日本地質学会学術大会講演要旨
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第128学術大会(2021名古屋オンライン)
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T7(口頭)地球年代学が拓く高精度火山噴火史・発達史
  • 伊藤 久敏
    セッションID: T7-O-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    従来,5万年よりも古い第四紀テフラを対象とした年代測定は,主にK-Ar法もしくはジルコンのフィッション・トラック(FT)法が適用されてきた.一方,最近の10~20年で,ジルコンのU-Pb法の我が国の地質学への貢献は凄まじく,主に第四紀よりも古い地質を対象に,従来の常識を覆す様々な成果が創出されている.ジルコンのU-Pb法は,第四紀の地質試料にも適用可能であり,発表者は第四紀のテフラや花崗岩を対象に同法の適用を進めてきた.

    今回,約10万年前に噴出したとされる以下の3つのテフラ,すなわち,洞爺カルデラ起源のToya,鬼界カルデラ起源のK-Tz,立山起源のTt-D (もしくはDPm)とこれらに関連するテフラのジルコンのU-Pb年代,U-Th年代,(U-Th)/He年代,を紹介し,これらのテフラの噴出に関連した巨大カルデラのマグマ活動の変遷に関して,ジルコンから得られる知見を紹介する.

    Toyaに関しては,LA-ICP-MS装置により,ジルコン1粒から,同時にU-Pb年代とU-Th年代が得られることを報告した(Ito, 2014).その後の指摘(Guillong et al., 2015)もあり,残念ながらU-Th法に関しては,確立した方法には至っていないが,本手法のその後の取り組みを紹介する.

    屋久島に分布する3枚の広域テフラのうち,K-Tzからは,最も若いジルコンが約10万年前を示すことや,60~70万年前の2枚のテフラ(Anbo, Ksd)も鬼界カルデラ起源である可能性があることを紹介する(Ito et al., 2017).

    大町テフラ(中谷,1972)のうち,A1PmとDPmを対象に,ジルコンのU-Pb年代と(U-Th)/He年代を求めた(Ito and Danišík, 2020).閉鎖温度が低い(U-Th)/He法からは,予想される噴出年代(A1Pmは約40万年前)とほぼ一致する年代が得られた.マグマからジルコンが晶出した年代を示すU-Pb法からは,最若年代で,それぞれの噴出年代にほぼ一致する年代を示すことや,これらのテフラを噴出したマグマが数10万年に亘ってジルコンを晶出する活動を続けたことを紹介する.

    引用文献:

    Guillong, M., A.K. Schmitt, O. Bachmann, 2015. Comment on “Zircon U–Th–Pb dating using LA-ICP-MS: Simultaneous U–Pb and U–Th dating on 0.1 Ma Toya Tephra, Japan” by Hisatoshi Ito. J. Volcanol. Geotherm. Res., 296, 101–103.

    Ito, H., 2014. Zircon U–Th–Pb dating using LA-ICP-MS: Simultaneous U–Pb and U–Th dating on the 0.1 Ma Toya Tephra, Japan. J. Volcanol. Geotherm. Res., 289, 210–223.

    Ito, H. and Danišík, M., 2020. Dating late Quaternary events by the combined U-Pb LA-ICP-MS and (U-Th)/He dating of zircon: A case study on Omachi Tephra suite (central Japan). Terra Nova, 32, 134–140.

    Ito, H., Uesawa, S., Nanayama, F., and Nakagawa, S., 2017. Zircon U–Pb dating using LA-ICP-MS: Quaternary tephras in Yakushima Island, Japan. J. Volcanol. Geotherm. Res., 338, 92–100.

    中谷 進,1972.大町テフラ層とテフロクロノロジー,第四紀研究,11,305–317.

  • 上澤 真平, 伊藤 久敏, 中川 光弘
    セッションID: T7-O-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    はじめに:

     南西北海道中央部に位置する羊蹄火山の最初期の活動を把握するため,我々は火山周辺の堆積物層序を再検討している.羊蹄火山北麓の地質は,下位より中位段丘堆積物,留寿都層(洞爺火砕流堆積物など),低位段丘堆積物,真狩別層(主に羊蹄火山のテフラ層からなる:Uesawa et al., 2016)で構成されているという報告がある(土居・長谷川,1956)のみで,堆積物の詳細な記載や年代値は明らかにされていなかった.そこで,尻別川沿いの堆積物を調査したところ,最下位の層準に未記載の第四紀の凝灰岩を発見した.本論では,この凝灰岩を巽(たつみ)凝灰岩層(新称)と命名し,そのジルコンU–Pb年代を得たので報告する.

    層相および記載岩石学的特徴:

     巽凝灰岩層は,羊蹄火山北麓の尻別川沿いに幅約25m,長さ約90mの範囲で露出している.非溶結であり,淡茶褐色の風化した十数センチ~数センチの軽石と砂サイズ未満の火山灰の基質からなり,ash tuff (Le Maitre, 2002)に分類される.露出している部分で観察する限りでは,石質岩片は少ない.本堆積物が含有する鉱物は,斜長石・直方輝石・不透明鉱物・石英であり,わずかに単斜輝石も含まれている.石英は,角の取れた他形のものや清澄な正八面体に近い自形のものを含む.ガラスの多くは粘土化しているが,残存するガラスは茶褐色を呈し,形態はバブルウォール~繊維状発泡である.

    ジルコンU–Pb年代:

     抽出した20粒のジルコンのU, Pb, ThをLA-ICP-MSで測定し,Sakata(2018)に基づきU–Pb年代を算出した結果,1~30Maの幅広い年代を示した.このうち最若の6粒のジルコンU–Pb年代の加重平均年代は,1.21±0.23Maであった.また,同じ6粒に対してTera-Wasserburg図を用いた回帰直線のコンコーディア年代を検討したところ,1.24±0.20Maが得られた.これらの検討結果から,発見した凝灰岩の噴出年代は,約1.2Maと推定される.

    議論・今後の課題:

     今回発見された凝灰岩は,河川沿いに露出した岩体であり,他の堆積物との直接の層位関係は不明であるが,得られた年代値や構成物から,調査地域周辺に広く分布する洞爺火砕流堆積物や支笏火砕流堆積物でないことは明らかである.周辺火山で1Ma頃の活動が報告されている火山としては,ニセコ火山群(約2Ma~現在まで活動:新エネルギー総合開発機構, 1986)があげられるが給源の詳細は不明である.給源などの詳細を明らかにするためには,分布やガラス組成分析など更なる検討が必要である.

    謝辞:

     北海道大学の宮坂瑞穂博士には調査の際にお世話になった.本研究は,文部科学省「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」の研究費の一部を使用した.記して感謝いたします.

    引用文献:

    Le Maitre R. W. (ed.), 2002, Igneous Rocks. A Classification and Glossary of Terms. 236p.

    土居繁雄・長谷川潔, 1956, 5万分の1地質図説明書 倶知安 札幌-第28号.47p.

    Sakata, S., 2018, Geochemical Journal, 52, 281–286.

    新エネルギー総合開発機構, 1986, ニセコ地域調査 火山岩分布年代報告書.87p.

    Uesawa, S., Nakagawa, M., Umetsu, A., 2016, Jour. Volcanol., Geotherm., Res., 325, 27–44.

  • 渡部 将太, 長谷川 健, 小畑 直也, 豊田 新, 今山 武志
    セッションID: T7-O-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    二岐山火山は,福島県南部に位置する成層火山で,同時期に活動した那須火山群の北端から約6 kmとやや離れた場所に分布する.本火山の活動年代として,K–Ar年代や指標テフラとの関係から140〜90 ka(少なくとも約5万年間)の値が得られているが1,より解像度の高い編年および層序は確立されていない.一方,那須火山群を構成する成層火山はいずれも10万年以上の活動期間2であることが分かっている(活動中の茶臼岳を除く).今回,我々は二岐山火山の地形判読と地質調査を行い,岩石記載と全岩化学組成分析による岩石学的特徴を加えて層序を確立した.そして,熱ルミネッセンス(TL)年代測定を複数試料に適用することで時間軸を導入し,噴火史,マグマ供給系,那須火山群との比較について議論したので報告する.

     二岐山火山は,山体中央に2つの溶岩ドームを有し,その基底には複数の溶岩流および火砕流堆積物が分布する.地形,層序,岩石学的特徴から,本火山の活動期は東部〜南部〜西部に主に溶岩流を流出させたステージ1(6ユニット,約1.6 km3),北部に大規模な溶岩流を流出させたステージ2(2ユニット,約2.0 km3),山体中央に主に溶岩ドームを形成したステージ3(3ユニット,約0.1 km3)に分けられる.

     全てのユニットには苦鉄質包有物(SiO2 = 50.6–59.3 wt.%)が認められ,母岩はより珪長質な溶岩(SiO2 = 56.2–68.4 wt.%)で構成される.斑晶鉱物組み合わせとして,斜長石,単斜輝石,直方輝石,不透明鉱物が全ての本質物質に含まれ,母岩(珪長質)では全てに石英を,一部に角閃石を含み,包有物(苦鉄質)では一部にかんらん石を含む.これらは,中間カリウム・カルクアルカリ(CA)系列に,苦鉄質の一部は低カリウム・ソレアイト(TH)系列に属する.また,ステージ1〜2とステージ3は,FeO*/MgO-SiO2図などで,平行で明瞭に異なる直線的トレンドを示す(SiO2 = 64.1 wt.%のとき,FeO*/MgOはステージ1〜2:1.9,ステージ3:2.2).

     TL年代測定は,ステージ1噴出物から2つ,ステージ2とステージ3噴出物からそれぞれ1つずつ,合計4試料について実施した.その結果,ステージ1噴出物から163 ± 7 kaおよび93 ± 3 ka,ステージ2噴出物から79 ± 3 ka,ステージ3噴出物から56 ± 4 kaの年代値が得られた.これらは層序や地形の侵食程度と整合的で,ステージ1噴出物については先行研究で得られた140 ± 20 kaのK–Ar年代2ともよく一致しており,得られたTL年代値の信頼性は高いと評価できる.これにより,本火山の活動期間は,那須火山群の成層火山と同様に10万年以上に及んだことが明らかになった.

     那須火山群の中でも約20万年前以降に活動した火山―南月山(210〜80 ka),二岐山,活火山である茶臼岳(16 ka以降)2,3―についてマグマ系の変遷を検討した[朝日岳(170〜70 ka)は十分な公表データがないため除いた].南月山はTHとCAが共存するが,より若い年代の噴出物を含む茶臼岳と二岐山では主にCAが活動する4.Rb/Y-FeO*/MgO図(図1)をみると,南月山のTHおよびCAは,Rb/Yが異なる平行な組成変化トレンドを示す.二岐山火山では,この2つのトレンドを結ぶようにステージ1〜2およびステージ3噴出物は,2本の異なる直線トレンドを形成する.これらはRb/Y = 1.5で規格化した場合,FeO*/MgO = 1.8前後(トレンドA)と2.2前後(トレンドB)を示し,より分化したトレンドBは茶臼岳のそれとよく一致する.従来研究では,茶臼岳のこの組成トレンドはTHとCAマグマの混合によって説明されており4,本火山のマグマも茶臼岳と同様のプロセスで形成された可能性が示唆される.

     本地域では,210 ka以降,南月山でTHおよびCAマグマの活動が開始したが,160〜80 ka頃に,両者が混合(トレンドAを形成)して二岐山火山の主山体(基底部)を成長させるマグマを噴出した.約60 ka以降,本火山ではマグマ系が入れ替わり,トレンドBに由来するマグマを少量噴出して現在の山頂部を形成した.トレンドBのマグマは茶臼岳でも活動し,現在も存在すると考えられる.本研究では,野外で得られた噴出物の層序・分布・噴出量・噴火様式の情報に加え,TL法による年代軸を導入することで,高解像度で信頼性の高い火山活動史とマグマ供給系を復元することができた.このような事例研究を増やすことで個々の火山のみならず,周辺地域も含めたマグマ変遷の解明にも重要な知見をもたらすと期待できる.

    引用文献

    1. 山元(1999)「田島」地質図;2. 伴・高岡(1995)火山;3. 山元(1997)地質雑;4. 山元・伴(1997)那須火山地質図

  • 及川 輝樹
    セッションID: T7-O-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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  • 望月 伸竜, 穴井 千里, 馬場 章, 渋谷 秀敏
    セッションID: T7-O-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    日本付近における地磁気方位は,地軸双極子磁場方位のまわり約30度の領域を,(100年あたり数度のペースで)ゆるやかに変動している。このような古地磁気方位の時間変動を古地磁気永年変化と呼ぶ。日本においては,考古遺物(土器の窯跡)から過去2千年間の古地磁気永年変化曲線が報告されていて(Hirooka, 1971),最近はその再検討も進められている。火山が多い日本では,火山岩による古地磁気永年変化の復元が可能であり,我々のグループは過去数千年間の古地磁気学的研究を進めている。考古遺物や火山噴出物から高精度な古地磁気永年変化を復元することは,地球磁場の生成・維持プロセスを理解するための基礎データとして地球物理学的に興味のあるところであるが、層序学的な応用においても重要な可能性を持っている。

    地磁気の変動は,火山活動とは無関係な独立した物理量であるので,火山噴出物の時間軸となりうる。また、火山噴出物自体が年代決定の材料となるので,年代測定試料と火山噴出物の関連性を議論する必要がないのも利点である。古地磁気極性や酸素同位体変動が海洋堆積物の年代決定に利用されているように,古地磁気永年変化層序は火山噴出物に対して年代情報を提供できるポテンシャルを持っている。本発表では,古地磁気永年変化とその火山噴出物層序研究への応用として,(1)阿蘇中央火口丘群北西部の溶岩・火砕物の古地磁気学的研究と(2)支笏カルデラ噴火の火砕流堆積物の古地磁気学的研究の2例を紹介する。

    (1)阿蘇の古地磁気学的研究では,おもに杵島岳溶岩,往生岳溶岩,米塚溶岩の複数の露頭において定方位試料を採取して,古地磁気方位測定を行った。テフラ層序や地質図の溶岩分布からは,前述の順序で約4–3 kaに噴火したと報告されている。我々の古地磁気学的研究では,20数サイトから精度の良い古地磁気方位が得られた。それらの方位データは,1つの曲線を描くように分布し,4–3 kaの古地磁気永年変化曲線を捉えたと考えられる。曲線の始まりと終わり付近のデータに炭素14年代が報告されているので,この古地磁気永年変化曲線には年代推定値を入れることができた。古地磁気方位データに基いて,阿蘇中央火口丘群北西部の溶岩・火砕物の高時間分解能な噴出順序を提示できた。(2)支笏カルデラ噴火(46 ka)による火砕物について,覚生川の露頭に5ユニットの非溶結火砕流堆積物が確認できる(中川ほか,2018)。我々のグループは,非溶結火砕流堆積物を精度よく定方位採取する方法を開発・適用した上で,これらのユニットの古地磁気方位測定を行った。その結果,これらの火砕流堆積物から精度の良い(95%信頼限界にして2-3度)古地磁気方位データを得た。得られた方位データは1つの曲線上に分布し,その変化量は約15度であった。このことから,5ユニットの火砕流堆積物は数百年間の噴火で形成されたことが示唆される。

    以上のように,溶岩・火砕流堆積物から高精度の古地磁気方位データを得ることは,古地磁気永年変化曲線の復元につながるだけでなく,火山噴火履歴の研究に時間情報を提供する。日本の火山噴出物とくに完新世の火山噴出物から古地磁気方位を基礎データとして得ることは有用と考えている。

    引用文献

    Hirooka, K. (1971): Memoirs of the Faculty of Science, Kyoto University. Series of geology and mineralogy, 38(2), 167-207.

    中川ほか(2018):地学雑誌, 127(2), 247-271, doi:10.5026/jgeography.127.247.

R1(口頭)深成岩・火山岩とマグマプロセス
  • 道林 克禎, 柿畑 優季, 尾上 彩佳, 大家 翔馬, 小田島 庸浩
    セッションID: R1-O-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    Petrophysical characteristics of coarse-granular peridotites in a mantle diapir beneath the mid-ocean ridge have been quantitatively compared with those in a common lithospheric mantle peridotites outcropped in the Oman ophiolite. Maqsad mantle section has subvertical structures known to be a mantle diapir, whereas Hilti mantle section is characterized by the subhorizontal structure subparallel to the crust-mantle boundary, presumably a fragment of typical oceanic lithosphere at some distance from the ridge. Despite of the fact that the attitude of foliation and lineation are very different each other, both peridotites have similar textures and grain sizes but slightly different features in olivine crystal-preferred orientations (CPOs). Maqsad peridotites vary from axial [010] patterns (AG type) to (010)[100] patterns (A type), whereas Hilti peridotites are dominated by axial [010] patterns (AG type). It may suggest that the olivine CPOs could have been formed during vertical plastic flow in the mantle diapir and were somehow modified during subsequent horizontal plastic flow under subsolidus conditions. Furthermore, the azimuthal anisotropy would vary in dependent on the structural orientations as well as olivine CPOs, even though actual Vp anisotropies are nearly constant in both peridotites.

  • 海野 進, 草野 有紀, 石塚 治, 普代 貴大, 田村 明弘, 森下 知晃
    セッションID: R1-O-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    The ICDP Oman Drilling Project drilled the lower crustal section of the Oman Ophiolite in Wadi Gideah, north of Ibra and recovered 400 m long cores each from Hole GT1A and GT2A. Field observations confirmed that the lower crust attains 3.5 km in thickness, among which GT1A and GT2A holes range in stratigraphic height above the Moho from 0.4 to 0.8 km and from 2.0 to 1.6 km, respectively. Foliation and hypersolidus deformation structures are ubiquitous. Modal layering is locally present but is much less common. Well developed modal layering is present in the lowermost 125 m thick gabbro above the Moho.

    Cored samples are predominantly olivine gabbros with elongated olivine aggregates and clinopyroxene with quarter structures embedded in granoblastic plagioclase and large euhedral plagioclases with resorbed turbid cores. These textures suggest deformation under the presence of melt, which assisted complete recovery of strain through recrystallization of fine-grained plagioclase and overgrowth of euhedral rims around magmatic plagioclase cores. Poikilitic and ophitic clinopyroxene occur sporadically throughout the holes. Hypersolidus deformation structures are present irrespective to depth.

    The whole-rock compositions are mainly controlled by accumulation of plagioclase, olivine, clinopyroxene and interstitial melts. The lower GT1A and higher GT2A sections range in whole-rock Mg#s of 72-83 and 68-79, respectively, with the lowest Mg#s overlapping those of the sheeted dikes. The amounts of trapped melt were estimated by assuming La, Pr and Ce abundance in trapped melts to be equivalent to that of the sheeted dikes. Mass balance calculations yield the amount of trapped melt in gabbros to be 5 to 10 mass% in general and 25 mass% at most.

    The drilled cores have foliation formed by hypersolidus deformation but only limited modal layering, ubiquitous zoned cumulus minerals and common ophitic clinopyroxenes and trapped melt >5 mass%, which are all characteristics of foliated gabbros. Furthermore, modally layered gabbros occur only in the lowermost 125 m thick gabbro above the Moho.

    We concluded that both GT1A and GT2A holes sampled the thick foliated gabbros in Wadi Gideah section, which crystallized on the axial melt lens floor and were transported downward in the lower crust as gabbro glaciers.

  • 針金 由美子, 石塚 治, コンウェイ クリストファー, 下田 玄, 前野 深, KH-20-7航海 乗船者一同
    セッションID: R1-O-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    渡島大島は北海道西方に位置しており、東北日本弧の中で最も背弧側に位置する火山である。渡島大島火山からはこれまでduniteやwehrlite、hornblende gabbroといった超塩基性岩・塩基性岩からなる捕獲岩が採取されている(Yamamoto, 1984, 北海道大学理学部紀要; 二宮・荒井, 1992, 火山)。二宮・荒井(1992, 火山)で報告された複合捕獲岩であるharzburgiteは東北日本弧下の上部マントル由来と考えられているが、他の超塩基性岩・塩基性岩捕獲岩は渡島大島火山の玄武岩質マグマだまりからの結晶分化作用に由来すると考えられている(Yamamoto, 1984, 北海道大学理学部紀要)。

     2020年8月に学術研究船「白鳳丸」によるKH-20-7航海にて、1741年に大規模山体崩壊を起こした渡島大島火山の周辺海底の海洋地質調査が行われた(石塚ほか、有元ほか、本大会発表参照)。渡島大島北側の海底に確認されている山体崩壊で形成した流れ山地形から採取された玄武岩と玄武岩質安山岩にはんれい岩捕獲岩を発見した。この捕獲岩はおそらく渡島大島の西山火山を形成する玄武岩質マグマだまりに関連すると考えられ、マグマだまり内部のプロセスを記録する可能性を持つ。そこで本研究は渡島大島火山下のマグマだまりの状況について検討するために、得られたはんれい岩捕獲岩の温度圧力条件や形成過程などを明らかにすることを目的とした。

     岩石試料はドレッジによって2地点から採取した3試料を用いた。得られたはんれい岩捕獲岩の大きさは3x3 cm程度であり、玄武岩と玄武岩質安山岩にそれぞれ包有されていた。肉眼観察からは輝石の配列などによる面構造・線構造は確認できなかった。はんれい岩捕獲岩の構成鉱物は主に斜長石、かんらん石、単斜輝石、直方輝石、不透明鉱物(イルメナイトとマグネタイト)からなるかんらん石はんれい岩であった。3試料のうち2試料は角閃石を含んでいた。

     微細構造観察において、3試料ともに半自形~他形の斜長石と他形のかんらん石・単斜輝石・直方輝石・角閃石からなるgranular textureが観察された。波動消光などの結晶内変形構造が一部の斜長石や輝石に確認できたがほとんどの鉱物にこうした結晶内変形構造は見られなかった。一部の斜長石に累帯構造が確認できた。かんらん石は内部に針状の酸化鉄物質の晶出が確認でき、全体的に赤みを呈していた。はんれい岩捕獲岩と母岩の周囲には反応縁が形成しており、細粒化していた。こうした反応縁による細粒化ははんれい岩捕獲岩の内部にも確認できた。かんらん石はんれい岩の主要鉱物の化学組成についてEPMA(産総研 地質調査総合センター 共同利用実験室所有)を用いて分析した。かんらん石はんれい岩3試料において、斜長石のコア部はAn83-An94、リム部ではAn45-An87の範囲を示した。単斜輝石はaugite組成を示し、Mg#(Mg/(Mg+Fe)))は同じような値を示した(Mg#77-Mg#81)。直方輝石はhypersthene組成を示した。また、かんらん石はんれい岩2試料において、Mg#は同じ値(Mg#76-Mg#78)を示すが、かんらん石はんれい岩1試料は他の2試料よりやや高い値(Mg#78-Mg#95)を示した。かんらん石はんれい岩2試料に確認した角閃石はすべてpargasite組成を示した。主要鉱物(斜長石・かんらん石・単斜輝石・直方輝石・角閃石)の結晶方位はSEM-EBSD-EDS(産総研 地質調査総合センター 共同利用実験室所有)を用いて分析した。角閃石を含まないかんらん石はんれい岩1試料については、斜長石・かんらん石で集中を示したが,他の角閃石を含むかんらん石はんれい岩では分析した鉱物すべてに特徴的な集中が認められなかった。

     本講演ではこれらのはんれい岩捕獲岩の詳細な微細構造観察・鉱物化学組成・結晶方位分析の結果を報告するとともに、かんらん石はんれい岩形成時の温度圧力条件や形成過程について議論する。

  • 相澤 正隆, 新城 竜一, 岡村 聡, 平井 康裕
    セッションID: R1-O-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    はじめに

    隠岐諸島には,漸新世~更新世の火山岩類と堆積岩類が分布する。隠岐諸島の後期新生代の火山活動は,中期中新世以前は非アルカリ岩の活動が中心で,後期中新世以降はアルカリ岩の活動が中心となる[1]

    本研究では,隠岐諸島に分布する後期漸新世以降の火山岩類について岩石学的検討を行い,日本海拡大の直前に活動していた火山岩の起源マントル,日本海拡大を引き起こしたアセノスフェアマントル,および日本海拡大後のアルカリ岩類の起源マントルの地球化学的組成の時間変化について考察した。

    全岩化学組成

    時張山[ときばりやま]層(26.0~18.1 Ma)は安山岩質の火砕岩と溶岩,郡[こおり]層(19.2~13.7 Ma)は玄武岩質の溶岩と火砕岩からなる。これらの火山岩はいずれも島後に分布し,非アルカリ岩とアルカリ岩の境界付近の組成を有する。不適合元素パターンは,E-MORBに類似したやや肥沃的な組成で,Nb-Taに負異常を持ち,高いLILE/HFSEを示す沈み込み帯火山岩の特徴を示す。Sr-Nd-Pb-Hf同位体組成は,第四紀の東北日本弧火山フロントの最も南部の火山グループ[2]の組成と一致する。

    重栖[おもす]層と葛尾[つづらお]層(5.7~5.0 Ma)は島後に広く分布し,主に粗面岩~アルカリ流紋岩の溶岩からなり,島後の西部ではショショナイト(5.5~5.1 Ma)がシート状に郡層中に貫入している。また,島前火山の外輪山上部溶岩(5.8~5.6 Ma)は,島前に広く分布し,主に粗面安山岩~粗面岩の溶岩からなる。これらの酸性岩類はいずれも,OIBに類似した肥沃な不適合元素組成を示し,ショショナイトを除き,Ba,Sr,Euに顕著な負異常がみられる。ショショナイトは,Nb-Ta,Zr-HfおよびSrに弱い負異常が認められる。これらのアルカリ酸性岩類の同位体組成は,下部地殻起源と考えられる隠岐島後の苦鉄質捕獲岩[3]の組成に近い。

    同時期の島前には,アルカリ玄武岩質の外輪山下部溶岩(6.3~5.8 Ma)が分布する。また,島前の宇受賀[うずか]玄武岩(2.9 Ma)は,スピネルレルゾライトを捕獲する島後のアルカリ玄武岩(4.7~0.42 Ma)と同時期のアルカリ玄武岩の活動である。これらのアルカリ玄武岩はいずれも,OIBに類似した極めて肥沃的な組成で滑らかな不適合元素パターンを示し,大和海盆の玄武岩とEM-Iの中間的な同位体組成を示す。なお,スピネルレルゾライトの捕獲岩は,日本海の海底玄武岩の同位体組成[4など]と類似する。

    (年代値は浦郷図幅[5],西郷図幅[1]より引用)

    考察

    アルカリ玄武岩は,一部に未分化玄武岩を含み,数%以下のかんらん石の逆分別により,初生メルト組成を求めることができる。初生メルトの温度とマグマ分離深度は1290-1380℃,1.8-2.6 GPaと見積もられ,スピネルレルゾライトの高圧側のリキダス温度に近い。

    隠岐島後のレルゾライト捕獲岩の同位体組成は,時張山層・郡層火山岩の組成とは明らかに異なる。つまりこれらのかんらん岩は,阿部ら[6]の主張する日本海拡大期に噴出した玄武岩の残存固相である可能性がある。このレルゾライトはスピネル相の安定領域を示すことから,日本海拡大を引き起こしたアセノスフェアマントルは,アルカリ玄武岩の起源マントル(EM-I)の直上に分布していると推定される。

    隠岐諸島の火山活動は,7-5 Ma頃にアルカリ岩系列の玄武岩と酸性岩のバイモーダルな火山活動が生じている。この時期のアルカリ酸性岩類は,玄武岩質マグマによる下部地殻の部分融解,あるいは混染作用により生成されたと考えられており[7など],本研究による微量元素・同位体組成の特徴もこの見解を支持する。

    以上を総合的に解釈すると,隠岐諸島の周辺では少なくとも18 Ma頃までは古い大陸下リソスフェアマントルに由来する沈み込み帯マグマが生成され,15 Ma頃までに日本海拡大を引き起こしたアセノスフェアマントルが流入し,7 Ma頃には,さらにその下位から肥沃的なマントル(EM-I)が流入してきたと考えられる。

    ※本研究は,2019年度,2020年度隠岐ジオパーク研究助成を受けた。

    引用文献

    [1]鈴木ほか, 2009, 5万分の1西郷図幅,[2]Kimura and Yoshida, 2006, J.Petrol.,[3]Moriyama, 2006, 岡山大博論,[4]Hirahara et al., 2015, G3,[5]千葉ほか, 2000, 5万分の1浦郷図幅,[6]Abe et al., 2003, Island Arc,[7]小林ほか, 2002, 岩鉱

  • 谷 健一郎, 堤 之恭, 大村 一希, 高橋 正樹, 金丸 龍夫
    セッションID: R1-O-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    大崩山火山深成複合岩体は、大分県・宮崎県にまたがって分布するカルデラ火山群とそれに貫入する花崗岩体から構成されている。また本岩体は中期中新世に西南日本外帯で大規模かつ短期間に活動した酸性マグマ活動の一環として形成されたと考えられている。 大崩山火山深成複合岩体は、西南日本弧の付加体に対応するジュラ紀の三宝山帯・秩父帯と白亜紀の四万十帯、それらを覆う中新世の見立層群を基盤としている。また岩体北部の秩父帯には、蛇紋岩と花崗岩類・堆積岩類が混在している黒瀬川帯相当の岩相も含まれる。 大崩山火山深成複合岩体の形成活動史やマグマの地球化学的特徴については、Takahashi (1986)、高橋他(2014)などの詳細な地質調査と全岩化学組成分析によって、以下のように大きく4つの活動ステージに分類されている:

    1.S-type的な地球化学的特徴を示す、前期コールドロン群の形成:祖母山流紋岩・デイサイト質火砕流堆積物(SDT)の噴出と祖母山コールドロンの形成→傾山無斑晶質流紋岩質溶岩(KRL)の噴出→傾山流紋岩・デイサイト質火砕流堆積物(KDT)の噴出と傾山コールドロンの形成 S-type的な貫入岩の活動:斜方輝石・黒雲母花崗閃緑岩(古期花崗岩類I, OKG3)

    2.I-type的な地球化学的特徴を示す、祖母山安山岩・デイサイト質複成火山(SALT)の形成(コールドロンを埋積する形で噴出。厚い溶岩と火砕流堆積物からなる) I-type的な貫入岩の活動:石英モンゾニ閃緑岩・グラノフィア(古期花崗岩類II, OBG2)

    3.I-type的な新規コールドロンの形成:国見岳流紋岩質火砕流堆積物(KRT)の噴出→大崩山コールドロンの形成 I-type的な貫入岩の活動:凝灰岩岩脈→珪長岩岩脈→花崗斑岩からなる環状岩脈

    4.バソリス状I-type花崗岩(OKG1-2, FKG, HKG, OBG1など)の貫入・定置 本研究では大崩山火山深成複合岩体について、絶対年代に基づいて形成活動史を制約するために、火山岩類・深成岩類の系統的なジルコンU-Pb年代測定を行った。測定は国立科学博物館設置のレーザアブレーションICP質量分析計を用いて実施した。

    その結果、大崩山火山深成複合岩体の火山活動

    には二つの噴火ステージが存在することが明らかになった。

    1. S-type的な火山活動(前期コールドロン群形成)に伴うSDT, KRL, KDTの活動:14.8 – 14.3 Ma

    2. I-type的な火山活動(新期コールドロン形成)に伴うKRTの活動:13.9 Ma

    また貫入岩・花崗岩類の活動についても、S-type的な特徴を示す古期花崗岩類I(OKG3)が、最も古い14.3 Maの年代を示し、それ以降のI-type的な岩体(グラノフィア, 環状岩脈, OKG1-2, FKG, HKG, OBG1)については火山岩類と同時期か更に若い、14.3 – 13.2 Maの年代が得られた。 バソリス状花崗岩(OKG1)について、Takahashi (1986)では地質学的観察に基づき、水平なルーフ境界をもつ岩体としている。また岩体上位は黒雲母花崗岩であるのに対し、より下位は角閃石黒雲母花崗閃緑岩から構成される、垂直方向累帯深成岩体であると解釈されいる。しかし本研究による年代測定によって、ルーフ近傍のバソリス上部花崗岩は14.3 – 14.1 Maの年代を示すのに対し、それより下位の部分は系統的に若い、13.9 – 13.2 Maの年代が得られた。これはバソリスが少なくとも2回のマグマ貫入によって形成された可能性が高いことを示している。

    さらには岩体北部の基盤を構成する黒瀬川帯相当の変形花崗岩類からは、430 Ma前後の年代が得られ、これは紀伊半島・四国西部・九州中部の黒瀬川帯中の花崗岩類から報告されているジルコン年代(~440 Ma:Aoki et al., 2015)とよく一致しており、その延長が本地域にも分布していることが初めて確認された。

    系統的なジルコンU-Pb年代測定によって、大崩山火山深成複合岩体の活動期間は約150 万年間に及ぶことが明らかになった。また外帯酸性マグマ活動においては、まずS-type的な活動が起こり、その後I-type的活動に漸移することが指摘されていたが(高橋他2014)、本研究によって、そのマグマ組成の変化は約40万年間という比較的短期間に起こった可能性が高いことが明らかになった。

    Aoki, K. et al., 2015, JAES, 97, 125-135

    Takahashi, M, 1986, JVGR, 29, 33-70

    高橋正樹ほか, 2014, 日大文理学部紀要, 49, 173-195

  • 金丸 龍夫, 高橋 正樹, 谷 健一郎, 國嶋 寛和, 冨田 大貴, 高橋 望実, 丸 丈一郎, 飯田 健也, 林 圭, 植月 陸, 鈴木 ...
    セッションID: R1-O-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    はじめに

     中期中新統大崩山火山深成複合岩体を構成する環状岩脈および花崗岩体の貫入定置機構を明らかにするため,それらの帯磁率異方性測定を行った。帯磁率異方性は,火成岩体の貫入定置機構を明らかにするために重要な岩体内部構造を定量的に見積もる方法として広く用いられている。 大崩山火山深成複合岩体は,主に火砕岩類,成層火山堆積物,環状岩脈,花崗岩体などから構成される祖母山・傾山・大崩山の3つのコールドロンからなる。このうち最大の外周をもつ大崩山コールドロン形成時,岩体周縁部に花崗斑岩からなる大規模な環状岩脈が貫入し,活動最末期に花崗岩体が貫入定置している。花崗岩体は,四万十層群からなる大崩山をルーフとして載せ,鹿川・祝子川の流域に露出する主要な大崩山岩体の他に,日之影,藤河内,尾平などの地域に小岩体が露出するがそれらは地下では連続した岩体を形成している(Takahashi,1986)。Takahashi (1986)では,地質学的証拠から,花崗岩体は大崩山および尾平付近でやや高まりがある概ね平坦なルーフをもつ岩体の形体が復元されている。 帯磁率異方性測定に用いた試料は定方位ブロック試料として採取し,実験室内で測定用試料に整形した。測定にはAGICO社製Kappabridge KLY-3Sを用いた。

    環状岩脈

     環状岩脈の帯磁率面構造の走向は,全体として概ね岩脈の伸びの方向と調和的な走向を示し,比較的急傾斜を示すものが卓越する。岩脈幅が広く,岩脈横断方向で複数地点のサンプリングを行った岩体南西部や中北部のルートでは,岩脈の縁辺部で急傾斜,中心部で緩傾斜なる構造が得られた。これは岩脈内の速度勾配を反映した構造を示すと考えられる。帯磁率線構造は,緩傾斜な構造を示す地点が卓越するが,南部および東部の複数地点でマグマ上昇域の存在を示唆する急傾斜〜やや急傾斜な構造を示す。帯磁率異方性から得られた構造は,環状岩脈を形成したマグマは全域で一様に上昇したわけではないことを示している。また,谷ほか(2021)による環状岩脈のジルコンU-Pb年代が環状岩脈全体がほぼ同時期の活動であること示していることを考慮すると,本環状岩脈は,複数のマグマ上昇域からマグマが上昇し,側方向へ流動するような様式により形成されたことを示している。このようなマグマ上昇・流動様式はAltenberg-Tepliceカルデラで推定されているような傾いたトラップドア型の母岩沈降(Tomek, 2019)の結果として形成された可能性がある。さらに,コールドロン内部にも環状岩脈は分布していることから,沈降する母岩はある程度の大きさを持つブロック状に分断されていた可能性も考えられる。

    花崗岩体

     帯磁率面構造は急傾斜を示すものが卓越するが,ルーフ付近では緩傾斜になる傾向がみられるなど,復元された岩体の形状に矛盾しない構造がみられる。帯磁率線構造は,岩体全体として中〜緩傾斜な構造を示すものが卓越する。藤河内岩体北部,鹿川岩体境界付近,祝子川岩体境界付近で急傾斜な線構造がみられる。このうち,前二者は,Takahashi (1986)で示された岩体復元図において,急傾斜な壁境界付近に位置しており,復元図と矛盾のない構造を示している。岩体の中心付近に位置する後一者は,3次元構造を考慮すると,ルーフからの距離が大きい位置に相当する。谷ほか(2021)のジルコンU-Pb年代は,花崗岩体に少なくとも2つの活動期があることを示している。特に大崩山岩体においては,それらはルーフに近いものは比較的古く,遠いものはより新しいという傾向を示すことから,花崗岩体は少なくとも2回の貫入イベントにより形成された可能性が高い。ルーフからの距離を考慮すると,岩体中心部にある急傾斜な構造を示す地域は新しい活動期に形成された可能性が高い。ここで,地質学的視点からは,花崗岩体はストーピングによる貫入したと考えられる(Takahashi, 1986)。これらに帯磁率異方性の測定結果加えると,花崗岩帯の貫入定置機構は以下のようなものであったと考えられる。すなわち,母岩ブロックの沈降に伴い,帯磁率線構造が急傾斜をなす岩体の縁辺部の壁境界付近からマグマが上昇し,側方方向へ流動し,そこでは,緩傾斜な構造が形成される。これらの貫入イベントは少なくとも2回あり,より新しい貫入イベントでは,母岩がブロック状に分断されながら沈降したことにより,岩体中心部付近にあった割れ目からもマグマの上昇があった可能性がある

    引用文献

    Takahashi, M., 1986, JVGR, 29, 33-70

    谷健一郎ほか,2021,本学術大会講演要旨

    Tomek, F. et al., 2019, GSA Bull. 131, 997-1016

  • 高橋 正樹, 金丸 龍夫, 谷 健一郎
    セッションID: R1-O-7
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    大崩山火山深成複合岩体(Takahashi,1986)の地質を再検討し,新たにジルコンのU-Pb年代を求め(谷ほか, 2021),貫入岩体に関する帯磁率異方性による貫入定置メカニズムの検討を行って(金丸ほか, 2021),時間軸を導入し解像度を上げた形でその形成過程を明らかにした。大崩山火山深成複合岩体を構成する火成岩は,祖母山・傾山コールドロンを形成したS-typeと,複成火山体や大崩山コールドロン・バソリス状花崗岩体などを形成したI-typeとに大きく区分される(高橋ほか,2014)。以下にその形成過程を示す。 (1)祖母山コールドロンの形成: 祖母山コールドロン(20×13km)は,総噴出量300km3以下の流紋岩~デイサイト質溶結火砕流堆積物および溶岩の噴出によって形成された。コールドロン外側では最大層厚150mの溶結火砕流堆積物がみられ,またコールドロン内は全層厚570m以上の溶結火砕流堆積物と溶岩からなり,下底部には花崗岩バソリスが直接貫入している。コールドロン外の溶結火砕流堆積物のジルコンU-Pb年代は14.77Maである。(2) 傾山コールドロンの形成: 傾山コールドロンに先行して,層厚250m,噴出量60km3に及ぶ大規模な無斑晶質流紋岩質溶岩が噴出した。傾山コールドロン(12×6km)は,全層厚500m,総噴出量350km3以下の流紋岩~デイサイト質溶結火砕流堆積物の噴出によって形成された。この溶結火砕流堆積物のジルコンU-Pb年代は14.51Maである。現在の傾山コールドロンの内部は,後から噴出した安山岩~デイサイト質溶岩・火砕流堆積物によって埋積されており,底部は花崗岩バソリスの直接の貫入を受けていて,その下部に存在したコールドロン形成に直接関係した火山岩類は失われている。(3)S-type花崗岩の貫入: 大崩山コールドロン内の南東部にS-typeの性質を示す直方輝石・黒雲母花崗閃緑岩の貫入があり,そのジルコンU-Pb年代は14.32Maである。(4)安山岩~デイサイト質複成火山の形成: S-type的なマグマ活動によって祖母山・傾山両コールドロンが形成された後,I-type安山岩~デイサイト質の厚い溶岩流および火砕流堆積物の噴出が繰り返され,最大層厚が1000mを超え、総噴出量が200km3余りの複成火山が形成された。また,複成火山の火道として,石英モンゾニ閃緑岩(安山岩質)~グラノファイア(デイサイト質)が貫入した。ジルコンのU-Pb年代として,安山岩質溶岩の14.09Ma(Shinjoe et al., 2019),グラノファイアの14.08Maが得られている。(5)大崩山コールドロンの形成: 全層厚400m以上,総噴出量370km3以下の結晶に富むI-type流紋岩質溶結火砕流堆積物の環状割れ目からの噴出により,沈降量が1000m余りの大崩山コールドロン(33×23km)が形成された。環状岩脈およびその分岐岩脈では,無斑晶質流紋岩(珪長岩)→凝灰岩・ラピリ凝灰岩(火砕流の噴出)→花崗斑岩の順に貫入が行われた。ジルコンのU-Pb年代は,流紋岩質溶結火砕流堆積物が13.91Ma,花崗斑岩が13.97-14.13Maであり,ほぼ同一の年代を示す。環状岩脈へのマグマの移動は複数の地点から始まり,それぞれの地点から水平方向にマグマが移動することによって行われた。(6)大崩山バソリス状花崗岩体の貫入: 野外での貫入関係では,最後にバソリス状花崗岩体(30×20km)が貫入した。I-typeバソリス状花崗岩は,ルーフ直下ではSiO270wt.%以上の黒雲母花崗岩であり,ルーフから1000mの断面が観察される大崩山岩体では,ルーフから300~400m以深では,SiO270wt.%未満の角閃石黒雲母花崗岩~花崗閃緑岩からなる。ジルコンのU-Pb年代では、ルーフから300~400mの岩体上部が14.25~13.85Maと古い年代を示し,それ以深および一部岩体が13.51~13.21Maといった若い年代を示していて,両者の間には数10万年以上の時間間隙が認められる。また,若い年代の花崗岩類に含まれるI-type安山岩~デイサイト質の苦鉄質マグマ性包有岩もホスト花崗岩とほぼ同じ年代を示しており,この時地下深部には安山岩~デイサイト質マグマが存在していた。バソリス状花崗岩マグマの貫入は,地下コールドロン・ブロックストーピングおよび漸増定置によって行われたらしい。 文献 Takahashi, M.,1986, JVGR, 29,33-70 谷ほか, 2021, 本学術大会講演要旨 金丸ほか, 2021, 本学術大会講演要旨 Shinjoe, H. et al., 2019, Geol.Mag,, http://doi.org/10.1017/S00167556819000785

  • 今山 武志
    セッションID: R1-O-8
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    造山帯の火成岩類の起源を特定することは、その地域のテクトニクスを議論する上で重要である。中央アジア造山帯は、原生代から三畳紀までの世界で最も大きな付加型造山帯の一つであり、シベリア地塊の南縁に徐々に発達し、北中国地塊が衝突して、最終的にSolonker衝突境界帯に沿って古アジア海が閉じたと考えられている。しかし、古アジア海の最終閉鎖のタイミングが、古生代初期なのか後期なのかは議論があった。Imayama et al. (2019a) によると、モンゴル南部に分布する火山岩類はアルカリ元素に富む玄武岩、粗面安山岩、粗面岩などから構成される。全岩化学組成やカリウムーアルゴン法による長石の年代測定からは、これらの火山岩類はペルム紀後期―三畳紀前期 (約270-240 Ma) の沈み込み帯の背弧側で生成されたことが推定される。また、火山岩体上部の陸源性砂岩からの砕屑性ジルコンの最小年代分布(約220-205 Ma)に基づくと、これらの火山堆積物は三畳紀後期以降に堆積したと推定される。これらのモンゴル南部火山岩類の岩石学的・年代学的研究結果は、最終衝突前のペルム紀後期―三畳紀前期まで海洋プレート沈み込み帯が続いていたことを示唆しており、古アジア海の最終閉鎖のタイミングはペルム紀後期―三畳紀前期頃であることを支持する。  

    ヒマラヤ造山帯は、新生代の大陸衝突帯である一方で、その基盤は主に古原生代火成岩類(約1.92-1.74 Ga in Nepal)から構成される。これらの古原生代火成岩類の成因は、コロンビア超大陸の離合集散に関連するが、当時のインド大陸北縁が受動的大陸縁なのか活動的大陸縁なのか活発に議論されている。Imayama et al. (2019b) は、中央ネパールカトマンズ地域の古原生代花崗岩類の起源を、全岩・鉱物化学組成、Rb-Sr同位体比、ジルコン年代測定を用いて推定した。ジルコンの微量元素は、重希土類元素やTh/U比に富み、火成起源の特徴を示す。ウランー鉛年代とジルコンTi温度計は、これらの花崗岩類は約1.74 Gaに705-765 ℃で結晶したことを示す。全岩化学組成は、パーアルミナス、高Sr同位体比や高Th-U濃度で特徴づけられ、テクトニック判別図も踏まえると、研究地域の花崗岩類は地殻溶融で形成された可能性が高い。ネパール他地域を含む先行研究を合わせると、約1.92–1.90 Gaのリフト形成後に、thermal subsidenceに伴う約1.84–1.74 Gaの地殻溶融イベントが推定される。これらの結果は、古原生代におけるインド大陸北縁は、受動的大陸縁であったことを示唆する。

    引用文献 Imayama, T., Koh, Y., Aoki, K., Saneyoshi, M., Yagi, K., Aoki, S., Terada, T., Sawada, Y., Ikawa, C., Ishigaki, S., Toyoda, S., Tsogtbaatar, Kh, Mainbayar, B., 2019a. Late Permian to Early Triassic back-arc type volcanism in the southern Mongolia volcano-plutonic belt of the Central Asian Orogenic Belt: Implication for timing of the final closure of the Palaeo-Asian Ocean, Journal of Geodynamics, 131, 101650. Imayama, T., Arita, K., Fukuyama, M., Yi, K., and R. Kawabata, 2019b. 1.74 Ga crustal melting after rifting at the northern Indian margin: investigation of mylonitic orthogneisses in the Kathmandu area, central Nepal. International Geology Review, v. 61, p. 1207-1221.

  • 礼満 ハフィーズ, 山本 啓司
    セッションID: R1-O-9
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    Oxygen isotope results (δ18O) of quartz are presented for the San-yo and Ryoke belt granites, associated metamorphic rocks (pelitic schists, siliceous schists), and two generations of siliceous veins (foliation-parallel and foliation-normal) that exist in pelitic and siliceous schists. Purified quartz grains from the above-mentioned lithologies were analyzed for δ18O using the conventional fluorination method. Quartz grains showed δ18O values (relative to VSMOW) of 9.7 to 12.9 ‰ in granites, 15.1 to 17.3 ‰ in biotite schist, and 16.4 to 17.8 ‰ in siliceous schist. The δ18O values of quartz from foliation-parallel veins in biotite schist were 16.6 ‰ whereas quartz grains from the foliation-normal veins in biotite schist had δ18O values of 17.3 ‰. The δ18O values of quartz in the investigated granite samples are comparatively higher than usually found in the typical I-type granites (ca. 5–8 ‰) and show some overlap with the S-type granites (ca. 9–12 ‰). These features suggest that the source magma of Ryoke and San-yo these granites was likely derived from the partial melting of the chemically modified crust with sedimentary precursors. Hafnium isotope data of zircons from the same granites, reported in an earlier publication (Mateen et al., 2019, Geosciences Journal 23, 917-931), exhibited by ƐHf (t) values between +1.1 and -4.8 provide additional evidence for the formation of the granites from a continental crust with some incorporation of the reworked older crustal material that was hydrothermally altered before partial melting. The relatively higher δ18O values (> 15 ‰) of quartz in foliation-parallel and foliation-normal veins indicate their precipitation from the silica- and 18O-rich fluids that were extracted from the slab-dehydration process during late-stages of their evolution. Detailed results can be seen elsewhere (Rehman et al. 2021, Journal Episodes).

    References

    Mateen et al., 2019. Geosciences Journal 23, 917-931

    Rehman et al. 2021. Episodes, https://doi.org/10.18814/epiiugs/2021/021012

  • 中林 真梨萌, 礼満 ハフィーズ
    セッションID: R1-O-10
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    中央構造線・仏像構造線を挟んで太平洋側地域を西南日本外帯と呼び,この外帯においては様々な規模で花崗岩類が露出する.これらのほとんどは中期中新世のごく短い間に形成されたものであり,放射年代はc.a.10-15Maと報告されている.南九州地域に分布する花崗岩のほとんどが外帯花崗岩の一部であり,c.a.12~15MaのK-Ar年代及びフィッショントラック年代が報告されている(Miyachi,1985; 柴田,1978).この中でも鹿児島県北西部の甑島列島は臼杵―八代構造線の延長上にあり,西南日本弧と琉球弧の会合部に位置するため日本海・沖縄トラフ拡大を考える上で重要な地域と言える.甑島列島は主に上甑島,中甑島および下甑島の3島からなる離島である.甑島列島には後期白亜紀の姫浦層群の堆積岩が広く分布しており、下甑島と一部上甑島に甑島には花崗岩が露出している(田代・野田,1973).これらの花崗岩から分離した黒雲母KーAr年代は13±4Ma(Miller et al., 1962)と報告されている.また,近年では琉球弧拡大との関連性についても議論が行われている(Ishihara et al., 1984; 新正・折橋,2019).しかし甑島の花崗岩類の成因ついて詳細な研究はなされていない.したがって, 本稿では甑島花崗岩のレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析計(LA-ICP-MS)を用いたU-Pb放射年代測定およびその形成成因の推定を目的に研究を行ったことを報告する.  調査地域の露頭において下甑島では比較的優白色で粗粒のの花崗閃緑岩,上甑島では灰白色から青白色細粒の花崗閃緑岩から閃緑岩が観察された.また,上甑島では白色花崗岩脈や石英脈もよく観察された.花崗岩と基盤岩の境界付近では接触熱変成作用によりホルンフェルスが形成されている.偏光顕微鏡下では,ほとんどの岩石は斜長石に富んだ角閃石黒雲母花崗閃緑岩であった.岩石内の主要構成鉱物は石英・斜長石・カリ長石・黒雲母・角閃石類,副成分鉱物はジルコン・アパタイト・イルミナイトが見られた.採取した岩石のうち下甑花崗閃緑岩帯南部と中部で2試料,上甑島花崗閃緑岩で1試料,これに接触するホルンフェルスより1試料からジルコンを抽出し,電子顕微鏡及びカソード像などで内部構造を把握した後、LA-ICP-MSによってU-Pb放射年代測定を行った.これにより下甑島の花崗岩南部(Kos-2)から10.38±0.50 Ma(MSWD=0.94, n=14), 同じく,下甑島花崗岩中部(Kos-11)から11.17±0.53Ma(MSWD=1.4,n=8),上甑島花崗閃緑岩(Kos-19)から10.03±0.44Ma(MSWD=1.3,n=12),と周りのホルンフェルス(Kos-17)からは14-87Ma (n=5)の値が得られた. 甑島花崗岩は10Maと近辺に見られる西南日本外帯の紫尾山花崗閃緑岩 (c.a.13 Ma),大隈花崗岩(c.a. 15 Ma)よりやや若い年代を示した.甑島花崗岩から分離したジルコンはオシラトリーゾーニングがよく見られ,中心部と周縁部で年代差はほとんどなかった.鹿児島地域の外帯花崗岩と全岩組成を比較したところ甑島花崗岩はややMeta-aluminousかつ苦鉄岩質なことから,玄武岩質マグマ成分を含む地殻の部分溶融から形成された花崗岩類だと考えられ,他の外帯花崗岩とは異なる火成活動に関連したものと推測される. したがって甑島花崗岩は他の外帯花崗岩と異なる火成活動によって形成されたことが示唆されたが,琉球弧背弧海盆との関連を議論するためにはより詳細な検討が必要である.

    引用文献

    Ishihara S., et al. (1984) Mining Geol., 34, 45-50.

    Miller, J.A., et al (1962) Bull Geol. Surv. Japan, 13, 712-714.

    Miyachi M.(1985) 岩石鉱物鉱床学会誌 80(9),406-409

    柴田賢 (1978) 地質調査所月報 29 (8), 551-554

    新正 裕尚 他(2019) 第126年地質学会学術大会(2019 山口)要旨集

    田代正之,野田雅之(1972)地質学雑誌, 79巻7号, 465-480

  • 中島 隆
    セッションID: R1-O-11
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    日本列島の花崗岩類はそのほとんどが中生代と新生代、中でも白亜紀から古第三紀と新第三紀中新世に形成されている。これらの起源を探るためSrやNdの同位体比が多くの岩体について測定されてきた。その大部分は花崗岩質岩についてであるが、量的には圧倒的に少ない苦鉄質岩類についても注目されるようになってきた。苦鉄質岩類の利点は、上部地殻物質との混合が花崗岩質岩より少ないので玄武岩質初生マグマとの関連が見やすいこと、Sr同位体比初生値を求める際に年代による補正幅が非常に小さくなるので年代値が不正確な岩体でもある程度扱えることである。今回は苦鉄質岩類と花崗岩質岩のSr同位体比初生値(以下SrIと表示)を併せて検討し、日本列島の花崗岩マグマの起源を考察する。

    北海道日高帯で、地表露出した地殻断面に貫入したトッタベツ岩体では最深部に相当する斑れい岩のSrIが 0.7027 で、そこから岩体上部に向かって 0.7040 まで連続的に変化し、岩体上部を構成する花崗岩はSrI = 0.70407+/-0.00005, 年代 19.8+/-0.9 Ma の見事なアイソクロンを形成する(Kamiyama et al., 2007)。この最深部斑れい岩のSrI 0.7027はMORB の87Sr/86Sr同位体比に近く、岩体の下位に露出する海洋地殻相当ユニットに移化する産状と調和的である。同帯の斑れい岩から同様の値を得た Maeda & Kagami (1996) は海嶺衝突の証拠と主張した。

    同じく中新世の背弧海盆拡大があった西南日本では、13.5〜15 Maの期間限定同時多発的な珪長質火成活動が起こった。それら外帯花崗岩は0.7054~0.7096と内帯の白亜紀花崗岩と同等のSrIをもち、付加体から成る上部地殻物質の関与が想定されるが、太平洋に張り出した潮岬、室戸岬、足摺岬などに露出する苦鉄質岩体ではそれが0.7031~ 0.7036と低く、上部地殻物質の関与が少ないことがわかる。

    西南日本において、地表露出する花崗岩類の75%を占める白亜紀花崗岩類のSrIは0.705~ 0.7115、その大部分は0.706~ 0.710である。それに対して苦鉄質岩のSrIも0.706~ 0.710とほぼ同じ高い値を示すことから、その起源物質は海嶺や海洋地殻そのものではなく島弧下の同位体的にエンリッチしたソースに由来していることがわかる。当時のアジア大陸東縁の地下には長期の沈み込みに起因するサブアーク型リソスフェリックマントルが存在した可能性がある。

    一方、古第三紀の花崗岩類のSrIは0.704~ 0.7052で、隣接し一部重複して分布する白亜紀花崗岩類との間には有意の差があり、この間で初期のリフト活動などによるマグマソースの変換があったと推定される(Imaoka et al., 2011)。しかし古第三紀花崗岩類はその分布が山陰地方に限られており、量的にも白亜紀の花崗岩類よりずっと少なく、その活動規模は限定的であったと思われる。

    <文献> Imaoka, T. et al. (2011) J. Asian Earth Sci. 40, 509-533. Kamiyama, H. et al. (2007) J. Geol. 115, 295-314. Maeda, J. & Kagami, H. (1996) Geology, 24, 31-34.

  • 渡邉 駿, 高橋 俊郎, 下田 玄, 後藤 孝介
    セッションID: R1-O-12
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    【はじめに】  

     西南日本弧東部北陸地域には後期漸新世~中期中新世にかけて形成された火山岩類が分布する.富山県東部~福井県東部には前期~中期中新世に活動した安山岩類が分布し,ソレアイト系列やカルクアルカリ系列の火山岩,高マグネシア安山岩(HMA),アダカイト質火山岩など多様な岩石学的特徴を示す火山岩類から構成される.これら火山岩類は主要元素および微量元素組成に基づく成因の考察が行われている(石渡・大浜,1997;高橋・周藤,1999など).北陸地域は西南日本弧の東端にあたり,東西日本弧の会合部である北部フォッサマグナと糸魚川-静岡構造線を介して接している.従って,本地域における新第三紀火成活動の起源を解明することは,東西日本弧の火成活動を論じる上で重要である.

     本発表では北陸地域の東端に位置する富山県東部上市地域に分布する前期中新世~中期中新世火山岩類について全岩化学組成およびSr-Nd-Pb同位体組成に基づく岩石学的・地球化学的検討を行った.

    【地質概説】

     本地域は中世界手取層群を基盤岩類として、中新統八尾層群が不整合で重なる。八尾層群は下位から、楡原層、岩稲層、黒瀬谷層、福平層が累重する。本発表では岩稲層およびと福平層を構成する溶岩,および火山砕屑岩中の火山各礫角礫を対象とする.

    【記載岩石学的特徴】

    ・タイプ1(両輝石安山岩)

    斑晶鉱物は斜長石,単斜輝石,直方輝石からなる.

    ・タイプ2(含かんらん石両輝石安山岩)

    斑晶鉱物は主に斜長石,単斜輝石,直方輝石からなり,稀にかんらん石を含む.斜長石は汚濁帯や蜂の巣状組織が見られる.

    ・タイプ3(両輝石安山岩)

    斑晶鉱物は主に斜長石,単斜輝石,直方輝石からなる.斜長石は汚濁帯や蜂の巣状組織が見られる.

    ・タイプ4(角閃石両輝石安山岩)

    斑晶鉱物は主に斜長石,角閃石,単斜輝石,直方輝石からなる.斜長石は汚濁帯や蜂の巣状組織が見られる.

    【岩石学的・地球化学的特徴】  

     タイプ1の多くは中間K安山岩領域にプロットされ,ソレアイト系列のトレンド示す.また,SiO₂濃度の増加に対してMgO,Cr,Ni,Ca濃度が減少し,LILEやHFSEといった不適合元素濃度が増加する.この化学的特徴は斑晶鉱物の分別結晶作用で説明することができる.不適合元素パターンは同時期の東北日本弧背弧域の玄武岩に類似することから,これらの未分化玄武岩質マグマは中新世東北日本弧背弧域玄武岩に近い組成であったと考えられる.一方,同位体組成は広い組成範囲を示し,SiO₂やZr濃度の増加に伴い肥沃化することから地殻物質(例えば花崗岩類)の同化作用が働いたと考えられる.しかし,地殻物質の影響が小さいと推定されるタイプ1の玄武岩質安山岩試料でも,同時期の東北日本弧火山フロント側玄武岩より肥沃的な同位体組成を示す.Okamura et al.(2016)では,近接する北部フォッサマグナ地域の中新世火山岩類の同位体組成が沈み込む堆積物起源の流体やメルトの影響で肥沃化する可能性を議論している.よって,本地域のソレアイト系列火山岩おいても,そのような過程を考慮する必要がある.

     タイプ2~4の多くは低K安山岩と中間K安山岩の境界付近にプロットされ,カルクアルカリ系列のトレンドを示す.同程度のSiO₂量を示すタイプ1に比べ高いMgO,Cr,Ni,Sr濃度や低いY,HREE濃度を示す.このような特徴はタイプ4で最も顕著に見られ,SiO₂-各種元素図上ではタイプ2とタイプ3はタイプ1とタイプ4の中間にプロットされる.タイプ2~4の持つ微量元素の特長はアダカイト(Defant and Drummond、1990)に類似する事から本タイプはタイプ1マグマとアダカイト質マグマの混合により形成されたと考えられる.これはタイプ2~4に含まれる斜長石に汚濁帯などのマグマ混合を示唆する組織が見られる事と調和的である.タイプ2~4はBulk Silicate Earthに近い同位体組成を示すが,タイプ1マグマとのマグマ混合の影響を考慮すると端成分マグマであるアダカイト質マグマの同位体組成はタイプ2~4より枯渇的でDMMに近い特徴を示すと考えられる.アダカイト質マグマの形成場には幾つかのモデルが考えられているが,同位体組成は起源物質を反映するとされる(Castillo,2012).よって,本地域のアダカイト質マグマは沈み込んだ海洋地殻の部分溶融により形成されたと結論できる.

    【引用】 Castillo,2012,Lithos,134-135.Defant・Drummond,1990,Nature,347.石渡・大浜,1997,地質雑,103.Okamura et al.,2016,Journal of Geodynamics,97.高橋・周藤, 1999, 地質雑 105.

R2(口頭)岩石・鉱物・鉱床学一般
  • 河原 弘和, 吉田 英一, 山本 鋼志, 勝田 長貴, 西本 昌司, 梅村 綾子, 隈 隆成
    セッションID: R2-O-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    【背景】 岩石と地下水の反応で生じるリーゼガング現象は、岩石中に特徴的なバンド模様を展開する。近年、そのバンドが岩石-流体反応の化学的特性や反応のタイムスケールを推測する手がかりになると指摘されている[1]

     豪州北部キンバレー地域東部に産するゼブラロックは、リーゼガングバンドの一例として知られる。ゼブラロックはエディアカラ紀のシルト岩層中にレンズ状に産し、酸化鉄鉱物(赤鉄鉱)からなる数mm〜2 cm幅の赤褐色のバンド模様を示す。ゼブラロックが産する露頭は不連続ながら50 km以上に渡って分布し、広域の地質イベントに伴って生じた可能性がある。これまで、ゼブラロックに関する研究は数例あるが[2][3]、その形成プロセスは未解明である。

     本研究では、ゼブラロックの成因を基に鉄バンド形成時の岩石-流体反応の化学的条件を述べる。さらに、ゼブラロック形成に関連した地質イベントや鉄バンドの金属鉱床探査への応用の可能性を提案する。

    【結果】 薄片観察、XRD分析及びラマン分光分析の結果、ゼブラロックの主要構成鉱物は、極細粒の石英粒子及び粘土鉱物(カオリナイト、明礬石)である。特に粘土鉱物について、ほぼ明礬石からなるゼブラロックが本研究初めて記載され、(1)カオリナイト (Kao) に富むタイプと、(2)明礬石 (Alu) に富むタイプの2種類に分類された。XRF分析による両タイプの全岩組成は明瞭に異なり、特に鉄バンドのFe濃度は、Kaoタイプが~9%、Aluが~30%と大きな差が認められた。

     XGT分析による元素マッピングでは、鉄バンド中のFe濃度は一様ではなく、バンドの片側に偏在した非対称の濃度ピークとして分布している。この傾向は両タイプのゼブラロックで共通して認められ、一つのサンプル中におけるピークの偏りは全て同じ方向であった。

    【考察】 ゼブラロックの粘土鉱物組み合わせの違いは、高硫化系浅熱水鉱床の周囲で、熱水の温度やpHの違いに応じて発達する変質分帯(珪化-明礬石帯及びカオリナイト帯)とよく一致している。これはゼブラロックが酸性熱水変質を被ったことを示している。さらに、Kaoタイプに比べてAluタイプに高濃度に含まれる鉄バンドのFeの存在は、Feの溶解度の温度依存性を反映し、Aluタイプの形成に関与した流体の方がより高温であったことを示唆する。実際に、変質分帯において、明礬石帯はカオリナイト帯より熱水系源に近く、より高温(かつ低pH)の流体が関与している。これらの結果から、ゼブラロックの粘土鉱物組み合わせとFe濃度の違いは熱水系のモデルと調和的であり、酸性熱水変質とバンド形成は同じイベントで生じたと考えられる。

     ゼブラロックの元素マップで認められた鉄バンド中のFe濃度ピークは、浸透した流体と原岩との反応による鉄沈殿のリアクションフロントと見なすことができる。これは、Feを含む酸性熱水流体が原岩の堆積岩中に初生的に含まれていた炭酸塩鉱物との中和反応し、それに伴うpH上昇で、流体中のFeが酸化沈澱したことで説明することできる[4]。なお、ゼブラロック中に炭酸塩鉱物はほぼ含まれていないが、同層準の他地域の露頭では炭酸塩鉱物の存在が確認されている。

     ゼブラロック形成に関与した熱水活動の候補として、豪州北部に分布するカンブリア紀のカルカリンジ洪水玄武岩の活動が挙げられる。その活動時期は初期−中期カンブリア紀の大量絶滅とほぼ同時期で、地球規模で表層環境に影響を与えたイベントとして注目されている。本研究地域では、ゼブラロックを胚胎する堆積岩層において、それより上位の年代で生じた火成活動はこの一度だけであることも本知見を支持する。

    【結論】 本研究によって、ゼブラロックの成因について以下の点が明らかとなった:

    ・ゼブラロックは酸性熱水活動に関連して形成した

    ・鉄バンドは、鉄を含む酸性熱水と原岩中の炭酸塩鉱物の中和反応によるpH緩衝によって生じたと考えられる

    ・ゼブラロックの形成に関与した熱水活動は、カンブリア紀のカルカリンジ洪水玄武岩と関連する可能性が高い

     また、鉄バンド中の一方向のFe濃度ピークの偏りは浸透した流体の流向を示している[1]。従って、流向を逆に辿ることで、熱水金属鉱床が賦存することのある熱水系の中心の方向を推測できる可能性がある。熱水変質分帯と熱水の流向の両方を記録するゼブラロックは、熱水鉱床探査の有効な手がかりになると期待される。

    【文献】 [1] Yoshida et al., 2020: Chem. Geol. [2] Loughnan & Roberts, 1990: Aust. Jour. of Earth Sci. [3] Retallack, 2020: Aust. Jour. of Earth Sci. [4] Yoshida et al., 2018: Science Advances

  • 山田 来樹, 仁木 創太, 植田 勇人, 平田 岳史
    セッションID: R2-O-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    1. はじめに

    ジルコンのU–Pb年代測定は,特に近年のLA-ICP-MSの技術向上とともに大きく発達し,世界中に広く普及している年代測定のひとつである.その測定時には年代値を評価するための標準試料が,重要な役割を果たしている.世界的に普及している標準ジルコンとしては91500 [1]やPlešovice [2]などが挙げられる.近年では新生代の年代を示す若いジルコンも測定の対象となり,1 Maよりも若いジルコンが報告されている例も多い.国内ではOD-3 [3]が標準ジルコンとして普及しているが,10 Maよりも若い低Pb濃度のジルコンを評価するための標準試料は存在しない.本研究では中部日本に分布する鮮新世深成岩体の中から,標準ジルコンとなり得る岩石(TNG1)を採取し,若い標準ジルコンの確立を目指して年代測定をおこなっている.本発表ではその結果を報告し,TNG1の標準ジルコンとしてのポテンシャルを議論する.

    2. 地質概説およびサンプル記載

    サンプリングをおこなった谷川岳石英閃緑岩は新潟・群馬県境に位置し,主に中粒の石英閃緑岩~花崗閃緑岩からなる [4].本岩体からは3.91 ± 0.27 Maから3.10 ± 0.39 Maの黒雲母K–Ar年代[5, 6]と4.4–1.9 MaのジルコンFT年代[7]が報告されている.採取されたサンプル(TNG1)は変質を被っていない中粒の花崗閃緑岩で,斜長石,石英,カリ長石,黒雲母,角閃石,直方輝石,単斜輝石および鉄–チタン酸化物からなる.それ以外にアパタイトおよびジルコンが副成分鉱物として含まれる.

    3. ジルコンU–Pb年代

    採取したサンプル(TNG1)を粉砕し,水簸,パンニング,磁選,重液分離を通してジルコンを分離した(約100 gで100粒以上).分離したジルコンをエポキシ樹脂にマウントし,カソードルミネッセンス(CL)像を撮影した上で,新潟大学理学部地質科学教室設置の213nm ND-YAGレーザーアブレーションシステムを連結したquadrupole ICP-MSでジルコンU–Pb年代を測定した. TNG1のジルコンの最大径はおよそ300 μmに及び,顕著な波動累帯を示す粒子は少なく弱い累帯を示すものが多い.U–Pb年代を測定した粒子(n = 28)のうち75%がコンコーダントと判断され,3.42 ± 0.08 Ma(MSWD = 2.2;probability fit = 0.2%)の238U–206Pb加重平均年代を得た.

    4. 標準試料としてのポテンシャル

    得られたジルコンの組織や年代値は,TNG1が年代的に均質であり,年代値が非常に良くまとまっていることを示唆している.[2]はジルコンの標準試料に要求される6つの条件を示しているが,それに従えばTNG1は新たな標準試料としてのポテンシャルがあると言える.①「Pb/U同位体比の均質でよくまとまること」:年代値の誤差は小さく,年代値の良いまとまりを示している.②「普遍鉛が少ないこと」:75%の粒子がコンコーダントと判断され,普遍鉛は少ないと考えられる.③「測定に適したU濃度」:U濃度は未測定なものの,測定に十分なシグナルが得られた.④「結晶構造が測定に適したものであること」:メタミクト化などは受けていないため,測定に適している.⑤「複数回の測定が可能な粒子の大きさ」:単粒子としては非常に大きいものではないものの,複数回測定することは可能である.⑥「一般に広く普及できること」:露頭規模も大きく,サンプルの枯渇はしばらく発生しないと考えられる.また,新潟大学に充分な試料を保管している.以上からTNG1は,新たな標準ジルコンとしてポテンシャルがあるサンプルであると考えられる.しかしながら,ジルコンのスタンダードとして確立するためには,同位体非平衡補正や他の手法(例えばMC-ICP-MSやSHRIMPなど)での更なる測定が望まれる.

    (補足)サンプルが必要な方は第一著者(yamada.raiki.geo@gmail.com)宛てに連絡をください.

    引用文献 [1] Wiedenbeck et al. (1995) Geostand. Geoanalytical Res., 19, 1–23. [2] Sláma et al. (2008) Chem. Geol., 249, 1–35. [3] Iwano et al. (2013) Isl. Arc 22, 382–394. [4] 茅原ほか(1981)5万分の1地質図幅「越後湯沢」および同説明書. [5] 川野ほか(1992)岩鉱,87,221–225. [6] 佐藤(2016)群馬県立自然史博物館研究報告,20,85–104. [7] 雁沢・久保田(1987)第94年地質学会要旨,194.

  • 油谷 拓, 桑谷 立, 吉田 健太, 上木 賢太, 中尾 篤史, 鳥海 光弘, 平野 直人
    セッションID: R2-O-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    [火成岩岩石学と機械学習] 火山岩の化学組成データは複数の元素の含有量を格納する高次元データであり,適切に解析を行うことにより多くの情報を抽出できる可能性が秘められている.しかし高次元のデータは可視化の困難さ等もあり的確な理解,解釈をする上での障害は多い.近年それを解消するために多変量解析や機械学習などの数理的な手法による岩石学へのアプローチがなされるようになってきた.教師あり学習で高次元データを既知のラベル(岩石形成のテクトニクス場など)に紐付ける研究例ではPetrelli and Perugini (2016, Contrib. mineral. petrol, 171(10), 1-15.) やUeki et al.(2018, G3, 19, 1327-1347.) など成功例が増えつつある.一方でIwamori et al.(2017, G3, 18(3), 994-1012.) は教師なし学習として白色化+K-means法 (KM) を玄武岩同位体データセットに適用し,玄武岩の起源の識別に有効であることを示した.一般的に教師なし学習によるデータ解析は探索的な解析となり,未知のデータセットや予察的な解析に有効である.そこで本研究では教師なし学習によるデータ解析の更なる有効性を検証すべく,火成岩のデータセットに対して複数のクラスタリング手法を適用して結果を比較した.

    [目的と手法] 本研究では岩石学データベース ”GEOROC” の安山岩,デイサイトの微量元素組成データを用いて3つのクラスタリング手法 (KM,混合ガウス分布モデル (GMM),混合t分布モデル (SMM)) を実装し,既知の岩石種が抽出可能か調べることで各手法の火山岩データベースに対する応用可能性を検証した.GMMはデータ点の集合を複数のガウス分布の和として最適化する手法である.SMMは正規分布よりも裾野の重いt分布の混合モデルであり,GMMよりも外れ値に頑健な手法である.今回,学習したパラメータを基に各クラスタの岩石生成プロセス抽出も試みた.XRFで分析可能な9種の微量元素組成データ (Ti,Cr,Ni,Rb,Sr,Y,Zr,Nb,Ba) を対象とすることで,解析対象のデータ数は約2万点得られた.それらに白色化を施したのちにKM,GMM,SMMを行った.

    [結果] 玄武岩の同位体比データでは精度の良い解釈が可能だったKMは,珪長質岩の微量元素組成データとテクトニクス場の対応付けにおいてはうまく機能しなかった.珪長質岩は玄武岩と比較するとデータの分布が複雑であるということが示唆される.GMMではクラスタ数を6以上と設定した場合に高Mg安山岩 (HMA) や未成熟な海洋性島弧に特徴的にみられる低Kソレアイト (LKT) に相当するグループの抽出に成功した.しかし外れ値に強く影響されるため,岩石学的解釈の困難な矮小なクラスタも見られた.一方ガウス分布よりも裾野の重く外れ値に影響されにくいSMMで学習した結果,より少ないクラスタ数の設定(4)でもHMA,LKT,その他のソレアイトおよびカルクアルカリ岩系列の4種の岩石種に相当するグループが検出され,火山岩の化学組成データと裾野の重い確率分布の混合モデルの相性が良いことが示唆される結果となった.また,GMMやSMMでは確率分布のパラメータ(各クラスタの重心や分散共分散行列など)が最適化される.各クラスタの高次元空間における分布の特徴(平均組成やトレンド)は学習されたパラメータの値により統一的・定量的に捉えることが可能である.これは高次元データの持つ情報量を保持しつつ火成岩岩石学的な解釈を可能にするものと考えられ,確率分布モデルの長所である.

  • 原田 浩伸, 辻森 樹
    セッションID: R2-O-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    変成炭酸塩岩(変成炭酸塩堆積物)は造山帯には普遍的に産し、その鉱物組成共生関係や同位体組成に着目した岩石学・地球化学的研究は、変成炭酸塩岩の原岩と変成条件の束縛だけでなく、流体の起源と流体–岩石相互作用などの定量的な議論を可能にする(Harada et al. 2021a; Ogasawara et al. 2000; Satish-Kumar et al. 2010 など)。一般に、造山帯の変成炭酸塩岩の多くは珪酸塩鉱物を含み、炭酸塩鉱物との変成反応によってCO2を放出する。従って、その脱炭酸変成反応の理解は地殻におけるCO2(及び含CO2流体)の挙動を明らかにする上でも重要である。本講演では飛騨帯の角閃岩相からグラニュライト相変成作用を被った変成炭酸塩岩の新知見を紹介し、さらに、ドロマイト質大理石を用いた地質記録解読の可能性についても紹介する。

     ペルム紀〜三畳紀の大陸縁の地殻断片を主体とする飛騨帯は、過去20年間に年代学の進展があったが(Harada et al. 2021b; Sano et al. 2000; Takehara and Horie 2019など)、岩石学・地球化学的研究は停滞していた。最近、Harada et al. (2021a) は飛騨帯に産するドロマイトを含まない大理石及び石灰珪質岩についてマイクロサンプリングによる炭酸塩鉱物の炭素 (C)–酸素 (O)の微少量同位体組成分析を行い、幅広いC–O同位体組成を報告した (δ13C = −4.4 to +4.2‰ [VPDB]、δ18O = +1.6 to +20.8‰ [VSMOW])。とりわけ、低いδ13C(δ13C = −4.4 to –2.9‰)の石灰珪質岩は、炭酸塩鉱物と珪酸塩鉱物との間での脱炭酸反応によるδ13C低下を示す。また、多くの大理石試料のδ13Cは炭酸塩堆積物の範囲内であるものの、脱炭酸反応によりCa単斜輝石を形成し、脱炭酸反応の程度に応じてδ13C値はばらつく。一方、δ18Oは炭酸塩堆積物に比べて低く、水流体や珪酸塩鉱物との同位体交換を記録する。しかしながら、δ18Oの改変は認められるものの、Sr同位体比(87Sr/86Sr)は炭酸塩堆積物のそれに近い値で、初生的な同位体比を保持している可能性が高い。飛騨帯の変成炭酸塩岩の多くはドロマイトを含まない、いわゆる大理石であるが稀にドロマイト質大理石も産する。ドロマイト質大理石は含Mg方解石 + ドロマイト + かんらん石(Fo~93–94;一部蛇紋石化)の鉱物組み合わせを持ち、少量の金雲母やクリノヒューマイトなどを含む。含Mg方解石は顕著なドロマイトの離溶組織を呈し、大理石では読み解くことのできない熱史の解析を可能にする。また、かんらん石には初生的な流体包有物が保存されており、脱炭酸変成反応に関与した流体及び蛇紋石化に関与した水流体など、高い地殻熱流量で特徴付けられた大陸縁の地殻流体の実像を解明できる可能性がある。

    引用文献

    Harada, H. et al., 2021a. Island Arc 30, e12389. doi: 10.1111/iar.12389

    Harada, H. et al., 2021b. Lithos 398–399, 106256. doi: 10.1016/j.lithos.2021.106256

    Ogasawara, Y. et al., 2000. Island Arc 9, 400–416. doi: 10.1046/j.1440-1738.2000.00285.x

    Sano, Y. et al., 2000. Geochem. J. 34, 135–153. doi: 10.2343/geochemj.34.135

    Satish-Kumar, M. et al., 2010. Lithos 114, 217–228. doi: 10.1016/j.lithos.2009.08.010

    Takehara, M., Horie, K. 2019. Island Arc 28, e12303. doi: 10.1111/iar.12303

  • 岡本 敦, 吉田 一貴, 大柳 良介, 藤井 昌和, 丹羽 尉博, 武市 泰男, 木村 正雄
    セッションID: R2-O-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    海洋リソスフェアにおける蛇紋岩化作用は、かんらん石中のFe(II)を酸化すると同時に水を還元して水素を発生する。この反応は、酸素の乏しい海洋底の生物圏においてエネルギーを供給する重要なプロセスである。蛇紋岩化作用に伴って生成するFe(III)を含む主要鉱物は磁鉄鉱であるが、海洋底試料の磁化率は、必ずしも密度変化(蛇紋岩化作用の進行度)と線形的な相関があるわけではない(Fujii et al., 2016)。その1つの要因として、蛇紋石にはFe(III)が固溶することが指摘されているが、測定の煩雑さなどのために、その系統性はいまだによくわかっていない。本研究では、オマーンオフィオライトの陸上掘削で得られた地殻-マントル境界の試料(CM1A, CM2B)について、含水量測定、組織観察とともに、高エネルギー加速器研究機構の放射光施設(Photon Factory)においてX線吸収分光の測定を実施した.粉末試料でのバルク測定(at BL12C)、薄片試料でのマッピング測定(解像度~20ミクロン,at BL15A1)により,Fe(III)/Fe(total)の比率とその分布を決定した。また、磁化率の測定結果と合わせて、数百メートルからマイクロスケールでのFe(III)の分布について考察する。CM1Aは下部地殻-地殻マントル遷移帯―上部マントルを貫く400mのコアであり、CM2Bは地殻マントル遷移帯から上部マントルにかけての300mのコアである。どちらも著しく蛇紋岩化作用が進んでおり、はんれい岩中のかんらん石は10-70%程度、地殻マントル遷移帯のダナイトはほぼ100%, 上部マントルのハルツバージャイトは70-80%程度蛇紋岩化作用が進んでいる(Kelemen et al., 2021; Yoshida et al., 2020)。全ての岩相において、メッシュ組織などを形成しながら浸透的に蛇紋岩化作用を起こしているのはリザダイト+ブルース石+磁鉄鉱であるが、CM1Aでの遷移帯中のダナイトには、特徴的なアンチゴライト脈のネットワークが形成されている。このアンチゴライト脈は、しばしばその周辺にブルース石の反応帯を持ち、磁鉄鉱が濃集している。バルクのFe(III)/Fe(total)比は含水量(LOI )が増加するほど線形的に増加し、はんれい岩で0.2-0.4, ハルツバージャイトで0.35-0.6、ダナイトで0.45-0.65 であった。また、Fe(III)/Fe(total)のマッピング測定の結果、リザダイトで0.3-0.4、アンチゴライト脈で0.2-0.3と,オマーンオフィオライトの蛇紋石の中にも相当量のFe(III)が含まれることが明らかとなった。一方で、磁化率から得られた磁鉄鉱の量とLOIの関係を見ると、蛇紋岩化作用が進行度はほぼ変わらなくても、ダナイト(2-9 wt%)の方がハルツバージャイト(0-3wt%)よりも磁鉄鉱の量が多く、ダナイトの中で磁鉄鉱の量は大きなバリエーションがあることがわかった。また、全岩のFe総量を合わせて考えると、ダナイトにおいては、Fe(III)は主に磁鉄鉱に含まれて存在し、ハルツバージャイトでは主に蛇紋石に存在していることがわかった。以上のことから、ハルツバージャイトを主とする上部マントルでは蛇紋岩化作用によって磁鉄鉱は出来にくいが、Fe(III)蛇紋石を生成することによって水素を発生するポテンシャルを持っている。一方で、ダナイトは、磁鉄鉱を作りながら蛇紋岩化作用が激しく進行している。一部、磁化率のばらつきは、オブダクションのステージの局所的な流体流入に伴うアンチゴライト脈の形成時期に、磁鉄鉱の溶解析出により不均質な分布を作っているためであると考えられる。Fujii, M., Okino, et al., 2016. Geocemistry, Geophysics, Geosystems, 17, 5024-5035.Kelemen, P.B., Matter, I.M., et al. 2020. Proceedings of the Oman Drilling Project, doi.org/10.14379/OmanDP.proc.2020.Yoshida, K., Okamoto, A., et al., 2020. Journal of Geophysical Research, solid earth 125, doi.org/10.1029/2020JB020268

R3(口頭)噴火・火山発達史と噴出物
  • 片岡 香子, 卜部 厚志, 長橋 良隆
    セッションID: R3-O-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    御嶽山2014年噴火で発生したような小規模噴火は,山頂周辺から近傍域のテフラ層序により復元されることが多い.しかしながら,近傍域はテフラの保存ポテンシャルが低く,地質記録から検知できない噴火も多い.一方で,小規模噴火といえども,それに密接に関連し発生するラハールの堆積物が下流の陸水成層や湖成層に挟まることが知られており(Cronin et al., 1997; 片岡ほか,2015; Kataoka et al., 2018),その解析から過去の噴火の発生時期や様式を復元する試みも近年なされている(Van Daele et al., 2014; Kataoka and Nagahashi, 2019; Minami et al., 2019).

    安達太良火山における過去1万年間の近傍テフラ層序では,ブルカノ式噴火と水蒸気噴火によるテフラ層がそれぞれ6層(Ad-NT1〜6)と5層(Ad-p1〜5)報告されており(山元・阪口,2000),長橋・片岡(2019)は新たに2層の水蒸気噴火によるテフラ層(Ad-p4.5,-p4.7)を認定した.火山近傍で認められた同火山の小規模噴火由来のテフラ層は過去1万年前までが多く,比較的規模の大きな噴火による2層のテフラ(Ad-NH,-JM)を除けば,ブルカノ式に由来するものを含めたより古いテフラは,最終氷期における侵食作用で消失した可能性も指摘されている(山元・阪口,2000).一方,沼ノ平火口から約7 km下流に位置する酸川盆地には,酸川沿いの露頭調査により,過去約14000年間に堆積した18層のラハール堆積物が認められ(山元,1998;片岡ほか,2015),そのうち17層は泥質ラハール堆積物で,安達太良山の過去の水蒸気噴火を起源とする(片岡ほか,2015).さらに下流に位置する猪苗代湖の湖底堆積物からは,過去約5万年間にさかのぼり,安達太良火山の水蒸気噴火に由来するラハールの遠方相となる湖底密度流堆積物が多数見つかっている(Kataoka and Nagahashi, 2019).

    本研究では,酸川盆地の若宮木地小屋で掘削されたボーリングコア堆積物(SKW2018コア:掘削深度32 m)を検討した.コア上部(深度0〜16.5 m)は,ラハールを含むイベント堆積物,有機質土壌層,河川成砂礫層からなる.コア下部(深度16.5 mから32 m)は河川成砂礫層と中新統の火砕岩(木地小屋層:山元,1994)のブロック(数10 cm〜数 m)の互層となる.上部のイベント堆積物は,泥質ラハール堆積物が13層,砂質イベント堆積物が6層,礫質(巨礫を含む)イベント堆積物が1層,認められた.そのうち,泥質ラハール堆積物は,層厚が13 cm〜2.7 mで,灰色や青灰色で粘土分の多い泥を基質とし,塊状・不淘汰・基質支持で,中礫から大礫サイズの安山岩亜円礫および角張った白色変質岩片を含む.堆積物の特徴は,酸川沿いの露頭で認められるラハール堆積物(山元,1998;片岡ほか,2015)と同じであり,粘着性土石流による堆積物と解釈できる.また,粘土や変質岩片に富む特徴は,安達太良火山の変質帯を起源とする水蒸気噴火によるものと考えられる.

    泥質ラハール堆積物中に含まれる有機物または上下に挟在する古土壌層から14C年代値を得た.その結果,酸川沿いの露頭から発見された既存のラハール堆積物よりも,より古い年代値を示す約31,000年前頃(暦年値)のものが少なくとも5層あることが明らかとなった.この5層は年代値が近接しているが,それぞれの間に土壌層を挟むことから,火山噴出物やラハール堆積物を母材とした繰り返しの再堆積ではなく,個別の噴火に対応したラハールイベントが発生したことが考えられる.猪苗代湖の湖底堆積物に挟まる安達太良火山の個々の小規模噴火に由来するラハール堆積物の遠方相は,その挟在間隔は数年から数十年単位のものが数多く捉えられていることから(Kataoka and Nagahashi, 2019),ラハールの起因となった安達太良火山での小規模水蒸気噴火は,短周期で繰り返し発生していた可能性が高い.

    <文献> Cronin et al. (1997) JVGR, 76, 47–61.片岡ほか(2015)火山,60,461–475.Kataoka et al. (2018) EPS, 70, 113.Kataoka and Nagahashi (2019) Sedimentology, 66, 2784–2827. Minami et al. (2019) JVGR, 387, 106661.長橋・片岡(2019)地球科学,73,47–48.Van Daele et al. (2014) GSAB, 126, 481–498.山元(1994)地調月報,45,135–155.山元(1998)火山,43,61-68.山元・阪口(2000)地質雑,106,865–882.

  • 石塚 治, 片岡 香子, 前野 深, 片山 肇, 有元 純, 高下 裕章, 下田 玄, 針金 由美子, Conway Chris, 古山 精 ...
    セッションID: R3-O-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    [目的] 地球上には,大規模な山体崩壊を繰り返し引き起こしながら成長していく火山が多く存在している .日本国内にもこれまで大規模な山体崩壊を起こした火山が多く存在する.とくに1640年北海道駒ケ岳,1741年渡島大島,1792年雲仙眉山では多くの犠牲者が出たが,これは大量の火山砕屑物が海へ流入して津波が発生し,甚大な災害に発展したためである.このように海に囲まれた日本の火山では山体崩壊が大きな災害の要因になりうるが,崩壊メカニズムや火山活動との関係については不明な点も多い. 山体崩壊の原因とトリガーについてはこれまで多くの研究がなされてきたが,山体崩壊が起きることによるその後のマグマ,噴火活動への影響については理解が遅れている.本研究では,1741年に大規模山体崩壊を起こした渡島大島火山について,陸上および海底に分布する山体崩壊前後の火山噴出物,堆積物調査と室内分析を基にこのテーマに取り組む. [渡島大島火山] 北海道西方の日本海に位置する渡島大島火山は,東北日本弧の最も背弧側に位置する活動的火山である.渡島大島火山では,1741-42年の噴火の際,北側斜面で山体崩壊を起こし,山頂部には馬蹄形のカルデラ地形と中央火口丘(寛保岳)が形成された.このため,寛保岳周辺や,山頂カルデラ縁等において,山体崩壊イベント前後の火山噴出物が採取できることが期待される.これら地域での露頭の調査により,火山体崩壊イベント前後のマグマ組成変化の検出を試みるため,火山体崩壊前後の火山噴出物及び14C年代測定用試料を採取した.またより長期の変動を確認する目的でカルデラ壁に露出する溶岩の採取も行った. [海底調査] 渡島大島北側の海底斜面には流れ山地形が見られ,加藤(1997)によるしんかい2000による潜航調査により,崩壊堆積物が存在していることが確認された.また周囲を海に囲まれていることから,周辺海底に火山噴出物の良好な連続記録の保存が期待できる.2020年8月実施の学術研究船「白鳳丸」KH-20-7航海では,渡島大島周辺海底を調査対象とし,1)渡島大島火山の山体崩壊由来の堆積物の構造,厚さ,分布範囲を明らかにするための反射法音波探査とサブボトムプロファイラによる浅部構造探査(本学会,有元ほかの発表を参照),2)火山灰および山体崩壊に関連した堆積物コアの採取,3)流れ山の由来あるいは側火山噴出物の特徴を解明するためのドレッジによる岩石試料採取及び海底撮影,4)山体崩壊堆積物の分布や堆積状況を明らかにするための海底地形調査,5)火山体とその基盤の構造を理解するための重磁力調査,を実施した. [予察的結果] 渡島大島山頂部の複数地点の露頭から採取した主に1741年以降の噴出物の層序と岩石学的,化学的特徴から1)1741-42年噴火の経過を反映して,主成分,微量成分組成ともに明瞭かつ系統的な時間変化を示す.2)一連の噴出物は大部分が玄武岩質マグマの活動によるものだが,2層準に安山岩質噴出物を含む.この噴出物の組成変化は,古文書の記載“白灰黒砂降る”に相当するのではないかと考えられる.3)1741年の津波を引き起こした山体崩壊は,2)で記した安山岩噴出物のうち,上位のものが噴出した後で発生した可能性が高い.4)明らかになった化学組成変化は,同一マグマの結晶分化作用では説明できない.5)特に大きな組成変化が山体崩壊前に噴出したと考えられる安山岩質噴出物の活動の前後で起きた.6) 中央火口丘等山体崩壊後の噴出物に安山岩質のものはなく,これらの噴出物を覆う安山岩質噴出物も認めていない.7)山体崩壊後の火山噴出物中の化学組成範囲は,結晶分化作用のみで説明できない,ことが明らかになった. これらの結果は,渡島大島火山のマグマ組成が1741-2年の噴火活動の中で時間の経過とともに変化したが,その変化の中には山体崩壊に関連すると考えられる短時間で非常に大きな変化と,徐々に系統的に変化していくものと2種類あることを示唆する.今後海底で採取された噴出物との対比を進め,山体崩壊前後のマグマ供給系の時間変化の詳細を明らかにしたい. 引用文献:加藤 幸弘(1997)JAMSTEC J. Deep Res., 13, 659-667.

  • 伴 雅雄
    セッションID: R3-O-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    火山のマグマ供給系の解明に有効なもののひとつに岩石学的研究がある。本発表では、岩石学的研究によって明らかになってきた地殻内マグマ供給系の全容について概観した後、主に安山岩~デイサイト質火山の地殻内マグマ供給系に関する解明すべき主要な事項について、岩石学的解析方法や得られている成果などを、発表者が携わったものも含む事例研究を基にして紹介する。

    ◇地殻内マグマ供給系の全体像:主に岩石学的な研究結果を基にして、地殻内マグマ供給系の全容について簡単にまとめると次のようになる。地殻下部は苦鉄質マグマの注入・固結・マグマ抽出等が繰り返し起こり、マグマ組成を複雑に変化させる領域と捉えられる。抽出されたマグマは上昇・冷却し、半固体状マグマ溜りが地殻(中~)上部に多数存在するようになる。新たに上昇したマグマが、半固体状のマグマ溜りを活性化しメルト量を増大させるなどして噴火に至るというものである。活性化される部分は単一火山下でも噴火毎に異なる場合が多い。

    ◇地殻上部のマグマ溜りの存在位置や特性:単一の火山の岩石学的データを基に解析できるのは、地殻(中~)上部についてである場合が多い。例えば沈み込み帯の安山岩質火山の場合は、噴出物はマグマ混合によって形成されたものからなる場合が多いが、その全岩組成と含まれる斑晶の組織・組成を解析することによって、混合に関与した地殻上部に位置する半固体状マグマと深部から上昇したマグマの組成、温度や圧力などの条件を求めることができる。なお、この種の解析の際に、深部由来マグマの一部が急冷固結して噴出物中に残存している苦鉄質包有物を扱うと、両マグマの組成の推定等に際してより有用な情報が得られる。

    ◇地殻上部のいろいろな場所が活性化される場合が多い:噴火が繰り返している火山の場合に、噴出物の全岩化学組成を噴火時期毎に分けてみると各々異なっている場合が多い。その組成差が明瞭で、異なるもの同士の組成が結晶分化などの単純なプロセスでは説明がつかないという例も示されていることから、このような組成差は活性化される部分が時期毎に異なっていることによる可能性が高いと考えられる。なお、単一の噴火で異なる複数の場所が活性化され同時に噴出する場合もある。

    ◇斑晶組織と組成から推定されるマグマ溜り内プロセス:マグマ溜り内のプロセスの解析に斑晶組織や組成の情報を用いる場合が多い。中でも斜長石については多くの研究が行われている。例えば、混合によって形成された噴出物中の斜長石斑晶については、累帯構造・各種溶融組織や化学組成に基づいて分類され、各タイプの特徴からそれらをもたらしたプロセスやマグマ組成の変化などが推定される。なお、斜長石斑晶の組織・化学組成に基づく分類は研究者によってやや異なるので注意が必要である。また、一回~一連の噴火において連続的に採取された試料を用いれば、斑晶の特徴の変化を調べることによってプロセスの時間変化の解明が可能である。

    ◇供給系の持続時間について:20年ほど前から盛んに行なわれている累帯構造解析に基づく滞留時間推定の研究などによって、斑晶と思われていた結晶の幾つかあるいは多くが、それらを含む噴出物の噴火年代よりも古い時期に形成されたものであることがわかってきた。これらはantecrystと呼ばれ、過去のマグマ活動によって形成された後に供給系内に留まっていた結晶が噴出されたものである。antecrystの年代は、地殻上部より、深部に由来するの方がより古いものまで認められる傾向があり、供給系は深部の方が持続時間が長いと考えられている。

    ◇噴出物中に含まれる多様な深度由来の結晶について:さらに、斑晶中に含まれるメルト包有物の揮発性成分の分析結果や角閃石斑晶の生成深度推定の研究などの結果から、それらの斑晶が多様な深度で形成されたことを示す研究例が報告されるようになった。この場合は、噴火の際には中~上部の様々な深度に存在する結晶が深部由来のマグマに取り込まれて地殻上部に到達して地殻上部に存在するマグマ共々噴火すると説明されている。

    ◇地殻深部のマグマプロセスの解明:噴出物に記録されている岩石学的情報の多くは、地殻上部のマグマプロセスに起因するものである。地殻上部のマグマプロセスは噴火に直結するものとしても重要であり、今後さらなる精密化が望まれる。一方で、中部~深部については、例えば活火山下では広範囲に地震波の低速度領域が認められる場合が多く重要であると考えられるが、その領域のマグマプロセスについては全岩組成に残されている間接的な方法によって推定されている現状である。前項で示した多様な深さから由来した結晶が認められるようになってきた現在、それらを直接的に岩石学的に扱うことによって地殻(中部~)下部における供給系の解明が進むことが期待される。

R4(口頭)変成岩とテクトニクス
  • LU ZEJIN, 大和田 正明
    セッションID: R4-O-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    究目的  山口県南部には、中生代の地質帯が広く分布する。それらは主に三畳紀高圧型変成岩類、白亜紀高温型変成岩類および白亜紀火成岩類(深成岩、火山岩)である。講演者らは、これまで山口県南部下松市~防府市沖の大島半島・粭島、大津島そして野島に産する泥質片岩に着目して変成作用の特徴、変成温度・圧力条件および変成年代について検討してきた。本発表は、これまでに得られたデータに笠戸島(Beppu & Okudaira, 2006)のデータを加えて整理し、この地域に分布する変成岩類の変成温度・圧力条件と黒雲母K–Ar年代から,変成作用の特徴や帰属を議論する。

    地質概要  調査地域には泥質片岩が卓越し、珪質片岩や変成チャートをレンズ状岩体やブロックとして伴う。また、野島の北部には枕状構造が発達した変玄武岩ブロックが分布する。その他、石灰岩や石灰珪質片岩も少量伴われる。

    岩石記載  泥質片岩は細粒で片理面が発達し、線構造も認められる。主な変成鉱物は黒雲母(Bt)、白雲母(Ms)、菫青石(Crd)、ザクロ石(Grt)、紅柱石(And)で、緑泥石(Chl)やカリ長石(Kfs)を伴う。各地域で北から南へ以下の組み合わせを示す。

    笠戸島:Ms+Bt±Grt、Ms+Bt+Crd+Kfs±Grt、Ms+Bt+Grt+Kfs

    大島半島・粭島:Bt±Ms、Bt+Crd±Ms、Bt+Crd+Grt±Kfs、Bt+Ms+And

    大津島:Bt±Ms、Bt+Grt±Ms、Bt+Crd+And、Bt+Crd±Ms

    野島:Bt+Ms±Chl±Grt、Bt+Ms+Grt+Kfs

    K-Ar年代 粭島と野島の泥質片岩から黒雲母を分離し、K-Ar年代を測定した。その結果、粭島90.1±2.1Ma、野島92.1±2.1Maという冷却年代を得た。

    変成分帯  変成鉱物組み合わせの変化から、笠戸島、大島半島・粭島および大津島は北部の黒雲母帯と南部の菫青石帯に分帯される。一方、野島は北部が黒雲母帯で、南部がザクロ石帯に分帯された。泥質片岩の化学組成は、野島のザクロ石帯とそれ以外の菫青石帯でFe/Fe+Mg(XFe)値とMn/Fe+Mg+Mn(XMn)値が異なり、いずれも野島産の岩石が最も高い。この傾向はザクロ石の組成でも同じである。従って、野島にザクロ石帯が存在するのは、泥質片岩の化学組成が高XFe・XMn値であることによると考えらえる。

    ピーク時の変成温度と圧力  Beppu and Okudaira(2006)は笠戸島の領家帯変成岩について研究し、菫青石帯の変成温度・圧力条件として550℃、250MPaを見積もった。一方,野島産ザクロ石帯の変成岩類についても、480-530℃、180-300MPaが見積もられた。すなわち、菫青石帯とザクロ石帯の変成度はほぼ同じであると考えられる。

    変成岩類の帰属  大島半島北部、粭島および大津島は、これまで高圧型変成作用を受けた周防帯とされてきた。本研究では、これらの地域から菫青石や紅柱石を見出し、鉱物組み合わせ,変成温度・圧力条件および黒雲母K–Ar年代から,山口県南部の笠戸島から野島に産する変成岩類は領家帯に帰属すると考えられる。一方、黒雲母帯と菫青石帯(ザクロ石帯)のアイソグラッドの位置は、大島半島・粭島から大津島は連続するが、笠戸島と野島には連続しない。この原因について、この地域の熱構造形成後の変形によって改変された可能性がある。

    引用文献

    芥川祐樹・大和田正明(2018)山口県南部に産する低圧型変成岩類の変形・変成作用.日本地質学会学術大会講演要旨(札幌).

    Beppu, Y. and Okudaira, T. (2006) Geology and metamorphic zonation of the Ryoke Metamorphic Belt on Kasado-jima Island, SW Japan. Journal of Mineralogocal and Petrological Sciences. 101, 240-253.

  • 河上 哲生, 市野 智栄, 葛立 恵一, 坂田 周平, 髙塚 紘太
    セッションID: R4-O-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    ペトロクロノロジーと野外地質調査を組み合わせた研究手法を用いて、領家帯三河地域における深成-変成-変形履歴を読み取る研究を行った。Bt帯からGrt-Crd帯までの変成分帯として記録された広域変成作用のうち、珪線石安定領域における部分溶融を伴う高度変成は約97 Ma~約89 Maまでの間、中部地殻深度(~ 21-14 km)で続いていた。約87 Maには珪線石-紅柱石脈が形成されていることから550 ℃以上のサブソリダス条件に変成度は下降していたと考えられ、87-75 Ma花崗岩類がGrt-Crd帯の最下部に貫入するまでサブソリダスな条件は継続していた。Grt-Crd帯の約79Maのペグマタイト脈が変形同時の産状を示すこと、81-75 Ma花崗岩類が変形していること、そして81-75 Ma花崗岩類はMTLに沿うように50 km以上にわたって分布していることから、81-75 Ma花崗岩類の貫入はGrt-Crd帯最下部の中部地殻における広域的なスケールの延性変形を引き起こしたと考えられる。Grt-Crd帯のミグマタイトには81-75 Ma花崗岩類の貫入同時期のジルコンのオーバーグロウスが見られるものがある。従って、三河地域のGrt-Crd帯の広域変成作用は複数相の変成・変形からなると言える。このような広域変成作用よりも若い片麻状花崗岩類のGrt-Crd帯への貫入と、貫入同時の変成・変形作用は、青山高原地域(Kawakami et al., 2019)や柳井地域(Skrzypek et al., 2016)では認められていない。従って、三河地域より西方地域のGrt-Crd帯では複数相の広域変成・変形のオーバープリントは起きていないと思われる。

    広域変成作用の変成分帯で示される約97 Maから約75 Ma頃までの地殻断面のうち高変成度部は、約75-69 Maまでに傾斜しながら約13-9 kmまで上昇し、そこに変成分帯を横断するように75-69 Ma花崗岩類が貫入した(Takatsuka et al., 2018)。従って、約97 Maから約75 Ma頃までの地殻断面に斜交して上書きするように、約70Ma頃の地殻断面の記録が保存されている。約70 Maの三河地域の地殻断面(上部地殻のみが露出)は75-69 Ma花崗岩類とその接触変成帯、および濃飛流紋岩で代表される。75-69 Ma花崗岩類の中で最大のバソリスであり、約75-69 Maの年代幅を持つ伊奈川花崗閃緑岩の周囲にはミグマタイト帯が発達するが、そのミグマタイト中のジルコンリムは約74 Maを与える。また、伊奈川花崗閃緑岩の周囲の変成岩中に貫入する変形同時のペグマタイト脈は約70Maの年代を与える。これらのことから、伊奈川花崗閃緑岩の貫入が、周囲の接触変成帯における局所的な部分溶融と延性変形のきっかけとなったと考えられる。

    本研究により、熱い地殻へのパルス状の花崗岩類の貫入は、様々な深度で広域的・局所的な延性変形を引き起こすきっかけとなることがわかった。エピソディックな花崗岩類の上・中部地殻への貫入は地殻の強度をコントロールする重要な要因の1つである。

    引用文献

    Kawakami et al., 2019, Lithos, 338–339, 189–203.

    Skrzypek et al., 2016, Lithos, 260, 9-27.

    Takatsuka et al., 2018, Lithos, 308–309, 428–445.

  • 石川 正弘
    セッションID: R4-O-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    地球の歴史において地球内部は時間とともに冷却していると考えられているが、地球内部の放射性元素、特にウラン、トリウム、カリウムの放射性崩壊は継続的に熱を発生している。地球は膨大な熱を放出しており、地球から宇宙へ放出される熱フラックスは44テラワット(Pollack et al., 1993 Reviews of Geophysics)もしくは31テラワット(Hofmeistar, 2005 Tectonophysics)という数値が得られている。しかし、原始地球誕生に由来する「残留原始熱」と放射性元素の崩壊による「放射性崩壊熱」の相対的な寄与は不確かなままであり、「放射性崩壊熱」の見積もりが重要な課題となっている(例えばKorenaga 2011 Nature Geoscience)。地殻は、大陸で約40km、島弧で約20‐30㎞、海洋底で約7kmの厚さであり、固体地球に占める体積はわずかであるが、地球にあるウラン、トリウムのおよそ半分が地殻に濃縮していると予想されている。しかし、熱源になる放射性元素が、地殻内部のどこにどれくらいあるのかは明確にはなっていない。近年では、神岡鉱山跡でウランやトリウムなどが崩壊するときに放射される反電子ニュートリノ(地球ニュートリノ)を観測することで(Araki et al., 2005 Nature)、熱源になる放射性元素の分布を解明しようとする研究が行われており(The KamLAND Collaboration 2011 Nature Geoscience)、放射性崩壊熱とその熱源の分布を解明することは固体地球の熱放出プロセスと固体地球の熱進化に関する研究において非常に重要な課題となっている。

     地殻内部の放射性崩壊熱とその熱源の分布を解明する上で、地殻内部の温度構造は重要な情報である。岩石学的研究や数値シミュレーションによるマントルウェッジの温度分布モデルによると、東北日本のモホ面の最高温度は約1000℃と推定されている(例;Tatsumi et al., 1983 JGR; Honda, 1985 Tectonophysics)。一方、坑井の温度計測から地温勾配を見積もると(田中他, 2004 日本列島及びその周辺域の地温勾配及び地殻熱流量データベース)、東北日本の地温勾配は広範囲で50℃/kmを超えており、東北日本の下部地殻の温度は1000~1500℃程度という超高温となってしまう。このようなソリダスやリキダスを超える下部地殻では広域に部分融解や全融解が起きることになり、現実の火山活動を説明できないという問題が生じる。坑井の温度計測による地温勾配は地殻浅部の温度構造の解明には有効であるが、地殻深部の温度分布の推定にはそのまま適用はできない。このような背景から、地殻内部の放射性崩壊熱とその熱源の分布を解明するためには、地殻深部の温度分布を高精度に三次元的に見積もる新たなアプローチが必要となる。そこで本研究では、新たなアプローチとして、地殻内部の地震波速度から温度成分を抽出し、地殻内部の高精度な温度構造を明らかにすることを目的とした。

     上部マントルの代表的な構成岩石はかんらん岩であり、上部マントルの地震波速度は大局的には温度構造を反映すると考えられる。一方、島弧地殻の場合、マントルと比較して地殻は構成岩石が多様かつ不均質であり、地震波速度は岩石種と温度に大きく影響されるために、地震波速度から地殻内の温度構造を見積もることが容易ではない。発表者らの研究グループによる高温高圧下の岩石の弾性波速度測定実験によると、P波速度(Vp)とS波速度(Vs)には温度依存性が明確である一方、Vp/Vsは温度依存性が極めて小さく、岩石種に大きく依存することがわかってきた。したがって、地殻の地震波速度から同一岩石種(一定範囲のVp/Vs)の地震波速度を抽出することで地震波速度を温度成分として読み取ることが可能となる。本研究において地震波速度から推定した東北本州弧地殻深部の温度分布は微小地震の深度分布から推定された温度構造(例えばHasegawa et al., 2000 Tectonophysics)と類似しており、奥羽脊梁山脈に沿って温度の高低が認められる。また、本研究の温度分布は地質との対応も見られ、中新世リフト地殻では低温になっている。この低温は玄武岩と花崗岩の熱拡散率の違いでは説明できないほど大きく、放射性元素の崩壊熱の違いを反映していると予想される。「マントルからの熱輸送と地殻の放射性元素の崩壊熱の割合が地域間でどのような不均質さを持つのか」つまり「熱源になる放射性元素が、地殻内部のどこにどれくらいあるか」という学術的問いに回答を与えるものとして今後の研究が期待される。

  • 宮崎 一博
    セッションID: R4-O-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    変成反応動力学の決定は,地殻-マントル内部における流体の生成・移動・吸収とこれらと不可分な岩石組織の時間発展を予測するために必要である.さらに,流体の生成・移動・吸収は,沈み込み帯造山帯の構造進化を制御している.本研究では,沈み込み帯造山帯深部で形成された高圧型変成コンプレックス泥質片岩中のざくろ石を用いて反応動力学を推定した.ざくろ石は緑泥石などの含水鉱物が脱水して生じる代表的脱水反応生成物である.  本研究の反応動力学判別では,ざくろ石形態及び累帯構造と粒径を用いた判別を行った.ざくろ石形態及び累帯構造を用いた動力学判別では以下の性質を利用した.1)過飽和度(非平衡度)の大きな拡散律速型成長では,Mullins-Sekerka不安定性が観測される(Miyazaki,2015),2)拡散律速成長では近接する2粒子間で拡散成分の取り合いが起こるため,2つの核を持つ粒子は存在しない,の2点である.粒径を用いた判別では,初期粒径a0を横軸に,最終粒径aを縦軸に取りプロットする (Miyazaki et al., 2017).拡散律速型では,粒界が小さいほど成長量が多く,判別図上で,粒径が小さいほど傾き1の直線より上方へずれる.一方,界面律速型では,粒径によらず傾き1の直線上に配列する.以下では,ざくろ石累帯構造の同MnO量面を同時間面と仮定して初期粒径a0を計測した.この計測を行うためには,泥質片岩から単離したざくろ石を使用しなければならないが.単離作業継続中のため,今回は薄片上で計測した.単離したざくろ石の累帯構造プロファイルは,三波川コンプレックスからはBanno et al. (1986)で,三波川コンプレックス西方延長の長崎変成コンプレックスからはMiyazaki (1991)で,先行研究がなされている.いずれの場合も,以下の2点が明らかとなっている.1)粒径によらず,ざくろ石コアはMnOに富む,2)ざくろ石MnOプロファイルから,初期粒径が大きい粒子ほど大きく成長している.ただし,2については,計測された粒子数が2〜3個と少なく,より多数の粒子の測定が必要である.本研究では,1)の性質を利用して,薄片上でMnOに富むコアを持つざくろ石は,中心を通る断面に近い断面で作成されているとして,粒径の計測を行った.  研究に使用した泥質片岩は,高圧型変成コンプレックスである三波川コンプレックス高知県汗見川沿いのアルバイト黒雲母帯から採集した.試料中のざくろ石では,外形が凸凹になるMullins-Sekerka不安定性は観測されず,かつEPMAによるざくろ石累帯構造の観察の結果,2つ以上のMnOに富む核をもつざくろ石が観察された.以上の観察結果は,ざくろ石が界面律速型成長したことを示唆している.  粒径を用いた判別では,初期粒径a0として,MnO 量が8, 6, 4, 及び2 wt%と,外縁部に認められるMnOスパイクを使用した.プロットの結果,いずれのa0を用いても,初期粒径が大きいほど成長量が多くなる関係が得られた.このような関係は,オストワルド成長でもできるが,より詳細に見ると粒径の大きなところで,粒径と成長量がほぼ線形関係にあり,オストワルド成長で期待される粒径が大きいほど成長量増加が頭打ちになる関係が認められない.一方,ヒマラヤの衝突型造山帯泥質片岩中のざくろ石(Geroge and Gaidies, 2017)の粒径を用いた動力学判別では,傾き1の直線上にほぼ配列し,通常の界面律速型反応を示唆する.今回の沈み込み帯三波川コンプレックスの結果は,ヒマラヤの変成岩の結果と大きく異なる.  粒径に依存した成長量の増大の原因は今のところ不明である.しかしながら,弾性歪みを組み込んだオストワルド成長では,析出物が基質にくらべ固い場合,析出物間に斥力が働き,大きい粒子の成長が加速されると理論的に予測されている(Kawasaki and Enomoto, 1984).弾性歪み効果が現れるためには,弾性歪みが塑性変形で緩和されるより早くオストワルド成長が進行する必要がある.弾性歪み効果が実在すれば,変成岩の構造形成及び反応進行速度に影響を及ぼすことになる.

    文献:Banno et al. (1986) Lithos, 91,51-63. George and Gaidies (2017) Contrib Mineral Petrol, 175:57. Kawasaki and Enomoto (1988) Physica A, 150,463-498. Miyazaki (1991) Contrib Mineral Petrol,108,118-128. Miyazaki (2015) Progress in Earth and Planetary Science, 2:25. Miyazaki et al. (2017) Terra Nova, 30: 162-168.

  • 鳥海 光弘
    セッションID: R4-O-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    There appears common occurrence of flower like shape of garnet, albite, and quartz which is surrounded by the matrix minerals such as chlorite, micas, and amphiboles in the regional metamorphic rocks, and of dendritic grains of cordierite, garnet, staurolite and plagioclase in the contact metamorphic rocks of thermal aureole. The latter is probably due to the rapid growth under the high degree of supersaturation, but the former is surely derived from the growth instability as like as the formation of icicle and hail which is characterized by regular spikes. This type of grain shape appears in the Japanese classic sugar ball something like small cake called as Kompeito in Japan which has also the periodic spikes on the surface. In this talk, the author intends to call this type of flower like grain as the kompeito grain hereafter and discuss the fluid flux producing the kompeito growth of albite by means of Mullins-Sekerka instability at the replacement of albite after chlorite.

R5(口頭)地域地質・地域層序・年代層序
  • 吉田 孝紀, Kumar Subhadeep, Rai Kumar Lalit, 吐合 智之
    セッションID: R5-O-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    【はじめに】

     ベンガルファンはインド洋北部のベンガル湾に位置し,ヒマラヤ山脈からの砕屑物によって形成された.現在,この海底扇状地はヒマラヤ山脈南部のガンジス平原を東流するGanges川と,ヒマラヤ山脈の背後に源を発し、ヒマラヤ山脈東端を横切った後、ガンジス平原を西流するBrahmaputra川による供給を受けている.バングラデッシュ北部で両河川は合流してベンガル湾岸に達する.そのため,両河川が運搬する砕屑物の性質は,ベンガルファン堆積物の理解のために不可欠である.これまで,Ganges川支流である中央ネパールのKali Gandaki川においてヒマラヤ山脈の地質体が生産する現世河川砕屑物の組成について検討を行った(吉田ほか,2019).今年度はBrahmaputra川の上流部と下流部の砕屑物組成を検討し,その起源となる地質体を議論し,ベンガルファン堆積物との関連を検討した.

     ヒマラヤ山脈の北側を東へ流れるShang川はインド北東部でヒマラヤ山脈を縦断して南下し,ビルマ山脈西麓に由来する河川(Diban 川,Lo Hit 川, Noa Dihing River 川)と合流して,Brahmaputra川となる.Brahmaputra川はガンジス平原を西側へ流れ,バングラデシュ北部でGanges川と合流する.この検討では,これらの河川およびバングラデシュ北部のBrahmaputra川下流で現世河床堆積物を採取し,その重鉱物組成について検討した.また,角閃石やザクロ石については化学組成を検討した.試料調製にあたっては,細粒砂サイズに粒度をそろえた上で重液を用いて重鉱物を分離した.重鉱物の同定は主に電子マイクロプローブを用いて行い,アルミノケイ酸塩については偏光顕微鏡を用いた.

    【Brahmaputra川上流・下流における川砂の重鉱物組み合わせ】

    Shang :角閃石,ザクロ石,普通輝石,緑れん石が卓越するが,電気石,ルチル,藍晶石,珪線石,イルメナイトが普遍的に含まれる.ザクロ石はパイロープ成分を含むアルマンディンザクロ石が多い.角閃石はAlやTiに富むものが多いものの,多様である.

    Lo Hit 川,Diban :角閃石と緑れん石が卓越し,ルチル,藍晶石,珪線石が含まれる角閃石のAlやTiは多様である.ザクロ石はパイロープ成分に富むアルマンディンが多い.

    Noa Dihing 川:角閃石,緑れん石,ザクロ石が多く,ルチル,藍晶石,珪線石が含まれる.ザクロ石はパイロープ成分に富む.角閃石はAl, Tiに富む.

    Brahmaputra 川下流:角閃石が卓越し,緑れん石,ザクロ石が次ぐ.ザクロ石はパイロープ成分を含むアルマンディンザクロ石が多い.角閃石はAlやTiに富むものが多い.

    【議論:ブラマプトラ川における川砂の特徴】

     吉田ほか(2019)では高ヒマラヤ帯が輝石やAl, Tiに富む角閃石を生産すること,テチスヒマラヤ帯や低ヒマラヤ帯がイルメナイトを砕屑することを示した.この観点から,ビルマ山脈西麓に源を発する河川の河床堆積物はそれぞれ類似し,Al, Tiに富む角閃石を含むことから高ヒマラヤ帯起源の砕屑物が卓越すると推定される.一方,Shang 川では特徴的にイルメナイトが含まれるため,テチスヒマラヤ帯や低ヒマラヤ帯が寄与していると言える.また,Brahmaputra川上流と下流での重鉱物組み合わせは共に角閃石と緑れん石の卓越で特徴付けられるため,明瞭な差異は見いだせない.

     他方,ベンガルファンの鮮新統・第四系では角閃石と緑れん石の卓越が特徴的であり,今日のBrahmaputra川のそれによく類似している.今後,Ganges川下流の試料を採取し,比較を行う必要がある.

    【引用文献】

    吉田孝紀・中嶋 徹・Lalit Kumar Rai・増田麻子,2019,中央ネパール・カリガンダキ川における川砂重鉱物構成.日本地質学会学術大会講演要旨 2019, 473.

  • 武藤 俊, 伊藤 剛
    セッションID: R5-O-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    北部北上帯には,ジュラ紀に形成された付加体が広く分布しており,これは西南日本や極東ロシアのジュラ紀付加体と一連の海溝で形成されたものと考えられている(例えば永広ほか,2008).特に,岩相および構造層序の比較から,北部北上帯は西南日本の秩父帯南帯や極東ロシアのタウハ帯との関連が論じられている(大藤・佐々木,2003;高橋ほか,2016).一方で,北部北上帯のジュラ紀付加体は白亜紀花崗岩の貫入による変成作用により砕屑岩類の年代を決定するための放散虫化石の産出が著しく限定的になっていることもあり,付加体地質学的な研究は他地域と比較して遅れている.

    本講演では,北部北上帯北東部の安家地域にて5万分の1地質図「門」作成の一環として行った,安家川上流域に分布する大鳥ユニット(大鳥層および大坂本層;杉本,1974)に関する研究の成果を報告する.大鳥ユニットは構造的下位を占めるチャートと珪質泥岩が構造的に繰り返す部分と,構造的上位を占める泥質混在岩からなることを明らかにした.チャートと珪質泥岩は複数回繰り返して構造的な累重関係にあり,わずかに泥岩や砂岩を伴う.泥質混在岩は主に数cmから数十cmの長径を持つ砂岩を含む泥質岩からなり,頻繁に数mにおよぶ長径を持つ砂岩を含む.また,泥質混在岩中には一部チャートや緑色岩が含まれている.一方,石灰岩は全く認めていない.

    構造的下位に分布する珪質泥岩およびそれに含まれるマンガンノジュールから,中期ジュラ紀を示す放散虫化石を得た.中期ジュラ紀放散虫はチャートに構造的に挟在する珪質泥岩からも得られ,チャートと珪質泥岩がスラストにより繰り返していることを示す.泥質混在岩中の砂岩からは加重平均175.4±1.4 Ma,最若粒子170.9±3.8 Maの砕屑性ジルコンU–Pb年代が得られ,放散虫により示唆される中期ジュラ紀の付加年代と整合的である.また,過去に報告された珪質泥岩中のマンガンノジュールから産出した放散虫化石年代とも整合的である(鈴木ほか,2007).

    従来,大鳥ユニットは下位の層状チャートと上位の泥岩からなる整然相の付加体であると記されていた(高橋ほか,2016).しかし,本研究では,構造的下位のチャート・珪質泥岩はスラストによる構造的繰り返しを,構造的上位の泥質岩はチャートや緑色岩などの海洋性岩石をも取り込む混在化を経験していることが明らかになった.

    文献

    永広昌之 ほか(2008)地質学雑誌114補遺,121–139.

    大藤茂・佐々木みぎわ(2003)地学雑誌112,406–410.

    杉本幹博(1974)東北大学地質古生物研邦報74,1–48.

    鈴木紀毅ほか(2007)地質学雑誌113,274–277.

    高橋聡 ほか(2016)地質学雑誌122,1–22.

  • 納谷 友規, 中澤 努, 野々垣 進, 坂田 健太郎, 中里 裕臣, 中山 俊雄
    セッションID: R5-O-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    はじめに

     産総研では2021年5月に東京都区部の3次元地質地盤図を公開した[URL1].東京都区部の地質地盤図では,層序ボーリングの解析結果に基づき層序区分を更新し,従来“東京層”と呼ばれていた地層の大部分が,下総層群の薮層に相当することが示された.また,従来“東京礫層”と呼ばれていた礫層のかなりの部分が薮層基底の礫層であることが分かってきた.

     東京都区部の武蔵野台地における薮層基底の標高は,台地の西側で高く,台地の南側では東に向かって,台地の北側では北東に向かって低くなり,大局的には現在の台地面の標高分布と似た傾向を示す.一方で,薮層基底には標高が急変する部分があり,基底面が複数の平坦面から構成されているようにも見える場所がある.“東京礫層”に分布深度が急変する場所があることは以前から指摘されており,地下に伏在する断層など,地質構造を推定する根拠とされることもあった(例えば,豊蔵ほか,2007).従って,礫層の標高変化に関しては,礫層の形成年代を含め,その分布形態の成因を慎重に検討することが重要である.

     本研究では薮層基底礫層分布の成因を明らかにするために,ボーリングコアの層相,珪藻化石,テフラ対比に基づき,各ボーリング地点の堆積環境と堆積当時の地形条件を検討した.さらに,ボーリング柱状図データにより堆積相分布を側方へ追跡することにより,千代田区と台東区の間に見られる,急変する礫層分布の成因を考察した.

    薮層の堆積相の特徴

     ボーリングコアにみられる武蔵野台地地下の薮層は,礫層及び泥層からなる下部と,主に砂層からなる上部に分けられる.

     上部の層相は各地点で類似しており,基底部は貝殻片を含む砂層からなり,その上位は淘汰の良い極細粒〜細粒砂が重なり,さらに上部では白斑状生痕化石(Macaronichnus segregatis)が観察される.これらは外浜〜前浜・後浜の堆積物と考えられ,上部の下面は,外浜侵食によって形成されたラビンメント面と解釈される.

     下部は地点によってその層相と層厚が大きく異なる.台東区上野公園や板橋区大山では,最下部の礫層の上に層厚約10 mの内湾成の泥層と泥質砂層が重なる.千代田区紀尾井町では,礫層の上に層厚約2 mの淡水成の泥層と泥炭層が重なる.江東区有明では礫層を欠き,下位の地蔵堂層の前浜堆積物の上に,層厚約2 mの内湾成泥層が直接重なる.

    薮層基底地形と礫層分布の成因

     堆積相の特徴から,基底部に礫層を伴う厚い泥層は,低海水準期に形成された谷地形が海水準の上昇に伴って内湾化して形成された谷埋め堆積物と考えられる.一方,礫層を伴う薄い淡水成泥層も谷埋め堆積物と考えられるが,その堆積場は海水準よりも高かったと考えられる.つまり,礫層や泥層の標高差は,堆積当時から存在した可能性が高い.

     ボーリング柱状図データに基づけば,紀尾井町と上野公園の間の薮層下部の基底は,深度が異なる2つの平坦面から構成される.紀尾井町の平坦面は浅く,上野公園の平坦面はやや深く,2つの平坦面の境界付近では礫層の深度が急変する.一方で,砂層からなる薮層上部の基底面(ラビンメント面)には,礫層の深度が急変する地点において,大きな標高の変化は認められない.

     これらの堆積相の分布から,紀尾井町と上野公園間にみられる薮層基底の2つの平坦面は,東京低地の地下の埋没段丘のような,薮層基底の開析谷内に発達した異なる段丘面であると考えられる.この解釈に従えば,少なくとも千代田区と台東区に間に見られる薮層基底礫層の段差構造は,断層によって形成された可能性は低く,当時の地形を反映したものである.

     低地に位置する江東区有明のボーリングコアでは薮層の基底に礫層が分布しないことから,この地点では開析谷は形成されなかったことを示す.現時点では,低地の地下まで薮層基底の礫層の分布を追跡できていないが,薮層の開析谷の縁で礫層は不連続になることが予想される.

     以上の検討から,薮層基底の礫層の分布は,堆積当時の地形を反映して,かなり複雑である可能性が示された.この結果は,礫層の分布を利用して地質構造を推定する際には,礫層の形成年代だけではなく,過去の地形の条件なども総合的に考慮して判断する必要性を示唆している.

    文献

    [URL1] 産総研地質調査総合センター・東京都土木技術支援・人材育成センター,都市域の地質地盤図,https://gbank.gsj.jp/urbangeol/

    豊蔵ほか(2007)地学雑誌,116,410–430.

  • 渡邉 和輝, 大塚 勉
    セッションID: R5-O-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    長野県東部、フォッサマグナ地域に含まれる東信地域では,層序に関する研究,火山活動とそれに伴う砕屑物に関する研究は蓄積されてきたが,詳細な地質構造に重きをおいた研究は少なく,活断層をはじめとする活構造の議論もされてきていないことが課題のひとつである.渡邉ほか(2019)での上田盆地,渡邉ほか(2020)での八重原・御牧ケ原台地と佐久盆地を対象とした地表地質踏査から作成した地質図を本発表において統合・再編集した. 東信地域の地質体の分布および構造について報告するとともに, 第四紀に形成された地質構造,とくに活断層について議論する.

     研究地域には,中生界および新第三系以降の地質体が存在する.研究地域の基盤岩として,中生界の秩父帯付加体および中新統の火山岩・火砕岩・堆積岩・貫入岩が分布し,それらを第四系が覆う.第四系は,陸成層および火山砕屑物からなる小諸層群,周囲の第四紀火山が起源の火山岩・火山砕屑物・山体崩壊堆積物などによって構成される.また,平野部には上記地質体を覆う上小湖成層および段丘堆積物などの上部更新統以降の地層が分布する.

     研究地域において第四系に変位を与える18例の断層および断層群,2例の褶曲,1例の撓曲について構造を検討した.見出された第四紀断層の多くは盆地や台地の縁辺部に沿って見出され,現在の地形が第四紀の構造運動を強く反映していることが浮き彫りになった.  さらに,第四紀断層のなかには,段丘堆積物などの後期更新世以降の地層に変位を与えるものが見出された.とくに,上田盆地東縁部では,中新統が河床礫に衝上する逆断層露頭のガウジ帯に含まれる木片から,156±21yrBPのきわめて若い14C年代値(暦年較正)が得られた.この年代値を踏まえると,1791年7月23日の地震(松本で被害),1791年9月13日の地震(信濃国で被害)が該当し,歴史地震の際に活動した可能性がある(渡邉ほか 2020).

     これらの地質構造は,東信地域の地形形成に関与する第四紀以降の構造運動が存在したこと,さらに後期更新世から完新世にかけての最新期の断層運動があったことを示している.本研究の結果は広域的かつ詳細な地質図の作成とともに,東信地域において従来不明とされてきた地震に直結する活断層の存在が明らかとなった.

    【引用(図表内も含む)】

    (1)新井房夫 1993, 火山灰考古学.古今書院,264p.

    (2)本間不二男 1931, 信濃中部地質誌. 古今書院,331p.

    (3)飯島南海夫・石和一夫・甲三男・田口 朝男 1956, いわゆる“塩川層”の地質.地質学雑誌, 62, 734, 622-635.

    (4)飯島南海夫・山辺邦彦・甲田三男・石和一夫・小宮山孝一 1969, 千曲川上流地方の第四紀地質(その3)―とくに上小湖成層について―. 地球科学, 23, 3.

    (5)岩崎敏典・指田勝男・猪郷久義 1989, 関東山地北西部,長野県南佐久郡北相木-川上地域の中生界.地質学雑誌,95,10,733-753.

    (6)河内晋平 1974, 蓼科山地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1図幅),地質調査所,128p.

    (7)河内晋平・荒牧重雄 1979, 小諸地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1図幅),地質調査所,39p.

    (8)北八ヶ岳サブグループ 1988,八ヶ岳山麓の鮮新・下部更新統―特に八千穂層群について―.地団研専報, 34, 15-52.

    (9)宮坂晃・狩野謙一 2015, 北部フォッサマグナ南東部,小諸盆地の鮮新世~中期更新世のテクトニクス.静岡大学地球科学研究報告, 42, 63-83.

    (10)長野県地学会 1957,1/20万長野県地質図説明書.

    (11)西来邦章・高橋康・松本哲一 2013, 浅間・烏帽子火山群の火山活動場の変遷. 地質学雑誌, 119, 474-487.

    (12)野村哲・海老原充 1988,群馬県西部新生代火山類のK-Ar年代と古地磁気.群馬大学紀要,22,65-78.

    (13)八ヶ岳団体研究グループ 1988, 八ヶ岳山麓の中部更新統,地団研専報,34, 53-89.

    (14)渡邉和輝・大塚勉 2019, 長野県上田盆地における第四紀の構造運動. 信州大学環境科学年報, 41, 14-32.

    (15)渡邉和輝・大塚勉 2020, 長野県東信地域における第四紀の地質構造. 信州大学環境科学年報, 42, 54-84.

    (16)渡邉和輝・大塚勉 2020, 長野県上田盆地神川河床に露出する完新統に変位を与える断層. 信州大学環境科学年報, 42, 85-91

  • 西川 治, 嶋田 智恵子, 高島 勲
    セッションID: R5-O-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    五里合低地は,男鹿半島北岸基部に位置する,南北2.4㎞ 東西1.5㎞の小規模な沖積低地である.東縁を申川断層の断層崖で区切られており,直線的な地形境界が発達する.海成段丘が発達し隆起傾向を示している男鹿北岸地域の中で,東側の八郎潟低地帯(白石,1990)とともに南北走向の断層の活動に関連した構造的な沈降が示唆される低地である.これまで,地下5mまでの表層部に限って堆積相の解析が行われているが(藤ほか,1995),深部の調査はほとんど行われていないため,低地を埋積している地層の全体像はわかっていない.著者らは,2000年代に入って土木調査で基盤まで掘られた数本のボーリング試料を秋田県から入手し,堆積物の解析を行っている.本講演では,低地中央部で掘られた1本のコアについて,岩相記載,珪藻群集解析,放射性炭素年代測定および,砂層の熱ルミネッセンス(TL)発光特性の検討等で得られた成果を報告する.五里合低地の堆積物は,最終氷期に侵食されてできた谷が,後氷期の海進で埋積され陸化するまでの過程を詳細に記録していた.

    解析したボーリングコアの長さは23.45mである.標準貫入試験のN値が急に大きくなることにより,基盤深度が17.5mから19.5 mの間にあると推定される.基盤は,シルト混じりの極細粒砂で,周辺の段丘を構成する潟西層の岩相に似ている.その上の層序は,砂礫層(厚さ1m),砂層(厚さ0.6m),腐食土層Ⅰ(厚さ1.4m),シルト質細粒砂層(厚さ2.6m),厚い粘土層(厚さ7.3m;深度12 8m~4.5 m),有機質シルト層(厚さ1m),シルト混じり砂層(厚さ1.5m),腐植土層Ⅱ(厚さ1.9m),現地表の水田土壌となっている.放射性炭素年代は,腐植土層Ⅰ下部(深度15.63 m)が8990±30 yBP, 厚い粘土層の上部(深度5.81m) の有機物が5580±30 yBP, 有機質シルト層(深度3.72 m)の中の炭質物が3990 ±30 yBP, 腐植土層Ⅱ下部(深度1.9 m)が2930 ±30 yBPである.

    N値が変化する上下の砂層に含まれる石英の赤色領域のTL発光特性はよく似たパターンを示し,層準による大きな違いはない.基底の砂礫層の礫種は硬質泥岩や流紋岩,火砕岩からなり,男鹿半島西部山地の火山岩類および女川層が給源と考えられる.よく円摩された細礫および中礫であり,西部山地と五里合低地は水系がつながっていないことから,基盤の潟西層や鮪川層に含まれる礫のリワークであると考えられる.一方,五里合低地の南側に存在する寒風山の噴出物は堆積物中に確認できなかったことから,堆積物を供給した河川は,寒風山北東麓の滝の頭から流下し低地中央を縦断する鮪川川ではなく,低地東方の潟西段丘を開析する谷であると考えられる.この台地には申川断層の活動に伴って申川背斜構造が発達し、東方に傾動している。珪藻化石群集については,基盤の砂層は海生種からなるが,深度15.72mの腐植土層は海生種をほとんど含まない.その上位の厚い粘土層までの地層は,砂泥底質に付着する海生種を多産ないし随伴するようになるが,淡水種や汽水種も産する.さらに上位の地層では,次第に汽水種から淡水種へと変化する.

    これ等の結果から,五里合低地の環境変遷と堆積過程をまとめると以下のようになる.最終氷期に基盤の潟西層を削剥した谷が形成されていた.後氷期の海進によって,まず,基底砂礫層の堆積が始まり,湿地に環境変化して腐植土層が堆積した.さらに,小河川等の陸水の影響が強い内湾へ変化していき,細粒の砂が堆積した.厚い粘土層の堆積時期に縄文海進の高海面期に至ったと考えられる.その後,4000年~3000年前ごろから再び湿地の環境を経て陸化した.堆積速度は,下部の海進期にあたる地層で2.9 mm/yと速く,上部の地層では1.3~1.7mm/yと見積もられる.

    文献

    白石 1990,秋田県八郎潟の完新世地史, 地質学論集, 36, 47-69.

    藤 ほか 1995,男鹿半島五里合(いりあい)における完新世の古環境解析.日本海域研究所報告, 26, 1-35, 金沢大学.

R6(口頭)ジオパーク
  • 高木 秀雄
    セッションID: R6-O-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    目的:2011年3月11日の東日本大震災から10年が経過した.本発表では,筆者が取材した経験のある三陸ジオパークおよび南三陸地域の津波被災遺構について,解体と保存の経緯を振り返るとともに,改めてそれらの重要性を指摘したい.

    経緯:甚大な津波災害をニュースで目の当たりにして,災害の爪痕を見たときに,その爪痕を後世に残し,防災に役立てることはできないものか,と思った研究者有志が数名でメールの意見交換を行うようになった.私もそれに3月下旬から加わり,次第にグループの人数が増えていき,メーリングリストができたのが地震後1ヶ月経過してからのことであった.当初は12名からスタートしたMLは,2年後の5月1日には50名ほどになり,3年余り継続して情報交換がなされた.その間に,筆者は2011年8月をはじめとして4回ほどジオサイトの取材も兼ねて現地を訪れ,新聞や著書などで津波被災遺構の保存の重要性を訴えた.取材した津波被災遺構は下の通りである.

    解体・撤去された主な遺構候補

    1.岩手県大槌町の民宿に乗り上げた釜石市の観光船「はまゆり」2011年5月撤去  同「はまゆり」を乗せた民宿「あかぶ」および大槌町役場 2021年2月撤去

    2.宮城県石巻市の雄勝公民館の上に乗った大型バス 2012年3月撤去

    3.宮城県気仙沼市の大型漁船(第18共徳丸) 2013年9月〜撤去

    4.岩手県女川町の転倒ビル(女川サプリメント,江島共済会館)2014年3月〜   2016年1月撤去

    保存が決まった遺構

    6.岩手県女川町の転倒ビル(女川交番)2013年11月に保存決定,2020年整備

    7.岩手県宮古市の田老観光ホテル 2013年11月復興庁が保存を決定,復興交付金の予算がついた.

    8.岩手県陸前高田市の陸前高田YH・奇跡の一本松・道の駅高田松原タピック45・下宿定住促進住宅 2015年8月,高田松原津波復興祈念公園基本計画策定

    9.宮城県南三陸町防災対策庁舎 2015年6月 町は解体の方針だったが,宮城県が保存・管理

    10.宮城県南三陸町吉野会館 震災伝承ネットワーク協議会が遺構として認定

    11.宮城県気仙沼市 気仙沼向洋高校跡(東日本大震災遺構・伝承館:写真)

    解体か保存か:解体と保存を分けた理由として次のようなことが考えられる.

    1.非常にリアルで強い発信力をもつ遺構:解体が決まった上記4つはすべてこれに当てはまり,船や大型バスが最大800mも移動,あるいは建物の上に乗り上げたもの(1−3)は,遺構としての強い発信力をもつが故に,住民のマイナスの感情も大きく,解体された.一方,保存された遺構は多くの場合,津波による移動がほとんどない建物(6−11)であった.

    2.犠牲者の有無:保存が決まった遺構の多くは犠牲者を出さなかったことが挙げられる(佐藤・今村,2016).ただし,上記の中では9が例外であり,南三陸町は解体の方針であったが,宮城県が保存・管理するようになり,長期間のやり取りの末保存が決まった.そのほか,石巻市大川小学校では,児童生徒74人,教職員10人が犠牲となったが,避難行動の遅れを教訓として2016年に市が保存を決定した.

    3.時間の経過:時間の経過に伴い,住民の感情が解体から保存に変わってきたことも重要である.手付かずのまましばらく放置された気仙沼向洋高校は,6年経過して重要な津波被災遺構,語り部の活動,映像を統合した重要なサイトになりつつある.

    4.復興のシンボルになり得るもの:奇跡の一本松や,住民の命を守った防潮堤などは,保存されやすい.

    5.予算的な問題と都市計画:県や国が買い取り,維持費を保証するか否か,ある程度時間を要したが,このような場合は保存されやすい.大槌町役場やはまゆりを乗せた民宿は10年経過した結果,予算がつかずに解体された.また,復興に邪魔になるものは撤去されやすい.女川の倒壊ビルの中で撤去されたビルと残された交番の違いはこの点も大きい.

    文献 佐藤翔輔・今村文彦,2016, 東日本大震災の被災地における震災遺構の保存・解体の議論に関する分析-震災発生から 5 年の新聞記事データを用いて-,日本災害復興学会論文集,no.9, 11-19.

  • 松原 典孝, 長濵 聖, 河本 大地
    セッションID: R6-O-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
    会議録・要旨集 フリー

    新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界中のツーリズムに大きな影響を及ぼしている.ジオパークにおいても,様々な活動が制約されており,観光業の多くも,様々な対応に迫られている.一方で,山陰海岸ジオパークのいくつかの活動団体では,その入り込み数が大きく減っていなかったり,増えていたりすることが分かった.また,客層にも変化が見られた.なぜ観光客数が減らない,あるいは増えるサイトや団体があったのかを議論する.

    <日本海拡大を記録した山陰海岸ジオパーク>

     山陰海岸ジオパークでは,構造発達史を主に3つのステージに区分して説明しており,エリア内には,大陸の時代,日本海形成の時代,日本列島形成後から現在までの地層や岩石が分布し,各所でそれらが美しい景観を形作っている.これらを舞台に,各地で,フィールドでのガイドや自然を生かしたアクティビティがガイド団体や企業等によって提供されている.特に,海岸部や山間部の渓谷などを利用したアクティビティが盛んなのが特徴である.

    <コロナ禍のジオツーリズム~フィールドの強み>

     コロナ禍に見舞われた2020年度は,各地で入り込み客数の減少がみられた.例えば山陰海岸ジオパークの世界的価値である豊岡市玄武洞公園の案内者数を見ると,2019年度17470人から2020年度には5359人と31%まで落ち込んだ.玄武洞の地域別案内者数を両年度について比較すると,2020年度の関東からの来訪者は前年の18%,近畿からの来場者が前年の49%に減少している.玄武洞公園のある兵庫県内からの来訪者数を見ると,前年の63%と,ほかに比べると小さい.案内者の「個人旅行」「団体旅行」を比較すると,2020年度の団体客は前年の18%に減少している.一方で,個人客は前年の52%と,団体客に比べると減少が小さい.観光客が団体旅行や県境をまたぐ移動を敬遠した可能性がある.次に,海で行われているアクティビティに注目すると,例えば兵庫県豊岡市竹野町で行われているジオカヌーのうち,海の家メリ(株式会社マザーアース)が提供しているカヌーの利用者数は,2か月間自粛により営業を停止していたにもかかわらず,2019年度2333人から2020年度2448人と増加している.これは,ジオカヌーが野外であるのに加え,個人間の距離は基本的に3m以上離れており,加えてカヌーという乗り物の性質上基本的に個人客のみであり,安心感につながった可能性がある.さらに,兵庫県内からの来訪者が増えた(最も多いのは大阪府),今まで海外や沖縄などでカヌーをやっていた方がここに変更した,などの証言(海の家メリ宮崎氏へのヒアリングより)もあり,近距離移動の安心感が利用者を増加させた背景にあることが考えられる.同じく船の大きさによる制限で個人客がメインターゲットになる,小型漁船を利用した海上タクシーでは,新温泉町三尾の但馬御火浦海上タクシーで2020年度は2019年度の85%,香美町香住区のかすみ海上GEO TAXIでは,2020年度は2019年度の70%と,減りが少ない.これも,個人客利用の安心感により観光客数の減少が小さかったものと考えられる.このように,ソーシャルディスタンスが確保され,また個人や家族,友人など個人旅行で楽しめるフィールドでのアクティビティは,観光客に安心感を与え,コロナ禍,そしてwithコロナの中で観光客の維持や増加に寄与できる可能性がある.ジオパークで行われるジオツーリズムの多くは野外の地質資源や風景,自然,人の暮らしをその対象としており,ジオパークでのツーリズムは工夫次第で持続的に継続できる可能性がある.

  • 川村 教一
    セッションID: R6-O-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    日本地質学会は2016年に「県の石」を発表した.選定の趣旨は,一般市民の方々に大地の性質や成り立ちに関心を持っていただくこと,「ジオパーク」への貢献ほかが挙げられている(http://www.geosociety.jp/name/content0121.html). 例えば兵庫県の石の一つはアルカリ玄武岩であり,選定理由の説明では,玄武洞は美しい柱状節理と「玄武岩」という岩石名の由来となったこと,国の天然記念物であること,松山基範が地球磁場の逆転を唱えるきっかけとなった場所として国際的にも知られていること,玄武洞はもともと採石場であり,市内各地の伝統的な石積みや漬物石に使用されていること,が述べられている(http://www.geosociety.jp/name/content0147.html).採石によりもたらされた特徴的な景観であることは江戸時代より知られ観光地となっていたが,地球科学史的に重要な岩石であることは,山陰海岸ジオパークになってから一層強調されていると思われる.他方,近代において地域の人々にとって重要な岩石資源であったことは,北但大震災で被災した豊岡市の復興資材として活用されたことが指摘されるものの,近世における石材の活用状況は,ほとんど具体的には明らかにされていない.

     ところで,岩石資源の価値を評価するあり方の一つに“Global Heritage Stone Resource”(以下,GHSR)がある.IUGSの小委員会のウェブサイトによると,天然石は低エネルギーで利用可能で,加工品は無毒であり,最も耐久性のある建築資材であることから,持続可能な鉱物質の資源の最たるものである.GHSRは,芸術・建築作品,伝統的建造物などにおける,天然石の卓越性を強調することを狙っている(http://globalheritagestone.com/overview/). このような天然石に対する認識の強化は,地質学者や建築家,関係する産業従事者を主としており,一般市民には言及されていない.歴史的に用いられた岩石資源について,地域社会との関わりを歴史的に明らかにするとともに,地域産業の資源,あるいは建造物,石製品における利用例を具体的に示すことで,一般市民に対して身近な地質資源への関心を高めうる可能性があると演者は考える.

     人と地質資源の関わりから見たとき,玄武洞の玄武岩(玄武洞溶岩)は,採石が行われていた近世以来の地域社会にとっての価値を解明する余地があると考える.例えば,大正時代には豊岡市南部の豪農の屋敷改築の際に玄武洞溶岩が用いられた記録があり,このような記録を蓄積して,水害常襲地帯における農家の敷地の防災に近代以前に玄武岩が広く貢献したことを明らかにすることなどが考えられる.

  • 天野 一男
    セッションID: R6-O-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    「ビッグヒストリー」は,全ての歴史を宇宙の歴史の中で扱う研究・教育法を指す用語として,Christian(1991)によって提唱された.Christianは1989年からオーストラリアのマッコリ−大学でビッグヒストリーの講義を開講していた.その後,その内容はChristian(2004)の大著にまとめられた.ビッグヒストリー研究・教育の基本的姿勢は,138億年の宇宙の開闢からはじまってその未来までの時間軸の中に人類の歴史を位置づける点が特徴である(クリスチャン,2019; クリスチャンほか2名,2016など).H.G.ウェルズ(1966)の歴史記述手法の現代版と言える.

     一方地質学では,ジオストーリーを明らかにするために,宇宙形成から現在までの時間軸の設定を,近代地質学成立以来重要な課題として追求されてきた.現在では放射性同位元素や古地磁気研究等の技術的発展により高い精度できめられるようになった(日本地質学会, 2007).地質学がビッグヒストリー研究・教育分野ではたす役割は大きい.

     ジオパークは,大地(ジオ)の上に広がる動植物や生態系(エコ)の中での私たち人(ヒト)の生活や文化や産業・歴史を楽しみながら学ぶことを目標としている(https://geopark.jp/about/).これはまさにビッグヒストリーの目指す方向と一致している.本講演では,茨城県北ジオパーク構想のジオストーリーに,ビッグヒストリーの考え方を導入しオリジンストーリーを作成した実践例を紹介する(水戸市立博物館, 2020).概要は以下の通り.第1章:地球と太陽系の誕生(ここでは宇宙の誕生からストーリーを始めた),第2章:先カンブリア時代の地球と水戸,第3章:古生代の地球と水戸,第4章:中生代の地球と水戸,第5章:新生代の地球と水戸Ⅰ(古・新第三紀),第6章:新生代の地球と水戸(第四紀),第7章:未来の地球と水戸.

     ビッグヒストリーにより地球の未来を語る場合,「人新世」の枠組みにもとづいた展開も必要になる.人新世は,人類が地球環境に決定的な影響を与えた時代として提唱されている新しい時代区分である.現時点において地質学界では正式の時代区分としては認定されていないが,ビッグヒストリーの観点から地球の未来を語る場合,人新世の枠組みは無視できない.人新世の始まりは,人の経済活動等が地球環境に大きな影響を及ぼしはじめた1960年前後におかれる可能性がある.人新世の境界に関連した出来事は,ジオパークにおいても観察の対象となり得る.それは多くの場合,環境問題の負の遺産である場合が多く,ジオパークのツーリズムの中で,「ダークツーリズム」として展開される.講演では,茨城県北ジオパークにおけるダークツーリズムの例として,太平洋戦争中の風船爆弾をテーマとしたツアーを取り上げる(天野・茨城県北ジオパーク構想ジオネット北茨城, 2020).

    [引用文献]

    ・天野一男・茨城県北ジオパーク構想ジオネット北茨城, 2020, 茨城県北ジオパーク構想における風船爆弾ツアー.日本地球惑星科学連合2020年大会要旨.(https://confit.atlas.jp/guide/event/jpgu2020/subject/HCG34-P02/programpage)

    ・Christian, D., 1991, The Case for “Big History”. J. World History, 2, 223-238.

    ・Christian, D., 2004, Maps of Time-An Introduction to Big History. Univ. Calif. Press, 642pp.

    ・クリスチャン,D., 2019, オリジン・ストーリー 138億年全史.筑摩書房, 385pp.(柴田裕之訳)

    ・クリスチャン,D.ほか2名, 2016, ビッグヒストリー.明石書店, 400pp.(石井克弥ほか2名訳)

    ・水戸市立博物館, 2020, 水戸の大地の成り立ち−水戸140億年史.水戸市立博物館特別展図録,79pp.

    ・日本地質学会, 2017, はじめての地質学.ベレ出版, 247pp.

    ・ウェルズ,H.G., 1966, 世界史概観 上・下.岩波書店,223pp.,235pp.(長谷部文雄・安部智二訳)

R7(口頭)新生代の地質事変記録
  • 牛丸 健太郎, 山路 敦
    セッションID: R7-O-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    日本列島形成史において古第三紀はミッシングリンクである.というのも,西南日本の帯状構造が大きく改変され,また,日本海拡大を準備した時期であったにもかかわらず,当時の地層が前後の時代のものに比べてあまり残っていないためである.しかし,九州北部には例外的に古第三紀の地層が多く残っている.中でも天草地域には,断層・褶曲・火成岩の貫入をうけた厚さ3 kmにおよぶ始新統が露出し,多くの情報が読み出されないまま残されている.そこでわれわれは,天草地域の地質構造の再調査を進めている.その結果,この地域の始新統が褶曲時階をはさんで2段階の伸張テクトニクスを被ったことがわかった.

    天草の始新統はNEトレンドの褶曲をなし,また,NEトレンドとNWトレンドの断層群に切られている(高井ほか, 1997; 斎藤ほか, 2010).今回の調査の結果,NE系とNW系のものはいずれも正断層であることが確認できた.また,前者が古く,後者が新しいことがわかった.さらにまた,NW系の断層は,褶曲の両翼で姿勢や変位方向に系統的な違いが見られないことから,褶曲後にできたものと判断された.

    天草地域には14~15 Maの貫入岩体が多数存在するが,それらがNW系の正断層によって切られる露頭を複数発見した.貫入岩体を切る小断層のデータをHough変換法(Yamaji et al., 2006; Sato, 2006)で応力解析したところ,NNE-SSW引っ張りの正断層型応力が検出された.これは地質図規模のNW系断層群と整合的な応力である.これらのことから,NW系正断層は火成活動より若いと判断された.

    本研究の結果,天草地域は褶曲の前後に伸張テクトニクスを経験したことが分かった.このうち,褶曲より古い NE系正断層群は活動時期の制約が弱いが、低角正断層もあり、伸長歪み量は大きい.したがってこの系統の断層群は、東シナ海域で深いグラーベンを多数つくった暁新世~始新世の伸張テクトニクス(e.g., Itoh et al., 1999; Cuker et al., 2011)の一環として動いた可能性がある.他方,褶曲・貫入より新しいNW系正断層群は,山口西部~九州北部に分布するNW系の正断層群と対比できる.従来,九州北部のNW系統の正断層群は「筑豊型構造」と呼ばれ,古第三紀の堆積同時正断層とされてきたが(松下,1971; 酒井,1993),近年は中期中新世頃の正断層とされている(尾崎,2013).本研究の結果は後者と整合的で,天草を含めて北西九州は中期中新世に広く島弧直交方向の伸張場にあった可能性がある.また,火成活動時の天草は琉球弧に属していたという示唆があるが(山元, 1991),当時の天草の応力は西南日本と同一である(Ushimaru & Yamaji, in prep.).つまり,中新世までの天草は,琉球弧北端ではなく,西南日本西端として考えた方が良さそうである.天草の褶曲は,設楽地域の漸新世のナップ形成(長谷川ほか, 2019)や三陸沖の始新統の褶曲(大澤ほか, 2002)と同時だった可能性がある.

    ◆引用文献: Cukur et al., 2011, Mar. Geophys. Res., 32, 363–381. 長谷川ほか, 2019, 地学雑誌, 128, 391–417. Itoh et al., 1999, Island arc, 8, 56–65. 松下, 1971, 九大理研報 (地質学之部), 11, 1–16. 大澤ほか, 2002, 石油技術協会誌, 67, 38–51. 尾崎, 2013, 海域シームレス地質情報集「福岡沿岸域」, 産総研地質調査総合センター. 斎藤ほか, 2010, 20万分の1地質図幅「八代および野母崎の一部」,地質調査所. 酒井, 1993, 地質学論集, 42, 183–201. Sato, 2006, Tectonophysics, 421, 319–330. 高井ほか, 1997, 天草炭田地質図説明書, 地質調査所. Yamaji et al., 2006, J, Struct. Geol., 28, 980–990. 山元, 1991, 地調月報, 42, 131–148.

  • 木下 英樹, 山路 敦
    セッションID: R7-O-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    日本海の背弧拡大時、西南日本孤には伸張テクトニクスが存在した。西南日本孤では、各地で様々なトレンドの下部中新統グラーベンがみられるが、このことは孤内リフティングの方向が多様であったことを示唆する。そういったリフティングの場では必ず、堆積盆形成断層のスリップに走向方向の成分が含まれる。しかしそういった成分は、これまで西南日本では知られてこなかった。

     そこで本研究は、下部中新統一志層群を対象に地質調査を行った。一志層群は、西南日本の中央を横断する中央構造線の北側に分布する。本研究により、一志層群の堆積盆は、正断層および NE-SW 走向の左横ずれ断層に沿うグラーベン群から構成されることが分かった。これらグラーベン形成断層の活動は、堆積盆の sub-basin を画する基盤の高まりをつくった。

     加えて、本研究は、一志層群の中部で低角の傾斜不整合を見出し、その面を境に一志層群を上部と下部に区分した。下部層は、堆積盆の sub-basin を埋積した。また、下部層および基盤岩は上部層にオンラップされた。これらのことは、一志層群の堆積盆が transtension の場で形成され、その堆積盆形成が、不整合が形成された約18~17.5 Ma の間に終了したことを意味する。その後は、正断層のfold-related foldingとしてできたsag

    basinに、一志層群上部がたまったのだろう。

  • 新正 裕尚, 和田 穣隆, 折橋 裕二
    セッションID: R7-O-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    瀬戸内火山岩類の活動時期は,かつては主に全岩のK-Ar法で拘束され,Tatsumi (2006; Ann. Rev. Earth Planet. Sci.)による全域的なコンパイルでは13.7 ±1.0 Maとまとめられた.珪長質な火成活動が苦鉄質な火成活動に先行するという主張もあり,巽ほか(2010; 地質雑)による小豆島の試料のマルチ年代測定では下位の珪長質な岩相が14.3~14.4 Ma, 上位の安山岩・玄武岩が13.1~13.4 Maの活動とされた.一方,近年の九州東部,四国西部,備讃瀬戸地域のジルコンU-Pb法や40Ar/39Ar法による検討では,多くの年代が14.3~15.1 Maの範囲に入るが(新正・折橋,2017; 地質雑; 新正ほか,2017; 地質学会予稿; Nakaoka et al., 2021; Isl.Arc; Sato and Haji, 2021; Isl.Arc),讃岐平野のデイサイトのジルコンU-Pb年代が13.8 Maにピークをもつという報告もある(Gao et al., 2021; Lithos).本報告では,これまでの層序関係,放射年代等の情報を整理して,紀伊半島の瀬戸内火山岩類の分布の主体である二上層群の活動時期とその意義を論ずる.二上層群についてはTatsumi et al.(2001; Geophys. J. Int.)は高Mg安山岩を含むサヌキトイドを産する原川累層につき5試料のK-Ar年代の荷重平均として13.6 ±0.7 Maを与えていた.一方,Hoshi et al. (2000; JMPS)は原川累層とその上位の定ヶ城累層の境界付近に正・逆の地磁気極性境界を見いだし,吉川ほか(1996; 地質雑)のK-Ar年代を参照して該当しうる極性サブクロンから二上層群の年代は14.6~15.2 Maに入るとした.さらに星ほか(2002: 地質雑)で二上層群の全体からほぼ14.5-15.0 Maの範囲のジルコンフィッション・トラック(FT)年代を報告し,1500万年前頃の数十万年以内の短期間の活動を強調した.その後,新正ほか(2011; 地質学会予稿)は14.9~15.0 Maの二上層群のジルコンU-Pb年代を報告し星ほか(2002)のFT年代と整合的であるとした.二上層群の最上部の定ヶ城累層の上部の玉手山凝灰岩は室生火砕流堆積物に対比される(星ほか,2002;岩野ほか,2007; 地質雑;山下ほか,2007; 地質雑; 新正ほか,2010; 地質雑).さらに和田ほか(2012; 地質学会予稿)は室生火砕流堆積物直下の山辺層群中の凝灰岩層から溶結した火砕岩片を見いだし,重希土類元素に枯渇する瀬戸内火山岩類の流紋岩にみられる全岩組成の特徴を持つことから二上層群のドンズルボー累層に由来するものと推定した(新正ほか,2012; 地質学会予稿).なお,Takashima et al. (2021; Isl. Arc)はアパタイト組成により室生火砕流堆積物の下部を外帯の大台カルデラの噴出物と対比した.また房総半島の木ノ根層の凝灰岩のアパタイト組成による対比から,大台カルデラの噴火後すぐに熊野カルデラが噴火したことが推定された(高嶋ほか,2018; 地質学会予稿).すなわち二上層群は紀伊半島外帯のカルデラ形成を伴う大規模珪長質火成活動に先行して形成されたことになる.外帯の大規模カルデラ形成に伴う火成活動の時期はShinjoe et al. (2021; Geol. Mag.)のジルコンU-Pb年代では14.5~15.0 Maの範囲に入る.以上より,二上層群の活動時期はHoshi et al. (2000)や星ほか(2002)の提案のように1500万年前頃の数十万年以内の短期間の活動と見られる.二上層群を形成した火成活動は外帯の大規模カルデラ噴火に先行するが,放射年代からは明確に区別できず,フィリピン海プレートの沈み込みの進行に伴って火成活動の領域が北進したのではなく(Kimura et al.,2005; Bull. Geol. Soc. Am.),島弧横断方向に少なくとも幅80 km程度の領域でほぼ同時期に火成活動が生じたとみられる.瀬戸内地域ではマントル深度での堆積物融解による重希土類元素に枯渇した流紋岩マグマやスラブメルトとマントルの反応による高Mg安山岩マグマなどスラブ融解に由来するマグマ生成が,外帯地域では付加体深部あるいは沈み込むスラブ表層の堆積物融解によるSタイプ花こう岩の特徴を持つ大規模珪長質マグマの生成があり,日本海拡大に関連したマントルウェッジの高温状況と拡大直後の四国海盆スラブの沈み込みのもとで海溝寄り地域での広範な火成活動が引き起こされたものと考えられる.

  • 二宮 崇, 山中 寿朗, 下山 正一, 宮田 雄一郎, 島津 崇, 谷口 翔, 青木 隆弘, 西田 民雄, 高橋 利宏
    セッションID: R7-O-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    日本海南西部に分布する対州層群は,筆者らの研究により18~16 Maの日本海拡大期に短期間に堆積したことが明らかになった(Ninomiya et al., 2014).対州層群下部の吹崎石灰岩からBathymodiolus sp.が記載され,その産状から化学合成化石群集の可能性を指摘した(Ninomiya, 2011).しかし,吹崎石灰岩が深海で形成され,Bathymodiolus sp. が化学合成群集であることを示す明瞭な証拠がなかった.本研究は,それらの証拠を得ることを目的とした.

     吹崎石灰岩は泥岩に含まれる幅約4m,厚さ約50cmの現地性の特異な石灰岩体で,下部の苦灰岩,上部のBathymodiolus sp.を含む石灰岩,これらを切るカルサイト脈からなり,石灰岩直下の泥岩中に直径5cm以下のドロマイトからなるコンクリーションを多数含んでいる.石灰岩周辺を含む対州層群下部は水深を示す示相化石に乏しいが,底生有孔虫(Sakai & Nishi, 1990)やまれに泥岩から産出する貝類化石(Masuda, 1970)は,吹崎石灰岩を含む対州層群下部は水深800m以深の深海環境で堆積したことを示す.

     石灰岩の炭酸塩の低いδ13C値(−39.8‰から−31.7‰)は,石灰岩が熱分解起源もしくは微生物起源のメタンの嫌気的メタン酸化により海底面下で形成されたことを強く示唆している.苦灰岩,コンクリーション, カルサイト脈から得られたδ13C値(−5.8‰から−9.7‰)は,通常の海洋性炭酸塩のδ13C 値(−2‰から+6‰; Veizer et al., 1999)よりも低い.それゆえ,これらの炭酸塩岩は,嫌気的メタン酸化に由来する炭酸イオンと海水中の炭酸イオンの混合により形成されたことを示唆している.

     また,石灰岩,苦灰岩およびコンクリーション中のパイライトのδ34S値は−3.3‰から−16.4‰と0‰より低く,硫酸還元細菌の活動によって形成されたことを示しており,活発な嫌気的メタン酸化がおこっていたことを示唆する.硫酸還元細菌によって生成された硫化水素が化学合成の一次生産に使用される場合,RuBisCOによって固定された有機物のδ13C値は−35 ± 5‰の範囲に入ることが知られている(e.g., Nelson & Fisher, 1995). 石灰岩から得られた全有機炭素(TOC)のδ13C値は−37.6‰であったことから,化学合成によって固定された有機物と考えられる.苦灰岩およびコンクリーションのTOCのδ13C値(−27.9‰から−29.9‰)は,−35 ± 5‰よりも高いが,通常の海洋性堆積物のTOCのδ13C値(−25‰; Denies, 1980)と比べて低い.石灰岩中のTOCと同様に化学合成によって固定された有機物である可能性が高い.

     これらの結果とBathymodiolus sp. がδ13C値とδ34S値が最も低い石灰岩に限られ,16 Ma以前のシンカイヒバリガイ類は硫黄酸化細菌を共生させていたと考えられている(Lorion et al., 2013).吹崎石灰岩中のBathymodiolus sp.は,硫黄酸化細菌のみを共生させ,嫌気的メタン酸化により生成される硫化水素に依存していたと考えられる.対州層群の年代やデイサイトの活動を加味すると(Ninomiya et al., 2014),対州層群下部の環境は浅海から急速に深海化し,メタンが湧出する背弧海盆となっていたことを示唆している.

    文献 Denies, P., 1980, In: Fitz, P., Fontes, J.C. (Eds.), pp. 239–246. Lorion et al, 2013, Proc. R. Soc. B 280, 20131243. Masuda, 1970, Mem. Nat. Sci. Mus. 14, 25-32. Nelson, D.C., Fisher, C.R., 1995, In: Karl, D.M. (Ed.), pp. 125–167. Ninomiya, T., 2011, Mem. Fac. Sci. Kyushu Univ. Ser. D, Earth & Planet. Sci. 32, 11–26. Ninomiya et al., 2014, Isl. Arc 23, 206–220. Sakai, H., Nishi, H., 1990, J. Geol. Soc. Jap. 96, 389–392. Veizer et al., 1999, Chem. Geol. 161, 59–88.

  • 星 博幸, 久野 元晴
    セッションID: R7-O-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    Northeast Japan rotated counterclockwise during the early Miocene major opening stage of the Japan Sea, but the timing, amount, and mode of the rotation remain poorly constrained. These issues should be resolved by an interdisciplinary geological study in areas where the well-dated rock sequences formed in the period of the Japan Sea opening are present. Here we present geological and paleomagnetic data from northern Honshu and show that counterclockwise rotation occurred after the formation of early Miocene volcanic rocks. After mapping geological structures in the field, we collected samples for paleomagnetic analysis at more than 60 sites in two areas (Fukaura and Kodomari) in the western Tsugaru region of Aomori Prefecture. In the Fukaura area, andesites and rhyolites of the Odose Formation (ca. 20–18 Ma: Hoshi et al. 2003) have a remanent magnetization direction counterclockwise deflected from the early Miocene expected direction, although several site-mean directions of lava flows are not corrected for bedding tilt due to possible paleotopographic slopes. A similar magnetization direction is recorded in the various types of early Miocene volcanic rocks of the Gongenzaki Formation (ca. 23–20 Ma: Danhara et al. 2005) and Fuyube Formation (ca. 17–16 Ma: Hoshi et al. 2013, 2016) in the Kodomari area. It is noteworthy that a rhyolite lava unit of the Fuyube Formation preserves a westerly magnetization direction, suggesting counterclockwise rotation after 17 Ma. Future research should aim to determine magnetization directions and U–Pb zircon dates of middle Miocene and younger formations in western Tsugaru.

    Ref.

    Danhara, T. et al., 2005, J. Geol. Soc. Japan 111, 476–487; Hoshi, H. et al., 2003, J. Japan. Assoc. Petrol. Tech. 68, 191–199; Hoshi, H. et al., 2013, J. Japan. Assoc. Petrol. Tech. 78, 414–418; Hoshi, H. et al., 2016, J. Geol. Soc. Japan 122, 163–170.

  • 里口 保文
    セッションID: R7-O-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    【近畿地方における水系変化】 日本における鮮新―更新世の古環境推定は,現在の地理的に隔たれた同一堆積盆内で形成されたと考えられる“層群”単位で検討が行われることが多く,隣り合った地域に同時代の層群が分布していても,それらの水系のつながりを議論することは難しい.

     近畿・東海地方には,東から西へ,鮮新―更新統の東海層群,古琵琶湖層群,大阪層群が分布しており,各地域は基盤岩によって隔てられている(e.g. 日本第四紀学会編,1987).これらの層群は,大阪層群の上部の一部層準を除き,湖沼,河川,湿地などで形成された陸水成層からなり(e.g. 日本地質学会編,2009),淡水の水系としてのつながりを明らかにすることは,当時のこの地域における構造運動を知る上で,また現在の淡水生物分布の成立過程を考える上でも重要である.鮮新―更新世の機関における,近畿・東海地方の水系変化については,里口(2017)がまとめているが,その変化をした正確な時期は不明としている.その変化の中で,現在の水系につながる大きな変化として,近江盆地からの水の排水方向が,伊勢湾方向から現在と同じ京都・大阪方向へ変わった事があげられ,この変化が当時の近江盆地の水環境を大きく変えた可能性が指摘されている(里口,2015).本発表ではその変化をした時期の検討する.

    【水系変化のタイミングの検討】 古琵琶湖堆積盆から京都・大阪地域への水系のつながりは,古琵琶湖層群中部付近の蒲生層下部にある約230万年前の虫生野火山灰層(Msn-Jwg4テフラ)堆積時には存在していることから(里口,2017),230万年前よりも以前にできたといえる.古琵琶湖層群における蒲生層の下位に位置する甲賀層は,現在の甲賀市付近に深く安定した湖があったと推定される塊状泥層からなり,本層堆積時期における水の排出方向の直接的なデータは示されていないものの,甲賀層下部の堆積期には東側の伊勢湾方向へと図示されている(川辺,1994).つまり,甲賀層から蒲生層下部のいずれかの時期に流出方向が変化したと推定される.

     琵琶湖の南東方向にある滋賀県湖南市の野洲川河床には,甲賀層最上部が分布しており,河川や周辺湿地,止水域の環境を示す地層から構成されている.このうち,河川堆積物と考えられる砂礫層の古流向を測定したところ,概ね北方向を示していた.この地点は,当時の湖があったと考えられる地域に対して,西方に位置していることから(川辺,1994),北方向を示す流れの河川は,この地域から東方にあった湖へ流入していたとは考えにくい.それに対し,本地点の西側と南側には基盤岩の高まりがあり,これら周辺の古琵琶湖層群との境界付近の変形などが見られないことから,本地域堆積期以降に地域的な構造運動はなかったと推定され,本層堆積時期にもこの基盤岩の高まりがあったと考えられる.つまり,本地域は堆積当時の地形的制約として西方へ流れることができなかったと考えられる.本調査地点のみの古流向で,当時の堆積盆の水系を議論するのはあまりに危険ではあるが,本地点の北向きの流れは,西方へ流れることができなかった地形的制約を避けるために北側の流れを作っていた可能性も考えられ,甲賀層最上部の堆積時期には,近江盆地からの排水方向が東方向から異なる方向へ変化していたことを示しているのかもしれない.

    【文献】 川辺孝幸,1994,琵琶湖の自然史.25-72,八坂書房.;日本第四紀学会編,1987,日本第四紀地図,東京大学出版会.;日本地質学会編,2009,近畿地方,朝倉書店,p453.;里口保文,2015,日本地質学会第122年学術大会講演要旨,70.;里口保文,2017,化石研誌,60-70.

R8(口頭)海洋地質
  • 桑野 太輔, 亀尾 浩司, 久保田 好美, 宇都宮 正志, 万徳 佳菜子, 岡田 誠
    セッションID: R8-O-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    北西太平洋海域は,熱輸送を担う黒潮や親潮といった海洋循環と、偏西風やアジアモンスーンといった大気循環の影響を受ける海域に位置しており,過去の地球環境を復元するためには重要な地域である (Gallagher et al., 2015).特に,房総半島から三陸沖に位置する黒潮と親潮の境界付近では,表層海水温が大きく変化するため (Locarnini et al., 2013),地質記録からこれらを復元することで,過去の黒潮・親潮の変動を理解することが可能である.これまで,北西太平洋海域では,多くの古海洋学的な研究が進められてきたが(e.g., Yamamoto et al., 2005; Sagawa et al., 2006),そのほとんどは後期更新世以降であり,前期更新世における表層海水温の復元はほとんど行われてこなかった.そこで本研究では,房総半島中央部に分布する上総層群から産出する石灰質ナノ化石を検討し,これらの群集組成をもとに現生アナログ法を用いて表層海水温を復元することを目的とした.

    本研究では,近年,Kuwano et al. (2021) により年代モデルが構築された黄和田層上部を対象とした.Kuwano et al. (2021) によって報告された夕木川ルートの試料73点に加え,新たに夷隅川の支流である大野川ルートの試料18点を追加し,石灰質ナノ化石の群集組成の検討を行った.現生アナログ法は,Squared Chord Distanceを類似度として使用し,これらの値が大きい上位5地点の現在の海水温の加重平均をとることで水温の推定を行った.表層堆積物における群集組成のデータセットはTanaka (1991) を利用し,現在の水温は,日本海洋データセンターの夏季の水温を緯度経度ごとにリサンプリングしたものを使用した.

    復元された表層海水温は,概ね氷期・間氷期のスケールでの変化が卓越し,間氷期では27℃付近の安定した値をとる.一方,氷期ではこれよりも2–3℃程度低くなり,MIS 38の後半では21℃付近まで低下する.しかし,これらの水温は,MIS 1や2と比較しても非常に高い温度を示しており(Yamamoto et al., 2005; Sagawa et al., 2006),MIS 31でも近い水温を示すことから(Kajita et al., 2021),前期更新世における房総半島周辺は,現在よりも温暖な海洋環境が続いていたことが示唆される.

    [引用文献]

    Gallagher et al., 2015, Progress in Earth and Planetary Science, 2, 17.

    Kajita et al., 2021, Communications Earth & Environment, 2, 82.

    Kuwano et al., 2021, Stratigraphy, 18,103–121.

    Locarnini et al., 2013, World Ocean Atlas 2013, Volume 1: Temperature.

    Sagawa et al., 2006, Journal of Quaternary Science, 21, 63–73

    Tanaka, 1991, Sci. Rep., Tohoku Univ., 2nd ser. (Geol.), 61, 127–198.

    Yamamoto et al., 2005, Geophysical Research Letter, 32, 1–4.

  • 松崎 賢史, 池田 昌之, 多田 隆治
    セッションID: R8-O-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    中新世後期の地球寒冷化(LMGC; 7.9〜5.8 Ma)の間に、東アジアの気候は、東アジアの夏季モンスーン(EASM)の支配から冬季モンスーン(EAWM)の支配に移行した。同時期の日本海堆積物は葉理の発達した放散虫岩から生物擾乱の卓越した珪藻土に変化した。同時期には放散虫・珪藻群集のみならず、脊椎動物群集なども変化したことが知られているが、の気候変動日本列島形成に伴う地殻変動も活発であり、それらの生態系への影響についてはまだ多くの点が未解明である。 本研究では日本海のLMGCをカバーする高時間解像度の放散虫群集変動を復元してLMGCに伴う海洋環境の変化とその生態系の応答をモニタリングした。特に、放散虫の日本海固有種の放散虫Cycladophora nakasekoiや熱帯亜表層水に生息するC. papillosumは、7.4 Ma位前の日本海に卓越し、亜寒帯の放散虫種(Cycladophora sphaerisなど)は7.4 Maの後に豊富になったことから当時の環境変動の影響で絶滅したとも考えられる。さらに、9.0-7.4 Maでは放散虫フラックスと堆積物のガンマ線強度(GRA)の卓越周期は、EASMに卓越する100kyrの離心率サイクルから7.0 Ma以降では海水準変動やEAWMに卓越する40kyrの赤道傾斜角サイクルに変化した。 熱帯亜表層水に生息するC. papillosumが7.4 Ma以降の減少は、9Maから3.5Maに閉鎖したフォッサマグナ海峡の浅化に起因したと考えられる(Takeuchi, 2004など)。従って、フォッサマグナ海峡を通る黒潮分岐流の弱化と共に、間宮海峡から流入する北極圏(北太平洋)の海水流入が増加したと考えられる。また、LMGCに関連したEAWMの強化も影響して、亜寒帯前線が南方へ移動した可能性があるが、フォッサマグナ海峡の浅化とどちらがより影響したかは不明である。さらに、同時期に抗低塩性放散虫Tetrapyle circularis/fruticosaグループや淡水性珪藻(Koizumi, 1992) が減少することから、EASMの弱化と黒潮表層流の減少により日本海表層水が高塩分化した可能性もある。これらの海洋学的変化は、日本海固有種の放散虫C. nakasekoiや束柱類Desmostyliaなどの浅海動物相の絶滅を引き起こした可能性がある

  • 石田 直人, 瀬戸 浩二, 秋葉 文雄, 松本 良
    セッションID: R8-O-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    日本海はユーラシア大陸と日本列島に挟まれ,4つの海峡によって外洋とつながる半閉鎖的な縁海である.現在,外洋水は対馬暖流として対馬海峡から日本海に流入し,津軽海峡および宗谷海峡から流出しているが,氷期の低海水準期には海水交換がほぼ停止し,鉛直混合も滞るなど,日本海は第四紀の気候変動に鋭敏に応答することが知られる.本研究では,日本海南部で採取されたコアに記録された全有機炭素(TOC)の濃度および同位体比を中心に,66 ka以降の変動を報告する.

    本研究では,明治大学ガスハイドレート研究所が実施した航海によって対馬海盆(PC1601),隠岐トラフ南西部(PC1818),および隠岐トラフ中部(PC1606)で採取された3本のコアを使用した.各コア最下部の年代はPC1601が32 ka,PC1818が45 ka,そしてPC1606が66 kaである.試料はコアから1 cm間隔で分取し,塩酸処理によって炭酸塩成分を取り除いた後,島根大学エスチュアリー研究センターのCNS元素分析装置により全有機炭素(TOC),全窒素(TN),および全硫黄(TS)の3成分の濃度を測定した.また,PC1606については高知大学海洋コア総合研究センターの質量分析計を用い,有機炭素・窒素の同位体比を測定した.

    いずれのコアもTNとTOCには良い相関が見られ,C/Nの値は6~10の範囲にほぼ収まっている.これはどのコアの有機炭素も主に海洋プランクトン起源であることを示す.最終氷期の海水準低下期にあたる25~66 kaには,1.0~3.2 %の範囲でTOC濃度が増減する20 kyr程度の周期的な変動が2回繰り返され,さらにTOC濃度にして1 %程度の短期的な増減が重なる.ATテフラ層準(30 ka)の直上では,どのコアにおいてもTOC濃度が0.5 %程度まで急激に落ち込み,その後1~3 kyr程度を要して1 %台まで徐々に回復する.TOC濃度の急減はU-Oki(10.2 ka)や61 ka付近のテフラにも見られ,南九州や日本海内部で発生した巨大噴火が基礎生産に大きな影響を与えたことが明瞭である.最終氷期最盛期(LGM)にあたる20 ka前後では,TOC濃度は1~1.5 %程度の低い値を取る.この時期は日本海の鉛直循環が停滞して深層水が貧酸素化しており,沈降した有機物が堆積物中に保存されやすい条件にあったが,TOC濃度が低下していることは,日本海南部の基礎生産そのものが低下していたと考えられる.16 kaを境にTOC濃度は上昇に転じ,11 ka前後に検討した範囲で最も高い3.5~4 %のピークに達する.全球的な温暖化に伴って日本海の循環が再開し,深層の栄養塩が表層にもたらされたことで,一時的に基礎生産が増大した可能性がある.その後TOC濃度は減少し,K-Ahテフラ(7.25 ka)から現在まで,各コア2.5 %前後の安定した値となっている.

    PC1606のTOC同位体比は,コアの最下部,66 ka付近の層準で-22.7 ‰であり,MIS4の寒冷化ピークにあたる64 ka付近では-23.8 ‰まで負にシフトする.その上位の60〜32 kaの層準は-22〜23 ‰の範囲にある.32〜11.6 kaの層準には2 ‰以上の大きな負のシフトが見られ,LGM付近の21~19 kaに-24.6 ‰の最低値を取る.19 ka以降は11.6 kaまでに-22 ‰程度まで急激に回復する.11.6 ka以降は現在に向けて-22 ‰から-21 ‰まで緩やかに上昇する.

    窒素同位体比は,炭素同位体比とほぼ同調した増減傾向が見られる.コアの最下部,66 ka付近で6.0 ‰であり,64 ka付近で5.8 ‰まで低下する.その上位60〜32 kaの層準は6.0〜6.8 ‰の範囲にある.32 ka〜11.6 kaの間には3 ‰以上の大きな負のシフトが見られ,LGM付近の19 kaに3.2 ‰の最も低い値となる.19 ka以降は11.6 kaまでに6.7 ‰まで急激に回復する.11.6 ka以降は6.7 ‰から5.7 ‰まで現在に向けて緩やかに減少しており,この点のみ炭素同位体比と異なる傾向を示す.

    本研究の有機炭素・窒素同位体比測定の目的のひとつは,日本海内部におけるメタンハイドレート分解現象の検出である.メタンハイドレートに内包されるメタン分子は特徴的に軽い同位体比の炭素から構成され,過去のメタンハイドレート分解現象は炭素同位体比の負のシフトとして検出されてきた.本研究による結果は,全体として有機炭素・窒素同位体比が同調した変動を示しており,これらの主だった変動は生物活動に伴うものと考えられる.MIS4のピーク付近やLGM前後などの寒冷期には,炭素同位体比のみに記録された短期間かつ小規模な負のシフトが認められ,これらは海水準低下に応答したメタンハイドレート分解に伴う変動の可能性があるため,今後の検討を要する.

  • 公文 富士夫, 徳山 英一, 奥村 知世, 新井 政良, 荒井 晃作
    セッションID: R8-O-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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    沖縄島中部の北西側の海域では、本部半島から伊江島にかけての高まりから徐々に南西側に深くなる,水深200m~500mほどの緩斜面が広がる.この緩斜面下では,凹凸地形を呈する音響的基盤を,辺戸沖層群およびその上位の表層堆積物(名護沖層群)が薄く覆うことが報告されている(佐藤ほか,2011;荒井ほか,2015).音響的基盤は海底の凸部に連続し、相対的に硬い地層が海底に露出していることを示唆している.その凸部の周囲にはしばしば凹地が発達することも報告されている.

    このような凹地で発見されたモモイロサンゴ(Pleurocorallium elatius)遺骸(骨軸)に対して14C年代測定(2標本,3試料)を行ったところ,最終氷期の寒冷期にあたる2万年前と3.3万年前を示す年代値が得られた(Table1).遺骸の表面には小さな孔が無数に見られ,死後相当の時間を経ていることは確かである.一方,表層から数mm以深では緻密な組織が残されており,年代測定は緻密な部分に対して行われた.同一標本から分取した2試料が近い年代値を示すことからも,測定された年代値はサンゴの成長した年代を示す可能性が高く,次のような堆積のシナリオが推定される.

    2~3万年ほど前の氷期に,海底の高まりに付着して成長していた宝石サンゴが,死後に落下して,斜面下に集積した.その後,後氷期の海水準の上昇によって,名護湾層の極細粒砂~シルトの堆積する水理環境に変わったものの,海底の高まりの周囲だけは局所的な流速の増大によって懸濁性の堆積物が沈積しにくい場になった結果,凹地が形成されたもの(obstacle scour:佐藤ほか,2011)と考えられる.今回の年代測定によって,凹地の中はほぼ無堆積の堆積環境が数万年間以上にわたって継続していることが確認された.

    一方,年代を測定したモモイロサンゴは,八放サンゴ亜綱サンゴ科に属し,水深100~500mの深い海域に生息する.サンゴ科のサンゴ類には緻密な骨軸を形成するものが多くあり,骨軸を研磨・加工することによって宝飾品として利用され,珍重されてきた.そのため,この仲間は宝石サンゴとも呼ばれ,漁業の対象となっている.宝石サンゴ漁業では,生きた状態で採取されたもの(生木:せいき)と,遺骸の状態で採取されたもの(枯木:かれき)とが区別され、両者ともに市場に流通している。漁獲量においては,枯れ木が6~8割を占めている(2012年~2016年:日本珊瑚商工協同組合資料).今回の年代測定結果は,足摺沖の場合と同様に(Okumura et al., 2021),枯木と呼ばれてきた宝石サンゴ資源の一部が,過去に蓄積された化石資源であることを示唆している.このような知見の蓄積が宝石サンゴの資源量評価の一助になると考えられる.

    引用文献

    荒井晃作・佐藤智之・井上卓彦,2015,海洋地質図,no. 85, 産総研地質調査総合センター . Okumura, T., Kumon, F.,and Tokuyama, H., 2021, Radiocorbon, 63, 195-212. 佐藤智之・荒井晃作・井上卓彦,2011,産総研地質調査総合センター速報,no.55, 35-41.

  • 村山 雅史, 谷川 亘, 井尻 暁, 星野 辰彦, 廣瀬 丈洋, 捫垣 勝哉, 新井 和乃, 近藤 康生, 浦本 豪一郎, 尾嵜 大真, 米 ...
    セッションID: R8-O-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/31
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