日本地質学会学術大会講演要旨
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第128学術大会(2021名古屋オンライン)
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R8(口頭)海洋地質
  • 菅沼 悠介, 羽田 裕貴, 板木 拓也, 石輪 健樹, 藤井 昌和, 加藤 悠爾, 大森 貴之, 天野 敦子, 岩井 雅夫, 西田 尚央, ...
    セッションID: R8-O-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    近年,衛星観測などによって南極氷床の融解や流出の加速が相次いで報告され,近い将来の急激な海水準上昇が社会的に強く懸念されている.最近の気候・氷床モデルシミュレーションによると,近年融解が加速している西南極氷床のみならず,西南極氷床より1桁大きな体積をもつ東南極氷床の一部も温暖化に敏感であることが指摘されている.しかし,南極氷床の質量収支は,氷床表面での涵養と消耗のみでなく,氷床沿岸でおきる棚氷の底面融解や氷床からの分離も含むため,そのメカニズムの理解と定量的な観測は容易ではなく,気候変動予測精度向上における課題となっている.一方,南極大陸やその周辺の海底堆積物は採取が困難であり,また断片的ではあるとはいえ,過去の南極氷床変動を復元するために極めて貴重な情報を提供する.こういった情報を集積・解析することで過去の気候変動に対する南極氷床の応答の復元できれば,南極氷床融解メカニズムの理解だけでなく,その知見を将来の気候変動の予測に利用することもできる.そこで我々は,砕氷船しらせによって東南極リュツォホルム湾から新たに採取された海底堆積物試料と,既存レガシーコアを解析・分析し,最終氷期における最大氷床拡大域と完新世におきた急激な東南極氷床融解過程の復元と,そのメカニズムについての考察を進めている.現状では海底堆積物の年代制約に課題があるものの,当該地域における氷床融解過程とそのメカニズムについて得られた新たな知見について報告する.

  • 瀬戸口 亮眞, 井尻 暁, 山形 武靖, 松崎 浩之, 萩野 恭子, 濱田 洋平, 多田井 修, 谷川 亘, 芦 寿一郎, 村山 雅史
    セッションID: R8-O-7
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    世界各地の大陸縁辺域に分布する泥火山は、地下深部にある高間隙水圧を持った堆積物が上昇し、海底表層または地表に噴出した地形である(Kopf, 2002)。高間隙水圧は、泥とそれに関する深部の水やメタンガスなどの流体によって形成される(Wallmann et al., 2006ほか)。 

     日本近海では、南海トラフ沿いに位置する紀伊半島沖熊野海盆と種子島沖に広く分布が確認されている。種子島沖の泥火山は、これまでの海底調査から15個確認されており(Ujiie et al., 2000)、MV#1~#15まで番号がつけられている。本研究では、MV#1 (30˚53´N, 131˚46´E; water depth: 1540 m)、MV#2 (30˚55´N, 131˚50´E; water depth: 1430 m)、MV#3 (31˚03´N, 131˚41´E; water depth: 1200 m)、MV#14 (30˚11´N, 131˚23´E; water depth: 1700 m) の堆積物コアを用いて、堆積物の特性と炭化水素ガスの起源などについて調べた。

     堆積物コアは、X線CTによる内部構造観察、加速器質量分析器を用いた10Be年代測定、石灰質ナノ化石による微化石年代、XRDによる鉱物組成分析、粘土鉱物組成比から堆積物の温度履歴を推定した。また、炭化水素ガスは、メタン/エタン比 (C1/C2)、メタンガスの炭素同位体比からその生成起源を推定した。 堆積物コアは、全体に多くの泥礫を含む粘土質の堆積物であった。MV#2、MV#3の微化石年代と10Be年代結果は整合的であり、様々な年代を示したが、主に中期中新世以降を示した。一方、MV#14は表層に第四紀の堆積物が被覆していた。種子島周辺には、始新世の四万十帯が分布しているが(Ujiie et al., 2000)、これらの泥火山堆積物の起源は、年代測定の結果から、四万十帯より上位の堆積層由来であると考えられる。堆積物の全岩鉱物組成は、全体的に石英、イライト、斜長石を多く含み、各泥火山による違いは見られなかった。粘土鉱物はイライトに富んでおり、スメクタイトからイライトへの脱水反応が起きる60~160℃の熱履歴を経験していると考えられる。粘土鉱物組成では、泥火山による違いが見られ、MV#1では、イライト/スメクタイト混合層が検出できたが、MV#2、3、14、では検出されなかった。MV#1では、回折パターンから見積もったイライト/スメクタイト混合層中のイライト含有量は42~45%であり、イライト化の初期段階を示す(60~100˚C)一方、MV#2、#3、#14ではMV#1より高温を経験しており、スメクタイトからイライトへと変質が進み、イライト/スメクタイト混合層のピークが検出できなかったと考えられる。また、陸上の四万十帯で報告されているイライトの半値幅(0.562 ~ 0.268)と、泥火山の堆積物の半値幅(0.7273 ~ 0.398)から、結晶度を比べた結果、全体的に四万十帯のイライトよりも、泥火山の堆積物のイライトの結晶度は低かった。このように、イライトの結晶度からも、泥火山の堆積物は、四万十帯より上位の堆積層由来であると推定される。また、温度履歴は異なるものの、XRD回折パターン、粘土鉱物組成、イライト含有量が各泥火山で類似していたことは、種子島沖における泥火山噴出堆積物の起源となる層が同じである可能性があり、Ijiri et al., 2018の結果と整合的であった。泥火山から採取されたメタンガスは、MV#1、MV#2、MV#3のメタンの炭素同位体比は-42 ~ -57‰、メタン/エタン濃度比(C1/C2比)は30~50であり、熱分解起源メタンの特徴を示した。一方、MV#14は、炭素同位体比は-57 ~ -77 ‰、C1/C2比は700~4000であり、微生物起源メタンの特徴を示した。この海域で観測されている地温勾配(25~50 ˚C/km)をもとに、熱分解ガスの生成条件 (> 80˚C)や堆積物の温度履歴を考慮すると、泥火山の噴出堆積物や炭化水素ガスは、海底下約1.5 km以深から上昇してきたと考えられる。

     現在、堆積物の温度履歴の推定をより正確に行うために、粘土鉱物組成分析に加え、ビトリナイト反射率を測定しており、その結果から、炭化水素ガスや水の起源深度との違いについても議論する予定である。

    引用文献

    Kopf (2002) Rev. Geophys., 40, 1005, doi: 10.1029/2000RG000093

    Ijiri et al., (2018) Geosciences, 8, 220

    Ujiie et al., (2000) Marine Geology, 163, 149–167

    Wallmann et al., (2006) Earth Planet. Sci. Lett., 248, 544–559.

  • 秋澤 紀克, 平野 直人, 町田 嗣樹, 石川 晃, 下田 玄, 安川 和孝, 松崎 賢史, 田村 千織, 金子 純二, 乗船者 一同
    セッションID: R8-O-8
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    プチスポット火山を作るマグマは、60 kmより深部で形成されたとされる(Machida et al., 2017 Nature Communications, 8, 14302)。そのマグマ生成の規模はホットスポットよりも小さく、マグマ生成に伴う熱的な擾乱が少ないことが期待される。そのため、プチスポットマグマが地表に運んでくるマントルのカケラであるマントル捕獲岩は、地球深部マントルの化学組成や流動様式に加えて熱状態に関する情報を引き出すのに適した研究対象であると言える。しかし、プチスポットで採取されるマントル捕獲岩はサイズが最も大きいもので数cm程度しかなく、採取される量も少ないため研究を遂行する上で非常に困難な状況であった。実際、これまでにプチスポットマントル捕獲岩を対象とした研究例は少なく、その現状打破が望まれていた。

    そこで、我々は2020年10月9-16日に実施されたYK20-14S次航海及び、2021年5月1-8日に実施されたYK 21-07S次航海の2つの航海を通してプチスポットマントル捕獲岩採取を試みた。 YK20-14S次航海では、Hirano et al. (2006: Science, 313, 1426–1428)でSite Aとされる日本海溝近辺のサイトでしんかい6500を用いた潜航を2回実施した(ダイブ番号:6K1564、6K1565)(図)。その結果、長径3 cm程の大きさに達するものを含めて数10個のマントル捕獲岩を採取することに成功した。また、YK 21-07S次航海では、Site Aより東、アウターライズ手前のSite Bでしんかい6500を用いた潜航を1回実施した(ダイブ番号:6K1586)(図)。その結果、やはり長径3 cmに達するものを含めて多くのマントル捕獲岩を採取することに成功した。

    現在、上記2つの研究航海で採取されたマントル捕獲岩を使用した研究を遂行している。今後、個々の研究成果が出てくると期待されるが、本発表ではその前段階として研究航海の概要とどのようなサンプルが採取されたのか紹介する。また、基本的な岩石記載・鉱物化学組成を合わせてプチスポットマントル捕獲岩の紹介を行う。

    図 プチスポットのサイトを示した地形図。Site AとSite Bで採取されたマントル捕獲岩を対象として発表を行う。

  • 山崎 俊嗣, 千代延 俊, 石塚 治, 田島 史郷, 宇都 巨貴, 高川 真一
    セッションID: R8-O-9
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    Reconstructing the history of Philippine Sea (PHS) plate motion is important for better understanding of the tectonics of the surrounding plates. It is generally considered that the PHS plate migrated northward since Eocene, but its rotation has not been constrained well; some reconstructions incorporated a large clockwise rotation but others did not. This is mainly because the difficulty of collecting oriented rocks from the mostly submerged PHS plate hindered establishing an apparent polar wander path. In this study, we conducted a paleomagnetic study of oriented cores taken using a ROV-based coring apparatus from the Hyuga Seamount on the northern part of the Kyushu-Palau Ridge, a remnant arc in the stable interior of the PHS plate. Stepwise thermal and alternating-field demagnetizations were applied to specimens taken successively from two ~30 cm long limestone cores of middle to late Oligocene age, and characteristic remanent magnetization directions could be isolated. Declination and inclination of D=51.5° and I=39.8°, respectively, were obtained as the mean of the two cores. The easterly-deflected declination means ~50° clockwise rotation of the PHS plate since middle to late Oligocene. In addition, ~5° northward shift of the site is estimated from the mean inclination. The result implies that the Kyushu-Palau Ridge was located to the west of the present position in middle to late Oligocene, and that PHS plate rotation as well as the Shikoku and Parece Vela Basin spreading contributed to the eastward migration of the Izu-Ogasawara (Bonin) Arc to the current position.

R9(口頭)堆積
  • 鈴川 真季, 川村 喜一郎, 中村 恭之, 藤江 剛
    セッションID: R9-O-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    はじめに

     底層流堆積物は,堆積速度が速く,高精度に古環境が記録されていると言われ,大西洋では底層流堆積物中の有孔虫を用いた古環境研究が盛んに行われている.一方,太平洋では底層流堆積物の報告例は少なく,古環境研究はほとんど行われていない (Rebesco, 2014など). しかし,日本近海では小笠原海溝~千島海溝に沿った南極底層水起源の底層流が報告されており (Owens and Warren, 2001など),このような観測結果は,これらの海溝に沿って底層流堆積物を堆積させていることを予見させる. 本研究では,北西太平洋で採取された深海底堆積物を用いて,様々な研究手法を実施した.また,地震波探査記録の検討も行った.結果,それらに底層流が記録されていると結論付けた.

     今後,

    1) 粒子組成解析結果に基づいた北西太平洋における堆積メカニズムの検討

    2) 火山灰分析による堆積物の年代測定と堆積速度の検討

    3) 微化石等を用いた酸素同位体測定による古環境の推定

    を目標とし,北西太平洋の底層流堆積物を用いた気候変動や底層流変動の総合的な解明を目指す.

    研究航海

     2018年9月1日~9月10日にかけにかけ行われた「白鳳丸」による学術研究航海KH-18-5で,4 mヒートフロー・ピストンコアラーシステムを用いて,千島海溝に沈み込むプレートの直上でPC01 (214.5 cm),PC02 (35 cm),PC03 (44 cm),PC04 (230 cm)と,それらに付随するパイロットコアPL01 (14 cm),PL03 (44.5 cm),PL04 (15 cm)が採取された.採取地点はいずれも水深5000 mを超える深海底である. また,同調査地域では,2009年6月19日~7月5日にかけて行われた「かいれい」よる学術研究航海KR09-06にて,マルチチャンネル地震波データKR09-06A2が取得されている.

    KH-18-5の研究航海で採取された試料の概要

     PC01は上層部 (0 – 35 cm)は砂質層,中層部~下層部 (35 – 214.5 cm)はシルト質粘土層で構成されており,パミス粒子に富むパミス優性層が7枚観察された.PC04は主に粘土で構成されており,上層部33 cm – 45 cmの層準で火山灰層が確認された.

    研究手法

     研究手法として,山口大学にて,スミアスライド観察,粒子組成解析,またEPMAによる火山ガラスの主成分化学分析が行われた.また,高知大学の海洋コア研究センターにて,X-Ray CT画像撮影,古地磁気測定,帯磁率・帯磁率異方性測定,またITRAXによる元素分析などが実施された.さらに,地震波データKR09-06A2を用いて,地震波探査記録の解釈が行われた.

    結果・考察

    1) PC01では,パミスに富んだパミス優性層が確認された.粒子組成解析,帯磁率,帯磁率異方性の結果に着目すると,パミス優性層に向かって帯磁率は上昇傾向に,帯磁率異方性 (P値・F値)が減少傾向にあった.以上の結果から,パミス優性層に向かって徐々にパミスの割合が上昇する「逆級化構造」があることが分かった.それは,底層流の流れが徐々に強くなったことを表していると考えた.

    2) 帯磁率異方性測定に基づいてステレオ投影図を作成した結果,はっきりとした粒子配列が示され,それは,Fujio and Yanagimoto (2005)に示される現在の底層流の流向と似ていた.

    3) 調査地域近海の地震波探査解析結果から,Rebesco (2014)などに示される「浸食トランケーション」という底層流堆積物特有の浸食構造が確認された.

     以上より,それらの堆積物に底層流が記録されていると結論付けた.

    引用文献

    Owens and Warren (2001) Deep circulation in the northwest corner of the Pacific Ocean. Deep Sea Research Part I, 48, 959-993.

    Rebesco et al (2014) Contourites and associated sediments controlled by deep-water circulation processes: State-of-the-art and future considerations. Marine geology, 352, 111-154.

    Fujio and Yanagimoto (2005) Deep current measurements at 38°N east of Japan, JOURNAL of GEOPHYSICAL RESEARCH, 110, C02010.

  • 田村 亨
    セッションID: R9-O-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    東南アジアのメコン河は6か国を流れ下る世界有数の国際河川である.流域では6000万人の人口を抱え,今後さらなる経済成長が見込まれる.メコン河最下流のメコンデルタでは,過去30年間に水力発電・灌漑を目的とした河川ダムや川砂採取などの影響による深刻な土砂不足で海岸侵食が発生し,2005年以降には面積が縮小を始めたとされている.完新世において年間約5平方kmの速度で拡大してきたメコンデルタでは面積の縮小は異常事態である.ただし海岸の堆積・侵食作用には空間的・時間的な多様性があり,そうした観点からの海岸侵食,およびその人間活動との関連についての検討は十分ではない.ここでは,地層・地形形成過程や詳細な年代測定をふまえ,これらの観点からのメコンデルタ海岸の堆積・侵食作用についての見解を述べる. メコンデルタは河川,潮汐,波浪の3つのプロセスがバランスよく作用するデルタの典型例と考えられているが,実際には場所によりプロセスの相対的な寄与が異なる. 分岐流路は潮汐-河川遷移帯であり,河口近傍の海岸は潮位変動の影響を受けた波浪と河川との相互作用,デルタ南西部のカマウ半島では波浪と潮流による南西への泥の沿岸漂流が卓越する.さらに,雨季に多量の土砂が河口に流出し乾季に北東の強い季節風が波向を変える,モンスーンの影響が顕著である.海岸侵食はこの複雑な海岸システムの中で均一に起こっているわけではない.砂の多い河口域では堆積量が減少してものの侵食傾向には至っていない一方,カマウ半島の泥質海岸は大幅に侵食されており,合計としてデルタ平野の面積の縮小が認められる. 河口域では,河口砂州が海岸の数km沖合に成長し,それを核として海岸線が不連続に移動する現象が200年から600年の周期で過去2500年間繰り返されてきた.これは,海岸の土砂収支の見積りには,海岸線のマッピングとデルタ平野面積の評価では不十分で,浅海底の測深調査も必要なことを示している.カマウ半島の大幅な侵食は過去100年間にわたって続いており,近年の流域での河川ダムや川砂採取ではなく,土地利用の変化や三角州での運河網の構築などの影響が考えられる.このように堆積・侵食作用の複雑さや長期的傾向をふまえると,メコンデルタの海岸侵食を最近30年間の人間活動に単純に結びつける従来の見解には大きな疑問が残る.その一方で,ダムの河川流量に対する影響はメコン河上流域の巨大ダムの完成により2012年以降に強まっており,また川砂採取による分岐流路の地形変化が塩水くさびの挙動や堆積物運搬に影響するなど,人間活動の影響は,むしろ今後加速することが予測される.こうしたことから継続的なモニタリングを行い,メコンデルタ海岸の堆積・侵食作用のさらなる理解に努める必要がある.

R10(口頭)炭酸塩岩の起源と地球環境
  • 小宮 剛
    セッションID: R10-O-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    炭酸塩岩は主に炭酸塩鉱物から構成される堆積岩で、顕生代においては炭酸塩骨格を形成する生物化石のホストや地球表層環境を記録する地球生命進化のアーカイブとして広く活用されている。一方で、初期地球では、大気の高CO2濃度ゆえに、海洋のpHも現在に比べ低いとされ、堆積成炭酸塩岩は形成されなかったとする考えも根強い。実際、西グリーンランド・イスア表成岩帯に産する炭酸塩岩は堆積成とする解釈もある一方で、玄武岩や超塩基性岩の炭酸塩岩化作用で生じた二次的なものであるという解釈が支配的であった。本発表では原太古代の三つの地質体に産する炭酸塩岩の産状や化学組成についてまとめ、初期地球の表層環境について言及するとともに今後の研究について触れたい。

     イスア表成岩帯は超塩基性岩、塩基性岩、チャート、炭酸塩岩、縞状鉄鉱層および砕屑性堆積岩から構成され、37〜38億年前に形成された付加体である。そこには、礫岩と互層するタイプや玄武岩質海洋地殻の最上部に見られるタイプなどの炭酸塩岩が存在することは知られていたが、堆積成であることを示す明白な指標がなかったために、その起源は不明確であった。しかし、2000年代末頃から、希土類元素パターンからイスア表成岩帯に化学沈殿岩由来の炭酸塩岩が存在することが示され、さらに、2016にはストロマトライト構造を持つ炭酸塩岩が存在することが報告され、炭酸塩岩研究が再び動き出した。私たちは炭酸塩岩に伴われる岩相をもとに、チャートと互層するタイプと礫岩と互層するタイプに分類し、付加体地質学に従い、前者を遠洋域、後者を大陸縁で堆積したと考えた。両者は化学沈殿岩由来の指標であるY異常をもつ。また、前者の方がより大きなEu正異常を持ち、熱水の特徴をより強く持つ一方で、後者の方がRb, Ba, Kなどの陸源の特徴が強くみられた。その化学的特徴は付加体地質学から推定される造構場と調和的である。

     ラブラドル北東部サグレック岩体の39億年前の表成岩帯にも炭酸塩岩が存在する。それらは、縞状鉄鉱層と玄武岩の間または泥質岩と互層して産し、それぞれ中央海嶺近辺と大陸縁で生じたと考えられる。それらはともにEu、YやUの正異常を持つが、前者の方がEu異常が大きく、Y異常が小さい。一般にUは酸化還元鋭敏元素の一つとされ、酸化的な陸上・海洋条件の時にThに比べて海洋中のU濃度が高くなるとされる。そのため、この結果は初期太古代においても完全な無酸素ではなく、UとThがデカップリングする程度には酸化的であったことを示す。そこで、当時の海洋のpHを5.8~6.3であったと仮定して、FeとUのpH-Eh図から当時の酸化還元状態を推定した結果、Ehは-0.1~0.0Vとなった。また、イスア表成岩帯とサグレック岩体に産する炭酸塩岩は現世の遠洋炭酸塩堆積物に比べて、Ni, V, Co, Znに富むことから、原太古代の海洋はこれらの元素に富んでいたと考えられる。加えて、これらの炭酸塩岩の化学組成のばらつきを、独立成分分析を用いて統計解析し、calcite、dolomite、珪化(SiO2)、砕屑性物質、鉄酸化物の構成成分に分離した。

     中太古代の玄武岩質海洋地殻では炭酸塩岩化や珪化が顕著に見られ、中央海嶺でのアルカリ性の熱水変成作用によると考えられている。一方で、緑色片岩相上部から角閃岩相以上の変成作用を受けた原太古代の地質体では、当時の方が大気CO2濃度がより高かったと推測されるのに、顕著な炭酸塩岩化の証拠は得られていないと言った矛盾があった。ところで、ヌブアギツック表成岩帯の苦鉄質岩はCaOに乏しく普通角閃石ではなく、カミングトン閃石に富むといった特徴を持ちその起源は明らかにされていなかった。ルチルや球状石英が多いといった鉱物学的特徴や主成分元素組成は中原生代で見られる炭酸塩岩化された玄武岩と類似することからこの苦鉄質岩は炭酸塩岩化された玄武岩が、その後より高度な変成作用を受けて脱炭酸したものであると考えられる。このことは、原太古代においても、アルカリ熱水変成作用は起きていたことを示す。

     最後に、私たちが現在行なっている研究を紹介する。一つは、炭酸塩岩の化学組成を用いた地球史を通じた古海洋組成の推定である。もう一つは、サグレックとヌブアギツック表成岩帯に産するチャート、炭酸塩岩、砕屑性堆積岩中の炭質物の全岩や局所微量元素および同位体分析である。後者の結果から、当時すでに生物が多様であったことが見えてきている。

  • 江﨑 洋一, 足立 奈津子, 劉 建波
    セッションID: R10-O-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    “カンブリア爆発”とオルドビス紀生物大放散(Great Ordovician Biodiversification Event: GOBE)は共に古生代前半に見られる生物の“放散現象”として知られている.前者は高次分類群での多様性で,後者は低次分類群での多様化で表現される場合が多い.相当する期間は,前者では前期から中期カンブリア紀であるのに対し,後者ではオルドビス紀全般に渡る.従って,両放散現象の関係を知るには後期カンブリア紀における生物相の情報が鍵になる.本発表では,北中国山東省に広く分布する炒米店層(芙蓉世[排碧期,江山期,第十期])の微生物岩の特性に注目する.

     微生物岩は炒米店層のとくに下部から中部にかけて発達し,典型的な「柱状・ドーム状ストロマトライト」の他に,「複雑に分岐する形状を示すストロマトライト(“maceriate microbialite”)」や「ドーム状スロンボライト」で特徴付けられる.微生物岩は巨視的には数十cmから数m規模のバイオハームやバイオストロームを形成する.微生物岩の本体部はしばしば強くドロマイト化作用を被っている.ストロマトライトのコラム部は,ミクライト部と骨針を欠くメッシュ状・バーミフォーム状の海綿組織部の互層,石灰質微生物のGirvanellaやミクライト質のクロッツから構成される.微生物岩の本体部間は,ミクライト,ペロイド状粒子,三葉虫の生砕片などで充填される.炒米店層では石灰質扁平礫岩が頻繁に認められるが,微生物岩が石灰質扁平礫岩を基盤として,その直上に形成される場合もある.炒米店層よりも下位の張夏層(後期鳥溜期〜前期古丈期)の微生物岩は,石灰質微生物であるEpiphytonが走光性を示しながら集合し,スロンボライトを形成する場合が多い.局所的に,骨針を有し外形が明瞭なanthaspidellid lithistid海綿(Rankenella)やカンブリア紀サンゴ類(Cambroctoconus)が豊富に産出する.部分的に形成されているストロマトライト中では,炒米店層と同様にミクライト部と海綿組織部が認められる.

     排碧期にはSteptoean positive carbon isotope excursion (SPICE)事変で代表される顕生累代の中でも最大規模の海洋無酸素事変が生じ,それに伴い大気中の酸素濃度が飛躍的に高くなっている.また,プランクトンの劇的な多様化(Plankton Revolution)が起きている(Saltzman et al., 2011).芙蓉世では無酸素および硫化(euxinic)条件の海洋環境が支配的であり(Gill et al., 2011),大型の造礁骨格生物がきわめて乏しい.現生海綿類の本体中には多種多様な微生物類が宿っており,海綿のみを対象にしてその生理的・代謝的な特性を議論することは困難である.カンブリア紀においても共存していた微生物類の活動による海綿本体の選択的な溶解や分解作用が,微生物岩を構成するミクライト,ペロイド状粒子,クロッツなどの生成と深く関与した可能性がある.その場合,ストロマトライト中のラミナ状組織の形成も「海綿と微生物類との共同体内での相互作用」の観点から調べていく必要がある.炒米店層の生物相は,還元環境下でも生息できる微生物類や骨格生物との関係から,張夏層とは別というよりも張夏層からの“生き残り”とも考えられる.炒米店層の生物相を“カンブリア爆発”による生物相の絶滅事変による結果と捉えるのか,GOBEの始まりと考えるのかは,今後,カンブリア紀からオルドビス紀にかけての生物相の放散現象の実態を考えていく際の鍵となる.

    引用文献

    Gill et al. (2011) Geochemical evidence for widespread euxinia in the later Cambrian ocean. Nature, 469, 80-83.

    Saltzman et al. (2011) Pulse of atmospheric oxygen during the late Cambrian. PNAS, 108, 10, 3876-3881.

  • 松田 博貴, 大塚 陸也
    セッションID: R10-O-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    沖縄県南大東島は,沖縄本島の東方約340kmに位置する隆起環礁からなる海洋島であり,地表および地下浅部(少なくとも深度約50mまで)には,中新〜更新統大東層が広く分布する.大東層は,サンゴ礁起源の石灰岩とドロマイトからなり,3つの堆積ユニット(下位から堆積ユニットI,IIならびにIII)で構成され,その堆積年代は9.5〜6.5Ma,6.5〜6.0Ma,6.0〜2.5Maである(島津ほか,2015;島津,2018).ドロマイトは,島東部と島東側縁辺部に広く分布し,地下浅部では堆積ユニット境界を横切って,下部ドロマイトと上部ドロマイトの2つのドロマイト層準が存在する.ドロマイトは,海水ドロマイト化作用により形成されており(橋本,2005),下部ドロマイトのドロマイト化年代は5.6〜4.8Ma(一部1.7Ma),上部ドロマイトは6.7〜6.3Ma,5.0〜4.2Ma,ならびに3.3〜2.4Maの複数のドロマイト化年代を示す(島津ほか,2015;島津,2018).大東層炭酸塩岩の岩石組織や貯留岩性状については,島津ほか(2018)により堆積ユニットIII中の上部ドロマイトの検討はなされているが,堆積ユニットI中の下部・上部ドロマイトについては未だ十分に検討されていない.

     そこで本研究では,下部・上部ドロマイトの岩石組織の層位的・地理的相違,ならびに貯留岩性状とその規制要因を明らかにするために,島東側縁辺部と島中央部で掘削された2本の試錐試料を用いて岩石組織の検討を実施した.前者は堆積ユニットIとIIIからなり,大部分が下部・上部ドロマイトで構成されるのに対し,後者は堆積ユニットI〜IIIの石灰岩からなり,堆積ユニットIの一部に下部ドロマイトが含まれる.これら試錐試料について,肉眼・薄片観察により岩石組織と続成作用の関係を明らかにするとともに,貯留岩性状の検討を行った.特に堆積年代とドロマイト化年代の関係と島内の地理的位置に着目し,異なる堆積ユニット間での上部ドロマイト,堆積ユニットI内での下部・上部ドロマイト,堆積ユニットI内での異なる初生岩質の下部ドロマイト,ならびに縁辺部と中央部の下部ドロマイト,という異なるセッティングにあるドロマイトの岩石組織について比較・検討した.

     検討の結果,ドロマイトのセッティングの違いにより岩石組織には,大きな相違があることが明らかとなった.島東側縁辺域では,堆積ユニットI・IIIいずれの上部ドロマイトも,初生堆積物の堆積からドロマイト化までの時間間隙がきわめて短いため,堆積物は顕著な淡水性続成作用を受けることなく,堆積時あるいは堆積直後の海水ドロマイト化作用により,アラレ石や高Mg方解石からなる生物遺骸粒子はドロマイト化されている.一方,堆積後2Ma程度経過した後にドロマイト化作用を受けた堆積ユニットIの下部ドロマイトでは,初生的に不安定炭酸塩鉱物からなる粒子の多くは,淡水性続成作用により低Mg方解石へと安定化し,現在も方解石として保存されており,ドロマイトの多くはセメントとして存在する.また堆積ユニットⅠの上部ドロマイトは,堆積ユニットIIIに比べドロマイトセメントが卓越し,緻密な貯留岩性状の悪いドロマイトとなっている.これは,堆積ユニットⅠでは初生堆積物のドロマイト化作用に加え,後の複数回のドロマイト化により過ドロマイト化作用が進んだと考えられる.

     一方,島中央部の堆積ユニットⅠの下部ドロマイトでは,初期の淡水性続成作用によりサンゴ等が溶脱した岩石組織が形成された後,自形ドロマイト結晶による結晶間孔隙が形成されており,これらは現在もよく保存されている.そのため縁辺部に比べて明らかに貯留岩性状は良好である.また,この組織は島中央部の地表に分布する堆積ユニットIIIの上部ドロマイトで認められる組織とほぼ同様であることから,ドロマイト化後,5Ma程度経ているにも関わらず,その後は続成作用による大きな組織の改変が起きていないことを示している.

    橋本直明,2005,海水ドロマイト化作用のメカニズム:沖縄県南大東島大東層を例に.熊本大学学位論文,130p.

    島津 崇,2018,新生代炭酸塩岩の貯留岩特性とそれに及ぼす近地表続成作用の影響-沖縄県南大東島大東層を例に―.熊本大学学位論文,179p.

    島津 崇・八木正彦・淺原良浩・峰田 純・松田博貴,2015,南大東島のサンゴ礁発達史.月刊地球,37,514-520.

    島津 崇・八木正彦・切明畑伸一・松田博貴,2018,新生代炭酸塩ビルドアップの孔隙システムと近地表続成作用の影響-沖縄県南大東島大東層の例-.石技誌,83,81-93.

  • 狩野 彰宏
    セッションID: R10-O-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    石筍は陸域古気候記録媒体として優れている。U-Th同位体による正確な年代モデルを基盤に,石筍の同位体・微量元素記録は過去50年間の気候変動を反映すると思われるパターンを提示してきた。中でも酸素同位体の記録は世界中から報告されており,氷期/間氷期のパターン,1000年スケール変動,北半球と南半球の対称性などが後期第四紀のモンスーン降水強度により説明されている。原理的には石筍方解石の酸素同位体比は滴下水の同位体比(降水の平均値に対応する)と温度(洞窟の場合,ほぼ年間平均気温に対応する)の2つに支配される。しかし,多くの研究では降水の酸素同位体比の変動が卓越すると解釈され,それに基づいて気候変動が論じられてきた。例えば,有名な南部中国の石筍酸素同位体記録は氷期/間氷期のサイクルで5‰ほどの振幅で変動し,東アジア夏季モンスーン (EASM) 強度の変動を示すと提案された。しかし,季節的に卓越するインドモンスーン降水の比率などの他の要因も指摘されている。

    これらの議論を検証するために,インドモンスーンの影響が無視できる日本列島の石筍記録は格好な題材と言える。広島・岐阜・三重県で採集された石筍は中国石筍と似た酸素同位体比の傾向を示すが,氷期/間氷期の変化幅は2‰ほどであり,中国よりもはるかに小さい(Shen et al., 2010; Mori et al., 2018)。また,過去8万年間の三重石筍の記録は海水酸素同位体と良く一致する点で特徴的である。これは三重の洞窟もたらされる降水のソースが太平洋の海水であることを考えると当然のことと言える。海水同位体の変動を差し引くと,三重石筍の変化は温度変化でほぼ説明がつき,中期完新世と最終氷期の温度差は9ºC,ハインリッヒイベントでの寒冷化の幅は3ºC以下と見積もられる (Mori et al., 2018)。すなわち,EASM強度は氷期/間氷期で変化しただろうが,日本の石筍記録にはあまり影響しなかったのだろう。また,海水準低下による氷期での東シナ海の陸化の影響も見逃せない。氷期では,中国の洞窟の大陸度(海岸線-水蒸気ソースからの距離)が増加し,レイリー分別により降水の酸素同位体比は増加したと思われ,これが氷期/間氷期コントラストの増加につながった。この効果は日本では小さかったと思われる。

    新潟県で採集された石筍も海水酸素同位体比の重要性を示す。洞窟がある糸魚川市では,日本海から供給された水蒸気が冬に大量の雪をもたらし,それが特異的な石筍記録に反映される (Sone et al., 2013)。最終氷期の極端に低い酸素同位体比は温度低下でも強まった東アジア冬季モンスーンでも説明がつかない。最もありえそうな要因は海洋堆積物からも指摘されている氷期における日本海表層海水の酸素同位体比の低下であり,太平洋の記録と比較すると,その低下幅は約3‰であった (Amekawa et al., 2021)。

    日本における石筍研究は端緒についたばかりである。酸素同位体比は全球的なシグナルを記録しているが,それは気温と海水の酸素同位体比の変化によるところが大きい。モンスーン強度の効果,すなわち「量的効果」は日本の石筍記録では疑わしく,中国の記録でも再評価されるべきであろう。今後は,炭酸凝集同位体温度計などを併用し,石筍酸素同位体比に対する水の同位体比と温度の効果を定量的に分離する試み (Kato et al., 2021),あるいは降水の酸素同位体比のデータを収集し,「量的効果」の強さを定量化することが大切になる。

    Amekawa, S. et al., 2021. Progress in Earth and Planetary Science, 8(1), 1-15.

    Kato, H. et al., 2021. Quaternary Science Reviews, 253, 106746

    Mori, T., et al. 2018. Quaternary Science Reviews, 192, 47-58.

    Shen, CC. et al., 2010. Quaternary Science Reviews, 29, 3327-3335.

    Sone, T. et al., 2013. Quaternary Science Reviews, 75, 150-160.

  • 白石 史人, 半澤 勇作, 中村 有希, 江野 友樹, 森川 朝世, de Mattos Rafael, 朝田 二郎, Cury Leona ...
    セッションID: R10-O-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    トラバーチンは温泉性の炭酸塩沈殿物であり,微生物岩や石油貯留岩のアナログとして注目されている.トラバーチン形成を制御する非生物的・生物的過程を明らかにするため,日本の8つの温泉(二股,古遠部,奥奥八九郎,入之波,木部谷,長湯,塩浸,妙見)において水化学分析,鉱物分析,微小電極測定,顕微鏡観察を行った.検討を行ったトラバーチン沈殿場にはしばしばシアノバクテリアが生息しており,それらの多くは結晶核形成に不適な非酸性EPSを持っているために高過飽和度条件であるにも関わらず石灰化しておらず,しばしば孔隙形成に寄与していた.トラバーチン表面を流れる水は,一般的に下流へ向かうCO2脱ガスによって炭酸化学平衡がシフトし,CaCO3飽和度が上昇していた.微小電極による実測からは,そのCaCO3飽和度上昇に起因して無機沈殿が起きていることが示された.しかしながら,トラバーチン表面に厚いシアノバクテリアマットを伴う試料では,水の化学組成が同じであってもより大規模な無機沈殿が起きており,これは恐らく微生物マットによる懸濁結晶のトラップによって結晶成長できる表面積が増大したためと考えられる.下流に向かうCO2脱ガスはまた,CaCO3飽和度昇に加えてCO2緩衝の低減を引き起こし,光合成誘導CaCO3沈殿に適した条件を作り出していた.しかしながら微小電極での実測では,そのような条件においても光合成誘導CaCO3沈殿の寄与は小さかった.これは光合成微生物の密度が必ずしも高くなく,また光合成による沈殿抑制も起きていることなどによるものと考えられる.本研究で検討を行った8つの温泉におけるCaCO3沈殿物形成への平均的寄与は,光合成誘導沈殿が16%,有機物の酸性官能基へのCa2+吸着が3%,非生物的沈殿が81%であり,このことはトラバーチン形成において非生物的過程が卓越していることを示している.トラバーチンの鉱物組成は,長湯温泉ではアラゴナイトのみ,木部谷温泉ではカルサイトのみ,それ以外ではアラゴナイトおよびカルサイトであった.アラゴナイトとカルサイトの相対的割合は,水のMg/Ca比や温度などよりもMg2+濃度およびSO42−濃度と強く相関しており,それらがトラバーチンにおけるCaCO3多形をコントロールする重要な要因であることが示唆される.

R11(口頭)石油・石炭地質学と有機地球化学
  • 荒戸 裕之, 山本 由弦, 山田 泰広, 千代延 俊, 白石 和也
    セッションID: R11-O-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    1.はじめに

     海底地すべりが誘発する地すべり津波には,近年,防災上の注意が喚起されており,その規模や伝搬様式の数値シミュレーションが進んでいるが,多くは単純な形状の滑動体を前提としている.これは,海底地すべり現象の堆積地質学的な報告例が僅少なことが一因である.地すべり津波の挙動を正しく予測するために,海底地すべりの発生機構や滑動様式を堆積地質学的に正確に把握する必要がある.そこで著者らは,日高沖の「静内海底地すべり堆積体(以下,静内SLS)」が海底面直下に分布し震探上の分解能もよくコア試料の採取にも有利な点に着目し,堆積地質学的に現実的で数値シミュレーションに適用し得る地すべりモデルの構築を目指している.

    2.静内SLSの特徴

     日高トラフを埋積する厚い砕屑物には,多数かつ大量の海底地すべり堆積体が含まれている[1, 2].三次元震探の解釈からは,供給源方向に基づき8系統の,少なくとも86の第四系滑動体が確認された[3].静内SLSは,静内系統のもっとも新しい地すべり滑動体である[4].同滑動体は北海道南部日高沖約40km,水深約1,000m前後の陸棚斜面に位置し,南西方向に滑動した形跡をもつ.ある特定の層理面をすべり面とし,厚さ〜150m,長さ40km以上,幅約12kmの規模を有する.外郭は同層準の非変形層と垂直で明瞭な境界面で接し,側壁は直線的,下流側の前面は弓状である.層厚は,頭部外郭部で厚く尾部へ向かって減少する.また,頭部中央部から尾部中軸部にかけて上面に中央凹陥をもつ[5]

     頭部は連続性の悪いスランプ褶曲で構成され,軸面は外郭側に傾倒し前面の弓状外壁と同心円をなす.滑動体内部の同心円状構造は,福島県沖の更新統でも観察される[6].尾部の反射面は不明瞭である.中央凹陥部で滑動体の層厚は薄いが,内部に残存ブロックを含む(図)[7]

    3.海底地すべり研究の試み

     海底地すべりは,構造傾動,堆積速度変化,相対海水準変動,メタンハイドレートの分解などが原因とされるが,主因を理解するためには「いつ,どこが,どのような速度で」滑動したかを特定する必要がある[8, 9].広い日高トラフ陸棚斜面のある一部に過ぎない静内SLSが滑動したことは,誘因が広域的であるにせよ弱層の存在が局所的であったためと,著者らはみている.しかし,こうした仮説を証明するためには,すべり面および同層準の滑らなかった面の岩相や物性の情報が不足している.

     一方で,隣接する浦河SLSを掘り抜いた試錐の堆積物試料からは,滑動体と下位の非滑動堆積物とに大きな岩相の差異は観察されない[3].これは,地すべりの範囲を決定づけるものが岩相やすべり面の物性の差は微視的なものでしかない可能性を示唆する.また,その滑動体基底面が産ガスを確認した区間直近に相当する[10]ことは,僅かな孔隙の差や炭化水素の存在も弱層に関係する可能性を示唆する.

     現在著者らは,静内SLS基底部のすべり面が,周囲の同層準の滑らなかった面となにがどのように異なるのか,新データ取得とその検討計画を策定中である.

    文献

    [1] 辻野・井上, 2012, 海洋地質図77; [2] Noda et al., 2013, Geochem. Geophy. Geosys.; [3] 小瀧MS, 2021, 秋大卒論; [4] Arato, 2019, JpGU Abst.; [5] 荒戸, 2018, 日本堆積学会要旨; [6] Arato and Martizzi, 2019, IAS Abst.; [7] 荒戸, 2019, 日本地質学会要旨; [8] Kawamura et al., 2014, Mar. Geol.; [9] 川村他, 2017, 地質雑; [10] 石油資源開発(株), 2020, 調査報告書.

  • 早稲田 周
    セッションID: R11-O-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    天然ガスの起源分類

    1960年代頃から天然ガスの炭素・水素同位体組成が測定され始めると,メタンの炭素同位体組成とC1/(C2+C3)との二成分図がバーナード図(Bernard et al., 1976)として微生物起源と熱分解起源の区別に使われるようになった。メタンの炭素同位体組成と水素同位体組成の二成分図も同様に広く使われている。この図では,微生物起源と熱分解起源の区別に加えて,微生物起源ガスの主要な生成経路である二酸化炭素還元と酢酸分解の二種類の区別に使われている。1980年代のドイツでは,熱分解起源ガスについてバーナード図上で起源有機物の種類(海洋有機物と陸源有機物)を区別できるとする報告がなされたが,現在では一般的に広く適用できる分類ではないことが明らかになっている。

     Milkov and Etiope (2018)はその時点までに公表されていた20,000試料を越えるデータを用いて,ガスの起源を以下の5つに大分類している:熱分解起源,微生物起源(CO2還元),微生物起源(酢酸分解),二次的微生物起源,非生物起源。個数としては熱分解起源が半数以上を占め,次に多いのが微生物起源(CO2還元)と二次的微生物起源である。二次的微生物起源については,主に2000年以降にその存在が認識されてきた分類である。詳細は次に述べる。

    二次的微生物起源ガス

    微生物起源ガスの多くは地層中の有機物が埋没して分解される過程で生成した二酸化炭素,水素,酢酸などを基にメタン生成菌がメタンを生成する過程でできる。一方,二次的微生物起源ガスとは油の生物分解(biodegradation)に伴ってメタン生成菌が作るガスである。油・ガスの貯留層中で油が生物分解を受けると二酸化炭素が生成する。メタン生成菌は生成した二酸化炭素を水素で還元することによってメタンを生成する。したがって,共存する油・ガスの組成には通常,生物分解の影響が認められる。また,貯留層中には油とともに熱分解起源ガスが共存していることが多いため,二次的微生物起源ガスは熱分解起源ガスと混合している場合が多い。

    シェールガス

    シェールガスの主要な起源は熱分解起源と,二次的微生物起源である(Milkov et al., 2020)。米国のMarcellus, Haynesville, Eagle Ford, BarnettやアルゼンチンのVaca Muerta,中国のWufeng-Longmaxiなど,経済的に最も成功しているシェールガスは熱分解起源である。特にMarcellus, Haynesvilleなどガスの埋蔵量が多いと推定されているシェールガスは熟成が進んだ(熟成後期の)ガスを主体とする。一方,米国のAntrim,New Albanyなどの二次的微生物起源に分類されるシェールガスは比較的埋蔵量が少ないものが多い。

    メタンのクランプト同位体

    近年ガスの生成深度(温度)に有力な情報をもたらすと期待されている技術の一つにメタンのクランプト同位体がある。一つの分子に重い同位体が二つ以上含まれる分子をクランプト同位体とよぶ。メタンの場合,CH4のCとHに13CとDが同時に入った13CH3Dが最も存在度の高いクランプト同位体である。重い同位体は高い結合エネルギーを持つため,凝集(Clumping)しやすい性質をもつ。生成時に分子内部での同位体平衡が成り立っていれば,メタンのクランプト同位体の存在度は生成温度の関数となり,起源を問わず生成温度を知ることができる。

     メタン・クランプト同位体のデータは2015年頃から公表され始めた。これまでの公表データをまとめたStolper et al.(2018)では,湖沼などの地表近くや牛の胃なで生成した微生物起源ガスの場合,クランプト同位体は異常な値を示し,温度を反映していないことが明らかになっている。一方,熱分解起源や地下深部の微生物起源ガスの場合は,想定される温度を示す場合が多い。この違いはメタンの生成速度が地表近くの環境では速いために同位体非平衡に,地下深部の環境では地質時間をかけてメタン生成が起こるために同位体平衡になりやすいことが指摘されている。

    引用文献

    Bernard et al. (1976) Earth Planet. Sci. Lett. 31, 48–54., Milkov and Etiope (2018) Org. Geochem. 125, 109-120., Milkov et al., (2020) Org. Geochem. 143, 103997., Stolper et al., (2018) Geol. Soc. London, Sp. Publ. 468, 23-52.

  • 千代延 俊, 佐久山 直起
    セッションID: R11-O-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    東京を中心とする関東地域では,都市部における地震災害に対応する防災の観点から,平野地下に厚く堆積する三浦層群や上総層群に相当する地層の分布や基盤構造が注目されている.本講演で対象とする両層群およびその相当層は房総半島のみならず,東京から埼玉一帯にかけて広く分布するものの,人口が密集する東京およびその近郊では地表に露出することはほとんどない.そのため,関東平野の地下地質を明らかにするには掘削調査が不可欠である.しかし,一般的に両層群相当層は層厚や岩相の側方変化が激しいため,掘削調査により得られたコア,カッティングスおよび物理検層記録による地層対比は困難である.したがって,微化石による詳細な坑井間対比が必要とされるが,掘削調査地点の偏りなどが原因で,広域における詳細な年代データに乏しい.これまでに千代延ほか(2007)により,石灰質ナンノ化石層序に基づいた東京都中央部の新第三系地下層序区分が明らかにされたが,やはり広域的な情報は少なく,三浦層群および上総層群相当層の平面的な分布形態や層厚変化を含めた三次元構造は明らかとなっていない.

    以上の点を踏まえ,講演者らは東京都大田区および神奈川県横浜市で温泉開発を目的に1000 m以上の掘削が行われている坑井試料の石灰質ナンノ化石を検討した.本講演では,神奈川県横浜市の二坑井(戸塚温泉井,瀬谷温泉井)および東京都大田区の一坑井(下丸子温泉井)の岩相層序と石灰質ナンノ化石層序の調査結果に基づいて,関東平野南部地域の堆積盆地埋積過程について報告する.

    岩相は,各坑井ともに全層準を通じて細粒〜極細粒砂岩および砂質シルト岩を主とし,礫岩および凝灰岩を豊富に含む.また,一部の深度で礫岩中に花崗岩が顕著に認められる.石灰質ナンノ化石層序結果は,これらの地層が房総半島に分布する安房層群(三浦層群相当)安野層から上総層群黄和田層に相当し,およそ1.2〜3.8 Maの年代を示した.堆積速度の検討からは,全層準を通じて明瞭な堆積間隙は認められず,全坑井において速度変化はあるものの連続的な累重が指摘された.また,関東平野南部の層厚の変化に注目すると,2.2から1.7 Maを境にして,堆積の中心が現在の神奈川地域(西部地域)から東京〜千葉地域(東部地域)へ大きく移動したことが明らかとなった.また,その変化パターンは西部から東部への前進的な堆積盆の埋積および陸化過程を表す.

    引用文献

    千代延俊・佐藤時幸・石川憲一・山﨑誠, 2007: 東京都中央部に掘削された温泉井の最上部新生界石灰質ナンノ化石層序. 地質雑, 113 (6), 223-232.

R12(口頭)岩石・鉱物の変形と反応
  • 纐纈 佑衣
    セッションID: R12-O-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    炭質物ラマン温度計とは,岩石中に含まれる炭質物をラマン分光分析し,スペクトル解析によって岩石が被った最高被熱温度を算出する手法のことである。炭質物ラマン温度計はBeyssac et al. (2002)によってはじめて提案された。この時は,適用温度範囲が330-650℃,誤差が±50℃であり,主に変成岩への適用に限られていた。その後,誤差を小さくするための新たな較正式の提案(Aoya et al., 2010)や,続成作用を被った堆積岩など,より低温領域へ拡張するための新たな手法の開発(e.g., Kouketsu et al., 2014; Lünsdorf et al., 2017)に加えて,隕石(e.g., Homma et al., 2015)や断層岩(e.g., Furuichi et al., 2015)に適用可能な手法など,様々な岩石を対象とした炭質物ラマン温度計が提案され,適用性の広がりを見せている。加えて,天然や合成実験試料をベースにして,炭質物が被った被熱時間を考慮した反応式(Mori et al., 2017; Nakamura et al., 2017)や,断層岩など瞬時の加熱を受けた場合の炭質物の応答実験(Kaneki & Hirono, 2018)など,被熱温度以外の情報が引き出せる可能性も検証されている。

     炭質物ラマン温度計は,2002年に提案されて以来,その簡便性と汎用性の高さから,岩石試料の温度を見積もるためのスタンダートな手法となり,多くの研究で活用されている。本発表では,炭質物ラマン温度計についてレビューを行うとともに,これまでの適用例について紹介する。また,今後の新たな展開の可能性についても検討してみたい。

    [引用文献]

    Aoya, M., Kouketsu, Y., Endo, S., Shimizu, H., Mizukami, T., Nakamura, D. & Wallis, S. (2010) Journal of Metamorphic Geology 28, 895–914.

    Beyssac, O., Goffe, B., Chopin, C. & Rouzaud, J.N. (2002) Journal of Metamorphic Geology 20, 858–871.

    Furuichi, H., Ujiie, K., Kouketsu, Y., Saito, T., Tsutsumi, A. & Wallis, S. (2015) Earth and Planetary Science Letters 424, 191–200.

    Homma, Y., Kouketsu, Y., Kagi, H., Mikouchi, T. & Yabuta, H. (2015) Journal of Mineralogical and Petrological Sciences 110, 276–282.

    Kaneki, S. & Hirono, T. (2018) Earth, Planets and Space 70, 92.

    Kouketsu, Y., Mizukami, T., Mori, H., Endo, S., Aoya, M., Hara, H., Nakamura, D. & Wallis, S. (2014) Island Arc 23, 33–50.

    Lünsdorf, N.K., Dunkl, I., Schmidt, B.C., Rantitsch, G. & von Eynatten, H. (2017) Geostandards and Geoanalytical Research 41, 593–612.

    Mori, H., Mori, N., Wallis, S., Westaway, R. & Annen, C. (2017) Journal of Metamorphic Geology 35, 165–180.

    Nakamura, Y., Yoshino, T. & Satish-Kumar, M. (2017) American Mineralogist 102, 135–148.

  • 加地 広美, 竹下 徹
    セッションID: R12-O-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    Many studies have recently shown that deformation bands develop in porous sandstones constituting fold and thrust belts. We have analyzed microstructures of deformation bands in one such fold and thrust belt consisting of the Middle Eocence Urahoro Group, eastern Hokkaido, northern Japan, which is typical forearc basin deposits. In the study area, the folds have a wavelength of c. 1-2 km, the axis of which trends NNE-SSW and plunges nearly horizontally, where the strata generally dip either east or west at moderate angles. However, there is one flexure in the eastern part of the study area, where deformation bands are pervasively developed only in the Shakubetsu Formation, which contains mudstones and coal layers other than sandstones. In the other parts of the Urahoro Group in the study area, only sandstones occur without the development of deformation bands. Deformation bands could have formed at the maximum burial depth around 1.5 km inferred from the thickness of overlying strata, which conforms to the one (1.5-2.5 km) inferred from the vitrinite reflectance values (%Ro) of the coal layers (c. 0.5) from the Shakubetsu Formation. The deformation bands are inferred to have originated as phyllosilicate bands, which developed into cataclastic bands with increasing strain in sandstones of the Shakubetsu Formation with up to c. 10 volume % of phyllosilicate. In the cataclastic bands, the detrital grains in host sandstones are crushed into the sizes less than a half to one third of the original one, and also abrased during the formation of deformation bands. The latter fact can be revealed by a higher circularity of grains as well as its higher dependence on grain size in the deformation bands than in the host parts.

  • 高橋 美紀, 岩崎 夏波, 一松 駿斗, 北村 真奈美, 上原 真一, 渡邊 了
    セッションID: R12-O-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
    会議録・要旨集 フリー

    地下深部の水の存在は地震波速度構造や比抵抗構造によって検知されている[1].では,その流体の経路や貯留を担う孔隙はどのような構造を持って岩石の中に収まっているのだろうか?高温・高圧の環境であっても,岩石の浸透率は高く10-14 m2もの値が保たれていることが地震活動や地震波の減衰の周期的な時間変化から推察されている[2].しかし10-14 m2もの高い浸透率は,多孔質砂岩のような岩石でなければ保てず,そのような多孔質の岩石が数10 kmもの地下深部に存在できるとは考えにくい.むしろ亀裂が流体の経路となっていると考えるほうが自然であろう.亀裂は固体地球内における水循環の経路として重要な役割を担う.また,流体の移動を妨げる帽岩との組み合わせにより,亀裂のネットワークは貯留層としての役割も担う.亀裂を通って上昇し貯留される水は地下深部の熱エネルギーを浅部へ運び熱資源としての価値を持つ.また地下深部の水は断層や地殻の強度を低下させると考えられている.このように,岩石中の亀裂の連結性の評価は,固体地球における水循環,熱資源としての利用,地殻の変形などを議論する上で重要である.この研究では岩石の各種物性と亀裂の分布の間の関係を明らかにするべく,熱クラックにより人工的に亀裂を生成させた稲田花崗岩試料を用意し,弾性波速度・電気伝導度等の各種物性との比較を試みる.要旨では主にCT画像から亀裂の連結性を定量評価する方法を述べるが,発表にて亀裂連結性と弾性波速度・電気伝導度との関係まで議論する予定である.

     稲田花崗岩は外径25.8mm長さ25mmの円柱に整形し,2℃/分の速度で550℃もしくは650℃まで昇温した炉の中で2時間放置後,氷水に投入することで生成した.また,亀裂生成前後で孔隙率の測定,弾性波速度の測定,マイクロフォーカスX線CT撮影による亀裂の分布の把握を行った.550℃に比べ650℃から急冷した試料ほど生成される孔隙率は増加し,それに伴い弾性波速度の低下が見られた.まず,CT画像の画像処理による亀裂連結性の定量評価を試みる.ここで重要なのが,8ビットグレースケールのCT画像から亀裂のみを,いかに正確かつ客観的に抽出できるようにするか,である.下記に主な画像処理の手順を示す.まず,石英粒子と思われる部分のみ抽出し,それらグレーレベルの平均値を試料ごとに算出後,基準とした試料の平均値との差をそれぞれの試料の画像に加えることで全試料のCT画像の色味をそろえた.次にFiji (ImageJ)のプラグイン,Trainable Weka Segmentation [3]を用い,CT画像から亀裂を抽出した.この手法は機械学習の手法を応用し,対象の分離を行うものである.この手法を用いるにあたって,最も亀裂が明瞭に観察できた稲田花崗岩試料のCT画像のごく一部を,亀裂とマトリックスに詳細に分離したデータを教師データとした.この分離により,probability map(亀裂と認識される確率が高いほど白色となる8ビットグレースケール画像)が作られる.このprobability mapを二値化し,亀裂の連結性を評価するための画像の用意ができたことになる.二値化における閾値の決定もまた,様々な手法があるが,ここではTextured Renyi entropy法[4] を用いた.亀裂のみ抽出した画像をスケルトン化し,1本の亀裂あたりに交差する他の亀裂の本数の平均値ξを計測する.亀裂連結の確率pとξの間にはp =ξ /(ξ+2)の関係が成立している[5].発表では,亀裂連結の確率pを求め,稲田花崗岩の弾性波速度・電気伝導度との関係から,亀裂連結の進行がバルク物性を急変させる閾値pcについて議論の予定である.

     

     本研究は 科研費基盤研究(C)「亀裂連結性の定量評価手法の開発と亀裂連結性が岩石の物性に与える影響(19K04047)」のサポートを受け実施されております.また,高知大学海洋コア総合研究センター共同利用(20A012, 20B010)の採択を受け,亀裂生成前後のX線CT画像の撮影には同センター共同利用機器Xradiaを,また孔隙率の測定にペンタピクノメーターを使用させていただきました.記して謝辞といたします.

    引用文献 1: Ogawa et al., 2001, GRL; 2:Nakajima and Uchida, 2018, Nature Geoscience; 3: Arganda-Carreras et al. 2017, Bioinformatics; 4: Sahoo and Arora, 2004, Pattern Recognition; 5: Hestir and Long, 1990, JGR.

  • 岩森 暁如, 牧田 陽行, 朝日 信孝, 野原 慎太郎, 高木 秀雄
    セッションID: R12-O-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    はじめに:Tsergo Ri地すべりは,ネパールのLangtang地域に分布する高ヒマラヤ変成岩類分布域で発生した世界最大規模の地すべりの1つであり,滑り面に沿ってシュードタキライトが形成している.Masch et al. (1985) は,地すべり岩塊の移動はWSW方向低角度 (18−30°),変位は水平方向に2,200m,垂直方向に650m以上としている.Takagi et al. (2007) は,露頭で採取したシュードタキライトの試料に含まれるジルコン粒を用いてフィッション・トラック年代測定を行い,地すべりの発生年代を51±13Kaとした.シュードタキライト中には数mm~最大数cm程度の扁平な気泡が多く含まれている.メルト中の気泡の3次元形態をもとにした変形について検討した例は火山岩マグマでの研究は知られているが(Manga et al., 1998;Ohashi et al.,2018など),シュードタキライトメルト中の気泡の変形について検討した例はほとんどない.本稿では,医療用X線CTを活用し,巨大山体崩壊時に形成したシュードタキライトに含まれる気泡の3次元分布状況を検討し,地すべり時の摩擦熱融解とその変形挙動について検討した.

    測定試料およびCT画像解析:今回観察に用いたシュードタキライトの定方位試料は,すべり面(露頭における測定値はN68˚W, 26˚S)に沿って生成された“断層脈”A-1(厚さ約10cm)と,すべり面から上方の地すべり岩塊に向かってほぼ鉛直に延びるパイプ状注入脈A-3 (厚さ約4cm)を用いた.CT画像の撮影は,電力中央研究所の医療用X線CTスキャナ (Aquilion Precision TSX-304A) を使用した.撮影条件は,スライス厚を0.25 mm,1ピクセルのサイズを0.098 mm (A-3)−0.130 mm (A-1) とした.

     CT画像解析は,A−1については水平断面における気泡の伸長方向を観察し,気泡のアスペクト比が最大となる長軸方向をすべり方向(S36˚W)として設定した.滑り面をXY面とした時のXZ面とYZ面における気泡のアスペクト比を測定し,気泡の三次元歪とZ軸方向の歪みの変化および長軸方向と滑り方向のなす角度の変化について検討した.注入脈A−3については,パイプの長軸方向に平行な面と断面に平行な面でスライスして気泡の配列を観察した.なお,いずれの断面においても1mm間隔でCT画像を取得した.

    結果:“断層脈”A-1のXZ断面のCT画像について検討した結果,試料縁辺部の気泡のアスペクト比は約3~13であるのに対し,試料中央部付近は約1~2.5と明瞭な差がある.また,気泡の長軸方向は定方位試料が示す地滑り面の傾斜18°SWに対して試料の上下で逆方向に傾斜して伸びている.このことから,シュードタキライト中の融解時の剪断歪は試料縁辺部で最も大きく,すべり方向の剪断流の流速は試料中央部付近で最も大きいことが示唆される.試料の縁辺部および中央部の代表的な気泡のフリンプロットによるk値は,変形が強い縁辺部(X/Z=11.6〜9.4)で8.9〜2.0であるのに対し,変形が弱い中部(X/Z=1.3)では0.15であった.従って,縁辺部の気泡の変形は偏長(一軸伸長)歪で特徴付けられる.また,縁辺部の上部と下部のどちらかで変形がより強いという傾向はみられない.

     注入パイプ試料A−3をCT画像で観察した結果,パイプを縦割りにした半分の部分のみに気泡が発達している.その部分では,パイプの軸に平行な鉛直断面では上下に延びた扁平な気泡が多く認められ,特に気泡のない部分との境界に近接する気泡のアスペクト比は大きい.一方,水平断面では,概ね円形に近い気泡が多く認められるが,気泡のない部分との境界に近接する領域ではアスペクト比の大きい気泡も認められた.

     以上より,A-1,A−3中の気泡は,地滑りが終了(上盤と下盤の相対速度がゼロ)し,シュードタキライトが冷却して固化するまでの間に発生した中央部と縁辺部との速度差に伴う単純剪断の痕跡を示すと考えられる.

    引用文献:

    Manga et al. (1998). Journal of Volcanology and Geothermal Research, 87, 15–28.

    Masch et al. (1985). Tectonophysics, 115, 131–160.

    Takagi et al. (2007). Journal of Asian Earth Sciences, 29, 466–472.

    Ohashi et al. (2018). Journal of Volcanology and Geothermal Research, 364, 59–75.

  • 西山 忠男
    セッションID: R12-O-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    地震断層の化石として知られるシュードタキライトは,地殻下部の岩石や上部マントルのカンラン岩から知られている.これまで知られている最も高圧下で形成されたシュードタキライトは,ノルウェー西海岸のエクロガイト中のもので,その圧力は1.9 GPaとされている.今回われわれは,九州西端の西彼杵変成岩から,ナノダイヤモンド集合体を含む超高圧シュードタキライト(黒色シュードタキライト様脈)を発見したので,その詳細を報告し,成因と地球科学的意義を議論する. 西彼杵変成岩は白亜紀の低温高圧型変成岩で,泥質砂質片岩を主体とし,少量の塩基性片岩ならびに蛇紋岩を伴う.また蛇紋岩メランジュの産状を呈する塩基性―超塩基性複合岩体が狭長な岩体として産し,ヒスイ輝石岩などの構造岩塊を伴う.問題の超高圧シュードタキライトは,西彼杵半島の北西海岸に狭く分布する雪浦メランジュ中に産する.雪浦メランジュでは,塊状蛇紋岩の一部に,泥質砂質片岩ならびに塩基性片岩が,大小さまざまの小岩体ならびにブロック(径2~5m大の構造岩塊)として含まれる.Nishiyama et al.(2020)は,雪浦メランジュの泥質片岩,クロミタイト(蛇紋岩中に産するもの)ならびに黒色シュードタキライト脈中からマイクロダイヤモンドの産出を報告し,この雪浦メランジュが超高圧変成岩であることを明らかにした. 雪浦メランジュの塊状蛇紋岩はアンチゴライト+マグネサイトの組み合わせを有し,石英・マグネサイト脈が発達する.塊状蛇紋岩の一部はこの石英・マグネサイト脈に沿って,塊状の石英炭酸塩岩(carbonated serpentinite)となっている.また同質の石英炭酸塩岩が構造岩塊として産し,その中に黒色シュードタキライト様脈が産する.石英・炭酸塩岩の鉱物組み合わせは石英+マグネサイト±ドロマイトで,少量の緑泥石,フェンジャイトを伴うことがある.黒色シュードタキライト様脈の鉱物組合わせは基本的に母岩の石英・炭酸塩岩と同じである. 黒色シュードタキライト様脈には,カタクラサイト様組織を示す部分と均質な極細粒組織を示す部分がある.どちらも分岐構造を示すが,ガラスは残存しておらず,樹枝状結晶なども見られない.しかし,一部に特異な球顆状構造を呈する組織が見られる.この球顆は直径1 mm前後でほとんど細粒の石英のみからなるものと,マグネサイトを中心とし,石英,ドロマイトを伴うものがある.後者の場合,マグネサイトが球顆の中心部にあり,周囲からドロマイトに置換されるような組織を示す.稀に方解石がマグネサイトと接して産する.この組織はメルトからの急冷組織と判断されるため,黒色シュードタキライト様脈は,溶融を経験した断層岩,シュードタキライトであると判断した.マグネサイトと石英の溶融条件は,Kakizawa et al.(2015)によれば,無水の場合,6 GPaと非常に高圧になる. 黒色シュードタキライト様脈にはマイクロダイヤモンドが含まれ,その生成条件は2.8 GPa以上と見積もられる(Nishiyama, et al., 2020).またわれわれは同じ黒色シュードタキライト脈からナノダイヤモンド集合体を見出した(大藤・西山,2019).ナノダイヤモンド集合体は径1~2 mm程度の矩形粒子としてアモルファス炭素中に産し,径5~30 nmのナノダイヤモンド粒子の集合体である.部分的にラメラ状の部位が認められ,ロンズデーライトの共存が確認された.これにより石墨からのマルテンサイト相転移が示唆される.固相相転移によるロンズデーライトの形成は合成実験では,1000 ℃,13 GPaで成功している. 黒色シュードタキライト脈中のみ見られる方解石とマグネサイトの共生は,ドロマイトの高圧下での分解(ドロマイト=アラゴナイト+マグネサイト)を示唆している.この方解石がアラゴナイトから転移したものであるとすれば,その形成条件は,450 ℃で5 GPa以上となる. 以上,3つの独立した証拠(マグネサイトと石英の融解,ナノダイヤモンドとロンズデーライトの存在,方解石とマグネサイトの共存)から,この黒色シュードタキライト様脈は超高圧条件(5 GPa以上)で形成されたと推論される.しかし,この圧力条件は周囲の母岩(メランジュ岩石)の圧力条件(2.8 GPa以上)に比べて,高圧すぎる.この圧力差は何を意味するのだろう.講演では tectonic overpressure modelにより説明を試みる. 引用文献 Kakizawa, S. et al. (2015) JMPS, 110, 179-188. Nishiyama, T., Ohfuji, H., and 11 others (2020) Sci. Rept., 10, 11645 大藤・西山(2019)鉱物科学会2019年年会講演要旨

  • 宇野 正起, 岡本 敦, 土屋 範芳
    セッションID: R12-O-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    地殻やマントルにおける加水反応や炭酸塩化反応は,数%から数十%もの体積膨張をともなうため,応力を発生し,岩石を破壊させ,反応を加速しうる(e.g., Jamtveit et al., 2000; Kelemen et al., 2011; Kelemen and Hirth, 2012).しかしながら,体積膨張は空隙を閉塞することで,流体流動を減少させ反応を阻害することもあり(e.g., Andreani et al., 2009; Peuble et al., 2018; Lisabeth et al., 2017),系の応答を予測することができないのが現状である.本研究では,体積膨張反応のアナログ物質として,十分に反応速度が早く,空隙率の低い焼結体の用意できるペリクレース(MgO)の加水反応をもちい,系の力学−水理学応答の支配要因を実験的に探索した.

     初期浸透率の異なる3種のペリクレース焼結体を用意し,流通式水熱反応実験を行い,反応に伴う浸透率変化を計測した.実験条件は温度200℃,封圧20 MPa, 上流流体圧5 MPaである.3種の出発物質の初期浸透率は,3 × 10−15, 4 × 10−17, および<10−19 m2であり,以下では「高透水」,「中透水」,「低透水」サンプルと呼ぶ.

     ペリクレース焼結体の力学−水理学応答は,主に初期浸透率に依存した.高透水サンプルでは浸透率が2桁以上減少したのに対して,低透水サンプルでは浸透率が3桁以上上昇した.これは体積膨張反応において浸透率が明確に上昇した初めての実験である.中透水サンプルは中間的な挙動を示し,浸透率が一旦2桁減少した後に2桁上昇した.

     浸透率が減少したサンプルでは反応が均質に進行して,空隙が閉塞していたのに対して,浸透率が上昇したサンプルでは反応が不均質に進行し,階層的に破壊が生じていた.こうしたサンプルごとの反応の不均質性を理解するために,「流体供給の速度」/「反応によるH2Oの消費速度」の比(Ψ)を計算してみると,高透水サンプルで40–400,中透水サンプルで0.7–3.0, 低透水サンプルで1–4 × 10−2であった.すなわち,高透水サンプルでは水の浸透が反応よりも十分早いのに対して,低透水サンプルでは水の浸透が遅く,空隙に到達した水が逐次反応していることを示す.以上より,流体供給速度/反応速度比Ψが,体積膨張反応における力学―水理学応答に大きな影響を及ぼすことが分かった.

     こうしたΨと反応による破壊の関係は,Shimizu & Okamoto (2016)の個別要素法(DEM)による数値シミュレーションの結果と整合的であり,初期浸透率の高い既存の蛇紋岩化やかんらん岩の炭酸塩化の実験では浸透率が上昇しないことを説明することができる.一方,天然のかんらん岩においては,多くの条件で反応速度≫流体供給速度となり,天然の蛇紋岩化やかんらん岩の炭酸塩岩化における亀裂生成を説明することができる.

     以上より,本研究では,体積膨張反応において初めて,明確に浸透率が上昇しうることを示した.これらの反応を加速させるためには,非常に早い反応速度と低い空隙連結性により,局所的な応力擾乱を生じさせることが必須であり,その場合,階層的な岩石破壊により流体流れが加速度的に増加することが期待される.以上の知見は,リソスフェアの加水化や炭酸塩化のメカニズム,鉱物炭酸塩化による二酸化炭素地層貯留の加速化,粘土鉱物による断層の弱化の制御など,様々な岩石−流体反応の理解や制御に役立つと考えられる.

    【引用文献】

    Andreani, M., et al. (2009) Environ. Sci. Technol. 43, 1226–1231.

    Jamtveit, B., et al. (2000) Nature 408, 75–78.

    Kelemen, P.B., Hirth, G. (2012) Earth Planet. Sci. Lett. 345–348, 81–89.

    Kelemen, P.B., et al. (2011) Annu. Rev. Earth Planet. Sci. 39, 545–576.

    Lisabeth, H.P., et al. (2017) Earth Planet. Sci. Lett. 474, 355–367.

    Peuble, S., et al. (2018) Chem. Geol. 476, 150–160.

    Shimizu, H., Okamoto, A. (2016) Contrib. to Mineral. Petrol. 171, 1–18.

  • 永冶 方敬, ウォリス サイモン
    セッションID: R12-O-7
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    沈み込み帯の熱モデリングから、火山弧の長期的な火成活動を説明するためには、沈み込むスラブとウェッジマントル間のカップリング(固着)に誘起されたマントル流動が必要であることを示されている。またこの固着深度は、多くの活動的な沈み込み帯で同様の値を取り、70-80kmとされている。これは、固着深度が沈み込むプレートの年齢など温度構造に依存していないことを意味し、その理由は沈み込み帯のダイナミクスを理解する上で重要な未解決問題となっている。この深度では、ウェッジマントルに主にアンチゴライトからなる蛇紋岩が存在していると考えられている。そのため、ウェッジマントルにおけるアンチゴライトの変形メカニズムを明らかにすることは、1) 沈み込み帯の浅部含水マントル領域のレオロジー特性の解明、2) 熱モデリングによって予想されるプレート間固着深度の物質学的な理解につながると考えられる。本研究では、ウェッジマントルにおける蛇紋岩の変形メカニズムを解明することで、プレート間固着深度が沈み込み帯の温度構造に依存しない理由を明らかにすること目的とする。

    これまで、アンチゴライトの変形メカニズムは複数提案されており、(1) 転位クリープ、(2) キンクやリップロケーションによる変形、粒界すべりに伴う機械的回転(GBS)、流体促進下での拡散クリープや、溶解-沈殿クリープが提案されている。変形実験的手法は変形条件をコントロールすることで変形初期から変形途中までの変形組織が進行していく過程を追うことができる一方、天然での変形における歪み速度を再現して実験を行うことができない難点がある。本研究では、アンチゴライト蛇紋岩に存在する天然剪断帯における観察を使用する。その剪断帯で見られる歪み勾配は低歪み領域から高歪み領域の各領域の観察を可能にする。このような累進変形を代表する組織を観察することで、天然の歪み速度での変形過程の観察を行うことができると考えられる。本研究では、このような変形実験での利点を保ちつつ、天然の歪み速度での変形組織を観察することで新しい知見を得ることができた。具体的には剪断帯周辺の低歪み領域から剪断帯中心の高歪領域への各歪み領域における結晶軸選択配向(CPO)や鉱物化学組成を含む微細構造の特徴の比較・変化からアンチゴライトの変形メカニズムを推定した。天然剪断帯は四国中央部三波川変成帯別子地域及び白髪山地域から採取したアンチゴライト蛇紋岩中の微小剪断帯を用いた。

    その結果、別子および白髪山ともにひずみの増加に伴う漸進的な微細構造の変化が明らかになった: (1) 歪みの増加に伴い、アンチゴライトの(001)結晶面が剪断面に平行になるように明確に回転する。 ii) 歪みの増加に伴い、鉱物伸長方向であるb軸が剪断方向に平行なB-typeアンチゴライトCPOが明確に形成される。 iii) CPOの強度や(001)面の回転と一致して、歪みの増加に伴いアンチゴライト粒子の形状はその長軸がより集中しながら剪断面に向かって回転する。 iv) 歪量にかかわらず、アンチゴライトは結晶内の結晶方位差、粒径、アスペクト比、主要元素の化学組成に有意な差異は見られない。以上から、アンチゴライトは歪みの増加に伴って再配向する一方で、結晶内の変形や粒径減少は見られないことが明らかになった。そのため、アンチゴライトのGBSによって、B-typeアンチゴライトCPOを形成・発達させながら、アンチゴライト蛇紋岩が変形したと考えられる。

    天然試料から報告されているアンチゴライトCPOの多くはB-typeを示し、これらの配列強度も本研究のB-type CPOの強度と一致する。またアンチゴライトのGBSは室内条件からも報告されてため、本研究で使用した試料の周囲の変成岩のピーク温度・圧力などから、本研究ではウェッジの先端から~500-550℃、~0.8-1.0GPaまでのウェッジマントルで、GBSによるアンチゴライトの変形が広く卓越し、GBSの変形によってB-type CPOが形成することを提案する。アンチゴライトはその結晶構造から(001)面上で低摩擦係数を示し、(001)面上でもa軸方向に比べb軸方向で特に低摩擦係数を示す摩擦異方性の強い鉱物である。そのため、B-type CPOの形成過程は、この摩擦異方性に起因してすべりやすいb軸が剪断方向に平行になるように結晶が回転することで説明できる。

    GBSは本質的には摩擦現象であり、固着深度付近を含むプレート境界に沿って分布する蛇紋岩では、変形を引き起こすのに必要な剪断応力は、温度の依存性は低く、主に深さに比例する垂直応力に依存していると考えられる。これは温度構造に関係なく、ほぼ全ての沈み込み帯で固着深度が同様していることを説明できる。

  • 奥出 桜子, 清水 以知子, 緒方 夢顕
    セッションID: R12-O-8
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    沈み込み帯で起こるやや深発地震は、マントルスラブ内の蛇紋岩が脱水反応温度(〜650℃) に達する深さで頻発しているという指摘があり、その発生メカニズムとして間隙圧上昇による脱水脆性化が議論されてきた。そこで、脱水脆性化説を実験的に検証するために様々な研究が行われてきたが、実験の温度圧力条件や、用いる蛇紋岩の構成鉱物や組織の多様性などにより異なる力学挙動が報告されている。本研究では、スラブマントルに存在すると考えられるアンチゴライト蛇紋岩をもちいて、深さ60 km のやや深発地震の発生域を含む温度圧力条件下で、蛇紋岩の力学特性を調べるために変形実験をおこなった。 実験試料として、長崎変成帯のアンチゴライト蛇紋岩を選定した。本蛇紋岩は均質、等方的でアンチゴライトに富むが、一部低温型蛇紋石を含むことがラマン分光マッピングにより新たにわかった。試料は、直径8 mm、高さ約14 mm の円柱に成形して用いた。実験は固体圧式試験機を用いて封圧0.6–1.7 GPa の範囲でおこなった。蛇紋岩の脱水前と脱水後の挙動を比較するために, 温度は500℃ と700℃ でおこない、歪速度一定(3.3×10-5sec-1)の軸圧縮試験を行った。 500℃、1.2 GPa でおこなった実験では、試料は完全に降伏せず歪硬化が続いた。実験後の試料には脱水反応はみられず、試料を貫く共役断層による変形がみられた。一方、700℃で封圧を変えた3つの実験では、ある差応力で降伏し、最後は定常クリープ的に変形した。最終的な強度(差応力)は0.5–1.2 GPa となった。力学データでは延性を示したが、回収試料には、試料を貫く断層破壊のほか微小断層による分散した変形が見られたため、準脆性的に変形をしたということができる。また、700℃ でおこなった実験回収試料の走査型電子顕微鏡による観察では断層に沿って繊維状のカンラン石(フォルステライト)が集中して生成していた。また、700℃ ,1.7 GPa の実験回収試料には、断層剪断帯に輝石(エンスタタイト)や赤鉄鉱も生成していることがラマン分光マッピングで確認された。断層の形成や剪断変形が脱水反応を促進したと考えられる。さらに同じ条件で行った検証実験では,試料は明瞭な降伏を示さず歪硬化がつづき,反応の進行も抑制されていた。 本実験では、大きな応力降下を引きおこすような脱水脆性化ではなく、準脆性的に変形し強度が低下する挙動(ここでは脱水軟化とよぶ)が見られた。本研究でみられたような断層変形による反応促進により、実際のスラブマントル中でもこのような脱水軟化が起きている可能性がある。やや深発地震のメカニズムとしては、蛇紋岩の脱水反応と変形により、周囲のカンラン岩に破壊が生じることが考えられる。

R13(口頭)沈み込み帯・陸上付加体
  • 脇田 浩二, 辻 智大, 亀高 正男
    セッションID: R13-O-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    山口県中央部には、東西約15km南北約8kmの広がりをもつ秋吉石灰岩が分布している.秋吉石灰岩は,前期石炭紀から中期ペルム紀の化石を含み,パンサラッサ海において噴火した海底火山の頂部に形成された石灰礁を起源としている.秋吉石灰岩の下位には玄武岩溶岩があり、石灰岩と玄武岩を合わせて、秋吉ユニットとする。秋吉ユニットの南東側と北西側には,チャートー砕屑岩シーケンスの繰り返しからなる大田ユニット(大田層群)と別府ユニット(別府層)がそれぞれ分布している.大田ユニットと別府ユニットは,海洋プレート層序上部の剥ぎ取りによって形成された中期ペルム紀の付加体である.秋吉ユニットの南西側には,砂岩泥岩互層や含礫泥岩層からなる常森層が分布している.常森層については,海溝充填堆積物の付加で形成された説(Sano and Kanmera, 1991)があるが、本報告では、前弧海盆ないし陸棚堆積盆で形成された説(Wakita, 2018)を採用する.従って本報告では、付加体の区分用語として層や層群ではなくユニットを用いるが、常森層にはその用語を適用しない。

     秋吉石灰岩は,小澤(1923)によって層序が逆転していることが明らかにされ,その逆転構造の形成については様々な横臥褶曲構造が検討されてきた(藤川ほか, 2019).一方, Sano and Kanmera(1991)は,秋吉石灰岩が海溝で崩壊する際に上下が逆に積み重なったと考えた.秋吉石灰岩の逆転構造に関するこれらの研究は,いずれも石灰岩体を中心に検討され,同時期に形成された他の付加体構成要素との関係はあまり考慮されてきていなかった.著者らは,秋吉石灰岩周辺の地質体の地質構造に着目し,秋吉石灰岩の逆転構造の形成メカニズムの再検討を試みることにした.今回検討したのは,秋吉石灰岩北西部に分布する別府ユニットの一部である.別府ユニットは,大田ユニットと同様にチャートー砕屑岩シーケンスの繰り返しからなるが,地層の傾斜が低角度であるために,地質図上ではその繰り返しが明瞭ではない.今回調査を実施したのは,美祢市秋芳町別府西部の湯の上川流域及び美祢市於福北西—雁飛山地域である.

     湯の上川流域では,地層の走向はほぼ東西方向で,北側が南に南側が北にそれぞれ20-40度傾斜している.標高約150mの湯の上川沿いには泥岩が露出し,標高200-230mに酸性凝灰岩ないし珪質泥岩が露出している.標高230m-300mに主としてチャートが露出しており,調査範囲で一番高い標高220-230mに泥岩優勢な砂岩泥岩互層が分布している.一方,於福西方—雁飛山地域では,標高の低い地点から高い地点に向かって泥岩→酸性凝灰岩ないし珪質泥岩→チャートの順で重なっている.

     付加体を形成する海洋プレート層序では,下位からチャート→珪質泥岩ないし酸性凝灰岩→泥岩及び砂岩と重なることが知られており,本調査地域の地層群は,上下が逆転した海洋プレート層序から構成されていることがわかる.つまり,秋吉石灰岩の逆転構造は石灰岩体が単独で逆転しているのではなく,秋吉石灰岩とともに砕屑岩類を主体とした付加体が大規模に逆転していることから,その形成メカニズムを再検討することが必要となる.

    引用文献

    藤川将之・中澤 努・上野勝美(2019)地質学雑誌, 125, 609-631.小澤儀明(1923) 地質学雑誌, 30,227-243.

    Sano, H. and Kanmera, K.(1991) Jour.Geol.Soc.Japan, 97,631-644.

    Wakita, K., Yoshida, R. and Fushimi, Y. (2018) Heliyon, https://doi.org/10.1016/j.heliyon.2018.e01084

  • 宮原 拓己, 坂口 有人
    セッションID: R13-O-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    《研究背景》

     海溝型タービダイトは炭酸塩補償深度よりも深く到達することから堆積時に炭酸塩鉱物はほとんど含まれない。固結した後の鉱物脈としてのみ炭酸塩鉱物は観察されてきた。しかし白亜系付加体タービダイト相の四国四万十帯野々川層と下津井層において、数十㎝から1m程度の領域に炭酸塩鉱物が異常に濃集している「炭酸塩濃集スポット」が報告された(中川・坂口2016)。この斑状炭酸塩鉱物は、周囲の砂岩粒子である石英や長石の圧力溶解変形をオーバープリントしている点や斑状炭酸塩鉱物と周囲の粒子との関係から、砂岩粒子を溶解しながら進む新たな流体移動のモデルの産状として考えられた(中川・坂口2016)。先行研究では炭酸塩濃集スポットの中心部に注目して研究されたが、中心部には鉱物脈があるなど構成の影響が懸念される。そこで本研究では炭酸塩濃集スポット外縁部からサンプリングされた微細な炭酸塩鉱物について、濃集部形成初期の情報が残されていると考え調査を行った。

    《地質概要》

     四国四万十帯は主にタービダイトが占め、本調査地域の白亜系下津井層、野々川層、中村層、砂岩優勢砂岩泥岩互層が主体で、砂岩層は石英や長石などの陸源砕屑物からなる。一般に珪質であり、鉱物脈を除けば有孔虫やナノ化石など石灰質微化石を含めて炭酸塩鉱物はごく少ない。

    《結果と考察》

     希塩酸による中和反応から今回新たに中村層での炭酸塩濃集スポットの存在を確認した。こちらは10㎝程の大きさで先行研究に比べると小さい。炭酸塩濃集スポットの内部は珪酸塩の砂岩粒子が溶解しその間隙を炭酸塩鉱物が充填している様子が確認できる。これらの炭酸塩鉱物は微細なものが濃集しており中心部では大きく濃集している一方で外縁部に近づくほど濃集サイズは微細になっている。濃集した炭酸塩鉱物は極小で単一粒子としての観察が困難なものから数百μm程度の粒径で観察できるものもあり、これについては炭酸塩濃集スポット中心部にのみ観られ中心部の炭酸塩鉱物は再結晶した可能性がある。 また炭酸塩濃集スポットのない一般的な砂岩層についてもごく少量ながら斑状炭酸塩鉱物が観察されており、同様のメカニズムにより付加体砂岩中に普遍的に炭酸塩鉱物が存在している可能性がある。 この微細な斑状炭酸塩鉱物についてSEM-EDS分析を行った結果、微細な斑状炭酸塩鉱物には多くの場合においてSiが含まれることが分かった。Siの含有量についてはそれぞれ斑状炭酸塩鉱物によってばらつきがあり分布的な傾向は認められない。またこれらの斑状炭酸塩鉱物の試料からはFeやMgのピークはあまり得られず、斑状炭酸塩鉱物は基本的にカルサイトであるとみる。よって炭酸塩濃集スポットの砂岩粒子が溶解した産状と合わせて考えるとこのSiは流体が珪酸塩の砂岩粒子を溶解していたために混在していると考えることができる。

    《引用文献》

    中川美菜子・坂口有人,日本地質学会第123年大会,2016

  • 西沢 志穂, 大森 康智, 林 為人, 千代延 俊, 山本 由弦
    セッションID: R13-O-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    花崗岩は、生成に水の関与が不可欠であることから、太陽系の中で唯一それが豊富に確認存在している地球に特有な要素の一つとされ、その過程が注目されている。足摺岬花崗岩体は、中期中新世に西南日本外帯で上昇した多くの花崗岩体の1つである。その化学組成や生成年代は明らかにされている一方、その貫入様式は詳細が明らかになっていない。本研究では、花崗岩の定置メカニズムを知るために、古第三系四万十帯とその上に堆積した中新統三崎層群(前弧海盆)において、応力解析と被熱解析を行った。

    応力解析

    足摺岬花崗岩体の北方から西方に分布する四万十帯と三崎層群下部にはスレート劈開が発達している。その走向は花崗岩体の北方に位置する窪津漁港でほぼ東―西(N89.9±2.2°E)を示し、西に向かって北東―南西に変化し、西方に位置する片粕大橋では南―北に近づく(N25.9±2.0°E)。この分布が各地点における花崗岩分布近似円に沿っていることから、これらの構造は花崗岩上昇時に形成された可能性がある。調査地域は、沈み込み帯に位置していることから、付加に伴うスレート劈開である可能性があり、より広い範囲における同様の解析から、これらを明確に区別する必要がある。

    被熱解析

    被熱解析では、最高被熱温度、熱伝導度、それに空隙率の測定を行った。被熱時間を100万年と仮定して、ビトリナイト反射率から見積もった最高被熱温度は、花崗岩近傍の下部〜中部三崎層群で一様に300℃程度の高い温度を示す一方、上部(竜串層)において特徴的に低い値を示した。両者の境界付近では、竜串層に向かって連続的に温度が急減する。

    さらに同地域における地質体の熱伝導度を、Hot-Disk法(Gustafsson, 1991; Iso, 2008)を用いて測定した。このとき測定面は、均質で異方性がないことを仮定した。下部〜中部三崎層群の砂岩は一様に高い熱伝導度(3.2〜3.5 Wm-1K-1)を示す一方、上部の竜串層(軟質砂岩)では特徴的に低い値(2.77±0.33 Wm-1K-1)を示した。これは前述の最高被熱温度と整合的である。さらに、熱伝導度と空隙率の間には負の相関(R=0.76)が認められ、熱伝導度は空隙率に規制されていることが示された。これらの結果は、調査地域における熱の伝わり方が一様ではなく、竜串層の特徴的に低い熱伝導度によって花崗岩からの被熱を効率的に伝導できなかったことを示す。

    以上のことから、本地域における花崗岩からの被熱モデルを以下の2つに区分することができる。1)高い熱伝導度を持ち、一様に300℃程度まで温度が上昇する花崗岩近傍の被熱モデルと、2)低い熱伝導度を持ち、最高被熱温度が特徴的に低い竜串層における被熱モデルである。この境界を花崗岩からの被熱フロントであるとみなし、それぞれに異なる被熱モデルを適応することによって、今後足摺岬花崗岩体の上昇メカニズムを明らかにすることができると期待される。

    Gustafsson, S. E., 1991 Transient plane source techniques for thermal conductivity and thermal diffusivity measurements of solid materials., Review of Scientific Instruments, 62, 797–804. doi: 10.1063/1.1142087

    ISO, 2008 Plastics–determination of thermal conductivity and thermal diffusivity–part 2: transient plane heat source (hot disc) method, International Standard ISO 22007-2. International Organization for Standardization, Geneva, Switzerland.

  • 宮崎 裕博, 神谷 奈々, 林 為人
    セッションID: R13-O-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    南海トラフの熊野海盆では付加体形成に起因した正断層が確認されており(Moore et al., 2013),付加体だけでなく前弧海盆もプレートの沈み込み運動を記録している可能性が示唆され,プレート境界に位置する日本列島の成り立ちの解明の一助になると期待されている.房総半島には,沈み込み帯に特徴的な一連の構造が陸上に露出し,南から順に付加体,隆起帯,前弧海盆で構成される.これらのうち前弧海盆堆積物では,圧密試験により堆積岩の圧密降伏応力を算出することでその地層の最大埋没深度の推定ができる.この手法により,房総前弧海盆の圧密特性を検討する研究が行われ,形成過程に関連した圧密特性が明らかにされているほか,側方圧縮による圧密の進行が指摘されている(Kamiya et al., 2017).しかし側方圧縮応力がどの程度,圧密に影響を与えるのかといった,圧密異方性についてはよく分かっていない.本研究では,圧密異方性を明らかにすることを目的として,房総前弧海盆東部に分布する堆積軟岩の圧密試験を行い,堆積構造に対する圧密降伏応力の違いについて検討した.さらに,試料の堆積構造と各種物性値の関係を明らかにするために,岩石の基本的な物性値である引張強度および弾性波速度の異方性を検討すべく,圧裂引張試験および弾性波速度測定を行った.

    房総前弧海盆東部に分布する上総層群は第四紀に連続的に厚く堆積した前弧海盆堆積物であり,本研究では,上総層群のうち上位から順に梅ヶ瀬層,大田代層,黄和田層,大原層,勝浦層の泥質岩を試料として用いた.圧密試験では載荷方向が堆積面に対して直交方向と平行方向の2方向で試験を実施した.圧裂引張試験はコアリング方向が堆積面に対して直交と平行の2方向に加えて,平行方向をさらに破断面が堆積面に対して平行か直交かで区別した3方向で行い,弾性波速度測定は,波動伝播方向に対して直行と平行の2方向で試験を行った.

    圧密試験の結果,直交方向と平行方向の圧密降伏応力はそれぞれ,梅ヶ瀬層では約1.1MPa,約1.5MPa,大田代層では約5.6MPa,約6.9MPa,黄和田層では約5.6MPa,約5.0MPa,大原層では約8.4MPa,約10.2MPa,勝浦層では,約8.3MPa,約10.7MPaとなり,平行方向の圧密降伏応力は直交方向と比べてほとんど同じか大きくなることが分かった.水平方向の応力が作用しないと仮定した状態では,K0値(直交方向に対する平行方向の応力の比)は動ポアソン比を用いて求められ,K0=0.64~0.80となる.一方,本研究で得られた圧密降伏応力の直交方向に対する平行方向の比より得られたK0値の過去最高値K0MAXK0MAX=0.90~1.33であり,動ポアソン比から求めたK0値よりも大きな値をとる.また圧裂引張試験の結果,破断面と堆積面が平行な方向は他の2方向に対して著しく強度が低下しており,圧密降伏応力よりも顕著に堆積構造を反映した異方性を示した.

    引張強度は,破断面と層理面が平行な方向で弱く直交な方向で強くなる異方性が確認された.一方,圧密試験の結果からは,層理面に対し平行方向の圧密降伏応力が直交方向と同等か,それ以上となる異方性が明らかになり,層理面に平行な方向に対しても,圧密作用を受けている可能性が示された.これらから,堆積層理面は乱されていないものの,圧密異方性は過去に経験した側方圧縮応力を反映していると考えられる.

    引用文献

    Moore, G.F., Boston, B.B., Sacks, A.F. & Saffer, D.M. (2013). Analysis of normal faultpopulations in the Kumano Forearc Basin, Nankai Trough, Japan: 1. Multiple orientations and generations of faults from 3-D coherency mapping. Geochemistry Geophysics Geosystems, 14, 6,

    Kamiya, N., Yamamoto, Y., Wang, Q., Kurimoto, Y., Zhang, F. & Takemura, T. (2017). Major variations in vitrinite reflectance and consolidation characteristics within a post-middle Miocene forearc basin, central Japan. Tectonophysics, 710–711, 69–80

  • 大熊 祐一, 野田 篤, 高下 裕章, 山田 泰広, 山口 飛鳥, 芦 寿一郎
    セッションID: R13-O-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    海山沈み込みは,前弧域の構造を変形・複雑にするだけでなく,プレート境界型地震への影響も指摘されており,研究が必要な現象の1つである.ただしこの過程は数万-数十万年かけて生じるため,観測により全体像を把握することはできない.この問題に対して,モデル実験を用いて海山沈み込みを再現するという手法で付加体表面・内部の変形様式の研究が行われてきた1,2.その中でも,乾燥砂を用いたアナログ実験(砂箱実験)で海山沈み込みを再現した研究3では,海山表面の摩擦係数が付加体の内部摩擦係数に近い条件で実験を行い,付加体表面に発達するfracture networkや海山と陸側のBackstopに挟まれた領域の圧縮にともなう激しい変形を海山沈み込みに特徴的な構造として報告した.しかし,近年の海域の反射法地震探査からは強い変形を伴わない海山沈み込みが確認されており4,実際には海山表面の摩擦係数は付加体の内部摩擦係数よりも低い可能性がある.しかし,海山表面の摩擦条件が付加体変形過程に与える影響を検討した例はない。そこで本研究では,摩擦係数の異なる2種類の物質を用いて,海山表面が低摩擦と高摩擦である場合についてそれぞれアナログモデル実験を行い,付加体変形過程における海山表面の摩擦条件の影響を評価した.

     実験は,講演者の一人である山田によって開発された砂箱実験装置を使用し,プラスチック製の円錐(高さ3 cm,半径14 cm)を縦に半割した海山模型を,堆積物に見立てた砂層(2 cm厚)に沈み込ませることで海山の沈み込みを再現した.同じ装置を用いた先行研究5と同様に砂層には豊浦標準砂を使用し,実験での1 cmが天然での1 km に相当する.海山表面の物質として,低摩擦条件ではテフロンシート(摩擦係数μ= 0.22)を,高摩擦条件では豊浦標準砂(μ= 0.59)を使用した.海山以外の範囲の底面には低摩擦海山と同じテフロンシートを敷いた. また,本実験はYamada et al. (2010)などに倣い,画像解析技術の一つであるデジタル画像相関法を併用し,砂箱内での断層運動を高空間分解能で可視化し6,7,表層の微細な変形の時空間的な変形過程を記載した.画像はインターバルタイマーを用いて砂箱実験装置の上側と側面から撮影を行い,LaVision社製の画像解析ソフト「Davis 8.0」にて解析を行った.

     断面観察では,低摩擦海山沈み込み時にはプレート境界断層は海山表面に沿って1本のみ形成されるのに対し,高摩擦条件では断層が海山表面から1.5–2 cm上方を不規則に移動し,相対的に厚い剪断領域を形成する過程が観察された.特に高摩擦海山沈み込み時には,断層が上下へ周期的に繰り返して移動する”fault dancing”8が確認された.この現象は,地形と摩擦の2つの効果によって生じると考えられていたが8,本研究の結果から地形よりも摩擦条件の影響を強く受けることが初めて確認された. 表面観察の結果,低摩擦海山が付加体前縁に沈み込んだ直後に海山直上の領域にのみfrontal thrustが形成されること,その後は周囲(海山の影響がない領域)で付加体が成長することで,海山部に湾入地形が形成されることが確認された.この付加体の局所的成長は,本研究が初めて報告する現象で,海山の存在によって砂層が薄くなっている領域のみで観察された.土質力学的な検討によると,同じ材料を使用する場合には底面摩擦と砂の厚さによってfore-thrustの形成間隔が変化することが知られている9,10.今回の結果は,海山の存在によって相対的に砂層の厚さが薄くなったことで,その領域にだけ間隔の狭いfore-thrustが形成されたと考えられる.一方,高摩擦海山沈み込みでは,実験終了まで一貫して湾入地形が形成された. 海山表面の摩擦の違いを,海山を埋積した堆積物の鉛直方向の摩擦強度の不均質性と解釈すると,低摩擦条件は弱面となる層準が存在する場合,高摩擦条件は弱面が存在しない場合と考えることができる. 1. Baba et al., 2001, GRL. 2. Morgan and Bangs, 2017, Geology. 3. Dominguez et al., 2000, Tectonophysics. 4. Davidson et al., 2020, Geology. 5. Yamada et al., 2010, Tectonophysics. 6. Adam et al., 2005, JSG, GRL. 7. Dotare et al., 2016, Tectonophysics. 8. Koge et al., 2018, PEPS. 9. Davis and Engelder, 1985, Tectonophysics. 10. Gutscher et al., 1996, Geology.

  • 木村 学, 中村 恭之, 白石 和也, 藤江 剛, 辻 健, 福地 里菜, 山口 飛鳥
    セッションID: R13-O-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    はじめに 

    南海トラフは、地球上で最もデータが蓄積され、研究の進んだプレート沈み込み帯である。研究が進むほどに事象の十桁以上にわたる時空間を繋げた精度で、基本問題への回答の試みが続けられている。

     数百〜数十万年の時間スケールと列島規模の空間スケールの事象の理解を通して、はじめて答え得る一般問題は多々あるが、その中で今回は、新たな地震反射法探査と深海掘削の具体的データ解析を総合し、以下の問題に迫りたい。

    1)巨大地震発生帯を含めたプレート境界の形状の時間変化と上盤プレートの内部構造形成との関係、2)表層地形、堆積盆地形成に記録されている事象と沈み込み帯ダイナミクスとの関係、3)プレート境界巨大地震発生帯の上下限、水平方向の境界を決める地質学的要因(構造・岩石物質・物性・状態)

    紀伊半島沖隆起帯の位置 

    具体的研究対象は、紀伊半島潮岬南東沖40~50kmに伸びる北東南西方向の隆起帯である。この隆起帯の東西で種々のコントラストがある。①東側が熊野海盆であり、西側が紀伊水道沖に広がる室戸海盆である。②この隆起帯の東側のプレート境界が昭和および安政地震の東南海地震破壊領域であり、西側が南海地震のそれである (Ando, 1975)。③現在のプレート境界の形状は、この隆起帯の西側が北へ低角に傾斜し、東側がより急角度になっている(Nakanishi et al., 2002)。④隆起帯近傍の上盤プレートは潮岬や半島東部を構成する火成岩地殻からなると推定されている(Kodaira et al., 2006; Kimura et al., 2014;Tsuji et al., 2015)。

    紀伊半島沖隆起帯、熊野海盆、室戸海盆の地質と構造

    北東南西方向に伸びる隆起帯に関しての新たなデータは以下である。①  隆起帯は、上盤プレート地殻の異なる地質基盤(火成岩類と付加体)の境界部に形成されている。②  熊野海盆側の基盤岩は後期中新・鮮新統付加体、室戸海盆の基盤岩はより古い四万十帯南帯(始新〜前中期中新統)を含む付加体の可能性が大きい。③ 熊野海盆内には、約六百万年以降の数回の不整合が認められている(Moore et al., 2015)。今回、室戸海盆でも新たに確認された。④  隆起帯北部でのIODP#358C0025地点での掘削の結果、550m以上に及ぶ堆積物下部の年代は2.58~4.13Maと判明。CCDより浅い海溝斜面での堆積と推定。C0009の掘削の結果による約5.6Maの熊野海盆形成開始推定(Moore et al., 2015)と矛盾しない。

    結論 

    以上の結果、紀伊半島沖隆起帯には、南海トラフにおけるフィリピン海プレートの、現在につながる沈み込み開始(約6Ma)以降の全テクトニクスの歴史が記録されていることが判明した。そのような時間スケールで見た時、南海トラフでの地震発生帯地域分割の原因やプレート相対運動変化をめぐる議論の当否などが見えてくる。講演ではその点も議論したい。

    文献

    Ando, 1975, Tectonophysics, 27(2), 119-140.

    Nakanishi et al., 2002, Journ.Geophys. Res. 107(B1), EPM-2.

    Kodaira et al., 2006, Journ.Geophys. Res. , 111(B9).

    Kimura et al., 2014: Tectonics, 33(7), 1219-1238.

    Tsuji et al., 2015; Earth,Planet. Science Letters, 431, 15-25.

    Moore et al., 2015: Marine Petroleum Geology, 67, 604-616.

  • 仲田 理映, 木下 正高, 橋本 善孝, 濱田 洋平
    セッションID: R13-O-7
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    Shallow slow earthquakes, which last minutes to years, are important indicators of subduction megathrust slip behavior and future seismic and tsunami potential. Subducting plate roughness and seamounts have been proposed to promote slow earthquakes by inducing local geomechanical and hydrogeological anomalies. In the Hyuga-Nada region offshore Kyushu, Japan, slow earthquakes are repeatedly observed on and near the subducting Kyushu-Palau-Ridge, chain of seamounts thus providing excellent opportunities to explore the effects of seamounts on geomechanical/hydrological/thermal properties, and ultimately seismic coupling. Long-term monitoring enabled by a planned permanent network (N-net) will allow subsurface processes during frequent (~1 year) periodical slow earthquakes and ~M7 earthquakes (~20-30 year interval) to be captured with high fidelity. Our plan consists from drilling and installing observatories at three primary locations in Hyuga-Nada to address two hypotheses: 1) Seamount subduction modulates stress and pore pressure, creates fracture networks and influences the thermal and hydrological state of the margin. 2) The spatiotemporal distribution of slow earthquakes is strongly influenced by seamount subduction. We will drill three primary distinct sites relative to the seamount, to measure physical properties and describe deformation by LWD, APCT-3, and core analysis to characterize in-situ stress state, fracture density, heat flow, and pore fluid flow. Spatial variations in the upper plate disruption caused by seamount subduction will be revealed by comparing results from the three sites; and these will constrain geomechanical, hydrological, and thermal models. We will install a “Fiber-CORK” observatory equipped with conventional pressure and temperature sensors and cutting-edge fiber-optic sensors. The combination will fill a gap in slip durations currently observable in this region with seismic and geodetic instrumentation.

  • 大坪 誠, 沖縄トラフ掘削計画 提案者一同
    セッションID: R13-O-8
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    本発表では,IODP沖縄トラフ南部掘削計画の概要について紹介する.活動的な背弧海盆は,大陸の縁を分割して複雑な沈み込み形状を生成しながら,独特の鉱物生成と多様な生物群集を宿す多数の熱水系を持つ特徴をもつ.背弧海盆の開始と進化を支配するメカニズムは地球規模のテクトニクスにおいて長年の問題であった.例えば,リフト活動に注目すると,アフリカ大地溝帯のような大陸リフトでは107年程度のオーダーで発達する(例えば,Naliboff, J.B. et al., 2017)のに対して,背弧海盆では105-6年オーダーで発達している(例えば,Sibuet et al., 1995).なぜ背弧海盆の拡大は大陸リフトより速いのだろうか?その速い原因は何であろうか?そこで,我々は琉球弧の背弧海盆である沖縄トラフを対象にIODP掘削計画「Drilling the Okinawa Trough, a backarc basin with ongoing rifting of a continental margin: Riserless drilling to sample fresh faults, volcanics and fluids」のpre-proposalを2020年4月に提出した.

    琉球弧では琉球海溝にてフィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に沈み込んでおり,その背弧には琉球弧と平行に長さ約1500 kmの背弧海盆(沖縄トラフ)が存在する.沖縄トラフは6~4 Ma頃に現在の大枠が形成され,1.5 Ma頃に拡大を再開して現在も引き続き拡大している(Sibuet et al., 1998).沖縄トラフの中では南部において拡大プロセスがより進行し,0.1 Ma頃から現在の拡大運動となっている(Sibuet et al., 1995).沖縄トラフは,気象条件が厳しい南極半島近傍のBransfield Straitとともに現時点においてまだ海洋性玄武岩が海洋底に露出していない地球上で数少ない活動的な大陸縁辺の背弧海盆として,背弧海盆の拡大プロセスの理解のために科学掘削を行う有望なターゲットである.沖縄トラフはリフト活動によって上中部地殻の厚さが10 kmほどに薄くなりつつある(Arai et al., 2017; Nishizawa et al., 2019).

    我々は,沖縄トラフでの科学掘削に向けて背弧拡大部の原動力に関する新しい仮説を提案する.「背弧拡大は断層沿いの流体移動と熱によって引き起こされる地殻の弱体化とリフトゾーンでの歪み集中によって加速する.」と考え,沖縄トラフ南部に3地点の浅い掘削(海底下200〜700 m)によってそれらの仮説を検証する.これらの掘削は,堆積物,火山岩,および間隙流体・ガスを採取し,さらに掘削方向への各種物理検層を行う.我々の沖縄トラフ南部での掘削計画の目的は次の2つである:[目的1]トラフ軸周辺の断層の物理的,水文地質学的および化学的特性,岩相,形状,微細構造,および熱状態を把握および分析することによって,地殻浅部内の流体循環プロセスを調べる.[目的2]トラフ軸(八重山地溝)の下の,先行研究の地震波調査でよって把握された潜在的な玄武岩質マグマの上部を含む,海洋底に露出する前の火山岩とその岩相を直接把握する.これらの我々の掘削提案は,沖縄トラフのリフトゾーン内での正断層型地震の地震発生域および琉球弧陸域の両方でコアリングとモニタリングを行うことを目指すための最初の第一歩となる.

    [引用文献]Arai, R. et al. (2017) J. Geophys. Res., 122, 622–641; Naliboff, J.B. et al. (2017) Nat. Commun. 8, 1179; Nishizawa, A. et al. (2019) Earth, Planets and Space, 71:21; Sibuet, J..C. et al. (1995) In: Backarc basins: tectonics and magmatism, Taylor B (ed), Plenum Press, New York, pp 343–378; Sibuet, J.C. et al. (1998) J Geophys Res., 103, 30245–30267.

  • 三澤 文慶, 新井 隆太, 佐藤 雅彦, 石野 沙季, 高下 裕章, 大坪 誠, KH-21-3 乗船研究者一同
    セッションID: R13-O-9
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    大陸縁辺に位置する背弧海盆の発達形式の解明は、リソスフェアの発達を理解するための重要な事項と考えられる。大陸縁辺のリフト状態の背弧海盆は沖縄トラフとブランズフィールド海峡に限定されているため、現在のそのような変形の希少性のためによく理解されていない。沖縄トラフ南部では、1.5 Maから断続的なリフティングが発生していると考えられている(Sibuet et al., 1998)。沖縄トラフ南部・八重山海底地溝周辺ではArai et al. (2017)及びNishizawa et al. (2019)により、沖縄トラフを充填するトラフ充填堆積層の構造や八重山海底地溝周辺の地質構造などが最新の反射法地震探査結果に基づいてまとめられている。なかでも、Arai et al. (2017)では八重山海底地溝直下でのマグマ貫入構造の存在、およびトラフ充填堆積層部分に低速であり、かつ低反射率を示す領域を発見し、マグマ溜まりの存在を指摘している。沖縄トラフ南部の現在の状態を明らかにするべく、2021年1月に海洋研究開発機構の学術研究船「白鳳丸」によるKH-21-3航海にて統合的な海洋地質・地球物理学的調査を実施した。KH-21-3航海ではピストンコアリングやヒートフロー観測などの停船観測と反射法地震探査などの航走観測を実施した。なかでも、航走観測では海底地形調査、マルチチャネル反射法地震(MCS)探査、サブボトムプロファイラー探査、地磁気観測(プロトン磁力計及び船上3成分磁力計)、船上重力観測、およびXCTD観測を実施した。MCS探査では、2基の355立方インチGIガン(総容積710立方インチ)と1,200 m, 48chストリーマーケーブルを使用した。また、プロトン磁力計による地磁気観測では船体磁化の影響を避けるために、船体から約290 m後方で磁力計本体を曳航した。

    海底地形調査によって、20 mグリッドの非常に高精度な海底地形データを作成することができ、詳細な海底地形が明らかになった。八重山海底地溝周辺では、おおよそ東西走向のリニアメントが無数に発達している。八重山海底地溝の南方の沖縄トラフ部分にはこれまで未記載の比高約100 mの地形的高まりが2体存在していることが初めて明らかになった。MCS探査では沖縄トラフ南部の地質構造を海底下約2秒の範囲を明らかにできた。沖縄トラフは島弧から連続する基盤層とトラフ充填堆積層の2つに大きく区分できた。上位のトラフ充填堆積層は概ね水平成層で非常に連続的な内部反射面を示す。石垣海丘群の東縁部を通る箇所では、周囲の堆積層と内部反射面が異なる散乱した反射パターンが認められ、これらは火山性物質から構成されると解釈できる。Arai et al. (2017) で指摘されたマグマ貫入構造に相当する箇所では、マグマ貫入に関連する反射面や堆積層の変形が認められた。なお、前述した2体の地形的高まりはこのマグマ貫入構造と隣接する。地形的高まりの内部構造は非常に不鮮明であることから下部からの貫入の存在が示唆されるが、磁気異常観測値では周辺のトラフ充填堆積層部分と同様の値を示している。加えて、八重山海底地溝周辺やトラフ底部分では正断層の発達が多数認められ、その多くが海底面に到達していることから活動的な正断層であることが示唆される。

    本発表では沖縄トラフ南部の詳細な海底地形、地質構造および今回発見した地形的高まり周辺の地下構造について現段階の解釈を紹介する。また、2021年8月に実施した新青丸KS-21-17航海の結果についても一部紹介する予定である。

    引用文献

    Arai, R. et al. (2017) J. Geophys. Res., 122, 622–641; Nishizawa, A. et al. (2019) Earth, Planets and Space, 71:21; Sibuet, J.C. et al. (1998) J Geophys Res., 103, 30245–30267.

  • 木下 正高, 三澤 文慶, 新井 隆太, 大坪 誠, KH-21-3 研究者一同
    セッションID: R13-O-10
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    沖縄トラフの拡大は2Ma以降とされ,南部沖縄トラフではその中軸部付近に八重山中央地溝帯が存在し,その活動が0.1Ma以降とされる.これまでの構造探査では沖縄トラフ海底に海洋地殻は存在しないと報告されており,したがって沖縄トラフは,(古い)大陸地殻のリフティングの段階にあると考えられる.その仮説を検証するデータの一つが熱流量である.八重山中央地溝帯(YR)内部ではほぼすべての熱流量が40 mWm-2と非常に低い.一方その外側の沖縄トラフではデータがほとんどなく,系統的な議論が不可能な状況である.KH21-03 Leg1航海では,本海域において反射法地震探査・ピストンコア採取・熱流量測定・ドレッジ試料採取等が実施された(大坪ほか,本大会).ここでは熱流量測定結果を報告する.YR南側斜面から沖縄トラフ南部にかけて,ヒートフロー付ピストン4点,ヒートフロー4サイト(13点)にて熱流量の暫定値を得た.温度―深度分布は,全サイトとも直線的であり,流体移動や水温変動などの擾乱の影響は見られず,表層では熱伝導による放熱が卓越していると考えられる.熱伝導率は全サイトで概ね 1 W m-1K-1 であり,典型的な海底表層堆積物の値と一致している. YR南部での熱流量データが増加したが,その値は到底一様とはいいがたく,既存値と合わせて40 mWm-2以下から120 mWm-2まで,大きくばらついている.YR南斜面での低熱流量は,おそらく現在の高速堆積の影響によるものであろう.あるいはYR内部で現在進行している可能性のある熱水循環の流入域にあたるのかもしれない.一方八重山海丘と石垣海丘の中間では8点のデータが得られた.ここはArai et al. (2017JGR)により「magmatic uplift」と名付けられた地形的高まりと,海底下4㎞のメルトレンズがある.今回海底地形調査の結果,比高100m程度の海山が2個東西に並んでいることを発見した.熱流量は,西側の海山の何縁および北縁に沿って計測したが,北縁では東に向かって徐々に値が増加することが分かった.特に2つの海山の中間地点では120 mWm-2とこの付近で最も高い値を記録した.同時に実施した構造探査では,海底下200-800msec(往復走時)のあたりに異常反射面が検出され,Araiによるメルトと関連した何等かの熱的活動の存在が示唆される. トラフ底のベース熱流量値は,現時点では明瞭に提示できない.南縁で70mWm-2程度でありこれがベース値とも考えられるが,この地点は南側からのタービダイト供給の影響があり得るため,基盤からの熱流量が擾乱を受けている可能性の検討が必要である.  今回は,掘削の事前調査という目的があり,局所的な特徴というよりは,沖縄トラフ全域の傾向を得ることが主目的ではあった.しかしながら,新たにマッピングされた地形高まりの周辺で局所的な熱流量異常が検出されたことは大きな成果である.そのため,当初の予測(どこでも一様な熱流量)から大いにはずれた結果を得た.今後観測・解析を行い,沖縄トラフの成因に迫っていきたい.

  • 蔡 之榕, 成瀬 元, 池原 研, KH-21-3 乗船研究者一同
    セッションID: R13-O-11
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    Okinawa Trough is an actively rifting back-arc basin and an important area for examining the tectonic history of the Ryukyu subduction zone (Arai et al., 2017). Past studies showed that the main sources of sediment deposition in the southern part of Okinawa Trough were Taiwan and the East China Sea continental shelf (Milliman & Kao, 2005; Katayama, 2007). The main process of sediment transportation to the Okinawa Trough was turbidity currents in addition to hemipelagic sediment transport. Estimating sediment flux from Taiwan as well as local sediment input from volcanic arcs into this region is important for understanding the development of the Okinawa Trough and the temporal changes in orogenic activity in Taiwan. However, the scale and source of turbidity current events related to the depositional process within the region is still unclear. The KH-21-3 expedition surveyed the southern part of Okinawa Trough and four piston cores were obtained. Each core contained more than one turbidite unit. In order to better understand the origin and scale of turbidity current events that resulted in turbidites in the southern part of Okinawa Trough, we conducted a 2D numerical experiment of turbidity current events using a shallow water equation model that reproduced turbidites in borehole cores. This presentation will contain a preliminary report of the characteristics of turbidites within the cores obtained from KH-21-3 and results from numerical experiments. Reference: Arai, R., Kodaira, S., Yuka, K., Takahashi, T., Miura, S., and Kaneda, Y. (2017), Crustal structure of the southern Okinawa Trough: Symmetrical rifting, submarine volcano, and potential mantle accretion in the continental back-arc basin, J. Geophys. Res. Solid Earth, 122, 622– 641, doi:10.1002/2016JB013448. Katayama, Hajime (2007): Budget and transport process of terrigenous sediments in the East China Sea. Chishitsu News, 634, 15-20.

R14(口頭)テクトニクス
  • 佐藤 比呂志, 石山 達也, 斎藤 秀雄, 中田 守, 加藤 直子, 阿部 進
    セッションID: R14-O-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    はじめに 震源断層の形状や活動性を明らかにすることは、発生する地震・津波災害や地震発生の中期予測にとって重要である。東北日本のような逆断層が卓越する地域では、しばしば断層関連褶曲が形成され、地表近傍での活断層と新第三系基盤岩中の断層の関係が複雑である。また、津軽山地の両縁のように逆断層が幅の狭い隆起帯を形成する場合には、地下での活断層システム全体の検討が必要になる。ここでは、文部科学省の「日本海地震・津波調査プロジェクト」において実施した2020年津軽半島横断地殻構造探査[1]と既存の地学資料に基づいて、津軽半島とその周辺の震源断層について述べる。

    データ取得 測線は青森湾西側から津軽山地を経て、深浦町千畳敷にいたる59 kmの区間である。反射法地震探査では標準区間においては50m間隔で受振器を展開し、バイブロサイス4台を用いて100m間隔で発震した。稠密区間(3区間、計35 km)では受振点間隔を25m、発震点間隔を50mとした。屈折法による速度構造解析のため、50ないし100回の多重発震を16点で行った。

    構造探査断面の地質構造 測線周辺の地質構造は、西傾斜の断層によって特徴づけられる。これらの断層群は、日本海拡大期に形成されたもので、津軽山地区間や白神山地区間では、P波速度5.4km/s以上の岩体(先新第三系)が周辺に比べ深く、沈降域は西傾斜の正断層運動と整合的な、東側で変化率が大きい非対処な形状を示している。津軽山地は東翼急傾斜、西側緩傾斜の非対称複背斜であり、東翼には津軽断層が分布する。津軽断層の東側には、この断層から分岐した青森湾西断層などの活断層が分布する[2]。津軽山地の西翼には、活断層である津軽山地西縁断層帯[3]が位置するが、山地東翼の断層群に比べ総変位量は少なく、地質構造からは津軽断層などの東翼のバックスラストと解釈される。西傾斜の津軽断層の上盤側で、厚い新第三系に相当する速度構造を示すことは、この断層が日本海拡大期に正断層として形成されたと推定される。1766年明和津軽地震(M7.0)の震央は、津軽断層の深部延長上に位置することから、この断層が震源断層である可能性が高い。津軽平野の鮮新世以降の短縮変形にともなう沈降運動は微弱で、大局的には津軽断層の上盤側に位置することと調和的である。津軽山地の隆起運動は、全体としては正断層の反転運動としてとらえることが可能であり、反転の過程で東翼にfootwall shortcut thrustを生み出し、津軽断層の東側に活断層を形成させた。こうした構造運動のみでは、青森平野から青森湾の先第三系基盤の低下については、説明することができない。この領域の深い堆積盆地の形成をもたらした要因としては、秋田-山形堆積盆地のような中絶リフトを考慮する必要があろう。

    津軽平野西縁断層 津軽山地には褶曲した厚い新第三系が分布し、平野との境界部では舞戸層や鳴沢層(鮮新-更新統)が急傾斜帯を形成している。速度構造から見て、山地の新第三系基盤は、平野側より低下し、堆積盆地の反転運動を示している。西側の白神山地で厚い堆積層を示す舞戸層は、上部では東方に向かって層厚が増加する。これは津軽平野西縁断層(新称)の正断層から逆断層への反転運動を示している。舞戸層の浮遊性有孔虫から[4]、この変形は3.5 〜1.2Maに開始された可能性が高い。 白神山地北縁の日本海沿岸には、海成段丘が分布することが知られている[5]。酸素同位体ステージ5e(12.5万年前)の海成段丘面高度は、津軽平野西縁断層の隆起側では西方に向かって次第に上昇し、ステージ5eの旧汀線高度は、100〜80 m程度となる。津軽平野西縁断層は重力異常にもよく現れており、西側隆起の構造として岩木山南西麓まで追跡できる。断層深部の傾斜は40度と推定されるので、ネットスリップは1 mm/年に達する可能性のあるA級の活断層となる。まとめ 活断層-震源断層システムは、現在とは異なるテクトニクスの元で形成された断層が、再活動しているケースが一般的である。従って震源断層の形状推定には、地球物理学的なイメージングとともに構造地質学的な検討が重要である。

    文献[1]佐藤比呂志ほか,2021年石油技術協会春季講演会 地質探鉱部門個人講演 17, 2021.[2]地震調査委員会:青森湾西岸断層帯の長期評価について,16p., 2004a.[3]地震調査委員会: 津軽山地西縁断層帯の長期評価について, 18p., 2004b.[4]根本直樹:化石,48, 17-33, 1990.[5]小池一之,町田 洋編: 日本の海成段丘アトラス, 122p., 2001.

  • 宇野 康司, 井手原 佑太, 森田 大智, 古川 邦之
    セッションID: R14-O-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    西南日本(内帯)の中生代における見かけの古地磁気極移動曲線(APWP)を構築し、大陸地域のそれと比較するために、西南日本の前期白亜紀110 Maの古地磁気極を決定した。古地磁気分析のための試料として、西南日本の中央部、吉備高原に分布する下部白亜系稲倉層の赤色岩が15地点から採取された。このうち11サイトから、アンブロッキング温度が670〜695℃の高温磁化成分が得られ、堆積岩形成時の初生的な特徴的残留磁化であると結論された。これらの初生磁化の方向を既報のものと合わせ、新たな平均磁化方向(D = 79.7°, I = 47.4°, α95 = 6.5°)と、それに対応する西南日本を代表する古地磁気極(24.6° N, 203.1° E, A95 = 6.8°)が得られた。この前期白亜紀の古地磁気極を、後期白亜紀および新生代の古地磁気極と合わせることで、西南日本の新しいAPWPが構築された。このAPWPは110-70 Maの間、極位置が静止していることを示しており、この地域に明瞭な変動が生じていなかったことを示唆している。この極移動の傾向は、同時代のユーラシア大陸のAPWPに見られる傾向と似ている。この静止状態の後、新生代に2つの大きな極移動トラックが存在する。これらのトラックは、新生代に2回発生した西南日本の時計回りの地殻変動と解釈される。1回目の地殻変動は古第三紀に生じており、中国東北部・遼東半島・朝鮮半島・西南日本から構成される東タンルーブロックの回転運動として生じた。2回目の変動は、新第三紀に日本海を形成する回転運動として生じており、このとき時計回りの回転を被ったのは西南日本のみであった。新生代のアジア大陸東縁部における多段階のリフティング活動が、本研究で観察された地殻変動の原因であると考えられる。この間欠的なリフティング活動は、中生代にアジア大陸とヨーロッパ-シベリア大陸が衝突して巨大なユーラシア大陸が成長したことにより誘発された可能性がある。

  • 中村 佳博, 宮崎 一博, 高橋 浩
    セッションID: R14-O-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    長野県南部に分布する赤石山地は,中央構造線を境界に領家花崗岩類と三波川帯―みかぶー秩父帯―四万十付帯が帯状に分布している.これらの基盤岩類は,中新世の伊豆―小笠原弧多重衝突に関連した回転変位によって現在の帯状分布が形成されたと考えられてきた(例えば狩野2002). 特に松島(1997)は大鹿地域の胴切り断層を境界に基盤岩が逆くの字型にめくれあがる大構造を提唱している.一方でこの構造が,四万十帯以外にも大きな影響を及ぼしたという年代的・変成岩岩石学的な証拠はない.そこで大鹿地域の詳細な地質構造を検討し,中央構造線及び伊豆弧衝突によって改変されたとされる赤石山地の広域テクトニクスを議論する.

    [中央構造線と鹿塩マイロナイト] 大鹿地域には幅1km程度の中温型・低温型マイロナイトが中央構造線に沿って露出している.このマイロナイトのジルコンU-Pb年代測定を実施すると,最も明瞭な年代クラスターは70.9 ± 0.3 Maの火成岩起源の粒子からなり,他の放射年代と組み合わせた冷却カーブは~34℃/Maとなる.Opening angle thermometryと狭在する泥質マイロナイトのP-T条件の制約から中温型及び低温型マイロナイトの変形温度を,それぞれ350―400℃, 450―550℃と見積もった. またPseudosection modelingと地質温度計で見積もったマイロナイト形成時の温度圧力条件を考慮すると,領家変成作用を経験した岩石が,三波川変成帯緑泥石帯~ザクロ石帯相当相の温度圧力条件 (450-530℃/ 4-8 kbar)まで沈み込むことで形成したと明らかにした.以上の情報を集約すると,71 Ma頃の最末期火成活動が終了後,69―67 Maと66―64 Maに大規模な構造運動によって活動的島弧から沈み込み帯へ領家変成岩が沈み込む時に鹿塩マイロナイトが形成されたと示唆される.その後沈み込み境界面で深部から上昇してきた三波川帯と接合し,60―50 Maには脆性ー延性転移領域 (BDT)を超えて現在の基盤岩構造の骨格が形成された.

    [大鹿地域の三波川帯~秩父帯~四万十帯] 大鹿地域には,低角度構造の弱変成秩父帯から四万十帯が広く分布すると報告されている(天竜川上流域地質図調査・編集委員会, 1984). しかし詳細な砕屑性ジルコンU-Pb年代測定を実施すると,小渋川流域及び塩川流域の弱変成秩父帯はすべて白亜紀前期の三波川帯 であることが明らかになった. 秩父帯が分布するのは,三峰川流域以北と仏像構造線付近の一部地域となり,大鹿地域ではみかぶ緑色岩の東側にも三波川帯がフェンスターとして露出する.一方でめくれ上がり構造の根拠となった小渋断層や他の胴切り断層は存在しておらず,すべて低角度な地質構造と南北系の実在断層で岩相分布を説明できる.

    これらの調査結果を総括すると,大鹿地域では三波川帯―みかぶ緑色岩―四万十帯が低角度な地質構造で露出することで,より構造的上位の地質体 (戸台層・秩父帯)が欠損している.この低角度な構造は,めくれ上がり構造に期待される逆転をともなう垂直な地質構造では説明できず,基盤岩分布は伊豆弧衝突前の構造を保存していると示唆される.つまり60-50 Maに起きた大部分な変成岩上昇イベントで周囲の付加体構造の分布も完成したことを示唆している.中央構造線では60-50 Maに,引張応力場で多数の正断層が形成されたことが報告されている (例えばKanai and Takagi, 2016).この時期は,Izanagi-Pacific ridgeが沈み込むタイミングでもある.この時の海嶺が底付け付加することで楔を変形させ,楔の鋭角度が上限を超えると,楔上部で正断層が生じる (Platt 1986). このモデルは高圧変成岩の上昇モデルとして提唱されているが,中央構造線及び周囲の付加体の構造発達史を考える上でも重要な古第三紀テクトニクスといえる.今後同様の低角度構造が分布する紀伊半島や四国中央部との対比を行い,中央構造線の活動と関連した白亜紀ー古第三紀テクトニクスの比較が必要である.

    [参考文献] 狩野 (2002), 地震研究所彙報, 77, 231-248. 松島信幸(1997), 飯田市美術博物館研究紀要,7,145-162. 天竜川上流域地質図調査・編集委員会 (1984), 中部建設協会, 414p. Kanai, T., & Takagi, H. (2016). Journal of Structural Geology, 85, 154–167. Platt, J. P. (1986). Geological Society of America Bulletin, 97, 1037–1053.

  • 志村 侑亮, 常盤 哲也, 竹内 誠
    セッションID: R14-O-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    【はじめに】西南日本外帯には,一般的に北から南へ,三波川(高圧型)変成岩類,秩父付加体,および四万十付加体が帯状に分布している.近年,砕屑性ジルコンU–Pb年代を用いた研究により,三波川変成岩類の陸源砕屑岩がジュラ紀の秩父付加体を越えて,その南方に分布する白亜紀の四万十付加体の陸源砕屑岩と同じ堆積年代を示すことが明らかになった(例えば, Aoki et al., 地質雑, 2007; Hara et al., Isl. Arc, 2017; Nagata et al., Isl. Arc, 2019; Tokiwa et al., J. Asian Earth Sci., 2021).すなわち,白亜紀当時の日本列島が位置していたプレート収束域においては,深部で三波川変成岩類が,浅部で四万十付加体が形成されていたことが想定できる.プレート収束型テクトニクスを理解する上で,同時期の高圧型変成岩類(三波川)と付加体(四万十)がどのように形成し,上昇の後,陸上に露出したのかを明らかにすることは重要である.これまで演者らは,三波川変成岩類と四万十付加体の境界が陸上で観察できる紀伊半島中央部において,野外での岩相・地質構造・変形構造の把握,炭質物ラマン分光分析に基づく変成温度の見積もり,および砕屑性ジルコンU–Pb年代測定に基づく陸源砕屑岩の堆積年代の制約を行ってきた.本講演では上記の研究結果を紹介すると共に,三波川変成岩類と四万十付加体を含めた白亜紀沈み込みメガコンプレックスの形成・上昇テクトニクスについて議論する.

    【地質区分の再検討】紀伊半島中央部に分布する白亜紀メガコンプレックスに関しては,1970年代より精力的に研究が行われてきた(例えば, 大和大峯研究グループ, 地球科学, 1976; 栗本, 地質雑, 1982; 佐々木・磯﨑, 地質雑, 1992; 竹内, 地調月報, 1996).しかし,先行研究の間で地質区分の踏襲や対比が行われず混乱を招いていた.演者らは,岩相と構造的位置に基づき,構造的上位から下位へ,香束・色生・麦谷・高原川・赤滝・槙尾コンプレックスの6つに区分することを提案する.

    【変形構造・変成温度・堆積年代】上記のコンプレックスは,変形構造の特徴に基づき,三波川タイプ(香束・色生)・麦谷タイプ(麦谷)・四万十タイプ(高原川・赤滝・槙尾)の3タイプに大分できる.三波川タイプでは片理面・伸長線構造・褶曲といった三波川変成岩類の上昇に関連した変形構造(例えば, Wallis, 地質雑, 1990)が,麦谷タイプでは四万十付加体の付加過程に関連したblock-in-matrix構造(例えば, Needham, Geol. Mag., 1987)とそれをオーバープリントする三波川変成岩類の上昇に関連した変形構造が,四万十タイプではチャート-砕屑岩シーケンスの繰り返しや四万十付加体の付加過程に関連した変形構造が認められる(Shimura et al., Isl. Arc, 2020; Shimura et al., J. Asian Earth Sci., 2021; 本研究).これら変形構造の違いに応じて,三波川タイプでは280~440 °Cおよび麦谷タイプでは280~290 °C(Shimura et al., J. Asian Earth Sci., 2021),四万十タイプでは280 °C以下(Awan and Kimura., Isl. Arc, 1996のイライト結晶度より)の変成温度が得られる.また,三波川タイプの陸源砕屑岩は後期白亜紀末期~暁新世初期,麦谷タイプの陸源砕屑岩は前期白亜紀末期~後期白亜紀末期,四万十タイプの陸源砕屑岩は前期白亜紀末期~暁新世初期の最若ジルコン年代を示す(例えば, 大藤ほか, 地学雑誌, 2010; 志村ほか, 地質雑, 2017, 2020; 太田ほか, 地質雑, 2019; Shimura et al., Isl. Arc, 2019, 2020; 本研究).麦谷タイプと四万十タイプでは下位ほど若くなる年代極性が認められる.

    【議論】以上の研究結果より,日本列島が位置していたプレート収束域では,前期白亜紀末期~暁新世初期に沈み込んだ物質が深部ほどより構造的上位に上昇したと考えられる.また,本テクトニクスが生じた時期は少なくとも暁新世初期以降であるといえる.四国西部の三波川変成岩類(三波川タイプ)には,始新世前期のひわだ峠層(成田ほか, 地質雑, 1999)が被覆している.白亜紀メガコンプレックスの上昇イベントが西南日本外帯の広域にわたって同時期に起きたとすると,本テクトニクスは近年提案されている60~50 Maのイザナギ-太平洋海嶺の沈み込み(例えば, Seton et al., Geophys. Res. Lett., 2015)と関連している可能性がある.

  • 山路 敦, 若森 奎
    セッションID: R14-O-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    方解石ではe面{01-12}にそって機械的双晶が形成される。これにともなって、方解石粒子は微小な剪断変形をこうむる。この双晶形成が可能なのは、剪断方向への分解剪断応力が、ある臨界値τcをこえる場合である(τcの値は5~10 Maとされる;e.g., Lacombe, 2010. Oil & Gas Sci., 65, 809-838)。この条件にもとづいて、双晶の三次元的姿勢情報から双晶形成時の偏差応力テンソルを推定するための逆問題を構成し、解くことができる。正確にいうと、決定されるのは主応力軸の方向、応力比、および、差応力をτcで規格化した無次元差応力である。双晶の方向データを5次元パラメータ空間に写像して得られるデータ点のクラスター解析を行うことにより、これが実現される。異なる時代の異なる応力状態でできた双晶が混在している場合には、複数の応力状態を分離検出することができる。検出すべき応力の妥当な数は、ベイズ情報量規準を使って推定される。

    本研究では、人工データを使ってこの方法の精度と分解能を検討した。応力を仮定して人工データをつくり、それからその応力が検出できるかを検討したわけである。また、天然データに適用し、双晶形成時の深度の推定を試みたので,概要を報告する。

    まず、単一の応力を仮定し、測定誤差やτc値の変動などの擾乱がある場合とない場合を検討した。その結果、測定誤差の影響が大きいことがわかった。といっても、解の誤差は角度の平均測定誤差の半分程度だった。次に無次元差応力の決定精度を検討した。その結果、これが12程度をこえない小応力でできた双晶では主応力軸も応力比も無次元差応力も精度よく決まった。しかしそれをこえた大応力でできた双晶のインバージョンでは、無次元差応力の精度は落ち、20程度を越えると精度を失った。しかしその場合でも、主応力軸と応力比は精度よく決定することができた。

    さらに、応力を2つ仮定して人工データを生成し、データから仮定した応力を復元できるか検討した。その際、両方の応力とも、応力比0.5と無次元差応力5を仮定した。主軸方向が2つの応力で近いほど分離しにくいことになる。テストの結果、2つの応力の主軸方向の不一致を表す角度が10~20°をこえると、応力を分離検出できることがわかった。これは地質学的研究で十分な分解能である。

    最後に天然データへの適用である。データは石垣島の始新統石灰岩中の方解石脈からEBSDでとられた102データである。結果として横ずれ断層型応力と正断層型に近い応力が検出された。無次元差応力はそれぞれ9.25と32.3であった。後者は上記の限界を超えているので、32.3という値はたんに無次元差応力が101の桁というぐあいに大きかったことを示すにすぎない。そこで、精度がよいと思われる横ずれ断層型のほうについて、双晶形成時の深度を検討した。すなわち、主軸方向と応力比と無次元差応力がわかったので、Byerlee則を仮定し、τcを5~10 MPaと置いて摩擦すべりの臨界有効応力を計算し、最小埋没深度を見積もったところ2~4 kmとなった。これはこの地域の新生代地史やtectonic settingと矛盾しない値である。

  • 若森 奎, 山路 敦
    セッションID: R14-O-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    方解石の機械的双晶から差応力と埋没深度を推定した.その結果,地質学的に矛盾の無い結果が得られたので報告する.方解石双晶の方向データについて,双晶を形成したときの主応力軸の方向・応力比・無次元差応力(双晶を形成するための分解剪断応力τcで差応力を規格化した値)を決定する逆問題を構成し,解くことができる(山路・若森,本セッション).他方,方解石双晶では,その密度(単位長さあたりの双晶ラメラの数)から差応力を推定する方法も広く行われている.密度から差応力への換算式には,Rowe and Rutter (1990), Sakaguchi et al. (2011), Rybacki et al. (2013) などがある.しかしRybackiらの実験結果を見ると,密度と差応力との相関はよくない.差応力へのこれら2つのアプローチを,実データにもとづいて比較してみた.

     外房地域の中期中新統天津層中の2地点の方解石脈から採られた方解石多結晶体に,まず前者の方法を適用した.その結果,2試料からあわせて6種類の応力が検出された.それらの主軸方向は,小断層解析で推定されていた応力と調和的である.差応力の決定については,τcの値が不確定であることがこのアプローチの弱点なのだが,変形実験で推定されているτcの値5~10 MPa(e.g., Lacombe, 2010)を使うと,決定された差応力は > 100,22~44,43~86,15~30,19~38,23~46 MPaとなった.無次元差応力が20程度より大きな高差応力でできた双晶では,無次元差応力の決定精度が落ちる.そこで,100 Maをこえるという最初の解を,下の議論からはずす.

     差応力と応力比と主軸方向が分かれば、Byerlee則を仮定し,双晶形成時の埋没深度の最小値を決定することができる(山路・若森,本セッション).Kamiya et al. (2020) にならって上載層の代表的密度を2100 kg m3とすると,サンプリング地点の最小深度は1.1~2.3,1.5~3.1,1.5~3.0,2.2~4.4,2.1~4.2 kmとなった.これらは外房地域の層序と矛盾がない.すなわち,試料採取層準から上総層群上部までの積算層厚は約4 kmだから(中嶋ほか,1981;七山ほか,2016;宇都宮・大井,2019),サンプリング地点の埋没深度が1~4 kmのときに双晶が形成されたと考えられる.

     双晶密度の平均値は2つの試料で55.9 /mmと59.6 /mmであった.Rowe and Rutter (1990)の換算式を使ったところ,上記の2サンプルから推定した差応力は247 ± 43 MPaと251 ± 43 MPaとなった.これらの値を深度に換算すると20 kmをこえ,天津層の最小埋没深度として非現実的な値になってしまった.原因ははっきりしないが,換算式を作るための変形実験が比較的高温かつ高応力で行われているため,地下数kmという浅所には適用できないのかもしれない.今回,双晶密度による差応力の推定値が過大になった原因は,この推定方法が単一の応力ステージしか考慮していないことも可能性として考えられる.複数の応力ステージを経験した今回の試料では,密度から換算した差応力が過大評価されたと考えられる.

    【引用文献】Kamiya et al., 2020, Island Arc, 29, e12344. / Lacombe, 2010, Oil Gas Sci., 65, 809–838. /中嶋ほか, 1981, 鴨川地域の地質,1/5万地質図幅./ 七山ほか,2016,茂原地域の地質,1/5万地質図幅./ Rowe and Rutter, 1990, J. Struct. Geol., 12, 1–17. / Rybacki et al., 2013, Tectonophysics, 601, 20–36. / Sakaguchi et al., 2011, Geophys. Res. Lett., 28, L09316. / 宇都宮・大井,2019,上総大原地域の地質,1/5万地質図幅.

  • 相山 光太郎, 福地 亮, 飯田 高弘
    セッションID: R14-O-7
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    1.はじめに

     山口県北東部には,迫田-生雲断層と徳佐-地福断層がNE-SW方向に並走する(佐川ほか,2008).山内・白石(2013)は,両活断層に挟まれた区間で,複数の沢・尾根の右屈曲等の断層変位地形をENE-WSW方向に連続的に確認し,新たな活断層として長門峡断層を抽出した.しかし,長門峡断層では断層露頭が確認されておらず,その性状や活動時期はほとんど明らかにされていない.我々は,断層破砕部性状を用いた断層活動性評価手法の確立を目的とした調査の一環として,山口市阿東生雲東分渡川の段丘上で長門峡断層を対象としたトレンチやボーリングを掘削した.本発表では主に,トレンチ調査で確認された複数の断層破砕帯や断層面,長門峡断層の活動時期について報告する.

    2.断層破砕帯と未固結堆積物層の概要

     トレンチ壁面下部に分布する基盤岩は溶結凝灰岩から構成され,北東壁面の中央部と南東部,南西壁面の中央部では,溶結凝灰岩起源の断層破砕帯が認められた(添付図).北東および南西壁面の中央部に認められる破砕帯は,長門峡断層のトレース上に位置し,その幅は0.7~1.3 m程度である.また,破砕帯を構成する断層ガウジは4枚のガウジ層からなる層状構造を有し,その4枚のガウジ層はそれぞれ,淡灰色や灰色,淡緑灰色,緑灰色を示す.北東壁面の南東部に認められる破砕帯は幅3~20 cm程度であり,断層ガウジやプロトカタクレーサイトから構成される.断層ガウジは主に白色を呈し,層状構造を伴わない.

     基盤岩の上位に分布する未固結堆積物層で14C年代分析やOSL年代分析を実施した結果,Ⅰ層(段丘礫層)上部で129 ± 18 ka,Ⅴ層(崖錐堆積物層)で6,945–6,797 cal BP,Ⅵ層(ローム層)で4,778–4,437 cal BPなどの年代値が得られた.また,Ⅱ層(湿地堆積物層)中には約13万年前に噴出したAso-3テフラ層が分布する.

    3.断層面の性状

     断層面は上述の断層破砕帯沿いや,その断層破砕帯の上位で認められる(添付図).北東および南西壁面の中央部に認められる複数の断層面は,未固結堆積物層を剪断・変形させていることから,第四紀以降に活動したもの(本論では,活断層面と呼ぶ)であり,横ずれ断層に特徴的な花弁構造を6ヶ所で形成している.これらの活断層面のうち,南西壁面で最も連続するものは,現世土壌のⅦb層直下まで剪断する唯一の活断層面であることから,長門峡断層の最新滑り面であると判断した.この最新滑り面の走向・傾斜はN70~80°E・82° NW~78° SEである.さらに,北東壁面の下部から上部にかけて最も連続する活断層面は,その分布位置や分布形態(花弁構造を伴う),走向・傾斜(N71~72°E・70~86° NW)が,南西壁面の最新滑り面のそれらと酷似していることから,南西壁面の最新滑り面の延長部,つまり最新滑り面であると判断した.両壁面の最新滑り面上に分布する条線のレイク角は10° NEであり,長門峡断層が横ずれ主体の運動センスであることを示す.この運動センスは最新滑り面を含む活断層面が花弁構造を形成していることと矛盾しない.

     北東壁面の南東部に認められる断層面はⅠ層に覆われ,上位の未固結堆積物層に変位を与えていないことから,第四紀以降に活動していない断層面(非活断層面)である可能性がある.この断層面は断層ガウジとプロトカタクレーサイトの境界に分布し,走向・傾斜はN42~50°E・50~53° SEである.また,断層面上の条線のレイク角は82° SWであることから,縦ずれ主体の運動センスを示し,長門峡断層の横ずれ主体の運動センスと一致しない.

    4.活動時期と活動間隔

     花弁構造を構成する活断層面と未固結堆積物層との剪断・被覆関係等からイベント層準を認定した結果,長門峡断層は約13万年前以降から約6,800年前以前の間に少なくとも2度活動した後,約4,500年前以降に2度活動したことが確認された.このことから,長門峡断層の約6,800年前以前の活動間隔は約4,500年前以降のそれに比べ長かった可能性があげられるが,本断層は横ずれ主体であるため,トレンチ壁面から全てのイベントを抽出できていない可能性がむしろ高いと考えられる.

    謝辞

     本研究の内容は,14C年代分析やOSL年代分析を除き,電力委託研究「破砕部性状等による断層の活動性評価手法の高度化に関する研究(フェーズ2)」によって行われた研究成果の一部である.ここに記して感謝の意を表する.

    引用文献: 1) 佐川ほか,2008,応用地質,49,78‒93.2) 山内・白石,2013,立命館地理学,25,15‒35.

  • 相山 光太郎, 平野 公平
    セッションID: R14-O-8
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    断層運動で変形した粘土鉱物粒子は定向配列を示すことが知られている(例えば,Janssen et al., 2012).一方,熱水変質により新たに晶出され,断層運動で変形していない粘土鉱物粒子は面-端および端-端接触を伴うランダム配列を呈していた(Janssen et al., 2012, 2014).したがって,ある断層面が活動を停止した後に熱水変質を被った場合,その断層面を構成する粒子の間(表面)にランダム配列を示す粘土鉱物粒子が新たに晶出する可能性がある.また,新たに晶出した粘土鉱物粒子は一部で断層面を横断しているかもしれない.

     長門峡断層は山口県北東部に分布する活断層であり(山内・白石,2013),溶結凝灰岩主体の阿武層群(白亜紀後期)に発達する(今岡ほか,2019).本断層の周辺では,現在の地温勾配は20 ℃/kmで29 ℃以上の温泉は存在しないが,白亜紀後期の火成活動で形成された蔵目喜銅山や,0.165 MaのK-Ar年代を示す第四紀火山が分布するため(高橋,1971; Furuyama, et al., 2002; 西村ほか,2012),白亜紀後期から中期更新世までの間には,熱水活動があった時期があると考えられる.

     本研究では,長門峡断層で掘削されたトレンチ(相山ほか,2021)から,約4,500年前以降に活動した断層面(F1)と約13万年前の段丘礫層に覆われる断層面(F2)の試料をそれぞれ,断層ガウジとカタクレーサイトの境界から採取し,SEM・STEM観察等を実施した. SEM観察では,凍結乾燥処理した断層面上を観察した.またSTEM観察では,SEM観察した断層面から条線に平行・断層面に直交する方向で採取された薄片(F1,またはF2を伴う断層ガウジ試料)に含まれる粘土鉱物粒子の分布形態等を観察した.

     F1:SEM観察の結果,F1上には条線が認められ,F1はナノサイズの板状粒子(粘土鉱物粒子)から構成されていた(図aおよびb).STEM観察の結果,粘土鉱物粒子は顕著に定向配列し,P面を形成するものや,F1やR1面に沿うものがある(図c~e).以上のSEM・STEM観察では,F1を横断する鉱物粒子やランダム配列する粘土鉱物粒子は認められなかった.

     F2:SEM観察の結果,F2上には条線が認められ,多くのランダム配列するイライト粒子と,いくつかの重晶石が見られた(図f~i).重晶石周辺のF2はバルジ状に盛り上がり,クラックを伴う.また,F2は2 μm程度の粘土鉱物粒子から構成されていた.STEM観察の結果, F2は重晶石を中心に凸状を呈し,重晶石に横断されていたことから(図jおよびk),断層活動後(F2形成後)に重晶石が断層ガウジを押し広げながら晶出・成長することで,F2が凸状に変形し,クラックが形成されたと考えられる.

     以上の結果から,F2は重晶石やランダム配列するイライト粒子が晶出して以降,活動していないと考えられる.また,トレンチ横で掘削されたボーリングコアに認められる熱水粘土脈中のイライトでK-Ar年代分析を実施した結果,73.2 ± 1.6 Maの年代値が得られた.したがって,F2で認められたイライト粒子は約73 Maの熱水活動で晶出した可能性がある.さらに重晶石もまた,熱水鉱脈に産する場合があることから(例えば,黒田・諏訪,1983),その熱水活動に関連して晶出したのかもしれない.一方,近傍にあるF1も約73 Maの熱水変質を被っていた場合,その熱水変質以降(例えば,約4,500年前以降)の断層活動によりイライト粒子は定向配列し,重晶石は粉砕されて確認できなくなった可能性がある.

     本研究のSEM分析結果は,電力委託研究「破砕部性状等による断層の活動性評価手法の高度化に関する研究(フェーズ2)」によって行われた研究成果の一部である.ここに記して感謝の意を表する.

    引用文献 1) 相山ほか,2021,日本地質学会第128年学術大会講演要旨.2) Furuyama et al., 2002, Bull. Volcanol. Soc. Japan, 47, 481–487. 3) 今岡ほか,2019,地質学雑誌,125,529–553.4) Janssen et al., 2012, Jour. Struct. Geol., 43, 118–127. 5) Janssen et al., 2014, Jour. Struct. Geol., 65, 100–116. 6) 黒田・諏訪,1983,偏光顕微鏡と岩石鉱物 第2版,343p.7) 西村ほか,2012,山口県地質図 第3版(15万分の1)および同説明書,167p.8) 高橋,1971,温泉科学,22,39–46.9) 山内・白石,2013,立命館地理学,25,15‒35.

R16(口頭)ジュラ系+
  • 松岡 篤, 黒田 潤一郎, 田中 えりか, 安川 和孝
    セッションID: R16-O-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    【はじめに】  ジュラ・白亜系境界(JKB)の国際境界模式層断面とポイント (Global Boundary Stratotype Section and Point: GSSP)の策定は,顕生累代で唯一GSSPが未決定の系境界であるため,緊急の課題となっている.この策定に対して大きな力をもつ国際白亜系層序小委員会(ISCS)のベリアシアン作業部会(BWG)の活動について紹介する.このことに関連して,北西太平洋域における国際深海掘削計画についても触れる.

    【ジュラ・白亜系境界GSSP策定の現状】 JKB のGSSP策定に際し,BWGはCalpionella alpina 亜帯の下限を主要マーカーと定め,その候補として南フランスのTre Marouaセクションを2019年に提案した.しかしながら,ISCSのvoting memberによる票決の結果,この提案は支持されなかった.こうした状況を受けて,2021年1月に新たにBWGが組織されることとなった.新しい委員長は,ポーランド地質研究所のJacek Grabowskiである.2021年6月時点で17名の委員のうちアジアからの委員は,松岡と南京地質古生物研究所のLi Gangの2人である.この作業部会の使命は,これまでのBWGと同様に,JKBを定義する主要マーカーを定めることと,ベリアシアンのGSSPを提案することにある.BWGは2月に初回のオンライン会議をもち,これからの活動方針を決めるとともに,定期的にオンライン会議をもつことを合意した.これまで,GSSPの関連で検討されてこなかった中南米のセクションを検討項目に加えるとともに,パンサラサの遠洋域における各種層序をレビューするということも方針に加えられた.これには,大洋底堆積物における微化石層序や古地磁気層序のレビューも含まれる.

    【今後の方向性】 第1回目のBWGオンライン会議は2021年2月11日に開催された.そこでは,アルゼンチンのNeuquen Basinの研究成果が発表された.アンデス山脈の東側の高地に分布する背弧海盆堆積物には島弧からの火山灰も挟まれておりジルコンU-Pb年代が精度よく求められている.この結果によると,これまでのJKBの数値年代よりも5 m.y.程度若い年代が得られている.今後,アルゼンチンのセクションがGSSPの有力な候補となることが予想される.これまで,日本のジュラ・白亜系の層序は,テチス海沿いに対比を繋いでヨーロッパの層序と比較することが多かった.今後は,パンサラサを挟んで対岸の中南米のセクションとの対比が重要性を増す.北西太平洋の遠洋域深海の堆積層は,生層序,化学層序,古地磁気層序などの層序対比に関して高い潜在能力をもつ.西太平洋の遠洋域で得られた層序は,海成層と陸成層とが交互に累重する日本の層序を介して,アジア内陸部の非海成層との対比へと展開しうる.JOIDES Resolution号が太平洋域の戻ってくるタイミングを計って,北西太平洋域におけるIODPによる深海掘削を提案している.

R17(口頭)情報地質とその利活用
  • 升本 眞二, 水落 啓太, 野々垣 進, 根本 達也
    セッションID: R17-O-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    1.はじめに

     DEM(Digital Elevation Model: 数値標高モデル)は,地球科学分野の基本情報として広く利用されている.DEMは高分解能なものほど,精度の高い表現や解析が可能である.近年,深層学習(Deep learning)による超解像技術の応用として,DEMの高分解能化が試みられている(Chen et al., 2016; 日高ほか, 2021など).本研究では,SRCNN(Super-Resolution Convolutional Neural Network: Dong et al., 2014)による超解像技術を用いたDEMの高分解能化手法の開発について述べる.

    2.原理と手法

     SRCNNは特徴抽出,非線形マッピング,再構築の3層のCNNを用いて,低解像度の画像と高解像度の画像の関係性を学習し,低解像度の画像から高解像度の画像を得る手法である.本研究で開発した手法では,DEMから求めた傾斜方位と傾斜量を合成したイメージの高分解能化にSRCNNを用いた.データには,1 mメッシュの航空レーザ測量データから作成された「兵庫県_全域DEM(2010年度~2018年度)」を使用した.兵庫県中部の20×20 kmの範囲を200×200 mに分割した分解能1 mの高分解能DEM(200×200セル)と,それを分解能5 mに間引いた低分解能DEM(40×40セル)とのセットを10000セット作成し,学習・検証用に9000セット(学習:検証=8:2),残りを評価用に用いた.

     学習と高分解能化の流れをFigure 1(a)に示す.分解能5 mのDEMをBicubic法で1 mの分解能にリサイズ(アップサンプリング)し,傾斜方位と傾斜量を求める.傾斜方位をH(色相),傾斜量をV(明度)に割当て,S(彩度)を固定してHSV色空間モデルを作成し,RGB(各0.0~1.0)の3chに変換する.実際には,情報の劣化を防ぐために画像化はしていない.高分解能DEMも同様に変換し,これらを用いてSRCNNで学習して,学習モデルを構築する.学習は損失関数(平均二乗誤差)とPSNR(ピーク信号対雑音比)で最適化した.

     構築した学習モデルを用いて,評価用の5 m分解能のDEMを同様に変換したものから,高分解能のHSVモデルを得る.このHSVモデルを各座標での傾斜方位と傾斜量に変換して200×200=40000点の地点データとする.また,5 m分解能のDEMの標高値を40×40=1600点の地点データとする.面推定プログラムBS-Horizon(野々垣ほか,2008)のVisual Basic版であるTerramod-BS(坂本ほか,2012)を用いて,これらの2種類の地点データから分解能1 mのDEMを推定する.

    3.結果

     高分解能化の例として,Fig. 1(b)の分解能1 mのDEMを間引いて作成した(c)の分解能5 mのDEMを用いた結果を(d)と(e)に示す.Fig. 1(d)は補間(Bilinear,Bicubic,BS-Horizon)による結果であり,(e)はSRCNNによりDEMの標高情報のみを高分解能化した結果,HSVモデルを高分解能化して得られた傾斜方位・傾斜量と分解能5 mのDEMの標高値から,直接計算した結果とTerramod-BSを用いて面推定した結果である.評価のための指針としてRMSE(Root Mean Square Error)とPSNR(Peak Signal-to-Noise Ratio)も示した.これらの中では,ここで開発した手法が精度が一番よく,崖などの地形的特徴も最も良く再現できていることがわかった.なお,高分解能化の比較では,地形の標高が滑らかに連続して変化することを前提とする補間と標高の急な変化等を特徴として表すことを前提とする超解像との根本的な違いが表れていると考える.

    4.おわりに

     開発した手法により地形の特徴を表した高分解能化が概ね実現できた.今後,超解像の他の多様な方法での検討も行っていきたい.

    文献

    Chen et al., 2016, ISPRS-Archives, XLI-B3, 247-250.

    Dong et al., 2014, Computer Vision – ECCV 2014, 184-199.

    兵庫県, 2020, 兵庫県_全域DEM(2010年度~2018年度). G空間情報センター.

      https://www.geospatial.jp/ckan/dataset/2010-2018-hyogo-geo-dem(2021年6月25日)

    日髙弥子ほか, 2021, 情報地質, 32, 3-13.

    野々垣進ほか, 2008, 情報地質, 19, 61-77.

    坂本正徳ほか, 2012, 情報地質, 23, 169-178.

  • 野々垣 進, 升本 眞二, 根本 達也
    セッションID: R17-O-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
    会議録・要旨集 フリー

    地下の地質構造を3次元で表すモデル(3次元地質モデル)は,インフラ整備やハザードマップ作成に必要不可欠な空間情報のひとつである.建築物や道路が地表のほとんどを覆う都市部では,地下数十メートルを対象とした3次元地質モデルを作成する場合,地下の状態を直接観察した結果であるボーリングデータについて地層の対比処理を行い,その結果を基に地質構造を推定することが多い(納谷ほか, 2018,2021など).しかし,地層の対比には堆積学や層序学等に関する高度な知識と技術が必要であり,その作業には膨大な時間がかかるのが一般的である.他方,近年,公共工事で得られた多数のボーリングデータが,国や自治体によって標準的なデータ形式(国土交通省,2016)で収集・管理されるようになってきた.この動きは今後も継続すると考えられ,ボーリングデータにおける地層対比を迅速かつ正確に実施する技術を開発できれば,従来よりも詳細な3次元地質モデルの作成につながると期待できる.本研究では,この技術開発の第一段階として,機械学習を利用してボーリングデータに記載された情報から地層名を予測する方法について検討した.

     ボーリングデータにおける地層の対比は,地盤の特徴を定量的に表した値(特徴量)を入力データ,地層名ラベルを出力データとする教師あり学習の分類問題と考えられる.ここでは,利用するボーリングデータは鉛直方向に掘削して得られたものという前提のもと,ボーリングデータから鉛直方向について等間隔に抽出した地盤の特徴量を機械学習に用いる.地盤の特徴量には,標高,主となる岩石・土質,混合物の種類とその割合,標準貫入試験結果(N値)を用いる.混合物の種類とその割合については,岩石・土質名に記載される頻度の高い,泥,シルト,砂,礫,有機質土,火山灰,貝殻を対象とし,岩石・土質名から導く.

     上記の特徴量を利用した機械学習による地層対比の有効性を調べるために,代表的な教師あり分類アルゴリズムおよび5層から構成されるニューラルネットワークそれぞれを用いて,10種類の特徴量から4種類の地層名ラベルを予測するテスト計算を実施した.教師あり分類アルゴリズムには,サポートベクターマシン,決定木(ランダムフォレスト),k近傍法を用いた.また,テスト計算用の特徴量および地層名ラベルのデータセット作成には,納谷ほか(2018)で利用された1,654本のボーリングデータおよびそれらに関する地層の対比データを用いた.テスト計算では,全ボーリングデータのうち1,300本のボーリングデータから抽出した特徴量を学習データ,残りの354本から抽出した特徴量を評価データとした.それぞれの機械学習から得られる地層対比モデルの評価には,交差検証とHold-out法を利用した.地層対比モデルの評価指標には,評価データに対する正解率とCohen(1960)によるkappa係数を利用した.交差検証では,学習データを東側に分布するものから順に5グループに等分し,4グループを訓練データ,1グループを検証データとする5分割交差検証を実施した.その結果,いずれの分類手法においても,評価データに対する正解率は85%以上,kappa係数は0.77以上を示した.Hold-out法では,学習データのうち70%を訓練データ,30%を検証データとして地層対比モデルを作成した.ただし,検証データはランダムに選択した.その結果,評価データに対する正解率およびkappa係数は,交差検証の結果と同様の値となった.

     現時点では,機械学習に入力する地盤の特徴量はそれぞれ,ボーリングデータのある一点に焦点をあてたものとなっており,その周辺における特徴量についての情報を含まない.しかし,地層は広がりをもつものであるため,周辺の特徴量を効果的に含ませることができれば,地層対比の精度を向上できると考える.今後は,ボーリングデータから抽出する特徴量の種類について検討を進めるとともに,周辺の特徴量を活用する方法についても検討していく予定である.本研究はJSPS科研費JP19K04004の助成を受けたものである.

    文献

    Cohen, J., 1960, A Coefficient of Agreement for Nominal Scales. Educational and Psychological Measurement, 20, 37–46.

    国土交通省,2016,地質・土質調査成果電子納品要領.国土交通省,50p.

    納谷ほか,2018,都市域の地質地盤図「千葉県北部地域」説明書.産総研地質調査総合センター,55p.

    納谷ほか,2021,都市域の地質地盤図「東京都区部」説明書.産総研地質調査総合センター,82p.

  • 斎藤 眞
    セッションID: R17-O-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
    会議録・要旨集 フリー

    2017年に20万分の1日本シームレス地質図V2(=V2版)(*1)を公開した.凡例は地質図に示される情報量を支配し,その時の地質学的な進展状況を反映する.20万分の1日本シームレス地質図(=旧版)は1992年の100万分の1日本地質図第3版の凡例をもとに作られていたため,凡例数は基本版で約180,岩相区分を増やした詳細版では約380であった.V2版では,これ以降の25年の地質学的知見を加えた新たな凡例を作成して全面改定を行った.凡例はコード化され,火成岩,堆積岩,付加体,変成岩に区分され,それぞれ[形成年代]_[岩石種]_[変成分帯/付加年代]のコードで示されている.これにより計2400超の凡例となった(*2).

     この凡例ではコンビューターで扱うことを想定して,それぞれコードの一部削っていくことによって,より簡素化した凡例にできるよう構造化されている.しかし凡例構造を理解して簡略化し,必要な用途に使い分けるには地質学的知識が必要であり,簡略版の凡例を作って欲しいという意見があった.さらに,この地質図を防災用途として自治体で利用したり,これまで使われていない新しい分野で使ったりしてもらうためには,それら用途に応じたかなり簡略化した凡例が必要である.

     このため,まずは旧版の凡例数に近い数の凡例数を持つ凡例に簡素化し,そこからさらに用途別に簡略化することを考え,簡略化の試案を作成した.

     形成年代については白亜紀を2区分,ジュラ紀以前は紀で1区分ないし複数の紀で1区分とした.また,岩石種も大幅に簡略化し,堆積岩では非海成,汽水成,海成と石灰質,珪質ほかとし,火成岩も珪質,苦鉄質,超苦鉄質程度とした.また付加体もこの岩石種区分に従い,さらに変成岩も付加体の岩石種区分を援用して簡略化した.変成分帯についいても高/低に2区分程度とした.

     これにより旧版の基本版程度で,現実に存在する凡例の数として200程度,旧版の詳細版程度で500程度に縮小できた.今後これらの凡例を適用した地質図を作成し,V2版の活用先を増やしていく予定である.

    *1 https://gbank.gsj.jp/seamless/

    *2 https://gbank.gsj.jp/seamless/v2/legend.html

  • 宮地 良典, 野々垣 進, 藤原 治, 渡辺 真人
    セッションID: R17-O-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
    会議録・要旨集 フリー

    地質情報は人々の生活と深く関係する時空間情報であり,効果的に利用できる環境を整えることにより,より豊かな社会の実現につながると期待できる.産総研地質調査総合センターでは,日本の地質研究の黎明期から140年にわたり多様な地質情報を整備し,5万分の1地質図幅や地質図Navi[URL1]をはじめとして,紙の印刷物やインターネットなどを通して積極的に地質情報を社会へ発信してきた.しかし,そのような地質情報の利用者のほとんどは,減災・防災や資源開発等に携わる研究者や技術者であり,一般の人々による地質情報の利活用,すなわち地質情報の社会実装は十分には進んでいないのが実状である.

     地質学に関する専門的な知識や技術をもたない人でも地質情報を手軽に利用できるようにすることを目的に,ハード・ソフト両面での利用環境を検討した.ここではその一例として試みた,拡張現実(Augmented Reality: AR)技術を利用して,スマートフォンのカメラ越しに見える風景(以下,カメラ風景)に地質情報を付加して表示するアプリの開発について報告する.

    本アプリの機能は,大きく次の3つにまとめられる.

    1.地質図オーバーレイ機能:カメラ風景に,あらかじめ登録した地質図画像を重ね合わせて表示する機能である.地質図画像の透過度を調節することで,地質と地形・植生などとの関係を一目で理解できるようになっている.

    2.鳥瞰機能:あらかじめ登録した地形情報を利用して,アプリの利用位置周辺の鳥瞰図を表示する機能である.地質図画像のオーバーレイもできるため,カメラ風景よりも広域的に地質図を閲覧したいときに有効である.

    3.ジオサイト案内機能:カメラ風景や鳥瞰図に,あらかじめ登録したジオサイトをマーカー表示する機能である.ジオサイトのマーカーをタップすることにより,そのサイトの概要を画像付きで閲覧できる.また,スマートフォン搭載GPSから得た位置情報をGoogle Mapsと連携する機能を実装し,現在地からジオサイトまでの経路検索も可能となっている.

     上記の機能は,地質図に馴染みのない人が日常生活の中で,専門家を伴わずに地質情報に触れ合うことを可能とする.また,これにより現在のような集団行動が制限される状況下においては,少人数での地質見学を開催するうえで有用なツールになると期待される.

     本アプリは2020年に基本設計と茨城県南部の筑波山周辺をモデル地域とした地質情報のデータセットの搭載が行われた.2021年2月には,茨城県つくば市の支援事業を通して,一般の方を対象としたユーザビリティに関するモニター調査を行った[URL2].その結果,インターフェイスやユーザーニーズに合わせたコンテンツの搭載などの課題はあるが,地質の理解を深めるうえのツールとして有効であることが分かった.今後改良を加え社会実装につなげたい.

    [URL1] 産総研地質調査総合センター,地質図Navi,https://gbank.gsj.jp/geonavi/.

    [URL2] つくば市,令和2年度つくばSociety 5.0社会実装トライアル支援事業,https://www.city.tsukuba.lg.jp/shisei/torikumi/kagaku/1005023/1012294.html.

R18(口頭)環境地質
  • 川端 訓代, 渡部 真衣, 北村 有迅, 中野 亮典, 冨安 卓滋
    セッションID: R18-O-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
    会議録・要旨集 フリー

    ラドンは不活性のガスとして存在し水に対する溶解度が高く岩石の間隙流体や地下水に容易に溶け込むことが知られている.そのため,水中ラドンは地下の岩石種のトレーサーや地下水の帯水層の情報を得るために測定されてきた.また,岩石から放出されるラドンは亀裂の増加や,岩石・水比の変化,間隙率変化をもたらす地殻歪変化によって濃度が変化するため,地震などの地殻変動検との関係についても調査されてきた.(例えばUlmov and Mavashav, 1971; Wakita et al., 1980; Igarashi et al., 1995; Kuo et al., 2006; Tsunomori and Tanala, 2014).

    鹿児島県には活断層や断層が多く存在し,温泉施設も多い.本研究では特に鹿児島市近辺の温泉・地下水中のラドン濃度を測定し,市内に分布する活断層・断層と水中ラドン濃度の関係について考察を行う.鹿児島市内の温泉水は現在の一般的な地温勾配に従って温度が高くなることから,マグマや火成岩の熱的な影響を受けていないことが明らかとなった.また酸素水素同位体分析結果から,断層近傍の温泉でマグマに関係した水の混入が認められた.水中ラドン濃度測定の結果,基盤岩である四万十累層群とその上位に堆積する火砕流堆積物の帯水層から得られる水中ラドン濃度に顕著な差が認められた.これは帯水層が多孔質であるか否かという岩石の性状に起因している可能性が高く,多孔質の火砕流堆積物ではラドン濃度が高くなり,間隙が少ない四万十累層群では低くなるためと考えられる.温泉水中ラドン濃度分布から,活断層や基盤岩中に発達する断層付近においてラドン濃度が高い温泉が認められた.これらの温泉は岩石中の比表面積や間隙が大きい断層を流路としている可能性が考えられる.特に鹿児島市下の基盤岩グラーベン構造を作る断層近傍の温泉は,マグマの影響を受けた水が断層を流路として上昇している可能性が考えられる.

    また,鹿児島市内には,ヒ素が検出される井戸が確認されている.これらの井戸の深度は不明なことが多く,汚染源が特定されていない.本発表では,上記のラドン濃度と地質の関係から,深度不明井戸の地下水中ラドン濃度を測定し,汚染源深度を推定する試みについても発表を行う.

    Igarashi et al., Science, 269, 1995

    Kuo et al., Ground Water, 44, 2006

    Tsunomori and Tanaka, Radiat. Meas, 60, 2014

    Wakita et al., Science, 207, 1980

    Ulmov and Mavashav, Akad. Nauk Uzbek, 1971

  • 藤崎 克博
    セッションID: R18-O-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
    会議録・要旨集 フリー

    地下水モデルのパラメータ(透水係数など)を観測値(地下水位など)から求める逆解析は,数学的に難しいことと適当な解析ソフトがないことから,わが国での普及は進んでいない.筆者は,汎用ソフトPEST(Doherty, 2018)を用いて,静岡市の汚染事例(藤崎他,2005)について解析をおこなった(藤崎,2019a;2019b;2020).濃度観測値をそのまま使用した場合,格子幅を小さくするにつれて小さい透水係数と大きな涵養量,大きな透水係数と小さい涵養量が交互に求められる不自然な結果となった.また,計算濃度分布も観測値の分布と異なっている.高濃度観測値の方が目的関数への寄与が大きいため,それらに偏ってパラメータが修正されると考え,観測値を対数変換した.透水係数・分散長は元のパラメータに近い値が求められ,計算濃度分布も観測値に近いものとなった. 茂原市の汚染事例(藤崎他,2005)について,地下水位観測値12個(定常状態),TCE濃度観測値214個(1989/11~1998/2)に対応する出力値を地下水流モデル(MODFLOW)と物質移動モデル(MT3DMS)で計算し,PESTで観測値を対数変換して透水係数・縦方向分散長・横方向分散長・涵養量・生物分解半減期の5パラメータを逆解析した.格子幅を25mからその1/2~1/5へと細かくしていくと,目的関数・AIC(赤池情報量基準)とも小さくなり,精度が向上するようにみえる.しかし,12.5m格子(1/2)ではPESTは収束せず,6.25m格子(1/4)では長大な計算時間を要し非常に大きな縦方向分散長が求められる.計算濃度分布も観測値と一致しない.8.333m格子(1/3)では,やや大きい縦方向分散長と短い半減期が得られるが,計算濃度分布は観測値にくらべてプリュームが下流方向に伸びている.5m格子(1/5)でもやや大きい縦方向分散長と短い半減期が求められるが,計算濃度分布は観測値と調和的である.静岡市の例では格子幅によらずほぼ同じ結果が得られたが,この場合の格子幅による差の原因はよく分からない.25m格子で観測点数を214点,154点,106点,59点と減らしていくと,目的関数・AICとも大きくなり,観測点数が多くなるとともに精度が高くなるようである.106点を例外として,観測点数が少なくなると縦方向分散長が大きく,半減期が短くなる傾向がある.計算濃度分布は観測値とほぼ一致する.観測値数が106点の場合,透水係数が大きく,半減期が短く求められ,計算濃度分布は観測値とことなり100mg/l以上の高濃度部がなくなっている.106点の前後の118点と94点では,他の場合と同様の結果を示しており,なぜ106点の場合のみ特異な値が得られるのかは原因が不明である.以上の結果は,特定の観測値群を使用した場合に,パラメータ推定精度が低下することを示していて,観測値の選択についても注意しなければならないことが示されている.観測値には検出限界(0.02mg/l)未満のデータが多く含まれる.対数変換するにあたって,ゼロにはできないので仮に検出限界の1/20の1E-4mg/lとした.実際の濃度は分からないが,幅広い値となっていると考えられる.そこで,検出限界の1/2(1E-3mg/l)と1/200(1E-5mg/l)とした場合についても検討したが,それらに大きな差はみられない.

     参考文献

    Doherty, J., 2018, PEST: Model-independent parameter estimation user manual 7th ed., Watermark Numerical Computing, 368p. 藤崎克博,2019a,日本地質学会第126年学術大会講演要旨,134. 藤崎克博,2019b,第29回環境地質学シンポジウム論文集,49-52. 藤崎克博,2020,第30回環境地質学シンポジウム論文集,1-4. 藤崎克博他,2005,社会地質学会誌,Vol.1, no.1, 1-18.

  • 香川 淳
    セッションID: R18-O-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
    会議録・要旨集 フリー

    千葉県では2019年9月から10月にかけて,台風第15号,第19号および第21号に伴う大雨により大きな被害を受けた.特に台風第15号は強い勢力のまま本県を直撃し,暴風による倒木や家屋の損壊,大規模停電を生じるなど被害は甚大となり,「令和元年房総半島台風」と命名された.また,台風第19号通過の際には市原市で竜巻が発生し,死者を伴う被害が出た.これら低気圧の影響を受け,千葉県内の観測井で観測された顕著な地下水位変動について報告する.

    2019年台風第15号・第19号の概況と地下水位観測体制:台風第15号は,9月5日に南鳥島近海で発生し,9月9日未明に三浦半島を通過,午前5時前に暴風域を伴い千葉市付近に上陸した後,午前8時頃には茨城県沖へと通過した.上陸時の気圧は960hPa,千葉市の最大瞬間風速は57.5m/sを記録し観測史上1位となった1) .台風第19号は,10月6日南鳥島近海で発生し,10月12日19時前に伊豆半島に上陸した後,22時過ぎに野田市付近を965hPaで通過した2).通過に先立つ08時過ぎに市原市で竜巻が発生し,死者1名,住家の全壊12棟,半壊23棟の被害を生じた3).なお,千葉県では154井の地下水位・地盤沈下観測井を設置し,地下水位を連続観測している他,環境研究センター直営の約30井においても地下水位を連続観測している4).また,地下水圧センサーの大気圧補正を目的とした気圧計を9地点に設置している.

    気圧低下と地下水位変動:台風第15号は上陸時の中心気圧が960hPa,暴風半径が南東90km北西70kmとされる1)一方,台風第19号は通過時の中心気圧が965hPa,暴風半径が南東330km北西260kmとされ2) ,中心気圧は同規模であったが台風の「大きさ」は1ケタ異なる規模であった.富里立沢観測所(富里市立沢)は,台風第15号の最接近時に中心から約10km,台風第19号で約40kmの距離に位置した.本観測所の気圧計では,台風第15・19号最接近時に,それぞれ973 hPaおよび975hPaを記録した.また,1000hPaから最低気圧までの低下時間を見ると,台風第15号は3時間たらず,台風第19号では9時間以上を要している.なお本観測所に設置されたWTM-1号井(井戸深度:20.2m,スクリーン深度:16〜19m)では,いずれの台風でも30cmを超える地下水位の上昇が観測された.この30cm地下水位上昇に要した時間は,台風第15号で約4時間,台風第19号で約17時間となっている.この気圧と地下水位変動の相関から,10hPaの変化で8〜10cm地下水位が変動することが推定される.

    竜巻と地下水位変動:台風第19号通過に先立つ10月12日08時08分頃,台風からの暖かく湿った空気が流れ込んだ影響で活発な積乱雲が発生し,その通過中に市原市北部で竜巻と推定される突風が発生した3).竜巻被害地域は,北西-南東方向に約1800m・幅約700mの帯状に認められた.この周囲には,約10本の地下水位観測井が設置されており,そのいくつかにおいて竜巻の影響と考えられる地下水位変動が確認された.このうち竜巻被害地域の南東約3800mに位置するIc-4号井,同約1300mに位置するIc-3号井,被害地域北東側約800mに位置するW-6号井,被害地域北西約2200mに位置するW-5号井では,竜巻発生時刻に前後して1〜2cm程度のスパイク状の地下水位上昇が観測された.これら観測井の位置と地下水位上昇時間の差から,竜巻は南東方向から北西方向に向かって時速60km/hを超える速度で移動したものと推定される.

    引用文献

    1) 気象庁,2020,災害時自然現象報告書(令和元年房総半島台風等),2.

    2) 気象庁,2019,災害をもたらした気象事例,台風第19号による大雨,暴風等(速報).

    3) 銚子地方気象台,2020,現地災害調査報告 令和元年10月12日に千葉県市原市で発生した突風について.

    4) 千葉県環境研究センター地質環境研究室,2020,千葉県の地盤沈下(観測井資料編),51.

  • 荻津 達, 八武崎 寿史, 吉田 剛
    セッションID: R18-O-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
    会議録・要旨集 フリー

    はじめに

     地盤沈下は地下水や天然ガスかん水等の採取や自然圧密等に起因していると考えられ、これらの要因を特定しその寄与度を明らかにすることは地盤沈下の防止を考える上で非常に重要である。千葉県による精密水準測量の結果から、近年、八街市や富里市付近に複数箇所の中心を持つ広域的な地盤沈下が確認されている(荻津・八武崎, 2019)。本発表では当該地域の最近の地盤変動について、地盤沈下の要因解明のための基礎資料とすることを目的にInSAR解析を実施したのでその結果について予察的な報告を行う。

    地盤沈下の概要

     精密水準測量の結果(千葉県, 1976-2019)によると、1年間変動量図では1996年頃からは八街市に中心をもつ沈下が確認されはじめ、2000年代の始めからは沈下が富里市付近でも明瞭になっている。この傾向は現在まで続き2019年の沈下量は佐倉市と八街市の境界付近及び富里市の芝山町側境界付近に沈下の中心を確認できる。5年間累積変動量分布ではより顕著にこの地域の沈下を確認することができる。2012年-2017年に5cm以上沈下した地域は佐倉市から芝山町まで東北東・西南西方向に伸長した長さ約10km幅約5kmの範囲に分布している。佐倉市と八街市の境界付近、八街市と富里市の境界付近及び八街市の芝山町との境界付近の合計3カ所に沈下の中心が確認できる(荻津・八武崎, 2019)。

    InSAR解析について

     InSARは人工衛星等により2回以上の地表観測を行い、反射波の位相差から地表の変動を把握する技術である。近年、InSAR解析により千葉県内を対象とした地盤沈下の報告がなされている(e.g.,出口・他, 2009; 山中・他, 2013; 石塚・松岡, 2016; 環境省, 2017)が、本研究では本地域の地盤沈下について時空間的により詳細に把握することを目的にInSAR時系列解析を行った。2017年7月から2021年4月までの欧州宇宙機関(ESA)のSentinel-1A及び1Bのデータを用いてStaMPS/MTI(Hooper et al., 2012)によりPSInSAR解析を行った。

    InSAR解析結果

     2018年及び2019年の年間変動量の分布は精密水準測量結果と概ね整合的であった。精密水準測量で確認されている3カ所の沈下の中心は今回InSAR解析で得られた1年間変動量の分布でも認められた。また、富里市北西部から成田市にかけての地域及び富里市北東部から成田市と芝山町の境界付近に伸びる地域で若干の沈下が確認されたが、精密水準測量結果では水準点の配置の関係からこの沈下についてはとらえきれていない。

     三か月毎の変動量の分布では、各時期の変動量分布の変化が大きく毎年同じ時期に同じような変動を示すような明瞭な周期変動は確認できなかった。しかし、佐倉市と八街市の境界付近に中心をもつ沈下は、4~6月に沈下範囲が南側に広がる傾向が認められた。

     各地点の変動の時系列変化については、沈下の中心に近い地盤沈下の顕著な場所において単調な沈下傾向がみられた。しかし、その周辺部では時間とともに沈下と隆起を繰り返し、長期的にみると沈下傾向または隆起傾向を示していた。これらの変化は場所によって様々に異なり一様ではなかった。

    まとめ

     八街市・富里市周辺においてInSAR解析を実施したところ、精密水準測量では把握出来なかった地盤沈下の時空間変化を確認できた。今後、精密水準測量に加えInSAR解析やGNSS観測により詳細な地盤変動の把握を目指すとともその要因解明を進めることが必要である。

    引用文献

    千葉県, 1976-2019, 精密水準測量成果.

    出口知敬・六川修一・松島潤, 2009, 干渉SARの時系列解析による長期地盤変動計測. 日本リモートセンシング学会誌, 29, 418-428.

    Hooper, A., D. Bekaert, K. Spaans, and M. Arikan, 2012, Recent advances in sar interferometry time series analysis for measuring crustal deformation. Tectonophysics, 514-517, 1–13.

    石塚師也・松岡俊文, 2016, ALOS/PALSARデータを用いたPS干渉SAR解析の精度評価—千葉県九十九里地域の地表変動を例として. 日本リモートセンシング学会誌, 36, 328-337.

    環境省, 2017, 地盤沈下観測等における衛星活用マニュアル.

    荻津達・八武崎寿史, 2019, 日本地質学会第126年学術大会講演要旨.

    山中雅之・森下遊・大坂優子, 2013, 干渉SAR時系列解析による地盤沈下の検出. 国土地理院時報, 124, 1-14.

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