日本地質学会学術大会講演要旨
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T16.都市地質学:自然と社会の融合領域
  • 中里 裕臣, 中澤 努, 坂田 健太郎, 納谷 友規
    セッションID: T16-O-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    都市域の地質地盤図「東京都区部」1)では,東京層下部に相当する軟弱な谷埋め堆積物を識別し,その分布を可視化したことが注目されたが,この谷埋め堆積物の識別においては,東京層下部のテフラのほか,削剥された側の地層のテフラの同定も極めて重要な役割を担った.特に藪層の指標テフラとしてYb1.5を新称・記載したうえで,東京都区部のボーリングコア試料にこのテフラを見出したことは極めて大きな意義を持つ.このテフラは,Yb2~Yb5?が記載された千葉県木更津市宿2)において藪層下部のYb2より下位の内湾層基底にパッチ状に挟在するもので,比較的高屈折率を示す直方輝石の屈折率特性に基づきYb0として報告3)されたテフラである.本発表では,直方輝石の屈折率γが1.714前後のモードを示して類似する藪層の指標テフラYb0,1.5,3の相違点を整理する. Yb0は姉崎図幅地域の藪層基底部に認定された数mm径の軽石及びスコリアからなるテフラ2)で,直方輝石の屈折率γが1.714前後のモードを示すことで特徴づけられる4).千葉県船橋市のGS-FB-1コアでは深度117.25–117.35mの藪層基底部に本テフラが確認されている5).この試料の火山ガラスの屈折率はn=1.518–1.521(1.519モード)と高屈折率を示すが,陸上露頭のYb0では粘土化により屈折率測定はできていない.場所により本テフラの上下に,低屈折率モードを示す直方輝石を含むテフラが複数認められ,Yb0グループ(Yb0G)として記載されている4),5).Yb0の重鉱物組成は両輝石を主とするが,市原市南岩崎では普通角閃石(n2=1.673–1.682)を含む4). 木更津市宿におけるYb1.5は重鉱物として普通角閃石,直方輝石,黒雲母を含み,Yb0とYb3に対し角閃石に富む.直方輝石の屈折率はγ=1.709–1.718(1.714)とYb0に類似する.火山ガラスの屈折率はn=1.496–1.500,1.503–1.506であり,この点でYb0と区別できる.普通角閃石の屈折率はn2=1.666–1.686とレンジが大きく,主成分化学組成ではMnOが低くK2Oが高い成分とMnOが高くK2Oが低い2つのグループに分けられる.大田区GS-OT-1コア,台東区GS-UE-1コア,練馬区GS-NM-1コアでは火山ガラスもしくは普通角閃石の屈折率特性および主成分化学組成の類似からYb1.5に対比できるテフラが検出された1).  Yb3は市原市瀬又では径数cmの白色軽石からなり,重鉱物は両輝石を主とし,わずかに普通角閃石を含む.火山ガラスの屈折率はn=1.502–1.508(1.505),普通角閃石の屈折率はn2=1.677–1.687である.Yb3とYb1.5は直方輝石のみならず火山ガラス,普通角閃石の屈折率も類似するため,その識別には重鉱物組成における角閃石の含有率と黒雲母の有無と,Yb2の下位に認定されている温暖化石群集層準との層位関係とに着目する必要がある. 藪層下部では上記テフラのほかに,下位からYb1,Kkt,So-TN,So-OTが記載されており1),Yb1の直上及び直下には角閃石に富む軽石テフラが挟在する場合があるが,これらのテフラとYb1.5との上下関係は直接には確認されていない.直方輝石の屈折率が高い特徴を持つ複数のテフラがあることを踏まえて,これらのテフラの上下関係を明らかにするとともに,藪層基底に相当するMIS10の低海面期を他地域に追跡することが今後の課題である.引用文献:1)納谷ほか(2021)都市域の地質地盤図「東京都区部」,2)徳橋・遠藤(1984)姉崎地域の地質,5万分の1地質図幅,3)佐藤(1993a)堆積学研究会1993年秋季研究集会講演要旨,4)佐藤(1993b)千葉中央博自然誌研究報告第2巻第2号,5)納谷ほか(2018)都市域の地質地盤図「千葉県北部地域」

  • 北田 奈緒子, 井上 直人
    セッションID: T16-O-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    大阪湾と大阪平野部は周辺を山地(山地の麓には活断層)に囲まれた堆積盆地である.その中には1000m以上の未固結の堆積物が堆積している.下部の地層は砂礫~粘土の堆積物であるが,基本的に淡水成の地層であり,上部では海成粘土層と砂礫層の互層がみられる.関西空港で実施されたKIX18-1ボーリング調査の結果より堆積の開始時期はおよそ350万年前と推定され(Kitada et al,2011),その後,盆地の中を土砂が埋積する環境が継続することによって厚い堆積物がたまっているといえる.長尺の地質調査ボーリングは北の魚崎浜で実施されたGS-K1も着岩ボーリングの一つである(吉川他,2000).そのほかにも1960年代に実施されたODボーリングや兵庫県南部地震以降に調査ボーリングとして実施されたGSボーリングなどの長尺ボーリングが存在する.本研究では,それら長尺ボーリングデータを用いて,堆積場の違いなどを検討したので報告する. 長尺ボーリングの特徴を読み取りやすいように,50m毎に層相の構成割合の変化を作成し(地質構成図),粘性土の割合を青で示し,砂を黄,礫をオレンジで示した.例えばGS-K1の場合,基盤直上から海成粘土層が堆積盆地内で確認されるまでの部分(深度650m)は砂が優勢で50%以上である.粘性土は基盤岩上部から増減を繰り返す.深度700m以浅では海成粘土層が繰り返し堆積するが,50m毎に集約すると全体に少しずつ粘性土の割合が大きくなる傾向にある.最も粘性土の割合の大きな深度400~450mの区間はMa3層に相当し,粘性土の割合は80%を超える.その後,粘性土の割合は少しずつ減少し,深度0~200mでは,礫の割合が多くなる.一方,基盤岩に着岩するまで掘削されたKIX18-1(関西空港島)は基盤岩直上には礫が多く分布する.また,全体に砂の割合が多く,粘性土は深度1100~1150m,深度100~150mで大きくなる.全体の特徴として,海成粘土層が出現する深度500mで粘性土の割合が最小となり,少しずつ粘性土分が多くなる.最も粘性土の割合が大きくなるのはMa10層の深度である.また,粘性土の割合が大きく低くなるポイントが,海成粘土が堆積を始める時期にほぼ該当しているようにも見える. 長尺ボーリングデータから地層構成図作成すると,いくつかの特徴が見いだせる.淀川から北部域のOD-2,OD-1,OD-5,GS-K1は海進開始後粘性土割合が多くなる傾向が同じであり,いずれもMa3層堆積時期に最大となる.その後,礫が出現し,その割合を増加させる.これは,淀川水系および六甲で礫を継続的に供給させるような状況が発生したことになる.六甲側では六甲山地の隆起の活動が活発化し,淀川水系では上町断層や生駒断層などの活動が活発化した可能性が考えられる.海成粘土層が出現する前の時期には,淀川水系では比較的礫の供給が多い時期があったことがOD-5やOD-1,OD-2コアより推測できる.海成粘土の最初の出現の下位に200~300mの区間の礫が多い区間がある.しかし,六甲エリアのGS-K1では,ほとんど見られない.よって,この礫は淀川水系付近にみられる特徴である.OD-2は上町台地で掘削されたボーリングであり,OD-1との間には上町断層を挟むが,海成粘土出現前の礫が多い時期からMa3層までの区間は西大阪のOD-1,OD-5とほとんど堆積フェーズが同じである.よって,上町断層の活動が活発になったのは,Ma3層が堆積した後であると考えられる.淀川水系から離れたKIX18-1,YUでは,礫の分布が乏しく,大きな河川からの礫の供給がほとんどなかったと考えられる.また,KIX18-1では,海成粘土出現時に最も粘性土の割合が少なくなる傾向が北部と同じであるが,その後粘性土の割合はどんどん増加して,最大はMa10層となり,北部とは異なる.上町台地南部のYUでは他の地域とは異なってMa0層付近で粘性土が多くなる.以上の傾向は,関西空港付近では,比較的静穏で大きな地殻変動の影響を受けていない堆積変遷であるのに対して,北部や上町台地上では六甲断層や上町断層,生駒断層や有馬高槻構造線などの地殻変動によって山地が隆起することで礫の供給や堆積場が変化していると考えられる.

  • 吉村 辰朗
    セッションID: T16-O-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    2021年台風14号の豪雨時に盛土崩壊が発生した。隣接する谷埋め盛土部で地下水位と歪のモニタリングを行っている。2022年8月~9月の降雨時に,歪変動が認められ9月には300~500μsの変動が検出された。この期間の地下水位観測において地下水位は移動土塊中には認められない。移動土塊中に水位が観測されない場合(間隙水圧が計測されない場合)の歪変動発生メカニズムを現場の計測データで説明するのは困難である。 谷埋め盛土の動態観測を実施している観測ボーリング周辺には,北東・北西方向の断裂が推定されたため,切土部(花崗岩)と想定される箇所でγ線探査を実施した。γ線探査の結果,北東方向の断裂NE(断裂幅:1.9m,走向:N40°E)と北西方向の断裂NW(断裂幅:2.7m,走向:N50°W)を検出した。この2断裂の交差点は,谷埋め盛土中央部に位置する。亀裂の交差部(断裂交差場)では透水性が高く,地下水および物質の重要な移行経路となることが報告されている1)。断裂交差場では,パイピングが発生し湧水・噴砂が認められる。また,地層境界(不整合面)と断裂の交差場ではパイプ流が発生する2)。西村ほか3)では,パイピング破壊の危険度を判定する力学的点検フローを作成し,パイピングが発生する「着目すべき堤体-基礎地盤条件」を示している。地盤条件図の透水層は,地層境界と断裂の交差場で形成されるパイプ流に該当する。また,「行き止まり地盤」は,断裂交差場で形成される噴砂(パイピング)に該当する。上記の不連続面の交差場で発生する「パイプ流」と「パイピング」の事象から,噴砂(パイピング)と低透水層(難透水層)によりパイプ流は閉塞されることで揚圧力が発生し,盛土が持ち上げられて崩壊に至るメカニズムが考えられる。この現象は、「2021年 熱海市の盛土崩壊」でも認められる。 谷埋め盛土調査の着目点としては, ① 不連続面(断裂,地層境界)の分布・・・・・・・地質構造 ② パイプ流上位の難透水層の分布・・・・・・・・・堆積構造 ③「難透水層上位の土塊重量」と「揚圧力」の平衡より崩壊の有無が決まる。 土塊重量>揚圧力・・・・・・・・・・崩壊しない 土塊重量<揚圧力・・・・・・・・・・崩壊する 文献 1)鎧 桂一・澤田 淳・内田雅大(2004):亀裂交差部に沿った方向の透水特性の評価,サイクル機構技法,No.23,pp.63-70.2)吉村辰朗・森山秀馬(2023):不連続面の交差場で発生するパイピングとパイプ流:地盤工学会誌,71(1),45-48.3)西村柾哉・前田健一・高辻理人・牧洋平・泉典洋(2019):実堤防の調査結果に基づいた河川堤防のパイピング危険度の力学的点検フローの提案,河川技術論文集,25,499-504.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    関山 優希, 望月 一磨, 今井 啓文, 上野 光, 山本 由弦
    セッションID: T16-O-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    道路や鉄道のトンネル内では路面に押し出し変位(盤ぶくれ)が生じ、トンネル安全性や安定性および使用性を確保するための対策工事が頻繁に実施され、費用面だけでなく維持管理や対策工事による社会への影響が近年顕在化してきた。盤ぶくれは、吸水膨潤(Swelling)と押し出し(Squeezing)とに区分され、前者は膨潤特性を持つ粘土鉱物の一種であるスメクタイトが吸水、膨潤することによって発現すると考えられている。このことから、盤ぶくれ発生リスクの評価指標としてXRDによるスメクタイト含有量の定量測定値が用いられてきたが、より簡易な測定でかつ正確な評価指標の利用が急務であった。 本研究は、含有されるスメクタイトが経験温度上昇に伴いイライト(非膨張性)へと変化する性質を利用し、簡易的な温度計測手法を用いて盤ぶくれの発生リスクを定量的に評価した。測定手法として、ロックエバルTmax(℃)とビトリナイト反射率RO(%)を用いて、地層の最高経験温度T(℃)を検討した。測定には①Aトンネル(北海道)、②Bトンネル(北海道)、③Cトンネル(北海道)、④加賀トンネル・樋山トンネル(石川―福井県)、⑤久山トンネル(長崎県)の古第三紀~新第三紀の泥質岩(計80試料)を用いた。 温度計測の結果、①では、Tmax = 420-435 (℃)、RO = 0.43-0.59 (%)。②では、Tmax = 406-418 (℃)、RO = 0.57-0.60 (%)。③では、Tmax = 412-441 (℃)、RO = 0.77 (%)。④では、Tmax = 418-443 (℃)、RO = 0.43-0.59 (%)。⑤では、Tmax = 438-450 (℃)、RO = 0.69-0.87 (%)となった。このTmax(℃)とRO(%)をT(℃)に換算すると、①T = 96-130 (℃)、②T = 47-137 (℃)、③T = 71-141 (℃)、④T = 90-144 (℃)、⑤T = 135-161 (℃)となる。最高経験温度T (℃)とスメクタイト含有量を比較すると、③の中でもT = 135-141 (℃)地点では、スメクタイト含有量10 (%)、④中のT = 135-141 (℃)地点では、スメクタイト含有量2 (%)、⑤T = 135-161 (℃)地点では、スメクタイト含有量0 (%)とそれぞれ低い値を取る。これらの結果は、スメクタイト-イライト混合層において、続成作用によってイライトが80 %に達する温度が140℃と考えられている(井上, 1986)ことと矛盾しない。また、③中のT = 71-118 (℃)地点では、スメクタイト含有量が0-50 (%)と広範に分布しており、④中のT = 90-124 (℃)地点では、スメクタイト含有量が13-22 (%)と比較的高い値を取る。このことから、地層の最高経験温度が高い地点では、スメクタイトのイライト化が進行して含有量が低いことが確認できた。一方温度が低い地点では、スメクタイト含有量は温度以外の影響によって様々であるものの、一定量残存していることが確認できた。以上の検討から、地層の最高経験温度が高い地点では、吸水膨潤型盤ぶくれのリスクが低いこと、温度が低くスメクタイト含有量が多い地点では同リスクの評価が可能である。

  • 岩波 知宏, 大塚 宏徳, 松野 哲男, 島 伸和, 浜橋 真理, 佐野 守, 井和丸 光, 鈴木 啓太, 杉岡 裕子
    セッションID: T16-O-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    大阪湾は、上町断層帯や六甲・淡路島断層帯、中央構造線断層帯など、いくつかの主要活断層帯によって囲まれた閉鎖性海域である。六甲・淡路島断層帯においては1995年に兵庫県南部地震(気象庁マグニチュード7.3)が発生しており、2013年にも気象庁マグニチュード6.3の地震が淡路島で発生している。また、大阪府北部においては、2018年に気象庁マグニチュード5.5の地震が発生している。これまでの反射法地震探査の結果から、大阪湾断層帯と呼ばれる北東-南西走向で約39 km延びている北西側隆起の逆断層帯が大阪湾西部で確認されており、このような大規模な断層だけでなく、他にも数多くの活断層が発達している(岩淵ほか, 1995)。大阪湾内全域の断層分布や活動履歴を把握することは、大阪湾にかかる応力とそれによるテクトニックな変遷を理解するために重要である。また、海底下に存在する断層は津波を引き起こす可能性もあるため(たとえば河田ほか, 2005)、大阪湾付近にある大都市の災害のリスク評価にも役立てることができる。 本研究では、大阪湾において、最終氷期以降(約18,000年前以降)の断層活動の影響を受けていると考えられる沖積層の層厚分布を面的に作成すること、および、小断層を見つけ、その分布や活動履歴を把握することを目的とした。解析に用いたデータは、2022年8月、10月、および2023年3月に神戸大学の練習船「海神丸」に搭載されたKongsberg社のサブボトムプロファイラーTOPAS PS18によって大阪湾中・南部を対象として1~3 km間隔の格子状に広範囲に取得した。一般的な反射法地震探査で用いる音源は100 Hz程度の低周波であるのに対して、サブボトムプロファイラーは1-10 kHz程度の高周波であるため、反射法地震探査と比べて、高分解能のデータを得ることができる。本調査では、帯域幅2~6 kHz、信号長1 msのチャープ波を主に使用した。調査の結果、底下30 m程度の沖積層や洪積層上部に関して数十cm程度の細かい層を認定できるような高分解能のデータが得られた。 データ解析では、まず音響基盤となる洪積層より上位の沖積層を地震学的に3~5の堆積ユニットに区分した。OpendTectやPetrelを用いて海底面や各堆積ユニットの境界面をピックし、QGISを用いて、境界面の深度の差を取ることから各堆積ユニットの層厚分布を面的に得ることができ、各堆積ユニットの深度変化をマッピングすることができた。区分した堆積ユニットの年代の制約には過去に行われたボーリング調査の結果(たとえば七山ほか, 2000)を用いた。断面上で断層を確認した位置もマッピングを行った。大阪湾断層帯以外の顕著な変形構造として、岩淵ほか(2000)で津名沖断層として記載されている活断層の近傍に撓曲構造を確認した。この撓曲構造は表層付近まで変位が確認できることから、最近まで活動していたことが考えられ、今後活動履歴を詳細に考察する必要がある。本発表では、これらの堆積ユニットの層厚分布を面的に示して、大阪湾における過去の海底面や堆積環境の復元や断層活動との関連を議論する予定である。引用文献:岩淵ほか(1995)大阪湾西部の活断層, 海洋調査技術, 7, 11-19岩淵ほか(2000)反射法音波探査に基づく大阪湾の基盤と活構造, 水路部研究報告, 36, 1-23河田ほか(2005)大阪湾臨海都市域の津波脆弱性と防災対策効果の評価, 海岸工学論文集, 52, 1276-1280七山ほか(2000)大阪湾断層及び和田岬断層の完新世活動性調査, 平成11年度活断層・古地震研究調査概要報告書, 179-193

  • 野々垣 進, 根本 達也, 升本 眞二
    セッションID: T16-O-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    地下浅部における詳細な地質構造を把握することは,地盤リスク評価やハザードマップ作成,インフラ整備などを効率的・効果的に実施するうえで重要である.露頭を観察できる場所が限られる都市部では,浅部地質構造を解明するにあたり,ボーリングデータにおける地層の対比結果を用いた3次元地質モデル作成が実施されることが多い(納谷ほか,2021など).この場合,3次元地質モデルの品質は地層対比の精度や対比データの数に大きく依存するが,正確な地層対比を多数のボーリングデータに実施するには,経験豊富な研究者・技術者であっても膨大な時間を要する.他方,近年都市部を中心として公共工事で作成されたボーリングデータが,国や自治体などから機械処理に適したXML形式(国交省,2016)で積極的に公開されており[URL1,URL2],これらのボーリングデータを3次元地質モデル作成に利用できれば,都市部の浅部地質構造解析の高精度化につながると期待できる. 本研究では,都市部のボーリングデータの地層対比を安定した精度でかつ迅速に行う技術の開発を目的として,ボーリングデータに記録される地盤の特徴量から機械学習を利用して地層対比を行う手法について検討する.本発表では,その一環として行った地層対比に有効な特徴量の検討結果について報告する. ボーリングデータの地層対比処理は,地盤の特徴量を入力データ,地層名ラベルを出力データとする教師あり学習の分類問題と考えられる(野々垣ほか,2021).地層対比に有効な特徴量の検討では,この考えを踏襲したうえで,ボーリングデータから抽出する地盤の特徴量の組み合わせを変えながら,特徴量をもとに地層名を予測する機械学習モデル(地層対比モデル)を作成し,各組合せによる地層対比モデルの予測精度を比較した.検討対象とした地盤の特徴量は,標高,岩石・土質,標準貫入試験結果(N値),色調の計4種類である.このうち岩石・土質については,「シルト質細砂」のように複合的な形でボーリングデータに記録されていることから,主たる岩石・土質の種類と混合物の含有率という形に置き換えて利用した.色調についても,コードや数値ではなく日本語の文字列として記録されていることから,色相,彩度,明度という形に置き換えて利用した.地層対比モデルを作るためのテストデータには,納谷ほか(2018)で利用された千葉市周辺のボーリングデータ1,654本とそれらに関する地層の対比データから得た,特徴量および地層名ラベルのデータセットを用いた.また,地層対比モデルを作成するための機械学習アルゴリズムには,野々垣ほか(2021)が提案した5層から構成されるニューラルネットワークを用い,Hold-out法と交差検証を用いてモデルを評価した. 特徴量4種類(標高,岩石・土質,N値,色調)の組み合わせを変えながら地層対比モデルを作成した結果,単一の特徴量で機械学習を行う場合の予測精度は,標高(73.0%),N値(67.9%),岩石・土質(64.7%),色調(56.2%)であった.また,検討した全組み合わせのうち,最も予測精度が高い組み合わせは4種類すべての特徴量を用いたケース(88.3%)であった.標高が他の特徴量と比べて有効に働いた理由としては,ボーリングデータ取得地域の地下浅部では比較的緩やかな傾斜で地層が分布していることが考えられる.また,色調の働きが小さい理由としては,そもそも地層とその色調には強い相関性がないことに加え,文字列の色調から色相,彩度,明度という数値情報への変換が不十分であることが考えられる. ここでは,ボーリングデータに記録されている4種類の地盤の特徴量を対象に,機械学習を用いた地層対比における有効性について検討した.ボーリングデータには今回扱った特徴量のほかにも,地層対比に有効と考えられる情報が含まれている.今後はそのような情報の利用を検討するとともに,特徴量を効果的に利用できる機械学習アルゴリズムを検討する必要がある.本研究はJSPS科研費22K03745の助成を受けたものである.文献国土交通省,2016,地質・土質調査成果電子納品要領.50p.納谷ほか,2018,都市域の地質地盤図「千葉県北部地域」説明書.55p.納谷ほか,2021,都市域の地質地盤図「東京都区部」説明書.82p.野々垣ほか,2021,日本地質学会第128年学術大会講演要旨.[URL1] 国土地盤情報データベース 一般公開,https://publicweb.ngic.or.jp/public/publicweb.php.[URL2] KuniJiban,https://www.kunijiban.pwri.go.jp/jp/index.html.

  • 北村 晃寿
    セッションID: T16-O-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    2021年7月3日に,静岡県熱海市伊豆山地区の逢初川源頭部にあった盛土の崩壊で土石流が発生し,死者28人,全・半壊家屋64棟の被害をもたらした.崩落した盛土の体積は約55,500 m3と推定されている.盛土は,2009年6月期前の盛土層,褐色盛土層,黒色盛土層の順に重なり,褐色盛土層よりも黒色盛土層のほうが低所にある(木村,2021, 深田地質研究所年報,22,185–202).未崩落の黒色盛土層と土石流堆積物の分析から,崩壊した部分は主に黒色盛土層であることが判明したので,盛土崩壊の原因の検討には,黒色盛土層の組成と構造の復元が最重要となる(北村ほか,静大地研報, 49, 97–104). 黒色盛土層は非常に不淘汰な堆積物で,人工物(神奈川県二宮町指定ごみ袋など),現世と完新世の沿岸性貝類(北村, 2022,第四紀研究,61, 109–117),放散虫化石を含むチャート岩片(北村ほか, 静大地研報, 49, 73–86),鮮新世末期―前期更新世の海成層由来の軟質泥岩礫(北村ほか, 第四紀研究, 61, 143-155)を含む.1950年代以降の核実験や原子力発電所の事故で大気中に放出された137Csを含み,泥質物の全硫黄濃度は0.06-0.4 %である(北村ほか, 静大地研報, 50, 39–63).含泥率は10-35%で,砂サイズの粒子組成は,石英,長石,輝石を主とする(北村ほか, 静大地研報, 49, 73–86). 構造的には,未崩落の黒色盛土層から複数枚の淘汰の良い砂層(層厚<19 cm)が発見されたので,黒色盛土層内にも同様の高透水性層があった可能性が高い(北村・山下, 静大地研報, 50, 1–6).静岡県(2022, 第4回逢初川土石流の発生原因調査検証委員会)が報告した2019年の盛土最下端の複数の小崩落地形は,空洞の存在を示し,これは高透水性層に斜面地中水が集中し,部分的にパイプなどの空洞が形成されたものと推定される. 以上のことから,盛土の崩壊過程は次のように推定される.2012年頃までに盛土は崩壊前の規模になっており,その後の10年間に,盛土内に空洞が形成され,盛土内への地下水・地表水の供給速度が増加していった.そして,2021年7月1~3日の豪雨で,高透水性層に地下水が集中し,排水システムの許容量超過による間隙水圧の上昇で盛土の最下端が崩壊し,第0波の土石流が発生した.この盛土崩壊で高透水性層が遮断され,新たな間隙水圧上昇が起き,再び盛土崩壊で土石流が発生することが繰り返した.

  • 栗本 史雄
    セッションID: T16-O-11
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    地質地盤情報は、防災・減災、国土開発、インフラ整備、産業振興、資源開発、環境保全を支える国土の基本情報であり、国民生活にとって欠くことができない情報である。特にボーリングデータは地下を直接掘削して取得する貴重な情報であると言える。近年、人口が密集する都市部や産業拠点の埋立地などにおいて地質地盤に起因する液状化・強震動・陥没などの災害や事故が発生している。地質地盤情報は住民の安全や地域の発展、インフラ整備の観点から必要不可欠のものである。 「地質地盤情報の活用と法整備を考える会」(以下、本会と記す)は2016年4月の設立以来、地質地盤情報の活用によって国民の安全・安心を図ることを目標にして社会の仕組み作りや法整備の提案を行っている(https://www.geo-houseibi.jp)。本講演では地質地盤情報に関する現状を概観し、地質地盤情報の重要性と法整備の必要性を述べる。地質地盤に起因する災害や事故をなくし安全を確保するためには、地下の地質や地盤に関するすべての情報を活用する必要がある。ボーリングデータを例にとると、国や地方自治体等が所有する公的データ、建築申請などに利用される民間データ、研究のために取得したデータなどがあり、わが国には膨大な情報が蓄積されている。データの多くはデータベースとして整備されているが、地方自治体ではそれぞれの事情もありデータベース化の進捗には差がある。一方、個人や企業等が掘削して取得した民間データは体系的に整備されておらず、廃棄や消失の恐れがある。また、ボーリングデータそのものには著作権はないが、民間データには所有権がある。そのため、国や地方自治体が民間データを強制的に収集することはできず、許可なく公開することもできない。現状ではすべてのボーリングデータが整備されて、適切に管理され、十分に活用されているとは言い難い。 ボーリングデータをはじめとして地下の地質地盤に関するすべての情報を活用するには、地質地盤情報が国民の資産であり共有財産であるという認識を持つことが肝要である。つまり、地質地盤情報を収集しデータベース化し、国民が地質地盤情報を適切に活用できる仕組みを整えることは国や地方公共団体等の責務であり、学会や研究機関等も連携してこの責務を負うべきである。一方、国民がこれらのデータを国や地方公共団体等に要求し、安全・安心な生活を享受することは国民の権利であるといえる。 地質地盤情報を活用した安全・安心な社会の実現には、すべての地質地盤情報のデータベースが必要であり、いわゆる「地質地盤情報の電子図書館」の構築が喫緊の課題である。公的データ・民間データを問わず、すべての地質地盤情報をアーカイブするためには、これまでのデータ整備をさらに促進する法的な指針が必須であり、法整備を行うことが有効な方策であると考える。 本会は、これまで講演やワークショップ等を通じて地質地盤情報の重要性を主張するとともに、関係部署等に対して法整備を働きかけてきた。また、地質地盤情報の活用拡大のため不動産に関する検討も行ってきた。この間の重要な社会の動向を挙げると、2017年の国交省審議会答申で「国は法制化も含めて具体的な措置を早急に講じるとともに、地盤情報の収集・共有化を図り、必要な情報について広く公開することなどが急務である」と明記されたことである。この答申を受けて設立された(一財)国土地盤情報センターは、地盤情報を国土形成の基盤となる国土情報と位置づけ、地盤情報の管理運営を行っている。現状では国、地方自治体、事業体、研究機関などが地質地盤情報の整備と活用を進めているが、すべての地質地盤情報をアーカイブして、それらの情報を共有できる状況には至っておらず、今後さらに進捗を図る必要がある。本会は引き続き、地質地盤情報の活用とその推進のための法整備を目標に、①地質地盤情報利活用の事例と有効性の検証、②データアーカイブの動向把握、③HPによる広報活動、④学会等での公表およびワークショップ開催、⑥関係部署等への法整備の働きかけ、などの活動を継続していく。

  • 【ハイライト講演】
    竹村 恵ニ
    セッションID: T16-O-12
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    はじめに  人類が集中して住んでいる領域である都市とどう向き合うかは、社会的課題であるとともに重要な地質学的課題である。文明の発達とともに、都市は大きく変化を遂げ、大きな負荷を大地に与え、都市の時空間的変遷をともない、世界各地で展開されてきた。それらが展開されてきた場所・大地の特徴(地形・地質など)は、その時代の人類がめざす大地利用の効率化や大規模化など、多くの地質学的課題を生じている。今回は、中緯度での変動帯である日本を例にして、都市領域における大地利用の事例等を紹介し、都市と地質学が持つ関連課題を整理する。日本における都市の地形・地質  世界には広い範囲での大都市圏が存在しており、また多様なサイズの都市圏の分布が人口集中域として認識される。それらの都市圏は、文明の変遷や地域的環境と相まって多様な地形や地質で発展している。 都市の発達には、人口の集中と、そのためのインフラ整備と安全な環境の展開が要請され、経済効率性や交通利便性なども要求され、大地への人工的負荷の増大が必然的に生じる。その際の社会的課題が都市域における地質学的課題として浮かび上がってくる。日本の場合は、山地が7割を超える島国で、中緯度における都市圏の形成と維持が課題であり、海に面した低平地や盆地での都市発達が展開され、沖積平野や第四紀層は日本における重要な地質・地形として認識される。本の都市における地質学と関連学問の融合課題  都市における大地の利用に関しては、2つの大きな方向性がある。一つは対象からの学問課題であり、社会的要請や関心の高い事象への地質学課題の存在である。二つ目は地域の課題からの学問的課題で、地域的関心が高い事象への地質学的課題である。それらの課題への対応のためには、地質学だけでなく、関連学問との融合が大事な方向性になる。具体的には、地質学と工学(土木工学、地盤工学、地震工学、建設工学など)との関連、地質学と環境(学)に関する多様性と社会との関連、地質学と災害に関しての災害環境や開発などの関連、地質学と情報(学)に関するデジタル化や情報伝達などが挙げられる。 都市地質学における工学関連の課題として関西国際空港の例を、講演では紹介する。大阪湾の泉州沖約5kmに建設された関西国際空港は、1994年に本格的な海上空港として開港した。騒音問題を極力抑えるために大阪湾の沖合を建設場所とし、大水深、軟弱地盤という自然条件、大量の土砂の使用と短期間での空港島建設の困難な課題が存在した。滑走路に凹凸などを生じさせない空港機能維持がもっとも重要であり、埋め立て段階から綿密な工事管理を必要とした。この中で、埋め立て地の地下地層の詳細コア間対比や堆積学的視点に基づく水理学的・地盤工学的課題への情報提示、埋め立て時以降の地盤変状モニタリング等など地質学は大きな役割を担った。 都市地質学と環境関連では、生活空間領域の環境の多様性と変遷が重要な対象である。海岸環境と埋め立てによる生活域拡大、都市域や都市周辺からの流入物の性質なども課題となる。新たな地形環境の形成や人工的な生成物を含んだ新しい地層(地質体)形成は都市地質学にとって重要な視点である。 都市地質学と災害関連の課題は、災害環境や地形と開発など多様な課題があり、講演では都市域の活断層の地質学に関して紹介する。特に、平成17年以降の「活断層で発生する地震を対象とした重点的調査観測」では、日本における都市圏の活断層に関する多くの情報が集積されてきた。日本の都市は、第四紀堆積盆地が海岸に面した場所で発達し、山地・丘陵と盆地や平野の境界や内部で地震を発生させる活断層の研究は都市域の安全の重要な課題として認識される。活断層に関わる災害等の防災・減災は、地下深部で生成する地震の都市周辺の地表で生きる社会への影響があり、災害に関する誘因・自然素因・社会素因の複合要素の課題で、1995年以降進められてきた地震や活断層調査から得られる都市域での活断層の性状や活動性、地震動の情報に基づく被害想定などの防災対応への貢献は都市地質学の課題のひとつである。 都市地質学と情報(学)の関連では、地盤等のボーリング情報等から「上からの層序」としての認識が重要となる。情報のデータベース化と質の維持が模索され、都市圏での大地利用のための基礎データとしての価値を含め、均質に集約された地質情報のデジタル化や情報伝達方法のありかた、今後のAIの利活用等の課題に対応できる方向性を都市地質学は有する。

  • 太田 泰弘
    セッションID: T16-O-13
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    平尾石灰岩は,平尾台(福岡県)のカルスト台地を形成し,ペルム紀の付加体である秋吉帯を代表する大型石灰岩体の1つである.この石灰岩体は,苅田・平尾台・香春岳・船尾山の大きな石灰岩露出に対し提案された平尾石灰岩層(松本,1951)とされ,その後,船尾山石灰岩が区分された平尾台石灰岩として取り扱われている(例えば,松本ほか,1962など). 粗粒の結晶質石灰岩からなる平尾台上の石灰岩体は溶食を被り,全体として被覆カルストのような光景を呈すが,北東部の北平尾台は石灰岩の露出が良く,半裸出のカルスト景観が見て取れ,わが国の自然を記念するものとして国の天然記念物に指定されている(昭和27年11月22日;管理団体北九州市).また自然公園法に基づき,北九州国定公園(昭和47年10月16日)の特別保護区などに指定され自然環境の保全も行われている.加えて平尾台は,保護ゾーン(保護地域),バッファゾーン(緩衝地域),産業ゾーン(産業地域)に分けられ,住民(市民)・行政・企業らによる事前の合意形成に基づくグランドワーク活動が行われている.歴史的に顧みると,カルスト景観の保護と鉱業開発の両義が相反する中で「景観の保護と鉱業による開発に関する初の調整」が行われた地としても知られている(国立公園協会,1955). 現在,自然の保護と利活用に関する望ましい連鎖(“好循環”)を促進するため,利活用の側面の強化が図られている(例えば,自然公園法の一部を改正する法律(令和3年法律第29号)など).自然の適切な利用と保護を実現するため改めて自然の成り立ちや仕組みなどを問い直す必要性が生じている. これらのことから筆者は,平尾台の地質,取分け,露出する石灰岩露頭(石灰岩の凸部)が平尾台の景観形成や自然環境に果たす役割について調査・研究を進めている(例えば,太田,2022). 今回,保護地域内の石灰岩露出が顕著な北東部(北平尾台:“羊群台”の“羊群原”地域)の石灰岩露頭の露出状況を把握すべく,地表踏査に加えて,地図解析〔GISソフト地図太郎を用いた国土地理院・地理院地図及び同院の空中写真(2009年度版)の重ね合わせ図,並びにそれらに加工・編集をほどこした図等の二次元的観察〕を行った.またその露出状況を広域的に把握するためGoogle Earthなどの画像を活用するなどして検討を試みた その結果,野焼き直前と直後では,石灰岩露頭の露出状況が明らかに異なり,景観(“二次的自然景観”)も大きな違いが見られることが確認された.野焼き直後は石灰岩の露出が極めて良く,露頭の輪郭もチャープに捉えることができ,その景観は,直前のカルスト草原とは異質な“荒石原”(佐藤,1928)の相貌を呈していた.これは当地域に分布するネザサーススキ群集が焼かれ,本来の石灰岩露頭が露呈したことに起因すると考えられる.一般に,当地域の景観は,“羊群原”や“羊群台”の名の通り,中生代の火成活動で再結晶化した丸みを帯びた石灰岩が,あたかも羊が群れをなすように草原中に“孤立”した状態で露出・点在しているような印象がもたれる.しかしこの度の調査から,俯瞰的に見ると,概ね北西―南東方向の傾向を有す長軸方向の延びを持った石灰岩露頭の露出が,本地域の景観形成の基盤となっていることがわかってきた. 平尾台では,地質の違い,つまり石灰岩がもたらす平滑な地形と非石灰岩が作り出す急峻な地形の違いが大きな景観の違いを生みだしている.また北東―南西方向の断層やドリーネ分布に加えて同方向の火成岩脈の貫入が少なからず景観形成に影響を与えている.本調査では,北西-南東傾向の連亘する丸味を帯びた石灰岩露頭が,植物の生育や生活環(野焼きの影響を含め)とともに,平尾台の景観形成に重要な役割を担っていることが確認され,景観形成における重要な地質学的要因であることがわかってきた. 平尾台の自然景観は,野焼きの実施など四季の変化が大きく,通年での自然観測が必要である.また利活用の促進に伴う影響を含め,自然環境の経年変化や景観形成において重要な役割を担う地質について,さらなる研究が求められる. 引用文献 国立公園協会,1955,日本自然保護協会事業概況報告(第1輯),143p.;松本達郎,1951,北九州・西中國の墓盤地質構造概説.九州大学理学部研究報告.地質学之部,3(2),37–48.;松本達郎・野田光男・宮久三千年,1962,九州地方,日本地質誌.坂倉書店,423p.;太田泰弘,2002,福岡県平尾台に露出する石灰岩露頭(凸部)の傾向と呼称について(予察的研究). 日本地質学会西日本支部 令和4年度総会・第173回例会(島根大学),O–16.;佐藤傳蔵,1928,秋吉臺のカルスト(石灰岩景観)(其一).地質学雑誌,40(9),532–542.

  • 【ハイライト講演】
    田村 嘉之
    セッションID: T16-O-14
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    はじめに田村(2022)では、産業廃棄物最終処分場の設置に係る法律、省令及び要綱にある地質に関係する立地環境等としては、急傾斜地崩壊危険区域、砂防指定地、地すべり防止区域を含まない等の項目があるが、地下水などの水環境については、「廃棄物処理施設生活環境影響調査指針」で評価するが、立地基準とはなっていないことを述べた。また、地下水に関しては、君津市等の「水道水源保護条例」では、対象となる事業としてゴルフ場、最終処分場等を対象とし、排水基準による規制のみで、立地規制とはなっていないことなど、千葉県内の産業廃棄物最終処分場を取り巻く地質環境の概況、地質災害との関連性及び埋立地の維持管理上で発生している問題点について述べた。一方、梅雨期や台風による各種災害が全国で毎年発生している。それらの災害では、生活に欠かせない電気、ガス及び水道のほか、交通遮断など、生活や産業に必要不可欠な社会インフラがたびたび被害を引き起こす。本発表では、社会インフラとしてみた場合の産業廃棄物最終処分場を取り巻く地質環境、その問題点について述べる。概況田村(2022)でも示したが、千葉県における産業廃棄物最終処分場は、Fig.1に示したように9箇所ある。安定型、管理型の設置位置は、人口密集地である千葉県の東京湾岸、東葛飾でなく、房総半島の南側に集中している。このうち、管理型処分場の立地している地質環境について、田村(2022)に記載した内容のほか、社会インフラのうち道路の状況を加えて以下に示す。管理型1地形:標高215m前後の上総丘陵及び南北方向に延びる谷地形。処分場の北側隣接地に地すべり地形がある。地質:上総層群黄和田層。地質構造は概ね北西へ20~10度傾斜している単斜構造。処分場北西側と東側には向斜軸、また北西側向斜軸の北側に低角な断層がある。社会インフラ:埋立地から高規格道路(高速道路)までの経路は、約1kmの私道、約3kmの県道、そして約4kmの国道を通行することとなる。経路上には、斜面崩壊地形、急傾斜地が点在している。管理型2地形:標高90m前後の上総丘陵及び南北方向に延びる谷地形。処分場付近に地すべり地形、急傾斜地の区域はない。地質:上総層群梅ヶ瀬層。地質構造は概ね北西へ約12度傾斜している単斜構造。社会インフラ:埋立地から高規格道路(高速道路)までの経路は、約5kmの市道、約4kmの県道、そして約26kmの国道を通行することとなる。経路上には、斜面崩壊地形、急傾斜地が点在している。特に市道部分は尾根上にあり、道路の両側が急傾斜地形となっている箇所が存在している。管理型3地形:標高58m前後の埋立地。もとは南側に開いた谷地形である。処分場南側には海食崖がある。地質:下総層群香取層、犬吠層群名洗層、飯岡層。地質構造は、北西方向へ緩く傾斜している単斜構造で、上位の香取層とは不整合関係にある。社会インフラ:埋立地から高規格道路(高速道路)までの経路は、約0.5kmの市道、そして約30kmの国道を通行することとなる。国道沿いに急傾斜地が点在している。管理型4地形:東京湾岸部の標高1m前後の埋立地。地質:人工地層。震度5強の地震で処分場のほとんどの場所で液状化として“ややしやすい”と予測されている。社会インフラ:埋立地から高規格道路(高速道路)までの経路は、約2kmの市道、約3kmの県道、そして約3kmの国道を通行することとなる。経路となる道路付近には斜面崩壊地形や急傾斜地は存在しないが、全区間にわたって埋立地を通行している。管理型処分場周辺の社会インフラに係る地質環境評価の必要性について田村(2022)でも述べたが、現在、千葉県で稼働している管理型最終処分場の管理型1及び管理型2では、高濃度の塩化物イオンがモニタリング井戸で検出され、それぞれ対策を講じている。房総半島では、令和元年9月の台風15号により、電力消失、道路の寸断が多数発生した。管理型2でも一時的に電力消失が発生し、処分場から発生した浸出水の処理ができなくなっていた。なお、その時の災害では道路の寸断は発生していなかった。しかし、過去には、管理型2に至る経路である市道の一部では、斜面崩壊による通行の障害がたびたび発生している状況であった。このことは、社会インフラが斜面崩壊、土石流や津波などの地質災害により、一時的もしくは長期にわたり利用できない状況となる可能性を示唆している。したがって、管理型最終処分場の立地条件として、社会インフラからみた地質災害のリスクを評価する必要がある。引用文献田村嘉之,2022, 産業廃棄物最終処分場の立地条件としての地下水盆管理と水循環について.日本地質学会第129年学術大会講演要旨,G3-O-5.

  • 藤崎 克博, 古野 邦雄
    セッションID: T16-O-15
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    第10回国際地盤沈下シンポジウムTISOLS(Tenth International Symposium On Land Subsidence)が4月17日から21日にオランダ国デルフト(Delft)市で開催された。このシンポジウムは、ユネスコ地盤沈下部会(LaSII:UNESCO Land Subsidence International Initiative)が主催し,デルフト工科大学(Delft University of Technology)などが共催したものである.この国際シンポジウムはほぼ5年ごとに開催され,前回は2015年に名古屋で開催されている.本来は2020年に開催されるはずでプロシーディングも作成されていたが,新型コロナの感染拡大のため本年に延期されたものである.プログラムは初日・3日目・4日目に講演,2日目に3コースに分かれた巡検が行われ,最終日にゴーダ(Gouda)市で科学者と政策決定者の対話集会が開催された.参加者は20ヵ国・地域170名近くに上った.講演は口頭発表が基調講演3題を含めて83題,ポスター発表は47題あった.計測とモニタリング・計測と防止対策・モデリング・災害とその影響・メカニズム解析の5つのセッションに分かれて発表が行われた.口頭・ポスター発表の国別では,開催国のオランダが42題と最も多く,米国15題,中国12題,イタリア9題,メキシコ8題,台湾7題,日本・インドネシア5題の順となっている.オランダは国土の半分が低平な泥炭地で,そのかなりの部分が海面下にある.このため,泥炭の酸化分解による沈下が,それによる温暖化ガスの発生とともに重大な関心事となっている.発表もこれに関連するものが多く,酸化分解を防ぐ対策として排水路の水位を高く保つことが有効であると報告があった.米国は,メキシコ湾岸の沈下が沈静化したものの,カルフォルニアで沈下が続いている.中国・イタリアでは沈下が収まってきているが,メキシコ・台湾・インドネシアでは深刻な沈下が継続している.一方,これまで地盤沈下の報告がなかったアフリカのガーナ・ナイジェリア,中近東のUAE,アジアのバングラディシュ・ベトナムからの発表があった.経済発展にともなう水需要の増加による地下水開発が地盤沈下を招いており,かつて日本がたどった道を彷彿させるものがある.巡検は,1.オランダ西部の沈下している平野,2.洪水対策の堰堤や排水設備,3.フレヴォランド州の新しい干拓地見学に分かれて行われた.筆者(藤崎)はコース1に参加して,旧泥炭掘削であった自然保護区,泥炭地の地盤沈下対策を実施している実験農場,沈下量の大きい集落の見学を行った.筆者(古野)はコース3に参加した.再野生化実験地であるオーストファールダースブラッセン自然保護区,地下水・地表水の管理を担うゾイデルゼーラント水管理委員会,ユネスコ世界遺産である旧スコックランド島を見学した.最終日の対話集会が開催されたゴーダ市はオランダの中でも沈下が激しい都市である.オランダと世界(ヒューストン・上海・ベニスの例が紹介された)の経験を交換して,よりよい対策・政策を考えることを目的としている.なお,2020年のプロシーディングはLaSIIのホームページ(www.landsubsidence-unesco.org)からダウンロードすることができる.また,第11回のシンポジウムは2026年に台湾での開催が予定されている.

  • 香川 淳, 古野 邦雄
    セッションID: T16-O-16
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    はじめに 千葉県では,地盤沈下対策や地下水資源の監視を目的として154本の観測井を設置している(2023年現在).このうち地下水質測定のために年一回程度採水される一部の観測井を除き,孔内地下水は滞留した状態にある.このため観測井孔内の地下水温度は,井戸管周囲の地温と管内上下からの対流・温度伝播等の平衡状態を示していると考えられる(古野ほか,2009).この観測井の孔内水について,2007年より鉛直方向の地下水温度測定を継続しているが,浅層部(深度100m以浅)で温度上昇の傾向が明瞭に認められる(香川ほか,2018)ことから,浅層部の地下水温変動について時系列に沿って検討した. 地下水温度検層の概要 地下水温の観測にあたっては,立山理化学(株)製の外部導線付きサーミスタ温度計(分解能0.01℃)を使用し,深度1m毎の値を記録した.得られた温度データについては,標準温度計との差から作成された校正表より補正計算し温度補正を行った.また一部の観測井に設置されている水位計(Onset社製 HOBO Water Level Logger)には,温度センサ(分解能0.097℃)が搭載されており,この記録も参考値とした. 千葉市美浜区稲毛海岸における浅層部地下水温変動 遠浅の海岸に埋立造成された稲毛海岸は現在,都市近郊の住宅地になっている.ここに設置された「WING-1」(井戸深度41m,スクリーン深度31~39m)は, 人工地層(管頭下0~5m),沖積層(5~31m), 更新統(31~41m)を貫いている.「WING-1」の地下水位は,潮汐の影響を受けた5cm程の日変動が観測されるが,年間を通じての顕著な季節変動は認められない.この「WING-1」では,2007年より孔内水の深度別温度検層を継続的に実施している.温度分布の傾向としては,地下水面より管頭-12mまでの深度では地上気温の影響を受けた変動が大きく,年間で10℃以上の季節変動が認められる.管頭-13~-14m以深では季節変動は微少になり,深度方向に温度は低下,井戸底では約16.1℃でほぼ安定している.この温度プロファイルについて経年的な温度変化を4月値で比較した(図).各年とも管頭-12~-13mは深度方向に地下水温が上昇し,管頭-13~-14mを過ぎると温度低下に反転,井戸底まで低下する傾向は変わらない.このうち最大温度を示す管頭-12~-13m付近の水温を比較すると,2010年4月~2023年4月の13年間で約+0.8℃の上昇が確認できる.一方,千葉測候所における2009~2022年にかけての年平均気温の変化は+0.4℃を示す(気象庁HP). 旭市倉橋における浅層部地下水温変動  下総台地の東端にあたる旭市倉橋地区は,台地上に広がる畑地に畜舎が点在し,台地間の谷津には水田や耕作放棄地が分布する農作地帯となっている.この倉橋地区には地下水位観測井や湧水調査用の簡易観測井が設置されており,温度センサを備えた自記水位計により連続観測されている.このうち「倉橋-1」(井戸深度22m,スクリーン深度17.5~21.5m)の孔内に設置された水位計(管頭深度約-17m)の温度記録によると,2008~2022年の15年間に約+0.86℃の上昇が認められた.これは銚子気象台における同期間の年平均気温の上昇量+0.8℃(気象庁HP)と調和的である. まとめ  千葉県内における観測井の,特に浅層部で経年的に孔内地下水温が上昇していることが認められた.これは気温の上昇傾向と調和的であると推察される. 近年,脱炭素の見地から大都市において地下熱利用が広まりつつあるが,地下水温の現況調査や今後の影響予測についてはまだ不十分と感じる.今後,地下水盆管理の視点を取り入れた地下水温モニタリングを検討していく必要があるだろう. 引用文献古野邦雄・香川 淳・酒井 豊・風岡 修・吉田 剛・楠田 隆 ,2009,千葉県観測井における孔内地下水の温度.第19回環境地質学シンポジウム論文集,159-162.香川 淳・堤 克裕・荻津 達・古野邦雄:観測井孔内地下水温度から推定される層相や井戸構造,2018,日本地質学会第125年学術大会講演要旨集.気象庁,過去の気象データ検索(www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php).

  • 小島 隆宏, 風岡 修, 中澤 努, 吉田 剛
    セッションID: T16-O-17
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    千葉県の東京湾岸地域(以下,千葉県湾岸地域とする)の低地には最終氷期以降に形成された沖積層が分布する.一般に沖積層は含水率が高く軟弱であるため,地震動の増幅やそれに伴う液状化の被害を生じたり,地下水の汲み上げによって地盤沈下を引き起こすことがある.このため,沖積層の分布を詳細に把握することは,このような地質災害の予測や対策において重要である.これまで千葉県湾岸地域の北部では,沖積層の層序や基底分布の詳細が明らかにされてきた(たとえば,潮崎, 2017; 風岡ほか, 2018).一方,千葉県湾岸地域の東部においては,研究は十分ではなく,とくに標準貫入試験等のボーリングデータの層序の基準となるオールコアボーリング調査の数は乏しい状況である.そこで本研究では,養老川下流域の低地および埋立地において,2本のオールコアボーリングを実施し沖積層の層序を調査した.また,公共工事等により得られた既存ボーリング資料を用いて,周辺の沖積層の基底分布について検討した. オールコアボーリングは,千葉県市原市町田の熊野神社(GS-IH-1)において深度35 mまで,養老川臨海公園(GS-IH-2)において深度50 mまで行われた.これらの掘削地点では過去の地震時に被害を受けており,市原市町田では1923年大正関東地震時に家屋の倒壊や地面の亀裂・陥没等(地質調査所, 1925)が,養老川臨海公園では1987年千葉県東方沖地震時に液状化よる噴砂(古藤田・若松, 1988)が確認されている.得られたオールコア試料について,東邦化学工業株式会社製のハイセルSAC-100を用いて剥ぎ取りを行い,層相を観察した.また,コアに含まれる貝化石と有機物の放射性年代測定を行った.さらに,ボーリング孔ではPS検層や密度検層等を実施した. オールコアの柱状図と層相による区分は図に示すとおりである.以下に両コアの概要を述べる.【GS-IH-1】沖積層基底は深度31.44 m(標高-26.3 m)にあり,下位の更新統は貝殻を多く含む中粒砂を主体とする.沖積層は下位より,砂礫層とシルト層の互層からなるユニット1,泥炭を主体とするユニット2,泥層を主体とするユニット3,生物擾乱が発達した砂質シルトおよびシルト質砂を主体とするユニット4,砂層と砂礫層を主体とするユニット5に区分される.地表から深度0.13 mまでは盛土からなる.【GS-IH-2】沖積層基底は深度22.24 m(標高-19.3 m)にあり,下位の更新統は厚い泥がち砂泥互層からなる.沖積層は下位より,砂礫層を主体とするユニットA,貝殻を含むシルト層を主体とするユニットB,砂泥互層からなるユニットC,細〜中粒砂を主体とするユニットDに区分される.沖積層は埋立層に覆われ,両者の境界は深度約5 m(標高約-2 m)付近にあると考えられる. これらのオールコアを基準とし,既存ボーリング資料から沖積層基底の深度分布を調べたところ,沖積層基底は千種海岸で最も深く標高-40 m以深にあり,そこから東南東方向に伸びる埋没谷が認められた.講演では,本研究地域の沖積層基底分布の概略を示す予定である. 引用文献地質調査所, 1925, 関東地震調査報告 第二, 地質調査所特別報告, 185 p.風岡 修・小松原純子・宮地良典・潮﨑翔一・香川 淳・ 吉田 剛・加藤晶子・中澤 努, 2018, 第5章 沖積層及び人工地層, 都市域の地質地盤図「千葉県北部地域」(説明書), 産総研地質調査総合センター, 25–34.古藤田喜久雄・若松加寿江, 1988, 千葉県東方沖地震による液状化現象とその被害, vol. 36, 19–24.潮崎翔一, 2017, 千葉県北西部東京湾岸低地の沖積層基底面図の作成, 千葉県環境研究センター年報 研究報告.

  • 風岡 修, 小島 隆宏
    セッションID: T16-O-18
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    はじめに: 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の際,東京湾岸埋立地北部では地盤の沈下や噴砂・噴水を伴う液状化-流動化現象が斑状に多数発生した(千葉県環境研究センター,2011).浦安市高洲9丁目の平坦地の一部では沈下を伴う噴砂が広くみられ,この噴砂の一部の上には本震の約30分後に発生した最大余震によるものと思われる新たな噴砂が空中写真から読み取れた.この新たな噴砂部分近傍(以下「B-1」という.)と,ここから約24m離れた噴砂がみられない場所(以下「B-2」という.)にてオールコアボーリングを行った.また,ボーリング地点と噴砂にまたがる32m×48mの範囲で8m格子又は4m格子の交点にて動的コーン貫入試験を行った.本震での噴砂の分布範囲は2本のボーリングのほぼ中間付近まで達している.以下に調査結果を述べる.調査の概要: オールコアボーリングはB-1地点(北緯35度37分51秒,東経139度55分7秒,標高3.01m)では深度14mまで,B-2地点(北緯35度37分50秒,東経139度55分8秒,標高3.06m)では深度13mまで行った. 動的コーン貫入試験は,この周囲で斜面調査用簡易貫入試験機にて深度3~10mまで行った.地層構成: B-1では深度8.01m,B-2では深度8.23mに人自不整合があり,この上位は人工地層,下位は沖積層である. 沖積層は,人自不整合から下位約2.2mまでは生物擾乱構造がみられる良く締まった灰色の中粒砂層を主体とする.この下位は,灰色の中粒砂層と灰色ないし灰オリーブ色の泥層との互層である. 人工地層は,上位の盛土アソシエーションと下位の埋立アソシエーションから構成され,その境界は深度0.1~0.56mである. 埋立アソシエーションは,極細粒砂主体の下部バンドル(層厚0.6~3.8m),細粒砂~中粒砂主体で軟らかな泥層の礫(以下「泥礫」という.)や貝殻片をしばしば含み最上部に連続性の良い泥層を伴う中部バンドル(層厚1.4~4.5m),貝殻片や泥礫混じりの細粒砂~中粒砂層と細粒砂層との互層からなる上部バンドル(層厚2.2~2.8m)から構成される. 下部バンドルは,灰色のゆるい極細粒砂層を主体とし,砂層中の葉理の多くは消失している.中部バンドルは,下部(層厚0.8~2.2m)・中部(層厚1.6~2.5m)・上部(層厚0.3~0.5m)に分かれる.下部は泥礫や貝殻片混じりの灰色の中位の硬さの細粒砂~中粒砂層と灰色のゆるい細粒砂~中粒砂層との互層で,砂層中の葉理は消失している場合が多い.中部は灰色の非常にゆるい細粒砂層を主体とし,葉理は不明瞭ないしほぼ消失している.上部は灰色の非常にやわらかい粘土質なシルト層である.上部バンドルは,貝殻片や泥礫を含む灰色の中位の硬さの細粒砂~中粒砂層と細粒砂を主体とする灰色の非常にゆるい砂層との互層である.前者には葉理がみられ,後者の砂層では葉理が明瞭な場合が多いが下部に不明瞭ないし消失部分がみられる.最大余震時に噴砂がみられた付近では,非常にゆるい砂層が主体である.地下水面は本層中の深度約1mである. 盛土アソシエーションは,中粒砂~細礫混じり泥質細粒砂ないしシルト礫混じり泥質細粒砂から構成され,表層部は土壌化し硬さは極ゆるい~中位である.液状化-流動化に関して: 液状化-流動化の判定は,風岡ほか(1994)・風岡(2003)に基づき,初生的な堆積構造の状態より判断した.埋立アソシエーションの下部・中部バンドルの砂層の大部分,及び上部バンドルの一部の砂層は葉理が不明瞭ないし消失していることから,この多くが2011年の地震時に液状化-流動化したものと考えられる.中部バンドル上部の難透水層である連続性の良い泥層よりも下位では,調査地全域に著しい液状化-流動化がみられているが,地上での被害は一部に限られる.その被害位置はその難透水層の上位の上部バンドルの非常にゆるい砂層が主体となる部分にほぼ一致する.同様な現象は,千葉市美浜区磯辺地区でも確認されている(風岡ほか,2014).このように人工地層中に連続性の良い難透水層が挟まれている場合は,地上の被害はその難透水層の上位の人工地層の層相変化に影響を受けるものの,下位の液状化-流動化状況にはほとんど影響されないものと推定される.引用文献:千葉県環境研究センター,2011,千葉県環境研究センター報告,G-8, 3-1~3-25.風岡 修ほか,1994,日本地質学会第101年総会・討論会 講演要旨,125-126. 風岡 修,2003,液状化・流動化の地層断面.アーバンクボタ40号,5-13.風岡 修ほか,2014, 第24回環境地質学シンポジウム論文集,社会地質学会,9-14.

  • 髙嶋 洋, 張 池
    セッションID: T16-O-19
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    人工地層は人為の働きによって形成される地層と定義される(Nirei et al., 2012).人の地質体への働きかけにより,都市地質の主体は人工地層である.人工地層は、 陸域において形成される盛土アソシエーション(以下,盛土As)と水域だった土地の埋め立てで形成される埋立アソシエーションに区分される(楡井他,1995).都市域において盛土Asは,容易に地形改変が出来る利便性があり,多用されているが,時に堰き止め地形(髙嶋・吉富, 2021)を形成し,水循環に大きな影響を及ぼす場合がある.しかしながら,都市域において主要な地質体であるにも関わらず,地層の岩相や層序の解析が行われることはほとんどない.これは,盛土Asの特性として,開発の範囲や時期が個々に異なり,異なる盛土材が使用あるいは再利用されることにより,形成される盛土Asの岩相は極めて多様で、地層の連続性にも乏しい(Ford et al., 2014)ことが理由の一つと推定される.  一方,一般に盛土材は,運搬コストより,施工地近傍から入手されることが多い.同一の地質体が連続する地域では,こうした地質体由来の盛土材が使われる機会も多く,岩相的に自然地層類似の人工地層が分布することとなる.こうした地域では,人工地層の確認や人自不整合(楡井他, 1994)の認定が岩相的に大変難しくなるが,岩相による検証はほとんど行われていない. 鹿児島県霧島市は鹿児島地溝帯(露木, 1969)に位置し,市の中心市街地である国分地区は,国分平野の河川低地,並びに段丘面上に発達する.国分平野周辺には,姶良カルデラから噴出した入戸火砕流堆積物が厚く堆積し,広くシラス台地が形成されている(荒巻, 1969).シラスは掘削が容易で加工・運搬しやすいため,盛り土材として地域で広く利用され,周囲には土取り場もいくつか存在する.あわせて,入戸火砕流堆積物の下位に存在する岩戸火砕流堆積物の土取り場も存在し,概ね2種類の盛り土材が市中で使用されている可能性が高い.そこで,国分平野に形成された盛土Asの層序観察と試料採取を実施し,周辺土取り場から得られる地質試料の粒片観察による鉱物種の構成比や粒度組成を比較して,それぞれの地層体の特性を検討した.  国分地区の2か所で観察された人工地層と地域に存在する入戸火砕流堆積物及び岩戸火砕流堆積物から得られた鉱物粒子の観察した結果,人工地層と自然地層の鉱物種は極めて類似しており,斜長石,石英,斜方輝石,磁鉄鉱とほぼ同一の鉱物種で構成されることが判明した.また,火山ガラスの形態で区分した種構成も同様の結果であった.ただし,人工地層においては,異地性と考えられる黒雲母の付加が1か所で確認された.また,鉱物/火山灰数の比率を確認したところ,入戸火砕流堆積物と岩戸火砕流堆積物は異なる結果が得られたが,人工地層の鉱物/火山灰数量比は入戸火砕流堆積物の構成比に近い結果が得られた.一方,路盤材の砕石層から得られた鉱物粒子は,セメント由来と推定される物質に一部あるいは全部がコーティングされており,鉱物種の判別つかないものが大半であることが確認された.荒牧重雄, 1969, 鹿児島県国分地域の地質と火砕流堆積物,地質学雑誌. 75, 425-442.Ford, J. R., Price, S. J., Cooper, A. H. & Waters, C. N., 2014. An assessment of lithostratigraphy for anthropogenic deposits, A Stratigraphical Basis for the Anthropocene. Geological Society, London, Special Publications, 395, 55-89. 楡井 久,佐藤賢司, 鈴木喜計,古野邦雄, 1994, 環境における地質単元, 地質雑, 100, 425-435. 楡井 久, 鈴木喜計, 佐藤賢司, 古野邦雄, 1995, 地質環境における新しい単元の形成, URBAN KUBOTA 34, 2-9. Nirei, H., Furuno, K., Osamu, K., Marker, B. & Satkunas, J. 2012. Classification of man made strata for assessment of geopollution. Episodes, 35, 333-336. 露木利貞, 1969, 九州地方における温泉の地質学的研究(第5報) ,鹿児島大学理学部紀要, 85-101. 髙嶋 洋・吉冨邑弥, 2021, 人工地層による堰き止め地形, 第31回社会地質学シンポジウム論文集,59-62. 上野龍之, 2001, 火山灰粒子組成の側方・垂直変化から見た入戸火砕流の堆積機構, 火山, 46, 257-268.

  • 唐 強, 壷井 基裕
    セッションID: T16-P-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    広島県広島市近郊には広く花崗岩類が分布している。また、これら花崗岩分布地域は都市の拡大に伴い、郊外型の住宅地として開発されてきた。花崗岩類の種類は主に白亜紀後期の広島花崗岩類であり、ところによっては風化に伴いマサ化している。広島市北部では近年、2014年8月と2018年7月の2回、豪雨に伴いこれら風化した花崗岩が関連したと考えられる土砂災害が大規模に発生している。花崗岩の風化過程を詳細に理解することにより、土砂災害発生メカニズムの研究に資することができる可能性がある。そこで本研究では花崗岩類の風化過程について主に化学的側面から研究を行った。調査地域は広島市安佐南区の広島花崗岩類に属する角閃石黒雲母花崗岩ならびに黒雲母花崗岩が分布する地域である。これらの花崗岩類において、目視により風化段階の異なる試料について蛍光エックス線分析法により、全岩化学組成を測定した。なお、全岩化学組成は主成分元素10元素の分析値についてその合計を100 wt.%にノーマライズした。新鮮な花崗岩のSiO2含有量は、74.3, 76.1 wt.%, 風化した花崗岩のSiO2含有量は73.4-77.7 wt.%であった。また、Al2O3は新鮮: 12.8, 13.7 wt.%, 風化: 12.5-13.7 wt.%、Na2Oは新鮮: 3.57, 3.71 wt.%, 風化: 3.24-5.24 wt.% K2Oは新鮮: 4.28, 4.45 wt.% 風化: 4.05-4.74 wt.%、CaOは新鮮: 1.07, 1.41 wt.% 風化: 0.66-1.58 wt.%、MgOは新鮮: 0.25, 0.35 wt.% 風化: 0.17-0.43 wt.%であった。Harrassowitz (1926)による指標では、ba2値((CaO+MgO)/Al2O3)は風化に伴いその値が減少する傾向が認められた。 参考文献 1、地域地質研究報告、5万分の1地質図幅、高知(13)第2号―高橋裕平 2、Harrassowitz (1926) 3、化学的風化指数に関するー考察、天田 高白、岡谷 直

  • 櫻井 皆生
    セッションID: T16-P-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    ボーリングデータなどの地盤調査情報を集積した地盤情報データベースは,建設事業の設計・積算などに利用されるほか,ボーリングデータが高密度に得られる利点から学術研究にも用いられている.ここでは,大阪平野を中心とした地域で構築・運営されている関西圏地盤情報データベースを用いて大阪平野の上町台地周辺地域において,東西方向と南北方向に高密度に作成した断面図に現れる地質構造を解析して作成した表層3次元地質構造モデルを紹介する. 地質構造の解析に用いた断面図は関西圏地盤情報データベースの断面図作成機能を使って作成した.データベースの断面図作成用ボーリング検索画面に東西南北200m間隔のメッシュで基準線を設定し,基準線を中心とした幅200mの帯の中で東西方向が西から東に,南北方向が北から南に向かってボーリング地点を選定し,ボーリング柱状図列からなる断面図を作成した.作成した断面図は東西方向が計113枚,南北方向が計71枚で,解析した深度は標高-80mまでの地下表層部である. 断面図の構造解析には,この地域の大阪層群と中・上部更新統に繰り返し挟まれている海成粘土層(Ma)の基底面を基準面として用いた.この地域の海成粘土層はおもに内湾の泥底に堆積した地層で,その基底面は海進期に湾が広がったために発生した波の作用によって形成されたラビーンメント面である(増田, 2007).ラビーンメント面は海水準が上昇しているときに海底面が侵食(外浜侵食)されることによって沖側に形成される平坦面であり,変形していない初生のラビーンメント面は,沖-陸方向の断面では沖側に緩く傾斜した直線的な形状を呈する.この初生のラビーンメント面と構造運動によって変形した下位のラビーンメント面とを比較することによって,下位のラビーンメント面形成後の構造運動像を復元することができる(Sakurai and Masuda, 2014). データベースのボーリング柱状図からは層準や堆積環境に関する情報は得られないので,ボーリング柱状図の海成粘土層の識別には,大阪平野の地下地質の標準層序となっているOD-1ボーリングなどの学術ボーリングの層序や既往の地質断面図を参考にした.層準決定の参考にした学術ボーリングの層序には,各海成粘土層とその間の砂・礫優勢層の厚さに堆積時の海進・海退の規模を反映した層準毎の特徴がみられる.例えば,Ma5~Ma6~Ma7の層準では,層厚は概ねMa5<Ma7<Ma6でこれら3枚の海成粘土層の間に挟まれる2枚の砂・礫優勢層が薄いという特徴がある.一方,Ma7とMa8の間とMa4とMa5の間に挟まれる砂・礫優勢層は,他の層準と比較して厚い.また,Ma9~Ma10の層準ではMa9が大阪層群の中でも特徴的に厚く,層厚は概ねMa10<Ma9で両海成粘土層間に挟まれる砂・礫優勢層が薄い.これらの層準毎の特徴からボーリング柱状図の海成粘土層の層準を特定し,対比した. 断面図の構造解析結果に基づいて作成した3次元地質構造モデルは,海成粘土層基底面のサーフェスモデルである.モデルはGISソフトを用いてボーリング地点の緯度経度と海成粘土層基底面標高からなるポイントデータを空間補間して作成した.ポイントデータ数は計2350点で,モデルを作成した層準は,Ma4~Ma10とMa12である. モデルの作成に用いたGISソフトはArcGISで,空間補間計算には自然近傍法を使用した.一般的に地層境界面の補間計算にはクリギング法や最適化原理を用いる場合が多いとされている(3次元地質解析技術コンソーシアム, 2021).これらは配置が不均一で少ないデータ点から滑らかな曲面を計算する.しかし,これらの補間法では計算に用いるサンプルデータの範囲や曲面の滑らかさなどのパラメータを設定する必要があり,さらに曲面の傾向を予測することから地層の傾斜が側方で急変する部分で入力値を超える凸状や凹状の不自然な形状が現れてしまうことがある.一方,自然近傍法はパラメータの設定を必要とせず,データ点を通る入力値を超えない曲面で補間し,データ点域よりも外側の補間をしない.ただしデータ点が偏在し,その密度と信頼性が低い場合には,不自然な形状が現れることがある.今回は傾斜が側方で急変することが予想される未知の地質構造を復元しなければならないことと客観性と再現性を重視し,自然近傍法を採用した. 文献; 増田富士雄, 2007, 地形.28, 365 - 379. Sakurai M. and Masuda F., 2014, Journal of Earth Science and Geotechnical Engineering, 4, 17 - 24. 3次元地質解析技術コンソーシアム, 2021, 3次元地質解析マニュアルVer. 3.0.1. 333p.

G. ジェネラルセッション
G-1.ジェネラル サブセッション構造・海洋・堆積・地域地質
  • 青木 智, 南 宏樹, 川村 紀子, 齋藤 京太, 川上 友希
    セッションID: G1-O-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    海洋底のメタン湧水に起源をもつ炭酸塩岩は, 多くの大陸縁辺海域でその存在が報告されており[1][2], 海洋底付近における酸化還元環境や生態系等へ影響を与える特異的な場として知られている. 海上保安庁海洋情報部の測量船を用いた沖縄トラフ北部陸棚斜面における地形調査等の結果からは凹凸地形の分布が確認され, 木下式グラブ採泥器による調査では, 陸棚斜面付近の4地点において, 砕屑性粒子を多く含むクラスト状の炭酸塩岩が採取された. これらの内部には明瞭なチャネル構造と, それを埋める炭酸塩のマトリックスが観察された. また, 炭素及び酸素の安定同位体比質量分析の結果, 低いδ13C安定同位体比と高いδ18O安定同位体比が得られた. この結果は, 炭酸塩岩がメタン湧水によって形成されたことを示唆するものである. 炭酸塩岩を硝酸やフッ酸, 過塩素酸で溶解し, ICP-MSを用いて希土類元素の全岩分析を行った. その結果, 炭酸塩岩はC1コンドライトで規格化した希土類元素パターンについて, 軽希土類元素に富み, セリウム(Ce)のアノマリが見られず, 弱い負のユーロピウム(Eu)のアノマリが見られる傾向が確認された. この炭酸塩岩の希土類元素パターンは周辺で得られた堆積物の希土類元素パターンに類似しており, 炭酸塩岩に含まれる砕屑性粒子の寄与を反映していると考えられる. 一方で, 炭酸塩岩のイットリウム/ホルミウム比(Y/Ho)については炭酸塩岩中で堆積物に比べて有意に高い値を示しており, 炭酸塩岩の形成過程において海水からのYの濃縮があったことを示唆する. これらの結果は, 本研究で得られた炭酸塩岩が, 堆積物, メタン湧水及び海水の複合的な寄与により形成されたものである可能性を示している. さらに, 炭酸塩岩が採取された地点では共通して凹凸地形が発達していることが明らかになり, この凹凸地形は沖縄トラフ北部陸棚斜面に沿って南北約300 kmにわたって連続的に存在することから, 本海域では広域にわたって炭酸塩岩が分布していることを示唆している.References: [1] Ge et al. (2010) Marine Geology 277, 21-30. [2] Skarke et al. (2014) Nature Geoscience, 7(9), 657-661.

  • 池原 研, 宇佐見 和子, 金松 敏也
    セッションID: G1-O-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    地震性タービダイトを用いた地震履歴の検討においては、ある斜面において、ある大きさ以上の地震動が発生するたびに、混濁流が発生し、その記録が斜面下部の堆積盆に残されることが必要となる。海底地すべりは地震性混濁流の発生の一つのきっかけとなるが、地震動による表層堆積物の再懸濁・再移動もその発生機構の一つと考えられるようになってきた。しかし、ある堆積盆のタービダイトがどのような地震あるいは地震動の記録であるかは、必ずしも明らかになっているとは言えない。三陸沖の下部陸側斜面の平坦面であるmid-slope terraceでは地震性タービダイトの累重が報告されているが、そのタービダイトを形成した地震動は、三陸北部沖では0.6G以上(Ikehara et al., 2023)、三陸中部沖では0.4–0.5G以上(Usami et al., 2019)とされ、地理的な違いがあるように見える。三陸北部沖と中部沖では、地震の発生パターンに違いがあり、北部沖ではM 8クラスの地震が100年程度の間隔で発生するのに対して、中部沖ではM >8の地震がより長い間隔で発生している。地震動による水平的な剪断歪による粘着力の増加は、表層堆積物の強度を高めると考えられ、seismic strengtheningと呼ばれている(Sawyer and DeVore, 2015)。三陸北部沖と中部沖におけるタービダイトを形成する地震動の閾値の違いは、地震の発生パターンの違いに起因した表層堆積物の強度の違いを反映している可能性がある。しかし、斜面域堆積物の物性や堆積速度に関する情報は十分でなく、さらなる検討が必要である。 文献:Ikehara et al. (2023) Prog. Earth Planet. Sci., 10, 8, doi:10.1186/s40645-023-00540-8; Sawyer and DeVore (2015) Geophys. Res. Lett., 42, 10216–10221, doi:10.1002/2015GL066603; Usami et al. (2018) Geosci. Lett., 5, 11, doi:10.1186/s40562-018-0110-2.

  • 小原 泰彦
    セッションID: G1-O-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    フィリピン海プレートは複数の背弧海盆で構成されている。背弧海盆の海底拡大では水の存在がマグマの生成に対して重要な役割を持つ点で、大洋中央海嶺の海底拡大とは大きく相違している。このことから、背弧海盆拡大系の理解により、世界の海底拡大系に対する理解をより深めることができるはずである。1940 年代から大西洋中央海嶺を始めとする大洋中央海嶺の多くの断裂帯や海洋コアコンプレックス(OCC)は、 テクニックウィンドウとして上部マントル物質である蛇紋岩化したマントルかんらん岩を産出し、それらは「海洋底かんらん岩」と呼ばれて来た(Dick, 1989など)。一方、それまで「背弧海盆かんらん岩」についての詳細な報告は皆無であったが、1990 年代後半から海上保安庁海洋情報部の大陸棚調査プロジェクトの進展によってフィリピン海背弧海盆のテクトニクスの詳細が明らかになるとともに(Okino et al., 1999など)、限られた数ではあるが、フィリピン海背弧海盆かんらん岩の特徴が明らかになりつつあった (Ohara et al., 2003など)。 2020年時点でのフィリピン海背弧海盆かんらん岩の産出地として、パレスベラ海盆のOCCであるゴジラメガムリオンや四国海盆のOCCであるマドメガムリオンなど9箇所が記載されていた(小原, 2020)。その後、筆者らの研究チームは、2023年4月までの間に、北緯25度近傍の四国海盆西部の調査を集中的に実施し、北緯25度近傍の四国海盆西部には南海道メガムリオン群と称した多数のOCCが存在することを明らかにした(Moriguchi et al., 2023など)。南海道メガムリオン群からは、大量の斜長石かんらん岩が産出する一方、はんれい岩類の産出はごく限られており、北緯25度近傍の四国海盆西部が非マグマ的な拡大テクトニクスにより形成され、この場の海洋地殻が主に蛇紋岩から構成されるという、いわゆる「ヘスモデル」型の海洋地殻(Dick et al., 2006)であることを示している。さらに、南海道メガムリオン群の一部からは、非常に新鮮なマントルかんらん岩が得られた。本講演では、南海道メガムリオン群を始め、フィリピン海背弧海盆におけるマントルかんらん岩の最新の産出状況をレビューすると共に、将来の海洋科学掘削を含む研究の展望について議論する。 引用文献 Dick, H.J.B., Abyssal peridotites, very slow spreading ridges and ocean ridge magmatism, Geological Society, London, Special Publications, 42, 71-105, 1989. Dick H.J.B. et al., Past and future impact of deep drilling in the oceanic crust and mantle, Oceanography, 19(4), 72-80, 2006.Moriguchi T., et al., Geophysical characteristics of Nankaido Megamullions in the Shikoku Basin: tectonic implications for backarc spreading initiation, SCG52-15, JpGU 2023, Makuhari Messe, 2023. Ohara, Y., et al., Peridotites and gabbros from the Parece Vela backarc basin: unique tectonic window in an extinct backarc spreading ridge, Geochemistry, Geophysics, Geosystems, 4 (7), 8611, 10.1029/2002GC000469, 2003. 小原泰彦, フィリピン海背弧拡大系のマントルかんらん岩(第2版), 新地球, 1, 46-56, 2020. Okino, K., et al., The Philippine Sea: new survey results reveal the structure and the history of the marginal basins, Geophysical Research Letters, 26, 2287-2290, 1999.

  • 浅田 美穂, 小森 省吾, 横田 俊之
    セッションID: G1-O-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    研究の背景経済産業省による「国内石油天然ガスに係る地質調査・メタンハイドレートの研究開発等事業(メタンハイドレートの研究開発)」では、表層型メタンハイドレート(MH)の資源量把握調査(2013〜2015年度)を経て、生産技術開発と、重点調査3海域(日本海の酒田沖、上越沖、丹後半島北方)における賦存状況調査・海底状況調査及び環境影響評価を含めた総合調査を進めている。産総研では本事業の一環として、同海域で複数年度にわたり複数の独立した手法による物理探査を実施してきた。酒田海丘(仮称)酒田海丘(仮称)は最上トラフ中部に位置する、比高約100 m〜200 m、長軸方向の長さ約15 kmの紡錘形の海丘である。海丘頂部に長軸に沿って長さ約1 kmの陥没地形を有する。南東側麓部には逆断層があり(Okamura et al., 1995)、日本海のインバージョンテクトニクスにより形成された地質構造の一つであると考えられる。 複合的物理探査酒田海丘では現在までに、LWD(掘削同時検層)、AUVを用いた高分解能音響調査、船舶による広域音響調査、高分解能3次元反射法地震探査、CSEM(電磁探査)の物理探査を実施してきた。LWDLWDは海丘頂部の陥没地形内外3点で実施され、いずれも海底下約30 mまでの断続的な表層型MH賦存を強く示唆した(Tanahashi et al. 2017)。うち陥没地形内部では掘削開始まもなくから海底下深度約100 mで掘削を終えるまで大量の気泡の流出が見られた。音響マッピング:海丘頂部を覆う範囲でAUVに搭載したSBP(サブボトムプロファイラー)により海底下浅部断面を得た。海丘頂部付近の海底下には広く音響空白域が見られ構造把握が困難であった。音響空白域が顕著ではない領域では海丘の形状にほぼ沿う成層構造と正断層群が認められた。成層構造は頂部の陥没地形で切断されている。高分解能三次元地震探査:海丘全体を覆う範囲で実施した地震探査は、水平6.25 m×12.5 mのBinを設定したうえで、三次元反射ボリュームを作成した(横田ほか2022)。音響空白域が深い領域で広く認められたが、全体によく連続する成層構造が認められ、貫入体が顕著ではないことが示された。海底擬似反射面(BSR)の可能性がある強震幅領域が見られるが、往復走時の変動が大きく、海底面とは必ずしも並行しておらず、連続性も高くない。電磁探査:CSEMは堆積物中のMHやガスの分布把握に有効である。地震探査とおよそ重複する範囲にてSUESI-Vulcanシステム(米国スクリプス海洋研究所)を、曳航高度50-100 mで用いた(小森ほか2022)。構造解析のための計算領域を水平方向100 ×100 m、鉛直方向40 mのセルで離散化した。異方性(水平比抵抗・鉛直比抵抗)を考慮した逆解析の結果、水平比抵抗に対して鉛直比抵抗の高い領域が、海丘頂部直下浅部に、海丘長軸方向の卓越性をもって推定された。 酒田海丘における表層型MHの賦存状況CSEMにより海丘頂部直下浅部で大きな鉛直比抵抗および小さな水平比抵抗が推定されたことは、電流が鉛直方向に比べて水平方向に流れやすいことを示唆している。地震探査が示した強震幅域は空間的連続性が高くなく、MHが採取された位置・深さには現れなかった。これは強振幅域が局地的なガス溜りを示唆するものの、検出するほどの規模のMHが存在しないことを示唆する。CSEMが水平方向に連続する可能性が高い物質分布を示唆したところ、地震探査では連続性に乏しい強振幅域を示したことは、観測手法の観測対象と分解能の違いによる。LWD等が示唆した深さ方向に連続しない複数層準のMH賦存に矛盾しない。LWD実施時に噴出したバブルは、海底下に豊富なガスがあることを示す。音響空白域が音響信号の極端な減衰で現れたと考えると、海底下には気体の状態であるガスが広く存在すると解釈できる。CSEMの場合には少量の気体がバルク比抵抗に与える影響は小さいが、気体飽和度が上昇する場合影響を受ける可能性がある。頂部陥没地形は、成層構造が切れて見えることから、酒田海丘の軸部にかつて表層型MHが集積したが周辺の地層とともに崩壊し生じたと考えられるが、現在の酒田海丘には海底下に気体が存在するもののMH賦存量は比較的少なく、空間的広がりも限定的であると考えられる。 謝 辞本研究は経済産業省のメタンハイドレート研究開発事業の一部として実施した。反射法データの取得と解析、およびCSEMデータ解析の一部を株式会社地球科学総合研究所に担当いただいた。 参考文献小森ほか, JpGU, 2022; Okamura et al., 1995, Isl. Arc; Tanahashi et al., AGU, 2017; 横田ほか, JpGU, 2022.

  • 長澤 一雄, 渡部 晟, 澤木 博之, 渡部 均, 川辺 孝幸
    セッションID: G1-O-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    男鹿半島鵜ノ崎海岸の波食台は中期中新世の泥岩層(西黒沢層~女川層)からなり,直径1mから数mの巨大な炭酸塩コンクリーションが多数分布する.その形態は球タイプと繭タイプに分類されるが,近年それらの中に大型の鯨類化石が発見され注目されている(渡部ほか,2017;長澤ほか,2018).最近の研究ではコンクリーションおよび鯨類化石はドロマイト質であり,それらの炭素は主に化石の鯨類由来と考えられている(隈ほか,2023).本地域において100個以上のコンクリーションを観察した結果,約30個に鯨類骨を確認し,記載可能な25個のコンクリーションについて,露出部の化石の観察によって形態や鯨類タクサ等について検討したので報告する. コンクリーションの特徴は次のとおり.1)露頭の観察より16個が母岩に固着(現地性),9個が母岩より分離(異地性)と判断.2)現地性コンクリーションのうち,10個は西黒沢層に6個は女川層に含まれる.3)形態では繭タイプ9個,球タイプ4個,不明12個.4)全体の6割の15個が長径1m以上の大型コンクリーションで,最大のものは長径9mと巨大.5)全体の7割の18個で中心部周辺に化石を確認.6)ヒゲ鯨類の下顎骨や連続する椎骨が,コンクリーションの中軸部を貫通するものが12個(推定を含む)あり,繭タイプで目立つ.このように,化石とコンクリーションとの関連性が高いように見えるが,隣接するコンクリーションで化石がないものも多い.またコンクリーション内部に生痕化石が観察されることがある. 化石の特徴は次のとおり.1)形態と内部の海綿質の発達からすべて鯨類と同定.2)化石は骨格から分離した部位とその集合を主体とするが,複数の椎骨が連続する例や頭蓋・下顎が同層準で隣接する例があることから,軟部組織で連結された骨格もあったと推定.3)大半の化石に欠損・摩耗があるが,圧密による変形はほとんどない.4)産出部位と化石数は,肋骨30,椎骨15,ヒゲ鯨類下顎骨10,頭蓋(断片含む)5,上顎吻部4の計64点.5)化石は同一産出層準と形態の類似性に注目すると26個体程度にまとめられる.6)鯨類タクサではヒゲ鯨類が多く,部位形態よりセミクジラ科(下顎骨)5個体,ナガスクジラ科3個体(頭蓋,下顎骨)などを識別.7)形態の特異性から未知のタクサの可能性のある化石(下顎骨)も含む.8)化石部位を現生鯨類と比較すると,体長10m以上が15個体(最大16~22m)で,中期中新世鯨類では大きさが際立つ.  ところで,最近渡部ほか(2023)は,秋田県天徳寺層産の貝類化石コンクリーションの全炭素量に対して,貝類が供給しうる最大炭素量を検討した.その結果,貝類の軟体と殻を合わせた有機物起源の炭素量はコンクリーション全体の0.5~12%が上限であり,全炭素量のほぼ90%以上を他の未知の生物に依存している事実を明らかにした.隈ほか(2023)では,鵜ノ崎のコンクリーションの成因を基本的にはYoshida et al.(2015)のツノガイのモデルを鯨骨に置き換えたモデル(他の生物の関与も示唆)で想定しているが,膨大な炭素の大半を鯨類断片に求めることは渡部ほか(2023)を踏まえれば困難である.従ってその成因論についてはより慎重な議論が必要である.そのほか,隅ほか(2023)は西黒沢層と女川層にHCS(ハンモック状斜交層理)を認めたとして,HCSを要因とする鯨類の堆積過程や初生的なドロマイトの沈殿の説明を試みているが,これらも議論の余地が多い.そもそも,石油根源岩の深海性堆積層とされてきた女川層で,暴浪が海底に達するような浅海環境を想定することは,これまでの男鹿半島の地質研究からはあまりに乖離している. 文献 隈隆成ほか,2023,男鹿半島鵜ノ崎海岸の中新統西黒沢層・女川層中に見られる巨大鯨骨ドロマイトコンクリーション群の形成条件.地質雑,129,145-151.,長澤一雄ほか,2018,秋田県男鹿半島鵜ノ崎海岸の中新統コンクリーションより多数の鯨類化石を発見.古生物学会2018年年会予稿集,21.,渡部晟ほか,2017,秋田県男鹿半島鵜ノ崎の中・上部中新統(西黒沢層・女川層)に含まれる炭酸塩コンクリーション中の脊椎動物化石の産状.秋田県博研報,42,6-17.,渡部晟ほか,2023,秋田県大仙市天徳寺層(後期中新世後期-鮮新世)産球状炭酸塩コンクリーションの炭素の起源と形成過程.秋田県博研報,48,11-26.,Yoshida,H.et al.,2015,Ealy post-mortem formation of carbonate concretions around tusk-shells over week-month timescales.Sci.Rep. 5,1-7

  • 鈴木 德行, 小池 恒太郎, 亀田 純, 木村 学
    セッションID: G1-O-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    南海トラフ沈み込み帯では泥火山やメタンプルーム,ガスハイドレート,BSR(海底疑似反射面)が顕著である。また,静岡県や宮崎県の沿岸陸域には水溶性ガス田や多くのガス徴がある。このような多様で大規模なメタン活動はプレートの沈み込みに伴うアンダースラスト堆積物中での熱分解起源メタン・水素の生成に主に起因していると考えている(Suzuki and Kameda, 2022)。一方,東北日本の阿武隈沖~三陸沖の沈み込み帯はメタンハイドレートの空白域となっており,その他のメタン活動もほとんど認められていない。今回は,海洋プレートの沈み込みに伴って生成する熱分解起源メタン・水素の排出(一次移動)とその後の二次移動に焦点をあて,沈み込み帯の特徴とメタン活動との係わりについて検討する。 南海トラフではアンダースラスト堆積物中での熱分解起源メタンや水素の生成は深度約10~20 km,温度約200~350℃で生じており,水素生成帯は変成作用の領域に達している。このような大深度では根源岩の浸透率は極めて低いので生成した熱分解ガスの排出は容易でない。しかし,南海トラフでは深度10~20 kmのデコルマ付近は地震破壊域に対応しており(Kimura et al., 2018),地震発生による根源岩の破壊や断裂と過剰圧力の解放に伴った生成ガスの排出(一次移動)が生じ得る。一方,ガス生成圧の上昇が岩石破壊や地震発生に寄与している可能性もある(Raimbourg et al., 2017)。南海トラフの沈み込み帯ではデコルマや分岐断層を通じてスラブ起源流体や堆積物に由来する流体が活発に移動している(Park et al., 2002; Saffer and Tobin, 2011)。Zhu et al.(2022)によると水素の溶解度は温度や圧力の上昇にともなって顕著に増大する。一方,温度や圧力が増加してもメタンの水への溶解度はそれほど大きく変化しない(たとえば,Duan et al., 1992)。そのため,高温高圧下では水素は溶存水素として深部流体とともに挙動し,メタンの多くは遊離メタンとして挙動していることが推察される。南海トラフでは,熱分解起源メタンが主に寄与している泥火山や水溶性ガス田は陸側に分布し,深部にある熱分解起源メタン生成帯の上部付近に位置している。これは根源岩から排出されたメタンが浮力によって主に上方移動しているためと考えられる。一方,ガスハイドレートやそれらを示唆するBSRは沈み込み帯の海底下に広範囲に分布している。水素は水素資化性メタン菌による微生物起源メタンの生成に不可欠である。ガスハイドレートの広域的な分布は熱分解起源水素が深部流体に溶存し分岐断層等を通じて広域的に移動していることによるものと推察している。 東北日本の沈み込み帯でもアンダースラスト堆積物が深部にもたらされ,南海トラフと同様に熱分解起源のメタンや水素が生成しているはずである。しかし,東北日本の阿武隈沖~三陸沖の沈み込み帯では南海トラフのようなメタン活動がほとんど認められない。フィリッピン海プレートと比較すると,太平洋プレートはより冷たく,傾きや沈み込み速度が大きい。そのため,熱分解起源のメタンや水素の生成や排出はより大深度の高圧下で行われる。また,東北日本の沈み込み帯では深部流体が浅部へ移動することが容易でない(片山,2016)。東北日本の太平洋側でメタン活動が乏しいのは,熱分解起源ガスの生成深度が深いこと,スラブ起源流体の移動が容易でないこと,そして付加体が少ないなど二次移動経路に乏しい地質構造であるためと考えられる。太平洋プレートの沈み込み帯でも北海道の日高沖や東関東の鹿島~銚子沖にはガスハイドレートによると想定されているBSRが有意に分布している。日本海側の富山湾~能登半島沖にも顕著なBSRが検出されている。これらのBSRは深部でのプレート活動や流体移動が活発に行われていることを示しているのかもしれない。文献:Duan, Z. et al. (1992) GCA 56, 1451−1460; 片山郁夫(2016)火山,61, 69−77; Kimura, G. et al. (2018) PEPS. 5, 78; Park, J. et al. (2002) Science 297, 1157−1160; Raimbourg, H. et al. (2017) Tectonophys. 721, 254−274; Saffer, D.M. and Tobin, H. (2011) Ann. Rev. Earth Planet. Sci. 39, 157−186; Suzuki, N. and Kameda, J. (2022) SCG48-02, JpGU Meeting; Zhu, Z. et al. (2022) Energies 15, 5021.

  • 加瀬 善洋, 朝日 啓泰, 沢田 健, 伊藤 慎
    セッションID: G1-O-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    深海底で形成される陸源成の泥質堆積物は,イベント的に発生した混濁流によって形成されるタービダイトマッドと,ゆっくりとより定常的に形成される半遠洋性泥に識別されることが知られている.従来,タービダイトマッドは混濁流が最も低濃度の状態で形成されると理解されてきたが,近年,タービダイトマッドの形成においては,その一部は高濃度泥質流体から行われるという解釈(Talling et al., 2012; Stevenson et al., 2014)が提案されており,その堆積プロセスに関しては未解決の部分が残されている.本研究では,これまでの研究により,タービダイトマッドと半遠洋性泥岩が露頭観察で識別されている房総半島中央部の三浦層群鮮新統清澄層を対象に,タービダイトマッドおよび半遠洋性泥岩の堆積学的(粒度分析,XRDによる鉱物組成)ならびに有機地球化学的(バイオマーカー分析)解析を行い,タービダイトマッドの堆積プロセスについて検討した. 検討対象の層準は,清澄層上部のテフラ鍵層Ky26-1–3間の半遠洋性泥岩と,それに挟在される3枚のタービダイト砂岩に付随するタービダイトマッドである.タービダイトマッドは,粒径や累重関係から,(1)Tdを覆い,一部にラミナを伴う砂質シルト岩は粗粒タービダイトマッド,(2)粗粒タービダイトマッドと半遠洋性泥岩の間に挟在される塊状シルト岩は細粒タービダイトマッドと便宜的に区分される(加瀬ほか,2013).本研究は,この区分に従い,3層準の粗粒タービダイトマッドを下位から順にTc1–Tc3,Tc1–Tc3を覆う細粒タービダイトマッドをそれぞれTf1–Tf3,Tf1–Tf3直上の半遠洋性泥岩をそれぞれHm1–Hm3と識別した.  粒度分析の結果,粗粒タービダイトマッドは級化層理を示し,半遠洋性泥岩と比べて淘汰が良い.細粒タービダイトマッドは半遠洋性泥岩よりも細粒な傾向を示す.一方,半遠洋性泥岩内の平均粒径は一定では無く,ばらつく傾向を示す. XRD分析の結果,粗粒・細粒タービダイトマッドならびに半遠洋性泥岩を構成する主な粘土鉱物として,スメクタイト,イライト,カオリナイトが認められる.またTc1,Tf1,Hm1の粘土鉱物の重量比を比較した結果,大きな相違は認められない. バイオマーカー分析の結果,(1)奇数炭素優位性CPI(5.8–9.5)やC30 Hopane異性体比(0.6–0.8)は,全体的に高い値を示すこと,(2)C27 Stanol/Stenol比は,細粒タービダイトマッド(1.7–2.7)が粗粒タービダイトマッド(0.6–0.9)や半遠洋性泥岩(1.1–2.2)と比較して顕著に高い値でピークを示すこと,(3)C27/C27+C29比は,粗粒・細粒タービダイトマッドが半遠洋性泥岩よりもやや低い傾向を示すこと,(4)Alkanolは,Tc1–Hm1およびTc2–Hm2では類似した値を示すが,Tc3はTf3–Hm3と比較して顕著に高い値を示していることが明らかとなった. CPIやC30 Hopaneの熟成度指標は,いずれも未成熟であることを示すことから,バイオマーカーの相違に続成作用の影響は強く反映されていないことが示唆される.C27 Stanol/Stenol比の結果は,細粒タービダイトマッドが粗粒タービダイトマッドおよび半遠洋性泥岩と比較して,より還元的な堆積場で形成されたことを示し,より大きい堆積速度での形成が解釈される.C27/C27+C29比およびAlkanolでは,粗粒・細粒タービダイトマッドが,半遠洋性泥岩と比較して,木片や陸上植物由来ワックスを多く含むことで特徴づけられることから,陸源細粒砕屑粒子からの堆積を強く反映していると解釈される. 塊状な細粒タービダイトマッドは,混濁流の後流により細粒な砕屑粒子が濃集し,粗粒タービダイトマッドを堆積させた流体よりも高濃度になることで,急速な堆積作用で形成されたと解釈される.細粒タービダイトマッド中には粘土粒子の粒状構造(Aggregate of clay particles: ACP; Kase et al., 2016)が認められ,ACPはfluid mud(>10 g/L)を特徴づけるFace-to-Face aggregate(Nishida et al., 2013)に類似することから,細粒タービダイトマッドの形成においては,混濁流からの最終的な堆積過程でfluid mudと同程度の泥質流体の形成が行われた可能性が考えられる.文献加瀬ほか,2013,堆積研;Kase et al., 2016, Sedimentology; Nishida et al., 2013, Mar. Geol.; Stevenson et al., 2014, Sedimentology; Talling et al., 2012, Sedimentology.

  • 石井 智大, 道林 克禎
    セッションID: G1-O-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】シュードタキライトは、断層運動時の摩擦熱により岩石が溶融し、急冷したガラス質の岩石である。断層面に沿って形成脈、鉱物の割れ目に沿って注入脈が形成される。溶融時に溶け残った鉱物粒子は岩片となる。シュードタキライトは、一般的に無水条件で形成される[1]。しかし、近年の研究で水の存在下でもシュードタキライトは形成されることが指摘された[2]。シュードタキライトが見られる国内の代表的な露頭に領家変成帯足助剪断帯がある。本研究では足助剪断帯シュードタキライトについて、水の影響を含めてその形成過程を考察した。 【地質概説】愛知県豊田市の足助剪断帯は中央構造線の北西約50 kmに位置し、総延長は約14 kmである[3]。主に花崗閃緑岩で構成され、カタクレーサイトを主体にシュードタキライトとマイロナイトが共存している。本研究では香嵐渓と大島の露頭でシュードタキライトを採取した。 【研究試料・方法】香嵐渓と大島の露頭で花崗閃緑岩4試料を採取し、その中からシュードタキライトが確認できた大島の試料を詳細に分析した。組織的特徴や鉱物の種類、元素の存在量を明らかにするため、偏光顕微鏡およびSEMとFE-SEMによる観察、ラマン分光分析、元素マッピングを行った。 【結果】本研究では注入脈の先を先端部、形成脈に近い根元を基部として扱う。偏光顕微鏡で脆性から延性変形までの多様な組織が観察された。形成脈中には硫化鉄が確認された。SEMとFE-SEM観察では注入脈に気泡が確認され、分布の偏りが見られた。気泡は先端部に少なく、基部に多かった。ラマン分光分析で注入脈と形成脈内の岩片を調べた結果、黒雲母と石英、斜長石が確認された。元素マッピングの結果、注入脈の基質部に組成差が認められた。FeとMgは先端部に富んでおり、基部に乏しかった。観察した全注入脈で同様の分布を示した。一方、SiとCaは先端部に乏しく、基部に富んでいた。Siに富む注入脈はCaに乏しく、Caに富む注入脈はSiに乏しかった。SiやCaが多い基部は気泡も多く、SiやCaが少ない先端部は気泡も少なかった。 【考察】先端部にFeとMgが、基部にSiやCaが多かった。黒雲母が比較的低温で優先的に溶融し、石英と斜長石がより高温で後から溶ける選択的溶融が生じたことを示す。また、注入脈と形成脈内に硫化鉄と気泡が確認された。硫化鉄は水の存在を示し[4]、メルト中に水が0.5 wt.%以上存在すれば気泡が形成される[5]。水は低温だとメルト中に溶け込むが、温度が高くなると脱水することから[6]、高温メルトが存在した基部で気泡が発生したことが考えられる。 【結論】足助剪断帯のシュードタキライトは、含水状態で選択的溶融しながら形成されたことが明らかになった。 【引用文献】[1] Sibson (1975) Geophys. J.R. Astron. Soc., 43: 775-794. [2] Gomila et al. (2021) Geochem. Geophys. Geosyst. 22, e2021GC009743. [3] 高木・酒巻 (2003) 日本地質学会第110年学術大会見学旅行案内書, A-1, 1-10. [4] Tracy and Robinson (1988) American Jour. Sci., 288, 45-74. [5] Dixon and Dixon (1989) Lithos, 23, 225-229. [6] Yamashita (1999) Jour. Petrol., 40(10), 1497-1507.

  • MASSARO Luigi, ADAM Jurgen, 山田 泰広
    セッションID: G1-O-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    地質現象は、一般に規模や時間が人間にとって直感的に理解できる範囲を超えている。それを補うために、実験や数値シミュレーションを用いてスケールを変更する試みが行われてきた。中でも褶曲や断層などの変形に関する分野では、時間的にもサイズ的にも現象を縮小して再現することで、最終的な変形形態やその形成過程について理解するだけではなく、その知見を地下資源開発の探査と開発に役立ててきた。褶曲形成に関する理論化がほぼ完成され、それを解析する能力が十分に向上した1980年代には、褶曲変形に関する検討は数値シミュレーションで十分に行えるようになった。一方断層などの破壊に関する検討は、数値シミュレーションの制約が大きいことから主として物理実験によって検討が進められてきた。物理実験によって変形現象を縮小再現する際、現象の物理的な意味を保ったまま(つまり物理的等価に)縮小するための理論的な条件(相似則)は1950年代に完成していたが、その条件を満たすように実験を行うことは困難であった。しかし、2000年以降に微小物性を計測できる試験機が開発されたことに伴い、相似律を満たすように実験材料の物性を微調整することができるようになった。これを受けて、様々な地質環境における変形構造を物理的等価に縮小・再現する物理実験が可能となってきている。本講演では、Massaro et al 2021, Massaro et al 2023の成果を基に、縮小模型実験の可能性が広がりつつある状況を報告する。 Massaro, L., Adam, J., Yamada, Y. 2023. Tectonophysics 855, 229828. Massaro, L., Adam, J., Jonade, E., Yamada, Y. 2021. Geological Magazine. 1-24.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    八塚 伸明, 月俣 涼太, 坂口 有人
    セッションID: G1-O-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    [はじめに]  これまで粒状体内部の歪分布は、主に数値実験によって検討されてきた(例えば、Yanほか,2021)。しかし、岩石はサイズも形状も不均質な、きわめて多数の粒子から構成されるゆえにシミュレーションでの再現には限界がある。 天然の岩石の力学試験では、アコースティック・エミッションによって亀裂の分布は報告されているが、歪速度変化による歪分布に焦点を当てた研究は行われていなかった。これは、内部の歪分布を知るための手法が無かったためである。そこで試料内部の歪分布を知る新たな手法としてカルサイト応力・歪計がある。カルサイトは外力に応じて結晶内部に双晶変形を生じさせる特性があり(Sakaguchi et al., 2011)、双晶密度は歪量に比例することから、双晶密度は歪計として使用できる(坂口・安藤, 2022)。このカルサイト応力・歪計をマイクロセンサーとして粒状体内部の歪分布を解析することができる。[手法] 水熱合成された双晶変形を含まない合成カルサイトを高強度モルタルに2.71 %混ぜ込んだ模擬岩石を供試体とする。セメント/水の比率が標準値の場合に、このモルタル供試体の一軸圧縮強度は約100 MPaになる。また、水の比率を増やすことで50 MPaの低強度供試体も作成できる。また、カルサイトを多量に含む天然の砂岩も用いて比較する。 これらの供試体を引張圧縮試験機 (Instron 100kN)を使用し、100, 200, 300, 400, 500 mm/minの歪速度で一軸圧縮試験を行う。偏光顕微鏡を用いて、薄片におけるカルサイト粒子の座標、双晶密度を測定し、カルサイト粒子と破壊面との距離の関係について検討を行う。[結果・議論]  破壊強度約100 MPaのモルタル供試体および50 MPaの供試体の一軸圧縮試験の結果、歪速度および破壊強度の違いによって、双晶密度の平均値に有意な違いは認められなかった。 破壊強度100 MPaの供試体の場合は、歪速度を100 mm/minから段階的に上げていくと、歪速度約400 mm/minから破壊面近縁における歪分布の偏りが顕著に現れた。その一方で、破壊強度約50 MPaの供試体の場合、破壊面近縁における歪分布の偏りは、歪速度を約500 mm/minにまで上げても顕著には現れなかった。破壊面近縁における歪分布の偏りは、歪速度がある閾値を超えると現れるが,その閾値は破壊強度や弾性率、密度、粘着力、内部摩擦角などの試料の物性もしくは試料全体に生じた歪量によって変化すると考えられる。また、カルサイト粒子を多く含む天然の砂岩の供試体は、歪み速度が遅い場合は、破壊強度が約350 MPaであるが、歪速度の増加に伴って破壊強度も上昇した。[引用文献]坂口有人・安藤航平,セメントを主体とする複合材における応力・歪みの履歴推定方法,国際特許,WO 2022/009957 AI,2022. Sakaguchi Arito, Sakaguchi Hide, Nishiura Daisuke, N akatani Masao, and Yoshida Shingo(2011) Elastic stress indication in elastically rebounded rock, Geophysical Re search Letters, 38, L09316 Yan Qin1, Chun Liu, Xiaoyu Zhang, Xingang Wang, Bin Shi, Yue Wang& Shang Deng(2021),A three‑dimensional discrete element model of triaxial tests based on a new fexible membrane boundary,Scientific, nature, Reports volume 11, Article number: 4753(2005)

  • 木村 克己, 金子 誠, 菊地 輝行
    セッションID: G1-O-11
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    紀伊山地北山川流域の基盤岩類は主に中期中新世の珪長質火成作用で熱変成を受けた四万十帯の後期白亜紀付加体堆積岩から構成される.これらの岩石は,西方の非変成付加体と同様の岩相と東北東~東西走向で北傾斜の地質構造を示すが,熱変成と珪化作用により,硬化・均質化しているため,層理面や付加過程で形成された各種の構造面が癒着し,地表で弱面として顕在化しない傾向がある.地形的にも山頂の斜面やV字谷斜面には岩盤が露出する急斜面が発達し,付加体地域で地層の傾斜方向に緩傾斜を呈する非対称な“ケスタ”地形が極めて乏しい. 同流域の急崖斜面において,5mDEMの傾斜量図の解読を主に,衛星画像・空中写真を補助的に利用して,3000条を越すリニアメントを抽出した.リニアメントは長さ1-8㎞で,急崖斜面では1㎞で10-40条におよぶ.リニアメントは,直交するNE-SW~NNE-SSWおよびNW-SE~NNW-SSE系が普遍的な分布を示し,N-SやE-W系が偏在するという分布特性を示す.また緩斜面域を中心に,ENE-WSW方位のリニアメントが7~20㎞長で,2-5㎞間隔で発達している.  現地調査では谷や道路切割の露頭観察に加えて,北山川のダム下流の幅広い露頭が出現する谷底4地点においてはドローンにより面的な写真撮影を実施した.これらの現地調査と写真による断裂系の開析の結果,①直交する2組のリニアメントは直交節理(orthogonal joints)であり,一部は横ずれ断層(faulted joint)に転化していること,②ENE-WSW方位のリニアメントは右横ずれ卓越の断層であること,③形成の順は,直交節理,偏在するN-S・E-W節理,ENE-WSW断層であることが判明した.中期中新世の珪長質火成岩の熱変成によるホルンフェルスに発生した断裂系であることから,それ以降に形成されたと考えられる.  これらの断裂系は尾根・河川の方位を強く制御しており,2011年に十津川流域で多数発生した深層崩壊地の輪郭やその斜面を横断する位置にもその存在が認められる.地質構造的な制約条件として,従来は,付加体の覆瓦構造や脆弱な泥質岩の分布に注意が払われていたが,中期中新世以後に形成された断裂系についても,斜面崩壊の予測や対策において重要な構造的素因として考慮すべき対象であると考えられる.

G-2.ジェネラル サブセッション環境地質・第四紀地質・岩石鉱物火山
  • 小松原 琢
    セッションID: G2-O-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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     はじめに 養老-桑名-四日市断層帯は,琵琶湖西岸断層帯と共に近畿三角地帯で最も活動度の高い逆断層帯であり,断層沈下側に濃尾傾動地塊を伴っている.これら活構造の特異なふるまいをまとめ,その機構について考察する.-1 平均変位速度の非等速性 桑名断層の完新世における活動については,多数のボーリング調査によって詳細に検討されている (たとえば須貝ほか,1998;鳴橋ほか,2004;中西ほか,2006).これらによると,桑名断層中部の完新世における平均変位速度は約9ka以降で2.3m/千年以上,6ka以降4.3m /千年である (地質調査所,1999). 一方,最終間氷期前期以降の平均変位速度は0.9~1.5m/千年であり(小松原,2021),両者は誤差範囲を超えた違いがある.また最近の2地震の発生間隔は,過去9000年間における平均活動間隔よりも有意に短い可能性が指摘されている (須貝ほか,1999).養老断層および四日市断層についても,同様に非等速的な活動を行ってきた可能性が高い (大上・須貝,2006;小松原,2021).-2 断層運動の非定向性 桑名断層は,第四紀前期における活動開始以降の総変位,最終間氷期以降の変位ともに,断層西側の隆起量が東側の沈降量を下回る「沈降卓越型」の断層である.しかし,その最新活動と考えられる1586年天正地震時およびそれ以降の地殻変動は,断層西側の隆起が東側の沈降を上回る (小松原,2020).このことは,桑名断層周辺では,地震性地殻変動とは様式の異なる,沈降卓越型の非地震性地殻変動が生じていることを示唆する.すなわち,桑名断層周辺の地殻変動は,単純に定向的に累積したのではなく,地震間に断層近傍で沈降運動が生じている可能性が高いと考えられる. -3 傾動地塊運動の非定向累積性 濃尾傾動運動は,西傾動を伴う沈降運動が定向累積的に進行してきたと考えられてきた (たとえば松澤, 1968).しかし,牧野内(2017) は,最終間氷期前期の熱田層下部の海成粘土層の堆積開始と終了は,ともに濃尾平野東部で早く,西部ではより遅い時代に生じたこと,および,阿多鳥浜テフラを挟有する海成粘土層(Am3)は濃尾平野西部よりも東部で厚いこと,を示している.これらは,濃尾傾動地塊運動が一様に西部で大きかったのではなかったこと,傾動が間欠的であった可能性があること,を示している(牧野内,2017).  特異な変動を生み出した要因に関する考察 以上は,養老-桑名断層系と濃尾傾動地塊が非等速・非定向累積的に運動していることを示す.また,桑名断層周辺の「非地震性の沈降卓越型変動」や幅20km以上に達する濃尾傾動地塊の傾動運動は,上部地殻の弾性的変形とみなすことはできない.このような変動を生み出した要因として,牧野内(2017)が示唆するようにフィリピン海プレートの潜り込みの影響が挙げられる. 濃尾平野周辺では,同スラブの深度が急変していること(たとえば長谷川ほか,2010),および当地でスラブが断裂し,断片化した2つのスラブが重なり合っている可能性があること(たとえば山岡ほか,1994) が知られる. ここに述べた非等速・非定向累積的地殻変動とともに,鮮新世後期~第四紀中期の知多変動から第四紀中期以降の猿投変動へ(Makinouchi,1979) の応力転換を統合的に説明することができる可能性がある(小松原, 2022). 今の段階ではスラブの形態や挙動に関する定説はないが,①上記の地殻変動には上部地殻だけでなく,より深部の運動が関与している可能性が高いこと,②この地域の断層を評価するにあたって,単純な等速定向累積的変動という第0近似が適用できるか否か検討すべきこと,の2点を指摘したいと思う. 文献地質調査所(1991)予知連会報, 61,455-460.長谷川ほか(2010)地学雑誌,119,190-204. 小松原 (2020)歴史地震,35,157-176. 小松原(2021)地質調査総合センター速報,82,41-47. 小松原(2022)地球惑星科学連合大会要旨,S-CG50-02. Makinouchi,T(1979)Mem. Fac. Sci. Kyoto Univ., Geol. and Mineral., 46,61-106. 牧野内(2017)名城大学理工学部研究報告,57,43-48. 松澤(1968)地質雑,74,61-71. 中西ほか(2006)月刊地球,54,194-204. 鳴橋ほか(2004)第四紀研究,43,317-330. 大上・須貝(2006)第四紀研,45,131-139. 須貝ほか(1998)地調速報,no.EQ/98/1,75-90. 須貝ほか(1999)地調速報,no. EQ/99/3,89-102. 山岡ほか(1994)地学雑誌,103,567-575.

  • 中島 展之, 小荒井 衛, 先名 重樹, 金子 朋紀
    セッションID: G2-O-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    2011年3月12日未明に発生した長野県北部地震(M6.7)では,長野県栄村や新潟県津南町で大きな被害が発生した.栄村の森・青倉・横倉地区では甚大な被害が局所的に集中していた.津南町では栄村に比べて家屋被害はやや軽微であったが,亀岡・大井平集落に位置する宮野原断層周辺で,断層線に沿って地すべり・盛土の重力変形などの集中が見られた(中埜ほか,2013)上,断層の低下側に家屋被害が集中した.中島ほか(2022)では,津南町西部において常時微動観測を行い,信濃川の低位段丘に立地する集落において,全体的にAVS30が大きい上,基盤深度も浅く地盤が良いことや,宮野原断層周辺では,AVS30 が250m/s前後と相対的に小さく,他の津南地域と比べて地盤が悪いことを報告した.これは断層の低下側が軟弱な堆積物が堆積しやすい環境であったことや断層の破砕帯によるものと判断し,断層活動による地形発達過程が家屋被害に影響を与えたと考えられるとした.また,宮野原断層は活断層研究会編(1991)や池田ほか(2002)などでは断層地形とされているが,地すべり地形である可能性についても議論がされている(田力・越後,2022).以上のことから,本研究では常時微動観測から推定した地盤特性と地震被害の関連を検討するとともに,観測結果から基盤岩や段丘構成層の変位の累積や破砕帯を抽出することで活断層の検出することが可能かどうか検討を行なうために,中島ほか(2022)での28点に追加して産総研(2016)において宮野原断層を横断するように群列ボーリング調査が行われた地点を含む16点で新たに観測を実施した. 観測は長・先名(2016)をもとに,微動アレイ観測を行い,SPAC法及びCCA法による位相速度解析,S波速度構造解析を行なった.本研究では,300m/sを超える深度を工学的基盤深度(以下,基盤深度とする),深度30mまでの平均S波速度をAVS30とする.産総研(2016)において行われた群列ボーリングと常時微動観測結果を比較するとの礫層の上面のS波速度が300m/sを超える深度と一致した.そこでS波速度が300m/sを超える深度を礫層の上端と推定し,それを基準に断層運動について検討を行なった.宮野原断層での群列観測の結果から,礫層の上面が3つの領域で分けられそれぞれ5m程度の標高差が見られた.北側の標高差は地形的に低断層崖の位置とも一致していることなどから断層によるものと解釈した.また,南側は基盤深度が約20mと極端に深く,S波速度の遅い層が厚く存在した.これは,亀岡の集落を東西に流れる川の侵食作用や堆積作用によるものと考えられる.AVS30と基盤深度を検討する.中島ほか(2022)において,宮野原断層周辺はAVS30が小さく基盤深度が深いことを報告しているが,今回の観測でも宮野原断層周辺ではAVS30が250〜300m/s程度と地盤が悪い結果となった.また,津南駅周辺で観測を行なった結果,巻下集落ではAVS30が400〜600m/s程度と地盤が良い結果となった.これらは,治水地形分類図では氾濫平野となっており,ローム層等がなく,浅い深度で基盤に到達した結果であると考えられる.常時微動観測を行うことで軟弱地盤の地域を抽出することが可能となり,地震被害の差異についての議論に用いることができる.また,基盤深度の差から活断層の有無について議論する上で材料となることがいえる.謝辞 :本研究における常時微動観測は,茨城大学と防災科学技術研究所の共同研究協定に基づき実施した.また,現地調査においては,茨城大学地球・地域環境共創機構(GLEC)と国文学研究資料館の共同研究「歴史資料を用いた減災・気候変動適応に向けた文理融合の研究の深化」,令和5年度苗場山麓ジオパーク学術研究奨励事業からご支援いただいた.記して謝意を表します.参考文献 長・先名,2016,Synthesiology,9-2,p.86-96.池田ほか編,2002,第四紀逆断層アトラス.東京大学出版会,254p.活断層研究会編,1991,新編日本の活断層-分布図と資料-.東京大学出版会,437p.紺野・片岡,2000,土木学会論文集,No.647/Ⅰ-51,p.415-423.中埜ほか,2013,国土地理院時報2013,123,p.35-48.中島ほか,2022,日本地球惑星科学連合2022年大会,SSS12-6.産業技術総合研究所,2016,平成27年「活断層の補完調査」成果報告書 十日町断層帯.59p.田力,2022,1:25,000活断層図 十日町断層帯とその周辺「津南」解説書,国土地理院,15p.田力・越後,2022,活断層研究,56,p.33-46.

  • 吉田 剛, 石井 光廣, 鈴木 孝太, 小倉 利雄, 小島 隆宏
    セッションID: G2-O-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    はじめに 千葉県九十九里平野では,更新統上総層群に胚胎する水溶性天然ガスが地下で遊離し地表に湧出している.これらは水田・河川ではその気泡を目視できる.また,九十九里浜においても確認できる.さらに九十九里海域では,海底から湧出するガスを海面に上昇する気泡として目視できる地点があることが知られている.ガス湧出は周辺の環境に影響を与え,平野では建造物のガス爆発や稲が枯れる現象が認められ(風岡ほか,2006ab),海岸では潮溜まりが白濁する現象が認められている(吉田ほか, 2012; 2022).ガス湧出の分布を把握することは,これらの影響がある潜在地域を知るうえで重要であり,この視点で平野を調査した風岡ほか(2017)では,ガス湧出の産状は上総層群国本層・梅ヶ瀬層の走向方向および砂泥互層中の砂層が地表近くに出現する箇所に支配される可能性を指摘している.さらに,上総層群を侵食する最終氷期に形成された谷の中に厚く堆積する縄文海進期の泥層の分布によっても,ガス湧出箇所が規制されている可能性を指摘している.これらの産状の解明には,詳細な分布の把握が必要となるが,海岸・陸域の調査には以下の課題がある.徒歩による平野での調査の課題として,ガス湧出箇所は広範囲に把握できるが,水に覆われていない場所ではガス湧出の有無を確認できない(風岡ほか,2021).また,海岸では分布・有無を連続的に把握できるが,その幅は潮間帯程度に限られる.一方,海域での分布はこれまで不明であったが,イワシなどの好漁場となっている九十九里沖の漁業関係者のあいだで海域のガス湧出の存在はよく知られており,千葉県環境研究センターも水質調査船の外房沖航海中に海面付近の気泡を確認している(吉田・忍足, 2013).さらに,九十九里漁業協同組合の魚群探査船「くろしお」では漁業のために,目視でガスを確認できる地点およびガスプルームが映る地点を記録し日々の漁に役立てている.この海域が好漁場である要因として,天然ガスかん水の排水やガス湧出の可能性が指摘されている(高橋ほか,2012; 鈴村ほか, 2021). 本報では,九十九里沿岸・海域でのガス湧出の出現状況について述べる. 分布状況1.九十九里浜の調査範囲は,北端の刑部岬に隣接する飯岡漁港から九十九里浜南端の東浪見までの約57 kmの区間にある潮間帯(幅10〜80 m)である.ガス湧出が見つかるのは,九十九里浜中央部の作田川河口付近から東浪見までである.ガス湧出は連続的な分布ではなく,それぞれの湧出群は数十メートルから二百数十メートルの範囲に収まる.2.海域におけるガス湧出の集中帯は九十九里沖の中央部と南部にある.九十九里浜の海岸に近いほうを集中帯の始まりとして述べると,中央部の集中帯の始まりは木戸川河口付近から作田川河口南方付近までであり,そこから東北東方向へ約20 km沖側まで続く.また,南部の集中帯の始まりは真亀川河口付近から一宮川河口南方付近までであり,そこから北東方向へ約14 km沖側まで続く.これら中央部と南部のガスプルーム集中帯の間にある幅5 km弱には,気泡・プルームが認められない.引用文献・風岡 修 ほか, 2017,九十九里平野中部における上ガスの分布と地質環境.日本地質学会要旨, 268.・風岡 修 ほか,2006a,九十九里地域における上ガスの分布形態 -九十九里・-東金市・大網白里町における最近の調査から-.16回環境地質学シンポ論文集,16,169-174.・風岡 修 ほか,2006b,九十九里地域中部における上ガスの発生状況-上ガスに関する地質環境調査結果.地質汚染-医療地質-社会地質学会誌,2,82-91.・風岡 修 ほか,2020,九十九里平野中部における上ガス発生分布について.30回環境地質学シンポ論文集,30, 87-90.・風岡 修 ほか,2021,九十九里平野中部における上ガスの分布と噴出状況について.31回社会地質学シンポ論文集,31,9-12.・鈴村昌弘ほか,2021, 房総半島九十九里沖海域における海底からの天然ガス湧出現象.日本海洋学会2021年度秋季大会要旨.・高橋和彦ほか,2012, 九十九里沿岸海域における天然ガス・ヨウ素工場周辺の窒素類の現況把握.水環境学会誌,35(7), 111-117.・吉田 剛・忍足慎吾,2013,外房沖の海底から湧出する天然ガスの画像.千葉県環境研究センター年報平成25年度.・吉田剛 ほか,2012,千葉県九十九里浜の天然ガスの湧出する潮溜まりの白濁現象.地質雑, 118, 172-183.・吉田剛ほか,2022, 千葉県九十九里浜における2009年4月に認められた潮溜まりの色調変化と地下水流動の関係.地学雑誌, 131 巻 5 号 p. 497-519.

  • 朝日 博史, 山田 圭太郎, 中川 毅
    セッションID: G2-O-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    酸やアルカリに耐性が高い花粉化石は、陸域の環境復元に多大な貢献を果たしている。その化学成分や同位体比動態を用いた環境復元は、堆積物からの化石試料の単離(抽出)・花粉化石の高い薬品耐性に由来する化学成分抽出の困難から研究例が多くはない。近年の技術開発の深化によって堆積物からの花粉化石高純度抽出が可能となり、花粉化石の化学情報を用いた環境復元が現実的となってきている。反面、花粉(特に化石として残る部分)の化学動態と現在環境の対比研究は、試料下処理・分析手法が多様であり発展途上である。 本発表では、全国を網羅する現生花粉試料の酸素同位体比分布を紹介し、気象条件(例えば気温や降水量)との対応について議論する。気象データは、農業産業技術総合研究機構の1kmメッシュデータを利用し、採取時期(〜おおよそ開花時期)の一年前程度までのデータを採取した。花粉試料には試料破砕、アルカリ溶出により化石化処理を施した。処理された試料は、熱分解型元素分析装置(Elementar社, GEOVISIONシステム OH mode)で測定を行った。 花粉酸素同位体比は、属ごとに特徴的な分布(例えばスギ属だと、平均24.8‰ VSMOW; 標準偏差 2.21‰ VSMOW; n=64)を示した。酸素同位体比と気象との関係性は族毎に異なった傾向を示し、スギ属ハンノキ属は気温・降水量との対比が見られた。この結果は異なる分析装置と前処理方法での測定結果と類似している。 局所的な日当たりや樹木の成長といった細かな要因が花粉の安定同位体比に及ぼす効果は容易に想像できる。入手できる気象データの解像度には限りがあり、各樹木の個体に影響するパラメーターを推察することは困難であるため、花粉同位体比と気象条件の直接的な対比には限界がある。本発表ではより広範な両者の関係性解析方法を紹介し、花粉酸素同位体比の環境復元での有効性について議論する。

  • 渡辺 正巳, 平石 充
    セッションID: G2-O-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    はじめに 「出雲国風土記」は奈良時代の天平5(733)に完成し,奈良時代に全国で編纂された「風土記」のうち,唯一ほぼ完本の形で伝わる「風土記」である.ここでは,奈良時代の出雲国(島根県東部)について,行政のほか地理・地形,農水産物,神話(伝承)など多岐に亘る事柄が記述されている.また「出雲国風土記」では,島根県東部、中海に浮かぶ江島と鳥取県の弓ヶ浜半島を隔てる中浦水道(図1)について「盤石二里許,広さ六十歩許あり.馬に乗りて猶往来ふ.塩満つる時は,深さ二尺五寸許,塩乾る時には,既に陸地の如し.」と記されており,長さ1km 以上,幅100m以上のトンボロ(陸繋砂州)の存在が示唆されていた.そこで演者らは,江島・中浦水道周辺水域の海図を基に,江島周辺水域の海底地形を調べ,「出雲国風土記」に記されていた弓ヶ浜半島から江島に至るトンボロを確認した.更に,従来知られていなかった,江島北側に広がる湖棚の存在を確認した(渡辺・平石,印刷中). 現在の江島は, 宝暦4(1754)年以降,昭和37(1962)年まで断続的に続いた中浦水道の埋立てと,昭和38(1963)年に着手された「国営中海土地改良事業」などによって形作られており,「出雲国風土記」の時代のおよそ5.7 倍の面積になっている(渡辺・平石,2023).また湖底では,埋立て土砂採取の為の浚渫や,「国営中海土地改良事業」や「重要港湾 境港」整備に伴う航路の浚渫が行われていたと考えられる. 今回の発表では,江島周辺水域の湖底地形と,江戸時代以降続いている埋立(伴う浚渫)の関連について報告する.謝辞  本研究を進めるに際し,島根大学名誉教授 徳岡隆夫博士には,資料のご提供,ご助言,ご指導を頂いた.島根大学名誉教授 高安克己博士,島根大学エスチュアリー研究センター 瀬戸浩二博士と齋藤文紀センター長には有意義なご助言を頂いた.以上の方々に厚くお礼申し上げます.引用文献 国土地理院(HP)調査実施湖沼一覧「1/1万湖沼図」で刊行「中海」渡辺正巳・平石 充(2023)江戸時代以降の江島埋立て史.LAGUNA(汽水域研究), 30, 1-10.渡辺正巳・平石 充(印刷中)中浦水道のトンボロ.LAGUNA(汽水域研究), 30.図1説明:調査位置図 国土地理院発行1/1万湖沼図「中海」を利用(渡辺・平石(印刷中)の図1を基に作成)

  • 長橋 良隆, 里口 保文, 中川 和重
    セッションID: G2-O-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    1.はじめに テフラ粒子の形態については,あらゆる噴火様式のテフラ粒子を走査型電子顕微鏡による鮮明な画像で示した「Volcanic Ash 2nd Edition」(Heiken and Wohletz, 1992)がある.テフラ粒子の形態は,マグマの発泡や破砕過程の理解に不可欠であり,粒子形状に関わる諸量を数値化することにより検討されている(例えば,Liu et al., 2015など).粒子形状の測定は,粒子の断面形態あるいは3次元粒子を2次元に投影したプロファイルを画像化し,装置付属のソフトウェアあるいはimage Jなどのソフトウェアを用いて測定される.断面形態を用いるのか,投影プロファイルを用いるのかによる形状の数値の違いは,Liu et al.(2015)により,Form Factor,Axial ratio,Solidity,Convexityについて検討されている.2.測定方法 本研究による粒子形状の測定は,走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM-6610LV,2012年導入)とシリコンドリフトディテクター型EDS検出器(オックスフォード製INCA x-Act,2009年導入),INCA付属(オプション)の粒子解析ソフトウェア(オックスフォード製・INCA Feature,2009年導入)用いて測定した.また,本研究の粒子解析は,テフラ粒子(粒径63μm<250μm)をペトロポキシで包埋し,鏡面研磨の後に炭素蒸着を施したEDS分析用プレパラートの断面形態による.INCA Featureによる測定の概要は,倍率100倍で画像を取得した後,1粒子ずつ自動で粒子の輪郭を識別し(形状の各項目が数値化される),さらに粒子毎に粒子全体の主要元素組成(Si,Al,Fe,Mg,Ca,Na,K:積分時間5秒)を分析する.粒子の主要元素組成により8つの主要造岩鉱物および火山ガラスあるいはその他に自動で分類される.この一連の測定は複数画像および複数試料にわたって設定できるため,1枚のプレパラートの16試料分をほぼ自動で測定し,測定結果を得ることができる.3.結果と考察 INCA Featureで測定できる粒子形状の項目は,外周(μm),長さ(μm),幅(μm),方向(角度),面積(μm),アスペクト比,円相当径(μm),形状値(外周の2乗/4π×面積)である.ここでの長さは平行する2本の直線に挟まれた最大長さ(Maximum Feret diameter)である.幅は,最大長さとそれに直交する矩形を粒子の外形に当てはめたときの幅を表す. 測定試料は琵琶湖高島沖で掘削された湖底堆積物コアと大阪湾岸で掘削されたボーリングコアに挟まるテフラを対象とした(長橋ほか,2004)による.これにより過去43万年間に近畿地方に降下した約80層のテフラの粒子特性について解析できる.これらのテフラ層の多くは,山陰や九州地方の火山のプリニー式噴火(VEIが4〜5)あるいは九州地方のカルデラ火山の大規模火砕流の噴出に伴うco-ignimbrite ash(VEIが6以上)からなる.火山ガラスの形状は,一噴火輪廻において多様な形態を形成することも知られている(例えば,Hiroi and Miyamoto, 2016).しかし,ここで取り上げるテフラは,一定程度大規模な爆発的噴火によるテフラの粒子特性を系統的に把握するには効率的でり,また光学顕微鏡による火山ガラスの形状分類や鉱物・重鉱物組成が既に報告されているためそれらと相互に比較・検討することもできる. 測定結果が得られたco-ignimbrite ashの18試料の火山ガラスのアスペクト比は,平均2.5(2.0〜3.2)であり,主にプリニー式噴火によると考えられる44試料の火山ガラスのアスペクト比は,平均1.8(1.6〜2.3)である.光学顕微鏡による火山ガラスの形状比(偏平型,中間型,多孔質型)とアスペクト比とを比較すると,偏平型火山ガラスの含有量とアスペクト比には正の相関があり,多孔質型火山ガラスの含有量とアスペクト比には負の相関がある.文献:Heiken and Wohletz (1992) University of California Press, 246p. Hiroi and Miyamoto (2016) Journal of Volcanology and Geothermal Research, 325 , 86–97. Liu et al. (2015) GeoResJ, 8, 14–30. 長橋ほか(2004)第四紀研究,43, 15−35.

  • 金田 泰明, 長谷川 健, 井村 匠
    セッションID: G2-O-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    火山噴出物の岩石学的研究において,本質物質である軽石や溶岩の全岩化学組成を測定した結果,全体の組成変化傾向から外れて,比較的SiO2に乏しくBaに富む試料が認められる事例が報告されている(例えば,沼沢火山: 増渕・石崎, 2011; Bachelor火山: Bachmann et al., 2014).Baは,イオン半径が大きく,多くの造岩鉱物に対して分配されにくい一方で,珪酸塩メルトや超臨界・液体のH2Oなどの流体に分配されやすいことから,岩石学的・地球化学的研究において重要な元素である.高Ba異常の起源を深部マグマ生成過程に求める議論がある一方で,火山噴出物の風化・熱水変質の影響であるとする報告例も存在する(例えば,Fodor et al., 1987).その為,高Ba異常を示す試料を扱う際には,それがマグマの特性に由来するのか,二次的なものかを注意深く評価することが重要である.こうした評価には,変質によるBaの濃集プロセスの理解が必要不可欠だが,肉眼や記載岩石学的手法による評価が難しいことから不明点が多い(Price et al., 1991).本発表では,北海道南西部の濁川火山で14-16 cal kaに発生したカルデラ形成噴火(以下,濁川カルデラ噴火)を対象に,本質物質である軽石の岩石記載や局所化学組成分析(SEM-EDS・EMPA),XRD分析を実施し,高Ba異常の成因とその意義を議論する. 濁川カルデラ噴火の堆積物中に含まれる軽石は,色調や発泡度の違いから白色軽石と灰色軽石,それらが不均質に混ざりあった縞状軽石に分けられる.このうち,灰色軽石は,Baに富む灰色軽石(高Ba灰色軽石)とBaに乏しい灰色軽石(低Ba灰色軽石)に細分できる(金田・長谷川, 2022).高Ba灰色軽石と低Ba灰色軽石は,両者とも類似した記載岩石学的特徴を持つ.いずれも斑晶鉱物として,多い順に斜長石,角閃石,直方輝石,不透明鉱物,単斜輝石,石英を含み,それらの多くは斑晶量10-15 vol.%である.両者の石基部は共通してハイアロオフティック組織を示す.火山ガラスのSiO2量は,高Ba灰色軽石で59-78 wt.%,低Ba灰色軽石で60-79 wt.%であり,その他の元素に関しても類似の化学組成を示す.一方で,高Ba灰色軽石にのみ,石基組織の気泡部分を充填する1 µm以下の細粒物の集合体(以下,細粒充填物)が認められた.細粒充填物は,主に主にSiO2(49-69 wt.%)とAl2O3(23-40 wt.%)からなり,FeOを3-10 wt.%,BaOを2,100-10,245 ppm含む.また,粉砕した灰色軽石の石基部のXRD分析結果からは,高Ba灰色軽石には,12°, 20°および62°(2θ)のカオリナイトのピークに加え,20°(2θ)付近に非晶質鉱物の存在を示唆するようなブロードな反射が認められた. 高Ba灰色軽石と低Ba灰色軽石は共通した斑晶鉱物組合せや火山ガラス組成を有する一方で,高Ba灰色軽石にのみ石基の気泡部分に細粒充填物が認められた.細粒充填物は,化学組成およびX線回折パターンから,鉄アロフェンおよびカオリナイトなどの変質物質であると考えられる.高Ba灰色軽石の全岩化学組成は,SiO2組成変化図上で,低Ba灰色軽石と細粒充填物の中間にプロットされ,低Ba灰色軽石に細粒充填物を数%付加することで説明可能である.以上のことから,濁川カルデラ噴火の灰色軽石に認められる高Ba異常の原因は,細粒充填物,すなわち変質作用によるものであると考えられる.高Ba灰色軽石は,変質作用を被っていない軽石(白色軽石や低Ba灰色軽石)と同一露頭かつ同一層準内で共存することから,高Ba灰色軽石は,濁川カルデラ噴火堆積物として,各地点に堆積する前に形成されていたと考えられる.濁川火山では,本噴火以前に軽石を生成・放出するような火砕噴火が認められないこと(金田・長谷川, 2022)や細粒充填物を包有する火山ガラスが新鮮であることなどから,高Ba灰色軽石を生成した熱水変質作用は,本質物質(軽石)が火口内でリサイクルされるような,一連の噴火期間の内の短い時間プロセスで進行したと考えられる.このような,一連の噴火期間中における変質は,他の噴火事例においても普遍的に発生している可能性があり,これまで報告されてきたBa異常をはじめとする特異な化学組成を持つ噴出物の成因を議論・再検討する上で重要な鍵となり得る.<引用文献>増渕・石崎 (2011) 地学雑; Bachmann et al. (2014) Contrib. Mineral. Petrol.; Fodor et al., (1987) JVGR; Price et al., (1991) Chem. Geol.; 金田・長谷川 (2022) 火山.

  • 石毛 康介, 上澤 真平, 竹内 晋吾, 土志田 潔, 諏訪 由起子
    セッションID: G2-O-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】 福徳岡ノ場2021年噴火(以降FOB2021)では爆発的噴火に伴い大規模な漂流軽石が発生し、日本各地の沿岸に漂着した。漂流軽石現象の理解は災害対策において重要であるが、近代日本における大規模な漂流軽石の観測事例は福徳岡ノ場1986年噴火(FOB1986)や西表島北北東海底火山1924年噴火、駒ヶ岳火山1929年噴火など数例しかない。より長期の大規模漂流軽石の発生頻度や規模を定量的に評価するためには、地質時代に漂着し地層化した軽石が、噴火直後の大規模漂着イベントによる産物か、非噴火時に海洋に散在し漂う軽石が漂着した産物かの解釈が重要になる。そのためには,軽石の層相や分布の特徴,堆積プロセスの理解が必要である。しかし、漂流軽石が地層化するプロセスを観測事例から検討した研究に乏しい為、大規模漂着イベントの認定は困難である。今回、我々は安部海岸の海岸低地において、1950~70年頃に建造された護岸工にアバット不整合で堆積した軽石を含む複数のイベント堆積物で構成される海浜堆積物を発見した。本研究ではイベント堆積物の特徴と漂流軽石が地層化するプロセスを明らかにする目的で、当該地点において露頭観察及びトレンチ掘削を実施し、堆積相の記載と側方対比、及び室内分析を進めているので報告する。また、近年の海底噴火や津波・高潮災害の記録から、イベント堆積物との対比を行い、成因について議論する。【結果】 安部海岸は浅瀬の湾奥に広がる幅約600 mの砂浜海岸であり、調査地はその南側、ナート川河口付近の海岸低地である。調査地では海岸低地の断面が河口付近から上流側の護岸工までほぼ連続的に露頭として出現している。本研究ではこれら露頭に加え、海岸低地において深さ~80cmのトレンチを計11地点で掘削し、イベント堆積物の対比を行った。その結果、護岸工にアバット不整合で堆積する8組のイベント堆積物(AEd)を認め、これを上位から下位へa~hとした。 AEd-a~hはいずれも海浜砂主体の無層理~弱い斜交層理をなす堆積物であり、それぞれ上位が海洋浮遊ゴミを普遍的に含む茶色~黒色砂層、下位が海洋浮遊ゴミに乏しい黄白色砂層からなる。このうち、AEd-eの地層中からは1992年頃の食品ゴミが出土するほか、上位の茶色砂層には数㎜~5.5㎝径の円摩されたチョコチップ様の灰色軽石(4)が普遍的に含まれる。AEd-aの黒色砂層は最上位の堆積物であり、海洋浮遊ゴミや2018年表記の食品ゴミを普遍的に含むほか、多様な外見的特徴を有する軽石が散在する。また、安部海岸をはじめとする沖縄本島各地において、FOB2021の漂流軽石が高潮線で軽石モレーン (4)を形成しており、一部は波打ち際で漂着と再漂流を繰り返している。 EPMA を用いて軽石のガラス組成を分析したところ、AEd-eに含まれる軽石はFOB1986で噴出した軽石の平均ガラス組成(3)と類似した。他方で、AEd-aに含まれる軽石はFOBや西之島火山、硫黄島火山に類似したガラス組成を示した。  【解釈】 安部海岸周辺において、1960年チリ地震津波以降に顕著な津波が到達した記録は無いが、ナート川沿いを氾濫原とする高潮被害が近年少なくとも3回(2007年、2012年、2018年)記録されている。安部海岸は地形的に高潮が発生しやすい事が指摘されており(1)、記録のない高潮が時々発生していたと考えられる。また、漂着ゴミからAEd-eは1992年頃のイベント堆積物と推定される。したがって、少なくともイベント堆積物AEd-a~eは最近数十年に発生した高潮由来と解釈される。このうち、AEd-eに含まれる軽石は、FOB1986の軽石に類似した外見的特徴とガラス組成を示す。沖縄本島ではFOB1986で発生した大規模な漂流軽石が1987年に漂着した(2)。これらに加え、FOB2021の漂流軽石の観察結果から、AEd-e に含まれる軽石は1987年頃に漂着し、海岸付近で漂着・漂流を繰り返していた軽石、もしくは海岸の高潮線に定置していた軽石が、1992年の高潮によって内陸深くまで再移動して定置し、後年に発生した高潮による砂質堆積物に覆われたことにより地層化した産物と考えられる。AEd-a~dから産出する軽石の多様性と地層中または地表に散在する特徴は、大規模な漂着イベントを示すものではなく、海洋で日常的に広く薄く漂流し、漂着したような軽石と考えられる。【参考文献】 1. 栽ほか(2008)2008年度沖縄管内気象研究会 p24 2. 加藤(1988)火山 第2集 33(1), 21-30 3. Hiramine et al. (2023) Geogr. rep. Tokyo Metrop. Univ, 2023 4. Yoshida et al. (2022) Island Arc . Vol31, 1

  • 沢田 輝, Chong Chen, 岩本 久則, 高井 研
    セッションID: G2-O-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    陸上火山の噴気域および海底火山の熱水噴出域では多量の自然硫黄が生じ、時として高温によって溶融した自然硫黄が滞留して溶融硫黄湖を成すか、または溶岩のように流下することがある。溶融硫黄は純粋に近い組成のものは固化すると黄色を呈するが、しばしば直径数十マイクロメートル以下程度の黄鉄鉱の微粒子を含んでおり、このようなものが固化すると灰色を呈する。黄鉄鉱は硫黄よりも比重が大きく、溶融硫黄湖の中では沈降し下部により多く存在すると考えられてきた(Takano et al., 1994)。大黒海山はマリアナ島弧北部に位置する玄武岩質から安山岩質の海底火山で、山頂の水深は約320 m、比高約700 mである。2004年から数回の無人潜水機(ROV)調査が行われており、山頂付近の熱水噴出孔に溶融硫黄が存在することが確認されている。大黒海山の溶融硫黄は過去2回のROV調査により採集されており、1つは2006年にROV Jason II(ウッズホール海洋研究所)が鉄の棒に缶を溶接したものを溶融硫黄に約1mの深さまで差し込んで採集された試料(de Ronde et al., 2015)で、もう1つは2016年にROV SuBastian(シュミット海洋研究所)が溶融硫黄上を航行中に偶然爆発的な噴出が起きてROV本体に付着した試料であった(Bobbitt, 2016)。いずれの溶融硫黄も多量の微細な黄鉄鉱を含み灰色を呈していた。また、溶融硫黄を保持する熱水噴出孔の周囲には直径数mmから数cmの灰色の球状硫黄が多数見られ、火山ガス等の放出に伴う飛沫によって形成される様子が観察されている。2023年3月、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の調査船かいめいの研究航海KM23-05において、ROVを大黒海山中央火口丘内部にある溶融硫黄湖に着底させ、表面約7cmの深さまでバスケット等を差し込んで採集した。溶融硫黄湖の表面は薄く固化した硫黄に覆われ、火山砕屑物が点在し、さらにユノハナガニなどの生物が多数生息していた。採集された溶融硫黄は鮮やかな黄色を呈し、黄鉄鉱はごく少量しか見られなかった。溶融硫黄湖からROVが離底すると、多数の黄色い球状硫黄が噴出する様子が確認された。一方、大黒海山の北方約100kmの日光海山においても溶融硫黄が確認されており、2006年にROVで深さ20cm程度を掬い取ってサンプリングされている(de Ronde et al., 2015)。このときに採集された溶融硫黄は黄鉄鉱に乏しい黄色部分と黄鉄鉱に富む灰色部分がおおよそ半分ずつあり、これらがマーブル模様状に混ざったものであった。ROVを駆使したこれらの溶融硫黄の直接サンプリングによって、黄鉄鉱に富む溶融硫黄は深さ10cmオーダー以深から存在することが明らかになった。静的な状態にある溶融硫黄湖では黄鉄鉱に富む硫黄は沈殿して成層しているが、火山ガスの放出が活発な状態では深部から黄鉄鉱に富む硫黄が飛散していると考えられる。 Takano et al. (1994). Geochemical Journal, 28, 199– 216. de Ronde et al. (2015). In Rouwet et al. (Eds.), Volcanic lakes. pp. 261– 288. Springer. Bobbitt (2016). Falkor Cruise Report, FK161129, 1– 308.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    山内 彩華, 坂口 有人
    セッションID: G2-O-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】  結晶成長時に周囲の流体が結晶中の空隙に閉じ込められたものを流体包有物とよぶ.流体包有物のなかでも結晶の成長中に形成されたものを初生包有物とよぶ.初生包有物はその結晶ができたときの流体の密度や化学成分を記録している(佐脇,2003).しかし初生包有物の形成メカニズムは明らかになっていない.また,実験的に初生包有物を形成する研究例も多くない.柳澤,後藤田(2011)は,水熱実験によってカルサイト結晶を育成する実験において,より大きな結晶を得るために昇温と徐冷を繰り返す2段階徐冷を行った.この実験で形成された結晶中に流体包有物が形成されていた.本研究では柳澤,後藤田(2011)の手法をベースに初生包有物の形成条件を明らかにすることを目的とする. 【研究手法】  本実験では内容積が5.0 Lと27.0 mLの2種類のオートクレーブを用いた.それぞれを大型オートクレーブ,小型クレーブと呼び区別する.  硝酸アンモニウム水溶液を媒質に炭酸カルシウム粉末を加え,密閉されたテフロン内槽の大型オートクレーブにて気液二相状態で昇温する.180℃で12時間保持したあとに2.5℃/時で徐冷する.これを1段階徐冷とよぶ.これに加えて昇温と徐冷をもう一度繰り返す操作を2段階徐冷とよぶ. また,小型オートクレーブを用いたクエンチ実験ではテフロン容器内に1段階徐冷で形成された結晶と硝酸アンモニウム水溶液を加え,2段階目の徐冷と同様に昇温,高温保持ののち徐冷を行った. 上記の2つのプロセスにおいて撹拌の有無を変更し,各温度段階にてクエンチを行い,結晶の状態を光学顕微鏡および走査型顕微鏡で観察した. 【結果と考察】   2段階徐冷により合成された結晶に初生包有物が含まれることを確認した. 2段階徐冷によって形成された結晶の粒径は1段階徐冷のものより大きく,初生包有物は2段階目の徐冷によってオーバーグロースした層中に形成されていた. この2段階徐冷の高温状態の間に撹拌をしない場合には初生包有物は含まれなかった.これは高温時の結晶表面の溶解状態が包有物の有無に関係することを示唆する.そこで2段階徐冷の各段階でクエンチし,その表面を電子顕微鏡で観察したところ,結晶の表面に凹部が生じている様子が観察された.そこから温度が下がるにつれ,結晶が層状に積み重なって成長している様子が見られた.  初生包有物の形成には結晶表面の溶解によって深い溝や凹部が生じることが必要であると考えられる.おそらく熱水が再昇温もしくは減圧によって溶解度が変化し,結晶に凹部を形成し,それが初生包有物の起点となると考えられる.浅く小さな凹部は結晶成長が進む際にカバーされるが,深く大きな凹部は結晶成長によってカバーすることができないため,そこを残して周囲が層成長するために,相対的に凹部が深く大きくなりこれが包有物になるものと考えられる. 【文献】国立大学法人高知大学. 柳澤和道・坂口有人・阪口秀. カルサイト単結晶の製造方法. WO2012/108473. 2014-7-3. 佐脇貴幸(2003) 流体包有物 ―その基礎と最近の研究動向―. 岩石鉱物科学, 32, 23-41. 柳澤和道・後藤田智美(2011) 科学研究費補助金基盤研究B 多鉱岩の弾性変形におけるカルサイト応力計の開発 分担研究「微細なカルサイト単結晶の水熱育成」 2010年度成果報告書

  • 石橋 隆, 田中 陵二, 萩原 昭人, 井上 裕貴
    セッションID: G2-O-11
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    北海道の2箇所(鹿追町然別地域、愛別町愛別鉱山)において、熱水性シリカ脈に随伴する多環芳香族炭化水素(PAH)類の産出が見いだされた。これらは、コロネン(Cor)C24H12およびコロネンから芳香環がひとつ欠損したベンゾ[ghi]ペリレン(BPer) C22H12を主とし、それに加え分子量150-400程度の雑多なPAH類を伴っている。CorとBPerは共に結晶性固体であり、前者はカルパチア石(carpathite)に同定され、後者は新鉱物の北海道石(hokkaidoite:IMA2022-104)として国際鉱物学連合に承認された。これらは国内における初めてのPAH系有機鉱物の産出例であり、その産状等について報告する。 鹿追町然別地域では、古温泉に由来する珪華堆積層にオパールの沈殿脈が見られ、高標高部では地表生成性のガイゼライトとなっている。このオパールには、北海道石、著量のBPerを固溶するカルパチア石、および種々のPAH(分子量150-400)の混合物である非晶質ビチューメン等が包有されている。オパール中の北海道石およびカルパチア石は、共に樹状結晶(2 mm以下)の内包物として産し、紫外線の照射により黄-黄緑-青緑の蛍光を示す。また北海道石は珪華層の層間や裂罅に単斜晶の薄板状結晶(0.5 mm以下)が認められる。然別のPAH鉱物と共存する鉱物は、オパールのほか少量の石英、メタ輝安鉱程度で多様性に乏しい。 愛別町愛別鉱山では、PAHは熱水性水銀鉱床(含辰砂石英脈)に産する。石英の空隙や熱水変質した安山岩の裂罅に、カルパチア石および北海道石の結晶が見られ、それ以外のPAH類(分子量150-300)は鉱染状である。カルパチア石は細柱状や糸状の結晶(0.5- 7 mm)、裂罅に生成した自形結晶で産し、紫外線で青緑に蛍光する。北海道石は程度の薄板状の単結晶(0.1-1.5 mm)およびその集合体、または結晶の形状を示さない1.5 mmまでの不規則な集合体で産する。紫外線で共存するカルパチア石よりもやや青味の強い青緑に蛍光する。PAH鉱物の共存鉱物は、脈石の石英のほか、辰砂、黒辰砂、輝安鉱、鉄明礬石、粘土鉱物などである。

G-3.ジェネラル サブセッション応用地質・古生物
  • 山崎 新太郎
    セッションID: G3-O-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    <はじめに> 2018年7月に発生した豪雨によって愛媛県宇和島市吉田町,西予市明浜町にまたがる法華津湾周辺では幅南北4 km,東西 4 kmの領域に22カ所の崩壊深2 mを超える深層崩壊が発生した.ここでの,深層崩壊は概ね崩壊深2 m以上の斜面内部の地質構造に原因のある急速な斜面の移動である.筆者は豪雨イベントがもたらした降雨量の分布と崩壊の発生場の関係を分析したところ必ずしも降雨分布と深層崩壊の分布が一致せず,また崩壊後に露出した地質には共通性があった.本発表では,以上について筆者の調査した結果と考察を発表する.<降雨の概要>  2018年6月28日からの平成30年7月豪雨は,特に7月7日0時頃から早朝8時にかけて愛媛県西予市宇和町および宇和島市付近で降雨のピークを迎えた.法華津湾周辺の深層崩壊の多くは7日7時ごろ多発したとされる.このとき,法華津湾から至近の宇和観測点では時間雨量20 mm以上の雨を6時間連続で記録している.気象庁の解析雨量データでは,法華津湾周辺では7月5日~7日に400 mm以上の降雨があり,さらにピーク時を含む7日0時~12時までで230 mm~260 mmの降雨がもたらされている.しかし,解析結果では同量以上の雨量の範囲が法華津湾周辺のさらに内陸部の東方と,湾の南方・北方にも広がっていた.<地質>  筆者による調査では崩壊地や周辺に露頭に認められた岩相は砂岩が大部分で,一部泥岩があった.地層は概ね西-東走向で60度以上の急な北傾斜となっている場合が多い.法華津湾周辺の地質は産業総合技術研究所のシームレス地質図v2によれば「海成層砂岩 前期白亜紀後期-後期白亜紀前期付加体」,20万分の1地質図「宇和島」(1988)では,前期白亜紀の下部四万十層群に属する頁岩を伴う砂岩となっている.筆者が実施した法華津湾周辺の未風化露頭の調査では,砂岩が泥岩中にブーディンを形成して取り込まれている破断層や数メートル以上の層厚の砂岩がせん断によりブーディンを形成しながら分離し,さらに覆瓦状構造をしている状況が観察された.さらに泥岩には鱗片状劈開が観察された.これらの特徴から崩壊の多くはメランジュ地域内で発生したものと考えられる. <崩壊地の地質>  深層崩壊地22カ所を調査したところ,12カ所で急傾斜の断層面がすべり面または分離面となっている状況を発見した.それ以外の崩壊地に関しても,断層破砕によって角礫化した領域が崩壊したと考えられる状況もあり,断層が岩盤中の不連続面や強度低下に関係していることが示唆された.認められた断層面には白色または暗灰色ガラス状の物質が付着していることが頻繁に認められ,さらに,砂岩中に複数の曲面がある断層面が形成され,波長数メートル以上の湾曲した葉状構造が発達しているものもあった.  崩壊地はいずれも黄色から褐色に風化しており,なおかつ深層風化の状況にある.筆者は2018年の災害以降継続的に法華津湾周辺の調査を進めているが,工事などによって,崩壊地を含む地域では大規模な切土による造成が進んでいる.その状況を観察すると場所によっては50 m以上の深度まで風化が進行していた.さらにシュミットロックハンマーによる計測によって法華津湾周辺の露頭は,内陸の露頭に比べて明らかに強度が低下していたことも判明した.

  • 西山 賢一, 露口 耕治, 大矢 基弘, 佐竹 一希, 川本 真由美
    セッションID: G3-O-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    1.はじめに 斜面崩壊・土石流の発生年代を推定することは,長期的な斜面防災や,渓流の砂防計画,さらには国土の安全な土地利用にとって重要な基礎資料となる.本研究では,2018年西日本豪雨による甚大な被害が発生した愛媛県宇和島市周辺を対象とし,2018年豪雨で土石流が流下した渓流の側壁とボーリングコアに挟在する古い崩壊堆積物から古土壌と炭化物3試料を採取し,14C年代測定を実施したので報告する. 2.対象地域とその地形・地質  対象とした宇和島市周辺では,2018年7月の記録的豪雨により,多数の斜面崩壊と,それに起因する土石流が発生した.崩壊が多発した地質は,仏像構造線南側に分布する四万十帯に属する白亜系の付加体堆積岩類である.   3.分析試料の採取と年代測定  分析用試料の採取位置は,2018年7月豪雨で発生した崩壊土砂が流下した渓流の側壁斜面(露頭),ならびに露頭下流の谷底で掘削されたボーリングコアである.これらの堆積物の記載を行うとともに,堆積物中から炭化物・古土壌を抽出した.得られた3試料は㈱加速器分析研究所に依頼し,AMSによる14C年代測定を行った.δ13Cにより同位体分別効果を補正して得られた14C年代(BP)を得て,暦年(cal BP)に較正した.暦年較正にはIntCal13データセットを用い,OxCalv4.2較正プログラムを利用した.較正した暦年は2σの範囲で表示した. 4.試料採取地点の地質と年代値  試料を採取した地点の地質と得られた年代値について,以下にまとめる.露頭は崩壊斜面の基部にあり,ボーリングコア掘削位置はそれより下流の谷底低地のほぼ中部に位置している. (1)宇和島市畔屋の露頭 宇和島市畔屋では,ミカン園として利用されている標高約60mの丘陵頂部付近から崩壊が発生し,畔屋地区の集落にまで崩壊土砂が達した.滑落崖の下方斜面には,ミカンの果樹などを含んだ2018年崩壊堆積物の下位に,厚さ約3mに達する古い崩壊堆積物が分布しており,ガリー側壁に露出している.この場所では,明瞭な古土壌を伴わず,下方斜面に向かって傾斜した侵食面を境界として,崩壊堆積物が2層に区分できる.このうち,下位の崩壊堆積物に含まれていた炭化物を採取した.得られた14C年代値は4040±30 yrBP,2σの範囲で最も確率が高い暦年値は4579-4425 cal BP (93.9%)となった.(2)宇和島市畔屋のボーリングコア  試料を採取したボーリングコアは,掘進長14mで,土砂部分のコアの半分は標準貫入試験が実施されている.地表から深度-2.0mまでが最新の崩壊堆積物(2018年7月豪雨の土石流起源)と推定されるが,深度-0.8~2.0m間は,それ以浅(明褐色)と異なり,色彩が暗褐色を呈することから,別の崩壊イベント起源の可能性もある.深度-2.0~-7.0m間が礫まじり砂で,そのうち-3.0~-3.5m間に古土壌を挟在する.このうち,-4.0~-6.0m間は周囲と異なる明褐色を呈することから,深度-2.0~-7.0m間の礫まじり砂は複数の崩壊イベントの集合体として堆積した可能性がある.深度-8.0~-11.0m間が砂礫で,そのうち,深度-9.0~-9.5m間に古土壌を挟在する.深度-11m付近以深は,基盤である四万十帯の砂岩である.崩壊堆積物は,以上の層相と古土壌に基づき,イベント1~5の5イベントが少なくとも認められ,さらに細分できる可能性も大きい.  得られた古土壌の14C年代測定結果は,上位の-3.15m付近の試料が1770±20 yrBP, 2σの範囲で最も確率が高い暦年値は1679-1600 cal BP (71.4%)となった.一方,下位の-9.15m付近の試料が30850±150 yrBP,2σの範囲で最も確率が高い暦年値は35538-34740 cal BP (95.4%)となった. 5.年代測定値の解釈と課題  2018年崩壊地直下の露頭からは完新世に2回のイベント,ボーリングコアからは更新世~完新世にかけての5回のイベントが,それぞれ推定された.ボーリングコアに基づけば,約35,000年以降に,約9mの厚さの崩壊堆積物が小流域の谷底を埋積していることが判明した.露頭とボーリングコアの年代測定結果と合わせると,ボーリングコアのイベント3は,露頭では2イベントに細分可能と考えられる.このため,約4,500年前以降,2018年を含めて少なくとも4回のイベントが推定され,さらに細分される可能性も大きい.このことから,検討した小流域における完新世の平均的な崩壊発生間隔は,103年に1回オーダーと推定される.

  • 小荒井 衛, 村上 亘, 桑原 祐史, 村山 いであ, 渡辺 啓太
    セッションID: G3-O-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    1,はじめに斜面崩壊に対して樹木の根系が抑止効果を持つとされているが,樹木の根系を調べるためには樹木の根を掘り返さなければならず,必ずしもその実態が解明されている訳では無い。一方で,航空レーザ技術の高度化により樹高をはじめとする植生の三次元構造を面的に捉えることが容易になってきている。そこで,樹木の三次元構造と根系の発達状況が広域に観察できる伐採跡地の作業道で両者の関係を明らかにし,航空レーザデータから森林の三次元構造と根系発達状況を広域かつ面的に推定して,その結果と詳細地形情報や風化状況の情報を組み合わせて斜面の安定性・脆弱性の評価を行うことが重要である。2.調査地域と研究手法研究対象地域を,福島県阿武隈山地中部の花崗岩もしくは花崗閃緑岩分布域の伐採地5箇所と八溝山地のジュラ系堆積岩地域の伐採地1箇所とした。植生はスギが主体である。現地調査では,根系発達調査として樹木切り株の直径・根の幅・根の深さとその地点の風化層厚の計測と地形状況の把握を行った。航空レーザデータとの比較のために10m×20m程度の方形区を数箇所設置し,毎木調査(切り株の位置、直径の計測)を行った。航空レーザデータの解析に関しては,樹木本数と胸高直径に着目した。樹木本数については,ArcGISでDCHM(Digital Canopy Height Model)を作成して樹木を抽出する方法を用いた。毎木調査による樹木本数(実測本数)と航空レーザで計測された樹木本数(推定本数)とを比較した。胸高直径については,方形区面積に対する樹木断面積の総和の割合を求め,レーザ透過率との関連性の解析を行った。3.結果(1)根系発達調査樹木の根系発達については,切り株直径と根の幅の間に相関係数0.3から0.5程度の弱い相関が見られた。風化層に関しては,花崗岩地域よりも花崗閃緑岩地域の方が厚いことが分かった。 地形と風化層の関係については,地形からある程度の土壌や風化層の厚さが推定できる可能性が示唆された。(2)航空レーザデータの解析結果と毎木調査の比較樹木本数に関しては,全方形区において適合率が高く再現率は低い傾向であり,誤抽出は少ないが未抽出は多いことを示している。樹木本数について毎木調査による実測と航空レーザデータからの推定とを比較した。阿武隈山地の3伐採地に八溝山地の伐採地を加えた全ての方形区の調査結果(図1)では,本数的にはあっていないものの,樹木本数の大小という視点では傾向は捉えられている。樹木の抽出率が悪いのは傾斜が急な影響と予測し,傾斜30°以上の方形区で補正を行うことで樹木抽出に改善がみられた。航空レーザデータに関しては,樹木密度が高いほど樹木の被覆により過小抽出が大きくなり抽出率が下がることがわかった。 レーザ透過率と樹木断面積割合の関係について,阿武隈山地の4地区に八溝山地の伐採地の結果を加えた結果,負の相関が弱いながらも確認できた。幾つかの方形区で外れ値を示す結果となっており,オリジナルデータの点群密度が高すぎる可能性があり,何らかの補正が必要である。樹木直径の情報については,樹高と直径の関係から求めた方がより正確だと判断された。(3)他の花崗岩地域での検証斜面崩壊リスク評価に使えるデータは樹高と樹木密度の2つとした。この2つを中心に斜面崩壊のリスクを評価する方法として,根系強度指数を用いる方法を検討した。樹木の引き抜き強度は胸高直径÷樹間距離に比例するとされている。胸高直径は樹高に比例し,樹間距離の2乗は樹木密度に反比例する。よって,根系強度は(樹高)×(疎密度平方根)に比例すると推定できる。この新たな斜面崩壊に関するパラメータを根系強度指数とした。この指数は樹高と樹木密度の情報があれば導けるので,航空レーザデータから求めた樹木に関する情報で斜面崩壊リスク評価が可能である。 阿武隈山地では近年豪雨による斜面崩壊が発生していないため,同じ花崗岩地域で2018年7月の西日本豪雨災害で崩壊が発生している広島県坂町の航空レーザデータを用いて検証を行った。2018年西日本豪雨によって崩壊した場所と崩壊してない場所について,災害発生前の航空レーザデータを用いて地形的情報のみで判定したものと植生の情報を加えた判定したもので比較した。地形的情報のみの判定方法は,集水面積と崩壊地傾斜で表される地形的滑動力指数を用いた。地形的活動力指数と根系強度指数の関係を崩壊・非崩壊でグラフに示した結果,地形情報に植生情報を加えても崩壊・非崩壊の傾向に大きな違いは見られなかった。しかし,一定以上の樹高や根系強度指数があると崩壊は起きていなかったため,根系の状況が崩壊・非崩壊に寄与していることは間違いないと考えられる。謝辞:本研究は科研費(課題番号:19H01369)の成果である。

  • 亀高 正男, 北川 博也, 豊田 守, 浪久 信, 柴原 幹, 佐藤 明
    セッションID: G3-O-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    地表踏査を行い地図上にルートマップを記入し,それをもとに地質図を描くという作業は,地質学の最も基本的な作業の一つです.昼間,現地で地形図に手書きでなぐり書きしたメモを,夜に宿舎で整理し直す,またはパソコンに入力して整理し,翌日以降の踏査計画を修正する,といったことを皆さん体験していると思います.地質調査をメインとする業務では,この一連の流れで作業を行っている限り必然的に残業時間が増えて行く傾向にありますが,これは昨今の働き方改革による残業時間削減の方針に合致しにくい業務となってしまっています.しかし,もしルートマップや地質図を図化する部分を自動化できたなら,作業時間を大幅に削減できる可能性があります.そこで我々は,携帯端末に表示した地図上に現地で直接地質情報を入力し図化するアプリとして,『ダイヤ電子野帳(DDY)』の開発を進めています. アプリの開発に使用する携帯端末としては,画面が相対的に大きく,輝度が高く屋外での視認性が良いという理由から,iPadを選択しています.このようなアプリの開発が可能となった背景としては,標高データを持った地形図の普及,携帯型GPSの位置精度の向上,携帯端末のCPUの高速化などが挙げられます. 既に登山用アプリを中心に,自分の位置情報や移動経路,写真撮影位置などを地図上に表示するための様々なアプリが公開されています.また,オープンソースの地形図や地質図を重ね合わせて表示するアプリも多数ありますが,そこに自分の地質調査結果を表示できるアプリはありませんでした.一方,走向傾斜を計測するアプリとしては,ジーエスアイと産業技術総合研究所が開発したGeoClinoが知られており,地図上に走向傾斜マークを表示する機能も備わっていましたが,走向線表示までは出来ませんでした. 『ダイヤ電子野帳(DDY)』では,標高データを持った地図を背景地図に用いることにより,入力した走向傾斜データをもとにした地質分布の3次元表現を可能としています.現在開発中のバージョンでは,(1) 地理院地図やOpenStreetMapを表示し,シームレス地質図等と重ね合わせる,(2) GPSデータをもとに現在地や移動経路を地図上に表示する,(3) 地図上に露頭位置をプロットし,露頭情報(地質記載や走向傾斜)の入力を行う,(4) 写真やスケッチを露頭情報に紐づけて登録する,(5) 測定した走向傾斜から走向線を描画する,(6) 複数地点の走向傾斜データをもとに地質図を描画する,(7) 任意の側線で切った地質断面図を描画させる,などの機能が実装されています(図1).また,iPadのGPSの精度は現状ではそれほど高くないのですが,外付けの携帯型GPSとBluetoorhで連動させることにより,位置精度の向上を図ることが可能です.さらに,取得したデータを外部へ出力し,そのままPCでデータを加工することが可能となっています.この開発中のアプリが実用化されれば,地質調査の精度及び作業効率が格段に向上し,働き方改革やDX化への貢献が大いに期待されます.発表では,開発中のアプリの概要を説明し,実際の動作画面を紹介します.

  • 綿貫 峻介, 荷福 洸, 小林 佑輝, 伊藤 慎
    セッションID: G3-O-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    油ガス探鉱やCO2地下貯留において,キャップロックとなる泥質岩の毛細管圧や岩石強度などの岩石性状を左右する要素の一つとして鉱物組成が挙げられる.特にCO2地下貯留におけるキャップロックの岩石性状に影響を及ぼすCO2–水–岩石相互作用の観点では,鉱物組成はCO2と岩石との化学反応性を決定する主な要因の一つである.そのため,泥質岩の鉱物組成の空間変化はキャップロック評価において大きな関心事であるが,実際には限られた地下データのみに基づいて評価せざるを得ないことが多く,さらにアナログとなるような同一層準での空間的変化を示した例も少ない.そこで本研究では,挟在するテフラ鍵層により同時期に堆積した泥質岩を広域に対比することが可能な房総半島中央部に分布する下部−中部更新統上総層群を対象に,泥質岩の鉱物組成とその北東方向(沖合方向)に向かった空間的変化ならびに時間的変化を検討した.検討対象としたのは,上総層群下部の,下位より黄和田層,大田代層,梅ヶ瀬層,柿ノ木台層で,これらの層にそれぞれ挟在するテフラ鍵層Kd8, O7, U1, Ka1の層準の泥質岩である.黄和田層,大田代層,梅ヶ瀬層は陸棚外縁から深海平坦面で形成された堆積物で,泥質岩は主に半遠洋性シルト岩である.一方,柿ノ木台層は外側陸棚堆積物と解釈されており,黄和田層から柿ノ木台層へと,全体として上方浅海化を示す.黄和田層と大田代層については,4–10 kmの露頭間隔でそれぞれ18 kmと28 kmに渡ってテフラ鍵層を対比し,鍵層近傍の半遠洋性シルト岩をサンプリングした.さらに,養老川付近では梅ヶ瀬層と柿ノ木台層も加えた4層準で半遠洋性シルト岩と泥質岩をサンプリングした.鏡下観察やX線回折分析により,試料ごとの含有鉱物種を決定した.さらに,蛍光X線分析により定量した全岩化学組成と鉱物ごとの化学組成を基に,各鉱物の量比を最適化するよう計算することで鉱物量比を決定した.検討対象とした泥質岩では,主成分鉱物として石英 (32–37 wt%),カリ長石 (11–14 wt%),斜長石 (10–20 wt%),緑泥石 (7–14 wt%),イライト (6– 8 wt%),スメクタイト (4–11 wt%),方解石 (3– 11 wt%)を,副成分鉱物 (<5 wt%)として角閃石,菱鉄鉱,黄鉄鉱,燐灰石が含まれる.主に深海平坦面で形成された黄和田層と,下部斜面から深海平坦面で形成された大田代層では,鉱物ごとの変動幅は最大3 wt%程度であり,空間的に明瞭な鉱物組成変化は認められない.一方,養老川付近の試料では,深海平坦面で形成された黄和田層から外側陸棚で形成した柿ノ木台層にかけて,最大9 wt%程度の鉱物量比の層序的変動が認められ,Kd8とO7の層準での空間的変化よりも変動幅が大きい.また,上位の層準ほど方解石が減少する傾向が認められる.その他の鉱物については,層準ごとに増減するものの,明瞭な変化の傾向は見られない.本研究の結果,黄和田層Kd8付近および大田代層O7付近の半遠洋性シルト岩の鉱物組成には明瞭な空間変化は認められなかった.両層準での鉱物組成の側方変化が小さいという結果は,下部斜面から深海平坦面で形成された半遠洋性シルト岩は,少なくとも20–30 km程度の範囲では鉱物組成がほぼ一定であると仮定できることを示唆し,地下評価のための実データが十分ではない場合に参照可能なアナログとなりうる.一方,黄和田層から柿ノ木台層にかけての鉱物組成の垂直的変化は比較的明瞭で,特に方解石含有量は堆積環境が浅海化するほど減少する傾向が明瞭に認められる.このことは,外側陸棚と下部斜面~深海平坦面で形成された泥質岩では,鉱物組成が異なる可能性を示している.このような鉱物組成の側方変化の可能性については,同一層準での調査対象を南西方向(陸側方向)に広げて検討していくことが,今後の課題としてあげられる.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    大植 和, 入月 俊明, 中島 啓, 瀬戸 浩二, 香月 興太, 中西 利典, 齋藤 文紀
    セッションID: G3-O-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    島根県東部の出雲市に広がる出雲平野は,完新世に形成された沖積平野で,縄文海進期には古宍道湾と呼ばれる閉鎖的内湾が形成されていたと考えられている(山田・高安,2006など).中島ほか(2020)や大植ほか(2023)は出雲平野東部の宍道湖西岸において掘削されたボーリングコア試料を用いて,産出した微化石の貝形虫化石(石灰質の2枚の殻を持つ微小甲殻類)の群集解析に基づき,古宍道湾の環境変化を予察的に報告した.今回はさらに分析試料数や層準を増やし,これまでの研究結果も統合して前期完新世の約9000年前から7000年前までの古宍道湾の古環境変化を高時間分解能で復元することを目的とする.  本研究で使用したボーリングコア(HK-19コア)のコア長は 34.8 mで,最下部は淘汰の悪い粗粒堆積物からなり,深度約33 m〜約9.5 m は泥質堆積物からなり,その下半部は塊状で上半部では葉理が発達する.深度約9.5 mから上位では砂泥互層からなり上位へ向け砂層が厚く粗粒堆積物からなる.コアは厚さ1 cmにスライスされ,凍結乾燥後250メッシュ(開口径:63 μm)の篩上で水洗した.乾燥後115メッシュ(開口径:125 μm)の篩上の試料から双眼実体顕微鏡を用いて貝形虫を全て抽出し同定した.  500以上の試料を検鏡した結果,現段階でコア深度約33 mから約21 mまでの層準の346試料から貝形虫化石が認められ,22種が同定されたが,種多様度は全体的に低かった.最多産種はBicornucythere bisanensisで2番目に多かった種はSpinileberis quadriaculeata であった.いずれの種も日本全国の閉鎖的内湾奥~中央部泥底環境に生息し,前者は水深5~10 m,後者は2~7 mに卓越することが知られている(池谷・塩崎,1993).また,B. bisanensisは内湾の貧酸素環境に最も耐性のある貝形虫種である(入月ほか,2003).その他の種はCytherois uranouchiensisCytheromorpha acupunctataLoxoconcha bispinosaL. uranouchiensisL. vivaなどの閉鎖的内湾の砂泥底種で,汽水生種Cytherura miiiも産出した. 以上の結果から,これまでの研究結果も考慮して貝形虫化石群集の分析に基づくと古宍道湾の環境の時系列変化は以下のように復元される. 約9000年~8600年前はC. miiiが断続的に産出することから汽水性の湖沼環境が広がっていた. 約8600~8290年前では,B. bisanensisが急激に増加することから水深5~10 m前後の閉鎖的な内湾泥底が形成された.すなわち,古宍道湾が形成された. 約8290~8060年前には貝形虫の密度が低くなったことから,一時的な塩分低下や閉鎖性の強化があったと考えられるが,原因の詳細は不明である. 約8060~7760年前では,再び貝形虫の密度が高くなり,本研究で最も深い水深15 m以深を示すL. vivaが産出し始め,約7920年前から種多様度も高くなったことから,海水の循環が全層準を通じて最も良くなり,やや開放的な内湾環境へ変化した.これは海水準の急上昇により,東側の古中海と通じたことを反映している.約7760~7600年前では種多様度も減少し始めたため,閉鎖性が強くなり,これは古宍道湾の湾口部が浅くなったことによると推定される. 約7600~7000年前ではB. bisanensisの産出割合・密度が相対的に減少し,S. quadriaculeataC. uranouchiensisの産出割合・密度が増加したのち,汽水性種のCytherura miiiが断続的に産出したことから,徐々に淡水の流入による塩分低下が引き起こされたと推定される. 引用文献:池谷・塩崎(1993)地質論,39,15–23;入月ほか(2003)島根大地球資源環境学研報,22,152–158;中島ほか(2020)汽水域合同研究発表会2020講演要旨;大植ほか(2023)日本地質学会西日本支部2023 講演要旨;山田・高安(2006)第四紀研究,45,391–405.

  • 生形 貴男
    セッションID: G3-O-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    中生代に繁栄したアンモナイト類(Ammonitida)のうち,ジュラ紀以降に多様化した系統は,三畳紀に出現したフィロセラス類(Phylloceratina)からジュラ紀最初期に派生した.中でも最初期に他の系統と分岐して白亜紀末まで生存したリトセラス類(Lytoceratina)では,成長を通じて螺環断面形状があまり変化せず,中程度から広めの臍を有する種が多い.こうした特徴は,祖先であるフィロセラス類の多くが共有する特徴,すなわち成長とともに螺環が縦長になるとともに臍が狭くなるような個体発生変異とは大きく異なる.むしろフィロセラス類に類似した個体発生変異は,リトセラス類よりも派生的な(フィロセラス類とはより遠縁の)Ammonitinaの系統で頻出する.こうしたことから,ジュラ紀以降のアンモナイト類では,外形の個体発生変異や成体の形状は系統を反映しないホモプラシーと見做されがちである.しかし,一般に,視覚的に認識される殻形状の個体発生変異は,成長の速度やタイミングが部位ごとに異なるために結果的に生じる全体的なパターンに過ぎない.これらを部位ごとの成長曲線に還元して分析することができれば,成長特性に基づく比較形態学が可能になると期待される. そこで本研究では,成長ととともに殻形状が変わる正常巻きアンモナイトの殻成長について,部位ごとの成長曲線から構築される理論形態モデルで近似して,モデルパラメータを逆解析でベイズ推定し,外形的特徴が一見大きく異なるフィロセラス類とリトセラス類の間で成長曲線パラメータを比較した.各部位の成長曲線にはロジスティックモデルを適用し,初期値,内的成長率,および成長減速開始時期の三つのパラメータで成長曲線の特徴を表した.このモデルでは,螺旋動径の成長曲線を基準とし,これに対して螺環の高さと幅の成長の速度・タイミングを変えて個体発生変異を作り出す.螺環高と螺環幅のそれぞれについて成長曲線のパラメータを推定した結果,フィロセラス類とリトセラス類のアンモナイトは,螺環高と螺環幅のいずれにおいても,内的成長率と成長減速開始時期の間に負の相関がみられた.すなわち,内的成長率は大きいが成長が早く減速し始めてしまうものから,内的成長率は小さいかわりに成長期間が長いものまでの一連の変異系列上に各々の種が並ぶことが分かった.これに対して,より派生的なAmmonitinaに属するものでは,この変異系列からはずれて内的成長率が小さく成長減速開始も早い種が多く見られた.一方,螺環高と螺環幅の初期値を推定した結果,いずれもリトセラス類の方がフィロセラス類よりも小さい値を示す傾向が認められた. 以上の結果から,螺環高と螺環幅の成長の速度と終了時期に関しては,その変異傾向がフィロセラス類とリトセラス類で類似していたことがわかった.両者の成体形状や個体発生パターンの大きな違いは,おもに螺旋動径に対する相対的な螺環サイズの初期値の違いによるものだと考えられる.異時性モデルのアナロジーで言えば,リトセラス類はフィロセラス類に比べて,著しく後方置換(post-displacement)的な幼生形態成熟(paedomorphosis)のようなものである.前述したように,フィロセラス類とリトセラス類は,ジュラ紀以降のアンモナイトの系統の根付近に位置し,互いに側系統の関係にあるが,殻の外形は一見大きく異なる.成長の速度とタイミングに関して本研究で見いだされた両グループに共通する関係性は,ある意味でジュラ紀以降のアンモナイトの共有原始形質的な属性であるといえよう.一方,より派生的なAmmonitinaは,こうした関係性の束縛から脱して,より多様な螺環成長パターンを進化させたが,その一部の種は,一見フィロセラス類と類似した外形の個体発生変異をフィロセラス類とは異なる成長曲線特性の下で実現したと考えられる.ジュラ紀以降のアンモナイトでは,視覚的に認識される外形やその個体発生変異の特徴よりも,その背後にある成長曲線特性の方が系統を反映するようである.

  • 矢部 淳, 植村 和彦
    セッションID: G3-O-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    沖縄本島の北西約60kmに位置する粟国島は、海底を北東ー南西方向に広がる後期中新世ー鮮新世の地質体の北東端に位置し、これが陸上に露出したものと捉えられている(氏家, 1983)。陸上に露出する地質体の下部は、主として火砕岩からなる粟国層群で、上位を琉球石灰岩に相当する銅寺層に覆われる。粟国層群に含まれる火山岩類については海洋地殻の進化史という観点からいくつかの研究があるものの(新城ほか, 1990; Shinjo et al., 1995)、本層中部の筆ん崎層に含まれる植物化石については検討されてこなかった。本層群の植物化石は、琉球列島の多様な亜熱帯林の成立史を明らかにする上で重要なため、演者らは現地の地質調査を行うとともに化石群集の分類学的研究を進めている。講演では、化石群集(以下、粟国植物群と称する)の組成について予察的な検討結果を紹介するとともに、新たに得られたU-Pb年代からみた化石群集の年代とその意義を報告する。 <層序と年代> 粟国島南西部に露出する筆ん崎層は、下位より(1)白色の浮石質凝灰角礫岩(~30m)、(2)葉理の発達した凝灰岩(~10m)、(3)浮石質凝灰角礫岩(10m+)、(4)白色〜やや黄色の凝灰岩、(5)浮石質火山礫凝灰岩(~5m)からなり、2から保存のよい大型植物化石を、5からは生痕化石や貝化石、石灰質ナンノ化石を産出する。この度、1の凝灰角礫岩と4の凝灰岩を採集しU-Pb年代の測定を試みた結果、それぞれ3.5±0.1 Maと3.6±0.1Maの年代を得た。 <粟国植物群の特徴> 化石群集は葉理が発達したやや凝灰質の明褐色泥岩から産出した。多くは葉化石であるが、一部に種子や果実の化石を含む。極めて多様な分類群からなり、現在までに71の葉型タイプを認めた。構成要素の大部分が全縁で厚い葉組織を持ち、全縁葉率は70.4%であった。もっとも多産する要素は、フトモモ属Syzygium(アデク類似種S. cf. buxifolia)およびグミ属Elaeagnus(アキグミ類似種E. cf. umbellata)で、科としてはマメ科が少なくとも8タイプ、ブナ科とクスノキ科が7タイプと多様であった。ブナ科植物では、琉球列島に固有のオキナワウラジロガシQuercus (Cyclobalanopsis) miyagii、クスノキ科では琉球列島固有のシバニッケイCinnamomum doederleiniiや、琉球列島から九州地方に分布するヤブニッケイC. yabunikkeiに比較できる標本が含まれていた。また、産出数はわずかだが、シイ属Castanopsis sp.やアコウ類似種Ficus cf. subpisocarpaが見られた。一方、本化石群集には、現在の日本列島に分布しないアブラスギ属Keteleeriaやタイワンスギ属Taiwania、フウ属Liquidambar、サイカチ属Gleditsiaも含まれている。また、果実や葉が産したモクマオウ属Casuarina sp.の現生種は南アジアから東南アジアの要素である。<粟国植物群の年代とその意義> 新たに得られたU-Pb年代は粟国植物群の年代がおよそ3.5Ma前後の中期鮮新世であることを示す。この年代は、本層上部の海成層から得られる石灰質ナンノ化石に基づいた生層序年代(CN12a: 3.6-2.8 Ma)とも整合的である。粟国植物群はカシやクスが優占することや、高い全縁葉率から、熱帯・亜熱帯の気候下で成立した組成といえる。琉球列島の固有種を含むことや、シイ類、アコウ類似種などの常緑広葉樹は、本群集と現在の琉球列島の植物相との高い共通性を示唆する。従来、琉球列島の亜熱帯林の成立時期は更新世だとされてきたが、本研究の予察的な検討結果は、現在につながる植生の萌芽が鮮新世中頃に遡ることを示し、鮮新世の温暖期(Pliocene climate optimum: 3.3-3.0 Ma)の直前で、現在よりもやや温暖な環境の拡大が影響した可能性が示唆される。 <参考文献> ・黒田登美雄, 1998, 安田・三好(編)「図説日本列島植生史」, 162-175. ・新城竜一ほか, 1990, 岩鉱, 85, 282-297. ・Shinjo, R. et al., 1995, Bull. Coll. Sci., Univ. Ryukyus, (60), 27-50. ・氏家 宏, 1983, 地質学論集, (22), 131-140.

G-4. ジェネラル サブセッション地学教育・地学史
  • 矢島 道子
    セッションID: G4-O-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    女性が自然科学を研究することは、明治時代に入ってもすぐには始まらなかった。まず、医師か教師への道が開かれた。教師への道の頂に、女子高等師範学校が設立された。保井は、香川県で誕生し、1898年、18歳で香川県師範学校を卒業し、女子高等師範学校理科に入学した。1902年、同校理科を卒業し、女学校2校で教諭となる。その後、1905年、25歳で、女子高等師範学校研究科に入学し、動物についての研究を始めたが、1906年、 植物学とくに細胞学の研究に移り、サンショウモの原葉体の研究を開始し、1907年、女子高等師範学校研究科修了し、同校助教授となる。  明治時代から始まった学位取得への道は、まず、外国で学位を取ってくることだった。次に日本での学位取得の道が開かれると、外国への留学が前提となった。保井は1913年、 文部省外国留学生としてドイツおよびアメリカに在外研究を命じられる。1914年、アメリカに留学し、シカゴ大学で細胞学的研究開始する。8月,第一次世界大戦が勃発し、ドイツ行きは断念させられる。1915年、 ハーバード大学の古植物学者、ジェフレー教授に師事して石炭の研究を開始した。1910年にイギリスの古植物学者マリー・ストープスと藤井健次郎の共著による日本の古植物化石の報告論文(Stopes and Fujii,1910)が出たことがきっかけと思われる。1916年、6月帰国し、東京帝国大学,藤井健次郎教授のもとで石炭の研究を開始する。1927年、学位論文[日本産の亜炭,褐炭,瀝青炭の構造について]で、 日本の大学で最初の女性理学博士を東京大学より取得した(論文発表はYasui, 1928)。 Marie C. Stopes and Kenjiro Fujii, “Studies on the structure and affinities of Cretaceous plants,” Philosophical Transaction of the Royal Society of London, Series B, 201 (1910), p. 1-90. Yasui K. (1928) Studies on the structure of lignite, brown coal, and bituminous coal in Japan. Jour. Faculty of Science, 1mperial University of Tokyo, Sect.1II, Botany 1 Part 4: 381-468

  • 林田 明
    セッションID: G4-O-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    同志社の創立者,新島襄(1843–1890)は22歳から約10年を海外で過ごした。彼がキリスト教神学に加えて数学や自然科学を学びアーモスト大学で理学士の称号を得たこと,鉱物学や地質学に終生興味を持っていたことはよく知られている(矢島・林田, 2017など)。新島がニューイングランドで鉱物や岩石の標本を採集し,鉱山などを見学したことは彼の手紙や日記から明らかである。彼が学んだ科目の教科書やノートについては,同志社大学工学部に在籍された島尾永康教授(島尾, 1989など)やアーモスト大学のダリア・ダリエンゾ博士(ダリエンゾ, 2007)などによって報告されている。しかし,地質学の授業に関しては1869–70年の秋学期に履修したと推定されていたものの,教科書やノートは確認されておらず,その内容は詳らかになっていなかった。 今回,同志社大学図書館に貴重書として保管されていた“Elementary geology”(Edward Hitchcock and Charles H. Hitchcock, 31st ed., 1968)を閲覧する機会を得た。これは,新島旧邸から同志社社史資料センターに移管された蔵書群とは別に八重夫人によって同志社に寄贈されたものらしく,これまでの調査対象に含まれていなかった。表紙見返しには新島のサインや日付(1868年9月24日),“Hoosac Tunnel”と記された地質断面の素描があり,本文に多くの傍線や書き込みがある。本文は“Description and Dynamical Geology” “Plaeontology” “Bearing of geology upon religion” “Economical geology” “North American geology”の5部からなり,最初の2部が全430ページのうち376ページを占める。裏表紙に貼り付けられている“Topics for the Examination of the Class of 1870 in Amherst College”という紙片の問題もほぼすべてが前半2部に関したものである。ただし,本文には直接言及されていない“Hoosac Tunnel”(マサチューセッツ州西部で建設中だった鉄道トンネル)や“Flynt’s quarry at Monson”(アーモスト南方約30 kmにあった花崗岩の砕石場)で観察される地質学的事実の記述を求める問題が含まれる。 “Elementary geology”の初版はエドワード・ヒチコック(1793–1864)によって1940年に出版され,息子チャールズとの共著となった31版(1860年)まで版を重ねた。ヒチコックはアメリカの地質学の基礎を築いた人物として知られ,1826年から1864年までアーモスト大学の教授あるいは学長として地質学や自然神学の授業を担当した。新島がアーモストに来たのは1867年であったが,大学にはヒッチコックが収集した化石や岩石鉱物の標本が多数所蔵されており,新島が学んだ自然神学の講義は彼の著書“The religion of geology and its connected sciences”(1851年初版)に基づくものであった。それには地質学によって明らかにされる自然の成り立ちが聖書の記述と一致することが主張されている。“Elementary geology”の第3部でも,創世記の天地創造の記述と地質時代の歴史との対比が試みられ,「啓示を信じる者たちは(中略)この科学が自然宗教と啓示宗教の両方に強力な助けを与えるという神の摂理に感謝すべき」と述べられている。19世紀後半にはチャールズ・ライエル(1797–1875)やチャールズ・ダーウィン(1809–1882)の活躍によって自然科学がキリスト教から切り離されていったが,宗教色の強いニューイングランドでは地質学と自然神学が分かち難く結びついていたことが窺える。 新島は自然神学と結びついた地質学を学びながら,それが社会の発展のために有用な学問であることも認識していた。1874年11月に帰国した新島は日本でも鉱山の見学や化石の採集を行い,同志社英学校に地質学を含む自然科学の科目を設けた。さらに「基督教の徳育を奨励し、最も善良なる理学の教育を授けん」として同志社にハリス理化学校が設置されたが,新島の没後数年でその運営は打ち切られた。彼の願いは叶わなかったが,その活動は,ベンジャミン・ライマン(1873年来日)やエドムント・ナウマン(1875年来日)とは異なる道筋による日本への地質学移入の試みと位置付けることができる。引用文献ダリエンゾ ダリア, 北垣宗治(訳),2007, 新島研究, 98, 342–427.島尾永康,1986,科学史研究Ⅱ, 25, 83–88.矢島道子,林田 明,2017,日本地質学会News, 20(8), 5–6.

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