサダイアグラム上の花崗岩類に関連すると考えられる水質において,CO3-Ca・Mg型からアルカリ度とNa・Kが増加してゆく水質進化の過程を確認した.藪崎他(2007)は深成岩でできた筑波山における水質分析がCa-HCO3型であることを示している.本研究の水質分析結果から,花崗岩がより広く分布する内帯(磯山他,1984;棚倉構造線と糸静線の間の西南日本内帯・外帯東部を東北日本とした)において,内帯の地域に位置する酒蔵の仕込み水は,Ca-HCO3型がより卓越すると言えよう.一方,東北日本の水質ではより中間型の水が目立つ.これは磯山他(1984)の岩種・時代別分布面積比の第四紀・新第三紀の卓越にも明瞭に表れているように,広く分布するこれらの地層中の地下水流動に起因するものと推定される.今後さらなる解析が必要であるが,本研究の第一次近似的まとめとして,仕込み水と地質(特に花崗岩類)には関係があるといえる.

    【引用文献】舩山 淳,2016,日本醸造協会誌,111,801-807. 磯山 功他,1984,地質調査所月報,35,25-47. 金井 豊他,1998,地質調査所月報,49,425-438. Maltman, A., 2020, The Geology of Wine, Spirits and Beer. In Elias, S. and & Alderton, D., eds., the Encyclopedia of Geology (2nd edition), Elsevier, 627-643. Wilson, J.E., 1998, TERROIR. University of California Press, London, 336p. 藪崎志穂他,2007,地下水学会誌, 49,153-168.

  • 石橋 隆, 土永 知子
    セッションID: T5-P-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    【 南方熊楠(みなかたくまぐす)

     日本の近代化黎明期に活躍し、世界的博物学者と称される。江戸時代末の1867年5月18日(慶応3年4月15日)に紀州に生まれる。旧制和歌山中学校、東京大学予備門を経て、19歳から14年間米国、英国などへ海外遊学する。10数ヶ国語を自由に使いこなして国内外に多くの論文を発表し、日本に「ミナカタ」ありと世界の学者を振り向かせ、自然科学、民族学などに多くの足跡を残す。生涯在野の学者に徹した熊楠の活動や研究範囲は非常に広範で、現在も全容が解明されるには至っていない。業績面では特に粘菌(変形菌)の分類学の基礎を固めた生物学者としてや、柳田国男らと日本における民俗学ソサエティの立ち上げを行ったことで知名度が高い。熊楠については彼自身の人物像についても多くの研究がなされている。

    【 熊楠の鉱物化石標本 】

      南方熊楠が、少年期から東京大学予備門生時代、渡米期などに鉱物や化石などの地質標本を蒐集していたことは殆ど知られていないが、標本約300点が現存し、南方熊楠記念館(和歌山県白浜町)に収蔵されている。この標本群は熊楠が終生所有していた遺品で、1996年に整理が行われた際に3日間にわたって調査され、再調査の要ありと判断されていたが、以後も詳細な調査は行われていなかった。2019年に標本図録(土永・石橋)が制作され、今回はさらに標本の同定および入手方法や時期についての精査が行われたために内容を報告する。

     鉱物および化石標本は、熊楠が渡米前に地質標本蒐集用に製作した黒い箪笥(1886(明治19)年3月21日の日記に記録あり)に収められている。これらの標本の大半は、熊楠が上京した1885(明治18)年から渡米中の1889(明治22)年に収集されている。熊楠は幼少期から『和漢三才図会』『本草綱目』『雲根誌』などを抜書し「本草学」で知識を得た。標本は、江戸期の木村蒹霞堂による「貝石標本」のように、鉱物、化石、考古遺物および貝類を同じ標本箱に保管している。また、標本付属の紙片(ラベル)や日記に、「紫石英」「陽起石」「ツキノサガリ」など熊楠が幼少の頃から抜書をした「本草書」に採録されている、江戸期あるいは中国古来の石の名称が記されているものもみられる。熊楠の鉱物・化石コレクションには「本草学」( ≒ 江戸時代の博物学)の影響が強くみられる。 熊楠は、通称『熊楠日記』とよばれる懐中日記に日常を詳細に記録していたが、そこに入手や採集の記録がある標本が多数現存することも判明した。なかには論文にスケッチが掲載された標本の実物も確認された。『熊楠日記』はそれ自体が研究対象にされ、関連する報告書や書籍が多く出されているが、地質標本に関連する部分については一般的ではない名詞や用語が多く、地質学、鉱物学、古生物学などの専門知識に加えて、江戸期の本草学、蘭学、鉱業などの知識も併せ持って読み解かないと理解が容易ではなく、これまでにあまり注目されていなかった。 熊楠については、前述の通り、生物学者(粘菌等)や民俗学者的側面の活動や業績が特に知られるが、今回行われた鉱物や化石などの地質標本の調査において、少年期の多感な時期から青年期にかけて、親友らと鉱物標本の蒐集や鉱物の洋書を翻訳するなど、地質学鉱物学に強い興味を示し、標本の蒐集を通しての人付き合いが、彼の人格形成に大きく影響を与えた様子を読み取ることができる。

    【 引用文献 】

    土永・石橋(2019):南方熊楠の鉱物・化石コレクション展2019.フィールドミュージアム番所山南方熊楠記念館特別展図録, 番所山を愛する会・公益財団法人南方熊楠記念館, 36総頁.

T7(ポスター)地球年代学が拓く高精度火山噴火史・発達史
  • 山本 真也, 西澤 文勝, 吉本 充宏, 太田 耕輔, 宮入 陽介, 横山 祐典, 菅 寿美, 大河内 直彦
    セッションID: T7-P-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    日本最大の活火山・富士山では、過去3200年間で100余りの火山噴出物が確認されているが、その噴出年代が確定しているものは約3割にも満たない。その要因として、富士山では0.1 km3 DRE以下の小規模噴火が約8割を占め、高頻度(約30年に1回)で噴火を繰り返すことから、噴出物直下に土壌が発達せず放射性炭素(14C)を用いた年代測定が困難であることが挙げられる。一方、富士山北麓に位置する富士五湖の湖底堆積物中には、富士山由来の降下スコリア層が連続的に保存されており、陸上に比べ時間分解能の高い噴火履歴情報が得られることが期待される。一般に、過去数万年程度の湖沼堆積物の年代推定には、植物遺骸の14C年代測定が用いられるが、これら湖では植物化石が降下スコリア層直下から産出しないこともあり、精度の高い年代モデルの構築が困難であった。そこで本研究では、富士五湖(河口湖・山中湖)の湖底堆積物を対象に放射性炭素年代測定法の再検討を行い、堆積物中に含まれる降下スコリア層の堆積年代の推定を行った。

    <事例研究1:河口湖>

    本研究ではまず、富士山北麓、河口湖の堆積物コア(KA-1)中の大室スコリア(Om)について、その上下層より産出した植物化石(木の葉)の14C年代測定を行い、噴出年代の推定を行った。これまでOmは、陸上露頭で得られた噴出物直下の炭化木の14C年代から約3200年前の噴出物であると考えられてきた(高田ほか, 2016)。一方、KA-1コア中の植物化石の14C年代に基づく年代モデルからは、2938 ± 29 cal BPの年代値が得られ、Omが従来に比べ約270年新しい噴火であったことが明らかとなった。更に、本研究では、KA-1コア中の植物プランクトンに由来するC16脂肪酸の化合物レベル14C年代測定を行い、Omの年代推定を試みた。その結果、リザーバー年代補正後のC16脂肪酸の14C年代から推定された噴出年代(2837 ± 78 cal BP)が、前述の植物化石から推定される年代(2988–2870 cal BP)とよい一致を示し、植物化石が産出しない場合でも、化合物レベル14C年代法を用いることで精度の高い噴火年代推定が可能であることが明らかとなった。

    <事例研究2:山中湖>  

    山中湖は、従来、鷹丸尾溶岩流の堰き止めにより成立したと考えられてきたが(田中, 1921)、ボーリングコア中の珪藻化石群集が湖沼化を示す降下スコリア層が約1890-1830年前の14C年代を示す(遠藤ほか, 1992)など、年代の不一致が指摘されてきた。そこで本研究では、山中湖湖心で採取した表層堆積物中の各種有機物の14C年代測定を行い、湖水中の溶存無機炭素(DIC)の年代と比較した。その結果、TOCの放射性炭素同位体比(Δ14C = −73 ± 2‰)が、秋の湖水中のDICと整合的な値(−66 ± 8‰; Ota et al., 投稿中)を示すことが明らかとなり、リザーバー年代を補正することで、TOCの14C年代から、より正確な堆積物の年代推定が可能であることが示された。そこで本研究では、Yamamoto et al. (2018)で植物化石の14C年代が報告された層準でTOCの14C年代測定を行い、過去のリザーバー年代の変遷を明らかにした。更に、TOCの14C年代を高解像度で測定し、リザーバー年代を補正した上で年代モデルの構築を行った。その結果、前述の降下スコリア層の年代が、646 ± 65 cal ADであることが明らかとなった。この年代は、鷹丸尾溶岩中の炭化木の14C年代から推定される年代(687 ± 60 cal AD; 田場ほか, 1999)や古地磁気の方位解析から推定されている鷹丸尾溶岩の年代(AD600-700年; 馬場ほか, 2017)とも整合的であり、現在の山中湖の成立が鷹丸尾溶岩流と同時期であったことが示唆された。

    <引用文献(引用順)>

    高田ほか(2016)富士火山地質図(第2版).

    田中(1921)歴史地理37, 445–455.

    遠藤ほか(1992)日本大学文理学部自然科学研究所「研究紀要」27, 33–36.

    Ota et al. (投稿中) Elementa: Science of the Anthropocene.

    Yamamoto et al. (2018) Organic Geochemistry 119, 50–58.

    田場ほか (1999)日本大学文理学部自然科学研究所「研究紀要」34, 121–128.

    馬場ほか (2017)地球電磁気・地球惑星圏学会講演会講演要旨.

  • 岩田 尚能, 岩垂 巧二, 齋藤 和男
    セッションID: T7-P-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    100万年より若い火山岩のK-Ar年代測定において放射起源40Arを正確に定量しようとする場合,試料がもつ初生Arの同位体比(40Ar/36Ar)が大気のAr同位体比と同一であると仮定できるかどうかが問題になる(高岡,1989など).38Arスパイクを使用しない感度法(ピーク値比較法ともいう)でAr同位体分析を行い,試料の38Ar/36Ar比と大気の38Ar/36Ar比を比較することで,初生Arの同位体分別の有無を確認することができる.そして同位体分別の大きさが質量差に依存すると仮定することで,初生Arが同位体分別を受けた大気成分であっても,質量分別補正を行うことで正確に放射起源40Arを定量することが可能である(高岡,1989・松本ほか,1989など).このことから,若い火山で高精度火山噴火史・発達史を作成するためには,質量分別補正を施したK-Ar年代値を利用することが望ましいと考えられる.質量分別補正を行った感度法K-Ar年代測定の例として,東北日本・猫魔火山での結果を紹介する.

    猫魔火山の形成史は三村(2002)によってまとめられている.三村(2002)は地質調査と放射年代測定の結果から,猫魔火山の活動を古猫魔火山(>1 Ma-0.7 Ma)と新猫魔火山(0.5 Ma-0.4 Ma)に区分し,両者の間に山体崩壊によるカルデラ形成があったとした.猫魔火山の放射年代はNEDO(1991)と三村(2002)によって報告されている.NEDO(1991)は9試料に対してK-Ar年代測定を行い,1.11 Ma-0.47 Maの年代値を得た.三村(2002)は5試料に対してK-Ar年代測定を行い,そのうち2試料で1.43 Maと0.68 Maという年代値を得た.ただし,NEDO(1991)と三村(2002)にはAr定量方法に関する詳細な記述がないため,示されているK-Ar年代値に質量分別補正が行われていたかどうかは不明である.

    猫魔火山の岩石試料に対して,岩垂(1992MS)が感度法によるK-Ar年代測定を行った.その結果を整理してIwata et al. (2021)が報告した.質量分別補正を行って得られたK-Ar年代値は古猫魔火山相当の試料で0.68 Ma-0.40 Ma,新猫魔火山相当の試料で~0.2 Maであり,1 Maを超える年代値は得られなかった.

    NEDO(1991)は猫魔火山の古地磁気測定を行っている.猫魔火山の噴出物は,帯磁方向のばらつきが大きい1試料を除いて9試料が正帯磁を示すとし,Brunhes Normal Epoch (0.773 Ma~現在)もしくはJaramillo Event(1.071 Ma-0.990 Ma)に対比できるとした(NEDO,1991;境界の年代値はCohen and Gibbard, 2019).質量分別補正を行った感度法K-Ar年代値に1 Maより古いものがなかったことは,猫魔火山の噴出物がBrunhes Normal Epochに形成されたということを支持すると考えられる.

    引用文献

    Cohen, K. M. and Gibbard, P. L. (2019) Quaternary International, 500, 20-31.

    岩垂巧二(1992MS) 山形大学理学部地球科学科卒業論文,35 p.

    Iwata, N., Iwatare, K. and Saito, K. (2021) Bull. Yamagata Univ. (Natl. Sci.), 19(4),15-25.

    松本哲一・宇都浩三・柴田賢(1989) 質量分析,37(6),353-363.

    三村弘二(2002) 火山,47(4),217-225.

    NEDO(1991)広域熱水流動系調査 磐梯地域 火山岩分布・年代調査報告書要旨,201 p.

    高岡宣雄(1989) 質量分析,37(6),343-351.

R1(ポスター)深成岩・火山岩とマグマプロセス
  • 山岡 健, Wallis Simon, 三宅 明, Annen Catherine
    セッションID: R1-P-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    プルトンは過去のマグマ溜まりの記録であり、火山下のマグマプロセスを解明する上で重要な情報源となる観察対象である。一方、プルトンの形成は噴火を必ずしも伴うものではないため、プルトンが噴火の履歴をもつかどうかを地質学的に識別することが火山活動とプルトン形成プロセスの関係性を議論することが重要である。しかし、プルトンの露出はより浅い地質構造の侵食による消失のプロセスを伴うために、残されたプルトンから噴火履歴の有無を評価できるケースは非常に限定的である。

    本研究では、このような課題を解決するため、プルトンの周囲に形成される接触変成帯に着目する。接触変成帯の熱構造はプルトン領域への熱入力に関係し、接触変成帯を再構成するために必要な熱量と、プルトンの体積から推定される熱量の差が一旦マグマ溜まりに流入しその後流出したマグマの流出程度を表している可能性がある。このため、接触変成帯の詳細な解析によってプルトンの噴火履歴の有無を評価できると思われるが、これを検討した例は。文献に記載のある世界中の珪長質プルトンに伴う接触変成帯の幅や形成時の圧力条件についてコンパイルを行なうと、プルトンの形状や規模、貫入時のマグマ温度のバリエーションでは説明できない範囲で接触変成帯の幅にばらつきが見られることが明らかになった。これらのばらつきを説明可能な未決定パラメータとして、 1)貫入時の周囲の地温勾配、 2)時間あたりのマグマの供給体積、 3)プルトン領域からのマグマ流出が考えられる。

    これらの要素を定量的に扱うためには詳細な熱モデリングと接触変成帯の熱構造評価、およびプルトン体積の正確な見積もりが必要となる。本研究ではこれらを実行可能な地域として中部日本の本宮山地域に明瞭な接触変成帯を伴って分布する新城トーナル岩に着目した。推定されている本岩体の定置深度は約9 kmである(遠藤・山﨑,2013)。本接触変成帯は著しい幅広さ(~2 km)をもち、高い貫入時の背景温度による説明がされてきた(Adachi & Wallis, 2008)。しかし、最近の年代学的研究によって、隣接する武節花崗岩もほとんど同時期に貫入したことが明らかとなり(Takatsuka et al., 2018)、この岩体は新城トーナル岩とは対照的にごく狭い接触変成帯を有する(<200 m)ことから、高い背景温度のみではこれらの接触変成帯を説明することが難しく、マグマの流入・流出履歴の差異がより重要であることを示している。本研究では炭質物ラマン温度計やTi石英地質温度計を用いて新城トーナル岩の接触変成帯の熱構造を制約した上で、新城トーナル岩の三次元分布を考慮した貫入岩熱モデリングを実施し、計算結果と観測値を比較することでプルトン内部のマグマの流入・流出履歴の制約を試みた。

    その結果、マグマ流出の無いモデルでは、野外で見られる接触変成帯を説明できるほどの温度上昇を達成できず、著しいマグマの流出の履歴があることが示唆された。そこでマグマを同時に流入・流出する熱モデルを構築し、観測される接触変成帯を再現するようなマグマの体積フラックスを求めたところ、1*10-2–4*10-4 km3/yrのフラックスを100万年から数100万年の間継続する必要があることが明らかとなった。これは、新城トーナル岩の体積(~100 km3)を大きく超える1000 km3オーダーのマグマ体積が貫入領域から流出したことを意味している。また、これらの観測値を説明可能な接触変成帯は、貫入直前の地温勾配が45–50°C/kmに達する成熟した地殻の熱状態でのみ達成された。

    より浅部のカルデラ噴火を伴うマグマ溜まりからの噴出物体積は一般的にマグマ溜まりに対して10–50%程度以下と推定されており(Geshi et al., 2014)、本研究の結果と大きな差があるが、これはマグマ溜まりの冷却時間スケールを支配する主要因の一つである地殻の背景温度がプルトンと噴出物の最終的な配分を決定する上で重要であることを示唆している。

    【References】 遠藤・山﨑, 2013, doi:10.9795/bullgsj.64.59; Adachi & Wallis, 2008, doi:10.1111/j.1440-1738.2007.00603.x; Takatsuka et al., 2018, doi:10.1016/j.lithos.2018.03.018; Geshi et al., 2014, doi:10.1016/j.epsl.2014.03.059

  • 榎丸 優香, 能美 洋介, 土屋 裕太
    セッションID: R1-P-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    岡山県中・南部には、山陽帯に属する中生代白亜紀後期の花崗岩類が広く分布している。これらは、濡木(1978)や濡木ほか(1979)によって、構成鉱物などからⅠ~Ⅳ型、および細粒花崗岩に分類されたが、それぞれの貫入関係や前後関係などはいまだ未解明である。山陽帯花崗岩はバソリスとして言及されることが多いが、岡山県中南部のようにいくつかに区分された岩型が、マグマの違いを反映しているならば、それらの前後関係を決めることで、山陽帯バソリスの形成史、ひいては白亜紀後期の珪長質火成活動について重要な知見を与えられる。能美ほか(2013)では、岡山県東南部の瀬戸内市牛窓地域において、MMEを大量に含む花崗岩、花崗斑岩や細粒の珪長質岩からなる岩脈が多数みられるなど、この地域の花崗岩類の産状は非常に複雑な様子を呈していることが報告されている。このため、筆者らは比較的露頭条件が良い岡山県東南部の瀬戸内海沿岸部の岡山市東区正義~瀬戸内市牛窓地域において、花崗岩類の分布や記載の再検討を行っている。

    本研究対象地域の花崗岩類は、濡木ほか(1979)では、すべてⅡ型とされている。Ⅱ型花崗岩は、有色鉱物として黒雲母と角閃石を含み、アルカリ長石が集斑状を示す。これらの岩相は、研究対象地域のほぼ中央の岡山市東区宝伝以東において確認された。一方、宝伝より西部の地域の花崗岩には、有色鉱物として角閃石を確認することができなかった。また、無色鉱物の、石英とアルカリ長石の比率が高く、これら西部岩体の岩相は濡木のⅠ型花崗岩の特徴を示している。研究対象地域の西に児島湾を隔てて児島半島があるが、児島半島の花崗岩類はⅠ型に区分されている。本研究対象地域の花崗岩類はⅠ型とⅡ型が分布し、宝伝付近にその境界があると考えられることから、宝伝海岸露頭の記載を中心に報告する。

    宝伝海岸露頭の西部には、黒雲母花崗岩が分布し、そこから砂浜を経て細粒の花崗斑岩が出現する。ここから東部に向かうにつれ、花崗斑岩中に角閃石黒雲母花崗岩の捕獲が認められるが、これらの捕獲岩の形状は不定形であり、クリスタルマッシュな角閃石黒雲母花崗岩マグマを花崗斑岩が取り込んだ様子がうかがえる。そして、これらの捕獲岩の量は東部ほど多くなり、やがて細粒花崗岩の出現をみて、東部の宝伝海水浴場付近では、粗粒の角閃石黒雲母花崗岩の分布となる。筆者らは、花崗斑岩~角閃石黒雲母花崗岩に移化する宝伝海岸露頭をⅠ型花崗岩とⅡ型花崗岩の漸移帯と捉え、未固結な状態のⅡ型花崗岩にⅠ型花崗岩マグマが貫入した結果と考察した。

    引用文献

    濡木(1978)岡山県中南部に産する花崗岩類中のカリ長石の特徴,地質学雑誌,Vol.84.pp201-213濡木輝一・浅見正雄・光野千春(1979)岡山県中・南部の花崗岩類,地質学論集,Vol.17.pp.35-46

    能美洋介(2013)岡山理科大学『岡山学』研究会シリーズ岡山学11瀬戸内海を科学するPart1,pp24-46

  • 村岡 やよい
    セッションID: R1-P-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    産業技術総合研究所地質調査総合センターでは,福岡県糸島半島と玄界島を区画に含む5万分の1地質図幅「前原及び玄界島」を調査・作成中である.「前原及び玄界島」地域には白亜紀花崗岩類が広く産し,糸島花崗閃緑岩,北崎トーナル岩,志賀島花崗閃緑岩,深江花崗岩及び早良花崗岩の5岩体が分布する(久保ほか,1993).また,今回の調査で新たに立石山花崗岩(仮称)を区分した.図幅中の花崗岩類の分布域のほとんどは糸島花崗閃緑岩,北崎トーナル岩,志賀島花崗閃緑岩の3岩体で占められているため,本発表では主にこの3岩体と立石山花崗岩(仮称)に注目する.

     糸島花崗閃緑岩は図幅中に最も広く産する岩体である.その分布域は図幅範囲外にも広がり,北部九州白亜紀花崗岩類の中でも最大の面積を誇る.北崎トーナル岩は糸島花崗閃緑岩の北側に,変成岩類を挟んで分布する.また,図幅範囲外の福岡県福津市周辺にも産する.志賀島花崗閃緑岩は糸島半島北端部と玄界島,図幅範囲外では志賀島などに産する.志賀島花崗閃緑岩は北崎トーナル岩に貫入しており,累帯深成岩体を形成する(唐木田ほか,1992).立石山花崗岩(仮称)は糸島半島西端に位置する立石山周辺に産する.

     糸島花崗閃緑岩,北崎トーナル岩,志賀島花崗閃緑岩の岩石学的研究は唐木田(1985)や井沢ほか(1994),矢田・大和田(2003)などで報告されている.また,各種年代データも河野・植田(1966)や唐木田ほか(1994),Tiepolo et al.(2012),Miyazaki et al.(2018)などで報告されている.しかしながら,図幅範囲外のサンプルを対象としたものやデータの精度が低いもの,北部九州に産する花崗岩類全体を対象としたデータ収集を目的としたものが多く,糸島半島を対象として詳細な分析・議論を行った報告は少ない.本発表では,糸島半島周辺に産する糸島花崗閃緑岩,北崎トーナル岩,志賀島花崗閃緑岩,立石山花崗岩(仮称)についての記載岩石学的特徴,各種データを示す.

     糸島花崗閃緑岩,北崎トーナル岩,志賀島花崗閃緑岩は主に斜長石,石英,カリ長石,黒雲母,角閃石から構成される.糸島花崗閃緑岩と北崎トーナル岩は肉眼では類似しているが,鏡下では糸島花崗閃緑岩の方がやや粗粒で,角閃石の自形性が比較的強い.志賀島花崗閃緑岩は前者2岩体と比較すると苦鉄質鉱物が細粒で,量も少ない.立石山花崗岩は4岩体中で最も優白質な岩相で,角閃石を含まない.SiO2含有量は北崎トーナル岩,糸島花崗閃緑岩,志賀島花崗閃緑岩,立石山花崗岩の順に増加する.特に主要元素において,4岩体はハーカー図で同一のトレンドを示す.

     糸島花崗閃緑岩2試料,北崎トーナル岩1試料についてはジルコンU-Pb・FT年代及び黒雲母K-Ar年代測定を行った.測定はそれぞれ京都フィッション・トラック及び蒜山地質年代学研究所に依頼した.測定の結果,糸島花崗閃緑岩からは106.1±0.9Ma ,105.0±1.4MaのジルコンU-Pb年代,96.1±2.1Ma,91.4±2.0Maの黒雲母K-Ar年代,105.1±4.7Ma,101.5±6.1MaのFT年代が得られ,北崎トーナル岩からは111.5±1.3MaのジルコンU-Pb年代,94.3±2.1Maの黒雲母K-Ar年代,100.±6.0MaのFT年代が得られた.いずれのサンプルも黒雲母K-Ar年代が最も若い年代を示しており,各岩体の冷却史については今後慎重な考察が必要である.

    【参考文献】

    ・久保ほか(1993) 20万分の1地質図幅「福岡」,地質調査所

    ・唐木田ほか(1992) 日本の地質9「九州地方」,共立出版 371p

    ・唐木田(1985) 日本応用地質学会支部会報,6,2-12

    ・井沢ほか(1994) 西南学院大学 児童教育論集,20,21-54

    ・矢田・大和田(2003) 地質学雑誌,109,9,518-532

    ・河野・植田(1966) 岩石鉱物鉱床学会誌,56,191-211

    ・唐木田ほか(1994) 地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,126p

    ・Tiepolo et al.(2012) Journal of petrology, 53, 6, 1255-1285

    ・Miyazaki et al.(2018) International geology review, 61, 649-674

  • 野口 将志, 亀井 淳志, 鈴木 博美, 小林 夏子
    セッションID: R1-P-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    本研究では西南日本弧の山陰帯に産する大東花崗閃緑岩について,野外の産状,岩石記載,帯磁率測定,および全岩化学分析をもとにその火成活動を明らかとした.この岩体は,1)苦鉄質包有岩を普遍的に含むこと,2)自形性の強い普通角閃石もしくは黒雲母を含むこと,3)磁鉄鉱が苦鉄質鉱物に多く伴われること,4)高い帯磁率を有すること(5×10-3 SI単位以上)で特徴づけられる.岩相は中~粗粒普通角閃石黒雲母花崗閃緑岩から中粒黒雲母花崗岩を示し,この変化は斜長石,普通角閃石,および黒雲母の分別結晶作用によって形成されている.本研究により大東花崗閃緑岩の地質図は大幅に改訂され,その結果として貫入時期は約57 Maと判明した.既存研究も含めて火成活動を考察すると,大東花崗閃緑岩は山陰バソリスの因美新期貫入岩類(68〜53 Ma)における暁新世の火成岩体に位置づけられる.

    The Daito granodiorite is a large plutonic mass in the San'in Batholith, SW Japan. The aim of this study is to clarify the igneous activity on the basis of field and petrographical descriptions, magnetic susceptibility measurements, and whole-rocks chemical analysis. We confirmed that the granodiorite is characterized by 1) ubiquitous distribution of mafic magmatic enclaves, 2) euhedral hornblende and biotite crystals, 3) abundant magnetite associated with mafic minerals, and 4) high magnetic susceptibility (more than 5 × 10-3 SI unit). The lithology varies from medium to coarse-grained hornblende-biotite granodiorite to medium-grained biotite granite. These variations were formed mainly by the fractional crystallization of plagioclase, hornblende, and biotite. The geological map of the Daito granodiorite was significantly revised, and it drew out that the timing of the intrusion was about 57 Ma. Taking into account previous studies, the Daito granodiorite is an important representative of the Paleocene activity in the Younger Inbi intrusive group (68–53 Ma) of the San'in batholith.

  • 齊藤 哲, 谷脇 由華, 下岡 和也
    セッションID: R1-P-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    深成岩に含まれるジルコンメルト包有物の化学組成情報を得ることを目指した基礎研究として、ピストン-シリンダー型高温高圧発生装置を用いたメルト包有物の均質化実験を行った。実験後の均質化したメルト包有物についてSEM-EDS分析を行い、得られた結果について検討した。

    はじめに メルト包有物はマグマ溜まりで成長する鉱物中に周囲のメルトが取り込まれたものであり、メルトの化学組成や含水量といった情報を保持している。ジルコンに含まれるメルト包有物は、物理化学的に安定な鉱物であるジルコンがメルト包有物の変質を妨げるため、メルトの組成情報を復元するために適した研究対象である(Thomas et al., 2003 Rev Mineral Geochem)。一方で、深成岩中のメルト包有物はマグマ冷却過程での結晶化により不均質な多相包有物となっており、EPMAやICP-MSなどを用いた化学分析により直接メルト組成を得ることは困難である。そのため分析の前処理として、封圧下でのメルト包有物の均質化実験が有効である(Thomas et al., 2003 Rev Mineral Geochem)。そこで本研究では、深成岩中のジルコンメルト包有物の組成情報を得るための基礎研究として、その均質化実験を行った。

    実験試料 本研究には、赤石山地北部に分布する中新世甲斐駒ヶ岳岩体から採取された花崗閃緑岩試料を使用した。この試料はSaito et al. (2012 Contrib Mineral Petrol)により報告された当岩体の試料のうち全岩SiO2含有量の最も低いもの(SiO2 = 67.9 wt%)であり、主成分鉱物として石英、斜長石、カリ長石、黒雲母、普通角閃石を、副成分鉱物としてジルコン、燐灰石、磁鉄鉱、イルメナイト、褐簾石を含む。ジルコンは偏光顕微鏡観察から黒雲母に包有されるものや鉱物粒間に産するものが認められる。ジルコン内部には微細な燐灰石が含まれるほか、不定形の包有物が認められる。この不定形包有物は主として石英と長石類からなり(Fig. 1)、ジルコンの結晶成長中に取り込まれたメルトから結晶化したものと考えられる。なお、当岩体については、角閃石Al地質圧力計により2.4〜2.2 kbarの固結圧力が見積もられている(Watanabe et al., 2020 J Mineral Petrol Sci)。

    実験方法 分離・抽出したジルコン試料をNaClとともに白金カプセルに封入し、ピストン-シリンダー型高温高圧発生装置を用いて0.3GPaで実験を行った。温度条件は全岩化学組成から求めたジルコン飽和温度(Watson and Harrison, 1983 Earth Planet Sci Lett)が776℃であることから、780℃を実験温度とした。ただし、実験はメルト包有物を十分に均質化させるために1000℃まで加熱して1時間保持し、その後780℃まで温度を下げて24時間保持した。実験後に試料を急冷し、回収したジルコンを石英スタンダードとともにエポキシ樹脂でマウント後、鏡面研磨を行い、SEM-EDSで観察・分析を行った。

    結果と考察 反射電子像観察および組成マップから、本実験によりジルコンメルト包有物が均質化したことが確認できる(Fig. 2)。EDS分析から、メルト包有物のSiO2含有量は69〜79 wt %の範囲を示し、SiO2の増加に対して、Al2O3、CaO、Na2O、K2Oが減少する傾向が認められた。また、下司ほか(2017 火山)に従い、余剰酸素から含水量を推定したところ、およそ2〜8 wt%程度の含水量が見積もられ、これらはSiO2の増加に対して上昇する傾向が認められた。これらのことから、メルト包有物はマグマの固結過程で組成変化する粒間メルトが様々な段階でジルコンにより取り込まれたものと考えられる。さらに、メルト包有物のうち特に高いSiO2含有量を持つものの組成を、圧力評価のためにノルムQ-Ab-Or図(Blundy and Cashman, 2001 Contrib Mineral Petrol)上に投影したところ、甲斐駒ヶ岳岩体の固結圧力として求められた2.2〜2.4 kbarでの平衡圧力よりも有意にAb成分に乏しい領域にプロットされ、これらは0.5 kbar以下の平衡圧力を示す。一方で、余剰酸素から推定した含水量はおよそ6〜8 wt%程度となり、この含水量は800℃の花崗岩質メルトの飽和圧力(Hortz et al., 1995 Am Mineral)ではおよそ2.0〜3.5 kbarに相当する。このような圧力評価の不一致については、微小領域の電子線照射によるNa損失(Fig. 2e)がメルト包有物のノルムAb成分の減少と余剰酸素の増加の要因となったことなどが考えられるが、これらの問題については今後の検討課題である。

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