日本地質学会学術大会講演要旨
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T12.地球史
  • 瀨戸山 功平, 高畑 直人, 尾上 哲治, 塩原 拓真, 佐野 有司, 磯崎 行雄
    セッションID: T12-P-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    地球表層に降下する宇宙塵の総量は, 年間2700±1400トンから16000±9100トンと見積もられており,地表 1 m2あたりにもたらされる宇宙塵は年平均 0.05 mg 以下とごく少量である.しかし,大洋域の深海底で堆積した遠洋性堆積物は,大陸起源の粗粒砕屑物の流入がほとんどなく,堆積速度が非常に遅いため,他の堆積物に比べ地球外物質が濃集しやすい.そのため,遠洋性堆積物から地球外物質流入量の変動を調べることによって,小惑星帯での衝突イベントや惑星間空間に分布する塵の増減を復元できると考えられている.また,地球外物質は地球物質に比べ高いHe同位体比(3He/4He比)を持つことが知られており,深海堆積物中の³He濃度は白亜紀以降の地球への地球外物質の流入量を復元することに利用されている.しかし,ジュラ紀以前の深海底堆積物は,現在の深海底にほとんど存在しないことから,ヘリウム同位体(3He, 4He)を用いたジュラ紀以前の地球外物質流入量の記録は復元されていない.  そこで本研究では,後期ペルム紀から三畳紀を対象に,ヘリウム同位体を用いて,地球外物質流入量の変動記録解読を試みた.研究対象は,美濃帯(岐阜県舟伏山地域,犬山地域)および秩父帯(大分県津久見地域)の上部ペルム系〜上部三畳系遠洋性堆積岩である層状チャートである.ヘリウム同位体分析は,東京大学大気海洋研究所の希ガス用質量分析計を用いて行った.  測定の結果,バルク分析で得られた3He濃度は,ペルム紀キャピタニアンからチャンシンジアンにかけて増加する傾向がみられた.また,ウーチャーピンジアンの最前期とチャンシンジアン最後期において,3He濃度の短期間の上昇がみられた.ペルム紀/三畳紀境界より上位層では,3He濃度は急激に低下した. 3He/4He比は,0.3〜0.8 Raの値をとり,全体としては検討セクションの下部から上部に向かって緩やかに低下する傾向がみられた.また本研究では,中期三畳紀のアニシアン後期とラディニアン後期において,地球外³Heの流入量が増加したことが明らかになった.  検討したセクションの堆積速度に基づいて地球外3Heフラックスを計算すると,ペルム紀ウーチャーピンジアン最前期,チャンシンジアン最後期,中期三畳紀アニシアン後期,ラディニアン後期において,3Heフラックスが約4〜7倍増加したことが明らかになった.この結果は,小惑星帯における大規模な衝突や長周期彗星の増加などによって,これらの時期に惑星間空間に分布する塵が増加した可能性を示唆している.またこれら4度の地球外3Heフラックス増加は,主要な海退が起こった時期と一致する.そのため,オルドビス紀のL-コンドライト母天体崩壊イベント(約466Ma; Schmitz et al., 2019)で報告されているように,宇宙塵フラックス増加が,地球規模の寒冷化と大規模な海退を引き起こした可能性がある.引用文献:Schmitz, B. et al., 2019. An extraterrestrial trigger for the mid-Ordovician ice age: Dust from the breakup of the L-chondrite parent body. Sci Adv 5, eaax4184.

  • 大島 温志, 尾上 哲治, 冨松 由希, Rigo Manuel
    セッションID: T12-P-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    後期三畳紀レーティアンは,中央大西洋火成岩岩石区(CAMP)における大規模火山活動が引き金となって発生した三畳紀末大量絶滅に先行して,段階的な生物の絶滅が起こった時代として知られている.後期三畳紀ノーリアン/レーティアン境界では,炭素同位体比の負異常に伴い,代表的な海生生物(例えば,放散虫やコノドント,アンモナイト)の絶滅および種数の減少が報告されてきた.このうち,炭素同位体比の負の異常は,当時のパンサラッサ海を超えてパンゲア大陸の東西両側及び,北半球,南半球の両方で記録されており,世界的な炭素循環の変動が起こったと考えられている(Rigo et al., 2020).これらの後期三畳紀レーティアンの段階的な生物絶滅や環境変動は,当時のパンサラッサ海遠洋域で堆積した深海堆積物である日本のジュラ紀付加体中の層状チャートにも記録されていると推測される.しかし,ジュラ紀付加体中の層状チャートは主に放散虫化石層序に基づいて年代決定がなされており,大陸縁辺での層序復元に用いられる国際標準のアンモナイトやコノドント化石層序との対比が十分に行われていない.そのため,層状チャートと他地域のノーリアン/レーティアン境界付近における地質記録の厳密な対比を行うことは難しいという問題がある.そこで本研究では,岐阜県犬山地域に露出する美濃帯上部三畳系ノーリアン〜レーティアン層状チャートから産出したコノドントおよび放散虫化石を報告し,ノーリアン/レーティアン境界の層準および指標となる化石種(コノドント,放散虫)を確定することを目的としてコノドント・放散虫統合化石層序の構築を行った.研究では,岐阜県坂祝町の木曽川右岸露頭から採取したチャート試料(22試料)について微化石処理を行い,放散虫およびコノドント化石を抽出した.得られた放散虫・コノドント化石については,Sugiyama (1997)の放散虫化石帯およびRigo et al. (2018)のコノドント化石帯に従って,コノドント・放散虫統合化石層序の作成と年代決定を行った. 研究の結果,検討セクションからSkirtFやPraemesosaturnalis heilongjiangensisLivarella densiporataなどの中期〜後期ノーリアン,前期レーティアンを示す放散虫化石9属21種が産出した.これまで後期ノーリアンの指標種とされてきたBetraccium deweveriは,検討セクションを通じて産出が確認された.またコノドントについては,後期ノーリアン後期を示すParvigondorella andrusoviMisikella hernsteiniなど2属5種が同定された.検討セクション最上部のB. deweveri最終産出層準付近では,Misikella hernsteiniとレーティアンの基底に対比されるMisikalla posthernsteiniの中間的な形態を持つ種(M. posthernsteini s.l.)の産出が認められた.M. posthernsteini s.l. は本来記載されたM. posthernsteini(便宜上M. posthernsteini s.s. とする)とは異なる特徴を有しており,M. hernsteiniからM. posthernsteini s.s.へと形態が変化する段階のものであると考えられている(Caruthers et al., 2021).このことから,M. posthernsteini s.s.の初産出によって特徴付けられるノーリアン/レーティアン境界は,B. deweveri最終産出層準よりさらに上位に位置することが明らかとなった.本セクションのノーリアン/レーティアン境界のより正確な層準を決定するにあたり,M. hernsteini からM. posthernsteini s.l. およびM. posthernsteini s.s.への進化的変化の過程について,層位分布,放散虫化石群集の変化と合わせて今後さらなる検討が必要である.引用文献:Rigo, M. et al., 2020, Earth-Science Reviews, 204, 103180. Rigo, M. et al., 2018, The Late Triassic World, Topics in Geobiology, 46, 189-235. Sugiyama, K, 1997, Mizunami Fossil Mus, 24, 79-193. Caruthers, A.H. et al., 2021, Earth and Planetary Science Letters, 577, 117262.

  • 山崎 誠, 高橋 春樹, 小澤 福之, 根本 直樹, 嶋田 智恵子
    セッションID: T12-P-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    日本海沿岸に沿って分布する最上部新生界は,石油坑井の層序検討にともなって古くから層序の検討がおこなわれてきた.なかでも上部鮮新統から更新統の海成堆積岩類は微化石を豊富に含むことから,層序学的検討とともに堆積当時の環境復元に有用である.北海道西部には,更新統の海成堆積物が小規模に分布し(嵯峨山,2010),秋田県や青森県など本州と北海道を含めた広域的な環境変動を検討するのに役立つ.北斗市に分布する更新統富川層は化石礁が発達し,軟体動物化石や微化石が産する(金谷・須鎗,1951;根本,1997).近年,嶋田ほか(2021)による珪藻化石層序の検討により,富川層のとり得る地質年代は2.43−0.3 Maと指摘され,同層が日本海北部地域の更新統の環境変動を議論するうえで重要であることが判明した.富川層では既に,根本(2006)により有孔虫化石に基づく環境変動の議論がなされているが,本研究では,さらに試料数を増やし,珪藻化石層序に加えて,浮遊性有孔虫化石群集により古環境変動の復元をおこなった. 調査をおこなった細小股沢では,暗緑灰色塊状泥岩を主な岩相とする鮮新統茂辺地川層と,その上位を不整合で覆う基質支持礫岩から緑灰色塊状シルト岩の粒径変化に富む更新統富川層が分布する.岩相調査の結果から富川層の岩相は4つのユニット:下位からI〜IVに分けられた.ユニットⅠは中礫から巨礫サイズの亜角礫からなる淘汰の悪い基質支持礫岩,ユニットⅡは主に暗緑灰色や暗青灰色で淘汰の悪い塊状粗粒から細粒砂岩よりなり,中礫から細礫サイズの亜円礫ないし円礫からなる淘汰の悪い基質支持礫岩薄層が挟在する.ユニットⅢは炭質物や海緑石を伴う緑灰色塊状シルト岩や緑灰色塊状砂質シルト岩,ユニットⅣは炭質物を伴い生痕の発達する暗緑灰色や暗青灰色で淘汰の悪い塊状中粒ないし細粒砂岩である.これらの岩相調査に基づくと富川層の調査層序区間は,基本的に外浜以浅で堆積したが,一時的には波の営力の及ばないシルトの堆積場も出現したと推測される. 群集解析では採集した全40試料のうち17試料から6属21種の浮遊性有孔虫化石が産出した.Neogloboquadrina pachydermaが最も多産し,次いでGlobigerina bulloidesTurborotalita quinquelobaが随伴した.そのほか,Neogloboquadrina incomptaGlobigerinita glutinataGlobigerinoides ruberがわずかながら産出した.調査層序区間の下部からは熱帯~亜熱帯を指標するG. ruberや暖流関連種が産出したことから,暖流の影響下にあったことが推測されるものの,それより上位では,寒冷環境を指標するN. pachydermaが最も産出したことから,調査層序区間の最下部を除き,富川層堆積時は基本的に寒冷な環境であったことが推測される.さらに調査層序区間の中部から上部では海氷関連珪藻種群が多産し(嶋田ほか,2021),寒冷化傾向が著しく進行したと推測される.珪藻化石層序による地質年代に基づくと,寒冷環境へと移行する層準は,中期更新世気候遷移期(mid-Pleistocene climate transition; MPT)の開始期(McClymont et al., 2013)に対比されると推測される.  引用文献 金谷・須鎗, 1951, 新生代の研究, 9, 131–137; McClymont et al., 2013, Earth Sci. Rev., 123, 173–193; 根本, 1997, Oshimanography, 4, 22–27; 根本, 2006, 化石研究会会誌, 39, 12–20; 嵯峨山,2010, 日本地方地質誌, 1, 235–239; 嶋田ほか, 2021, 地球科学, 75, 217–229.

  • 薗田 哲平, 小布施 彰太, 辻野 泰之, 中尾 賢一, 中山 健太朗
    セッションID: T12-P-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    アドクス科のカメ類は白亜紀から始新世にかけてアジアおよび北アメリカ大陸で繁栄した半水生のカメ類である(Hirayama et al., 2000).アドクス科は現生のスッポン科およびスッポンモドキ科を含む汎スッポン類(Pan-trionychia)に含まれるが,その姿や生態はむしろイシガメやヌマガメのような半水生種に近かったと考えられている(Meylan & Gaffney, 1989).後期白亜紀に比べて前期白亜紀におけるアドクス科の化石記録は乏しく,タイやラオス,日本でわずかに報告されているのみである(Tong et al., 2009; Sonoda et al., 2015a). 今回,徳島県勝浦町に分布する下部白亜系の物部川層群立川層最上部から多数のアドクス科カメ類の甲羅化石が産出したので報告する.立川層は主に汽水~淡水成層からなり,上位の海成層である下部羽ノ浦層から産出するアンモノイドによって上部オーテリビアン〜下部バレミアン階に対比されている(松川・伊藤,1995).近年,徳島県立博物館の発掘調査によって立川層最上部の淡水成層からは恐竜類を含む数多くの脊椎動物化石が発見されている(辻野ほか,2020).産出したカメ類の甲羅化石のうち43点については,1)甲羅の外表面が浅くて丸いピット状の小さな凹みからなる彫刻に覆われている,2)肋骨頭の発達が弱い,3)肋板骨の腹側面に肋骨相当部分の膨らみがなく平坦である,4)鱗板溝が浅く細いなどのアドクス科に特有の形質が確認できた.そのうち,第2上尾板骨,左第3・4・6肋板骨,右第4・8肋板骨,左第4・6縁板骨、右第5・6・10縁板骨など計17点において,5)甲羅中央部から後方にかけて縁鱗が肋板骨の遠位部を顕著に覆うAdocus属の共有派生形質が認められた.前期白亜紀におけるAdocus属は,これまで福井県の手取層群北谷層(アプチアン階)や福岡県の関門層群千石層(上部バレミアン〜アプチアン階)からしか知られておらず,下部バレミアン階からは初めての報告であり,世界最古の産出記録となる.また西南日本外帯の下部白亜系からは初の産出例である.一方で,1)〜4)の特徴を有するものの5)の特徴を満たさない肋板骨や縁板骨が7点確認された.標本が部分的であるため,属の同定は困難であるが,これは立川層の堆積当時に少なくとも2属のアドクス科カメ類が同所的に生息していたことを示唆している.手取層群北谷層においても同様に, Adocus sp. に加えて,異なる属と考えられるアドクス科カメ類が確認されている(Sonoda et al., 2015b).北谷層からはアドクス科以外にも多様なカメ類が知られており,スッポンモドキ科やシンチャンケリス科,シネミス科?は立川層と共通している.一方でタイやラオスの下部白亜系においては,スッポンモドキ科が産出する点においては共通するが,アドクス科についてはAdocus属とは異なるシャチェミス亜科のカメ類のみが知られている(Tong et al., 2009).今後,より詳細な分類学的検討を行うことによって,最古のAdocus属の形態学的な特徴や,アドクス科ならびに汎スッポン類の初期進化を明らかにし,前期白亜紀の東アジアにおける古生物地理の解明において重要な資料となることが期待される.引用文献Hirayama et al., 2000. Russian Journal of Herpetology (7)3: 181–198. 松川・伊藤,1995.地質学雑誌,101(1): 42–53. Meylan & Gaffney, 1989. American Museum Novitates, 2941: 1–60. Sonoda et al., 2015a. Paleontological Research 19(1): 26–32. Sonoda et al., 2015b. PeerJ PrePrints 3:e949v1 Tong et al., 2009. Geological Society, London, Special Publications (315): 141–152. 辻野ほか,2020.徳島県立博物館研究報告(30): 1–14.

  • 西村 玲, 千葉 謙太郎, 青木 一勝, 小木曽 哲
    セッションID: T12-P-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    モンゴル国ゴビ砂漠に分布する上部白亜系からは,恐竜を代表とする保存状態の良い脊椎動物化石が産出することが世界的に知られており,約100年前から盛んに研究が行われてきた.しかし,化石が産出する地層は層厚が薄く非常に広範囲に散在しているため,広域的な岩相層序の確立が困難であった.また,その分布域が大陸内陸部に位置することや,大規模な火成活動の影響を受けていないことから,堆積絶対年代値の決定も困難であった.そのため,現在でもモンゴル上部白亜系全域の層序関係や正確な堆積年代は明らかとなっていない.そこで我々のグループは,モンゴルの上部白亜系から比較的採取が容易なカリーチに含まれるカルサイトを用いたU-Pb年代測定法を実施し,地層間対比や年代特定を試みている(Kurumada et al., 2020).しかし,カリーチが存在しない地域も存在するため,脊椎動物の歯化石(アパタイト)を対象としたU-Pb年代測定法に注目した(Tanabe et al., 2023).歯は化石化過程においてヒドロキシアパタイトからフルオロアパタイトに再結晶する際にウランが取り込まれるため, U-Pb年代測定を適用することができる(Sano et al., 2006; Greene et al., 2018; Barreto et al., 2022).一方で歯化石は化石化後に二次的な変質を受けるという問題が存在するが,この変質の程度は化石中のY濃度によりある程度判別ができる(Greene et al., 2018; Tanabe et al., 2023). そこで,本研究ではゴビ砂漠東部に分布する上部白亜系最下部バインシレ層の堆積年代制約のため,同地域から得られた歯化石に対し,Micro-XRFによるYマップ分析から二次的な変質の影響を判別し,その結果をもとにLA-ICP-MSによるアパタイトU-Pb年代測定を試みる. 測定試料については2016年から2022年にかけて実施したゴビ砂漠化石発掘調査で採取した歯化石のうち,比較的大型で保存状態の良好な標本を4点選択した.それらのうち,バインシレ地域から産出した歯化石2点とバイシンツァフ地域から産出した歯化石1点はその形態的特徴として,唇舌側に幅が広いこと,歯冠部に比較的強い横方向の起伏を持つこと,さらには歯の断面がD字型かつ舌側面中央付近に隆起があることが確認され,ティラノサウルス上科がもつ特徴と一致する.残り1点についてはバインシレ地域から発見されたもので,歯冠先端が丸く,断面が円形で単純な形状をしていることから竜脚類の歯化石と考えられる.薄片を作成し観察を行った結果,内部に大きな空隙やクラックはなく,見た目には大きな二次的な変質の影響は確認されなかった. 本発表では,これらの試料に対し行ったYマップ分析と年代測定結果について報告し,モンゴル上部白亜系の層序関係について議論する.参考文献 Barreto et al., 2020, Journal of South American Earth Science, 116, 103774. Green et al., 2018, Chemical Geology, 493, 1-15. Kurumada et al., 2020. Terra Nova, doi.org/10.1111/ter.12456. Sano et al., 2006, Geochemical Journal, 40, 171-179. Tanabe et al., 2023. Island Arc, doi.org/10.1111/iar.12488.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    太田 映, 黒田 潤一郎, 高嶋 礼詩, 星 博幸, 林 圭一, 鈴木 勝彦, 石川 晃, 西 弘嗣
    セッションID: T12-P-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    約6600万年前の白亜紀―古第三紀境界(K-Pg境界)において、恐竜を含む地上の生物の75%が絶滅した。メキシコのユカタン半島に落下した小天体が、この大量絶滅をもたらした直接的な原因とされている(Alvalez et al., 1980)。さらに、K-Pg境界をまたぐおよそ100万年もの間、インドのデカン・トラップで大規模な洪水玄武岩の噴出が起こったことも知られている(Sprain et al., 2019)。このデカン火山活動が引き起こした環境変化も、K-Pg生物大量絶滅に関与していた可能性が高いと指摘されている(Schulte et al., 2010)。 近年、海水オスミウム同位体比(187Os/188Os)が、全球的な地球史イベントの研究に盛んに用いられている。隕石やマントルの187Os/188Os 比は、187Osの親核種である187Reに富む大陸地殻上部(約1.3)に比べて1桁低い値をとる(約0.13)。そのため、堆積物中の187Os/188Osの急激な低下は、隕石衝突や大規模火山活動が起こったことを示す。これは、白金族元素濃度の一時的な急上昇と合わせて、世界各地で確認できるK-Pg天体衝突の地球化学的証拠となっている。 日本においては、北海道白糠丘陵における根室層群で、白亜紀末から古第三紀初頭の堆積物が有孔虫化石記録によって確認されているが(Saito et al., 1986)、白金族元素の濃度や同位体比について詳細な検討はなされていない。そこで本研究では、K-Pg境界が存在するとされる川流布層において調査を行った。川流布層が露出する川流布川支流の試料を用いて、K-Pg境界周辺のインターバルで白金族元素組成とOs同位体比の検討を行った。川流布川支流の沢に沿った200 mの露頭について、20ヶ所で試料採取し、K-Pg境界に近いと推察される層準では高解像度サンプリング(層厚2mの区間で計14サンプル)を行い、白金族元素の濃度とOs同位体比の測定を行った。 その結果、K-Pg境界に近いと考えられる層準で、明瞭な187Os/188Os比の低下(0.235)を確認することができた。下位の白亜系最上部と思われる層準では、187Os/188Os 比はおよそ0.6 であり、Ravizza and Peucker-Ehrenbrink (2003)などで報告されている遠洋域堆積岩のマーストリヒチアンの値に一致する。一方、上位の古第三系最下部と思われる層準では、同位体比は0.4であり、やはり遠洋域堆積岩の暁新世の値に一致する。187Os/188Os比の最低値がみられた層準において、Os濃度の一時的な上昇(約80pg g-1から約250pg g-1)と、Ir濃度のわずかな上昇(約16pg g-1から約37pg g-1)もみられた。これらの結果から、K-Pg境界を含む層準を特定することができた。  Ravizza and Peucker-Ehrenbrink (2003)や Robinson et al. (2009)によると、世界各地のサイトで、K-Pg境界における187Os/188Os比の2段階の低下が認められている。1段階目の低下(0.6から0.4へ)はK-Pg境界直前のC29R/C30N地磁気逆転境界(約66.3Ma)から始まっており、これはデカン火山活動が開始した時期とほぼ一致する。2段階目の低下(0.4から0.2へ)はK-Pg隕石衝突によるものとされる。しかしながら、本研究の川流布セクションおいては、デカン火山活動が既に起こっていたC29Rの層準でも187Os/188Os比はおよそ0.6の安定した値をとり、K-Pg境界と思われる層準で187Os/188Os比は突然低下している。これは、前述した先行研究のサイトと川流布層の堆積速度の違いを反映している可能性があるので、今後検証していく予定である。【引用文献】Alvarez, L.W. et al. (1980) Science, 208, 1095–1108. Ravizza, G., and Peucker-Ehrenbrink , B. (2003) Science, 302, 1392–1395. Robinson, N. et al. (2009) Earth Planetary Science Letters, 281, 159–168. Saito, T. et al. (1986) Nature, 323, 253–255. Schulte, P., et al. (2010) Science, 327, 1214–1218.Sprain, C. J. et al. (2019) Science, 363, 866-870.

  • 上野 智広, 岩谷 北斗, 鈴木 克明, 板木 拓也, 清家 弘治, 中野 太賀
    セッションID: T12-P-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】 トカラ列島は南西諸島に属する12島から構成され、トカラギャップと呼ばれる水深1000mを超える海底谷が横たわる。トカラギャップは、渡瀬線と呼ばれる陸棲動物の生物地理区境界と一致し (Komaki, 2021)、主に陸上生物の移動を妨げてきたとされる。また、トカラ列島周辺海域は、黒潮の流路が位置する(川辺, 2003)。黒潮は海洋生物の拡散を支持すると同時に障壁ともなることが知られている。したがって、トカラ列島における生物相の変遷史を明らかにすることは、生物地理分布の形成機構を明らかにするために重要である。そこで、本研究は、理想的な生物指標・環境指標として知られる貝形虫化石の群集解析に基づき、過去1万2千年間におけるトカラ列島周辺海域の生物相の時系列変化を明らかにするとともに、その生物相がどのような環境変遷に影響を受けてきたのかを明らかにすることを目指す。 【試料と手法】 本研究は、2021年に地質調査総合センターにより実施されたGB21-1航海にて、トカラ列島南西部に位置する宝島西方の海盆域より採取された柱状堆積物(緯度:29°5.55’N, 経度:129°2.16’E, 水深:873 m)を試料として用いた。研究試料は、大口径グラビティコアラーおよび、パイロットコアラーとして使用したアシュラ式採泥器により採取された2本のコアで、それぞれのコア長は227 cmおよび25 cmである。調査層準の岩相は、全体として粘土質シルトから構成されるが、下部および中部層準は、やや粗粒化し極細粒砂質シルト層からなる(鈴木ほか,2022)。調査層準は、浮遊性有孔虫殻を用いた14C年代測定により、過去1万2千年間の堆積年代が得られている。本研究は、調査層準の貝形虫化石相と現在のトカラ列島周辺海域の現生貝形虫のセンサスデータ(中野ほか, 2022)および各種環境項目(水深、水温、塩分、濁度、溶存酸素)を比較することにより、堆積当時の底層環境の変遷を具体的数値として復元した。 【結果と考察】 結果として、少なくとも71属の貝形虫化石が得られた。産出した貝形虫化石の多くは、現在のトカラ列島周辺海域にて報告されている相対的深海域に分布の中心をもつ現生種(中野ほか, 2022)と比較された。最も多産するタクサは、Krithe属で、次いでCytheropteron属、Argilloecia属、Bradleya属の産出頻度が高い。これらの貝形虫の産出頻度は、調査層準を通じて明瞭な変動を示すが、とくにコア下部のやや粗粒化する層準では、他の層準と異なりKritheではなくArgilloeciaが主要タクサとして認定された。他の層準では、現生貝形虫との比較から得た底層水温および溶存酸素が調査層準における最大値を示した。本層準は14C年代に従うと、亜氷期のヤンガードライヤス期に相当する可能性がある。太平洋低緯度地域の中層水塊では、ヤンガードライヤス期における中層水循環の一時的な停滞により底層環境が変化したために、KritheからArgilloeciaへと主要属がシフトした可能性が報告されている(Iwatani et al., 2018)。本研究でトカラ列島周辺海域にて認められた生物相変化も、ヤンガードライヤス期とそれ以降の底層環境の違いを記録したものかもしれない。 【引用文献】 Iwatani et al., 2018, Geology, 46(6), 567-570. Komaki, 2021, Journal of Biogeography, 48(9), 2375–2386. 川辺, 2003, 海の研究, 12(3), 247-267. 中野ほか, 2022, 地質調査研究報告, 73, (5/6), 329-335. 鈴木ほか, 2022, 地質調査研究報告, 73,(5/6), 275–299.

  • 松崎 賢史
    セッションID: T12-P-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    中新世のスーパー温暖期以降、地球の気候が徐々に寒冷してきた。特に後期中新世には、地球全体の寒冷化が起こり、北半球の初期氷床の確立の原因の一つとなったとも考えられている。そのイベントはLate Miocene Global Cooling (LMGC)と名付けられている。 この研究では、国際深海科学掘削計画(ODP) のサイト1208から得られたコアの堆積物中の放散虫微化石の群集の変動を分析し、過去1000万年間の海洋環境の変化を復元した。気候の寒冷化をより理解するために、現生放散虫種に基づいて過去1000万年間の表層水温も復元した。この復元は堆積物の有機物の分析(アルケノン)に基づく表層水温とも比較し、現在放散虫種を用いて復元した中新世の表層水温が適切であることを示した。 しかし、LMGCの期間中は、現生放散虫種とアルケノンに基づく表層水温の間には大きなオフセットも記録した。可能性としては放散虫種が堆積物中に含まれるアルケノンに比べると、より東アジア冬季モンスーンの影響を強く受けるため、放散虫種はより冬の表層水温を反映していることを仮定した。また、他の放散虫の環境指標種の相対頻度から、LMGC中には北西太平洋の古海洋学的な再編成が起こったことも明らかにした。この期間には、太平洋子午面循環が弱化し、南北の温度勾配が増大するとともに、亜熱帯フロントが南進した可能性があることも仮定した。

  • 小澤 周, 山﨑 誠, 馬場 創太, 向江 祐貴, 椿野 将輝
    セッションID: T12-P-11
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    後期鮮新世は北半球高緯度域の氷床拡大とそれに伴う寒冷化が起こったとされ,汎世界的な環境変動を理解するために重要な時代である.日本海側地域で石灰質ナンノ化石対比基準面 A が追跡される(Sato and Kameo, 1996)ことから,日本海側でも様々な指標から鮮新世末から更新世始めの古環境の変遷に関する多くの研究が行われた.その結果,後期鮮新世は温暖で,前期更新世で急激な寒冷化が起きたことが明らかになった(北村・木元,2004;天野ほか,2011など).しかし寒冷化のタイミングに関しては異なった見解も得られており(Yamamoto and Kobayashi, 2016 ; 山﨑ほか,2020など),鮮新世の末で一貫した環境変動を示すわけではないことも指摘される.寒冷化の影響やその時期について統一的な見解が得られていないことから,秋田県中部から北部に分布する上部鮮新統から下部更新統について岩相調査と浮遊性有孔虫化石群集の解析を行った. 岩相調査については,調査対象の層序区間が比較的良好に露出する秋田県中部黒川地域で説明を行う.調査層準区間下部の天徳寺層で塊状な青灰色砂質シルト岩,上位の笹岡層では下部から順に塊状な青灰色シルト質砂岩,塊状な青灰色極細粒砂岩,細粒砂岩,中粒砂岩が観察され,上方粗粒化の傾向を示す.笹岡層中部ではトラフ型斜交層理が観察され,調査層序区間は,シルトの堆積する場から上部外浜のような環境にまで浅海化したことが推測される.  浮遊性有孔虫化石群集解析では,北から順に,北部峰浜地域は6属16種,北部柾山沢地域は5属13種,中部井川町大菅生沢地域では6属13種,中部黒川地域では6属14種がそれぞれ同定された.いずれの地域でもGlobigerina bulloides Globorotalia inflata praeinflataNeogloboquadrina incomptaTurborotalita quinquelobaが比較的多産する傾向にあるが,峰浜地域の笹岡層を除いてNeogloboquadrina pachydermaの産出は稀である.これらの特徴から,本研究で対象とする調査層序区間はいずれも米谷(1978)のGlobigerina pachyderma(dextral)/Globorotalia orientalis Zoneに対比される.これは,本研究で対象とする調査層序区間において石灰質ナンノ化石基準面A(2.75 Ma)が追跡されるという佐藤ほか(1988,2003)の結果と調和的である.G. bulloidesT. quinquelobaの相対頻度を足し合わせた,低塩分で富栄養な環境を示す指標に注目すると大菅生沢地域では2.75 Ma以降で減少傾向を示すものの,他の三地域では増加傾向を示す.また,温帯性中層水の指標とされるG. inflata s.l.は,柾山沢地域と大菅生沢地域で多産し,最大で71%に達する.同種の調査層序区間の層位分布をみると間欠的な産出で特徴づけられ,2.75 Ma前後で際立った変化は認められない.寒冷な環境を指標するN. pachydermaは,峰浜地域でのみ2.75 Ma以降に多産するが,他の3地域では,その産出は極めて少ない.以上から大菅生沢地域を除く秋田中部から北部地域では2.75 Ma以降には,北半球高緯度域での氷床拡大に伴う海水準の低下と関連して沿岸からの低塩水の影響が強くおよぶ堆積場となったことが推測される.また,調査層序区間を通して断続的な暖流の流入が示唆される.講演では,岩相変化と浮遊性有孔虫化石群集の比較も加えて,秋田県中部から北部地域の海洋環境変動について議論する.  引用文献 天野ほか, 2011, 地質雑, 117, 508–522; 北村・木元, 2004, 第四紀研究, 43,417–434; 米谷, 1978, 池辺展生教授記念論文集, 35–60; 佐藤ほか, 1988, 石技誌, 53, 475–491; Sato and Kameo, 1996, Proc. Ocean Drilling Program, Scientific Results, 151, 39–59; 佐藤ほか, 2003, 地質雑, 109, 280–292; Yamamoto and Kobayashi, 2016, Deep-Sea Res. II, 125–126, 177–183; 山﨑ほか, 2020, 白神研究, 14, 35–48.

  • 根本 英利, 亀尾 浩司
    セッションID: T12-P-12
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    上部鮮新統―下部更新統における石灰質ナノ化石帯の標識種には,主に星形の形態が特徴的なDiscoaster属の産出上限が用いられる.一般的に,Discoaster属は低緯度海域で明瞭に確認されることが多く,相対産出頻度の少ない中―高緯度地域においては見いだされることが困難な場合もある.そのため,上部鮮新統–下部更新統の年代決定には,Discoaster属以外の分類群を用いた基準面を設定する必要性があると考えられる.上部鮮新統–下部更新統においてもっとも相対産出頻度が高い分類群はReticulofenestra属である.Kameo and Takayama (1999)は,数十万年で繰り返されるReticulofenestra属の個体サイズの規則的な変動を指摘し,大型個体が消滅するイベントと,古地磁気イベントとの関係を明らかにした.同様な周期的変化は,より古い時代においても認められており,様々な時間スケールにおいて数十万年から数百年の周期的な変動が確認されている(e.g., Young, 1990).そこで本研究では,低緯度でのReticulofenestra属の個体サイズの変化を詳細に検討し,後期鮮新世―前期更新世での周期的変動がグローバルに適用できるものか,基準面に適しているかを明らかにすることを目的のひとつとした.併せて,その個体サイズの周期的な変化の要因についても考察した. 本研究で取り扱った試料は,国際深海掘削計画(Ocean Drilling Program: ODP)第138次研究航海で得られた東部赤道太平洋の深海底コアのうち,Hole 846B, 846C, 846Dの堆積物である.偏光顕微鏡を用いて,試料中の石灰質ナノ化石を無作為に200個体抽出し同定を行い,各種の相対産出頻度を求めた.そのうちReticulofenestra属については接眼ミクロメーターを用いて1 µmごとにサイズを分けて記録した.また,Reticulofenestra属は最低100個体を検鏡できるまで追加で検鏡を行った. 検討の結果,少なくとも15属29種以上の石灰質ナノ化石の産出が認められた.本研究では石灰質ナノ基準面として、年代の古いものから順にReticulofenestra pseudoumbilicusReticulofenestra minutula var. A,Discoaster tamalisReticulofenestra minutula var. B,Discoaster variabillsDiscoaster surculus,計6種の産出上限が認定できた。いずれも最大で0.1 Ma程度の地域差であることから,時間決定精度がよい基準面といえる.その中でもR. minutula var. Aやvar. Bの産出上限は,ほかのDiscoaster属に比べ地域差が少ない傾向にあった.これらの結果から,これらの基準面は汎世界的に同時であり,広域に適用な可能であると考えられる. 一方,Reticulofenestra属の個体サイズの変動を詳細に検討すると,以下の3つの顕著なバイオイベントが見られた.①:3.370 Ma(~MIS M2):1–2 µm個体の減少,>3 µm個体の増加②:2.800 Ma(~MIS G8):1–2 µm個体の微増,2–3 µm個体の増加,>3 µm個体の減少③:2.511 Ma(~MIS 100):1–2 µm個体の急減,2–3 µm個体の微減,>3 µmの増加 このうち①や②の時期は他の古海洋プロキシでも大きな変化が見られており,世界規模の海洋表面温度などの変化に伴って生じたバイオイベントと示唆される.一方で,③では他の古海洋プロキシでは大きな変動は指摘されていない.これらの新たに検討されたReticulofenestra属の個体サイズの変動は,栄養塩や海洋表面温度などよりも他の環境要因に影響されている可能性があり,今後検討していく必要がある. 引用文献: Imai et al., 2015, Marine Micropaleontology, 116, 15–27. Imai et al., 2020, Island Arc, 29, 1, 1–13. Kameo and Takayama, 1999, Marine Micropaleontology, 37, 41–52. 佐藤・高山, 1999, 石油技術協会誌, 55, 2, 121–128. Young J., 1990, J. Micropaleontol, 9, 71–86.

  • 桑野 太輔, 亀尾 浩司
    セッションID: T12-P-13
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    石灰質ナノ化石は,海洋の最表層に生息する石灰質ナノプランクトンの殻が化石化したものであり,海洋環境の変化に応答してその群集組成を変化させることから,これまで過去の表層海洋環境の推定に利用されてきた(例えばKameo et al., 2020).特に,北西太平洋海域は,亜熱帯循環と亜寒帯循環の西岸境界流である黒潮や親潮により水温前線が形成される海域であり,表層海水温(SST)の南北偏差が大きい特徴がある (Locarnini et al., 2018).本研究では,Kuwano et al. (2022) で発表された北西太平洋海域における石灰質ナノ化石に基づく現生アナログ法を改良し,鹿島沖で採取されたMD01-2420コアから産出する石灰質ナノ化石群集に適用することで,最終氷期以降における鹿島沖のSSTの復元を行った.本研究では,Tanaka (1991) によって得られた表層堆積物から産出する石灰質ナノプランクトンのデータを現生群集のデータセットとして利用した.また,現在のSSTは,World Ocean Atlas 2018 (Locarnini et al., 2018) における0 mの年平均海水温を緯度経度ごとにリサンプリングしたデータを使用した.現生アナログ法は,類似度指標としてSquared Chord Distanceを使用し,類似度の高い5地点のSSTの加重平均を算出することによりSSTを推定した.本手法を用いて,本邦太平洋側に位置する273地点の表層堆積物のSSTを復元した結果に基づくと,復元されたSSTと観測されたSSTは概ね良好な相関(R=0.87)を示し,その推定誤差は概ね1 ℃程度であった.また,この手法を鹿島沖MD01-2420コアから産出する石灰質ナノ化石群集に適用すると,MIS 2では~17 ℃,MIS 1では~22 ℃のSSTを示し,Mg/Ca(Sagawa et al., 2006)やアルケノンに(Yamamoto et al., 2005)基づき復元されたSST変動と同様の傾向を示した.このことから,石灰質ナノ化石群集に基づく現生アナログ法は表層海水温の復元に有効であると考えられる.石灰質ナノ化石を用いたSSTの復元は化学分析を必要としないことから,将来的には船上などでSSTのデータを取得できることが期待される.【文献】Kameo et al., 2020, Progress in Earth and Planetary Science, 7:36. Kuwano et al., 2022, 日本地球惑星科学連合大会2022講演要旨,MIS18-17. Locarnini et al., 2018, World Ocean Atlas 2018, Volume 1: Temperature. Sagawa et al., 2006, Journal of Quaternary Science, 21, 63–73. Tanaka, 1991, Sci. Rep., Tohoku Univ., 2nd ser. (Geol.), 61, 127–198. Yamamoto et al., 2005, Geophysical Research Letter, 32, 1–4.

  • 尾内 千花, 亀尾 浩司, 桑野 太輔, 北里 洋
    セッションID: T12-P-14
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    上総層群は,房総半島中部に広く分布する下部・中部更新統であり,かつて房総半島周辺に存在した上総海盆を充填した前弧海盆堆積物である(e.g., 渡部ほか,1987).岩相の違いに基づくと,本層群は23の累層に区分される.一般に,上総層群の各層では,浅い海域から深い海域の堆積相までが観察され,沿岸から深海に至る様々な堆積場が推定されている(e.g., Katsura, 1984).これらのような様々な環境の堆積相を連続的に観察できること,多数のテフラ鍵層が挟在すること,微化石を豊富に含むことなどから,上総層群では様々な層序学的研究が行われてきた(e.g., 里口,1995; Oda, 1977).また,上総海盆がかつて位置していたとされる房総半島沖は,北太平洋の大きな海洋循環である黒潮と親潮が会合する海域の一部であることから,その変化は北太平洋域の気候変動と関連している.そのため,上総層群は北太平洋における過去の気候変動を考察する有用な地質学的記録と言える.本研究では上総層群のうち,黄和田層を研究対象とし,同層上部のテフラ鍵層kd8から最上部にかけての層準を取り扱った.同層群は,Kuwano et al. (2021, 2022)によって1310–1204 kaにかけての高精度な年代モデルの確立と海洋表層の環境復元が行われており,海洋底層の環境を検討することで,より詳細な海洋環境の復元ができると期待される.そこで本研究では,黄和田層のkd8テフラ鍵層から同層最上部から産出する75 µm以上の底生有孔虫化石群集を検討し,1310–1204 kaにおける海洋底層環境の変化を復元することを目的とした.  結果,全検討層準でGlobocassidulina 属,Cassidulina 属,Pseudoparella naraensisが多産した.次いで,Bolivina属,Bulimina属,Cassidulinoides属,Cibicides属, Elphidium 属,Fissurina属が多産したほか,Stilostomella属などが連続的に産出した.産出の特徴として,連続的に多産する分類群は周期的に増減し,上位層準ではBolivina robustaBulimina aculeataCassidulina norcrossiCassidulina delicataが,中位の層準ではBulimina striataBulimina rostrataMelonis pompilioidesOridorsalis umbonatusが多産する傾向が見られた.またP. naraensisに限っては周期的な変動に加え,特徴的に多産する層準があった.  上総層群は遠洋性堆積物と違い,活動的大陸縁辺域で形成された砕屑性堆積物であることから,堆積物供給量の変動が予想される.酸素同位体比から推定される堆積速度(Kuwano et al., 2021)と1 gあたりの底生有孔虫化石の総産出個体数は相反する傾向がある.よって,堆積物供給速度が大きい時期は含まれる底生有孔虫化石が希釈され,定量試料中における個体数が減少したと考えられる.また,低海水準期から高海水準期への転換期に堆積速度が増加する傾向があるが,流れ込みを示唆する浅海性の分類群の産出とは明らかな関連は見られなかった.これは,黄和田層の堆積場が海水準変動による流れ込みの影響を受けにくいと考えられる斜面基底部や深海平坦面であることと整合的である.これを踏まえた上で,検討層準は,黒潮域の底層に見られる分類群の卓越と,分布水深が約1000–2000 mの中部漸深海帯とされるStilostomella属の連続的な産出から,現在の黒潮域底層に類似した水深約1000–2000 mの中部漸深海帯に相当すると考えられる.また,各分類群の餌や溶存酸素に対する嗜好性・耐性,Kuwano et al. (2021, 2022)との比較から,一部の群集変化は親潮や表層の生産性に関連すると考えられる. Katsura, Y., Sci. Rep., Inst. Geosci. Univ. Tsukuba, Sec. B, 5, 69–104, 1984. Kuwano et al., Stratigraphy, 18(2), 103-121, 2021. Kuwano et al., Palaeogeogr. Palaeoclimatol. Palaeoecol., 592, 110873, 2022. Oda, M., Tohoku Univ. Sci. Rep. 2nd Ser., Geol, 48, 1–76, 1977. 里口保文,地質学雑誌, 101, 767–782, 1995. 渡部ほか,地学教育,40, 1–12, 1987.

  • 小杉 裕樹, 桑野 太輔, 久保田 好美, 亀尾 浩司, 椙崎 翔太
    セッションID: T12-P-15
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    千葉県銚子地域に分布する犬吠層群(Matoba, 1967)は保存の良い微化石を多量に含む鮮新統-更新統であり, 房総半島および広域に追跡可能なテフラ鍵層を挟在する(藤岡・亀尾, 2004). これまでの年代層序学的研究により, 本層群を構成する地層群は約0.4 Maから1.0 Maに相当することが明らかになっており, Early-Middle Pleistocene Transitions(EMPT)と呼ばれる氷期・間氷期サイクルが約4万年周期から約10万年周期へと変化した時期の堆積物である. その銚子地域の沖合海域では, 暖流の黒潮と寒流の親潮とが会合し, 黒潮フロントと呼ばれる水温前線を形成しており, その南北振動がグローバルな氷期・間氷期サイクルとどのような関係にあったのかを明らかにするうえで重要な地域である. そこで本研究では, 犬吠層群小浜層・横根層に相当するコア試料から産出した浮遊性有孔虫化石の酸素同位体比及び石灰質ナノ化石の検討し, 当時の海洋環境の議論を試みた. 本論で扱った試料は,1998年に東京大学海洋研究所が千葉県銚子市森戸町で掘削した全長250 mのボーリングコアである銚子コアのうち犬吠層群の小浜層および横根層に相当する深度250 m–200 mで, 泥岩試料から取り出した浮遊性有孔虫化石の酸素同位体比の測定および石灰質ナノ化石の検討を行った. なお, 酸素同位体比の測定には国立科学博物館筑波分館所有の炭酸塩分解装置(KIEL IV Carbonate Device)と質量分析計(MAT 253)を使用した. 取り扱った銚子コアのうち深度250 m–200 mから産出した浮遊性有孔虫化石G.bulloidesにおける酸素同位体比の測定値によって作成した酸素同位体比曲線は-0.127–1.66‰の間で推移した. これまでの研究で明らかになっていた底生有孔虫化石の酸素同位体比との差を取ると, 概ね氷期・間氷期サイクルと対応して変動し, 成層構造の変化が生じていたことが示唆された. また, 石灰質ナノ化石の検討では表層海流の指標種(親潮指標種:Coccolithus pelagicus, 黒潮指標種:Umbilicosphaera sibogae)50 個体に占める黒潮指標種の産出割合を検討したところ, 検討層準において10–100%の割合で黒潮指標種の産出割合が変化した. 黒潮・親潮の消長について推定すると, MIS25に相当するコア深度244.01 m–231.10 m は黒潮指標種の産出割合が80%と高く, 黒潮フロントは銚子地域よりも北に位置し黒潮水域の影響を受けて温暖な環境であったと推定される. MIS24に相当するコア深度230.00 m–223.00 mは黒潮指標種の産出割合が大きく変動していることから, 黒潮フロントの南下に伴い, 混合水域や一時的に親潮水域の影響を受けやすくなっていたと推定される. これらのことは氷期・間氷期サイクルに概ね対応して黒潮・親潮の消長が影響し, 海洋の成層構造が変化していたことを示唆している. 引用文献 藤岡導明・亀尾浩司, 2004, テフラ鍵層に基づく銚子地域の犬吠層群小浜層と房総半島の上総層群黄和田層, 大田代層および梅ヶ瀬層との対比. 地質学雑誌, 110, 480-496. Kameo, K., Okada, M., El-Masry, M., Hisamitsu, T., Saito, S., Nakazato, H., Ohkouchi, N., Ikehara, M., Yasuda, H., Kitazato, H., Taira, A., 2006, Age model, physical properties and paleoceanographic implications of the middle Pleistocene core sediments in the Choshi area, central Japan. Island Arc, 15, 366-377. Matoba, Y., 1967, Younger Cenozoic foraminiferal assemblages from the Choshi district, Chiba Prefecture. Science Reports, Tohoku University, 2nd Series (Geology) 38, 221–63.

T13.沈み込み帯・陸上付加体
  • 山本 由弦, 小林 唯乃, 関山 優希, 吉本 剛瑠, 千代延 俊, Bowden Stephen
    セッションID: T13-O-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    地質学が貢献する地震防災・減災に向けて、ある断層が引き起こす地震の最大ポテンシャルを評価することが重要である。そのためには、過去の事象を記録している地震断層からも動力学パラメータを抽出することが求められる。近年注目されているのが、「断層に記録された温度異常」である。断層の摩擦発熱は、断層のすべり速度と量を示す。しかしながら、過去に活動した地震断層から発熱量を正確に抽出することは困難である。定量的に検討可能な地質温度計として従来から広く用いられてきたのは、ビトリナイト反射率である。ケロジェンの一種で高分子化合物であるビトリナイトは、温度上昇あるいはその温度継続時間とともに、芳香族環の秩序性が増加し、反射率が増加する。問題となるのは、(1)その現象が短時間でも実現するのか不明であること(反応速度論の問題)、そして(2)石油生成領域から外れる高温領域(>300℃)は温度実測との比較実績がなく、データを外挿していることである(摩擦発熱に期待される高温領域における指標信頼性の問題)。現状は、短時間温度上昇を記録する温度指標の確立と検証が求められている。本研究は、堆積物中のケロジェンが、被熱温度に応じて遊離炭化水素を排出する反応に注目し、ロックエバル分析を用いた短時間地質温度計の可能性について現状を報告する。 本研究は、静岡県東部から山梨県南部に分布する上部中新統の富士川層群において、小規模な閃緑岩脈(幅<1.5 m)周辺の泥質岩を対象にロックエバル分析を実施した。またそこから採取した泥質岩と標準物質を用いた室内加熱試料に対しても、分析を実施した。これらから、ロックエバル分析を用いた短時間地質温度計の可能性を検討した。 対象とする閃緑岩脈は、富士川層群の砂泥礫岩互層と約〜40度斜交して貫入しており、ほぼ垂直の傾斜を示す。5枚の泥質岩単層を設定し、岩脈の伸びに対して直交方向に距離を測定しつつ連続的にサンプリングを行った。その結果、S2量は、岩脈近傍で極端に減少するものの、その中で距離との相関は認められなかった。また、当初期待していたTmax値については、岩脈との距離相関が得られなかった。ケロジェンの熟成には微生物の働きが貢献していると考えられているが、短時間加熱にはTmaxが反映されないことが明らかになった。一方、S2量の極端な減少は、本来ロックエバル内のオーブンで分解されるべき炭化水素が、火成岩貫入に伴う被熱異常で「事前に」分解してしまったことを意味する。我々が北海道渡島半島で検討した石英斑岩周辺の堆積岩からは、岩脈に向かって減少していくS2量が確認されており、高い全炭素量を含む堆積岩であれば、S2量が温度計として使用できる可能性は残っている。 一方、residual organic carbonの一部である、S4CO2は、5層準いずれも岩脈近傍で明瞭な減少を示した。距離を岩脈の厚さで規格化した場合、0.5または1よりも外側では10-12 mg CO2/grockで均質であるが、その内側では約10.00-0.05 mg CO2/grockを示した。興味深いことに、岩脈に向かうS4CO2の減少は、前述のS2のそれと両立しないことが確かめられた。すなわち、熱源に向かうS4CO2の減少が確認されるのは、岩脈周辺のS2量が極端に少ない(<0.1 mg/grock)場合にのみ確認された。 上記の天然試料の計測結果を、実験室内の短時間加熱実験で再現できるか、検証を実施した。2種類の試料(①富士川の岩脈から十分に離れた泥質岩で、S4CO2量は10-12 mg CO2/grock、②ロックエバルのキャリブレーション用標準試料IFP16000)を準備し、有酸素および無酸素下の2通りの加熱方法で、300℃で103、104、105、106秒の加熱をし、それら試料を分析した。その結果、加熱時間の増加とともに無酸素条件の加熱ではS2量の段階的な減少が、有酸素下のそれではS4CO2量の段階的減少が認められた。 これらの結果は、2つの可能性を示している。1つめは、加熱条件の違いによって、S2もしくはS4CO2量が短時間被熱の温度計として有用である可能性である。もう1つは、2指標を比較することによって、その被熱イベントが酸化・還元環境下であったかを示しうる点である。たとえば、酸化条件下で起こる加熱は、間隙水の存在や地震発生時に水素が発生する減少と関連している可能性がある。 さらに、本手法は従来の指標と比べて実験室内で再現できるという明確なアドバンテージも確かめられた。当日は、加熱時間を固定して温度を変化させた実験の結果も発表する予定である。

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    内田 泰蔵, 橋本 善孝, 山本 裕二, 畠山 唯達
    セッションID: T13-O-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    ● はじめに プレート沈み込み境界断層で発生する地震は、多様なすべり速度とすべり継続時間で特徴付けられ、沈み込み帯浅部の領域は海溝軸から深部に向かって、非地震性領域、浅部スロー地震発生帯、通常・巨大地震発生帯へと遷移することが観測研究で明らかになっている [1]。これら多様なすべりのメカニズムを理解するには、観測されている現象を物質科学的に明らかにすることが重要である。地震性すべり時に断層面で発生する摩擦発熱は、断層岩中に効率的に保存されるため [2]、地震メカニズムを理解する研究に広く利用されてきた [3] [4]。磁性鉱物は、発熱イベント時に起きた破壊や変形を保存できるという他にない利点を持っており、変形機構の異なる多様なすべりを理解するために古地磁気・岩石磁気研究は有効である。本研究では、陸上付加体に発達する、断層岩に記録された発熱の証拠を明らかにすることを目的として、断層岩と母岩の試料に対し、磁性鉱物の同定と残留磁化測定を行った。● 地質概説・試料 白亜系四万十帯は、プレート沈み込み帯における堆積物の剥ぎ取り付加 [5]から底付け付加 [6]、序列外断層の形成 [7]に至るまでの付加過程が保存された陸上付加体である。調査地域には、南部に横波メランジュ [8]、北部に新庄川層群須崎層が分布している。これの岩相は、メランジュを母岩とするNE–SW走向、N傾斜の断層(五色ノ浜断層 [8])によって切られており、その断層帯(幅数 m)には、明瞭な剪断面を持つ厚さ約20 cmのカタクレーサイトが発達している。メランジュと須崎層の過去の最高被熱温度はビトリナイト反射率から約200〜250 ℃と求められている [9] [10]。試料はカタクレーサイト、母岩、整然相から採取した。● 結果(磁性鉱物の同定・残留磁化測定)岩石磁気実験の結果、各岩相に含まれる主要な強磁性鉱物は、カタクレーサイトは主にマグネタイトと単斜ピロータイト、その他の岩相は主にマグネタイトであることが明らかになった。電子顕微鏡観察から、カタクレーサイトのマグネタイトは、主にパイライトの分解によって生成したことが明らかになった。残留磁化測定の結果、カタクレーサイト以外の4つの岩相で、特徴磁化成分と現在の磁北を指す粘性残留磁化の2つの磁化成分が分離された。カタクレーサイトのほとんどの試料は特徴磁化成分を得られなかったが、熱消磁と交流消磁でそれぞれ300〜360 ℃または15〜20 mTでアンブロックする、特有な二次磁化(NW偏角で低伏角)と、現在の磁北を指す粘性残留磁化の2つ以上の磁化成分が分離された。● 議論 カタクレーサイトは、他の岩相にはない古地磁気・岩石磁気的特徴があることが明らかになった。このことから、残留磁化測定の結果はカタクレーサイトのみ何らかのイベントが起きたことを示す。カタクレーサイトに特有の二次磁化は、マグネタイトとピロータイトが担っていると考えられる。この磁化成分のアンブロッキング温度(300〜360 ℃)は、ピロータイトのキュリー温度(約320 ℃)付近であるが、マグネタイトのキュリー温度(約580 ℃)よりは低く、母岩の最高被熱温度よりも高い。このことから、この二次磁化はカタクレーサイト内で起きた熱イベントに関連して獲得された、熱粘性残留磁化もしくは熱残留磁化であると推定した。●引用文献 [1] Obara, K. and Kato, A., 2016, Science, 353(6296), 253-257; [2] Scholz, C. H., 2002, Cambridge: Cambridge University Press; [3] Fulton, P. M., and Harris, R. N., 2012, Earth Planet. Sci. Lett., 335, 206-215; [4] Rice, J. R., 2006, J. Geophys.,111, B05311; [5] Ujiie, K, 1997, Tectonics, 16, 305-321; [6] Hashimoto, Y. and Kimura, G., 1999, Tectonics, 18, 92-107; [7] Underwood, M. B., Laughland, M.M. and Kang, S.M., 1993, Geol. Soc. Amer. Spec., 273, 45-61; [8] Hashimoto, Y. et al., 2012, Island Arc, 21(1), 53-64; [9] Ohmori, K., Taira, A., Tokuyama, H., Sakaguchi, A., Okamura, M. and Aihara, A., 1997, Geology, 25, 327-330. [10] Sakaguchi, A., 1999, Earth and Planet. Sci. Lett., 173, 61-74.

  • 橋本 善孝, 川路 真子, 石川 剛志, 濱田 洋平
    セッションID: T13-O-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    ♦はじめに:沈み込みプレート境界においてスロー地震と通常地震の多様なすべり挙動が観測されており、そのメカニズムを物質科学的に理解することが重要である。地質学的には変形岩の変形機構を観察によって同定することにより、定性的に遅い塑性変形と高速な摩擦溶融などで異なるすべり速度を制約できる。よりすべり挙動を定量的に制約するために変形時の熱イベントを捉えることが一つの手法として使われる。この過去の断層岩から熱の記録を復元する手法として、輝炭反射率、動的再結晶粒子の認定、岩石磁気特性、岩石化学的改変などが挙げられる。本研究では、この複数の熱記録復元手法が実施された陸上付加体における破砕帯に着目し、岩石化学的改変に基づく岩石流体間反応の記録を示すとともに、形成メカニズムを議論する。♦地質概説:対象の断層は,四国白亜系四万十帯に属する横浪メランジュの北縁断層である五色ノ浜断層で(Hashimoto et al., 2012),およそ2mの断層帯である。個々の断層は厚さ約20 ㎝の破砕帯と、破砕帯中の厚さ約1 ㎜のスリップゾーン(SZ)とからなる。破砕帯は後の塑性変形が重複している。また、母岩のメランジュの過去の最高被熱温度はビトリナイト反射率によって約250 ℃と報告されている(Sakaguchi 1999)。♦手法:母岩であるメランジュ(下盤)と砂岩(上盤)、破砕帯、SZの試料を対象に、XRD分析による構成鉱物の同定、XRF分析による主要元素濃度の測定、ICP-MS分析による微量元素濃度の測定、 TIMS分析によるSr同位体比の測定を行った。♦結果:砂岩ブロック以外では粘土鉱物が卓越していることから破砕帯、SZの原岩はメランジュであるといえる。各岩相の主要元素および微量元素の比較から、1)母岩のメランジュに対して破砕帯、SZで若干のSiの濃集がみられる、2)破砕帯では流体不動性元素であるTiO2,Laなどの濃度がメランジュとよく一致した一方、高温流体で動きやすいLi,Csなどの濃度は変化している、3)SZはTiO2やCrに富むが母岩トレンドの延長上にプロットされる一方、Rb,K2Oなどの組成は母岩トレンドから大きく乖離している、といった特徴がみられた。また、Rb-Sr同位体比のアイソクロン図では、母岩が最も傾きが大きく、SZで最も傾きの小さい直線的なトレンドがみられた。破砕帯はその間に分布し、比較的ばらついていた。♦議論:破砕帯において、流体の影響を受けやすい微量元素の濃度の変動がみられることは、破砕帯で岩石流体間反応が起きたことを示している。Ishikawa et al. (2008) の手法に基づいて、反応した流体の温度を見積もったところ、250–300˚Cが適当であり350˚Cでは高すぎると言える。これは石英が塑性変形していることと、岩石磁気学的に得られた300–360˚Cの発熱イベントとも調和的な結果である。また、SZの粘土鉱物を選択的に溶融させるシュードタキライトの反応とは完全に一致せず、SZはシュードタイキライトを形成しなかったと言える。一方、シュードタキライトと異なる元素の挙動はSZが母岩から緑泥石成分が付加されるトレンドにある。350–400˚Cの岩石流体間反応(Ishikawa et al., 2008; Mishima et al., 2006)が示されている台湾チェルンプ断層では緑泥石の選択的な分解が報告されており(Hirono et al., 2008)、本研究のSZも同様の温度での鉱物分解が関係した元素移動を経験した可能性がある。このことは、破砕帯とSZで異なる温度を記録した変形が共存していることを示している。最後に、Rb-Sr同位体データを年代に換算すると母岩でおよそ117Ma、SZでおよそ36Ma相当の値が得られる。破砕帯のデータは直線性が不良であることから年代を示すとは考えず、両者の混合したものと捉えるべきかもしれない。年代値そのものについても議論の余地がある。とは言え、SZが最後に破砕帯を切断しており、少なくともSZの活動が3つの中で最も若いことと調和的である。また、破砕帯とSZの形成のタイミングについては、破砕帯はSZと同時期かそれより古いと言える。♦引用文献:Sakaguchi, A., 1999, Earth and Planetary Science Letters; Hashimoto et al., 2012, Island Arc; Ishikawa et al., 2008, Nature Geoscience; Mishima, T., 2006, Geophysical research letters; Hirono, T., 2008, Geophysical Research Letters

  • 原 英俊, 宇都宮 正志, 松元 日向子, 中村 拓, Satish-Kumar M.
    セッションID: T13-O-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    室戸半島の南端では,前期漸新世〜前期中新世の四万十帯付加コンプレックスである菜生層群が広く分布する(平ほか,1980).この菜生層群には,石灰質ノジュールやマールと呼ばれる炭酸塩岩が頻繁に含まれる(酒井,1981).また室戸市三津の炭酸塩岩では,2019年に室戸市の天然記念物に認定された冷湧水起源のシロウリガイ類化石群集が産出する(Matsumoto and Hirata, 1972;木村ほか,2015).しかし室戸三津以外の炭酸塩岩については,記載等が行われていなく,その詳細は不明である.そこで,菜生層群の炭酸塩岩について,その産状と炭酸塩鉱物の酸素及び炭素安定同位体比について検討を行った.なお菜生層群は,構造的上位の北より,日沖メランジュ,津呂アッセンブレッジ,坂本メランジュ,さらに室戸岬先端の岬アッセンブレッジに細分される(Hibbard et al., 1992).日沖メランジュ,津呂アッセンブレッジ,坂本メランジュの珪長質凝灰岩は, 22〜20 MaのジルコンU-Pb年代を示し,前期中新世の最前期(アキタニアン期)を示す(原,2022).炭酸塩岩は,産状に基づき,ノジュール状,チューブ状,層状のタイプに大別した.ノジュール状タイプは最も多く認められ,菜生層群のいずれの層準にも含まれる.レンズ状ないし俵型をなし,長径数cm〜十数cm程度の大きさである.基質となる泥岩中に,散点して含まれることが多いが,側方方向へ連続して分布することもある.チューブ状タイプは,円柱状の形態をなし,中央部に空洞を持つ.中央部の空洞は基質の泥岩が充填している.チューブ縁の直径は数cm〜十数cm,内径は数cm〜5cmである.分離・孤立して産するほか,坂本メランジュではチューブ状タイプの濃集層が認められる.層状タイプは,津呂アッセンブレッジの一箇所でよく発達し,層厚は5cm〜十数cmで,側方方向へ数10 cm以上連続する.生痕化石を伴うことを特徴とし,二枚貝化石を含む.そのほか,岬アッセンブレッジには,マール礫を含む礫岩が分布する(平ほか,1980).いずれの炭酸塩岩も,隠微晶質なマール及び粘土鉱物からなり,シルトサイズの石英や長石を含むことで特徴づけられる.また一部の炭酸塩岩には,有孔虫化石が含まれることがある.XRD分析によると,方解石のみ,もしくはカルサイトとドロマイトからなる炭酸塩岩が識別できる.これらの炭酸塩岩について,Satish-Kumar et al. (2021)に従い新潟大学の質量分析計を用いて酸素・炭素安定同位体分析を行った.酸素同位体比δ18O V-SMOWは,14〜23‰の範囲にあり,ほぼ一定の値を示す.炭素同位体比δ13C V-PDBは,-28〜-10‰の範囲にあり, -28〜-20‰と-17〜-10‰のグループが識別される.炭素同位体比の低い前者は,海水中の溶存無機炭素の炭素同位体比より著しく低く,有機物もしくは冷湧水中のメタン起源の炭素の影響が考えられる.また後者は,海水と有機物起源の炭素の混合により説明できる可能性がある.以上から,菜生層群中の炭酸塩岩の少なくとも一部については,シロウリガイ類化石を含む炭酸塩岩と同様に,初生的にメタン冷湧水の影響を受けて形成された可能性が高い.ただし,続成作用の影響については,炭酸塩岩の産状,炭酸塩鉱物種ごとの同位体比,生物源炭酸塩の保存状態あるいは酸素同位体比に基づいて,さらに検討を行う必要がある. 文献:原,2022,日本地質学会第129年学術大会講演要旨.Hibbard et al., 1992,Island Arc, 1, 133-147. 木村ほか,2015,JpGU Meeting 2015,BPT24-02. Matsumoto and Hirata, 1972,Bull, Nat. Sci. Mus. Tokyo, 15, 753-760. Satish-Kumar et al., 2021, Sci. Rep., Niigata Univ. (Geology), 36, 21-42. 酒井,1981,九大理研報(地質),14,81-101. 平ほか,1980,四万十帯の地質学と古生物学-甲藤次郎教授還暦記念論文集,319-389.

  • 可児 智美, 三澤 啓司, 森川 徳敏, 風早 康平, 楠原 文武, 米田 成一, 寺門 靖高
    セッションID: T13-O-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    有馬型塩水は,非火山地域で湧出するにもかかわらず,マグマ的酸素―水素同位体比やヘリウム同位体比などをもつ[e.g.,1,2]ことから,スラブ流体がその起源だと考えられる[e.g., 3,4,5,6]. 兵庫県有馬温泉で湧出する有馬型塩水のストロンチウム同位体87Sr/86Sr比は(0.70853)で,基盤岩である六甲花崗岩/有馬層群流紋岩類の87Sr/86Sr比とほぼ同じ値だが,ストロンチウム安定同位体組成(δ88/86Sr = 0.122–0.153 ‰)は,基盤岩と明らかに異なる軽い特徴をもつことが新たに示されたことで,有馬温泉水のストロンチウム同位体はスラブ流体の特徴を保持しており,浅部過程(地殻レベル)での岩石-水相互作用の影響は小さいと考えられる[7].中央構造線沿いに湧出する有馬型塩水である長野県の鹿塩塩水も有馬塩水と同様に軽いδ88/86Sr値をもつことも,両地域の塩水の起源と生成過程の共通性を示唆する[7].有馬塩水の特徴的な軽いδ88/86Sr値は,フィリピン海(PHS)スラブの海洋堆積物と海洋地殻からの流体生成時の同位体分別によると説明された.δ88/86Sr値は類似しているが,鹿塩塩水の87Sr/86Sr比は有馬塩水の87Sr/86Sr比よりわずかに高い.それは,堆積物構成比の違い(地域による違い,あるいは,太平洋プレート由来の流体の関与)の反映である可能性がある.[1] Matsubaya et al., 1973. Geochemical Journal, 7(3), 123– 151. https://doi.org/10.2343/geochemj.7.123[2] Masuda et al., 1986. Geochimica et Cosmochimica Acta, 50(1), 19– 28. https://doi.org/10.1016/0016-7037(86)90044-x[3] Kazahaya et al., 2014. Journal of Japanese Association of Hydrological Sciences, 44(1), 3– 16. (in Japanese). https://doi.org/10.4145/jahs.44.3[4] Kusuda et al., 2014. Earth Planets and Space, 66(1), 119. https://doi.org/10.1186/1880-5981-66-119[5] Nakamura et al., 2014. Gondwana Research, 70, 36– 49. https://doi.org/10.1016/j.gr.2019.01.007[6] Morikawa et al., 2016. Geochimica et Cosmochimica Acta, 182, 173– 196. https://doi.org/10.1016/j.gca.2016.03.017[7] Kani et al., 2023. Geophysical Research Letters, 50, e2022GL100309.

  • 【ハイライト講演】
    小平 秀一, 氏家 恒太郎, 廣瀬 丈洋, 林 為人, 日野 亮太, 中村 恭之, 久保田 達矢
    セッションID: T13-O-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    2024年9月-12月に国際深海科学掘削計画(IODP) Expedition 405として2011年東北地方太平洋沖地震の震源断層掘削を行うJTRACK(Tracking Tsunamigenic Slips Across and Along the Japan Trench)が実施される。JTRACKは「プレート境界断層浅部とその周辺の構成岩石や流体の物理的・化学的特性と、その時空間変化を理解することにより、巨大断層すべりや巨大津波を引き起こす要因を把握する」ことを大目的としている。この目的達成のためにJTRACKでは、IODP Exp 343 JFASTと同一地点での掘削、および沈み込む前の海洋プレート上堆積層の掘削を行い、連続コアの採取、孔内検層、JFASTと同一点での温度計測を計画している。地震発生から13年後に再び震源断層を掘削するJTRACKは地震発生後のプレート境界断層の固着強度、断層周辺の応力蓄積過程を明らかにする貴重な機会となり、これまで取り組むことができなかった巨大津波を生成する海溝型地震準備過程に関する本質的な問い、即ち「巨大津波を生成するプレート境界浅部すべりの駆動源は何か、どのように応力を蓄積するか」に迫ることができる。JFASTや東北沖地震後に行われた様々な海底観測の結果に基づき、プレート境界断層の固着強度・応力蓄積過程に関しては相反する二つの仮説が考えられている。一つは「プレート境界浅部の断層強度回復・応力蓄積は地震発生直後から急激に進行し、地震間ではプレート境界浅部は力学的に固着している。そのため、そこでひずみエネルギーが蓄積され、これが大規模浅部すべりのエネルギー源となりうる」という仮説、もう一つは「プレート境界浅部は常に力学的に固着していない。そのため、そこでのひずみエネルギー蓄積は発生しない。隣接するプレート境界深部において強い固着があって大きなひずみエネルギーが蓄積され、深部で強固着域を破壊するような地震が起こった場合、それが大規模な浅部すべりを引き起こすことがあり得る」という仮説である。私たちはJTRACKによる地質試料実験、孔内検層データ解析、掘削孔周辺での海底地殻変動・地震観測、高分解能地下構造探査のデータを統合し、この相反する二つの仮説の検証を行い、上記海溝型地震準備過程に関する本質的な問いに迫る計画の立案を進めている。講演では、JFASTや関連研究のこれまでの成果を総括し、JTRACKの航海計画、及び本研究プロジェクト計画の詳細を紹介する。

  • 植田 勇人, 北里 洋, ボンド トッド, マロニ ペイジ, ジャミーソン アラン, プレッシャードロップ号リング・オブ・ファイアー・エクス ...
    セッションID: T13-O-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    2011年東北地方太平洋沖地震では,様々な観測データの解析から,地下およそ24 kmで開始したプレート境界断層の破壊が海溝底にまで進展したと推定されている.実際に海溝軸周辺では,地震発生前と比べて50 mを超える大きな垂直および水平変位があったことが,地震発生直後の測地や音響測深,反射法地震探査によって観測されている.このような海底の大きな地形変動は,地震時の津波の発生に大きく関与すると考えられる.しかし,海溝底が探査機の到達が困難な水深7000 mを超える超深海にあるため,本当に破壊が地表まで達したのか,達したとしたら具体的にどのような形状や規模の地形変化が海底に生じたのか,という重要な疑問は未解決のままであった.演者らは2022年9月にフルデプスの有人潜水艇DSV Limiting Factorを用いて,当該地震による海底変位量が最も大きかった宮城沖の日本海溝底(水深約7550 m)に潜航し海底を観察する機会を得た.潜航地点は,地震前には平坦な海溝底であり,地震発生直後には東縁に衝上断層を伴う海溝軸に平行な高さ約50 mのリッジ状の地形(スラスト・リッジ)が生じたことが観測されたエリアにある.このスラスト・リッジの東麓から頂部にかけて衝上断層の先端部を横断するようルートを設定し海底の観察とビデオ撮影をしながら航走したところ,東麓の斜面とリッジ頂部の平坦面の境界部に,断層崖と思われる未固結の地層で構成される崖を発見した.当講演では,潜航調査の結果を紹介する予定である.

  • 芦 寿一郎, 三澤 文慶, 金松 敏也, 池原 研
    セッションID: T13-O-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    相模湾のプレート境界は北西-南東方向に延びており,フィリピン海プレートの北西進に対して大きな斜め沈み込み,あるいは横ずれ変位の境界となっている.一方,地下構造は一般的な付加体と類似の構造が報告されている.相模湾を東西に横断する大規模反射法地震探査では,プレート境界断層とそこから派生する分岐断層がイメージングされている(佐藤ほか,2010,科学).比較的浅部を対象とした反射断面においても,陸側傾斜の複数の断層によってトラフ底の堆積層が変形する様子が捉えられている(Yamashita et al.,2013, JAMSTEC-R; No et al., 2014,EPS).また,Misawa et al. (2020, GeoMarine Letters)は,断層関連褶曲や斜面堆積盆のgrowth strataの存在からオフスクレーピングによる付加の進行を報告するとともに,伊豆-小笠原の高まりの北西進の付加変形への影響を指摘している.以上のような構造の報告に対して,断層の活動度など時間軸の入った報告は乏しい.本研究は高解像の浅部地下構造断面と堆積場の変化を記録した表層採泥試料から最近の断層活動を捉えることを目的とした. 相模湾東部には北西-南東方向に海丘群(沖ノ山堆列)が並んでいる.その西側の麓には相模構造線が推定され沈み込み帯の構造境界と解釈されてきた(木村,1973,科学).調査地点はこれらの海丘群の1つである三浦海丘の西斜面域で,海底付近に達する断層の存在が反射断面から推定されている(大河内,1990,地学雑誌).本研究では浅部の詳細な構造を明らかにするため,無人探査機にサブボトムプロファイラー(以下SBP)の音源と受信機を搭載し,海底近傍で発振・受信することで複雑な地形の所でも良好な反射断面を得ることができた.三浦海丘の西側斜面を横断するSBP探査では,白鳳丸KH-10-3次航海(Misawa et al., 2020, GeoMarine Letters)とKH-15-2次航海にて,西側に傾斜し海底まで達する断層を確認した.これより西側には海底に達する断層は認められないため前縁断層に当たると言える.また,KH-16-5次航海では無人探査機を用いて断層上盤斜面でピストンコア試料を採取した.さらに上記の断層の西側のプロトスラスト帯に当たる平坦面の2ヶ所でピストンコア試料を得た.KH-19-5次航海の無人探査機による海底ビデオ観察では,斜面基部に沿ったシロウリガイコロニーの存在とシンカイヒバリガイの生息から活発なメタン湧水が推定された. 断層上盤から採取した試料は,下位より3つのユニットに分けることができる:1)凝灰質の細〜中粒砂の薄層が10 cm程度の間隔で挟まる暗緑色のシルト層,2)中粒砂と泥岩の細礫,貝殻片からなる粗粒層とシルトの薄層の互層.下の4層は厚さ5 cm前後,上の2層は厚さ20 cm前後で最上部の層は合弁の貝殻を含む,3)貝殻片を含まない泥岩の細礫勝ちな部分とシルト質の部分の互層.これらの層相と現在の海底の堆積場を比較すると以下のような解釈ができる.断層上盤コア試料の中位ユニットの粗粒層を崖錐堆積物と解釈すると,最上部の合弁の貝殻を含む粗粒層が現在斜面基部に見られる貝コロニーに対応する.中位ユニットの粗粒層の厚さは概ね上方へ増加しており,下盤の堆積場が断層運動によって崖へ接近するのと矛盾しない.上位ユニットは中位ユニットと同じく泥岩の細礫を多く含むが貝殻片は認められない.また,粗粒層とシルトの境界が不明瞭で複雑な形状を示す.このことから上位層は断層上盤斜面を被覆する堆積物と考えられ,中位ユニットから上位ユニットへの堆積相の変化は断層下盤側から上盤側への堆積場の推移を示していると解釈できる. 断層上盤の下位ユニットの層相は,断層下盤側の平坦面から得た2本のコア試料と似ており細粒タービダイトである.これら上盤と下盤で同年代に堆積したタービダイトの深度を比較すれば断層の変位量を求めることができるが,平坦面から得たコアは上盤の年代までの深さの試料が得られていない.平坦面の試料はほぼ一定の堆積速度を示すことから,上盤の年代(約1.65万年前)に対応する層準の深度を外挿で求めたところ,両者は断層を境に垂直方向で約15メートル変位している.合弁の貝を含んだ粗粒層の上下の地層の年代(約1.1万年前と約1.5万年前)をもとに,上記粗粒層の堆積が終わって以降現在まで変位が累積したと仮定すると断層の活動度はA級と推定される.1923年の大正関東地震をはじめ相模トラフ沿いの巨大地震時の海底変動に関わる情報は限られており,その充実には海底堆積物を用いた時間軸の入ったデータの蓄積が必要である.

  • 山口 飛鳥, 福地 里菜, 濱田 洋平, 高下 裕章, 川村 喜一郎, 井尻 暁, 奥田 花也, 浜橋 真理, 照井 孝之介, 細川 貴弘, ...
    セッションID: T13-O-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    世界の沈み込み帯の中で、南海トラフは付加体の発達する代表的な沈み込み帯であり、前弧域の大構造とその発達史の理解は、海溝型地震の発生場、および沈み込み帯のダイナミクスを理解する上で重要である。南海トラフにおける近年の深海掘削・反射法探査の成果をふまえて、東南海・南海地震のセグメント境界付近に位置し、付加体断面が露出する潮岬海底谷沿いの海底地質調査・サンプリングを「しんかい6500」で行うことを目的として、2023年6月15日~23日に「よこすか」YK23-10S航海が行われた。本発表ではその速報結果を報告する。 YK23-10S航海では紀伊半島沖の潮岬海底谷において「しんかい6500」による潜航調査を実施し、南海トラフ付加体および前弧海盆堆積物の採取、プッシュコアラーによる表層堆積物および冷湧水の採取、地形調査・地磁気観測・熱流量観測などの地球物理調査を行った。海底谷の崖沿いに行った4潜航では、付加体を構成すると考えらえる泥岩、斜面堆積盆または前弧海盆最下部をなすと考えられる礫岩、前弧海盆堆積物と考えられる砂岩泥岩互層を視認・撮影し、合計104個・195 kgの岩石試料を採取した。また、礫岩と砂岩泥岩互層の境界露頭を4潜航全てで確認した。今後、石灰質ナンノプランクトンおよび浮遊性有孔虫による年代測定を行い、付加体と前弧海盆の境界の年代を決定することで南海付加体および前弧海盆の発達史を更新できると期待される。海底谷を縦断した1潜航では、「しんかい6500」に搭載したサブボトムプロファイラーによる海底下構造探査とプッシュコア、「よこすか」による海底地形調査を総合し、海底谷の発達過程と物質移動に関する知見が得られた(浜橋ほか、本大会)。Tsuji et al. (2013) は、潮岬海底谷直下に高密度なドーム状岩体が存在することを反射法地震探査から指摘しており、このドーム状岩体は中期中新世の火成複合岩体で、東南海・南海地震の破壊領域にも影響を与える可能性が指摘されている(Kimura et al., 2022)。本航海では、「しんかい6500」に搭載した熱流量測定装置(SAHF)による地殻熱流量測定を9地点で行った。今後、熱流量測定結果、および「よこすか」搭載の三成分磁力計・プロトン磁力計による広域地磁気観測に基づき、火成岩体の存在について多角的に検討を行う予定である。 本航海は海況に恵まれ、予定していた5潜航を完遂することができた。今後、乗船後研究の進展により、南海付加体と熊野海盆の形成初期の発達史、およびセグメント境界の実態を物質科学的に解明することが可能になると期待される。「しんかい6500」による広域の海底調査と大量の試料採取は、反射法地震探査などの地球物理観測と鉛直1次元の深海掘削を、スケールを越えてつなぐ上で非常に強力なツールである。 文献: 浜橋真理ほか,本大会T6セッション;Kimura, G. et al. (2022) Geochemistry, Geophysics, Geosystems, 23, e2022GC010331; Tsuji, T. et al. (2013) Tectonophysics, 600, 52–62.

  • 木下 正高, 白石 和也, 中村 恭之
    セッションID: T13-O-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    南海トラフ前弧の中西部では、2018年から2020年にかけて一連の高密度反射法地震探査が実施された(Nakamura et al, 2022 GRL)。その結果、室戸岬沖に沈み込む海山を含む、沈み込むプレート境界の特徴的な地形が示された。本研究では、この地震探査データセットから、BSR(ボトムシミュレーティングリフレクター)を抽出した。BSRとは、上部のハイドレートに富む地層と下部のガス含有層との境界として定義されるものである。南海トラフ中西部の前弧域のBSR深度から熱流量値を計算した。その結果を既存の熱流データ(地表、ボアホール、BSR由来)と統合した。 BSRから推定した熱流量は、BSR面における深度(圧力)と温度、海底とBSR間の平均熱伝導率から計算される。BSR面での温度は、実験室データから得られたハイドレート=ガス相転移のP-T曲線から計算した。熱伝導率の値は、全体で一様に1.3 W/m/Kとしたが、この値は、地震探査ラインと孔内計測データに沿った Vp モデルによって修正される可能性がある。BSRまでの深度は海底下400~500m程度である。なおBSR深度の短波長の変動は海底地形の変動に起因するものなので、今回はフィルタリングで除去した。得られた熱流値は地域平均されたものである。 熱流量は室戸沖のトラフ軸付近(南海トラフ中央付近)で最も大きい。前弧域では、熱流量は50~70mW/m2の間で変動するが、南海トラフ最西端の日向灘沖の前弧域で最も低い。室戸沖の前弧域からトラフ軸にかけての地形は、東側と西側に比べて陸側への湾入が大きいのが特徴である。変形フロントから20km陸側では熱流量は〜80mW/m2であるのに対し、湾入地形の両側では40〜60mW/m2である。さらに陸側に進むと、室戸岬沖の沈み込んだ海山の上に熱流量の少ない領域(〜60km x 30km、海溝と平行に延びている)が見つかった。熱流量は〜30mW/m2であり、周辺地域のほぼ半分である。この海山は直径20kmにも及ぶと解釈されており、低い熱流量は海山の上方と海側に広がっているようである。 他の海山沈み込みの場所からの例もある。九州東部沖の日向灘前弧域では、九州-パラオ海嶺(KPR)が数Ma B.P.以降N30W.に向かって斜めに沈み込んでいる。KPRから離れた場所の熱流量は〜45mW/m2であるのに対し、沈み込んだKPRの上方では〜25mW/m2である。コスタリカ沈み込み前縁部では、海山の沈み込みがその上の堆積物と熱流量を著しく変動させている。この変動は、海山の沈み込みに関連した割れ目を通る移流流体によるものと解釈された。本発表では、沈み込んだ海山の周囲で熱流が変動する可能性のあるメカニズムについて議論する。

  • 矢部 優, 大坪 誠, 氏家 恒太郎
    セッションID: T13-P-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    九州東部に分布する上部白亜系四万十付加体中の槇峰メランジュでは,千枚岩化した泥岩マトリックス中に石英脈が濃集することで特徴づけられる石英脈濃集帯が,厚さ60 m,長さ数100 m以上に渡って観察される(Ujiie et al., 2018).九州東部の槇峰メランジュは,地震発生帯下限側の温度300-350ºC, 深さ10-15kmの暖かい沈み込み帯のプレート境界域で形成されたと考えられている.石英脈はクラックシール組織を有し,泥岩マトリックスの面構造に平行に発達するfoliation-parallel extension vein, 面構造に極低角で斜交するshear vein, 面構造に対して高角に発達するsubvertical extension veinに分類できる.石英析出反応速度式から求めた1回のクラックシールに要する時間は1年程度と短く,静岩圧に近い間隙流体圧環境下で引張破壊と低角逆断層メカニズムを持つ剪断破壊が互いにリンクしながら何度も繰り返して発生していた様子が観察できることから,この石英脈濃集帯は微動の地質学的痕跡である可能性が指摘されている(Ujiie et al., 2018).そこで本研究では,この破壊過程において地球物理学的に観察されるスロー地震のシグナルが生成されうるのかを検討した.石英脈濃集帯形成過程における地震波放出のモデル化は,(1)個々のクラック破壊で生じる地震波と(2)クラック破壊の連鎖の2つの過程のモデル化を組み合わせることで行った.(1)についてはOpenSWPC(Maeda et al., 2017)を用いて3D波動伝播数値計算により,(2)については2Dブラウン運動モデル(Ide & Yabe, 2018)のスロー地震震源移動モデルによりモデル化した.クラックの大きさや数密度など,それぞれのモデル化に必要なパラメーターはできる限りフィールドにおける観察に基づいて設定した.地球物理学的観測においては,スロー地震のシグナルは2-8Hz帯域の地震波で観察される微動,20-100s帯域の地震波で観察される超低周波地震,測地帯域で観察されるスロースリップに分類される.これらのシグナルはプレート境界面断層の剪断変形でおおむね説明することが可能とされている(Ide et al., 2007; Ito et al., 2007; Obara et al., 2004).今回は特に微動と超低周波地震のシグナルについて,モデル化した地震波形と実際に南海トラフで観察される地震波形を比較しながら両者の整合性について検討する. 【引用文献】Ujiie et al. (2018), https://doi.org/10.1029/2018GL078374Maeda et al. (2017), https://doi.org/10.1186/s40623-017-0687-2Ide & Yabe (2018), https://doi.org/10.1007/s00024-018-1976-9Ide et al. (2007), https://doi.org/10.1029/2006GL028890Ito et al. (2007), https://doi.org/10.1126/science.1134454Obara et al. (2004), https://doi.org/10.1029/2004GL020848

  • 伊藤 陽介, 中島 淳一
    セッションID: T13-P-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    沈み込み帯において海洋性プレートからの脱水によって上盤プレートに水が供給されることが知られている。沈み込む海洋性プレートに含まれる緑色片岩や角閃岩は、温度約450度,圧力約1.5GPa以上の高温高圧下で脱水反応を伴うエクロジャイト化を起こす。生成された水の一部は上盤プレート内に放出され、その内部を移動すると考えられているが、上盤プレート内における水の移動プロセスはよくわかっていない。本研究では、約1年周期のスロースリップの発生に伴い上盤プレートへの繰り返し排水が期待されている(Nakajima and Uchida, 2018; Ito and Nakajima, 2023)茨城県南西部におけるフィリピン海プレート上部境界直上を対象に、S波スプリッティングの時間変化を調べた。241個のプレート境界地震に対し、直上に設置されたMeSO-net (Metropolitan Seismic Observation network)の5観測点で収録された加速度波形を解析し、S波スプリッティングを示すパラメータ(φ, dt)を推定した。その結果、最も精度の良い観測点において、速いS波の振動方向(φ)は北東40~60°方向を示し、速いS波と遅いS波の到達時刻差(dt)は、0.04〜0.18秒の間でばらつきを示した。さらに、繰り返し地震活動から推定されたプレート境界の平均滑り速度の時間変化とdtの時間変化の定量的な比較を行ったところ、平均滑り速度の増加から0.2年遅れてdtの増加が見られた。この結果は、先行研究で得られた、プレート境界の平均滑り速度の上昇に応じてプレート境界から水が上盤に放出され、直上の地震波減衰構造が増加するという解釈と概ね整合的であり、プレート境界から放出された水の移動過程を反映していると考えられる。さらに、dtの大きさは岩石中に存在するフラクチャー密度 (ε=Na3/V N: 個数密度, a: フラクチャ半径, N: 岩石の体積 )に依存することから、スロースリップのような大規模な剪断破壊をきっかけに、上盤プレート底部における既存の弱面に沿ってhydrofracturing (Davies, 1999; Padrón-Navarta et al., 2010) が伝播し、間隙率及び透水率を局所的、一時的に増加させている可能性がある。引用元Davies, J. H. (1999). The role of hydraulic fractures and intermediate-depth earthquakes in generating subduction-zone magmatism. Nature, 398(6723), 142-145.ISO 690Ito, Y., & Nakajima, J. (2023). Temporal Variations in and Above a Megathrust Following Episodic Slow‐Slip Events. Geophysical Research Letters, 50(14), e2023GL103577.Nakajima, J., & Uchida, N. (2018). Repeated drainage from megathrusts during episodic slow slip. Nature Geoscience, 11(5), 351-356.Padrón-Navarta, J. A., Tommasi, A., Garrido, C. J., Sánchez-Vizcaíno, V. L., Gómez-Pugnaire, M. T., Jabaloy, A., & Vauchez, A. (2010). Fluid transfer into the wedge controlled by high-pressure hydrofracturing in the cold top-slab mantle. Earth and Planetary Science Letters, 297(1-2), 271-286.ISO 690

  • 平岡 空, 高橋 侑希, 細川 貴弘, 橋本 善孝
    セッションID: T13-P-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    はじめに:流体圧は断層のすべり強度に大きく影響する。断層形成の挙動を理解するためには天然において流体圧がどの程度影響を及ぼしているのか定量化する必要がある。これまで、断層中の鉱物脈に含まれる流体包有物の解析から断層形成時の流体圧が推定できていたが、その推定された流体圧の深度によって解釈が異なるため、その断層強度への影響度の定量化を難しくしていた。しかし、先行研究で引張クラックの形成条件と天然から得られた流体圧を用いて断層形成時の深さ、岩石の引っ張り強度を制約することができた[Hosokawa and Hashimoto, 2022]。また、正断層応力状態と逆断層応力状態では流体圧に大きな差があることが分かった。この手法を剪断脈に発展させて考え、剪断破壊の条件に天然の情報を組み合わせ、形成深度と流体圧比λ(静岩圧に対する流体圧の割合)を制約する。 地質概説:横浪メランジュは西南日本の高知県土佐市横浪半島を南北に約2kmの幅を持ったメランジュ相である。黒色頁岩を基質とし、砂岩、泥岩、赤色頁岩、多色頁岩、チャート、石灰岩、玄武岩のブロックで構成されている。メランジュ構造を小断層が多数発達しており、厚さ約数mm~数cmの鉱脈を伴っており、この鉱物脈を伴う小断層の分布が海洋底層序に規制されていることから底付け付加前の小断層とされている。鉱物脈の流体包有物から推定されている、剪断脈形成時の温度・圧力はおよそ175~225℃、143~215MPaである。横浪メランジュの最北端に位置する五色ノ浜断層はコヒーレント相である須崎層の境界である。主に泥質岩で構成されている厚さ約2~3mの脆性破砕帯で、シュードタキライトに似た流動組織が見つかっている。また、ビトリナイト反射率から推定された古地温構造では五色ノ浜断層には温度ギャップがなく、断層近傍に小断層が多く発達しているものの鉱物脈は少ない。 手法:横浪メランジュの小断層古応力解析から、正断層応力場と逆断層応力場の二つの応力場が推定され、これらは地震サイクルに伴う応力の転換であると解釈されている[Hosokawa and Hashimoto, 2022]。得られた2つの応力解のそれぞれについて、各小断層面の垂直応力σnと剪断応力τを差応力を正規化して計算し、それらをモール円上にプロットしたのち、θr(最大主応力と断層面のなす角)を算出した。岩石破壊理論においてθrは流体圧の指標となる。 結果:推定されたθrについて、正断層応力場では最頻値が70°~85°と高角、逆断層応力場では最頻値が5°~30°と低角であった。 議論:岩石破壊理論から差応力と流体圧比の関係が得られており、θrの存在領域が制約できる。逆断層応力場でθrが高角な場合、低い差応力で引張クラック形成条件にキャップされることから、λの上限1.05(流体圧が215MPaの時)が制約される。このとき、引張クラックの最低流体圧は垂直荷重と引張強度の差であり、引張強度を10MPa程度とすると、垂直荷重は205MPaであり、深度にして8km程度となる。また、λの下限はこの8kmと最低流体圧143MPaから、0.7程度となる。  Terakawa et al. (2012)では、深度が既知の地震の発進機構を用いて応力解析を行い、最低流体圧が静水圧としたときの摩擦すべりの条件と地震発生深度からモールの円のサイズを求めて、各地震断層面にかかる相対的な流体圧の時空間変化をとら捉えようとした。本研究で得たθrからもTerakawa et al. (2012)と同じ手法で流体圧を求めることは可能だが、得られた流体圧は天然から得られた流体圧よりも優位に低い。これは、流体圧の下限が静水圧よりも高いことをしめしている。すなわち流体圧の下限は深度約8kmで143MPaと言え、これが剪断脈形成時の背景となる流体圧環境であったことを示唆している。この環境から差応力の大きさを制約する必要がある。その際、θrが高角であると高い流体圧で小さな差応力になる傾向があるといえる。 引用文献:Hosokawa and Hashimoto, 2022, Scientific reports; Hashimoto et al., 2014, Tectonics; Terakawa et al.,2012, Journal of geophysical research

  • 隅田 匠, 市来 政仁, 坂口 有人
    セッションID: T13-P-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】  プレート境界地震の震源断層表面のアスペリティは,数 km~数 100 kmの規模である(例えばYamanaka and Kikuchi, 2004 など).スロー地震の発生域も同様に数10 kmから数100kmの規模である(Obara and Kato,2016).これまでに過去の震源断層の露頭がいくつも報告されているが,露頭における断層岩研究と現世の地震観測研究とを対比するには,ある程度スケールを合わせる必要がある.震源断層の露頭がどれくらい広がり,どのような不均質性を有するのかを少なくとも10 kmスケールで議論できることが望ましい. 四国四万十帯興津メランジュの構造的上位の境界断層である興津断層ではシュードタキライトの発見が報告されている(Ikesawa et al., 2003).この興津断層は底付け付加によって形成されるデュープレックス構造の上部デコルマであるルーフスラストに位置する.興津メランジュの構造的下位の境界断層は,デュープレックス構造底部のフロアスラストは海洋地殻に直接接しているプレート境界断層にあたる.このフロアスラストでは,部分溶解した可能性があるカタクレーサイトが報告されている(向江ほか,2021).  興津メランジュと,その境界断層を10 km以上にわたって走向方向に追跡し,その断層岩の分布や状態を明らかにすることは,現世の震源断層と対比するうえで重要である. 【結果と考察】  これまで興津メランジュの北東部では玄武岩が複数層シート状に分布しており,海洋底層序を複数回繰り返すデュープレックス構造を形成していると確認されている.また,興津メランジュの黒色頁岩が北東走向で北あるいは南に急傾斜の構造を持ち,興津断層は興津メランジュの構造にほぼ平行に走る(Ikesawa et al., 2003).  本調査でこれまで未調査地域であった興津メランジュの南西部を調査し,興津断層の南西端の構造情報を取得した.北東部のようにシート状の玄武岩層を確認することはできなかったが,極々一部で玄武岩露頭が確認できた.興津断層の南西端はN60°W18°Nであり,周辺の興津メランジュの黒色頁岩は東西走向で北あるいは南に急傾斜を示す.つまり,興津断層は南西端では興津メランジュの古い構造方位と大きく斜交している.これは興津断層が,興津メランジュの大規模なデュープレックス構造の形成ステージよりも後のステージに再活動したせいかもしれない.  調査の結果,興津メランジュと興津断層は従来考えられていたエリアよりも広く分布していることがわかった.その分布域は約18 Kmに及ぶことが確認された.断層露頭も断続的に追跡可能と思われる.これは現世の震源断層や地震観測によって観測されるアスペリティと対比可能なスケールであるといえる. 【引用文献】Ikesawa, E., Sakaguchi, A., and Kimura, G., (2003) Pseudotachylyte from an ancient accretionary complex: Evidence for melt generation during seismic slip along a master decollement? Geology, 31, 637-640. 向江知也・坂口有人(2021)高知県四万十町興津メランジュで発見された沈み込みプレート境界断層.日本地質学会学術大会講演要旨,第128学術大会 Obara, K., and Kato, A., (2016) Connecting slow earthquakes to huge earthquakes. Science, 353, 253-257坂口有人(2003)四万十付加体興津メランジュの震源断層の特徴と流体移動に伴うセメンテーションによる固着すべりのアナログ実験,地学雑誌Journal of Geography 112 (6) 885-896Yamanaka, Y., and Kikuchi, M., (2004) Asperity map along the subduction zone in northeastern Japan inferred from regional seismic data. Earthquake Research Institute, 109, B07307.

  • 三谷 陣平, 橋本 善孝
    セッションID: T13-P-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    帯磁率異方性(Anisotropy of Magnetic Susceptibility, AMS)によるひずみ解析は、延性ひずみに敏感である特性を用いて、過去の応力と変形機構との関係を理解する上で有用である。過去に沖縄本島の四万十帯付加体では広域AMSで沈み込み帯でのひずみの発展を明らかにした(Ujiie et al., 2000)。また、IODPコアの高密度なAMS解析では断層でひずみが変化することが示された(Annika et al., 2020)。しかし、陸上付加体で断層を挟んだ高密度なひずみ解析を行った例はない。よって高密度サンプリングによるAMS解析で断層に応じたひずみの空間分布から局所的かつ脆性的な地震断層の影響ではない延性ひずみの厚さを明らかにすることを目的とする。 白亜系四万十帯に属する横波メランジュの北縁にある五色ノ浜断層を対象に行う。最終活動年代は52.4Maである(Fisher et al., 2019)。全体として幅2~3mの断層帯で各段層は20センチほどの脆性破砕帯を伴う。その脆性破砕帯の中では厚さ数百ミクロンの局所化したスリップゾーン(SZ)がある(Hashimoto et al., 2012)。 五色の浜断層を中心に南北40mの範囲でサンプリングを行い、計100個のデータを獲得した。当初は脆い破砕帯そのもののサンプリングが困難であったため、この100個の中に破砕帯は入っていなかった。今回、新たに破砕帯そのもののサンプル採取に成功した。露頭から採取する際に、試料に走向と傾斜の線を引く、その走向の線をめがけて、コアドリルを用いて円柱状にくり抜き、軸方向が2㎝になるように切断し、走向の一方向を下向きにセットし解析を実行する。 帯磁率は、ある一定の外部磁場を与えたときに獲得する磁化強度の比であり、異方性は、磁化許容量である帯磁率の偏りである。この三次元的な帯磁率強度分布を長軸(Kmax)・中軸(Kint)・短軸(Kmin)の3成分を持つ異方性楕円体として表すことができる。この3成分から形状パラメータTと異方性強度パラメータP‘を求め、3成分の方位と共にひずみを評価する。Tは-1から+1の範囲で葉巻型(prolate)から扁平(oblate)とひずみの形状を示す。Pは帯磁率楕円体が球形であったとする初期状態からの変化量を示す。 Kminは低角でNE-SW方向やや集中し、KmaxとKintはNW-SE方向にガードル状に分布した。さらにT-P‘ダイアグラムで全体的に扁平(oblate)を示したことから、大局的に見た場合、堆積時の層に垂直な荷重による圧密の記録が残されていることを示唆している。また、断層に近づくに従ってT、P’値ともに小さくなる傾向が見られた。このことから破砕帯内では圧密による扁平なひずみに剪断変形による葉巻型のひずみが上書きされたことを示唆している。これは他の断層帯でも、ひずみが扁平(oblate)から中性的な平面ひずみ、葉巻型(prolate)へと上書きされることは示されている(Shihu et al., 2020)。破砕帯内には破砕粒子の周辺に泥質な基質が流動的に剪断変形しており、葉巻型のひずみの上書きに寄与していると考えられる。その破砕帯内のT値を3つに分類し、方位の比較を行った。0.4∼0.7は葉巻型のひずみに近づいているといえるが、3成分の軸が揃っていることから延性ひずみが保持されていると考えられる。一方、0.4以下になると方位がばらつく。これは葉巻型のひずみが更に上書きされると脆性破壊が起こり、粒子がランダムに回転するためばらついていると示唆される。 破砕帯そのものから採取したサンプルのAMS解析の結果、T値がおよそ0.4となり、破砕帯で延性的な歪みが残されているとした範囲のより葉巻型が多く重複している領域である。結晶塑性変形を示す石英ブロックが破砕帯に含まれており、局所的な発熱下で比較的遅い変形が起こったことを示している。一方でAMSによって認定された延性ひずみは泥質基質の変形を反映している可能性があり、異なる変形機構によるひずみが調和的かどうかを検討することが今後の課題である。  Ujiie et al., 2000, JOURNAL OF GEOPHYSICAL RESEARCH Annika et al., 2020, Earth and Planetary Science Letters Hashimoto et al., 2012,Island Arc  Shihu et al., 2020, Geophysical Research Letters Fisher et al., 2019, Tectonics

  • Wenjing WANG, Yoshitaka HASHIMOTO, Takahiro HOSOGAWA, Masafumi MURAYAM ...
    セッションID: T13-P-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    In seismic cycle, the stress state changes with geofluids evolution under the variation of P-T condition, geofluid sources participation, elements composition or physical-chemical properties, etc.The Mugi mélange is one of the most well studied on-land tectonic mélanges along the interface of a subducting plate. Hosokawa and Hashimoto, (2022) firstly revealed different tectonic stress regimes with fluid pressure ratio (λ) in seismic cycles where multiple calcite-quartz veins are located in. In this study, we analyzed the carbon-oxygen isotope of calcite veins collected from varied tectonic stress regimes (Hosokawa and Hashimoto, 2022) in the mélange side near the boundary between mélange and altered basalt. It shows carbon isotope ratio of those three type veins are in constant range (-14.5‰ - -17‰, V-PDB), but obvious difference range in oxygen isotope ratio between reverse stress vein (16‰-17.5‰, SMOW, λ~1.1) and normal stress vein (17.5‰-19‰, SMOW, λ~0.9). Moreover, C-O isotopic ratios of the veins all have positive correlation trends with slope about 0.6. The carbon specie in geofluids where the multiple calcite veins precipitated from was H2CO3 (CO2) and the C-O isotopic evolution trend were caused only by temperature with homogeneous geofluid. The variation of C-O isotopic ratios indicates that isotopic composition of geofluids was different between the stress states, suggesting that the multiple periods of geofluids in the seismic cycle are not only contributed by local fluids but also the joint of external geofluids. Patterns of rare earth elements with Eu anomaly in those veins were obvious in the previous study, which implies that the external fluid could be with higher temperature (over 200 ℃) and different pH or fO2 properties than local fluids. Moreover, the external geofluids join in the stress evolution process may be a factor which caused overpressure in seismic cycles in Mugi mélange. Δ47 of calcite and oxygen isotope of contemporaneous quartz can be effective for further understandings of geofluid evolution in seismic cycle with tectonic stress change.References: Hosokawa and Hashimoto. 2022. Scientific Reports, 12, 14789.

  • 神谷 奈々, 宮崎 裕博, 林 為人, 林田 明
    セッションID: T13-P-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    堆積盆では,上載圧によって圧密が進行する.その際,側方からのテクトニックな応力をほとんど受けない堆積盆においては,上載圧によってのみ圧密が進行すると考えられるが,沈み込み帯に形成される前弧海盆のように,堆積過程で側方からの圧縮応力を受ける堆積盆では,主応力の方向や上載圧との大小関係など,圧密の進行プロセスが複雑であると考えられる.房総半島に分布する前弧海盆では,褶曲構造をもつ層群で,圧密降伏応力が埋没深度相当の圧力より大きくなることが確認されている(Kamiya et al., 2017).そこで本研究では,側方圧縮により褶曲が形成される際,堆積物の圧密がどのように進行するのかを明らかにするために,圧密の異方性に着目した.露頭から定方位で採取した泥質岩のブロック試料に対し,地層面と古応力方向を考慮した3つの載荷方向を設定して,それぞれの方向について圧密試験を行った.各方向の圧密度合い(圧密降伏応力)を比較して圧密の異方性度合いを検討し,褶曲構造との関係性を考察した.また,初磁化率の異方性解析から各試料の粒子配列の特徴についても考察した.房総半島は,沈み込み帯に形成される一連の地質体で構成され,南から順に付加体,隆起帯,前弧海盆が分布する.房総半島に分布する前弧海盆は,堆積年代が約15–3 Maの三浦層群と約3–0.06 Maの上総層群からなり,両層群の境界には黒滝不整合が分布する(中嶋・渡邊,2005).三浦層群は,東西走行で北上位の構造をもち,東西を軸とする褶曲構造が発達する.一方上総層群は,基本的には北東–南西走行で北上位の単斜構造で特に東部では三浦層群に斜交する形で重なる.小断層解析から広域応力場は,三浦層群形成時期には南北圧縮,上総層群形成時期には北西-南東圧縮であったと考えられている(Angelier and Huchon, 1987).本研究では,房総半島の前弧海盆のうち,西部地域を研究対象とした.西部地域における両層群ではメソスケールの断層が確認されている.逆断層に関しては,三浦層群では主に東西走向のおよび北東–南西走向が卓越するのに対し,上総層群では,北東-南西走行の逆断層が卓越という特徴がある(Kamiya et al., 2017).三浦層群から3試料,上総層群から4試料を採取し,圧密リングを用いた定ひずみ圧密試験を実施した.載荷方向は,過去の最大主応力方向を考慮して,設定した.三浦層群では,①地層面に対して垂直な方向,②褶曲軸に垂直な方向(南北方向),褶曲軸に平行な方向(東西方向)の3方向とした.地層の傾斜が比較的高角な箇所でサンプリングを行ったため,②および③については,露頭の現位置状態での水平面内における東西および南北方向,すなわち地層面が傾斜した状態での東西および南北をそれぞれ褶曲軸に平行な方向,垂直な方向とした.上総層群では,①地層面に対して垂直な方向,②逆断層の走向に垂直な方向(北西-南東方向)と,③逆断層の走向に平行な方向(北東-南西方向)の3方向とした.上総層群は,地層の傾斜が比較的低角であったため,②および③については,地層面内での方位,すなわち地層面を水平に戻した状態での北西-南東方向および北東-南西方向とした.初磁化率の異方性測定から得られた磁気ファブリックはほぼ全ての試料で,異方性楕円体の最小軸が地層面に分布し,中間軸および最大軸が地層面と平行に分布する結果となった.このことから,初磁化率を担う粒子が地層面に平行に配列していることが確認された.各試料とも3つの方向で圧密降伏応力がわずかに異なることから,圧密降伏応力には異方性があることが示唆された.3つの方向のうち,上総層群では,地層面に垂直な方向が大きくなる傾向が見られるのに対し,三浦層群では,南北方向すなわち褶曲軸に垂直な方向に大きくなる傾向が見られた.三浦層群では褶曲構造が発達し,地層の傾斜が大きいことを考慮すると,上載圧に加え側方からの圧縮応力の作用により圧密が進行している可能性が考えられる.引用文献Angelier, J. and Huchon, P., 1987, Earth and Planetary Science Letters, 87, 397–408. Kamiya, N., Yamamoto, Y., Wang, Q., Kurimoto, Y., Zhang, F. and Takemura, T., 2017, Tectonophysics, 710–711, 69–80. 中嶋輝充,渡辺真人,2005,富津地域の地質,産総研地質調査総合センター,102p.

  • 笠井 佑樹, 堤 昭人, 山本 由弦
    セッションID: T13-P-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    海底面下3~5km以内の深さでは、断層物質は正の摩擦速度依存性を持ち、不安定滑りを起こさないと考えられてきた(Scholz,1998)。しかし、近年浅部付加体内部で見つかった超低周波地震や浅部低周波微動は、付加体浅部の断層が不安定滑りを起こしうることを示唆している(Ito, Obara, 2006a)。本研究で扱う浅間断層は、三浦層群三崎層層を切る、三浦半島南部に露出する断層である。浅間断層は、剥ぎ取り付加体のデコルマ面から分岐する点(Yamamoto et al., 2005)で、超低周波地震の震源であると考えられている断層と同様の特徴を有する。本研究では、浅部付加体のImbricate thrust が持つ摩擦の特性と構造を調べること、および浅間断層の滑り履歴を復元することを目的として、断層試料の肉眼と偏光顕微鏡による観察、断層ガウジのXRD分析、断層試料と母岩を用いた摩擦実験を行った。また、RSFit3000(Skarbek,Savage, 2019)を用いたフィッティングにより、摩擦構成則のパラメーターであるa, b, dcを求めた。 XRD分析は、粉砕した断層ガウジ中の、2μm以下の粒子を用いた定方位試料について実施した。 摩擦実験は、粉砕して蒸留水を加えた試料を用い、垂直応力5MPa、間隙流体圧0MPa、数μm/sから数十μm/sの速度域の速度ステップ実験を行った。この速度域は、想定されている南海トラフでの超低周波地震時の滑り速度、50μm/s-2mm/s(Ito, Obara, 2006b)の下限に近い速度域である。  浅間断層の試料を観察し、この断層の変形部分を、厚さ2cm程度で黒色の断層ガウジ、上盤側の断層角礫岩、下盤側のせん断帯に分類した。これは、[Yamamoto et al., 2005]と同一である。薄片の観察では、断層ガウジ内に、断層面と平行に近い方向の粘土鉱物配列、無色鉱物の長軸配列を認め、断層角礫岩内にクラストを認めた。断層角礫岩内には、断層ガウジから離れるにしたがって粒径が大きくなるクラストを認めた。せん断帯は、ランダムに入る割れ目で母岩と区別することができた。断層ガウジのXRD解析では、断層ガウジにスメクタイトとイライトが含まれていることを示した。摩擦試験では、断層ガウジは正の摩擦速度依存性を、断層角礫岩、未変形の母岩は負の摩擦速度依存性を示した。実験を通しての摩擦の定常値は、断層ガウジで0.57-0.59程度、断層角礫岩で0.53-0.54程度、母岩で0.61-0.64程度であった。dcの値は、母岩で4.8μm、断層ガウジと断層角礫岩では20μm前後と、断層岩と母岩の間で顕著な違いを示した。浅間断層試料において、断層角礫岩の摩擦の定常値と、摩擦の速度依存性から、浅間断層が数μm/sから数十μm/sの速度域で滑った履歴を持つ場合、断層ガウジ部分にすべり変形が局所化すると、断層すべりが抑制される可能性がある。浅間断層の滑り速度が数μm/sから数十μm/sに達した可能性を検討するため、今後より低い速度域での摩擦実験が必要である。Scholz, C. H (1998), Earthquakes and friction laws. Nature 391, 37-42. Yoshihiro Ito, Kazushige Obara (2006a), Very low frequency earthquakes within accretionary prisms are very low stress-drop earthquakes. Geophysical research letter, 33(9). Yoshihiro Ito, Kazushige Obara (2006b), Dynamic deformation of the accretionary prism excites very low frequency earthquakes.GEOPHYSICAL RESEARCH LETTERS, VOL. 33, L02311.R. Skarbek and H. Savage (2019), RSFit3000: A MATLAB GUI-based program for determining rate and state frictional parameters from experimental data, Geosphere, (2019) 15 (5): 1665–1676.Yamamoto et al., (2005), Structural characteristics of shallowly buried accretionary prism: Rapidly uplifted Neogene accreted sediments on the Miura-Boso Peninsula, central Japan, Tectonics, 24 (2005).

  • 田代 圭吾, 堤 昭人, 山本 由弦, Wang Gonghui, Chang Chengrui, Huang Chao
    セッションID: T13-P-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    断層の地震性すべりの挙動は,本質的にはすべりに伴う断層強度の弱化過程である.そのため,地震時すべり挙動を予測するためには,強度弱化の特性を明らかにする必要がある.本研究では, 付加体浅部に発達する断層周辺物質を用いて,異なる排水条件下での大変位剪断実験を行い, 剪断に伴う間隙水圧上昇の過程が断層のすべり弱化挙動に及ぼす影響を検討した.実験には, 三浦・房総半島に分布する付加体にて採取した物質を使用した.三浦・房総半島には, 埋没深度が浅いことにより沈み込み帯浅部における付加体の初期変形が保存された地質体(三浦・房総付加体)が分布している(Yamamoto et al., 2005).この付加体中に発達する断層において, 断層ガウジ物質が上盤側の地層中に注入している様子が観察され, 変形時の高間隙水圧発生の痕跡として注目されている(Yamamoto et al., 2005; Yamamoto, 2006).断層帯における変形時の間隙水圧上昇の過程は, 有効応力の低下に起因した断層強度低下をもたらすため, 液状化の発生機構を解明することは, 地震時の断層の強度弱化のメカニズムを理解する上で,重要である.三浦半島三崎層ではスコリア質砂岩と半遠洋性シルト岩よりなる互層が発達している.今回のせん断実験には, 半遠洋性シルト岩を試料として用いた.実験には,京都大学防災研究所の大型リング剪断試験機(Sassa et al., 2004; Agung et al., 2004)を使用した.この装置では, 非排水条件下での剪断試験が可能であり, 剪断応力を加える事で自発的に断層の間隙水圧を高める事ができる.これにより,剪断応力下において間隙水圧が上昇し, 破壊線に到達して剪断断強度が低下し, 最終的に定常すべりに至るまでの破壊過程全体をシミュレーションする事ができる.本研究では排水実験により有効垂直応力を一定にする実験と非排水実験にて水の排出を制御する実験を行った.これにより, 力学的に液状化を起こす実験とそうでない実験を行うことができた.採取した試料は風化部分を取り除き,60℃の乾燥機にて24時間乾燥後, 粉砕したものを 150メッシュにて篩をかけ使用した.半遠洋性シルト岩を充填した剪断部分の上盤側と下盤側には, 珪砂8号を充填した.どちらの実験においても剪断開始に先立って, 試料中の間隙(空気)を二酸化炭素に置換した後に水を入れ, 500 kPaにて1日圧密を行った.圧密完了後, 0.1 kPa/sec にて剪断応力を増大させた.非排水実験では剪断応力が251.8 kPaにて, 排水実験では368.8 kPaにて破断線に到達した.どちらにおいても破断ピークと原点を結ぶ直線がそろっているため, 摩擦則が成り立っており, 断層物質の固有の破断強度は同じであるといえる.非排水実験では有効応力は破壊線に到達する過程の間隙水圧上昇に伴い500 kPaから320 kPaまで減少した. 破壊線に到達後, 巨視的回転(すべり)が開始すると間隙水圧が急激に上昇し, 約350 kPaまで増加して定常 になり, 剪断応力は約40 kPaまで低下した.したがって, 剪断すべりによる間隙水圧上昇により断層強度が約 84 %低下し, 力学的に液状化した.滑り量に対する剪断応力の低下を両実験にて比較すると非排水実験では間隙水圧の助けをえるため, 下がり方が急であり100 mm程の滑りで剪断応力は定常値まで低下する.排水条件の実験では断層物質の性質のみで剪断応力が低下するため, 定常な剪断応力に落ち着くまで450 mm 程の滑りを経ている.天然の断層ではこの中間の振る舞いをすることが推測される.非排水実験において, 間隙水圧の上がり方と剪断応力の低下の振る舞いに強い関連性がみられた.また, 垂直方向の断層幅の減少と間隙水圧の上がり方にも相関が見られた.このことから断層幅の減少幅が間隙水圧上昇に影響していることが推測される.発表では、排水条件によって実験後の試料における粒子配列についてどのような構造の違いがみられるかについても報告する.参考文献: Agung et al., 2004, Landslides 1, 101–112. htps://doi.org/10.1007/s10346-004-0001-9. Sassa et al., 2004, Landslides 1, 7–19. https://doi.org/10.1007/s10346-003-0004-y. Yamamoto, 2006, Earth and Planetary Science Letters, 244, 270-284. https://doi.org/10.1016/j.epsl.2006.01.049 Yamamoto et al., 2005, Tectonics, 24, TC50t08, https://doi.org/10.1029/2005TC001823.

  • 橘 隆海, 藤内 智士, 高下 裕章
    セッションID: T13-P-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    南海付加体の室戸沖では変形フロント前縁で弾性波特性が急変することが指摘されており,これは粘土鉱物の脱水によりデコルマに相当する層順において間隙流体圧が上昇することの影響だと考えられており(Tsuji et al., 2005).プロトデコルマをとらえたものであると解釈されている Yamada et al. (2014) .またDotare et al. (2016)では乾燥砂を用いたアナログモデル実験によりプロトスラストの伝播を非常に高い時空間分解能で解析し,プロトスラスト発達時には一定期間,微小なせん断帯が観察されることを報告している.ただし,付加ウェッジが発達している天然のプレート収束帯において,どこでもプロトデコルマが観察されているわけではない.そこで本研究では,プロトデコルマの形成条件を議論するため,初期層の摩擦強度プロファイルがデコルマの伝播過程に及ぼす影響をX線CTスキャン(XCT)とデジタル画像相関法(DIC)を用いた模型実験の観察により検討した. 本研究では表面が粘着するカッティングシートを底面に用いた.アクリル製の箱(118 mm×693 mm×158 mm)に強度の強い豊浦硅砂と強度の低いマイクロビーズからなる地層模型を製作し,これを変形させる実験を行った.実験の初期条件は基底部低強度モデルと基底部高強度モデルの二種類とした.基底部高強度モデルは22mm全てが豊浦硅砂からなり,基底部低強度モデルは厚さ10mmのマイクロビーズ層を用意し,上に12mmの豊浦硅砂を敷き詰めたモデルである.実験装置及び砂体の内部構造をXCTで撮影し,X線の減衰率よりモデル内部の密度分布を得た.XCT画像を一定の時間に対し定期的に撮影することでXCT画像の時系列データを作成した.時系列変化より,XCT画像上での特徴から新規のデコルマが伝播する1つのサイクルをStage A〜Cの三段階に区分した.具体的には,Stage A:旧デコルマ及び旧フロンタルスラストのみが観察される期間,Stage B:底部の低CT値領域が観察される期間,Stage C:新規フロンタルスラストが出現する期間である. 強度が異なる基底層を用意した実験結果を比較すると,デコルマ伝播サイクルに占めるStage A〜Cの期間の割合に関して,基底部低強度モデルではStage AからCまでそれぞれ64%,32%,4%であったのに対して,基底部高強度モデルでは90%,5%,5%であった.よって基底部低強度モデルの場合はStageBが長くなり,基底部高強度モデルはStage Aが伝播サイクルのほとんどを占めることがわかった.  上記の二種類の実験条件について,DICを併用した実験も行った.DICは撮影された画像のピクセル輝度値の数値解析から視野内の変位やひずみ分布を計測する手法であり,CTよりも高い時間解像度での観察が可能であるため,CTで得た解釈を詳細に議論することが可能である.本研究では模型の側面から画像を撮影し,これをDIC解析によって,撮影画像における砂層の鉛直変位の時系列データを得た.ここではCTと同じステージに相当するものを以下の変形から読み取り,記載を行った.具体的には,StageA:旧スラスト部が隆起する期間,StageB:前縁が間欠的に隆起する期間,StageC:前縁が安定的に隆起する期間,とした.時系列変化を比較すると,基底部低強度モデル ではStage AからCまでそれぞれ72%,24%,4%であった.一方で基底部高強度モデルでは89%,4%,7%であった. 本実験で見られたStage Bは,先行研究の解釈から,プロトデコルマが活動する期間ともいえる.つまり本研究の結果から,基底部の強度の違いにより,プロトデコルマの活動期間に違いがあることを示唆する.基底部高強度条件の際にはプロトデコルマはほとんど存在せずに,極めて短期間で新しいフロンタルスラストができる.天然のプレート収束帯に見られる付加体においてプロトデコルマが観察される地域が限られているのはこのような基底部強度の違いがデコルマの伝播過程に影響を与えることに起因していることが考えられる.今後は弱層と母岩のピーク強度やひずみ弱化率などの摩擦特性のより詳細な部分とデコルマ伝播過程との関係性の検討が必要である.参考文献Dotare et al. (2016) Tectonophysics, 684 Tsuji et al. (2005) Geophysical Resarch Letters, 32 Yamada et al. (2014) Marine and Petroleum Geology, 51

  • 有吉 慶介, 飯沼 卓史, 山本 揚二朗, 宮澤 泰正, ヴァーラモフ セルゲイ, 松本 浩幸, 町田 祐弥, Saffer Demian, ...
    セッションID: T13-P-11
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    近年、地震や地殻変動を高感度かつ広域にわたって観測する技術の進展によって、通常の地震に比べて時間をかけて断層が滑るために人間では揺れを感じない「スロー地震」の発生が、日本周辺や世界中のプレート沈み込み帯で検知されるようになってきた。この「スロー地震」は、通常の地震に比べて小さい外力によって活動が変化することが知られており、海溝型巨大地震の震源域近傍に分布していることから、南海トラフにおいては、プレート間の固着状況を把握するための重要な監視ツールの一つとなっている。 スロー地震のうち、巨大地震震源域よりも浅部側で起きるスロースリップイベントについては、長期孔内観測装置の間隙水圧計で捉えられるようになってきた。2018年以降は、南海トラフ近傍の観測点C0006がDONETと接続されたことにより、トラフ軸付近でのすべり過程も明らかとなりつつある。2020年3月に発生したスロースリップイベントでは、3点の長期孔内観測点における間隙圧の時間変化およびDONET広帯域地震計による超低周波地震の活動から、すべり域が浅部側に伝播する過程を捉えることに成功した。この解析の際には、孔口あるいは近傍にあるDONETの海底水圧計の記録を用いて、相互相関関数から潮汐応答の時間差を推定し、孔内水圧データとの差分を取ることで海洋擾乱成分の軽減を図った。 この手法を解析処理システムに実装することで、2023年3月に発生した浅部スロースリップイベントについて、発生翌日頃から検知するとともに、C0006におけるナノスケールでの体積歪変化の推移も準リアルタイムで捉えることに成功した。その結果、2023年3月に発生したスロースリップイベントは、2020年3月に発生したスロースリップイベントと、発生領域・体積歪変化率などの点で類似していることが明らかとなった。本講演では、類似点の他に、相違点や解析の現状と課題についても議論する予定である。

  • 福地 里菜, 趙 陽, 白石 和也, 浜橋 真理, 村山 雅史, 芦 寿一郎, 山口 飛鳥
    セッションID: T13-P-12
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    海山などの地形的高まりの沈み込みによってもたらされる付加体の発達過程の変化と地震活動の関係はこれまで数多く議論がされており(Scholz and Small, 1997; Cloos, 1992; Cloos and Shreve, 1996; Wang and Bilek, 2014 ほか),近年ではスロー地震との関係性も明らかになってきた(Sun et al., 2020ほか)。海底面の凹凸よりもプレート境界断層面の摩擦が付加体前縁部の構造発達に寄与するとの議論もなされているが(Okuma et al., 2022),その原因や発達過程と時空間的な情報についてはデータが少ない。 熊野沖付加体前縁部では磁気異常データ(沖野, 2015)や地震波反射断面(Moore et al., 2009)から,南海トラフの北西側に地形的高まりが沈み込んでいることが既に知られており,国際深海掘削計画(IODP)ではC0006地点,C0007地点,C0024地点にて掘削され,層序と年代により構造発達がわかってきた(Yamaguchi et al., 2020)。これらIODP掘削地点の西側では,付加体前縁部に約10 km平方におよぶ滑落崖を有する地すべり地形が発達し,その原因の一つとして地形的高まりの沈み込みによるものと考えられる。 そこで,2022年3月に新青丸 第KS-22-3次航海において,付加体前縁部斜面の海底地すべりに伴う崩壊堆積物と想定される海溝部の堆積物から採泥を行った。採泥は,ピストンコアラーを用い,2.8m採取した。採取したピストンコア試料は,非破壊の物性計測や岩相記載を行い,海底下1.4 m以深からマトリックスより硬い堆積岩礫が混じる岩相示した.そのため,この堆積岩礫と付加体前縁部の堆積物の複数対比によって礫の由来が明らかにするために,堆積岩礫の間隙率を測定し,IODP掘削地点と比較を行った. 堆積岩礫の間隙率は48-58%を示し,C0006地点の海底下1-77 mや450-600 mの間,C0007地点海底下3-34 mや海底下74-84 mの間,C0024地点では海底下4-113 mの深度などで,複数の深度で類似した値を示した.また,沈み込み前の四国海盆堆積物の掘削地点であるC0011地点では海底下約250 mに相当する.これらの間隙率の深度分布から,四国海盆上部の間隙率低い堆積層が前縁部の衝上断層によって付加体の上部に露出する可能性も考えられる.しかしながら,しかし,採泥を行った地点の周辺では,地震波反射断面から海洋地殻上面の地形的高まりの沈み込みと付加体の変形や斜面の崩落した構造が顕著であることから,付加体前縁部形成時の衝上断層による隆起に別の影響が加わった結果と考えられる.すなわち,付加体形成時の衝上断層運動により形成された付加体が,その後の地形的高まりの沈み込みによってさらに隆起した影響によって,付加体前縁部のIODP掘削サイトにおいて観察された更新世の付加した海溝充填堆積物の表層約100 mで海底地すべりが起き,それが堆積岩礫として採取できたと考えられる. 【引用文献】 Cloos, M. (1992), Geology, doi:10.1130/0091-7613(1992)020<0601:TTSZEA>2.3.CO;2 Cloos, M. and Shreve, R.L. (1996), Geology, doi:10.1130/0091-7613(1996)024<0107:SZTATS>2.3.CO;2 Moore et al. (2009) Proc. IODP Volume. Vol. 314. No. 315/316, doi:10.2204/iodp.proc.314315316.102.2009. 沖野 (2015).地学雑誌, 124(5), 729-747. doi.org/10.5026/jgeography.124.729 Okuma et al. (2022). Tectonophysics, doi:10.1016/j.tecto.2022.229644 Scholz and Small, (1997) ,Geology, doi: 10.1130/0091-7613(1997)025<0487:TEOSSO>2.3.CO;2 Sun et al. (2020), Nat. Geosci., doi: 10.1038/s41561-020-0542-0 Yamaguchi et al., (2020) IODP Expedition 358 C0024, doi: 10.14379/iodp.proc.358.104.2020 Wang and Bilek (2014), Geology, doi: 10.1130/G31856.1

  • 中村 恭之, 野 徹雄, 三浦 亮, 藤江 剛, 三浦 誠一, 小平 秀一, 鶴 哲郎, 朴 進午
    セッションID: T13-P-13
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    2011年東北地震は北緯37.5度から北緯39度付近の、日本海溝域の中部にあたる箇所を破壊域とする地震であった。JAMSTECでは東北地震震源域のプレート境界断層や上盤プレートの構造を調べるために、地震発生直後から「かいれい」を用いた反射法調査を実施し、この海域にはP波速度が遅い前縁プリズムが海溝陸側下部斜面下に存在することなどを明らかにした(Kodaira et al. 2017)。一方、東北地震震源域の北隣にあたる日本海溝北部域は、近年の海底観測網の整備により微動や超低周波地震活動が報告されるようになり(たとえば、Nishikawa et al. 2023)、東北地震震源域とは異なった断層滑りが進行していることを示唆している。また、 この海域の陸側斜面海溝軸近傍は明治三陸地震、沈み込む前の太平プレート上は昭和三陸地震の震源・津波波源域とされている。近年の研究からは、沈み込むプレート上の堆積層厚さや折れ曲がり断層の発達様式が日本海溝中部と北部では異なっていることも示唆されている(Nakamura et al. in revision)。海溝軸近傍の太平洋プレート上に見られるプチスポット域が東北地震浅部滑り域の北端に位置することから、プチスポット活動とプレート境界断層での滑り現象の関連も指摘されている(Fujie et al. 2020)。これまでに日本海溝北部域では地下構造調査が実施されてきたが(たとえば、Tsuru et al. 2000)、測線間隔はおよそ50 – 100 km であり、ゆっくり地震との関連を議論するには不十分であった。さらに、陸側斜面に関しては主に2003年までに約4kmのケーブルで得られたデータであり、沈み込み帯深部やアウターライズ断層深部を対象とするにはさらによい観測仕様でのデータ取得が望まれる状況であった。そこで我々は、2022年(KM22-07航海)・2023年(KM23-07航海)の2年にわたって日本海溝北部域で、「かいめい」を用いた反射法地震探査を実施した。用いたケーブル長は5.5 – 6 km、エアガン容量は10600立法インチである。得られた断面上には、陸側斜面下に沈み込む太平洋プレートの上面が海溝軸から100km以上にわたって追跡できる。上盤側プレート内の構造は測線によって変化している様子や、プチスポット域付近ではモホ面が不明瞭であることなども見て取れる。本発表では、この2年で得られた断面に見られる構造の特徴を紹介し、ゆっくり地震活動や巨大地震震源域と構造の関係を議論する。引用文献S. Kodaira et al. (2017) Geosphere, 13 T. Nishikawa et al. (2023) Progress in Earth and Planetary Science, 10Y. Nakamura et al. Progress in Earth and Planetary Science, in revision G. Fujie et al. (2020) Geology, 48T. Tsuru et al. (2000) Journal of Geophysical Research, 105

T14.原子力と地質科学
  • 志間 正和, 青木 広臣
    セッションID: T14-O-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    原子力規制委員会は,特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針(平成27年5月22日閣議決定)を受け,「概要調査地区等の選定時に安全確保上少なくとも考慮されるべき事項」(考慮事項)について,令和4年1月から数次にわたり検討及び審議を重ねてきた.1.検討の範囲 考慮事項の検討対象とする事象の範囲は,次の点を考慮することとした.・概要調査地区等の選定の際に特に考慮されると考えられる施設の設置場所に関するもの・廃棄物埋設地に埋設された高レベル放射性廃棄物等(HLW等)を起因として公衆に著しい被ばくを与えるおそれがある事象のうち,廃棄物埋設地の設計(構造及び設備)による対応が困難であり,廃棄物埋設地の設置を避けることにより対応する必要があるもの これらの点を踏まえ,断層等,火山現象,侵食及び鉱物資源等の掘採の4事象を考慮事項の対象とする事象とした.これらの事象が起きた場合に,HLW等を起因として公衆に著しい被ばくを与えると想定されるプロセスを表にまとめた.2.検討の方向性 表に挙げた自然事象に対して,考慮事項の内容は,以下の点に留意して検討した.○HLWの放射能特性を踏まえ,中深度処分の規制基準と共通的な事項や,追加して考慮することが必要な事項を整理する.○将来における地殻変動の方向や速度については,以下に示す我が国における地殻変動の継続性についての科学的知見を踏まえ,現在における傾向と同様であるとの前提を置く.・表に挙げた自然事象の将来の変遷については不確実性があるものの,過去に生じた事象の発生のメカニズムや周期性などの科学的知見に基づけば,過去に生じた事象が同様の範囲で繰り返し生じる可能性は十分に想定され,当該事象の発生を今後将来の一定の期間外挿することには合理性があるものと考えられる.・また,プレートシステムの転換に伴って,異なったステージの地殻変動が起こるとされており,このような場合には上記の自然事象の発生の傾向も大きく変化することが考えられる.ただし,プレートシステムの転換には100万年~1000万年以上の期間を要したとされており,今後直ちに地殻変動のステージが変わることは想定できない.3.我が国における火山の発生メカニズムとその地域性 表で挙げた自然事象のうち,火山現象に関しては特に留意が必要であり,考慮事項の検討に先立ち,我が国における火山の発生メカニズムの特徴やその地域性等に関する科学的・技術的知見の拡充を目的として,火山の専門家からの意見聴取を実施した.意見聴取の結果として,我が国における火山の発生メカニズム等に関する科学的・技術的知見を整理した[1].ポイントは以下の通り.〇プレート境界に位置する日本列島において、マグマの発生はプレートの特性や運動と深い関係がある.プレートの特性や運動と深い関係があるマグマの発生の傾向が今後10万年程度の間に大きく変化することは想定し難く、これを否定する学説や科学的知見は見当たらない.〇マグマの発生条件が成立していないと考えられる地域(例えば、東北日本の前弧域)では、今後10万年程度の期間において火山が発生する蓋然性は極めて低い.〇現時点においてマグマの発生条件の成立を否定できない地域について、新たな火山の発生の蓋然性を評価する場合には、マントルウェッジの対流や沈み込む海洋プレートの特性等を加味した評価モデル等の構築によって評価することが考えられるが、研究段階であり、現時点においては確立された評価方法は見当たらない.4.考慮事項の考え方 考慮事項の検討対象とした事象について,以下のように考え方を整理した.(1)断層等 人工バリアの損傷を防止するとともに,地下水流動経路を通じた放射性物質の移動の促進等を防止するとの観点は中深度処分と同様.(2)火山現象 中深度処分と同様に,噴火やマグマの貫入による廃棄物埋設地の破壊が生じる蓋然性を十分に低減することが必要.加えて,HLWの放射能特性を踏まえ,新たな火山の発生の可能性についても考慮されるべき.(3)侵食に係る考慮事項の考え方 中深度処分より更に深い深度を確保することが適当.(4)鉱物資源等の掘採に係る考慮事項の考え方 人為事象としての鉱物資源等の掘採は,中深度処分と地層処分とで差異はない. 原子力規制委員会は「考慮事項」を令和4年8月24日に決定した.全文は原子力規制委員会ホームページ[2]に掲載されている.参考文献[1] 原子力規制庁: 令和4年度第10回原子力規制委員会, 資料2, 地層処分において安全確保上少なくとも考慮されるべき事項に関する検討(第3回目)-火山の専門家への意見聴取結果-. 令和4年5月18日 (2022)[2] https://www.nra.go.jp/data/000402076.pdf

  • 【ハイライト講演】
    兵藤 英明, 新井 慶将, 浅森 浩一, 別宮 功, 海江田 洋平, 小松 哲也, 松本 孟紘, 尾上 博則, 大津 正士, 三枝 博光, ...
    セッションID: T14-O-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    原子力発電環境整備機構(以下、NUMO)は2020年11月から、北海道寿都町及び神恵内村の文献調査を実施している。総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 放射性廃棄物ワーキンググループ(以下、廃棄物WG)において、今回の文献調査の取りまとめに向け、特に技術的/専門的な事項については、透明性あるプロセスの中で、丁寧に評価していくことの重要性・必要性が示され、2017年に公表された「科学的特性マップ」の策定時にその具体的要件・基準等について審議した、同小委員会下の地層処分技術WG(以下、技術WG)において、NUMOが整理する「文献調査段階の評価の考え方(案)」について、技術的/専門的な観点から議論・評価を行うこととなった。特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(以下、最終処分法)(及びその施行規則)は、文献調査を実施し次段階の概要調査地区を選定するための要件を定めている。また、原子力規制委員会は2022年8月に特定放射性廃棄物の最終処分における概要調査地区等の選定時に安全確保上少なくとも考慮されるべき事項(以下、「考慮事項」)を公表している。NUMOは文献調査において、(1)最終処分法に定められた要件に照らした評価、(2)技術的観点からの検討及び(3)経済社会的観点からの検討を実施することとしている。このうち、(1)及び(2)について、最終処分法、「考慮事項」及び「科学的特性マップ」策定時の考え方のうち事象や特性の基本的考え方などに基づいて、NUMOは「文献調査段階の評価の考え方」(案)を策定し、技術WGの第21回~24回会合(2022.11~2023.4)に提示しご議論いただいた。(3)についてもNUMOが考え方(案)を廃棄物WGに提示しご議論いただいた。最終処分法に定められた要件に照らした評価については、「断層等」、「マグマの貫入と噴出」といった項目ごとに避ける場所の基準を設定するとともに、基準への該当性の確認の仕方を策定した。最終処分法に定められた要件には当たらないが「考慮事項」が要請している「地熱資源」についても同様の基準と確認の仕方を策定した。このような項目ごとの基準と、技術的観点からの検討の考え方の概要は表1のとおりである。表1は提示した案についてのご議論を基に修正を加え、了承されたものである。本発表においては、表1に示した内容や確認の仕方、基準策定に当たっての考え方などを説明する予定である。表1:最終処分法に定められた要件に対応する項目などの基準及び技術的観点からの検討の考え方の概要

  • 北村 暁, 安楽 総太郎, 下堀 友数
    セッションID: T14-O-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    高レベル放射性廃棄物の最終処分について,特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(平成十二年法律第百十七号;以下「最終処分法」という。)では,段階的な調査を経て処分地を選定することが規定されている。最初の調査である文献調査は,関心を示した市町村に対して,地域の地質に関する文献・データを調査分析して情報提供することにより,事業について議論を深めていただくためのものである。令和2年11月17日より,北海道の寿都町及び神恵内村で文献調査が開始されており,地層処分の実施主体である原子力発電環境整備機構(以下,NUMO)において,これら自治体の地質等に関する文献・データを収集の上,そこから抽出した情報の読み解き(学術的理解)が進められている。当該自治体における文献調査は我が国において初めてのものであり,具体的に調査を進めることで初めて詳細かつ具体的な評価の考え方が見通せてきたことから,並行して「文献調査段階の評価の考え方(案)」が整理されている。この「文献調査段階の評価の考え方(案)」は,「最終処分法で定められた要件に照らした評価」,「技術的観点からの検討」及び「経済社会的観点からの検討」で構成される。総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 地層処分技術ワーキンググループ(以下,WG)では,NUMOが整理した「文献調査段階の評価の考え方(案)(最終処分法で定められた要件に照らした評価及び技術的観点からの検討)」(以下,「評価の考え方(案)」)について,令和4年11月から令和5年4月まで計4回の審議を実施した。「評価の考え方(案)」は,最終処分法で定められた要件の具体化の考え方,火山や活断層などの項目ごとの基準,その他の評価を説明する章で構成されている。WGでは,項目ごとの基準案及び基準案への該当性の確認の仕方や,技術的観点からの検討の考え方などの個別の議論に加えて,最終処分法で定められた要件の具体化の考え方など,評価の考え方全般についても審議を行った。WGは,「評価の考え方(案)」に示された内容について,最新の知見に照らしても妥当であることを,「要件の具体化」,「項目ごとの基準」及び「その他の評価」に関して確認した。また,WGは,「項目ごとの基準」の具体化においては,項目ごとの基準を定めることに加え,基準への該当性の確認の仕方をあらかじめ具体化しておくことが,基準に沿って文献調査報告書をとりまとめていく際の透明性確保につながる,という認識を共有した。さらに,WGは,概要調査以降の調査を実施するとした場合,それらの段階において取得することが望ましいと考えられる情報をあらかじめ整理しておくことも透明性確保につながる,という認識を共有した。一方で,WGは,段階的な調査を進めていくにあたっては,その時々の最新知見に照らした評価をしていくことが重要となることを指摘した。これを受け,実施主体であるNUMOは,今回の審議を通じ,最新知見を踏まえ「評価の考え方(案)」を整理・ブラッシュアップした。また,NUMOは,文献調査以降に収集・発行された文献については,以降の調査で採り入れていくことを示した。これは,審議でも繰り返し議論になった,最新の知見に照らした評価を実施していくことの基礎となるものである。このことから,WGは,文献収集状況が今後ともNUMOによって適時アップデートされていくことが適切であるとの認識を示した。 最終的に,WGは,以上の議論や認識の共有を通して,「評価の考え方(案)」としてNUMOが示した要件の具体化の考え方や,各項目の基準と確認の仕方について,一部を修正した上で了承した。この審議の過程において,下記2点の留意事項が示された。① 国は,とりまとめにあたって,わかりやすい表現を心がけること。② NUMOは,WGで了承された基準と確認の仕方を実際の地点に適用し,住民の方々に説明する場合,WGにおける審議内容を考慮すること。

  • 岡村 聡
    セッションID: T14-O-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場を選ぶ第一段階の文献調査が,2020年11月から北海道寿都町と神恵内村で行われ,調査報告を待つ段階となった。筆者は、両地域の地質について、対象となるのは新第三紀後期中新世の火山性砕屑岩が主体であり、これらは層相変化に富み,再堆積性の岩相を示すことが多く、さらに多数の岩脈が認められることから、亀裂に富み高透水性の岩盤であるため、地層処分場には適さない脆弱な地質であることを主張してきた(文献1)。しかし、経産省が示す「文献調査段階の評価の考え方(案)」(以下、評価の考え方)(文献2)では、上記の脆弱な岩盤について、明確な評価基準が示されていない。本発表では、寿都町と神恵内村の「対話の場」で公表された検討事例をもとに、「評価の考え方」の問題点を考察した。  水冷破砕岩の脆弱性寿都町で実施の「対話の場」で配布された文献調査の進捗状況資料(以下、文献調査の進捗)(文献3)によれば、水冷破砕岩の地質特性の検討として、「地下深部のデータが少なく、十分な評価のためには、現地調査によるデータの取得が必要」として「概要調査に際して留意すべき」としている。しかし、水冷破砕岩主体の不均質で脆弱な地質特性は、地質図幅などの文献から評価可能であり、同種の岩盤のトンネル崩落事故の調査報告(文献4)からも、岩相によって未固結堆積物にも匹敵する強度が指摘されている。 断層の基準寿都町の「文献調査の進捗」では、断層の事例として、処分場を設置する深さに分布する「可能性が高い」のは、黒松内低地断層帯のうち「白炭西・白炭東」のみであり、それ以外(樽岸、丸山東、歌棄など)は、「可能性が高いとは言えない」としている。しかし、白炭西・白炭東の両断層は、トレンチ調査や地震探査によって変動が明らかにされている事例なのであり、地震調査研究推進本部が認定した黒松内低地断層帯の活動範囲を、意図的に狭く認定し、地層処分の安全性を重視した見解とは考えられない。   尻別川断層は、寿都町の東隣に接する蘭越町との境界の尻別川に沿って走り、これについては対象外とされている。しかし、本断層は、北海道電力の調査資料(文献6)によって、中期更新世以降に活動し南北約16kmで60度西傾斜の逆断層であることが示されている。このことは「評価の考え方」が示す処分場として避けるべき基準に合致していることは明らかである。 第四紀火山の基準「評価の考え方」の基準では、第四紀火山とその活動中心から約15km以内を不適地としている。「文献調査の進捗」では、寿都町北東部に「磯谷溶岩」が第四紀火山の候補として指摘されているが、「該当することが明らかまたは可能性が高いとは言えない」とされている。しかし、磯谷溶岩の下位に堆積する礒谷層中の岩脈から2.3Ma(文献7)が報告され、本溶岩がその磯谷層の上位に重なることから、更新世火山とされている(文献8)。したがって、磯谷溶岩を第四紀火山と認定し、その分布範囲を中心とした15km圏内を不適地とすべきである。 新たな火山の基準寿都湾の内陸側では、地下10kmと30kmを震央とする地震が確認されている。このうち30km震度は低周波地震からなり、地殻深部の部分溶融域やそこから上昇する流体の存在が指摘されている。しかし、この観測データに関する見解は、「評価の考え方」の基準の「新たな火山が生じる」可能性と照合し、「該当することが明らかまたは可能性が高い」と言えないとされている。仮に、この観測データが、地層処分地の不適地の評価にあたらないのであれば、本基準が、地層処分の安全性を保証する基準にはなり得ないことは明らかである。能登半島珠州岬周辺で頻発する深部低周波地震由来の地震災害を想起すれば、この「評価の考え方」の誤謬は誰の目にも明らかである。(文献1)岡村 聡(2021)日本地球惑星科学連合2021年大会(文献2)経産省 文献調査段階の評価の考え方(案)https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000255891(文献3)https://www.numo.or.jp/chisoushobun/survey_status/suttu/m_asset/haifushiryo_20230509_suttu.pdf(文献4) 豊浜トンネル事故調査委員会(1996)豊浜トンネル事故調査委員会報告書.(文献5)北海道電力 「7.尻別川断層の評価」https://wwwc.hepco.co.jp/hepcowwwsite/energy/atomic/info/pdf/examination_meeting_18_1_3.pdf

  • 千木良 雅弘
    セッションID: T14-O-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    わが国では,高レベル放射性廃棄物(HLW)の地層処分場の立地選定にあたって,地質環境の長期安定性が極めて重要視され,それ以外の地質構造についての検討が等閑視されてきたように思える.しかしながら,地質構造はHLW地層処分の安全評価にあたって基礎となるものである.しかも,HLWは人間が経験したことのない万年オーダーの長期間にわたって隔離する必要があるため,地質構造調査にあたっては人間圏への通路となりうるボーリング孔などを極力少なくすることが必要である.そのため,わが国のHLW地層処分場の立地選定にあたっては,透水性が小さく,地質構造が単純な場を選定することがぜひとも必要である(千木良,2023). 標準的と考えられている処分場のサイズ(3㎞×2㎞)の広がりのスペースを地下に置くことを実際の地質構造と比較して考えてみる.新第三紀火山岩類,新第三紀堆積岩,付加体,花崗岩,について検討した.現在文献調査の進められている寿都町や神恵内村に分布する新第三紀火山岩類は,花崗岩などと違って,一般的に不均質性が強く,また,溶岩や貫入岩の形態自体極めて不規則な場合が多い(山岸,1973;狩野,2016).そのため,処分場が形態や性状を把握しきれない複雑な地質と遭遇する可能性が高い.新第三紀堆積岩は,処分場としては透水性の低い泥質岩が望ましいが,我が国に分布する新第三紀堆積岩の泥岩の多くは砂岩との互層であり,泥質岩のみで処分場を包含できる地域はおそらく広くない.また,強く褶曲した地帯では,異常高圧や泥火山がある場合があり,これらは処分に対して好ましくない.付加体は,わが国に広く分布しており,良く研究されてきたが,それでも従来報告されていない衝上断層が多数存在すると考えるべきである.例えば,2011年台風12号によって植生が剥ぎ取られて全面露頭に近い状態になった熊野川沿いの四万十帯の調査によると,12.9㎞の間に非固結破砕帯を伴う断層が約30条認められ,その内8条は80㎝以上の厚さの破砕帯を伴っていた(Arai and Chigira, 2019).その内一つの断層破砕帯では,その上下で地下水観測が行われており,それが遮水帯となって深層崩壊が発生したことが明らかになっている(Arai and Chigira, 2018).四万十付加コンプレックスは,我が国の典型的な付加体であり,上記と同様の地質構造が我が国の付加体一般に存在すると想定することは不自然ではない.従って,2㎞×3㎞の処分場は複数の衝上断層の破砕帯に遭遇すると想定されるが,詳細な調査なしにはその位置や形態を正確に把握することは難しい.わが国の花崗岩は,従来割れ目に富むと考えられてきたが,それは花崗岩体のルーフに近い部分で著しいこと,長い構造履歴を受けていない花崗岩で,大きなバソリスの深部ならば割れ目が少なく良好な岩盤が広がっている場合があることがわかってきた.このような理由から,新第三紀火山岩類,付加体は,地質的不確実性が大きく,HLW地層処分場立地選定においては避けるべき地質体と考えるべきだと思う.一方,褶曲していない厚い新第三紀堆積岩の泥質岩や大きなバソリス深部の花崗岩は,おそらく不確実性が小さい.引用文献Arai, N., Chigira, M., 2018. Rain-induced deep-seated catastrophic rockslides controlled by a thrust fault and river incision in an accretionary complex in the Shimanto Belt, Japan. Island Arc, 27(3), 17. Arai, N., & Chigira, M. (2019). Distribution of gravitational slope deformation and deep-seated landslides controlled by thrust faults in the Shimanto accretionary complex. Engineering Geology, 260, 1-18. doi:10.1016/j.enggeo.2019.105236 千木良雅弘(2023).高レベル放射性廃棄物処分場の立地選定-地質的不確実性の事前回避―.近未来社,168p. 狩野謙一. (2016). 伊豆半島南部のジオガイド 地層からよみとく海底火山活動: 山と渓谷社. 山岸, 宏. (1973). 新第三紀中新世水中溶岩の一例. 火山.第2集, 18(1), 11-18. doi:10.18940/kazanc.18.1_11

  • 吉田 英一, 山本 鋼志, 淺原 良浩, 刈茅 孝一, 斎藤 朱音, 松井 裕哉, 望月 陽人
    セッションID: T14-O-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    炭酸塩コンクリーションは、海底堆積物中に埋没した生物遺骸から拡散した有機酸と海水中のカルシウムイオンとの過飽和・沈殿反応により、メートルサイズでも数年程度という地質学的に極めて短期間で形成され、形成後も、数万年~数千万年の長期間に渡って安定的に存在することが明らかとなっている(e.g., Yoshida et al., 2015; 2018)。現在この特性を応用し、地下岩盤の長期的亀裂シーリング剤の開発及び原位置での実証試験を進めている。本報告では、そのコンクリーション化剤による地下岩盤水みち亀裂シーリング実証試験結果について報告する。 今回開発した人工的コンクリーション化剤‘コンクリーションシード(略称コンシード:特許第6889508号;特許7164119号;特許7215762号)’の利点・特徴は、 1)従来の物理的圧入法と異なり、元素の拡散・沈殿によりミクロンオーダー以下の微細な空隙もシーリングが可能であること 2)元素の拡散によるシーリングであり、地下水の(高)間隙水圧の影響を受けないこと 3)地下水中の自然由来の重炭酸イオンやカルシウムイオン、あるいはコンクリートからの溶出カルシウムイオンも活用し、持続的かつ長期的なシーリングが可能、という点である. このコンシードを用いた実証試験を、日本原子力研究開発機構の幌延深地層研究センター(北海道幌延町)で行っている。試験の目的は、地下350mの試験坑道において、地下坑道掘削に伴い生じた岩盤の破壊領域(掘削損傷領域:EDZ)部分を対象とし、コンクリーション化剤によるシーリング効果を確認することである。試験方法は、坑道壁面や底盤からEDZを含む深さ1〜2mのボーリングを複数本掘削し、そのうちの1本を透水性変化のモニター孔として残し、他のボーリング孔にコンクリーション化剤を注入し、時間経過と共に主にEDZ中の水みちが閉塞され透水性が変化していく様子をモニターしている。その最新の結果では、地下坑道周辺の掘削に伴い生じたEDZ(掘削影響領域)の透水係数が、半年で2オーダー以上低下し、周辺母岩とほぼ同レベルの透水性に改善された。オーバーコアリングの観察によって、割れ目がコンクリーション化による炭酸カルシウムの充填でシーリングされていることを確認している。さらに、本試験中にM5.4の直下型地震が発生し透水性が一旦擾乱されたにも関わらず、数ヶ月後には元の低透水性にリカバリーされた。これは、コンクリーション化剤の長期的シーリング効果を保証する現象と言える。 今後さらに実証研究を進めるとともに、将来的には岩盤中の割れ目帯や断層破砕帯などの大規模水みちの止水対策や,既存トンネルの修復に用いられるグラウト技術の代替策として、さらにはCCSや石油廃孔の長期シーリングなどへの適用性も検討する計画である。なお本研究は,経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和3年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地層処分施設閉鎖技術確証試験)」及び中部電力特定テーマ公募研究助成研究による成果を含む。 文献) Yoshida et al. (2015) Scientific Reports doi:10.1038/srep14123; Yoshida et al. (2018) Scientific Reports doi.10.1038/s41598-018-24205-5.2

  • 竹内 真司, 中村 祥子, 後藤 慧, 竹村 貴人, 吉田 英一
    セッションID: T14-O-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】  炭酸塩コンクリーションは、海底堆積物中に埋没した生物遺骸から拡散した有機酸と海水中のカルシウムイオンとの過飽和・沈殿反応により、メートルサイズでも数年程度という地質学的に極めて短期間で形成され、形成後も、数万年~数千万年の長期間に渡って安定的に存在することが明らかとなっている。現在この特性を応用し、地下岩盤の長期的亀裂シーリング剤の開発及び原位置での実証試験が進められている。本報告では、コンクリーション化(CaCO3)による砕屑物セメンテーションの水理・力学特性について、その工学的な特性を評価するために実施した試験結果のほか、将来的に計画しているコンクリーション化剤による完新世未固結層のシーリング実証試験内容について報告する。 【実施内容・結果・考察】  コンクリーションの水理・力学特性に関しては、瑞浪層群中のコンクリーション群のほか、三浦層群、瀬戸川層群など、計100試料以上の試料について、空隙率測定、エコーチップによる硬度試験、室内透水試験を実施した。室内透水試験の結果から、コンクリーションの透水係数は1.0×10-10m/sから1.0×10-12m/sと、周辺母岩と比べ3オーダー以上低いことが明らかとなった。これは、コンクリーション内部で、反応によって生じたカルサイトが砕屑粒子間の空隙をセメンテーションし、空隙率が低下することと矛盾しない。瑞浪層群中のコンクリーションにおいては、コンクリーションの空隙率は、周辺母岩の1/10以下であることが確認されている。またエコーチップ硬さ試験機による硬度測定からは、周辺母岩に比べてコンクリーション部分の硬度が非常に高いことが示された。これらの透水性や硬度は花崗岩と同等の数値を示すものも存在する。以上のことは、コンクリーション形成時に生じる炭酸カルシウムによる急速なシーリング化作用が、未固結砕屑物を短期間に花崗岩並の透水性や硬度に変化させ、また一旦コンクリーション化した後は、長期にわたって安定であることを示している。 このようなシーリング効果を実際の未固結層で再現できるかを確認するため、日本大学キャンパス内に設置されているボーリング孔を用いて、開発したコンクリーション化剤によるシーリング実証試験を現在、計画中である。今後、これらの実験結果についても本学会等で紹介していく予定である。

  • 川村 淳, 賈 華, 小泉 由起子, 西山 成哲, 梅田 浩司
    セッションID: T14-O-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【背景・目的】 高レベル放射性廃棄物の地層処分事業や安全規制において、地層処分のサイト選定や安全評価における重要な隆起・侵食に関する調査・評価技術における課題の一つとして、河川下刻が遠い将来における地表の地形や地下の地質環境に与える変化やその影響について、定量的評価を可能にする必要がある。地形形成には侵食が大きく作用しており、特に河川は下刻作用による谷の形成のみならず、扇状地の形成や河口付近における堆積作用による平野の形成などにも大きく寄与している。河川下刻による地表地形の変化は、地下水流動に変化を及ぼすほか処分場が地表近傍に接近した際の処分場の削剥についても影響が及ぶ。地形の変化を取り入れた性能評価モデルとしては、過去にはMiyahara et al. (2011)、近年においては山口ほか(2020)による検討がなされている。  このような検討には、最低限、両河岸の尾根間の距離、河川幅、下刻深さ、河岸法面の傾斜角など、河川の横断面形状の情報が必要になるが、研究対象となることが多い河川縦断形に比べ参考になる情報が少ない。そこで本検討では我が国における主要な河川を対象に国土地理院の10m DEMを用いたGISによる地形解析により、河川を中心とした横断面形状を河口から上流にかけて多数取得した。【実施内容】 予察的な検討として河川の条件は以下のとおりとした。・地質が比較的一様で海岸から山地までの距離が比較的短い地域・隆起・侵食速度データなどがある程度推定、把握されている山地を流れている河川・上記隆起・侵食速度のバリエーションを考慮し複数の河川を選択 上記条件を満たす河川として一級河川から、安倍川(幹川流路延長51km)、大井川(同168km)及び熊野川(同183km)の3河川を選定した。 各河川データについては、ArcGISのリニアリファレンスツールを用い、河口を起点とし、距離3km毎に河川の流路に直交する片側2kmの河川横断線を作成した。河川横断線の位置情報については、横断線中央の緯度、経度、標高および方位を抽出した。標高データは対象範囲の10m DEMデータとし、方位は真北から時計回りの角度をArcGISで算出した。河川横断線の地質情報については、対象地域の20万分の1日本シームレス地質図と重ね合わせて、地質境界部の地質情報を抽出した。【結果】 安倍川19本、大井川63本、熊野川52本の河川横断線を抽出した。3河川の横断面線を同一表示させると、上流ほど河床が上昇し起伏が大きくなる様子が見てとれる。横断面形状を比較すると3河川とも似た傾向を示すことがわかり、中~上流部の河川両岸の起伏のピークは河川中央からおおよそ500~1500mに位置し、河床とピークの比高はおおよそ200~600mになる傾向がある。また、シームレス地質図の情報であるが、下流から中流域にかけて段丘堆積物が分布しているエリアを特定することができ、河川を中心とした両岸の地形変化を視覚的に捉えることができた。 予察的な解析として、河床と両岸の比高がある程度形成されてからの平均的な横断面線を作成した結果、3河川とも平坦な面から両岸約1000mより河川に向かって傾斜し、河川の深さは300~400m程度となった。また、河川両岸のピークと河床の標高差は上流程大きくなる、すなわち、上流ほど河床までの谷の深さが増す傾向がみられた。河床標高から作成した河川縦断の河床勾配を取ると、地質や地質構造にかかわらず3河川ともある程度の上流域から勾配トレンドが上昇する変曲点がみられた。 河口付近の比較的平坦な地形から上流にさかのぼった河床高度の上昇や起伏の増加の傾向は疑似的ではあるものの、平坦な低地から隆起・侵食による地形形成の時間的な過程を示唆するものと考えられ、このことは、地形変化シミュレーションなど将来予測や地形変化を取り入れた性能評価モデルの妥当性の検証等に寄与する情報になる。 今後は一級河川の事例の拡充のみならず二級河川など河川規模を変えた情報収集も検討予定である。また、今後は地形判読等に基づいた段丘や地すべり、その他河川流域に関する地形特徴量も含めた横断線のデータ収集を検討予定である。【参考文献】Miyahara et al., (2011): Journal of NUCLEAR SCIENCE and TECHNOLOGY, Vol. 48, pp. 1069-1076. 山口ほか(2020): 原子力バックエンド研究, Vol. 27, pp.72-82.【謝辞】 本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和4年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である。

  • 湯口 貴史, 笹尾 英嗣, 火原 諒子, 村上 裕晃, 尾崎 裕介
    セッションID: T14-O-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    結晶質岩(花崗岩)に対する高レベル放射性廃棄物の地層処分の実施可能性が様々な国で検討されている。高レベル放射性廃棄物の地層処分の安全評価において,地下水シナリオ(地下水によって放射性物質が処分施設から人間環境に運ばれるシナリオ)を想定した場合,結晶質岩(花崗岩)の物質移動特性を把握し,物質移動モデルを構築することは重要な課題である。結晶質岩中の物質移動現象としてマトリクス拡散がある。これは地下水や地下水中の溶存物質が,割れ目を移動しつつ濃度勾配により割れ目周辺の岩石へ拡散し,鉱物へ吸着することで,物質移動が遅延する現象である。マトリクス拡散は,高レベル放射性廃棄物の地層処分において地下水に溶解した放射性核種の移動を評価する上で重要な現象である。この拡散現象の評価に資するデータとして,岩石試料に対する透過拡散試験による実効拡散係数や水銀注入試験による空隙率が報告されているが,岩石を構成する鉱物に対する知見は得られていない。中部日本の土岐花崗岩において,黒雲母や斜長石の熱水変質に伴い,鉱物中に微小空隙が生じることが報告されている(Yuguchi et al., 2021; 2022)。本研究では鉱物中の微小空隙がマトリクス拡散に寄与する物質移動経路であるという作業仮説のもと,結晶質岩中の微小空隙を内包する鉱物を対象とした岩石記載と透過拡散試験による実効拡散係数の比較検討から,上記の仮説の妥当性を検討する。  本研究では以下のパラメータを比較検討の対象とする:①透過拡散試験による実効拡散係数・空隙率のデータ(前年度の地質学会報告:笹尾ほか, 2022),②透過拡散試験を実施した岩石試料のモード(鉱物組み合せとその量比),③割れ目密度のデータ,そして④鉱物の変質程度(変質パラメータ)と微小孔の分布割合(Yuguchi et al., 2021; 2022)。  検討の結果,以下の(A)から(C)の条件で,ウラニン,バリウム,ルビジウム,塩化物イオンの実効拡散係数が減少することを把握した:(A)黒雲母・斜長石の変質程度が高くなる,(B)黒雲母・斜長石の微小空隙の体積が多くなる,(C)岩石試料の割れ目密度が高くなる。変質・微小空隙・割れ目の関係はYuguchi et al. (2021; 2022)において言及されており,鉱物の変質は微小空隙と関連し,それらが増大すると割れ目密度も増大することが分かっている。 これらの検討は(α) 変質によって形成された鉱物(黒雲母と斜長石)中の微小空隙がマトリクス拡散による物質の遅延に寄与する‘storage pore’として機能すること,(β)微小空隙中にトレーサーが吸着されること(閉じ込められること)で物質移動の遅延をもたらすこと,(γ)割れ目の多い領域では,割れ目を通じた移流現象は活発であるが,物質移動の遅延も機能することを示す。これらのことは岩石学的調査に際して鉱物中の変質程度の評価がマトリクス拡散(物質の遅延現象)の指標となることを示唆する。

  • 田村 友識, 石井 英一
    セッションID: T14-O-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    北海道北部、幌延地域には稚内層(珪質泥岩)や声問層(珪藻質泥岩)からなる新第三紀堆積岩が分布し、日本原子力研究開発機構幌延深地層研究センターでは20年以上にわたり当該地域において地層処分に関する研究を実施してきた。ボーリング調査や地下坑道への掘削に伴って得られた地質情報からは、声問層と稚内層の境界付近で岩盤強度が局所的に増大する領域があることが報告されており(Ishii et al., 2011)、岩盤強度には不均質性が存在する。場によって岩盤の硬さが異なれば被る応力にも違いが生じうることが考えられるが、実際に水圧破砕法からも場によって応力場の違いが確認されている(Ishii, 2020)。例えば、地下400 m付近では水平方向の応力よりも鉛直方向の応力が大きくなっており、幌延深地層研究センターの地下施設で実施したボーリング調査からも正断層センスを示すせん断面が確認されている(Ishii, 2020)。一方で、幌延地域の応力場は最大圧縮応力軸が概ねE-W方向、最小圧縮応力軸が概ねN-S方向であるため、上記のような正断層センスを示すせん断面は、幌延地域の広域的な応力場で動いたとは説明できない局所的なものである。局所的な応力場に規制されて活動した断層は広域的な応力場に規制されて活動した断層と一連の連結性を有するとは考え難いため、局所的な応力場のスケールが理解できれば、その場で発達した断層の規模の予測にもつながる。本発表では、局所的な応力場のスケールやその場に発達する断層が野外調査においても確認可能かどうかを調査し、その場に発達する断層が有する規模を評価する。 研究の対象としては、幌延地域の代表的な断層である大曲断層から有意に離れており、良好な露出状況が期待できる上幌延の採石場を調査場所として選定した。調査対象である稚内層の壁面からは64条のせん断面を記載することができ、NNW-SSE~N-S走向の低角なせん断面とNW-SE走向の高角なせん断面が多く認められた(アップロード画像を参照)。これらは層理面に平行なせん断面と層理面に直交あるいは斜交するせん断面に分けられる。層理面に平行なせん断面からは逆断層の運動センスが認められ、褶曲形成期と同時に発生したflexural-slipを示唆する(石井・福島, 2006)。一方で、層理面に直交あるいは斜交するせん断面からは横ずれセンスが認められるも、一部で正断層センスが確認された。正断層センスを伴う断層は、断層角礫を有し東側が沈降する。 石井ほか(2006)では大曲断層の近傍(ダメージゾーン)で正断層センスを有する断層を確認しているが、大曲断層は東側隆起の逆断層であることから、正断層センスで東側隆起のせん断面は大曲断層の花弁構造として解釈されている。そのため、上記のような東側が沈降する正断層センスのせん断面は、大曲断層の花弁構造とは本質的に異なる。また、石井ほか(2006)において示される応力場を想定した場合、本研究で確認した正断層センスを伴う断層はミスフィット角がいずれも30度を上回るため、石井ほか(2006)の応力場では説明ができない運動像である。さらに、石井・福島(2006)において示される応力場を想定した場合も同様に、いずれもスフィット角が30度を上回るため、石井・福島(2006)において示される応力場でも説明がつかない。このようなことから、本研究で確認した正断層センスを伴う断層は、地域の局所的な応力場に規制されて活動した断層であると判断した。本研究では、野外調査においても局所的な応力場の存在を示すことができたものの、その場に発達する断層の規模については評価が乏しい状況であるため、今後は本研究で確認した正断層センスを伴う断層の延長部分を調査し、その連続性を評価する予定である。文献Ishii, 2020, Engineering Geology, 275, 105748; Ishii et al., 2011, Engineering Geology, 122, 215-221; 石井・福島, 2006, 応用地質, 47, 5, 280-291; 石井ほか, 2006, 地質学雑誌 112, 5, 301-314.

  • 石渡 明
    セッションID: T14-O-11
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    斜長石は300oC前後の温度で熱水変質や変成作用を受けると曹長石化することが知られている。小論ではAn10(100Ca/(Ca+Na)=10)以下の斜長石を曹長石、An10を超える斜長石をCa斜長石と呼ぶ。一般に変成岩では、沸石相の低温部(100oC前後)では曹長石は現れず、濁沸石が出現する温度で曹長石が現れる。ブドウ石パンペリー石相、緑色片岩相、緑簾石角閃岩相では曹長石のみで、角閃岩相(>500oC)になるとCa斜長石が再結晶する。  原子力発電所の新規制基準適合性審査では、敷地内断層の後期更新世以後の活動の有無の評価に鉱物脈法を用いる場合がある。小論では原子力規制委員会のホームページで公開されている審査資料をもとに、各敷地の地盤における斜長石の曹長石化と鉱物脈法との関係を考察する。 【曹長石化が見られる発電所】1.美浜(2016.05.20審査会合資料1-2, p. 41-45, 関西電力) 敷地は後期白亜紀の花崗岩類からなり、中新世のドレライトが貫く。断層破砕帯近傍の斜長石186個のEPMA分析値はAn0-15、平均An3.5、その周辺の97個の斜長石もAn0-11、平均An4.8の曹長石だったが、断層から遠い新鮮な花崗岩ではAn7-25, 平均An13.2のCa斜長石だった。敷地内断層の活動性はその最新面を横断する雲母粘土鉱物(イライト)脈やスメクタイト脈により否定された。2.女川(2019.09.27審査会合資料1-2-1, p. 183-187, 東北電力) 敷地は南部北上帯のジュラ紀の荻の浜累層の砂岩・泥岩互層よりなり、白亜紀のひん岩が貫く。敷地の褶曲軸や他の断層を切るTF-1断層の破砕部中の斜長石7個はAn0-18, 平均An6.4±7.6の曹長石だった。一方、新鮮な砂岩の斜長石15個はAn0-41, 平均An20.8±14.4のCa斜長石だった。TF-1断層の最新活動面は白亜紀の方解石、緑泥石、粘土鉱物の脈に切られ、活動性が否定された。 3.島根(2021.04.30審査会合資料4-2, p. 204-255, 中国電力) 敷地は中新世の成相寺層の砂岩、泥岩、凝灰岩などの互層よりなり、中新世のドレライトが貫く。地表の凝灰岩の斜長石18個はAn15-50, 平均An28.7±8.7のCa斜長石だったが、地表のドレライト岩床の斜長石17個(Kに富む1個を除く)はAn2-17, 平均An6.1±3.7の曹長石だった。地下-232mのドレライト岩床の斜長石8個(Kに富む2個を除く)もAn2-7, 平均An5.0±1.8の曹長石だった。このドレライトの上盤側に接する凝灰岩(-203m)にはCaに富むざくろ石が含まれ、斜長石25個はAn0-1, 平均An0.75±0.28の曹長石だった。成相寺層には層面滑り断層が発達するが、その最新面を横断する方解石や濁沸石の脈により活動性が否定された。【曹長石化が見られない発電所】 4.志賀(2023.03.03審査会合資料1-1, p. 5-39, 北陸電力)(審査中)  敷地は中新世の別所岳安山岩類よりなり、段丘堆積物に覆われる。敷地内破砕帯の固結した破砕部、粘土状破砕部、その近傍の母岩の安山岩、白色変質部の斜長石はいずれもAn48-80のCa斜長石であり、曹長石は全くなかった。「よって、敷地は、少なくとも斜長石が曹長石化するような高温の熱水の影響を受けていないと考えられる」。敷地内断層の活動性は最新面を横断するイライト・スメクタイト混合層鉱物脈によって否定された。オパール脈や砕屑岩脈も存在する。段丘堆積物は断層と鉱物脈を被覆する。【敷地内断層の活動性評価に鉱物脈法を用いたが、斜長石のデータがない発電所】 5.川内(2014.04.23審査会合資料1-3, p. 83-143, 九州電力)  敷地は秩父帯(黒瀬川帯)の白亜紀の礫岩、砂岩、泥岩を主とし、変斑れい岩等を含む蛇紋岩メランジュが一部に分布する。敷地内断層の活動性は最新面を貫く石英、緑泥石、イライト、方解石、菱鉄鉱等の脈により否定された。斜長石のデータはない。 6.伊方(2015.03.20審査会合資料3-2, p. 99, 103, 四国電力) 敷地は三波川帯の白亜紀の緑色片岩である。敷地内断層の活動性は最新面を横断する緑泥石・スメクタイト混合層鉱物脈によって否定された。資料の鉱物表の「斜長石」は曹長石と考えられる。 【まとめ】 日本の原子力発電所の敷地内の鉱物脈法による断層活動性評価において、粘土鉱物脈は曹長石化の有無に関わらず用いられるが、方解石脈や濁沸石脈は曹長石化が見られる場合に限って用いられ、曹長石化の有無と鉱物脈の種類には変質温度の高低を反映した関係があるようだ。更なる岩石学的・鉱物学的データの充実が望まれる。

  • 横田 秀晴, 大城 遥一, 後藤 淳一, 國丸 貴紀, 西尾 光, 松岡 稔幸, 三枝 博光
    セッションID: T14-P-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    1. はじめに 原子力発電環境整備機構(NUMO)は,高レベル放射性廃棄物等の安全な地層処分の実現に向け,これまでに蓄積されてきた科学的知見や技術を統合し,サイトを特定しない段階のセーフティケース(安全性を裏付ける論拠を取りまとめた文書)として包括的技術報告書1を公表した。ここでは,サイト(調査の対象となる区域や処分場の建設地として選定される区域)の適性をどのように調査・評価して選定するか,そのサイトの特徴を考慮してどのように処分場を設計して安全に建設・操業・閉鎖を行うか,さらに閉鎖後の長期間にわたる安全性をどのように確保するかについて説明している。その中で,処分場の設計及び安全評価の観点から重要となる物質の閉じ込め,水みちの構造,力学強度等に着目してわが国の多様な地質環境の類型化を行い,わが国に広く分布している深成岩類(新第三紀以前),新第三紀堆積岩類,先新第三紀堆積岩類を対象に地質環境モデルを構築し,それに基づき設計した処分場に対する安全評価を行った。これらのうち,先新第三紀堆積岩類については,既存情報から取得できる品質が保証された地質環境特性データが限られていることが課題の一つとして挙げられた。そこで,包括的技術報告書の技術的信頼性の向上に向けて先新第三紀堆積岩類の地質環境特性データを取得・拡充することを目的として,東京電力リニューアブルパワー株式会社神流川発電所の地下トンネル内において,ボーリング試験及び地下水の採取・分析を実施した。2. 実施内容 神流川発電所の地下トンネル内において,ボーリング孔(孔長25m,鉛直下向き,取得コア径92mm)を2孔掘削し,それを用いた物理検層(キャリパー,BTV,PS),流体検層,水理試験を実施した。また,取得したコア試料を用いて,コア観察,薄片観察,XRD,XRF,熱伝導率試験,比熱試験,密度試験,有効間隙率試験,超音波伝播速度試験,一軸圧縮試験,圧裂引張試験,三軸圧縮試験(CU,CD),透過拡散試験を実施した。さらに,地下トンネル内においては,全体的に湧水量が少なく顕著な湧水箇所は多くないものの,その中でも湧水が確認できた4箇所において地下水を採取し,水質分析(一般水質分析,同位体分析),有機物分析,コロイド分析を実施した。3. 結果 当地点の岩相は,泥岩・凝灰質泥岩・細粒砂岩・中粒砂岩・チャート・石灰岩・凝灰岩の混在岩からなり,非常に緻密で堅固(真密度2.7g/cm3程度,有効間隙率1.3%程度)であった。また,岩盤の透水係数は,10-14m/sから10-11m/sオーダーであり,包括的技術報告書における先新第三紀堆積岩類の透水係数(統計値:中央値6.7×10-7m/s,対数平均値:4.7×10-7m/s)より4から7オーダー低く,室内透水試験の透水係数(統計値:中央値1.8×10-10m/s,対数平均値5.4×10-10m/s)に近い値が得られた。これは,流体検層等で顕著な水みちが認められなかったことと整合的である。なお,このように非常に透水性が低い岩盤であったため,ボーリング孔からは品質を確保した採水を実施することはできなかった。地下トンネル内の4箇所で採取した地下水の溶存成分に基づく水質タイプ及び同位体比に基づく滞留年代は,坑口に近い箇所ではCa-HCO3型で数十年程度未満を示し,坑口から数km奥の箇所ではNa-Cl型で少なくとも数万年程度以上のものが認められ,前者については天水,後者については堆積時の古海水(またはスラブ起源水)が,地下水の水質形成に寄与している可能性が示唆された。4. おわりに 神流川発電所地下トンネルにおけるボーリング試験及び地下水の採取・分析を通じて,わが国の品質の保証された先新第三紀堆積岩類の地質環境特性データを拡充することができた。また,既存技術を組合せることにより,先新第三紀付加体堆積岩類の地質構造,熱環境,水理場,力学場,化学場を相互に関連付けて考察するためのデータを取得できることを確認した。以上の成果について,技術報告書2に取りまとめ公表した。文献1) 原子力発電環境整備機構(2021):包括的技術報告:わが国における安全な地層処分の実現-適切なサイトの選定に向けたセーフティケースの構築-本編および付属書,NUMO-TR-20-03.(https://www.numo.or.jp/technology/technical_report/tr180203.html)2) 横田ほか(2022): 先新第三紀付加体堆積岩類における地質環境特性データの取得,NUMO-TR-22-01. (https://www.numo.or.jp/technology/technical_report/NUMO-TR-22-01.pdf)

T15.地域地質・層序学:現在と展望
  • 脇田 浩二
    セッションID: T15-O-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    地球の理解を目的としている地質学において,最初に行うのは,野外調査である.本講演では付加体地質を例に,地域地質における野外調査の重要性について述べる.講演者は,地質図幅作成を中心に,約45年間付加体地域の地質図を作ってきた.地質図幅プロジェクトは,日本全国の地質図の整備を目指して,直接自然に向き合い,各地域の地質実態を明らかにすることが最大の目的である.よって,特定の研究目的は持っていない.しかし,野外で接する地層や岩石を地質図に表すためには,一定の法則や理念(考え方)が必要になる.岐阜県中央部の八幡図幅(脇田,1984)作成時には付加体という概念はなく,美濃帯の地層群は地向斜堆積物として認識され,そこに含まれる混在相は海底地すべり堆積物(オリストストローム)として描かれた.海底地すべり堆積物は,地層であるから地層累重の法則に従い,古いものから新しいものへと順番に重なる.しかし,野外調査を進め,岩石の化石年代を決定すると,”層序”が成り立たないことが判明する.同じく岐阜県内の谷汲図幅(脇田, 1991)や下呂図幅(脇田・小井土, 1994)地域では,泥ダイアピルの可能性を念頭に露頭に向かうことで,異常間隙水圧で破壊された岩塊の存在や泥岩基質の注入構造などが観察できた.泥ダイアピルメランジュに認定されたことで, この地域の混在相は堆積層ではないことが判明し,”オリストストローム”ではなく“メランジュ”と呼ばれるようになった.混在相ばかりではなく, 整然相においても研究が進展し,詳細な微化石年代層序によって,これらの岩石が,玄武岩→石灰岩→チャート→珪質泥岩→砂岩・泥岩と重なる“海洋プレート層序”で形成されていることが明らかになってきた.”海洋プレート層序“を意識して野外調査を実施すると,美濃帯の付加体は,プレート収束境界である海溝で海洋プレートから剥ぎ取られ,陸側の大陸プレートに付加し,収束境界のプレート運動によって,付加体内部で次第に変形を累積させ,複雑な形態の付加複合体が形成されていったことが良く分かる.付加体の概念が形成される以前は,チャートなど風化に強く,地表で目立つ岩石のみが抽出され,それらを繋ぐことで地質図が描かれてきたが,地層の上下関係が明瞭な海洋プレート層序を意識して地質図を作成することによって,地質構造が明瞭になり,美濃帯のみならず,秩父帯,超丹波帯,秋吉帯などで以前とは異なった詳細な地質図が描かれるようになった.このように,日本の付加体分布地域では,付加体地質学的観点(例えば,海洋プレート層序の破断変形)で地質図が描かれるようになったが,海洋プレート層序の破断変形だけでは地質構造が理解できない事例が存在することが近年明らかになった.山口県の秋吉帯には秋吉石灰岩という巨大な石灰岩体がある.この石灰岩は,小澤儀明(1923)によって大規模に逆転していることが明らかにされた.その後,逆転構造を石灰岩に限定して長年議論されてきた(藤川ほか, 2019)が,最近石灰岩の周辺に分布しチャート-砕屑岩シーケンスからなる別府ユニットや,付加体を覆う被覆層として認識されはじめた常森層(Wakita et al., 2018)も石灰岩同様に逆転していることが判明した(Davydov and Schmitz, 2019; 脇田ほか, 2021).これらを総合すると,付加体の内部構造変形のみでは,石灰岩を含む地層群の逆転構造は説明することができない.おそらく,付加体形成終了後に発生した構造運動によって変形を受けたことが推定される.このように,露頭を常に最新の知見で見直しながら野外調査を実施し地質図を作成する,そしてそれを繰り返すことで,新たな地質モデルを形成する道が開けてくる.野外調査研究の醍醐味は, まさにそこにある.引用文献Davydov,V. and Schmitz,M.D., (2019) "Palaeo3", 527,133-145藤川将之・中澤 努・上野勝美(2019) 地質学雑誌, 125, 609-631.小澤儀明(1923) 地質学雑誌, 30, 227-243.脇田浩二(1984) 八幡図幅, 地質調査所脇田浩二(1991) 谷汲図幅, 地質調査総合センター脇田浩二・小井土由光(1994) 下呂図幅, 地質調査総合センター脇田浩二・辻智大・亀高正男(2021)地質学会名古屋大会講演要旨Wakita, K., Yoshida,R. & Fushimi, Y. (2018) doi:10.1016/j.helyon.2018.e01084

  • 志原 早紀, 辻 智大, 檀原 徹, 岩野 英樹, 平田 岳史
    セッションID: T15-O-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【研究背景】常森層は,秋吉石灰岩周辺に分布している.秋吉石灰岩の逆転構造については,1923年に小澤儀明によって発見されてから,約100年に渡って研究が重ねられてきた.その一つが,海溝で石灰岩を載せた海山が崩壊し崩壊物が転倒・回転することによって逆転構造が形成されたとするSano and Kanmera (1991)の考え方であり,現時点では最も広く受け入れられている.そしてこの秋吉石灰岩と密接に関係しているのが常森層であり議論には欠かせない.常森層については,片山 (1939),藤井・三上 (1970)をはじめとして古くから研究されている.藤井・三上 (1970)では,常森層は秋吉石灰岩とともに逆転しているとされた.常森層の堆積場所については,海溝とする説 (Sano and Kanmera,1991など)と,前弧海盆・陸棚堆積盆とする説 (Wakita et al,2018)があり,議論は続いている.常森層の年代については,後期ペルム紀後期の腕足類 (田沢ほか,2009),また,古い年代ではジルコンU-Pb年代値 (CA-IDTIMS) 267.46±0.04 Maから265.76±0.04 Ma (Davydov and Schmitz, 2019) が報告されている.ここでは常森層の堆積場とその形成史について議論する. 【研究手法】山口県美祢市秋芳町・於福町・大嶺町において地表踏査を行い,岩相の観察および地層の上下判定を行った.上下判定の指標として用いた堆積構造は,泥岩中に挟在する砂岩の薄層の級化構造,流痕,斜交葉理である.また,調査地域中央部の細粒砂岩中に挟在する南傾斜・南上位の正位の凝灰質砂岩層に含まれるジルコンを用いてLA-ICPMSによるU-Pb年代測定を行った.   【結果】本研究では,常森層分布域の43か所において上下判定を行うことができた.常森層には,正位・逆位の両方が混在しておりその構造は複雑である.また,常森層の構造的上位には秋吉石灰岩が分布する.常森層の細粒砂岩中に挟在する凝灰質砂岩の薄層に含まれるジルコンを用いてU-Pb年代測定を実施した結果,加重平均値273.1±1.3 Ma (n=29,MSWD=3.4) が得られた.また,調査地域の西部の砂岩層からは植物片化石が産出する (志原・辻,2022).そのほか,調査地域東部の石灰岩礫岩の基質からはフズリナ化石が産出する.フズリナ化石は個体の一番外側の殻室が方解石で充填されている場合と,外側の殻室の一部が方解石ではなく泥粒子で充填されている場合の2パターンが観察された.【考察】秋吉石灰岩の最上部の年代は,中期ペルム紀後期である.U-Pb年代測定で得られた273.1±1.3 Maという年代は,現在知られている常森層の年代の中で最も古い年代値の可能性がある.この年代は秋吉石灰岩の成長途中に,常森層の堆積がすでに始まっていたことを意味する.外側の殻室の一部が泥粒子によって充填されているフズリナ化石は,完全に岩石化する前に常森層に供給された二次化石であると考えられる.このように秋吉石灰岩から,完全に岩石化していない二次化石を常森層に供給する場所としては,前弧海盆よりも,海溝に沈み込む前の海山周辺が考えやすい.一方で,調査地域の砂岩からは植物片化石,調査地域の南側からは円礫を含む含礫泥岩や礫岩 (藤井・三上,1970, Wakita et al,2018) が報告されている.剪断面や劈開面の乏しさ,腕足類の二次化石 (田沢ほか,2009) などから,前弧海盆の堆積相を示唆する岩相も存在する (Wakita et al,2018).これらのことから,海溝や前弧海盆など,常森層の堆積場所は複数あった可能性がある.【引用文献】Davydov V.I. and Schmitz M.D. (2019) Palaeogeography Palaeoclimatology Palaeoecology 527, 133-145.藤井厚志・三上貴彦 (1970) 地質学雑誌,76, 11, 545-557.片山勝 (1939) 地質学雑誌 46, 546, 127-141.小澤儀明 (1923) 地質学雑誌,30, 357,227-243. Sano,H., and Kanmera,K. ,(1991) Jour.Geol.Soc.Japan, 97,8,631-644.志原早紀・辻智大 (2022) 日本地質学会第129回学術大会講演要旨.田沢純一・藤川将之・太田泰弘 (2009)地質学雑誌,115 ,4 ,168-176.Wakita,K., and Yoshida ,R., and Fushimi ,Y., (2018) Heliyon, 4, e01084

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