日本地質学会学術大会講演要旨
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第128学術大会(2021名古屋オンライン)
選択された号の論文の352件中201~250を表示しています
R1(ポスター)深成岩・火山岩とマグマプロセス
  • 滝澤 拓実, 髙橋 直希, 髙橋 俊郎
    セッションID: R1-P-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    1. 研究背景

    北部フォッサマグナ西縁にあたる新潟県糸魚川地域には,中新世以降に形成された堆積岩類および火山岩類から構成される地層が厚く累重している.特に糸魚川地域東部の早川流域から能生川流域には鮮新世以降に形成された地層が分布しているが,これまでこの地域の火山岩類の大部分は鮮新世のものと考えられてきた[1].近年,層序の見直しと年代測定が行われ,火山岩類は鮮新世〜更新世に形成されたことが明らかとなった[2, 3].本研究では,これら火山岩類について地質調査を行い,岩石学的検討を行った.

    2. 地質概説

    本調査地域には下位より鮮新世の根知層,名立層,更新世の猿倉層,江星山層,梶屋敷層および高嶺層が累重する.根知層は主に塊状泥岩からなり,砂岩層や安山岩およびデイサイト質の火砕岩層を複数挟在する.また,根知層には複数の貫入岩がみられる.名立層は弱い層理がみられる泥岩からなる.猿倉層は玄武岩質安山岩〜安山岩質の凝灰角礫岩からなり,下位層を不整合で覆う.江星山層はデイサイト質凝灰角礫岩からなる.梶屋敷層は円礫岩を主体とする鬼舞礫岩部層と安山岩質火砕岩からなる間脇火砕岩部層から構成される.高嶺層は安山岩質火山礫凝灰岩からなる.

    3. 岩石記載

    各層を構成する火山岩を斑晶鉱物組み合わせ等の記載岩石学的特徴から以下のように分類される.

    根知層:両輝石安山岩,両輝石普通角閃石デイサイト

    猿倉層:両輝石玄武岩質安山岩〜安山岩

    江星山層:石英含有両輝石普通角閃石デイサイト

    梶屋敷層:石英含有両輝石普通角閃石安山岩

    高嶺層:両輝石安山岩

    貫入岩:カンラン石両輝石玄武岩,両輝石安山岩,石英含有普通角閃石デイサイト

    各岩石には共通して斜長石斑晶がみられるが,特に江星山層と梶屋敷層および貫入岩の両輝石安山岩には顕著に汚濁帯が観察された.

    4. 全岩化学組成

    各層を構成する岩石は各酸化物変化図上で,やや散在するものの一つの一連の組成変化傾向を示す.SiO2量は53.2–67.0wt.%の範囲で玄武岩質安山岩からデイサイトであり,SiO2 vs K2O図では全体として中間カリウム系列を示す(根知層と猿倉層の一部が高カリウム系列).また,各層のK2O量には若干の差があり,例えば根知層と梶屋敷層の安山岩は高カリウム系列寄りにプロットされるのに対して猿倉層の一部の安山岩と江星山層のデイサイトは低カリウム系列寄りにプロットされる.FeO*/MgO vs SiO2図では全体としてカルクアルカリ系列の組成変化傾向を示す.各酸化物変化図で示される組成変化傾向の多くは斑晶鉱物(例えば輝石類や斜長石)の分別結晶作用で説明することが出来るが,例えば不適合元素であるNbはSiO2の増加に対してほぼ一定であり明確な増加を示さない.

    5. 考察とまとめ

    全岩化学組成および記載岩石学的特徴から,本調査地域の火山岩類は玄武岩マグマからの分別結晶作用だけでなくマグマ混合を被ったマグマから形成された可能性が示唆される.

    根知層にみられる貫入岩について,[3]では江星山層に対比しているが,それらの岩石学的特徴から江星山層だけではなく猿倉層に関連する貫入岩も存在することがわかった.

    本調査地域南方に位置する第四紀妙高火山群[4]と全岩化学組成を比較すると,本調査地域の火山岩類全体の組成変化傾向はそれと類似した特徴を示し,微量元素組成のN-MORB規格化図ではそれぞれのパターンの特徴はよく一致している.以上のことから,本調査地域周辺では鮮新世以降に類似した火成活動が断続的に繰り返し発生していたと考えられる.

    引用文献

    [1] 藤本ほか(1951)地学,3,23–30.

    [2] 大場(2009)日本鉱物科学学会年会講演要旨集 75.

    [3] 古川・長森(2018)地質調査研究報告,96,115–124.

    [4] 早津(2009)妙高火山群-多世代火山のライフヒストリー,424p

  • 柴野 暉崇, 髙橋 俊郎, 大木 淳一, 岩本 直哉
    セッションID: R1-P-7
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    はじめに

     千葉県銚子地域は,前期中新世に前弧域で噴出した高マグネシア安山岩(HMA)が分布する.銚子HMAの成因は,前期中新世の日本海拡大に先駆ける高温のアセノスフェリックマントルの注入による沈み込むスラブの部分融解に関連すると考えられている[1].しかし,鉱物化学組成を含めた詳細な岩石記載はなされておらず,マグマ組成進化過程は明らかになっていない.よって,本研究では銚子HMAのマグマ組成進化過程を明らかにすることを目的として,地質調査および記載岩石学的・岩石学的研究手法による調査を行った.本発表では,銚子HMAの記載岩石学的・岩石学的特徴を示し,3タイプに区分された銚子HMAの岩石学的な成因関係について考察を行う.

    地質学的背景と産状

     本地域はジュラ系愛宕山層群を基盤岩として,下位より白亜系銚子層群,中新統千人塚層,夫婦ヶ鼻層,さらに鮮新統以降が累重する[2].本研究では千人塚層を構成する火山岩類を対象とした.千人塚層は岩礁として3ヶ所に限定的に露出し,黒生地域および長崎鼻地域には玄武岩質安山岩質溶岩,千人塚地域には安山岩質の溶岩および岩脈とデイサイト質の溶岩および火山角礫岩が分布する.

    岩石記載・鉱物化学組成・全岩化学組成

     千人塚層火山岩類は記載岩石学的特徴と全岩化学組成に基づき,以下の 3タイプに区分される.

    1.単斜輝石カンラン石玄武岩質安山岩(HMA)

     斑晶鉱物として,カンラン石(8-12vol%),単斜輝石(<1vol%),極稀に直方輝石が含まれ,クロムスピネルが微斑晶およびカンラン石包有物として見られる.また,主として石英からなる捕獲結晶が見られる.カンラン石斑晶のコアはFo%=84-88,リムはFo%=72-80を示す.単斜輝石斑晶のコアはMg#=81-85を示す.

     本タイプはSiO₂=55.2-56.8wt%の玄武岩質安山岩質でありMg#=63-67,Cr=255-411ppm,Ni=161-294ppmを示し,HMAに分類される.Fe-Mg交換平衡[3]より,カンラン石はHMAのメルト(全岩化学組成を近似)と平衡関係にあると推定されるが,単斜輝石はメルトと非平衡だと推定され[4],より遅期の晶出を示すと考えられる.

    2.直方輝石安山岩

     斑晶鉱物として,直方輝石(7-8vol%)のみ含まれる.直方輝石斑晶のコアは古銅輝石の組成を示し,Mg#=82-88の組成範囲を示す. 本タイプはSiO₂=60.3-61.7wt%を示し,1サンプルを除きMg#=60-61 ,Cr=140-161ppmを示し,直方輝石はメルトと平衡にあったと推定される[5].

    3.直方輝石デイサイト 

     斑晶鉱物として,直方輝石(6-8vol%)と極稀に斜長石が含まれる.直方輝石斑晶は古銅輝石組成を示し,コアはMg#=84-89,リムはMg#=75-82を示す.斜長石斑晶はOscillatory状の正累帯構造を示し,コアはAn%=80-92を示す.

     直方輝石デイサイトはSiO₂=65.3-67.8wt%を示し,Mg#=34-63, Cr=120-147を示す.これは直方輝石安山岩と同程度の含有量である.また,直方輝石はメルトと平衡にあったと推定される[5].

    マグマ組成進化過程

     HMAと直方輝石デイサイトの全岩化学組成は,SiO₂量の増加に伴いMgO,Cr,Ni量が減少傾向を示す.また,斑晶鉱物の化学組成と記載岩石学的に非平衡な特徴が見られないことから,この組成変化は分別結晶作用の影響が示唆される.マスバランス計算とレイリ―分別モデルを試行した結果, HMAの化学組成変化はカンラン石を分別することで説明できる.同様に,直方輝石デイサイトの化学組成変化は直方輝石を分別することで説明できる.

     各タイプの岩石は高い全岩Mg#を示し,タイプ間における類縁関係が示唆される.しかし,HMAからカンラン石や単斜輝石を分別しても,直方輝石安山岩を形成することはできない.また,直方輝石安山岩から直方輝石を分別したとしても,より高い全岩Mg# を持つ直方輝石デイサイトを形成することはできないだろう.以上のことから,各タイプ間には分別結晶作用による成因関係はないと考えられ,より詳細な岩石学的・地球化学的検討が必要である.

    引用文献

    [1]Hanyu et al., 2006, Geochem. Geophys. Geosyst., 7, Q08002.

    [2]高橋ほか, 2003, 地雑, 109, 6, 345-360.

    [3]Roeder and Emslie, 1970, Contrib. Mineral. Petrol, 29, 275-289.

    [4]Topliss and Carroll, 1995, J. Petrol., 36, 1311-1326.

    [5]Rhodes et al., 1979, Tectonophys, 55, 35-62.

R2(ポスター)岩石・鉱物・鉱床学一般
  • 田中 修平, 岡本 敦, ダンダル オトゴンバヤル, 宇野 正起, 藤井 昌和
    セッションID: R2-P-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    Hydrogen and magnetite are produced within the oceanic lithosphere during interaction between mantle peridotite and seawater (serpentinization). Some ecosystems at deep sea are thought to be sustained by such hydrogen and related hydrocarbons as an energy source [1]. Recently, it has been suggested that the serpentinization proceeds by seawater penetrating to the deep fracture zones at temperatures exceeding 350℃ [2]. However, due to limited experimental studies at high temperatures, it has not been clarified whether hydrogen is produced at the deep parts of the oceanic lithosphere and transported to the microbial life in shallower zone. Hydrogen production is commonly accompanied with magnetite formation [3]. In this study, we conducted the batch type and flow-through type experiments in the systems of olivine (Ol)-H2O and Ol-orthopyroxene (Opx)-H2O at temperatures from 200 to 400℃. Based on the thermogravimetric analyses, the chemical composition and magnetic susceptibility, we discussed the effects of temperature and silica on magnetite formation during serpentinization.

    In the batch type experiments, the extent of reaction changes systematically with temperature and is greater in the Ol-Opx-H2O system. The reaction rate in the flow-through type was about 10 times larger. These results indicate that the reaction rate is enhanced by silica derived from orthopyroxene and/or advective mass transfer. The electron microprobe analyses suggest that serpentine minerals contain Fe(III). The magnetic susceptibility of the products related to magnetite amount increases with the extent of reaction in Ol-H2O system increasing whereas does not increase in Ol-Opx-H2O system. These results and thermodynamic calculations suggest that in Ol-Opx-H2O system, magnetite is not produced due to high silica concentration but Fe(III)-serpentine is the dominant host of Fe(III) and the hydrogen production can be higher than that of Ol-H2O system.

    The present study suggests that hydrogen production accompanying serpentinization proceed to orthopyroxene-bearing peridotites (i.e., harzburgite) when seawater circulates in the deep part of the oceanic plate.

    Reference

    [1] Boetius, 2005, SCIENCE, 307, 1420-1422

    [2] Prigent et al, 2020, Earth and Planetary Science Letter, 532, 115988

    [3] Klein et al, 2013, Lithos 178, 55-69

  • 杉岡 純平, 岡本 敦, 山田 亮一
    セッションID: R2-P-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    Mineral precipitation from the hydrothermal vent fluids has been thought to occur in response to quenching of hydrothermal fluids by mixing with cold seawater, but the mechanism of mineral precipitation still poorly understood. Kuroko deposit is one of the typical massive sulfide deposits. The Kuroko sample with the concentric structures represents the chimneys in submarine hydrothermal deposits (Shimazaki and Horikoshi, 1990). In addition to sulfides, bipyramidal quartz grains have been reported in such chimney-like structure, and is thought to be the key to understanding the physico-chemical conditions within chimneys.

    We analyzed two Kuroko-type ore samples containing quartz grains collected from the Hanaoka mine (Doyashiki and Matsumine deposits) in the Hokuroku district, NE Japan. The samples mainly composed of barite, galena, sphalerite, chalcopyrite, pyrite and quartz. The quartz grains show euhedral bipyramidal shape with a long axial length of 0.01-0.52 mm and aspect ratio of ~3, and contained fluid inclusions. We investigate the homogenization temperature, and they suggest that quartz crystals were formed from the high temperature fluids exceeding 300℃.

    The silica precipitation experiments were conducted using the flow-through apparatus with vertical flow-path at constant pressure of 25 MPa with using high-silica aqueous solution (~300 ppm). Within the cylindrical vessel, temperature increased from 350℃ to 430℃ along the flow path. We conducted two runs with flow rate of 0.1 ml/min and the different durations 1 h and 11 h, respectively. In the 1 h run, amorphous silica and cristobalite were observed. In the 11 h run, amorphous silica and quartz were observed. The quartz grains showed euhedral bipyramidal shape with size of 5.9-103 micrometers. The Stokes' equation predict that the silica particles smaller than ~14 micrometers can move upward in ascending flow velocity of 0.01 m/s in the experiments, which is consistent with the particle size observed in experiments, suggesting that the bipyramidal quartz formation occurred in suspension. The bipyramidal quartz grains in the Kuroko samples were similar to that produced in the hydrothermal experiments.

    References: Shimazaki, H., Horikoshi, E., 1990. Mining Geology, 40, 313-321.

  • 水上 知行, 小川 史洋
    セッションID: R2-P-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    沈み込むプレートによって深部にもたらされるH2O流体は、プレート境界のゆっくり滑りや塑性カップリングといった力学的挙動の支配要素である。例えば西南日本のゆっくり滑りの挙動や分布の不均質の要因として、上盤の排水性や吸水性、そして水-岩石反応が引き起こす物性変化が議論されている(Mizukami et al., 2014; Nakajima and Hasegawa, 2016)。マントル中を移動する流体の痕跡は天然のかんらん岩の蛇紋岩化作用として残されており、流体の移動経路、分布、そして反応について直接的な情報が期待される。

     南部北上帯の早池峰-宮守超マフィック複合岩体は、岩石学及び地球化学の研究から島弧下のマントルウェッジの断片であることが示されている(Ozawa, 1988; Yoshikawa and Ozawa, 2007)。しかし、オルドビス紀の火成活動ののち花崗岩体の貫入や浅部テクトニクスによる剪断変形などによって二次的な改変を受けている(小澤ほか, 1988; 小澤ほか, 2013)。本研究では、このマントル断片に沈み込み帯における水-岩石反応の痕跡が残されているか否かを検討するため、蛇紋岩化および変成反応の履歴に着目して岩石組織の観察を行なった。この際、蛇紋石を始めとした含水鉱物の同定のために顕微ラマン分光法を用いた。試料は主に宮守岩体のテクトナイトメンバーから採取した。

     宮守岩体は西側に接する白亜紀の人首花こう岩体や花こう斑岩の貫入による熱変成作用を考慮し、上書き関係に留意して岩石組織の観察を行なった。その結果、下のように形成ステージを区分した。

    ステージ1:アンチゴライト蛇紋岩化作用  アンチゴライト(Atg)メッシュ組織と”劈開”かんらん石(Ol)("cleavable" olivine)の形成によって特徴づけられる。Atgメッシュ組織では、かんらん石粒界もしくは粒子を横切るクラックから両側へ刃状のAtgが成長し、繊維状のリムを形成する。リム中央には磁鉄鉱が濃集する。

    ステージ2:低温蛇紋岩化作用  リザダイト(Liz)のメッシュリムとクリソタイル(Ctl)のコアで構成される低温蛇紋石メッシュ組織によって特徴づけられる。

    ステージ3:熱変成作用  熱源からの距離に応じて、変成Ol、滑石(Tlc)、再結晶Atgが生じている(小澤ほか (1988)では直方輝石と直閃石も報告されている)。変成Olの生成量は人首花こう岩体に近いほど多く、再結晶Atgの粒度は増加する。被熱温度が上がるにつれて再結晶Atg組織が放射状結晶が噛み合うinterlockingから、刃状結晶が互いに貫くinterpenetrating、結晶が大きく成長するovergrowingへと変化している。ステージ2の低温蛇紋石の構造変化がラマン分析によって確認できる。花こう岩体近傍では低温蛇紋石の形成が顕著である。

    ステージ4:脆性剪断(日詰-気仙沼断層の活動に関連する)  すべての組織を切る低温蛇紋石の剪断脈が発達する。

     最も古いステージとして認識されるAtg蛇紋岩化作用がどのような環境で起こったかは興味深い問題である。1試料ではあるが、Atgメッシュ組織の幅と磁鉄鉱の量には異方性が観察され、かんらん岩の構造形成と同様の応力場で形成された可能性を示す。Atgメッシュ組織は、少なくとも、比較的流動性の低いマントルでOl粒界が流体経路となりやすいことを示している。OlのAtg蛇紋石化率とかんらん岩のOpx量の関係を見ると、Opxの少ない岩石でより蛇紋岩化した傾向にある。すなわち、宮守岩体のAtg蛇紋岩化におけるSiO2源はOpxではなく、流入したH2O流体であったと考えられる。また、Ol粒界が流体経路となることとも整合的である。劈開Olは岩体に広く見られる(小澤ほか, 2013)のに対してAtgメッシュ組織の分布は局在するように見える。劈開OlとAtgメッシュ組織の両者が同一試料で観察されることは稀で、組織の違いは流体の供給量の違いを反映しているのかもしれない。今後、鉱物化学組成も合わせて蛇紋石組織の形成履歴を検討すると共に、ステージ1の流体移動の実態をより詳細に記載していきたい。

    【引用文献】Nakajima and Hasegawa (2016) Nature Comm., 7, 1–7: Mizukami et al. (2014) EPSL, 401, 148–158; Ozawa (1988) CMP, 99, 159-175; 小澤ほか (1988) 岩鉱, 83, 150-159; 小澤ほか (2013) 地質雑, 119補遺, 134-153; Yoshikawa and Ozawa (2007) Gondwana Res., 11, 234-246.

  • 木村 光佑, 稲葉 雄一郎, 原田 達也, 早坂 康隆, 柴田 知之
    セッションID: R2-P-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    SIMSやLA-ICP-MSを用いたジルコンのU-Pb局所年代測定は,数十年に渡る開拓と改良の結果,高い信頼性を勝ち得て,歴史科学としての地質学にとって欠かせないものとなっている.近年では珪長質岩だけでなく苦鉄質岩についても少しずつジルコンU-Pb法の適用例も増えており,再現性の良い正確な原岩形成年代が得られてきている.また,砕屑岩に含まれる砕屑性ジルコンのU-Pb局所年代法は,堆積年代および後背地を推定する上でも重要なツールとなっており,膨大なデータが蓄えられつつある.本研究では,鳥取県東部に分布するジュラ紀高圧型変成岩である八東層の変斑れい岩についてジルコンのU-Pb年代および微量元素組成の分析を行ない,同時に八東層および八東層以西に分布するジュラ紀高圧型結晶片岩の砕屑性ジルコン年代測定を行なった.

     鳥取県八頭郡若桜町茗荷谷から採取した八東層の変斑れい岩は,主にソーシュライト化した斜長石,アクチノ閃石,ホルンブレンドからなり,縞状組織を示す.単斜輝石は残されていない.約3 kgの試料から分離された40粒程のジルコン粒子は破片状の外形を示し,CL像では波動累帯構造を示す.ウラン濃度は大部分が100 ppm未満と低いため誤差は大きいが,ディスコーダンスが10%未満の6点から約273 ± 4 Maの重み付き平均年齢が得られた.またジルコンの微量元素組成は,Hf vs. U/Yb図およびY vs. U/Yb図 (Grimes et al., 2007)ではいずれもocean crust領域に,またSc, Nb, U, Ybを用いた判別図(Grimes et al., 2015)ではいずれもmid-ocean ridge領域からocean island領域にプロットされる.

     八東層の砂質片岩2試料の砕屑性ジルコンU-Pb年代組成は,いずれも185–200 Maと250–260 Maの2ヶ所に大きなピークを持ち,400–500 Maにも小さなピークがそれぞれ見られる.また1試料には960–2050 Maの年代が数点認められる.八東層以西に分布するジュラ紀高圧型変成岩も,主要な2つのピークと400–500 Maのピークで構成されることは共通しているが,先カンブリア代のジルコン年代にはバリエーションがあり,1800–2500 Maのピークが目立つものや800 Ma前後のピークが目立つものなどもある.

     今回八東層の変斑れい岩から得られた約273 Maは,そのTh/U比やジルコンの内部構造から火成年代と考えられる.茗荷谷の八東層の変斑れい岩からは西村・柴田(1989)によってジルコンU-Pb年齢よりも若い220 MaのK-Ar年代が報告されているが,これは冷却年代ないしジュラ紀の高圧型変成作用による若返りを反映していると考えられる.更に,丹波帯の緑色岩類からは約280–340 MaのSm-Nd年代が報告されており(佐野・田崎,1989),この中では若いものと近い年代を示す.また,丹波帯の緑色岩には海山起原のものや海台起原のものが報告されているが,ジルコンの微量元素組成が大江山オフィオライトの粗粒斑れい岩(Kimura and Hayasaka, 2019)や御荷鉾緑色岩の苦鉄質岩(Sawada et al., 2019)中のジルコンと類似することを考慮すると,八東層の変斑れい岩はMORB,海山,あるいは海台起原であることが示唆される.

     一方,今回得られた八東層およびジュラ紀高圧型変成岩の砕屑性ジルコン年代組成は,従来広く知られていた丹波-美濃-足尾帯の堆積年代付近と1800 Ma付近に大きなピークがあるという砕屑性ジルコン年代パターンとは異なるものが多い.しかしながら最近,岡山県南東部に分布するジュラ紀付加体から今回の八東層と類似した砕屑性ジルコン年代組成が報告されており(佐藤・脇田,2021),ジュラ紀付加体およびジュラ紀高圧型変成岩の後背地を解明するためにも,今後より広くこれらの砕屑性ジルコン年代組成を把握する必要がある.

    参考文献: 西村・柴田(1989) 地質学論集, 33, 343–357. Grimes et al. (2007) Geology, 35, 643–646. Grimes et al. (2015) Contrib. Mineral. Petrol., 170, 46. Kimura and Hayasaka (2019) Lithos, 342–343, 345–360. Sawada et al. (2019) J. Asian Earth Sci., 169, 228–236. 佐野・田崎(1989) 地質学論集, 33, 53–67. 佐藤・脇田(2021) 地質雑, 127, 245–250.

  • 阿部 なつ江, 荒井 章司, Surour Adel, Madani Ahmed
    セッションID: R2-P-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    エジプト東部沙漠地方南部のワディ・ナタッシュ地域にある地溝帯アルカリ玄武岩中に、激しく炭酸塩岩化したマントル捕獲岩が発見された。かんらん石と直方輝石の大部分が炭酸塩や石英に置換されているが、その微細組織と初生鉱物の化学的特徴から、これらが斜長石を含まないスピネルかんらん岩(レルゾライト〜ハルツバージャイト)であることがわかった。Cr-spinelのCr#とMg#はそれぞれ0.06〜0.45、0.73〜0.81である。Cr-spinelのCr#とMg#の間には弱い負の相関がある。 直方輝石および単斜輝石の化学組成は,それぞれエンスタタイトおよびクロムディオプサイドの組成を示し,単斜輝石のTiO2含有量は、メルトの貫入を受けていない海洋底かんらん岩よりもわずかに高い。単斜輝石のNa2O含有量(>1.0 wt%)とAl(VI)/Al(IV)比(1.2-2.6)は大陸下のリソスフェリック・マントル起源であることを強く示唆している。 両輝石鉱物温度計を用いた平衡温度は約900℃で,これは他の地溝帯からの通常のスピネルかんらん岩捕獲岩の温度よりもわずかに低いことから、これらの試料が、海洋底かんらん岩よりも高い圧力下でマントルプロセス(減圧融解、マグマ上昇、交代作用など)を経験したことを示している。単斜輝石の微量元素化学的性質は、高いLREE/HREE比{(Ce/Yb)n=7}、高いLREE含有量(3.6ppm~30.0ppmのCe)、85.6ppm以上466ppm以下の高いSrなどは、典型的なマントル交代作用の特徴を示している。 また、非常に低いTi/Euと高いLREE/HREE比{>(Ce/Yb)nが3-4},Ti/Eu比が1500より低い単斜輝石は,母岩である玄武岩に取り込まれる前に,炭酸塩または炭酸塩に富むメルトによる交代作用を受けた可能性がある。 玄武岩は殆ど炭酸塩岩化していないことから、研究対象となったマントルカンラン岩は玄武岩マグマの生成前に炭酸塩岩化したと考えられる。しかし、フロゴパイトの存在が示すとおり、K-交代作用より以前に炭酸塩岩化が起こったと考えられる。ワディ・ナタッシュ地域のかんらん岩は、地溝帯拡大の段階で炭酸塩に富むメルトによって変質したものである。本論文の結果は、ナタッシュ玄武岩がマントルかんらん岩の捕獲岩を伴って、エジプト東部沙漠地方南部の西端に位置するヌクラ-コム-オンボ-カリット大陸リフティングに伴う割れ目に沿って押し出されたことを示唆している。

  • 星出 隆志, 石橋 直, 岩橋 慶亮
    セッションID: R2-P-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    厚い溶岩や溶結凝灰岩に発達する柱状節理には,colonnadeとentablatureと呼ばれる2つの構造が認められることがある。colonnadeでは,節理がつくる柱の幅が大きく直線的であるのに対し,entablatureでは柱の幅が小さく曲がっている。柱状節理の発達する岩体にこうした2つの構造が生じる原因については長年議論されているが,colonnade-entablature間の急激な構造転位の要因など,未だ明らかでないことが多い。そこで我々は,colonnadeとentablatureの両構造を有する岩体である岩手火山の玄武洞溶岩流(葛根田の大岩屋)を対象に,溶岩の内部構造観察,節理の形態観察,岩石組織観察を行い,entablatureの成因を考察した。

     岩手火山の南西部に分布する玄武洞溶岩流は,新期網張火山群(中川,1987)の噴出物に属する玄武岩質安山岩溶岩である。岩手県雫石町の葛根田川沿いの「葛根田の大岩屋」には同溶岩流の末端が露出し,下位の火山礫凝灰岩との境界から溶岩流の上面までの厚さは約40-50 mである。溶岩流の下部10 mはcolonnade,中部25 mはentablature,凹凸のある最上部(5-10 m)からなる。colonnadeの柱の幅は50-70 cm程度である。柱の側面をつくるフラクチャーには,フラクチャーの段階的な伸展を示すchisel-mark(stria)が柱にほぼ垂直な方向に生じている。 entablatureに発達するフラクチャーがつくる構造は,見る方向によっては柱のように見えるが,複数の方向から観察すると厚さが5-10 cm程度の板状であることがわかる。この板状構造は2方向のフラクチャーによって形成されている。1つは広範囲にわたってほぼ平行に発達し表面が滑らかなメインフラクチャー,もう1つはメインフラクチャーにほぼ垂直に発達し凹凸の著しい表面をもつサブフラクチャーである。このサブフラクチャーの近傍は他の部分に比べて黒色緻密であり,サブフラクチャーの面にほぼ垂直に間隔2-3 cm,長さ5 cm程度の細かいミニフラクチャーが生じている。 溶岩流最上部には,溶岩本体から上方へ伸びる径1-5 m程度の突起状構造が発達し,突起と突起の間には同質の火砕岩が堆積している。突起状構造の表面に垂直な方向に多数のフラクチャーが発達する。突起状構造に隣接して同質の岩片からなるpyroclastic brecciaが周囲を取り囲み,さらにその外側にtuff brecciaが分布する。これらpyroclastic rockに含まれる岩片にはジグソーフィット構造が認められることがある。また,突起と突起の間にpsuedo-pillow structureをもつ球状の溶岩が認められた。

     玄武洞溶岩の岩石組織を偏光顕微鏡とSEM-EDSを用いて観察した。Colonnadeや,Entablatureのサブフラクチャーから離れた部分の試料では,石基の結晶度が高く,斜長石や普通輝石のほかに磁鉄鉱や石英が生じ,ほぼ完晶質であった。それに対し,Entablatureのサブフラクチャー近傍の試料では,石基の結晶度が低く,火山ガラスが残存し,磁鉄鉱や石英はほとんど生じていなかった。また石基の普通輝石マイクロライトには,粒径数10 µmの半自形結晶と,粒径10 µm程度の樹枝状結晶の2種類が認められた。また,このEntablatureのサブフラクチャー近傍には,幅10 µm以下のpalagonite脈が網目状に分布し,palagonite脈に面した火山ガラスとの間には球状の気泡が生じていた。これらの観察から,玄武洞溶岩流のEntablatureに発達するサブフラクチャー近傍では,マグマが未固結の時期に,サブフラクチャーやそこから派生した薄いフラクチャーに沿って水が浸入し,そのことにより急冷が起きたと考えられる。溶岩流最上部の突起状構造や同質火砕岩は,溶岩流の上面に生じた鉛直方向のフラクチャーに沿って水が浸入し,水冷破砕が発生したことでできたと考えられる。

    【引用文献】中川 光弘, 東北日本,岩手火山群の形成史, 岩石鉱物鉱床学会誌, 1987, 82 巻, 4 号, p. 132-150

  • 高須 晃, 鈴木 保光, 大木 良弥, 小河原 孝彦, 瀬戸(阪本) 志津枝
    セッションID: R2-P-7
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    コスモクロアはNaCrSi2O6の単斜輝石で,メキシコに落下したトルカ鉄隕石からはじめて記載された(Laspeyers, 1897).地球上の岩石からのコスモクロアは,まず,ミャンマーのヒスイ産出地域より記載され(Harlow and Olds, 1983),さらにロシアのサヤン・オフィオライト(Dobretsov and Tatarinov, 1983),イタリア西アルプス(Harlow and Olds, 1987)からも発見された.Sakamoto and Takasu (1996)は岡山県大佐山の蓮華帯超塩基性岩中のトレモラ閃石岩ブロックよりコスモクロアを記載した.これが日本で最初,世界では4番目のコスモクロアの発見となった.その後,蓮華帯(飛騨外縁帯)の青海川及び姫川の河床礫よりコスモクロアが相次いで発見された(阪本・高須, 1997; Takasu and Sakamoto, 1998).姫川流域の根知で廣川和雄氏により採取されたNa角閃石岩の河床礫は,その中に球顆状にコスモクロアの集合体が形成されている.球顆の中心部においてコスモクロア成分が高い傾向が認められ,Koは最大96 mol%で,当時としは最も端成分に近い化学組成であった.球顆の中心部にはクロム鉄鉱が存在することがあり,コスモクロアの形成に超塩基性岩(蛇紋岩)の関与が考えられた.

     鈴木・大木(2019)は新潟県糸魚川市山之坊の飛騨外縁帯の蛇紋岩分布地域の露頭からコスモクロアを発見した.この露頭では,蛇紋岩中に径数10 mのNa角閃石岩が見られ,蛇紋岩と角閃石岩の境界には幅数mの曹長岩が存在する.Na角閃石岩を構成する角閃石は大部分はeckermanniteで,その他glaucophane, magnesio-arfvedsonite, richterite, magnesio-kataphoriteが認められる.主にNa角閃閃石からなる細粒基質中にtremolite, actinolite, magnesio-hornblendeの比較的粗粒の角閃石結晶が存在する(鈴木・大木, 2019; 小河原・植田, 2020; 本研究).コスモクロアはNa角閃閃石岩中にレンズ状あるいはschlieren様に産する.

     山之坊露頭のコスモクロアは,Takasu and Sakamoto (1998)によって記載された根知のコスモクロア同様,Na角閃石岩中に球顆状の集合体として産することが多い.球顆の中心部にはクロム鉄鉱が認められる場合があり(小河原・植田, 2020),その中心部から外側に向かって柱状のコスモクロアが放射状に配列する.Koは球顆の中心部から縁に向かって減少する傾向が見られ,最大Koは98 mol%に達する.これは,これまで報告されたコスモクロアの中で最も端成分に近い組成をである(鈴木・大木, 2019; 小河原・植田, 2020;本研究).本講演要旨投稿時までの球顆を構成する単斜輝石の予察的な分析結果は,コスモクロア (Ko98Jd0Ae1Q1)からひすい輝石(Ko31Jd60Ae1Q8)の広い組成範囲を示す.球顆の単斜輝石の化学組成がKo-Jd間の固溶体関係を示すことは,根知のコスモクロアと同様の傾向である.コスモクロア球顆近傍の角閃石は淡緑色を呈し,最大12 wt%のCr2O3(O: 23, C:=1.34 apfu)を含有する.

     山之坊露頭のコスモクロアの記載岩石学的産状と化学組成の特徴は,根知のNa角閃石岩中のコスモクロアとの著しい類似性を示す.山之坊露頭は根知のコスモクロアを含むNa角閃石岩礫の原産地のひとつと考えられる.山之坊及び根知のコスモクロアを伴うNa角閃石岩中の角閃石(eckermannite, glaucophane, nyböite)の一部には相当量のCrが含まれており,新鉱物としての認定も考えられる.端成分組成コスモクロアと合わせ,今後,鉱物学的,結晶学的研究の進展が期待される.

     本講演で紹介する山之坊露頭は2020年に糸魚川市の天然記念物に指定され、監視カメラや柵が設置され保護保全がなされている.

    文献

    Dobretsov・Tatarinov (1983) Nauka Press, 122 pp.

    Harlow・Olds (1983, 1987) EOS, 64: 353: Am Min, 72: 126-136.

    Laspeyers (1897) Kristallograp Minneral, 27: 586-600.

    小河原・植田(2020)鉱物科学会2020要旨.

    Sakamoto・Takasu (1996) J Geol Soc. Jap, 102: 49-52.

    阪本・高須(1997)地質学雑,103: 1093-1096.

    鈴木・大木(2019)地学研究,65: 185-187.

    Takasu・Sakamoto (1998) Earth Sci, 52: 341-344.

  • 嶋田 梨花, 遠藤 俊祐
    セッションID: R2-P-8
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    はじめに 約18 Maの西南日本前弧のアルカリ玄武岩岩脈が愛媛県新宮(Uto et al. 1987)と種子島(小笠原1997)に産し,新宮の単斜輝石捕獲結晶からはダイヤモンドが報告されている(Mizukami et al. 2008).深部で発生するアルカリ玄武岩マグマが前弧地殻に貫入する状況は,日本海拡大期のテクトニクスを考える際に重要である.新宮の西方約60 km,愛媛県東温市のMTL桜樹屈曲部の三波川変成岩に,単斜輝石とかんらん石の大型斑晶に富むアンカラマイト様岩脈が貫入しており,この岩脈の記載岩石学的特徴と年代を報告する.

    岩脈の産状 東温市落出に東西走向・高角傾斜,幅1 m以下の岩脈を3地点で確認した.これらの岩脈に記載岩石学上の差異はない.岩脈は細粒周縁相をもち,中央部は,単斜輝石(緑色,褐色),かんらん石,石英の大型斑晶(1.5 cm以下)を多量に含む.篩状組織をもつ斜長石斑晶も少量含まれる.また捕獲岩として斑れい岩やホルンフェルス化した珪質岩がみられるが,新宮の岩脈と異なり,かんらん岩は確認していない.

    岩石記載 石基は完晶質で,長石,単斜輝石,黒雲母,シリカ鉱物,チタン磁鉄鉱,炭酸塩からなる.長石は長さ1 mm以下の短冊形で顕著な累帯を示し,コアは斜長石(An76Ab23Or1~An44Ab49Or7),マントルはアノーソクレース(Ab6770Or1519An1315),リムはサニディン(Or5162Ab3544An35)である.シリカ鉱物は填間状に存在する.石基全体の化学組成は,粗面玄武岩~玄武岩質粗面安山岩に相当する. 大型斑晶に関して,単斜輝石やかんらん石は結晶ごとに異なる化学組成や累帯構造をもち,一部結晶化したメルト包有物(角閃石,黒雲母,炭酸塩,ガラスなどからなる)を含む.緑色単斜輝石は高Mg#でCrに富む(Mg# 0.88-0.90, Cr2O3 < 1.6 wt%).褐色単斜輝石は低Mg#でTiに富む.すべての単斜輝石大型斑晶は,石基の単斜輝石と同様な組成の薄いリムをもつ.Mgに富むかんらん石は大型自形で,クロムスピネル(Cr# = 0.65-0.72)を包有し,コア(Mg# 0.89, NiO = 0.26 wt%)からリムに向かってMg#とNiOが減少する.一方,褐色単斜輝石と複合結晶をなすかんらん石は比較的Feに富み(コアはMg# 0.80, NiO = 0.07 wt%),逆累帯を示す.両タイプのかんらん石はリム組成が一致する.石英斑晶は高温型石英の形態を示し,炭酸塩の反応縁をもつ. 捕獲岩としてみられる斑れい岩はTiに富む褐色単斜輝石,斜長石(An87),かんらん石仮像からなる.斑れい岩の鉱物化学組成は大型斑晶として見られる褐色単斜輝石・篩状斜長石と同様である.

    年代 石基の長石のK-Ar年代として15.70 ± 0.45 Maが得られた(蒜山地質年代学研究所に依頼).年代測定には,ある程度均質な化学組成の長石粒子を集めるため,重液により比重2.60-2.64未満の長石粒子を除去している.

    議論 大型斑晶の,結晶ごとの化学組成のばらつきとリムでの収束は,これらが捕獲結晶であることを意味する.一方,石基の化学組成や炭酸塩の存在から,ホストマグマはアルカリ岩質でCO2に富んでいたと考えられる.その活動年代は15.70 ± 0.45 Maで新宮の岩脈より若く,フィリピン海プレートの沈み込みに関係する瀬戸内火山活動の直前である.四国海盆のスラブウィンドウが上昇経路となった可能性が考えられる.

     捕獲結晶のうち,大量に存在する緑色単斜輝石,Mgに富む大型かんらん石,高Cr#のスピネルは,地殻マントル遷移帯の非アルカリ玄武岩マグマからの集積岩に由来すると考えられる.一方,褐色単斜輝石,篩状斜長石,Feに富むかんらん石の斑晶の少なくとも一部は斑れい岩捕獲岩と同源の捕獲結晶とみなせる.斑れい岩や褐色単斜輝石などの捕獲結晶は先行するアルカリ玄武岩マグマから結晶化したと考えられ,新宮と同時期のマグマ活動かもしれない. 四国山地の三波川変成岩および四万十付加体の下に斑れい岩下部地殻やかんらん石単斜輝石集積岩層が存在することは地震波探査から示唆されていることと整合的である.

    引用文献 Mizukami et al. (2008) Geology, 36, 219-222. 小笠原 (1997) 岩鉱, 92, 454-464. Uto et al. (1987) Geochemical Journal, 21, 283-290.

  • 吉田 健太, 岡本 敦, 丹羽 尉博, 木村 正雄, 大柳 良介, 沢田 輝, 仁木 創太, 吉田 一貴
    セッションID: R2-P-9
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    含水ケイ酸塩メルト(hydrous silicate melt)と水流体(aqueous fluid)の不混和領域が消失する第二臨界終端点(SCEP)よりも高温高圧で存在する,いわゆる超臨界流体は,高い元素運搬能力を持っていることから沈み込み帯での物質移送媒体として注目されている[1].SCEPはケイ酸塩メルトの組成,すなわち共存する岩石の組成によって温度圧力が変わり,高マグネシウム安山岩や堆積岩と水流体の共存下では700-800℃,2.5-3GPaの温度圧力条件が実験的に見積もられている[2].天然試料からの超臨界流体の記載は,超高圧変成岩中に見られる多相固体包有物研究があり[3],ケイ酸塩成分に富む超臨界流体が減圧減温の過程で含水鉱物を含む固相の組み合わせに変化している.

    本研究では,四国中央部の三波川変成帯エクロジャイト岩体から見出された先三波川変成作用の高温場(>1000℃)の情報[4]を記録するチタン石中に,石英と共に包有される流体包有物を見出した.この流体包有物は,5μm程度の大きさで,チタン石中に石英の単相包有物と共に胚胎されており,石英単相包有物(Q型)と石英-流体包有物(QA型)は組織的に捕獲時期を区別することは出来ない.

    QA型包有物に含まれる流体はラマン分光により比較的塩濃度の高い(10mass%NaCl換算程度)水流体である事がわかったが,マイクロサーモメトリーによる成分・濃度決定はその小ささ故に出来なかった.また,ラマン分光では水以外の流体成分は検出されなかった. 流体包有物の詳細な形態記載には,包有物を周囲の母相鉱物ごと集束イオンビーム(FIB)で切り出し,X線CTによる三次元観察を行うことが有効である[5].本研究ではJAMSTEC横須賀本部設置のFIBでQA型包有物を円柱状に切り出し,高エネルギー加速器研究機構のビームラインAR-NW2Aを用いてX線CT撮影[6,7]を行った.

    包有物のCT観察の結果,QA型包有物中の石英は,土台となる石英部分の上に新たに成長してファセットを呈しているように見える突起部を2箇所有することがわかった.

    この突起部に関して,CT観察を行った試料を再度FIBで加工し,突起部を含む断面を露出させてカソードルミネッセンス(CL)観察を行った.結果,石英の土台部は明るく,突起部は相対的に暗いCL発光を呈することが分かった.またCLスペクトル観察では,土台部・突起部共に650nm近傍のピークが卓越するものの,突起部では490nm近傍の小さなピークが見られる事が分かった.これらCL発光の違いは,土台部と突起部が異なる条件下で晶出したことを強く示す.

    以上の観察からQ型包有物とQA型包有物がチタン石中に共存する産状は以下の形成過程で説明出来る.共存する石英と流体がチタン石の成長に伴い,あるものは石英のみの形(Q)で,あるものは石英と流体が一緒に(QA)捕獲される.その後,QA包有物中では流体中に溶けていたSiO2成分が晶出し,共存していた石英の上に成長して新たな結晶を作った. QA型包有物中の石英突起部と流体部の体積比をCT像から読み取り,水流体の密度を適当に仮定して流体の元の組成を推定すると重量比でSiO2を35~45%程度含む水流体となった.本研究で用いたチタン石が>1000℃,約2.5GPaで形成されている[4]ことを踏まえると,水流体中に約40%のSiO2が含まれることは実験や熱力学的に予想されるSiO2-H2O系の臨界終端点[8]とも整合的である.

    本研究はKEK課題番号2019G569の成果を一部用いている.

    [1] Ni, H. et al. (2017) Earth-Science Review, 167, 62-71. [2] Kawamoto, T. et al. (2012) PNAS, 109, 18695-18700. [3] Ferrando, S. Chem.Geol., 223, 68-81. [4] Yoshida, K. et al. (2021) JpGU2021, SMP25-P17. [5] Yoshida, K. et al. (2016) Eur.J.Min. 25, 245-256. [6] Kimura, M. et al. (2019) Sci.Rep. 9, 19300. [7] Niwa, Y. et al. (2019) AIP Conf. Proc. 2054, 050003. [8] Hunt & Manning (2012) GCA, 86, 196-213.

  • 田中 湧朔, 大和田 正明
    セッションID: R2-P-10
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    北部九州には白亜紀に活動した花崗岩類の分布域に変成岩類が点在している.これら変成岩類について,唐木田(1969)は高圧低温型変成作用を受けた後,白亜紀花崗岩類による接触変成作用を受けた複変成岩であるとした.一方,小山内ほか(1997)は,雷山地域の変成岩類が変成組織と鉱物組み合わせから接触変成作用を受ける前に低圧高温型の広域変成作用を被ったとした.その後,低圧高温型変成作用を受けた変成岩類が北部九州から多数報告されてきた.また,Adachi et al. (2012) は浮嶽地域に分布する泥質グラニュライトから120–100Maのモナズ石Th–U–Pb化学年代と105±2MaのLA–ICP–MSジルコンU–Pb年代を報告した.天山地域の東方延長に位置する神埼地域にも変成岩類が分布する.

     このように北部九州に点在する変成岩類については,変成作用の特徴や変成年代についてのデータは増えつつあるが,原岩の化学的特徴やそれに基づいた形成場については未解決な問題である.こうした課題を解決することで,東アジア東縁における白亜紀以前のテクトニックセッティングはより明確なることが期待される.そこで本発表では神埼地域に分布する角閃岩類を対象に野外での産状,鏡下観察の結果,および全岩化学組成のデータをもとに原岩について議論する.

     神埼地域に産する角閃岩類は,一般に東西系の走向で,南北に50〜80 度傾斜している.変成岩類は主に角閃岩で岩相の違いから角閃岩IとIIに区分される.角閃岩Ⅰは細粒な鉱物の定向配列が顕著で,石灰珪質岩の薄層を伴う.一方,角閃岩IIは角閃岩Iに比べて粗粒で,石灰珪質岩をほとんど伴わない.また,角閃岩Iはしばしば珪質片岩を伴い,角閃岩IIは集積岩起源の蛇紋岩を伴う. 角閃岩Iは顕著なネマトブラスティック組織を示し,主にホルンブレンドと斜長石から構成され,少量の石英を含む.ホルンブレンドは顕著な累帯構造を示し,コアで淡緑色,マントルで緑褐色,そしてリムでまた淡緑色へと変化する.石灰珪質部には,それらの鉱物に加えて単斜輝石や緑簾石,そしてカルサイトが共存する.副成分鉱物としてイルメナイトとチタン石そしてアパタイトを含む.角閃岩IIは角閃岩Iに比べて粗粒で,鉱物の配列が弱い.主にホルンブレンドと斜長石から構成され,少量の黒雲母とカリ長石そして石英を含む.ホルンブレンドの累帯構造はほとんど認められない.カリ長石はアンチパーサイト状に産する.ホルンブレンドは,しばしば斜長石や石英をポイキリティックに包有する.副成分鉱物としてイルメナイトとチタン石,そしてアパタイトを含む.角閃岩IとIIの関係は不明だが,細粒で石灰珪質岩の薄層を伴う角閃岩Iは表層岩で,粗粒でしばしばポイキリティック組織を示す角閃岩IIは貫入岩起源と考えられる.

     角閃岩I 15試料と角閃岩II 15試料を蛍光X線分析装置で全岩化学組成を分析した.角閃岩Iはソレアイト質玄武岩,角閃岩IIはソレアイト質玄武岩〜玄武岩質安山岩の組成を示す.測定した試料から集積作用の効果を除き比較的未分化な組成を選定し,HFS元素による各種地球化学的判別図を使って原岩の化学的特徴を検討した.その結果,角閃岩I, IIは主に中央海嶺玄武岩(MORB)組成で,一部火山弧玄武岩組成に類似した特徴を示す.

     以上の組成的特徴や構成岩石を考慮すると,角閃岩I, IIはMORBを形成する環境で形成された玄武岩質マグマに由来し,白亜紀以前のオフィオライトを構成していた可能性が高い.

     【引用文献】

    Adachi, T., Osanai, Y., Nakano, N., and Owada, M. (2012) LA-ICP-MS U-Pb zircon and FE-EPMA U-Th-Pb monazite dating of pelitic granulites from the Mt. Ukidake area, Sefuri Mountains, northern Kyusyu. Journal of the Geological Society of Japan, 118, 39-52.

    唐木田芳文・山本博達・宮地貞憲・大島恒彦・井上保 (1969) 九州の点在変成岩類の特徴と構造地質学的位置.地質学論集,4,3-21.

    小山内康人・濱本拓志・大和田正明・亀井淳志・加々美寛雄・吉原靖 (1997) 肥後変成帯の帰属はなにか?―東アジアの広域変成岩との関連性について―.九州テクトニクスワーキンググループ研究連絡誌, 11, 11-18.

  • 桑谷 立, 鳥海 光弘
    セッションID: R2-P-11
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    反応速度論は,多様な岩石組織の形成を考えるうえで重要である.本研究では,粒間流体を介在した鉱物の溶解析出反応に関する単純な速度論モデルを構築することで,反応メカニズムや反応組織を支配する物理化学的パラメータを理解することを目的とする.具体的には,化学的不均質としての組織形成を生み出す鉱物溶解析出反応の本質を考える最低限の要素として,2種の化学成分の粒間流体中の拡散,および,固溶体を生成する表面反応をモデル化することにより,システムを支配する無次元パラメータを導出し,無次元パラメータの変化に伴うシステムの挙動を明らかにした(Kuwatani and Toriumi, 2020 Earth, Planets and Space).本講演では,構築した反応速度論モデルの概略を説明し,地殻流体の存在が反応に与える影響を議論するとともに,さらなる拡張モデルによって,コロナや反応帯などの多様な反応組織の形成メカニズムが可能であることを示す予定である.

R3(ポスター)噴火・火山発達史と噴出物
  • 草野 有紀, 宮下 純夫, 足立 佳子, 海野 進
    セッションID: R3-P-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    はじめに

     1990年代以降,水深500 m以上の深海底で発生した爆発的な噴火が直接観察され,大洋中央海嶺でも噴火発生から間もなく観察することができるようになった(e.g. Rubin et al., 2012).これらの深海底における噴火活動の観測は,1回の噴火における噴出物の産状とその分布を描き出すことを可能にし,噴火の継続時間,噴出量や噴出率をより詳細に明らかにしてきた.しかし,これらの溶岩の層厚や噴火履歴,すなわち海洋地殻の成長発達過程を現代の深海底で明らかにすることは非常に難しい.そこで我々は,中生代の海洋リソスフェアが陸上に衝上することによって形成された中東のオマーンオフィオライトにおいて,溶岩層序を地質学的・岩石学的に解析し,海嶺軸上及びその周辺の噴火活動を復元した.

    火山岩の産状

     Wadi Fizh地域におけるV1層の火山岩層序はKusano et al. (2012)で報告され,溶岩の産状に基づく岩相組み合わせによって,これらが海嶺軸上で形成され,その後海嶺拡大に伴って海嶺翼部に移動し,オフアクシス火山活動によってさらに上部地殻の層厚を増していたことが明らかになった.

     Bani Ghayth地域では,層厚約900 mのV1層が確認できる.溶岩は,パホイホイ溶岩,ロベートシート溶岩,シート溶岩,マシブ溶岩に区分される.溶岩層の下部では,パホイホイ溶岩が上下方向に圧縮・癒着したレンズ上の形態で産し,遠目にはマシブ溶岩のように見える.ここではマシブ溶岩に伴われるごく薄い枕状溶岩を除くと,枕状溶岩は確認されない.海底で噴出した溶岩の産状は主に原地形(斜度),噴出率と冷却率によって変化する(White et al., 2015)ので,この地域の溶岩はかなり平坦な地形に噴出したことが推定される.そこで,パホイホイ溶岩が袋状に産する層厚を,枕状溶岩が形成される噴出率に疑似近似して,Wadi Fizh地域で確認された岩相組み合わせを適用する.その結果,下部は海嶺軸部で,上部は海嶺翼部~オフアクシスで形成されたと考えられる.最上部の層厚400 mは,溶岩層下部との化学組成の違いからオフアクシス火成活動によって形成された可能性が高い.

    海嶺セグメントによる溶岩の産状変化

     Wadi Fizh地域とBani Ghayth地域は, 2~3次の海嶺セグメント(Adachi and Miyashita, 2003; Miyashita et al. 2003; Umino et al. 2003)の境界部と中心部に相当する.プレート拡大速度を一定とみなすと,マグマ供給率の高いセグメント中心部ではマグマの貫入・噴出が拡大を担い,供給率が低い境界部ではマグマの貫入よりも構造的な拡大が先行すると考えられ,この違いは火山岩の産状の変化などに現れると期待される.

     両地域の溶岩の産状を比較すると,1)溶岩層序における枕状溶岩の比率の違い,2)1枚の溶岩の厚さの違い,3)どちらにもオフアクシス火成活動が起こっていることが認められる.これらの違いから海嶺セグメント位置による火成活動の系統的な変化を推定してみる.セグメント境界部では枕状溶岩が全体の30%を占めるが,中心部ではほとんど形成されていないことから,セグメント境界部のほうがより地形の起伏に富み,相対的に噴出率が低かったと考えられる.また,セグメント境界部では溶岩ユニット1層が厚くユニット数は少ないが,中心部では溶岩ユニット1層が薄く,ユニット数は多い.これは,噴出イベントの規模と頻度の違いによると考えられ,セグメント境界部では噴出イベントは少ないものの1回のイベントは大規模になる一方,中心部では小規模な噴出イベントが頻繁に発生することを示唆している.

     双方でオフアクシス火成活動が認められるものの,セグメント境界部では軸上火成活動とは異なる化学組成の溶岩を噴出しているのに対して,中心部はほとんど化学組成に変化がない.マグマ供給率が低いセグメント境界部では,海嶺軸下マグマ溜まりを経由しなかったマグマがオフアクシスで噴出するのに対して,供給率が高いセグメント中心部では海嶺軸部で噴出できなかった余剰のマグマをオフアクシスで噴出させているのかもしれない.

    引用文献

    Adachi and Miyashita, 2003, G3.,4, 8619.

    Kusano et al., 2012, G3., 13, Q05012.

    Miyashita et al. 2003, G3.,4, 8617.

    Rubin et al., 2012, Oceanography, 25, 142-157.

    Umino et al. 2003, G3.,4, 8618.

    White et al., 2015, In The Encyclopedia of Volcanoes, 2nd Ed, 363-375.

  • 長谷川 健, 柴田 翔平, 小林 哲夫, 望月 伸竜, 中川 光弘, 岸本 博志
    セッションID: R3-P-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    We present a stratigraphy of the 7.6-ka eruption at Mashu volcano and the formation process of its summit caldera based on geological, petrological and paleomagnetic investigations. The eruption products consist of an initial phreatomagmatic unit (Ma-j) and the overlying three pumice-fall layers (Ma-i, -h, and -g), which are in turn overlain by pyroclastic-flow deposits (Ma-f) as previously described (Katsui et al., 1975). We divide Ma-f into 4 subunits: Ma-f1/2, Ma-fAc, Ma-f3a and Ma-f3b in descending order. Ma-f3b is a valley-ponding, pumice-flow deposit with limited distribution. Ma-f3a comprises fines-depleted facies (FDI) and normal matrix-supported facies (NI), the two changing across topography. The FDI is characterized by a gray, clast-supported and lithic-breccia-rich layer with materials incorporated from the substrate. Impact sag structures from large (> 50 cm) dacite ballistic blocks were recognized at the base of the Ma-f3a within 10 km from source. Ma-fAc is a minor eruption unit consisting of accretionary lapilli. Ma-f1/2 is a most voluminous (8.8 km3), widely distributed and weakly stratified ignimbrite. Both Ma-f3a and Ma-f1/2 can be classified as low aspect ratio ignimbrite. Dacite lithic fragments are ubiquitously observed throughout the sequence and are not considered to be juvenile; they have distinctly different chemical compositions from the pumice fragments in the early pumice-fall (Ma-g~Ma-i) and pyroclastic-flow (Ma-f3b) deposits. The caldera-forming eruption of the Mashu volcano was initiated by Plinian fall (Ma-j ~ -g), and then, a small-volume ignimbrite (Ma-f3b) was deposited by a valley-confined pyroclastic flow from partial column collapse. After that, a violent pyroclastic flow was generated during a strong explosion of a dacite lava edifice on the summit of Mashu volcano. Ma-f3a flow was extremely fast. Ma-f1/2 flow was related to sustained flow due to low settling velocity and high discharge volume. These are supported by field observations and numerical simulation that shows the ability of the flow to surmount high topographic obstacles and spread widely. The caldera-forming process of Mashu volcano was driven not only by subsidence of roof block but also by violent explosions.

    Katsui, Y., Ando, S. and Inaba, K. (1975) J. Fac. Sci., Hokkaido Univ., 16, 533-552.

  • 石毛 康介, 竹内 晋吾, 上澤 真平, 土志田 潔
    セッションID: R3-P-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    【はじめに】

     火砕物を構成する粒子は,噴火様式やマグマの性状などの情報を保持すると考えられており,その構成分率解析や形状解析は地質調査において基本的かつ重要な作業である.しかし,解析における粒子種別の肉眼鑑定作業は判断の標準化が難しく労力がかかる為,効率化が求められている.

     近年,機械学習による画像処理をベースとした火山灰解析の自動化を目指す研究が行われている(例えば, Shoji et al., 2018).このような研究の多くは粒子解析装置を用いて,大量の粒子を含む画像から個々の粒子画像を効率的に収集し利用している.しかし,先行研究では粒子画像の色情報が失われている為,後工程の画像処理において肉眼鑑定と同様の判断を紐付ける事が困難であった.また装置の特性上,粒子の上限サイズに制約があり,火山礫サイズ以上の解析は依然,手作業の置換が難しい.

     そこで本研究では,光学設計の自由度が高く,粒子の密集や接触,小さな粒子に対しても堅牢で効率的に粒子解析を行える手法を検討した.その結果,畳み込みニューラルネット(CNN)をベースとする,粒子検出モデルと粒子分類モデルを組み合わせた画像解析システムを開発した.本発表では,当該システムの中核となる粒子検出モデルの構築と評価結果について報告する.

    【システム概要】

     開発した画像解析システムは,スキャナやカメラで取り込んだ大量の粒子を含む画像から,物体検出CNNを用いて個々の粒子の位置を自動で検出し,RGB情報を保持した個別の粒子画像を生成する機能を有する.

     ここで,画像認識問題における物体検出は,画像内に含まれる関心対象の物体を自動的に背景から区別して位置を特定する手法であり,現在まで様々なアルゴリズムが提案されている.近年では大量の画像データからパターンやルールを学習し,予測に用いるCNNアルゴリズムの精度向上が著しい.

     本研究では, You Only look once (YOLO)と呼ばれる,精度を保ちつつ高速処理が可能なCNNベースの物体検出アルゴリズムに注目し,YOLOシリーズの中でも比較的新しいYOLOv3,YOLOv3-spp,YOLOv4及びYOLOv4-cspのモデルについて検討を行った.

    【データセットと学習】

     本研究では,粒子検出に特化した画像データセットを作成した.粒子として,霧島山(新燃岳)2011年1月噴火,浅間山1783年噴火の降下火山灰,富士山1707年噴火の降下火砕物及び姶良カルデラ噴火大隅降下軽石の人工粉砕物を用いた.粒径は500 μm~4,000 μm である.画像撮影には家庭用のスキャナを用い,画像一枚当たり数粒~約550粒の粒子を分散するよう配置し撮影した.得られた画像に対しては策定したルールに基づいた手作業による粒子の注釈付けを実施した.

     このようにして780枚の注釈済み画像を準備した.このうち524枚を学習用とし,128枚の2セットを検証用及びテスト用とした.また,学習用データについては画像水増し処理を実施し,データセットL,M,S(4,200枚,480枚,48枚)を作成した.

     これらのデータセットを基に,C言語ベースの深層学習フレームワークであるDarknetを利用して粒子検出モデルを構築した.

    【結果と考察】  

     まずデータセットLを用いてモデル別に学習を実行した結果,最新モデルであるYOLOv4-cspが最もスコアが良く,信頼度閾値0.5における再現率が99.58%,平均IoUが92.63%となった.YOLOv4は僅差で次点となり,YOLOv3及びYOLOv3-sppはYOLOv4-cspに対して再現率が約0.4%,平均IoUが約1%低い結果となった.これは,YOLOv4におけるネットワークの改良が精度向上に寄与したと考えられる.

     次に,YOLOv4-cspを用いて学習データサイズの違いによる精度を比較した結果,データセットLを用いた場合が最も精度が良く,データセットMは若干の精度悪化が認められた.データセットSは学習途中で過学習による精度悪化が観察された.

     以上のことから,YOLOv4-cspを数千枚規模のデータで学習することによりベストモデルが得られることが分かった.このベストモデルの検出精度は,後工程の粒子分類モデルによる処理や形状測定に十分と判断している.今後は得られた個別の粒子画像を用いて,専門家の判断を紐付けた粒子分類モデルを開発し,鑑定作業全体の標準化及び効率化を目指す.

    引用文献

    Shoji, D., Noguchi, R., Otsuki, S. and Hino, H. (2018) Classification of volcanic ash particles using a convolutional neural network and probability. Scientific Reports.

R4(ポスター)変成岩とテクトニクス
  • 牟田原 健太朗, 志村 俊昭
    セッションID: R4-P-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    杵築地域は大分県国東半島の南部に位置する地域である。この地域には領家変成岩類が分布している(唐木田ほか, 1968;森山ほか, 1983;石塚ほか, 2005)。杵築地域は中新世以降の火山岩類及び火砕流堆積物に広く覆われており、より下位の白亜紀領家変成岩類の露出は小規模である。石塚ほか(2005)では本地域の領家変成岩類の変成度について、山口県柳井地域における珪線石–カリ長石帯に相当するのではないかという指摘をした。本研究では、この地域における領家変成岩類の変成履歴について検討した。

     杵築地域の領家変成岩類は本地域北西部の太田俣水、波多方、小武に点在している。主として泥質片麻岩及び珪質片麻岩、一部で角閃岩が分布しており、片理面の走向傾斜は主に東西方向、北傾斜である。深成岩類は牛屋敷周辺に白雲母黒雲母花崗岩、倉成周辺に角閃石黒雲母花崗閃緑岩が分布している。角閃石黒雲母花崗閃緑岩は面構造が発達しており、一部で泥質片麻岩を捕獲している。

     杵築地域に分布する泥質片麻岩の主な鉱物組合せは以下のとおりである。

    鉱物組合せI: Sil + Ms + Kfs + Grt + Bt + Pl + Qz (± And)

    鉱物組合せII: Sil + Kfs + Grt + Bt + Pl + Qz

     なお、鉱物組合せIは本地域内に広く見られ、副成分鉱物として電気石を含む。鉱物組合せIIは北東部、及び南東部の一部で見られる傾向がある。黒雲母のチタン含有量は鉱物組合せIIがより高く、XMgは鉱物組合せIがより高い値を示す。またざくろ石は、Alm成分に富み、鉱物組合せIIはSps成分とGrs成分にわずかに富む組成を示す。また、コアからリムにかけてAlm成分の減少、Sps成分の増加が見られる。

     鉱物組合せからみて、本研究地域では、次の2つの変成反応が重要であろう。

    (1) And = Sil

    (2) Ms + Qz = Als + Kfs + H2O

     ここで、P–T図上で反応(1)は負の傾斜を、反応(2)は正の傾斜をもち、両者は互いに交差する。したがって2つのバソゾーン(例えばCarmicheal, 1978)を定義することができる。本研究地域では、2つのバソゾーン(以下のAとB)を認識できる。そしてそれらのバソゾーンはさらに、温度条件から3つのPT領域(以下の1・2・3)に区分できる。

    バソゾーン A(低圧条件、P < 約2.2 kbar)

    P–T領域 A-1 (より低温条件)、And + Msが共存

    P–T領域 A-2 (中間的条件)、And + Kfsが共存

    P–T領域 A-3 (より高温条件)、Sil + Kfsが共存

    バソゾーン B (高圧条件、P > 約2.2 kbar)

    P–T領域B-1 (より低温条件)、And + Msが共存

    P–T領域 B-2 (中間的条件)、Sil + Msが共存

    P–T領域 B-3 (より高温条件)、Sil + Kfsが共存

     鉱物組合せIについて、鏡下の組織において以下の2つの昇温期の変成反応が、以下の順に起きたことが認識できる。

    And → Sil

    Ms + Qz → Sil + Kfs + H2O

    また、後退期においては、変成反応組織として以下の2つが認識できる。

    Sil → And

    Sil + Kfs + H2O → Ms + Qz

     以上のことを踏まえると、鉱物組合せⅠにおいて、昇温期にはより高い圧力条件(バソゾーンB:P > 2.2 kbar)で温度上昇したが、後退期にはより低い圧力条件(バソゾーンA:P < 2.2 kbar)で温度低下したといえる。したがって、本研究地域の領家変成岩類は、時計回りの変成P–T–t経路を経験している。鉱物組合せIIは、バソゾーン区分Bにおける領域B-3に相当する温度圧力条件を経験したといえる。また鉱物組合せIIが見られる岩石の分布から、鉱物組合せIIは一部接触変成作用を被ったことによるものである可能性がある。

    引用文献

    Carmichael, D. M. (1978) Amer. Jour. Sci., 278, 769–797.

    石塚吉浩ほか(2005) 5万分の1地質図幅 「豊後杵築地域」 産総研,11–18.

    唐木田芳文ほか(1968) 地質学論集, 4, 3–21.

    森山善蔵ほか(1983) 大分大学教育学部,29–62.

  • 坂本 翔, 志村 俊昭
    セッションID: R4-P-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    はじめに 山口県宇部市と美祢市の境界付近の先白亜系は、周防変成帯に属している。岸ほか(2007)は、この地域に天郷深成貫入岩類、黒五郎深成岩類、岩郷山花崗岩類からなる白亜紀深成複合岩体が貫入していることを報告した。それぞれのK–Ar年代は97.9 ± 2.2 Ma、94.0 ± 4.8 Ma、92.8 ± 2.0 Maであり、全体として「吉部コールドロン」を形成していたとしている。この深成複合岩体の貫入により、周囲の周防変成岩類は接触変成岩になっている(瀬尾, 1976)。本研究では、この接触変成岩類について、鉱物組合せ・変成分帯・変成P–T条件について検討した。

    地質概要 本研究地域には主に変成岩類と花崗閃緑岩類が分布している。変成岩類は接触変成岩類(主として泥質片岩で、少量の石灰珪質片岩を伴う)と、源岩の周防変成岩類で構成され、花崗閃緑岩類は黒雲母-単斜輝石-角閃石花崗閃緑岩、単斜輝石-黒雲母-角閃石花崗閃緑岩の2種類に区分できる。地域中央部には花崗閃緑岩が分布する。花崗閃緑岩類の周縁部には幅約500 mの接触変成岩類が分布し、ほとんどが泥質片岩であるが、石灰珪質片岩が厚さ10 cm~30 cm程度のレンズ状をなして産する。さらにその周縁部には接触変成作用を被っていない周防変成岩類が分布する。

    変成分帯 泥質片岩について鉱物出現・消滅アイソグラッドを検討し、以下のように変成分帯を行った。泥質片岩の主要な鉱物組合せは以下の通りである。

    Zone Ⅰ(菫青石帯) : Qz + Pl + Ms + Bt + Crd + (Chl)

    Zone Ⅱ(紅柱石帯) : Qz + Pl + Ms + Bt + And + Crd

    Zone Ⅲ(カリ長石帯) : Qz + Pl + Bt + Ms + Kfs + Crn +And + Crd + Ilm

    Zone Ⅳ(ざくろ石帯) : Qz + Pl + Bt + Kfs + Opx + Crd + And + Spl + Alm

    Zone Ⅴ(スピネル帯) : Qz + Pl + Bt +Kfs + Opx + Crd + And + Spl

    Zone Ⅵ(珪線石帯) : Bt + Opx + Pl + Kfs + Crd + Qz + Spl + Sil + Ilm

    また、Zone Ⅰ、Zone Ⅵにみられる石灰珪質片岩の主要な鉱物組合せは以下の通りである。

    Zone Ⅰ(菫青石帯) : Ep + Amp + Pl + Qz

    Zone Ⅵ(珪線石帯) : Pl + Cpx + Cal + Qz + Grs

    鉱物化学組成 泥質片岩の構成鉱物の化学的特徴は以下の通りである。なお、本要旨ではXMg = Mg / (Fe2+ + Mg)、XMg* = Mg / (total Fe + Mg)、An = 100 × Ca / (Ca + Na + K) とする。なおスピネル類のFe2+とFe3+は化学量論を用いて計算した。斜長石はAn = 2.0~43.9 %を示し、Zone ⅠからZone ⅥにかけてAn成分が増加する。黒雲母はXMg = 0.34~0.62であり、Ti含有量にはばらつきがみられる。白雲母はXMg = 0.53~0.61であり、Al含有量にはばらつきがみられる。直方輝石はXMg = 0.42~0.43である。スピネルはXMg* = 0.29~0.33で、Zn = 0.002~0.007 apfu、Cr = 0.005~0.020 apfu である。Zone Ⅳのざくろ石の組成はAlm55.4~58.7Prp41.0~44.3Sps0.2~0.5Grs0.1を示し、almandine成分に富む。 なお、石灰珪質片岩の構成鉱物の化学的特徴は以下の通りである。斜長石はAn = 85.2~99.0 %を示す。単斜輝石はXMg = 0.68~0.79で、diopsideの組成を示す。ざくろ石の組成はAlm10.5~16.8Prp1.3~2.2Sps0.4~1.3Grs80.1~87.5を示し、grossular成分に富む。

    変成P-T条件 上記のデータをもとに接触変成作用のピーク時の変成PT条件を計算すると、変成圧力条件は約80 MPaで、変成温度条件は、Zone Ⅰで約500 ℃、Zone Ⅱで500~550 ℃、Zone Ⅲで550~600 ℃、Zone Ⅳ・Zone Ⅴで約600~750 ℃、Zone Ⅵは750 ℃程度以上という結果が得られた。すなわち、最高変成度は輝石ホルンフェルス相の条件に達していると推測される。吉部コールドロンのマグマ溜まりの深度は、約2.4 kmであったと推定できる。

    引用文献

    岸 司ほか (2007) 地質雑, 113, 479-491.

    瀬尾孝文 (1976) 小島丈兒先生還暦記念論文集, 276-285.

  • 高橋 千絢, 豊島 剛志, Lakshmanan Sreehari, 菅野 萌子, 植田 勇人, 小山内 康人
    セッションID: R4-P-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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  • 山崎 秀策, 藤井 昌和, 倉橋 稔幸
    セッションID: R4-P-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    北海道の神居古潭帯を代表とするかつてのプレート沈み込み運動で形成された地質帯には、沈み込む海洋地殻の脱水に伴い、その上部のマントルウェッジかんらん岩が蛇紋岩化し上昇したと考えられる大小様々な蛇紋岩岩体が露出している。しかしながら地表部では土壌・植生に覆われ、また、蛇紋岩類は風化の影響が強く、マントルウェッジかんらん岩、蛇紋岩化帯、高圧変成岩の組み合わせを空間的かつ連続的に観察・解析することは困難である。そこで本研究では、神居古潭帯の低温高圧型の変成岩類(幌加内ユニット)に近接する、幌加内オフィオライトのマントルセクション(鷹泊蛇紋岩岩体)の縁辺部に建設された幌加内トンネル(延長1241m)の2009年建設時に採取された水平(先進)ボーリングコア試料から地表の風化作用を受けていない蛇紋岩類を採取し、マントルウェッジかんらん岩〜スラブ境界付近に相当する領域で形成されたと考えられる蛇紋岩化帯の形成プロセスの解明を試みた。解析手法としては、塊状蛇紋岩を対象とした岩石薄片の記載、XRDによる鉱物相の解析、磁化率計による測定、ガス置換法による真密度測定、TG-DTAによる示差熱重量分析を行い、蛇紋岩類の分類を行った。

     幌加内トンネルに沿って採取された延長約1240mの連続水平ボーリングコア試料には、全体に葉片状の蛇紋岩をマトリックスに、大小さまざまな塊状蛇紋岩ブロックを伴う産状が認められた。採取した塊状蛇紋岩50試料の薄片観察から、かんらん石・斜方輝石がわずかに残る1試料を除き、すべての試料が100%の蛇紋岩化を被っており、初性鉱物としてクロムスピネルのみが残存している。塊状蛇紋岩類はハルツバージャイト・ダナイトを源岩としており、神居古潭帯の変成岩類(角閃岩・緑色片岩・青色片岩を主体とする幌加内ユニット)との境界との距離に対応して、蛇紋岩化の様式に違いが認められた。境界から離れた鷹泊岩体側の蛇紋岩は初性的なかんらん岩の組織を残し、リザーダイト・クリソタイルによるメッシュ状の蛇紋岩組織で特徴づけられる。次に、源岩・メッシュ状蛇紋岩組織の一部が繊維状・放射状のアンチゴライトに置換された蛇紋岩が出現し、岩体の最縁辺部で全体が繊維状・綾織状のアンチゴライトに交代され源岩組織が消失したアンチゴライト蛇紋岩へと遷移する。アンチゴライト蛇紋岩はメッシュ状蛇紋岩に比べて豊富に磁鉄鉱を含み、クロムスピネルの全体あるいは一部を磁鉄鉱が交代する、また、一部にパッチ状の炭酸塩鉱物(ドロマイト・マグネサイト)を伴う。また、アンチゴライト蛇紋岩の分布箇所に限り、神居古潭帯の変成岩類をブロックとして伴っている。この蛇紋岩化様式の変化からは、沈み込み帯におけるスラブ起源流体によるマントルかんらん岩の交代作用の前線を捉えている可能性が示唆される。

     塊状蛇紋岩類の物性測定結果として、真密度は2.45-2.78 g/cm3、磁化率は0.05−0.28 χcm3/gの幅を示し、真密度が増加すると磁化率が増加する直線的な相関関係を示した。また、上記の岩相変化に対応して、メッシュ状蛇紋岩は低密度・低磁化率側に、綾織状アンチゴライト蛇紋岩は高密度・高磁化率側にプロットされる。これは蛇紋岩化の程度に加えて、蛇紋岩化のタイプ・遷移関係を密度あるいは磁化率測定により判別可能であることを示している。また示差熱重量分析の結果、320-420℃にブルーサイトの脱水反応、450-550℃に炭酸塩鉱物(あるいは緑泥石)の分解(脱水)反応が、蛇紋石類の脱水反応として500-700℃にリザーダイト+クリソタイルの低温側の脱水反応が、680-790℃にアンチゴライトの高温側での脱水反応が確認された。また、820℃付近にカンラン石・斜方輝石の結晶化の発熱反応が認められた。320-420℃の重量変化から推定されるブルーサイト含有量は0.3-19.4wt%となり、大まかな傾向としてメッシュ状蛇紋岩で高い含有量(>5wt%)を示し、アンチゴライト化試料で比較的低含有量である。また、蛇紋石の低温側・高温側の脱水反応による重量変化の比から、アンチゴライト化の大まかな交代比が推定可能であると考えられる。

     このように、100%蛇紋岩化した蛇紋岩類を対象に熱重量分析・密度・磁化率測定を組み合わせた解析を行うことで、アンチゴライト・リザーダイトの量比、ブルーサイト含有量、炭酸塩鉱物、磁鉄鉱含有量の推定が可能となり、磁化率変化、密度、含水量の変化範囲と岩相変化の対応関係を精度良く説明でき、また蛇紋岩類の幅広い物性値幅の解釈が可能となると考えられる。

  • 野部 勇貴, 森 宏, 水村 裕紀, 山岡 健, 纐纈 佑衣, 常盤 哲也
    セッションID: R4-P-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    はじめに】中期中新世以降の日本海拡大と伊豆–小笠原弧の本州弧への衝突(Hyodo & Niitsuma, 1986)に関連して,中部地方・赤石山地における西南日本外帯の基盤地質構造は大きく改変され,三波川帯,秩父帯および四万十帯の帯状配列が南北走向に屈曲するとともに,大規模な“ねじ曲がり構造”の存在も推定されている(e.g. 松島, 1997).このことは,赤石山地の西南日本外帯基盤岩が一体となって深部から上昇してきたことを示しており,同地域の基盤岩研究は,中期中新世以降のテクトニクスに関する深部活動履歴の究明に重要であるといえる.ねじ曲がり構造の軸部にあたる小渋川地域では,炭質物ラマン温度計を用いた変成温度解析が行われ,秩父帯から四万十帯にかけてねじ曲がりに起因した温度上昇も検出されている(森ほか, 2021).一方,小渋川地域より北の赤石山地北部では,ねじ曲がり構造の影響が顕著であると考えられるものの,甲斐駒ヶ岳花崗岩体が大規模に貫入しており,温度構造解析に基づく基盤岩評価には,この貫入熱影響を考慮する必要がある.そこで本研究では,赤石山地北部・黒川地域の西南日本外帯基盤岩を対象に,変成温度解析と熱モデリングを併用した貫入熱影響評価を行った.

    地質概要】黒川地域では,西から三波川帯,戸台層,秩父帯,および四万十帯が分布し,三波川帯,秩父帯,および四万十帯は主に付加体構成岩類もしくは付加体起源の変成岩類,戸台層は浅海性堆積岩類からなる.また,四万十帯東部では,中期中新世の定置年代をもつ甲斐駒ヶ岳花崗岩が貫入する(e.g. Watanabe et al., 2020).

    アプローチの概要】変成温度解析では,炭質物ラマン温度計(Aoya et al., 2010; Kouketsu et al., 2014)を用いて,甲斐駒ヶ岳花崗岩周辺の最高到達温度を推定し,温度分布の詳細を把握する.また,熱モデリングでは,瞬間的なマグマ貫入を仮定した1次元の熱伝導方程式に基づく熱計算を用いて,炭質物ラマン温度計により見積もられた温度分布に対するフィッティングを行い,貫入時のマグマの初期温度(マグマ温度)を制約する.そして,制約されたパラメータの妥当性を評価することで,天然に記録された温度分布を貫入熱影響で説明可能か否かを検証する.

    結果・考察】変成温度解析のために,三波川帯の4地点,戸台層の2地点,秩父帯の5地点,および四万十帯の4地点において岩石試料を採取した.炭質物ラマン温度計により見積もられた最高到達温度は,三波川帯で332〜417 ºC,戸台層で275〜284 ºC,秩父帯で276〜316 ºC,四万十帯で317〜492 ºCを示す.また,大局的な温度構造としては,貫入境界に近づくにつれて,三波川帯では温度低下を示す一方,戸台層から四万十帯にかけては地質帯をまたいで連続的な温度上昇が認められ,後者の温度上昇は,貫入熱影響により形成された可能性を示唆する.そこで,戸台層〜四万十帯の温度データを対象とし,マグマおよび母岩の初期温度を未決定パラメータに設定して貫入熱モデリングによるフィッティングを行ったところ,マグマ温度は約1000 ºC,母岩温度は約180 ºCと制約された.

     また今回,フィッティングにより制約されたマグマ温度の妥当性を評価するため,甲斐駒ヶ岳花崗岩の全岩化学組成(佐藤・柴田, 2017)を入力値としたrhyolite-MELTS(Gualda & Ghiorso, 2015)による熱力学計算との比較を行った.熱力学計算結果は,リキダス温度が約1090 ºC,ソリダス温度が約720ºCを示し,フィッティング結果と整合的である.この整合性は,戸台層から四万十帯にかけての温度構造が甲斐駒ヶ岳花崗岩体の貫入熱影響により説明可能であるとともに,変成温度解析に基づく中部地方・西南日本外帯の広域的な議論においても貫入熱影響の考慮が必要であることを示唆する.

    引用文献】 Aoya et al., 2010, J. Metamorph. Geol., 28, 895-914; Gualda & Ghiorso, 2015, Geochem., Geophys., Geosyst., 16, 315–324; Hyodo & Niitsuma., 1986, J. Geomag. Geoelectr., 38, 335–348; Kouketsu et al., 2014, Island Arc, 23, 33–50; 松島, 1997, 飯田市美術博物館研究紀要, 7, 145–162; 森ほか, 2021, 地学雑誌, 130, 85–98; 佐藤・柴田, 2017, 21, 19–28, 群馬県立自然史博物館研究報告; Watanabe et al., 2020, J. Mineral. Petrol. Sci., 115, 276–285.

  • 粟山 湧生, 高木 秀雄
    セッションID: R4-P-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    目的:中部日本に存在する三波川帯,秩父帯,および四万十帯は赤石山地を境として屈曲しており,さらに一般走向傾斜は赤石岳付近を境界として赤石山地南部では北東-南西走向・北西傾斜,北部では南-北走向・東傾斜に変化している.松島 (1973, 1997) によると,日本海の開裂に引き続く伊豆-小笠原孤の衝突により,これら3帯は“逆くの字型”にねじり曲がるだけでなく,北部がまくれ上がったとしている.まくれ上がりが起こっているとすると,中央構造線に近接する三波川帯に記録されている変成時の延性剪断作用のセンスも北部では逆転しているはずである.そこで本論では,長野県伊那地域と静岡県天竜地域の両地域に存在する三波川変成岩の延性剪断変形について調査を行ったので,その結果をここに報告する.

    方法:各地域で採取した三波川結晶片岩類である泥質片岩・緑色片岩に見られる片理面に直交かつ伸長線構造に平行なXZ薄片を作成し,鏡下観察に基づいて剪断センスを決定した.剪断センスを決定するのに用いた主な剪断指標は,泥質片岩はシアバンド,石英形態ファブリック,そして白雲母フィッシュ,緑色片岩はシアバンドのみである.

    結果と結論:伊那地域では24試料の中で剪断センスが観察できた22試料のうち,17試料が上盤北ずれ,5試料が上盤南ずれであり,全体として上盤北ずれが優勢であった.またピッチの範囲はおおよそ10~30°に収まった.同様に静岡県天竜地域では34試料の中で剪断センスが観察できた29試料のうち,22試料が上盤西ずれ,7試料が上盤東ずれであった.ピッチの範囲は沢ごとによってばらつきが見られたものの,全体としては上盤西ずれが優勢であり,これは四国や関東の三波川帯で報告されている剪断センスの結果と調和的である (例えば, Wallis et al., 1992; 阿部ほか, 2001).また,伊那地域の外帯構成層の大部分は基本的に東傾斜であり,上下判定できる四万十帯の砂岩泥岩互層部は逆転していることが知られている(河内ほか,1983).以上の結果と先行研究の報告から,赤石山地のまくれ上がりモデルは,三波川変成岩の剪断センスから見ても妥当なものであると考えられる.

    参考文献

    阿部龍巳・高木秀雄・島田耕史・木村慎治・池山恵介・宮下 敦, 2001, 関東山地三波川変成岩類の延性剪断変形.地質雑,107,337-353.

    河内洋祐・湯浅真人・片田正人,1983,市野瀬地域の地質,地域地質研究報告(5万分の1地質図幅).地質調査所,70p.

    松島信幸(1973): 赤石山地の中央構造線. 「中央構造線」(杉山隆二編), 9-27, 東海大学出版会

    松島信幸(1997): 赤石山地形成論-ポスト和田変動と中央構造線のまくれ上がりについて-. 飯田市美術博物館研究紀要, 7, 145-162.

    Wallis, S.R., Banno, S. and Radvanec, M, 1992, Kinematic, structure and relationship to metamorphism of the east-west flow in the Sambagawa Belt, southwest Japan. The Island Arc, 1, 176-185.

  • 辻森 樹, 原田 浩伸, 板谷 徹丸, パストルガラン ダニエル, アルバレスバレロ アントニオ
    セッションID: R4-P-7
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    プレート沈み込み帯はマントル内部の化学的不均質性を生み出す地殻物質と水のインプットの場として機能する。沈み込むスラブは前弧域から火山フロント直下に達するまでに連続的に脱水し、放出される水流体(スラブ起源流体)は様々な空間スケールの元素移動をもたらす。近年、スラブ内部での元素移動やスラブ直上に供給される元素の挙動について、天然試料の岩石学・地球化学と実験岩石学双方のアプローチから素過程を理解する試みがなされている。しかしながら、スラブ由来元素のマントルへの影響を追跡する場合、連続的な同位体比分別が期待できるような同位体があったとしても、スラブ内部でのバリエーションが明らかでないために、スラブを代表する値は曖昧である。マントル深部へ沈んで行くスラブ全体の安定同位体比がどの程度の幅を持つのか?それは地表に露出した高圧変成岩を解析することで把握可能であろうか?我々はスラブを代表する酸素・水素同位体比のリファレンス値(スラブ値)を決めたいという動機のもと、コヒーレントな高圧変成帯の世界標準としての四国中央部三波川帯において、南北横断方向でのフェンジャイトの酸素・水素同位体比の変化を評価した。 沈み込んでいくスラブのリファレンス値を決定したいものの、コヒーレントな変成帯は上昇時に著しく加水・変形再結晶を被っている。従って、その二次改変の影響は変成帯のなかの代表的な標本を選んで評価するだけでは不十分であり、変成帯の温度構造に直交するような横断線において変成帯内部のバリエーションを十分に把握する必要がある。我々は、スラブを構成する変成地殻起源物質のなかで、岩相に関わらず普遍的に出現し、多角的な評価が可能な唯一の鉱物としてフェンジャイトに着目した。そして、Itaya and Takasugi (1988) https://doi.org/10.1007/BF00379739がK-Ar年代測定を行った汗見川−銅山川ルートのフェンジャイト(主に泥質片岩から分離したもの)を再利用し、84試料(緑泥石帯31試料、ざくろ石帯21試料、アルバイト黒雲母帯22試料、オリゴクレース黒雲母帯10試料)の水素・酸素の安定同位体比を測定し、変成帯内部の変化傾向を調べた。フェンジャイトのK含有量(既知)とH2O量(実測)にもとづき不純試料のデータを間引いた残り63試料のδ18O[SMOW]とδD[SMOW]のバリエーションは、それぞれ+9.6 to +19.3‰ (平均値+14.0‰)、–82.8 to –45.2‰ (平均値–59.0‰)と大きい。両者は相関せず、K-Ar年代(64.3–83.8 Ma)とも明瞭な相関は示さない。δ18Oが+10‰を下回るフェンジャイトは全て塩基性片岩であるが、塩基性片岩のフェンジャイト全てが低い値を示すことはない。δ18Oの振れ幅は同位体比分別よりも原岩の幅を反映すると考えられる。オリゴクレース黒雲母帯のδDはやや高い値をもつ。従来から大歩危地域の緑泥石帯では変成帯の上昇時の著しい変形に伴うK-Ar年代の若返り(64.3–65.8 Ma)が知られていたが、同地域の4試料でのみδ18OとδD値が負の相関を示し、その地域に関しては年代若返りに関与した流体の影響を反映したものと考えられる。 汗見川−銅山川ルートで同位体比の振れ幅を評価するために、四国中央部三波川帯の他地域(猿田川)と、別の変成帯との比較を行ったところ、猿田川のざくろ石帯8試料は低いδD値(–91.2 to –73.4‰)が多いものの、銅山川のざくろ石帯でも–82.8‰に達する試料が存在する。ところが、時代も場所も全く別の変成帯として、蓮華帯の大佐山産の試料14試料(δD = –113 to –88.3‰、δ18O = +12.9 to +14.6‰)と比較すると、四国中央部のフェンジャイトは高いδD値で特徴付けられる。大佐山の試料は青色片岩相の情報を残しており、四国中央部三波川帯の結晶片岩とは上昇時期の後退変成作用の性質は大きく異なる。三波川のδD値は上昇時期の加水再結晶に関与した流体の性質を反映したものかもしれないが、その安定同位体比の平均値は地表に露出した高圧変成岩のフェンジャイトのリファレンス値として提案できる。

  • 岩水 健一郎, 早坂 康隆, 姜 志勲, 木村 光佑, 柴田 知之
    セッションID: R4-P-8
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    背景

     韓国の先カンブリア時代の基盤岩は、北西部の京畿地塊と南東部の嶺南地塊に分布する。嶺南地塊の基盤岩の変成相の大部分は低圧型の角閃岩相だが、南西部・北中部にはそれぞれ、低圧型のグラニュライト相・緑色片岩相の領域が広く分布する(Lee, S.-M., 1973)。嶺南地塊の基盤をなす約 2–1.96 Ga の花崗岩類はいずれも、約 1.9–1.85 Ga の変成年代を持つ(Kim, N. et al., 2014; Lee, B.-C. et al., 2019; Cho, D.-L. et al., 2020)。この約 1.9–1.85 Ga の変成年代は、嶺南地塊における、約 1.9–1.85 Ga の優白質花崗岩の貫入を伴う角閃岩相の広域変成作用の時期を示す(Cho, M. et al., 2017)。また、嶺南地塊・南西部において、約 1.88 Ga の貫入岩は、約 1.86 Ga のグラニュライト相の変成年代を持つ(Lee, B.-C. et al., 2017)。これら約 1.9–1.85 Ga の変成年代はいずれも、ジルコンの変成リムから得られている。

     一般にジルコンの変成リムは、角閃岩相以上の高温の変成作用に伴って形成される(早坂, 2011; 猪川, 2016)。よって、嶺南地塊における角閃岩相~グラニュライト相の変成作用に伴うジルコンの変成リムの形成は、前文と整合的である。

    目的

     早坂 (2011); 猪川 (2016) に基づくと、緑色片岩相の変成作用では、ジルコンの変成リムは形成されないと考えられる。よって、緑色片岩相が広く分布する嶺南地塊・北中部の雪川地域においては、約 2–1.96 Ga の花崗岩類のジルコンは、約 1.9–1.85 Ga の変成リムを持たないと予想されるが、先行研究は無い。よって我々はこの問題に取り組むため、嶺南地塊の雪川地域で花崗岩を採取した。

    手法

     花崗岩からジルコンを分離し、SEM を用いてジルコンの CL 像を撮影し、分析点を選定した。その後、LA-ICP-MS を用いてジルコン U–Pb 年代を測定した。本システムは勝部ほか (2012) に基づく。また、薄片の観察と全岩化学組成の分析を行った。一連の分析は広島大学で行った。

    結果

     主要造岩鉱物は、石英・斜長石・アルカリ長石・角閃石である。花崗岩は全体的に優白質である。全岩化学組成について、花崗岩は metaluminous の領域に存在する。これは、嶺南地塊の約 2–1.96 Ga の花崗岩類を全て peraluminous とする先行研究(Kim, N. et al., 2014; Lee, B.-C. et al., 2019; Cho, D.-L. et al., 2020)と異なる。

     ジルコンは、コア・マントルの 2 層構造を示すものと、マントルのみの 1 層構造を示すものに大別される。コアは、均質または縞状の内部構造を示し、約 2.5–2.4 Ga のコンコーダントな U–Pb 年代を示し、Th/U 比が全て 0.1 以上と高い。マントルは、波動累帯構造または縞状構造を示し、約 2 Ga 付近にコンコーダントな U–Pb 年代が集中し、Th/U 比が全て 0.1 以上と高い。約 2 Ga に集中するコンコーダントなマントルの年代の加重平均は 1997 ± 10 Ma である。ジルコンのリムは確認できなかった。

    考察

     全岩化学組成が例外的に metaluminous である原因は不明である。

     前述の加重平均(1997 ± 10 Ma)が、マグマの固結年代だと考えられる。よって、約 2.5–2.4 Ga のコアは、inherited ジルコンだと考えられる。実際、嶺南地塊の inherited ジルコンの U–Pb 年代分布は、約 2.5 Ga 付近に最大の極大値を持つ(Kim, N. et al., 2014)。嶺南地塊に広く分布する約 2–1.96 Ga の花崗岩としては例外的に、約 1.9–1.85 Ga の変成年代(ジルコンの変成リム)が得られなかった。その原因は、嶺南地塊・雪川地域の変成相が緑色片岩相であるため、ジルコンの変成リムの形成に必要な 530 ℃ 以上の温度(猪川, 2016)に達しなかったからだと考えられる。

    文献

    Cho, D.-L. et al., 2020, Precambrian Res., 340, 105631.

    Cho, M. et al., 2017, Geosci. J., 21, 845–865.

    早坂 康隆, 2011, 日本地質学会 第118年 学術大会 講演要旨, R7-O-3.

    猪川 千晶, 2016, 総研大 修士論文

    勝部 亜矢ほか, 2012, 地質雑, 118, 762–767.

    Kim, N. et al., 2014, Precambrian Res., 242, 1–21.

    Lee, B.-C. et al., 2017, Precambrian Res., 298, 439–461.

    Lee, B.-C. et al., 2019, Gondwana Res., 72, 34–53.

    Lee, S.-M., 1973, J. Geol. Soc. Korea, 9, 11–23.

  • 臼杵 直
    セッションID: R4-P-9
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    岩石学や構造地質学、同位体年代学の進歩とともに、従来考えられてきたいくつかの造山イベントの時間スケールは一桁以上短くなった(例えば>20Myrから<2Myrへ、Caddick et al., 2010)。さらに最近では、Sm-NdやLu-Hf高精度年 代測定により、沈み込み帯でのザクロ石成長が1Myr以内に起こった例も示されている(Dragovic et al., 2012, 2015)。これらの事実は、数Myrから<1Myrの時間スケールを計測する技術の確立が重要になってきたことを示している。近年、同位体年代学を用いた時間スケールの推定とともに、diffusion chronometerを用いた時間スケールの計測が広く利用されるようになった (Chakraborty, 2006, 2008)。Diffusion chronometerが実用化されてきた背景として、ここ20年でさまざまな鉱物の主成分や微量成分拡散係数の実験データが充実してきたこと、EPMAやSEM-EDS, LA-ICPMS、SIMSを用いた主要元素や微量元素拡散プロファイル測定の解像度と精 度の向上がしてきたことなどが挙げられる。 Crank (1975)には板、球、無限円筒についての拡散方程式の解が示されている。拡散に異方性がなければ、これらの解析解を用いて、測定プロ ファイルからおおよその変成作用の継続時間を比較的簡単に推定することができる。しかし、一般の多くの鉱物では強い拡散異方性があることが知られている。例えば、カンラン石のFe-Mg相互拡散ではc軸方向の拡散はa軸、b軸の方向の拡散の約6倍(Tachibana et al., 2013)、ルチルのHf拡散ではc軸方向の拡散は垂直方向の拡散の5倍から10倍の違いがある(Cherniak et al., 2007)。このような鉱物に球モデルや板モデルを適用するのは一般には不適切である。このため、Watson et al. (2010)はaxialとradial方向について異なる拡散係数もつ場合の有限円筒内の拡散の解析解を導いた。Watson et al. (2010)の解析解では拡散係数を時間依存の関数としているが、本発表では単純化して定数とし、さらに、初期条件C0、境界条件C1の場合に変形した式を紹介する。この有限円筒内の解析解を用いると、axial方向(c軸に平行)とradial方向(c軸に垂直)の2つの異なる拡散係数を用いて円筒内の任意の方向の拡散プロファイルを計算できる。 本発表では、この有限円筒内拡散の解析解をもちいて、結晶の短軸・長軸比や拡散異方性の大きさの違い、測定プロファイル方向とc軸とのなす角が拡散プロファイルに与える影響についての計算結果を紹介する。また、この解析解の天然の岩石への適用例として、北ベトナムのソンマ縫合帯からのルチルのZrプログレード累帯構造を用いてエクロジャイト相の時間スケールを制約した研究を紹介する。

    References

    Caddick MJ, Konopásek J, Thompson AB (2010) J Petrol 51, 2327–2347. Chakraborty S (2006) Mineralogy and Petrology 88, 7-27. Chakraborty S (2008) Ann Rev. Earth Planet Sci 36, 153–190. Cherniak DJ, Manchester JE, and Watson E (2007) Earth Planet. Sci. Lett. 261, 267–279. Crank, J (1975) The Mathematics of Diffusion. Oxford University Press, Oxford. Dragovic B, Samanta LM, Baxter EF, Selverstone J (2012) Chem Geol 314–317, 9–22. Dragovic B, Baxter EF, Caddick MJ (2015) Earth Planet Sci Lett 413, 111–122. Tachibana S, Tamada S, Kawasaki H, Ozawa K, Nagahara H (2013) Phys Chem Minerals 40, 511–519. Watson, EB, Wanser, KH, Farley, KA (2010) Geochimica et Cosmochimica Acta 74, 614-633.

  • 栗原 那知, 遠藤 俊祐
    セッションID: R4-P-10
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    はじめに  沈み込み帯の水循環において,堆積物・変質玄武岩質海洋地殻・マントル物質の主要岩石組成のほかに,沈み込み境界での交代作用の役割が重要視されている.例えば,沈み込み帯浅部での玄武岩の濁沸石交代作用(Endo and Wallis, 2017)や,沈み込み帯深部の泥質片岩のローソン石交代作用(Vitale Brovarone and Beyssac, 2014)により形成されるCASH系の高含水量交代岩とその脱水分解は,沈み込み境界の吸水・脱水挙動を大きく変化させうる.今回,愛媛県滑川地域の三波川変成岩の地質調査により岩相層序・地質構造・変成分帯を明らかにした.その過程で,見出した新しいタイプの交代岩である石灰珪質片岩について詳しく報告する.

    地質背景 愛媛県滑川地域は,MTL桜樹屈曲部の三波川変成岩の分布域である.滑川左岸の標高702 mの山頂周囲2 km四方のマッピングを行った.岩相境界はほぼ水平,片理は低角で地質構造は東西軸のゆるいシンフォームが存在する.標高差350 mの岩相層序は構造的下位から泥質片岩層(無点紋),苦鉄質片岩卓越層(無点紋),珪質・苦鉄質・泥質片岩層(点紋あり)に区分される.泥質片岩の鉱物組合せから,下位の無点紋帯は緑泥石帯,上位の点紋帯はざくろ石帯に相当する.緑泥石帯とざくろ石帯の境界がアイソグラッドであるか構造境界であるかは現時点で判断できない.ざくろ石帯には,蛇紋岩ブロックが含まれる.蛇紋岩はクロムスピネル(Cr# = 0.61-0.92)を含み,変成鉱物組合せは,アンチゴライト+ブルーサイトで,かんらん石を含まない.

    石灰珪質片岩の記載 石灰珪質片岩は,緑泥石帯の厚い苦鉄質片岩層に挟まれて産する(タイプ1).また,この苦鉄質片岩層と泥質片岩の岩相境界においても形成されている(タイプ2).タイプ1は方解石に富む一方で,タイプ2は方解石に乏しく炭質物を含む.両タイプの石灰珪質片岩は,残留鉱物として褐色のクロムスピネル(Cr# = 0.36-0.43)を含み,その周囲にCrに富む緑色のフェンジャイトやパンペリー石(Cr2O3は最高15.5 wt%)が形成されている. タイプ1は,端成分に近いゾイサイト,緑れん石,方解石,石英を主要構成鉱物とし,少量のフェンジャイト,カリ長石,緑泥石を含む.方解石やゾイサイト斑状変晶中に,初期ステージの鉱物としてローソン石やAlに富むパンペリー石が包有される.

    考察 滑川地域は四国中央部の汗見川・白髪山地域と同様に,スラブと前弧地殻-マントル境界の三重会合点付近がよく保存された地域といえる.蛇紋岩は四国中央部のように変成かんらん石がみられないことから,前弧マントル先端部が保存されていると考えられる.このような形成場は,滑川地域が現世の西南日本の深部スロー地震発生域の地質学的描像を考察するうえで重要なフィールドであることを意味する.西南日本の深部低周波微動発生域においてローソン石の脱水分解を重要視する考えがある(Fagereng and Diener, 2011).しかし三波川帯の緑泥石帯では,一般に苦鉄質片岩にはローソン石はみられず,泥質片岩ではローソン石は微量であるため,基本的な堆積物・変質玄武岩質海洋地殻の岩石組成を考える限り,ローソン石の脱水分解は重要でない. 一方,今回発見した石灰珪質片岩は,珪酸塩ではゾイサイトと緑れん石が主要構成鉱物であるが,ローソン石のレリックが見いだされたことからプログレード初期にはローソン石が主体であったことを示す.また石灰珪質片岩は,苦鉄質片岩に伴われることと,低Cr#のクロムスピネルを含むことから,苦鉄質片岩(MORB起源)を原岩とする交代岩である.タイプ2の産状と炭質物を含むことから,泥質片岩側からC-H-O流体の流入に伴い,苦鉄質片岩の炭酸塩岩化およびローソン石交代作用がプログレード初期に起こった可能性が高い.ローソン石交代作用は保水機構として効率的であり,それが普遍的に起きているのであれば,交代岩の沈み込みに伴う脱水分解(反応は3Lws + Cc = 2Zo + CO2 + 5H2O)は深部スロー地震発生域の流体発生メカニズムのひとつとして重要である.

    引用文献 Vitale Brovarone and Beyssac (2014) EPSL, 393, 275-284. Fagereng and Diener (2011) GRL, 38, L15302. Endo and Wallis (2017) JMG, 35, 695-716.

  • 崎 海斗, 遠藤 俊祐
    セッションID: R4-P-11
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    はじめに

    四国の中央構造線(MTL)は,西条市丹原町から東温市滑川にかけて南北走向・西傾斜を示し,桜樹屈曲と呼ばれている.桜樹屈曲を境にして,四国西部と四国中央部の三波川変成岩の構成要素には違いがみられる.すなわち,四国西部では構造的最上位に唐崎マイロナイト,四国中央部ではエクロジャイト相変成岩がみられる.桜樹屈曲の成因は明らかではないが,桜樹屈曲部の三波川変成岩の地質構造とは表裏一体の問題と考えられる.同地域の詳しい地質図は,Hara et al. (1992)により公表され,横臥褶曲を含む複雑な地質構造が提案されている.著者らは,MTLの活動に関係する脆性変形の観察を含め,桜樹屈曲部の地質構造を再検討する目的でマッピングを開始しており,予察的結果を報告する.

    岩相層序と地質構造

    構造は基本的には低角であり,構造的下位から泥質片岩層(無点紋),苦鉄質片岩卓越層(無点紋),珪質・苦鉄質・泥質片岩層(点紋あり)と累重し,またMTL沿いには上述の苦鉄質片岩卓越層(無点紋)の構造的上位に泥質片岩層が分布する.古典的層序区分でいえば,大部分は四国中央部の三縄層,MTL沿いの泥質片岩は大生院層に対比される.三縄層相当部の伸長線構造は桜樹屈曲部でも東西で,上盤西ずれの剪断センスを示す.また,石鎚層群の流紋岩と火山角礫岩(砕屑岩脈を含む)が三波川変成岩(大生院層)と和泉層群にまたがって分布し,これらは北落ち正断層に切られている.

    変成作用

    三縄層相当部はアルバイト斑状変晶(点紋)の出現から構造的上位に向かって変成度が上昇することが野外で認識できる.泥質片岩・苦鉄質片岩の鉱物組合せ・鉱物化学組成の観点からも,四国中央部の緑泥石帯とざくろ石帯の変成作用とは違いがみられない.ざくろ石帯は面木山山頂付近と,滑川左岸の山頂付近に分布する.一方,四国中央部の大生院層がざくろ石帯以上の高変成度を示すこととは異なり,桜樹屈曲部のMTL沿いの泥質片岩には,ざくろ石や点紋は見られず,変成度は緑泥石帯に相当する可能性が高い.

    考察

    桜樹屈曲部のMTL付近に見られる正断層は,石鎚層群の流紋岩を切っていることから,MTL活動ステージの石鎚時階の正断層運動と考えられる.四国中央部と四国西部での石鎚時階の正断層運動の変位量の差,すなわち三波川変成岩の上昇量の差が桜樹屈曲の形成に関与している可能性があり,さらなる検討が必要である.

    引用文献

    Hara et al. (1992) Jour. Sci. Hiroshima Univ. Ser. C, vol. 9, p. 495-595.

  • 北野 一平, 小山内 康人, 北村 圭吾, 中野 伸彦
    セッションID: R4-P-12
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    中部九州には,阿蘇カルデラの形成に伴う大規模噴火活動により広範囲にわたって新生代火山堆積物類が分布しており,西南日本の基盤をなす中生代~古生代変成岩類・花崗岩類の分布連続性を不明瞭にしている.しかしながら,広域地質調査およびボーリング調査により,高温低圧型変成岩類および花崗岩類が地下に分布し,一部地表に露出していることが明らかになった(例えば笹田,1987;三好ほか,2011).これらの基盤岩類は112–78 Maの白亜紀の黒雲母(一部,白雲母またはホルンブレンド)K–Ar年代をしめすことから,領家帯の延長である可能性が指摘されている(笹田,1987).そこで,本研究は合戦群(かしのむれ)地域(現,阿蘇市一の宮町)に小規模に露出している変成岩類および花崗岩類から,岩石記載およびジルコンU–Pb年代測定を行い,それらの特徴から帰属を検討した.

     阿蘇カルデラ北部に位置する合戦群地域には,東西約600 m ,南北約300 mの範囲で変成岩類,花崗岩類および少量の超苦鉄質岩類が地表に露出している(笹田,1987).笹田(1987)によれば,変成岩類は主に雲母片岩で,一部角閃石片岩が産する.雲母片岩および角閃石片岩の鉱物組合せはそれぞれ黒雲母+白雲母±菫青石(ピナイト化)+斜長石+石英および単斜輝石+ホルンブレンド+黒雲母+斜長石+石英である.これらの変成岩類は,白雲母含有黒雲母花崗岩,白雲母黒雲母花崗閃緑岩,ペグマタイト,アプライトからなる花崗岩類に貫入されている.超苦鉄質岩は転石としてのみ確認され,主に放射状のトレモラ閃石からなり少量の滑石および不透明鉱物を含む.そのほかに,160 mのボーリングコアから,カリ長石や珪線石(フィブロライト)を含む雲母片岩や片状花崗岩,塊状~片状トーナル岩,片状閃緑岩も認められている.この地域の雲母片岩,弱片状花崗岩は,それぞれ約83 Ma,81 Maの黒雲母K–Ar年代をしめす(笹田,1987).

     合戦群地域から採取した変成岩類は,雲母質層と石英長石質層からなる片麻状構造を有するため,本研究では片麻岩とみなした.片麻岩は,白雲母および黒雲母によるデカッセイト組織で特徴づけられ,多くの場合,菫青石,紅柱石または白雲母の斑状変晶を含む.ただし,菫青石はピナイト化しており,稀に一部残存している.花崗岩類は等粒状組織をしめすが,著しく風化しており大部分が真砂化している.本研究では,菫青石(ピナイト化)含有紅柱石―黒雲母―白雲母片麻岩(53104A)および貫入している黒雲母―白雲母花崗岩(53104B)からジルコンを分離し年代測定した. 両岩相のジルコンの多くは自形で,明瞭~弱い波動累帯構造またはセクター構造を有し,高いTh/U比(> 0.2)をしめした.泥質片麻岩(53104A)のジルコンは1480, 1170, 980‒840, 650‒220 Maの年代と280–260 Maの年代ピークをしめした.一方,花崗岩(53104B)は集中した年代をしめし,102.5 ± 2.4 Maの加重平均年代が計算された.

     合戦群地域の泥質片麻岩は,花崗岩に貫入され,デカッセイト組織の白雲母や黒雲母,斑状変晶の紅柱石,董青石を含むことから,花崗岩の貫入による高温低圧型の接触変成作用を受けた可能性が強く示唆された.また,1480‒220 Maの砕屑性ジルコン年代が得られ,その年代分布は,領家帯の原岩であるジュラ紀付加体よりも近隣の三郡―周防帯の結晶片岩の砕屑性ジルコン年代に類似する(Tsutsumi, 2003;Miyazaki et al., 2017).分析した両雲母花崗岩は102.5 ± 2.4 Maの火成活動年代をしめし,106.0 ± 1.0 MaのジルコンU–Pb年代をしめす両雲母花崗岩で特徴づけられる筒ヶ岳花崗岩に対比され得る(唐木田,1992;島田ほか,1999;堤,2019).筒ヶ岳花崗岩は合戦群地域西方に分布し,三郡―周防帯の結晶片岩類に貫入している(唐木田,1992;島田ほか,1999).以上の結果から,合戦群地域に産する泥質片麻岩は,大牟田地域と同様に周防帯の変成岩類が白亜紀花崗岩類の貫入により接触変成作用を受けた可能性が指摘できるが,西南日本の地質学的帯状配列を考慮すると,従来からの領家帯の西方延長についても岩石学的解析を含め慎重に再検討する必要がある.

    引用文献

    唐木田(1992)中部九州「九州地方」共立出版,Miyazaki et al. (2017) Island Arc,三好ほか(2011)地質学雑誌,笹田(1987)地質調査所月報,島田ほか(1999)熊本地学会誌,Tsutsumi et al. (2003) Journal of Mineralogical and Petrological Sciences,堤(2019)2019年鉱物科学会年会講演要旨

  • 馬場 壮太郎, 堀江 憲路, 外田 智千, 竹原 真美, 亀井 淳志, 北野 一平, 本吉 洋一
    セッションID: R4-P-13
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    リュツォ・ホルム岩体は東南極プリンス・オラフ海岸からリュツォ・ホルム湾に分布し,角閃岩相からグラニュライト相の高度変成岩類から構成される(Motoyoshi et al., 1989; Hiroi et al., 1991).リュツォ・ホルム岩体の変成度は,東端の新南岩から南西に向かって累進的に上昇すると考えられ,角閃岩相帯,遷移帯,グラニュライト帯に区分されている(Hiroi et al., 1991).主要な変成年代は600-520 Maとされるが (Dunkley et al., 2020),プリンス・オラフ海岸の日の出岬からは600-520 Maの年代は得られず,1073 Maの原岩年代と970Maの変成年代が得られている(Shiraishi et al., 1994; Dunkley et al., 2020).また,日の出岬は角閃岩相帯に位置するものの,変トーナル岩中の塩基性〜中性片麻岩ブロックはグラニュライト相条件を示すことが報告されている(Hiroi et al., 2008).我々は日の出岬の周辺露岩を含めて,変成変形作用の再検討進めている.

     あけぼの岩はプリンス・オラフ海岸の中央部,日の出岬の北東約12 km,角閃岩相帯に属する露岩である.あけぼの岩の西部地域に認められる剪断帯にはマイロナイト及びL-Sテクトナイトが産し,それらから推定された温度圧力条件は650-750℃,4-6 kbarであることが報告されている(Baba et al., 2021),また,これらの周囲に産するザクロ石角閃岩は650-700℃, 8±0.5 kbarの温度圧力条件を示す.あけぼの岩においてAl2SiO5鉱物を含む泥質片麻岩の産出は少なく, 藍晶石を含むザクロ石-黒雲母片麻岩が1試料のみ採取された.泥質片麻岩は主にザクロ石,黒雲母,石英,斜長石から構成され,カリ長石,藍晶石,グラファイト,イルメナイト,ルチル,ジルコンを伴う.ザクロ石は斑状変晶(〜0.8mm)として産し,顕著な組成累帯構造(正累帯構造)を示す.藍晶石は柱状結晶(〜0.2mm)として産し,石英や斜長石と接する.ザクロ石,黒雲母,斜長石の組成から求めた温度圧力条件は650-700℃,8±1kbarを示し,シュードセクションモデルから見積もられた条件も概ね一致する.

     このザクロ石-黒雲母片麻岩について,SHRIMP-IIを用いてU-Pb ジルコン年代測定を実施した.1121〜1014 Maおよび972〜904 Ma(n = 65)の2つ年代クラスターが特定され、後者の加重平均年代は937±6Mであった.この年代はジルコンのリムから得られた年代に一致し,Th/U は著しく低い値(< 0.08)を示すことから変成作用の年代であると解釈される.今回得られた年代は,あけぼの岩の角閃岩相変成作用が,リュツォ・ホルム岩体で広く受け入れられている新原生代後期からカンブリア紀の変成作用よりもかなり早い時期に起こったことを示している.この結果はプリンスオラフ海岸地域におけるリュツォ・ホルム岩体の変成イベントについて根本的な見直しが必要であることを示している.

    引用文献 Baba et al., 2021, Antarctic Sci. 33, 52–72. Dunkley et al., 2020, Polar Sci. 26, 100606. Hiroi et al., 1991, Geological Evolution of Antarctica, 83-87. Hiroi et al., 2008, Geol. Soc. Sp. Publ., 43, 339-350. Motoyoshi et al., 1989, Geol. Soc. Sp. Pub., 43, 325-330. Shiraishi et al., 1994, J. Geology 102, 47–65.

  • 志村 俊昭, 原田 悠暉, Fraser Geoffrey, 土屋 範芳
    セッションID: R4-P-14
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    リュッツォホルム岩体は、中dP/dT変成コンプレックスで、東側から西側へ、角閃岩相~超高温変成岩へ変成度が高くなる累進変成地域である(Hiroi et al., 1991など)。その変成ピーク時期はジルコンU-Pb年代から600~500 Ma頃とされている(Dunkley et al., 2020)。天文台岩はプリンスオラフ海岸の1 km × 3 km程度の露岩で、角閃岩相と、角閃岩相・グラニュライト相漸移部のちょうど境界部にあたる(Shiraishi et al. 1984)。

     本研究は、第35次南極地域観測隊の調査において、天文台岩で採取した1個の岩石サンプル(TMD40)の解析結果である。TMD40は肉眼的には均質な岩石で、弱い片麻状構造をもつ。主としてザクロ石、スピネル(ヘルシナイト)、黒雲母、珪線石、斜長石、カリ長石、石英、イルメナイト、ルチルで構成され、少量の白雲母、アパタイト、ジルコンを含む。スピネルは石英と接することはなく、斜長石とシンプレクタイトをなして産する。

     鏡下の組織と鉱物化学組成などから、TMD40の変成ステージは、Stage-I(昇温期)、Stage-II(温度ピーク)、Stage-III(後退期)に分けることができる。これをさらに細分し、温度ピーク以降の変成ステージは以下のように区別することができる。

    Stage-II: ザクロ石斑状変晶のマントルの高XMg部と、Grt + Sil + Kfsの共生時期。

    Stage-IIIa: Grt + Kfs + H2O = Bt + Sil、およびGrt + Rt = Ilm + Sil + Qzの反応により、ザクロ石斑状変晶が分解され始める時期。

    Stage-IIIb: スピネルの出現で定義され、Grt + Sil + Spl + Plの4相が共存する時期。

    Stage-IIIc: ザクロ石の消滅で定義され、ザクロ石に隣接するpressure shadowにBt + Msが形成される時期。

     Stage-IIの温度圧力条件は、ザクロ石斑状変晶とその包有物などとの共生関係に基づき、GASP圧力計やGRIPS圧力計などから得られ、800~840 ℃で800 MPa程度の圧力である。Stage-IIIaの圧力は、ザクロ石斑状変晶にIlm + Sil + Qzのドメインが湾入して形成されている組織に基づいて得られ、GRAIL圧力計により求めることができる。800 ℃で650 MPa程度である。Stage-IIIbの圧力は、Spl + Plシンプレクタイトの形成時期として、Grt-Sil-Spl-Pl圧力計(Shimura et al, , 2016; 志村ほか, 2021)から求めることができる。750 ℃で450 MPa程度である。

     Stage-IIIaの減圧組織は、もともとザクロ石とルチルが接していた場所に、

    Grt + Rt = Ilm + Sil + Qz ・・・・・①

    の反応が起きて形成されたことが読み取れる。一方、Stage-IIIbの減圧組織は、もともとザクロ石と珪線石が接していた場所に、

    Grt + Sil = Spl + Pl  ・・・・・②

    の反応が起きて形成されたことが読み取れる。①の反応が起きたドメインでは、ザクロ石斑状変晶は“薄膜状の石英”に囲まれ、ザクロ石と珪線石は直接には接しなくなり、基質から隔離されている。これにより、後の②の反応は起きていない。一方、②の反応が起きたドメインでは、ザクロ石やスピネルは斜長石に完全に囲まれ、基質から隔離されている。このためより後にザクロ石に接して白雲母や黒雲母が形成されていることはない。

     天文台岩の変成履歴は、Takamura et al. (2020)が苦鉄質変成岩で解析したように、時計回りの変成P-T-t経路であることが、泥質変成岩からも支持される。サンプルTMD40は、肉眼的にはほぼ均質な岩石にみえるが、ごく狭いドメイン内の反応前の組織や化学組成の違いにより、事後に形成される減圧組織が異なっている。この試料には、様々な段階の減圧プロセスが記録されている。

    文献

    Dunkley, D. J. et al. (2020) Polar Science, 26, 100606.

    Hiroi, Y. et al. (1991) In: Geological evolution of Antarctica. Cambridge Univ. Press, 83–87.

    Shimura, T. et al. (2016) Goldschmidt Conference 2016, abstract 2833.

    志村俊昭 ほか (2021) 日本地球惑星科学連合2021年大会, SMP25-11.

    Shiraishi, K. et al. (1984) Memoirs of NIPR Spec. Iss., 33, 126–144.

    Takamura, Y. et al. (2020) Precambrian Research, 348, 105850.

  • 池田 剛, 淀屋 勇斗
    セッションID: R4-P-15
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    ザクロ石,黒雲母,斜長石,石英(±珪線石)の鉱物組合わせは,角閃岩相高温部の泥質片麻岩に広く見られる。この組合せの安定な温度圧力領域が広いことは,変成分帯を困難にし,共生関係から温度圧力を限定することを妨げる。一方で,同一の地質温度圧力計を適用することで,相対誤差の少ない温度圧力構造を検知できる可能性がある。しかし,これらの鉱物が共存していた時の化学組成が,高温の最高変成条件を含む温度圧力経路を経験したのちの現在の鉱物中に保存されているか,という根本的な問題は残されたままである。

     本研究では問題解決の糸口を探るため,手法ごとに様々な温度圧力条件が見積もられている東南極リュツォ・ホルム岩体の明るい岬という狭い露岩地域(約2 km×2 km)を対象とした。上記の鉱物組合わせをもつ泥質片麻岩に限定し,7試料に同一の地質温度圧力計を適用した。通常の基準,即ち,ザクロ石の均質な内部,ザクロ石から離れた黒雲母,Caに富む斜長石を用いると,760 ℃,7.0 kbarから1000℃,10.5 kbarの広い範囲の"値"を得た。問題は,この"値"が温度,圧力かどうかである。

     微細構造をみると,ザクロ石の形態は細粒包有物を伴う半自形と,粗粒包有物を伴う不定形に大別される。前者にはP(リン)の累帯構造がみられルチルが包有されるのに対し,後者にはそれらはみられない。マトリクスにはルチルがなく,構成鉱物も粗粒であることから,ザクロ石の核形成時期および周囲を包有しながら成長する時期が異なっていることが推測される。ところが,この違いは上記の"値"の変動と相関を持たない。

     ザクロ石の近隣かどうかを問わず,1枚の薄片から万遍なく選んだ100点以上の黒雲母の分析値が示す組成幅を考慮しても"値"の幅は説明できない。

     以上の情報から,現段階では以下の2つの可能性が考えられる。1)構成鉱物中には共存時の化学組成が保存されていない(ので地質温度圧力計は適用できない)。2)明るい岬の温度圧力の不均一性をあらわしている。後者の場合,採集地点間の距離をそのまま深さの差に換算した静岩圧の差は,推定圧力の差よりも小さい。温度圧力を凍結した時刻が等しいと仮定すると,凍結後に両者の距離が短縮するような変形があったことを意味する。

  • 東野 文子, 河上 哲生, 足立 達朗, 宇野 正起
    セッションID: R4-P-16
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    CO2や塩素を含むH2Oアクティビティ(aH2O)の低い流体の存在は、中部~下部地殻からたびたび報告されてきた (例えば Newton et al., 1998 Precam. Res.; Touret & Huizenga, 2011 GSA Memoir)。H2O-CO2-NaCl(KCl, CaCl2)系において、CO2に富む流体と塩素に富む流体は、高温下でも不混和領域が大きく、二相共存可能である (Shmulovich & Graham, 2004 CMP)。そのため、天然試料から一方の流体組成が認識できた場合でも、両者が共存していた可能性を考慮する必要がある。

    東南極セール・ロンダーネ山地では、原生代後期からカンブリア紀の中部~下部地殻に相当する高温変成岩類が広く露出する (例えば Shiraishi et al., 2008 GSL Sp. Pub.; Osanai et al., 2013 Precam. Res.)。同山地では、塩素に富む黒雲母および角閃石が東西 200 km に渡って産することが報告され、大規模な塩水活動が示唆されている (Higashino et al., 2013 Precam. Res.; 2019 J. Pet.)。しかし、塩素に富む流体とCO2を含む流体の共存関係はこれまで議論されてこなかった。パーレバンデは、同山地最西部に位置する、約10km規模のヌナタクである。北部のザクロ石―珪線石―黒雲母片麻岩からは反時計回りの温度圧力履歴が報告され、昇温期に塩素に富む流体流入が起きたと報告されている (Kawakami et al., 2017 Lithos)。本研究では、パーレバンデ南部に産するザクロ石―珪線石―黒雲母片麻岩を用いて、流体活動を読み解き、CO2と塩素に富む流体の共存関係の制約を試みた。

    本研究試料の主要構成鉱物は、ザクロ石+珪線石+黒雲母+斜長石+カリ長石+石英であり、片麻状構造を切る幅 < 1㎜の黒いクラックが存在する。クラックは塩素に富む黒雲母 (~0.7 wt% Cl) から成り、後退変成期に塩素を含む流体が局所的に流入することで形成されたと考えられる。また、母岩のザクロ石のリムには菫青石と黒雲母 (0.2-0.3 wt% Cl) のインターグロウスが観察され、以下の反応が起きたと考えられる。

    ザクロ石+カリ長石+H2O→菫青石+黒雲母 (1)

    反応(1)の温度圧力条件は、ザクロ石がXFe = ~0.8の組成を持つことから、NaKFMASH系で~750 ºC、~0.3 GPa と見積もられた (Spear et al., 1999 CMP)。インターグロウス中の菫青石には、ラマン分光分析でH2OとCO2のピークが見られ、H2O-CO2流体共存下で菫青石が形成したことを示唆する。また、同組織内の黒雲母に塩素が含まれることから、反応(1)は、H2O-CO2-Cl流体の流入で起きたと考えられる。Kaindl et al. (2006 EJM) の手法を用いると、菫青石に含まれるCO2濃度はラマン分光分析により1.3-1.7 wt% と見積もられた。これは、Harley et al. (2002 JMG) で報告された流体中のaCO2が1の場合に菫青石に入り得るCO2濃度よりも高く、より精査する必要はあるものの、菫青石がaCO2の高い流体と共存したことを示す。さらに、インターグロウス中に産する黒雲母と共存する流体組成は、メルト不在下でXNaCl = ~0.06と見積もられた (750 ºC、0.5 GPa; Aranovich, 2017 Petrology)。個々に見積もったCO2および塩素を含む流体組成をH2O-CO2-NaCl系の相図 (Shmulovich & Graham, 2004 CMP) と比較すると、~750 ºC、~0.3 GPaの条件下では、両者は一相で存在していた可能性がある。

    また、片麻状構造を切る黒いクラックの一部には、黒雲母+カリ長石+紅柱石から成るインターグロウス組織が見られる。これは、反応(1)で形成した黒雲母よりも低温で、反応(1)よりも塩素濃度の高い黒雲母が形成したことを示す。メルト不在下における流体―黒雲母間の塩素の分配係数の温度依存性は不明であるが、おそらく高aClの流体共存下で形成したのであろう。以上より、本試料では後退変成期にH2O-CO2-Cl流体の流入によってザクロ石の分解反応が起きた後、より低温で塩素を含む流体が流入するという、複数段階の流体活動が記録されていると分かった。

  • 足立 達朗, 河上 哲生, 東野 文子, 宇野 正起
    セッションID: R4-P-17
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    東南極セール・ロンダーネ山地は,ゴンドワナ超大陸形成に伴う造山活動によって形成された高度変成岩類や貫入岩から構成される(Shiraishi, 1997 Antarctic Geol. Map Ser.).当山地を構成する変成岩類は,変成履歴および砕屑性ジルコンの年代分布によって北東テレーンと南西テレーンに区分されており,両テレーンはMain Tectonic Boundaryを境界として接していると考えられている(Osanai et al., 2013 Precambrian Res.).北東テレーンは時計回りの,南西テレーンは反時計回りのP-Tパスでそれぞれ特徴づけられ,650-600Maに北東テレーンが南西テレーンに衝上することで形成されたと考えられている(Osanai et al., 2013 同上).両テレーンには,グラニュライト相に達する変成条件の痕跡を残す岩石と,角閃岩相以下のピーク変成条件を示す岩石が分布している.これまで後者は前述の衝上運動時に地殻浅部にあったためにグラニュライト相変成作用を免れたと考えられてきたが,最近前者が後者の構造的上位に分布し,さらに両者のP-Tパスと変成年代が異なる例がブラットニーパネ地域で見いだされた(Adachi et al., 2020 NIPR sympo., 2021 JpGU).本研究では,ブラットニーパネ地域の東方に位置するメーニパ地域において,同様の関係性が認められるかを検証した.

     メーニパ地域は山地中央部に位置する露岩域であり,珪長質変成岩や泥質変成岩が分布し,全体として東西方向の走向と低角の傾斜を示す.本発表では,メーニパ地域において構造的上位に位置する泥質片麻岩2試料(ザクロ石-黒雲母-珪線石片麻岩(試料番号1302B)およびザクロ石-黒雲母片麻岩(1301B))と,構造的下位に分布するザクロ石-黒雲母片麻岩(1901A-1)の解析結果を示す.

     構造的上位に分布する1302Bはザクロ石,黒雲母,珪線石,斜長石,石英からなり,少量のルチル,燐灰石,ジルコン,モナズ石を含む.石英は離溶起源と考えられる多量の針状ルチルを含む.ザクロ石は核部から縁辺部にかけてMnが減少しMgが増加する明瞭な組成累帯構造を示す.さらにこの組成変化に伴って,包有物の鉱物組み合わせや鉱物組成が変化する.Mgが低い核部にはチタン鉄鉱,ルチル,斜長石(An=55-65)が含まれるが,Mgが高い縁辺部ではチタン鉄鉱が消失し,ルチルと斜長石(An=35-60)のみとなる.これらの変化は,

     チタン鉄鉱+灰長石+石英⇒鉄ばんザクロ石+灰ばんザクロ石+ルチル (1)

    の反応でザクロ石の縁辺部が形成されたことを示唆する.この反応はdP/dTが小さく,左辺側の鉱物組み合わせが低圧側に位置する反応である(Ghent&Stout, 1984)ため,この岩石が圧力上昇を経てピーク変成条件に達したことを示唆する.

    1301Bはザクロ石,黒雲母,斜長石,石英からなり,少量のチタン鉄鉱,燐灰石,ジルコン,モナズ石を含む.この試料でも石英は多量の針状ルチルを含む.ザクロ石は縁辺部やクラックに沿って細粒の斜長石や黒雲母に置換されることがある.またザクロ石はほぼ均質な組成を示すが,縁辺部でわずかにCaが増加する.

     構造的下位に分布する1901A-1は,ザクロ石,黒雲母,斜長石,微斜長石,石英からなり,少量のチタン鉄鉱,燐灰石,ジルコン,褐簾石を含む.この試料の石英は包有物を含まない.ザクロ石は縁辺部やクラックに沿って黒雲母に置換されることがあるが,全体的に後退変成作用の影響は軽微である.ザクロ石はほぼ均質な組成を示すが,縁辺部でCaが増加する.

     これらの岩石に,ザクロ石の縁辺部,マトリックスの黒雲母および斜長石の核部の化学組成を用いてザクロ石-黒雲母地質温度計(Holdaway, 2000 Am. Mineral.)およびザクロ石-黒雲母-斜長石-石英地質圧力計(Wu et al.,2004 J. Petrol.)を適用したところ,1302Bは730-790℃,8.1-9.9kbar,1301Bは800-840℃,10.3-11.3kbarを示すのに対し,1901A-1は720℃,8.0kbar程度を示す.

     見積もられた結果はピーク変成作用付近の条件であると考えられ,構造的上位に分布する岩石が下位の岩石より相対的に高い変成温度条件を示すように見える.また構造的下位の岩石は微斜長石を含み,石英中の離溶ルチルが認められないなど,構造的上位の岩石とは変成条件が異なることが記載岩石学的にも示唆される.これらのことは,ブラットニーパネ地域で認められたものと同様の地質学的関係がメーニパ地域にも分布する可能性を示唆する.

  • 石川 正弘
    セッションID: R4-P-18
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    地殻内部は深くなるにつれて温度が上昇し、ある深さを超えると固体のまま流動する。この深さより浅い部分は岩石の脆性破壊領域であり、断層運動によって地震が発生する。脆性塑性境界は高地温勾配の地域では相対的に浅くなり、低地温勾配の地域では深くなると期待される。また、脆性塑性境界の深さは構成岩石によっても影響を受けるであろう。脆性塑性境界の深さを推定するためには地殻内部の温度分布と構成岩石の分布を解明する必要がある。本研究では日本列島の地殻深部の温度を地震波速度から見積もり、脆性塑性境界の深さ分布を推定した。

    地殻深部相当の温度圧力条を高温高圧発生装置で再現して岩石や鉱物の弾性波速度を測定すると、P波速度(Vp)やS波速度(Vs)は岩石種と温度に大きく依存すること、一方、Vp/Vs比は温度依存性が極めて小さく、岩石種に大きく依存することがわかります。これらの特徴から二つのことが言える。まず、Vp/Vs構造から地殻を構成する岩石の分布を読み取れるということである。次に、Vp/Vs構造から同一岩石種が分布する領域の速度データを抽出することで、P波速度構造またはS波速度構造から温度成分を抽出することが可能である。

    本研究では、防災科学技術研究所の三次元地震波速度構造の地震波速度データから一定のVp/Vs比の領域の速度データを用いることで、地震波速度データから温度成分を抽出し、地下の温度分布、地温勾配、300℃の深度、脆性塑性境界深度を推定した。さらに、ここで推定した温度構造や脆性塑性境界深度と地震発生層下限を比較した。例えば、脊梁周辺や朝日山地周辺で脆性塑性境界の深さが浅く、日本海沿岸では深い傾向が読み取れ、大局的には地震発生層下限と類似した傾向を示した。日本海東縁の中新世リフト活動部位では地震発生層下限が深くなる傾向があるが、その理由は、地下の温度が低いことに加えて、上部地殻・下部地殻とも苦鉄質岩で構成されていることによると結論される。四国・中国・近畿地域については、深度15㎞の地震波速度データを使用して、温度構造と脆性塑性境界分布を求めた。その結果、300℃深度は中央構造線付近に沿って浅く、その北側と南側は300℃深度が深くなる特徴が読み取れた。脆性塑性境界深度の傾向は地震発生層下限分布と類似している。九州地域については深度15㎞のデータを使用して、温度構造と脆性塑性境界分布を求めた。鹿児島周辺や大分周辺では300℃深度や脆性塑性境界が浅く、地震発生層下限分布と傾向が類似している。

    地殻内部の温度構造は、マントルからの熱伝導と地殻内部の熱伝導と熱生成によって規制されているであろう。本発表では北海道南西部から九州にいたる日本列島の地殻内部の温度構造を推定し、マントルからの熱伝導、地殻内部の熱拡散、メルト・流体による熱移流、放射壊変熱が各地域でどのように温度構造に影響を及ぼしているのかについて議論を行う。

R5(ポスター)地域地質・地域層序・年代層序
  • 内野 隆之
    セッションID: R5-P-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    北上山地中西部に位置する根田茂帯は,かつては南部北上帯と北部北上帯を境する構造帯と考えられ,早池峰構造帯と呼ばれていた(例えば,吉田・片田,1964).しかし,21世紀に入り,岩相の特徴や泥岩より見出された放散虫化石から,根田茂帯に分布する地質体は前期石炭紀の付加体と考えられるようになった(内野ほか,2005;永広ほか,2005).この付加体は根田茂コンプレックスと定義され,更に岩相の違いから南西部の綱取ユニットと北東部の滝ノ沢ユニットに区分された(内野ほか,2008).滝ノ沢ユニットからは化石を含め年代が得られておらず,同ユニットは前期石炭紀根田茂コンプレックスの下位階層に属するものの,前期石炭紀とジュラ紀の付加体間に位置することから,ペルム紀付加体の可能性も指摘されていた(内野ほか,2008). 綱取ユニットは,泥岩珪長質凝灰岩互層,珪長質凝灰岩,玄武岩が卓越し,チャートや石灰岩,石英長石質砂岩をほとんど含まないことを特徴とする.滝ノ沢ユニットは綱取ユニットと似た岩相を示すが,層状チャートや石英長石質砂岩,砂岩泥岩互層を含んでくる.なお,両ユニットの分布域(根田茂帯)には,高圧変成岩の岩塊や南部北上帯基盤と考えられる蛇紋岩・角閃石斑れい岩・石英閃緑岩の岩塊が産する. 本公演では,滝ノ沢ユニットの珪長質凝灰岩2試料と砂岩3試料から得られたジルコンのU–Pb年代を報告する(一部は,内野・大藤,2014で発表).結果としては,前者からは前期ペルム紀の,後者からは後期ペルム紀~前期三畳紀の最若クラスター年代が得られた.珪長質凝灰岩の方が有意に古い値を示すが,本岩には砂岩が堆積した際の堆積同時性ジルコンが含まれなかったと解釈し,滝ノ沢ユニットの付加年代を前期三畳紀と判断した(Uchino, 2021). 日本列島において,前期三畳紀の付加体はほとんど知られておらず,同時代の付加体がマッパブルに示せるのは根田茂帯のみである.近年,四国黒瀬川帯の後期ペルム紀付加体(新改ユニット及び檜曽根ユニット)の砂岩から後期ペルム紀のみならず前期三畳紀の砕屑性ジルコンが見出され(Hara et al., 2018; Ohkawa et al., 2021),黒瀬川帯にも滝ノ沢ユニットと同様の年代の付加体が分布する可能性がある. 北上山地には南から南部北上帯の中古生代島弧陸棚層およびオルドビス紀~シルル紀火成岩基盤岩類,母体–松ヶ平帯の高圧変成岩,根田茂帯の前期石炭紀および前期三畳紀付加体,北部北上帯の前期ジュラ紀~最前期白亜紀付加体が分布する.また,釜石地域の北部北上帯南西端部では後期ペルム紀付加体の存在が指摘されている(Nakae and Kurihara, 2011).黒瀬川帯には,前期石炭紀付加体は認められていないが,それ以外は北上山地の地質体と同様の組み合わせを示している.今回の前期三畳紀付加体の認定は,磯﨑・丸山(1991)などによってかねてから指摘されていた東北日本と西南日本の対比について,よりサポートできる材料となった.また,データが少ない前期三畳紀の島弧海溝系テクトニクスについても貴重な情報をもたらすと考えられる.

    [引用文献]

    永広ほか(2005)日本の地質増補版編集委員会編,日本の地質増補版,49–50,共立出版.

    Hara et al. (2018) J. Asian Earth Sci., 151, 112–130. https://doi.org/10.1016/j.jseaes.2017.10.025

    磯﨑・丸山(1991)地学雑誌,100,697–761.https://doi.org/10.5026/jgeography.100.5_697

    Nakae and Kurihara (2011) Palaeoworld, 20, 146–157. https://doi.org/10.1016/j.palwor.2010.12.003

    Ohkawa et al. (2021) J. Asian Earth Sci., 212, 104724. https://doi.org/10.1016/j.jseaes.2021.104724

    Uchino (2021), Island Arc, 30, e12397. doi:10.1111/iar.12397

    内野・大藤(2014)日本地質学会第121年学術大会講演要旨.228.

    内野ほか(2005)地質雑,111, 249–252.https://doi.org/10.5575/geosoc.111.249

    内野ほか(2008)地質雑,114, S141–S157. https://doi.org/10.5575/geosoc.114.S141

    吉田・片田(1964)1/5万地質図幅「大槌・霞露岳」.

  • 吉川 敏之
    セッションID: R5-P-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    近年、地質図のデジタルトランスフォーメーションの進展や政府のSociety 5.0の提唱など、近い将来の地質図・地質情報利用をイメージする機会が格段に増えた。2021年3月に閣議決定された科学技術・イノベーション基本計画および2021年5月に経済産業省から公表された知的基盤整備計画では、サイバー空間に質の高い信頼できるデータを集積し、デジタルツインを構築することが謳われている。

     これからの少子高齢化社会では、今まで以上に専門家不足・予算減少が予想され、従来型の研究進展や社会サービスの維持は困難が予想される。しかし、地質学の場合はスクラップアンドビルドではなくデータ蓄積型の学問であり、デジタルツインを実現することにより研究成果やサービスの質的・量的低下を防止し、むしろ新たな学問や産業の活性化を促進できると期待される。ただし、サイバー空間へのデータ集約への具体的な取り組み例はまだなく、絵に描いた餅に過ぎない。

     筆者は、栃木県を例として、過去の地質図・地質情報 (位置情報をもつデータ) の集約を試みたので報告する。具体的には、GSJ発行の「栃木県シームレス地質図 (参考資料1、2)」を基に、過去のデータを集約した「栃木県シームレス地質図 第2版」を制作中である。地質図は細分が可能となり、岩石・化石等の試料採取地点や露頭観察地点、走向・傾斜等の各種点データ、リニアメントやルートマップ・柱状図作成位置等の各種線データも表示できるようになる。例として、図には高原火山から塩原カルデラ付近の新旧地質図の比較を示す。属性情報には必ず出典表記を含むようにしてあるので、検索等の手段を通じてオリジナルデータを参照すれば詳細な情報を確認できるよう配慮している。したがって、従来の地質図と比べると、地質情報の地理空間索引図(ポータル機能)の性格が強くなる。

     このほか、現在仮実装中の特徴としては以下のようなものがある。

    ・地質図の凡例は20万分の1日本シームレス地質図V2の凡例 (参考資料3)を基本とし、細分化された地質区分にも対応できるよう、層群・層・部層の属性も用意している。

    ・古い成果であっても、現地で確認した証拠であるオリジナルの点データ (岩石・化石等の試料採取地点、走向・傾斜データ等) は可能な限り採録している。

    ・断層データおよび走向・傾斜データは、それぞれ他の線データ・点データとは分け、独自のレイヤーにしている。このため断層および走向・傾斜に固有のスタイル設定が容易。

    ・ファイルはOGC標準のGeoPackage形式で作成しているので特別なソフトを必要とせず、一般的なGISで編集可能。

     現在、科学技術・イノベーション基本計画等ではオープンサイエンスとデータ駆動型研究の普及も推進されている。地質のデータといえば位置情報をもち、共有されることがスタンダードになる日も遠くないかも知れない。それら位置情報付きオープンデータを重ね合わせるのは一瞬である。そうすれば新しいデータを反映した地質図の更新も容易である。こうして多くの人が一部を分担することにより大きな成果物を完成させるしくみは、オープンソースソフトウェア等で既に実績がある。近い将来、様々な分野でデジタルツインが作られることが予想されるが、地質の分野でも最新・最良の地質図を構築・共有し、専門家や一般ユーザーでさえも広く改良・更新に貢献できるしくみが確立されることを期待したい。

    参考資料

    1: 特殊地質図41 栃木県シームレス地質図. 地質調査総合センター.

    https://www.gsj.jp/Map/JP/docs/misc_doc/misc_41.htm

    2: 吉川敏之 (2020) 栃木県シームレス地質図 ~新たな地質図の試み~. GSJ地質ニュース, vol. 9, 83-89.

    https://www.gsj.jp/data/gcn/gsj_cn_vol9.no4_p83-89.pdf

    3: 日本シームレス地質図V2凡例

    https://gbank.gsj.jp/seamless/v2/legend.html

  • 佐藤 大介, 脇田 浩二, 宮地 良典
    セッションID: R5-P-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    岡山県南東部の「和気」地域(行政区:岡山市,赤磐市,和気郡和気町,瀬戸内市,備前市)について,2015年から4年間実施した地質調査に基づき,5万分の1地質図幅を作成した.本地域の地質は,ペルム紀の舞鶴帯及び超丹波帯,ジュラ紀の丹波帯,後期白亜紀火山岩類及び貫入岩類,古第三紀の吉備層群及び第四紀堆積物から構成される.

     本地域の舞鶴帯は,苦鉄質岩を主体とし,砂岩及び泥岩を僅かに伴っている.これらの岩石からなる地層を,ペルム系舞鶴層群下部に対比にし,大盛山層と命名した.

     超丹波帯は,万富ユニット・江尻ユニット・虫明ユニットからなる.万富ユニットは,北側の舞鶴帯大盛山層と断層で接し,南側の江尻ユニットとも断層で接する.チャートを伴い,剥離性が強く発達している泥質混在岩からなる混在相が主体で,砂岩泥岩互層や塊状砂岩からなる整然相を伴う.江尻ユニットは,砂岩泥岩互層や塊状砂岩からなる整然相が主体で,泥質混在岩を僅かに伴うが,チャートは挟在しない.砂岩はしばしば緑がかった灰色を特徴的に呈する.虫明ユニットは,剥離性が発達していない泥質混在岩からなる混在相が主体で,砂岩泥岩互層や塊状砂岩からなる整然相を伴う.スランプ褶曲などの未固結時変形が顕著で,礫岩を伴う.チャートは挟在しない.放散虫化石及びジルコンU–Pb年代から,これらの堆積時期は中〜後期ペルム紀と推定される.

     丹波帯は,本地域北東端部と東端部に僅かに分布し,隣接図幅に連続する五石川ユニットからなる.剥離性の発達した泥質混在岩を主体とし,チャートの小岩体を挟有する.本地域北隣の「周匝」地域内で採取された砂岩中の砕屑性ジルコンのU–Pb年代は,前期ジュラ紀を示す[1].

     本地域の後期白亜紀火山岩類は,岡山県南東部から兵庫県南西部にかけて連続的に分布するものの一部で,主に陸上堆積の火砕流堆積物からなり,溶岩や湖成堆積物を伴う.分布,岩相,層序関係及び年代測定に基づいて,活動時期の古い方からシャシャ木山層,高砂山層,日生層,道々山層,和気層,鴨前層及び邑久層の7つに区分される.層序・貫入関係及びジルコンU–Pb年代から推定されるこれらの形成年代は95〜72 Maである.本地域の火山岩類について,各層の地層境界は下位層と高角で接するか地層境界に岩脈が貫入することが多く,火山地形を残してはいないが一部は当時のカルデラ(コールドロン)をなしていたと推定される.

     後期白亜紀貫入岩類は,分布,岩相,貫入・被覆関係から,四辻山花崗岩,長島花崗岩,操山花崗岩,仁堀花崗岩,百枝月石英閃緑岩,長船花崗岩及び妙見山花崗閃緑岩の7つの花崗岩類岩体と岩脈類に区分される.これらは,先白亜紀の岩石や後期白亜紀火山岩類に貫入するが,一部は火山岩類に覆われる.そこで,本地域の貫入岩類を貫入時期及び岩相から貫入岩類I,II,IIIの3つに大別した.貫入岩類Iは,後期白亜紀火山岩類及び花崗岩類に被覆又は貫入される岩体及びこれらと同時期と推定される岩体からなり,四辻山花崗岩,長島花崗岩,操山花崗岩及び仁堀花崗岩がこれに含まれる.貫入岩類IIは,貫入岩類Iを被覆する後期白亜紀火山岩類に貫入する岩体,貫入岩類Iに貫入する岩体及びこれらと同時期と推定される岩体で,百枝月石英閃緑岩,長船花崗岩及び妙見山花崗閃緑岩からなる.貫入岩類IIIは,岩脈類で貫入岩類I,IIに貫入し,一部は貫入岩類IIに貫かれる.

     吉備層群は,中国山地から瀬戸内海沿岸にかけて点在する礫岩主体の河川成堆積物のうち,吉備高原周辺に分布する礫岩層について命名された[2].吉備層群は,当時の谷地形を埋積する堆積盆ごとに地層区分されており,本地域の礫岩層は岡山県東部の吉井川と並行して南北数10 kmにわたり分布する周匝層[2]に属する.本層の岩石は,大規模な宅地造成により,露頭の多くが失われている.周匝層の堆積年代は,礫岩層に挟在する凝灰岩層から34.3 Ma(FT年代)[2]及び32.61 Ma(U–Pb年代)[3]のジルコン年代が報告されており,始新世末期〜漸新世初頭頃と考えられる.

     本地域の第四系は,後期更新世~完新世の扇状地堆積物と完新世の緩斜面堆積物及び沖積層からなる.沖積層は,吉井川などの河川沿いに分布し,層厚は本地域南西部で5~10 m程度である.

    引用文献

    [1] 佐藤・脇田(2021)地質学雑誌,127,245–250.

    [2] Sonehara et al. (2020) Scientific Reports, 10, doi: 10.1038/s41598-020-60448-x.

    [3] 鈴木ほか(2003)地学雑誌,112,35–49.

  • 岡部 一志, 堤 之恭, 鎌田 祥仁
    セッションID: R5-P-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    はじめに

     関東山地に分布するジュラ紀の付加体である北部秩父帯は,傾斜角度などの構造的な特徴から主部と南縁部に区分されてきた(例えば,大久保・堀口,1969).久田ほか(2016)は,蛇紋岩が欠如するといった黒瀬川帯との相違点を挙げながらも,南縁部が黒瀬川帯に属する可能性を指摘している.つまり北部秩父帯内における主部と南縁部の境界は,地質学的に大きな境界である可能性がある.

     南縁部の住居附ユニットはKamikawa et al. (1997)により構成岩の堆積年代が求められている一方,同じく南縁部を構成する蛇木ユニットからは,ジュラ紀前期を示す放散虫化石が数か所報告されているのみである(久田・岸田,1987;Kamikawa et. al., 1997;松岡ほか,1998).蛇木ユニットは,主部や南縁部の他のユニットと比較し,構成岩の年代報告が少なく,他のユニットとの比較やその境界の議論は不十分である.そこで本研究では,群馬県上野村から埼玉県小鹿野町にかけて分布する北部秩父帯蛇木ユニットを対象として,放散虫化石と砕屑性ジルコンのU-Pb年代を用いた構成岩の堆積年代の推定を行った.

    手法

     蛇木ユニット中の珪質頁岩 5 試料(久田・岸田,1987の珪質頁岩を含む)と,チャート 28 試料,頁岩 26 試料をフッ酸処理し,放散虫化石の抽出を試みた.

     砕屑性ジルコンは,蛇木ユニット中の砂岩 2 試料から分離し,国立科学博物館のLA-ICP-MSにより年代測定を行った.採取した試料はいずれも岩片の少ないアレナイトで,鉱物比(組成)が類似する.

    結果

     蛇木ユニット中の珪質頁岩 5 試料からは,Sinemurian~Pliensbachianを示す放散虫化石を得た.チャートの 4 試料からは三畳紀後期のCarnian~Norianを示す放散虫化石が,1 試料からはペルム紀後期を示す放散虫化石が得られた.頁岩からは放散虫化石を得られなかった.

     砕屑性ジルコンが示すU-Pb年代の結果は,2 試料とも約 230-280 Maのピークが顕著であった.また,最も若い単一粒子の年代はそれぞれ 223.4±3.5 Ma,230.4±2.9 Maであった.

    考察

     通常ジュラ紀付加体の構成岩から復元される海洋プレート層序では,砕屑岩の堆積年代は半遠洋性~遠洋性の堆積年代よりも若くなることが一般的である(例えば,脇田,1997).したがって,蛇木ユニットの砕屑岩類(砂岩や頁岩)の堆積年代は,Sinemurian以降と期待される.しかし,砂岩中の砕屑性ジルコンによって求められた年代は,放散虫化石によって求められた珪質頁岩の堆積年代よりも古い.

     中間ほか(2010)によると,日本列島では,400-520 Ma,210-280 Ma,160-190 Ma,90-110 Ma,60-80 Maの 5 回の断続的な花崗岩バソリス帯が形成された.蛇木ユニット中の砕屑性ジルコンに見られる 225-280 Maのピークは,このうち,210-280 Maの花崗岩バソリス帯の影響を受けたと考えられる.一方で蛇木ユニットの砂岩には 160-190 Maの粒子が全く含まれない.これは何らかの地形的バリアーの影響により蛇木ユニットに 160-190 Maを示す砕屑性ジルコンが堆積しなかったか,または,蛇木ユニットが 160-190 Maを示す砕屑性ジルコンが堆積する前に沈み込んだことが考えられる.

     今後は得られた構成岩の堆積年代とそれに基づき復元された海洋プレート層序を用いて,蛇木ユニットと同じく南縁部の住居附ユニット,主部の上吉田ユニット・柏木ユニットとを比較検討していく予定である.

    引用文献

    大久保・堀口(1969),5万分の1地質図幅「万場」.

    久田ほか(2016),地質学雑誌,122,325–342.

    Kamikawa et al. (1997), Sci. Rep. Inst. Geosci., Univ. Tsukuba Sec. B, 18, 19–38.

    久田・岸田(1987),地質学雑誌,93,521–523.

    松岡ほか(1998),地質学雑誌,104,634–653.

    脇田(1997),地球科学,51,300–301.

    中間ほか(2010),地学雑誌,119,1161–1172.

  • 鎌田 祥仁, 上迫 彬岳
    セッションID: R5-P-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    栃木県佐野市周辺はジュラ紀付加体の構成岩類が分布し足尾帯南部に相当する.当地域は馬蹄形に分布するペルム系玄武岩類−石灰岩を特徴とし,周辺には三畳系―ジュラ系のチャートー砕屑岩相が分布する.これらはユニット1〜3に区分され,ユニット1および3はチャートー砕屑岩相から,ユニット2はペルム系玄武岩−石灰岩からなり(鎌田,1997),後者のペルム系玄武岩類−石灰岩は海山相に相当する(例えば, Muto et al., 2021).ユニット2の最上部では石灰岩の裂罅を埋めるように,また石灰岩を覆うように重なる珪質頁岩が知られ,中期ジュラ紀放散虫が報告されている(指田ほか,1982など).最近演者らの調査において,ユニット2の中部で石灰岩および玄武岩類に挟まれた珪質頁岩および砂岩頁岩互層が確認され,珪質頁岩から放散虫化石を得られた.本発表ではその年代と産出意義について検討する.   調査地域は佐野市会沢町の住友大阪セメント(株)栃木工場唐沢鉱山で,鉱内には層序的下位から①苦灰岩質石灰岩(層厚50m以上)−②珪質頁岩(層厚約1m)−③砂岩泥岩互層(層約厚20m)−④凝灰岩(層約厚20m)−⑤層状石灰岩(層厚60m以上)が露出する.⑤層状石灰岩は④凝灰岩に整合に重なる.②珪質頁岩はやや凹凸のある面を覆うように重なり,粒径数cm〜10cm程度のレンズ状岩塊を含む.②−③,③−④は断層で接する.  最下位の苦灰岩質石灰岩は塊状,一部結晶質で化石片をほとんど含まない.珪質頁岩は暗緑色〜黒色で弱いへき開が発達する.薄片観察では細粒の石英や黒雲母片が極細粒の粘土鉱物の基質に含まれ,後述する放散虫化石を含んでいる.砂岩頁岩互層は破断し,泥質部にへき開面が発達する.砂質部は細粒で淘汰の良い石英アレナイトで,その岩相はユニット1の砂岩頁岩互層に類似している.凝灰岩は赤色・赤紫色の固結度の低い基質中に,様々な粒径(直径数cm〜数m)の玄武岩岩塊および少量の石灰岩岩塊も含む.最上位の層状石灰岩は単層の厚さ5〜20cm程度で成層した薄褐色・灰褐色石灰岩で,化石片を多数含む.  挟在する珪質頁岩からは,保存良好の放散虫化石が多数産出した.主要なものはStriatojaponocapsa plicarum Yao, Striatojaponocapsa synconexa O'Dogherty, Goričan and Dumitrica, Japonocapsa fusiformis Yaoなどで,Matsuoka and Ito (2019)によれば,ジュラ紀中世のStriatojaponocapsa plicarum 帯 (JR4)に相当し,その堆積年代はBajocian〜early Bathonianと推定される.  前述の各岩相の特徴から,①苦灰岩質石灰岩は羽鶴苦灰岩部層(藤本,1961)に,⑤層状石灰岩は山菅石灰岩部層(藤本,1961)に比較される.③砂岩泥岩互層の特徴は,ユニット1の砂岩泥岩互層(会沢層)に類似する.従ってペルム系石灰岩の間にジュラ系珪質頁岩および砂岩泥岩互層が挟在する.これまで羽鳥(1965)を始め,柳本(1973),猪郷ほか(1976),およびAono (1985)などでペルム系石灰岩に挟在する砕屑岩相が地質図に図示されている.しかしその層序関係や年代論は十分ではない.本研究で明らかになったジュラ系中部の珪質頁岩は,これまで石灰岩層の最上位に報告されていた放散虫を含む珪質頁岩に対比されるものであり,玄武岩類(出流層)-石灰岩層(鍋山層)-中部ジュラ系珪質頁岩から構成される海山相が構造的に重複していることを示すと考えられ,挟在する砕屑岩相と海山相の層序関係を明らかにすることは,ジュラ紀付加体における海山付加の様子を検討する上で重要と考えられる. 文献:Aono, H., 1985, Sci. Rep. Univ. Tsukuba, Sec. B (Geological Sciences), 6, 21-57. 藤本治義, 1961, 5万分の1地質図幅「栃木」同説明書, 地質調査所, 62p. 羽鳥晴文, 1965, 地質雑, 71, 247-256. 猪郷久治・青木利枝子・細井さちゑ, 1976), 東京学芸大学紀要,第4部門, 数学・自然科学, 28, 226-236. 鎌田祥仁, 1997, 地質雑, 103, 343-356. Matsuoka, A. and Ito, T., 2019, Sci. Rep., Niigata Univ. (Geology), no.34, 49‒57. Muto, S., Okumura, Y. and Mizuhara, T., 2021, Paleontological Research, 25, 105-119. 指田勝男・猪郷久治・猪郷久義ほか, 1982, 大阪微化石研究会誌, 特別号, 5, 51-66. 柳本 裕, 1973, 地質雑, 79, 441-451.

  • 西川 謙吾, 辻s 智大
    セッションID: R5-P-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    【はじめに】高知県北西部に位置する梼原町では西南日本外帯において最大級の蛇紋岩層が分布する.その中でも,本調査地域の田野々-横貝地域ではペルム紀からジュラ紀の付加体および白亜紀堆積岩類(香西ほか,1991)の幅広い年代の地層が複雑な構造運動を経て存在している.そのため,同地域に分布する蛇紋岩層の定置時期を制約するうえで適している.本調査地域はIshizaki(1962), 村田・前川(2013), 辻??(2014)などにより地質調査が行われている.これらの論文より,構造的な解釈はされているものの,蛇紋岩に注目した研究はされていない. また,秩父帯内および黒瀬川帯に属する地域での蛇紋岩は,九州ではペルム紀堆積岩類(有田ほか,2001),四国,関東では物部川層相当層の白亜紀堆積岩類中に蛇紋岩礫(土谷, 1982;久田・荒井, 1986;石田ほか, 1996)および不整合露頭が複数発見されている(平内ほか, 2006).これらの研究では蛇紋岩の定置時期は物部川相当層の堆積時期である前期白亜紀以前としてる.一方,同白亜紀堆積岩類を蛇紋岩が構造的に切っているという報告もある(甲藤ほか,1960;Hirauchi,2006).その中でも,(土谷 1982,平内ほか 2006)は複数回の蛇紋岩の定置イベントがあったとしている.

    【研究目的】本研究では蛇紋岩層と周辺地層の構造的関係を紐解くことより,調査地域での蛇紋岩の定置年代を制約することを目的とする.

    【研究手法】白亜紀堆積岩類を含む田野々層および太田戸層の分布域を含む東西5km×南北4km程度の範囲で地表踏査を実施した.具体的には,岩相,分布の把握,構造データの取得を行い,ルートマップ,地質図,地質断面図を作成した.また,試料採取,薄片観察により岩石鑑定,構成鉱物の同定を行った.特に,蛇紋岩の変形構造や断層が見られた場合には,剪断センスの決定を試みた.

    【地質概要】本調査地域を,北から南にかけて,混在岩主体であるUnitA,準片岩類主体のUnitB,白亜紀堆積岩類,混在岩主体であるUnitC, 鳥巣石灰岩が分布するUnitD,その南側のUnitEに区分した.また,白亜紀堆積岩類とUnitCとの境界に推定断層を設けた.

    【結果】地質調査の結果,東西方向に連続して続き,白亜紀堆積岩類を構造的に切るように分布する蛇紋岩と,蛇紋岩と礫岩の不整合露頭を発見した.不整合露頭は境界上部が礫岩,下部が蛇紋岩である.この境界では,礫岩が下位的構造である蛇紋岩を削剥するチャネル構造が見られた.礫種としては,砂岩,泥岩,チャート,蛇紋岩を含むマトリックスサポートであり,淘汰は悪い.角礫~亜円礫,1-3cmの礫,および,大礫も存在する.基質は細粒で暗灰色から明灰色を呈すものである.対して,蛇紋岩は複数のブロックを含む構造である.

     蛇紋岩の剪断センスとして,UnitAとの接合面では一概にTop to Southのスラストセンスを示し,不整合付近では,剪断センスは不揃いであるが,高角な南傾斜を示した.

    【考察】白亜紀堆積岩類を切るように蛇紋岩が分布していることから,蛇紋岩の定置時代は前期白亜紀以降と考えられる.一方,蛇紋岩と礫岩の不整合露頭からは,礫岩の形成年代を詳細に決定することにより,蛇紋岩の定置時代の特定が検討できる可能性がある.他地域同様,不整合露頭の分布としては,白亜紀堆積岩類の基底部付近であるため,蛇紋岩の定置時代は前期白亜紀以前と予察できるが,露頭観察の結果としては,別環境下で形成された可能性がある礫岩という結果を得たため,蛇紋岩の定置時代は現段階では不詳であるとしている.この礫岩の年代次第では,複数回の蛇紋岩の定置を考察している土谷(1982)と平内ほか(2006)の見解と類似した検討が可能である.さらに,その詳細な定置時代は本研究でより詳細に明らかになると思われる.

    引用文献

    有田ほか (2001) 地質学雑誌,107,749-754. 石田ほか (1996) 徳島大総合科学自然科学研究, 9, 23-47. Ishizaki (1962) Science reports of the Tohoku University, Second series. 134-136. 甲藤ほか (1960)  20万分の1高知県地質鉱産図及び同説明書. 香西ほか(1991) 高知大学学術研究報告, 40. 辻?? (2014) 愛媛大学大学院理工学研究科数理物質科, 博士論文. 土谷 (1982) 地質調査所月報, 33, 381-387.久田・荒井 (1986) 地質学雑誌.92, 391-394. 平内ほか (2006) 地質学雑誌, 112, 452-45.Hirauchi (2006) Island Arc, 15, 156–164.村田・前川 (2013) 徳島大学ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部,27 ,89-98 .

  • 上山 瑛梨佳, 吉田 孝紀, Lupker Maarten
    セッションID: R5-P-7
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    長野県松本盆地西部の梓川沿いには, 長径数メートル以上の巨大岩塊が複数分布している. 特に, 松本盆地の中央, 松本市梓川倭には長径約7メートルのチャート岩塊が定置しており, これは火打岩として知られている(原山ほか, 2009). また, 松本市波田には三ツ岩と呼ばれる長径約8メートルのチャート岩塊が位置している. どちらも美濃帯付加コンプレックスのチャートとされる (原山ほか, 2009). これらの岩塊の起源について, 基盤岩の高まりであるのか, または運搬された転石であるのか議論が続いている. 梓川村誌編さん委員会(1993)では火打岩について, 推定される河川流量では運搬されないほどの岩体の規模であることから基盤岩の高まりであると結論付けた. しかし, 地震による斜面崩壊や, 現在推定される流量を上回る洪水などを考慮した場合, 運搬された転石である可能性についても否定はできない. また, 三ツ岩についても基盤岩の高まりであるとされている(松本市特別天然記念物指定内容より)が, 明確な根拠は挙げられていない. 以上より, 本研究ではこれら二つの岩塊について, 基盤岩の高まりと転石の可能性を踏まえ起源を推定するため, 二つの岩塊の薄片観察に加え, 岩塊との比較のため梓川上流で採取した転石試料の薄片観察, エネルギー分散型X線分析, さらに宇宙線生成核種である10Beを用いた露出年代の測定を用いて検討を行った.

      チャート岩塊について薄片を作成し観察した結果, どちらもの岩塊も熱変成作用を受けていることがわかった. 火打岩では放散虫仮像の長径が大きく, 小型の放散虫仮像が消失していたが, 三ツ岩では大小さまざまな放散虫仮像が認められた. またEDS分析の結果, 火打岩の脈鉱物としてカリ長石が含まれていることがわかった. これらのことから火打岩は三ツ岩より高温の変質を受けたと考えられる.

      チャート岩塊との比較のため, 梓川において礫サイズのチャートの転石を3地点で採取し, 薄片を作成した. 鏡下観察の結果, これらの転石には変成鉱物として黒雲母や方解石, チタン酸化物が認められた. よって, これらのチャートの転石はより強い熱変成作用を受けているといえる.

      さらに, チャート岩塊が現在の地点に露出した年代を推定するため, 宇宙線生成核種による分析を行った. この測定は, 宇宙から降り注ぐ放射線が岩石や堆積物の表面と反応し作り出す宇宙線生成核種を測定するものである. 測定の結果, 火打岩では6.95±0.74(Ka), 三ツ岩では4.13±0.5(Ka)という年代が得られた.

      周辺の地質を考慮すると, チャート岩体に熱変成作用を与えたのは梓川上流に位置する奈川花崗岩体であると考えられる. しかし三ツ岩は火打岩より花崗岩に近いにもかかわらず, 高温の変質鉱物が出現することは説明できない. このことから, 二つの岩塊は, どちらも異地性の岩塊, 一方が異地性の岩塊である可能性がある.

      一方, 10Beが示す露出年代は4~7Kaと推定される. 青木(2000)は木曽山脈において最終氷期での地形形成を報告したが, これと比べても本研究での露出年代は有意に若いといえる. 基盤岩の高まりである場合, 最終氷期の下刻作用で露出しなかったこれらの岩塊が4~7Ka頃に, なんらかの浸食作用を受け露出したと考えられる. また異地性の岩塊である場合, 4~7Ka頃に長径数メートル以上の巨大岩塊を運搬するような大規模な斜面崩壊や重力流が生じたと考えられる.

    引用文献

    青木賢人, 2000, 10Be露出年代法を用いた氷成堆積物の形成年代の測定-木曽山脈北部, 千畳敷カール・濃ヶ池カールの事例-, 第四紀研究, 39(3) 189-198.

    梓川村誌編さん委員会, 1993, 梓川村誌 自然・民族編, 第1章 地形・地質, 7-54.

    原山 智・大塚 勉・酒井潤一・小坂共栄・駒澤正夫, 2009, 松本地域の地質 地域地質研究報告.  5万分の一地質図幅 金沢 (10) , 第46号NJ-53-6-3, 独立行政法人, 産業技術総合研究所, 地質調査総合センター.

  • 大藤 茂, 長田 充弘, 青山 正嗣, 原田 拓也, 久保見 幸, 坂東 晃紀, 杉山 潤, クディモフ アレクサンダー, アルヒポフ ミハ ...
    セッションID: R5-P-8
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    1.はじめに ケマ帯は,極東ロシア沿海地方~ハバロフスク地方の日本海側に位置し,前期白亜紀バレミアン期からアルビアン期の陸源堆積岩層より構成される.これらバレミアン~アプチアン階は,北海道の礼文-樺戸帯を含む,モネロン-サマルガ島弧系の背弧海盆の堆積岩層と位置付けられている(Malinovsky et al., 2005, 2008).筆者らは,2019年7月に,沿海地方ケマ川沿いの本帯の模式ルートを概査する機会を得て,採取した砂岩試料の砕屑性ジルコン年代分析を開始した.本発表では,その調査及び分析の概要を報告する.

    2.地質概説および試料 ケマ川沿いのケマ帯の地層は,概ね東西~北東走向で,大局的に南傾斜・南上位の構造をとる.調査した地層は,見かけ下位よりメアンドロフスカヤ層(Meandrovskaya Formation)とケムスカヤ層(Kemskaya Formation)に区分される(Malinovsky et al., 2005, 2008).岩相層序の詳細は,Malinovsky et al. (2005, 2008) に譲る.産出する二枚貝及びアンモナイト化石より,メアンドロフスカヤ層はバレミアン?~下部アプチアン階に,ケムスカヤ層は下部アプチアン~上部アルビアン階にそれぞれ対比される(Markevich et al., 2000 in Malinovsky et al., 2005, 2008).ケマ川沿いのメアンドロフスカヤ層から砂岩2試料(試料M1:45° 51' 56.5" N, 136° 49' 12.0" E;試料M2:45° 50' 55.8" N, 136° 48' 58.1" E),ケムスカヤ層下部層から砂岩1試料(試料K1:45° 47' 02.6" N, 136° 47' 29.2" E),およびケムスカヤ層上部層から砂岩1試料(試料K2:45° 40' 18.8" N, 136° 45' 46.7" E)をそれぞれ採取した.

    3.手法 採取した砂岩試料よりジルコンを抽出し,名古屋大学大学院環境学研究科設置のレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置(LA-ICPMS)でジルコンのU–Pb同位体分析を行った.測定したジルコン年代より算出した(206Pb/238U age)/(207Pb/235U age)値が0.9~1.1に収まるものをコンコーダント粒子と判断した.

    4.結果

    試料M1 ジルコン96粒子を分析し,内66粒子のデータをコンコーダントと判断した.320–176 Ma及び860–620 Maのジルコンが見られ,コンコーダント粒子の約75%が2600–1500 Maの年代となった.最若粒子の206Pb/238U年代(YSG)は176.1±5.1 Maであった.

    試料M2 ジルコン94粒子を分析し,内75粒子のデータをコンコーダントと判断した.コンコーダント粒子の約25%が260–170 Ma,約60%が2350–1500 Maとなった.また,300–100 Maのジルコンも見られた.YSGは170.1±4.8 Maであった.

    試料K1 ジルコン95粒子を分析し,内72粒子のデータをコンコーダントと判断した.コンコーダント粒子の約37%が280–116 Ma(150–100 Maはコンコーダント粒子の10%),約50%が2150–1500 Maとなった.また,1250–800 Ma,2300–2200 Ma,2500–2400 Maのジルコンも見られた.YSGは116.1±4.2 Maであった.

    試料K2 ジルコン119粒子を分析し,内86粒子のデータをコンコーダントと判断した.コンコーダント粒子の約45%が320–105 Ma(150–100 Maはコンコーダント粒子の6%),約37%が2150–1500 Maとなった.また,1520–480 Ma,2350–2200 Ma,3350–2650 Maのジルコンも見られた.YSGは105.3±2.5 Maであった.

    5.考察 今回の砕屑性ジルコン年代のYSGは,従来化石から推定されていた各層の時代に矛盾することはなく,ケマ川沿いの下部白亜系に付加体に見られるような逆転構造は今のところ検知されない.また,150–100 Maの砕屑性ジルコンの含有比率が10%以下だったことから,今のところ,礼文-樺戸帯を含むモネロン-サマルガ島弧系からの砕屑性ジルコンの供給は限定的だったと解釈している.

    引用文献 Malinovsky et al., 2005: Lithology Mineral Resour., 40, 429–447/Malinovsky et al., 2008: Isl. Arc, 17, 285–304/Markevich et al., 2000: Early Cretaceous Deposits in the Sikhote-Alin Region. Dalnauka (in Russian).

  • 古川 邦之, 谷 健一郎, 金丸 龍夫, 星 博幸
    セッションID: R5-P-9
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    はじめに

     本州における中期中新世の地層は、背弧海盆の拡大テクトニクスを明らかにする上で重要な鍵を握っている。そのため、それらの詳細な年代や堆積環境、地層の対比関係を明確にすることが求められる。中部地方には、中新統が広く分布しており、これまで多くの研究が行われてきた。しかし、地層間の対比についての検討は進んでいない。そこで本研究では、中新統、師崎層群の軽石を多く含む凝灰質砂岩と、年代的に近い瑞浪層群狭間層に分布する軽石火山礫凝灰岩の対比を火山ガラス組成、斜長石組成、U-Pb年代、古地磁気極性から試みた。

    地質概略

     愛知県、知多半島に分布する中新統の海成層である師崎層群は、下部より、日間賀層、豊浜層、山海層、内海層に分けられる (近藤・木村, 1987)。師崎層群はこれまで、凝灰岩中のジルコンのFT (土井, 1983)や珪藻化石 (伊藤ほか, 1999)により概ね16-18 Maの年代が得られている。本研究では、日間賀層と山海層下部から確認された軽石を多く含む凝灰質砂岩を対象とした。瑞浪層群狭間層は層厚10m以上の軽石火山礫凝灰岩で構成されており、17.8±0.4 MaのジルコンU-Pb年代が得られている (笹尾ほか, 2018)。これら3試料の斑晶は主に斜長石、石英、わずかに直方輝石、普通角閃石、黒雲母、Fe-Ti酸化鉱物、ジルコンから構成され、山海層下部ではガーネットも含まれる。またこれら3試料には炭化木が含まれる。

    火山ガラスおよび斜長石の組成分析結果

     EPMA分析には日本大学文理学部付設のEPMA(JXA-8800)を用いた。日間賀層の火山ガラスは変質により分析することができなかった。山海層下部と狭間層については、SiO2量は72-78 wt.% (分析値100wt.%換算)の範囲を示し、各主要元素のハーカー図では両層準は概ね単一の組成変化トレンドを形成する。斜長石斑晶組成については、日間賀層、山海層下部、狭間層の全てにおいてAn値が概ね25-65の間で変化する。またAn-FeO*図とAn-MgO図において、これら3試料は同じ組成範囲に含まれる。

    ジルコンのU-Pb年代

     ジルコンのU-Pb年代の分析には国立科学博物館付設のICPMS (Agilent 7700x)を用いた。日間賀層では4粒、山海層下部では7粒のジルコン粒子から17-18 Maの中期中新世の年代値が得られた。また後期白亜紀を示す年代が日間賀層では29粒、山海層下部では43粒のジルコン粒子から得られた。

    古地磁気極性

     狭間層および山海層下部ついては、古地磁気分析により逆帯磁を示すことが報告されている (Hayashida, 1986; Hiroki and Matsumoto, 1999)。本研究では、古地磁気極性が明らかでない日間賀層の古地磁気分析を高知コアセンターの超伝導磁力計により行った。その結果、日間賀島内の3サイトで逆帯磁を示すことが明らかとなった。

    議論

     以上の結果および先行研究から、これら3つの層準は全て古地磁気層序のC5Dr (18.007–17.533 Ma; Ogg, 2020)に対比されると考えられる。また3層準の火山ガラスおよび斜長石の組成範囲や鉱物組合せの類似から、瑞浪層群狭間層が師崎層群の後背地であったと考えられる。山海層のガーネットは、後期白亜紀の領家深成岩類から取り込まれたと解釈される。

    引用文献

    土井 (1983) 大阪微化石研究会誌, 10, 14-21. Hayashida (1986) Jour. Geomag. Geoelectr., 38, 295-310. Hiroki and Matsumoto (1999) Jour. Geol. Soc. Japan, 105, 87-107. 伊藤ほか (1999) 地質学雑誌, 105, 152-155. 近藤・木村(1987) 師崎地域の地質. Ogg (2020) Geologic Time Scale, Elsevier. 笹尾ほか (2018) 地質学雑誌, 124, 141-150

  • 河尻 清和, 柏木 健司
    セッションID: R5-P-10
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    はじめに

     関東平野西縁部には上部鮮新〜下部更新統の海成〜河成層が分布し,鮮新世以降の関東平野西部の地形発達史を考察する上で重要な鍵を握る.これらの地層のうち,中津層群は最も南に分布する海成層であり,伊豆-小笠原弧と本州弧の会合部の近くに位置するため,伊豆-小笠原弧北端部の衝突・付加過程の解明にも重要な役割を果たすと考えられる.演者らは中津層群の礫岩の後背地解析を進めてきたが(例えば,河尻・柏木,2012;河尻,2014),本発表ではこれまで得られたデータを再検討し,中津層群の後背地について考察する.

    地質概説

     中津層群は神奈川県中央部,相模川および中津川沿いにみられ,古第三紀の四万十累帯相模湖層群を不整合で覆い,後期更新世の段丘堆積物に不整合に覆われる.下位より,小沢層,神沢層,清水層,大塚層,塩田層に区分される(Ito, 1985).下部は礫岩を挟在する砂岩を主体とし,上位に向かって細粒となり,上部はパミスやスコリア質のテフラ層を頻繁に挟在する泥岩を主体とする.堆積年代は,石灰質ナンノ化石などにより後期鮮新世(岡田,1987;斉藤,1988),古地磁気層序より3.4〜1.8 Maとされている(植木,2007).

    礫種組成と主な礫の特徴

     本研究では小沢層と神沢層の礫岩について検討した.小沢層の礫種組成は砂岩(約62 %),チャート(約25 %),珪長質凝灰岩類(約9 %)で,礫岩,砂岩頁岩細互層,花崗斑岩,花崗岩質岩,石英脈岩,千枚岩,ホルンフェルスがごく少数認められる(河尻,2016).一方で,神沢層の礫種組成は砂岩(約65 %),粘板岩(約19 %),チャート(約9 %)で,礫岩,凝灰岩,流紋岩,珪岩が少数含まれる(長谷川ほか,1991).

     小沢層の砂岩礫は主に石英,斜長石,カリ長石,珪長質火山岩片により構成される.石英に富むグループと岩片に富むグループに分けられる(河尻,2014).小沢層のチャート礫からは,三畳紀中世Ladinian最前期,ジュラ紀中世Bajocian~Bathonian,および,ジュラ紀中世Callovian末~新世Oxfordianを示す放散虫化石が,神沢層の泥質チャート礫からは,ジュラ紀中世Callovian末~新世Oxfordianを示す放散虫化石が得られている(河尻・柏木,2012).珪長質凝灰岩には,二次鉱物としてセラドン石を含むものが認められ,また,火山ガラスは完全に石英化していないものが多い(河尻,2016).

    礫の後背地

     中津層群小沢層のチャート礫および神沢層の泥質チャート礫の供給源は,放散虫化石年代より秩父南帯斗賀野ユニットまたは三宝山ユニットと考えられる(河尻・柏木,2012).小沢層の砂岩礫のうち,石英に富むグループは秩父南帯もしくは四万十累帯相模湖層群から,岩片に富むグループは四万十累帯小河内層群または小仏層群より供給された可能性が高い(河尻,2014).一方で,中津層群に含まれる珪長質凝灰岩礫は完全に石英化していない火山ガラスやセラドン石を含む.このような珪長質凝灰岩は,伊豆-小笠原弧北端部の新第三系に認められる.また,ホルンフェルス礫と花崗岩質岩礫が少量含まれる.甲府盆地西方の甲斐駒ヶ岳岩体は3.3 Ma以降に急上昇したとされている(Watanabe et al., 2020).また,富士川流域の後期中新世の身延層には,砂岩礫,頁岩礫,花崗岩質岩礫が含まれ,関東山地から供給されたとされている(尾崎,2018).したがって、中津層群堆積時に甲府盆地周辺の花崗岩質岩体は露出していた可能性が高い.以上のことから,中津層群の後背地は四万十累帯と秩父南帯を主体とし,これらに貫入した深成岩および伊豆-小笠原弧北端部を一部に含んでいたと推定される.

    引用文献

    長谷川ほか, 1991, 神奈川県博調査研報(自然科学), No.6, 1-98. Ito, 1985, Jour. Geol. Soc. Japan, 91, 213-232.

    河尻, 2014, 相模原市博研報, No.22, 109-115.

    河尻, 2016, 相模原市博研報, No.24, 16-23.

    河尻・柏木, 2012,相模原市博研報, no. 20, 65-74.

    岡田, 1987, 化石, 43, 5-8.

    尾崎, 2018, 身延地域の地質. 地域地質研究報告(5万分の1地質図幅), 78-109.

    斉藤, 1988, 昭和62年度文部省科学研究報告書, 日本産海生哺乳類化石の研究, 140-148.

    植木, 2007, 日本第四紀学会演旨, 37, 66-67.

    Watanabe et al., 2020, Jour. Mineral. Petrol. Sci., 115, 276-285.

  • 佐藤 隆春
    セッションID: R5-P-11
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    紀伊半島の中新世火成岩類は半島南端の潮岬火成複合岩類[1]から北に,熊野酸性岩類[2],大峯花崗岩質岩[3],室生火砕流堆積物[4],二上層群[5, 6],および,奈良市春日山の地獄谷・春日山累層[7]など,各地に点在する[8, 9].これらの数値年代は15~13 Maの短期間に集中している[10など].また,層序,貫入関係および,岩石学的な特徴をもとに対比が進められてきた(Figure).ここでは層序対比を進めるうえで,広域テフラとして室生火砕流堆積物が位置づけられることと,火山岩に中奥火砕岩岩脈[11]との前後関係が明らかになったものがあることを述べる.

     室生火砕流堆積物は,基底部に含まれる異質岩片からジュラ紀付加体分布域に火道を形成した,大台カルデラ[12]が供給源の一つとして推定されている[13].中奥火砕岩岩脈は大台カルデラの噴出火道と位置づけられており[11],火砕岩岩脈と室生火砕流堆積物の基底部に含まれるアパタイトの微量元素の特徴が共通する[14]ことでも両者の対比は支持される.また,室生火砕流堆積物は玉手山凝灰岩,石仏凝灰岩に対比されている[15; 16など].

     中奥火砕岩岩脈は玄武岩‐流紋岩複合岩脈と玄武岩質単純岩脈(武木弧状岩脈群[12])に貫入される[17].一方,中奥火砕岩岩脈は壁岩を構成する砕屑岩の岩片ほかに,安山岩,玄武岩などの本質岩片が含まれる[18].また,火砕岩岩脈が珪長質岩脈に貫入する地点も認められる.さらに,大峯カルデラの南方では花崗岩岩体に火砕岩岩脈が貫入する[19].

     このように,玄武岩・安山岩質の火山活動は室生火砕流堆積物に対比されるテフラ(大台‐室生テフラ:Od-Mrと仮称)を挟んで,前後の2層準で認められる.

    引用文献:[1]三宅,1981,地質雑,87,383;[2]Miura, D., JVGR, 92, 300;[3]村田,1982,岩鉱,77,267;[4]西岡ほか,1998,地調図幅;[5] 森本ほか,1953,地球科学,11,1;[6]二上山地学研究会 ,1986,地球科学,40,89;[7]佐藤ほか,2013,大阪自然史博,67,27;[8]佐藤,1985,地団研専報,29,143;[ 9]和田・荒木,1997,奈良教大,46,1;[10]星ほか,2003,地質雑,109,139;[11]和田・岩野,2001,火山,46,107;[12]佐藤・大和大峯研究G,2006,地球科学,60,403;[13] 室生団研・八尾(2008)地球科学,62,97;[14]高嶋ほか,2016,地質学会123大会要旨;[15]横田ほか,地球科学,32,133;[16]新正ほか,2010,地質雑,116,447;[17]佐藤,2013,火山学会講演要旨,83;[18]和田ほか,2004,奈良教大自然環境,6,7;[19]和田・長澤,2008,月刊地球号外,60,91.

  • 楢崎 眞一郎, 林 広樹, 小田原 啓
    セッションID: R5-P-12
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    日本中央部の神奈川県西部から静岡県東部にかけての地域には,本州弧と伊豆-小笠原弧の衝突帯が位置しており,多くの活断層が分布する.このうち, 平山−松田北断層帯は, 神奈川県南足柄市から足柄上郡山北町,開成町,松田町,大井町にかけて分布する断層帯である.本断層帯が一つの区間として活動する場合,M6.8程度の地震が発生する可能性があるとされる.また,今後30年の間に地震が発生する確率が,日本の主な活断層の中ではやや高いグループに属する(地震調査委員会,2015).

    平山断層は,平山-松田北断層帯を構成する断層の一つであり,山崎(1971)により,神奈川県山北町平山の酒匂川右岸の露頭において最初に報告された.その後,Ito et al. (1987)は,平均垂直変位速度が約1 m/ky.であること,5回のイベントの年代と変位量を明らかにした.しかし,この平山の露頭以外では,運動像に制約を与えるようなデータが得られていない.一方で,天野ほか(1984)や今永(1987)は,平山断層南部の方がより変位量が大きいと推察しており,その詳細な実態について課題が残されている.

    本研究では,平山断層の南部が分布する南足柄市矢倉沢周辺地域にて地質調査を行い,その層序や地質構造及び平山断層南部の運動像を明らかにすることを目的とした.地質調査と試料分析より以下の結果を得た.1)南足柄市矢倉沢周辺における平山断層,定山断層,内川断層の位置を厳しく制約した.内川断層のすぐ北側には内川断層と調和的な軸面を有する背斜を認め,内川断層の活動に伴う断層関連褶曲と推定した.2)定山断層以南,狩川支沢に分布する足柄層群畑層における石灰質ナノ化石分析より,CN13b帯 (1.73~1.04 Ma)の年代が得られた.この結果は先行研究と比較すると,Imanaga (1999)の結果とは概ね調和的であるが,Huchon and Kitazato (1984)の結果(CN14a帯)よりやや古い.これは調査対象としたルートが異なることによる可能性がある.3)畑層上部でNonionellina labradoricaが卓越する上部漸深海帯の底生有孔虫群集を認めた.上位の塩沢層では,内側陸棚〜潮間帯を指標する貝化石 (松島,1982のLoc.7;Imanaga,1999のLoc.I)および生痕化石が産出するため,層厚との比較から,この地域では畑層から塩沢層にかけて堆積基盤が隆起に転じていたことが示唆された.

    謝辞:本研究は令和元年度箱根ジオパーク学術研究助成により実施された.島根大学 向吉秀樹博士には断層岩試料の処理及び観察方法をご教授いただいた.以上の関係する方々に御礼申し上げます.

    引用文献:天野ほか(1984),箱根古期外輪山を切る平山断層.地質雑,90, 849-852; Huchon and Kitazato (1984),Collision of the Izu block with central Japan during the Quaternary and geological evolution of the Ashigara area.Tectonophysics, 110, 201-210; 今永(1987),山北町日向付近の地質と地質構造.神奈川自然誌資料,8, 23-26; Imanaga (1999), Stratigraphy and Tectonics of the Ashigara Group in the Izu Collision Zone, Central Japan. 神奈川県博研報(自然科学)28, 73-106; Ito et al. (1987), Analytical method for evaluating superficial fault displacements in volcanic air fall deposits: case of the Hirayama Fault, south of Tanzawa Mountains, central Japan, since 21,500 years B.P. Jour. Geophys. Res., 92, 10683-10695; 地震調査委員会(2015), 塩沢断層帯・平山−松田北断層帯・国府津−松田断層帯(神縄・国府津−松田断層帯)の長期評価(第二版); 松島義章(1982),足柄層群中部・上部層の貝化石群集について.国立科学博専報,no15, 53-63; 山崎(1971),山北から洒水の滝へ.神奈川県地学のガイド,コロナ社,67-72.

  • 河西 夏美, 保柳 康一
    セッションID: R5-P-13
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    研究地域は新潟県長岡市南部の渋海川西岸に位置し,厚い第三系-第四系が分布する.この地域周辺には鮮新世から続く構造運動によって褶曲構造が形成されている.研究対象としたのは更新統の魚沼層群で,非海成層と海成層の繰り返しで形成され,シーケンス層序学を用いた考察に適している.本研究では魚沼層群における堆積システムの考察を行い,堆積シーケンスの設定とその広域対比から,堆積システムの変遷と海水準変動との関連を明らかにすることを目的とした.  

     野外調査によって岩相を21に区分し,11の堆積相を設定して堆積システムと堆積シーケンスを考察した.その結果,研究地域北部・中部・南部ではシステムの累重が異なり,北部では下位からデルタシステム,海岸平野システム,内湾環境・デルタシステムが累重し,中部では下位から海岸平野システム,内湾環境・デルタシステムが累重し,南部では下位に一部海岸平野システムが存在するが,主に内湾・河川システムが繰り返し累重することが示された.

     堆積システムの変遷と礫種・古流向に周辺地域の既存研究を参考にして古地理の復元を行った.これにより研究地域には2つの異なる給源をもつ河川が影響しており,北部では東から西へ前進するデルタシステムが,南部では南から北へ前進するデルタシステムがそれぞれ発達していることが示された.約1.7 Maにおいて,調査地域北部では西進するデルタによる埋積が行われ,中部は陸棚環境が優先的であり,南部には北進するデルタが活動していた.その後約1.3 Maから調査地域中部・北部が内湾化し,北部の西進するデルタと南部の北進するデルタの2つが同時に前進した.約1.1 Maからは,北進するデルタの影響が支配的となり,調査地域全域で河川システムが卓越して堆積盆の埋積が進んだ.

     研究地域において広範囲に追跡可能な不連続面をシーケンス境界(SB-1~SB-13)として,堆積シーケンスDS-1~DS14を設定した.これらの堆積シーケンスは火山灰鍵層・石灰質ナンノ化石の年代から第4オーダーの堆積シーケンスであると考えられる.また,SB-8は広範囲に分布する河川成堆積物の基底に位置する.

     次に汎世界的海水準変動の指標として用いられるLR04 stack(Lisiecki and Raymo,2005)とシーケンス境界との対比を行った.その結果,SB-1~SB-13は酸素同位体ステージ(MIS) 70,62,58,54,46,40,36,34,30,26,22,20,16の氷期に対応して形成され,それらの周期は約10万年であると考えられる.したがって,形成要因はミランコビッチサイクルによる氷河性海水準変動である可能性が高い.また,広範囲に礫層を形成するSB-8については,約1.1 Maからの長周期の寒冷化傾向への転換点に対応し,その形成は長周期の気候変動と調和的である.よってこれらを長周期の第3オーダー堆積シーケンスのシーケンス境界とした.

     以上より,堆積盆地を埋積した2つのデルタシステムは約1.7 Maまでの寒冷化傾向においては高海水準期から低海水準期の間に形成され,堆積空間の減少によって前進した.約1.7~1.3 Maの海進期にはデルタシステムは後退し,海岸平野システムやエスチュアリーシステムが卓越した.再び約1.1 Maからの寒冷化傾向によって高海水準期から低海水準期にかけてデルタシステムは前進し,堆積盆の埋積を進めたと考えられる.このような長周期的傾向は,数10万年から数100万年の第3オーダーの気候変動周期と一致する.

     さらに,本研究地域の北側に接続する保柳ほか(2000),研究地域南側とより南方を調査地域とした卜部ほか(1995),蒲原地域,北蒲原地域で設定された各堆積シーケンスと,本研究における堆積シーケンスを比較検討した.その結果,SB-8(約1.1 Ma)におけるシーケンス境界は参照した全ての地域で一致しており,広範囲で海水準が低下したことを示唆する.さらにSB-4(約1.57 Ma)においても広域での比較的良い一致を確認した.一方,約SB-3(1.65 Ma),SB-6(約1.3 Ma)のシーケンス境界は東頸城丘陵地域でのみ追跡可能である.SB-6については,境界上位の堆積環境が調査地域中部から北に隣接する保柳ほか(2000)の研究地域まで連続して内湾化することから,気候変動だけではなく,地域的な構造運動の影響を受けて形成された堆積シーケンスである可能性も考えられる.

    <文献>

    保柳ほか,2000,地球科学,54,393-404

    Lisiecki, L. E. and Raymo, M. E.,2005,Paleoceancgraphy,20.

    卜部ほか,1995,地質学論集,45,140-153

  • 安邊 啓明, 佐藤 活志
    セッションID: R5-P-14
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    フィリピン海プレートの沈み込み方向は3~1 Ma頃に転換したとされている.静岡県中部にはこの時期の前後の前弧海盆堆積物が連続して分布している.この地域に働いた古応力の変化を明らかにすることで,プレートの沈み込み方向の転換に伴って前弧海盆に働く応力がどのように変化するかを明らかにすることができる.Yamaji et al. (2003) は上部鮮新統~下部更新統掛川層群の小断層を利用して古応力解析を行い,2 Maに圧縮場からトランステンション場へ変化したとしている.しかし2 Ma以前の地層の小断層データが少なく,この時期に応力場が変化したとする根拠としては不十分である.また,Hirono (1998) は上部中新統~下部鮮新統相良層群,掛川層群および下部~中部更新統小笠層群の小断層を解析し,3.5 Maに北北西―南南東圧縮応力から西北西―東南東圧縮応力に変化したとしている.しかし解析に用いた手法は,複数の異なる応力下で形成された小断層群を想定していないため,意味のない応力が検出される,または応力の時空間変化を検出できない可能性がある.そこで本研究では,静岡県中部の後期中新世~鮮新世の古応力を明らかにするため,相良層群において小断層を測定し,最新の手法を用いて古応力解析を行った.

    相良層群には北東―南西方向の褶曲軸を持つ褶曲が多数発達している.本研究ではこれら褶曲のうち,相良層群分布域中部の向斜軸周辺と南部の褶曲群の周辺で小断層を測定した.各褶曲の両翼で地層は30~40°程度傾斜している.地層の傾動を補正すると最適応力の断層データへの適合度が小さくなることから,小断層は主に褶曲形成後に形成されたと考えられる.よって傾動補正を行わずに小断層を解析し,検出された応力を結果として用いる.中部では31条の小断層を測定し,北東―南西引張の正断層型・横ずれ断層型応力,および北西―南東引張の正断層型応力が検出された.南部では23条の小断層から,北西―南東圧縮の逆断層型応力および東西圧縮の逆断層型応力が検出された.

    中部で検出された北西―南東引張の正断層型応力は,掛川層群に記録された2 Ma以降の応力 (Yamaji et al., 2003) と類似している.σHmax軸が北西―南東方向の応力は,中部と南部の両地域で検出された.これらの応力の型は地域間で異なっているものの,σHmax軸の方向は褶曲構造と整合的である.また,この応力は掛川層群の2 Ma以降の地層では検出されないことから,掛川地域では2 Maより前にσHmax軸の方向が北西―南東から北東―南西に変化したと考えられる.

    参考文献

    Hirono, 1998, The Journal of the Geological Society of Japan, 104, 137-142.

    Yamaji, A., Sakai, T., Arai, K., Okamura, Y., 2003, Tectonophysics, 369, 103-120.

  • 近藤 広大, 保柳 康一
    セッションID: R5-P-15
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    はじめに:調査地域が位置する, 北部フォッサマグナ地域の層序については, 本間(1931)による標準層序の確立(下位より, 守屋層,内村層,別所層,青木層,小川層,柵層)以来, 多くの研究がなされてきた. 特に, 本地域に分布する小川層については, 大別すると2通りの層序区分がなされている. 加藤ほか(1989)に代表される層序区分では, 小川層相当層を下部と上部に区分し, 両者を整合関係で示した. これに対し, 中野ほか(2002)や関・保柳(2015)など, 近年の研究では, 卓越する岩相に基づき区分を行うことで, 小川層相当層を砂岩が卓越する岩相と泥岩が卓越する岩相の周期的な繰り返しからなるものとして表現した.

     しかし, いずれの層序区分においても, 小川層とその上位の柵層の境界は, 砂岩ないし礫岩といった粗粒な岩相(柵層権田砂岩礫岩部層)の出現をもって定義され, 両者は整合関係にあるとされてきた. 本研究では, 小川層で近年行われている岩相に基づく層序区分を取り入れ, 小川層–柵層境界付近を調査することで, 両者の層序的関係を再考察することを目的とする. また, 研究地域周辺の小川層–柵層境界付近では, 有効な年代指標は得られていない. そこで本研究ではシーケンス層序学の概念をもちいて同時間面を認定し, 両層の関係を明らかにする.

    研究手法:野外にてルートマップを作成し, 各沢柱状図, 対比柱状図, 地質図を作成した. 加えて, 岩相の累重様式や組み合わせ, その対比に基づき堆積相を認定, 堆積環境および堆積システム, 堆積シーケンスを考察した.

    岩相に基づく層序関係の再検討:小川層は, 関・保柳(2015)などの層序区分にならい, 主に砂岩からなる砂岩卓越部(千見砂岩部層)と, 泥岩ないし砂岩泥岩互層からなる泥岩卓越部(境ノ宮砂岩泥岩部層)に区分した. 小川層内では千見砂岩部層と境ノ宮砂岩泥岩部層が交互に繰り返し分布し, 柵層内では権田砂岩礫岩部層と高府泥岩部層が大規模な指交関係をなして分布する. 加えて, 小川層–柵層境界付近の岩相の詳細な追跡調査をおこない, 調査地域中部から北部にかけて, 小川層最上部を構成する境ノ宮砂岩泥岩部層と柵層最下部の権田砂岩礫岩部層が指交関係にあることが明らかとなった.

    堆積環境と堆積システム:地表踏査にて観察された岩相を29に区分し, それらの累重様式および遷移関係に基づき, 16の堆積相を認定した. その結果, 調査地域の小川層内では下位から, 陸棚斜面チャネル・ローブシステム, ファンデルタスロープに連続する粗粒タービダイトシステム, プロデルタタービダイトシステム, ファンデルタシステムが累重し, 最上部では外側陸棚相当のプロデルタ環境へと遷移する. 一方, 柵層では, ファンデルタシステム, プロデルタタービダイトシステム, ファンデルタシステムの順に累重する.

     上記の通り, 小川層–柵層境界付近の地層は, ファンデルタシステムによって堆積したと解釈される. このファンデルタシステムは砂岩相や礫岩相からなるデルタフロントと水中チャネル, それに連続し, 泥岩相および砂岩泥岩互層相からなるファンデルタスロープないしプロデルタから構成される. つまり, 柵層権田砂岩礫岩部層を特徴づける粗粒な岩相の堆積時にも, その沖側では小川層境ノ宮砂岩泥岩部層に相当する細粒な堆積物が堆積しており, ファンデルタシステムの前進–後退により前述のような岩相分布が形成されたと考えられる.

    シーケンス境界:堆積システムの変遷と各ルートでの観察結果から, 調査地域全域で追跡可能な4つの不連続面を見いだし,シーケンス境界とした. これらは地層累重の傾向や層序的位置から, 保柳ほか(1998)で高府向斜東翼地域を中心に広く追跡された, SB2~SB5に相当するものと考えられる. このうち, 小川層–柵層の境界付近に見られる不連続面はSB4に相当し, 調査地域南部から中部にかけて柵層の礫岩層の下底を通り, 北部では小川層境ノ宮砂岩泥岩部層中の炭質物を伴う砂岩泥岩互層と泥岩層との境界へと連続する. 加えて, その上位に認められる最大氾濫面は調査地域中部にかけて追跡される境ノ宮砂岩泥岩部層中に設定され, 南部に向かいより砂質な岩相へと漸移する傾向が認められることから, さらに南方では柵層相当の岩相へと漸移すると考えることができる. こうして, これら2枚の同時間面の連続性からも, 小川層–柵層の関係は同時異相の関係, すなわち指交関係にあることが示される.

    引用文献:本間, 1931, 信濃中部地質誌, 古今書院; 保柳ほか, 1998, 日本地質学会第105年学術大会見学旅行案内書, 143-164; 加藤ほか, 1989, 大町地域の地質 (1/5万地質図幅); 中野ほか, 2002, 白馬岳地域の地質 (1/5万地質図幅); 関・保柳, 2015, 地質学雑誌, 121, 279–292.

  • 亀尾 浩司, 桑野 太輔, 廣田 創己, 椙崎 翔太, 万徳 佳菜子, 久保田 好美
    セッションID: R5-P-16
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    地層の年代を決定するための「基準」として,さまざまな年代層序学的手法および年代学的手法が用いられていることは周知の通りであるが,化石,古地磁気,同位体および放射年代測定などのうち,どの手法に重点が置かれているかは取り扱う時代によって異なる(Gradstein et al., 2020).とくに白亜紀以降の年代決定に有効な石灰質ナノ化石では,東部赤道太平洋と赤道大西洋の深海底コア,そして地中海の陸上セクションを用いて評価された基準面がよく用いられる.しかしながら,そうした年代決定基準のすべてが汎世界的とは限らないので,それらの基準面を基本としながらも,対象とする地域における時間の物差しとなる年代尺度を確立する必要がある.ところが,本邦を含む北西太平洋地域ではそうした尺度を構築するために適切な深海堆積物もごくわずかで,基準面そのものの時間分解能が高いわけではない.そこで本研究では,房総半島の上総層群を用いて,千年もしくはそれより短い時間間隔という,高い時間分解能での年代層序学的解析を実施し,本邦を含む北西太平洋地域における詳細な年代決定を可能にする下部更新統の標準的な年代モデルを構築することを目的として,酸素同位体層序,石灰質ナノ化石と浮遊性有孔虫化石の検討を行っている.これまで我々の研究グループでは,上総層群国本層,梅ヶ瀬層,大田代層,黄和田層の一部分を研究対象とし,130万年前から80万年前を集中的に検討してきた.その結果,詳細な酸素同位体層序を年代モデルのリファランスとして設定し,それと石灰質ナノ化石基準面との対応を詳細に明らかにすることができたので報告する. 取り扱ったセクションはいずれも豊富に石灰質微化石を含み,詳しい年代層序学的検討が可能である.これまでに明らかにできた石灰質ナノ基準面と対応する同位体ステージ(MIS)は以下の通りである.

    Reticulofenestra asanoiの産出上限:梅ヶ瀬層上部,MIS 24(椙崎・亀尾, 2018)

    Gephyrocapsa parallelaの産出下限:大田代層上部,MIS 30(廣田ほか,2021;本研究)

    Large Gephyrocapsaの産出上限:黄和田層最上部,MIS 37(Kuwano et al., 2021)

    Helicosphaera selliiの産出上限:黄和田層上部,MIS 40(Kuwano et al., 2021)

    これらを年代値に換算すると,いずれも千年もしくはそれ以下の誤差範囲で化石基準面の年代を決定できるので,基準面は極めて高い時間決定精度を持つ.この結果は,佐藤ほか(1988),佐藤ほか(1999)辻ほか(2005)の結果をおおむねサポートするだけでなく,その精度をより高めたものとなった.また,下部—中部更新統の境界に設定された「千葉セクション」の検討結果によれば,Matuyama–Brunhes境界付近に中型(4 µm以上)のGephyrocapsa属の一時的な消滅という,新しいイベントが存在する可能性が示唆されている(Kameo et al., 2020).このイベントは現在型のGephyrocapsa属の出現と関係する可能性があるので,グローバルに追跡できるかどうかを検討する必要がある.さらに今後は,鮮新世型から更新世型の微化石タクサへの移り変わりの時期に相当し,現在型の海洋浮遊性生物の成立過程を明らかにする上で重要な時代であるにもかかわらず,十分な年代尺度が確立された例が極めて少ない130万年前から200万年前までの時代の検討が必要である.

    謝辞:本研究の一部に研究坑井JNOC TR-3号井の試料を利用した.独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構には同坑井の利用を許可していただいた.石油資源開発株式会社辻隆司氏にはコアの深度等についてご教示いただき,元日本天然ガス株式会社三田勲博士には試料の利用に関してご協力いただいた.以上の方々に深く謝意を表する次第である.

    文献:Gradstein et al., 2020, Geologic Time Scale 2020. 1357 pp., Elsevier. 廣田ほか,2021,日本地質学会第128年学術大会講演要旨. Kameo et al., 2020, Prog. Earth Planet. Sci., 7:36. https://doi.org/10.1186/s40645-020-00355-x Kuwano et al., 2021, Stratigraphy, 18, 103–121. 佐藤ほか,1988,石技誌,53,475–491. 佐藤ほか,1999,地球科学,53,265–274. 椙﨑翔太・亀尾浩司,2018.日本地質学会第125年学術大会講演要旨. 辻ほか,2005,地質学雑誌,111,1-20.

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